(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】高度膵異形成の検出
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20240502BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240502BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240502BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20240502BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240502BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
A61P1/18
A61P35/00
C12Q1/6869 Z
G01N33/50 Z
G01N33/50 P ZNA
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2018554339
(86)(22)【出願日】2017-04-13
(86)【国際出願番号】 US2017027439
(87)【国際公開番号】W WO2017180886
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-04-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-19
(32)【優先日】2016-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513195570
【氏名又は名称】マヨ ファウンデーション フォア メディカル エデュケーション アンド リサーチ
【氏名又は名称原語表記】Mayo Foundation for Medical Education and Research
【住所又は居所原語表記】200 First Street SW,Rochester,Minnesota 55905,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】アルクイスト,デヴィッド エー.
(72)【発明者】
【氏名】テイラー,ウイリアム アール.
(72)【発明者】
【氏名】キーゼル,ジョン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ヤブ,トレーシー シー.
(72)【発明者】
【氏名】マホーニー,ダグラス ダブリュー.
【合議体】
【審判長】加々美 一恵
【審判官】飯室 里美
【審判官】天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0090634(US,A1)
【文献】Gastroenterology, 2016, Vol.150, Issue 4, Supplement 1, pp.S120-S121
【文献】Gastroenterology, 2014, Vol.146, Issue 5, Supplement 1, p.S132
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci., 1996, Vol.93, pp.9821-9826
【文献】Nucleic Acids Research, 1996, Vol.24, pp.5058-5059
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/00-3/00
C12N15/00-15/90
BIOSIS/MEDLINE/CAplus/EMBASE/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体から得られた試料における高度膵異形成をスクリーニングする方法であって、当該方法は、
上記試料における、BMP3、AK055957およびST8SIA1のマーカー、ならびにFRMD4AおよびZNF781のうちから選択される少なくとも1つの追加マーカーについてCpG部位のメチル化レベルを測定することを含み、
当該測定は、
上
記試料におけるゲノムDNAを重亜硫酸塩を用いて処理すること、
上記重亜硫酸塩処理されたゲノムDNAを、BMP3、AK055957およびST8SIA1それぞれのマーカー用のプライマーの組、ならびにFRMD4Aおよび/またはZNF781用の少なくとも1つの追加プライマーの組、を用いて増幅すること、および
メチル化特異的PCR、定量的メチル化特異的PCR、メチル化感受性DNA制限酵素分析、定量的重亜硫酸塩パイロシークエンシング、または重亜硫酸塩ゲノムシークエンシングPCRによって、上記CpG部位のメチル化レベルを決定することを介して行われる、方法。
【請求項2】
上
記試料は膵臓組織および/または膵臓嚢胞液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上
記試料は便試料、血液試料、および/または血液分画試料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記選択される上記マーカー用のプライマーは、
配列番号45および46からなる、BMP3に対するプライマーの組、
配列番号19および20からなる、FRMD4Aに対するプライマーの組、
配列番号41および42からなる、ZNF781に対するプライマーの組、
配列番号3および4からなる、AK055957に対するプライマーの組、および
配列番号35および36からなる、ST8SIA1に対するプライマーの組、
から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記CpG部位がコード領域または制御領域に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記マーカーについての上記CpG部位のメチル化レベルを、上記測定することが、上記CpG部位のメチル化スコアを決定すること、および上記CpG部位のメチル化頻度を決定することからなる群から選択される決定を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に示す技術は、高度膵異形成スクリーニング用の技術であり、特に、高度膵異形成(膵管内乳頭粘液性腫瘍高度異形成(IPMN-HGD)、膵上皮内腫瘍性病変3(PanIN-3)、または膵管腺がん(PDAC))の存在の検出のための方法、組成物、およびそれらに関連する使用に向けたものであるが、これらに限らない。
【背景技術】
【0002】
医学の進歩にもかかわらず、膵臓がんは最も致命的な疾患の一つである。2011年、米国において推定44,030人が膵臓がんであると診断され、その内の約37,660人が死亡した。膵臓がんは、米国人男性および女性の間で、四番目に最も一般的ながんに関連する死因である(米国人男性では肺がん、前立腺がん、および結腸直腸がんに次ぎ、米国人女性では肺がん、乳がん、結腸直腸がんに次ぐ)。発生率のピークは60代および70代に見られ、男性および女性の両方で発生率はほとんど同じである。米国において肺がん、結腸直腸がん、乳がん、および前立腺がんの死亡率は2003年以来下降している一方、同じ期間中に、膵臓がんの死亡率は上昇している。2011年における全世界の先進国での膵臓がんの新規推定件数は84,200人(男性)および80,900人(女性)であり、その内の推定死亡者数は82,700人(男性)および79,100人(女性)である。残念なことに、症状を示している患者のほとんどは不治である。膵臓がん患者の予後は非常に低く、5年間での生存率は全てのステージを合わせて6%である。これは、診断時において疾患が後期ステージにあるためである。
【0003】
これらの患者の生存率を向上させるために、膵臓がんの早期検出の必要性が非常に高まっている。
【発明の概要】
【0004】
現在、米国において4番目に最も一般的ながんによる死因の膵臓がん(Siegel, R., et al., CA Cancer J Clin, 2014. 64(1): p. 9-29参照)は、全てのがんの中で最も致死率が高く、5年全体の生存率は5%を下回る(Wolfgang, C.L., et al., CA: a cancer journal for clinicians, 2013. 63(5): p. 318-48参照)。毎年、膵臓がんと診断される数は、この疾患による死亡の数とほとんど同じである。この憂鬱な結果は、治療法の向上努力にもかかわらず、過去30年にわたって変化していない(Wolfgang, C.L., et al., CA: a cancer journal for clinicians, 2013. 63(5): p. 318-48参照)。重大な問題として、膵臓がんは増加傾向にある。米国において、2030年までに膵臓がんが2番目に最も一般的ながんによる死因になるであろうと予想されている(Rahib, L., et al., Cancer research, 2014. 74(14): p. 4006参照)。世界の他の場所では、他の一般的ながん(例えば、乳がん、結腸がん、および前立腺がん)の発生率および死亡率が下降傾向にある一方、膵臓がんは悪化が予想されている数少ないがんの内の一つである(Malvezzi, M., et al., Annals of oncology : official journal of the European Society for Medical Oncology / ESMO, 2014参照)。
【0005】
有効なまたは広く使われているスクリーニングツールが存在しないために、通常、膵臓がんは症状が出た後および後期ステージにおいて診断される。現在、転移性疾患の85%の事例において、診断後の生存は典型的に6ヶ月未満である(Wolfgang, C.L., et al., CA: a cancer journal for clinicians, 2013. 63(5): p. 318-48参照)。局所的に進行した明白な疾患または遠隔転移を伴わずに症状を示し、切除にまで至った少数において、丸5年の生存は20%未満である(Wolfgang, C.L., et al., CA: a cancer journal for clinicians, 2013. 63(5): p. 318-48参照)。有望なことに、ごく一部の事例において、最初期の腫瘍は最も良好な結果を示し、5年生存率は、2cm未満の病変では30~60%、1cm未満の病変では75%を超える(Sohn, T., et al., Journal of gastrointestinal surgery : official journal of the Society for Surgery of the Alimentary Tract, 2000. 4(6): p. 567-579;Furukawa, H., et al., Cancer, 1996. 78(5): p. 986-990;Shimizu, Y., et al., Journal of gastroenterology and hepatology, 2005. 20(10): p. 1591-1594;Ishikawa, O., et al., Hepato-Gastroenterology, 1999. 46(25): p. 8-15;Tsuchiya, R., et al., Annals of Surgery, 1986. 203(1): p. 77-81参照)。さらに、不確かな小規模叢書によれば、症状がない人において偶然発見された早期膵臓がんは、治癒切除によって高い生存率を示すように見受けられる(Yeo, C.J. and J.L. Cameron, Langenbeck's archives of surgery / Deutsche Gesellschaft fur Chirurgie, 1998. 383(2): p. 129-33;Okano, K. and Y. Suzuki, World journal of gastroenterology : WJG, 2014. 20(32): p. 11230-11240参照)。このように、最初期膵臓がんを症候前に検出することが高い治癒率に繋がる確かな証拠があり、このことは、効果的なスクリーニングツールの必要性を著しく強調する。
【0006】
全ての事例中、散発的形態の膵臓がんが90%より高い割合を占め、事例の10%未満が遺伝的または後天的な根本的疾病素因を有する。そのようなリスクの高い後天的条件としては、何らかの珍しい遺伝的障害、慢性膵炎、偶発的に発見された嚢胞性膵臓前がん(特に、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN))、肥満症、および最近発症した糖尿病が挙げられる(Chakraborty, S., et al., Biochimica et biophysica acta, 2011. 1815(1): p. 44-64参照)。これらの既知の遺伝的または後天的リスク因子を有する患者であるにもかかわらず、種々の内視的方法および撮像方法を用いたスクリーニングおよび調査プログラムが適用されている。大多数の膵臓がんは明らかなリスク因子を持たない人に発症するため、リスクの高い一部分に対する選択的スクリーニングでは、全体のがん発生率または死亡率に対する影響が小さい。膵臓がんによる死亡率への効果を最大限にするため、大多数の人に有効なスクリーニングツールが求められている。
【0007】
この恐ろしい疾患による多くの死者数を減らすために、有効なスクリーニングアプローチが至急に必要である。最初期がんおよび進行した前がんの症候前検出のための正確で、費用的に無理のない、かつ安全なスクリーニングツールを実現するような革新が要請されている。
【0008】
本発明は、この要請に応えるものである。実に、本発明は、高度な前駆体病変およびがんを有している患者を、正常な膵臓または低度の前駆体を有しているコントロールから区別する新しいメチル化されたDNAマーカーを提供する。
【0009】
メチル化されたDNAは、ほとんどの腫瘍型の組織における生体マーカーの有力な一群として研究されている。多くの例において、DNAメチル転位酵素は、遺伝子発現のエピジェネティックな制御として、シトシン-リン酸-グアニン(CpG)アイランド部位においてDNAにメチル基を付加する。生物学的に興味深い機序において、腫瘍抑制遺伝子のプロモーター領域における後天的なメチル化現象は、発現を止めさせ、したがって、発がんに寄与すると考えられている。DNAメチル化は、RNAまたはタンパク質発現より、化学的および生物学的に安定な診断ツールであり得る(Laird (2010) Nat Rev Genet 11: 191-203)。さらに、散発性の結腸がんのような他のがんにおいて、メチル化マーカーは、優れた特性をもたらし、個々のDNA変異より、広く有益かつ高感度である(Zou et al (2007) Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 16: 2686-96)。
【0010】
CpGアイランドの分析は、動物モデルおよびヒト細胞株に使用されるとき、重要な知見をもたらしている。例えば、Zhangらは、同じCpGアイランドの異なる部分からのアンプリコンが、メチル化の異なるレベルを有していることを発見した(Zhang et al. (2009) PLoS Genet 5: e1000438)。さらに、メチル化レベルは、高メチル化配列およびメチル化されていない配列の間において二つのモードに割り当てられ、さらに、DNAメチル転位酵素活性の二つの切替え様パターンをさらに支持している(Zhang et al. (2009) PLoS Genet 5: e1000438)。マウス組織のインビボ分析および細胞株のインビトロ分析は、わずか約0.3%の高いCpG密集度のプロモーター(HCP、300塩基対の領域内に>7%のCpG配列を有していると規定されている)がメチル化されており、低いCpG密集度の部位(LCP、300塩基対の領域内に<5%のCpG配列を有していると定義されている)が、動的な組織特異的な様式において頻繁にメチル化されていることを証明した(Meissner et al. (2008) Nature 454: 766-70)。HCPは、遍在性の構成遺伝子および高度に調整された発生遺伝子のためのプロモーターを含んでいる。中でも、>50%においてメチル化されているHCP部位は、いくつかの確立されたマーカー(例えば、Wnt 2、NDRG2、SFRP2およびBMP3)であった(Meissner et al. (2008) Nature 454: 766-70)。
【0011】
本発明の実施形態を発展させる中で行った実験では、膵管内乳頭粘液性腫瘍高度異形成(IPMN-HGD)、膵上皮内腫瘍性病変3(PanIN-3)、または膵管腺がん(PDAC)を患う被検体の膵臓組織由来のDNAマーカーのメチル化状態(state)を、コントロール被検体(例えば、それぞれ組織タイプで、IPMN-低度異形成(IPMN-LGD)、PanIN-1、およびPanIN-2を有する被検体)由来の同じDNAマーカーのメチル化状態(state)を比較した。そのような実験によって、正常な膵臓または低度前駆体病変(IPMN-低度異形成(IPMN-LGD)、PanIN-1、およびPanIN-2)のいずれかを有するコントロールグループから高度前駆体(IPMN-HGD、PanIN-3)または浸潤がん(PDAC)を有する患者グループを区別するメチル化されたDNAマーカー候補を同定および確認した(実施例1、2、4、および5参照)。
【0012】
したがって、本明細書に示す技術は、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)スクリーニング(例えば、調査)用の技術であり、特に、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の存在の検出のための方法、組成物、およびそれらに関連する使用に向けたものであるが、これらに限らない。
【0013】
被検体における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を検出可能なマーカーおよび/またはマーカーのパネル(例えば、表2に示すアノテーションを有する染色体領域)を同定した(実施例1、2、4、および5参照)(BMP3、NDRG4、ABCB1、AK055957、C13ORF18、CD1D、CLEC11A、DLX4、ELMO1、EMX1、FER1L4、FRMD4A、GRIN2D、HOXA1、LRRC4、PRKCB、SP9、ST6GAL2、ST8SIA1、TBX15、VWC2、およびZNF781)。
【0014】
本明細書に記載のとおり、上記技術は、被検体における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の存在を検出するための高い識別性を備えた多くのメチル化されたDNAマーカーおよびその部分集合(例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、10個、15個、19個、20個、21個、50個、75個、94個のマーカーの集合)を提供する。実験は、例えば、スクリーニングまたは診断(例えば、がんスクリーニングまたは診断)を目的として媒体(例えば、結腸直腸組織、便試料)を評価する時に、高い特異性をもたらすための高い信号雑音比および低いバックグラウンドレベルを示すマーカーを同定するために、候補マーカーに対して選択フィルターを適用した。
【0015】
いくつかの実施形態において、上記技術は、本明細書において同定されている、生体試料におけるマーカーのうち一つ以上の存在およびメチル化状態(state)を評価することに関する。これらのマーカーは、本明細書(例えば、表2)に述べられているような可変メチル化領域(DMR)の一つ以上を含んでいる。メチル化状態は、上記技術の実施形態において評価される。したがって、本明細書に示されている上記技術は、遺伝子のメチル化状態が測定される方法には、限定されない。例えば、いくつかの実施形態において、メチル化状態は、ゲノムスキャニング法によって測定される。例えば、一つの方法は、制限酵素ランドマークゲノムスキャニング(Kawai et al. (1994) Mol. Cell. Biol. 14: 7421-7427)をともない、他の例は、メチル化感受性の任意開始PCR(Gonzalgo et al. (1997) Cancer Res. 57: 594-599)をともなう。いくつかの実施形態において、特定のCpG部位におけるメチル化パターンの変化は、メチル化感受性制限酵素を用いたゲノムDNAの消化およびそれに続く所望の領域のサザン分析(消化-サザン法)によってモニターされる。いくつかの実施形態において、メチル化パターンの変化を分析することは、メチル化感受性制限酵素を用いたゲノムDNAの消化をPCR増幅前にともなう、PCRに基づくプロセスをともなう(Singer-Sam et al. (1990) Nucl. Acids Res. 18: 687)。さらに、メチル化分析の開始点としてDNAの重亜硫酸塩処理を利用する他の技術が、報告されている。これらとしては、メチル化特異的PCR(MSP)(Herman et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 9821-9826)および重亜硫酸塩変換されたDNAから増幅されたPCR産物の制限酵素消化(Sadri and Hornsby (1996) Nucl. Acids Res. 24: 5058-5059;およびXiong and Laird (1997) Nucl. Acids Res. 25: 2532-2534)が挙げられる。遺伝子変異の検出用のPCR手法(Kuppuswamy et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 1143-1147)、および対立遺伝子特異的な発現の定量化用のPCR技術(Szabo and Mann (1995) Genes Dev. 9: 3097-3108;およびSinger-Sam et al. (1992) PCR Methods Appl. 1: 160-163)が、開発されている。そのような手法は、内部プライマー(PCR生成されたテンプレートにアニールし、評価される単一のヌクレオチドの5’をすぐに末端処理する)を使用している。米国特許第7,037,650号に記載の「定量Ms-SNuPEアッセイ(“quantitative Ms-SNuPE assay”)」を用いる方法が、いくつかの実施形態に使用される。
【0016】
メチル化状態を評価するとき、メチル化状態は、特定の部位を含んでいる試料におけるDNAの総集団に対する、特定の部位において(例えば、単一のヌクレオチド、特定の領域または遺伝子座、より長い所望の配列(例えば、~100bp、200bp、500bp、1000bp以上のDNAの部分配列)において)メチル化されているDNAの個々の鎖の分率または割合としてしばしば表される。以前は、メチル化されていない核酸の量を、キャリブレータを用いたPCRによって決定している。それから、既知の量のDNAを、重亜硫酸塩処理し、生じたメチル化特異的な配列を、リアルタイムPCRまたは他の指数関数的な増幅(例えば、(米国特許第8,361,720号;米国特許第8,916,344号;米国特許出願公開第2012/0122088号;および米国特許出願公開第2012/0122106号によって示されているような)QuARTSアッセイ)を用いて決定する。
【0017】
例えば、いくつかの実施形態において、方法は、外部標準を用いることによってメチル化されていない標的のための標準曲線を生成することを含んでいる。標準曲線は、少なくとも2点から構成されており、既知の定量的標準に対するメチル化されていないDNAについてのリアルタイムCt値に関する。それから、メチル化された標的のための第2の標準曲線を、少なくとも2点および外部標準から構成する。この第2の標準曲線は、既知の定量的標準に対するメチル化されたDNAについてのCtに関する。次に、試験試料Ct値を、メチル化された集団およびメチル化されていない集団について決定し、DNAのゲノム当量を、最初の2ステップによって生成された標準曲線から算出する。所望の部位におけるメチル化の割合を、集団におけるDNAの総量に対する、メチル化されたDNAの量(例えば、(メチル化されたDNAの数)/(メチル化されたDNAの数+メチル化されていないDNAの数)×100)から算出する。
【0018】
本明細書には、また、上記方法を実施するための組成物およびキットが示されている。例えば、いくつかの実施形態において、一つ以上のマーカーに特異的な試薬(例えば、プライマー、プローブ)が、単独または集合(例えば、複数のマーカーを増幅するためのプライマー対の集合)として備えられている。また、検出アッセイを実施するためのさらなる試薬(例えば、QuARTSアッセイ、PCRアッセイ、配列決定アッセイ、重亜硫酸塩アッセイ、または他のアッセイを実施するための酵素、緩衝液、陽性コントロールおよび陰性コントロール)が、備えられている。いくつかの実施形態において、方法を実施するために必要、十分、または有用な一つ以上の試薬を含むキットが備えられている。また、上記試薬を含んでいる反応混合物が、備えられている。さらに、反応混合物を完成するために、互いにおよび/または試験試料に加えられ得る複数の試薬を含んでいる、マスター混合試薬セットが示されている。
【0019】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の技術は、本明細書に記載の方法によってもたらされるような、一連の算術演算または論理演算を実施するために設計されているプログラム可能な機械と関連する。例えば、上記技術のいくつかの実施形態は、コンピュータソフトウェアおよび/またはコンピュータハードウェアと関連づけられている(例えば、それらにおいて実施される)。一態様において、上記技術は、メモリの形態、算術演算および論理演算を実施するための要素、ならびにデータを読み取り、扱い、保存するための一連の指示(例えば、本明細書に示されているような方法)を実行するための処理要素(例えば、マイクロプロセッサ)を備えているコンピュータに関する。いくつかの実施形態において、マイクロプロセッサは、メチル化状態(例えば、一つ以上のDMR(例えば、表2および6に示されているようなDMR1~96)のメチル化状態)を決定し;メチル化状態(例えば、一つ以上のDMR(例えば、表2および6に示されているようなDMR1~96)のメチル化状態)を比較し;標準曲線を生成し;Ct値を決定し;メチル化(例えば、一つ以上のDMR(例えば、表2および6に示されているようなDMR1~96)のメチル化)の分率、頻度または割合を算出し;CpGアイランドを同定し;アッセイまたはマーカーの特異性および/または感度を決定し;ROC曲線および関連するAUCを算出し;配列分析(すべて本明細書に説明されている、または当該分野において知られている)のためのシステムの一部である。
【0020】
いくつかの実施形態において、マイクロプロセッサまたはコンピュータは、がんの部位を予測するためのアルゴリズムにおいてメチル化状態データを使用する。
【0021】
いくつかの実施形態において、ソフトウェア要素またはハードウェア要素は、複数のアッセイの結果を受け取り、当該結果に基づいてがんリスクを示すユーザに報告するための単一の数値結果を決定する(例えば、多数のDMRのメチル化状態(例えば、表2および6に示されているようなメチル化状態)を決定する)。関連する実施形態は、多数のアッセイの結果(例えば、多数のマーカー(例えば、多数のDMR(例えば、表2および6)に示されているような)のメチル化状態を決定すること)の数学的な結合(例えば、加重結合、線形結合)に基づいて、リスク因子を算出する。いくつかの実施形態において、DMRのメチル化状態は、一次元を規定しており、多次元空間における値を有し得、多数のDMRのメチル化状態によって規定される座標が、結果(例えば、ユーザに報告するための結果)である。
【0022】
いくつかの実施形態は、記録媒体およびメモリ要素を含んでいる。メモリ要素(例えば、揮発性メモリおよび/または不揮発性メモリ)は、指示(例えば、本明細書に記載のような処理の一実施形態)および/またはデータ(例えば、加工物(例えば、メチル化測定、配列決定、およびそれらと関連付けられている統計的記述))の保存における用途がある。また、いくつかの実施形態は、CPU、グラフィックカードおよびユーザインターフェイス(例えば、出力装置(例えば、ディスプレイ)および入力装置(例えば、キーボード)を含んでいる)の一つ以上を備えているシステムに関する。
【0023】
上記技術と関連するプログラム可能な機械は、従来の現存する技術および開発中またはこれから開発される技術(例えば、量子コンピュータ、化学コンピュータ、DNAコンピュータ、光学コンピュータ、スピントロニクスに基づくコンピュータなど)を備えている。
【0024】
いくつかの実施形態において、上記技術は、データ送信のために、有線伝送媒体(例えば、金属ケーブル、光学繊維)または無線伝送媒体を備えている。例えば、いくつかの実施形態は、ネットワーク(例えば、ローカルエリアネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)、特殊ネットワーク、インターネットなど)の全体へのデータ送信に関する。いくつかの実施形態において、プログラム可能な機械は、そのようなネットワーク上にピアとして存在している。いくつかの実施形態において、プログラム可能な機械は、クライアント/サーバ関係を有している。
【0025】
いくつかの実施形態において、データは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体(例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ、光学媒体、フロッピー(登録商標)ディスクなど)に記録される。
【0026】
いくつかの実施形態において、本明細書に示されている技術は、本明細書に記載されているような方法を実施するために協働して動作する複数のプログラム可能な装置と関連付けられている。例えば、いくつかの実施形態において、複数のコンピュータ(例えば、ネットワークに接続されている)は、(例えば、従来のネットワークインターフェース(例えば、イーサネット(登録商標)、光学繊維)または無線通信技術)によってネットワーク(プライベート、パブリック、またはインターネット)に接続されている完全なコンピュータ(オンボードCPU、記憶装置、電源、ネットワークインターフェースなどを有している)に依る、クラスター演算またはグリッド演算またはいくつかの他の分散型コンピュータ構築物の実施において)データを収集し、処理するために並行して動作し得る。
【0027】
例えば、いくつかの実施形態は、コンピュータ読み取り可能な媒体を含んでいるコンピュータを提供する。当該実施形態は、プロセッサに連結されているランダムアクセスメモリ(RAM)を含んでいる。当該プロセッサは、メモリに保存されているコンピュータ実行可能なプログラム指示を実行する。そのようなプロセッサは、マイクロプロセッサ、ASIC、状態機械または他のプロセッサを包含し得、任意の多くのコンピュータプロセッサ(例えば、Intel Corporation of Santa Clara, California and MotorolaCorporation of Schaumburg, Illinoisが提供しているプロセッサ)であり得る。そのようなプロセッサは、当該プロセッサによって実行されているときに、当該プロセッサに本明細書に記載のステップを実施させる指示を保存している媒体(例えば、コンピュータ読み取り可能な媒体)を含んでいるか、または当該媒体と通信接続され得る。
【0028】
コンピュータ読み取り可能な媒体の実施形態としては、コンピュータ読み取り可能な指示をプロセッサに与えることの可能な、電子、光学、磁気または他の、記憶装置または伝送装置が挙げられるが、これらに限定されない。好適な媒体の他の例としては、フロッピー(登録商標)ディスク、CD-ROM、DVD、磁気ディスク、メモリチップ、ROM、RAM、ASIC、設定済のプロセッサ、すべての光学媒体、すべての磁気テープもしくは他の磁気媒体、またはコンピュータプロセッサが指示を読み取り可能な任意の他の媒体が挙げられるが、これらに限定されない。また、コンピュータ読み取り可能な媒体の種々の他の形態としては(ルータ、プライベートネットワークもしくはパブリックネットワーク、または無線もしくは有線の他の伝送装置もしくは伝送路など)、コンピュータに指示を送信し得るか、または伝える得るものが挙げられる。指示は、任意の好適なコンピュータプログラム言語(例えば、C、C++、C#、Visual Basic、Java(登録商標)、Python、Perl、およびJavaScript(登録商標)が挙げられる)に基づくコードからなるものであってもよい。
【0029】
コンピュータは、いくつかの実施形態において、ネットワークに接続されている。また、コンピュータは、多くの外部装置または内部装置(例えば、マウス、CD-ROM、DVD、キーボード、ディスプレイ、または他の入力装置もしくは出力装置)を備え得る。コンピュータの例は、パーソナルコンピュータ、デジタルアシスタント、携帯情報端末、携帯電話機、モバイルフォン、スマートフォン、携帯用小型無線呼出し機、デジタルタブレット、ラップトップコンピュータ、インターネット機器、および他のプロセッサに基づく装置である。一般的に、上記技術の複数の態様に関連するコンピュータは、本明細書に示されている上記技術を含んでいる一つ以上のプログラムをサポート可能な任意のオペレーティングシステム(例えば、Microsoft Windows(登録商標)、Linux(登録商標)、UNIX(登録商標)、Mac OS Xなど)によって動作する、任意の種類のプロセッサに基づくプラットフォームであり得る。いくつかの実施形態は、他のアプリケーションプログラム(例えば、複数のアプリケーション)を実行するパーソナルコンピュータを包含している。当該複数のアプリケーションは、メモリに格納されてもよく、例えば、ワードプロセシングアプリケーション、表計算アプリケーション、電子メールアプリケーション、簡易メッセージアプリケーション、プレゼンテーションアプリケーション、インターネットブラウザアプリケーション、カレンダ/オーガナイザアプリケーション、およびクライアント装置によって実行可能な任意の他のアプリケーションが挙げられる。
【0030】
上記技術と関連付けられて本明細書に記載されている、そのようなすべてのコンポーネント、コンピュータ、およびシステムは、論理的なものまたは仮想的なものであり得る。
【0031】
本明細書に示される技術は、被検体から得られた試料における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)をスクリーニングする方法に関連し、当該方法は、被検体から得られた試料におけるマーカーのメチル化状態(state)を評価すること、および、上記マーカーの上記メチル化状態(state)が、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有していない被検体において評価したマーカーのメチル化状態(state)とは異なる場合に、上記被検体が高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有していると同定することを含み、上記マーカーは、表2および6に示すBMP3、NDRG4、ABCB1、AK055957、C13ORF18、CD1D、CLEC11A、DLX4、ELMO1、EMX1、FER1L4、FRMD4A、GRIN2D、HOXA1、LRRC4、PRKCB、SP9、ST6GAL2、ST8SIA1、TBX15、VWC2、およびZNF781から選択される可変メチル化領域(DMR)における一つ以上の塩基を含む。
【0032】
上記技術は、メチル化状態の評価については限定されない。いくつかの実施形態において、上記試料における上記マーカーの上記メチル化状態を評価することが、1塩基のメチル化状態を決定することを含んでいる。いくつかの実施形態において、上記試料における上記マーカーの上記メチル化状態を評価することが、複数の塩基におけるメチル化状態の程度を決定する。また、いくつかの実施形態において、上記マーカーの上記メチル化状態が、上記マーカーの通常のメチル化状態に対して、増加したメチル化を含んでいる。いくつかの実施形態において、上記マーカーの上記メチル化状態が、上記マーカーの通常のメチル化状態に対して、減少したメチル化を含んでいる。いくつかの実施形態において、上記マーカーの上記メチル化状態が、上記マーカーの通常のメチル化状態に対して、上記マーカーの、異なるパターンのメチル化状態を含んでいる。
【0033】
さらに、いくつかの実施形態において、マーカーは、100以下の塩基の領域であり、500以下の塩基の領域であり、1000以下の塩基の領域であり、5000以下の塩基の領域であり、または、いくつかの実施形態において、マーカーは1塩基である。いくつかの実施形態において、マーカーは高いCpG密集度のプロモーターにある。
【0034】
上記技術は、試料タイプには限定されない。例えば、いくつかの実施形態において、試料は、便試料、組織試料(例えば、胃部組織、膵臓組織、胆管・肝臓組織、膵液、膵臓嚢胞液、および結腸直腸組織)、血液試料(例えば、血漿、血清、全血)、排出物、または尿試料である。
【0035】
さらに、上記技術は、メチル化状態を決定するために使用される方法には限定されない。いくつかの実施形態において、評価することは、メチル化特異的なポリメラーゼ連鎖反応、核酸配列決定、質量分析、メチル化特異的ヌクレアーゼ、質量に基づく分離、またはターゲットキャプチャーを用いることを含んでいる。いくつかの実施形態において、上記評価することが、メチル化特異的なオリゴヌクレオチドの使用を含んでいる。いくつかの実施形態において、上記技術は、メチル化状態を決定するために、平行した大規模の配列決定(例えば、次世代シークエンシング)(例えば、合成ごとの配列決定、リアルタイム(例えば、単分子)配列決定、ビーズ乳濁配列決定、ナノ細孔配列決定など)を利用する。
【0036】
上記技術は、DMRを検出するための試薬を提供し、例えば、いくつかの実施形態において、配列番号1~44(表3)および配列番号45、46、47、および48(表7)によって示される配列を含んでいるオリゴヌクレオチドの集合が、提供される。いくつかの実施形態において、DMRにおける塩基を有している染色体領域に対して相補的な配列を含んでいるオリゴヌクレオチド(例えば、DMRのメチル化状態に敏感なオリゴヌクレオチド)が、提供される。
【0037】
技術は種々のマーカーのパネルを提供し、例えば、いくつかの実施形態において、上記マーカーは表2および表6に示すアノテーションを有する染色体領域を含み、当該アノテーションは上記マーカーを含む(表2および表6参照)。さらに、実施形態は、DMR番号1~96の一つ以上を用いて表2および表6に示すDMRを分析する方法を提供する。
【0038】
キットの実施形態としては以下とおりである:例えば、重亜硫酸塩試薬と、(表2および表6に示す)DMR1~96からなる群から選択されるDMRより得られた配列を含み、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有していない被検体に関連するメチル化状態(state)を有するコントロール核酸とを備えているキット。キットの実施形態としては以下とおりである:例えば、重亜硫酸塩試薬と、(表2および表6に示す)DMR1~96からなる群またはDMR1、21、24、25、26、55、70、77、81、84、92、95および96から選択されるDMRより得られた配列を含み、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有していない被検体に関連するメチル化状態(state)を有するコントロール核酸とを備えているキット。
【0039】
いくつかのキットの実施形態は、被検体から試料(例えば、便試料)を得るための試料回収器;試料から核酸を単離するための試薬;重亜硫酸塩試薬;および本明細書に記載のようなオリゴヌクレオチドを含んでいる。
【0040】
上記技術は、組成物(例えば、反応混合物)の実施形態に関する。いくつかの実施形態では、DMRを含んでいる核酸、および重亜硫酸塩試薬を含んでいる組成物が提供される。いくつかの実施形態は、DMRを含んでいる核酸、および本明細書に記載のようなオリゴヌクレオチドを含んでいる組成物を提供する。いくつかの実施形態は、DMRを含んでいる核酸、およびメチル化感受性制限酵素を含んでいる組成物を提供する。いくつかの実施形態は、DMRを含んでいる核酸、およびポリメラーゼを含んでいる組成物を提供する。
【0041】
関連するさらなる方法の実施形態としては、被検体から得られた試料における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)のスクリーニングのための方法であり、例えば、(表2および表6に示す)DMR1~96またはDMR1、21、24、25、26、55、70、77、81、84、92、95および96の一つ以上であるDMRにおける塩基を含む試料におけるマーカーのメチル化状態(state)を判定すること、被検体試料から得られたマーカーのメチル化状態(state)と高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有していない被検体に由来する正常なコントロール試料から得られたマーカーのメチル化状態(state)とを比較すること、被検体試料および正常コントロール試料のメチル化状態(state)の差異の信頼区間および/またはp値を判定すること、を含む方法が提供される。
【0042】
いくつかの実施形態では、上記信頼区間が、90%、95%、97.5%、98%、99%、99.5%、99.9%または99.99%であり、上記p値が、0.1、0.05、0.025、0.02、0.01、0.005、0.001または0.0001である。方法のいくつかの実施形態は、DMRを含んでいる核酸を、重亜硫酸塩試薬と反応させて、重亜硫酸塩反応済の核酸を生成するステップ;重亜硫酸塩反応済の核酸を配列決定して、重亜硫酸塩反応済の核酸のヌクレオチド配列を示すステップ;重亜硫酸塩反応済の核酸のヌクレオチド配列を、がんを有していない被検体からのDMRを含んでいる核酸のヌクレオチド配列と比較して、二つの配列における差異を同定するステップ;および、差異があるとき、被検体が新生物を有していると同定するステップを含んでいる。
【0043】
上記技術によって、被検体から得られた試料における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)のスクリーニングをするためのシステムが実現される。システムの典型的な実施形態としては、例えば、被検体から得られた試料における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)のスクリーニングをするためのシステムであって、上記システムは、試料のメチル化状態(state)を判定するように構成された分析コンポーネントと、試料のメチル化状態(state)と、データベースに記録されたコントロール試料または参照試料のメチル化状態(state)とを比較するように構成されたソフトウェアコンポーネントと、高度膵異形成に関連するメチル化状態(state)(例えば、高度膵異形成が無い状態に対応するメチル化状態(state);高度膵異形成に対応するメチル化状態(state))をユーザに警告するように構成された警告コンポーネントと、を備えるシステムが挙げられる。いくつかの実施形態において、警告は、多数のアッセイ(例えば、多数のマーカー(例えば、DMR(例えば、表2および表6に示すDMR))のメチル化状態(state)の決定)からの結果を受け取り、値または結果を算出し、複数の結果に基づき報告するソフトウェアコンポーネントによって決定される。いくつかの実施形態は、本明細書に示されたそれぞれのDMRに関連する重み付けされたパラメータのデータベースであって、値または結果および/またはユーザ(例えば、医師、看護師、臨床医、など)に報告すべき警告を算出するのに用いられるデータベースを提供する。いくつかの実施形態において、多数のアッセイからの全ての結果が報告され、いくつかの実施形態において、一つ以上の結果が用いられ、被検体の高度膵異形成リスクを示す多数のアッセイからの一つ以上の結果の複合物に基づいてスコア、値、または結果が得られる。
【0044】
システムのいくつかの実施形態において、試料は、DMRを含んでいる核酸を含んでいる。いくつかの実施形態において、システムは、核酸を単離するためのコンポーネント、試料を回収するためのコンポーネント(例えば、便試料を回収するためのコンポーネント)をさらに含んでいる。いくつかの実施形態において、システムは、DMRを含んでいる核酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、データベースは、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有していない被検体からの核酸配列を含んでいる。また、核酸(例えば、各核酸がDMR含んでいる配列を有している、複数の核酸の集合)が、提供される。いくつかの実施形態において、複数の核酸の集合におけるそれぞれの核酸は、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有していない被検体からの配列を有する。関連するシステムの実施形態は、記載のような複数の核酸の集合および当該複数の核酸の集合と関連付けられている複数の核酸配列のデータベースを含んでいる。いくつかの実施形態は、重亜硫酸塩試薬をさらに含んでいる。いくつかの実施形態は、核酸シークエンサーをさらに含んでいる。
【0045】
特定の実施形態において、被検体から得られた試料における高度膵異形成を検出する方法が提供され、当該方法は、a)被検体からDNAを含む試料を得ること、b)上記得られたDNAにおけるメチル化されていないシトシン残基を選択的に修飾することで修飾残基を生成するがメチル化されたシトシン残基は修飾しない試薬を用いて上記得られたDNAを処理すること、c)上記ステップb)の処理に供された上記DNAにおける一つ以上のDNAメチル化マーカーのメチル化レベルを決定するステップであって、一つ以上のDNAメチル化マーカーは、(表2および表6に示す)DMR1~96またはDMR1、21、24、25、26、55、70、77、81、84、92、95および96として規定する、可変メチル化領域(DMR)における塩基を含み、d)上記一つ以上のDNAメチル化マーカーの上記決定したメチル化レベルと、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有していない被検体用の一つ以上のDNAメチル化マーカーの参照メチル化レベルとを比較すること、e)差異が存在する場合に、上記被検体が高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有していると同定すること、を含む。
【0046】
いくつかの実施形態において、一つ以上のDNAメチル化マーカーにおけるメチル化の上昇の決定は、CpGアイランドおよびCpGアイランドショアからなる群から選択される領域内における改変されたメチル化の決定を含む。
【0047】
いくつかの実施形態において、CpGアイランドまたはCpGショア内でのメチル化の上昇の決定は、DNAメチル化マーカーのコード領域または制御領域内でのメチル化の上昇を含む。
【0048】
いくつかの実施形態において、上記ステップb)の処理に供された上記DNAにおける一つ以上のDNAメチル化マーカーのメチル化レベルの決定は、一つ以上のDNAメチル化マーカーのメチル化スコアおよび/またはメチル化頻度の決定を含む。いくつかの実施形態において、上記ステップb)の処理は、上記得られたDNAを重亜硫酸塩修飾することによって行われる。
【0049】
いくつかの実施形態において、上記ステップb)の処理に供された上記DNAにおける一つ以上のDNAメチル化マーカーのメチル化レベルの決定は、メチル化特異的PCR、定量的メチル化特異的PCR、メチル化感受性DNA制限酵素分析、定量的重亜硫酸塩パイロシークエンシング、および重亜硫酸塩ゲノムシークエンシングPCRからなる群から選択される手法によって行われる。
【0050】
いくつかの実施形態において、上記試料は、膵臓組織および/または膵液、結腸直腸組織を含む。いくつかの実施形態において、上記試料は膵臓嚢胞液を含む。いくつかの実施形態において、上記試料は便試料を含む。いくつかの実施形態において、上記試料は血液試料を含む。
【0051】
特定の実施形態において、本発明は、ヒト生体試料におけるBMP3、NDRG4、ABCB1、AK055957、C13ORF18、CD1D、CLEC11A、DLX4、ELMO1、EMX1、FER1L4、FRMD4A、GRIN2D、HOXA1、LRRC4、PRKCB、SP9、ST6GAL2、ST8SIA1、TBX15、VWC2、およびZNF781のいずれかから選択される二つ以上の遺伝子のCpG部位のメチル化レベルを測定することによって生体試料を特徴付ける方法を提供する。
【0052】
上記方法は、CpG部位のメチル化レベルを測定する特定の方法に限定されない。いくつかの実施形態において、上記方法は、上記生体試料におけるゲノムDNAを、重亜硫酸塩を用いて処理すること;上記選択された二つ以上の遺伝子に対するプライマーの組を用いて、上記重亜硫酸塩処理されたゲノムDNAを増幅すること;およびメチル化特異的PCR、定量的メチル化特異的PCR、メチル化感受性DNA制限酵素分析、定量的重亜硫酸塩パイロシークエンシングまたは重亜硫酸塩ゲノムシークエンシングPCRによって、上記CpG部位の上記メチル化レベルを決定することによって、CpG部位のメチル化レベルを測定する。
【0053】
いくつかの実施形態において、二つ以上の遺伝子についてCpG部位の上記メチル化レベルを測定することが、上記CpG部位のメチル化スコアを決定すること、および上記CpG部位のメチル化頻度を決定することからなる群から選択される決定を含んでいる。
【0054】
いくつかの実施形態において、上記方法は、上記メチル化レベルと、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有していないコントロール試料において対応する遺伝子の集合のメチル化レベルとを比較すること、上記二つ以上の遺伝子において測定された上記メチル化レベルが、上記それぞれのコントロール試料において測定された上記メチル化レベルよりも高い場合に、当該個体が高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有すると判定すること、をさらに含む。
【0055】
上記方法は、特定の種類の生体試料に限定されない。いくつかの実施形態において、上記生体試料は膵臓組織および/または膵臓嚢胞液を含む。いくつかの実施形態において、上記生体試料は便試料、血液試料、および/または血液分画試料を含む。
【0056】
いくつかの実施形態において、上記CpG部位は、コード領域または制御領域に存在する。
【0057】
いくつかの実施形態において、上記選択された二つ以上遺伝子に対する下記プライマーの組:
配列番号45および46からなる、BMP3に対するプライマーの組、
配列番号47および48からなる、NDRG4に対するプライマーの組、
配列番号1および2からなる、ABCB1に対するプライマーの組、
配列番号3および4からなる、AK055957に対するプライマーの組、
配列番号7および8からなる、C13ORF18に対するプライマーの組、
配列番号43および44からなる、CD1Dに対するプライマーの組、
配列番号9および10からなる、CLEC11Aに対するプライマーの組、
配列番号11および12からなる、DLX4に対するプライマーの組、
配列番号13および14からなる、ELMO1に対するプライマーの組、
配列番号15および16からなる、EMX1に対するプライマーの組、
配列番号17および18からなる、FER1L4に対するプライマーの組、
配列番号19および20からなる、FRMD4Aに対するプライマーの組、
配列番号21および22からなる、GRIN2Dに対するプライマーの組、
配列番号23および24からなる、HOXA1に対するプライマーの組、
配列番号25および26からなる、LRRC4に対するプライマーの組、
配列番号29および30からなる、PRKCBに対するプライマーの組、
配列番号31および32からなる、SP9に対するプライマーの組、
配列番号33および34からなる、ST6GAL2に対するプライマーの組、
配列番号35および36からなる、ST8SIA1に対するプライマーの組、
配列番号37および38からなる、TBX15に対するプライマーの組、
配列番号39および40からなる、VWC2に対するプライマーの組、および
配列番号41および42からなる、ZNF781に対するプライマーの組。
【0058】
さらなる実施形態は、本明細書に含まれている教示に基づいて、関連する分野の当業者にとって明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1A】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1B】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1C】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1D】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1E】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1F】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1G】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1H】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1I】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1J】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1K】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1L】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1M】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1N】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1O】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1P】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1Q】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1R】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1S】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1T】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1U】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1V】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1W】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1X】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図1Y】実施例1に記載した膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。
【
図2】患者(HGD/がん)およびコントロール(LGD/異形成無し)の(ベータアクチンによって正規化された)膵臓嚢胞液における上位三つのメチル化されたDNAマーカーの分布を示す(実施例5参照)。
【
図3】各嚢胞カテゴリーにおける(ベータアクチンによって正規化された)上位二つのメチル化されたDNAマーカー候補の膵臓嚢胞液レベルを示す(実施例6参照)。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本明細書に示す技術は、高度膵異形成スクリーニング用の技術であり、特に、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の存在の検出のための方法、組成物、およびそれらに関連する使用に向けたものであるが、これらに限らない。
【0061】
本技術が本明細書に記載されるように、使用されるセクションの見出しは、系統だてる目的のみのためのものであり、いかなる方法にも発明特定事項を限定するものと解釈されるべきではない。
【0062】
種々の実施形態の当該詳細な説明において、説明の目的のために、多数の特定の詳細は、開示された実施形態の完全な理解を提供するために説明される。しかしながら、当業者は、これらの種々の実施形態がこれらの特定の詳細の有無に関わらず実施され得ることを適切に理解する。他の実例において、構造および装置は、ブロック図形式で示される。さらに、当業者は、各種方法が提示されかつ実行される特定の順序が例示的なものであると容易に適切に理解することができ、この順序は変更可能であり、変更後もなお本明細書において開示される種々の実施形態の精神および範囲に含まれることが企図される。
【0063】
特許、特許出願、記事、本、論文、およびインターネットウェブページ(これらに限定されない)を含む本願に引用される全ての文献および同様の資料は、任意の目的のために、その全体が明確に参照により援用される。他の方法で定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本明細書に記載される種々の実施形態が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同一の意味を持つ。援用された参考文献における用語の定義が本願の教示において与えられる定義と異なることが明白である場合には、本願の教示において与えられる定義が優先される。
【0064】
〔定義〕
本願技術の理解を促進するために、多数の用語およびフレーズを、以下に定義する。追加の定義は、詳細な説明中に記載する。
【0065】
明細書および特許請求の範囲中、文脈が明確に他の意味を指示しない限り、以下の用語は本明細書に明白に関連した意味を持つ。本明細書において使用されるフレーズ「一つの実施形態において」は、そうであり得るけれども、必ずしも同一の実施形態を指さない。さらに、本明細書において使用されるフレーズ「他の実施形態」は、そうであり得るけれども、必ずしも異なる実施形態を指さない。したがって、以下に記載されるように、本発明の種々の実施形態は、本発明の範囲または精神から逸脱することなく、容易に組み合わせられ得る。
【0066】
さらに、本明細書に使用される際、用語「または」は、文脈が明らかにそうではないと規定しない限り、包括的な「または」の機能語であり、用語「および/または」と同義である。用語「基づく」は、文脈が明らかにそうではないと規定しない限り、排他的ではなく、記載されていない追加の要素に基づいているものを考慮に入れる。さらに、明細書中、「a」、「an」、および「the」の意味は、複数表示も含む。「in」の意味は、「in」および「on」を含む。
【0067】
本明細書に使用される際、「核酸」または「核酸分子」は、一般的にリボ核酸またはデオキシリボ核酸を指し、修飾されていないまたは修飾されたDNAまたはRNAであり得る。「核酸」は、一本鎖および二本鎖の核酸を含むが、これらに限定されない。本明細書に使用される際、用語「核酸」も上述のように一つ以上の修飾された塩基を含むDNAを含む。したがって、安定性のためまたは他の理由のために修飾されたバックボーンを有するDNAは「核酸」である。本明細書に使用される際、用語「核酸」は、ウイルスおよび細胞(例えば単一細胞および複雑型細胞を含む)のDNA特質の化学的形態だけでなく、化学的に、酵素的に、または代謝的に修飾された核酸の形態といったものを包含する。
【0068】
用語「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」または「ヌクレオチド」または「核酸」は、二つ以上のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを有する分子を指し、好ましくは三つ以上であり、通常は10より多い。正確なサイズは、多数の要因に依存し得り、結果としてオリゴヌクレオチドの最終的な機能または使用に依存する。オリゴヌクレオチドは、化学合成、DNA複製、逆転写、またはそれらの組み合わせを含む任意の様式において作製され得る。DNAの典型的なデオキシリボヌクレオチドは、チミン、アデニン、シトシン、およびグアニンである。RNAの典型的なリボヌクレオチドは、ウラシル、アデニン、シトシン、およびグアニンである。
【0069】
本明細書に使用される際、核酸の「遺伝子座」または「領域」は、例えば、染色体上の遺伝子、単一のヌクレオチド、CpGアイランド等、核酸のサブ領域を指す。
【0070】
用語「相補的」および「相補性」は、塩基対形成規則によって関連付けられるヌクレオチド(例えば、1ヌクレオチド)またはポリヌクレオチド(例えば、連続したヌクレオチド)を指す。例えば、配列「5’-A-G-T-3’」は、配列「3’-T-C-A-5’」に対して相補的である。相補性は、一部の核酸塩基のみが塩基対形成規則に従って適合する、「部分的」なものであってもよい。あるいは、核酸間に、「完全」または「全体的」相補性が存在してもよい。核酸鎖間の相補性の程度は、核酸鎖間のハイブリッド形成の効率および強度に影響を与える。これは、増幅反応および核酸間の結合に依存する検出方法において、特に重要である。
【0071】
用語「遺伝子」は、RNA、ポリペプチド、またはその前駆体の生成に必要なコード配列を含む核酸(例えば、DNAまたはRNA)配列を指す。機能的なポリペプチドは、ポリペプチドの所望の活性または機能的特性(例えば、酵素活性、リガンド結合、シグナル変換等)が保持される限り、完全長コード配列またはコード配列の任意の部分によって、コードすることができる。用語「部分」は、遺伝子に関して使用される際、その遺伝子の断片を指す。断片とは、サイズに関して、数個のヌクレオチドから、完全な遺伝子配列マイナス1ヌクレオチドの範囲までをとりうる。したがって、「遺伝子の少なくとも一つの部分を含むヌクレオチド」は、当該遺伝子の複数の断片を含んでいてもよく、または完全な当該遺伝子を含んでいてもよい。
【0072】
用語「遺伝子」はまた、構造遺伝子のコード領域、ならびに5’および3’の両末端における当該コード領域に隣接する配列、例えば、いずれかの末端で約1kbの距離にわたりコード領域に隣接して位置する配列を包含し、この場合当該遺伝子は完全長mRNAの長さに対応する(例えば、コード配列、調節配列、構造配列および他の配列を含む)。コード領域の5’に位置し、mRNA上に存在する配列は、5’非翻訳(non-translated)配列または5’非翻訳(untranslated)配列と称される。コード領域の3’または下流に位置し、mRNA上に存在する配列は、3’非翻訳(non-translated)配列または3’非翻訳(untranslated)配列と称される。用語「遺伝子」は、cDNAおよび遺伝子のゲノム形態の両方を包含する。いくつかの生物(例えば、真核生物)において、遺伝子のゲノム形態またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と称される、非コード配列により分断されるコード領域を含む。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントであり、イントロンは、エンハンサーのような調節要素を含み得る。イントロンは、核または一次転写物から除去または「スプライシング除去」され、イントロンは、したがって、メッセンジャーRNA(mRNA)転写物には存在しない。mRNAは、翻訳の際に、発生期のポリペプチドにおいてアミノ酸の配列または順序を特定するように機能する。
【0073】
イントロンを含有することに加えて、遺伝子のゲノム形態はまた、RNA転写物上に存在する配列の5’末端および3’末端の両方に位置する配列を含んでもよい。これらの配列は、「フランキング」配列または領域と称される(これらのフランキング配列は、mRNA転写物上に存在する非翻訳配列に対して5’または3’に位置する)。5’フランキング領域は、遺伝子の転写を制御するか、またはそれに影響を及ぼす、プロモーターおよびエンハンサー等の調節配列を含み得る。3’フランキング領域は、転写終結、転写後の切断、およびポリアデニル化を指示する配列を含み得る。
【0074】
用語「対立遺伝子」は、遺伝子の変種を指し、変種は、限定されないが、変異形および変異体、多型遺伝子座、ならびに単一のヌクレオチド多型遺伝子座、フレームシフト、ならびにスプライス変異を含む。対立遺伝子は、集団中に天然に存在し得り、または集団の任意の特定の個体の寿命の間起こり得る。
【0075】
したがって、用語「変異形」および「変異体」は、ヌクレオチド配列に関して使用される際、一つ以上のヌクレオチドが、他の、通常関連する、ヌクレオチド酸配列とは異なる核酸配列を指す。「変種」は、二つの異なるヌクレオチド配列間の違いであり、典型的には、配列の一つは参照配列である。
【0076】
「増幅」は、鋳型特異性が関与する特別な核酸複製である。これは、非特異的鋳型複製(例えば、鋳型依存的であるが特異的な鋳型には依存しない複製)と対照的である。鋳型特異性はここでは、複製の忠実性(例えば、適当なポリヌクレオチド配列の合成)およびヌクレオチド(リボ-またはデオキシリボ-)特異性とは区別される。鋳型特異性は、「標的」特異性に関して頻繁に説明される。標的配列は、他の核酸から選別されることが求められるという意味での「標的」である。増幅技術は、この選別のために主にデザインされる。
【0077】
核酸の増幅は、一般的に、典型的に少量のポリヌクレオチド(例えば、単一のポリヌクレオチド分子、ポリヌクレオチド分子の10~100コピー、厳密に同一であってもそうでなくてもよい、)から開始する、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの一部分の複数のコピーの生成を指し、増幅産物またはアンプリコンは、一般的に検出可能である。ポリヌクレオチドの増幅は、種々の化学的および酵素的プロセスを包含する。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)またはリガーゼ連鎖反応(LCR、例えば、米国特許第5,494,810号を参照)の際の、標的または鋳型DNA分子の一つまたは少数のコピーからの複数のDNAコピーの生成は、増幅の形態である。さらなる増幅の種類には、限定されないが、対立遺伝子特異的PCR(例えば、米国特許第5,639,611号を参照)、アセンブリPCR(例えば、米国特許第5,965,408号を参照)、ヘリカーゼ依存性増幅(例えば、米国特許第7,662,594号を参照)、ホットスタートPCR(例えば、米国特許第5,773,258号および同第5,338,671号を参照)、配列間特異的PCR、逆PCR(例えば、Triglia, et alet al. (1988) Nucleic Acids Res., 16:8186を参照)、ライゲーション媒介性PCR(例えば、Guilfoyle, R. et al., Nucleic Acids Research, 25:1854-1858 (1997)、米国特許第5,508,169号を参照)、メチル化特異的PCR(例えば、Herman, et al., (1996) PNAS 93(13) 9821-9826を参照)、ミニプライマーPCR、多重ライゲーション依存性プローブ増幅(例えば、Schouten, et al., (2002) Nucleic Acids Research 30(12): e57を参照)、多重PCR(例えば、Chamberlain, et al., (1988) Nucleic Acids Research 16(23) 11141-11156;Ballabio, et al., (1990) Human Genetics 84(6) 571-573;Hayden, et al., (2008) BMC Genetics 9:80を参照)、ネスト化PCR、重複伸長PCR(例えば、Higuchi, et al., (1988) Nucleic Acids Research 16(15) 7351-7367を参照)、リアルタイムPCR(例えば、Higuchi, et alet al., (1992) Biotechnology 10:413-417;Higuchi, et al., (1993) Biotechnology 11:1026-1030を参照)、逆転写PCR(例えば、Bustin, S.A. (2000) J. Molecular Endocrinology 25:169-193を参照)、固相PCR、熱非対称インターレースPCR、およびタッチダウンPCR(例えば、Don, et al., Nucleic Acids Research (1991) 19(14) 4008;Roux, K. (1994) Biotechniques 16(5) 812-814;Hecker, et al., (1996) Biotechniques 20(3) 478-485を参照)が含まれる。ポリヌクレオチド増幅はまた、デジタルPCRを使用して達成することができる(例えば、Kalinina, et al., Nucleic Acids Research. 25; 1999-2004, (1997);Vogelstein and Kinzler, Proc Natl Acad Sci USA. 96; 9236-41, (1999);国際特許出願公開第05023091A2号;米国特許出願公開第20070202525号を参照)。
【0078】
用語「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)は、クローニングまたは精製なしで、ゲノムDNAの混合物中の標的配列のセグメントの濃度を増加させるための方法を記載する、K.B.Mullisの米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号、および同第4,965,188号の方法を指す。標的配列を増幅させるためのこのプロセスは、非常に過剰な二つのオリゴヌクレオチドプライマーを、所望される標的配列を含有するDNA混合物に導入し、続いてDNAポリメラーゼの存在下で正確な順序の熱サイクル処理を行うことから構成される。二つのプライマーは、二本鎖の標的配列のそれぞれの鎖に相補的である。増幅をもたらすために、混合物を変性させ、次いで、プライマーを標的分子内のそれらの相補的配列とアニールさせる。アニーリング後、プライマーを、新しい相補鎖の組を形成するように、ポリメラーゼで伸長させる。変性、プライマーのアニーリング、およびポリメラーゼ伸長のステップを、何度も反復して(すなわち、変性、アニーリング、および伸長が、一つの「サイクル」を構成し、多数の「サイクル」が存在し得る)、高濃度の所望の標的配列の増幅セグメントを得ることができる。所望の標的配列の増幅セグメントの長さは、互いに対するプライマーの相対的位置によって決定され、したがって、この長さは、制御可能なパラメータである。プロセスの反復する態様のため、この方法は、「ポリメラーゼ連鎖反応」(「PCR」)と称される。所望される標的配列の増幅セグメントが、混合物における優勢配列(濃度に関して)となるため、それらは、「PCRにより増幅された」と称され、「PCR産物」または「アンプリコン」である。
【0079】
鋳型特異性は、ほとんどの増幅技術において、酵素の選択により実現される。増幅酵素は、それらが使用される条件下で、核酸の異種混合物中の核酸の特異的配列のみをプロセッシングする酵素である。例えば、Q-ベータレプリカーゼの場合、MDV-1 RNAは、このレプリカーゼの特異的鋳型である(Kacian et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69:3038 (1972))。他の核酸は、この増幅酵素によっては複製されない。同様にT7 RNAポリメラーゼの場合、この増幅酵素は、それ自身のプロモーターに対しストリンジェントな特異性を有する(Chamberlin et al, Nature, 228:227 (1970))。T4 DNAリガーゼの場合、この酵素は、二つのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを連結せず、ここでこのオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質とこの鋳型との間にライゲーション接合点でミスマッチが存在する(Wu and Wallace (1989) Genomics 4:560)。最後に、熱安定性の鋳型依存的DNAポリメラーゼ(例えば、TaqおよびPfu DNAポリメラーゼ)は、それらの高温で機能する能力という利点によって、結合した配列に高い特異性を発揮し、その結果プライマーにより定義されることがわかっており、高温によって、プライマーが標的配列とハイブリダイゼーションするが、非標的配列とはハイブリダイズしないような熱力学的条件が生じる(H. A. Erlich (ed.), PCR Technology, Stockton Press (1989))。
【0080】
本明細書に使用される際、用語「核酸検出アッセイ」は、目的の核酸のヌクレオチド組成を決定する任意の方法を指す。核酸検出アッセイには、限定されないが、DNA配列決定法、プローブハイブリッド形成法、構造特異的切断アッセイ(例えば、INVADERアッセイ(Hologic,Inc.)が含まれ、例えば、米国特許第5,846,717号、同第5,985,557号、同第5,994,069号、同第6,001,567号、同第6,090,543号、および同第6,872,816号、Lyamichev et al., Nat. Biotech., 17:292 (1999)、Hall et al., PNAS, USA, 97:8272 (2000)、および米国特許出願公開第2009/0253142号)、酵素不適合切断法(例えば、Variagenics、米国特許第6,110,684号、同第5,958,692号、同第5,851,770号)、ポリメラーゼ連鎖反応、分枝ハイブリッド形成法(例えば、Chiron、米国特許第5,849,481号、同第5,710,264号、同第5,124,246号、および同第5,624,802号)、ローリングサークル複製(例えば、米国特許第6,210,884号、同第6,183,960号、および同第6,235,502号)、NASBA(例えば、米国特許第5,409,818号)、分子指標技術(例えば、米国特許第6,150,097号)、Eセンサー技術(Motorola、米国特許第6,248,229号、同第6,221,583号、同第6,013,170号、および同第6,063,573号)、サイクリングプローブ技術(例えば、米国特許第5,403,711号、同第5,011,769号、および同第5,660,988号)、Dade Behringシグナル増幅法(例えば、米国特許第6,121,001号、同第6,110,677号、同第5,914,230号、同第5,882,867号、および同第5,792,614号)、リガーゼ連鎖反応(例えば、Barnay Proc. Natl. Acad. Sci USA 88, 189-93 (1991))、ならびにサンドイッチハイブリッド形成法(例えば、米国特許第5,288,609号)が含まれる。
【0081】
用語「増幅可能な核酸」は、任意の増幅法により増幅することができる核酸に関して使用される。「増幅可能な核酸」は、通常「試料鋳型」を含むことが企図される。
【0082】
用語「試料鋳型」は、「標的」(以下に定義する)の存在について分析される試料に由来する核酸を指す。対照的に「バックグラウンド鋳型」は、試料中に存在するかまたは存在しない、試料鋳型以外の核酸に関して使用される。バックグラウンド鋳型は最も頻繁には、不注意による。これは、キャリーオーバーの結果であるか、または試料から精製除去されることが求められた核酸夾雑物の存在に起因し得る。例えば検出されるべきもの以外の生物由来の核酸は、試験試料中にバックグラウンドとして存在することがある。
【0083】
用語「プライマー」は、精製された制限分解物にあるように、天然に存在するか、または合成で生成されたかにかかわらず、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物の合成が誘発される条件下に(例えば、ヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼ等の誘発剤の存在下、好適な温度およびpHで)置かれる場合、その開始点として機能することが可能な、オリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、好ましくは、最大の増幅効率のため一本鎖であるが、代替として、二本鎖であってもよい。二本鎖である場合、プライマーは、伸長産物の調製に使用される前に、最初にその鎖を分離するために処理される。好ましくは、プライマーは、オリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、誘発剤の存在下で、伸長産物の合成を開始するのに十分な長さでなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマー源、および使用する方法を含む、多数の因子に依存することになる。
【0084】
用語「プローブ」は、対象となる別のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズすることが可能である、精製された制限分解物中に天然に、または合成、組換え、もしくはPCR増幅によって作製されたオリゴヌクレオチド(例えば、連続したヌクレオチド)を指す。プローブは、一本鎖または二本鎖であってよい。プローブは、特定の遺伝子配列(例えば、「捕捉プローブ」)の検出、同定、および単離に有用である。本発明で使用されるプローブは、いくつかの実施形態において、酵素(例えば、ELISAに加え、酵素に基づく組織化学アッセイ)、蛍光、放射性、および発光システムを含むがこれらに限定されない、任意の検出システムで検出可能となるように「レポーター分子」により標識されることが企図される。本発明が特定の検出システムまたは標識物に限定されることは意図されていない。
【0085】
本明細書に使用される際、「メチル化」は、シトシンのC5またはN4位のシトシンのメチル化、アデニンのN6位、または他の型の核酸のメチル化を指す。典型的なインビトロでのDNA増幅方法は、増幅鋳型のメチル化パターンを保たないので、インビトロで増幅されたDNAは、通常メチル化されない。しかしながら、「メチル化されていないDNA」または「メチル化されたDNA」はまた、それぞれ、もともとの鋳型がメチル化されていないまたはメチル化された増幅されたDNAを指し得る。
【0086】
したがって、本明細書に使用される際、「メチル化されたヌクレオチド」または「メチル化されたヌクレオチド塩基」は、ヌクレオチド塩基上のメチル残基の存在を指し、メチル残基は、認識される典型的なヌクレオチド塩基に存在しない。例えば、シトシンは、そのピリミジン環上にメチル残基を含まないが、5-メチルシトシンは、そのピリミジン環の5位にメチル残基を含む。したがって、シトシンは、メチル化されたヌクレオチドではなく、5-メチルシトシンは、メチル化されたヌクレオチドである。他の例において、チミンは、そのピリミジン環の5位にメチル残基を含むが、本明細書における意図では、チミンは典型的なDNAのヌクレオチド塩基であるので、DNAに存在する際、チミンはメチル化されたヌクレオチドを考慮しない。
【0087】
本明細書に使用される際、「メチル化された核酸分子」は、一つ以上のメチル化されたヌクレオチドを含む核酸分子を指す。
【0088】
本明細書に使用される際、核酸分子の「メチル化状態(state)」、「メチル化プロファイル」および「メチル化状態(status)」は、核酸分子中の一つ以上のメチル化されたヌクレオチド塩基の欠如の存在を指す。例えば、メチル化されたシトシンを含む核酸分子は、メチル化されたと考えられる(例えば、核酸分子のメチル化状態(state)はメチル化されている)。任意のメチル化されたヌクレオチドを含まない核酸分子は、メチル化されていないと考えられる。
【0089】
特定の核酸配列のメチル化状態(state)は(例えば、本明細書で記載されるような、遺伝子マーカーまたはDNA領域)、配列中の全ての塩基のメチル化状態を示すことができ、または配列内の塩基の(例えば、一つ以上のシトシンの)一部分のメチル化状態を示すことができ、またはメチル化が存在する配列内の位置する正確な情報を与えられていてもいなくても、配列内の局所的なメチル化密度に関する情報を示すことができる。
【0090】
核酸分子中のヌクレオチド遺伝子座のメチル化状態は、核酸分子中の特定の遺伝子座のメチル化されたヌクレオチドの存在または欠如を指す。例えば、核酸分子中の7番目のヌクレオチドに存在するヌクレオチドが5-メチルシトシンであるとき、核酸分子の7番目のヌクレオチドのシトシンのメチル化状態は、メチル化されている。同様に、核酸分子中の7番目のヌクレオチドに存在するヌクレオチドがシトシンである(5-メチルシトシンではない)とき、核酸分子の7番目のヌクレオチドのシトシンのメチル化状態は、メチル化されていない。
【0091】
メチル化状態(status)は、任意に「メチル化値」(例えば、メチル化頻度、分率、比、割合等を表す)によって表されるまたは示すことができる。メチル化値は、例えば、メチル化依存的制限酵素で以下の制限消化を与えたそのままの核酸量を定量することにより、または重亜硫酸塩反応後の増幅プロファイルの比較により、または重亜硫酸塩で処理されたおよび処理されていない核酸の配列の比較により、生み出すことができる。したがって、値、例えばメチル化値は、メチル化状態(status)を表し、それゆえ、遺伝子座の多数のコピーにわたってメチル化状態(status)の量の指標として使用することができる。これは、試料中の配列のメチル化状態(status)を閾値または参照値と比較することが望ましいときに、特に使用される。
【0092】
本明細書に使用される際、「メチル化頻度」または「メチル化割合(%)」は、分子または遺伝子座がメチル化されていない実例の数と比較した分子または遺伝子座がメチル化された実例の数を指す。
【0093】
したがって、メチル化状態(state)は、核酸(例えば、ゲノム配列)のメチル化の状態(state)を表す。さらに、メチル化状態(state)は、メチル化に関連する特定のゲノム遺伝子座の核酸断片の特性を指す。上記特性は、限定されないが、このDNA配列内の任意のシトシン(C)残基がメチル化されているかどうか、メチル化されたC残基の位置、核酸の任意の特定領域中のメチル化されたCの頻度または割合、および対立遺伝子のメチル化の差異(例えば、対立遺伝子の起源の差異に起因する)を含む。用語「メチル化状態(state)」、「メチル化プロファイル」、および「メチル化状態(status)」はまた、生体試料中の核酸の任意の特定領域中のメチル化されたCもしくはメチル化されていないCの、相対濃度、絶対濃度、またはパターンを指す。例えば、核酸配列内のシトシン(C)残基がメチル化されている場合、それは「高メチル化された」または「増加したメチル化」を有するとして称され得るが、一方DNA配列内のシトシン(C)残基がメチル化されていない場合、「低メチル化された」または「減少したメチル化」を有するとして称され得る。同様に、(例えば、異なる領域または異なる個体等に由来する)他の核酸配列と比較したときに、核酸配列内のシトシン(C)残基がメチル化されている場合、他の核酸配列と比較して、その配列は、高メチル化された、または増加したメチル化を有すると考えられる。また、(例えば、異なる領域または異なる個体等に由来する)他の核酸配列と比較したときに、DNA配列内のシトシン(C)残基がメチル化されていない場合、他の核酸配列と比較して、その配列は、低メチル化された、または減少したメチル化を有すると考えられる。さらに、用語「メチル化パターン」は、本明細書に使用される際、核酸の領域に対してメチル化されたおよびメチル化されていないヌクレオチドの集合部位を指す。二つの核酸は、同一のまたは同様のメチル化頻度またはメチル化割合を有していてもよいが、メチル化されたおよびメチル化されていないヌクレオチドの位置が異なるものの、領域中、メチル化されたおよびメチル化されていないヌクレオチドの数が同一または同様であるとき、異なるメチル化パターンを有していてもよい。配列は、メチル化の範囲(例えば、他のものと比較して増加したまたは減少したメチル化を有する)、頻度、またはパターンが異なるとき、「異なってメチル化された」または「メチル化において差異」を有するまたは「異なるメチル化状態(state)」を有するとして称される。用語「異なるメチル化」は、がん陰性試料中の核酸メチル化のパターンのレベルまたはパターンと比較したときの、がん陽性試料中の核酸メチル化のパターンのレベルまたはパターンの差異を指す。それはまた、手術後にがんが再発した患者と再発していない患者との間のレベルまたはパターンの差異と称され得る。異なるメチル化およびDNAメチル化の特定のレベルまたはパターンは、予知および予測生体マーカーであり、例えば、かつて正確な区分または予測特性が明確にされてきた。
【0094】
メチル化状態(state)頻度は、複数の個体からなる群または単一の個体由来の試料を表すために使用することができる。例えば、50%のメチル化状態(state)頻度を有するヌクレオチド遺伝子座は、実例の50%においてメチル化されており、実例の50%においてメチル化されていない。上記頻度は、例えば、個体の群または核酸の集合においてヌクレオチド遺伝子座または核酸領域がメチル化されている程度を表すために使用することができる。したがって、第1の群または核酸分子のプール中のメチル化が第2の群または核酸分子のプール中のメチル化と異なるとき、第1の群またはプールのメチル化状態(state)頻度は、第2の群またはプールのメチル化状態(state)頻度と異なり得る。上記頻度はまた、例えば、ヌクレオチド遺伝子座または核酸領域が単一の個体においてメチル化されている程度を表すために使用することができる。例えば、上記頻度は、組織試料由来の細胞の集団がヌクレオチド遺伝子座または核酸領域でメチル化されたまたはメチル化されていない程度を表すために使用することができる。
【0095】
本明細書に使用される際、「ヌクレオチド遺伝子座」は、核酸分子中のヌクレオチドの位置を指す。メチル化されたヌクレオチドのヌクレオチド遺伝子座は、核酸分子中のメチル化されたヌクレオチドの位置を指す。
【0096】
典型的に、ヒトDNAのメチル化は、隣接するグアニンおよびシトシンを含むジヌクレオチド配列上で起こり、シトシンは、グアニンの5’に位置する(CpGジヌクレオチド配列とも称する)。CpGジヌクレオチド内のほとんどのシトシンは、ヒトゲノムにおいてメチル化されるが、いくつかは、CpGアイランドとして知られる、特定のCpGジヌクレオチドリッチゲノム領域においてメチル化されないままである(例えば、Antequera et al. (1990) Cell 62: 503-514を参照されたい)。
【0097】
本明細書に使用される際、「CpGアイランド」は、全ゲノムDNAと比較してCpGジヌクレオチドの増加した数を包含するゲノムDNAのG:Cリッチ領域を指す。CpGアイランドは、長さが少なくとも100、200、またはそれ以上の塩基対であってもよく、領域のG:C含有量は、少なくとも50%であり、予測頻度に対する観測CpG頻度の比は、0.6であり、いくつかの実例において、CpGアイランドは、長さは少なくとも500塩基対であってもよく、領域のG:C含有量は少なくとも55%であり)、予測頻度に対する観測CpG頻度の比は、0.65である。予測頻度に対する観測CpG頻度の比は、Gardiner-Garden et al (1987) J. Mol. Biol. 196: 261-281に規定される方法により計算することができる。例えば、予測頻度に対する観測CpG頻度は、式R=(A×B)/(C×D)により計算することができ、Rは予測頻度に対する観測CpG頻度の比であり、Aは分析される配列中のCpGジヌクレオチド数であり、Bは分析される配列中の全ヌクレオチド数であり、Cは分析される配列中の全Cヌクレオチド数であり、Dは分析される配列中の全Gヌクレオチド数である。メチル化状態(state)は、典型的には、CpGアイランドにおいて、例えばプロモーター領域で決定される。しかしながら、当然、ヒトゲノム中の他の配列はCpAおよびCpTのようにDNAメチル化されやすい(例えば、Ramsahoye (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97: 5237-5242;Salmon and Kaye (1970) Biochim. Biophys. Acta. 204: 340-351;Grafstrom (1985) Nucleic Acids Res. 13: 2827-2842;Nyce (1986) Nucleic Acids Res. 14: 4353-4367;Woodcock (1987) Biochem. Biophys. Res. Commun. 145: 888-894を参照されたい)。
【0098】
本明細書に使用される際、核酸分子のメチル化状態(state)と相関して核酸分子のヌクレオチドを修飾する試薬、またはメチル化特異的試薬は、核酸分子のメチル化状態(state)を反映する方法で核酸分子のヌクレオチド配列を変えることができる化合物または組成物または他の薬剤を指す。上記試薬で核酸分子を処理する方法は、核酸分子を試薬と接触させ、必要な場合はさらなるステップと組み合わせて、所望のヌクレオチド配列の変化を成し遂げることを含む。核酸分子のヌクレオチド配列における上記変化は、それぞれのメチル化されたヌクレオチドが異なるヌクレオチドに修飾されている核酸分子をもたらし得る。核酸ヌクレオチド配列における上記変化は、それぞれのメチル化されていないヌクレオチドが異なるヌクレオチドに修飾されている核酸分子をもたらし得る。核酸ヌクレオチド配列における上記変化は、メチル化されていない選択されたヌクレオチドそれぞれ(例えば、それぞれのメチル化されていないシトシン)が異なるヌクレオチドに修飾されている核酸分子をもたらし得る。核酸ヌクレオチド配列を変えるための上記試薬の使用は、メチル化されたヌクレオチドであるそれぞれのヌクレオチド(例えば、それぞれのメチル化されたシトシン)が異なるヌクレオチドに修飾されている核酸分子をもたらし得る。本明細書に使用される際、選択されたヌクレオチドを修飾する試薬の使用は、他の三つのヌクレオチドを修飾せずに、一つのヌクレオチドを修飾する試薬のような、核酸分子中に典型的に存在する四つのヌクレオチド(DNAの場合C、G、T、およびA、ならびにRNAの場合C、G、U、およびA)の一つのヌクレオチドを修飾する試薬を指す。一つの典型的な実施例において、上記試薬は、メチル化されていない選択されたヌクレオチドを修飾することで、異なるヌクレオチドを生じる。他の典型的な実施例において、上記試薬は、メチル化されていないシトシンヌクレオチドを脱アミノ化し得る。典型的な試薬は重亜硫酸塩である。
【0099】
本明細書に使用される際、用語「重亜硫酸塩試薬」は、いくつかの実施形態において、例えば、CpGジヌクレオチド配列において、メチル化されたシチジンとメチル化されていないシチジンとを区別するための、重亜硫酸塩、二亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、またはそれらの組み合わせを含む試薬を指す。
【0100】
用語「メチル化アッセイ」は、核酸の配列内の一つ以上のCpGジヌクレオチド配列のメチル化状態(state)を決定するためのアッセイを指す。
【0101】
用語「MS AP-PCR」(メチル化感受性任意プライムポリメラーゼ連鎖反応)は、最もCpGジヌクレオチドを含みやすい領域に焦点を合わせるためにCGリッチプライマーを使用するゲノムの全体的なスキャンを可能にする当該分野において認識されている技術を指し、Gonzalgo et al. (1997) Cancer Research 57: 594-599に記述されている。
【0102】
用語「MethyLight(商標)」は、Eads et al. (1999) Cancer Res. 59: 2302-2306に記述されている、当該分野において認識されている蛍光に基づくリアルタイムPCR技術を指す。
【0103】
用語「HeavyMethyl(商標)」は、増幅プライマー間のCpG位置をカバーする、または当該プライマーによってカバーされるメチル化特異的ブロッキングプローブ(本明細書ではブロッカーとしても称される)が、核酸試料のメチル化特異的選択的増幅を可能にするアッセイを指す。
【0104】
用語「HeavyMethyl(商標)MethyLight(商標)」アッセイは、MethyLight(商標)アッセイの変種であるHeavyMethyl(商標)MethyLight(商標)アッセイを指し、当該変種において、MethyLight(商標)アッセイは増幅プライマー間のCpG位置をカバーするメチル化特異的ブロッキングプローブと組み合わせられている。
【0105】
用語「Ms-SNuPE」(メチル化感受性単一ヌクレオチドプライマー伸長)は、Gonzalgo & Jones (1997) Nucleic Acids Res. 25: 2529-2531に記述されている、当該分野において認識されているアッセイを指す。
【0106】
用語「MSP」(メチル化特異的PCR)は、Herman et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 9821-9826および米国特許第5,786,146号に記述されている当該分野において認識されているメチル化アッセイを指す。
【0107】
用語「COBRA」(組み合わせ重硫酸塩制限分析)は、Xiong & Laird (1997) Nucleic Acids Res. 25: 2532-2534に記述されている、当該分野において認識されているメチル化アッセイを指す。
【0108】
用語「MCA」(メチル化されたCpGアイランド増幅)は、Toyota et al. (1999) Cancer Res. 59: 2307-12、および国際公開公報第00/26401A1に記述されているメチル化アッセイを指す。
【0109】
本明細書に使用される際、「選択されたヌクレオチド」は、核酸分子中に典型的に存在する四つのヌクレオチド(DNAの場合C、G、T、およびA、ならびにRNAの場合C、G、U、およびA)の一つのヌクレオチドを指し、典型的に存在するヌクレオチドのメチル化された誘導体を含み得り(例えば、Cが選択されたヌクレオチドであるとき、メチル化されたおよびメチル化されていないCの両方は、選択されたヌクレオチドの意味に含まれる)、一方、メチル化された選択されたヌクレオチドは、特に、メチル化された典型的に存在するヌクレオチドを指し、メチル化されていない選択されたヌクレオチドは、特に、メチル化されていない典型的に存在するヌクレオチドを指す。
【0110】
用語「メチル化特異的制限酵素」または「メチル化感受性制限酵素」は、その認識部位のメチル化状態(state)に依存的な核酸を選択的に消化する酵素を指す。認識部位がメチル化されていないまたはヘミメチル化されている場合に特異的に切断する制限酵素の場合、認識部位がメチル化された場合に切断は行われないまたは有意に減少された効果で行われ得る。認識部位がメチル化されている場合に特異的に切断する制限酵素の場合、認識部位がメチル化されていない場合に切断は行われないまたは有意に減少された効果で行われ得る。好ましくは、メチル化特異的制限酵素、CGジヌクレオチドを含む認識配列(例えばCGCGまたはCCCGGGのような認識配列)である。さらに好ましいいくつかの実施形態は、上記ジヌクレオチド中のシトシンが炭素原子C5でメチル化される場合に切断しない制限酵素である。
【0111】
本明細書に使用される際、「異なるヌクレオチド」は、選択されたヌクレオチドと化学的に異なるヌクレオチドを指し、典型的には異なるヌクレオチドが、選択されたヌクレオチドとは異なるワトソン-クリック塩基対形成特性を有し、そのために、選択されたヌクレオチドと相補的である典型的に存在するヌクレオチドは、異なるヌクレオチドと相補的である典型的に存在するヌクレオチドと同一ではない。例えば、Cが選択されたヌクレオチドであるとき、UまたはTは異なるヌクレオチドであってよく、CのGに対する相補性およびUまたはTのAに対する相補性により例示される。本明細書に使用される際、選択されたヌクレオチドに相補的な、または異なるヌクレオチドに相補的なヌクレオチドは、非常に厳しい状況下で、四つの典型的に存在するヌクレオチドの三つとの相補的なヌクレオチドの塩基ペアリング(paring)よりも高い親和性を有する選択されたヌクレオチドまたは異なるヌクレオチドとの塩基対を形成するヌクレオチドを指す。相補性の一例は、DNA(例えば、A-TおよびC-G)およびRNA(例えば、A-UおよびC-G)におけるワトソン-クリック塩基対形成である。したがって、例えば、非常に厳しい状況下で、Gは、G、A、またはTと塩基対を形成するよりも、Cとより高い親和性で塩基対を形成するため、Cが選択ヌクレオチドであるとき、Gは選択されたヌクレオチドに相補的なヌクレオチドである。
【0112】
本明細書に使用される際、所定のマーカーの「感度」は、新生物の試料および新生物でない試料の区別をする閾値より上のDNAメチル化値を報告する試料の割合を指す。いくつかの実施形態において、陽性は、閾値より上のDNAメチル化値(例えば、疾患に関連する範囲)を報告する組織で確認された新生物として定義され、偽陰性は、閾値より下のDNAメチル化値(例えば、非疾患に関連する範囲)を報告する組織で確認された新生物として定義される。感度の値は、それゆえ、既知の疾患試料から得られた所定のマーカーのDNAメチル化測定値が測定値に関連する疾患の範囲内であり得る確率を反映する。本明細書で定義されるように、算出された感度の値の臨床的な関連性は、症状のある被検体に用いるとき、所定のマーカーが臨床症状の存在を検出し得る確率の推定を表す。
【0113】
本明細書に使用される際、所定のマーカーの「特異性」は、新生物の試料および新生物でない試料の区別をする閾値より下のDNAメチル化値を報告する新生物でない試料の割合を指す。いくつかの実施形態において、陰性は、閾値より下のDNAメチル化値(例えば、非疾患に関連する範囲)を報告する組織で確認された新生物でない試料として定義され、偽陽性は、閾値より上のDNAメチル化値(例えば、疾患に関連する範囲)を報告する組織で確認された新生物でない試料として定義される。特異性の値は、それゆえ、既知の新生物でない試料から得られた所定のマーカーのDNAメチル化測定値が測定値に関連する非疾患の範囲内であり得る確率を反映する。本明細書で定義されるように、算出された特異性の値の臨床的な関連性は、症状のない患者に用いるとき、所定のマーカーが臨床症状がないことを検出し得る確率の推定を表す。
【0114】
用語「AUC」は、本明細書に使用される際、「曲線下面積」の略語である。特に、AUCは、受信者動作特性(ROC)曲線の下の面積を指す。ROC曲線は、診断テストの異なる可能なカットポイントの偽陽性率に対する真陽性率のプロットである。ROC曲線は、選択されたカットポイントに依存する感度と特異性との間のトレードオフを示す(感度における任意の増加は、特異性における減少により付随され得る)。ROC曲線下面積(AUC)は、診断テストの精度の基準である(より大きい面積であるほどよりよい;最高は1;ランダムテストは0.5の面積を有する対角線に横たわるROC曲線を有し得る;参照:J. P. Egan. (1975) Signal Detection Theory and ROC Analysis, Academic Press, New York)。
【0115】
本明細書に使用される際、用語「新生物」は、「組織の異常な塊、度を超え、正常な組織の成長と調和していない成長」を指す。例えば、Willis RA, "The Spread of Tumors in the Human Body", London, Butterworth & Co, 1952を参照されたい。
【0116】
本明細書に使用される際、用語「腺腫」は、腺起源の良性腫瘍を指す。これらの成長は良性であるが、時間とともに、悪性に進行する可能性がある。
【0117】
用語「がん発生前の」または「新生物発生前の」およびそれらの同義語は、悪性の形質転換を受けている任意の細胞増殖疾患を指す。
【0118】
新生物、腺腫、がん等の「部位」または「領域」とは、新生物、腺腫、がん等が位置する被検体の身体における、組織、器官、細胞型、解剖学的構造上の領域、身体の一部等である。
【0119】
本明細書に使用される際、「診断」テスト方法は、被検体が所定の疾患または症状に感染する可能性を決定し、疾患または症状のある被検体が治療に反応する可能性を決定し、疾患または症状のある被検体の予後を決定し(または起こり得る進行または退行)、疾患または症状のある被検体の治療の効果を決定する、被検体の疾患状態(state)または症状の検出または同定を含む。例えば、診断は、新生物に感染している被検体の存在または可能性、もしくはそのような被検体が化合物(例えば、医薬化合物、例えば薬物)または他の治療に好適に反応する可能性の検出に用いることができる。
【0120】
用語「マーカー」は、本明細書に使用される際、例えば、そのメチル化状態(state)に基づいて、疾病に関連する細胞(例えば、疾病に関連する非がん性細胞)(例えば、疾病に関連するがん性細胞)と正常な細胞とを区別することにより、疾病(例えば、非がん性疾病)(例えば、がん性疾病)を診断することができる物質(例えば、核酸または核酸の領域)を指す。
【0121】
用語「単離された」は、「単離されたオリゴヌクレオチド」のように、核酸に関連して使用される場合、同定され、かつその天然の供給源において通常それと会合している少なくとも一つの夾雑核酸から分離された核酸配列を指す。単離された核酸は、それが天然に認められるものとは異なる形または状況で存在する。対照的に、DNAおよびRNAなどの単離されない核酸は、天然に存在する状態で認められる。単離されない核酸の例としては、隣接遺伝子に近接して宿主細胞染色体上に認められる所定のDNA配列(例えば遺伝子)、および、多数のタンパク質をコードする多くの他のmRNAとの混合物として細胞内に認められる、特定のタンパク質をコードする特定のmRNA配列などのRNA配列が挙げられる。しかし、特定のタンパク質をコードする単離された核酸は、例として、核酸が天然の細胞のそれとは異なる染色体位置にあるか、またはそうでなければ天然に認められるものとは異なる核酸配列が側方に位置しているような、タンパク質を通常発現する細胞内の核酸を含む。単離された核酸またはオリゴヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖の形態で存在することができる。単離された核酸またはオリゴヌクレオチドが、タンパク質を発現させるために利用される場合、オリゴヌクレオチドは最小のセンス鎖またはコード鎖を含む(すなわちオリゴヌクレオチドは一本鎖である)が、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含んでもよい(すなわちオリゴヌクレオチドは二本鎖であってもよい)。単離された核酸は、その天然のまたは典型的な環境から単離された後、他の核酸または分子と組み合わせてもよい。例えば、単離された核酸は、例えば異種間発現のために置かれた宿主細胞に存在してもよい。
【0122】
用語「精製された」は、天然の環境から除去された、単離された、または分離された核酸またはアミノ酸配列のどちらかの分子を指す。「単離された核酸配列」は、それゆえ、精製された核酸配列であってよい。「実質的に精製された」分子は、それらが天然に関連する他の成分から少なくとも60%フリーであり、好ましくは少なくとも75%フリーであり、より好ましくは少なくとも90%フリーである。本明細書に使用される際、用語「精製された」または「精製する」はまた、試料から夾雑物を除去することを指す。夾雑タンパク質を除去することにより、試料中の対象のポリペプチドまたは核酸の割合が高くなる。他の例において、組み換えポリペプチドは、植物、バクテリア、酵母、または哺乳類の宿主細胞中で発現され、ポリペプチドは、宿主細胞タンパク質の除去により精製され、したがって、試料中の組み換えポリペプチドの割合は高くなる。
【0123】
所定のポリヌクレオチド配列またはポリペプチド「を含む組成物」という用語は、所定のポリヌクレオチド配列またはポリペプチドを含む任意の組成物を広く指す。組成物は、塩(例えばNaCl)、界面活性剤(例えばSDS)、および他の成分(例えばデンハルト液、乾燥ミルク、サケ精子DNA等)を含む水性溶液を含んでいてもよい。
【0124】
用語「試料」は、その最も広い意味で使用される。ある意味において、動物細胞または組織を指してもよい。他の意味において、生物学的および環境的試料だけでなく、任意の源から得られた検体または培養物を含むことを意味する。生体試料は、植物または動物(ヒトを含む)から得られ、流体、固体、組織、および気体を包含し得る。環境的試料は、表面物質、土壌、水、および産業試料のような環境的物質を含む。これらの例は、本発明に適用可能な試料タイプを限定するものとして解釈されるべきではない。
【0125】
本明細書に使用される際、「かけ離れた試料」は、いくつかの文脈において使用される際、試料の細胞、組織、または臓器の源でない部位から間接的に回収された試料を指す。例えば、膵臓を起源とする試料物質が便試料中で評価される場合(例えば、膵臓から直接的に採取された試料由来でない場合)、当該試料はかけ離れた試料である。
【0126】
本明細書に使用される際、用語「患者」または「被検体」は、技術により与えられた種々のテストを受ける生物を指す。用語「被検体」は、動物を含み、好ましくはヒトを含む哺乳類動物を含む。好ましい実施形態において、被検体は霊長類の動物である。さらにより好ましい実施形態において、被検体はヒトである。
【0127】
本明細書に使用される際、用語「キット」とは、材料を送達するための任意の送達システムを指す。反応アッセイの関連において、このような送達システムには、反応試薬(例えば、適切な容器に入ったオリゴヌクレオチド、酵素等)および/または支持材料(例えば、緩衝液、アッセイを行うための説明書類等)の保管、輸送、もしくは一つの位置からもう一つの位置までの送達を可能にする、システムが含まれる。例えば、キットには、関連する反応試薬および/または支持材料を含有する一つ以上の容器(例えば、箱)が含まれる。本明細書に使用される際、用語「細分化キット」は、二つ以上の別個の容器であって、それぞれが、全キット構成要素の一部を含む、二つ以上の別個の容器を含む送達システムを指す。容器は、一緒または別個に、意図される受容者に送達することができる。例えば、第1の容器は、アッセイで使用するための酵素を含み得り、一方で第2の容器は、オリゴヌクレオチドを含む。用語「細分化キット」は、連邦食品衣料品化粧品法(Federal Food,Drug,and Cosmetic Act)の第520条(e)項により規制される、検体特異的試薬(ASR)を含むキットを包含するように意図するが、それらに限定されない。実際には、二つ以上の別個の容器であって、それぞれが全キット構成要素の一部分を含む、二つ以上の別個の容器を含むいずれの送達システムも、用語「細分化キット」に含まれる。対照的に、「複合キット」は、反応アッセイの全ての構成要素を単一の容器(例えば、所望される構成要素のそれぞれを収容する単一の箱内)に含む、送達システムを指す。用語「キット」は、細分化および複合両方のキットが含まれる。
【0128】
〔本技術の実施形態〕
膵臓がんは、本来的に成長の速い悪性腫瘍であり、必然的に高い死亡率を伴うという従来の見方とは対照的に、分子的な開始から、前がんへの発達、がんへの発展、および転移へと進行するのに、平均で20年かかる可能性があり(Yachida, S., et al., Nature, 2010. 467(7319): p. 1114-1117参照)、結腸直腸新生物の成長率および自然歴とよく似ている(Stryker, S.J., et al., Gastroenterology, 1987. 93(5): p. 1009-13;Bozic, I., et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2010. 107(43): p. 18545-50参照)ということが、最近の計算モデルによって示唆されており。前がんステージおよびがんの初期ステージT1における症候前の長い滞留時間によって、実際には、スクリーン検出が可能な限られた機会を比較的長くできる可能性がある。
【0129】
膵臓におけるがん前駆体病変は、組織学的に詳細に記載されている(Zamboni, G., et al., Clinical gastroenterology, 2013. 27(2): p. 299-322参照)。これらの病変は非常に一般的であり、一般集団において13%~25%起こり、潜在的に膵臓がん防止に繋がり得るスクリーニングの標的を提供する。しかしながら、現在、それらの検出は偶発的なものであり、それらの管理も問題を抱えている。それらが症状を引き起こすことはまれであり、現在検出されているものも主に偶然の発見によるものである。最も流布している種類である膵上皮内腫瘍(PanIN)は、撮像による検出が困難であり、多くは組織学的に発見される。撮像によって検出可能な前がんは典型的に嚢胞性の前がんであり、通常は無害の漿液性嚢胞腺腫、中程度の進行リスクを有する膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、および悪性である潜在性の高い粘液性嚢胞腫瘍が挙げられる(Morris-Stiff, G., et al., HPB : the official journal of the International Hepato Pancreato Biliary Association, 2013. 15(3): p. 175-81参照)。ほとんどの前がんは進行せず、リスク予測に利用可能なアプローチは不完全である。X線撮影した構造的特徴、細胞学的サンプリング、または分子的なテストに基づく現在使用されている採点システムは、組織像の正確な予測ができない(Correa-Gallego, C., et al., Pancreatology : official journal of the International Association of Pancreatology, 2010. 10(2-3): p. 144-50参照)。その結果、膵切除を必要とする多くの病変が、非腫瘍性であるかまたは高度異形成を含んでいないことが判明している(Correa-Gallego, C., et al., Pancreatology : official journal of the International Association of Pancreatology, 2010. 10(2-3): p. 144-50参照)。
【0130】
膵臓がん進行のゆっくりとした自然歴によって、治癒可能な膵臓新生物の検出のための十分な機会が与えられる。革新的な挑戦としては、高い臨床的感度と切除に最も適した高度異形成を有する前がんを正確に区別する能力とを備えた非侵襲的または最小限に侵襲的なツールを開発することにある。
【0131】
本発明の実施形態を発展させる中で行った実験では、IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDACを患う被検体の膵臓組織由来のDNAマーカーのメチル化状態(state)を、コントロール被検体(例えば、それぞれ組織タイプで、IPMN-低度異形成(IPMN-LGD)、PanIN-1、およびPanIN-2を有する被検体)由来の同じDNAマーカーのメチル化状態(state)を比較した。そのような実験によって、正常な膵臓または低度前駆体病変(IPMN-低度異形成(IPMN-LGD)、PanIN-1、およびPanIN-2)のいずれかを有するコントロールグループから高度前駆体(IPMN-HGD、PanIN-3)または浸潤がん(PDAC)を有する患者グループを区別するメチル化されたDNAマーカー候補を同定および確認した(実施例1、2、4、および5参照)。
【0132】
したがって、本明細書に示す技術は、高度膵異形成スクリーニング(例えば、調査)用の技術であり、特に、被検体における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の存在の検出のための方法、組成物、およびそれらに関連する使用に向けたものであるが、これらに限らない。
【0133】
高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を検出可能なマーカーおよび/またはマーカーのパネル(例えば、表2および表6に示すアノテーションを有する染色体領域)を同定した(実施例1、2、4、および5参照)(BMP3、NDRG4、ABCB1、AK055957、C13ORF18、CD1D、CLEC11A、DLX4、ELMO1、EMX1、FER1L4、FRMD4A、GRIN2D、HOXA1、LRRC4、PRKCB、SP9、ST6GAL2、ST8SIA1、TBX15、VWC2、およびZNF781)。
【0134】
本明細書における開示は、特定の例示された実施形態を言及しているが、これらの実施形態は一例として示されたものであり、限定として示されたものでないことが理解されるべきである。
【0135】
上記方法は、被検体から単離された生体試料における少なくとも一つのメチル化マーカーのメチル化状態(status)を決定することを含み、上記マーカーのメチル化状態(state)の変化は、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の存在または種類を示す。特定の実施形態は、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の診断(例えば、スクリーニング)に使用される可変メチル化領域(DMR、例えば、(表2および表6に示す)DMR1~96またはDMR1、21、24、25、26、55、70、77、81、84、92、95および96)を含むマーカーに関する。
【0136】
本明細書に記載され表2および表6に示すDMR(例えば、DMR1~96またはDMR1、21、24、25、26、55、70、77、81、84、92、95および96)を含む少なくとも一つのマーカー、マーカーの領域、またはマーカーの塩基のメチル化分析が行われる実施形態に加えて、上記技術は、被検体における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を検出するために有用なDMRを含む少なくとも一つのマーカー、マーカーの領域、またはマーカーの塩基を含むマーカーのパネルも提供する。
【0137】
上記技術のいくつかの実施形態は、DMRを含む少なくとも一つのマーカー、マーカーの領域、またはマーカーの塩基のCpGメチル化状態(status)の分析に基づいている。
【0138】
いくつかの実施形態において、本願技術は、DMR(例えば、表2および表6に示すDMR(例えば、DMR1~96))を含む少なくとも一つのマーカー内のCpGジヌクレオチド配列のメチル化状態(status)を決定する一つ以上のメチル化アッセイを組み合わせた重亜硫酸塩技術の使用を提供する。ゲノムのCpGジヌクレオチドはメチル化されていてもよく、メチル化されていなくてもよい(または、それぞれ上方および下方メチル化として知られている)。しかしながら、本発明の方法は、異質の生体試料(例えば、かけ離れた試料(例えば、血液、臓器からの流出液(organ effluent)、または便)のバックグラウンド中の低濃度の腫瘍細胞またはそれから得られる生体物質)の分析に適している。したがって、そのような試料中のCpG位置のメチル化状態(status)を分析する場合、当業者は、特定のCpG位置のメチル化のレベル(例えば、パーセンテージ、分率、比率、割合、または程度)を決定するための定量的アッセイを使用してもよい。
【0139】
本願技術によれば、DMRを含むマーカーにおけるCpGジヌクレオチド配列のメチル化状態(status)を決定することは、被検体における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の診断および特徴づけの両方に有用である。
【0140】
〔マーカーの組み合わせ〕
いくつかの実施形態において、上記技術は、表2および表6に示す二つ以上のDMR(例えば、DMR番号1~96の内の二つ以上のDMR)を含むマーカーの組み合わせのメチル化状態(state)を評価することに関する。いくつかの実施形態において、二つ以上のマーカーのメチル化状態(state)を評価することで、被検体における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の存在を同定するためのスクリーニングまたは診断の特異性および/または感度が増大する。
【0141】
種々のがんがマーカーの種々の組み合わせによって予測される(例えば、予測の特異性および感度に関する統計学的な技術によって同定される)。本技術は、いくつかのがんの予測的な組み合わせおよび確認された予測的な組み合わせを同定する方法を提供する。
【0142】
いくつかの実施形態において、マーカー(例えば、DMRを含むマーカー)の組み合わせによって、新生物の部位を予測する。
【0143】
例えば、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を検出可能なマーカーおよび/またはマーカーのパネル(例えば、表2および表6に示すアノテーションを有する染色体領域)を同定した(実施例1、2、4、および5参照)(BMP3、NDRG4、ABCB1、AK055957、C13ORF18、CD1D、CLEC11A、DLX4、ELMO1、EMX1、FER1L4、FRMD4A、GRIN2D、HOXA1、LRRC4、PRKCB、SP9、ST6GAL2、ST8SIA1、TBX15、VWC2、およびZNF781)。
【0144】
〔メチル化状態(state)を評価する方法〕
5-メチルシトシンの存在のために核酸を分析する最も頻繁に使用されている方法は、Frommer et al.に記載のDNAにおける5-メチルシトシンを検出するための重亜硫酸塩方法(Frommer et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1827-31)またはその変形に基づく。5-メチルシトシンをマップする重亜硫酸塩方法は、5-メチルシトシンではなくシトシンと亜硫酸水素塩イオン(重亜硫酸塩としても知られる)との反応を観察することに基づく。当該反応は、通常、下記のステップにしたがって実施される:まず、シトシンと亜硫酸水素塩とを反応させてスルホン化シトシンを形成する。次に、スルホン化反応中間物の自発的脱アミノ反応によって、スルホン化ウラシルを得る。最後に、スルホン化ウラシル(uricil)をアルカリ状態下で脱スルホン化することによって、ウラシルを形成する。ウラシルはアデニンと共に塩基対を形成する(これにより、チミンのように作用する)一方、5-メチルシトシンはグアニンと塩基対を形成する(これにより、シトシンのように作用する)ので、検出が可能となる。これにより、例えば、重亜硫酸塩ゲノムシークエンシング(Grigg G, & Clark S, Bioessays (1994) 16: 431-36;Grigg G, DNA Seq. (1996) 6: 189-98)または、例えば、米国特許第5,786,146号に開示されるようなメチル化特異的PCR(MSP)によって、メチル化されたシトシンとメチル化されていないシトシンとの区別が可能になる。
【0145】
いくつかの従来の技術は、分析するためのDNAをアガロース基質中に囲うことを含む方法に関係し、それにより、DNAの拡散および復元を防ぎ(重亜硫酸塩は一本鎖DNAとのみ反応する)、早い透析で沈降および精製ステップに取って代わる(Olek A, et al. (1996) "A modified and improved method for bisulfite based cytosine methylation analysis" Nucleic Acids Res. 24: 5064-6)。したがって、方法の有用性および感度を示す、メチル化状態(status)の個々の細胞を分析することが可能である。5-メチルシトシンを検出するための従来の方法の概要は、Rein, T., et al. (1998) Nucleic Acids Res. 26: 2255により与えられる。
【0146】
重亜硫酸塩の技術は、典型的に、個々のシトシンの位置を分析するために、重亜硫酸塩処理後の既知の核酸の短い特定のフラグメントを増幅すること、それから配列決定により産物を分析すること(Olek & Walter (1997) Nat. Genet. 17: 275-6)、またはプライマー伸長反応(Gonzalgo & Jones (1997) Nucleic Acids Res. 25: 2529-31;国際公開公報第95/00669号;米国特許第6,251,594号)を含む。いくつかの方法は、酵素消化を用いる(Xiong & Laird (1997) Nucleic Acids Res. 25: 2532-4)。ハイブリッド形成による検出はまた、当技術分野において説明されている(Olek et al.,国際公開公報第99/28498号)。さらに、個々の遺伝子に関するメチル化検出のための重亜硫酸塩の技術の使用が説明されている(Grigg & Clark (1994) Bioessays 16: 431-6,;Zeschnigk et al. (1997) Hum Mol Genet. 6: 387-95;Feil et al. (1994) Nucleic Acids Res. 22: 695;Martin et al. (1995) Gene 157: 261-4;国際公開公報第9746705号;国際公開公報第9515373号)。
【0147】
様々なメチル化アッセイ方法は、当技術分野において知られており、本願技術による重亜硫酸塩処理と組み合わせて使用できる。これらのアッセイにより、核酸配列内の一つまたは複数のCpGジヌクレオチド(例えばCpGアイランド)のメチル化状態(state)を判定できる。そのような分析は、他の技術中、重亜硫酸塩処理された核酸の配列決定、PCR(配列特異的増幅用)、サザンブロット分析、およびメチル化感受性制限酵素の使用を含む。
【0148】
例えば、ゲノムシークエンシングは、メチル化パターンおよび5-メチルシトシンの分布を重亜硫酸塩処理を用いて分析するために簡易化されている(Frommer et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1827-1831)。さらに、重亜硫酸塩変換されたDNAから増幅されたPCR産物の制限酵素消化は、例えば、Sadri & Hornsby (1997) Nucl. Acids Res. 24: 5058-5059により説明されるように、またはCOBRA(組み合わせ重硫酸塩制限分析)(Xiong & Laird (1997) Nucleic Acids Res. 25: 2532-2534)として知られる方法において実施されるように、メチル化状態(state)を評価において使用されている。
【0149】
COBRA(商標)分析は、少量のゲノムDNA中の特定の遺伝子座でのDNAメチル化レベルを決定するのに有用な定量的メチル化アッセイである(Xiong & Laird, Nucleic Acids Res. 25:2532-2534, 1997)。要するに、制限酵素消化は、重亜硫酸ナトリウム処理されたDNAのPCR産物中のメチル化依存的な配列の差異を明らかにするために使用される。メチル化依存的な配列の差異は、Frommerら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1827-1831, 1992)により説明される方法による標準の重亜硫酸塩処理によってゲノムDNAにはじめに導入される。重亜硫酸塩変換されたDNAのPCR増幅は、それから対象のCpGアイランドのための特定のプライマーを使用して行われ、続いて制限エンドヌクレアーゼ消化、ゲル電気泳動、および特定のラベル化ハイブリッド形成プローブを用いた検出が行われる。もともとのDNA試料におけるメチル化レベルは、DNAメチル化レベルの広範なスペクトルを横切る線形定量法における消化されたおよび消化されていないPCR産物の相対的な量により表される。さらに、この技術は顕微解剖されたパラフィンが組み込まれた組織試料から得られたDNAに確実に適用できる。
【0150】
COBRA(商標)分析のための典型的な試薬(例えば、典型的なCOBRA(商標)に基づくキットに見られ得るような試薬)は、特定の遺伝子座のためのPCRプライマー(例えば、特定の遺伝子、マーカー、DMR、遺伝子の領域、マーカーの領域、重亜硫酸塩処理されたDNA配列、CpGアイランド等);制限酵素および適切な緩衝液;遺伝子ハイブリット形成オリゴヌクレオチド;コントロールハイブリット形成オリゴヌクレオチド;オリゴヌクレオチドプローブのためのキナーゼラベリングキット;およびラベルされたヌクレオチドを含み得るが、これらに限定されない。さらに、重亜硫酸塩変換試薬は、DNA変性緩衝液、スルホン化緩衝液、DNA回収試薬、またはキット(例えば、沈降、限外ろ過、アフィニティーカラム);脱スルホン化緩衝液;およびDNA回収コンポーネントを含んでいてもよい。
【0151】
好ましくは、「MethyLight(商標)」(蛍光に基づくリアルタイムPCR技術)(Eads et al., Cancer Res. 59:2302-2306, 1999)、Ms-SNuPE(商標)(メチル化感受性単一ヌクレオチドプライマー伸長)反応(Gonzalgo & Jones, Nucleic Acids Res. 25:2529-2531, 1997)、メチル化特異的PCR(「MSP」;Herman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:9821-9826, 1996; 米国特許第5,786,146号)、およびメチル化されたCpGアイランド増幅(「MCA」;Toyota et al., Cancer Res. 59:2307-12, 1999)等のアッセイは、単独または一つ以上のこれらの方法の組み合わせで使用される。
【0152】
「HeavyMethyl(商標)」アッセイ、技術は、重亜硫酸塩処理されたDNAのメチル化特異的増幅に基づいて、メチル化の差異を評価するための定量的方法である。増幅プライマー間のCpG位置をカバーする、または当該プライマーによってカバーされるメチル化特異的ブロッキングプローブ(「ブロッカー」)によって、核酸試料のメチル化特異的選択的増幅が可能となる。
【0153】
用語「HeavyMethyl(商標)MethyLight(商標)」アッセイは、MethyLight(商標)アッセイの変種であるHeavyMethyl(商標)MethyLight(商標)アッセイを指し、当該変種において、MethyLight(商標)アッセイは増幅プライマー間のCpG位置をカバーするメチル化特異的ブロッキングプローブと組み合わせられている。HeavyMethyl(商標)アッセイはまた、メチル化特異的増幅プライマーとの組み合わせにおいて使用されてもよい。
【0154】
HeavyMethyl(商標)分析のための典型的な試薬(例えば、典型的なMethyLight(商標)に基づくキットに見られ得るような試薬)は、特定の遺伝子座(例えば、特定の遺伝子、マーカー、DMR、遺伝子の領域、マーカーの領域、重亜硫酸塩処理されたDNA配列、CpGアイランド、または重亜硫酸塩処理されたDNA配列またはCpGアイランド等)のためのPCRプライマー;オリゴヌクレオチドブロッキング;最適化されたPCR緩衝液およびデオキシヌクレオチド;およびTaqポリメラーゼを含み得るが、これらに限定されない。
【0155】
メチル化感受性制限酵素の使用の影響を受けずに、MSP(メチル化特異的PCR)により、CpGアイランド内のほとんどすべての群のCpG部位のメチル化状態(status)を評価することができる(Herman et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:9821-9826, 1996;米国特許第5,786,146号)。要するに、DNAは、重亜硫酸ナトリウムによって修飾され、メチル化されたシトシンではなくメチル化されていないシトシンをウラシルに変換し、その後、当該産物はメチル化されていないDNAに対して、メチル化されたDNAに特異的なプライマーを用いて増幅される。MSPは少量のDNAのみを必要とし、所定のCpGアイランド遺伝子座の0.1%のメチル化された対立遺伝子に対する感受性を有し、パラフィンが組み込まれた試料から抽出されたDNA上で行うことができる。MSP分析のための典型的な試薬(例えば、典型的なMSPに基づくキットに見られ得るような試薬)は、特定の遺伝子座(例えば、特定の遺伝子、マーカー、DMR、遺伝子の領域、マーカーの領域、重亜硫酸塩処理されたDNA配列、CpGアイランド等)のためのメチル化されたPCRプライマーおよびメチル化されていないPCRプライマー;最適化されたPCR緩衝液およびデオキシヌクレオチド、および特定のプローブを含み得るが、これらに限定されない。
【0156】
MethyLight(商標)アッセイは、PCRステップ後のさらなる操作が必要ない、蛍光に基づくリアルタイムPCR(例えば、TaqMan(登録商標))を利用する高スループット定量メチル化アッセイである(Eads et al., Cancer Res. 59:2302-2306, 1999)。要するに、MethyLight(商標)工程は、標準的な方法によって、重亜硫酸ナトリウム反応において、メチル化依存的な配列の差異を持つ混合プールに変換される、ゲノムDNAの混合試料から始まる(重亜硫酸塩工程は、メチル化されていないシトシン残基をウラシルに変換する)。蛍光に基づくPCRは、それから例えば、既知のCpGジヌクレオチドと一部重なり合うPCRプライマーと共に、「偏った」反応において行われる。配列識別は、増幅工程の段階及び蛍光検出工程の段階の両方で起こる。
【0157】
MethyLight(商標)アッセイは、核酸(例えばゲノムDNA試料)中のメチル化パターンの定量テストとして使用され、配列識別はプローブのハイブリッド形成の段階で起こる。定量版において、PCR反応は、特定の推定上のメチル化部位と一部重なる蛍光プローブの存在下におけるメチル化特異的増幅を提供する。DNAの投入量の偏りのないコントロールは、プライマーもプローブも任意のCpGジヌクレオチドに重ならない反応によって与えられる。また、ゲノムメチル化の定性テストは、既知のメチル化部位をカバーしないコントロールオリゴヌクレオチド(例えば、HeavyMethyl(商標)およびMSP技術の蛍光に基づく版)かまたは潜在的メチル化部位をカバーするオリゴヌクレオチドのいずれかを用いて偏ったPCRプールを探査することにより実現される。
【0158】
MethyLight(商標)工程は、任意の好ましいプローブと共に使用される(例えば「TaqMan(登録商標)」プローブ、Lightcycler(登録商標)プローブ等)。例えば、いくつかの適用において、例えばMSPプライマーおよび/またはHeavyMethylブロッカーオリゴヌクレオチドおよびTaqMan(登録商標)プローブと共に、二本鎖ゲノムDNAが重亜硫酸ナトリウムによって処理され、TaqMan(登録商標)プローブを用いた2セットのPCR反応の内の一つの対象となる。TaqMan(登録商標)プローブは、蛍光「レポーター」および「クエンチャー」分子によって二重にラベル化され、相対的に高いGC成分領域に特異的になるようにデザインされるため、PCRサイクルにおいてフォアワードプライマーまたはリバースプライマーよりも約10℃高い温度で融解する。これにより、TaqMan(登録商標)プローブは、PCRアニーリング/伸長ステップの間、十分にハイブリッド形成された状態を維持することができる。Taqポリメラーゼは、PCRにおいて新しい鎖を酵素的に合成し、最終的にアニールされたTaqMan(登録商標)プローブに達する。Taqポリメラーゼの5’-3’エンドヌクレアーゼ活性は、その後、TaqMan(登録商標)プローブを消化することによってTaqMan(登録商標)プローブに取って代わり、それにより、リアルタイム蛍光検出システムを用いてその時に消光していないそのシグナルを定量的に検出するための蛍光レポーター分子を放出する。
【0159】
MethyLight(商標)分析のための典型的な試薬(例えば、典型的なMethyLight(商標)に基づくキットに見られ得るような試薬)は、特定の遺伝子座のためのPCRプライマー(例えば、特定の遺伝子、マーカー、DMR、遺伝子の領域、マーカーの領域、重亜硫酸塩処理されたDNA配列、CpGアイランド等);TaqMan(登録商標)またはLightcycler(登録商標)プローブ;最適化されたPCR緩衝液およびデオキシヌクレオチド;およびTaqポリメラーゼを含み得るが、これらに限定されない。
【0160】
QM(商標)(定量的メチル化)アッセイは、ゲノムDNA試料中のメチル化パターンの代替定量テストであり、配列識別がプローブハイブリッド形成の段階で起こる。この定量版において、PCR反応は、特定の推定上のメチル化部位と一部重なる蛍光プローブの存在下における偏りのない増幅を提供する。DNAの投入量の偏りのないコントロールは、プライマーもプローブも任意のCpGジヌクレオチドに重ならない反応によって与えられる。また、ゲノムメチル化の定性テストは、既知のメチル化部位をカバーしないコントロールヌクレオチド(HeavyMethyl(商標)およびMSP技術の蛍光に基づく版)かまたは潜在的メチル化部位をカバーするオリゴヌクレオチドのいずれかを用いて偏ったPCRプールを探査することにより実現される。
【0161】
QM(商標)工程は、増幅工程において、任意の好適なプローブ(例えば、「TaqMan(登録商標)」プローブ、Lightcycler(登録商標)プローブ)を使用できる。例えば、二本鎖ゲノムDNAは、重亜硫酸ナトリウムによって処理され、偏りのないプライマーおよびTaqMan(登録商標)プローブに供される。TaqMan(登録商標)プローブは、蛍光「レポーター」および「クエンチャー」分子によって二重にラベル化され、相対的に高いGC成分領域に特異的になるようにデザインされるため、PCRサイクルにおいてフォアワードまたはリバースプライマーよりも約10℃高い温度で融解する。これにより、TaqMan(登録商標)プローブは、PCRアニーリング/伸長ステップの間、十分にハイブリッド形成された状態を維持することができる。Taqポリメラーゼは、PCRにおいて新しい鎖を酵素的に合成し、最終的にアニールされたTaqMan(登録商標)プローブに達する。Taqポリメラーゼ5’-3’エンドヌクレアーゼ活性は、その後、TaqMan(登録商標)プローブを消化することによってTaqMan(登録商標)プローブに取って代わり、それにより、リアルタイム蛍光検出システムを用いてその時に消光していないそのシグナルを定量的に検出するための蛍光レポーター分子を放出する。QM(商標)分析のための典型的な試薬(例えば、典型的なQM(商標)に基づくキットに見られ得るような試薬)は、特定の遺伝子座のためのPCRプライマー(例えば、特定の遺伝子、マーカー、DMR、遺伝子の領域、マーカーの領域、重亜硫酸塩処理されたDNA配列、CpGアイランド等);TaqMan(登録商標)またはLightcycler(登録商標)プローブ;最適化されたPCR緩衝液およびデオキシヌクレオチド;およびTaqポリメラーゼを含み得るが、これらに限定されない。
【0162】
Ms-SNuPE(商標)技術は、DNAの重亜硫酸塩処理およびそれに続く単一のヌクレオチドプライマー伸長に基づく特定のCpG部位でのメチル化差異を評価するための定量的方法である(Gonzalgo & Jones, Nucleic Acids Res. 25:2529-2531, 1997)。要するに、5-メチルシトシンを変化させないまま、ゲノムDNAは、重亜硫酸ナトリウムと反応してメチル化されていないシトシンをウラシルに変換する。その後、所望の標的配列の増幅が重亜硫酸塩変換されたDNAに特異的なPCRプライマーを用いて行われ、その結果得られた産物が単離され、対象のCpG部位でのメチル化分析のための鋳型として使用される。少量のDNAで分析することが可能であり(例えば、顕微解剖された病理部分)、それによってCpG部位でのメチル化状態(status)を判定するための制限酵素の利用を回避する。
【0163】
Ms-SNuPE(商標)分析のための典型的な試薬(例えば、典型的なMs-SNuPE(商標)に基づくキットに見られ得るような試薬)は、特定の遺伝子座のためのPCRプライマー(例えば、特定の遺伝子、マーカー、DMR、遺伝子の領域、マーカーの領域、重亜硫酸塩処理されたDNA配列、CpGアイランド等);最適化されたPCR緩衝液およびデオキシヌクレオチド;ゲル抽出キット;陽性コントロールプライマー;特定の遺伝子座のためのMs-SNuPE(商標)プライマー;(Ms-SNuPE反応のための)反応緩衝液;およびラベルされたヌクレオチドを含み得るが、これらに限定されない。さらに、重亜硫酸塩変換試薬は、DNA変性緩衝液;スルホン化緩衝液;DNA修復試薬、またはキット(例えば、沈降、限外ろ過、アフィニティーカラム);脱スルホン化緩衝液、およびDNA修復コンポーネントを含んでいてもよい。
【0164】
低発現量重亜硫酸塩シークエンシング(RRBS)は、全てのメチル化されていないシトシンをウラシルに変換するための核酸の重亜硫酸塩処理に始まり、続いて(例えば、MspI等のCG配列を含む部位を認識する酵素を用いて)制限酵素消化を行い、アダプターリガンドに結合した後に断片の配列決定を完了する。制限酵素の選択は、分析の間、複数の遺伝子の位置にマップされ得る重複配列の数を減少させつつ、CpG密集領域の断片をエンリッチする。このように、RRBSは、配列決定のための制限断片の一部分を選択することによって(例えば、調製ゲル電気泳動を用いたサイズ選択によって)、核酸試料の複雑さを減少させる。全ゲノム重亜硫酸塩配列決定とは対照的に、制限酵素消化によって産生される全ての断片は、少なくとも一つのCpGジヌクレオチドのDNAメチル化情報を含む。このように、RRBSは、これらの領域における高頻度の制限酵素切断部位によってプロモーター、CpGアイランド、および他のゲノム構成用に試料をエンリッチし、これにより、一つ以上のゲノム遺伝子座のメチル化状態(state)を評価するためのアッセイを提供する。
【0165】
典型的なRRBSのプロトコルは、MspIのような制限酵素で核酸試料を消化するステップ、オーバーハングおよびA鎖付加を満たすステップ、アダプターを連結するステップ、重亜硫酸塩変換ステップ、およびPCRステップを含む。例えば、et al. (2005) "Genome-scale DNA methylation mapping of clinical samples at single-nucleotide resolution" Nat Methods 7: 133-6;Meissner et al. (2005) "Reduced representation bisulfite sequencing for comparative high-resolution DNA methylation analysis" Nucleic Acids Res. 33: 5868-77等を参照されたい。
【0166】
いくつかの実施形態において、定量的対立遺伝子特異的リアルタイム標的およびシグナル増幅(QuARTS)アッセイは、メチル化状態(state)を評価するために使用される。それぞれのQuARTSアッセイ中、最初の反応において増幅(反応1)および標的プローブ切断(反応2);第二の反応においてFRET切断および蛍光シグナル発生(反応3)を含む、三つの反応が連続的に起こる。標的の核酸が特定のプライマーで増幅されるとき、フラップ配列を有する特定の検出プローブは、アンプリコンにゆるく結合する。標的の結合部位の特定の侵入オリゴヌクレオチドの存在によって、検出プローブとフラップ配列との間を切断することによって、フラップ配列を放出する切断が引き起こされる。フラップ配列は、FRETカセットに相当するヘアピンでない部分に相補的である。したがって、フラップ配列はFRETカセット上の侵入オリゴヌクレオチドとして機能し、FRETカセット蛍光物質とクエンチャーとの間の切断をもたらし、それによって蛍光シグナルを発生する。切断反応は、標的毎に複数のプローブを切断することができ、したがって、フラップごとに複数の蛍光物質を放ち、それによって指数関数的なシグナル増幅をもたらす。QuARTSは、異なる色素を有するFRETカセットを用いることによって、単一反応において複数の標的を良好に検出することができる。例えば、Zou et al. (2010) "Sensitive quantification of methylated markers with a novel methylation specific technology" Clin Chem 56: A199;米国特許出願第12/946,737号、第12/946,745号、第12/946,752号および第61/548,639号を参照されたい。
【0167】
用語「重亜硫酸塩試薬」とは、重亜硫酸塩、二亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、またはそれらの組み合わせを含む試薬を指し、本明細書に開示されているように、メチル化されたCpGジヌクレオチド配列およびメチル化されていないCpGジヌクレオチド配列の間を区別するために役立つ。上記処理の方法は、当該技術分野で知られている(例えば、PCT/EP2004/011715)。重亜硫酸塩処理は、n-アルキレングリコールもしくはジエチレングリコールジメチルエーテル(DME)(これらに限定されない)等の変性溶媒の存在下で、またはジオキサンもしくはジオキサン誘導体の存在下で行われることが好ましい。いくつかの実施形態において、変性溶媒は、1%~35%(v/v)の濃度で使用される。いくつかの実施形態において、重亜硫酸塩反応は、クロマン誘導体(例えば、6-ヒドロキシー2,5,7,8,-テトラメチルクロム2-カルボン酸塩またはトリヒドロキシ安息香酸およびそれらの誘導体、例えば、没食子酸)(これらに限定されない)等のスカベンジャーの存在下で行われる(参照:PCT/EP2004/011715)。重亜硫酸塩変換は、好ましくは、30℃~70℃の反応温度で行われ、それにより、反応中の短い時間に温度が85℃を超えて上昇する(参照:PCT/EP2004/011715)。重亜硫酸塩処理されたDNAは、好ましくは定量化の前に精製される。これは、(例えば、Microcon(商標)カラム(Millipore(商標)製)を用いた)限外ろ過(これに限定されない)等の当該技術分野で知られる任意の手段により行われてもよい。精製は、製造者プロトコルを変更したものに従って行われる(例えば、PCT/EP2004/011715を参照されたい)。
【0168】
いくつかの実施形態において、処理されたDNAの断片は、本発明のプライマーオリゴヌクレオチド(例えば、表3および7を参照されたい)および増幅酵素のセットを用いて増幅される。いくつかのDNAセグメントの増幅は、一つおよび同一の反応容器において同時に行うことができる。典型的に、増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて行われる。アンプリコンの長さは典型的に100~2000塩基対である。
【0169】
方法の他の実施形態において、DMR(例えば、DMR1-96;表2および6)を含むマーカー内または当該マーカーに近いCpG位置のメチル化状態(status)は、メチル化特異的プライマーオリゴヌクレオチドの使用によって検出され得る。この技術(MSP)は、米国特許第6,265,171号Hermanに記載されている。重亜硫酸塩処理されたDNAの増幅のためのメチル化状態(status)特異的プライマーの使用によって、メチル化された核酸およびメチル化されていない核酸の間の区別が可能になる。MSPプライマー対は、重亜硫酸塩処理されたCpGジヌクレオチドにハイブリッド形成する少なくとも一つのプライマーを含む。それゆえ、上記プライマーの配列は、少なくとも一つのCpGジヌクレオチドを含む。メチル化されていないDNAに特異的なMSPプライマーは、CpGにおいてC位の位置に「T」を含む。
【0170】
増幅によって得られた断片は、直接的にまたは間接的に検出可能なラベルを運ぶことができる。いくつかの実施形態において、ラベルは、質量分析計において検出できる典型的な質量を有する蛍光ラベル、放射性核種、または分離可能な分子断片である。上記ラベルが質量ラベルである場合、いくつかの実施形態ではラベル化されたアンプリコンが単一の正または負の実効電荷を有し、それにより、質量分析計における検出性(delectability)をよりよくすることができる。検出は、例えば、マトリックス支援レーザー脱離・イオン化質量分析(MALDI)または電子スプレー質量分析(ESI)を使用することによって行い、可視化してもよい。
【0171】
これらのアッセイ技術に好適なDNAを単離するための方法は、当該技術分野において知られている。特に、いくつかの実施形態は、米国特許出願第13/470,251号("Isolation of Nucleic Acids")に記載されているような核酸の単離を含む。
【0172】
〔方法〕
上記技術のいくつかの実施形態において、以下のステップを含む方法を提供する。
【0173】
1)被検体から得られた核酸(例えば、ゲノムDNA(例えば、便試料、血液試料、または組織試料(例えば、膵臓組織)等の体液から単離されたゲノムDNA))をDMR(例えば、(表2および表6に示す)DMR1~96またはDMR1、21、24、25、26、55、70、77、81、84、および92、95、および96)を含む少なくとも一つのマーカー内のメチル化されたCpGジヌクレオチドとメチル化されていないCpGジヌクレオチドとを区別する少なくとも一つの試薬または一連の試薬に接触させること、
2)高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)(例えば、80%以上の感度および80%以上の特異性を有する高度膵異形成)の欠如を検出すること。
【0174】
上記技術のいくつかの実施形態において、以下のステップを含む方法を提供する。
【0175】
1)被検体から得られた核酸(例えば、ゲノムDNA(例えば、便試料、血液試料、または組織試料(例えば、膵臓組織)等の体液から単離されたゲノムDNA))をDMR(例えば、(表2および表6に示す)DMR1~96またはDMR1、21、24、25、26、55、70、77、81、84、および92、95、および96)を含む少なくとも一つのマーカー内のメチル化されたCpGジヌクレオチドとメチル化されていないCpGジヌクレオチドとを区別する少なくとも一つの試薬または一連の試薬に接触させること、
2)高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)(例えば、80%以上の感度および80%以上の特異性を有する高度膵異形成)を分類すること。
【0176】
好ましくは、上記感度は約70%~約100%、または約80%~約90%、または約80%~約85%である。好ましくは、特異性は70%~約100%、または約80%~約90%、または約80%から約85%である。
【0177】
ゲノムDNAは市販のキットの使用を含むいかなる手段によっても単離され得る。要するに、所望の上記DNAを、細胞膜により被包し、生体試料は酵素的、化学的または機械的な手段によって破砕および溶解しなければならない。続いて、タンパク質および他の夾雑物を、例えば、プロテアーゼKを用いた消化によってDNA溶液から除去してもよい。続いて、ゲノムDNAを、溶液から回収した。これは、塩析、有機抽出、固相支持体へのDNAの結合を含む様々な方法によって行うことができる。方法の選択は、時間、費用、およびDNAの必要量を含むいくつかの因子に影響される。新生物性物質または前新生物性物質を含む、全ての種類の臨床試料が本願の方法において好適に用いられる(例えば、細胞株、組織学的スライド、生検材料、パラフィンが組み込まれた組織、体液、便、結腸流出物、尿、血漿、血清、全血、単離された血液細胞、血液から単離された細胞およびそれら組み合わせ)。
【0178】
いくつかの実施形態において、上記試料は膵臓組織および/または膵液を含む。
【0179】
上記技術は、試料の準備やテスト用の核酸の準備に用いられる方法に限定されない。例えば、いくつかの実施形態において、直接的遺伝子捕捉(例えば、米国特許出願第61/485386号に詳述)または関連する方法を使用して、DNAは便試料、または血液、または血漿試料から単離される。
【0180】
続けて、DMR(例えば、DMR1-96、例えば、表2および6に示す)を含む少なくとも一つのマーカーの中の、メチル化されたCpGジヌクレオチドとメチル化されていないCpGジヌクレオチドとを区別する少なくとも一つの試薬または一連の試薬を用いてゲノムDNA試料を処理する。
【0181】
いくつかの実施形態では、試薬は、5’位においてメチル化されていないシトシン塩基をハイブリッド形成作用によりウラシル、チミン、またはシトシンとは非同類の他の塩基に変換する。しかし、いくつかの実施形態において、試薬はメチル化感受性制限酵素であってもよい。
【0182】
いくつかの実施形態において、5’位においてメチル化されていないシトシン塩基をハイブリッド形成作用によりウラシル、チミン、もしくはシトシンとは非同類の他の塩基に変換するような方法で、ゲノムDNA試料が処理される。いくつかの実施形態では、この処理は、重硫酸塩(亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩)による処理およびそれに続くアルカリ加水分解によって行われる。
【0183】
続いて、処理された核酸は、標的遺伝子配列(少なくとも一つの遺伝子、ゲノム配列、またはDMR(例えば、表2および6に示すようなDMR1-96から選択された少なくとも一つのDMR)を含むマーカー由来のヌクレオチド)のメチル化状態(state)を判定するために分析される。分析方法は、本明細書において挙げた方法(例えば、本明細書に記載のQuARTSおよびMSP)を含む、当該技術分野で知られている方法の中から選択してもよい。
【0184】
上記技術は、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)に関連する任意の試料の分析に関する。例えば、いくつかの実施形態において、上記試料は、患者から得られた組織および/または生体液を含む。いくつかの実施形態において、上記試料は結腸直腸組織を含む。いくつかの実施形態において、上記試料は分泌物を含む。いくつかの実施形態において、上記試料は、血液、血清、血漿、分泌胃液、膵液、胃腸生検試料、食道生検から得られた顕微解剖細胞、胃腸の内腔に抜け落ちた食道細胞、および/または便から回収した食道細胞を含む。いくつかの実施形態において、被検体はヒトである。これらの試料は、上方胃腸管または下方胃腸管に由来するか、または上方胃腸管および下方胃腸管の両方からの細胞組織および/または分泌物を含んでもよい。上記試料は、肝臓、胆管、膵臓、胃、結腸、直腸、食道、小腸、虫垂、十二指腸、ポリープ、胆嚢、肛門、および/または腹膜から得られた細胞、分泌物、または組織を含んでもよい。いくつかの実施形態において、上記試料は、細胞液、腹水、尿、糞便、膵液、内視鏡検査中に得られた液体、血液、粘液、または唾液を含む。いくつかの実施形態において、試料は便試料である。
【0185】
そのような試料は、当業者にとって明らかであるような、当該技術分野で知られた任意の数の手段によって得ることができる。例えば、尿試料および糞便試料は容易に獲得可能である一方、血液試料、腹水試料、血清試料、または膵液試料は、例えば、針および注射器を用いて非経口的に得ることができる。遠心分離および濾過を含む(がこれらに限定されない)当業者に知られた種々の技術を試料に施すことによって、細胞を含まない試料または実質的に細胞を含まない試料を得ることができる。試料の獲得には侵襲的でない技術を用いることが概して好ましいが、組織ホモジェネート、組織切片、および生検検体等の試料を得ることもまた好ましい。
【0186】
上記技術のいくつかの実施形態において、被検体における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を診断する方法が提供される。用語「診断すること」および「診断」は、本明細書に使用されるとき、対象が所定の疾患もしくは症状にあるか否か、または将来的に所定の疾患もしくは症状に進行し得るか否かを、当業者が、推定し、さらに判定し得る方法を指す。当業者は、診断の一つ以上の指標(例えば、生体マーカー(例えば、本明細書に開示されているようなDMR)、症状の存在、重篤度もしくは非存在を表わすメチル化状態など)に基づいて、診断をしばしば下す。
【0187】
診断と共に、がんの臨床予後(例えば、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の予後)は、最も効果的な療法を計画するために、がんの攻撃性を判定し、腫瘍再発の可能性を判定することに関連する。より正確な予後がなされるか、またはがんを進行させる見込みのあるリスクが評価され得る場合、適切な治療法、およびいくつかの場合において患者にとってより厳しくない治療法が、選択され得る。がんの生体マーカーの判定(例えば、メチル化状態の決定)は、予後が良好であるおよび/またはがん進行のリスクが低い対象(治療を要しないか、限定的な治療を要する対象)を、がんが進行する可能性が高いか、またはがんが再発する可能性が高い対象(より集中的な処置による効果が見込まれる対象)と分けるために有用である。
【0188】
このように、「診断すること」または「診断」はさらに、本明細書において使用されるとき、がんの進行のリスクを判定すること、または予後を判定することを含んでいる。これにより、本明細書に記載の診断用生体マーカー(例えば、DMR)の測定に基づく、(医療によるまたは医療によらない)臨床的成果の予測、適切な治療の(もしくは効果が見込まれる治療かどうかの)選択、または現在の治療の経過観察と場合によっては治療の変更が可能となる。さらに、本願に開示した発明特定事項のいくつかの実施形態において、長期にわたる生体マーカーの複合的な判定によって、診断および/または予後が容易になり得る。生体マーカーの時間的変化は、臨床結果の予測、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の進行の観察、および/またはがんに対する適切な治療の有効性の観察に使用することができる。そのような実施形態において、例えば、効果的な治療の経過の間、生体試料中の本明細書に記載の一つ以上の生体マーカー(例えば、DMR)(および、観察される場合には、一つ以上の別の生体マーカー)のメチル化状態の変化を予測し得る。
【0189】
本願に開示する発明特定事項はさらに、いくつかの実施形態において、被検体における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の予防または治療を開始するまたは継続するか否かを決定する方法を提供する。いくつかの実施形態において、上記方法は、上記被検体から一連の生体試料を所定の期間にわたって提供すること、上記一連の生体試料を分析することで上記生体試料のそれぞれにおける本明細書に記載の少なくとも一つの生体マーカーのメチル化状態(state)を決定すること、および上記生体試料のそれぞれにおける上記一つ以上の生体マーカーの上記メチル化状態(state)の測定可能な変化を比較すること、を含む。所定の期間にわたる生体マーカーのメチル化状態(state)のあらゆる変化は、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の進行リスクの予測、臨床結果の予測、がんの予防または治療を開始するまたは継続するか否かの決定、および現在の療法が高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を効果的に治療しているか否かの判定に使用することができる。例えば、第一の時点を治療の開始前から選択し、第二の時点を治療の開始後の任意の時間から選択してもよい。メチル化状態は、異なる時点に採取され、顕著な質的および/または定量的差異を有する試料のそれぞれにおいて測定することができる。異なる試料からの生体マーカーレベルのメチル化状態(state)の変化は、リスク(例えば、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の進行リスク)、予後、治療の有効性の決定、および/または被検体における不調の進行と相関的に関連し得る。
【0190】
好ましい実施形態において、本発明の方法および組成物は、早期(例えば、疾患の症状が現れる前)に疾患を治療または診断するための方法および組成物である。いくつかの実施形態において、本発明の方法および組成物は、臨床病期の疾患を治療または診断するための方法および組成物である。
【0191】
記載した通り、いくつかの実施形態において、診断または予後のための一つ以上の生体マーカーを複数判定してもよく、マーカーの時間的変化を診断または予後の決定に用いることができる。例えば、診断用マーカーを最初の時期に判定し、第二の時期において再び判定してもよい。そのような実施形態において、最初の時期から第二の時期にかけてのマーカーの増加は、疾病または所定の予後の特定の種類または重篤度を診断し得る。同様に、最初の時期から第二の時期にかけてのマーカーの減少は、疾病または所定の予後の特定の種類または重篤度を示し得る。さらに、一つ以上のマーカーの変化の程度は、疾病の重篤度およびその後の有害事象に関連し得る。当業者は、以下のことを理解するであろう:すなわち、ある実施形態において、複数の時点の同じ生体マーカーを用いて比較測定する一方、ある時点において所定の生体マーカーを測定し、第二の時点において第二の生体マーカーを測定し、それらのマーカー比較することにより診断の情報を提供することができる。
【0192】
本明細書に使用されるとき、「予後の判定」というフレーズは、それによって被検体における症状の経過または結果を当業者が予測できる方法を指す。「予後」という用語は、症状の経過または結果の100%正確な予測能力を指すものではなく、また、所定の経過または結果の起きやすさまたは起きにくさまでを、生体マーカー(例えば、DMR)のメチル化状態(state)に基づいて予測することを指すものではない。代わりに、当業者は、「予後」という用語が、ある経過または結果が起こる確率がより高いことを指すと理解するであろう。つまり、所定の症状を示す被検体と当該症状を示さない個体とを比較した場合に、ある経過または結果が、被検体において起きやすいということを指す。例えば、症状を示さない個体(例えば、一つ以上のDMRの通常のメチル化状態(state)を有する個体)において、所定の結果が起こる可能性は非常に低い。
【0193】
いくつかの実施形態では、統計学的分析によって、予後の指標と有害な結果の素因とが関連付けられる。例えば、いくつかの実施形態では、疾病を有さない患者から得られた正常コントロール試料とは異なるメチル化状態(state)は、統計的に有意なレベルで決定された、コントロール試料におけるメチル化状態(state)とより近いレベルの被検体よりも、被検体が疾病を患いやすいことを示し得る。さらに、メチル化状態(state)の基準線(例えば、「通常」)レベルからの変化は、被検体の予後を反映する場合があり、メチル化状態(state)の変化の程度は有害事象の重篤度に関連し得る。統計的有意性は、しばしば、二つ以上の集団を比較し、信頼区間および/またはp値を決定することによって決定される(例えば、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York, 1983参照)。本願の発明特定事項の典型的な信頼区間は、90%、95%、97.5%、98%、99%、99.5%、99.9%、および99.99%であり、一方、典型的なp値は、0.1、0.05、0.025、0.02、0.01、0.005、0.001、および0.0001である。
【0194】
他の実施形態において、本明細書に記載の予後用または診断用生体マーカー(例えば、DMR)のメチル化状態(state)の変化の閾値の度合いを設定してもよく、生体試料における生体マーカーのメチル化状態(state)の変化の度合いは、メチル化状態(state)の変化の当該閾値の度合いと単純に比較される。本明細書に示される生体マーカーのメチル化状態(state)の好ましい変化閾値は、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約50%、約75%、約100%、および約150%である。さらに他の実施形態において、予後用または診断用指標(生体マーカーまたは生体マーカーの組み合わせ)のメチル化状態(state)が、所定の結果への関連する傾向に直接関係付けられる「ノモグラム」を設定してもよい。当業者は、二つの数値を関連付けるそのようなノモグラムの使用に精通しており、集団の平均ではなく個別の試料の測定結果が参照されることから、この測定の不確実性はマーカー濃度の不確実性と同じであることを理解している。
【0195】
いくつかの実施形態において、コントロール試料から得られた結果を生体試料から得られた結果と比較できるように、コントロール試料が生体試料と同時に分析される。さらに、生体試料のアッセイ結果が比較され得る標準曲線を規定することが企図される。そのような標準曲線は、アッセイユニットの関数(例えば、蛍光標識が使用される場合の蛍光信号強度)として生体マーカーのメチル化状態(state)を表す。複数のドナーから採取された試料を用いて、化生を有するドナーまたは疾病(例えば、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC))を有するドナーから採取された組織における一つ以上の生体マーカーの「危険状態」レベルを示す標準曲線だけでなく、正常な組織における一つ以上の生体マーカーのコントロールメチル化状態(state)を示す標準曲線を規定することができる。上記方法のある実施形態において、被検体から得られた生体試料における本明細書に示す一つ以上のDMRの異常なメチル化状態(state)を同定することによって、被検体が高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有すると同定される。上記方法の他の実施形態において、被検体から得られた生体試料における一つ以上のそのような生体マーカーの異常なメチル化状態(state)の検出によって、当該被検体が高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有すると同定される。
【0196】
マーカーの分析は、一つの試験試料内のさらなるマーカーと別々または同時に行うことができる。例えば、いくつかのマーカーを組み合わせて一回のテストにかけることにより、複数の試料を能率的に処理することができ、場合によっては、診断精度および/または予後精度が高くなる。さらに、当業者は、同じ被検体からの複数の試料(例えば連続する複数の時点)をテストした値を認識するであろう。そのような連続する試料をテストすることによって、マーカーのメチル化状態(state)の経時変化を同定することができる。メチル化状態(state)の変化の欠如だけでなく、メチル化状態(state)の変化疾患の状態に関する有用な情報を示し、当該情報としては、事由の発現からのおおよその時間を同定すること、回収可能組織の存在および量、薬物治療の適切性、種々の治療の有効性、および(将来の事象のリスクを含む)被検体の結果の同定があげられるが、これらに限定されない。
【0197】
生体マーカーの分析は、種々の物理フォーマットで行うことができる。例えば、ミクロタイタープレートまたは自動操作を使用することによって、多数の試験試料の処理を促進することができる。または、単一試料フォーマットを発展させて、例えば、救急車による搬送中または救急処置室環境における時機を逃さない応急手当および診断を促進してもよい。
【0198】
いくつかの実施形態において、被検体は、コントロールのメチル化状態(state)と比較したときに、試料中の少なくとも一つの生体マーカーのメチル化状態(state)に測定可能な差異がある場合に、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有すると診断される。反対に、生体試料においてメチル化状態(state)の変化が無いと同定された場合、被検体は高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有していない、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)のリスクが無い、または高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)のリスクが低いと同定されてもよい。これに関して、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有するまたはそのリスクがある被検体は、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を低度有する~実質的に有さないまたはそのリスクが低い~無い被検体から区別されてもよい。高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)の進行リスクを有するそれらの被検体は、より集中的および/または定期的なスクリーニングスケジュールに供されてもよい。
【0199】
上述した通り、本願技術の方法の実施形態によっては、一つ以上の生体マーカーのメチル化状態(state)の変化の検出は、定性または定量であってもよい。このように、高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を有するまたはその進行リスクがあると被検体を診断するステップは、ある閾値測定が行われる(例えば、生体試料における一つ以上の生体マーカーのメチル化状態(state)が所定のコントロールのメチル化状態(state)とは異なる)ことを示す。上記方法のいくつかの実施形態において、コントロールのメチル化状態(state)は生体マーカーのいずれかの検出可能なメチル化状態(state)である。コントロール試料が生体試料と同時にテストされる上記方法の他の実施形態において、所定のメチル化状態(state)は、コントロール試料におけるメチル化状態(state)である。上記方法の他の実施形態において、所定のメチル化状態(state)は、標準曲線に基づくおよび/または標準曲線によって同定される。上記方法の他の実施形態において、所定のメチル化状態(state)は、特定の状態またはある範囲の状態である。このように、所定のメチル化状態(state)は、当業者にとって明らかに許容できる範囲内において、実行される方法の実施形態および所望の特異性等の一部に基づいて選択することができる。
【0200】
さらに、診断方法に関して、好ましい被検体は脊椎動物被検体である。好ましい脊椎動物は温血脊椎動物であり、好ましい温血脊椎動物は哺乳動物である。好ましい哺乳動物は、最も好ましくはヒトである。本明細書に使用されるとき、「被検体」という用語はヒト被検体および動物被検体の両方を含む。したがって、獣医の治療用途が本明細書に示される。このように、本願技術は、絶滅危惧種であるために重要な哺乳動物(シベリアトラ等)、経済的に重要な哺乳動物(ヒトが消費するために農場で育てられた動物等)、および/またはヒトにとって社会的に重要な動物(ペットとして飼われている動物または動物園において飼育されている動物等)だけではなく、ヒト等の哺乳動物の診断も規定する。そのような動物の例としては、ネコおよびイヌ等の肉食動物;子豚(pigs)、食用豚(hogs)、およびイノシシなどのブタ;畜牛(cattle)、食用牛(oxen)、ヒツジ、キリン、シカ、ヤギ、バイソン、およびラクダ等の反芻動物および/または有蹄動物、およびウマが挙げられるが、これらに限定されない。したがって、本願は、飼い慣らされたブタ、反芻動物、有蹄動物、ウマ(競走馬を含む)等を含みこれらに限定されない家畜の診断および治療も提供する。本願に開示する発明特定事項はさらに、被検体における高度膵異形成(IPMN-HGD、PanIN-3、またはPDAC)を診断するためのシステムを含む。システムは、例えば、生体試料を採取された被検体の疾病等のリスクをスクリーニングするために使用される市販用キットとして実現されてもよい。本願技術によって実現される典型的なシステムは、表2および表6に示すDMRのメチル化状態(state)を評価することを含む。
【実施例】
【0201】
〔実施例1〕
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)および膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)は、膵管腺がん(PDAC)の鍵となる管状前駆体である。高度異形成(HGD)を有する前駆体の病変および初期PDACは外科的に治療するべきという共通認識がある一方、現在の撮像ツールおよびリスク予測モデルは不完全であり、そのような病変の検出に頻繁に失敗する。膵液、膵臓嚢胞液、または便等の媒体に適用される判別式分子マーカーが、高リスク病変のより正確な検出のために必要である。
【0202】
実験を行い、正常な膵臓または低度前駆体病変(IPMN-低度異形成(IPMN-LGD)、PanIN-1、およびPanIN-2)のいずれかを有するコントロールグループから高度前駆体(IPMN-HGD、PanIN-3)または浸潤がん(PDAC)を有する患者グループを区別するメチル化されたDNAマーカー候補を同定および確認した。
【0203】
候補マーカーの同定は、凍結膵臓の正常組織および新生物組織から得られたDNAに対する低発現量重亜硫酸塩シークエンシング(RRBS)を用いた偏りのない全体メチローム発見アプローチに基づいて行い、候補マーカーは、ROC曲線下面積(AUC)、倍率変化、およびp値に基づいて選択した。確認は、患者グループおよびコントロールグループから得られた別々のマイクロ切開組織およびメチル化特異的PCRを用いて選択されたマーカーのブラインド化アッセイに基づいて行い、マーカーレベルは、膵臓上皮組織用マーカーであるメチル化されたLRRC4について標準化した。患者グループ(n=53)はIPMN-HGD(19)、PanIN-3(4)、およびPDAC(30)を含んだ。コントロールグループ(n=111)は組織学的に正常な膵臓組織(31)、IPMN-LGD(36)、PanIN-1(34)、およびPanIN-2(10)を含んだ。AUCはロジスティック回帰によってそれぞれのマーカーについて算出し、マーカーの組み合わせによる区別を探った。
【0204】
RRBSデータから、MSP確認用の28個の候補マーカーを選択した。それらの内の三つは、Zマーカーであった。Zマーカーは、正常、異形成性、またはがん性のいずれかである全ての組織試料においてCpGの過剰メチル化を示す領域であって、循環白血球等のDNA由来造血組織においてメチル化がほとんどまたは全く無い領域(例えば、14/966,938参照)を同定するために使用される項である。Zマーカーは2つの重要な機能を果たす。つまり、Zマーカーは、(通常ある程度の免疫学的浸入物を含有する)生体試料における上皮性シグナルの合計として新生物マーカーを正規化する際に有効な分母であり、また、腫瘍細胞脱落、アポトーシス、または壊死が正常な細胞/DNAの放出を引き起こす場合にも、Zマーカーがそれ自体の能力として腫瘍特異的マーカーとなり得る。
【0205】
発見試料において、23個のマーカーはMSP AUC値≧0.8およびp値≦0.01であり、それら23個のマーカーは、3個のZマーカーと共に、上記方法にしたがって拡大された個別確認用の集合(expanded independent validation set)に含めた(実施例3)。アッセイでは、適当な陰性コントロールと共に普遍的メチル化標準を用いた。結果は、(膵臓組織用マーカーであるLRRC4として正規化した)メチル化のパーセンテージとして表した。4個のマーカー(低AUC(<0.79)、低メチル化パーセンテージの事例、または高バックグラウンド)は除外し、19個の有望な候補(ABCB1、AK055957、C13ORF18、CD1D、CLEC11A、DLX4、ELMO1、EMX1、FER1L4、FRMD4A、GRIN2D、HOXA1、PRKCB、SP9、ST6GAL2、ST8SIA1、TBX15、VWC2、およびZNF781)が残った。
【0206】
確認用の集合において、患者グループとコントロールグループとを区別し、確認においてAUC値≧0.79であったマーカーを(19個の有望な候補であるABCB1、AK055957、C13ORF18、CD1D、CLEC11A、DLX4、ELMO1、EMX1、FER1L4、FRMD4A、GRIN2D、HOXA1、PRKCB、SP9、ST6GAL2、ST8SIA1、TBX15、VWC2、およびZNF781のAUC値を示す)表1Aに示す。表1BはAUC値≧0.85のマーカーのパネルを示す。表1Bに示すパネルでは、特異性が85%、90%、95%、および100%の事例が、それぞれ、89%、87%、77%、および74%検出された。
【0207】
図1は膵臓組織から評価した異なるマーカーの分布プロットを示す。上位一つのマーカー(TBX15)の分布プロットは、個々の組織カテゴリーにわたってコントロールよりも、患者(IPMN-HGD、PanIN-3、およびPDAC)においてはるかに高いレベルを明確に示している(
図1)。上位のマーカーのパネルは、0.91のAUCをもたらした(95%CI:85%~96%)。当該パネルでは、特異性が85%、90%、95%、および100%の事例が、それぞれ、89%、87%、77%、および74%検出された。
【0208】
表2は、高度前駆体(IPMN-HGD、PanIN-3)または浸潤がん(PDAC)に対して高度な判別性を有するマーカーとして同定された(ABCB1、AK055957、C13ORF18、CD1D、CLEC11A、DLX4、ELMO1、EMX1、FER1L4、FRMD4A、GRIN2D、HOXA1、PRKCB、SP9、ST6GAL2、ST8SIA1、TBX15、VWC2、およびZNF781を含む)上記マーカーの、染色体番号、遺伝子アノテーション、およびDMR開始/終了位置を含むDMR情報を示す。表3は、表2に示すDMR用のプライマーを示す。
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
〔実施例2〕
異常膵臓組織像の程度が異なる8人の患者から採取したブラインド化嚢胞液試料に対してマーカーをテストした。本願のマーカーの内の7個を用いて、重亜硫酸塩変換された嚢胞液DNA上にMSPを行った。コピーを、LRRC4を分母としたメチル化パーセンテージに正規化した。4個のマーカーから得られた結果を表4に示す。
【0214】
これらのマーカーのそれぞれには、組織学的重篤度の程度とメチル化陽性度との間に相関関係が存在する。腺がん患者試料(P-1)は、全てのマーカーについて一番高いメチル化パーセンテージを示した。患者P-2、P-3、およびP-6のメチル化パーセンテージは、これら三つの組織像の低度悪性潜在性に合致して、一律にゼロであった。MCNおよびIPMNは、軽度~中度(高度IPMNはテストに使用できなかった)の異形成に対する感度が最も低いPRKCBおよび感度の最も高いCD1Dとは区別をつけて発光する。
【0215】
【0216】
〔実施例3〕
本実施例は、実施例1および2の材料、方法、および結果を記載する。
【0217】
ロチェスターのメイヨークリニック(Mayo Clinic Rochester)における院内がん登録から発見組織試料(新鮮凍結およびFFPE)を選択し、専門病理学者による調査によって正確な分類を確かめた。これらは、膵臓がん、IPMN、PanIN(P1、P2、およびP3)、正常な膵臓、および正常な結腸を含んだ。臨床グループおよびサブグループにつきN=10~26であった。18個の正常白血球コントロールを、メイヨーの生物検体関連治験担当医および臨床医によってGIH Cell Signalling Research Clinical Coreへと提供した。Qiagen DNA Mini Kit およびMicro Kitを用いてゲノムDNAを作製した。
【0218】
〔RRBS(低発現量重亜硫酸塩シークエンシング)〕
RRBSは、プロモーターおよびCpGアイランド(がん細胞において高メチル化され、正常な細胞において低メチル化されると知られている領域である)におけるエピジェネティックサインまたはメチル化サインの偏りのない観察を可能にする手法である。我々が行ってきた多数の研究は、同種の内で(がんの種類およびフィルタリング方法の両方において)初めてのものである。マーカー領域を同定およびランク付けするために我々が使用する基準は、臨床メチル化特異的増幅アッセイをデザインすることに最終目標を合わせており、そのことによって処理が独特なものとなっている。4つの主なフィルターは、1)定義されたCpG密集度基準およびベータ回帰モデリングの使用を要するDMR、2)ROC曲線分析、3)(正常な組織または正常な白血球のいずれかに対する)倍率変化、および4)(患者における)領域に対して実証されたCpG共メチル化および(コントロールにおける)共メチル化の欠如、である。
【0219】
〔ライブラリーの作成〕
CpG含有モチーフを認識するメチル化特異的制限酵素であるMspIを10ユニット用いた消化によってゲノムDNA(300ng)を断片化し、それにより、試料のCpG濃度を増加させ、ゲノムの余剰領域を除去した。消化された断片の末端を修復し、5ユニットのクレノウ断片(3’-5’エキソ)によって末端にA鎖を付加し、(自身の試料IDをそれぞれの断片にリンクさせるための)バーコード配列を含むメチル化されたTruSeqアダプター(Illumina、カリフォルニア州サンディエゴ)と一晩かけて連結させた。Agencourt AMPure XP SPRIビーズ/緩衝液(Beckman Coulter、カリフォルニア州ブレーア)を用いて、160~340bp断片(40~220bpインサート)のサイズ選定を実施した。緩衝液のカットオフは、ビーズ/緩衝液の試料体積の0.7~1.1倍であった。最終溶出体積は22μL(EB緩衝液;Qiagen、メリーランド州ジャーマンタウン)であり、小さい試料アリコートにおけるライゲーション効率および断片品質の測定にはqPCRを用いた。改変Epi Tectプロトコル(Qiagen)を用いて、試料に重亜硫酸塩変換を施した(二回)。変換した試料アリコートを、qPCRおよび従来のPCR(PfuTurbo Cx hotstart、Agilent、カリフォルニア州サンタ・クララ)、続けてBioanalyzer 2100(Agilent)評価に供することによって、最終のライブラリー増幅の前に、最適なPCRサイクル数を決定した。最終PCRには、以下の条件を使用した:1)50μLの反応のそれぞれは、5μLの10倍緩衝液、1.25μLの10mM各デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)、5μLのプライマーカクテル(~5μM)、15μLの鋳型(試料)、1μLのPfuTurbo Cx hotstart、および22.75の水、を含み;温度および時間は95℃で5分、98℃で30秒、12~16サイクルのそれぞれでは98℃で10秒、65℃で30秒、72℃で30秒、72℃で5分、および4℃で維持した。試料を、無作為化スキームに基づいて4-plexライブラリーへと(等モル)混合し、生体分析器を用いてテストすることにより最終サイズを確認し、ファイX基準およびアダプター特異的プライマーを用いたqPCRによってテストした。
【0220】
〔配列決定および生物情報処理〕
内部アッセイコントロール用のさらなるレーンを用意するため無作為レーン割当て法にしたがって試料をフローセルに充填した。Mayo Clinic Medical Genome Facilityの次世代シークエンシングコア(Next Generation Sequencing Core)によって、Illumina HiSeq 2000を用いて配列決定を行った。101回のサイクルにおいて、読み取りは一方向で行った。各フローセルレーンでは、整列された配列用の30~50倍のシークエンシング深度(CpG毎のリード数)のカバレッジの中央値に十分である、100,000,000~120,000,000のリードを生成した。標準Illuminaパイプラインソフトウェアでは、fastqフォーマットにおいて、塩基を呼び出し、リード生成をシークエンシングした。配列アラインメントおよびメチル化抽出には低発現量重亜硫酸塩シークエンシング用流線分析およびアノテーションパイプライン(SAAP-RRBS)を用いた。RRBS発見段階では、各マップ化CpGにおける、膵臓新生物患者と、膵臓コントロール/白血球コントロール/(ある用途では)結腸コントロールとの間のメチル化の差異が主な比較対象であった。CpGアイランドは、期待値に対する観察値CpG比>0.6によって生物化学的に定義される。しかしながら、このモデルでは、CpG分析のタイルユニット「可変メチル化領域(DMR)」が、染色体それぞれにおけるCpG部位の位置間の距離に基づいて生成された。単一のCpGのみを有するアイランドは除外した。疾患グループ毎のカバレッジの全体深度が200リード以上(平均が一被検体につき10リード)であって、メチル化パーセンテージの分散が0よりも大きい(非有益なCpGは除外した)場合にのみ、個々のCpG部位が層別解析の対象となった。リード‐深度基準は、それぞれのグループにおける試料サイズが18個体である二つのグループ間のメチル化パーセンテージにおける10%の差異を検出するための望ましい統計的検出力に基づいた。統計的有意性は、リード数に基づいて、DMR毎のメチル化割合のロジスティック回帰によって決定した。個々の被検体にわたって異なるリード深度を考慮するために、過度に分散したロジスティック回帰モデルを使用し、当該モデルにおいて、分散パラメータは適合モデルからの残余のピアソン・カイ二乗統計値を用いて推定した。その有意レベルに応じてランク付けされたDMRは、さらに、組織および白血球コントロールの組み合わせにおけるメチル化パーセンテージが患者において1%以下10%以上である場合に考慮の対象とした。この結果、94個のマーカーが得られた(表2)。全てのマーカーはAUCが0.85よりも高く、患者対正常な膵臓組織におけるシグナル倍率変化が25よりも大きく、患者対コントロール(低度および中度異形成試料を含む)におけるシグナル倍率変化が5よりも大きく、p値が0.001未満であった。
【0221】
〔メチル化特異的PCR(MSP)による確認〕
組織における候補マーカー(通常、一部位につき上位20~30個のRRBS DMR)をメチル化特異的PCRによって確認する。最初は発見試料に対して行い、次により大きな個別試料集合に対して行う。
【0222】
〔MSPプライマーデザイン〕
28個の上位のマーカーに特異的なプライマーを設計および発注した(IDT、アイオワ州コーラルビル)。設計は、Methprimerソフトウェア(University of California、カリフォルニア州サンフランシスコ)またはMSPプライマー(Johns Hopkins University、メリーランド州ボルチモア)のいずれかを用いて行った。アッセイは、普遍的にメチル化されたゲノムDNAおよびメチル化されていないゲノムDNAコントロールの希釈液上で、SYBRグリーンを用いたqPCRによってテストおよび最適化した。
【0223】
〔メチル化特異的PCR〕
発見試料に対して定量的MSP反応を行い、パフォーマンスを確認した。ゲノムワイド次世代(genome wide next gen)シークエンシング研究は、高い発見失敗率を被る場合があるため、高い分析的感度および特異性を有するプラットフォームにおいてDMR候補をテストすることは重要である。確認は、患者グループおよびコントロールグループから得られた別々のマイクロ切開組織およびメチル化特異的PCRを用いて選択されたマーカーのブラインド化アッセイに基づいて行い、マーカーレベルは、膵臓上皮組織用マーカーであるメチル化されたLRRC4について標準化した。患者グループ(n=53)はIPMN-HGD(19)、PanIN-3(4)、およびPDAC(30)を含んだ。コントロールグループ(n=111)は組織学的に正常な膵臓組織(31)、IPMN-LGD(36)、PanIN-1(34)、およびPanIN-2(10)を含んだ。AUCはロジスティック回帰によってそれぞれのマーカーについて算出し、マーカーの組み合わせによる区別を探った。
【0224】
ボストンのMassachusetts General Hospitalの共同作業者から提供された嚢胞液試料において、さらに確認を行った。200μLの試料を八つ(1つは嚢胞性パターンを有する膵臓がん、1つは隣接貯留嚢胞を有する乳頭部腺腫、1つは漿液性嚢胞腺腫、1つは軽度~中度の異形成を有するMCN、1つは低度~中度の異形成を有するMCN、1つは偽乳頭状腫瘍、1つは中度異形成を有するBD-IPMN、および1つは中度局所異形成を含む低度異形成を有するBD-IPMN)。DNAを抽出し、重亜硫酸塩変換し、10個の上位のマーカー候補を用いたMSPによって処理(ブラインド化)した。LRRC4の正規化の結果とブラインド化しなかった臨床情報とを同時に交換した。
【0225】
〔実施例4〕
本実施例では、膵臓嚢胞において進行した新生物を、新しいDNAメチル化マーカーを用いて正確に検出できることを実践する。
【0226】
嚢胞液(CF)分析を用いた撮像または用いない撮像による、膵臓嚢胞における進行した新生物(高度異形成(HGD)またはがん)を検出するための現在の臨床アルゴリズムは、診断精度に欠け、しばしば不要な手術に繋がっている。組織由来DNAの全メチローム配列決定によって、実験を通じて、HGDまたはがんを宿す嚢胞を、低度異形成(LGD)を有しているかまたは異形成を有していない嚢胞から正確に分離する新しいメチル化されたDNAマーカーを同定した。CFの研究において、これらのマーカーのパネルは、進行した新生物を有している嚢胞と、それらを有していない嚢胞とを高度に区別すると考えられることが分かった。
【0227】
複数拠点における広範な患者‐コントロール研究において、実験を行うことで、(1)嚢胞患者(HGDまたは腺がん)および嚢胞コントロール(LGDまたは異形成無し)におけるブラインド化CF分析に基づく新しいメチル化されたDNAマーカーのアッセイによる、膵臓嚢胞中の進行した新生物の検出精度を評価し、(2)CFにおけるメチル化されたDNAマーカー分布と、CEAおよび変異体KRASのメチル化されたDNAマーカー分布とを比較した。
【0228】
外科的に切除した嚢胞から得られたアーカイブCF試料を調査した。CFは、内視鏡超音波診断または手術時に、嚢胞穿刺によって採取した。0.2mlのCFから抽出したDNA(QiaAmp Mini kit、Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)を、重亜硫酸塩変換(EZ-96 DNA Methylation kit、Zymo Research、カリフォルニア州アービン)し、それから、選択したメチル化されたDNAマーカー(BMP3、NDRG4、SP9、DLX4、ABCB1、CD1D、CLEC11A、EMX1、PRKCB、ST8SIA1、VWC2、TBX15、LRRC4、ELMO1)を、メチル化特異的PCRまたは定量的対立遺伝子特異的リアルタイム標的およびシグナル増幅(QuART)のいずれかによって評価した。KRAS(7つの突然変異)は、市販の手法(MILLIPLEX(商標) MAP Kit)(例えば、米国特許第9,127,318号参照)を用いたQuARTおよびCEAによって評価した。
【0229】
134個の膵臓嚢胞(41個の膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、35個の粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、23個の漿液性嚢胞腺腫、13個の嚢胞性侵襲腺がん(3個のIPMN、1個のMCN、9個の不確定前駆体)、および22個の炎症性嚢胞またはその他の嚢胞のうち、実験によって21個(8個のHGD、13個の腺がん)が患者として分類され、113個(45個の異形成無し、68個のLGD)がコントロールとして分類された。患者の中央値年齢(IQR)は71歳(56~77)であり、コントロールの中央値年齢(IQR)は61歳(46~69)であった(p<0.01);患者の61%およびコントロールの31%は男性であった(p=0.034)。上位三つのメチル化されたマーカー(TBX15、BMP3、CLEC11A)のCF分布は、患者およびコントロール間において見られた高い識別性を示す(
図2参照)。上位四つのメチル化マーカーは、それぞれ、0.90よりも大きいROC曲線下面積(AUC)を達成した(表5参照)。定められた特異性に対する感度またはAUCのいずれかに基づくと、それらのメチル化されたマーカーのそれぞれによる患者の検出の方が、変異体KRASまたはCEAによるものよりも、実質的および有意な検出となった(表5参照)。特異性が同じであれば、上位のメチル化されたマーカーのそれぞれは、変異体KRASまたはCEAと比較して2倍多くの患者を検出した。表6は、BMP3およびNDRG4用のDMR情報を示す。表7はBMP3およびNDRG4用のプライマー情報を示す。
【0230】
【0231】
【0232】
【0233】
〔実施例5〕
本実施例では、膵臓嚢胞において進行した新生物を、嚢胞液中の新しいDNAメチル化マーカーのアッセイによって検出できることを実証する。
【0234】
重要な一部の膵臓嚢胞は、進行した新生物(高度異形成(HGD)またはがん)を宿す。しかし、この高リスクグループを検出するための現在の診断アプローチは、精度に欠ける撮像基準または嚢胞液分析に基づいている。膵臓嚢胞を有している患者の管理は、進行した新生物に対して有益な分子マーカーによって、さらに最適化し得る。最近の実験によって、HGDまたは腺がんと、低度異形成(LGD)および非異形成性組織とを区別する、膵臓組織における新しくメチル化されたDNAマーカー(MDM)のパネルが同定および確認された(例えば、Majumder S, et al., Gastroenterology 2016; S120-S121参照)。この組織における区別が、嚢胞液に適用された場合にも当てはまるのか否かは、未だ定かではない。したがって、実験は、進行した新生物を含む嚢胞を有している患者および低度異形成(LGD)を含むか異形成を含まないかのいずれかの嚢胞を有しているコントロールから得られた嚢胞液におけるMDM候補の分布を査定および比較することを目的として行った。
【0235】
この複数拠点におけるブラインド化研究では、83個の外科的に切除した嚢胞からアーカイブ膵臓嚢胞液を同定した。0.2mlの嚢胞液からQiaAmp Mini kit(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)を用いてDNAを抽出し、EZ-96 DNA Methylation kit(Zymo Research、カリフォルニア州アービン)を用いて一晩かけて重亜硫酸塩変換した。その後、メチル化特異的PCRまたは定量的対立遺伝子特異的リアルタイム標的およびシグナル増幅(QuART)のいずれかによって14個の選択されたMDM(BMP3、NDRG4、SP9、DLX4、ABCB1、CD1D、CLEC11A、EMX1、PRKCB、ST8SIA1、VWC2、TBX15、LRRC4、ELMO1)のアッセイを行った。レベルは、ベータアクチン(DNA全体)および年齢について正規化した。腺がんまたはHGDを有している嚢胞を患者(n=14)とし、LGDを有しているかまたは異形成を有していない嚢胞をコントロール(n=61)とした。中度異形成を有している嚢胞(n=8)は、別個に分析した。
【0236】
上位5つのMDM(BMP3、EMX1、CLEC11A、ST8IA1、VWC2)は、それぞれ、患者とコントロールとを区別する0.90以上のROC曲線下面積を達成した。上位2つのMDM(BMP3、EMX1)の嚢胞液レベルの分布は、高い識別性を示す(
図3参照)。特異性90%(95%CI 80~96%)では、この2個のMDMのパネルは93%(66~100%)の患者を検出した。中度異形成を有している嚢胞におけるMDMレベルは、概して、HGDとLGDの間に該当し(
図3参照)、2個のMDMのパネルは、特異性95%ではこれらの病変の38%で陽性をもたらすであろう。
【0237】
したがって、上記実験は、膵臓嚢胞液から得られた新しいMDMのアッセイが、がんまたはHGDを有している患者と、LGDを有しているかまたは異形成を有していないコントロールとを正確に区別するということを実証するものである。
【0238】
上記明細書中に言及した全ての公報および特許は、あらゆる目的においてその全体が参照により本明細書に援用される。記載した本技術の範囲および思想を超えない限りにおいて、上述した組成物、方法、および技術の使用の種々の変更および変形も当業者にとって明らかである。本技術は特定の典型的な実施形態に関連して記載したが、請求項に記載の本発明は、そのような特定の実施形態によって過度に限定されないということが理解されるべきである。むしろ、本発明を行うための上述した形態の種々の変更であって、薬理学、生化学、医学、または関連する分野における当業者にとって明らかな種々の変更は、以下に記載する請求項の範囲に含まれることを意図している。
【配列表】