(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】せん断抵抗性の改善を示す粘度指数向上剤
(51)【国際特許分類】
C08F 290/04 20060101AFI20240502BHJP
C10M 145/14 20060101ALI20240502BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20240502BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20240502BHJP
C10M 149/06 20060101ALI20240502BHJP
C08L 55/00 20060101ALI20240502BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20240502BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240502BHJP
C10N 30/02 20060101ALN20240502BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240502BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
C08F290/04
C10M145/14
C10M169/04
C10M101/02
C10M149/06
C08L55/00
C08L91/00
C09K3/00 Z
C10N30:02
C10N30:00 Z
C10N20:04
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019148480
(22)【出願日】2019-08-13
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】レベッカ クライン
(72)【発明者】
【氏名】ディーター ヤンセン
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-520358(JP,A)
【文献】特開2019-104846(JP,A)
【文献】特開2019-104914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F290
C10M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー組成物の重合によって得ることができるポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーであって、前記モノマー組成物は、
a)(メタ)アクリル酸と数平均分子量1,800~2,200g/molの1つのヒドロキシル化水素化ポリブタジエンとの1つ以上のエステルを、前記モノマー組成物の総質量に対して15~35質量%と、
b)メチル(メタ)アクリレートおよびブチル(メタ)アクリレートを、前記モノマー組成物の総質量に対して50~60質量%と、
c)1つ以上の直鎖または分岐鎖C
7~C
30アルキル(メタ)アクリレートを、前記モノマー組成物の総質量に対して5~35質量%と
を含み、ここで、メチル(メタ)アクリレートとブチル(メタ)アクリレートとの質量比は、5:1~3:1であり、かつ前記ポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーは、50,000~250,000g/molの質量平均分子量(M
w)を有する、ポリアルキル(メタ)アクリレートポリマー。
【請求項2】
前記モノマー組成物は、エーテルアルコールの(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、芳香族基を含むビニルモノマー、好ましくはスチレンからなる群から選択される1つ以上のモノマーd)をさらに含む、請求項1記載のポリマー。
【請求項3】
前記モノマー組成物は、モノマーd)を前記モノマー組成物の総質量に対して0.1~5質量%含み、好ましくはモノマーd)を前記モノマー組成物の総質量に対して0.1~2質量%含む、請求項2記載のポリマー。
【請求項4】
前記モノマー組成物中に含まれている前記モノマーc)は、1つ以上の直鎖または分岐鎖C
7~C
15アルキル(メタ)アクリレート、好ましくは直鎖または分岐鎖C
12~C
14アルキル(メタ)アクリレートである、請求項1から3までのいずれか1項記載のポリマー。
【請求項5】
前記モノマー組成物は、モノマーa)を、前記モノマー組成物の総質量に対して15~30質量%含む、請求項1から4までのいずれか1項記載のポリマー。
【請求項6】
前記モノマー組成物は、モノマーb)を、前記モノマー組成物の総質量に対して50~55質量%含む、請求項1から5までのいずれか1項記載のポリマー。
【請求項7】
前記モノマー組成物は、モノマーc)を、前記モノマー組成物の総質量に対して15~35質量%含む、請求項1から6までのいずれか1項記載のポリマー。
【請求項8】
前記モノマー組成物の総質量に対する前記モノマー組成物のモノマーa)、b)、c)およびd)の質量含分の合計は、100質量%である、請求項2から7までのいずれか1項記載のポリマー。
【請求項9】
ポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーの製造方法であって、
(x)請求項1から
8までのいずれか1項記載のモノマー組成物を提供する工程と、
(y)前記モノマー組成物のラジカル重合を開始する工程と
を含む、方法。
【請求項10】
潤滑剤組成物の粘度指数およびせん断抵抗性を改善するための潤滑剤組成物用の添加剤としての、請求項1から
8までのいずれか1項記載のポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーの使用。
【請求項11】
(i)1つ以上の基油と、
(ii)請求項1から
8までのいずれか1項記載のポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーと
を含む、組成物。
【請求項12】
前記1つ以上の基油は、APIグループIIIの基油またはAPIグループIIIの基油の混合物である、請求項
11記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物は、前記組成物の総質量に対して90~99.5質量%、好ましくは92~99.5質量%の1つ以上の基油(i)と、前記組成物の総質量に対して0.5~10質量%、好ましくは0.5~8質量%の前記ポリアルキル(メタ)アクリレートポリマー(ii)とを含む潤滑剤組成物である、請求項
11または
12記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、ポリブタジエン系モノマーを含むポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーおよびその製造方法に関する。さらに本発明は、潤滑剤配合物の粘度指数向上剤としての前記ポリマーの使用、および前記ポリマーを含む潤滑剤組成物に関する。
【0002】
発明の背景
CO2排出量および化石燃料消費量に関する厳格な世界政府の自動車規制により、自動車産業は、より良好な燃費を実現するシステムの開発を余儀なくされている。手段の1つに、ハードウェアの変更および軽量素材の使用が挙げられる。もう1つの手段は、トランスミッションまたはエンジンにおける、より低粘度グレードの潤滑剤の使用である。この手段には依然として、粘度を、トランスミッションまたはエンジンの金属部品を保護するのに十分な高さに調整することが必要である等の、いくつかの制限がある。したがって、粘度を最適値に調整し、その粘度を、適用の全温度範囲にわたって可能な限り一定に保つよう試みることが重要である。
【0003】
ここで、粘度指数向上剤(VII)を使用することで、潤滑剤の温度依存性が改善される。潤滑剤の温度依存性は、通常は粘度指数(VI)で示される。このVIは、40℃での動粘度(KV40)と100℃での動粘度(KV100)とから算出される。VIが高いほど潤滑剤粘度の温度依存性は低くなる、つまり、温度による粘度の変化が小さくなる。
【0004】
VIの一方で重要な要因の1つとなるのが潤滑剤のせん断抵抗性であり、一方では、潤滑剤の寿命が長くなって、より抵抗性の高い潤滑剤が求められており、また他方では、潤滑剤粘度が次第に低下して、金属部品にいかなる欠陥も生じさせずにせん断損失により粘度が低下する可能性が最小限となる。
【0005】
ポリアルキル(メタ)アクリレート(PAMA)ポリマー、特にポリブタジエン系モノマーを含むPAMAは、潤滑剤の良好な粘度指数向上剤として作用することが知られている。
【0006】
欧州特許出願公開第3498808号明細書(EP 3498808 A1)には、異なる分子量を有するポリブタジエン系モノマーの組合せを含むポリアルキル(メタ)アクリレート、および潤滑剤のせん断抵抗性を向上させるための潤滑添加剤としての該ポリマーの使用が記載されている。
【0007】
国際公開第2007/003238号(WO 2007/003238)、同第2009/007147号(WO 2009/007147)および同第2010/142789号(WO 2010/142789)には、ポリブタジエン由来マクロモノマーを含むポリマーの、粘度指数向上剤としての使用が開示されており、その際、該マクロモノマーは、500~50000g/molの分子量を有する。
【0008】
国際公開第2018/174188号(WO 2018/174188)には、粘度指数向上剤としての、ポリブタジエン由来マクロモノマーを含むポリマーが開示されている。
【0009】
国際公開第2015/129732号(WO 2015/129732)、特開平6-234974号公報(JP 6234974)、特開2017-031400号公報(JP 2017031400)、特開2017-171899号公報(JP 2017171899)には、粘度指数向上剤としての、異なる分子量を有するポリブタジエン由来マクロモノマーを含むポリマーが開示されている。
【0010】
高い粘度指数値を有するだけでなく潤滑剤配合物において優れたせん断抵抗性をも示す新規な粘度指数向上剤の開発が依然として求められている。したがって本発明の目的は、高い粘度指数値を保持しつつ、従来技術から知られている粘度指数向上剤に対してせん断抵抗性の向上を示す、潤滑剤組成物において使用するための粘度指数向上剤を提供することである。
【0011】
発明の概要
驚くべきことに、請求項1記載のポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーは、潤滑剤配合物において良好なせん断安定性と高い粘度指数との組合せを提供するため、上記の技術的課題を解決することが判明した。本発明は、ポリアルキル(メタ)アクリレートにおいて、多量のメチル(メタ)アクリレートを、特定量のブチル(メタ)アクリレートおよび1,800g/mol~2,200g/molの分子量を有する水素化ポリブタジエンと併用することにより、得られるポリマーが優れたせん断安定性および高い粘度指数を示すという知見に基づく。
【0012】
したがって、第1の態様において、本発明は、請求項1記載のポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーに関する。
【0013】
もう1つの態様において、本発明は、前記ポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーの製造方法に関する。
【0014】
第3の態様において、本発明は、本発明によるポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーの、潤滑剤組成物の粘度指数およびせん断抵抗性を向上させるための潤滑剤組成物用添加剤としての使用に関する。
【0015】
第4の態様において、本発明は、1つ以上の基油と本発明に記載のポリアルキル(メタ)アクリレートとを含む組成物に関する。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明のポリマー
第1の態様において、本発明は、モノマー組成物の重合によって得ることができるポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーであって、前記モノマー組成物は、
a)(メタ)アクリル酸と数平均分子量1,800~2,200g/molの1つのヒドロキシル化水素化ポリブタジエンとの1つ以上のエステルを、前記モノマー組成物の総質量に対して15~35質量%と、
b)メチル(メタ)アクリレートおよびブチル(メタ)アクリレートを、前記モノマー組成物の総質量に対して50~60質量%と、
c)1つ以上の直鎖または分岐鎖C7~C30アルキル(メタ)アクリレートを、前記モノマー組成物の総質量に対して5~35質量%と
を含み、ここで、メチル(メタ)アクリレートとブチル(メタ)アクリレートとの質量比は、5:1~3:1である、ポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーに関する。
【0017】
特に断りのない限り、モノマーの質量は、使用されるモノマーの総量、すなわちモノマー組成物の総質量に対して示される。
【0018】
好ましくは、モノマーa)~c)の量は、合計で100質量%である。
【0019】
本発明の文脈におけるポリマーは、骨格または主鎖とも呼ばれる第1のポリマーと、側鎖と呼ばれ、骨格に共有結合している多数のさらなるポリマーとを含む。本発明の場合には、ポリマーの骨格は、言及された(メタ)アクリル酸エステルの連結された不飽和基によって形成される。(メタ)アクリル酸エステルのアルキル基と水素化ポリブタジエン鎖とが、ポリマーの側鎖を形成する。反応生成物である、(メタ)アクリル酸と1つのヒドロキシル化水素化ポリブタジエンとの1つ以上のエステル(モノマーa))を、本発明ではマクロモノマーとも呼ぶ。
【0020】
「(メタ)アクリル酸」という用語は、アクリル酸、メタクリル酸、およびアクリル酸とメタクリル酸との混合物を指すが、メタクリル酸が好ましい。「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリル酸のエステル、メタクリル酸のエステル、またはアクリル酸のエステルとメタクリル酸のエステルとの混合物を指すが、メタクリル酸のエステルが好ましい。
【0021】
本発明によるポリマーは、好ましくは10,000~1,000,000g/molの質量平均分子量(Mw)を有し得る。さまざまな質量平均分子量のポリマーをさまざまな用途に使用することができ、例えば、エンジンオイル用添加剤、トランスミッションフルード用添加剤およびトラクションオイル用添加剤として使用することができる。ポリマーの質量平均分子量は、好ましくは、以下の表1に従って、対象となる用途に応じて選択することができる。
【0022】
【0023】
好ましくは、本発明によるポリマーの質量平均分子量(Mw)は、15,000~350,000g/mol、より好ましくは30,000~350,000g/mol、さらにより好ましくは50,000~250,000g/mol、最も好ましくは60,000~220,000g/molの範囲にある。この質量平均分子量を有するポリマーは、オートマチックトランスミッションフルード、マニュアルトランスミッションフルードおよびベルト連続可変トランスミッションフルードなどのトランスミッションフルードでの使用に特に適している。
【0024】
好ましくは、本発明によるポリマーの多分散度(PDI)は、1.5~4.5、より好ましくは2~4.5、最も好ましくは2.7~4.5の範囲にある。多分散度は、質量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)と定義される。
【0025】
質量平均および数平均分子量は、市販のポリメチルメタクリレート標準物質を使用したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により求められる。この測定は、DIN 55672-1に従って、THFを溶離液として使用したサイズ排除クロマトグラフィー(流量:1mL/min;注入体積:100μL)によって行われる。
【0026】
本発明によるポリマーは、そのモル分岐度(「f-branch」)に基づいて特徴付けることができる。モル分岐度とは、モノマー組成物中の全モノマーの総モル量に対する、使用されるマクロモノマー(モノマーa))のモル%でのパーセンテージを指す。使用されるマクロモノマーのモル量は、マクロモノマーの数平均分子量Mnに基づいて算出される。モル分岐度の算出については、国際公開第2007/003238号(WO 2007/003238 A1)の特に第13頁および第14頁に詳説されており、該文献の内容が本明細書において明示的に参照される。
【0027】
好ましくは、該ポリマーは、0.1~5モル%、より好ましくは1.5~4モル%、最も好ましくは1.5~2.5モル%のモル分岐度fbranchを有する。
【0028】
ヒドロキシル化水素化ポリブタジエン - モノマーa)
本発明により使用するためのヒドロキシル化水素化ポリブタジエン(モノマーa))は、1,800g/mol以上2,200g/mol未満の数平均分子量Mnを有する。その分子量が高いことから、ヒドロキシル化水素化ポリブタジエンを、本発明の文脈においてマクロアルコールと呼ぶ場合もある。対応する(メタ)アクリル酸エステルを、本発明の文脈においてマクロモノマーと呼ぶ場合もある。
【0029】
数平均分子量Mnは、市販のポリブタジエン標準物質を使用したSECにより求められる。この測定は、DIN 55672-1に従って、THFを溶離液として使用したサイズ排除クロマトグラフィー(流量:1mL/min;注入体積:100μL)によって行われる。
【0030】
好ましくは、該モノマー組成物は、モノマーa)として、(メタ)アクリル酸とヒドロキシル化水素化ポリブタジエンとの1つ以上のエステルを、該モノマー組成物の総質量に対して15~35質量%、より好ましくは15~30質量%含む。
【0031】
好ましくは、該ヒドロキシル化水素化ポリブタジエンは、少なくとも99%の水素化度を有する。本発明のポリマーについて求めることのできる、水素化度に関するこれ以外の指標は、ヨウ素価である。ヨウ素価とは、100gのポリマーに付加し得るヨウ素のグラム数を指す。好ましくは、本発明のポリマーは、該ポリマー100gあたり5g以下のヨウ素というヨウ素価を有する。ヨウ素価は、DIN 53241-1:1995-05に従ってウィイス(Wijs)法により求められる。
【0032】
好ましいヒドロキシル化水素化ポリブタジエンは、英国特許第2270317号明細書(GB 2270317)に従って得ることができる。
【0033】
本明細書で使用する場合に、「ヒドロキシル化水素化ポリブタジエン」という用語は、1つ以上のヒドロキシル基を含む水素化ポリブタジエンを指す。ヒドロキシル化水素化ポリブタジエンは、ポリブタジエンへのアルキレンオキシドの付加に由来するポリエーテル基またはポリブタジエンへの無水マレイン酸の付加に由来する無水マレイン酸基などの、追加の構造単位をさらに含んでもよい。これらの追加の構造単位は、ポリブタジエンをヒドロキシル基で官能化する際に、ポリブタジエンに導入してもよい。
【0034】
モノヒドロキシル化水素化ポリブタジエンが好ましい。より好ましくは、ヒドロキシル化水素化ポリブタジエンは、ヒドロキシエチル末端水素化ポリブタジエンまたはヒドロキシプロピル末端水素化ポリブタジエンである。ヒドロキシプロピル末端ポリブタジエンが特に好ましい。
【0035】
これらのモノヒドロキシル化水素化ポリブタジエンは、まずブタジエンモノマーをアニオン重合によってポリブタジエンに転化させることによって製造することができる。次いで、該ポリブタジエンモノマーを、アルキレンオキシド、例えばエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドと反応させることによって、ヒドロキシ官能化ポリブタジエンを製造することができる。該ポリブタジエンを、1つを上回るアルキレンオキシド単位と反応させてもよく、それによって、末端ヒドロキシル基を有するポリエーテル-ポリブタジエンブロックコポリマーが得られる。該ヒドロキシル化ポリブタジエンを、適切な遷移金属触媒の存在下で水素化することができる。
【0036】
これらのモノヒドロキシル化水素化ポリブタジエンは、(例えば、米国特許第4,316,973号明細書(US 4,316,973)に記載の)末端二重結合を有する(コ)ポリマーのヒドロホウ素化によって得られる生成物、末端二重結合を有する(コ)ポリマーと無水マレイン酸とアミノアルコールとのエン反応により得られる無水マレイン酸-エン-アミノアルコール付加物、ならびに(例えば、特公昭63-175096号公報(JP 63-175096)に記載の)末端二重結合を有する(コ)ポリマーのヒドロホルミル化およびそれに続く水素化によって得られる生成物から選択することもできる。
【0037】
本発明により使用するためのマクロモノマーa)は、アルキル(メタ)アクリレートのエステル交換により製造することができる。アルキル(メタ)アクリレートとヒドロキシル化水素化ポリブタジエンとの反応により、本発明のエステルが形成される。反応物としてメチル(メタ)アクリレートまたはエチル(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。
【0038】
このエステル交換は、広く知られている。例えば、この目的のために、水酸化リチウム/酸化カルシウム混合物(LiOH/CaO)、純粋な水酸化リチウム(LiOH)、リチウムメトキシド(LiOMe)またはナトリウムメトキシド(NaOMe)などの不均一触媒系を使用することも、イソプロピルチタネート(Ti(OiPr)4)またはジオクチルスズオキシド(Sn(OCt)2O)のような均一触媒系を使用することもできる。この反応は、平衡反応である。したがって、放出される低分子量アルコールは、典型的には例えば蒸留により除去される。
【0039】
さらに該マクロモノマーは、例えば(メタ)アクリル酸もしくは(メタ)アクリル酸無水物から、好ましくはp-トルエンスルホン酸もしくはメタンスルホン酸による酸性触媒下で、または遊離メタクリル酸からDCC法(ジシクロヘキシルカルボジイミド)によって、直接エステル化を進行させることによって得ることができる。
【0040】
さらに、本ヒドロキシル化水素化ポリブタジエンを、(メタ)アクリロイルクロリドなどの酸塩化物との反応によってエステルへと転化させることができる。
【0041】
好ましくは、上記で詳述した本発明のエステルの製造において、重合禁止剤、例えば4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシルラジカルおよび/またはヒドロキノンモノメチルエーテルが使用される。
【0042】
アルキル(メタ)アクリレート - モノマーb)およびc)
該モノマー組成物は、モノマーb)として、メチル(メタ)アクリレートおよびブチル(メタ)アクリレートを、該モノマー組成物の総質量に対して50~60質量%、より好ましくは50~55質量%含み、ここで、メチル(メタ)アクリレートとブチル(メタ)アクリレートとの質量比は、5:1~3:1である。
【0043】
モノマーc)に関して、「C7~C30アルキル(メタ)アクリレート」という用語は、(メタ)アクリル酸と7~30個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルコールとのエステルを指す。この用語には、(メタ)アクリル酸と特定の長さのアルコールとの個々のエステル、および同様に(メタ)アクリル酸と異なる長さのアルコールとのエステルの混合物が包含される。
【0044】
適切なC7~C30アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば2-ブチルオクチル(メタ)アクリレート、2-ヘキシルオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、2-ブチルデシル(メタ)アクリレート、2-ヘキシルデシル(メタ)アクリレート、2-オクチルデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、5-メチルウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2-メチルドデシル(メタ)アクリレート、2-ヘキシルドデシル(メタ)アクリレート、2-オクチルドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、5-メチルトリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、2-デシルテトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、2-メチルヘキサデシル(メタ)アクリレート、2-ドデシルヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、5-イソプロピルヘプタデシル(メタ)アクリレート、4-t-ブチルオクタデシル(メタ)アクリレート、5-エチルオクタデシル(メタ)アクリレート、3-イソプロピルオクタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、2-デシルオクタデシル(メタ)アクリレート、2-テトラデシルオクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、セチルエイコシル(メタ)アクリレート、ステアリルエイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、エイコシルテトラトリアコンチル(メタ)アクリレート、2-デシルテトラデシル(メタ)アクリレート、2-デシルオクタデシル(メタ)アクリレート、2-ドデシル-1-ヘキサデシル(メタ)アクリレート、1,2-オクチル-1-ドデシル(メタ)アクリレート、2-テトラデシルオカデシル(メタ)アクリレート、1,2-テトラデシルオクタデシル(メタ)アクリレートおよび2-ヘキサデシルエイコシル(メタ)アクリレート、n-テトラコシル(メタ)アクリレート、n-トリアコンチル(メタ)アクリレートおよび/またはn-ヘキサトリアコンチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0045】
「C12~C14アルキル(メタ)アクリレート」という用語は、(メタ)アクリル酸と12~14個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖アルコールとのエステルを指す。この用語には、(メタ)アクリル酸と特定の長さのアルコールとの個々のエステル、および同様に(メタ)アクリル酸と異なる長さのアルコールとのエステルの混合物が包含される。
【0046】
適切なC12~C14アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばドデシルメタクリレート、2-メチルドデシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、5-メチルトリデシルメタクリレートおよび/またはテトラデシルメタクリレートが挙げられる。
【0047】
特に好ましいモノマーc)は、(メタ)アクリル酸と直鎖C12~C14アルコール混合物とのエステル(C12~C14アルキルメタクリレート)である。
【0048】
該モノマー組成物は好ましくは、モノマーc)として、1つ以上のC7~C30アルキル(メタ)アクリレートを、該モノマー組成物の総質量に対して5~35質量%含み、好ましくは、1つ以上のC7~C30アルキル(メタ)アクリレートを、該モノマー組成物の総質量に対して15~35質量%含み、より好ましくは、1つ以上のC7~C30アルキル(メタ)アクリレートを、該モノマー組成物の総質量に対して20~30質量%含む。
【0049】
一実施形態において、該モノマー組成物は、モノマーc)として、1つ以上のC12~C14アルキル(メタ)アクリレートを、該モノマー組成物の総質量に対して好ましくは5~35質量%、より好ましくは15~35質量%、さらにより好ましくは20~30質量%含む。
【0050】
追加のモノマー - モノマーd)
好ましくは、該モノマー組成物は、モノマーa)~c)に加えて追加のモノマーd)を含む。
【0051】
本発明により使用することができる追加のモノマーは、8~17個の炭素原子を有するスチレンモノマー、アシル基に1~11個の炭素原子を有するビニルエステル、アルコール基に1~10個の炭素原子を有するビニルエーテル、酸素および/または窒素官能化分散性モノマー、複素環式(メタ)アクリレート、複素環式ビニル化合物、共有結合したリン原子を含むモノマー、エポキシ基を含むモノマーおよびハロゲンを含むモノマーからなる群から選択される。
【0052】
8~17個の炭素原子を有する適切なスチレンモノマーは、スチレン、側鎖にアルキル置換基を有する置換スチレン、例えば、α-メチルスチレンおよびα-エチルスチレン、環にアルキル置換基を有する置換スチレン、例えばビニルトルエンおよびp-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、例えばモノクロロスチレン、ジクロロスチレン、トリブロモスチレンおよびテトラブロモスチレン、ニトロスチレンからなる群から選択されるが、スチレンが好ましい。
【0053】
アシル基に1~11個の炭素原子を有する適切なビニルエステルは、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルからなる群から選択され、アシル基に2~9個、より好ましくは2~5個の炭素原子を含むビニルエステルが好ましく、その際、アシル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0054】
アルコール基に1~10個の炭素原子を有する適切なビニルエーテルは、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルプロピルエーテル、ビニルブチルエーテルからなる群から選択され、アルコール基に1~8個、より好ましくは1~4個の炭素原子を含むビニルエーテルが好ましく、その際、アルコール基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0055】
酸素および/または窒素官能化分散性モノマーから誘導される適切なモノマーは、アミノアルキル(メタ)アクリレート、例えばN,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノペンチル(メタ)アクリレート、N,N-ジブチルアミノヘキサデシル(メタ)アクリレート;アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、例えばN,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド;ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、例えば3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3,4-ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,5-ジメチル-1,6-ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオール(メタ)アクリレート、p-ヒドロキシスチレン、ビニルアルコール、アルケノール(3~12個の炭素原子を有する(メチル)アリルアルコール)、多価(3~8価)アルコール(グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ドグリセリド、糖類)エーテルまたはメタ(アクリレート);C1~C8アルキルオキシ-C2~C4アルキル(メタ)アクリレート、例えばメトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシヘプチル(メタ)アクリレート、メトキシヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシペンチル(メタ)アクリレート、メトキシオクチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシヘプチル(メタ)アクリレート、エトキシヘキシル(メタ)アクリレート、エトキシペンチル(メタ)アクリレート、エトキシオクチル(メタ)アクリレート、プロポキシメチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシプロピル(メタ)アクリレート、プロポキシブチル(メタ)アクリレート、プロポキシヘプチル(メタ)アクリレート、プロポキシヘキシル(メタ)アクリレート、プロポキシペンチル(メタ)アクリレート、プロポキシオクチル(メタ)アクリレート、ブトキシメチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシプロピル(メタ)アクリレート、ブトキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシヘプチル(メタ)アクリレート、ブトキシヘキシル(メタ)アクリレート、ブトキシペンチル(メタ)アクリレートおよびブトキシオクチル(メタ)アクリレートからなる群から選択され、エトキシエチル(メタ)アクリレートおよびブトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0056】
適切な複素環式(メタ)アクリレートは、2-(1-イミダゾリル)エチル(メタ)アクリレート、2-(4-モルホリニル)エチル(メタ)アクリレート、1-(2-メタクリロイルオキシエチル)-2-ピロリドン、N-メタクリロイルモルホリン、N-メタクリロイル-2-ピロリジノン、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)-2-ピロリジノン、N-(3-メタクリロイルオキシプロピル)-2-ピロリジノンからなる群から選択される。
【0057】
適切な複素環式ビニル化合物は、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン、3-エチル-4-ビニルピリジン、2,3-ジメチル-5-ビニルピリジン、ビニルピリミジン、ビニルピペリジン、9-ビニルカルバゾール、3-ビニルカルバゾール、4-ビニルカルバゾール、1-ビニルイミダゾール、2-メチル-1-ビニルイミダゾール、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピロリジン、3-ビニルピロリジン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルブチロラクタム、ビニルオキソラン、ビニルフラン、ビニルオキサゾールおよび水素化ビニルオキサゾールからなる群から選択される。
【0058】
共有結合したリン原子を含むモノマーは、2-(ジメチルホスファト)プロピル(メタ)アクリレート、2-(エチレンホスフィト)プロピル(メタ)アクリレート、ジメチルホスフィノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルホスホノエチル(メタ)アクリレート、ジエチル(メタ)アクリロイルホスホネート、ジプロピル(メタ)アクリロイルホスフェート、2(ジブチルホスホノ)エチル(メタ)アクリレート、ジエチルホスファトエチル(メタ)アクリレート、2-(ジメチルホスファト)-3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(エチレンホスフィト)-3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルジエチルホスホネート、3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルジプロピルホスホネート、3-(ジメチルホスファト)-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-(エチレンホスフィト)-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシ-3-ヒドロキシプロピルジエチルホスホネート、2-(メタ)アクリロイルオキシ-3-ヒドロキシプロピルジプロピルホスホネートおよび2-(ジブチルホスホノ)-3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートからなる群から選択される。
【0059】
エポキシ基を含む適切なモノマーは、例えばグリシジル(メタ)アクリレートおよびグリシジル(メタ)アリルエーテルなどである。
【0060】
ハロゲンを含む適切なモノマーは、例えば塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、塩化(メタ)アリルおよびハロゲン化スチレン(ジクロロスチレン)などである。
【0061】
好ましくは、該モノマー組成物は、エーテルアルコールの(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、芳香族基を含むビニルモノマーからなる一覧から選択される1つ以上のモノマーd)をさらに含む。
【0062】
もう1つの好ましい実施形態において、該モノマー組成物は、モノマーd)として、モノマーd)を、該モノマー組成物の総質量に対して0.1~5質量%含み、好ましくは追加のモノマーを、該モノマー組成物の総質量に対して0.1~2質量%含む。
【0063】
好ましくは、追加のモノマーd)は、8~17個の炭素原子を有するスチレンモノマーである。
【0064】
一実施形態において、該モノマー組成物は、モノマーd)として、8~17個の炭素原子を有する1つ以上のスチレンモノマーを、該モノマー組成物の総質量に対して0.1~2質量%含む。
【0065】
好ましくは、モノマーa)~d)の量は、合計で100質量%である。
【0066】
好ましいモノマー組成物
一実施形態において、該モノマー組成物は、
a)(メタ)アクリル酸と数平均分子量1,800~2,200g/molの1つのヒドロキシル化水素化ポリブタジエンとの1つ以上のエステルを、該モノマー組成物の総質量に対して15~30質量%と、
b)メチル(メタ)アクリレートおよびブチル(メタ)アクリレートを、該モノマー組成物の総質量に対して50~55質量%と、
c)1つ以上の直鎖C12~C14アルキル(メタ)アクリレートを、該モノマー組成物の総質量に対して20~30質量%と、
d)8~17個の炭素原子を有するスチレンモノマーを、該モノマー組成物の総質量に対して0.1~2質量%と
を含み、ここで、該モノマー組成物の総質量に対する該モノマー組成物のモノマーa)、b)、c)およびd)の質量含分の合計は、100質量%である。
【0067】
製造方法
本発明はまた、上記ポリマーの製造方法であって、
(x)上記モノマー組成物を提供する工程と、
(y)前記モノマー組成物のラジカル重合を開始する工程と
を含む方法に関する。
【0068】
標準的なラジカル重合は、特にUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Sixth Editionに詳述されている。一般的には、重合開始剤および場合により連鎖移動剤がこの目的に使用される。
【0069】
ATRP法自体は公知である。これは、「リビング」ラジカル重合であると考えられるが、この機序の説明は何ら制限を意図するものではない。このプロセスにおいて、遷移金属化合物が移動性原子基を有する化合物と反応する。この反応は、移動性原子基が遷移金属化合物へ移動することによるものであり、その結果、金属が酸化される。この反応によってフリーラジカルが形成され、これがエチレン性基に付加する。しかし、遷移金属化合物への該原子基の移動は可逆的であるため、該原子基は、成長中のポリマー鎖に戻され、その結果、制御された重合系が形成される。したがって、該ポリマーの形成、分子量および分子量分布を制御することができる。
【0070】
この反応レジームは、例えばJ.-S.Wang,et al.,J.Am.Chem.Soc,vol. 117,p.5614-5615(1995)、Matyjaszewski,Macromolecules,vol.28,p.7901-7910(1995)に記載されている。加えて、国際公開第96/30421号(WO 96/30421)、同第97/47661号(WO 97/47661)、同第97/18247号(WO 97/18247)、同第98/40415号(WO 98/40415)および同第99/10387号(WO 99/10387)といった特許出願には、上記で説明したATRPの変形例が開示されている。加えて、本発明のポリマーを例えばRAFT法によって得ることもできる。この方法は、例えば国際公開第98/01478号(WO 98/01478)および同第2004/083169号(WO 2004/083169)に詳細に記載されている。
【0071】
重合は、標準圧力下で行われてもよいし、減圧下で行われてもよく、また昇圧下で行われてもよい。重合の温度も重要ではない。ただし総じて、重合の温度は-20~200℃の範囲にあり、好ましくは50~150℃の範囲にあり、より好ましくは80~130℃の範囲にある。
【0072】
好ましくは、工程(x)で提供されるモノマー組成物は、反応混合物を提供するために油の添加により希釈される。反応混合物の総質量に対するモノマー組成物の量、すなわちモノマーの総量は、好ましくは20~90質量%、より好ましくは40~80質量%、最も好ましくは50~70質量%である。
【0073】
好ましくは、モノマー組成物の希釈に使用される油は、APIグループI、II、III、IVもしくはVの油、またはそれらの混合物である。好ましくは、グループIIIの油またはその混合物を使用して、モノマー組成物を希釈する。
【0074】
好ましくは、工程(y)は、ラジカル開始剤の添加を含む。
【0075】
適切なラジカル開始剤は、例えば、アゾ開始剤、例えばアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)および1,1-アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、ならびにペルオキシ化合物、例えばメチルエチルケトンペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ケトンペルオキシド、t-ブチルペルオクトエート、メチルイソブチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジクミルペルオキシド、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、クミルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシドおよびビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネートである。
【0076】
好ましくは、ラジカル開始剤は、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、t-ブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエート、1,1-ジ-t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルペルオキシベンゾエートおよびt-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエートからなる群から選択される。特に好ましい開始剤は、t-ブチルペルオキシ2-エチルヘキサノエートおよび2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタンである。
【0077】
好ましくは、モノマー組成物の総質量に対するラジカル開始剤の総量は、0.01~5質量%、より好ましくは0.02~1質量%、最も好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0078】
ラジカル開始剤の総量を単一の工程で添加してもよいし、ラジカル開始剤を重合反応の過程でいくつかの工程で添加してもよい。好ましくは、ラジカル開始剤は、いくつかの工程で添加される。例えば、ラジカル開始剤の一部を添加してラジカル重合を開始し、この初回の添加の0.5~3.5時間後に、ラジカル開始剤の第2の部分を添加してもよい。
【0079】
好ましくは、工程(y)は、連鎖移動剤の添加も含む。適切な連鎖移動剤は、特に油溶性メルカプタン、例えばn-ドデシルメルカプタンまたは2-メルカプトエタノール、あるいはテルペン類のクラスの連鎖移動剤、例えばテルピノレンである。n-ドデシルメルカプタンの添加が特に好ましい。
【0080】
好ましくは、ラジカル重合の全反応時間は、2~10時間、より好ましくは3~9時間である。
【0081】
ラジカル重合の完了後、得られたポリマーを上記の油でさらに希釈して、所望の粘度にすることが好ましい。好ましくは、該ポリマーは、5~60質量%、より好ましくは10~50質量%、最も好ましくは20~40質量%のポリマー濃度に希釈される。
【0082】
本発明によるポリマーの使用
本発明はまた、潤滑剤組成物の粘度指数およびせん断抵抗性を改善するための潤滑剤組成物用の添加剤としての、上記ポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーの使用に関する。それに関して、本発明のポリマーを、潤滑油組成物に高いVIを提供しつつ、潤滑油組成物に非常に可溶であり、かつ優れたせん断抵抗性などの潤滑油組成物の優れた特性の保持を可能にする粘度指数向上剤として使用することができる。
【0083】
潤滑油組成物
本発明はまた、
(i)1つ以上の基油と、
(ii)上記ポリアルキル(メタ)アクリレートポリマーと
を含む組成物に関する。
【0084】
該組成物は、本発明によるポリマー(ii)と、希釈剤としての1つ以上の基油(i)とを含む添加剤組成物であってもよい。該添加剤組成物を、例えば粘度指数向上剤として潤滑剤に添加することができる。典型的には、該添加剤組成物は、本発明によるポリマーを比較的多量に含む。
【0085】
該組成物はまた、本発明によるポリマー(ii)と、1つ以上の基油(i)と、任意に後述のさらなる添加剤(iii)とを含む潤滑剤組成物も表し得る。該潤滑剤組成物は、例えば、トランスミッションフルードまたはエンジンオイルとして使用できる。典型的には、該潤滑剤組成物は、本発明によるポリマーを、前述の添加剤組成物の場合よりも少ない量で含む。
【0086】
該組成物が添加剤組成物として使用される場合、それぞれ該添加剤組成物の総質量に対して、1つ以上の基油(成分i))の量は、好ましくは40~80質量%、より好ましくは50~80質量%であり、ポリマー(成分ii))の量は、好ましくは20~60質量%、より好ましくは20~50質量%である。
【0087】
該組成物が潤滑剤組成物として使用される場合、それぞれ該組成物の総質量に対して、基油(成分i))の量は、好ましくは90~99.5質量%、より好ましくは92~99.5質量%であり、ポリマー(成分ii))の量は、好ましくはポリマー0.5~10質量%、より好ましくはポリマー0.5~8質量%である。
【0088】
好ましくは、(i)および(ii)の量は、合計で100質量%である。
【0089】
本発明のポリマーおよび本発明によるポリマーを含む潤滑剤組成物は、有利には、駆動システムの潤滑油(マニュアルトランスミッションフルード、ディファレンシャルギアオイル、オートマチックトランスミッションフルードおよびベルト連続可変トランスミッションフルード、アクスルフルード配合物、デュアルクラッチトランスミッションフルードおよび専用ハイブリッドトランスミッションフルード)、油圧オイル(例えば、機械用油圧オイル、パワーステアリングオイル、ショックアブソーバーオイルなど)、エンジンオイル(ガソリンエンジン用およびディーゼルエンジン用)および産業用油配合物(例えば、風力タービンなど)に使用される。
【0090】
本発明による潤滑剤組成物がエンジンオイルとして使用される場合、該潤滑剤組成物は、本発明によるポリマーを、該潤滑剤組成物の総質量に対して、好ましくは0.5質量%~10質量%、より好ましくは0.5質量%~8質量%含み、それにより、100℃での動粘度は、ASTM D445によれば4mm2/s~10mm2/sの範囲となる。
【0091】
本発明の潤滑剤組成物が自動車用ギアオイルとして使用される場合、該潤滑剤組成物は、本発明によるポリマーを、該潤滑剤組成物の総質量に対して、好ましくは0.5質量%~10質量%、より好ましくは0.5質量%~8質量%含み、それにより、100℃での動粘度は、ASTM D445によれば2mm2/s~15mm2/sの範囲となる。
【0092】
本発明の潤滑剤組成物がオートマチックトランスミッションオイルとして使用される場合、該潤滑剤組成物は、本発明によるポリマーを、該潤滑剤組成物の総質量に対して、好ましくは0.5質量%~10質量%、より好ましくは0.5質量%~8質量%含み、それにより、100℃での動粘度は、ASTM D445によれば2mm2/s~6mm2/sの範囲となる。
【0093】
動粘度は、ASTM D445に準拠して測定できる。好ましくは、動粘度は、100℃および40℃の温度で測定される。
【0094】
せん断抵抗性は、DIN 51350 パート6に準拠して、潤滑剤をせん断に供する前後の潤滑剤の特性を測定することによって評価することが好ましい。好ましくは、DIN 51350 パート6に準拠してテーパーローラーベアリングを使用し、80℃で4,000rpmで40時間にわたってせん断を測定する。
【0095】
本発明によるポリマーの存在によって、本発明のポリマーが該潤滑剤組成物へのせん断後のその溶解性を保持しつつ、該潤滑剤組成物は優れたせん断安定性を示す。したがって、本発明による組成物を、好ましくはトランスミッションフルードとして使用することができる。
【0096】
該組成物において使用可能な基油には、潤滑粘度の油が含まれる。かかる油としては、例えば天然油および合成油、ハイドロクラッキング、水添およびハイドロフィニッシングにより得られた油、未精製油、精製油、再精製油またはその混合物が挙げられる。
【0097】
また、基油は、米国石油学会(API)により規定されたとおりに定められてもよい(2008年4月版“Appendix E-API Base Oil Interchangeability Guidelines for Passenger Car Motor Oils and Diesel Engine Oils”,第1.3節,副題1.3.“Base Stock Categories”を参照のこと)。
【0098】
現在、APIにより、潤滑剤ベースストックの5つのグループが定められている(API 1509, Annex E - API Base Oil Interchangeability Guidelines for Passenger Car Motor Oils and Diesel Engine Oils, 2011年9月)。グループI、IIおよびIIIは、含まれる飽和分および硫黄分ならびにその粘度指数により分類される鉱油であり、グループIVは、ポリ-α-オレフィンであり、グループVは、他のすべてのものであり、これには例えばエステル油類が含まれる。以下の表2に、これらのAPI分類を例示する。
【0099】
【0100】
本発明による潤滑剤組成物の製造に適した使用される無極性基油の100℃での動粘度(KV100)は、ASTM D445によれば、好ましくは1mm2/s~10mm2/sの範囲にあり、より好ましくは2mm2/s~8mm2/sの範囲にある。
【0101】
本発明により使用することができるさらなる基油は、グループII~IIIのフィッシャー・トロプシュ系基油である。
【0102】
フィッシャー・トロプシュ系基油は、当技術分野において知られている。「フィッシャー・トロプシュ系」という用語は、基油がフィッシャー・トロプシュ法の合成生成物であるか、または同合成生成物から誘導されることを意味する。フィッシャー・トロプシュ系基油は、GTL(Gas-To-Liquid、ガス液化)基油と呼ばれる場合もある。本発明の潤滑組成物において基油として好都合に使用できる適切なフィッシャー・トロプシュ系基油は、例えば欧州特許第0776959号明細書(EP 0776959)、同第0668342号明細書(EP 0668342)、国際公開第97/21788号(WO 97/21788)、同第00/15736号(WO 00/15736)、同第00/14188号(WO 00/14188)、同第00/14187号(WO 00/14187)、同第00/14183号(WO 00/14183)、同第00/14179号(WO 00/14179)、同第00/08115号(WO 00/08115)、同第99/41332号(WO 99/41332)、欧州特許第1029029号明細書(EP 1029029)、国際公開第01/18156号(WO 01/18156)、同第01/57166号(WO 01/57166)および同第2013/189951号(WO 2013/189951)に開示された基油である。
【0103】
特にトランスミッションオイル配合物には、APIグループIIIの基油およびグループIIIの様々な油の混合物が使用される。好ましい一実施形態において、1つ以上の基油(i)は、APIグループIIIの基油またはAPIグループIIIの基油の混合物である。
【0104】
本発明による潤滑剤組成物はさらに、40℃以下の温度でのその動粘度が低いことを特徴とする。KV40は、好ましくは40mm2/s未満であり、より好ましくは20~40mm2/sである。KV40とは、40℃での動粘度であり、ASTM D445に準拠して測定することができる。
【0105】
該潤滑剤組成物は、好ましくは150を超える、より好ましくは180を超える粘度指数を有する。粘度指数は、ASTM D2270に準拠して測定することができる。
【0106】
該潤滑剤組成物は、好ましくはトランスミッションフルードまたはエンジンオイルである。
【0107】
本発明による潤滑剤組成物はまた、成分(iii)として、摩擦調整剤、分散剤、消泡剤、清浄剤、酸化防止剤、流動点降下剤、耐摩耗添加剤、極圧添加剤、腐食防止添加剤、染料およびそれらの混合物からなる群から選択されるさらなる添加剤を含み得る。
【0108】
適切な分散剤としては、例えばポリ(イソブチレン)誘導体、例えばポリ(イソブチレン)スクシンイミド(PIBSI、ホウ素化PIBSIを含む);およびN/O官能基を有するエチレン・プロピレンオリゴマーが挙げられる。
【0109】
分散剤(ホウ素化分散剤を含む)は、好ましくは潤滑剤組成物の総量に対して0~5質量%の量で使用される。
【0110】
適切な消泡剤は、シリコーン油、フルオロシリコーン油、フルオロアルキルエーテルである。
【0111】
消泡剤は、好ましくは潤滑剤組成物の総量に対して0.005~0.1質量%の量で使用される。
【0112】
好ましい清浄剤としては、例えば金属含有化合物、例えばフェノキシド;サリチレート;チオホスホネート、特にチオピロホスホネート、チオホスホネートおよびホスホネート;スルホネートおよびカーボネートが挙げられる。金属として、これらの化合物は特に、カルシウム、マグネシウムおよびバリウムを含有してもよい。これらの化合物を、好ましくは中性または過塩基化形態で使用することができる。
【0113】
清浄剤は、潤滑剤組成物の総量に対して好ましくは0.2~1質量%の量で使用される。
【0114】
適切な酸化防止剤としては、例えばフェノール系酸化防止剤およびアミン系酸化防止剤が挙げられる。
【0115】
フェノール系酸化防止剤としては、例えばオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート;4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール);4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール);4,4’-ビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール);4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール);4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール);2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール);2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール);2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール;2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール;2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール;2,6-ジ-t-アミル-p-クレゾール;2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N’-ジメチルアミノメチルフェノール);4,4’-チオビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール);4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール);2,2’-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール);ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド;n-オクチル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート;n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート;2,2’-チオ[ジエチル-ビス-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が挙げられる。中でも、ビスフェノール系酸化防止剤およびエステル基含有フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。
【0116】
アミン系酸化防止剤としては、例えばモノアルキルジフェニルアミン、例えばモノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミン;ジアルキルジフェニルアミン、例えば4,4’-ジブチルジフェニルアミン、4,4’-ジペンチルジフェニルアミン、4,4’-ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’-ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン、4,4’-ジノニルジフェニルアミン;ポリアルキルジフェニルアミン、例えばテトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン;ナフチルアミン、具体的には、α-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミンおよびさらにアルキル置換フェニル-α-ナフチルアミン、例えばブチルフェニル-α-ナフチルアミン、ペンチルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘキシルフェニル-α-ナフチルアミン、ヘプチルフェニル-α-ナフチルアミン、オクチルフェニル-α-ナフチルアミン、ノニルフェニル-α-ナフチルアミンが挙げられる。中でも、ジフェニルアミンとしては、その酸化防止作用の点からナフチルアミンが好ましい。
【0117】
適切な酸化防止剤は、硫黄およびリンを含有する化合物、例えばジチオリン酸金属塩、例えばジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、「OOSトリエステル」=ジチオリン酸とオレフィン、シクロペンタジエン、ノルボルナジエン、α-ピネン、ポリブテン、アクリル酸エステル、マレイン酸エステルからの活性化二重結合との反応生成物(燃焼時に無灰);有機硫黄化合物、例えばジアルキルスルフィド、ジアリールスルフィド、ポリスルフィド、変性チオール、チオフェン誘導体、ザンテート、チオグリコール、チオアルデヒド、硫黄含有カルボン酸;複素環式硫黄/窒素化合物、特にジアルキルジメルカプトチアジアゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール;ビス(ジアルキルジチオカルバミン酸)亜鉛およびメチレンビス(ジアルキルジチオカルバメート);有機リン化合物、例えばトリアリールホスファイトおよびトリアルキルホスファイト;有機銅化合物、ならびに過塩基性カルシウム系およびマグネシウム系のフェノキシドおよびサリチレートからなる群からさらに選択されてもよい。
【0118】
酸化防止剤は、潤滑剤組成物の総量に対して0~15質量%、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは0.5~5質量%の量で使用される。
【0119】
流動点降下剤としては、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィン・ナフタレン縮合物、塩素化パラフィン・フェノール縮合物、ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキルスチレンが挙げられる。質量平均分子量が5,000~200,000g/molであるポリアルキル(メタ)メタクリレートが好ましい。
【0120】
流動点降下剤の量は、潤滑剤組成物の総量に対して好ましくは0.1~5質量%である。
【0121】
好ましい耐摩耗添加剤および極圧添加剤としては、例えば硫黄含有化合物、例えばジチオリン酸亜鉛、ジ-C3~C12-アルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、リン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、ジスルフィド、硫化オレフィン、硫化油および硫化脂肪、硫化エステル、チオカーボネート、チオカルバメート、ポリスルフィド;リン含有化合物、例えばホスファイト、ホスフェート、例えばトリアルキルホスフェート、トリアリールホスフェート、例えばトリクレシルホスフェート、アミンで中和したモノアルキルホスフェート、アミンで中和したジアルキルホスフェート、エトキシル化モノアルキルホスフェート、エトキシル化ジアルキルホスフェート、ホスホネート、ホスフィン、それらの化合物のアミン塩または金属塩;硫黄およびリン含有耐摩耗剤、例えばチオホスファイト、チオホスフェート、チオホスホネート、それらの化合物のアミン塩または金属塩が挙げられる。
【0122】
耐摩耗剤は、潤滑剤組成物の総量に対して0~3質量%、好ましくは0.1~1.5質量%、より好ましくは0.5~0.9質量%の量で存在することができる。
【0123】
摩擦調整剤としては、例えば機械的に活性な化合物、例えばモリブデンジスルフィド、グラファイト(フッ素化グラファイトを含む)、ポリ(トリフルオロエチレン)、ポリアミド、ポリイミド;吸着層を形成する化合物、例えば長鎖カルボン酸、脂肪酸のエステル、エーテル、アルコール、アミン、アミド、イミド;摩擦化学反応によって層を形成する化合物、例えば飽和脂肪酸、リン酸およびチオリン酸エステル、キサントゲネート、硫化脂肪酸;ポリマー様層を形成する化合物、例えばエトキシル化ジカルボン酸部分エステル、ジアルキルフタレート、メタクリレート、不飽和脂肪酸、硫化オレフィンおよび有機金属化合物、例えばモリブデン化合物(ジチオリン酸モリブデンおよびジチオカルバミン酸モリブデンMoDTC)ならびにZnDTPとのそれらの組合せ、銅含有有機化合物を挙げることができる。
【0124】
上記に列記した化合物の一部は、複数の機能を果たし得る。例えば、ZnDTPは主に耐摩耗添加剤および極圧添加剤であるが、酸化防止剤および腐食防止剤(ここでは、金属不動態化剤/不活性化剤)の特性も示す。
【0125】
上記に詳述された添加剤は、特にT. Mang, W. Dresel (eds.): “Lubricants and Lubrication”, Wiley-VCH, Weinheim 2001; R. M. Mortier, S. T. Orszulik (eds.): “Chemistry and Technology of Lubricants”に詳細に記載されている。
【0126】
好ましくは、1つ以上の添加剤(iii)の総濃度は、潤滑剤組成物の総質量に対して、20質量%まで、より好ましくは0.05~15質量%、より好ましくは5~15質量%である。
【0127】
好ましくは、(i)~(iii)の量は、合計で100質量%である。
【0128】
実験の部
以下、実施例および比較例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、何ら本発明の範囲を限定する意図はない。
【0129】
略語
C1AMA C1-アルキルメタクリレート=メチルメタクリレート(MMA)
C4AMA C4-アルキルメタクリレート=n-ブチルメタクリレート
C12/14AMA C12/14-アルキルメタクリレート
C16/18AMA C16/18-アルキルメタクリレート
CTA 連鎖移動剤(ドデシルメルカプタン)
fbranch 分岐度
開始剤 t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート
KRL Kegelrollenlager(=tapered roller bearing、テーパーローラーベアリング)
KV40 ASTM D445に準拠して測定した40℃での動粘度
KV100 ASTM D445に準拠して測定した100℃での動粘度
MA-1 メタクリレート官能基を有する水素化ポリブタジエンのマクロアルコール(Mn=2000g/mol)
MA-2 メタクリレート官能基を有する水素化ポリブタジエンのマクロアルコール(Mn=4750g/mol)
MM-1 メタクリレート官能基を有する水素化ポリブタジエンのマクロモノマー(Mn=2000g/mol)
MM-2 メタクリレート官能基を有する水素化ポリブタジエンのマクロモノマー(Mn=4750g/mol)
Mn 数平均分子量
Mw 質量平均分子量
NB3020 Nexbase(登録商標)3020、Neste社のグループIIIの基油、KV100は2.2cSt
NB3043 Nexbase(登録商標)3043、Neste社のグループIIIの基油、KV100は4.3cSt
OEM 納入先商標による受託製造
PDI 多分散度、Mw/Mnで算出された分子量分布
PSSI100 永久せん断安定性指数(せん断前後のKV100に基づいて算出)
VI ASTM D2270に準拠して測定された粘度指数。
【0130】
試験方法
本発明および比較例によるポリマーを、その分子量およびPDIについて特性決定した。
【0131】
ポリマーの分子量を、市販のポリメチルメタクリレート(PMMA)標準物質を使用したサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって求めた。この測定を、THFを溶離液として使用したゲル浸透クロマトグラフィー(流量:1mL/min;注入体積:100μL)によって行う。
【0132】
マクロモノマーの数平均モル質量Mnを、市販のポリブタジエン標準物質を使用したサイズ排除クロマトグラフィーによって求める。この測定を、THFを溶離液として使用したゲル浸透クロマトグラフィーにより、DIN 55672-1に準拠して行う。
【0133】
本発明および比較例によるポリマーを含む添加剤組成物を、ASTM D 2270に準拠した粘度指数(VI)、ASTM D445に準拠した40℃での動粘度(KV40)および100℃での粘度(KV100)について特性決定した。
【0134】
せん断安定性を、KRL(Kegelrollenlager、英語:tapered roller bearing、テーパーローラーベアリング)により、DIN51350 パート6に準拠して4000rpm、80℃で40時間にわたって調査した。
【0135】
添加剤組成物のせん断安定性を明らかにするため、PSSI(Permanent Shear Stability Index、永久せん断安定性指数)を、ASTM D 6022-01(永久せん断安定性指数の算出の標準プラクティス)に準拠して算出した。
【0136】
マクロアルコール(ヒドロキシル化水素化ポリブタジエン)MA-1およびMA-2の合成
20~45℃でのブチルリチウムを用いた1,3-ブタジエンのアニオン重合によって、マクロアルコールを合成した。所望の重合度に達したら、酸化プロピレンを添加して反応を停止し、メタノールで沈殿させることによりリチウムを除去した。次いで、このポリマーを、140℃までおよび200バールの圧力で、貴金属触媒の存在下で水素雰囲気下にて水素化した。水素化が終了した後、貴金属触媒を除去し、有機溶媒を減圧下で除いた。最後に、MA-2をNB3020で希釈して、ポリマー含量を70質量%にした。MA-1を100%に保持した。
【0137】
表3に、MA-1およびMA-2の特性データをまとめた。
【0138】
【0139】
マクロモノマーMM-1およびMM-2の合成
サーベルスターラー、給気管、コントローラーを備えた熱電対、加熱マントル、3mmのワイヤースパイラルの不規則充填物を備えたカラム、蒸気分割部、頂部温度計、還流冷却器、基材冷却器を備えた2L撹拌装置内で、上記マクロアルコール1000gを60℃で撹拌することによりメチルメタクリレート(MMA)に溶解させる。この溶液に、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル20ppmおよびヒドロキノンモノメチルエーテル200ppmを加える。安定化のために通気しながらMMAを加熱還流(底部温度約110℃)した後、MMA約20mLを留去して共沸乾燥を行う。95℃に冷却した後、LiOCH3を加え、この混合物を再び加熱還流する。約1時間の反応時間が経過した後、メタノールが形成されたため、頂部温度が約64℃に低下した。形成されたメタノール/MMA共沸混合物を、約100℃の一定の頂部温度が再び確立されるまで絶えず留去する。この温度で、この混合物をさらに1時間反応させる。さらなる後処理のために、MMAの大部分を減圧下で除去する。不溶性の触媒残留物を、圧力ろ過(Seitz T1000デプスフィルター)によって除去する。
【0140】
表4に、マクロモノマーMM-1およびMM-2の合成に使用したマクロアルコール、MMAの量およびLiOCH3の量をまとめる。
【0141】
【0142】
本発明によるポリマーの合成
実施例1のプロセス
4ツ口フラスコと精密ガラスサーベルを備えた装置に、モノマー混合物(その組成を表5に示す)を装入し、重合油NB3020を加えて、油中のモノマー濃度を60質量%にする。窒素下で105℃に加熱した後、NB3020中のt-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエートおよびドデシルメルカプタンの10質量%溶液を、一定の計量供給速度で3時間以内に加える。この反応を105℃に保持し、開始剤の計量供給終了から0.5時間後および3.5時間後に、(モノマーの総量に対して)0.2%の2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタンを加える。この反応混合物を105℃で一晩撹拌し、翌日に希釈してNB3020を含む油中のポリマーの30質量%溶液にして、最終的なVII(例1)を得る。
【0143】
実施例2のプロセス
4ツ口フラスコと精密ガラスサーベルを備えた装置に、表5に示すモノマー混合物(MM-1全量と残りのモノマー50質量%とを含む)を装入し、重合油NB3020を加えて、油中のモノマー濃度を60質量%にする。窒素下で100℃に加熱した後、残りのモノマー混合物と、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエートおよびドデシルメルカプタンを含むNB3020とを加えて、反応終了時の油中のモノマー濃度を30質量%となるようにし、これを一定の計量供給速度で3時間以内に加える。この反応を100℃に保持し、開始剤の計量供給終了から0.5時間後および3.5時間後に、(モノマーの総量に対して)0.2%の2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタンを加える。この反応混合物を100℃で一晩撹拌し、濃度30質量%の最終的なVII(例2)を得る。
【0144】
比較例3
*
のプロセス
モノマー混合物(その組成を表5に示す)を、Nexbase 3020およびHydroseal G232 Hの50/50混合物で希釈して、油中のモノマー濃度を60質量%にする。四ツ口フラスコと精密ガラスサーベルスターラーとを備えた装置に、最初に上記で調製した反応混合物の50質量%を装入する。窒素下で120℃に加熱した後、この反応混合物に、表3に示すパーセンテージの量の2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン開始剤を加えて反応を開始する。この反応混合物のもう一方の50%に、同量の開始剤を120℃で3時間かけてフラスコに絶えず加える。この反応を120℃に保持し、反応混合物の計量供給から2時間後および4時間後に、(モノマーの量に対して)0.2%の2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタンを加える。この反応混合物を120℃でさらに2時間撹拌し、NB3020で希釈して、油中のポリマーの42.5質量%溶液にし、最終的なVII(比較例3*)を得る。
【0145】
比較例4
*
、5
*
および6
*
のプロセス
四ツ口フラスコと精密ガラスサーベルとを備えた装置に、モノマー混合物(その組成を表3に示す)を装入し、重合油NB3020を加えて、油中のモノマー濃度を60質量%にする。窒素下で115℃に加熱した後、NB3020中のt-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエートおよびドデシルメルカプタンの10質量%溶液を、一定の計量供給速度で3時間以内に加える。この反応を115℃に保持し、開始剤の計量供給終了から0.5時間後および3.5時間後に、(モノマーの総量に対して)0.2%の2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタンを加える。この反応混合物を115℃でさらに2時間撹拌し、NB3020で希釈して、油中のポリマーの30質量%溶液にし、最終的なVIIを得る。
【0146】
表5に、実施例および比較例の製造に使用した反応混合物を示す。各モノマー成分は、合計で100%になる。開始剤の量および連鎖移動剤の量を、モノマーの総量に対して示す。
【0147】
【0148】
本発明による2つの実施例(例1および2)を製造した。さらに、4つの比較例(例3*、4*、5*および6*)を製造した。比較例3*および6*のC1AMAおよびC4AMAの量は少なく、特にC1AMAの量は非常に少ない。
【0149】
比較例4*および*5は、多量のC1AMAおよびC4AMAを有するが、C1AMAとC4AMAとの比は、本発明に従っておらず、すなわち、C1AMAに対して過剰のC4AMAを使用する。
【0150】
VI向上剤候補の評価
本発明に従って多量のC1AMAを用いて合成されたポリマーのせん断抵抗性の効果の改善を実証するために、基油中の該ポリマーの対応する添加剤組成物を製造し、対応する永久せん断損失を求めた。結果を以下の表6にまとめた。
【0151】
永久せん断損失(PSSI100)は、KRLを使用して、DIN51350 パート6に準拠して4000rpm、80℃で40時間にわたって測定した。せん断後の溶解性を、目視検査によって決定した。
【0152】
該ポリマーの特徴的な質量平均分子量(Mw)および多分散度(PDI)は、SEC測定によって得た。
【0153】
いずれのポリマーもNB3043に溶解させて、配合物のKV100が5.5cStとなるように添加率を調整した。さらに、0.6%のDIパッケージ(RC9300)を、KRL保護の目的でのみ加えた。配合物の動粘度データ、PSSI100および外観を表6に示す。
【0154】
表6に示すように、本発明によるポリマーは、比較例による高いVI水準を維持しつつ、比較例に比べてPSSI100が著しく低下したことを示す。通常、せん断安定性値(PSSI100)がこのように低い場合には、VIがさほど高くないことが予想されるため、この結果は驚くべきことである。驚くべきことに、ポリマー中のC1AMAおよびC4AMAの量を50質量%以上という多量とし、これにC1AMA対C4AMAの質量比=5:1~3:1を組み合わせることで、依然として高いVIを有する、よりせん断抵抗性の高いポリマーが得られることが判明した。
【0155】