(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】全固体電池用正極層材料、全固体電池用電極積層体及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240502BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240502BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240502BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240502BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240502BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20240502BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/0585
(21)【出願番号】P 2019174113
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 圭太
(72)【発明者】
【氏名】林 真大
(72)【発明者】
【氏名】山本 亮平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 郁奈
(72)【発明者】
【氏名】太田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真祈
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-125062(JP,A)
【文献】特開2018-156908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池用の正極層(11)を形成するための正極層材料であって、
正極活物質を含む第1粒子(10)と、固体電解質を含む第2粒子(20)とを含有し、
上記固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有するガーネット型固体電解質であり、
上記第2粒子は、上記固体電解質からなる基材粒子(21)と、その表面に設けられる基材コート層(22)との二層構造を有し、
上記基材コート層は、炭酸リチウムを主体とするリチウム化合物の層であり、上記正極層の形成条件である1000℃以下での焼成において上記基材粒子及び上記第1粒子と異相を形成せず、かつ上記二層構造を維持する、全固体電池用正極層材料。
【請求項2】
正極活物質及び固体電解質を含む正極層(11)と、上記固体電解質を含むセパレータ層(12)とが積層されている、全固体電池用電極積層体(1)であって、
上記固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有するガーネット型固体電解質であり、
上記正極層は、上記正極活物質を含む第1粒子(10)と、上記固体電解質を含む第2粒子(20)とを含有し、
上記第2粒子は、上記固体電解質からなる基材粒子(21)と、その表面に設けら
れる基材コート層(22)との二層構造を有し、
上記正極層と上記セパレータ層とは、1000℃以下における一体焼成により一体的に積層形成されており、
上記基材コート層は、炭酸リチウムを主体とするリチウム化合物の層であり、上記一体焼成
の条件である1000℃以下での焼成において、上記固体電解質及び上記正極活物質のいずれとも反応による生成物を形成せず、かつ上記二層構造を維持する、全固体電池用電極積層体。
【請求項3】
上記セパレータ層は、上記固体電解質を含む第3粒子(30)にて構成されており、
少なくとも、上記正極層に隣接する領域において、上記第3粒子は、上記固体電解質からなるセパレータ基材粒子(31)と、その表面に設けら
れるセパレータ基材コート層(32)との二層構造を有し、
上記セパレータ基材コート層は、炭酸リチウムを主体とするリチウム化合物の層であり、上記一体焼成
の条件である1000℃以下での焼成において、上記固体電解質及び上記正極活物質のいずれとも反応による生成物を形成せず、かつ上記二層構造を維持する、請求項2に記載の全固体電池用電極積層体。
【請求項4】
上記正極層は、上記固体電解質よりも融点の低い低融点リチウム化合物を、さらに含有する、請求項2又は3に記載の全固体電池用電極積層体。
【請求項5】
上記第2粒子において、上記基材コート層に含まれるリチウム量は、上記基材粒子に含まれるリチウム量に対して、5mol%以上40mol%以下である、請求項2~4のいずれか1項に記載の全固体電池用電極積層体。
【請求項6】
上記正極活物質は、リチウムと、ニッケル及びコバルトの少なくとも一方を含む複合酸化物である、請求項2~5のいずれか1項に記載の全固体電池用電極積層体。
【請求項7】
上記請求項2に記載の全固体電池用電極積層体の製造方法であって、
上記正極層の構成粒子及び上記セパレータ層の構成粒子を調製する調製工程と、
上記正極層の構成粒子を含む層と、上記セパレータ層の構成粒子を含む層とを、一体の積層体とする積層工程と、
上記積層体を一体焼成して電極積層体とする焼成工程と、を備えており、
上記調製工程において、上記基材粒子の合成用原料にリチウム成分を過剰に添加して大気雰囲気にて焼成することにより、理論組成に対して余剰となるリチウム成分を析出させて、粒子表面を層状に覆う上記基材コート層を形成する、全固体電池用電極積層体の製造方法。
【請求項8】
上記請求項3に記載の全固体電池用電極積層体の製造方法であって、
上記正極層の構成粒子及び上記セパレータ層の構成粒子を調製する調製工程と、
上記正極層の構成粒子を含む層と、上記セパレータ層の構成粒子を含む層とを、一体の積層体とする積層工程と、
上記積層体を一体焼成して電極積層体とする焼成工程と、を備えており、
上記調製工程において、上記基材粒子及び上記セパレータ基材粒子の合成用原料にリチウム成分を過剰に添加して大気雰囲気にて焼成することにより、理論組成に対して余剰となるリチウム成分を析出させて、上記基材粒子及び上記セパレータ基材粒子の表面を層状に覆う上記基材コート層及び上記セパレータ基材コート層を形成する、全固体電池用電極積層体の製造方法。
【請求項9】
上記請求項2~6のいずれか1項に記載の全固体電池用電極積層体を備え、上記セパレータ層を挟んで上記正極層と反対側に、負極活物質を含む負極層(13)が積層されている、全固体電池(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池用の正極層材料と、それを用いた電極積層体及び全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層とを、固体電解質を含むセパレータ層を挟んで一体化した積層体構造を有する。固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有する無機酸化物材料が知られており、層間の接合性の向上や接合界面の低抵抗化のために、各層の構成材料や焼成方法等の検討がなされている。
【0003】
特許文献1には、例えば、ケイ酸リチウムとリン酸リチウムとを含む固体電解質を用いた多層全固体型のリチウムイオン二次電池において、正極層又は負極層と、固体電解質を含む電解質層の界面に、活物質又は電解質として機能する中間層を設けることが開示されている。この中間層は、例えば、焼成時に活物質と固体電解質とが反応して、又は、活物質が固体電解質に拡散して形成された層であり、充放電反応に寄与しない不純物が生成しないために、界面の接合を強固にしながら、電極抵抗の低減を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、全固体電池用の固体電解質として、ガーネット型の結晶構造を有するリチウムイオン伝導性の固体電解質が注目されている。ガーネット型の固体電解質は、例えば、Li(リチウム)とLa(ランタン)とZr(ジルコニウム)とO(酸素)を含む複合酸化物であり、負極層に電極電位の低いリチウム金属等を用いることで、電池起電力を大きくし、高出力を得ることが期待される。
【0006】
一方、正極層において、特許文献1のような活物質と固体電解質とを含む層を採用して、セパレータ層との接合性を向上させることが検討されている。ところが、ガーネット型の固体電解質を用いた場合には、800℃以上の温度域において、正極活物質との反応により、充放電反応に寄与しない不純物が生成してしまう。そのために、正極層とセパレータ層とを一体焼成する過程で、固体電解質と正極活物質とが接触する界面に異相が形成されて、充放電特性が低下することが判明した。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、積層構造の全固体電池に用いられ、ガーネット型の固体電解質と正極活物質との反応を抑制して、電池性能の向上が可能な全固体電池用正極層材料と、それを用いた電極積層体及び全固体電池を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
全固体電池用の正極層(11)を形成するための正極層材料であって、
正極活物質を含む第1粒子(10)と、固体電解質を含む第2粒子(20)とを含有し、
上記固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有するガーネット型固体電解質であり、
上記第2粒子は、上記固体電解質からなる基材粒子(21)と、その表面に設けられる基材コート層(22)との二層構造を有し、
上記基材コート層は、炭酸リチウムを主体とするリチウム化合物の層であり、上記正極層の形成条件である1000℃以下での焼成において上記基材粒子及び上記第1粒子と異相を形成せず、かつ上記二層構造を維持する、全固体電池用正極層材料にある。
【0009】
また、本発明の他の態様は、
正極活物質及び固体電解質を含む正極層(11)と、上記固体電解質を含むセパレータ層(12)とが積層されている、全固体電池用電極積層体(1)であって、
正極活物質及び固体電解質を含む正極層(11)と、上記固体電解質を含むセパレータ層(12)とが積層されている、全固体電池用電極積層体(1)であって、
上記固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有するガーネット型固体電解質であり、
上記正極層は、上記正極活物質を含む第1粒子(10)と、上記固体電解質を含む第2粒子(20)とを含有し、
上記第2粒子は、上記固体電解質からなる基材粒子(21)と、その表面に設けられる基材コート層(22)との二層構造を有し、
上記正極層と上記セパレータ層とは、1000℃以下での一体焼成により一体的に積層形成されており、
上記基材コート層は、炭酸リチウムを主体とするリチウム化合物の層であり、上記一体焼成の条件である1000℃以下での焼成において、上記固体電解質及び上記正極活物質のいずれとも反応による生成物を形成せず、かつ上記二層構造を維持する、全固体電池用電極積層体にある。
なお、上記他の態様の全固体電池用電極積層体を製造する方法としては、
上記正極層の構成粒子及び上記セパレータ層の構成粒子を調製する調製工程と、
上記正極層の構成粒子を含む層と、上記セパレータ層の構成粒子を含む層とを、一体の積層体とする積層工程と、
上記積層体を一体焼成して電極積層体とする焼成工程と、を備えており、
上記調製工程において、上記基材粒子の合成用原料にリチウム成分を過剰に添加することにより、上記焼成工程において、理論組成に対して余剰となるリチウム成分を析出させて、粒子表面を層状に覆う上記基材コート層を形成する、全固体電池用電極積層体の製造方法を採用することができる。
【0010】
本発明のさらに他の態様は、
上記全固体電池用電極積層体と、上記セパレータ層を挟んで上記正極層と積層される負極層(13)とを有する、全固体電池(100)にある。
【発明の効果】
【0011】
上記構成の全固体電池用正極層材料は、ガーネット型固体電解質を含む第2粒子が、基材粒子の表面に基材コート層を有する構造となっており、リチウムイオン伝導性を保持しつつ、異相の形成を抑制することができる。すなわち、正極層を形成するための焼成過程において、基材コート層が、第1粒子と基材粒子との間に介在して、第1粒子に含まれる正極活物質と、基材粒子を形成する固体電解質とが、直接接触することが阻害される。これにより、固体電解質と正極活物質との反応による異相の形成が抑制されるので、充放電特性が良好に維持される。
【0012】
この全固体電池用正極層材料からなる正極層は、ガーネット型固体電解質を含むセパレータ層と積層されて全固体電池用電極積層体を構成し、さらに、負極活物質を含む負極層と積層されて、全固体電池を構成することができる。したがって、イオン伝導性を確保しながら充放電反応に寄与しない異相の形成が抑制され、また、セパレータ層との接合性が向上することで、正極層の内部抵抗及びセパレータ層との界面抵抗が低減し、電池性能を向上させる。
【0013】
以上のごとく、上記態様によれば、積層構造の全固体電池に用いられ、ガーネット型の固体電解質と正極活物質との反応を抑制して、電池性能の向上が可能な全固体電池用正極層材料と、それを用いた電極積層体及び全固体電池を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1において、全固体電池用電極積層体の構成を模式的に示す断面図。
【
図2】実施形態1において、電極積層体を構成する正極層と固体電解質層の粒子構造を模式的に示す断面図で、
図1のII部拡大図。
【
図3】実施形態1において、電極積層体を構成する正極層における粒界構造を模式的に示す断面図で、
図2のIII部拡大図。
【
図4】実施形態1において、電極積層体を備える全固体電池の構成例を示す概略断面図。
【
図5】実施形態1において、電極積層体を構成する固体電解質の粒子構造による効果を説明するための模式的な断面図。
【
図6】実施形態1において、電極積層体の構成の変形例を模式的に示す断面図。
【
図7】実施形態2において、全固体電池用電極積層体の構成を模式的に示す断面図。
【
図8】実施例において、電極積層体に用いられる固体電解質粒子の作製手順を説明するための製造工程図。
【
図9】実施例において、全固体電池の作製手順の一例を説明するための製造工程図。
【
図10】実施例において、試験用の電極積層体を作製するための金型構造とセパレータ層の形成工程を説明するための模式的な図。
【
図11】実施例において、試験用の電極積層体を作製するための積層工程及び加圧工程を説明するための模式的な図。
【
図12】実施例において、全固体電池の作製手順の他の例を説明するための製造工程図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
以下に、全固体電池用正極層材料と、それを用いた全固体電池用電極積層体及び全固体電池に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
図1~
図3に示される全固体電池用電極積層体(以下、適宜、電極積層体と略称する)1は、全固体電池用正極層材料にて形成される正極層11を備えており、
図4に示される全固体リチウムイオン二次電池(以下、適宜、全固体電池と略称する)100の一部をなすものである。電極積層体1を構成する各層は、共通の基材材料として、リチウムイオン伝導性を有するガーネット型固体電解質(以下、適宜、固体電解質と略称する)を含有する。
【0016】
正極層11を形成するための正極層材料は、少なくとも、正極活物質を含む第1粒子10と、固体電解質を含む第2粒子20とを含有する。この正極層材料を焼成して得られる正極層11は、第1粒子10及び第2粒子20を含有する、同様の構成となっている。すなわち、粒子間に反応生成物等を形成せずに、第1粒子10及び第2粒子20を含む焼結体が形成されている。
【0017】
電極積層体1は、正極活物質及び固体電解質を含む正極層11と、固体電解質を含むセパレータ層12とが積層された、積層構造を有している。
正極層11は、正極主材となる第1粒子10に、リチウムイオン伝導性を有する第2粒子20を添加した構成となっている。正極層11において、第2粒子20は、固体電解質からなる基材粒子(以下、正極基材粒子と称する)21と、その表面に設けられ、正極層11の形成条件において基材粒子21及び第1粒子10と異相を形成しない化合物からなる基材コート層(以下、正極基材コート層と称する)22とを有する。
【0018】
セパレータ層12は、少なくとも、固体電解質を含む第3粒子30にて構成されている。好適には、少なくとも、セパレータ層12と正極層11とが隣接する領域において、第3粒子30は、第2粒子20と同様の構成となっている。すなわち、セパレータ層12において、固体電解質からなる基材粒子(以下、セパレータ基材粒子と称する)31の表面には、正極層11の形成条件において基材粒子31及び第1粒子10と異相を形成しない化合物からなる基材コート層(以下、セパレータ基材コート層と称する)32が設けられる。
【0019】
好適には、セパレータ層12と正極層11とは、一体焼成により一体的に積層形成されている。このとき、第2粒子20の正極基材コート層22、第3粒子30のセパレータ基材コート層32を構成する化合物は、一体焼成の温度条件において、固体電解質及び正極活物質のいずれとも反応による生成物を形成しないリチウム化合物からなることが望ましい。
【0020】
好適には、正極層11を構成する第2粒子20において、正極基材コート層22又はセパレータ基材コート層32に含まれるリチウム量は、それぞれ、正極基材粒子21又はセパレータ基材粒子31に含まれるリチウム量に対して、5mol%以上40mol%以下であることが望ましい。
【0021】
このとき、正極基材コート層22又はセパレータ基材コート層32は、正極基材粒子21又はセパレータ基材粒子31の原料に含まれる余剰のリチウム成分の析出物にて構成することができ、リチウム量の調整が容易にできる。
【0022】
また、正極層11は、第1粒子10及び第2粒子20の他に、正極基材粒子21を構成する固体電解質よりも融点の低い低融点リチウム化合物を、さらに含有することができる。
正極層11において、第1粒子10に含まれる正極活物質は、好適には、リチウムと、ニッケル及びコバルトの少なくとも一方を含む複合酸化物であることが望ましい。
【0023】
次に、電極積層体1の詳細と、電極積層体1を適用した全固体電池100の構成例について、説明する。
図4に示すように、全固体電池100は、正極層11と、セパレータ層12と、負極層13とを有する。セパレータ層12は、正極層11と負極層13との間に配設されて、両層を隔てると共に、イオン伝導体として機能する。全固体電池100は、電極積層体1を主要部として作製され、例えば、自動車用の電源又は各種機器用の電源として用いられる。
【0024】
電極積層体1は、少なくとも、正極活物質及び固体電解質を含む正極層11と、固体電解質を含むセパレータ層12とが積層された、複層構造を有している。全固体電池100は、電極積層体1に、さらに、負極層13が積層されて構成される。具体的には、セパレータ層12を挟んで正極層11と反対側に、負極活物質を含む負極層13が積層される。正極層11又は負極層13の外側に、さらに正極集電体又は負極集電体を配置した構成とすることもできる。
【0025】
図1に模式的に示すように、電極積層体1において、正極層11は、少なくとも、正極活物質を含む第1粒子10と、固体電解質を含む第2粒子20とを含有する導電層からなる。正極層11に隣接するセパレータ層12は、少なくとも、固体電解質を含む第3粒子30を含有する電解質層からなる。正極層11とセパレータ層12とは、一体的に積層されており、両層の界面において、正極層11の構成粒子とセパレータ層12の構成粒子とが、互いに密接する状態にある。
【0026】
正極層11は、正極活物質を含む第1粒子10と、固体電解質を含む第2粒子20とを含有する正極層材料からなる。正極層材料は、これら主材料となる構成粒子を所定比で配合し、乾式又は湿式で混合したものであり、導電材等の公知の補助材料を含むこともできる。正極層材料を、所定厚さの層状に成形して、焼成することにより、正極層11となる焼結体が得られる。
【0027】
正極層11に用いられる正極活物質は、必ずしも限定されるものではないが、例えば、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)の少なくとも一方を含む複合酸化物が好適に用いられる。このような複合酸化物としては、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiCoO2等が挙げられる。
【0028】
負極層13は、負極活物質を含む層であり、負極活物質は、正極層11の正極活物質との間に所定の電位差が形成されるように、適宜選択される。このような負極活物質は、特に限定されるものではないが、例えば、リチウム金属又はリチウム合金、あるいは、リチウム含有複合酸化物等のリチウム化合物が挙げられる。好適には、リチウム金属が用いられ、電位差をより大きくすることができる。
【0029】
セパレータ層12は、固体電解質を含む第3粒子30を含有するセパレータ層材料からなり、正極層11と同様にして、セパレータ層材料を所定厚さの層状に成形し、焼成して得られる。その際に、正極層11とセパレータ層12とを一体の積層体に成形し、一体焼成することが望ましく、得られる正極層11とセパレータ層12の一体焼結体を、電極積層体1とすることができる。
【0030】
図2、
図3に拡大して示すように、正極層11の第2粒子20は、二層構造であり、固体電解質からなる正極基材粒子21と、その表面に形成される正極基材コート層22とを有する。正極基材コート層22は、正極基材粒子21の表面の全体を層状に覆って形成されており、第1粒子10との接触を阻害可能な材料によって構成されている。上述したように、第2粒子20は、正極層11を形成するための正極層材料の構成粒子であり、正極層11を形成する過程において、二層構造を維持する。
【0031】
このとき、
図5の上段に示すように、正極層材料の焼成工程において、第1粒子10と第2粒子20の界面に変化は生じない。すなわち、正極基材コート層22が介在することで、正極基材粒子21となる固体電解質と、第1粒子10となる正極活物質との接触が阻害される。これにより、固体電解質と正極活物質の反応が抑制され、これらの界面に固体電解質や正極活物質由来の異相が形成されないので、電池性能への影響を抑制できる。
【0032】
これに対して、
図5の下段に示すように、正極層11の第2粒子20が二層構造を有さず、正極基材粒子21の単層構造である場合には、正極基材コート層22が介在しないので、正極層材料の焼成工程において、正極基材粒子21となる固体電解質と、第1粒子10となる正極活物質との接触が可能になる。この場合には、高温状態(例えば、800℃以上)において、固体電解質と正極活物質とが反応し、異相(A)が形成されることで、界面が不活性化して、電池性能を低下させる懸念がある。
【0033】
セパレータ層12を構成する第3粒子30は、第2粒子20と同様の二層構造となっていることが望ましい(例えば、
図1、
図2参照)。その場合には、第3粒子30は、固体電解質からなるセパレータ基材粒子31の表面に、セパレータ基材コート層32を有する。セパレータ基材コート層32は、セパレータ基材粒子31の表面の全体を層状に覆って形成されており、正極層11と隣接して配置されても、セパレータ基材粒子31と第1粒子10との接触を阻害可能な材料によって構成されている。
【0034】
これにより、正極層11の内部のみならず、セパレータ層12との界面に存在する第1粒子10、又は、焼成過程でセパレータ層12に拡散する第1粒子10に対しても、同様の効果が得らえる。すなわち、セパレータ層12の第3粒子30が、正極層11の第1粒子10と隣接して配置されている場合においても、第3粒子30の表面にセパレータ基材コート層32を有することで、セパレータ基材粒子31となる固体電解質と、第1粒子10となる正極活物質との接触が阻害される。これにより固体電解質と正極活物質の反応が抑制され、異相が形成されないので、電池性能への影響を抑制できる。
【0035】
正極基材コート層22又はセパレータ基材コート層32の構成材料は、正極基材粒子21又はセパレータ基材粒子31のリチウムイオン伝導性を阻害せず、かつ、正極層11が形成される条件において、正極基材粒子21又はセパレータ基材粒子31の表面を覆った状態を維持して、正極基材粒子21と第1粒子10との接触を阻害可能な材料であればよい。具体的には、正極層11とセパレータ層12が一体焼成される温度条件(例えば、1000℃以下)において、正極活物質又は固体電解質との間に異相を形成しないリチウム化合物、例えば、炭酸リチウム(Li2CO3)等のリチウム塩が挙げられる。これにより、電極積層体1及び全固体電池100を構成したときに、リチウムイオン伝導性が好適に維持される。
【0036】
正極基材粒子21又はセパレータ基材粒子31に用いられる固体電解質は、例えば、Li7La3Zr2O12を基本組成とするリチウムランタンジルコニウム系複合酸化物(以下、適宜、LLZと称する)を主成分として含む。LLZは、リチウムイオン伝導性を有する酸化物固体電解質であり、ガーネット型の結晶構造を有する。LLZのLaの一部をSr、Ca等の元素で置換し、あるいは、Zrの一部をNb、Ta等の元素で置換した構成であってもよい。このような固体電解質としては、例えば、Nbで置換したLi6.75La3Zr1.75Nb0.25O12(以下、適宜、LLZNと称する)等が挙げられる。
【0037】
正極層11の第2粒子20を構成する正極基材粒子21と、セパレータ層12の第3粒子30を構成するセパレータ基材粒子31は、同じ固体電解質材料にて構成されることが望ましいが、異なっていてもよい。
同様に、第2粒子20を構成する正極基材コート層22と、第3粒子30を構成するセパレータ基材コート層32は、同じ材料にて構成されることが望ましいが、異なっていてもよい。
【0038】
ここで、第2粒子20の正極基材コート層22に含まれるリチウム量は、正極基材粒子層21に含まれるリチウム量に対する比率が、5mol%以上40mol%以下であることが望ましい。同様に、第3粒子30のセパレータ基材コート層32に含まれるリチウム量は、セパレータ基材粒子層31に含まれるリチウム量に対する比率が、5mol%以上40mol%以下であることが望ましい。これら基材コート層22、32において、リチウム量が5mol%に満たないと、基材粒子層21、31の表面を覆って、反応を阻害するのに十分な層厚を確保することが容易でない。また、リチウム量が40mol%を超えると、基材粒子層21、31の表面を覆う層が厚くなり、イオン伝導度を低下させるおそれがある。
【0039】
このような第2粒子20の正極基材コート層22は、例えば、正極基材粒子21を調製する工程において、正極基材粒子21の合成用原料にリチウム成分を過剰に添加することによって形成することができる。このとき、合成用原料に含まれる余剰のリチウム成分が、正極基材粒子21の表面に析出して、層状に表面を覆うことで、正極基材コート層22が形成される。また、添加するリチウムの量を調整することで、添加量に応じたリチウム量とすることができる。
【0040】
同様に、第3粒子30のセパレータ基材コート層32は、例えば、セパレータ基材粒子31を調製する工程において、セパレータ基材粒子31の合成用原料にリチウム成分を過剰に添加することによって形成することができる。このとき、合成用原料に含まれる余剰のリチウム成分の析出物が、セパレータ基材粒子31の表面を層状に覆うことで、セパレータ基材コート層32が形成される。また、添加するリチウムの量を調整することで。添加量に応じたリチウム量とすることができる。
【0041】
また、正極層11及び正極層材料は、例えば、正極基材粒子21を構成する固体電解質よりも融点の低い低融点リチウム化合物を、焼結助剤としてさらに含有することができる。
同様に、セパレータ層12及びセパレータ層材料は、セパレータ基材粒子21を構成する固体電解質よりも融点の低い低融点リチウム化合物を、焼結助剤としてさらに含有することができる。
このような低融点リチウム化合物(以下、適宜、低融点化合物と略称する)としては、焼成時の温度条件において液相となるリチウム含有酸化物、好適には、リチウム(Li)とホウ素(B)を含む種々の複合酸化物が用いられる。具体的には、例えば、Li3BO3、Li4B2O5、LiBO2、Li6B4O9、Li2B4O7、Li3B7O12、LiB3O5、Li2B8O13等が挙げられる。具体的には、ホウ酸リチウム(Li3BO3)が好適に用いられる。
【0042】
このとき、
図6に示すように、焼成過程において、低融点化合物が溶融することにより、第1粒子10と第2粒子20の粒界に液相が形成されて、より低温での焼結を可能にする。したがって、高温による異相の形成等を抑制して、電池性能を良好に維持することができる。焼成温度は、例えば、1000℃以下であり、固体電解質が焼結しイオン伝導性が確保されるように、任意に設定される。焼成温度が1000℃を超えると、正極活物質が熱分解を起こし始めることで、電池性能が低下し、あるいは、基材コート層22、32となる析出物が揮発して、反応を抑制する所望の効果が得られないおそれがある。
【0043】
(実施形態2)
上記実施形態1では、電極積層体1において、正極層11に積層されるセパレータ層12の全体が、二層構造の第3粒子30を含む構成例としたが、セパレータ層12は、その一部の領域が、二層構造の第3粒子30にて構成されるようにしてもよい。以下、上記実施形態1との相違点を中心に説明する。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0044】
図7に示すように、本形態では、セパレータ層12を二層構造として、正極層11に隣接する領域を第1セパレータ層121、第1セパレータ層121を挟んで正極層11と反対側の領域を第2セパレータ層122としている。セパレータ層12を構成する第3粒子30は、第1セパレータ層121においては、上記実施形態1におけるセパレータ層12と同様に、セパレータ基材粒子31とセパレータ基材コート層32とからなる二層構造となっている。第2セパレータ層122を構成する第3粒子30は、セパレータ基材コート層32を有しないセパレータ基材粒子31の単層構造となっている。
【0045】
第1セパレータ層121は、正極層11とセパレータ層12との界面に存在する第1粒子10、又は焼成過程で正極層11からセパレータ層12に拡散する第1粒子10と接触する可能性がある領域を含むように、層厚等を設定することが望ましい。
第2セパレータ層122の層厚や、第1セパレータ層121と第2セパレータ層122との層厚比等は、任意に設定することができる。
【0046】
このように、少なくとも、正極層11に隣接する所定厚さの領域を、第1セパレータ層121とすることで、隣接する第2セパレータ層122を、セパレータ基材コート層32を省略した簡易な構造とすることができる。その他の構成は、上記実施形態1と同様であり、第1粒子10とセパレータ基材粒子31との接触に起因する異相の形成が抑制される。
したがって、セパレータ基材コート層32を有する二層構造の第3粒子30の使用を最小限とし、より簡易な構成で、上記実施形態1と同様の効果が得られる。
【実施例】
【0047】
(実施例1~5)
次に、
図8に示す手順で、第2粒子20及び第3粒子30となる固体電解質粒子を作製した。これを用いて、さらに
図9に示す手順で、電極積層体1及び全固体電池100を作製して評価した。ガーネット型の固体電解質としては、Li
6.75La
3Zr
1.75Nb
0.25O
12(LLZN)を用いた。
表1に示すように、第1粒子10の正極活物質として、実施例1、3~5は、LiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2(以下、NMCと略称する)を、実施例2は、LiCoO
2(以下、適宜、LCOと略称する)を用いた。また、実施例1~5の負極活物質としては、リチウム(金属)を用いた。
【0048】
また、実施例1、2、4、5においては、正極層11の第2粒子20として、LLZNの化学量論組成よりもLi原料を過剰に添加することにより、表面に炭酸リチウム(LiCO3)を析出させた表面コートLLZNを用いた。実施例3は、正極層11の第2粒子20に加えて、セパレータ層12の第3粒子30についても、表面コートLLZNを用いた。
【0049】
(固体電解質粒子の作製)
図8に示すように、LLZNの合成用原料として、LiOH・H
2O、La(OH)
3、ZrO
2、Nb
2O
5を用いた。まず、これら合成用原料の粉末を、表2に基づいて理論組成となるように秤量し、第1混合工程(1)において、配合した原料を、遊星ボールミルで混合した。この混合原料を、第1焼成工程(2)において、大気雰囲気中にて700℃で焼成して、基材粒子21、31となるLLZNを合成した。
表2は、LLZNの合成量を1molとする場合について、各原料化合物の純度(%)とmol質量(g/mol)、理論組成におけるmol組成比と、理論秤量値(g)を示したものである。
【0050】
次に、第2混合工程(3)において、合成したLLZNの表面に、さらに、基材コート層22、32を形成するために、余剰のLiOH・H2Oを添加して、遊星ボールミルで混合した。この混合原料を、第2焼成工程(4)において、大気雰囲気にて700℃で焼成して、LLZNの表面にLi2CO3を析出させ、第2粒子20、第3粒子30となる表面コートLLZNを得た。
【0051】
このとき、表1に示すように、実施例1~5について、基材コート層22、32として析出させるLi2CO3量を、LLZNに含まれるLi量に対する比率が、5mol%~40mol%の範囲となるように変更した。このコート量(比率:mol%)と、第1混合工程(1)後のLLZN回収量(g)とを用いて、第2混合工程(3)にて添加される、LiOH・H2Oの後添加量(g)を、下記式から算出することができる。
LiOH・H2Oの後添加量=
(LLZN回収量/固体電解質のmol質量)×コート量×(LiOH・H2Oのmol質量)
【0052】
なお、第1焼成工程(2)の焼成温度は、Liの揮発が生じない温度(700℃)に設定されるので、第2混合工程(3)におけるLiOH・H2Oの後添加量(g)の算出において、第1焼成工程(2)におけるLiの揮発は考慮されていない。
【0053】
【0054】
【0055】
(全固体電池の作製)
次いで、
図9に示すように、得られた表面コートLLZNを用いて、正極層11とセパレータ層12を積層した電極積層体1を作製し、さらに、全固体電池100を作製した。
まず、混合工程(11)において、正極層11を形成するための正極層原料を配合し、乳鉢で混合した混合粉を用意した。また、セパレータ層12を形成するためのセパレータ原料を用意した。
【0056】
このとき、実施例1~5において、正極層原料は、得られた表面コートLLZNからなる固体電解質粉(第2粒子20)と、正極活物質であるNMC又はLCOからなる正極粉(第1粒子10)を含む。また、セパレータ原料は、得られたLLZN又は表面コートLLZNからなる固体電解質粉(第3粒子30)である。
【0057】
また、正極層原料において、正極粉となる正極活物質(第1粒子10)と、固体電解質粉となる表面コートLLZN(第2粒子20)との配合比は、以下の通りとした。
正極活物質/表面コートLLZN=50質量%/50質量%
なお、得られた表面コートLLZNの平均粒径(D50)は、2μmであった。
【0058】
積層工程(12)、加圧成形工程(13)において、これら正極層原料の混合粉、セパレータ原料の固体電解質粉を積層し、さらに加圧成形して、試験用の電極積層体1を作製した。
図10に、積層体の作製に用いられる金型200の構成例を示す。
図10において、金型200は、中央に貫通穴を有する円筒状の第1金型201と、貫通穴の一端側を閉鎖する円板状の第2金型202と、貫通穴の他端側から挿通される円柱状の第3金型203とからなる。
【0059】
まず、第1金型201の貫通穴内に、セパレータ層原料の固体電解質粉101を投入し、第3金型203を差し込んで、第2金型202との間で、形状を整える程度に加圧した。次いで、
図11に示すように、第3金型203を取り外して、層状に成形された混合紛101の上方から、正極層原料の混合紛102を投入し、再度、第3金型203を差し込んで、98kPaで加圧成形した。
【0060】
焼成工程(14)において、得られた加圧成形体を、大気雰囲気にて900℃で焼成して、電極積層体1とした。さらに、集電体形成工程(15)において、この電極積層体1の正極層11側に、正極集電体となるAuペーストをコートし、負極層形成工程(16)において、セパレータ層12側に、負極活物質となるLi金属の貼付を行って、試験用の全固体電池100とした。
【0061】
このようにして得られた実施例1~5の全固体電池100について、異相の発現の有無と、焼成前後の放電容量の変化を調べた結果を表1に併記した。
表1において、炭酸リチウム量は、ガーネット型固体電解質に含まれるリチウム量に対する比率(mol%)であり、ICP発光分光分析法による測定結果に基づいて算出した。具体的には(実施例1)、表3に示されるICP測定結果から、表面コートLLZNに含まれるリチウムの総量を算出し、表面コート前のLLZNの化学論組成に基づくリチウム量を差し引いた値を、表面コートされたリチウム量として、下記式から算出した。
化学量論組成:Li6.75La3Zr1.75Nb0.25O12
(8.358-6.75)/6.75×100=23mol%
【0062】
【0063】
また、異相の有無の判断は、X線回折法(XRD)を用いた元素分析により行い、基準となる焼成前の正極層原料に対して、焼成後に新規のピークが発現したときに、異相ありと判断した。
放電容量は、全固体電池100の充放電試験を行い、所定の電位まで充電し放電させたときの放電容量を測定した。焼成なしの状態での放電容量を100%として、焼成した後の放電容量の割合(%)を算出し、75%以上の特性が得られたものを、可とし、75%未満のものは、不可とした。
【0064】
表1に明らかなように、実施例1~5では、いずれも異相の発現は確認されなかった。また、放電容量は、正極層11の第2粒子20に正極基材コート層22を設けた実施例1、2、4、5において、76%~90%の範囲となり、良好な特性が得られた。さらに、セパレータ層12の第3粒子30にもセパレータ基材コート層32を設けた実施例3においては、放電容量が98%に向上した。
【0065】
(比較例1、2)
比較のため、表4に示すように、固体電解質粒子の表面をコートする炭酸リチウム量を変更し、それ以外は、実施例1と同様の手順で、正極層材料及びセパレータ材料を用意し、比較例1、2の電極積層体1を作製した。さらに、これら比較例1、2の電極積層体1を用いて、試験用の全固体電池100を作製した。
比較例1では、炭酸リチウム量が0mol%となるように、LiOH・H2Oの後添加を行わず、表面コートされていないLLZNを、正極層11の第2粒子20として用いた。比較例2では、LiOH・H2Oの後添加量を、炭酸リチウム量が50mol%となるように調整して、得られた表面コートLLZNを、正極層11の第2粒子20として用いた。
【0066】
これら比較例1、2について、同様にして、異相の発現の有無と、焼成前後の放電容量の変化を調べた結果を表4に併記した。
表4に明らかなように、比較例1において、異相の発現が確認され、また、比較例1、2のいずれも、放電容量が0%と大きく低下した。これは、比較例1においては、第2粒子20が正極基材コート層22を有しないことで、正極基材粒子21となるLLZNと、第1粒子10となる正極活物質との反応が生じ、異相の形成により電池性能を低下させたものと推察される。また、比較例2では、正極基材コート層22が正極基材粒子21を厚く覆うことにより、異相の形成は抑制されるものの、イオン伝導度が低くなって、電池性能を低下させたものと推察される。
【0067】
【0068】
(実施例6)
実施例1と同様の手順で作製された、LLZN及び表面コートLLZNを用いて、正極層材料及びセパレータ材料を用意し、さらに、低融点化合物となるリチウムとホウ素を含む複合酸化物を添加して、実施例6の電極積層体1を作製した。また、この実施例6の電極積層体1を用いて、試験用の全固体電池100を作製した。
この場合の製造工程を、
図12に示す。
【0069】
図12に示すように、まず、混合工程(11)において、正極層11を形成するための正極層原料を配合し、乳鉢で混合した混合粉を用意した。また、セパレータ層12を形成するためのセパレータ原料を配合し、乳鉢で混合した。
【0070】
実施例6において、正極層原料は、表面コートLLZNからなる固体電解質粉(第2粒子20)と、正極活物質であるNMCからなる正極粉(第1粒子10)と、低融点化合物としてホウ酸リチウム(Li3BO3)を含む。また、セパレータ原料は、得られたLLZN又は表面コートLLZNからなる固体電解質粉(第2粒子20)と、低融点化合物としてLi3BO3を含んで構成される。低融点化合物として用いられるLi3BO3の融点(810℃)は、焼成温度(900℃)よりも低い。
【0071】
このとき、正極層原料において、正極活物質(第1粒子10)と、表面コートLLZN(第2粒子20)と、低融点化合物の配合比は、以下の通りとした。
正極活物質/表面コートLLZN/低融点化合物=50質量%/45質量%/5質量%
【0072】
その他は同様にして、積層工程(12)、加圧成形工程(13)、焼成工程(14)、集電体形成工程(15)、負極層形成工程(16)を経て、試験用の全固体電池100とした。
実施例6についても、同様にして、異相の発現の有無と、焼成前後の放電容量の変化を調べた結果を表4に併記した。
【0073】
表4の結果に明らかなように、実施例6においても、異相の発現は見られず、また、放電容量は97%と、実施例1、2よりも向上し、正極層11及びセパレータ層12に表面コートLLZNを用いた実施例3と、ほぼ同等の値が得られた。これは、低融点のLi3BO3の添加により、焼成時により低温で液相が形成され、正極層11及びセパレータ層12における焼結が促進されることで、放電容量の低下が抑制されたためと推察される。
【0074】
(実施例7)
実施例1と同様の手順で作製された、LLZN及び表面コートLLZNを用いて、正極層材料及びセパレータ材料を用意し、電極積層体1を作製した。この電極積層体1を用いて、試験用の全固体電池100を作製する際に、上記
図9に示した焼成工程(14)における焼成温度を800℃とした以外は、実施例1と同様にして、実施例7の全固体電池100を作製した。
【0075】
実施例7についても、同様にして、異相の発現の有無と、焼成前後の放電容量の変化を調べた結果を表4に併記した。
表4の結果に明らかなように、実施例7においても、異相の発現は見られず、また、放電容量は95%と、実施例1、2よりも向上した。これは、焼成温度をより低くすることで、正極層11及びセパレータ層12における反応が抑制され、放電容量の低下が抑制されたものと推察される。
【0076】
以上のように、LLZNの表面に炭酸リチウム等のリチウム化合物を析出させた表面コートLLZNを、正極層11の第2粒子20に用いることにより、異相の発現がなく、高い放電容量を示す全固体電池100が得られることが確認された。この効果を得るために、LLZNの表面をコートするリチウム化合物は、好適には、基材粒子21のリチウム量の5mol%~40mol%の範囲で用いられるとよい。さらには、正極層11のセパレータ層12の第3粒子30に表面コートLLZNを用いることにより、または、焼成条件において液相を形成する低融点リチウム化合物を添加することで、より高い効果が得られる。
【0077】
上記実施形態では、正極層11の第2粒子20において、正極基材コート層22の作製を、正極基材粒子21の合成用原料にリチウム成分を過剰に添加することによって行ったが、これに限らず、任意の方法を採用することができる。セパレータ層12の第3粒子30において、セパレータ基材粒子31の表面にセパレータ基材コート層32を形成する場合も、同様の方法を採用することができる。
【0078】
第2粒子20、第3粒子30の作成方法として、具体的には、スパッタリング法により、正極基材コート層22の材料をターゲット材料として、正極基材粒子21の表面に付着させる方法や、メカノフュージョン法を用いて、機械的な力により正極基材粒子21の表面を、正極基材コート層22の材料で被覆する方法等が挙げられる。さらに、ゾルゲル法を用いて、正極基材コート層22の材料を含む液相を、正極基材粒子21の表面に被覆した後に焼成することによっても、粒子表面にコート材を付着させることができる。第3粒子30の作成も同様にして行うことができる。
【0079】
これらの方法において、正極基材コート層22、セパレータ基材コート層32を形成する材料は、基材粒子21、31及び第1粒子10と異相を形成しない化合物であれば、基材粒子21、31と第1粒子10との間に介在して、これら粒子の接触を阻害可能であり、リチウム塩等のリチウム化合物に限らず、任意に選択することができる。
【0080】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
例えば、全固体電池用正極層材料を用いた全固体電池用電極積層体は、車両等の移動体用に限らず、家庭用の各種機器等、任意の用途に用いられる全固体電池その他、任意の用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 電極積層体
10 第1粒子
11 正極層
12 セパレータ層
13 負極層
20 第2粒子
21 正極基材粒子(基材粒子)
22 正極基材コート層(基材コート層)
30 第3粒子
31 セパレータ基材粒子(基材粒子)
32 セパレータ基材コート層(基材コート層)