(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】電動機およびこの電動機を備えた車両用動力装置、発電機およびこの発電機を備えた発電機付車輪用軸受
(51)【国際特許分類】
H02K 1/18 20060101AFI20240502BHJP
B60K 7/00 20060101ALI20240502BHJP
H02K 3/46 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
H02K1/18 C
B60K7/00
H02K3/46 B
(21)【出願番号】P 2019231054
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】川村 光生
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-204475(JP,A)
【文献】特開2005-204476(JP,A)
【文献】特開2003-009433(JP,A)
【文献】特開2019-018839(JP,A)
【文献】特開2004-028083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
B60K 7/00
H02K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアおよびこのステータコアに絶縁材料から成るボビンを介して巻回されたステータコイルを有するステータと、このステータに対し半径方向外方に対向するロータとを備えたアウターロータ型であり、前記ステータコアは、円環部と、この円環部から半径方向外方に突出し前記ステータコイルが巻回される円周方向複数のティースとを備えた電動機であって、
前記ステータコアは、前記円環部と複数の前記ティースとが分割され、前記各ティースは、先端部分の円周方向幅が、前記ティースにおける、前記ステータコイルが巻回されているティース主部の円周方向幅よりも幅広であり、前記円環部の外周面に、開口側に狭まり部を有する断面形状とされ軸方向に沿って延びる嵌合溝が円周方向に複数形成され、前記各ティースは、基端部分に、前記嵌合溝に嵌合する断面形状を有し前記円環部の各嵌合溝に軸方向に挿入されて前記円環部に対し径方向に離脱不能に嵌合する嵌合部がそれぞれ設けられ、前記各嵌合部は、円周方向の最大幅が前記ティース主部の円周方向幅よりも幅狭であり、
前記ボビンは、前記各ティースを挿通可能な筒状のボビン本体と、このボビン本体の両端縁部からフランジ状に延びる外径側および内径側鍔部とを有し
、前記ボビン本体と前記外径側鍔部とが一体に形成され、前記ボビン本体と前記内径側鍔部とが別部品で組立て可能に構成され、前記ボビン本体の外側面と、前記外径側鍔部の径方向内側面と、前記内径側鍔部の径方向外側面とで囲まれる環状空間に、前記ステータコイルが装着される電動機。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機において、前記各ティースは、前記ティース主部に前記ステータコイルが巻回された状態で前記円環部の各嵌合溝に軸方向に挿入されている電動機。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電動機において、前記各ティースの前記嵌合部は、前記円環部の前記狭まり部に嵌合する首部分と、この首部分よりも径方向の内径側で円周方向両側に突出する突出部分とで軸方向から見てT字を成す形状であり、前記円環部の前記嵌合溝は、前記嵌合部の前記突出部分および前記首部分に対応するT字形状の断面形状である電動機。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電動機において、前記各ティースは、前記先端部分の円周方向幅が前記ティース主部の円周方向幅の1.1倍~2.6倍である電動機。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電動機において、前記各ティースは、前記ティース主部の軸方向両端部が軸方向中間部よりも幅狭の段付き形状に形成されている電動機。
【請求項6】
請求項5に記載の電動機において、前記ティース主部の段付き形状における軸方向および円周幅方向の段差寸法が、それぞれ、前記ステータコイルが巻回された前記ティースの径方向に垂直な平面で前記ステータコイルを切断した断面におけるコイル幅寸法の0.5倍以上である電動機。
【請求項7】
固定輪およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持された回転輪を有し、この回転輪に設けられたハブフランジに車両の車輪が取付けられる車輪用軸受と、この車輪用軸受に取付けられた請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の電動機と、を備え、前記固定輪に前記ステータが取付けられ、前記回転輪に前記ロータが取付けられた車両用動力装置。
【請求項8】
請求項7に記載の車両用動力装置において、前記ハブフランジに前記車輪およびブレーキロータが取付けられ、前記ブレーキロータの内径よりも半径方向内方に前記電動機が設置され、且つ、前記ハブフランジと、前記車両における足回りフレーム部品のアウトボード側面との軸方向範囲に前記電動機が設置された車両用動力装置。
【請求項9】
ステータコアおよびこのステータコアに絶縁材料から成るボビンを介して巻回されたステータコイルを有するステータと、このステータに対し半径方向外方に対向するロータとを備えたアウターロータ型であり、前記ステータコアは、円環部と、この円環部から半径方向外方に突出し前記ステータコイルが巻回される円周方向複数のティースとを備えた発電機であって、
前記ステータコアは、前記円環部と複数の前記ティースとが分割され、前記各ティースは、先端部分の円周方向幅が、前記ティースにおける、前記ステータコイルが巻回されているティース主部の円周方向幅よりも幅広であり、前記円環部の外周面に、開口側に狭まり部を有する断面形状とされ軸方向に沿って延びる嵌合溝が円周方向に複数形成され、前記各ティースは、基端部分に、前記嵌合溝に嵌合する断面形状を有し前記円環部の各嵌合溝に軸方向に挿入されて前記円環部に対し径方向に離脱不能に嵌合する嵌合部がそれぞれ設けられ、前記各嵌合部は、円周方向の最大幅が前記ティース主部の円周方向幅よりも幅狭であり、
前記ボビンは、前記各ティースを挿通可能な筒状のボビン本体と、このボビン本体の両端縁部からフランジ状に延びる外径側および内径側鍔部とを有し
、前記ボビン本体と前記外径側鍔部とが一体に形成され、前記ボビン本体と前記内径側鍔部とが別部品で組立て可能に構成され、前記ボビン本体の外側面と、前記外径側鍔部の径方向内側面と、前記内径側鍔部の径方向外側面とで囲まれる環状空間に、前記ステータコイルが装着される発電機。
【請求項10】
固定輪およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持された回転輪を有し、この回転輪に設けられたハブフランジに車両の車輪が取付けられる車輪用軸受と、この車輪用軸受に取付けられた請求項9に記載の発電機と、を備え、前記固定輪に前記ステータが取付けられ、前記回転輪に前記ロータが取付けられた発電機付き車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等に設置される電動機およびこの電動機を備えた車両用動力装置、発電機およびこの発電機を備えた発電機付車輪用軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に設置される補助動力装置付き車輪用軸受装置として、車輪用軸受フランジとナックルのアウトボード側面との軸方向範囲で、且つ、ブレーキロータの外周部よりも半径方向内方に補助動力装置の駆動源となる電動機を備えた技術が提案されている(特許文献1)。
【0003】
図18に示すように、電動機として、環状のヨーク50の径方向外側に、等角度間隔で放射状に突出する複数のティース51が結合した構造が提案されている(特許文献2)。この構造では、ヨーク側嵌合溝52の嵌入凸部53を各ティース51の嵌入凹部に嵌入することで、各ティース51を径方向に抜け止めしている。また円周方向で隣り合うボビン54のフランジ55,56同士を互い違いに切り欠き部において径方向に重ねることで、ヨーク50への浸水等を抑制し、絶縁性を確保している。
【0004】
その他、
図19に示すように、各分割コア57が同一形状で円周方向に連結されて1つの円環状のステータコアを構成する電動機が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-52482号公報
【文献】特開2012-65510号公報
【文献】特許第4286829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において、減速機のないダイレクト構造のインホイールモータは限られた空間内で出力トルクを最大化させる必要がある。特許文献1では、ロータとステータとが対向する面積を増やすために、アウターロータに永久磁石を配置しインナーステータにコイルを配置したアウターロータ型の永久磁石同期モータにして、径方向のトルク発生位置を外径側としている。しかし、インホイールモータは軸方向寸法にも制約があり、高トルク化が難しい。
【0007】
特許文献2では、前述したように各ティース51を径方向へ抜け止めし、且つフランジ55,56同士を径方向に重ね合わさなければならないため、各ティース51をヨーク50に対し軸方向から組み付ける方法を採用すると、各部品の寸法を高精度に管理しなければならず製作上困難である。各ティース51をヨーク50に対し径方向から組み付ける方法が採用された場合、円周方向に隣り合うコイル同士の干渉防止のため、コイルの占積率が低下する。したがって、限られた寸法内で電動機の出力を向上することが難しい。
【0008】
特許文献3では、
図19に示すように、各ティース部の円周方向幅A2よりも、内外径側の両端部の幅寸法A1,A3が大きいため、コイルおよびボビンを各ティース部に挿通して構成することができない。また各ティース部単体では左右非対称な形状となるため、巻線のための固定が難しい。
図20に示すように、各ティース部に絶縁のためのボビン5等を介してコイル6が巻回されるコイル巻線工程において、コイル6を強く巻き付けると、ティース8とボビン5の寸法差によりボビン5が楕円状に変形する。この場合、ティース8とボビン5間の全周に隙間δが生じ、熱伝導性を低下させる可能性がある。電動機の稼働時はコイル6に電流を流すことによりコイル6が発熱するが、ティース8とボビン5の間に隙間δが存在すると、コイル6の熱をティース8に効率よく伝えることができないため、電動機の出力を向上することができない。
【0009】
この発明の目的は、ロータの磁石とステータとの対向面積を増やしつつ太い断面積のステータコイルを用いることができ、径方向寸法および軸方向寸法の制約を満たすと共に、出力向上を図ることができる電動機およびこの電動機を備えた車両用動力装置、発電機およびこの発電機を備えた発電機付車輪用軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の電動機は、ステータコアおよびこのステータコアに巻回されたステータコイルを有するステータと、このステータに対し半径方向外方に対向するロータとを備えたアウターロータ型であり、前記ステータコアは、円環部と、この円環部から半径方向外方に突出し前記ステータコイルが巻回される円周方向複数のティースとを備えた電動機であって、
前記ステータコアは、前記円環部と複数の前記ティースとが分割され、前記各ティースは、先端部分の円周方向幅が、前記ティースにおける、前記ステータコイルが巻回されているティース主部の円周方向幅よりも幅広であり、前記円環部の外周面に、開口側に狭まり部を有する断面形状とされ軸方向に沿って延びる嵌合溝が円周方向に複数形成され、前記各ティースは、基端部分に、前記嵌合溝に嵌合する断面形状を有し前記円環部の各嵌合溝に軸方向に挿入されて前記円環部に対し径方向に離脱不能に嵌合する嵌合部がそれぞれ設けられ、前記各嵌合部は、円周方向の最大幅が前記ティース主部の円周方向幅よりも幅狭である。
【0011】
この構成によると、各ティースの先端部分の円周方向幅がティース主部の円周方向幅よりも幅広であるため、先端部分が径方向に直線状となるティースよりも、ステータの径方向先端と磁石との対向面積を増やすことでロータの磁石磁束を有効に利用ことができる。したがって、電動機のトルクを増加し且つコギングトルクを低減し得る。
【0012】
ところで一体ステータの場合、円周方向に隣り合うティースの間にステータコイルおよびステータコイルを射出するノズル等を通す必要があるため、円周方向に隣り合うティースの先端部分の隙間より太いステータコイルを巻くことができない。この発明の構成では、ステータコアは円環部と複数のティースとが分割されているため、円環部に組み付ける前の各ティースにステータコイル等を装着し得る。したがって、円周方向に隣り合うティースの先端部分の隙間より太い断面積のステータコイルを用いることが可能となる。
【0013】
各ティースの基端部分の嵌合部は、円周方向の最大幅がティース主部の円周方向幅よりも幅狭であるため、分割された各ティースの基端部分側からステータコイル等を容易に装着し得る。この場合、ステータコイルとティースとの絶縁性を確保する部材の形状を適切に保ちつつティース主部にステータコイルを巻線することができる。例えば、絶縁性を確保する部材にステータコイルを先に巻線した後、各ティースの基端部分側からステータコイル等を挿通すると、絶縁性を確保する部材の寸法管理が容易となり、ティースへ挿通する部材の隙間を適切に管理することができる。したがって、電動機の稼働時、ステータコイルに電流を流すことによりステータコイルが発熱するが、ティースへ挿通する部材の隙間を適切に管理することで、ステータコイルの熱をティースに効率よく伝えることができる。さらに各ティースの嵌合部が円環部の各嵌合溝に軸方向に挿入されているため、円周方向に隣り合うステータコイル同士が干渉することを確実に防止でき、且つコイルの占積率を向上し得る。前記隙間の管理とコイルの占積率の向上とにより、電動機の出力を向上することができる。また円環部の外周面に、開口側に狭まり部を有する断面形状とされ軸方向に沿って延びる嵌合溝が形成され、各ティースの基端部分に、前記嵌合溝に嵌合する断面形状の嵌合部が設けられているため、円環部に対し各ティースが径方向に離脱不能に嵌合する構造を実現でき、且つ円環部に対し各ティースを前記軸方向から容易に組み立てることが可能となる。
よって、ロータの磁石とステータとの対向面積を増やしつつ太い断面積のステータコイルを用いることができ、径方向寸法および軸方向寸法の制約を満たすと共に、電動機の出力向上を図ることができる。
【0014】
前記各ティースは、前記ティース主部に前記ステータコイルが巻回された状態で前記円環部の各嵌合溝に軸方向に挿入されていてもよい。この場合、円周方向に隣り合うステータコイル同士が干渉することを防止することができる。
【0015】
前記各ティースの前記嵌合部は、前記円環部の前記狭まり部に嵌合する首部分と、この首部分よりも径方向の内径側で円周方向両側に突出する突出部分とで軸方向から見てT字を成す形状であり、前記円環部の前記嵌合溝は、前記嵌合部の前記突出部分および前記首部分に対応するT字形状の断面形状であってもよい。このように、各ティースの嵌合部と円環部の嵌合溝を前述のような形状にすることで、円環部に対し各ティースが径方向に離脱不能に嵌合する構造を簡易に実現し得る。
【0016】
前記各ティースは、前記先端部分の円周方向幅が前記ティース主部の円周方向幅の1.1倍~2.6倍であってもよい。この場合、各ティースの先端部分の円周方向幅とティース主部の円周方向幅とが等しい電動機よりも出力の向上を図れる。
【0017】
前記各ティースは、前記ティース主部の軸方向両端部が軸方向中間部よりも幅狭の段付き形状に形成されていてもよい。
丸線、角線を問わず断面積の大きなステータコイルは可撓性に劣るため、小さな曲率半径で曲げることが困難である。このため、コイルエンド部のステータコイルとティースとの間には隙間が生じ、電動機の出力向上に寄与しない寸法分、電動機の軸方向寸法が大きくなる。
ティース主部の軸方向両端部が軸方向中間部よりも幅狭の段付き形状に形成されていれば、電動機の出力向上に寄与しないコイルエンド部の軸方向突き出し量を小さくして、ステータコイルの軸方向寸法を短縮することができる。
【0018】
前記ティース主部の段付き形状における軸方向および円周幅方向の段差寸法が、それぞれ、前記ステータコイルが巻回された前記ティースの径方向に垂直な平面で前記ステータコイルを切断した断面におけるコイル幅寸法の0.5倍以上であってもよい。この場合、屈曲されるステータコイルの表面の絶縁被膜が破壊されることなく電動機の機能が損なわれることもない。
【0019】
この発明の車両用動力装置は、固定輪およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持された回転輪を有し、この回転輪に設けられたハブフランジに車両の車輪が取付けられる車輪用軸受と、この車輪用軸受に取付けられた前記いずれかに記載の発明の電動機と、を備え、前記固定輪に前記ステータが取付けられ、前記回転輪に前記ロータが取付けられている。この場合、車輪用軸受に取付けられた電動機により、走行性能、制動性能を向上し、燃料消費量を低減することができる。その他、この発明の電動機につき前述した各効果が得られる。
【0020】
前記ハブフランジに前記車輪およびブレーキロータが取付けられ、前記ブレーキロータの内径よりも半径方向内方に前記電動機が設置され、且つ、前記ハブフランジと、前記車両における足回りフレーム部品のアウトボード側面との軸方向範囲に前記電動機が設置されてもよい。この場合、ブレーキロータの内径よりも半径方向内方で、ハブフランジと、足回りフレーム部品のアウトボード側面との軸方向範囲にある空間を効率的に利用して電動機を設置することができる。
【0021】
この発明の発電機は、ステータコアおよびこのステータコアに巻回されたステータコイルを有するステータと、このステータに対し半径方向外方に対向するロータとを備えたアウターロータ型であり、前記ステータコアは、円環部と、この円環部から半径方向外方に突出し前記ステータコイルが巻回される円周方向複数のティースとを備えた発電機であって、
前記ステータコアは、前記円環部と複数の前記ティースとが分割され、前記各ティースは、先端部分の円周方向幅が、前記ティースにおける、前記ステータコイルが巻回されているティース主部の円周方向幅よりも幅広であり、前記円環部の外周面に、開口側に狭まり部を有する断面形状とされ軸方向に沿って延びる嵌合溝が円周方向に複数形成され、前記各ティースは、基端部分に、前記嵌合溝に嵌合する断面形状を有し前記円環部の各嵌合溝に軸方向に挿入されて前記円環部に対し径方向に離脱不能に嵌合する嵌合部がそれぞれ設けられ、前記各嵌合部は、円周方向の最大幅が前記ティース主部の円周方向幅よりも幅狭である。
【0022】
この構成によると、各ティースの先端部分の円周方向幅がティース主部の円周方向幅よりも幅広であるため、直線状のティースよりも、ステータの径方向先端と磁石との対向面積を増やすことでロータの磁石磁束を有効に利用ことができる。したがって、発電機のトルクを増加し且つコギングトルクを低減し得る。
ステータコアは円環部と複数のティースとが分割されているため、円環部に組み付ける前の各ティースにステータコイル等を装着し得る。したがって、円周方向に隣り合うティースの先端部分の隙間より太い断面積のコイルを用いることが可能となる。
【0023】
各ティースの基端部分の嵌合部は、円周方向の最大幅がティース主部の円周方向幅よりも幅狭であるため、分割された各ティースの基端部分側からステータコイル等を容易に装着し得る。この場合、ステータコイルとティースとの絶縁性を確保する部材の形状を適切に保ちつつティース主部にステータコイルを巻線することができる。例えば、絶縁性を確保する部材にステータコイルを先に巻線した後、各ティースの基端部分側からステータコイル等を挿通すると、絶縁性を確保する部材の寸法管理が容易となり、ティースへ挿通する部材の隙間を適切に管理することができる。したがって、発電機の稼働時、ステータコイルに電流を流すことによりステータコイルが発熱するが、ティースへ挿通する部材の隙間を適切に管理することで、ステータコイルの熱をティースに効率よく伝えることができる。さらに各ティースの嵌合部が円環部の各嵌合溝に軸方向に挿入されているため、円周方向に隣り合うステータコイル同士が干渉することを確実に防止でき、且つコイルの占積率を向上し得る。前記隙間の管理とコイルの占積率の向上とにより、発電機の出力を向上することができる。また円環部の外周面に、開口側に狭まり部を有する断面形状とされ軸方向に沿って延びる嵌合溝が形成され、各ティースの基端部分に、前記嵌合溝に嵌合する断面形状の嵌合部が設けられているため、円環部に対し各ティースが径方向に離脱不能に嵌合する構造を実現でき、且つ円環部に対し各ティースを前記軸方向から容易に組み立てることが可能となる。
よって、ロータの磁石とステータとの対向面積を増やしつつ太い断面積のステータコイルを用いることができ、径方向寸法および軸方向寸法の制約を満たすと共に、発電機の出力向上を図ることができる。
【0024】
この発明の発電機付き車輪用軸受装置は、固定輪およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持された回転輪を有し、この回転輪に設けられたハブフランジに車両の車輪が取付けられる車輪用軸受と、この車輪用軸受に取付けられた前記いずれかに記載の発明の発電機と、を備え、前記固定輪に前記ステータが取付けられ、前記回転輪に前記ロータが取付けられている。この場合、車輪用軸受に取付けられた発電機により燃料消費量を低減することができる。その他、この発明の発電機につき前述した効果が得られる。
【発明の効果】
【0025】
この発明の電動機は、ステータコアおよびこのステータコアに巻回されたステータコイルを有するステータと、このステータに対し半径方向外方に対向するロータとを備えたアウターロータ型であり、前記ステータコアは、円環部と、この円環部から半径方向外方に突出し前記ステータコイルが巻回される円周方向複数のティースとを備えた電動機であって、前記ステータコアは、前記円環部と複数の前記ティースとが分割され、前記各ティースは、先端部分の円周方向幅が、前記ティースにおける、前記ステータコイルが巻回されているティース主部の円周方向幅よりも幅広であり、前記円環部の外周面に、開口側に狭まり部を有する断面形状とされ軸方向に沿って延びる嵌合溝が円周方向に複数形成され、前記各ティースは、基端部分に、前記嵌合溝に嵌合する断面形状を有し前記円環部の各嵌合溝に軸方向に挿入されて前記円環部に対し径方向に離脱不能に嵌合する嵌合部がそれぞれ設けられ、前記各嵌合部は、円周方向の最大幅が前記ティース主部の円周方向幅よりも幅狭である。このため、ロータの磁石とステータとの対向面積を増やしつつ太い断面積のステータコイルを用いることができ、径方向寸法および軸方向寸法の制約を満たすと共に、出力向上を図ることができる。
【0026】
この発明の車両用動力装置は、固定輪およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持された回転輪を有し、この回転輪に設けられたハブフランジに車両の車輪が取付けられる車輪用軸受と、この車輪用軸受に取付けられた前記いずれかに記載の発明の電動機と、を備え、前記固定輪に前記ステータが取付けられ、前記回転輪に前記ロータが取付けられているため、ロータの磁石とステータとの対向面積を増やしつつ太い断面積のステータコイルを用いることができ、径方向寸法および軸方向寸法の制約を満たすと共に、出力向上を図ることができる。
【0027】
この発明の発電機は、ステータコアおよびこのステータコアに巻回されたステータコイルを有するステータと、このステータに対し半径方向外方に対向するロータとを備えたアウターロータ型であり、前記ステータコアは、円環部と、この円環部から半径方向外方に突出し前記ステータコイルが巻回される円周方向複数のティースとを備えた発電機であって、前記ステータコアは、前記円環部と複数の前記ティースとが分割され、前記各ティースは、先端部分の円周方向幅が、前記ティースにおける、前記ステータコイルが巻回されているティース主部の円周方向幅よりも幅広であり、前記円環部の外周面に、開口側に狭まり部を有する断面形状とされ軸方向に沿って延びる嵌合溝が円周方向に複数形成され、前記各ティースは、基端部分に、前記嵌合溝に嵌合する断面形状を有し前記円環部の各嵌合溝に軸方向に挿入されて前記円環部に対し径方向に離脱不能に嵌合する嵌合部がそれぞれ設けられ、前記各嵌合部は、円周方向の最大幅が前記ティース主部の円周方向幅よりも幅狭である。このため、ロータの磁石とステータとの対向面積を増やしつつ太い断面積のステータコイルを用いることができ、径方向寸法および軸方向寸法の制約を満たすと共に、出力向上を図ることができる。
【0028】
この発明の発電機付き車輪用軸受装置は、固定輪およびこの固定輪に転動体を介して回転自在に支持された回転輪を有し、この回転輪に設けられたハブフランジに車両の車輪が取付けられる車輪用軸受と、この車輪用軸受に取付けられた前記いずれかに記載の発明の発電機と、を備え、前記固定輪に前記ステータが取付けられ、前記回転輪に前記ロータが取付けられているため、ロータの磁石とステータとの対向面積を増やしつつ太い断面積のステータコイルを用いることができ、径方向寸法および軸方向寸法の制約を満たすと共に、出力向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】この発明の実施形態に係る電動機の断面図である。
【
図4】同電動機を部分的に拡大して示す拡大断面図である。
【
図5】同ステータのステータコアにおける円環部の平面図である。
【
図6】同ステータコアのティースを軸方向から見た図である。
【
図7】同ティースの先端部分の円周方向幅をティース主部の円周方向幅で除した値と、出力トルクの割合との関係を示す図である。
【
図8】同ティースの先端部分の径方向寸法等を説明する図である。
【
図9】同ティースとステータコイル等の組立例を示す図である。
【
図10】同円環部の嵌合溝にティースの嵌合部が軸方向に挿入されている状態を示す斜視図である。
【
図11】この発明の他の実施形態に係る電動機のステータを部分的に拡大して示す図である。
【
図12】同電動機のティースを部分的に拡大して示す図である。
【
図13】同ティースにステータコイルが巻回された部分の拡大断面図である。
【
図14】同ティースとステータコイル等の組立例を示す図である。
【
図15】同ティースの嵌合部が円環部の嵌合溝に軸方向に挿入されている状態を示す斜視図である。
【
図16】この発明のさらに他の実施形態に係る電動機のティースとステータコイル等の組立例を示す図である。
【
図17】いずれかの電動機を備えた車両用動力装置の断面図である。
【
図18】従来例の電動機のステータの部分拡大断面図である。
【
図19】他の従来例の分割コアの形状例を示す図である。
【
図20】さらに他の従来例の電動機の課題を説明する図である。
【
図21】ティースに段付きを設けない比較例を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[第1の実施形態]
この発明の実施形態に係る電動機を
図1ないし
図10と共に説明する。この電動機は、例えば、ダイレクトドライブ構造のインホイールモータ駆動装置である車両用動力装置に組み込まれる。
<電動機の基本構造>
図1~
図3に示すように、この実施形態の電動機1は、分割構造を有する環状のステータ2と、このステータ2に対し半径方向外方に対向するロータ3とを備えたアウターロータ型の表面磁石型永久磁石電動機である。
図1は、
図3のI-I線断面図である。
図1および
図4に示すように、ステータ2は、ステータコア4と、このステータコア4にボビン5を介して巻回されたステータコイル6とを有する。ステータコア4は、円環部7と、この円環部7から半径方向外方に突出しステータコイル6が巻回される円周方向複数のティース8とを備える。ロータ3は、円筒状の磁性体24と、この磁性体24の内周面に円周等配に複数設けられる永久磁石25とを有する。
【0031】
<電動機の特徴について>
図4~
図6に示すように、このステータコア4は、円環部7と各ティース8とが分割構造で、各ティース8の先端部分8aがティース主部8bよりも円周方向両側に延びる。各ティース8の基端部分に設けられる嵌合部8cは、円周方向の最大幅A1がティース主部8bの円周方向幅A2よりも幅狭である。さらに
図10に示すように、各ティース8の嵌合部8cは、円環部7の各嵌合溝7aに対し軸方向L1に挿入される構造になっている。
【0032】
<詳細構造>
図4~
図6に示すように、ティース8は、ステータコイル6が巻回される中央部分であるティース主部8bの円周方向幅A2が一定である。このティース主部8bの円周方向幅A2を「歯幅A2」と言う場合がある。ティース8は、先端部分8aの円周方向幅(T字幅)A3つまりロータ3に対向する外径側の端部幅が歯幅A2よりも幅広であり、先端部分8aとティース主部8bとでT字形状に成形されている。
【0033】
円環部7の外周面に、開口側に狭まり部7aa、溝底側に拡幅部7abを有する断面形状とされ軸方向に沿って延びる嵌合溝7aが円周方向L2に複数形成されている。前記断面形状は、円環部7を軸方向に垂直な平面で切断して見た断面(
図5)の形状である。各ティース8は、基端部分に、円環部7の嵌合溝7aに嵌合する断面形状を有する嵌合部8cがそれぞれ設けられている。前記断面形状は、ティース8を軸方向L1に垂直な平面で切断して見た断面の形状である。円環部7と各ティース8の材質および製造方法は、必要に応じて選択することができる。例えば、複数の薄板状の電磁鋼板を軸方向L1に積層し、加締め、接着、溶接等の手段で一体化したものであってもよいし、圧粉磁心を用いてもよい。各ティース8または各ティース8をボビン5と共にインサート成形することも可能である。
【0034】
ティース8の嵌合部8cは、円環部7の各嵌合溝7aに軸方向L1に挿入されて円環部7に対し径方向L3に離脱不能に嵌合する。各ティース8の嵌合部8cは、首部分9と、突出部分10とを有する。首部分9は円環部7の狭まり部7aaに嵌合する。突出部分10は、首部分9よりも径方向の内径側で円周方向両側に突出し、円環部7の拡幅部7abに嵌合する。嵌合部8cは、これら首部分9と突出部分10とで軸方向から見てT字を成す形状であり、円環部7の嵌合溝7aに沿う形状に形成されている。この円環部7の嵌合溝7aは、狭まり部7aaおよび拡幅部7abを有する断面形状が、嵌合部8cの首部分9および突出部分10に対応するT字形状である。突出部分10の円周方向幅A1は、首部分9の円周方向幅A4よりも幅広である。さらに嵌合部8cは、円周方向L2の最大幅である突出部分10の円周方向幅A1が、ティース主部8bの円周方向幅A2よりも幅狭である。
【0035】
図4および
図9に示すように、ボビン5は、ステータコイル6が装着され、ステータコイル6とステータコア4との絶縁性を確保する絶縁材料から成る。このボビン5は、各ティース8を挿通可能な角筒状のボビン本体5aと、このボビン本体5aの両端縁部からフランジ状に延びる外径側および内径側鍔部5b,5cとを有する。ボビン本体5aの外側面と、外径側鍔部5bの径方向内側面と、内径側鍔部5cの径方向外側面とで囲まれる環状空間に、ステータコイル6が装着されるようになっている。
【0036】
<各部寸法について>
各ティース8は、先端部分8aの円周方向幅A3がティース主部8bの円周方向幅A2の1.1倍~2.6倍である。一例として、ティース8の先端部分8aの円周方向幅(T字幅)A3を歯幅A2で除した値と、電動機のトルクとの関係は
図7のグラフのようになる。同
図7において、横軸はT字幅/歯幅、縦軸はT字幅/歯幅が「1」の場合のトルクを100%とした場合のトルク割合を示す。
【0037】
この例では、ティース8の先端部分8aがT字でない場合(横軸の左端)と比較して、おおよそT字幅/歯幅が「2.6」までの範囲でトルクが高くなる。これはロータの磁石とステータとの対向面積が増加するためである。
図7は、ある形状の電動機の解析結果であり、電動機の緒元によって、トルクのピーク位置は変化するが、一般的にT字幅にはトルクが最大になる最適値が存在する。
【0038】
図8に示すように、ティース8の先端部分8aの径方向寸法B1は0.7mm以上3.0mm以下とする。先端部分8aの径方向寸法B1が0.7mm未満では、ティース8を円環部7に嵌合する際に、押圧する場所がなくなり、嵌合溝7aに対してティース8を軸方向L1に押し込むことができない。各ティース8の内径側にある円環部7との嵌合部8cだけで軸方向L1に押圧すると、ティース8が軸方向L1に平行に移動せずに傾き、嵌合部8cの異常が生じやすくなる。また、ティース8の一箇所に荷重を作用させると、その線対称位置の電磁鋼板の積層が分解する可能性がある。一方で先端部分8aの径方向寸法B1が大きすぎると、ステータコイル6を巻くことができる断面積S1または容積が小さくなり、電動機のトルクが低下するため、先端部分8aの径方向寸法B1の上限値を3.0mmとしている。
【0039】
<ティースとステータコイル等の組立例>
図9に各ティース8へのボビン5およびステータコイル6の組立例を示す。ティース8の嵌合部8cの最大幅が、ティース主部8bの歯幅よりも幅狭であるため、ステータ内径側からボビン5およびステータコイル6を容易に挿通し得る。
図9(a)に示すように、ティース8にステータ内径側からボビン5を装着した後、このボビン5にステータコイルを巻いてもよい。この場合、ステータ内径側にも鍔部5cのあるボビン5を使用することができるため、少ない部品点数および工程でステータコイルとステータコア間の絶縁性を確保できる。
【0040】
図9(b)に示すように、ボビン5にステータコイル6を巻き付けた後にティース8に装着してもよい。この場合、ボビン5の形状を適切に保ちつつステータコイル6を巻線することができる。
【0041】
図20(a)に示すように、ティース8にボビン5を装着し、その後ステータコイルを巻線する工程において、ステータコイルを強く巻き付けると、
図20(b)に示すように、ティース8とボビン5の寸法差によりボビン5が楕円状に変形し、ティース8とボビン5の間に隙間δが生じる。つまりステータコイル6を強く巻き付けると、ボビン5がティース8の角部で強くあたり、ボビン5が楕円状に変形して、全周に隙間δが生じる。この隙間δによりステータの熱伝導性を著しく低下させる可能性がある。
【0042】
電動機の稼働時はステータコイル6に電流を流し、それによりステータコイル6が発熱するが、ステータコイル6の熱をティース8に効率よく伝えることで、コイル温度が下がり、電動機の出力を向上させることができる。
図20(b)のように、ボビン5とティース8間に空隙が存在すると、ステータコイル6の熱がティース8に伝わりにくくなる。
【0043】
そこで、
図9(b)に示すように、ボビン5にステータコイル6を先に巻線することで、ボビン5の寸法管理が容易となり、ティース8へ挿通する隙間を適切に管理することができる。
図9(c)に示すように、ティース8に、ボビン5と、巻線形状に製造された空芯のステータコイル(コイル単体で巻いた形状とする空芯コイル)6を差し込んでもよい。この場合、巻線作業にあたり、ボビン5およびティース8を固定する必要がなく、容易に任意の巻線断面および巻き方を用いることができる。またボビン5を分割形状等にすることなく、容易にティース8にボビン5およびステータコイル6を組み立てることが可能となる。
【0044】
<ステータの組立例>
図10にステータ2の組立例を示す。
図9および
図10に示すように、各ティース8は、ティース主部8bにステータコイル6が巻回された状態で円環部7の嵌合溝7aに軸方向L1に挿入する。つまりティース8の嵌合部8cを、円環部7の外周面に設けられた嵌合溝7aに、電動機の軸方向L1から圧入することでステータコア4を組み立てる。
図10では、図示を省略しているが、ティース8にボビンおよびステータコイルを装着した状態で、円環部7の嵌合溝7aにティース8の嵌合部8cを圧入し、ステータ形状に組み立てた後に各ステータコイルを結線してステータアッシとなる。
【0045】
<作用効果>
以上説明した電動機1によれば、各ティース8の先端部分8aの円周方向幅A3がティース主部8bの円周方向幅A2よりも幅広であるため、先端部分が径方向に直線状となるティースよりも、ステータ2の径方向先端と磁石25との対向面積を増やすことでロータ3の磁石磁束を有効に利用することができる。したがって、電動機1のトルクを増加し且つコギングトルクを低減し得る。
【0046】
ステータコア4は円環部7と複数のティース8とが分割されているため、円環部7に組み付ける前の各ティース8にステータコイル6およびボビン5を装着し得る。したがって、円周方向に隣り合うティース8の先端部分8aの隙間より太い断面積のステータコイル6を用いることが可能となる。
【0047】
各ティース8の基端部分の嵌合部8cは、円周方向の最大幅A1がティース主部8bの歯幅A2よりも幅狭であるため、分割された各ティース8の基端部分側からステータコイル6およびボビン5を容易に装着し得る。この場合、ボビン5の形状を適切に保ちつつティース主部8bにステータコイル6を巻線することができる。これによりボビン5の寸法管理が容易となり、ボビン5とティース8との隙間を適切に管理することができる。したがって、電動機1の稼働時、ステータコイル6の熱をティース8に効率よく伝えることができる。さらに各ティース8の嵌合部8cが軸方向に挿入されているため、円周方向に隣り合うステータコイル6同士が干渉することを確実に防止でき、且つコイルの占積率を向上し得る。前記隙間の管理とコイルの占積率の向上とにより、電動機1の出力を向上することができる。また円環部7の外周面に、開口側に狭まり部7aaを有する断面形状とされ軸方向に沿って延びる嵌合溝7aが形成され、各ティース8の基端部分に、嵌合溝7aに嵌合する断面形状の嵌合部8cが設けられているため、円環部7に対し各ティース8が径方向に離脱不能に嵌合する構造を実現でき、且つ円環部7に対し各ティース8を軸方向から容易に組み立てることが可能となる。各ティース8は、ティース主部8bにステータコイル6が巻回された状態で円環部7の嵌合溝7aに軸方向L1に挿入するため、円周方向に隣り合うステータコイル6同士が干渉することを防止することができる。
よって、ロータ3の磁石25とステータ2との対向面積を増やしつつ太い断面積のステータコイル6を用いることができ、径方向寸法および軸方向寸法の制約を満たすと共に、電動機1の出力向上を図ることができる。
【0048】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0049】
<ティースの段付き形状例>
図11~
図15に示すように、各ティース8は、ティース主部8bの軸方向両端部8baが軸方向中間部よりも幅狭の段付き形状に形成されてもよい。
図11(a)は、ボビン5およびステータコイル6が装着された各ティース8の断面図(
図11(c)のXI(a)-XI(a)線断面図)である。
図11(b)は、
図11(a)のXI(b)-XI(b)線断面図である。
図11(c)は、ボビン5およびステータコイル6が装着された各ティース8を軸方向から見た図である。
図12(a)は各ティース8を軸方向から見た図であり、
図12(b)は
図12(a)のXII(b)-XII(b)線断面図である。
【0050】
図12および
図13に示すように、ティース主部8bの段付き形状における軸方向および円周幅方向の段差寸法W1,W2がそれぞれコイル径方向投影幅Aの0.5倍以上である。前記コイル径方向投影幅Aとは、コイル素線の曲げ変形を受ける幅寸法(丸線の場合はコイル直径)であり、具体的には、ステータコイル6が巻回されたティース8の径方向に垂直な平面で前記ステータコイル6を切断した断面におけるコイル幅寸法である。
【0051】
丸線、角線を問わず断面積の大きなステータコイルは可撓性に劣るため、小さな曲率半径で曲げることが困難である。このため、
図21に示すように、コイルエンド部6aのステータコイル6とティース8との間には隙間δ1が生じ、電動機の出力向上に寄与しない寸法分、電動機の軸方向寸法が大きくなる。
そこで、
図12および
図13に示すように、ティース主部8bの軸方向両端部8baが軸方向中間部よりも幅狭の段付き形状に形成されていれば、電動機の出力向上に寄与しないコイルエンド部の軸方向突き出し量を小さくして、ステータコイル6の軸方向寸法を短縮することができる。
【0052】
ところで、ステータコイルの小さい曲率半径での巻線に伴う屈曲により、コイル表面の絶縁被覆が破壊すると、ティースとステータコイル間もしくはステータコイル間同士で導通してしまい、電動機の機能が損なわれる。一般的にステータコイルとティースの間には絶縁体が挟み込まれるが、ティースのエッジ部はステータコイルとの沿面距離が最も近くなり、ステータコイルとステータコアとの絶縁性が損なわれやすい。
【0053】
ここで、ティース主部8bの段付き形状における軸方向および円周幅方向の段差寸法W1,W2がそれぞれコイル径方向投影幅Aの0.5倍以上であればよい。これにより、屈曲されるステータコイル6における内外径の各表面の絶縁被膜が破壊されることなく巻線することができる。一方でティース主部8bの段差寸法W1,W2を大きくしすぎると、ティース8の電磁鋼板の体積が減少し、電動機トルクの減少に繋がる。
【0054】
図示しないが、ティース主部における軸方向一端部または軸方向両端部は、複数の歯幅寸法の電磁鋼板を組み合わせてR形状としてもよい。この場合、電磁鋼板の種類が増えるため、加工・組立の工数および費用を要するが、前記R形状にすることで、ティースにおける電磁鋼板の体積が向上し、電動機トルクの向上に繋がる。
ステータコイルとティース間の絶縁部材として、絶縁紙、樹脂、絶縁塗装等を用いることができる。
【0055】
ボビンは、ボビン本体と外径側および内径側鍔部とが一体に形成されてもよく、
図14、
図16に示すように、ボビン本体5aと外径側鍔部5bとが一体に形成され、ボビン本体5aと内径側鍔部5cとが別部品で組立て可能に構成されてもよい。「一体に形成され」とは、対象とする複数の部分が、複数の要素を結合したものではなく単一の材料から例えば鍛造、機械加工等により単独の物の一部として成形されたことを意味する。ボビン本体5aと内径側鍔部5cとが別部品で組立て可能な場合、ティース8にボビン本体5aおよびステータコイル6を差し込んだ後、内径側鍔部5cを組立てることができる。この組立品を
図10、
図15に示すように、円環部7の各嵌合溝7aに軸方向L1に挿入し得る。
【0056】
<車両用動力装置>
いずれかの実施形態の電動機を車両用動力装置に搭載してもよい。
図17に示すように、車両用動力装置は、車輪用軸受15と、この車輪用軸受15に取り付けられた電動機1とを備える。車輪用軸受15は、固定輪である外輪16と、複列の転動体17と、回転輪である内輪18とを有する。外輪16に複列の転動体17を介して内輪18が回転自在に支持されている。内外輪18,16間の軸受空間には、グリースが封入されている。内輪18は、外輪16よりも軸方向のアウトボード側に突出した箇所にハブフランジ18aを有する。外輪16は、インボード側の端部において、ナックル等の足回りフレーム部品19にボルトで取付けられている。なおこの明細書において、車両用動力装置が車両に搭載された状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の車幅方向の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0057】
ハブフランジ18aのアウトボード側の側面には、ブレーキロータ20と従動輪である車輪21のホイール21aとが軸方向に重なった状態で、ハブボルト22により取り付けられている。ホイール21aの外周に、車輪21のタイヤ21bが取り付けられている。ホイール21aの軸方向幅内に、車輪用軸受15および電動機1が収まっている。
【0058】
外輪16の外周面に、電動機1のステータ2が取り付けられ、このステータ2の外周側にロータ3が配置されている。ロータ3は、回転ケース23と、この回転ケース23の内周に設けられる磁性体24と、この磁性体24に設けられる永久磁石とを備え、回転ケース23がハブフランジ18aに取り付けられている。ハブフランジ18aの外周面に、例えば、嵌合、溶接、または接着等により、回転ケース23のアウトボード側の内周面が固定されている。この例の電動機1は、車輪21の回転で発電を行い、給電されることによって車輪21を回転駆動可能である。
【0059】
電動機1は、ブレーキロータ20の内径20aよりも半径方向内方に設置されている。さらに電動機1におけるハブフランジ18aへの取付部を除く全体が、ハブフランジ18aと、足回りフレーム部品19のアウトボード側面との軸方向範囲L4に位置する。このため、電動機1を車輪用軸受15に支持する際には、車輪21の周辺の減衰装置などの構造の変更が必要ない。さらに車輪用軸受15についても、外輪以外の、内輪18などの構成部品は既存品を流用できる。
【0060】
この場合、ブレーキロータ20の内径20aよりも半径方向内方で、ハブフランジ18aと、足回りフレーム部品19のアウトボード側面との軸方向範囲L4にある空間を効率的に利用して電動機1を設置することができる。車輪用軸受15に取付けられた電動機1により、走行性能、制動性能を向上し、燃料消費量を低減することができる。
【0061】
<発電機付車輪用軸受>
車両に、発電を行う機能を有するが給電による回転駆動をしない発電機付車輪用軸受を搭載してもよい。この発電機付車輪用軸受は、モータを兼用しない発電機1Aと、車輪用軸受15とを備える。この発電機付車輪用軸受は、前述の車両用動力装置に対し、発電および回転駆動可能な電動機1を除き同一構成である。発電機付車輪用軸受が搭載される車両によれば、例えば、発電機1Aが発電した回生電力を用いて制動力を発生させることができる。
【0062】
電動機は、家庭用モータ、産業用モータ、工作機械用モータ、ロボット用モータ等にも適用可能である。発電機は、風力発電機または水力発電機の発電機に適用可能である。
電動機1は、IPM(Interior Permanent Magnet)同期モータ(もしくはIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)と標記)でもよい。
【0063】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0064】
1…電動機、1A…発電機、2…ステータ、3…ロータ、4…ステータコア、6…ステータコイル、7…円環部、7a…嵌合溝、7aa…狭まり部、8…ティース、8a…先端部分、8b…ティース主部、8c…嵌合部、9…首部分、10…突出部分、16…外輪(固定輪)、17…転動体、18…内輪(回転輪)、18a…ハブフランジ、19…足回りフレーム部品、20…ブレーキロータ、21…車輪