(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】抗体選択装置及び方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/00 20060101AFI20240502BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240502BHJP
G16C 60/00 20190101ALI20240502BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
C07K16/00
C12P21/08
G16C60/00
C12N15/13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019238649
(22)【出願日】2019-12-27
(62)【分割の表示】P 2016534918の分割
【原出願日】2014-11-26
【審査請求日】2020-01-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-27
(32)【優先日】2013-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ, ヴィカス ケー.
(72)【発明者】
【氏名】スワーツ, トレヴァー イー.
(72)【発明者】
【氏名】パタポフ, トーマス ダブリュ.
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】長井 啓子
【審判官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/177470(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/041643(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/114319(WO,A1)
【文献】Hotzel,I.et al.,mAbs,vol.4,pp.753-760(2012)
【文献】Bumbaca,D et al.,AAPS J.,vol.14,pp.554-558(2012)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00 - 19/00
C12N 15/00 - 15/90
REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピューターで実行される方法であって、
抗体についてクリアランス速度の上限を得ること;
抗体の軽鎖可変ドメイン(VL)アミノ酸配列及び重鎖可変ドメイン(VH)アミノ酸配列を用いて正味の電荷を計算すること;
前記正味の電荷が正味の電荷の範囲に適合する場合、抗体
の相補性決定領域(CDR)
であるLC CDR1、LC CDR3及びHC CDR3か
ら疎水性を計算すること;
前記疎水性が疎水性の上限を超えない場合、抗体が前記クリアランス速度の上限未満の予測されたクリアランス速度を有すると決定すること;及び
前記予測されたクリアランス速度が前記クリアランス速度の上限未満である場合、前記抗体が医薬品に含まれるのに適していると決定すること
を含む、方法。
【請求項2】
正味の電荷が、VLアミノ酸配列の正味の電荷とVHアミノ酸配列の正味の電荷との合計を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
正味の電荷が、pH5.5におけるVLアミノ酸配列の正味の電荷とVHアミノ酸配列の正味の電荷との合計を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
疎水性が、
CDRである、LC CDR1、LC CDR3及びHC CDR3の疎水性の値の加法関数の合計を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
加法関数のそれぞれが、CDRの疎水性残基の値の合計とCDRの親水性残基の値の合計との比率である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記値が、Eisenberg疎水性スケール値である、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
他の関連出願の相互参照
本出願は、2013年11月29日付けで出願された米国仮出願第61/910,200号に関し、その優先権の利益を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示の態様は、一又は複数の所望の特性、特に、治療剤に関する、さらに抗体又は抗体を含む治療剤を製造することに関する所望の特性を有する抗体を選択するための、装置、システム、コンピューター可読媒体、製造品及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
癌、自己免疫疾患、及び感染などの様々な疾患の処置のための重要なクラスの治療剤としてのモノクローナル抗体(「モノクローナルAb」又は「mAb」)が続けて登場している。使い易く、患者の利便性や投与頻度を低減させるためには、その貯蔵寿命(典型的には2年間)にわたり安定な水性の医薬品を開発すること、及び治療用mAbそれ自体が正常なクリアランス及び血漿内半減期(典型的には3週間)を有することが好ましい。
【0004】
ある特定の慢性的な疾患、例えば関節リウマチを処置することを目的としたmAbベースの療法に関しては、患者の自宅での使用/自己投与及びコンプライアンスのために、プレフィルドシリンジ/オートインジェクターなどのデバイスを使用する皮下経路を介した送達が採用される可能性がある(例えば、Eisenstein, M. Something new under the skin. Nat Biotech 29, 107-109 (2011)を参照されたい)。例えばAbbott製のヒュミラ(Humira)(登録商標)、及びCentocor製のシンポニー(Simponi)(登録商標)など少数のmAb製品が、自宅で使用するためのデバイスで市販されており、数種が現在のところ臨床治験で評価されている最中である。デバイスを使用して小容量(~1mL)で数百ミリグラムの活性な薬物を送達するために、高濃度のmAbを含有する液体製剤が必要である(例えば、Eisenstein, M. Something new under the skin. Nat Biotech 29, 107-109 (2011);Shire, S.J., Shahrokh, Z. & Liu, J. Challenges in the development of high protein concentration formulations. Journal of Pharmaceutical Sciences 93, 1390-1402 (2004)を参照されたい)。より高い粘度の溶液は製造及び投与が難しく、より大きいゲージの針とそれに伴う力が必要になることから注射すると痛い可能性があるために、このような送達システムは溶液が低粘度のものであることを必要とする(例えば、Shire, S.J., Shahrokh, Z. & Liu, J. Challenges in the development of high protein concentration formulations. Journal of Pharmaceutical Sciences 93, 1390-1402 (2004)を参照されたい)。さらに、抗体が、安全性を維持しながら有効性を失わずに(最小の化学的又は物理的劣化)溶液中で安定なままで、十分な貯蔵寿命を達成することが必要である。加えて、必須の低容量の皮下投与経路による1用量当たり複数回の注射又はより頻繁な投与を回避するために、十分な生物学的利用率を有し、長い血漿内半減期に伴い正常なクリアランスプロファイルも示すmAb候補を開発することが有利である(例えば、Wang, W., Wang, E.Q. & Balthasar, J.P. Monoclonal Antibody Pharmacokinetics and Pharmacodynamics. Clin Pharmacol Ther 84, 548-558 (2008);Zheng, Y.等. Minipig as a potential translatable model for monoclonal antibody pharmacokinetics after intravenous and subcutaneous administration. mAbs 4, 243-255を参照されたい;また、Chennamsetty, N., Voynov, V., Kayser, V., Helk, B. & Trout, B.L. Design of therapeutic proteins with enhanced stability. Proceedings of the National Academy of Sciences 106, 11937-11942 (2009)も参照されたい)。したがって、所望の特性を有するAbの予測を容易にする方法又は装置への必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
本明細書では、抗体の選択及び製造に役立つ新規の装置及び方法に関する態様及び実施態様を提供する。最適な製造可能性、開発、注入可能性、貯蔵寿命及び薬物動態学的挙動に重要な例示的なmAb特性として、規定濃度でのmAb溶液の粘度、インビボでの、例えばカニクイ(Cyno)サルでのクリアランス速度、トリプトファン(Trp)の酸化及びアスパラギン酸(Asp)の異性化を研究することにより、薬物送達、有効性及び患者にとっての使い易さを達成することが可能になった。本発明によって、さらに分子動力学(MD)シミュレーションを介して同定された構造パラメーターを使用して、最終的な選択のためにmAb及びリスクランクmAb候補の所望の特質を合理的に予測することが可能であることが本明細書において示される。
【0006】
本明細書に記載されるように、Abのアミノ酸配列から抽出された特性(「配列から抽出された特性」、「配列ベースの特性」、「構造パラメーター」又は「配列ベースの構造パラメーター」)、例えば電荷、電荷の非対称、及び疎水性は、多変量分析ツールと共に、様々な粘度-濃度プロファイルを有するmAb、正常なクリアランス値を有するmAbと迅速なクリアランス値を有するmAb、及び例えばTrp酸化及びAsp異性化に関して所望の安定性を有するmAbと望ましくない安定性を有するmAbを識別するのに十分である。粘度、クリアランス及び安定性に寄与する分子間及び分子内相互作用は3次元構造とそれに関連する動力学に影響を与えるが、本明細書に記載される配列ベースの構造パラメーターが粘度、クリアランス速度及び安定性などのAb特性を十分に決定又は予測できるということは現在の研究の予想外の結果である。加えて、配列ベースの構造パラメーターは、複数のAb、特に同じクラス内のAbのなかからAb特性を十分に予測又は識別できるということも、現在の研究の予想外の結果である。
【0007】
Trp酸化又はAsp異性化などの部位特異的な特性に関して、局所的な動力学及び立体配座の特質が重要な役割を果たすようである。それゆえに構造ベースのMD分析が必要となる可能性がある。構造的なMDをモデル化するコンピューターによるインシリコのツールを取り入れることは、ウェット及び他の実験手法と比較して最小の時間及び資源の消費でより多くの候補をスクリーニングすることを可能にし、それゆえに抗体候補の選択における効率を増加させることができる。本発明では、MDシミュレーションを使用した分子の動きの慎重な分析を介して、さらに関連する構造的な特性の抽出を介して、Ab含有治療剤の貯蔵寿命に関連する反応部位と非反応部位とを識別できることが示される。反応メカニズムに応じて、パラメーターの様々なセットを査定する必要があり得る。例えば、Trp酸化の場合、Trp残基(側鎖)の時間平均された溶媒接触可能表面積(SASA;solvent accessible surface area)は、反応部位と非反応部位とを識別するのに十分であった。しかし、Asp異性化部位間で識別するには、多変量分析と共に追加の構造パラメーターが必要であった。本発明は、所望の開発特質を有するリード候補を選択するために、mAbに対してインシリコの配列ベースの構造分析を行うことができることを示す。この能力は、新規のmAbベースの治療剤を臨床開発に効率的に移行させるための技術的成功の確率を改善し、最終的に患者に利益をもたらすことができる。
【0008】
追加の態様において、本発明はまた、本明細書に記載される方法によって、選択され生産された抗体、及び/又はある特定の設計基準を満たすことが決定された抗体も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】高イオン強度(IS)における10のmAbの結果からの粘度予測のための主成分回帰分析に関するパラメーターの表である。
【
図1B】低ISにおける10の部分的にオーバーラップするmAbの結果からの粘度予測のための主成分回帰分析に関するパラメーターの表である。
【
図2】13のmAbのトレーニングセットごとの、Cynoサルにおけるクリアランス値及び計算された配列ベースの構造パラメーターの表である。表の列のHI合計、Fv電荷pH5.5及びクリアランスにおける陰影は、それぞれ
図3の表の列のHI合計値、電荷及びクリアランスの範囲に対応する。
図2の表項目における右方向のフォワードスラッシュでの陰影は、項目の値が
図3の上の行の値に示された範囲内にあることを提示する。
図2の表項目における左方向のバックスラッシュでの陰影は、項目の値が
図3の下の行の値に示された範囲内にあることを提示する。
【
図3】Cynoサルにおける迅速なクリアランスと正常なクリアランスとを識別するための、
図2で示されたような13のmAbのトレーニングセットに基づく、割り当てられた基準の表である。
【
図4】
図3に列挙した基準に基づく、45のmAbのセットに対する実験のクリアランスの割り当てと予測されたクリアランスの割り当てとの表であり、
図4の表の列のClは
図2の表の列のクリアランスに対応し、
図4の陰影は
図2の場合と同様であり、
図4の実験及び予測された割り当ての列にも適用される。
【
図5】13のmAbのトレーニングセットにおける重鎖(HC)又は軽鎖(LC)に沿った様々な残基番号(Resnum)のTrpごとの、Trp側鎖SASAを使用したTrp酸化のホットスポット予測の表である。(他の表の列の項目については下記の詳細な説明を参照されたい)。表項目における右方向のフォワードスラッシュでの陰影は、項目の値が所望の範囲内にあることを提示する。表項目における左方向のバックスラッシュでの陰影は、項目の値が所望の範囲の外側にあることを提示する。
【
図6】トレーニングセットのmAbの一部のHC及びLCに沿った様々な位置「n」におけるAsp残基(表の列のAspで示される)、及びn+1における残基(表の列の配列(N+1)の残基で示される)のMDシミュレーションから抽出された分子特性の表である。特性は、AspのSASA(SASA_Asp)、Aspのα炭素の揺らぎの二乗平均平方根(RMSF)、n+1における残基のSASA(SASA(N+1,N))、及び有効数字1桁に四捨五入した(二進の)測定及び予測された値を含む。(他の表の列の項目については下記の詳細な説明を参照されたい)。表項目における右方向のフォワードスラッシュでの陰影は、項目の値が所望の範囲内にあることを提示する。表項目における左方向のバックスラッシュでの陰影は、項目の値が所望の範囲の外側にあることを提示する。
【
図7】pH5.5における高イオン強度(200mMのアルギニンHCl)の緩衝化溶液中の数種のmAbの粘度-濃度プロファイルを示す図である。固有の形で示されるデータポイントの各セットは、特定のmAbに対応する実験データを表す。プロファイルのプロットラインは、y=a+be
cxという形態の方程式を使用して作成されており、ここでy軸は、粘度(センチポイズ、cP)であり、x軸は、タンパク質濃度(mg/mL)である。
【
図8A】以下の実施例の章で説明されているようにして計算された数種のmAbごとの配列ベースのパラメーターの分析を示す図で、pH5.5におけるFv電荷を示す。可変断片(Fv)配列全体を使用して電荷を計算した。
【
図8B】以下の実施例の章で説明されているようにして計算された数種のmAbごとの配列ベースのパラメーターの分析を示す図で、pH5.5におけるFv電荷非対称パラメーター(FvCAP)を示す。FvCAPの計算のために重鎖可変(VH)ドメイン配列及び軽鎖可変(VL)ドメイン配列を使用して電荷を計算した。
【
図8C】以下の実施例の章で説明されているようにして計算された数種のmAbごとの配列ベースのパラメーターの分析を示す図で、疎水性(又は疎水性指標、HI)を示す。相補性決定領域(CDR)のアミノ酸組成を使用してHIを計算した。
【
図9A】log粘度と計算された配列ベースの構造パラメーターとの相関のプロットを示す図で、パラメーターは疎水性である。粘度値は、pH5.5における20mMのバッファー濃度における低イオン強度の緩衝化溶液中で得られた。
【
図9B】log粘度と計算された配列ベースの構造パラメーターとの相関のプロットを示す図で、パラメーターはpH5.5におけるFv電荷である。粘度値は、pH5.5における20mMのバッファー濃度における低イオン強度の緩衝化溶液中で得られた。
【
図9C】log粘度と計算された配列ベースの構造パラメーターとの相関のプロットを示す図で、パラメーターはpH5.5におけるFvCAPである。粘度値は、pH5.5における20mMのバッファー濃度における低イオン強度の緩衝化溶液中で得られた。
【
図10A】log粘度と計算された配列ベースの構造パラメーターとの相関のプロットを示す図で、パラメーターは疎水性である。粘度値は、pH5.5における200mMのアルギニンHClのバッファー濃度における高イオン強度の緩衝化溶液中で得られた。
【
図10B】log粘度と計算された配列ベースの構造パラメーターとの相関のプロットを示す図で、パラメーターはpH5.5におけるFv電荷である。粘度値は、pH5.5における200mMのアルギニンHClのバッファー濃度における高イオン強度の緩衝化溶液中で得られた。
【
図10C】log粘度と計算された配列ベースの構造パラメーターとの相関のプロットを示す図で、パラメーターはpH5.5におけるFvCAPである。粘度値は、pH5.5における200mMのアルギニンHClのバッファー濃度における高イオン強度の緩衝化溶液中で得られた。
【
図11A】様々な条件下における様々な異なるmAbごとの実験的に観察された粘度値に対して予測された粘度値を示す主成分回帰(PCR)分析のプロットを示す図で、10の異なるmAbのセットのPCR分析を示す。示した結果は、高イオン強度の緩衝溶液条件下で得られた。図は150mg/mLのmAb濃度におけるプロットを示す。予測された粘度値は、PCR分析からの出力値であり、150mg/mLのmAbに関して以下の実施例の章で説明される方程式で記述される。各データポイントはmAbを表し、曲線は、存在する場合、90%の信頼区間を表す。
【
図11B】様々な条件下における様々な異なるmAbごとの実験的に観察された粘度値に対して予測された粘度値を示す主成分回帰(PCR)分析のプロットを示す図で、10の異なるmAbのセットのPCR分析を示す。示した結果は、高イオン強度の緩衝溶液条件下で得られた。図は、180mg/mLのmAb濃度におけるプロットを示す。予測された粘度値は、PCR分析からの出力値であり、180mg/mLのmAbに関して以下の実施例の章で説明される方程式で記述される。各データポイントはmAbを表し、曲線は、存在する場合、90%の信頼区間を表す。
【
図11C】様々な条件下における様々な異なるmAbごとの実験的に観察された粘度値に対して予測された粘度値を示す主成分回帰(PCR)分析のプロットを示す図で、14の異なるmAbのセットのPCR分析を示す。示した結果は、高イオン強度の緩衝溶液条件下で得られた。図は、180mg/mLのmAb濃度におけるプロットを示す。予測された粘度値は、PCR分析からの出力値であり、180mg/mLのmAbに関して以下の実施例の章で説明される方程式で記述される。各データポイントはmAbを表し、曲線は、存在する場合、90%の信頼区間を表す。
【
図11D】様々な条件下における様々な異なるmAbごとの実験的に観察された粘度値に対して予測された粘度値を示す主成分回帰(PCR)分析のプロットを示す図で、14の異なるmAbのセットのPCR分析を示す。示した結果は、高イオン強度の緩衝溶液条件下で得られた。図は、180mg/mLのmAb濃度におけるプロットを示す。予測された粘度値は、PCR分析からの出力値であり、180mg/mLのmAbに関して以下の実施例の章で説明される方程式で記述される。各データポイントはmAbを表し、曲線は、存在する場合、90%の信頼区間を表す。
【
図11E】様々な条件下における様々な異なるmAbごとの実験的に観察された粘度値に対して予測された粘度値を示す主成分回帰(PCR)分析のプロットを示す図で、10の異なるmAbのセットのPCR分析を示す。示した結果は、低イオン強度の緩衝溶液条件下で得られた。図は、150mg/mLのmAb濃度におけるプロットを示す。予測された粘度値は、PCR分析からの出力値であり、150mg/mLのmAbに関して以下の実施例の章で説明される方程式で記述される。各データポイントはmAbを表し、曲線は、存在する場合、90%の信頼区間を表す。
【
図12A】実験データと比較したmAbの予測された粘度-濃度プロファイルを示す図である。データポイントは、高イオン強度の緩衝化溶液(200mMのアルギニンHClを含むpH5.5の20mMの緩衝化溶液)中で実験的に決定された粘度値を表す。ラインは、予測値に対して最適化された適合を表す。予測値は、150mg/mL及び180mg/mLのmAb濃度に関して実施例の章で説明されるような方程式を使用して得られた。ラインは、y=a+be
cxという形態の方程式を使用して作成されており、式中yは粘度であり、xはタンパク質濃度である。この方程式の形態を使用して、数種のmAbごとの200mg/mLまでの実験データ(データ示さず)と200cPもの高さの粘度値とを適合させる。適合は、25mg/mLのタンパク質濃度の場合、150mg/mL、180mg/mLにおける予測値と1.2の粘度値とを使用して作成された。
【
図12B】実験データと比較したmAbの予測された粘度-濃度プロファイルを示す図である。データポイントは、高イオン強度の緩衝化溶液(200mMのアルギニンHClを含むpH5.5の20mMの緩衝化溶液)中で実験的に決定された粘度値を表す。ラインは、予測値に対して最適化された適合を表す。予測値は、150mg/mL及び180mg/mLのmAb濃度に関して実施例の章で説明されるような方程式を使用して得られた。ラインは、y=a+be
cxという形態の方程式を使用して作成されており、式中yは粘度であり、xはタンパク質濃度である。この方程式の形態を使用して、数種のmAbごとの200mg/mLまでの実験データ(データ示さず)と200cPもの高さの粘度値とを適合させる。適合は、25mg/mLのタンパク質濃度の場合、150mg/mL、180mg/mLにおける予測値と1.2の粘度値とを使用して作成された。
【
図12C】実験データと比較したmAbの予測された粘度-濃度プロファイルを示す図である。データポイントは、高イオン強度の緩衝化溶液(200mMのアルギニンHClを含むpH5.5の20mMの緩衝化溶液)中で実験的に決定された粘度値を表す。ラインは、予測値に対して最適化された適合を表す。予測値は、150mg/mL及び180mg/mLのmAb濃度に関して実施例の章で説明されるような方程式を使用して得られた。ラインは、y=a+be
cxという形態の方程式を使用して作成されており、式中yは粘度であり、xはタンパク質濃度である。この方程式の形態を使用して、数種のmAbごとの200mg/mLまでの実験データ(データ示さず)と200cPもの高さの粘度値とを適合させる。適合は、25mg/mLのタンパク質濃度の場合、150mg/mL、180mg/mLにおける予測値と1.2の粘度値とを使用して作成された。
【
図12D】実験データと比較したmAbの予測された粘度-濃度プロファイルを示す図である。データポイントは、高イオン強度の緩衝化溶液(200mMのアルギニンHClを含むpH5.5の20mMの緩衝化溶液)中で実験的に決定された粘度値を表す。ラインは、予測値に対して最適化された適合を表す。予測値は、150mg/mL及び180mg/mLのmAb濃度に関して実施例の章で説明されるような方程式を使用して得られた。ラインは、y=a+be
cxという形態の方程式を使用して作成されており、式中yは粘度であり、xはタンパク質濃度である。この方程式の形態を使用して、数種のmAbごとの200mg/mLまでの実験データ(データ示さず)と200cPもの高さの粘度値とを適合させる。適合は、25mg/mLのタンパク質濃度の場合、150mg/mL、180mg/mLにおける予測値と1.2の粘度値とを使用して作成された。
【
図13A】Cynoサルにおける抗体クリアランスと計算された抗体パラメーターとの関係を示す図である。Cynoサルにおける抗体クリアランスと計算された抗体の等電点との関係(対数の形態、pI)を示す。
【
図13B】Cynoサルにおける抗体クリアランスと計算された抗体パラメーターとの関係を示す図である。Cynoサルにおける抗体クリアランスと、mAbのCDR H1配列を使用して計算された疎水性指標との関係を示す。
【
図14A】不安定なAsp残基(左方向のバックスラッシュでの陰影、各図の左側)に対する安定なAsp残基(右方向のフォワードスラッシュでの陰影、各図の右側)に関する、MDシミュレーションから抽出された様々な特性の平均値及び標準偏差の比較を示す図である。プロットは、平均値及び標準偏差を含む。計算されたp値は、プロット上に示される。RMSF、AspのSASA及びSASA(N+1,N)は全て、不安定な残基と安定な残基との間で有意差(80%の信頼区間(CI))を実証する。安定な残基と不安定な残基との平均間で、残基内の相互情報(MI)及びシャノンのエントロピー特性における有意差はない。
【
図14B】不安定なAsp残基(左方向のバックスラッシュでの陰影、各図の左側)に対する安定なAsp残基(右方向のフォワードスラッシュでの陰影、各図の右側)に関する、MDシミュレーションから抽出された様々な特性の平均値及び標準偏差の比較を示す図である。プロットは、平均値及び標準偏差を含む。計算されたp値は、プロット上に示される。RMSF、AspのSASA及びSASA(N+1,N)は全て、不安定な残基と安定な残基との間で有意差(80%の信頼区間(CI))を実証する。安定な残基と不安定な残基との平均間で、残基内の相互情報(MI)及びシャノンのエントロピー特性における有意差はない。
【
図14C】不安定なAsp残基(左方向のバックスラッシュでの陰影、各図の左側)に対する安定なAsp残基(右方向のフォワードスラッシュでの陰影、各図の右側)に関する、MDシミュレーションから抽出された様々な特性の平均値及び標準偏差の比較を示す図である。プロットは、平均値及び標準偏差を含む。計算されたp値は、プロット上に示される。RMSF、AspのSASA及びSASA(N+1,N)は全て、不安定な残基と安定な残基との間で有意差(80%の信頼区間(CI))を実証する。安定な残基と不安定な残基との平均間で、残基内の相互情報(MI)及びシャノンのエントロピー特性における有意差はない。
【
図14D】不安定なAsp残基(左方向のバックスラッシュでの陰影、各図の左側)に対する安定なAsp残基(右方向のフォワードスラッシュでの陰影、各図の右側)に関する、MDシミュレーションから抽出された様々な特性の平均値及び標準偏差の比較を示す図である。プロットは、平均値及び標準偏差を含む。計算されたp値は、プロット上に示される。RMSF、AspのSASA及びSASA(N+1,N)は全て、不安定な残基と安定な残基との間で有意差(80%の信頼区間(CI))を実証する。安定な残基と不安定な残基との平均間で、残基内の相互情報(MI)及びシャノンのエントロピー特性における有意差はない。
【
図14E】不安定なAsp残基(左方向のバックスラッシュでの陰影、各図の左側)に対する安定なAsp残基(右方向のフォワードスラッシュでの陰影、各図の右側)に関する、MDシミュレーションから抽出された様々な特性の平均値及び標準偏差の比較を示す図である。プロットは、平均値及び標準偏差を含む。計算されたp値は、プロット上に示される。RMSF、AspのSASA及びSASA(N+1,N)は全て、不安定な残基と安定な残基との間で有意差(80%の信頼区間(CI))を実証する。安定な残基と不安定な残基との平均間で、残基内の相互情報(MI)及びシャノンのエントロピー特性における有意差はない。
【
図15A】6.5のFabのpIを有するmAbの抗原結合断片(Fab)ドメインの、配列ベース及び構造ベースの電荷-pHプロファイルの比較を示す図である。配列ベースの電荷-pHプロファイルを、下記の例示的な方法の章で説明されているようにして計算した。構造ベースの電荷-pHプロファイルを、実験的方法であるPROPKA、及びFab構造を使用して計算した。各荷電アミノ酸側鎖の個々の結合定数(対数の形態、pKa)を得て、ヘンダーソン-ハッセルバルヒの方程式で使用して、所与のpHで側鎖の電荷を得た。次いで電荷を合計して、所与のpHにおける正味の電荷を得た。
【
図15B】7.5のFabのpIを有するmAbの抗原結合断片(Fab)ドメインの、配列ベース及び構造ベースの電荷-pHプロファイルの比較を示す図である。配列ベースの電荷-pHプロファイルを、下記の例示的な方法の章で説明されているようにして計算した。構造ベースの電荷-pHプロファイルを、実験的方法であるPROPKA、及びFab構造を使用して計算した。各荷電アミノ酸側鎖の個々の結合定数(対数の形態、pKa)を得て、ヘンダーソン-ハッセルバルヒの方程式で使用して、所与のpHで側鎖の電荷を得た。次いで電荷を合計して、所与のpHにおける正味の電荷を得た。
【
図15C】9.2のFabのpIを有するmAbの抗原結合断片(Fab)ドメインの、配列ベース及び構造ベースの電荷-pHプロファイルの比較を示す図である。配列ベースの電荷-pHプロファイルを、下記の例示的な方法の章で説明されているようにして計算した。構造ベースの電荷-pHプロファイルを、実験的方法であるPROPKA、及びFab構造を使用して計算した。各荷電アミノ酸側鎖の個々の結合定数(対数の形態、pKa)を得て、ヘンダーソン-ハッセルバルヒの方程式で使用して、所与のpHで側鎖の電荷を得た。次いで電荷を合計して、所与のpHにおける正味の電荷を得た。
【
図15D】プロットAで使用されたFabにおける荷電側鎖のpKa分布を示す図である。y軸は、D、E、H、Y、K、及びRのアミノ酸側鎖の標準的な非構造ベースのpKa値を示す図である(関連する垂直のラインのx軸に沿った値によってもマークされる)。所与のアミノ酸側鎖ごとの水平のデータポイントはそれぞれ、そのアミノ酸につきPROPKAから得られた構造ベースのpKa値である。
図15Dは各アミノ酸側鎖につき得られたpKa値の分布を示すが、
図15A~
図15Cで示されたように、構造ベースの電荷計算に基づく全体的な電荷-pHプロファイルは配列ベースの計算と同等であり、配列と構造との間の電荷-pHプロファイルにおける類似性はFabのpIとは無関係であった。
【
図16】配列ベースの疎水性指標(HI)値と構造から計算された値との比較を示す図である。配列ベースのHIは、下記の例示的な方法の章で説明されているようにして計算され、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸との相対比に基づいており、ここで各アミノ酸がそのEisenberg疎水性スケール値で重み付けされる。各アミノ酸につき構造から決定されたSASAが計算に含まれることを除いて、構造ベースの疎水性指標も同様に計算される。指標は、HI(構造)=Σ(S
iE
i/S
jE
j)のように定義され、式中iは疎水性アミノ酸、すなわちA、F、I、L、V、W、Yを表し、jは親水性アミノ酸、すなわち、D、E、G、H、K、M、N、Q、R、S、Tを表す。(アミノ酸ごとの1文字で識別する略語の凡例については、下記の文章中の表1を参照されたい)。SはSASA値であり、Eは各アミノ酸のEisenbergスケール値である。計算は、所与の配列/構造中に存在する全てのアミノ酸にわたりなされる。構造ベースのHIと配列ベースのHIとの間に合理的な相関が得られる(ピアソンのr=0.9)。
【
図17】研究のサブ/クラス、IgG1の数種のmAbごとの、CDRのみから計算された配列ベースのHI値と、それらそれぞれのFvドメインから計算された値との比較を示す図である。CDRを使用して計算されたHI値は、Fvを使用して得られたHI値とよく相関していた(ピアソンのr=0.9)。
【
図18】本発明の原理に従って設計され得る例証的な装置を示す図である。
【
図19A】本発明の原理に従う例証的なプロセスの流れ図である。
【
図19B】本発明の原理に従う例証的なプロセスの流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
抗体が、一又は複数の対応する設計基準を満たす一又は複数の生理化学的特性を有するかどうかを決定するための、装置、方法、製造品、及び対応するコンピューター可読媒体が提供される。一又は複数の生理化学的特性の何れか1つについて、決定は、生理化学的特徴の値の経験的決定のためのプロキシであり得る。プロキシは、経験的決定の非存在下、経験的決定の前又は経験的決定の代わりにおける、値の予測であり得る。経験的決定の値及び予測の値並びに決定及び予測を行うことができる溶液条件は、接近していてもよい。
【0011】
一又は複数の設計基準は、抗体を含む治療剤に関するものでもよい。一又は複数の設計基準は、あらゆるインビトロ又はインビボの使用のための抗体に関するものでもよい。一又は複数の設計基準は、抗体を含む組成物、薬学的製剤又は薬学的組成物に関するものでもよい。決定は、治療剤中に含ませるための、又は薬学的製剤若しくは薬学的組成物中に含ませるための抗体の適合度又は適合性の決定であってもよい。
【0012】
用語「治療剤」は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくは霊長類、最も好ましくはヒトにおいて、有効量で所望の治療作用を発揮する薬剤を指す。治療剤は、1種より多くのタイプの治療剤を含み得る薬学的組成物に製剤化されてもよい。
【0013】
抗体を含む治療剤は、静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射又は他のあらゆる投与形態用であってもよい。治療剤は、分配デバイスを使用した皮下注射の場合、小容量で高濃度で存在していてもよい。治療剤は、低粘度を必要とする場合もある。治療剤は、低頻度の投与のために設計されてもよいし、長い血漿内半減期を必要とする場合もある。
【0014】
治療剤に関する「設計基準」は、治療剤が有することになる物理的、化学的又は生理化学的な標的特徴を指す場合もある。
【0015】
治療剤で使用するための抗体を選択するための、装置及び方法、並びに対応するコンピューター可読媒体が提供される。コンピューター可読記憶媒体は、非一時的な波を含み得る。コンピューター可読記憶媒体は、非一時的なシグナルを含み得る。抗体は、2つ以上の候補抗体から選択されてもよい。
【0016】
抗体を生産又は製造するための、装置及び方法、並びに対応するコンピューター可読媒体が提供される。得られた抗体は、治療剤で使用するためのものであってもよい。得られた抗体は、既存の抗体から修飾されていてもよい。既存の抗体は、一又は複数の設計基準を満たす標的抗体を生産するように修飾されていてもよい。設計基準は、治療剤に関するものでもよい。
【0017】
本装置は、本方法の一又は複数の工程を行うことができる。本装置は、論理処理デバイスを含み得る。本装置は、データ受信デバイスを含み得る。本装置は、データ送信デバイスを含み得る。本装置は、機械可読メモリーを含み得る。デバイスの2つ以上が、互いに電子通信していてもよい。
【0018】
媒体は、一又は複数の非一時的なコンピューター使用可能媒体であってもよい。コンピューター使用可能媒体は、そこで具現化されるコンピューター可読プログラムコードを有していてもよい。コンピューター可読プログラムコードは、一又は複数のプロセッサーによって遂行される場合、コンピューターシステムに、本方法の工程を実施させることができる。
【0019】
工程は、治療剤中に含ませるための抗体の適合度又は適合性を決定するために遂行されてもよい。工程は、数種の候補抗体から抗体を選択するために遂行されてもよい。工程は、抗体を製造するために、遂行されてもよい。工程は、既存の抗体を修飾するために、遂行されてもよい。工程は、標的抗体を生産するように既存の抗体を修飾するために、遂行されてもよい。
【0020】
生理化学的特性の1つ又は生理化学的特性の2つ以上の組合せに基づき、工程の一部又は全部を互いに呼応して遂行して、以下:治療剤中に含ませるための抗体の適合度の決定;数種の候補抗体からの抗体の選択;抗体の製造;標的抗体を生成するための既存の抗体の修飾;及び標的抗体の生産の一又は複数を組み合わせることができる。
【0021】
抗体の生理化学的特性;抗体の構造情報;抗体の構造パラメーター;設計基準;目的関数;目的関数のスケーリング因子;生理化学的特徴の指標;抗体;抗体生産;論理処理デバイス、データ送信デバイス及びデータ受信デバイス;並びに本発明のフィーチャ及び原理の組合せがここで論じられる。
【0022】
抗体の生理化学的特性
例示的な生理化学的特性としては、粘度、クリアランス、安定性、アスパラギン酸の不安定性及びトリプトファンの不安定性が挙げられる。
【0023】
生理化学的特徴は、粘度であってもよい。生理化学的特徴は、薬物動態学的なクリアランス速度であってもよい。生理化学的特徴は、不安定性であってもよい。不安定性は、抗体の安定性に相当し得る。不安定性は、抗体の貯蔵寿命に相当し得る。
【0024】
生理化学的特徴は、安定性であってもよい。生理化学的特徴は、貯蔵寿命であってもよい。生理化学的特徴は、アスパラギン酸(Asp)の不安定性であってもよい。生理化学的特徴は、トリプトファン(Trp)の不安定性であってもよい。Aspの不安定性は、Asp異性化に相当し得る。Trpの不安定性は、Trp酸化に相当し得る。不安定性は、抗体の安定性及び貯蔵寿命に影響を与える可能性がある。
【0025】
生理化学的特徴は、溶液条件によって決まる可能性がある。溶液条件は、水溶液条件であってもよい。溶液条件は、温度であってもよい。溶液条件は、pHであってもよい。溶液条件は、イオン強度であってもよい。溶液条件は、抗体濃度であってもよい。抗体の水溶液のイオン強度は、抗体が存在するイオン性緩衝溶液の濃度によって全体的又は部分的に設定されてもよい。イオン性緩衝溶液の例は、酢酸ヒスチジン緩衝溶液であり得る。溶液条件は、溶質濃度を含み得る。溶質濃度は、抗体濃度を含み得る。
【0026】
抗体の構造情報
抗体の構造情報を使用して、構造パラメーターを計算することができる。本方法は、抗体の構造情報から構造パラメーターを計算することを含み得る。
【0027】
構造情報は、3次元構造に相当し得る。構造情報は、一次構造に相当し得る。一次構造は、一次アミノ酸配列を指す場合もある。一次構造は、抗体の可変ドメインの一次構造を含み得る。一次構造は、可変ドメインの一次構造のみであってもよい。一次構造は、可変ドメイン軽鎖(VL)アミノ酸配列を含み得る。一次構造は、可変ドメイン重鎖(VH)アミノ酸配列を含み得る。一次構造は、一又は複数のCDRのアミノ酸配列を含み得る。一次構造は、抗体の定常領域の一次構造を含み得る。定常領域の一次構造は、定常領域軽鎖(CL)アミノ酸配列を含み得る。定常領域の一次構造は、定常領域重鎖(CH)アミノ酸配列を含み得る。定常領域の一次構造は、定常領域重鎖CH1、CH2及びCH3アミノ酸配列の一又は複数を含み得る。
【0028】
構造パラメーターは、一次構造情報から計算されてもよく、一次構造以外の構造からの情報を含んでいなくてもよい。一次配列は、DNA配列決定により得られたDNA配列に由来していてもよい。DNA配列決定技術は、当該技術分野で周知である。
【0029】
抗体の構造情報は、電子的に記号化されていてもよい。電子的に記号化された情報は、機械可読メモリーに保存されていてもよい。論理処理デバイスは、機械可読メモリーから抗体の構造情報を検索することができる。データ受信デバイスは、抗体の構造情報を受信することができる。論理処理デバイスは、抗体の構造情報から生理化学的パラメーターを計算することができる。データ送信デバイスは、抗体の構造情報を送信することができる。データ送信デバイスは、計算結果に対応するシグナルを送信することができる。
【0030】
用語「電子的に記号化される」は、電子データベースへの貯蔵及びそれからの検索並びに/又は電子計算デバイスによる操作に好適な情報の形態を指す。
【0031】
抗体の構造パラメーター
構造パラメーターは、抗体の正味の電荷であってもよい。構造パラメーターは、抗体の電荷非対称であってもよい。構造パラメーターは、抗体の疎水性であってもよい。構造パラメーターは、抗体の構造情報から計算されてもよい。
【0032】
抗体の構造情報は、一次構造情報、例えば、抗体のアミノ酸配列を含み得る。アミノ酸配列は、抗体の構造要素のアミノ酸配列であってもよい。構造要素のそれぞれは、アミノ酸配列であってもよい。構造要素は、抗体のアミノ酸配列中で互いに隣接していてもよい。構造要素は、抗体配列中で互いに近接していてもよい。構造要素は、抗体中で互いに関連していてもよい。構造要素は、重鎖可変ドメイン(VH)及び/又は軽鎖可変ドメイン(VL)であってもよい。構造要素は、一又は複数の相補性決定領域(CDR)であってもよい。構造要素は、一又は複数の定常領域(例えば、CH1、CL、CH2及びCH3)であってもよい。構造要素は、重鎖及び軽鎖(半抗体)であってもよい。構造要素は、抗体全体であってもよい。一次アミノ酸配列は、重鎖可変ドメイン(VH)及び/又は軽鎖可変ドメイン(VL)のアミノ酸配列であってもよい。一次アミノ酸配列は、CDRの一又は複数のアミノ酸配列であってもよい。一次アミノ酸配列は、抗体の一又は複数の定常領域のアミノ酸配列であってもよい。また抗体の構造情報は、二次構造情報及びそれより高次のレベルの構造情報、例えば粘度、クリアランス及び安定性に寄与する可能性がある3次元分子相互作用に関する情報を含んでいてもよい。
【0033】
構造パラメーターは、正味の電荷を含み得る。正味の電荷は、抗体の構造要素内における全アミノ酸の電荷の合計であってもよい。正味の電荷は、ある特定のpHでの、抗体の構造要素内における全アミノ酸の電荷の合計であってもよい。pHは、pH4からpH9のpHであってもよい。pHは、pH5.5であってもよい。構造要素は、VH及びVLドメインであってもよい。正味の電荷は、VH及びVLドメイン内における全アミノ酸の電荷の合計であってもよい。正味の電荷は、一又は複数のCDR内における全アミノ酸の電荷の合計であってもよい。正味の電荷は、一又は複数の定常領域内における全アミノ酸の電荷の合計であってもよい。
【0034】
構造パラメーターは、電荷非対称を含み得る。電荷非対称は、抗体の1つの構造要素の正味の電荷と、抗体の少なくとも1つの他の構造要素の正味の電荷との積であってもよい。電荷非対称は、抗体のVHの正味の電荷とVLの正味の電荷との積であってもよい。さらに、電荷非対称は、例えば、FvとFc、又はFvとCH3ドメイン、又はFabとFcなどの正味の電荷の積であってもよい。
【0035】
構造パラメーターは、疎水性を含み得る。疎水性は、一又は複数のCDRに対応する疎水性値の加法関数の合計を含み得る。各加法関数は、(1)CDRの疎水性残基の疎水性の値の合計;及び(2)CDRの親水性残基の疎水性の値の合計の比率であってもよい。CDRの各アミノ酸残基ごとの疎水性の値は、Eisenberg疎水性スケール値であってもよい。その代わりに、疎水性は、Fvの疎水性値を含み得る。
【0036】
構造パラメーターは、分子動力学(MD)シミュレーションを使用することによって計算することができる。MDシミュレーションは、シミュレートされた溶液条件のセットに相当し得る。セットは、バーチャルな溶液の溶液条件を含み得る。シミュレートされた溶液条件は、温度を含み得る。MDシミュレーションは、所定温度で維持されてもよい。シミュレートされた溶液条件は、バーチャルな水分子を含み得る。MDシミュレーションは、明示的水溶媒和を採用してもよい。シミュレートされた溶液条件は、中性を維持するためのバーチャルな溶質イオンを含み得る。
【0037】
MDシミュレーションは、アミノ酸残基(「N」位における)のアルファ炭素(α炭素)の揺らぎの二乗平均平方根(RMSF)を計算することができる。アミノ酸残基は、VH及び/又はVLアミノ酸配列における残基であってもよい。アミノ酸残基は、CDRのアミノ酸配列における残基であってもよい。アミノ酸残基は、フレームワーク領域(FR)における残基であってもよい。アミノ酸残基は、アスパラギン酸残基であってもよい。アミノ酸残基は、トリプトファン残基であってもよい。アミノ酸残基は、あらゆる潜在的に不安定な残基であってもよい。
【0038】
構造パラメーターは、アミノ酸残基の時間平均SASAを含み得る。MDシミュレーションは、残基の時間平均SASAを計算することができる。アミノ酸残基は、アスパラギン酸残基であってもよい。アミノ酸残基は、トリプトファン残基であってもよい。アミノ酸残基は、潜在的に不安定な残基に直接隣接しているアミノ酸残基であってもよい。
【0039】
構造パラメーターは、N位を占有するアミノ酸残基に直接隣接している主鎖窒素原子の時間平均SASAを含み得る。MDシミュレーションは、アミノ酸配列に沿ってN位における残基に直接隣接している主鎖窒素原子の時間平均SASAを計算することができる。N位におけるアミノ酸残基は、Asp残基であってもよい。「直接隣接している」は、アミノ酸配列のアミノ末端(N末端)又はカルボキシル末端(C末端)の何れかに向かう方向でアミノ酸配列に沿って隣接することと定義することができる。N位における残基に直接隣接しているアミノ酸残基は、アミノ酸配列のC末端に向かう方向でアミノ酸配列に沿って隣接していてもよい(すなわち、「N+1」位)。例えば、残基が「N」位を占有するアスパラギン酸残基である場合、「N+1」位は、アミノ酸配列のC末端に向かう方向でアミノ酸配列に沿ってアスパラギン酸残基に直接隣接している残基の位置であり得る。「N+1」における残基は、グリシンであってもよい。「N+1」における残基は、スレオニンであってもよい。「N+1」における残基は、アスパラギン酸であってもよい。「N+1」における残基は、アラニンであってもよい。「N+1」における残基は、あらゆる残基であってもよい。
【0040】
MDシミュレーションは、異なる溶液条件ごとに構造パラメーターの異なる値を計算することができる。
【0041】
設計基準
生理化学的特性のそれぞれは、対応する設計基準を有していてもよい。設計基準は、限定、閾値又はカットオフ値であってもよい。後述するように、生理化学的特性及び対応する目的関数に応じて、生理化学的特徴に対応する指標が、限定未満である、限定を超える、限定を超えない、又は限定以上である場合、設計基準が満たされるとみなすことができる。ある種の特定の実施態様において、生理化学的特徴に対応する指標は、限定未満である。生理化学的特性及び目的関数に応じて、指標はさらに変換されてもよく、例えば、抗体の生理化学的特徴が設計基準を満たすか否かをシグナル化する二進表示に変換されてもよい。
【0042】
設計基準は、粘度の限定であってもよい。設計基準は、薬物動態学的なクリアランス速度の限定であってもよい。設計基準は、不安定性の限定であってもよい。設計基準は、アスパラギン酸の不安定性の限定であってもよい。設計基準は、トリプトファンの不安定性の限定であってもよい。設計基準は、安定性の限定であってもよい。設計基準は、貯蔵寿命の限定であってもよい。設計基準は、治療剤に関するものでもよい。設計基準は、非治療剤に関するものでもよい。設計基準は、抗体を含む組成物に関するものでもよい。組成物は、インビボ又はインビトロで適用するための組成物であってもよい。
【0043】
設計基準は、抗体の特定のクラス(又はサブクラス)に関するものでもよい。クラスは、IgGであってもよい。クラス(サブクラス)は、IgG1又はIgG4であってもよい。
【0044】
設計基準は、抗体を製造することに関連する基準であってもよい。設計基準は、抗体の流体移行に関連する基準であってもよい。設計基準は、抗体の貯蔵に関連する基準であってもよい。設計基準は、抗体の貯蔵寿命に関連する基準であってもよい。設計基準は、抗体の投与に関連する基準であってもよい。設計基準は、抗体の血漿内半減期に関連する基準であってもよい。設計基準は、抗体のクリアランス速度に関連する基準であってもよい。設計基準は、抗体の分配に関連する基準であってもよい。設計基準は、抗体を含む治療剤に関するものでもよい。治療剤の投与又は分配は、患者によって自己投与されてもよい。投与は、静脈内、腹腔内、又は皮下投与であってもよい。
【0045】
目的関数
ある特定の態様において、本発明は、抗体が設計基準を満たす生理化学的特徴を有するかどうかを決定するための方法を提供する。本方法は、生理化学的特徴に相当する目的関数からの指標を定量又は計算することを含み得る。目的関数は、本出願全体にわたり説明したような計算された構造パラメーターの値を含み得る。
【0046】
目的関数は、目的関数のスケーリング因子と、対応する構造パラメーターの値との掛け算の積の加法を含み得る。加法は、目的関数における指数関数の項の独立変数に含まれていてもよい。目的関数は、生理化学的特徴の値の予測をもたらすことができ、この予測を設計基準と比較することができる。例えば、粘度の目的関数は、本発明に係る配列ベースの構造パラメーターの値と、対応する目的関数のスケーリング因子の値との掛け算の積の加法を含んでいてもよく、ここで粘度に寄与するmAbの構造特質は、抗体の可変ドメインの少なくとも一部の、正味の電荷、電荷非対称及び疎水性であってもよい。目的関数の計算は、粘度指数をもたらす。この指標は粘度値に変換されてもよく、設計基準による粘度値と粘度の限定のセットとの比較を使用して、抗体が設計基準を満たす粘度を有するかどうかを決定することができる。
【0047】
構造パラメーター及び対応する特定の目的関数のスケーリング因子は、抗体のクラス(又はサブクラス)によって決まる可能性がある。例えば、前の段落で説明した粘度の目的関数は、IgG1抗体の粘度の予測に使用することができ、一方でIgG4抗体の場合、加法は、目的の抗体の生理化学的特性に応じて、定常領域の正味の電荷又は定常領域の電荷非対称と、対応する目的関数のスケーリング因子との積をさらに含んでいてもよい。
【0048】
目的関数は、生理化学的特徴に直接的に関連付け又は変換可能な値に対応しない値をもたらすこともある。しかし、そのような値は、それでも抗体が設計基準を満たす生理化学的特徴を有するかどうかを提示する可能性がある。そのような値は、抗体が設計基準を満たす生理化学的特徴を有するか否かを提示する二進コードに変換されてもよい。例えば、アスパラギン酸の不安定性の目的関数から計算されたゼロと1との間の指標を有効数字1桁に四捨五入して第2の指標を生成してもよく、ここで抗体は、第2の指標がゼロである場合、アスパラギン酸の不安定性の設計基準を満たすと決定され、第2の指標が1である場合、アスパラギン酸の不安定性の設計基準を満たさないと決定される。
【0049】
論理処理デバイスは、目的関数の計算を処理することによって指標を導き出すことができる。
【0050】
目的関数は、本明細書において実行される数学的分析方法により採用される、修飾される、及び/又は導き出されるあらゆる好適な多項式又は確率密度関数の形態を有していてもよい。
【0051】
異なる生理化学的特性に対応する目的関数は、異なる関数の形態を有していてもよい。
【0052】
目的関数のスケーリング因子
本方法は、スケーリング因子を選択することを含み得る。スケーリング因子を選択することは、スケーリング因子のセットからスケーリング因子を選択することを含み得る。また「スケーリング因子」は、「係数」と称される場合もある。
【0053】
スケーリング因子のセットは、一又は複数の抗体クラスのそれぞれに関するスケーリング因子を含み得る。抗体クラスは、IgG、IgA、IgE、IgM及びIgDを含み得る。抗体クラスはまた、サブクラスも含み得る。サブクラスの非限定的な例としては、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4が挙げられる。抗体クラスは、IgGであってもよい。抗体クラスは、IgG1であってもよい。抗体クラスは、IgG4であってもよい。
【0054】
スケーリング因子のセットは、各クラス(又はサブクラス)ごとに、一又は複数の溶液条件のそれぞれに関するスケーリング因子のセットを含み得る。溶液条件は、MDシミュレーションで使用され得るものと同様の、シミュレートされた溶液条件であってもよい。溶液条件は、現実のウェットの溶液条件であってもよい。
【0055】
スケーリング因子のセットは、各クラス(又はサブクラス)ごとに、及び各溶液条件ごとに、構造パラメーターのそれぞれに対応するスケーリング因子を含み得る。
【0056】
スケーリング因子のセットは、機械可読メモリーに保存されていてもよい。論理処理デバイスは、スケーリング因子を選択し得る。スケーリング因子を選択することは、機械可読メモリーからスケーリング因子を検索することを含み得る。論理処理デバイスは、機械可読メモリーからスケーリング因子を検索することができる。
【0057】
スケーリング因子を選択することは、スケーリング因子を導き出すことを含み得る。スケーリング因子は、目的関数を試験抗体のセットの生理化学的特性の経験値に適合させることによって導き出されてもよい。スケーリング因子は、それぞれ異なる溶液条件下における抗体(本明細書では「試験抗体」とも称される)のトレーニングセットの生理化学的特性の測定値に対して目的関数を含む構造パラメーターの計算値を回帰推定することによって到達した係数又は定数であってもよい。スケーリング因子は、目的関数を含む構造パラメーターを生理化学的特性の測定値に適合させる他のあらゆる手段によって導き出されてもよい。論理処理デバイスは、目的関数の構造パラメーターを生理化学的特性の測定値に適合させることができる。一度導き出されれば、同じスケーリング因子のセットを、同じ条件下における同じクラス又はサブクラスの抗体の粘度若しくはAsp異性化又は他の生理化学的特徴の予測に適用することができる。
【0058】
測定値は、経験値であってもよい。測定値は、公的に文書化又は公開された値であってもよい。測定値は、電子的に記号化されていてもよい。測定値は、機械可読メモリーに保存されていてもよい。
【0059】
生理化学的特徴の指標
生理化学的特性の一又は複数につき、指標は、対応する目的関数からコンピューターで計算されてもよい。指標は、生理化学的特徴に相当し得る。指標は、設計基準と比較されてもよい。
【0060】
指標は、電子的に計算されてもよい。用語「電子的に計算された」又は「電子的に定量された」は、電子コンピューティングデバイス、例えば論理処理デバイスによるコンピューター誘導を指す場合もある。
【0061】
論理処理デバイスは、計算を行うことができる。論理処理デバイスは、比較を行うことができる。データ送信デバイスは、指標が設計基準を満たすという提示を出力することができる。
【0062】
論理処理デバイスは、候補抗体に対応する指標に基づき、2つ以上の候補抗体から抗体を選択することができる。選択は、その指標が生理化学的特徴の限定又は設計基準に合致するか又はそれより優れている候補抗体を選択することであり得る。
【0063】
指標は、抗体を製造又は生産するかどうかを決定するための基準であり得る。
【0064】
指標は、既存の抗体を修飾するかどうか、又はどのように修飾するかを決定するための基準であり得る。指標は、既存の抗体の生理化学的特性から改善されている、及び/又は一又は複数の設計基準を満たしている、一又は複数の生理化学的特性を有する標的抗体を生産するように既存の抗体を修飾するための基準であり得る。
【0065】
抗体
抗体、試験抗体、候補抗体、既存の抗体及び標的抗体の一又は複数は、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体、クラススイッチされた抗体又は他のあらゆるタイプの抗体を含み得る。
【0066】
抗体、試験抗体、候補抗体、既存の抗体及び標的抗体の一又は複数は、抗体断片、単鎖断片可変抗体、単一ドメイン抗体、又は他のあらゆるタイプの断片若しくは抗体を含み得る。
【0067】
抗体、試験抗体、候補抗体、既存の抗体及び標的抗体の一又は複数は、ヒト抗体、非ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、加工された抗体、人工抗体又は他のあらゆるタイプの抗体を含み得る。
【0068】
抗体、試験抗体、候補抗体、既存の抗体及び標的抗体の一又は複数は、抗体クラスに属していてもよい。クラスは、IgG、IgM又は他のあらゆる好適なクラスであってもよい。クラスは、スイッチされたクラスであってもよい。クラスは、一又は複数のサブクラスを含み得る。サブクラスは、IgG1であってもよい。サブクラスは、IgG4であってもよい。サブクラスは、あらゆるサブクラスであってもよい。
【0069】
本明細書における用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、これらに限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片などの様々な抗体の構造を含む。「抗体断片」は、インタクトな抗体以外の分子であって、インタクトな抗体が結合する抗原と結合するインタクトな抗体の一部を含むものを指す。
【0070】
用語「可変領域」又は「可変ドメイン」は、抗原への抗体結合に関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを指す。抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は一般的に類似の構造を有しており、各ドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)及び3つの超可変領域(HVR又はCDR)を含む。(例えば、Kindt等. Kuby Immunology, 第6版, W.H. Freeman and Co., p91 (2007)を参照されたい)。抗原-結合特異性を付与するのに、単一のVH又はVLドメインで十分な場合がある。
【0071】
用語「超可変領域」又は「HVR」は、本明細書で使用される場合、配列中で超可変性であるか(「相補性決定領域」又は「CDR」)、及び/又は構造的に規定されたループを形成するか(「超可変ループ」)、及び/又は抗原と接触する残基を含有する(「抗原接触」)抗体の可変ドメインの領域のそれぞれを指す。一般的に、抗体は6つのHVRを含み、そのうち3つはVH中にあり(H1、H2、H3)、3つはVL中にある(L1、L2、L3)。
【0072】
「フレームワーク」又は「FR」は、HVR残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般的に、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、及びFR4からなる。したがって、HVR及びFR配列は、一般的に、以下の配列、VH(又はVL):FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4で出現する。
【0073】
「ヒト抗体」は、ヒト若しくはヒト細胞によって生産された、又はヒト抗体レパートリー若しくは他のヒト抗体コード配列を利用する非ヒト源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。このヒト抗体の定義は、厳密に言えば、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を排除する。
【0074】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基とヒトFRからのアミノ酸残基とを含むキメラ抗体を指す。ある特定の実施態様において、ヒト化抗体は、HVR(例えば、CDR)の全て又は実質的に全てが非ヒト抗体のHVRに対応し、FRの全て又は実質的に全てがヒト抗体のFRに対応する、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むと予想される。ヒト化抗体は、ヒト抗体に由来する抗体の定常領域の少なくとも一部を任意選択的に含んでいてもよい。抗体、例えば非ヒト抗体の「ヒト化された形態」は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0075】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で使用される場合、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体が同一であるか、及び/又は同じエピトープに結合するものであるが、ただし、例えば、天然に存在する突然変異を含有していたり、又はモノクローナル抗体調製物の生産中に生じたりする可能性のある変異抗体は除外され、このような変異体は一般的にわずかな量でしか存在しない。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して向けられる。したがって、修飾語句「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られるという抗体の性質を提示するものであり、何らかの特定の方法による抗体生産を必要とすると解釈されないものとする。
【0076】
抗体の「クラス」は、その重鎖が有する定常ドメイン又は定常領域のタイプを指す。哺乳動物抗体には、5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのうち数種はさらに、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2に分けることができる。本明細書で使用される場合、抗体の「クラス」は、広範に、抗体のクラス及びサブクラスを含む。
【0077】
抗体生産
ある特定の態様において、本発明はさらに、抗体を生産する方法であって、得られた抗体は、一又は複数の設計基準を満たす一又は複数の生理化学的特性を有すると決定される、方法を提供する。本発明は、修飾された抗体、すなわち生産された標的抗体が一又は複数の設計基準を満たす一又は複数の生理化学的特性を有するように、設計基準を満たさない既存の抗体から修飾された標的抗体を生産する方法も提供し得る。生産は、スモールスケールの抗体調製のためであってもよいし、又はラージスケールの抗体製造のためであってもよい。
【0078】
生産された抗体はさらに、薬学的組成物中に含まれていてもよい。抗体の薬学的製剤は、このような所望の純度を有する抗体を一又は複数の任意選択の薬学的に許容される担体と混合することによって、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で調製される(Remington's Pharmaceutical Sciences 第16版, Osol, A.編(1980))。「薬学的に許容される担体」は、対象にとって非毒性の、薬学的製剤中の活性成分以外の成分を指す。薬学的に許容される担体としては、これらに限定されないが、バッファー、賦形剤、安定剤、又は保存剤が挙げられる。
【0079】
本明細書における製剤はまた、処置される特定の徴候の必要に応じて、1種より多くの活性成分を含有していてもよく、このような成分として好ましくは、互いに悪影響を与えない補助的な活性を有する成分である。このような活性成分は、意図される目的にとって効果的な量で、組み合わされて存在することが好適である。
【0080】
インビボの投与に使用される製剤は、一般的に滅菌されている。無菌状態は、例えば、滅菌濾過膜を介した濾過によって容易に達成することができる。
【0081】
本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、これらに限定されないが、ハイブリドーマ方法、組換えDNA方法、ファージディスプレイ方法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法などの様々な技術によって作製することができる。
【0082】
抗体は、当該技術分野で公知のあらゆる方法によって生産されてもよい。抗体は、抗体を発現するのに好適な条件下で、抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養する方法によって生産されてもよい。抗体は、宿主細胞中で組換え生産されてもよい。宿主細胞は、原核細胞(これに限定されないが、大腸菌細胞など)又は真核細胞(これらに限定されないが、昆虫細胞、例えばSF9細胞、又は哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞など)であってもよい。抗体は、一時的にトランスフェクトされた細胞又は安定してトランスフェクトされた細胞株によって生産されてもよい。抗体は、トランスジェニック動物中で生産されてもよい。抗体は、当該技術分野で公知のあらゆる合成方法によって生産されてもよい。抗体は、クロマトグラフィー方法などの標準的方法を使用した精製により得てもよい。
【0083】
用語「既存の抗体」は、本発明に従って決定された一又は複数の生理化学的特性が改善される、及び/又は一又は複数の設計基準を満たすようにアミノ酸配列が修飾される抗体を指す場合もある。既存の抗体は、許容できる抗原-結合特異性、親和性及び他のエフェクター活性を有していてもよい。既存の抗体は、本発明によって決定した場合、望ましくない、又は許容できない生理化学的特性を有していてもよい。
【0084】
用語「標的抗体」、「修飾された抗体」又は「突然変異した抗体」は、同義的に使用される場合もある。これらの用語は、標的の、修飾された、又は突然変異した抗体が、一又は複数の設計基準を満たす一又は複数の生理化学的特性を有し、同時に、既存の抗体の抗原結合親和性、特異性及び他の所望の活性、例えば抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)及び他のエフェクター活性を少なくとも実質的に保持するように、既存の抗体のアミノ酸配列に対して一又は複数の変化を有する抗体を指す場合もある。標的の、修飾された、又は突然変異した抗体は、既存の抗体より優れた一又は複数の特性、例えば改善された抗原結合親和性、特異性及び/又は他の所望の活性を示す可能性がある。
【0085】
既存の抗体を修飾することは、既存の抗体のアミノ酸配列を修飾することを含み得る。既存の抗体のアミノ酸配列は、設計基準に合致する標的アミノ酸配列に合致するように修飾されていてもよい。
【0086】
既存の抗体のアミノ酸配列を修飾することは、既存の抗体のアミノ酸配列における一又は複数のアミノ酸を調整することを含み得る。一又は複数のアミノ酸残基を調整することは、一又は複数の残基の化学修飾を含み得る。一又は複数の残基の化学修飾は、一又は複数の残基のキラリティーを変化させることを含み得る。一又は複数の残基の化学修飾は、一又は複数の残基の一又は複数の原子を変化させることを含み得る。
【0087】
既存の抗体のアミノ酸配列を修飾することは、既存の抗体のアミノ酸配列中の一又は複数のアミノ酸残基を、異なるアミノ酸残基で置き換えること又は置換することを含み得る。既存の抗体のアミノ酸配列を修飾することは、既存の抗体のアミノ酸配列から一又は複数のアミノ酸残基を欠失させることを含み得る。既存の抗体のアミノ酸配列を修飾することは、既存の抗体のアミノ酸配列に一又は複数のアミノ酸残基を付加又は挿入することを含み得る。
【0088】
アミノ酸置換は、保存的置換又は非保存的置換であってもよい。保存的又は非保存的アミノ酸置換を構成するものは当該技術分野で一般的に理解されている。保存的置換は、下記の表1の「好ましい置換」の項目の下に示される。より実質的な変化は、表1の「例示的な置換」の項目の下に記載され、アミノ酸側鎖のクラスへの言及でさらに後述される通りである。既存の抗体にアミノ酸置換を導入して、修飾された抗体、すなわち標的抗体を生産してもよい。修飾された抗体は、それが既存の抗体の所望の特質を保持していることに加えて、所望の特質、例えば、所望の生理化学的特徴に関してスクリーニングされてもよい。
表1
【0089】
アミノ酸は、共通の側鎖特性に従って分類でき、(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;(2)中性で親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;(3)酸性:Asp、Glu;(4)塩基性:His、Lys、Arg;(5)鎖配向に影響を与える残基:Gly、Pro;及び(6)芳香族:Trp、Tyr、Pheである。非保存的置換は、これらのクラスの1つの一員を別のクラスのものに変換することを伴うと予想される。
【0090】
抗体が設計基準を満たす生理化学的特性を有し得るように、抗体配列中の一又は複数のアミノ酸残基を置換することにより本発明に従って正味の電荷又は疎水性を増加又は減少させることは、研究者の能力の範囲内であり得る。例えば、抗体がある特定の設計基準を満たすかどうかを決定するための基準として関連する指標の、塩基性アミノ酸残基から酸性又は中性アミノ酸残基への置換は計算された正味の電荷を減少させる可能性があり、親水性アミノ酸残基から疎水性アミノ酸残基への置換は計算された疎水性を増加させる可能性がある。標的の、修飾された、又は突然変異した抗体は、標的の、修飾された、又は突然変異した抗体が設計基準を満たす少なくとも1つの生理化学的特性を有することを確認するために、さらなるインシリコ分析又はウェット実験分析に供されてもよい。
【0091】
修飾された抗体が抗原結合特異性又は親和性などの既存の抗体の所望の活性を少なくとも実質的に保持することを当該技術分野で公知の方法を使用して確認するために、標的の、修飾された、又は突然変異した抗体は、さらなる分析に供されてもよい。例えば、抗原結合特異性、親和性及び結合速度論は、ELISA、蛍光ベースのイムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ又はBIACORE(登録商標)アッセイ(Biacore AB、Uppsala、Sweden)によって測定されてもよい。
【0092】
活性を「実質的に保持する」という用語は、活性の少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%を保持することを指す場合もある。
【0093】
論理処理デバイス、データ送信デバイス、データ受信デバイス
論理処理デバイス、データ送信デバイス及びデータ受信デバイスの一又は複数は、コンピューティングマシーンとして、又はその一部として実行されてもよい。
【0094】
コンピューティングマシーンは、クライアント、サーバー、クライアントとサーバーの両方、プログラマブル論理コントローラー(「PLC」)、又は他のあらゆる好適な処理デバイスであってもよい。コンピューティングマシーンは、中央処理装置(「CPU」)、メモリー及び入/出力(「I/O」)回路構成、及び/又は他のあらゆる好適な装置を含み得る。
【0095】
CPUは、マイクロプロセッサー、マイクロコンピューター及びマイクロコントローラーの一又は複数を含み得る。マイクロプロセッサー、マイクロコンピューター及びマイクロコントローラーは、ゲート及びフリップフロップなどのデジタル回路構成成分を含み得る。CPUは、フリップフロップ及びゲートなどの一又は複数の別々のデジタル回路構成成分を使用して構築されてもよい。
【0096】
マイクロプロセッサー、マイクロコンピューター及びマイクロコントローラーは、1つ又は複数のアーキテクチャー、例えば縮小命令セットコンピューター(「RISC」)又は複数命令セットコンピューター(「CISC」)又は超長命令語(「VLIW」)又は他のあらゆる好適なアーキテクチャーに適合する可能性がある。アーキテクチャーは、データパス、制御回路構成、クロック回路構成、メモリー回路構成、及び他のあらゆる好適なパス又は回路コンフィギュレーションの1つ又は複数のコンフィギュレーションを定義することができる。
【0097】
データパスは、パイプライン化されていてもよいし、又はパイプライン化されていなくてもよい。データパスは、演算論理装置(「ALU」)を含み得る。制御回路構成は、命令を解釈することができる。制御回路構成は、データパスを制御することができる。クロック回路構成は、制御装置及びデータパスの1つ又は複数のタイミングを統制することができる。制御回路構成は、1つ又は複数の有限状態機械、読出し専用メモリー及び内部処理装置をあらゆる好適な組合せで含み得る。
【0098】
メモリー回路構成は、コンピューターによる変数値、例えばスケーリング因子を供給することができる。メモリーは、命令、例えば目的関数を計算するのに必要な命令を供給することができる。メモリーは、1つ又は複数のレジスタを含み得る。メモリーは、1つ又は複数のレベルのキャッシュを含み得る。メモリーは、アドレス指定成分を含み得る。アドレス指定成分は、バーチャルメモリーシステムを統制することができる。アドレス指定成分は、外部のメモリー及び又はメモリーデバイスへのアクセスを統制することができる。
【0099】
マイクロプロセッサーは、単一のシリコンダイ上にレジスタ及びキャッシュの一部又は全部と共に統合されていてもよい。1つ又は複数のレベルのキャッシュは、マイクロプロセッサーダイの外部にあってもよい。
【0100】
メモリーは、ランダムアクセスメモリー(「RAM」)、読出し専用メモリー(「ROM」)、フラッシュメモリー、電気的消去可能プログラマブルメモリー(「EEPROM」)、電気的にプログラム可能なメモリー(「EPROM」)、磁気ディスク、磁気テープ、ドラム、光ディスク及び他のあらゆる好適なメモリーの1つ又は複数を含み得る。
【0101】
メモリーは、マイクロプロセッサーダイ上に含まれていてもよい「オンボード」成分(例えば、レジスタメモリー及びキャッシュとして指定されたメモリー)と、マイクロプロセッサーダイの外部にあってもよい「外部メモリー」成分とに分けることもできる。外部メモリーは、物理的にアドレス可能なメモリー(例えば、メインメモリー/コアメモリーとして指定される可能性があるメモリー)又はバーチャルにアドレス可能なメモリーの一部であってもよい。磁気ディスクメモリーは、不揮発性ストレージのために使用され得る。磁気ディスクメモリーは、バーチャルメモリーシステムの一部であってもよい。
【0102】
I/O回路構成は、マイクロプロセッサーダイの内部又は外部であってもよい。I/O接続性は、ハードウェア成分(例えば、プリンター、プロセス制御要素及び他の好適なハードウェア成分)への直接接続を含み得る。I/O接続性は、ネットワークと通信するための一又は複数のネットワーク形成成分(例えば有線モデム、ワイヤレス接続WIFI、近接場の接続及び他の好適なネットワーク形成成分)を含み得る。ネットワークは、有線通信においてノードを含み得る。ネットワークは、ワイヤレス通信においてノードを含み得る。ネットワークは、広域ネットワーク(「WAN」)、ローカルエリアネットワーク(「LAN」)、WIFIネットワーク、又は他のあらゆる好適なタイプのネットワークを含み得る。
【0103】
I/O接続性のタイプの場合、情報は、送信器を使用して送ってもよい。I/O接続性のタイプの場合、情報は、受信器を使用して受信してもよい。いくつかのケースにおいて、送信器及び受信器は、トランシーバーに組み合わされていてもよい。典型的には、情報は、パケットに系統化されたデジタル情報である。しかし、情報は、シングル伝送ビット、例えば機械をオンにするか、又はプロセス若しくは計算の状況を提示するもの、シングル受信ビット、例えばセンサー、プロセス又は計算の状況を提示するものであってもよく、又は情報は、アナログ電圧又は電流を含んでいてもよい。
【0104】
送信器は、ハードウェア成分を含み得る。送信器は、ソフトウェア成分を含み得る。ハードウェアは、それを介して無線周波数エネルギーが伝搬する有線接続又はワイヤレスメディアと物理的に相互作用するために含まれ得る。送信器のハードウェアは、無線送信器を含み得る。送信器は、ハードウェア成分のみを有し得る。ハードウェアの一部は、マイクロプロセッサー、マイクロコンピューター及びマイクロコントローラーの外部であり得る。例えば、シングルビット出力は、機械を制御するためのレベルシフティング増幅器を利用し得る。いくつかの送信器のプロトコールは、ソフトウェアアップデートを介してアップデートされ得る。
【0105】
受信器は、ハードウェア成分を含み得る。受信器は、ソフトウェア成分を含み得る。ハードウェアは、それを介して無線周波数エネルギーが伝搬する有線接続性又はワイヤレスメディアと物理的に相互作用するために含まれ得る。受信器のハードウェアは、無線受信器を含み得る。受信器は、ハードウェア成分のみを有し得る。ハードウェアの一部は、マイクロプロセッサー、マイクロコンピューター及びマイクロコントローラーの外部であり得る。例えば、シングルビット出力は、センサーからデータを受信するためのレベルシフティング増幅器を利用し得る。いくつかの受信器のプロトコールは、ソフトウェアアップデートを介してアップデートされ得る。
【0106】
コンピューティングマシーンは、抗体の生理化学的特性の一又は複数に対応する目的関数を選択するための手段を含むように設計されていてもよい。
【0107】
コンピューティングマシーンは、抗体溶液条件下における目的関数のスケーリング因子の機械可読メモリー(機械メモリー)値を同定するための手段を含むように設計されていてもよい。コンピューティングマシーンは、同定されたスケーリング因子値を検索するための手段を含むように設計されていてもよい。
【0108】
コンピューティングマシーンは、抗体の構造パラメーターを処理するための手段を含むように設計されていてもよい。処理は、論理処理であってもよい。処理は、数値処理であってもよい。処理は、パラメーターを評価することを含み得る。処理は、パラメーターの値を生産してもよい。処理は、抗体の構造的フィーチャに基づいていてもよい。処理は、溶液条件に基づいていてもよい。
【0109】
コンピューティングマシーンは、目的関数を評価するための手段を含むように設計されていてもよい。評価は、パラメーターの値及びスケーリング因子の値に基づいていてもよい。目的関数を評価することは、溶液条件下における抗体の一又は複数の生理化学的特性の値の予測を生産することであり得る。
【0110】
コンピューティングマシーンは、一又は複数の生理化学的特性に対応する設計基準と予測を比較するための手段を含むように設計されていてもよい。
【0111】
コンピューティングマシーンは、比較に基づき抗体を選択するための手段を含むように設計されていてもよい。予測が設計基準に合致する場合、その抗体が選択されてもよい。抗体は、抗体生産のために選択されてもよい。
【0112】
本発明のフィーチャ及び原理の組合せ
上記で説明した本発明のフィーチャ及び原理を例示的な生理化学的特性に適用するための方法をここで説明する。例示的な生理化学的特性としては、粘度、クリアランス、アスパラギン酸の不安定性及びトリプトファンの不安定性が挙げられる。
【0113】
本方法は、互いにあらゆる組合せで、上記で説明したフィーチャ及び原理を、生理化学的特性の1つ又は生理化学的特性の2つ以上の組合せに適用することを含み得ることが理解されると予想される。
【0114】
本方法は、装置、媒体、又はその両方のフィーチャのあらゆる組合せによって実行されてもよい。
【0115】
粘度
生理化学的特徴は、抗体の粘度であってもよい。設計基準は、粘度の限定であってもよい。抗体の粘度が粘度の限定に等しい場合、設計基準が満たされているとみなすことができる。抗体の粘度が粘度の限定未満である場合、設計基準が満たされているとみなすことができる。粘度の限定は、50、45、40、35、30、25、20、15、10、又は5cPであってもよい。治療剤中に含ませるための抗体の適合度を決定する、数種の候補抗体から抗体を選択する、抗体を製造する、既存の抗体を修飾する、及び標的抗体を生産する粘度ベースの方法を、以下で論じる。本方法の1つの一又は複数の工程は、他の方法の一又は複数の工程と組み合わせて行ってもよいことが理解されると予想される。
【0116】
粘度:治療剤中に含ませるため抗体の適合度又は適合性を決定するための方法
本方法は、粘度に基づき、治療剤中に含ませるための抗体の適合度を決定することを含み得る。本方法は、(a)(1)正味の電荷;及び(2)電荷非対称を含み得る抗体の構造情報から計算すること;(b)正味の電荷に相当する第1のスケーリング因子(又は正味の電荷のスケーリング因子)、及び電荷非対称に相当する第2のスケーリング因子(又は電荷非対称のスケーリング因子)を抗体に関して選択すること;(c)スケーリング因子を含む目的関数から指標を計算すること、ここで指標は粘度に対応し;(d)指標を設計基準と比較すること;及び(e)抗体が設計基準を満たす粘度を有するかどうかを決定することを含んでいてもよい。
【0117】
構造情報から計算することは、一次構造の情報から計算することを含んでいてもよい。一次構造は、軽鎖可変ドメイン(VL)のアミノ酸配列及び重鎖可変ドメイン(VH)のアミノ酸配列を含んでいてもよい。本方法は、可変ドメインの構造情報から正味の電荷を計算することを含み得る。正味の電荷は、VLのアミノ酸配列の正味の電荷とVHのアミノ酸配列の正味の電荷との合計を含んでいてもよい。本方法は、可変ドメインの構造情報から電荷非対称を計算することを含み得る。電荷非対称は、VLのアミノ酸配列の正味の電荷とVHのアミノ酸配列の正味の電荷との算術積を含んでいてもよい。本方法は、(3)一又は複数の相補性決定領域から疎水性を計算することをさらに含んでいてもよい。
【0118】
本方法は、抗体のアミノ酸配列を配列決定する工程をさらに含んでいてもよい。本方法は、抗体を生産する工程をさらに含んでいてもよい。
【0119】
本方法は、可変ドメインの単一の相補性決定領域の構造情報から疎水性を計算することを含み得る。単一の相補性決定領域は、抗体のCDR1、CDR2及びCDR3の何れか1つであってもよい。本方法は、一又は複数の相補性決定領域(CDR)の構造情報から疎水性を計算することを含み得る。一又は複数の相補性決定領域は、2、3、4、5又は6つの相補性決定領域を含み得る。一又は複数の相補性決定領域は、6つの相補性決定領域を含み得る。疎水性は、一又は複数の相補性決定領域の疎水性値の合計として計算されてもよい。疎水性は、一又は複数のCDRの疎水性の値の加法関数の合計を含んでいてもよい。加法関数のそれぞれは、CDRの疎水性残基の値の合計とCDRの親水性残基の値の合計との比率であってもよい。本方法は、Fvドメインの構造情報から疎水性を計算することを含み得る。本方法は、抗体のトレーニングセットが異なるクラス又はサブクラスの抗体を含む場合、Fvドメインの構造情報から疎水性を計算することを含み得る。疎水性残基又は親水性残基の値は、所与のアミノ酸残基ごとのEisenberg疎水性スケール値であってもよい。
【0120】
粘度は、これらに限定されないが、円錐平板型及び落下球型レオメーターなどのレオメーターを使用することによって実験的に測定されてもよい。
【0121】
本方法は、指標を電子的に定量することを含み得る。指標は、目的関数から定量され得る。目的関数は、スケーリング因子を含み得る。指標は、粘度に相当し得る。
【0122】
本方法は、抗体が設計基準である粘度の限定を満たす粘度を有するかどうかを決定するために、指標を、設計基準である粘度の限定比較することを含み得る。
【0123】
目的関数において、指標のlog10は、
(正味の電荷×第1のスケーリング因子)と、
(電荷非対称×第2のスケーリング因子)と、
(疎水性×第3のスケーリング因子)と
の合計によって決まる可能性がある。目的関数は、指標=10constant10sumの一般的な形態を有していてもよい。
【0124】
本方法は、スケーリング因子を選択することを含み得る。スケーリング因子は、第1のスケーリング因子(又は正味の電荷のスケーリング因子)を含み得る。第1のスケーリング因子は、正味の電荷に相当し得る。スケーリング因子は、第2のスケーリング因子(又は電荷非対称のスケーリング因子)を含み得る。第2のスケーリング因子は、電荷非対称に相当し得る。スケーリング因子は、第3のスケーリング因子(又は疎水性のスケーリング因子)を含み得る。第3のスケーリング因子は、疎水性に相当し得る。スケーリング因子は、複数の第1のスケーリング因子、複数の第2のスケーリング因子及び複数の第3のスケーリング因子を含み得るスケーリング因子のセットから選択されてもよい。本方法は、少なくとも1つの試験抗体の少なくとも1つの粘度測定値のデータからスケーリング因子を導き出すことをさらに含んでいてもよく、ここで抗体及び試験抗体は、同じ抗体クラスに属する。スケーリング因子は、導き出されたスケーリング因子であってもよい。
【0125】
溶液条件は、イオン強度を含み得る。低イオン強度の溶液の場合、第3のスケーリング因子は、ゼロであってもよい。低イオン強度の溶液の例は、20-30ミリモル濃度の緩衝溶液であり得る。
【0126】
低イオン強度の溶液の場合、本方法は、抗体の構造情報から疎水性を計算することを含んでいなくてもよく、合計もスケーリング因子も、第3のスケーリング因子を含んでいなくてもよい。低イオン強度の溶液の場合、本方法は、第3のスケーリング因子を選択することを含んでいなくてもよい。目的関数において、低イオン強度の溶液の場合、指標のlog10は、
(正味の電荷×第1のスケーリング因子)と、
(電荷非対称×第2のスケーリング因子)と
の合計によって決まる可能性がある。
【0127】
高イオン強度の溶液の場合、指標を生理化学的特徴に緊密に対応させることは、疎水性の計算に1、2、3、4、5又は6つのCDRを含めることによって達成されてもよい。高イオン強度の溶液の例は、約200ミリモル濃度のイオン性バッファーであり得る。
【0128】
例えば、約25℃及び約pH5.5でおよそ200ミリモル濃度の緩衝溶液中のモノクローナルIgG1の場合、第1、第2及び第3のスケーリング因子は、以下のような抗体濃度との関係を示す可能性がある:約150ミリグラム/ミリリットルの抗体濃度の場合、第1のスケーリング因子は、約-0.036であってもよく、第2のスケーリング因子は、約-0.012であってもよく、第3のスケーリング因子は、約0.34であってもよく;約180ミリグラム/ミリリットルの抗体濃度の場合、第1のスケーリング因子は、約-0.05であってもよく、第2のスケーリング因子は、約-0.017であってもよく、第3のスケーリング因子は、約0.42であってもよい。
【0129】
所与の値又は範囲に付く「約」という用語は、ある値で、又はある範囲内で得られた結果に実質的に類似した結果が得られる程度に十分その値又は範囲に近接していることを指す場合もある。「実質的に類似した」結果は、その値で、又はその範囲内で得られた結果の1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%又は10%以内であってもよい。
【0130】
この高イオン強度の例の場合、例示的な抗体濃度のそれぞれごとの指標の定量化は、センチポイズで測定された場合、測定された粘度に厳密に対応する指標をもたらすことができる。いくつかの抗体クラス及びサブクラスに関して、本方法は、抗体の定常領域の構造情報から、定常領域の電荷非対称を計算することを含み得る。これらのクラス及びサブクラスに関して、スケーリング因子のセットは、複数の定常領域の電荷非対称のスケーリング因子を含んでいてもよく、本方法は、定常領域の電荷非対称に相当し得る定常領域の電荷非対称のスケーリング因子(又は第4のスケーリング因子)を抗体に関して選択することを含んでいてもよい。これらのクラス及びサブクラスに関して、目的関数は、定常領域の電荷非対称のスケーリング因子を含んでいてもよい。抗体のクラス(又はサブクラス)は、IgG4であってもよい。
【0131】
これらのクラス及びサブクラスに関して、指標のlog10は、
(正味の電荷×第1のスケーリング因子)と、
(可変ドメインの電荷非対称×第2のスケーリング因子)と、
(疎水性×第3のスケーリング因子)と、
クラス(又はサブクラス)に応じて、(定常領域の電荷非対称×定常領域の電荷非対称のスケーリング因子)と
の合計によって決まる可能性がある。
【0132】
これらのクラス及びサブクラスに関して、低イオン強度の溶液の場合、第3のスケーリング因子は、ゼロであってもよい。低イオン強度の溶液の場合、本方法は、抗体の構造情報から疎水性を計算することを含んでいなくてもよく、合計もスケーリング因子も、第3のスケーリング因子を含んでいなくてもよい。低イオン強度の溶液の場合、本方法は、第3のスケーリング因子を選択することを含んでいなくてもよい。目的関数において、低イオン強度の溶液の場合、指標のlog10は、
(正味の電荷×第1のスケーリング因子)と、
(可変ドメインの電荷非対称×第2のスケーリング因子)と、
(定常領域の電荷非対称×定常領域の電荷非対称のスケーリング因子)と
の合計によって決まる可能性がある。
【0133】
本方法が定常領域の電荷非対称を計算及び利用することができ、さらに本方法が対応する定常領域の電荷非対称のスケーリング因子を選択及び利用することができるクラス及びサブクラスは、IgG4を含み得る。
【0134】
粘度:治療剤中に含ませるための候補抗体のなかから選択する方法
本方法は、2つ以上の候補抗体のなかから粘度に基づき抗体を選択することを含んでいてもよく、さらに、粘度の適合度を決定するための方法の工程を含んでいなくてもよく、その一部又は全部を含んでいてもよい。
【0135】
本方法は、第1の候補抗体の第1の構造情報を提供することを含み得る。第1の構造情報は、第1の候補抗体の第1のアミノ酸配列を含み得る。本方法は、第2の候補抗体の第2の構造情報を提供することを含み得る。第2の構造情報は、第2の候補抗体の第2のアミノ酸配列を含み得る。
【0136】
本方法は、第1の構造情報から、構造パラメーターの第1のセット:(1)第1の正味の電荷;(2)第1の電荷非対称;及び(3)第1の疎水性を数値的に計算することを含み得る。本方法は、第2の構造情報から、構造パラメーターの第2のセット:(1)第2の正味の電荷;(2)第2の電荷非対称;及び(3)第2の疎水性を数値的に計算することを含み得る。
【0137】
本方法は、第1の目的関数から第1の指標を電子的に定量することを含み得る。第1の目的関数は、生理化学的パラメーターの第1のセットに対応するスケーリング因子の第1のセットを含み得る。第1の指標は、第1の候補抗体に相当し得る。第1の指標は、第1の候補抗体の第1の粘度に相当し得る。本方法は、第2の目的関数から第2の指標を電子的に定量することを含み得る。第2の目的関数は、構造パラメーターの第2のセットに対応するスケーリング因子の第2のセットを含み得る。第2の指標は、第2の候補抗体に相当し得る。第2の指標は、第2の候補抗体の第2の粘度に相当し得る。スケーリング因子及び目的関数の第1及び第2のセットは、同じであってもよい。スケーリング因子及び目的関数の第1及び第2のセットは、異なっていてもよい。
【0138】
スケーリング因子の各セットは、正味の電荷に対応する正味の電荷のスケーリング因子、電荷非対称に対応する電荷非対称のスケーリング因子、及び疎水性に対応する疎水性のスケーリング因子を含み得る。候補抗体のいくつかのクラス及びサブクラスに関して、スケーリング因子の第1のセット及び/又は第2のセットの電荷非対称のスケーリング因子は、可変ドメインの電荷非対称のスケーリング因子であってもよい。
【0139】
候補抗体のある特定のクラス及びサブクラスに関して、本方法は、第1の候補抗体及び/又は第2の候補抗体の定常領域の構造情報から、それぞれ構造パラメーターの第1のセットに関する第1の定常領域の電荷非対称、及び/又は構造パラメーターの第2のセットに関する第2の定常領域の電荷非対称を計算することを含み得る。このようなクラス及びサブクラスの例は、IgG4であってもよい。
【0140】
第1の目的関数及び第2の目的関数は、第1の候補抗体及び第2の候補抗体それぞれに関するスケーリング因子を含み得る。低イオン強度の溶液中の候補抗体の場合、疎水性のスケーリング因子は、ゼロであってもよい。低イオン強度の溶液中の候補抗体の場合、本方法は、疎水性を計算することを含んでいなくてもよい。低イオン強度の溶液中の候補抗体の場合、目的関数は、疎水性のスケーリング因子を含んでいなくてもよい。
【0141】
第1の候補抗体のクラス又はサブクラスが第2の候補抗体のクラス又はサブクラスである場合、スケーリング因子の第1のセットは、スケーリング因子の第2のセットと同一であり得る。第1の候補抗体の溶液条件が第2の候補抗体の溶液条件である場合、スケーリング因子の第1のセットは、スケーリング因子の第2のセットと同一であり得る。
【0142】
第1の指標は、設計基準である粘度の限定を満たしていてもよい。第2の指標は、設計基準である粘度の限定を満たしていてもよい。
【0143】
本方法は、第1の指標及び第2の指標の相対的価値に基づき、治療剤で使用するための抗体となるように、第1の候補抗体又は第2の候補抗体を選択することを含み得る。本方法は、第1の指標が第2の指標より低い場合、第1の候補抗体を選択することを含み得る。本方法は、第2の指標が第1の指標より低い場合、第2の候補抗体を選択することを含み得る。本方法は、第1及び/又は第2の指標を設計基準と比較する工程をさらに含んでいてもよい。選択された抗体は、設計基準を満たす粘度を有していてもよい。
【0144】
粘度:治療剤の製造方法
製造方法は、製造又は治療用分配容器に基づき、抗体に関する粘度の限定を設定することを含み得る。治療剤の製造方法は、粘度の適合度を決定するための方法の工程を含んでいなくてもよく、その一部又は全部を含んでいてもよい。
【0145】
製造方法は、製造容器又は分配容器中の流体誘導要素(fluid conducting element)を同定することを含み得る。流体誘導要素としては、パイプ、バルブ、多孔質プラグ又は他のあらゆる流体誘導要素を挙げることができる。他のあらゆる流体誘導要素としては、チューブ、クロマトグラフ媒体又はフィルターを挙げることができる。流体誘導要素は、流体の流れ抵抗を有していてもよい。流体の流れ抵抗は、製造及び/又は分配の水溶液条件のセット下における抗体の粘度によって決まる可能性がある。
【0146】
製造方法は、抗体の構造情報から、抗体の粘度に対応する指標を電子的に定量することを含み得る。定量は、抗体の粘度の適合度を決定する方法に従っていてもよい。
【0147】
本方法は、指標が限定を超えない場合のみ、流体誘導要素を介して抗体を送ることを含み得る。本方法は、指標が限定を超えない場合のみ、抗体を製造することを含み得る。
【0148】
本方法は、治療剤の粘度が粘度の限定を超えないように標的抗体を構築することを含み得る。
【0149】
本方法は、標的抗体に関するアミノ酸配列を決定することを含み得る。アミノ酸配列は、粘度の限定未満である粘度指数に相当し得る。
【0150】
アミノ酸配列を決定することは、既存の抗体の検査抗体のアミノ酸配列から、検査粘度を電子的に定量することを含み得る。定量は、抗体の粘度の適合度を決定するための工程を含んでいなくてもよく、その一部又は全部を含んでいてもよい。
【0151】
本発明はまた、抗体を含む組成物を製造する方法であって、流体誘導要素を介して流れる流体の粘度によって決まる製造容器中の流体誘導要素の流体の流れ抵抗に基づき、抗体に関する粘度の限定を設定すること;ネットワークを通じて、抗体の構造情報を送信すること;ネットワークを通じて該構造情報から計算された抗体の粘度の指標を受信すること;及び指標が粘度の限定を超えない場合のみ、該組成物を製造するために該要素を介して抗体を送ることを含み得る、方法も提供する。
【0152】
本方法は、流体誘導要素を介して流れる流体の粘度によって決まる製造容器中の流体誘導要素の流体の流れ抵抗に基づき、抗体に関する粘度の限定を設定すること;抗体の構造情報から、抗体の粘度の指標を計算すること;及び指標が粘度の限定を超えない場合のみ、該組成物を製造するために該要素を介して抗体を送ることを含み得る。
【0153】
粘度:抗体を生産する方法
設計基準を満たす粘度を有する抗体を生産する方法は、(a)抗体に関する粘度の限定を設定する工程;(b)本出願全体にわたり説明された方法に従って、抗体の構造情報から、抗体の粘度に対応する指標を計算し、抗体が設計基準を満たす粘度を有するかどうかを決定する工程;及び(c)指標が粘度の限定を超えない場合、抗体を生産する工程を含んでいてもよい。
【0154】
設計基準を満たす粘度を有する抗体を生産する方法は、設計基準を満たす、抗体に関する粘度の限定を設定する工程;ネットワークを通じて、抗体の構造情報を送信する工程;ネットワークを通じて、抗体の粘度に対応する指標を受信する工程であって、ここで指標は、構造情報から計算される、工程;抗体が設計基準を満たす粘度を有するかどうかを決定する工程;及び指標が粘度の限定を超えない場合のみ、抗体を生産する工程を含んでいてもよい。
【0155】
本明細書に記載される各実施態様に関して、指標は、抗体の構造情報から、正味の電荷及び電荷非対称を計算する工程;正味の電荷に相当する第1のスケーリング因子、及び電荷非対称に相当する第2のスケーリング因子を抗体に関して選択する工程;及びスケーリング因子を含む目的関数から指標を計算する工程であって、指標は粘度に対応する、工程を含む方法によって計算される。構造情報から計算することは、一次構造の情報から計算することを含んでいてもよい。一次構造は、軽鎖可変ドメイン(VL)のアミノ酸配列及び重鎖可変ドメイン(VH)のアミノ酸配列を含んでいてもよい。正味の電荷は、VLのアミノ酸配列の正味の電荷とVHのアミノ酸配列の正味の電荷との合計を含んでいてもよい。電荷非対称は、VLのアミノ酸配列の正味の電荷とVHのアミノ酸配列の正味の電荷との算術積を含んでいてもよい。本方法は、少なくとも1つの試験抗体の少なくとも1つの粘度測定値のデータからスケーリング因子を導き出すことをさらに含んでいてもよく、ここで抗体及び試験抗体は、同じ抗体クラスに属する。スケーリング因子を選択することは、一又は複数の水溶液条件のそれぞれに関するスケーリング因子のセットから第1のスケーリング因子及び第2のスケーリング因子を選択することを含んでいてもよい。目的関数において、指標のlog10は、(正味の電荷×第1のスケーリング因子)と、(電荷非対称×第2のスケーリング因子)との合計を含んでいてもよい。
【0156】
本明細書に記載される各実施態様に関して、本方法は、抗体の一又は複数の相補性決定領域(CDR)の情報からの構造情報から、疎水性を計算すること;及び疎水性に対応する第3のスケーリング因子を選択することをさらに含んでいてもよく、ここで目的関数は、第3のスケーリング因子をさらに含む。疎水性は、一又は複数のCDRの疎水性の値の加法関数の合計を含んでいてもよい。加法関数のそれぞれは、CDRの疎水性残基の値の合計とCDRの親水性残基の値の合計との比率であってもよい。この値は、Eisenberg疎水性スケール値であってもよい。一又は複数のCDRは、1、2、3、4、5又は6つ全てのCDRを含んでいてもよい。スケーリング因子を選択することは、第1のスケーリング因子、第2のスケーリング因子及び第3のスケーリング因子を、一又は複数の水溶液条件のそれぞれに関するスケーリング因子のセットから選択することをさらに含んでいてもよい。目的関数において、指標のlog10は、(正味の電荷×第1のスケーリング因子)と、(電荷非対称×第2のスケーリング因子)と、(疎水性×第3のスケーリング因子)との合計を含んでいてもよい。
【0157】
本明細書に記載される各実施態様に関して、本方法は、指標が粘度の限定を超える場合、抗体の軽鎖及び/又は重鎖可変領域のアミノ酸配列の一又は複数のアミノ酸残基を突然変異させて、標的抗体を生成する工程をさらに含んでいてもよい。軽鎖及び/又は重鎖可変領域のアミノ酸配列を突然変異させる工程は、標的抗体の指標が粘度の限定を超えないように、疎水性を低下させる、正味の電荷を増加させる、及び/又は電荷非対称を増加若しくは減少させる可能性がある。本方法は、標的抗体を生産する工程をさらに含んでいてもよい。
【0158】
追加の実施態様において、本発明は、本明細書に記載される方法及び装置によって、粘度の設計基準を満たすように選択、生産及び/又は決定された抗体を提供する。
【0159】
クリアランス
生理化学的特徴は、抗体の薬物動態学的なクリアランス速度であってもよい。設計基準は、薬物動態学的なクリアランス速度の限定であってもよい。抗体のクリアランス速度がクリアランス速度の限定に等しい場合、設計基準が満たされているとみなすことができる。抗体のクリアランス速度がクリアランス速度の限定未満である場合、設計基準が満たされているとみなすことができる。クリアランス速度の限定は、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6又は5mL/kg/日であってもよい。クリアランス速度の限定は、Cynoサルにおいて、10mL/kg/日であってもよい。
【0160】
治療剤中に含ませるための抗体の適合度を決定する、数種の候補抗体から抗体を選択する、抗体を製造する、既存の抗体を修飾する、及び標的抗体を生産するクリアランス速度ベースの方法を、以下で論じる。本方法の1つからの一又は複数の工程は、他の方法の一又は複数の工程と組み合わせて行ってもよいことが理解されると予想される。
【0161】
クリアランス:治療剤中に含ませるため抗体の適合度又は適合性を決定するための方法
本方法は、クリアランスに基づき、治療剤中に含ませるための抗体の適合度を決定することを含み得る。本方法は、抗体の構造情報から正味の電荷を計算することを含み得る。正味の電荷の範囲は、水溶液条件によって決まる可能性がある。正味の電荷は、正味の電荷の範囲に合致していてもよい。正味の電荷の範囲は、-4から12であってもよい。正味の電荷の範囲は、-2から6.2であってもよい。正味の電荷の範囲は、0から6.2であってもよい。正味の電荷の範囲は、溶液条件及び抗体のトレーニングセットの試料サイズに応じて変動し得る。
【0162】
本方法は、(a)正味の電荷が正味の電荷の範囲に合致し得る場合、一又は複数のCDRの構造情報から疎水性を計算し、(i)疎水性が疎水性の限定を超えない場合、抗体が設計基準を満たすクリアランス速度を有すると決定すること、又は(ii)疎水性が疎水性の限定よりも高い場合、抗体が設計基準を満たさないクリアランス速度を有すると決定すること;及び(b)正味の電荷が正味の電荷の範囲に合致しない場合、抗体が設計基準を満たさないクリアランス速度を有すると決定することを含み得る。構造情報は、一次構造の情報であってもよい。一次構造は、軽鎖可変ドメイン(VL)のアミノ酸配列及び重鎖可変ドメイン(VH)のアミノ酸配列を含んでいてもよい。正味の電荷は、pH5.5におけるVH及びVLの正味の電荷であってもよい。正味の電荷の範囲は、約-2.0から約6.2であってもよい。疎水性の限定は、約4であってもよい。
【0163】
本方法は、可変ドメインの単一の相補性決定領域の構造情報から疎水性を計算することを含み得る。本方法は、本明細書に記載されるような一又は複数の相補性決定領域の構造情報から疎水性を計算することを含み得る。複数の相補性決定領域は、2、3、4、5又は6つの相補性決定領域を含み得る。疎水性は、一又は複数の相補性決定領域の疎水性値の合計として計算されてもよい。一又は複数のCDRは、軽鎖(LC)CDR1、LC CDR3及び重鎖(HC)CDR3であってもよい。本方法は、抗体を生産する工程をさらに含んでいてもよい。
【0164】
例証的な結果の章及び図は、指標とクリアランス速度との対応を開示している。
【0165】
クリアランス:治療剤中に含ませるための候補抗体のなかから選択する方法
本方法は、2つ以上の候補抗体のなかからクリアランス速度に基づき抗体を選択することを含んでいてもよく、さらに、クリアランスの適合度を決定するための方法の一又は複数の工程を含んでいてもよい。
【0166】
例えば、抗体は、治療剤中に含ませるための2つの候補抗体から選択されてもよい。選択方法は、第1の候補抗体の第1の構造情報を提供することを含み得る。第1の構造情報は、第1の候補抗体の第1のアミノ酸配列を含み得る。選択方法は、第2の候補抗体の第2の構造情報を提供することを含み得る。第2の構造情報は、第2の候補抗体の第2のアミノ酸配列を含み得る。
本方法は、第1の構造情報から第1の正味の電荷を計算し、第1の候補抗体の一又は複数のCDRから第1の疎水性を計算することを含み得る。本方法は、第2の構造情報から第2の正味の電荷を計算し、第2の候補抗体の一又は複数のCDRから第2の疎水性を計算することを含み得る。
【0167】
第1の正味の電荷の範囲及び第2の正味の電荷の範囲は、水溶液条件によって決まる可能性がある。第1の正味の電荷の範囲及び第2の正味の電荷の範囲は、それぞれ第1の候補抗体のクラス又はサブクラス及び第2の候補抗体のクラス又はサブクラスによって決まる可能性がある。第1及び第2の正味の電荷の範囲は、同じであってもよい。第1及び第2の正味の電荷の範囲は、異なっていてもよい。
【0168】
本方法は、第1の指標及び第2の指標の相対的価値に基づき、治療剤で使用するための抗体となるように、第1の候補抗体又は第2の候補抗体を選択することを含み得る。本方法は、他の候補抗体(単数又は複数)より低い疎水性を有する候補抗体を選択することを含み得る。本方法は、設計基準を満たすクリアランス速度を有する候補抗体を選択することを含み得る。
【0169】
クリアランス:治療剤の製造方法
製造方法は、維持量に基づき、抗体に関するクリアランス速度の限定を設定することを含み得る。治療剤の製造方法は、クリアランス速度の適合度を決定するための方法の一又は複数の工程を含み得る。
【0170】
製造方法は、治療剤に関する維持量を同定することを含み得る。維持量は、抗体の薬物動態学的なクリアランス速度によって決まる可能性がある。クリアランス速度は、生理的条件のセット下における抗体のクリアランス速度であってもよい。生理的条件は、抗体の治療用途において遭遇する条件であってもよい。
【0171】
本方法は、抗体が限定を超えないクリアランス速度を有する場合のみ抗体を製造又は生産することを含み得る。本方法は、ネットワークを通じて、抗体の構造情報を送信すること;ネットワークを通じて、構造情報から計算された抗体の正味の電荷を受信すること;正味の電荷が正味の電荷の範囲に合致する場合、ネットワークを通じて、抗体の一又は複数の相補性決定領域(CDR)の情報からの構造情報から計算された疎水性を受信し、(i)疎水性が疎水性の限定を超えない場合、抗体が設計基準を満たすクリアランス速度を有すると決定すること、又は(ii)疎水性が疎水性の限定を超える場合、抗体が設計基準を満たさないクリアランス速度を有すると決定すること;正味の電荷が正味の電荷の範囲に合致しない場合、抗体が設計基準を満たさないクリアランス速度を有すると決定すること;及び抗体が設計基準を満たすクリアランス速度を有すると決定される場合のみ、抗体を生産することを含んでいてもよい。
【0172】
本発明はまた、設計基準を満たすクリアランス速度を有する抗体を生産する方法であって、抗体の構造情報から、抗体の正味の電荷を計算すること;正味の電荷が正味の電荷の範囲に合致する場合、抗体の一又は複数の相補性決定領域(CDR)の情報からの構造情報から疎水性を計算して、(i)疎水性が疎水性の限定を超えない場合、抗体が設計基準を満たすクリアランス速度を有すると決定すること、又は(ii)疎水性が疎水性の限定を超える場合、抗体が設計基準を満たさないクリアランス速度を有すると決定すること;正味の電荷が正味の電荷の範囲に合致しない場合、抗体が設計基準を満たさないクリアランス速度を有すると決定すること;及び抗体が設計基準を満たすクリアランス速度を有すると決定される場合のみ、抗体を生産することを含む、方法も提供する。
【0173】
本明細書に記載される各実施態様に関して、構造情報から計算することは、一次構造の情報から計算することを含んでいてもよい。一次構造は、軽鎖可変ドメイン(VL)のアミノ酸配列及び重鎖可変ドメイン(VH)のアミノ酸配列を含んでいてもよい。正味の電荷は、VLのアミノ酸配列の正味の電荷とVHのアミノ酸配列の正味の電荷との合計を含んでいてもよい。正味の電荷は、約pH5.5におけるVHの正味の電荷とVLの正味の電荷との合計を含んでいてもよい。疎水性は、一又は複数のCDRの疎水性の値の加法関数の合計を含んでいてもよい。加法関数は、CDRの疎水性残基の値の合計とCDRの親水性残基の値の合計との比率であってもよい。この値は、Eisenberg疎水性スケール値であってもよい。一又は複数のCDRは、1、2、3、4、5又は6つ全てのCDRを含んでいてもよい。一又は複数のCDRは、軽鎖(LC)CDR1、LC CDR3及び重鎖(HC)CDR3であってもよい。クリアランス速度は、カニクイザルモデルで測定された約10mL/kg/日以下であってもよい。正味の電荷の範囲は、約-2.0から約6.2であってもよい。疎水性の限定は、約4であってもよい。
【0174】
本方法は、標的抗体のクリアランス速度がクリアランス速度の限定を超えないように、既存の抗体の一又は複数のアミノ酸残基を突然変異させて、標的抗体を生成することを含み得る。本方法は、標的抗体の正味の電荷が正味の電荷の範囲に合致するように、正味の電荷を増加若しくは減少させる工程、及び/又は標的抗体の疎水性が疎水性の限定を超えないように、疎水性を増加若しくは減少させる工程をさらに含んでいてもよい。
【0175】
本方法は、標的抗体に関するアミノ酸配列を決定することを含み得る。本方法は、標的抗体を生産する工程をさらに含んでいてもよい。
【0176】
追加の実施態様において、本発明は、本明細書に記載される方法及び装置によって、クリアランスの設計基準を満たすように選択、生産及び/又は決定された抗体を提供する。
【0177】
アスパラギン酸の不安定性
生理化学的特徴は、抗体のアスパラギン酸(Asp)の不安定性であってもよい。Aspの不安定性は、Asp残基の異性化に相当し得る。Asp残基は、抗体のCDR中にあってもよい。設計基準は、Aspの不安定性の限定であってもよい。抗体のAspの不安定性がAspの不安定性の限定に等しい場合、設計基準が満たされているとみなすことができる。抗体のAspの不安定性がAspの不安定性の限定未満である場合、設計基準が満たされているとみなすことができる。Aspの不安定性の限定は、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1%又はそれ未満であってもよい。Aspの不安定性の限定は、40℃で2週間にわたり、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1%又はそれ未満であってもよい。Aspの不安定性の限定は、40℃で2週間にわたり、5%又はそれ未満であってもよい。
【0178】
治療剤中に含ませるための抗体の適合度を決定する、数種の候補抗体から抗体を選択する、抗体を製造する、既存の抗体を修飾する、及び標的抗体を生産するAspの不安定性ベースの方法を、以下で論じる。本方法の1つからの一又は複数の工程は、他の方法の一又は複数の工程と組み合わせて行ってもよいことが理解されると予想される。
【0179】
Aspの不安定性:治療剤中に含ませるための抗体の適合度を決定するための方法
本方法は、Aspの不安定性に基づき、治療剤中に含ませるための抗体の適合度を決定することを含み得る。本方法は、(a)抗体の構造情報から、(1)Aspのα炭素の揺らぎ、(2)Asp残基の時間平均SASA及び(3)Asp残基に直接隣接している残基に結合する主鎖窒素原子の時間平均SASAを計算すること、ここで主鎖窒素原子は、配列中でAsp残基に直接隣接している残基に結合していてもよく;(b)(i)揺らぎスケーリング因子、(ii)アスパラギン酸残基表面積スケーリング因子、及び(iii)主鎖窒素原子表面積スケーリング因子を抗体に関して選択すること;(c)スケーリング因子を含む目的関数から、アスパラギン酸の不安定性に対応する指標を計算すること;及び(d)抗体が設計基準を満たすアスパラギン酸の不安定性を有するかどうかを決定することを含み得る。計算は、MDシミュレーションを使用してもよい。MDシミュレーションは、シミュレートされた溶液条件のセットを採用してもよく、明示的水溶媒和を採用してもよい。
【0180】
Asp残基は、CDR中にあってもよい。アスパラギン酸残基に直接隣接しているアミノ酸残基は、N位におけるアスパラギン酸残基に対してN+1位にある。
【0181】
本方法は、スケーリング因子を選択することを含み得る。スケーリング因子は、導き出されたスケーリング因子であってもよい。スケーリング因子は、Aspのα炭素の揺らぎに対応する揺らぎスケーリング因子を含み得る。スケーリング因子は、AspのSASAに対応する、AspのSASAスケーリング因子を含み得る。スケーリング因子は、主鎖窒素原子のSASAに対応する、主鎖窒素原子のSASAスケーリング因子を含み得る。スケーリング因子は、複数の揺らぎスケーリング因子、複数のAspのSASAスケーリング因子及び複数の主鎖窒素原子のSASAスケーリング因子を含み得るスケーリング因子のセットから選択されてもよい。
【0182】
本方法は、指標を電子的に定量することを含み得る。指標は、目的関数から定量され得る。目的関数は、スケーリング因子を含み得る。指標は、Aspの不安定性に相当し得る。
【0183】
本方法は、抗体が、設計基準であるAspの不安定性の限定を満たすAspの不安定性を有するかどうかを決定するために、指標を、設計基準であるAspの不安定性の限定と比較することを含み得る。
【0184】
目的関数において、指標は、
(Aspのα炭素の揺らぎ×揺らぎスケーリング因子)と、
(Aspの時間平均SASA×AspのSASAスケーリング因子)と、
(主鎖窒素原子の溶媒接触の時間平均SASA×主鎖窒素原子のSASAスケーリング因子)と
の和に累乗されるオイラー数(底はe)によって決まる可能性がある。目的関数は、指標=econstantesumの一般的な形態を有していてもよい。目的関数は、指標=1/(econstantesum)の一般的な形態を有していてもよい。目的関数は、指標=1/(1+econstantesum)の一般的な形態を有していてもよい。
【0185】
例えば、例示的な方法の章で説明されているような明示的水溶媒和及び他のシミュレートされた溶液条件を用いた約300Kのシミュレートされた温度でのモノクローナルIgG1の場合、揺らぎスケーリング因子は、約3.3であってもよく;AspのSASAスケーリング因子は、約-22.2であってもよく;主鎖窒素原子のSASAスケーリング因子は、約16.0であってもよい。
【0186】
本方法は、指標が第1の指標であり、第1の指標が有効数字1桁に四捨五入されて第2の指標が生成されることを含み得る。第2の指標は、1又はゼロのどちらかであり得る。第2の指標がゼロであることは、第1の指標が、設計基準である不安定性の限定を満たすことの提示に相当し得る。
【0187】
Aspの不安定性:治療剤中に含ませるための候補抗体のなかから選択する方法
本方法は、2つ以上の候補抗体のなかからAspの不安定性に基づき抗体を選択することを含んでいてもよく、さらに、Aspの不安定性の適合度を決定するための方法の一又は複数の工程を含んでいてもよい。
【0188】
選択方法は、第1の候補抗体の第1の構造情報を提供することを含み得る。第1の構造情報は、第1の候補抗体の第1の可変ドメインのアミノ酸配列を含み得る。選択方法は、第2の候補抗体の第2の構造情報を提供することを含み得る。第2の構造情報は、第2の候補抗体の第2の可変ドメインのアミノ酸配列を含み得る。
【0189】
本方法は、第1の構造情報から、(1)第1の候補抗体の第1のAspのα炭素の第1の揺らぎ、(2)第1のAsp残基の第1の時間平均SASA及び(3)第1のAsp残基に直接隣接している残基に結合する第1の主鎖窒素原子の第1の時間平均SASAを含む生理化学的パラメーターの第1のセットを計算することを含み得る。第1のAsp残基は、第1の候補抗体のCDR中にあってもよい。第1の主鎖窒素原子は、配列中で第1のAsp残基に直接隣接している残基に結合していてもよい。
【0190】
本方法は、第2の構造情報から、(1)第2の候補抗体の第2のAspのα炭素の第2の揺らぎ、(2)第2のAsp残基の第2の時間平均SASA及び(3)第2のAsp残基に直接隣接している残基に結合する第2の主鎖窒素原子の第2の時間平均SASAを含む生理化学的パラメーターの第2のセットを数値的に計算することを含み得る。第2のAsp残基は、第2の候補抗体のCDR中にあってもよい。第2の主鎖窒素原子は、配列中で第2のAsp残基に直接隣接している残基に結合していてもよい。
【0191】
本方法は、第1の目的関数から第1の指標を電子的に定量することを含み得る。第1の目的関数は、生理化学的パラメーターの第1のセットに対応するスケーリング因子の第1のセットを含み得る。第1の指標は、第1の候補抗体に相当し得る。第1の指標は、第1の候補抗体の第1のAspの不安定性に相当し得る。第1のAspの不安定性は、第1のアスパラギン酸の異性化に相当し得る。
【0192】
本方法は、第2の目的関数から第2の指標を電子的に定量することを含み得る。第2の目的関数は、生理化学的パラメーターの第2のセットに対応するスケーリング因子の第2のセットを含み得る。第2の指標は、第2の候補抗体に相当し得る。第2の指標は、第2の候補抗体の第2のAspの不安定性に相当し得る。第2のAspの不安定性は、第2のアスパラギン酸の異性化に相当し得る。
【0193】
スケーリング因子の各セットは、α炭素の揺らぎに対応するα炭素の揺らぎスケーリング因子、AspのSASAに対応するAspのSASAスケーリング因子及び主鎖窒素SASAに対応する主鎖窒素SASAスケーリング因子を含み得る。
【0194】
第1の目的関数及び第2の目的関数は、それぞれ第1の候補抗体及び第2の候補抗体に関するスケーリング因子を含み得る。Aspの不安定性の適合度を決定する方法に適用される抗体と同じシミュレートされた溶液条件下において、候補抗体に関する目的関数は、同じクラス又はサブクラスの候補抗体に関してAspの不安定性の適合度を決定するための方法で利用された目的関数と同一であり得る。
【0195】
第1の候補抗体のサブクラスが第2の候補抗体のクラス又はサブクラスである場合、スケーリング因子の第1のセットは、スケーリング因子の第2のセットと同一であり得る。第1の候補抗体の溶液条件が第2の候補抗体の溶液条件である場合、スケーリング因子の第1のセットは、スケーリング因子の第2のセットと同一であり得る。第1の候補抗体及び第2の候補抗体に関する水溶媒和の値が同じである場合、スケーリング因子の第1のセットは、スケーリング因子の第2のセットと同一であり得る。
【0196】
第1の指標は、設計基準であるAspの不安定性の限定を満たしていてもよい。第2の指標は、設計基準であるAspの不安定性の限定を満たしていてもよい。
【0197】
本方法は、第1の指標及び第2の指標の相対的価値に基づき、治療剤で使用するための抗体となるように、第1の候補抗体又は第2の候補抗体を選択することを含み得る。本方法は、第1の指標が第2の指標より低い場合、第1の候補抗体を選択することを含み得る。本方法は、第2の指標が第1の指標より低い場合、第2の候補抗体を選択することを含み得る。本方法は、選択された抗体のAspの不安定性を測定する工程をさらに含んでいてもよい。本方法は、選択された抗体を生産する工程をさらに含んでいてもよい。
【0198】
Aspの不安定性:治療剤の製造方法
製造方法は、例えば抗体の貯蔵寿命に基づき、抗体に関するAspの不安定性の限定を設定することを含み得る。抗体を製造する方法は、Aspの不安定性の適合度を決定するための方法の一又は複数の工程を含み得る。抗体は、治療剤であってもよいし、又は治療剤中に含まれていてもよい。
【0199】
製造方法は、貯蔵寿命を同定することを含み得る。貯蔵寿命は、治療剤中に含まれ得る抗体のAspの不安定性によって決まる可能性がある。アスパラギン酸の不安定性は、アスパラギン酸の異性化に対応していてもよい。設計基準は、不安定性の限定であってもよい。不安定性の限定は、貯蔵寿命に基づいていてもよい。不安定性の限定は、約2.5%/週のアスパラギン酸の異性化であってもよい。
【0200】
本方法は、指標が限定を超えない場合のみ、抗体を製造することを含んでいてもよく、ここで抗体の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列は、アスパラギン酸残基を含む。本方法は、設計基準を満たす、抗体に関するアスパラギン酸の不安定性の限定を設定すること;ネットワークを通じて、抗体の構造情報を送信すること;ネットワークを通じて、構造情報から計算された抗体のアスパラギン酸の不安定性に対応する指標を受信すること;抗体が設計基準を満たすアスパラギン酸の不安定性を有するかどうかを決定すること;及び指標が粘度の限定を超えない場合のみ、抗体を生産することを含んでいてもよい。
【0201】
本方法は、設計基準を満たす、抗体に関するアスパラギン酸の不安定性の限定を設定すること、;抗体の構造情報から、抗体のアスパラギン酸の不安定性に対応する指標を計算すること;抗体が設計基準を満たすアスパラギン酸の不安定性を有するかどうかを決定すること;及び指標がアスパラギン酸の不安定性の限定を超えない場合のみ、抗体を生産することを含んでいてもよい。
【0202】
製造方法は、抗体の構造情報から、抗体のAspの不安定性に対応する指標を電子的に定量することを含み得る。定量は、抗体のAspの不安定性の適合度を決定する方法に従っていてもよい。
【0203】
指標は、CDRのアミノ酸配列から、(i)アスパラギン酸残基に結合するアルファ炭素の二乗平均平方根の揺らぎ、(ii)アスパラギン酸残基の時間平均された溶媒接触可能表面積、及び(iii)アスパラギン酸残基に直接隣接しているアミノ酸残基に結合する主鎖窒素原子の時間平均された溶媒接触可能表面積を計算する工程;(i)揺らぎスケーリング因子、(ii)アスパラギン酸残基表面積スケーリング因子、及び(iii)主鎖窒素原子表面積スケーリング因子を抗体に関して選択する工程;及びスケーリング因子を含む目的関数から指標を計算する工程であって、指標はアスパラギン酸の不安定性に対応する、工程を含む方法によって計算されてもよい。アスパラギン酸残基に直接隣接しているアミノ酸残基は、N位におけるアスパラギン酸残基に対してN+1位であってもよい。スケーリング因子は、少なくとも1つの試験抗体の少なくとも1つのアスパラギン酸の不安定性の測定値のデータから導き出されてもよい。少なくとも1つの試験抗体のアスパラギン酸の不安定性の測定が、所定温度で少なくとも1つの試験抗体をインキュベートすること、続いて質量分析及びHPLCベースの技術に適用することを含み得る。スケーリング因子を選択することは、一又は複数の水溶液条件のそれぞれにつき、(i)揺らぎスケーリング因子、(ii)アスパラギン酸残基表面積スケーリング因子;及び(iii)主鎖窒素原子表面積スケーリング因子を含むスケーリング因子のセットから選択することを含んでいてもよい。目的関数において、指標は、(揺らぎ×揺らぎスケーリング因子)と、(アスパラギン酸残基の時間平均された溶媒接触可能表面積×アスパラギン酸残基表面積スケーリング因子)と、(主鎖窒素原子の時間平均された溶媒接触可能表面積×主鎖窒素原子表面積スケーリング因子)との和に累乗されるオイラー数を含む。水溶液条件は、温度、pH、バッファーのタイプ及びイオン強度を含んでいてもよい。水溶液条件は、20mMの酢酸ヒスチジンバッファーを含んでいてもよい。水溶液条件は、約313Kの温度を含んでいてもよい。指標が第1の指標であり、第1の指標が有効数字1桁に四捨五入されて第2の指標が生成されてもよく、第2の指標がゼロであることは、第1の指標が粘度の限定を超えないことに対応し、第2の指標が1であることは、第1の指標が粘度の限定を超えることに対応する。アスパラギン酸残基に直接隣接しているアミノ酸残基は、グリシン、スレオニン、アスパラギン酸及びアラニンからなる群より選択されてもよい。本方法は、治療剤のAspの不安定性がAspの不安定性の限定を超えないように標的抗体を構築することを含み得る。
【0204】
本明細書に記載される各実施態様に関して、本方法は、標的抗体の指標が設計基準を満たすように、既存の抗体の一又は複数のアミノ酸残基を突然変異させて、標的抗体を生成する工程を含んでいてもよい。本方法は、標的抗体のAspの不安定性を測定する工程をさらに含んでいてもよい。本方法は、標的抗体を生産する工程をさらに含んでいてもよい。
【0205】
本方法は、標的抗体に関するアミノ酸配列を決定することを含み得る。アミノ酸配列は、Aspの不安定性の限定未満であるAspの不安定性の指標に相当し得る。
【0206】
追加の実施態様において、本発明は、本明細書に記載される方法及び装置によって、アスパラギン酸の不安定性の設計基準を満たすように選択、生産及び/又は決定された抗体を提供する。
【0207】
トリプトファンの不安定性
生理化学的特徴は、抗体のトリプトファン(Trp)の不安定性であってもよい。Trpの不安定性は、Trp残基の酸化に相当し得る。Trp残基は、抗体のCDR中にあってもよい。設計基準は、Trpの不安定性の限定であってもよい。抗体のTrpの不安定性がTrpの不安定性の限定に等しい場合、設計基準が満たされているとみなすことができる。抗体のTrpの不安定性がTrpの不安定性の限定未満である場合、設計基準が満たされているとみなすことができる。Trpの不安定性の限定は、45、40、35、30、25、20、15又は10%の酸化であってもよい。Trpの不安定性の限定は、規定条件のセット下において抗体に関して規定されてもよい。
【0208】
治療剤中に含ませるための抗体の適合度を決定する、数種の候補抗体から抗体を選択する、抗体を製造する、既存の抗体を修飾する、及び標的抗体を生産するTrpの不安定性ベースの方法を、以下で論じる。本方法の1つからの一又は複数の工程は、他の方法の一又は複数の工程と組み合わせて行ってもよいことが理解されると予想される。
【0209】
Trpの不安定性:治療剤中に含ませるための抗体の適合度を決定するための方法
本方法は、Trpの不安定性に基づき、治療剤中に含ませるための抗体の適合度を決定することを含み得る。本方法は、抗体の構造情報から、CDR中のTrp残基の時間平均SASAを計算することを含み得る。計算は、MDシミュレーションを使用してもよい。MDシミュレーションは、シミュレートされた溶液条件のセットを採用してもよく、明示的水溶媒和を採用してもよい。
【0210】
本方法は、(a)抗体の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列から、トリプトファン残基の時間平均SASAを計算する工程;(b)時間平均SASAをカットオフ値と比較する工程;及び(c)時間平均SASAがカットオフ値未満である場合、抗体は、設計基準を満たすトリプトファンの不安定性を有することを決定する工程を含んでいてもよい。カットオフ値は、80Å2のトリプトファン側鎖のSASAであってもよい。重鎖可変ドメイン(VH)のアミノ酸配列及び軽鎖可変ドメイン(VL)のアミノ酸配列は、1つのみのトリプトファン残基を含有していてもよい。
【0211】
その代わりに、本方法は、指標を電子的に定量することを含み得る。指標は、目的関数から定量され得る。指標は、Trpの不安定性に相当し得る。
【0212】
本方法は、抗体が、設計基準であるTrpの不安定性の限定を満たすTrpの不安定性を有するかどうかを決定するために、指標を、設計基準であるTrpの不安定性の限定と比較することを含み得る。
【0213】
目的関数において、指標は、Trpの時間平均SASAによって決まる可能性がある。
【0214】
本方法は、設計基準を満たすTrpの不安定性を有する抗体を生産する工程をさらに含んでいてもよい。
【0215】
Trpの不安定性:治療剤中に含ませるための候補抗体のなかから選択する方法
本方法は、2つ以上の候補抗体のなかからTrpの不安定性に基づき抗体を選択することを含んでいてもよく、さらに、Trpの不安定性の適合度を決定するための方法の工程を含んでいなくてもよく、その一部又は全部を含んでいてもよい。
【0216】
選択方法は、第1の候補抗体の第1の構造情報を提供することを含み得る。第1の構造情報は、第1の候補抗体の第1の可変ドメインのアミノ酸配列を含み得る。選択方法は、第2の候補抗体の第2の構造情報を提供することを含み得る。第2の構造情報は、第2の候補抗体の第2の可変ドメインのアミノ酸配列を含み得る。
【0217】
本方法は、第1の構造情報から、第1のTrp残基の第1の時間平均SASAを計算することを含み得る。第1のTrp残基は、第1の候補抗体のCDR中にあってもよい。
【0218】
本方法は、第2の構造情報から、第2のTrp残基の第2の時間平均SASAを計算することを含み得る。第2のTrp残基は、第2の候補抗体のCDR中にあってもよい。
【0219】
本方法は、第1又は第2の抗体がカットオフ値未満であるTrp残基の時間平均SASAを有する場合、第1又は第2の抗体を選択することを含んでいてもよい。
【0220】
本方法は、第1の目的関数から第1の指標を電子的に定量することを含み得る。第1の指標は、第1の候補抗体に相当し得る。第1の指標は、第1の候補抗体の第1のTrpの不安定性に相当し得る。第1のTrpの不安定性は、第1のトリプトファン酸化に相当し得る。
【0221】
本方法は、第2の目的関数から第2の指標を電子的に定量することを含み得る。第2の指標は、第2の候補抗体に相当し得る。第2の指標は、第2の候補抗体の第2のTrpの不安定性に相当し得る。第2のTrpの不安定性は、第2のトリプトファン酸化に相当し得る。
【0222】
第1の指標は、設計基準であるTrpの不安定性の限定を満たしていてもよい。第2の指標は、設計基準であるTrpの不安定性の限定を満たしていてもよい。
【0223】
本方法は、第1の指標及び第2の指標の相対的価値に基づき、治療剤で使用するための抗体となるように、第1の候補抗体又は第2の候補抗体を選択することを含み得る。本方法は、第1の指標が第2の指標より低い場合、第1の候補抗体を選択することを含み得る。本方法は、第2の指標が第1の指標より低い場合、第2の候補抗体を選択することを含み得る。
【0224】
Trpの不安定性:治療剤の製造方法
製造方法は、抗体に関するTrpの不安定性の限定を設定することを含み得る。治療剤の製造方法は、Trpの不安定性の適合度を決定するための方法の一又は複数の工程を含み得る。Trpの不安定性の限定は、抗体に関する貯蔵寿命に基づいていてもよい。トリプトファンの不安定性は、トリプトファン酸化に相当し得る。抗体は、治療剤であってもよい。
【0225】
製造方法は、貯蔵寿命を同定することを含み得る。貯蔵寿命は、治療剤中に含まれ得る抗体のTrpの不安定性によって決まる可能性がある。
【0226】
本発明はまた、設計基準を満たすトリプトファンの不安定性を有する抗体を生産するための方法であって、ネットワークを通じて、抗体の構造情報を送信すること;ネットワークを通じて、相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列からの構造情報から計算される、抗体のCDRのトリプトファン残基の時間平均された溶媒接触可能表面積を受信すること;時間平均された溶媒接触可能表面積をカットオフ値と比較すること;及び時間平均された溶媒接触可能表面積がカットオフ値未満である場合、抗体が、設計基準を満たすトリプトファンの不安定性を有すると決定すること;及び抗体が設計基準を満たすトリプトファンの不安定性を有すると決定される場合のみ、抗体を生産することを含む、方法も提供する。
【0227】
本方法は、トリプトファン残基の時間平均SASAを計算する工程;時間平均SASAをカットオフ値と比較する工程;及び時間平均SASAがカットオフ値未満である場合、抗体は、設計基準を満たすトリプトファンの不安定性を有することを決定する工程を含んでいてもよい。本方法は、設計基準を満たす抗体を生産することをさらに含んでいてもよい。
【0228】
本明細書に記載される各実施態様に関して、水溶媒和の値は、時間平均された溶媒接触可能表面積の計算の基礎であってもよい。水溶媒和は、コンピューターモデリング分子動力学シミュレーションにおけるパラメーターであってもよい。分子動力学シミュレーションは、AMBERシミュレーションソフトウェアを使用して行ってもよい。カットオフ値は、約80Å2のトリプトファン側鎖の溶媒接触表面積であってもよい。トリプトファン側鎖の溶媒接触表面積は、AREAIMOLソフトウェアを使用して決定されてもよい。抗体の全ての6つのCDRのアミノ酸配列は、1つのみのトリプトファン残基を含有していてもよい。本方法は、抗体が、設計基準を満たすTrpの不安定性を有すると決定される場合、Trpの不安定性を測定する工程をさらに含んでいてもよい。
【0229】
製造方法は、抗体の構造情報から、抗体のTrpの不安定性に対応する指標を電子的に定量することを含み得る。定量は、抗体のTrpの不安定性の適合度を決定する方法に従っていてもよい。
【0230】
本方法は、指標が限定を超えない場合のみ、抗体を製造することを含み得る。
【0231】
本方法は、既存の抗体においてTrp残基を別の非Trp残基で置換して、標的抗体を生成することを含み得る。本方法は、標的抗体を生産する工程をさらに含んでいてもよい。
【0232】
追加の実施態様において、本発明は、本明細書に記載される方法及び装置によって、トリプトファンの不安定性の設計基準を満たすように選択、生産及び/又は決定された抗体を提供する。
【実施例】
【0233】
例示的な方法
試験抗体は、以下で論じられる抗体のトレーニングセット中に含まれていてもよいことが理解されると予想される。
【0234】
スケーリング因子は、「係数」と称することもできることが理解されると予想され、下記で論じられる。
【0235】
例示的な方法又は例証的な結果と関連して説明されたフィーチャは何れも、それに関連してフィーチャが説明される例示的な方法又は例証的な結果に限定されることを目的としないことが理解されると予想される。
【0236】
mAb
使用されたmAbは、チャイニーズハムスター卵巣細胞での発現により得られ、プロテインAクロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーによる親和性精製を含む一連のクロマトグラフィー方法によって精製された例示的なIgG1モノクローナル抗体であった。
【0237】
配列ベースの構造パラメーター
電荷
公知の側鎖のpKa(例えば、Berg, J.M., Tymoczko, J.L. & Stryer, L. Biochemistry. (W.H. Freeman, Basingstoke)を参照されたい)及びヘンダーソン-ハッセルバルヒの方程式を使用して全ての荷電アミノ酸からの寄与率を加算することによって、所与のpHにおける所与の配列の正味の電荷を計算した。全てのCysがジスルフィド形成に関与すると仮定して、CysのpKaは考慮に入れなかった。
【0238】
Fv電荷非対称パラメーター(FvCAP)
VHドメインとVLドメインとの間の電荷非対称を捉えるために、FvCAPが開発された。VHドメイン及びVLドメインにおける正味の電荷の積を得ることによって、FvCAPを単純に計算した。それゆえに負の積は2つのドメイン間の電荷非対称を表すと予想され、それに対して正の積は、2つのドメインにおける電荷の類似の標識を表すと予想された。
【0239】
疎水性指標(HI)
疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸との相対比を表すために、HIが開発された。これらの計算において、Eisenberg疎水性スケールを使用して各アミノ酸の相対的な疎水性強度を重み付けした(例えば、Eisenberg, D., Weiss, R.M., Terwilliger, T.C. & Wilcox, W. Hydrophobic moments and protein structure. Faraday Symposia of the Chemical Society 17, 109-120 (1982)を参照されたい)。正のスケール値を有する全てのアミノ酸を疎水性と分類し、それに対して負のスケール値を有するものを親水性と分類した。
【0240】
HIをHI=(n
iE
i/n
jE
j)と定義し、式中iは、疎水性アミノ酸、すなわちA、F、I、L、V、W、Yを表し、jは、親水性アミノ酸、すなわちD、E、G、H、K、M、N、Q、R、S、Tを表し;nは、各アミノ酸の数であり、Eは、各アミノ酸のEisenbergスケール値である。計算は、タンパク質の3D構造で行ってもよく、ここでこのような計算において、パラメーターnはSで置き換えられ、ここでSは各アミノ酸のSASAと定義される(
図16)。
【0241】
生理化学的特性
粘度
Anton Paar Physica MCR501同心円筒型円錐平板レオメーター(Anton Paar、Graz、Austria)を使用して粘度測定値を行った。抗体溶液を標的濃度に調整し、次いで70μLの各試料タンパク質溶液を試料プレート上に分配し、円錐を下げた。試料を蒸発から保護し、温度を25+/-5℃でコントロールした。試料の粘度を、1000s-1の一定の剪断速度を使用して60秒間毎秒トルクを測定することによって決定した。粘度測定値を、3つの試料の複製を使用した安定化した粘度測定値の平均として報告した。Anton Paar RheoPlusソフトウェアの使用により試料の分析及びデータの報告を行った。
【0242】
クリアランス
この研究で使用されたCynoサルにおけるクリアランス値を、これまでに公開されたデータから得た(例えばHotzel, I.等. A strategy for risk mitigation of antibodies with fast clearance. mAb 4, 753-760を参照されたい)。
【0243】
MDシミュレーション
MDの開始時の構造
3D結晶構造(利用可能な場合)又はモデラーの局所的適用を使用して生成した相同性モデルの何れかからFabの構造を得た(例えば、Sali, A. & Blundell, T.L. Comparative Protein Modeling by Satisfaction of Spatial Restraints. J Mol Biol 234, 779-815 (1993)を参照されたい)。Fabドメインを、イオン(必要な場合)及び明示的溶媒分子を付加する前のMDの開始時の構造として使用した。
【0244】
アスパルテート異性化分析のためのGROMACSを使用したMD
Gromacs 4.0シミュレーションソフトウェアパッケージを用いてFabのMDシミュレーションを実施した(例えば、Hess, B., Kutzner, C., van der Spoel, D. & Lindahl, E. GROMACS 4: Algorithms for highly efficient, load-balanced, and scalable molecular simulation. Journal of Chemical Theory and Computation 4, 435-447 (2008)を参照されたい)。OPLSAA力場(例えば、Jorgensen, W.L., Maxwell, D.S. & TiradoRives, J. Development and testing of the OPLS all-atom force field on conformational energetics and properties of organic liquids. J Am Chem Soc 118, 11225-11236 (1996);Xu, Z.T., Luo, H.H. & Tieleman, D.P. Modifying the OPLS-AA force field to improve hydration free energies for several amino acid side chains using new atomic charges and an off-plane charge model for aromatic residues. J Comput Chem 28, 689-697 (2007)を参照されたい)を使用して、原子の動きを計算した。実験的方法PROPKAを使用して滴定可能な残基の電荷の状況を評価した(例えばLi, H., Robertson, A.D. & Jensen, J.H. Very fast empirical prediction and rationalization of protein pKa values. Proteins 61, 704-721 (2005); Bas, D.C., Rogers, D.M. & Jensen, J.H. Very fast prediction and rationalization of pKa values for protein-ligand complexes. Proteins 73, 765-783 (2008)を参照されたい)。全ての残基を、それらの正規のプロトン付加状況に設定した。
【0245】
Fab及びFv断片をTIP3P(例えば、Jorgensen, W.L., Chandrasekhar, J., Madura, J.D., Impey, R.W. & Klein, M.L. Comparison of Simple Potential Functions for Simulating Liquid Water. J Chem Phys 79, 926-935 (1983)を参照されたい)水分子で完全に溶媒和化した。およそ10,000個の水分子を使用してFvを溶媒和化し、25,500個の水分子を使用してFabを溶媒和化した。必要な場合、塩化物又はナトリウム原子を付加して、システムの全体的な電荷を中和した。シミュレーションのそれぞれにおいて八面体の周期的な境界条件を使用した。静電的相互作用を、1.0nmの実空間の静電カットオフで、PME(例えば、Darden, T., York, D. & Pedersen, L. Particle Mesh Ewald - an N.Log(N) Method for Ewald Sums in Large Systems. J Chem Phys 98, 10089-10092 (1993)を参照されたい)を使用して計算した。ファンデルワールス相互作用を示すレナード-ジョーンズポテンシャルは、1.0nmでカットオフされた。Settleアルゴリズム(例えば、Miyamoto, S. & Kollman, P.A. Settle - an Analytical Version of the Shake and Rattle Algorithm for Rigid Water Models. J Comput Chem 13, 952-962 (1992)を参照されたい)を使用して水分子の結合距離及び角度を拘束し、Lincsを使用して全ての他の結合距離を拘束し(例えば、Hess, B., Bekker, H., Berendsen, H.J.C. & Fraaije, J.G.E.M. LINCS:A linear constraint solver for molecular simulations. J Comput Chem 18, 1463-1472 (1997)を参照されたい)、Gromacs4.0でvsiteアルゴリズムを使用して、アルキル及びアミドの水素の動きを除去して、4フェムト秒(fs)の時間工程を可能にした。
これらのシミュレーション全体にわたり、V-rescaleアルゴリズムを使用してシステムを300Kの温度槽に連結させることにより温度を一定に維持した(例えば、Bussi, G., Donadio, D. & Parrinello, M. Canonical sampling through velocity rescaling. J Chem Phys 126, (2007)を参照されたい)。200ピコ秒(ps)の平衡によりシステムの密度が収束する間に、1.0atmの圧力槽にシステムを連結させることによって圧力を一定に維持した(例えば、Berendsen, H.J.C., Postma, J.P.M., Vangunsteren, W.F., Dinola, A. & Haak, J.R. Molecular-Dynamics with Coupling to an External Bath. J Chem Phys 81, 3684-3690 (1984)を参照されたい)。平衡後、シミュレーションを一定体積で維持した。これらのシミュレーションからの軌道を、GROMACSプログラム一式で利用可能な様々なツールを用いて分析した。全てのSASAは、GROMACSのg_sasを使用して計算される(例えば、Eisenhaber, F., Lijnzaad, P., Argos, P., Sander, C. & Scharf, M. The double cube lattice method:efficient approaches to numerical integration of surface area and volume and to dot surface contouring of molecular assemblies. J. Comp. Chem. 16, 273-284 (1995)を参照されたい)。相互情報の計算は、局所的にLange及びGrubmullerと同様にして実行される(例えば、Kortkhonjia, E.等. Solution dynamics of monoclonal antibodies:Experimental and computational approach. mAb In Press (2013);Lange, O.F. & Grubmuller, H. Full correlation analysis of conformational protein dynamics. Proteins-Structure Function and Genetics 70, 1294-1312 (2008)を参照されたい)。φ-ψ分布に関するシャノンのエントロピーを、S=-Σ{φi,ψjbins}p(i,j)log(p(i,j))[式中p(i,j)は、bin{φi,ψj}における発見{φ,ψ}の確率であり、binは、30グリッドにより定義され、φ-ψ分布は、g_rama;g_rsmf、g_hbondによる]として計算し、GROMACSのdsspを採用して、それぞれ二乗平均の揺らぎ、水素結合、及び二次構造の状態を計算した。シャノンのエントロピー及び相互情報に関する分析手法の詳細は、これまでに公開されている(例えばKortkhonjia, E.等. Solution dynamics of monoclonal antibodies:Experimental and computational approach. mAb In Press (2013)を参照されたい)。
【0246】
トリプトファン酸化分析のためのAMBERを使用したMD
AMBER11シミュレーションソフトウェアパッケージを用いてFab断片のMDシミュレーションを実施した(例えば、D.A. Case, T.A.D., T.E. Cheatham, III, C.L. Simmerling, J. Wang, R.E. Duke, R. Luo, R.C. Walker, W. Zhang, K.M. Merz, B. Roberts, B. Wang, S. Hayik, A. Roitberg,, G. Seabra, I.K., K.F. Wong, F. Paesani, J. Vanicek, X. Wu, S.R. Brozell, T. Steinbrecher, H. Gohlke, Q. Cai, X. Ye, J. Wang, M.-J. Hsieh, G. Cui, D.R. Roe, D.H. & Mathews, M.G.S., C. Sagui, V. Babin, T. Luchko, S. Gusarov, A. Kovalenko, and P.A. Kollman University of California, San Francisco;2011)を参照されたい)。FF99SB固定電荷力場を使用した。全ての残基を、それらの熱力学的pKaに基づくそれらの正規のプロトン付加状況に設定した。
【0247】
Fab断片をTIP3P水分子で完全に溶媒和化した。およそ35,000個の水分子を使用してFabを溶媒和化した。塩化物又はナトリウム原子を付加して、システムの全体的な電荷を中和した。シミュレーションのそれぞれにおいて八面体の周期的な境界条件を使用した。静電的相互作用を、0.8nmの静電カットオフで、PMEを使用して計算した。SHAKEアルゴリズムを使用して、アルキル及びアミドの水素の動きを除去して、3fsの時間工程の使用を可能にした。
【0248】
これらのシミュレーション全体にわたり、3/ピコ秒の衝突頻度でランジュバンの動力学を使用してシステムを300Kの温度槽に連結させることにより温度を一定に維持した。エネルギーの最小化、平衡、及びそれに続くプロダクションランの間、1.0atmの圧力槽にシステムを連結させることによって圧力を一定に維持した。
【0249】
MDシミュレーションからの軌道を、公共的に利用可能なツールを用いて分析した。全てのSASAは、CCP4プログラムの一部のプログラムであるareaimolを使用して計算される(例えば、Bailey, S. The Ccp4 Suite - Programs for Protein Crystallography. Acta Crystallogr D 50, 760-763 (1994)を参照されたい)。ペプチド骨格原子を含めずに、各トリプトファン側鎖につきSASAを決定した。
【0250】
2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(AAPH)により誘導されたTrp酸化
mAb溶液とAAPHとをそれぞれ1mg/mL及び1mMの最終濃度で混合することによって、AAPHにより酸化を誘導した(例えば、Ji, J.A., Zhang, B., Cheng, W. & Wang, Y.J. Methionine, tryptophan, and histidine oxidation in a model protein, PTH:Mechanisms and stabilization. Journal of Pharmaceutical Sciences 98, 4485-4500 (2009)を参照されたい)。溶液を40℃で16時間インキュベートした。20mMのMetの添加によって反応をクエンチし、続いてPD-10脱塩カラムを使用してpH5.5で20mMのバッファーにバッファー交換した。次いで、トリプシン消化、続いて部位特異的なTrp酸化に関してLC-MS/MSを使用して溶液を分析した。対応するペプチドの抽出されたイオンクロマトグラムをXcalibur Qualブラウザを使用して手動で統合した。続いて、酸化ペプチドイオンのピーク領域を、酸化ペプチド及び対応する非酸化ペプチドのピーク領域の合計で分割することによって酸化の相対的なパーセンテージを計算した。
【0251】
Asp分解速度の実験的決定
mAb溶液を、Centricon限外濾過チューブを使用して、pH5.5における20mMの緩衝化溶液、240mMスクロース中の5mg/mLタンパク質の最終配合でバッファー交換した。試料を40℃に置き、t=0、14日間及び28日間で取り出した。
【0252】
LC-MS/MSトリプシンのペプチドマッピング
トリプシンペプチド消化、続いてLC-MS/MSを使用して、熱ストレスを与えた試料を分析した。わずかに変更した公開プロトコールに従ってタンパク質試料を消化した(例えば、Yu, X.C.等. Accurate determination of succinimide degradation products using high fidelity trypsin digestion peptide map analysis. Analytical chemistry 83, 5912-5919 (2011)を参照されたい)。
【0253】
Jupiter C18カラム(Phenomenex、2.0×250mm、粒径5μm)を備え、Thermo FisherのLTQ Orbitrap質量分析計に連結されたAgilent 1200HPLCシステムで、ペプチドマッピングを行った。溶媒Aは水中0.1%TFAからなっており、溶媒Bは90%アセトニトリル中0.09%TFAからなっていた。2段階の勾配;20分間で0-10%のB、続いて137分間かけて10から40%のBを使用した。流速は0.25mL/分であり、カラム温度は55℃であり、タンパク質のローディング量は22μgであった。各部位での分解レベルを、Xcaliburソフトウェアを使用して、抽出されたイオンクロマトグラフィー(EIC)によって決定した(例えば、Yu, X.C.等. Accurate determination of succinimide degradation products using high fidelity trypsin digestion peptide map analysis. Analytical chemistry 83, 5912-5919 (2011)を参照されたい)。
【0254】
回帰分析
XLSTAT(登録商標)(Addinsoft、New York、NY)を使用して、主成分回帰及びロジスティック回帰分析を実施した。
【0255】
例証的な結果
粘度
粘度は、高濃度mAb溶液の製造及び送達にとって重要な場合がある(例えば、Shire, S.J., Shahrokh, Z. & Liu, J. Challenges in the development of high protein concentration formulations. Journal of Pharmaceutical Sciences 93, 1390-1402 (2004)を参照されたい)。主として相補性決定領域(CDR)配列においてのみ異なるmAbは、類似の剪断応力条件下において様々な粘度-濃度プロファイルを示す可能性があることを観察した(
図7)。類似のアイソタイプIgGの場合、可変ドメインFv(及びその中のCDR)は、粘度に差をもたらす分子間相互作用を定義することにおいて重要な役割を果たす可能性がある(例えば、Kanai, S., Liu, J., Patapoff, T. & Shire, S.J. Reversible self-association of a concentrated monoclonal antibody solution mediated by Fab-Fab interaction that impacts solution viscosity. Journal of Pharmaceutical Sciences (2008);Liu, J., Nguyen, M.D.H., Andya, J.D. & Shire, S.J. Reversible self-association increases the viscosity of a concentrated monoclonal antibody in aqueous solution. Journal of Pharmaceutical Sciences 94, 1928-1940 (2005)を参照されたい)。本発明の目的の1つは、寄与する疎水性及び静電的要素を捉えるためにどのようなパラメーターをCDR及びFvから抽出すればよいかを決定することであった(例えば、Du, W. & Klibanov, A.M. Hydrophobic salts markedly diminish viscosity of concentrated protein solutions. Biotechnology and Bioengineering 108, 632-636;Yadav, S., Liu, J., Shire, S.J. & Kalonia, D.S. Specific interactions in high concentration antibody solutions resulting in high viscosity. Journal of Pharmaceutical Sciences 99, 1152-1168を参照されたい)。配列は最も簡単なデータ生成及び分析手段を提供することから、配列のみに焦点を合わせた。しかし、以下で論じられるような配列から計算されたパラメーターは何れも、同様に構造からも容易に計算できることに留意されたい(
図15及び
図16)。
【0256】
計算されたパラメーターは、a)所与のpH(例えば、pH5.5)におけるFvの正味の電荷、b)Fv電荷非対称パラメーター(FvCAP)、及びc)CDR又はFvの疎水性指標(HI)であった。正味の電荷は、潜在的に反発相互作用に寄与する可能性があったが、それに対してFvCAP及びHIは、引力相互作用に寄与する可能性があった。FvCAPパラメーターは、VHドメインとVLドメインとの間の電荷非対称を表す。VHドメインとVLドメインとの間の反対の正味の電荷(負のFvCAP)は、Fvドメインに、双極子様の相互作用を介して別のFvドメインと、又はmAb上に存在する別の電荷パッチと相互作用する機会を提供するという仮説を立てた(例えば、Yadav, S., Liu, J., Shire, S.J. & Kalonia, D.S. Specific interactions in high concentration antibody solutions resulting in high viscosity. Journal of Pharmaceutical Sciences 99, 1152-1168;Yadav, S.等. Establishing a Link Between Amino Acid Sequences and Self-Associating and Viscoelastic Behavior of Two Closely Related Monoclonal Antibodies. Pharmaceutical Research 28, 1750-1764を参照されたい)。より大きい負のFvCAP値は、より小さい負又は正の値と比較して、より強い引力相互作用をもたらすことが予測された。一次近似は、少なくとも1次元で電荷対称性の欠如を捉えるためのより簡単な手段を提供することから、現実の構造コンフォメーションは、配列によって、ただし計算においては配列ベースの手法によって、上記で定義されたように捉えられない可能性があるような方式で、電荷非対称を分散させる可能性があったことに留意されたい。多数のmAbで比較した場合(
図8A~
図8C)、配列の一次的な差はCDR領域中にあるとしても、多様なこれらのパラメーターが観察された(全てのmAbがIgG1アイソタイプ)。CDRから計算されたHI値は、Fvから計算されたHI値と同じ傾向を有し(
図17)、それゆえにさらなる分析に前者を使用した。
【0257】
次に、10のmAbのトレーニングセットを使用した2つの異なる溶液条件下におけるこれらのパラメーターと実験で得られた粘度値との相関を検討した。2つの異なる溶液条件は、低イオン強度、すなわちpH5.5における20mMの緩衝化溶液(酢酸ヒスチジン)(
図9A~
図9C)及び高イオン強度、すなわちpH5.5における20mMの緩衝化溶液(+200mMのアルギニンHCl)(
図10A~
図10C)であった。低イオン強度のバッファーの場合、Fv電荷と粘度との間(ピアソンのr=-0.8)及びFvCAPと粘度との間に(ピアソンのr=-0.9)に適正な相関が観察された。しかし、HIと粘度との間には弱い相関のみが観察された。したがって、静電的相互作用は、粘度をモジュレートすることにおいて主要な役割を果たすようであったが、疎水性は、これらのmAbの全体的な粘度にはそれほど寄与していなかった。FvCAPと粘度との間のより強い相関は、VHドメインとVLドメインとの間の電荷非対称が粘度をモジュレートすることによって同様に役割を果たす可能性があるという事実を指し示していた。高イオン強度のバッファーの場合(
図10A~
図10C)、Fv電荷と粘度との間(ピアソンのr=-0.9)及びFvCAPと粘度との間に(ピアソンのr=-0.8)に相関があった。HIと粘度との間により弱い相関が観察されたことから、これらの条件下において、パラメーターの全部が粘度をモジュレートすることに寄与することが示唆された。
【0258】
次に、PCR分析を、粘度に関する予測モデルを開発することができるその有用性を査定するための多変量(多変数)回帰ツールとして使用した。例示的なケースとして、理論上得られたパラメーターと共に高イオン強度のバッファー条件下における粘度データを使用した(
図1A)。独立変数として25℃で150mg/mL及び180mg/mLにおける粘度データを使用し、それに対して、従属変数としてpH5.5におけるFv電荷(また、qとしても表される)、pH5.5におけるFvCAP(また、q
CAPとしても表される)及びHI(また、φとしても表される)を使用した。
図1Bは、10のmAbのトレーニングセット(高イオン強度である10のmAbのトレーニングセットと部分的にオーバーラップする)に関する、25℃で150mg/mLにおける低イオン強度の条件ごとに粘度データ及びHIを含まない計算されたパラメーターを示す。
図11A及び11Bは、それぞれ150mg/mL及び180mg/mLでの高イオン強度トレーニングセットを使用したPCR分析の結果を示し、ここで観察された実験で得られた粘度値は、90%信頼区間内で最良適合の方程式を介して得られた予測された粘度値に対してプロットされる。最良適合の方程式を以下に述べる。
η(180mg/mL、25℃)
=10
∧(1.19+0.42φ-0.05
×q-0.017
×q
CAP) 方程式1
η(150mg/mL、25℃)
=10
∧(0.90+0.34φ-0.036
×q-0.012
×q
CAP) 方程式2
【0259】
追加実験において、14のmAbのトレーニングセットを試験した。CDRのHIを計算する代わりに、これらの実験において、FvのHIを計算した。PCR分析を、粘度に関する予測モデルを開発することができるその有用性を査定するための多変数回帰ツールとして使用した。
図11Cは、PCR分析の結果を示し、ここで様々なmAbにつき180mg/mLで観察された実験で得られた粘度値は、90%信頼区間内で最良適合の方程式を介して得られた予測された粘度値に対してプロットされる。最良適合の方程式を以下に述べる。
η(180mg/mL、25℃)=10
∧(0.15+1.26φ-0.043
×q-0.020
×q
CAP) 方程式1-1
η(150mg/mL、25℃)=10
∧(0.06+1.13φ-0.034
×q-0.014
×q
CAP) 方程式2-1
【0260】
係数は、このバッファー系及びそれぞれのタンパク質濃度に特有であり得ることに留意されたい。全体的に、観察値と予測値との間の180mg/mLにおける強い相関(ピアソンのr=0.9)及び7±9の平均絶対誤差は、抗体配列からの計算された理論上のパラメーターを使用して粘度値を得ることにおいてそのモデルがよく機能していることを実証する。モデルの有効性をさらに試験するために、一個抜き交差検証(LOOCV;leave-one-out cross-validation)手法を使用し、ここでmAbのそれぞれの粘度値を検証データポイントとして使用し、一方でmAbの残りの粘度値をトレーニングセットとして使用した。トレーニングセットにPCR分析を行い、パラメーターを使用したモデル出力を使用して、「残り」のmAbの粘度を予測した。次いでこれらの工程を各mAbに繰り返した。
図11Dは、LOOCV予測に対してプロットされた180mg/mLで観察された実験で得られた粘度値のプロットを示す。強い相関が観察され(ピアソンのr=0.8)、予測された粘度値と観察された粘度値との間の平均絶対誤差は9±10である。
【0261】
同様に、PCR分析を、低イオン強度のバッファーの条件下で粘度に関する予測モデルを開発するための多変数回帰ツールとして使用した。トレーニングセットは、低イオン強度のバッファー(20mMヒスチジンバッファー)中、150mg/mLの濃度で、10のmAbを含有していた。
図11Eは、150mg/mLでの10のmAbのトレーニングセットを使用したPCR分析の結果を示し、ここで観察された実験で得られた粘度値は、90%信頼区間内で最良適合の方程式を介して得られた予測された粘度値に対してプロットされる。最良適合の方程式を以下に述べる。
η(150mg/mL、25℃)=10
∧(0.81+0.21
×q-0.15
×q
CAP) 方程式3
【0262】
係数は、このバッファー系及びそれぞれのタンパク質濃度に特有であることに留意されたい。全体的に、観察値と予測値との間の強い相関(r
2=0.8)、抗体配列からの計算された理論上のパラメーターを使用して粘度値を得ることにおいてそのモデルがよく機能したことを実証していた。モデルの有効性を試験するために、トレーニングセット外の4つの異なる抗体にモデルを実行した。理論上のパラメーター並びに方程式1及び2を使用して、180mg/mL及び150mg/mLで別々に粘度を計算し、25mg/mLで1.2cP及び0mg/mLで0.8の粘度と仮定して、4ポイントでの理論上の粘度-濃度曲線を作成し、実験で得られた粘度データと比較した。
図12A~
図12Dは、4つのmAbに関するこのような比較を示す。理論上のモデルは、実験データと比較した場合、粘度-濃度をよく予測した。したがって、配列から導き出された理論上のパラメーターを使用した部分最小二乗回帰分析を介して得られたモデル方程式は、IgG1アイソタイプの抗体を含むこのタンパク質-バッファー系に関する粘度-濃度曲線の予測において有効であった。
【0263】
クリアランス
同じアイソタイプの異なる抗体は、ヒト、同様にCynoサルにおいて血漿クリアランスにおいて顕著な差を示す可能性がある。(Cynoサルにおける血漿クリアランス(Cynoクリアランス)は、mAbの薬物動態プロファイルを査定するための確立された前臨床モデルである(例えば、Hotzel, I.等. A strategy for risk mitigation of antibodies with fast clearance. mAb 4, 753-760を参照されたい))。このような差がpI又は配列中の特異的突然変異に相関することを示す研究はわずかしかなかった(例えば、Igawa, T.等. Reduced elimination of IgG antibodies by engineering the variable region. Protein Engineering Design and Selection 23, 385-392;Wu, H.等. Development of Motavizumab, an Ultra-potent Antibody for the Prevention of Respiratory Syncytial Virus Infection in the Upper and Lower Respiratory Tract. Journal of Molecular Biology 368, 652-665 (2007)を参照されたい)。mAbのあらゆる識別可能な特性における差は、好ましくはFv又はCDR(同じフレームワーク内)における差に関するはずであるという仮説に基づいて、配列特性の何れかがCynoクリアランスにおける差を予測するかどうかの決定を調査した。基礎となる仮説は、より迅速なクリアランスが、インビボにおける疎水的及び/又は静電的な性質を有する高いタンパク質-タンパク質相互作用を介した表面/又はタンパク質へのmAbのオフターゲット結合に起因するというものであった。それゆえに、可変ドメインにおけるこのような特性、例えばpI、電荷又は疎水性の何れかの極限値が、より迅速なCynoクリアランスを示す抗体に変換されると予想されるということが推測された。公開されたデータに基づいて、Cynoサルにおける≧10mL/kg/日のクリアランス値を、より迅速なクリアランスと指定し、<10mL/kg/日の値を正常なクリアランスと指定した(例えば、Hotzel, I.等. A strategy for risk mitigation of antibodies with fast clearance. mAb 4, 753-760を参照されたい)。
【0264】
mAbのIgG1クラスの大きいセット(45のmAb)を、mAbの計算されたpI及びCDR配列のHI値と共に、最大の投与される用量(10mg/kgから100mg/kgの範囲)で評価し、Cynoクリアランスと比較した(
図13A及び13B)。文献で報告されているように(例えば、Hotzel, I.等. A strategy for risk mitigation of antibodies with fast clearance. mAb 4, 753-760を参照されたい)、計算されたmAbのpIとクリアランスとの間で、又はHI(CDR又はFvから計算された)とクリアランスとの間で(データ示さず)明確な相関は観察されなかった。pIとクリアランスとの間で、又はHIとクリアランスとの間で明確な相関は観察されなかったが、高いpI値(~8.7-9.5)及び低いpI値(~6.4-7.1)において、同様に高いHI値(>1.2)においても、より高いmAbは、高いクリアランス値を有することが判明した。pH7.4(生理的pH)におけるFvドメインの計算された電荷とクリアランス値との間の相関(データ示さず)は見られなかった。
【0265】
次に、正常なクリアランスに対してより迅速なクリアランスを定義することにおいてpI(及び/又は電荷)及び疎水性が互いに相補的であるかどうかの決定を検討した。また、ある特定のpHでの電荷が、クリアランス値に関してより識別力があるかどうかも調査した(抗体クリアランスは、低いpH、すなわちpH5-6を有するエンドソーム環境を介した新生児Fc受容体の救済に関与する(ここでFcは、定常領域の少なくとも一部を含有する抗体重鎖のC末端領域である))(例えば、Wang, W., Wang, E.Q. & Balthasar, J.P. Monoclonal Antibody Pharmacokinetics and Pharmacodynamics. Clin Pharmacol Ther 84, 548-558 (2008)を参照されたい)。それゆえに、5.0-7.4のpH範囲にわたるFv電荷とクリアランスとの相関が存在するかどうかを調査した。また、ある特定のCDRの疎水性が、全体的なCDR配列の疎水性より優れてクリアランスと相互関係を示すかどうかも検討した。これらの多数の変数を用いて、これらの変数のある特定の組合せが、クリアランスに対してより識別力があることを決定した。
【0266】
分析を簡単にするために、13のmAbのトレーニングセットを作成してクリアランス値の全範囲を網羅した(
図2)。トレーニングセット中のmAbをクリアランス値の減少順で並べた。mAbの2つのグループ、すなわち、≧10mL/kg/日のクリアランス値を有するmAbのグループ及び<10mL/kg/日のクリアランス値を有するmAbのグループの分離を可能にする基準を評価した。述べたように、全てのCDRの全体的な疎水性は識別には不十分であった。さらに、LC CDR2、HC CDR1及びHC CDR2の疎水性も、正常に排除されるmAbに対してより速く排除されるmAbに関して計算された平均HI値で示されたように、このような識別をもたらさなかった。一方で、より速く排除されるmAbは、残りの3つのCDR(LC CDR1、LC CDR3、及びHC CDR3)のなかでもより高い疎水性を有する傾向があったという一般的傾向が判明した。迅速に排除されるmAbに関する平均HI値は、一般的に、正常に排除されるmAbの平均HI値と比較してより高かった。これは、これら3つのCDRのHI値の計算された合計を使用することによりさらに明らかになった。より速く排除されるグループ中のmAbに関する平均HIの合計(LC CDR1、LC CDR3、及びHC CDR3)は、正常に排除されるmAb中のそれより有意に高かった(2.5+/-0.7に対して3.9+/-1.4、それぞれp=0.005)。電荷に関して、pH5.5において、正常なクリアランス値を有するmAbは、0.4-6.1の間の電荷値を有する傾向があったが、一方でより速く排除される7つのmAbのうち4つが、この範囲外の電荷値を有していたことが判明した。さらに、電荷及びCDRの選択的なHIは、識別において互いに相補的であり、より速く排除されるmAb、すなわち迅速なクリアランスのグループ中の0.4から6.1の間の電荷値を有するmAbは、比較的高いHI合計を有していたようであった。このデータ分析から、ある特定のCDRの疎水性の極限値と電荷値の極限値の両方(負であるか又は高度に正のいずれか)が、より迅速なクリアランスを有するmAbを予測するのに使用され得ることが提示された。
【0267】
上記の分析から、正常なクリアランスを有するmAbからより速く排除されるmAbを識別するための基準を開発するに至った(
図3)。>4.0のHI合計値及び/又は≦-2.0若しくは≧6.2の何れかのFv電荷値を有するmAb(
図2、左方向のバックスラッシュで陰影をつけた背景)が、≦4.0の疎水性の合計値及び-2.0から6.2の範囲内のFv電荷値を有するmAb(
図2、右方向のフォワードスラッシュで陰影をつけた背景)から分離される場合、正常に排除されるmAbと比較してより速く排除されるmAbが明らかに重要になる。
【0268】
理論上の基準を、その有効性を試験するために45のmAbの完全なセットに拡張した。このような分析の可視化を容易にするために、上述した背景の陰影の符号化スキームを使用した。>4.0のHI合計の全ての値に、左方向のバックスラッシュで陰影をつけた背景が割り当てられ、残りに、右方向のフォワードスラッシュで陰影をつけた背景が割り当てられた。≦-2.0又は≧6.2の全ての電荷値に、左方向のバックスラッシュで陰影をつけた背景が割り当てられ、残りに、右方向のフォワードスラッシュで陰影をつけた背景が割り当てられた。≧10の全てのCynoクリアランス値に、左方向のバックスラッシュで陰影をつけた背景が割り当てられ、残りに、右方向のフォワードスラッシュで陰影をつけた背景が割り当てられた。次に、データを測定されたクリアランス値の増加に基づきソートして、陰影のパターンが一致するかどうか(したがって基準が正しい結果を予測するかどうか)を決定した(
図4)。実際、完全な45のmAbのセットに対して基準は十分に機能を果たした。高いHI合計又はFv電荷の極限値の何れかに基づいて、15/16(94%)のmAbにおいてより迅速なCynoクリアランスを正確に予測し(元のトレーニングセットにおける6/6を含む)、24/29(83%)のmAbにおいて正常なCynoクリアランスを正確に予測した(元のトレーニングセットにおける7/7を含む)。
【0269】
追加実験において、より速く排除されるmAbを正常なクリアランスを有するmAbから識別する基準を開発するためにトレーニングセットを14のmAbに拡張した。このトレーニングセットにおいて、>4.0のHI合計値及び/又は≦0若しくは≧6.2の何れかのFv電荷値を有するmAbが、より迅速なクリアランスを示すリスクがあり、それに対して、≦4.0のHI合計値及び0から6.2のFv電荷値を有するmAbが、正常なクリアランスを示すように基準を設定した場合、より速く排除されるmAbが、正常なmAb排除から明確に分離された。基準を、その有効性を試験するために61のmAbのセットに拡張した。高いHI合計又はFv電荷の極限値の何れかに基づいて、10/13(77%)のmAbにおいてより迅速なCynoクリアランスの正しい予測が達成され(元のトレーニングセットにおける8/8が除かれ、86%がトレーニングセットのmAbを含む)、24/34(70%)のmAbにおいて正常なCynoクリアランスの正しい予測が達成された(元のトレーニングセットにおける6/6が除かれ、75%がトレーニングセットのmAbを含む)(データ示さず)。
【0270】
これらの分析は、生物学的特性、例えばこのケースではクリアランスを査定することにおいて電荷及び疎水性などの基本的な分子特性を利用する能力を確立した。疎水性又は電荷の極限値を有する可変ドメインが標的化された抗原以外の表面と相互作用する可能性があることから、非特異的結合が血漿からのより迅速なクリアランスに関与するという仮説を分析が裏付けた。
【0271】
Trp酸化及びAsp異性化
Trp酸化及びAsp異性化などの化学修飾及びそれに伴う力価損失は、水溶液中のmAb製品の貯蔵寿命を限定する可能性がある。Trp酸化及びAsp異性化の相対的な傾向性のリスクランク作成を可能にする明示的な水と共に全原子のMDシミュレーションを採用した。
【0272】
Trp酸化の場合、MDによって生成された時間平均SASAと、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(AAPH、不安定なアミノ酸側鎖を酸化させることが知られている化学物質)の存在下におけるTrp残基酸化の程度との相関を検討した(例えば、Ji, J.A., Zhang, B., Cheng, W. & Wang, Y.J. Methionine, tryptophan, and histidine oxidation in a model protein, PTH:Mechanisms and stabilization. Journal of Pharmaceutical Sciences 98, 4485-4500 (2009)を参照されたい)。AAPHは有機遊離基を生成して、露出した側鎖の酸化を引き起こした。それゆえに、SASAは、製造又は貯蔵中に酸化種が溶液に導入されると、溶液中で酸化するTrpの性質の直接的な指標を提供する可能性があるという仮説が立てられた。
図5は、17の異なるmAbにおける38のTrp残基を列挙する。全てのこれらのTrpは、最後の9つのTrpが定常領域中に存在していたことを除き、CDR中に存在していた。
【0273】
AAPHの存在下で>35%の酸化を示すTrpを酸化不安定なTrpと指定し、一方で、このパーセンテージ未満を非不安定なTrpと指定するように基準を定義した。>35%の酸化を示すTrp残基を背景の陰影で符号化して、左方向のバックスラッシュで陰影をつけた背景に割り当て、それ未満のTrp残基を、右方向のフォワードスラッシュで陰影をつけた背景に割り当て、全てのTrpを酸化に基づきソートした(
図5)。パターンは容易に認識することができ、不安定なTrp残基の平均時間平均SASAは、非不安定(37A
2+/-41)と比較して有意に高く(122A
2+/-40)、p値は0.0001であった。この分析に基づいて、さらに誤陰性の数を最小化するために、>80A
2の側鎖のSASAのカットオフ値(Trp側鎖の場合、>30%SASA)を割り当て、不安定なTrp部位と関連付けて、反応部位と非反応部位とを区別できるようにした。この基準は、13/14(93%)の不安定なTrp残基及び20/24(83%)の非不安定なTrp残基を正確に同定した。上述の基準を使用して誤陽性が同定された分子に関して、少なくとも3つのmAbのうち2つ、すなわちmAb12のTrp HC109、mAb7のTRP HC33に関して、これらの分子は、ほぼ同程度に溶媒に露出している単一のFvドメイン上に2つのTrpを有する傾向があることが判明した。実験的に、単一のFv上の2つの露出したTrpを酸化する統計的確率が複数のFvドメイン(したがってmAb)上の単一のTrp部位と比較して低い場合には、溶媒への露出が類似している場合であってもオキシダントに晒されたときに1つのみのTrpが優先的に酸化されるのではないかという疑問が生じる。それが真実であれば、このことが、溶媒接近性に基づき同定される誤陽性が得られてしまう潜在的原因の1つである可能性があった。全体的に、不安定Trp残基と非不安定Trp残基とを識別できるようにするのに、Trp側鎖の時間平均SASAは十分であったと結論付けられ、単一のFvドメインに十分な溶媒接近性を有する2つのTrpが存在する場合、このような基準は、慎重に使用されるべきである。
【0274】
Asp異性化の場合、不安定な可能性があるAsp残基に関する多変数をMD軌道から生成した。Asp異性化メカニズムと一致して(例えば、Wakankar, A.A.等. Aspartate isomerization in the complementarity determining regions of two closely related monoclonal antibodies. Biochemistry 46, 1534-1544 (2007)を参照されたい)(N+1残基のN末端ペプチド結合の窒素によるAspカルボニルの求核攻撃)、以下の特性:(1)全てのAsp残基に関する時間平均SASA(SASA_Asp)、Asp残基のn+1残基の主鎖N原子(SASA(n+1)、N)、及びn+1残基のH原子(SASA(n+1)、H);(2)Asp残基に関する残基内の相互情報(MI);(3)φ-ψ分布に関するシャノンのエントロピー;並びに(4)Cα原子に関する二乗平均平方根の揺らぎ(RMSF)を検討した。公知の不安定Asp残基に加えて安定なAsp残基の両方に含有されるFabの数をMD計算のために選択した。貯蔵寿命に影響を与える時間スケールで異性化することがこれまでに実証されたモチーフ(DG、DS、DT、DD、DA)に的を絞り(例えば、Radkiewicz, J.L., Zipse, H., Clarke, S. & Houk, K.N. Neighboring Side Chain Effects on Asparaginyl and Aspartyl Degradation:An Ab Initio Study of the Relationship between Peptide Conformation and Backbone NH Acidity. J. Am. Chem. Soc. 123, 3499-3506 (2001); Yi, L.等. Isomerization of Asp-Asp motif in model peptides and a Monoclonal Antibody Fab Fragment. Journal of Pharmaceutical Sciences 102, 947-959を参照されたい)、残りのAspを排除した。
【0275】
実験データセットをコンパイルし、そこで類似の条件下で(pH5.5)全てのmAbを配合し、熱応力をかけ(40℃)、ペプチドマップ分析に供して、Asp残基ごとに分解速度を計算した。
図6は、実験で得られた結果に加えてMDシミュレーションから決定された特性の両方を示す。
図6には、全ての不安定な可能性があるAsp残基が含まれるが、単一のタンパク質に関してのみ列挙された非CDRのAsp残基(フレームワーク残基)は、これらの非CDRのAsp残基を繰り返すことは冗長であると予想されるために除外される。
【0276】
データ分析は二重に行われた。まず第1に、不安定な残基(≧2.5%/wk)を安定な残基(<2.5%/wk)から分離し、Asp残基の2つのグループ間で特性のそれぞれの平均値比較した(
図14)。この工程は、2つのグループ間でどの特性が実質的な差を示したかの同定を可能にした。p値によって示された通り、試験された6つの特性のなかでも、4つの特性、すなわちSASA_Asp、RMSF、SASA(n+1、N)及び(n+1、H)がAsp残基の2つのグループ間で有意差を示した(80%のCI)。これらの4つの特性そのものはどれもAsp異性化速度を予測しなかったため、次に多変量分析を使用した。主成分の多変量回帰ツール又は部分最小二乗回帰を使用して直接の相関は確立できなかった。それゆえに二進法での相関を確立することができるかどうか、すなわち≧2.5%/wkの速度を有する部位を<2.5%/wkの速度を有する部位から識別できるかどうかという質問が尋ねられた。この目的を達成するために、1の値を>2.5%/wkの速度に割り当て、0の値を<2.5%/wkの速度に割り当てた(
図6)。次いで、独立変数としてSASA_Asp、RMSF、SASA(n+1、N)及び従属変数として二進の速度出力を使用してロジスティック回帰を行った。パラメーターのSASA(n+1、H)は回帰分析において追加の利益をもたらさなかったことから、これらを排除した。この回帰の結果としての方程式の出力を以下に示す:
Y1=1/(1+exp(-(-22.2+0.13
×SASA_ASP+3.3
×RMSF+16.0
×SASA(n+1,N)))) 方程式4
この方程式の出力を有効数字1桁に四捨五入して0(非反応性)又は1(反応性)の何れかの結果を得て、これを
図6に示す。
【0277】
ロジスティック回帰は、5/6の不安定部位及び全ての9/9の非反応部位を正確に予測する。本質的に、ロジスティックモデル化を介して生成した方程式は、試験された実験条件下において2.5%/wkより高い速度で分解するAsp残基の感受性を予測するのに3つのパラメーター(SASA_Asp、RMSF及びSASA(n+1、N))を使用することを可能にする。
【0278】
LOOCV手法を使用してモデルの有効性を試験した。1つのmAbを除外し、ロジスティック回帰分析のためのトレーニングセットとして残りのmAbを使用して、5/6の不安定部位及び7/9の非反応部位を予測した(
図6)。正しい予測結果はわずかに減少したが、それでもなお合計で12/15の部位(80%)を正確に予測したことから申し分ない結果となった。LOOCV手法を使用して正確に予測された部位のパーセントの減少は、元のトレーニングセットの特定のmAbが、高度に正しい予測結果を維持することに不均衡に寄与する可能性を指摘している。このモデル化手法は、実験条件の特定のセットに固有である可能性があるが、基礎となる手法は、実験で得られた速度がAsp残基のセットに関して公知である限りは、実験条件のあらゆるセットに拡張される可能性があることがわかる。
【0279】
図18は、例証的な装置1800を示す。装置1800は、コンピューティングマシーンであってもよい。装置1800は、チップモジュール1802を含んでいてもよく、このようなモジュールは、一又は複数の集積回路を含んでいてもよく、さらに、抗体の計算された生理化学的特性に基づき、例えば、生産又は治療剤への包含に関する抗体の適合性を決定する;治療剤中に含ませるための候補抗体のなかから抗体を選択する;抗体を含む治療剤の製造をサポートする;又はインシリコの抗体選択又は他の関連する活動に関連する他のあらゆる好適な論理的なオペレーションを行うように設計された論理を含んでいてもよい。
【0280】
装置1800は、以下の成分の一又は複数:I/O回路構成1804、これは、送信器デバイス及び受信器デバイスを含んでいてもよく、さらに、光ファイバーケーブル、同軸ケーブル、電話線、ワイヤレスデバイス、PHY層ハードウェア、キーパッド/ディスプレイコントロールデバイス又は他のあらゆる好適な媒体又はデバイスと連動していてもよく;周辺デバイス1806、これは、カウンタータイマー、リアルタイムタイマー、パワーオンリセットジェネレーター又は他のあらゆる好適な周辺デバイスを含んでいてもよく;論理処理デバイス1808、これは、抗体の構造情報から抗体の構造パラメーターを計算し;抗体の構造パラメーターに対応するスケーリング因子を選択し;抗体の生理化学的特性に対応する指標を定量し;製造及び分配容器の流れ抵抗を定量することができ;及び機械可読メモリー1810を含んでいてもよい。
【0281】
機械可読メモリー1810は、機械可読データ構造中に、抗体の構造情報;抗体の構造パラメーターに対応するスケーリング因子;及び他のあらゆる好適な情報又はデータを保存するように設計されていてもよい。
【0282】
成分1802、1804、1806、1808及び1810は、システムバス又は他の相互連結1812によって一緒に連結されていてもよく、1820などの一又は複数の回路基板に存在していてもよい。いくつかの実施態様において、成分は、単一のシリコンベースのチップに統合されていてもよい。
【0283】
プログラム及びデータを含むソフトウェア成分は、必要に応じて、CD-ROM、EPROM及びEEPROMなどのROM(読出し専用メモリー)の形態で実行されてもよいし、又はこれらに限定されないが、様々な種類のディスク、様々な種類カードの及びRAMなどの他のあらゆる好適なコンピューター可読媒体に保存されていてもよいことが理解されると予想される。ソフトウェアとして本明細書に記載される成分は、その代わりに、及び/又はそれに加えて、ハードウェアで、必要に応じて従来の技術を使用して、全体的又は部分的に実行されてもよい。
【0284】
本明細書に記載される情報を表す様々なシグナルは、金属ワイヤー、光ファイバー、及び/又はワイヤレス伝送媒体(例えば、空気及び/又は空間)などのシグナル伝達媒体を介して伝わる電磁波の形態で送信元と送信先との間を移行することができる。
【0285】
装置1800は、ローカルエリアネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)、又は他の好適なネットワークを介した一又は複数のリモートコンピューターへの接続をサポートするネットワーク化された環境で作動し得る。LANネットワークキング環境で使用される場合、装置1800は、I/O回路構成1804中のネットワークインターフェース又はアダプターを介してLANに接続されてもよい。WANネットワーキング環境で使用される場合、装置1800は、WAN上でのコミュニケーションを確立するためのモデム又は他の手段を含み得る。示されたネットワーク接続は例証的なものであり、コンピューター間のコミュニケーションリンクを確立する他の手段も使用できることが理解されると予想される。TCP/IP、Ethernet、FTP、HTTP及び同種のものなどの様々な周知のプロトコールの何れかの存在が推定され、システムをクライアント-サーバーコンフィギュレーションで操作することにより、例えばインターネット上で使用者が論理処理デバイス1808を操作することが可能になる。
【0286】
装置1800は、極めて多くの汎用又は特殊用途のコンピューティングシステム環境又はコンフィギュレーションに含まれていてもよい。本発明での使用に適している可能性がある周知のコンピューティングシステム、環境、及び/又はコンフィギュレーションの例としては、これらに限定されないが、パーソナルコンピューター、サーバーコンピューター、ハンドヘルド又はラップトップデバイス、携帯電話及び/又は他の携帯用個人情報端末(「PDA」)、多重プロセッサーシステム、マイクロプロセッサーベースのシステム、タブレット、プログラム可能な消費者用電子機器、ネットワークパーソナルコンピューター、小型コンピューター、メインフレームコンピューター、上記のシステム又はデバイスの何れかを含む分散コンピューティング環境、及び同種のものが挙げられる。
【0287】
図19A及び19Bは、本発明の原理に従ってインシリコの抗体選択を提供するための例証的なプロセス1900を示す。例示の目的で、例示されたプロセスの工程は、「システム」によって行われているものとして説明される。「システム」は、
図18に示される装置及び/又は他のあらゆる好適なデバイス、例えばコンピューティングマシーン、又は手法のフィーチャの一又は複数を含み得る。「システム」は、インシリコの抗体選択を実行する実体又は他のあらゆる好適な個体、構成若しくは様式によって提供されてもよい。
【0288】
図19A及び19Bにおいて、実線の矢印は、プロセス制御の流れ及び情報の流れを提示する。破線の矢印は、情報の流れを提示する。
【0289】
図19A及び19Bにおけるプロセスの実行の順番及び/又は工程の説明は単なる例示にすぎない。説明されている工程のそれぞれは、例示された順番で完了されなくてもよいし、又は全てが完了されなくてもよい。プロセス1900は、示されていない工程を含み得る。
【0290】
プロセス1900は、アルゴリズムとして具現化されてもよい。アルゴリズムは、プロセス1900の工程の一部又は全部を含み得る。
【0291】
プロセス1900は、工程1920(
図19Aに示される)で開始してもよい。工程1920において、システムは、データのセットを受信することができる。情報1922は、工程1920で受信したデータの一部又は全部を含み得る。
【0292】
情報1922は、溶液条件1924下における抗体(Ab)1926に関する情報を含み得る。システムは、プロセス1900を行って、設計基準(DC)1958の達成に関して条件1924下におけるAb1926を分析することができる。
【0293】
Ab1926は、Abサブ/クラス1948に属していてもよい。Abサブ/クラス1948は、IgA又はIgEなどの抗体クラスであってもよい。Abサブ/クラス1948は、IgA1などの抗体サブクラスであってもよい。Abサブ/クラス1948は、IgG1又はIgG4などの抗体サブクラスであってもよい。Abサブ/クラス1948は、あらゆる抗体クラス、サブクラス又は変種であってもよい。
【0294】
Ab1926は、構造を有していてもよい。Ab1926の構造は、Ab構造1950によって表すことができる。Ab構造1950は、Ab1926の構造に対応するデジタルコードであってもよい。
【0295】
Ab構造1950は、抗体1926のアミノ酸配列に関する情報を含み得る。配列1952は、配列情報を表していてもよい。配列1952は、Ab1926の配列に対応するデジタルコードであってもよい。配列1952は、一次構造を表していてもよい。
【0296】
配列1952は、Ab1926の完全配列1954を含み得る。完全配列1954は、重鎖HC、軽鎖LC、可変ドメインFv、定常ドメインFc、相補性決定領域CDR1、CDR2などの何れか又は全部を含むAb1926の全てのセクション、ドメイン、領域及び/又はフィーチャ、並びにAb1926の他のあらゆる構造的なフィーチャの配列情報を含有していてもよい。
【0297】
配列1952は、Ab1926の部分配列1956を含み得る。部分配列1956は、完全配列1954ほど完全でなくてもよい。部分配列1956は、Ab1926の一部の配列であってもよい。部分配列1956は、重鎖HC、軽鎖LC、可変ドメインFv、定常ドメインFc、相補性決定領域CDR1、CDR2などの何れか又は全部を含むAb1926の一又は複数のセクション、ドメイン、領域及び/又はフィーチャ、並びに/又はAb1926の他のあらゆる構造的なフィーチャの配列情報を含有していてもよい。
【0298】
情報1922は、条件1924に関する情報を含み得る。条件1924は、バッファー+塩溶液(BSS)1930に関する情報を含み得る。BSS1930は、Ab1926を含有する溶液条件の一部に対応するデジタルコードであってもよい。溶液条件は、温度(T)1932;バッファー+塩溶液の化学組成1934であって、バッファー+塩溶液の化学種の同定を含んでいてもよく、バッファー中の塩以外の塩を含有する可能性もあるし又は含有しない可能性もある、化学組成1934;及び溶液中に存在する可能性がある化学種の濃度1936の一又は複数を含み得る。濃度1936は、バッファー濃度1938;塩濃度1940;Ab濃度1942;pH1944;及びイオン強度1946(IS)の一又は複数に関する情報を含み得る。
【0299】
BSS1930は、バーチャルな溶液を表していてもよい。バーチャルな溶液は、MDシミュレーションに関連し得る。BSS1930は、現実の溶液を表していてもよい。Ab1926は、バーチャルな抗体を表していてもよい。バーチャルな抗体は、MDシミュレーションに関連し得る。バーチャルな抗体は、仮定の配列バリエーションにより現実の抗体とは異なる現実の抗体に基づいていてもよい。Ab1926は、現実の抗体を表していてもよい。
【0300】
情報1922は、生理化学的特徴(PC)1928に関する情報を含み得る。PC1928は、一又は複数の生理化学的特性、例えば粘度、クリアランス、安定性、アスパラギン酸の不安定性及びトリプトファンの不安定性を含み得る。PC128は、Ab溶液又はAbの他のあらゆる生理化学的特徴、例えば色又は等電点を含み得る。PC128は、DC1958の決定において役割を果たす可能性がある。例えば、PC128が粘度である場合、DC1958は粘度に関していてもよく、DC1958は、例えば、粘度の限定を含み得る。
【0301】
情報1922は、BSS出力1931を含み得る。BSS出力1931は、条件1924に関するデータを含み得る。BSS出力1931は、BSS1930に関するデータを含み得る。
【0302】
情報1922は、Ab出力1927を含み得る。Ab出力1927は、Ab1926に関するデータを含み得る。
【0303】
情報1922は、PC出力1929を含み得る。PC出力1929は、PC1928に関するデータを含み得る。
【0304】
情報1922は、DC出力1959を含み得る。DC出力1959は、DC1958に関するデータを含み得る。
【0305】
システムは、工程1920から工程1960に進行し得る。工程1960において、システムは、目的関数を選択し得る。目的関数は、スケーリング因子(sf)及びパラメーター(P)を含み得る。パラメーターPは、一又は複数の構造関連の特性、例えば電荷、電荷非対称、及び疎水性を含み得る。パラメーターPは、他のあらゆる構造関連の特性、例えば磁気モーメント及び双極子モーメントを含み得る。システムは、パラメーターPiをスケーリング因子sfiとかけることができる。掛け算の積sfiPiが、目的関数における項であり得る。
【0306】
システムは、PC出力1929からの情報に基づき目的関数を選択し得る。PC出力1929からの情報は、PC1928に関する情報を含み得る。PC1928に関する情報は、目的関数を選択することにおいて使用され得る。例えば、PC128が粘度である場合、システムは、条件1924下におけるAb1926に関して評価しているときにBSS1930においてAb1926の粘度に対応する指標をもたらす可能性がある目的関数を選択し得る。目的関数の数学的形式は、項sfiPiをPC1928と関連付けることができる。
【0307】
システムは、工程1962に進行し得る。工程1962において、システムは、目的関数に含めようとするパラメーターを選択し得る。パラメーターは、パラメーターP1・・・Pnを含んでいてもよく、ここでnは、目的関数に含まれるパラメーターの総数であり得る。システムは、Ab出力1927からの情報に基づきパラメーターP1・・・Pnを選択し得る。Ab出力1927からの情報は、Ab1926に関する情報を含み得る。Ab1926に関する情報は、パラメーターP1・・・Pnを選択することにおいて使用され得る。例えば、工程1962で選択された目的関数が項目sfiPiを粘度に関連付ける場合、パラメーターP1・・・Pnの選択は、Abサブ/クラス1948によって決まる可能性がある。Abサブ/クラス1948がIgG4である場合、システムは、目的関数中にFcの特性に関するパラメーターを含む可能性があり、Abサブ/クラス1948がIgG1である場合、システムは、目的関数からFcの特性に関するパラメーターを排除する可能性がある。
【0308】
システムは、BSS出力1931からの情報に基づきパラメーターP1・・・Pnを選択し得る。BSS出力1931からの情報は、BSS1930に関する情報を含み得る。BSS1930に関する情報は、パラメーターP1・・・Pnを選択することにおいて使用され得る。BSS出力1931からの情報は、イオン強度(IS)1946に関する情報を含み得る。IS1946に関する情報は、パラメーターP1・・・Pnを選択することにおいて使用され得る。例えば、工程1960で選択された目的関数が項目sfiPiを粘度に関連付ける場合、パラメーターP1・・・Pnの選択は、IS1946によって決まる可能性がある。IS1946が高イオン強度である場合、システムは、目的関数中に疎水性に関するパラメーターを含む可能性があり、IS1946が低イオン強度である場合、システムは、目的関数から疎水性に関するパラメーターを排除する可能性がある。
【0309】
システムは、工程1964に進行し得る。工程1964において、システムは、sf値を選択し得る。sf値の選択は、工程1966において、sf値sf
1・・・sf
nを同定することを含み得る。sf
1・・・sf
nの各値は、それぞれパラメーターP
1・・・P
nの1つの乗数として役立つ可能性がある。工程1966において、値sf
1・・・sf
nを同定することは、機械メモリー1910中で各スケーリング因子値を同定することを含み得る(
図19Bに示される)。
【0310】
機械メモリー1910は、メモリー1810のフィーチャの一又は複数を含み得る(
図18に示される)。機械メモリー1910は、スケーリング因子値を保存することができる。機械メモリー1910は、温度(T
AからT
x)1911により設定されたメモリーで表されるため、温度によってスケーリング因子値を保存することができる。機械メモリー1910は、イオン強度(IS
αからIS
ω)1913により設定されたメモリーで表されるため、イオン強度によってスケーリング因子値を保存することができる。機械メモリー1910は、IgGサブクラス(IgG
1からIgG
4)1915により設定されたメモリーで表されるため、サブ/クラスによってスケーリング因子値を保存することができる。機械メモリー1910は、バッファー+塩溶液(BSS
1からBSS
m)1916により設定されたメモリーで表されるため、バッファー+塩溶液組成によってスケーリング因子値を保存することができる。機械メモリー1910は、pH(pH
IからpH
X)1917により設定されたメモリーで表されるためpHによってスケーリング因子値を保存することができる。
【0311】
機械メモリー1910は、機械メモリーコンフィギュレーション1919に示されるデータなどのデータを保存することができる。コンフィギュレーション1919は、I/O回路構成1804(
図18に示される)によって制御されるディスプレイなどのデータ視聴ツールによって提供される機械メモリー1910のビューを表することができる。コンフィギュレーション1919は、具体的な条件下(25℃、pH5.5及び高ISにおいて180mg/mLのAb;20mMのバッファー+200mMアルギニンHCl中、各値は近似)におけるIgG1に関する特定のAb構造的フィーチャ(例えば、完全配列、Fv、Fc)に基づき様々なスケーリング因子値を含む。
【0312】
データベース1905は、様々な条件下における様々なサブ/クラスの抗体の測定されたPC値を保存することができる。システムは、測定されたPC値を分析して、スケーリング因子を導き出すことができる。システムは、機械メモリー1910中でスケーリング因子値を保存することができる。
【0313】
工程1964において、システムは、BSS出力1931からの情報に基づき値sf1・・・sfnを選択し得る。BSS出力1931からの情報は、T1932、組成1934及び濃度1936を含み得る。T1932、組成1934及び/又は濃度1936は、値sf1・・・sfnを選択することにおいて使用され得る。例えば、工程1960で選択された目的関数に関する工程1962で選択されたパラメーターP1・・・Pnのセットの場合、値sf1・・・sfnは、T1932によって決まる可能性があり、一方で値sf1・・・sfnの1つのセットは、25℃での溶液に関して選択される可能性があり、値sf1・・・sfnの異なるセットは、第2の溶液は35℃にあるという点でのみ第1の溶液とは異なる第2の溶液に関して選択される可能性がある。温度においてのみ異なる2つの溶液に関する値sf1・・・sfnの2つのセットは、機械メモリー1910中で2つの異なる位置に位置していてもよい。
【0314】
システムは、Ab出力1927からの情報に基づき値sf1・・・sfnを選択し得る。Ab出力1927からの情報は、工程1964において使用され得る。
【0315】
Ab出力1927からの情報は、Ab構成1950を含み得る。Ab構成1950は、値sf1・・・sfnを選択することにおいて使用され得る。例えば、工程1960で選択された目的関数に関する工程1962で選択されたパラメーターP1・・・Pnのセットの場合、値sf1・・・sfnは、配列1952によって決まる可能性があり、一方で値sf1・・・sfnの1つのセットは、完全配列1954を有する抗体に関して選択される可能性があり、値sf1・・・sfnの異なるセットは、部分配列1956を有する同じ抗体に関して選択される可能性がある。2つの異なる配列1952を有する同じ抗体に関する値sf1・・・sfnの2つのセットは、機械メモリー1910中で2つの異なる位置に位置していてもよい。
【0316】
工程1966において、機械メモリー1910におけるスケーリング因子の位置は、BSS出力1931からの情報に合わせて、及び/又はAb出力1927から同定されてもよい。
【0317】
工程1968において、システムは、値sf1・・・sfnを検索することができる。値sf1・・・sfnは、工程1966において同定された機械メモリー位置から検索されてもよい。
【0318】
システムは、工程1970に進行し得る。工程1970において、システムは、それぞれパラメーターP1・・・Pnに関する値P1’・・・Pn’を計算することができる。値P1’・・・Pn’は、Ab出力1927からの情報に基づきコンピューターで計算されてもよい。Ab出力1927からの情報は、工程1970において使用され得る。値P1’・・・Pn’は、BSS出力1931からの情報に基づきコンピューターで計算されてもよい。BSS出力1931からの情報は、工程1970において使用され得る。
【0319】
システムは、工程1972に進行し得る。工程1972において、システムは、目的関数を評価することができる。目的関数の値は、値sf1・・・sfn及び値P1’・・・Pn’に基づきコンピューターで計算されてもよい。目的関数に関して計算された値は、条件1924下におけるAb1926に関するPC1928の値の予測に相当し得る。
【0320】
システムは、工程1974に進行し得る。DC1958に関するDC出力1959からの情報は、工程1974において使用され得る。工程1974において、システムは、PC1928の値の予測をDC1958と比較して、条件1924下におけるAb1926がDC1958を満たすかどうかを決定することができる。
【0321】
DC1958が満たされる場合、システムは、工程1976に進行し得る。工程1976において、Ab生産は、実施されてもよい。Ab生産は、Ab1926の流体移行を含み得る。Ab生産は、Ab1926の貯蔵を含み得る。Ab生産は、Ab1926の製造を含み得る。Ab1926の製造は、バーチャルな抗体1926を現実の抗体に加工することを含み得る。Ab生産は、抗体生産に関連するあらゆる工程及び活動を含み得る。
【0322】
システムは、工程1976から工程1978に進行し得る。システムは、工程1974においてDC1958が満たされない場合、工程1978に進行し得る。
【0323】
工程1978において、システムは、BSS出力1931、Ab出力1927、PC出力1929及び/又はDC出力1959からのデータの一又は複数を再設定させるべきかどうかの問い合わせを行う可能性がある。例えば、工程1974でDC1958が満たされて、工程1976でAb1926が現在生産中であり得るが、現在の生産のAb濃度1942とは異なる抗体濃度でAb1926を生産するか;現在の生産の組成1934とは異なる化学組成を有するバッファー中でAb1926を生産するか;又は現在の生産のAb1926とは異なる抗体を生産する必要性が生じる可能性があった。
【0324】
工程1978の問い合わせに対する応答が否定的である場合、システムは、終了1980に進行し得る。システムは、いくらかの設定時間経過後、又はいくつかの他の基準に合わせて、工程1978での応答の非存在下においてデフォルトで終了1980になる可能性がある。
【0325】
工程1978の問い合わせに対する応答が肯定的である場合、システムは、工程1982に進行し得る。工程1982において、BSS出力1931、Ab出力1927、PC出力1929及びDC出力1958からのデータのデータ項目又は1つより多くのデータ項目は、再設定されてもよい。例えば、配列1950のデータ項目又は1つより多くのデータ項目は、再設定されてもよいし(例えば:単一のアミノ酸残基を変化させること;配列を完全から部分的にシフトすること;Ab1926を、Ab1926とは実質的に配列が異なる抗体置き換えることによって);又は濃度1936のデータ項目又は1つより多くのデータ項目は、再設定されてもよい(例えば:pH又はISを変化させることによって)。同様に、変化は、Abサブ/クラス1948、BSS1930、PC1928及びDC1958に関するデータになされてもよい。
【0326】
システムは、工程1982から工程1920に戻って進行し得る。工程1982で再設定されたデータは、工程1920で受信され得る。
【0327】
当該技術分野の当業者は、本明細書で示され説明された装置の要素、媒体及びコードは、列挙されたコンフィギュレーション以外で設計されてもよく、要素の一又は複数は任意選択であり得ることを理解しているものと予想される。当該技術分野の当業者は、本明細書で示され説明されたプロセス及び方法の工程は、列挙された順番以外で行われてもよいし、例示された一又は複数の工程は任意選択であり得ることを理解しているものと予想される。
【0328】
したがって、抗体の計算された生理化学的特性に基づき、治療剤中に含ませるための抗体の適合度を決定すること;抗体の計算された生理化学的特性に基づき、治療剤中に含ませるための候補抗体のなかから選択すること;及び抗体の計算された生理化学的特性に基づき治療剤を製造することの一又は複数を行うための、コンピューター可読コードを含む装置、方法及び媒体を提供した。記載された実施態様は、限定というより例示目的で示されたものであり、本発明は、そのような実施態様以外によっても実施することができることを当該技術分野の当業者は理解しているものと予想される。本発明は、以下の特許請求の範囲によって定義される。
<さらなる実施態様>
[実施態様1]抗体を含む組成物を製造する方法であって、
(a)流体誘導要素を介して流れる流体の粘度によって決まる製造容器中の流体誘導要素の流体の流れ抵抗に基づき、抗体に関する粘度の限定を設定すること;
(b)ネットワークを通じて、抗体の構造情報を送信すること;
(c)ネットワークを通じて、構造情報から計算された抗体の粘度の指標を受信すること;及び
(d)指標が粘度の限定を超えない場合のみ、該組成物を製造するために該要素を介して抗体を送ること
を含む、方法。
[実施態様2]設計基準を満たす粘度を有する抗体を生産する方法であって、
(a)設計基準を満たす、抗体に関する粘度の限定を設定すること;
(b)ネットワークを通じて、抗体の構造情報を送信すること;
(c)ネットワークを通じて、構造情報から計算された抗体の粘度に対応する指標を受信すること;
(d)抗体が設計基準を満たす粘度を有するかどうかを決定すること;及び
(e)指標が粘度の限定を超えない場合のみ、抗体を生産すること
を含む、方法。
[実施態様3]抗体を含む組成物を製造する方法であって、
(a)流体誘導要素を介して流れる流体の粘度によって決まる製造容器中の流体誘導要素の流体の流れ抵抗に基づき、抗体に関する粘度の限定を設定すること;
(b)抗体の構造情報から、抗体の粘度の指標を計算すること;及び
(c)指標が粘度の限定を超えない場合のみ、該組成物を製造するために該要素を介して抗体を送ること
を含む、方法。
[実施態様4]設計基準を満たす粘度を有する抗体を生産する方法であって、
(a)設計基準を満たす、抗体に関する粘度の限定を設定すること;
(b)抗体の構造情報から、抗体の粘度に対応する指標を計算すること;
(c)抗体が設計基準を満たす粘度を有するかどうかを決定すること;及び
(d)指標が粘度の限定を超えない場合のみ、抗体を生産すること
を含む、方法。
[実施態様5]指標が、
(a)抗体の構造情報から、正味の電荷及び電荷非対称を計算する工程;
(b)正味の電荷に相当する第1のスケーリング因子、及び電荷非対称に相当する第2のスケーリング因子を抗体に関して選択する工程;及び
(c)スケーリング因子を含む目的関数から指標を計算する工程であって、指標は粘度に対応する、工程
を含む方法によって計算される、実施態様1から4の何れか一項に記載の方法。
[実施態様6]構造情報から計算することが、一次構造の情報から計算することを含む、実施態様5に記載の方法。
[実施態様7]一次構造が、軽鎖可変ドメイン(VL)アミノ酸配列及び重鎖可変ドメイン(VH)アミノ酸配列を含む、実施態様6に記載の方法。
[実施態様8]正味の電荷が、VLアミノ酸配列の正味の電荷とVHアミノ酸配列の正味の電荷との合計を含む、実施態様7に記載の方法。
[実施態様9]電荷非対称が、VLアミノ酸配列の正味の電荷とVHアミノ酸配列の正味の電荷との算術積を含む、実施態様6又は7に記載の方法。
[実施態様10]少なくとも一の試験抗体の少なくとも一の粘度測定値のデータからスケーリング因子を導き出すことをさらに含み、抗体及び試験抗体は、同じ抗体クラスに属する、実施態様5に記載の方法。
[実施態様11]スケーリング因子を選択することが、第1のスケーリング因子及び第2のスケーリング因子を、一又は複数の水溶液条件のそれぞれに関するスケーリング因子のセットから選択することを含む、実施態様5に記載の方法。
[実施態様12]目的関数において、指標のlog10が、(正味の電荷×第1のスケーリング因子)と、(電荷非対称×第2のスケーリング因子)との合計を含む、実施態様6又は11に記載の方法。
[実施態様13](a’)抗体の一又は複数の相補性決定領域(CDR)の情報からの構造情報から、疎水性を計算する工程;及び
(b’)疎水性に対応する第3のスケーリング因子を選択する工程であって、目的関数は、第3のスケーリング因子をさらに含む、工程
をさらに含む、実施態様6に記載の方法。
[実施態様14]疎水性が、一又は複数のCDRの疎水性の値の加法関数の合計を含む、実施態様13に記載の方法。
[実施態様15]加法関数のそれぞれが、CDRの疎水性残基の値の合計とCDRの親水性残基の値の合計との比率である、実施態様14に記載の方法。
[実施態様16]値が、Eisenberg疎水性スケール値である、実施態様14又は15に記載の方法。
[実施態様17]一又は複数のCDRが、1、2、3、4、5又は6つのCDRを含む、実施態様13又は14に記載の方法。
[実施態様18]一又は複数のCDRが、全6つのCDRを含む、実施態様13又は14に記載の方法。
[実施態様19]スケーリング因子を選択することが、第1のスケーリング因子、第2のスケーリング因子及び第3のスケーリング因子を、一又は複数の水溶液条件のそれぞれに関するスケーリング因子のセットから選択することをさらに含む、実施態様13に記載の方法。
[実施態様20]目的関数において、指標のlog10は、(正味の電荷×第1のスケーリング因子)と、(電荷非対称×第2のスケーリング因子)と、(疎水性×第3のスケーリング因子)との合計を含む、実施態様13又は19に記載の方法。
[実施態様21]指標が粘度の限定を超える場合、抗体の軽鎖及び/又は重鎖可変領域アミノ酸配列の一又は複数のアミノ酸残基を突然変異させて、標的抗体を生成する工程をさらに含む、実施態様5又は20に記載の方法。
[実施態様22]軽鎖及び/又は重鎖可変領域アミノ酸配列を突然変異させる工程が、標的抗体の粘度に対応する指標が粘度の限定を超えないように、疎水性を低下させるか、正味の電荷を増加させるか、及び/又は電荷非対称を減少させる、実施態様21に記載の方法。
[実施態様23]標的抗体の粘度に対応する指標が、標的抗体の構造情報から計算される、実施態様22に記載の方法。
[実施態様24]標的抗体を生産する工程をさらに含む、実施態様22に記載の方法。
[実施態様25]抗体が、治療用抗体であるか、又は薬学的組成物中にある、実施態様5に記載の方法。
[実施態様26]抗体を生産する方法であって、
(a)抗体が、実施態様20から22の何れか一項に記載の方法に従って設計基準を満たす粘度を有するかどうかを決定する工程;及び
(b)抗体が設計基準を満たす粘度を有すると決定される場合、抗体を生産する工程
を含む、方法。
[実施態様27]抗体を得る工程をさらに含む、実施態様26に記載の方法。
[実施態様28]抗体が、少なくとも一の精製工程により得られる、実施態様27に記載の方法。
[実施態様29]設計基準を満たすクリアランス速度を有する抗体を生産する方法であって、
(a)ネットワークを通じて、抗体の構造情報を送信すること;
(b)ネットワークを通じて、構造情報から計算された抗体の正味の電荷を受信すること;
(c)正味の電荷が正味の電荷の範囲に合致する場合、ネットワークを通じて、抗体の一又は複数の相補性決定領域(CDR)の情報からの構造情報から計算された疎水性を受信し、(i)疎水性が疎水性の限定を超えない場合、抗体が設計基準を満たすクリアランス速度を有すると決定すること、又は(ii)疎水性が疎水性の限定を超える場合、抗体が設計基準を満たさないクリアランス速度を有すると決定すること;
(d)正味の電荷が正味の電荷の範囲に合致しない場合、抗体が設計基準を満たさないクリアランス速度を有すると決定すること;及び
(e)抗体が設計基準を満たすクリアランス速度を有すると決定される場合のみ、抗体を生産すること
を含む、方法。
[実施態様30]設計基準を満たすクリアランス速度を有する抗体を生産する方法であって、
(a)抗体の構造情報から、抗体の正味の電荷を計算すること;
(b)正味の電荷が正味の電荷の範囲に合致する場合、抗体の一又は複数の相補性決定領域(CDR)の情報からの構造情報から疎水性を計算して、(i)疎水性が疎水性の限定を超えない場合、抗体が設計基準を満たすクリアランス速度を有すると決定すること、又は(ii)疎水性が疎水性の限定を超える場合、抗体が設計基準を満たさないクリアランス速度を有すると決定すること;
(c)正味の電荷が正味の電荷の範囲に合致しない場合、抗体が設計基準を満たさないクリアランス速度を有すると決定すること;及び
(d)抗体が設計基準を満たすクリアランス速度を有すると決定される場合のみ、抗体を生産すること
を含む、方法。
[実施態様31]抗体を得る工程をさらに含む、実施態様29又は30に記載の方法。
[実施態様32]抗体が、少なくとも一の精製工程により得られる、実施態様31に記載の方法。
[実施態様33]構造情報から計算することが、一次構造の情報から計算することを含む、実施態様29又は30に記載の方法。
[実施態様34]一次構造が、軽鎖可変ドメイン(VL)アミノ酸配列及び重鎖可変ドメイン(VH)アミノ酸配列を含む、実施態様33に記載の方法。
[実施態様35]正味の電荷が、VLアミノ酸配列の正味の電荷とVHアミノ酸配列の正味の電荷との合計を含む、実施態様34に記載の方法。
[実施態様36]正味の電荷が、約pH5.5におけるVHの正味の電荷とVLの正味の電荷との合計を含む、実施態様35に記載の方法。
[実施態様37]疎水性が、一又は複数のCDRの疎水性の値の加法関数の合計を含む、実施態様33に記載の方法。
[実施態様38]加法関数のそれぞれが、CDRの疎水性残基の値の合計とCDRの親水性残基の値の合計との比率である、実施態様37に記載の方法。
[実施態様39]値が、Eisenberg疎水性スケール値である、実施態様37又は38に記載の方法。
[実施態様40]一又は複数のCDRが、1、2、3、4、5又は全6つのCDRを含む、実施態様29から37の何れか一項に記載の方法。
[実施態様41]一又は複数のCDRが、軽鎖(LC)CDR1、LC CDR3及び重鎖(HC)CDR3である、実施態様40に記載の方法。
[実施態様42]クリアランス速度が、カニクイザルモデルで測定された約10mL/kg/日以下である、実施態様29から41の何れか一項に記載の方法。
[実施態様43]正味の電荷の範囲が、約-2.0から約6.2である、実施態様29から42の何れか一項に記載の方法。
[実施態様44]疎水性の限定が、約4である、実施態様29から43の何れか一項に記載の方法。
[実施態様45]抗体が、設計基準を満たさないクリアランス速度を有すると決定される場合、VH及び/又はVLにおける一又は複数のアミノ酸残基を突然変異させて、標的抗体を生成する工程をさらに含む、実施態様29から44の何れか一項に記載の方法。
[実施態様46]VH及び/又はVLアミノ酸配列を突然変異させる工程が、標的抗体の正味の電荷を、正味の電荷の範囲に合致させ、及び/又は標的抗体の疎水性を、疎水性の限定又はそれ未満に設定する、実施態様45に記載の方法。
[実施態様47]標的抗体の正味の電荷及び/又は標的抗体の疎水性が、標的抗体の構造情報から計算される、実施態様46に記載の方法。
[実施態様48]抗体が、モノクローナル抗体である、実施態様29から47の何れか一項に記載の方法。
[実施態様49]抗体が、IgG1抗体である、実施態様48に記載の方法。
[実施態様50]抗体が、治療用抗体であるか、又は薬学的組成物中にある、実施態様49に記載の方法。
[実施態様51]設計基準を満たすアスパラギン酸不安定性を有する抗体を生産する方法であって、抗体の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列は、アスパラギン酸残基を含み、該方法は、
(a)設計基準を満たす、抗体に関するアスパラギン酸不安定性の限定を設定すること;
(b)ネットワークを通じて、抗体の構造情報を送信すること;
(c)ネットワークを通じて、構造情報から計算された抗体のアスパラギン酸不安定性に対応する指標を受信すること;
(d)抗体が設計基準を満たすアスパラギン酸不安定性を有するかどうかを決定すること;及び
(e)指標が粘度の限定を超えない場合のみ、抗体を生産すること
を含む、方法。
[実施態様52]設計基準を満たすアスパラギン酸不安定性を有する抗体を生産する方法であって、抗体の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列は、アスパラギン酸残基を含み、該方法は、
(a)設計基準を満たす、抗体に関するアスパラギン酸不安定性の限定を設定すること;
(b)抗体の構造情報から、抗体のアスパラギン酸不安定性に対応する指標を計算すること;
(c)抗体が設計基準を満たすアスパラギン酸不安定性を有するかどうかを決定すること;及び
(d)指標がアスパラギン酸不安定性の限定を超えない場合のみ、抗体を生産すること
を含む、方法。
[実施態様53]指標が、
(a)CDRのアミノ酸配列から、(i)アスパラギン酸残基に結合するアルファ炭素の二乗平均平方根の揺らぎ、(ii)アスパラギン酸残基の時間平均された溶媒接触可能表面積、及び(iii)アスパラギン酸残基に直接隣接しているアミノ酸残基に結合する主鎖窒素原子の時間平均された溶媒接触可能表面積を計算する工程;
(b)(i)揺らぎスケーリング因子、(ii)アスパラギン酸残基表面積スケーリング因子、及び(iii)主鎖窒素原子表面積スケーリング因子を抗体に関して選択する工程;及び
(c)スケーリング因子を含む目的関数から、アスパラギン酸不安定性に対応する指標を計算する工程
を含む方法によって計算される、実施態様51又は52に記載の方法。
[実施態様54]アスパラギン酸残基に直接隣接しているアミノ酸残基が、N位におけるアスパラギン酸残基に対してN+1位にある、実施態様53に記載の方法。
[実施態様55]少なくとも一の試験抗体の少なくとも一のアスパラギン酸不安定性の測定値のデータからスケーリング因子を導き出すことをさらに含む、実施態様53に記載の方法。
[実施態様56]少なくとも一の試験抗体のアスパラギン酸不安定性の測定が、所定温度で少なくとも一の試験抗体をインキュベートすること、続いて質量分析及びHPLCベースの技術に適用することを含む、実施態様55に記載の方法。
[実施態様57]アスパラギン酸不安定性が、アスパラギン酸の異性化に相当する、実施態様51又は52に記載の方法。
[実施態様58]設計基準が、不安定性の限定である、実施態様51又は52に記載の方法。
[実施態様59]不安定性の限定が、貯蔵寿命に基づいている、実施態様58に記載の方法。
[実施態様60]不安定性の限定が、約2.5%/週のアスパラギン酸の異性化である、実施態様58に記載の方法。
[実施態様61]目的関数において、指標が、(揺らぎ×揺らぎスケーリング因子)と、(アスパラギン酸残基の時間平均された溶媒接触可能表面積×アスパラギン酸残基表面積スケーリング因子)と、(主鎖窒素原子の時間平均された溶媒接触可能表面積×主鎖窒素原子表面積スケーリング因子)との和に累乗されるオイラー数を含む、実施態様53に記載の方法。
[実施態様62]指標が第1の指標であり、第1の指標が有効数字1桁に四捨五入されて第2の指標が生成され、第2の指標がゼロであることは、第1の指標が粘度の限定を超えないことに対応し、第2の指標が1であることは、第1の指標が粘度の限定を超えることに対応する、実施態様61に記載の方法。
[実施態様63]アスパラギン酸残基に直接隣接しているアミノ酸残基が、グリシン、スレオニン、アスパラギン酸及びアラニンからなる群より選択される、実施態様54に記載の方法。
[実施態様64]スケーリング因子を選択することが、一又は複数の水溶液条件のそれぞれにつき、(i)揺らぎスケーリング因子、(ii)アスパラギン酸残基表面積スケーリング因子;及び(iii)主鎖窒素原子表面積スケーリング因子を含むスケーリング因子のセットから選択することを含む、実施態様51又は52に記載の方法。
[実施態様65]水溶液条件が、温度、pH、バッファーのタイプ及びイオン強度を含む、実施態様64に記載の方法。
[実施態様66]水溶液条件が、20mMの酢酸ヒスチジンバッファーを含む、実施態様65に記載の方法。
[実施態様67]水溶液条件が、約313Kの温度を含む、実施態様65又は66に記載の方法。
[実施態様68]抗体が、モノクローナル抗体である、実施態様51から67の何れか一項に記載の方法。
[実施態様69]抗体が、IgG1抗体である、実施態様51から68の何れか一項に記載の方法。
[実施態様70]設計基準が、治療剤又は薬学的組成物に関する、実施態様51から69の何れか一項に記載の方法。
[実施態様71]抗体が設計基準を満たす場合、抗体のAsp不安定性を測定する工程をさらに含む、実施態様51から70の何れか一項に記載の方法。
[実施態様72]抗体が設計基準を満たすと決定される場合、抗体を生産する工程をさらに含む、実施態様51から71の何れか一項に記載の方法。
[実施態様73]抗体を得る工程をさらに含む、実施態様72に記載の方法。
[実施態様74]抗体が、少なくとも一の精製工程により得られる、実施態様73に記載の方法。
[実施態様75]抗体を含む薬学的製剤を調製する工程をさらに含む、実施態様74に記載の方法。
[実施態様76]抗体が既存の抗体であり、既存の抗体が設計基準を満たさないアスパラギン酸不安定性を有するときに、指標がアスパラギン酸不安定性の限定を超える場合、既存の抗体の少なくとも一のアミノ酸残基を修飾、除去又は置換して、設計基準を満たすアスパラギン酸不安定性を有する標的抗体を生成する工程;及び標的抗体を生産する工程をさらに含む、実施態様51又は52に記載の方法。
[実施態様77]少なくとも一のアミノ酸残基が、アスパラギン酸残基を含む、実施態様76に記載の方法。
[実施態様78]生産された標的抗体を得る工程をさらに含む、実施態様76又は77に記載の方法。
[実施態様79]標的抗体が、少なくとも一の精製工程により得られる、実施態様78に記載の方法。
[実施態様80]設計基準を満たすトリプトファン不安定性を有する抗体を生産するための方法であって、
(a)ネットワークを通じて、抗体の構造情報を送信すること;
(b)ネットワークを通じて、相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列からの構造情報から計算される、抗体のCDRのトリプトファン残基の時間平均された溶媒接触可能表面積を受信すること;
(c)時間平均された溶媒接触可能表面積をカットオフ値と比較すること;
(d)時間平均された溶媒接触可能表面積がカットオフ値未満である場合、抗体が、設計基準を満たすトリプトファン不安定性を有すると決定すること;及び
(e)抗体が設計基準を満たすトリプトファン不安定性を有すると決定される場合のみ、抗体を生産すること
を含む、方法。
[実施態様81]設計基準を満たすトリプトファン不安定性を有する抗体を生産するための方法であって、
(a)抗体の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列から、CDRのトリプトファン残基の時間平均された溶媒接触可能表面積を計算すること;
(b)時間平均された溶媒接触可能表面積をカットオフ値と比較すること;
(c)時間平均された溶媒接触可能表面積がカットオフ値未満である場合、抗体が、設計基準を満たすトリプトファン不安定性を有すると決定すること;及び
(d)抗体が設計基準を満たすトリプトファン不安定性を有すると決定される場合のみ、抗体を生産すること
を含む、方法。
[実施態様82]トリプトファン不安定性が、トリプトファン酸化に相当する、実施態様80又は81に記載の方法。
[実施態様83]水溶媒和の値が、時間平均された溶媒接触可能表面積の計算の基礎である、実施態様80又は81に記載の方法。
[実施態様84]水溶媒和が、コンピューターモデリング分子動力学シミュレーションにおけるパラメーターである、実施態様83に記載の方法。
[実施態様85]分子動力学シミュレーションが、AMBERシミュレーションソフトウェアを使用して行われる、実施態様84に記載の方法。
[実施態様86]カットオフ値が、約80Å
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のトリプトファン側鎖の溶媒接触表面積である、実施態様80又は81に記載の方法。
[実施態様87]トリプトファン側鎖の溶媒接触表面積が、AREAIMOLソフトウェアを使用して決定される、実施態様80又は81に記載の方法。
[実施態様88]抗体の全6つのCDRのアミノ酸配列が、唯一のトリプトファン残基を含有する、実施態様80又は81に記載の方法。
[実施態様89]抗体が、設計基準を満たすTrp不安定性を有すると決定される場合、Trp不安定性を測定する工程をさらに含む、実施態様80又は81に記載の方法。
[実施態様90]生産された抗体を得る工程をさらに含む、実施態様80又は81に記載の方法。
[実施態様91]抗体が、少なくとも一の精製工程により得られる、実施態様90に記載の方法。
[実施態様92]抗体を含む薬学的組成物を調製する工程をさらに含む、実施態様80から91の何れか一項に記載の方法。
[実施態様93]抗体が、モノクローナル抗体である、実施態様80から92の何れか一項に記載の方法。
[実施態様94]抗体が、IgG1抗体である、実施態様80から93の何れか一項に記載の方法。
[実施態様95]設計基準が、治療剤に関する、実施態様80から94の何れか一項に記載の方法。
[実施態様96]抗体が既存の抗体であり、既存の抗体が設計基準を満たさないトリプトファン不安定性を有する場合、既存の抗体の少なくとも一のアミノ酸残基を修飾、除去又は置換して、設計基準を満たすトリプトファン不安定性を有する標的抗体を生成する工程;及び標的抗体を生産する工程をさらに含む、実施態様80又は81に記載の方法。
[実施態様97]少なくとも一のアミノ酸残基が、トリプトファン残基を含む、実施態様96に記載の方法。
[実施態様98]生産された標的抗体を得る工程をさらに含む、実施態様96又は97に記載の方法。
[実施態様99]標的抗体が、少なくとも一の精製工程により得られる、実施態様98に記載の方法。
[実施態様100]抗体又は標的抗体が、抗体又は標的抗体を発現するのに好適な条件下で、抗体又は標的抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養する方法に従って生産される、実施態様96から99の何れか一項に記載の方法。