(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】薬剤放出装置
(51)【国際特許分類】
A62C 35/02 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
A62C35/02 B
(21)【出願番号】P 2020053862
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100188547
【氏名又は名称】鈴野 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】小松原 佑太
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-143685(JP,A)
【文献】特開2017-108958(JP,A)
【文献】特開平08-284213(JP,A)
【文献】特開2017-158971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災用の薬剤を封入する
複数の薬剤充填容器と、
圧縮された気体を封入する加圧用ガスボンベと、
前記薬剤充填容器の上部に設けられた送出口に差し入れられ、前記薬剤充填容器の内部に充填された前記薬剤を送出する薬剤送出管と、
筐体と、を備え、
前記薬剤充填容器の上部には、前記薬剤の放出時に前記薬剤充填容器の内部に前記気体または前記薬剤を流入させる流入口を有し、前記薬剤充填容器は前記送出口よりも前記流入口が前面側になるように前記筐体に設置され、
前記薬剤を送出する前段の前記薬剤充填容器における前記送出口に差し入れられた前記薬剤送出管が、前記薬剤が流入する後段の前記薬剤充填容器における前記流入口とユニオン継手により接続し、
前記ユニオン継手のユニオンナットを外した状態で、前記薬剤送出管を前記流入口の位置から側方にずらすことにより、前記薬剤充填容器を前記筐体に設置した状態で、前記流入口での接続を取り外して前記薬剤を再充填できることを特徴とする薬剤放出装置。
【請求項2】
前記薬剤送出管は、前記送出口の上に設けられた回動機構により回転可能であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤放出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災用の薬剤放出装置に関する。主に延焼しやすい建造物(例えば茅葺き屋根の家屋)に対して、近隣で火災が発生した際に、事前に薬剤をその建造物に放出することで、延焼を防止するために使用されるパッケージ型の薬剤放出装置である。また、直接、火災が発生している建造物等に薬剤を放出して消火装置としても使用可能なものである。
【背景技術】
【0002】
筐体内に、火災用の薬剤を封入した薬剤充填容器と、圧縮した気体を封入した加圧用ガスボンベとを設置した、パッケージ型の薬剤放出装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、筐体の中にホースと、薬剤である消火剤を充填した消火剤充填容器と、加圧用ガスボンベとを収容した、パッケージ型の薬剤放出装置が記載されている。しかし、薬剤放出装置から薬剤を放出した後に消火剤充填容器に薬剤を再充填するための構成は記載されていない。
【0005】
そこで、本発明は、一度薬剤を放出した後に、薬剤充填容器に薬剤を再充填し易い構造とすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、火災用の薬剤を封入する薬剤充填容器と、圧縮された気体を封入する加圧用ガスボンベと、前記薬剤充填容器の上部に設けられた送出口に差し入れられ、前記薬剤充填容器の内部に充填された前記薬剤を送出する薬剤送出管と、筐体と、を備え、前記薬剤充填容器の上部には、前記薬剤の放出時に前記薬剤充填容器の内部に前記気体または前記薬剤を流入させる流入口を有し、前記薬剤充填容器は前記送出口よりも前記流入口が前面側になるように前記筐体に設置され、前記薬剤充填容器を前記筐体に設置した状態で、前記流入口での接続を取り外して前記薬剤を再充填できることを特徴とする薬剤放出装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、筐体内において、薬剤充填容器の流入口が送出口よりも前面側になるように設置されるため、薬剤充填容器を筐体の内部に設置したまま、容易に薬剤を流入口から再充填することができる。さらに、薬剤送出管と流入口の接続にユニオン継手を用いることにより、薬剤送出管を側方にずらすことができ、容易に流入口の上部を開けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態における薬剤放出装置の側面図。
【
図2】本発明の一実施形態における薬剤放出装置の薬剤充填容器の上面図。
【
図3】本発明の一実施形態における再充填時の薬剤充填容器の上面図。
【
図4】本発明の一実施形態におけるユニオン継手部分を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本実施形態の容器に装填される薬剤は、通常時は高粘度であって、ゲル状でありながら剪断応力を受けると粘度が低下して液状となるチキソトロピー性を有した、主に建造物等の表面に塗布して防火することを目的とした防火薬剤である。本願の薬剤は消火剤等でも良い。なお、消火剤は、火災時に熱等で発火しないように建造物等に付着することにより建造物等が熱等で発火しないようにする防火薬剤としても機能する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態における薬剤放出装置1の側面図である。本実施形態の薬剤放出装置1では、筐体11の内部に3本の薬剤充填容器31,32,33を収容する。薬剤充填容器31,32,33には火災用の薬剤であるチキソトロピー性を備えた防火薬剤が充填され、上部で2本の薬剤送出管41,42により接続されている。薬剤送出管41,42の外部に露出している部分は、下方を向いたコの字状となっている。また、筐体11の内部では、薬剤送出管41,42の上方に横たえて、圧縮した気体を封入した加圧用ガスボンベ21を設置している。加圧用ガスボンベ21からは第1圧力弁22、圧力調整器23、第2圧力弁24、加圧ガス導入管25を介して、圧力キャップ26により左の薬剤充填容器31の流入口311に接続する。3本の薬剤充填容器31,32,33にはそれぞれ、薬剤送出管41,42,43が送出口312,322,332から薬剤充填容器31,32,33の底部近傍まで差し込まれている。
図1において、薬剤充填容器31,32,33の送出口312,322,332は、それぞれ薬剤送出管41,42,43の裏側に隠れている。
【0011】
加圧ガス導入管25の後方で左の薬剤充填容器31の送出口312から上方に延びた薬剤送出管41は継手のエルボにより右側に屈曲し、さらにエルボにより下方に屈曲して中央の薬剤充填容器32における流入口321に接続する。この接続は、ユニオンナット411を用いたユニオン継手によるものである。さらに、中央の薬剤充填容器32における送出口322から上方に延びた薬剤送出管42も同様に右側に屈曲し、さらに下方に屈曲して右の薬剤充填容器33における流入口331に接続する。この接続もユニオンナット421を用いたユニオン継手によるものである。右の薬剤充填容器33における送出口332から上方に延びた薬剤送出管43はエルボにより右側に屈曲し、ホース51に接続する。ホース51の先端にはノズル52が設けられている。
【0012】
薬剤送出管41,42は、送出口312,322の上方に回動機構415,425を有している。回動機構415,425は、管の上下が軸の周りに自在に回転する機構である。なお、
図1において、回動機構415は加圧ガス導入管25の裏側に位置し、回動機構425は薬剤送出管41の裏側に位置している。
図1において、ホース51とノズル52はホース収容部12に収容されている。薬剤放出装置1は、通常時においては筐体11の左側に前面カバー(図示せず)が嵌め込まれ、右側の扉13は閉じている。
【0013】
図2は、本発明の一実施形態における薬剤放出装置1の薬剤充填容器31,32,33の上面図である。矢印は筐体11の前面の方向を示す。
図2において、流入口311,321,331、送出口312,322,332、回動機構415,425は、薬剤送出管41,42,43等により隠れているが、その位置を示す。上面からみて流入口311,321,331は、それぞれ薬剤充填容器31,32,33の前面側に設けられている。送出口312,322,332は、流入口311,321,331の後面側であって、薬剤充填容器31,32,33の中心に設けられている。加圧ガス導入管25が接続する圧力キャップ26は左の薬剤充填容器31における流入口311に係止している。なお、
図2においては加圧ガス導入管25の記載は省略している。また、薬剤または気体が流出する前段(一次側)の左の薬剤充填容器31の送出口312には薬剤送出管41が差し込まれている。そして、薬剤送出管41の接続端414は薬剤または気体が流入する後段(二次側)の中央の薬剤充填容器32における流入口321に接続している。流入口321へはユニオン継手により接続している。
図2では、流入口321の上部にユニオンナット411が記載されている。さらに、前段である中央の薬剤充填容器32の送出口322には薬剤送出管42が差し込まれ、同様に後段である右の薬剤充填容器33に接続している。
図2では、流入口331の上部にユニオンナット421が記載されている。右の薬剤充填容器33に差し込まれた薬剤送出管43は、
図1に示すようにエルボで屈曲してホース51に接続している。
【0014】
通常時には、薬剤充填容器31,32,33の前側に前面カバー(図示せず)を設置し、扉13を閉じている。火災が生じた際の薬剤の放出時には、扉13を開けてノズル52を取り出し、建造物等にむける。そして、第1圧力弁22を開放すると、加圧用ガスボンベ21内の窒素ガスが第1圧力弁22、圧力調整器23、第2圧力弁24、加圧ガス導入管25を介して、流入口311から左の薬剤充填容器31に流れ込む。これにより、薬剤充填容器31の内部に充填している薬剤の上面が押され、薬剤充填容器31に差し込まれた薬剤送出管41に薬剤が押し出される。そして、中央の薬剤充填容器32に流入し、内部の薬剤に圧力がかかって、薬剤送出管42に押し出される。同様にして右の薬剤充填容器33の送出口332に設けた薬剤送出管43から薬剤が押し出され、ホース51を介してノズル52から放出される。薬剤はチキソトロピー性を有しており、押し出される際の剪断応力により流動化する。そして、ノズル52から放出されて建造物等の対象物に到達すると剪断応力が無くなり、ゲル化して着火を防止する。薬剤充填容器31,32,33の底は略球面状に下方へ突出している。薬剤送出管41は薬剤充填容器31の中心位置に差し込まれているため、先端が薬剤充填容器31の最も深い場所に位置し、内部の薬剤をほとんど余すところなく送出することができる。
【0015】
図3は、本発明の一実施形態における再充填時の薬剤充填容器31,32,33の上面図である。
図2と同様に矢印は筐体11の前面の方向を示す。
図3において、流入口311,321、送出口312,322,332、回動機構415,425は、薬剤送出管41,42,43等により隠れているが、その位置を示す。流入口331は隠れていない。薬剤の放出後に再充填する際には、筐体11から前面カバーを取り外して薬剤充填容器31,32,33を露出させる。そして、薬剤充填容器31,32,33の流入口311,321,331から圧力キャップ26、薬剤送出管41,42を取り外す。圧力キャップ26が繋がる加圧ガス導入管25は樹脂製であるために柔軟性があり、流入口311の上部は容易に開けることができる。薬剤送出管41,42は金属製であるため柔軟性がなく、接続端414,424を側方にずらして流入口321,331の上部空間を開ける。この際、送出口312,322の上方において薬剤送出管41,42に設けた回動機構415,425により、薬剤送出管41,42は容易に回転し、接続端414,424を側方へ移動することができる。
図3は、流入口331の上部に接続したユニオンナット421を外し、薬剤送出管42の接続端424を点線矢印の方向にずらした状態を示す。この状態で、再充填用の薬剤容器(図示せず)を持ち上げる等して、流入口331から薬剤充填容器33へ薬剤を再充填することができる。薬剤の再充填が終了した後には、薬剤送出管42の接続端424を点線矢印の逆方向へ回転させ、接続端424を流入口331の位置に合わせてユニオンナット421を締める。中央の薬剤充填容器32も同様にして薬剤を再充填する。
【0016】
薬剤送出管41,42,43は、送出口312,322,332から薬剤充填容器31,32,33の底部近傍まで差し込まれている。そのため、送出口312,322,332から薬剤送出管41,42,43を取り外して薬剤を充填することはむずかしい。本実施形態では、薬剤送出管41,42,43が差し込まれていない流入口311,321,331を利用して薬剤を充填する。さらに、流入口311,321,331は、薬剤送出管41,42,43を差し込んだ送出口312,322,332の前方に位置する。そのため、流入口311,321,331から薬剤を再充填する作業を行う際に、薬剤送出管42,43や上部の加圧用ガスボンベ21等が障害とならず、作業を行いやすい。また、本実施形態では、送出口312,322,332が上面からみて薬剤充填容器31,32,33の中心に位置し、その前面側に流入口311,321,331が位置する。薬剤充填容器31,32,33の上部は中心付近が最も高い位置となり、その前面側は低くなる。そのため、流入口311,321,331は位置を低くすることができ、再充填用の薬剤容器を持ち上げる高さを抑えることができる。また、流入口311,321,331の上部空間が広くなるために再充填作業を行いやすい。
【0017】
図4は、本発明の一実施形態におけるユニオン継手部分を説明する図である。
図1~3における流入口321,331の近傍を部分拡大したものである。
図4(A)はユニオン継手で接続した状態を、
図4(B)は取り外した状態を示す。流入口321,331の外周には外ネジ323,333が設けられており、ユニオンナット411,421の内周には内ネジ412,422が設けられている。
【0018】
ユニオン継手で接続した状態では
図4(A)のようにユニオンナット411,421を流入口321,331の外側で締付け、薬剤送出管41,42の顎部413,423を挟んでいる。顎部413,423の下面は流入口321,331に押し付けられ、薬剤や気体が漏れないようにシールした状態である。
図4(B)のようにユニオン継手を取り外した状態では、ユニオンナット411,421が上方に移動するため、薬剤送出管41,42を点線矢印の方向へ移動させることができる。
【0019】
上記の実施形態では、薬剤送出管41,42の接続端414,424を側方へずらす際に、薬剤充填容器31,32に差し込まれた薬剤送出管41,42が送出口312,322の上部における回動機構415,425で捻れるように回転する。しかし、回動機構415,425を設けなくてもよい。薬剤送出管41,42が送出口312,322に差し込まれた部分を含めて回転するようにしても良いし、薬剤送出管41,42に設けたエルボ等の継手におけるネジを弛めることにより回転させるようにしてもよい。
【0020】
なお、上記の実施形態では薬剤の再充填について記載したが、薬剤放出装置1を設置する際にも流入口311,321,331から薬剤を充填することができる。薬剤放出装置1の設置の際には、現場で組み立てた筐体11に、薬剤が入っていない薬剤充填容器31,32,33と加圧用ガスボンベ21、ホース51等を設置する。そして、加圧ガス導入管25や薬剤送出管41等を接続する。最後に流入口311,321,331からユニオンナット411、421や圧力キャップ26を外し、流入口311,321,331の上部空間をあける。そして、薬剤を薬剤充填容器31に充填し、ユニオンナット411等を流入口311に取り付ける。このようにすることによって、薬剤充填容器31,32,33を軽い状態で筐体11の内部に設置することができ、設置作業が容易となる。
【0021】
上記の実施形態は薬剤充填容器31が3つの場合であるが、他の数でも良い。薬剤充填容器31を複数設けずに1つ設けた場合も薬剤の再充填が行い易い効果を奏する。
【符号の説明】
【0022】
1 薬剤放出装置、11 筐体、12 ホース収容部、13 扉、21 加圧用ガスボンベ、22 第1圧力弁、23 圧力調整器、24 第2圧力弁、25 加圧ガス導入管、26 圧力キャップ、31 薬剤充填容器、311 流入口、312 送出口、32 薬剤充填容器、321 流入口、322 送出口、323 外ネジ、33 薬剤充填容器、331 流入口、332 送出口、333 外ネジ、41 薬剤送出管、411 ユニオンナット、412 内ネジ、413 顎部、414 接続端、415 回動機構、42 薬剤送出管、421 ユニオンナット、422 内ネジ、423 顎部、424 接続端、425 回動機構、43 薬剤送出管、51 ホース、52 ノズル