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特許7481873シューズ用アッパー構造および当該アッパー構造を備えたシューズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】シューズ用アッパー構造および当該アッパー構造を備えたシューズ
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
A43B23/02 105Z
A43B23/02 101B
A43B23/02 101Z
A43B23/02 101A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020057329
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021153873
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103241
【弁理士】
【氏名又は名称】高崎 健一
(72)【発明者】
【氏名】八幡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 紘平
(72)【発明者】
【氏名】西川 健
(72)【発明者】
【氏名】垣内 三四郎
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-057836(JP,A)
【文献】特開2007-061193(JP,A)
【文献】特開2018-164617(JP,A)
【文献】特開2001-204505(JP,A)
【文献】特開2005-118470(JP,A)
【文献】特開平08-317801(JP,A)
【文献】カナダ国特許発明第2417160(CA,C)
【文献】米国特許出願公開第2002/0078591(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0199659(US,A1)
【文献】米国特許第07685747(US,B1)
【文献】国際公開第2017/104452(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 1/00- 23/30
A43C 1/00- 19/00
A43D 1/00-999/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズ用アッパー構造において、
着用者の足の少なくとも足背上部を覆う足背上部領域を有する第1のアッパー部と、
着用者の足の少なくとも踵部を覆う踵領域を有する第2のアッパー部と、
シューズの着用時に前記第1のアッパー部の前記足背上部領域に対して前記第2のアッパー部の前記踵領域の下端に向かう張力を発生させる伸縮自在な伸縮部とを備え、
前記第2のアッパー部が足挿入用の開口である履き口と、これに連続して前後方向に延びる開口であるスロート部とを有するとともに、前記第1のアッパー部が前記スロート部に配置された舌革部を有しており、前記伸縮部が前記第1のアッパー部の下方に配設され、一端が前記第1のアッパー部に連設されかつ他端が前記第2のアッパー部の前記踵領域の前記下端まで延びている、
ことを特徴とするシューズ用アッパー構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記伸縮部が、足の内甲側または外甲側の少なくともいずれか一方においてリスフラン関節から踵骨にかけての領域の少なくとも一部の領域に延設された伸縮領域を有している、
ことを特徴とするシューズ用アッパー構造。
【請求項3】
請求項1において、
前記伸縮部が、足の内外甲側においてショパール関節と交差する方向に延設された伸縮領域を有している、
ことを特徴とするシューズ用アッパー構造。
【請求項4】
請求項1において、
前記伸縮部が前記第1のアッパー部の前記足背上部領域の下方に配設されており、前記一端が前記第1のアッパー部の前記足背上部領域に連設されている、
ことを特徴とするシューズ用アッパー構造。
【請求項5】
請求項1において、
前記第1のアッパー部が前記第2のアッパー部の内側に配設されている、
ことを特徴とするシューズ用アッパー構造。
【請求項6】
請求項1において、
前記第1のアッパー部が前記第2のアッパー部の外側に配設されている、
ことを特徴とするシューズ用アッパー構造。
【請求項7】
請求項1において、
前記第1のアッパー部が前記伸縮部を一体に有していて全体として前記第1のアッパー部を構成していることにより、前記第1のアッパー部の伸縮性が前記第2のアッパー部の伸縮性より大きくなっており、前記第1および第2のアッパー部がオーバラップするとともに、前記第1および第2のアッパー部のオーバラップ領域が分離している、
ことを特徴とするシューズ用アッパー構造。
【請求項8】
請求項1に記載の前記アッパー構造およびソールを備え、
前記アッパー構造の下部が前記ソールに固着されている、
ことを特徴とするシューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用者の足の踵部に対するホールド性を向上できるシューズ用アッパー構造および当該アッパー構造を備えたシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第4,438,574号明細書には、前部領域において、伸縮性のインナーレイヤー(40)と、非伸縮性のアウターレイヤー(42)とからなるアッパー構造を備えたスポーツシューズ(10)が記載されている(第4欄第32~39行およびFIG.1~4)。ここで、前部領域とは、足のつま先部の領域を指している(第3欄第60~63行)。
【0003】
上記米国特許明細書によれば、伸縮性のインナーレイヤー(40)がわずかに伸長することにより、インナーレイヤー(40)を足の前部領域の形状に一致させて適切なフィット性を得ることができるとともに(第3欄第11~13行)、非伸縮性のアウターレイヤー(42)により、インナーレイヤー(40)の形がくずれて足の前部領域での適切なフィット性がなくなるのを防止できる(同欄第17~21行)と記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記アッパー構造は、インナーレイヤー(40)が足の前部領域全体を均等に締め付けるように設けられ、アウターレイヤー(42)がインナーレイヤー(40)と完全にオーバラップするように設けられており、足の前部領域のフィット性にのみ着目してなされたものである。その一方、上記アッパー構造の踵部領域には、一般的な踵補強部が設けられている点が記載されているにすぎない。上記アッパー構造では、靴紐を締めることで足甲部をソール側に押さえ付けることにより、足の踵部に対する踵補強部によるホールド性を発揮させることも一応可能ではあるが、スポーツシューズ、その中でも横方向の激しい動きを伴うようなインドアスポーツシューズにおいては、よりホールド性の高いものが要求されている。
【0005】
ところで、タン(舌革部)の一部をアッパー底部に固着するタンバンドや、タンをアッパー本体に連結するガセットタンのような構成も知られているが、これらはいずれも足を上下方向に締め付けるように設けられているため、足の踵部に対するホールド性を向上させる観点からは不十分である。
【0006】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、着用者の足の踵部に対するホールド性を向上できるシューズ用アッパー構造を提供することにある。また、本発明は、このようなアッパー構造を備えたシューズを提供しようとしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るシューズ用アッパー構造は、着用者の足の少なくとも足背上部を覆う足背上部領域を有する第1のアッパー部と、着用者の足の少なくとも踵部を覆う踵領域を有する第2のアッパー部と、シューズの着用時に第1のアッパー部の足背上部領域に対して第2のアッパー部の踵領域の下端に向かう張力を発生させる伸縮自在な伸縮部とを備えている。第2のアッパー部は、足挿入用の開口である履き口と、これに連続して前後方向に延びる開口であるスロート部とを有しており、第1のアッパー部は、スロート部に配置された舌革部を有している。伸縮部は第1のアッパー部の下方に配設され、一端が第1のアッパー部に連設され、他端が第2のアッパー部の踵領域の下端まで延びている。
【0008】
本発明によれば、シューズの着用時には、伸縮部により第1のアッパー部の足背上部領域に対して第2のアッパー部の踵領域の下端に向かう張力が作用するので、第1のアッパー部の足背上部領域が足の足背上部に圧接し、これにより、足背上部を介して足の踵部が第2のアッパー部の踵領域の側に移動する。その結果、足の踵部を第2のアッパー部の踵領域におさめて第2のアッパー部によりホールドすることができ、足の踵部に対するホールド性を向上できる。また、第2のアッパー部が履き口およびスロート部を有し、第1のアッパー部がスロート部に配置された舌革部を有しているので、第1のアッパー部と別個に舌革部を設ける必要がなくなって、構造を簡略化でき、コストを低減できるとともに、シューズを軽量化できる。さらに、伸縮部が第1のアッパー部の下方に配設されるとともに、一端が第1のアッパー部に連設され、他端が第2のアッパー部の踵領域の下端まで延びているので、シューズの着用時には、伸縮部により、第1のアッパー部の足背上部領域に対して第2のアッパー部の踵領域下端に向かう張力を作用させることができる。
【0009】
本発明では、伸縮部が、足の内甲側または外甲側の少なくともいずれか一方においてリスフラン関節から踵骨にかけての領域の少なくとも一部の領域に延設された伸縮領域を有している。これにより、シューズの着用時には、当該伸縮領域により、足の内甲側または外甲側の少なくともいずれか一方において楔状骨側つまり足背上部領域から踵骨側に向かう張力を作用させることできる。
【0010】
本発明では、伸縮部が、足の内外甲側においてショパール関節(横足根関節)と交差する方向に延設された伸縮領域を有している。これにより、シューズの着用時には、当該伸縮領域により、足の内外甲側の双方において、楔状骨側つまり足背上部領域から踵骨側に向かう張力を作用させることできる。
【0011】
本発明では、伸縮部が第1のアッパー部の足背上部領域の下方に配設されており、一端が第1のアッパー部の足背上部領域に連設されている。これにより、シューズの着用時には、伸縮部により、第1のアッパー部の足背上部領域に対して第2のアッパー部の踵領域の下端に向かう張力を作用させることができる。
【0012】
本発明では、第1のアッパー部が第2のアッパー部の内側または外側に配設されている。
【0014】
本発明では、第1のアッパー部が伸縮部を一体に有していて全体として第1のアッパー部を構成していることにより、第1のアッパー部の伸縮性が第2のアッパー部の伸縮性より大きくなっており、第1および第2のアッパー部がオーバラップするとともに、第1および第2のアッパー部のオーバラップ領域が分離している。
【0015】
この場合には、第1および第2のアッパー部のみでアッパー構造全体を構成することが可能になり、これにより、構造を簡略化でき、コストを低減できるとともに、シューズを軽量化できる。しかも、この場合には、第1、第2のアッパー部がオーバラップしていることにより、伸縮部を有する第1のアッパー部が伸縮したとき、第2のアッパー部がアッパー形状を保持する保形性を発揮できるので、足に対するホールド性を一層向上できる。さらに、この場合には、第1、第2のアッパー部のオーバラップ領域が分離していることにより、アッパー構造の履き口の周囲長が変化し得るようになっており、これにより、足甲高さや足首周りのサイズの個人差を吸収できるので、足長や足幅が同じでも足甲や足首のサイズが異なる様々な足に対応できる。
【0018】
本発明に係るシューズは、本発明によるアッパー構造とソールを備えており、アッパー構造の下部がソールに固着されている。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、シューズの着用時には、伸縮部が第1のアッパー部の足背上部領域に対して第2のアッパー部の踵領域の下端に向かう張力を作用させるので、第1のアッパー部の足背上部領域が足の足背上部に圧接し、これにより、足背上部を介して足の踵部が第2のアッパー部の踵領域の側に移動し、その結果、足の踵部を第2のアッパー部によりホールドすることができ、足の踵部に対するホールド性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施例によるアッパー構造を備えたスポーツシューズ(右足)の内甲側側面図である。
図2】前記スポーツシューズ(図1)の外甲側側面図である。
図3】前記スポーツシューズ(図1)の平面図である
図4】前記スポーツシューズ(図1)の靴紐を取り外した状態において、前記アッパー構造(図1)を構成するインナーアッパー(第1のアッパー)とアウターアッパー(第2のアッパー)を示す図である。
図5】前記スポーツシューズ(図2)の靴紐を取り外した状態において、前記アッパー構造(図1)を構成するインナーアッパー(第1のアッパー)とアウターアッパー(第2のアッパー)を示す図である。
図6】前記スポーツシューズ(図3)の靴紐を取り外した状態において、前記アッパー構造(図1)を構成するインナーアッパー(第1のアッパー)とアウターアッパー(第2のアッパー)を示す図である。
図6A図6のVIA-VIA線断面図である。
図7図4のアッパー構造を模式的に示す図である。
図8図5のアッパー構造を模式的に示す図である。
図9図7のアッパー構造を足の骨格図と併せて示す図である。
図10図8のアッパー構造を足の骨格図と併せて示す図である。
図11】本発明の第1の変形例によるアッパー構造を模式的に示す図である。
図12】本発明の第2の変形例によるアッパー構造を模式的に示す図である。
図13】本発明の第3の変形例によるアッパー構造を模式的に示す図である。
図14】本発明の第4の変形例によるアッパー構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1ないし図10は、本発明の一実施例によるアッパー構造およびこれを採用したスポーツシューズを説明するための図であって、ここでは、スポーツシューズとして、バレーボールやハンドボール等の球技用のインドアシューズを例にとる。図1ないし図6はシューズ(右足用)の外観図、図6Aはシューズの横断面図、図7ないし図10はシューズのアッパー構造を模式的に示す図である。
【0022】
以下の説明中、上方(上側/上部/上)および下方(下側/下部/下)とは、シューズの上下方向の位置関係を表し、前方(前側/前部/前)および後方(後側/後部/後)とは、シューズの前後方向の位置関係を表しており、幅方向とはシューズの左右方向を指すものとする。たとえば図1の側面図を例にとった場合、上方および下方は、同図の上方および下方をそれぞれ指しており、前方および後方は、同図の左方および右方をそれぞれ指しており、幅方向は、同図の紙面奥行方向を指している。
【0023】
図1ないし図3に示すように、スポーツシューズ1は、着用者の足全体を覆うようにシューズ全長にわたって延設されたアッパー2と、アッパー2の下部に固着されたミッドソール3とを備えている。
【0024】
アッパー2は、シューズ1の内側に配設されたインナーアッパー(第1のアッパー)20と、シューズ1の外側(したがってインナーアッパー20の外側)に配設されたアウターアッパー(第2のアッパー)21とを有している。インナーアッパー20は、この例では、シューズ1のタン(舌革部)を含んで構成されている。アウターアッパー21の上部には、履き口10と、履き口10に連通してその前方に延びるスロート部10aとが開口形成されている。スロート部10aの左右の開口端縁部に形成されたハトメ孔2aには、シューズ1の緊締部材としての靴紐11が通されている。
【0025】
アウターアッパー21の踵領域において、その内部にはヒールカウンター4が設けられている。ヒールカウンター4は、踵内甲側から踵後端を通って踵外甲側まで延設された平面視U字状の薄肉の硬質部材であって、アウターアッパー21の踵領域の保形性を維持しつつ、足の踵部のホールド性に寄与するように設けられている。ミッドソール3の下面には、床面等と接地する接地面を有するアウトソール5が固着されている。ミッドソール3およびアウトソール5からシューズ1のソールが構成されている。
【0026】
図4ないし図6に示すように、インナーアッパー20は、アウターアッパー21のスロート部10aとオーバラップしていてシューズ1のタンとして機能する部分を有するとともに、スロート部10aを越えてさらに前方のつま先先端および左右両側方の内外甲側下端まで延設されている(各図中の点線参照)。インナーアッパー20は、足背(つまり足甲)の略全体領域を覆うように配設された本体部(第1のアッパー部)20Aと、本体部20Aの下方に配置され、伸縮性を有する伸縮部20Bとを有している。伸縮部20Bの上端20bは、インナーアッパー20の下端20aに縫製等によって一体に連設されている。
【0027】
インナーアッパー20の後側端20Cは、踵領域下端に向かって斜め下方に延びている。伸縮部20Bは、この例では、後側端20C上に頂点を有する略三角形状の領域として設けられており、伸縮部20Bの上端20bおよびインナーアッパー20の下端20aは、前方に向かって斜め下方に延びている。本体部20Aおよび伸縮部20Bの各下端は、ミッドソール3に固着されている。伸縮部20Bの最後端20Bbは、アウターアッパー21の踵領域下端の位置に配置されている。
【0028】
この構成により、シューズ1の着用時には、インナーアッパー20の伸縮部20Bが伸長することによって、本体部20Aに対してアウターアッパー21の踵領域の下端に向かう張力Pが発生することになる。この張力Pの作用によって、着用者の足の足背上部が後方側斜め下方に押圧され、その結果、足の踵部がアウターアッパー21の踵領域におさめられて、踵部がホールドされるようになっている。本体部20Aおよび伸縮部20Bからなるインナーアッパー20と、アウターアッパー21とから本実施例によるアッパー構造が構成されている。
【0029】
図6中、一点鎖線で囲まれた斜線領域は、足の足背上部に対応する、インナーアッパー20の足背上部領域20Aを示しており、インナーアッパー20は、少なくとも足背上部領域20Aを有している。また、アウターアッパー21は、少なくとも踵領域を有している。
【0030】
図6A図6のVIA-VIA線断面図であって、インナーアッパー20において伸縮部20Bが設けられていない個所における横断面であるが、インナーアッパー20の本体部20Aの下端は、アウターアッパー21の下端とともに、ミッドソール3およびその上面に配設された中底30に接着や縫製等で固着されている。また、アウターアッパー21は、インナーアッパー20の本体部20Aとオーバラップしているが、アウターアッパー21の下端および本体部20Aの下端を除いて、アウターアッパー21はインナーアッパー20の本体部20Aから分離している。
【0031】
この点は、インナーアッパー20において伸縮部20Bが設けられた個所においても同様であって、図示していないが、インナーアッパー20の伸縮部20Bの下端は、アウターアッパー21の下端とともに、ミッドソール3およびその上面に配設された中底30に接着や縫製等で固着されている。また、アウターアッパー21は、インナーアッパー20の伸縮部20Bとオーバラップしているが、アウターアッパー21の下端ならびに伸縮部20Bの下端を除いて、アウターアッパー21はインナーアッパー20の伸縮部20Bから分離している。なお、伸縮部20Bが設けられた個所におけるインナーアッパー20の内周面の周囲長は、当該アッパー構造の製造に用いられるラスト(靴型)の外周面の周囲長よりも短くなっており、これにより、着用者がシューズ1を着用した際には、インナーアッパー20が伸長することでインナーアッパー20による張力が足背に作用するようになっている。
【0032】
インナーアッパー20の本体部20Aは、人工皮革や合成皮革の他、伸縮性の低いメッシュ素材等から構成されており、伸縮部20Bは、たとえばスパンデックス(ポリウレタン弾性糸)等の弾性繊維から構成されている。アウターアッパー21は、人工皮革や合成皮革の他、伸縮性の低いメッシュ素材等から構成されている。
【0033】
ミッドソール3は軟質弾性部材から構成されており、具体的には、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性合成樹脂やその発泡体、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂やその発泡体、またはブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバー素材やその発泡体から構成されている。アウトソール5は硬質弾性部材から構成されており、具体的には、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、またはソリッドラバーから構成されている。
【0034】
ここで、図4図5をそれぞれ模式化したものを図7図8に示す。各図においては、ミッドソール3およびアウトソール5の図示を省略しており、アッパー2のみを示している。図7図8中、実線はインナーアッパー20を、一点鎖線はアウターアッパー21を、グレーの着色領域は伸縮部20Bをそれぞれ示している。
【0035】
次に、図7図8にそれぞれ足の骨格構造を描き入れたものを図9図10に示す。これらの図において、符号H、M、Fはそれぞれアッパー2の踵領域、中足領域、前足領域を示している。また、符号MTは中足骨を、CmBは楔状骨を、NBは舟状骨を、CdBは立方骨を、TAは距骨を、CAは踵骨をそれぞれ示しており、符号LFはリスフラン関節(足根中足関節)を、TTはショパール関節(横足根関節)をそれぞれ示している。
【0036】
図9に示すように、足の内甲側においては、伸縮部20Bは、楔状骨CmBから舟状骨NBおよび距骨TAを通って踵骨CAに至る領域の少なくとも一部の領域に配置されている。また、伸縮部20Bの上端20bは、楔状骨CmB、舟状骨NBおよび距骨TAを横切っており、少なくともショパール関節TT(あるいは、ショパール関節TTおよびリスフラン関節LFの双方)と交差している。伸縮部20Bの最後端20Bbは踵骨CAの底部に配置されている。
【0037】
図10に示すように、足の外甲側においては、伸縮部20Bは、立方骨CdBを通って踵骨CAに至る領域の少なくとも一部の領域に配置されている。また、伸縮部20Bの上端20bは、立方骨CdBを横切っており、少なくともショパール関節TT(あるいは、ショパール関節TTおよびリスフラン関節LFの双方)と交差している。伸縮部20Bの最後端20Bbは踵骨CAの底部に配置されている。
【0038】
次に、本実施例の作用効果について説明する。
シューズ1の着用時には、伸縮部20Bが伸長することにより、インナーアッパー20の足背上部領域20Aに対してアウターアッパー21の踵領域Hの下端に向かう張力Pを作用させるので(図7ないし図10参照)、インナーアッパー20の足背上部領域20Aが足の足背上部に圧接し、これにより、足背上部を介して足の踵部がアウターアッパー21の踵領域Hの側に移動し、その結果、足の踵部をアウターアッパー21によりホールドすることができ、足の踵部に対するホールド性を向上できる。
【0039】
本実施例では、伸縮部20Bの上端20bが、足の内甲側において楔状骨CmBから踵骨CAにかけての領域の少なくとも一部の領域に延設されていることにより、シューズ1の着用時には、伸縮部20Bにより、足の内甲側において楔状骨CmB側つまり足背上部領域20Aから踵骨CA側に向かう張力Pを作用させることできる。
【0040】
本実施例では、伸縮部20Bの上端20bが、足の内外甲側においてショパール関節(横足根関節)TTと交差する方向に延設されていることにより、シューズ1の着用時には、伸縮部20Bにより、足の内外甲側の双方において楔状骨CmB側つまり足背上部領域20Aから踵骨CA側に向かう張力Pを作用させることできる。
【0041】
本実施例では、伸縮部20Bがインナーアッパー20の後側端20C上に頂点を有する三角形状をしていることにより、後側端20C上で最も伸びやすくなっており、これにより、伸縮部20Bの後側端20Cを足の踵部の立体形状に沿わせることができる。
【0042】
本実施例では、インナーアッパー20が、足背上部を覆う本体部20Aと、その下方に連設された伸縮部20Bとから構成されていることにより、シューズ1の着用時には、伸縮性の低い本体部20Aにより足背上部を強固に保持することができるとともに、伸縮部20Bにより、本体部20Aに対してアウターアッパー21の踵骨CA側に向かう張力Pを作用させることができる。
【0043】
本実施例では、インナーアッパー20がアウターアッパー21の内側に配設されていることにより、シューズ1の着用時には、インナーアッパー20の伸縮部20Bの伸長を許容しつつ、アウターアッパー21により、インナーアッパー20の伸縮部20Bを外側から保持することができ、足の踵部のホールド性を向上できる。
【0044】
本実施例では、インナーアッパー20がシューズ1のタン(舌革部)を構成していることにより、インナーアッパー20と別個にタンを設ける必要がなくなって、構造を簡略化でき、コストを低減できるとともに、シューズ1を軽量化できる。
【0045】
本実施例では、インナーアッパー20が伸縮部20Bを一体に有していて全体としてインナーアッパー20を構成しており、インナーアッパー20およびアウターアッパー21がオーバラップするとともに、オーバラップ領域が互いに分離している。
【0046】
これにより、インナーアッパー20およびアウターアッパー21のみでアッパー構造全体を構成することが可能になり、その結果、構造を簡略化でき、コストを低減できるとともに、シューズ1を軽量化できる。さらに、インナーアッパー20およびアウターアッパー21がオーバラップしていることにより、伸縮部20Bを有するインナーアッパー20が伸長したとき、アウターアッパー21がアッパー形状を保持する保形性を発揮できるので、足に対するホールド性を向上できる。また、インナーアッパー20およびアウターアッパー21のオーバラップ領域が分離していることにより、アッパー構造の履き口10の周囲長が変化し得るようになっており、これにより、足甲高さや足首周りのサイズの個人差を吸収できるので、足長や足幅が同じでも足甲や足首のサイズが異なる様々な足に対応できる。また、この場合には、インナーアッパー20全体の伸縮性はアウターアッパー21の伸縮性よりも高くなっている。
【0047】
以下、本発明の変形例について説明する。なお、以下の変形例を示す各図において、前記実施例と同一符号は同一または相当部分を示している。
【0048】
〔第1の変形例〕
前記実施例では、インナーアッパー20およびアウターアッパー21の双方が前足領域Fの先端(つまり爪先部先端)まで延設された例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。この第1の変形例では、図11に示すように、アウターアッパー21は前足領域Fの先端まで延設されているが、インナーアッパー20は、前足領域Fの先端まで延設されておらず、その前端20fは前足領域Fの中間位置に留まっている。インナーアッパー20の伸縮部20Bは、前記実施例と同様に三角形状の領域を占めている。
【0049】
この場合においても、シューズ1の着用時には、伸縮部20Bがインナーアッパー20の足背上部領域20Aに対してアウターアッパー21の踵領域Hの下端に向かう張力Pを作用させるので、インナーアッパー20の足背上部領域20Aが足の足背上部に圧接し、これにより、足背上部を介して足の踵部がアウターアッパー21の踵領域Hの側に移動し、その結果、足の踵部をアウターアッパー21によりホールドすることができ、足の踵部に対するホールド性を向上できる。
【0050】
〔第2の変形例〕
前記実施例では、インナーアッパー20およびアウターアッパー21の双方が前足領域Fの先端まで延設された例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。この第2の変形例では、図12に示すように、インナーアッパー20は前足領域Fの先端まで延設されているが、アウターアッパー21は、前足領域Fの先端まで延設されておらず、その前端21fは中足領域Mの前端位置に留まっている。インナーアッパー20の伸縮部20Bは、前記実施例と同様に三角形状の領域を占めている。
【0051】
この場合においても、シューズ1の着用時には、伸縮部20Bがインナーアッパー20の足背上部領域20Aに対してアウターアッパー21の踵領域Hの下端に向かう張力Pを作用させるので、インナーアッパー20の足背上部領域20Aが足の足背上部に圧接し、これにより、足背上部を介して足の踵部がアウターアッパー21の踵領域Hの側に移動し、その結果、足の踵部をアウターアッパー21によりホールドすることができ、足の踵部に対するホールド性を向上できる。
【0052】
〔第3の変形例〕
前記実施例では、インナーアッパー20およびアウターアッパー21の双方が前足領域Fの先端まで延設された例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。この第3の変形例では、図13に示すように、インナーアッパー20は前足領域Fの先端まで延設されているが、アウターアッパー21は、前足領域Fの先端まで延設されておらず、その前端21fは中足領域Mの前端位置に留まっている。インナーアッパー20の伸縮部20Bは、前記実施例と異なり、インナーアッパー20の後側端20Cに沿いつつ、足背上部から踵領域下端まで延びる帯状の領域を占めている。
【0053】
この場合においても、シューズ1の着用時には、伸縮部20Bがインナーアッパー20の足背上部領域20Aに対してアウターアッパー21の踵領域Hの下端に向かう張力Pを作用させるので、インナーアッパー20の足背上部領域20Aが足の足背上部に圧接し、これにより、足背上部を介して足の踵部がアウターアッパー21の踵領域Hの側に移動し、その結果、足の踵部をアウターアッパー21によりホールドすることができ、足の踵部に対するホールド性を向上できる。
【0054】
〔第4の変形例〕
前記実施例および前記第1ないし第3の変形例では、インナーアッパー20の本体部20Aが伸縮部20Bを一体に有していることにより、本体部20Aおよび伸縮部20Bが全体としてインナーアッパー20を構成した例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。
【0055】
図14は、本発明の第4の変形例を示している。同図において、前記実施例および前記第1ないし第3の変形例と同一符号は同一または相当部分を示している。この第4の変形例では、インナーアッパー20がタン(舌革部)として設けられており、伸縮部は、帯状の伸縮バンド20Bとして設けられている。伸縮バンド20Bの上端は、インナーアッパー20の後方側端部(図示右側端部)に縫製等で連結され、下端はアウターアッパー21の踵領域下端に固着されている。
【0056】
この場合においても、シューズ1の着用時には、伸縮ベルト20Bからの張力Pがインナーアッパー20に対して踵領域下端に向かう向きに作用するので、この張力Pの作用によって、着用者の足の足背上部が斜め下方に押圧され、その結果、足の踵部がアウターアッパー21の踵領域におさめられて、踵部をホールドできる。
【0057】
〔第5の変形例〕
前記実施例および前記第1、第2の変形例では、伸縮部20Bが側面視三角形状に配設された例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。伸縮部20Bは、前後方向に矩形状、多角形状または楕円状等に延設されていてもよい。
【0058】
〔第6の変形例〕
前記実施例および前記各変形例では、足背上部領域20Aを有する第1のアッパー部(インナーアッパー)20が、踵領域を有する第2のアッパー部(アウターアッパー)21の内側に配置された例を示したが、両アッパーの内外の位置関係は逆でもよい。すなわち、第1のアッパー部20は第2のアッパー部21の外側に配置されていてもよい。
【0059】
〔第7の変形例〕
前記実施例および前記各変形例では、インナーアッパー20およびアウターアッパー21がオーバラップするようにした例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。インナーアッパー20およびアウターアッパー21は必ずしもオーバラップしていなくてもよい。その場合、インナーアッパー20およびアウターアッパー21の境界個所に第3のアッパー部または内装材を配置するようにしてもよい。
【0060】
<その他の変形例>
上述した実施例および各変形例はあらゆる点で本発明の単なる例示としてのみみなされるべきものであって、限定的なものではない。本発明が関連する分野の当業者は、本明細書中に明示の記載はなくても、上述の教示内容を考慮するとき、本発明の精神および本質的な特徴部分から外れることなく、本発明の原理を採用する種々の変形例やその他の実施例を構築し得る。
【0061】
<他の適用例>
前記実施例および前記各変形例では、本発明が、バレーボールやハンドボール等の球技用のインドアシューズに適用された例を示したが、本発明は、テニスやバドミントン、卓球等のラケット競技用のインドアシューズにも適用できる。さらに、本発明は、その他のスポーツシューズやシューズにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように本発明は、シューズとくにスポーツシューズ、とりわけインドアシューズにおいて、着用者の足の踵部に対するホールド性を向上させるためのアッパー構造に有用である。
【符号の説明】
【0063】
1: インドアシューズ(シューズ)

10: 履き口
10a: スロート部

2: アッパー

20: インナーアッパー(第1のアッパー部)
20A: 本体部(第1のアッパー部)
20A: 足背上部領域
20B: 伸縮部(伸縮領域)
20b: 上端(一端)

21: アウターアッパー(第2のアッパー部)


P: 張力
CmB: 楔状骨
CA: 踵骨
LF: リスフラン関節
TT: ショパール関節
H: 踵領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0064】
【文献】米国特許第4,438,574号明細書(第4欄第32~39行およびFIG.1~4、ならびに第3欄第11~13行、第17~21行および第60~63行参照)
図1
図2
図3
図4
図5
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図6A
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14