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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】結晶化促進剤およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20240502BHJP
   C08G 63/06 20060101ALI20240502BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C08L67/04
C08G63/06
C08L101/16 ZBP
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020060428
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021155683
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-501927(JP,A)
【文献】国際公開第2011/024944(WO,A1)
【文献】特開平11-323115(JP,A)
【文献】特表平08-510498(JP,A)
【文献】特開平06-184418(JP,A)
【文献】Hideto TSUJI et al.,Synchronous and separate homo-crystallization of an enantiomeric oligomeric poly(L-3-hydroxybutanoic acid)/poly(d-3-hydroxybutanoic acid) blend,Polymer Journal,2015年10月21日,Vol. 48, No. 2,p.215-220,DOI: 10.1038/pj.2015.96
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂および結晶性樹脂の結晶化を促進するための結晶化促進剤を含む樹脂組成物であって、
前記結晶性樹脂がバイオマス由来の生分解性樹脂を含み、
前記結晶化促進剤がS-3-ヒドロキシ酪酸単位を80モル%以上の割合で含むヒドロキシアルカン酸のオリゴマーで形成されている樹脂組成物
【請求項2】
前記オリゴマーの平均重合度が2~200である請求項1記載の樹脂組成物
【請求項3】
前記ヒドロキシアルカン酸が3-ヒドロキシ酪酸である請求項1または2記載の樹脂組成物
【請求項4】
前記生分解性樹脂がポリヒドロキシアルカノエートを含む請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物
【請求項5】
前記結晶化促進剤の割合が、前記結晶性樹脂100質量部に対して0.1~30質量部である請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の結晶性樹脂に請求項1~5のいずれか一項に記載の結晶化促進剤を添加して、前記結晶性樹脂の結晶化を促進する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)などの結晶性樹脂の結晶化促進剤およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全や持続可能な社会の構築などの観点から、プラスチック原料の一部または全部に、微生物と酵素の働きによって、最終的に水と二酸化炭素又はメタンなどのバイオガスとにまで分解される生分解性プラスチック(生分解性樹脂)を利用することが検討されている。生分解性樹脂としては、ポリ乳酸(PLA)などのポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PCL)などが知られている。生分解性樹脂の中でも、カーボンニュートラルの観点から、PLAやPHAに代表されるバイオマス由来の原料のみから製造されるバイオベースプラスチックが注目され、検討されている。
【0003】
一方、生分解性樹脂の多くが、好気性条件でしか有効に分解されないのに対し、PHAの中でも、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)は、湖沼の底泥などのような嫌気性条件下や海中でも、速やかに分解されるという特徴がある。しかし、PHBは結晶化速度が遅く、成形後も経時的に結晶化が進み、硬くて脆い高結晶体となる性質があるため、実用化には至っていない。
【0004】
これらの課題の解決方法としては結晶核剤の添加が検討されている。例えば、窒化ホウ素、酸化チタン、タルク、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、金属リン酸塩などが知られているが、これらの結晶化促進剤を添加して得られた樹脂組成物は、引張伸びの低下が生じ、結晶性と靭性とを両立できない。また、樹脂組成物に含まれる非バイオマス由来成分が増加する。
【0005】
また、特開2015-29484号公報(特許文献1)には、アルコールの存在下、所定の微生物を培養し、重量平均分子量が5000~40000と低く、カルボキシル基末端がC1-6アルキルエステルとして修飾されたポリヒドロキシアルカン酸を、PHAの結晶核剤として使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-29484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の結晶核剤(または結晶化促進剤)は、結晶化促進効果が十分ではない。さらに、実質的に100%バイオマス由来であるが、製造過程が煩雑である。
【0008】
従って、本発明の目的は、結晶性樹脂の結晶化を促進できる結晶化促進剤ならびにその製造方法および用途を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、簡便な方法で、効率良く調製可能な結晶化促進剤ならびにその製造方法および用途を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、バイオマス由来であり、嫌気性条件下で生分解性の高い樹脂の結晶化を促進できる結晶化促進剤ならびにその製造方法および用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特許文献1で結晶化促進剤として用いられる修飾ポリヒドロキシアルカン酸は、微生物から産生されたR体モノマーの重合体であるため、結晶促進化効果が小さいことを突き止め、R体モノマーのポリヒドロキシアルカン酸に代えて、S-3-ヒドロキシ酪酸単位を含むヒドロキシアルカン酸のオリゴマーを用いることにより、樹脂の結晶化を大きく促進できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の結晶化促進剤は、結晶性樹脂の結晶化を促進するための結晶化促進剤(または結晶核剤)であって、S-3-ヒドロキシ酪酸単位を含むヒドロキシアルカン酸のオリゴマーで形成されている。前記オリゴマーの平均重合度は2~200であってもよい。前記S-3-ヒドロキシ酪酸単位の割合は50モル%以上であってもよい。前記ヒドロキシアルカン酸は3-ヒドロキシ酪酸であってもよい。前記結晶性樹脂はバイオマス由来の生分解性樹脂を含んでいてもよい。前記生分解性樹脂はポリヒドロキシアルカノエートを含んでいてもよい。
【0013】
本発明には、結晶性樹脂および前記結晶化促進剤を含む樹脂組成物も含まれる。前記結晶化促進剤の割合は、前記結晶性樹脂100質量部に対して0.1~30質量部であってもよい。
【0014】
本発明には、結晶性樹脂に前記結晶化促進剤を添加して、前記結晶性樹脂の結晶化を促進する方法も含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、結晶性樹脂の結晶化促進剤として、S-3-ヒドロキシ酪酸単位を含むヒドロキシアルカン酸のオリゴマーを用いるため、結晶性樹脂の結晶化を促進できる。また、S-3-ヒドロキシ酪酸を含むヒドロキシアルカン酸を重合するだけであり、修飾や誘導体化する必要がないため、簡便な方法で、前記オリゴマーを効率良く調製できる。さらに、結晶化促進剤自身も3-ヒドロキシ酪酸単位を含み、バイオマス由来である上に、ポリヒドロキシアルカノエートなどの生分解性樹脂の結晶化を促進できるため、嫌気性条件下で生分解性の高い樹脂の結晶化を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、降温時における実施例2~5および比較例2で調製された樹脂組成物のDSC曲線(カーブまたはサーモグラム)を示す。
図2図2は、降温時における比較例2~6で調製された樹脂組成物のDSC曲線を示す。
図3図3は、2回目の昇温時における実施例2~5および比較例2で調製された樹脂組成物のDSC曲線を示す。
図4図4は、2回目の昇温時における比較例2~6で調製された樹脂組成物のDSC曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[結晶化促進剤]
本発明の結晶化促進剤は、S-3-ヒドロキシ酪酸(3-ヒドロキシ酪酸のS体)単位を含むヒドロキシアルカン酸のオリゴマーで形成されている。すなわち、本発明では、オリゴマーである結晶化促進剤が、ヒドロキシアルカン酸単位として、S-3-ヒドロキシ酪酸単位を含む。
【0018】
ヒドロキシアルカン酸単位を形成するためのヒドロキシアルカン酸は、3-ヒドロキシ酪酸(3-ヒドロキシブタン酸または3HB)を含んでいればよいが、3HBに加えて、他のヒドロキシアルカン酸をさらに含んでいてもよい。
【0019】
他のヒドロキシアルカン酸としては、例えば、グリコール酸、2-ヒドロキシプロパン酸(乳酸)、3-ヒドロキシプロパン酸、2-ヒドロキシブタン酸(2-ヒドロキシ酪酸)、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシ-3-メチル-ブタン酸、2-ヒドロキシペンタン酸(2-ヒドロキシ吉草酸)、3-ヒドロキシペンタン酸、5-ヒドロキシペンタン酸、2-ヒドロキシ-2-メチル-ペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、6-ヒドロキシ-ヘプタン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、7-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、8-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシノナン酸、9-ヒドロキシノナン酸、3-ヒドロキシデカン酸、10-ヒドロキシデカン酸などのC1-6アルキル基を有していてもよいヒドロキシC2-15アルカン酸などが挙げられる。なお、他のヒドロキシアルカン酸は、対応するラクトンであってもよい。他のヒドロキシアルカン酸は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0020】
3HB単位の割合は、前記オリゴマーを構成する全単位中50モル%以上であってもよく、例えば70モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、最も好ましくは100モル%(3HB単位のみ)である。3HB単位の割合が少なすぎると、生分解性が低下する虞がある。
【0021】
3HB単位は、S-3-ヒドロキシ酪酸[(S)3HB]単位を含んでいればよく、(S)3HB単位に加えてR-3-ヒドロキシ酪酸[3-ヒドロキシ酪酸のR体または(R)3HB]単位をさらに含んでいてもよい。(R)3HB単位は、オリゴマーの製造過程で生成した(S)3HB由来の単位(S体からR体に変化した単位)であってもよい。
【0022】
(S)3HB単位と(R)3HB単位とのモル比は、前者/後者=50/50~100/0であってもよく、例えば70/30~100/0、好ましくは80/20~100/0、さらに好ましくは85/15~100/0、より好ましくは90/10~100/0であり、最も好ましくは(S)3HB単位のみである。(S)3HB単位の割合が少なすぎると、結晶化促進機能が低下する虞がある。
【0023】
(S)3HB単位の割合は、前記オリゴマーを構成する全単位中50モル%以上であってもよく、例えば70モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%((S)3HB単位のみ)である。(S)3HB単位の割合が少なすぎると、結晶化促進機能が低下する虞がある。
【0024】
前記オリゴマーの平均重合度は、2~200程度の範囲から選択でき、例えば3~150、好ましくは5~100、さらに好ましくは7~80、より好ましくは8~50、最も好ましくは10~30である。重合度が小さすぎると、結晶化促進機能が低下し、樹脂組成物の機械的特性も低下する虞があり、逆に大きすぎると、結晶化促進機能が低下する虞がある。
【0025】
前記オリゴマーの分子量は、特に制限されず、重量平均分子量(Mw)は200~20000程度の範囲から選択でき、例えば300~15000、好ましくは350~10000、さらに好ましくは400~5000、より好ましくは500~3000、最も好ましくは600~2000であってもよく、分散度(Mw/Mn)は、例えば1~5、好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2.8、最も好ましくは1~2.5であってもよい。分子量が小さすぎると、結晶化促進機能が低下し、樹脂組成物の機械的特性も低下する虞があり、逆に大きすぎると、結晶化促進機能が低下する虞がある。
【0026】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、前記オリゴマーの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、GPC(Gel Permeation Chromatography、ゲル浸透クロマトグラフィー)によりポリスチレン換算で測定でき、詳細には、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0027】
(S)3HBは、慣用の方法によって製造でき、例えば、特開2019-176839号公報に記載の方法によって合成してもよく、E.J. Yun et. al./ Journal of Biotechnology, 209 (2015)23-30に記載の方法で微生物を用いて産生してもよい。
【0028】
前記オリゴマーは、慣用の方法で原料(単量体)であるヒドロキシアルカン酸をエステル化反応に供することにより調製できる。
【0029】
原料ヒドロキシアルカン酸のうち、(S)3HBの割合は、50モル%以上であってもよく、例えば70モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、最も好ましくは100モル%[(S)3HBのみ]である。原料中の(S)3HBの割合は、オリゴマー中の(S)3HB単位の割合と異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0030】
反応は、触媒の存在下または非存在下で行ってもよく、触媒としては、慣用のエステル化触媒、例えば、金属触媒(酢酸マンガンや酢酸カルシウムなどの酢酸金属塩、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムなどの有機酸遷移金属塩など)、塩基触媒、酸触媒などが挙げられる。これらの触媒は単独または二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
触媒の使用量は、3HB1モルに対して、例えば0.001~1モル、好ましくは0.003~0.5モル、さらに好ましくは0.005~0.1モル、より好ましくは0.01~0.05モルである。
【0032】
重合方法としては、慣用の方法、例えば、溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などが利用できる。反応は、重合方法に応じて、溶媒の存在下または非存在下で行ってもよい。
【0033】
反応は、通常、不活性ガス(窒素、ヘリウムなど)雰囲気中で行うことができる。また、反応は、常温下または減圧下で行ってもよく、生成する水などを反応系外に留出しつつ行ってもよい。
【0034】
反応温度は、例えば50~200℃、好ましくは70~180℃、さらに好ましくは100~150℃程度であってもよい。反応時間は、特に限定されず、例えば30分~48時間、通常1~36時間程度であってもよい。
【0035】
また、反応終了後、得られたオリゴマーは、慣用の分離方法、例えば、反応生成物を良溶媒(例えば、クロロホルムなど)に溶解した後、貧溶媒(例えば、メタノールなど)により再沈殿する方法により分離精製してもよい。
【0036】
[結晶性樹脂]
前記結晶化促進剤(または結晶核剤)は、結晶性樹脂の結晶化を促進するために使用される。結晶性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂[ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)など]、ポリアミド系樹脂[ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)など]、ポリエステル系樹脂[ポリエチレンテレフタレート(PET)など]などの石油由来非生分解性樹脂;バイオベースオレフィン系樹脂(バイオベースPE、バイオベースPPなど)、バイオベースポリアミド系樹脂(ポリアミド11など)などのバイオマス由来非生分解性樹脂;脂肪族ポリエステル系樹脂(PBS、PCLなど)などの石油由来生分解性樹脂;バイオベースポリエステル系樹脂[ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリヒドロキシ吉草酸などのポリヒドロキシアルカノエート(PHA)]などのバイオマス由来生分解性樹脂が挙げられる。結晶性樹脂は、通常、熱可塑性樹脂である。これらの結晶性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0037】
これらのうち、廃棄物処理の観点から、バイオマス由来生分解性樹脂、例えば、PHA(PLA、PHB、ポリヒドロキシ吉草酸など);石油由来生分解性樹脂、例えば、PBS、PCLが好ましく、カーボンニュートラルの観点から、バイオマス由来生分解性樹脂、例えば、PHA(PLA、PHB、ポリヒドロキシ吉草酸などのヒドロキシアルカン酸(3-ヒドロキシアルカン酸)の単独又は共重合体など)がさらに好ましい。なかでも、嫌気性条件下においても高い生分解性を有する3-ヒドロキシブタン酸の単独又は共重合体を含む生分解性樹脂(例えば、PHB、PHBHなど)が好ましく、3HBの単独重合体であるPHB[ポリヒドロキシ酪酸またはポリ(3-ヒドロキシブチレート)]がさらに好ましく、(R)3HBの単独重合体が最も好ましい。
【0038】
結晶性樹脂の分子量は、特に制限されず、重量平均分子量(単位:×10)は、例えば0.1~100、好ましくは1~80、さらに好ましくは2~70程度;数平均分子量(単位:×10)は、例えば0.1~100、好ましくは1~80、さらに好ましくは、2~70程度であってもよく、分散度(M/M)は、例えば1~5、好ましくは1~3、さらに好ましくは1~2、特に1~1.5であってもよい。なお、樹脂の重量平均分子量(M)および数平均分子量(M)は、GPC(Gel Permeation Chromatography、ゲル浸透クロマトグラフィー)によりポリスチレン換算で測定できる。
【0039】
本発明の結晶化促進剤は、少量であっても結晶性樹脂の結晶化を促進できるため、樹脂組成物の機械的特性を向上できる。結晶化促進剤の割合は、結晶性樹脂100質量部に対して0.1~30質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.2~10質量部、好ましくは0.3~8質量部(例えば1.5~8質量部)、さらに好ましくは0.5~5質量部(例えば2~5質量部)、より好ましくは1~3質量部、最も好ましくは1.5~2.5質量部である。結晶化促進剤の添加割合が少なすぎると樹脂の結晶化促進効果が低下し、多すぎると樹脂の機械的強度(引張強度など)が低下する虞がある。
【0040】
樹脂組成物は、本発明の効果を害しない範囲であれば、非晶性樹脂をさらに含んでいてもよい。非晶性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。これらの非晶性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0041】
非晶性樹脂の割合は、結晶性樹脂100質量部に対して、50質量部以下(例えば0.1~40質量部)、好ましくは30質量部以下(例えば0.1~20質量部)、さらに好ましくは10質量部以下(例えば0.1~5質量部)である。
【0042】
樹脂組成物は、必要に応じて、各種添加剤[例えば、可塑剤、難燃剤、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、着色剤(顔料など)、充填材、帯電防止剤、滑剤、離形剤、抗菌剤、防カビ剤など]をさらに含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これら添加剤の割合は、添加剤の種類に応じて選択でき、添加剤の総量は、結晶性樹脂100質量部に対して、0.001~100質量部の範囲から選択でき、例えば100質量部以下(例えば0.01~80質量部)、好ましくは70質量部以下(例えば0.1~60質量部)、さらに好ましくは50質量部以下(例えば0.1~40質量部)である。
【0043】
樹脂組成物の結晶化度は、所望の諸物性(例えば、引張強度などの機械的物性、融点などの熱的物性)を満たす範囲であればよく、例えば1~90%、好ましくは5~80%(例えば10~75%)、さらに好ましくは20~70%である。結晶形状は、特に限定されず、例えば、ラメラ(板状)結晶、球晶、折りたたみ結晶などの形状であってもよい。
【0044】
結晶化促進剤の結晶性樹脂への添加方法(混練方法、混合方法)は、均一に混合できればよく、慣用の混合方法(ヘンシェルミキサー、ロール混練、溶融混練、押出機など)により混合できる。結晶化促進剤と樹脂との混合は、成形前に行ってもよく、成形と並行して行ってもよい。
【0045】
樹脂組成物は、樹脂と結晶化促進剤との混合物の形態であってもよく、樹脂と結晶化促進剤とが混練されて一体化した粉粒体またはペレットの形態であってもよい。樹脂組成物は、慣用の成形法(押出成形法、射出成形法、カレンダー成形法などの溶融成形法、キャスティング法など)により、線状、フィルム状またはシート状、筒状またはパイプ状、ケーシング、ハウジングなどの三次元形状などの所定の形態の成形体を作製できる。
【実施例
【0046】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、用いた原料および評価方法は以下の通りである。
【0047】
(使用原料)
S-3-ヒドロキシ酪酸[(S)3HB]:市販のS-3-ヒドロキシ酪酸エチルを原料として特開2019-176839号公報の実施例に従って合成した合成品を酢酸エチル中で冷却晶析した(S)3HB、化学純度99%以上、S体純度99%ee以上
R-3-ヒドロキシ酪酸[(R)3HB]:R-3-ヒドロキシ酪酸エチル を原料として特開2019-176839号公報の実施例に従って合成した合成品を酢酸エチル中で冷却晶析した(R)3HB、化学純度99%以上、R体純度99%ee以上
ポリヒドロキシ酪酸(PHB):ハロモナスKM-1株から次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いて単離し、蒸留水およびアセトンを用いて洗浄することにより精製したPHB[(R)3HBの単独重合体]。
【0048】
[分子量]
3HBオリゴマーの数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、GPCによって以下の条件で測定した。
【0049】
使用装置:東ソー(株)製「HLC-8320GPC」
カラム:TSKgelSuperH1000(2本)、2000、2500
カラム温度:40℃
溶離液:クロロホルム
流速:0.6mL/min.
検出器:RI、UV(254nm)
分子量換算:ポリスチレン(標準物質)。
【0050】
[DSCサーモグラム]
示差走査熱量計(DSC)[ネッチ(NETZSCH)社製「DSC 214 Polyma」を使用し、アルミパンに試料を入れ、窒素雰囲気下、昇温速度および降温速度10℃/分で、測定温度範囲を-20℃~200℃とし、DSCサーモグラムを得た。
【0051】
実施例1
(S)3HB 10.4gおよびトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)13mgを100mLの三口フラスコに仕込み、窒素置換した。これを窒素雰囲気下120℃で2時間加熱し、発生する水をディーンスターク管で除去した。次いで120℃で13時間減圧した。得られた生成物を室温まで冷却し、クロロホルムに完全に溶解させ、メタノール中で再沈殿することで(S)3HBオリゴマーを得た。得られたオリゴマーの数平均分子量(Mn)は650であり、重量平均分子量(Mw)は1500であった。
【0052】
比較例1
(R)3HB 10.4gおよびトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)13mgを100mLの三口フラスコに仕込み、窒素置換した。これを窒素雰囲気下120℃で2時間加熱し、発生する水をディーンスターク管で除去した。次いで120℃で13時間減圧した。得られた生成物を室温まで冷却し、クロロホルムに完全に溶解させ、メタノール中で再沈殿することで(R)3HBオリゴマーを得た。得られたオリゴマーの数平均分子量(Mn)は960であり、重量平均分子量(Mw)は1800であった。
【0053】
比較例2
PHBをDSCで200℃まで加熱して完全に溶融させ、その後10℃/minの条件で-20℃まで降温し、5分保持した後に10℃/minの条件で200℃まで昇温した。
【0054】
実施例2
PHBと(S)3HBオリゴマーとを質量比でPHB:(S)3HBオリゴマー=99:1となるように混合し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物をDSCで200℃まで加熱して完全に溶融させ、その後10℃/minの条件で-20℃まで降温し、5分保持した後に10℃/minの条件で200℃まで昇温した。
【0055】
実施例3
PHBと(S)3HBオリゴマーとを質量比でPHB:(S)3HBオリゴマー=98:2となるように混合し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物をDSCで200℃まで加熱して完全に溶融させ、その後10℃/minの条件で-20℃まで降温し、5分保持した後に10℃/minの条件で200℃まで昇温した。
【0056】
実施例4
PHBと(S)3HBオリゴマーとを質量比でPHB:(S)3HBオリゴマー=95:5となるように混合し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物をDSCで200℃まで加熱して完全に溶融させ、その後10℃/minの条件で-20℃まで降温し、5分保持した後に10℃/minの条件で200℃まで昇温した。
【0057】
実施例5
PHBと(S)3HBオリゴマーとを質量比でPHB:(S)3HBオリゴマー=90:10となるように混合し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物をDSCで200℃まで加熱して完全に溶融させ、その後10℃/minの条件で-20℃まで降温し、5分保持した後に10℃/minの条件で200℃まで昇温した。
【0058】
比較例3
PHBと(R)3HBオリゴマーとを質量比でPHB:(R)3HBオリゴマー=99:1となるように混合し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物をDSCで200℃まで加熱して完全に溶融させ、その後10℃/minの条件で-20℃まで降温し、5分保持した後に10℃/minの条件で200℃まで昇温した。
【0059】
比較例4
PHBと(R)3HBオリゴマーを質量比でPHB:(R)3HBオリゴマー=98:2となるように混合し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物をDSCで200℃まで加熱して完全に溶融させ、その後10℃/minの条件で-20℃まで降温し、5分保持した後に10℃/minの条件で200℃まで昇温した。
【0060】
比較例5
PHBと(R)3HBオリゴマーを質量比でPHB:(R)3HBオリゴマー=95:5となるように混合し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物をDSCで200℃まで加熱して完全に溶融させ、その後10℃/minの条件で-20℃まで降温し、5分保持した後に10℃/minの条件で200℃まで昇温した。
【0061】
比較例6
PHBと(R)3HBオリゴマーを質量比でPHB:(R)3HBオリゴマー=90:10となるように混合し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物をDSCで200℃まで加熱して完全に溶融させ、その後10℃/minの条件で-20℃まで降温し、5分保持した後に10℃/minの条件で200℃まで昇温した。
【0062】
実施例2~5および比較例2~6で調製した樹脂組成物のDSCサーモグラムを図1~4に示す。図1~4は、それぞれ、実施例2~5および比較例2~6で調製した樹脂組成物のDSC曲線(降温時)、比較例2~6で調製された樹脂組成物のDSC曲線(降温時)、実施例2~5および比較例2で調製された樹脂組成物のDSC曲線(2回目の昇温時)、比較例2~6で調製された樹脂組成物のDSC曲線(2回目の昇温時)である。また、実施例および比較例における降温時の結晶化エンタルピーを表1に示す。なお、結晶化エンタルピーは添加量による補正等は行わず、結晶化促進剤も含めた樹脂組成物全体の値を採用している。
【0063】
【表1】
【0064】
表1の結果から明らかなように、(S)3HBオリゴマーを添加した樹脂組成物では結晶化エンタルピーの大幅な向上が観測され、(S)3HBオリゴマーが結晶核剤として有効に働くことがわかった。また、(R)3HBオリゴマーも低添加量領域においては若干の核剤効果が確認されたが、その効果は限定的であった。加えて、図3、4に示されるように2回目の昇温において、(S)3HBオリゴマーを2~5質量%添加した樹脂組成物では結晶化に由来する発熱ピークが観測されず、結晶化が非常に良好に進んでいることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の結晶化促進剤は、各種の結晶性樹脂の結晶化を促進するために利用できるが、結晶化促進剤自身が生分解性を有するバイオマス由来の化合物であるため、生分解性樹脂に添加すると、バイオマス由来の生分解性樹脂組成物を得ることができ、有用である。特に、本発明の結晶化促進剤は、PHBなどのポリヒドロキシアルカノエートに対する結晶化促進効果が大きいため、特に有用である。
【0066】
さらに、前記結晶化促進剤および結晶性樹脂を含む樹脂組成物は、石油由来樹脂の代替として種々の用途、例えば、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、医療用品の部材、事務機器の部材、電気・電子機器の部材などに好適に利用できる。
図1
図2
図3
図4