(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】電解セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 13/02 20060101AFI20240502BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20240502BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240502BHJP
【FI】
C25B13/02 301
C25B1/042
C25B9/00 A
(21)【出願番号】P 2020087540
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】浅山 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-019064(JP,A)
【文献】特開2010-040252(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050142(WO,A1)
【文献】特開2007-014850(JP,A)
【文献】特表2015-525297(JP,A)
【文献】特開2002-206186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と第2部材との間で電解質材料の形状を制御して、前記電解質材料から電解質膜を成形し、
前記電解質膜を用いて
、高温水蒸気電解セルである電解セルを製造する、
ことを含み、
前記第1部材と水との接触角、および前記第2部材と水との接触角の少なくともいずれかは、86°以上である、電解セルの製造方法。
【請求項2】
前記第1部材と水との接触角、および前記第2部材と水との接触角の少なくともいずれかは、90°以上である、請求項1に記載の電解セルの製造方法。
【請求項3】
前記第1部材は、前記電解質材料の下に敷かれるフィルムである、請求項1または2に記載の電解セルの製造方法。
【請求項4】
前記第2部材は、前記電解質材料の形状を制御するブレードである、請求項1から3のいずれか1項に記載の電解セルの製造方法。
【請求項5】
前記第2部材における前記電解質材料との接触面は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)またはPFA(四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体)で形成されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の電解セルの製造方法。
【請求項6】
前記電解質材料は、スラリーである、請求項1から5のいずれか1項に記載の電解セルの製造方法。
【請求項7】
前記電解質材料から成形される前記電解質膜の厚さは、20μm以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載の電解セルの製造方法。
【請求項8】
前記第1部材と水との接触角は86°以上であり、かつ前記第2部材と水との接触角は86°以上である、請求項1から
7のいずれか1項に記載の電解セルの製造方法。
【請求項9】
前記第1部材と水との接触角は90°以上であり、かつ前記第2部材と水との接触角は90°以上である、請求項
8に記載の電解セルの製造方法。
【請求項10】
前記電解セルは、水素極層と前記電解質膜とを積層および圧着して、前記水素極層および前記電解質膜の成形体を作製し、前記成形体の脱脂および焼結を行うことで製造され、
前記脱脂は、前記圧着より高温で行われ、
前記焼結は、前記脱脂より高温で行われる、
請求項1に記載の電解セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電解セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇、二酸化炭素による地球温暖化、エネルギーセキュリティーへの懸念といった環境・エネルギー問題の観点から、太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーの導入が推進されている。また、エネルギーの貯蔵や輸送の観点から、二次エネルギーとして水素エネルギーが注目されている。水素エネルギーは、例えば燃料電池自動車への適用が期待されている。そのため、水素エネルギー技術には、低コストで品質の高い水素の製造や貯蔵が求められている。
【0003】
現在、水素製造の分野では、コスト面や技術面の観点から、化石燃料を改質して水素を製造する方法が主流である。しかし、化石燃料の改質による水素製造は、水素を製造する過程で二酸化炭素を不可避的に発生させる。
【0004】
一方、水を原料として再生可能エネルギーを用いて水素を製造する方法は、二酸化炭素を発生させず、環境負荷が少ないことが分かっている。水(例えば水蒸気)を電気分解して水素を発生する方法の類型としては、固体高分子電解質膜を用いるPEM(Polymer Electrolyte Membrane)型や、固体酸化物を用いるSOEC(Solid Oxide Electrolysis Cell)型が知られている。
【0005】
SOEC型は、少ない電力で水素を製造することができ、将来の水素製造方法として期待されている。SOEC型の電解セル(固体酸化物セル)は、水を電気分解して水素分子と酸素イオンとを生成する水素極層と、酸素イオンを伝導させる電解質膜と、酸素イオン同士を結合して酸素分子を生成する酸素極層とを含んでいる。電解質膜は、酸素イオンを伝導させる機能と、水素ガスと酸素ガスとを分離する機能とを有している。
【0006】
電解質膜には、効率的な酸素イオン伝導性を実現するための薄膜化と、ガスタイト性を保持するための緻密性が要求される。しかし、電解質膜に密度ムラがあると、電解質膜の焼結時に電解質膜内に微細亀裂が発生し、健全な電解セルを製造できなくなることが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5498191号公報
【文献】特開2013-127865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高温水蒸気電解により水素を製造する電解セル(高温水蒸気電解セル)は、例えば次の手順で製造される。まず、電解質膜の原料粉末にバインダー、気孔形成剤、および溶媒を加えて、電解質膜を製造するためのスラリーを用意する。次に、スラリーを電解質膜の形状に成形し、水素極層、電解質膜、および酸素極層を積層および圧着して、これらの成形体(積層体)を作製する。電解質膜は例えば、シート状に成形される。次に、成形体に脱バインダー処理を施すための脱脂および焼結工程を行う。こうして、上記の電解セルが製造される。
【0009】
薄膜状の電解質膜内に微細亀裂が発生しやすいのは、脱脂および焼結工程である。理由は、成形時に生じた電解質膜内の密度ムラに起因して、電解質膜内の密度が低い領域が焼結時に引っ張られて、電解質膜内に亀裂を発生させるためである。よって、スラリーから電解質膜を成形する際には、均質性の良い電解質膜を成形することが求められる。
【0010】
そのため、電解質膜の成形時には、電解質膜として多層構造の薄膜を成形することや、低濃度スラリーを用いて電解質膜を成形することが多い。しかし、多層構造の薄膜を成形することは、多層化のための処理が必要となることから、電解質膜の製造工程の煩雑化につながる。また、低濃度スラリーを用いることは、成形中のスラリーの安定性が悪くなることから、電解質膜の健全性に悪影響を与える。
【0011】
また、電解質膜に要求される機能には、上述のように、酸素イオン伝導性とガスタイト性とがある。酸素イオン伝導性の観点から、電解質膜は薄膜化することが望ましい。電解質膜を薄膜として成形する際には例えば、スラリーの下にフィルムを敷き、フィルムとブレードとの隙間でスラリーの厚さを制御する。しかし、スラリーがフィルムやブレードの表面に強く付着すると、スラリーから得られる電解質膜の表面に縞模様の密度ムラが発生してしまう。
【0012】
そこで、本発明の実施形態は、電解質膜を好適に成形することが可能な電解セルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一の実施形態によれば、電解セルの製造方法は、第1部材と第2部材との間で電解質材料の形状を制御して、前記電解質材料から電解質膜を成形することを含む。さらに、前記方法は、前記電解質膜を用いて電解セルを製造することを含む。さらに、前記第1部材と水との接触角、および前記第2部材と水との接触角の少なくともいずれかは、86°以上である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態の電解セルの構造を示す断面図である。
【
図2】第1実施形態の電解セルの製造方法を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態の電解質膜の製造方法を示す断面図である。
【
図4】第1実施形態のフィルムと水との接触角およびブレードと水との接触角について説明するための断面図である。
【
図5】第1実施形態のフィルムと水との接触角およびブレードと水との接触角について説明するためのグラフである。
【
図6】第1実施形態のブレードの材質について説明するためのグラフである。
【
図7】第2実施形態の電解セルスタックの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1から
図7において、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の電解セルの構造を示す断面図である。
【0017】
図1の電解セルは、例えばSOEC型の高温水蒸気電解セルであり、水素極層1と、電解質膜2と、酸素極層3とを備えている。水素極層1は、支持層1aと、活性層1bとを備えている。
【0018】
図1は、互いに垂直なX方向、Y方向、およびZ方向を示している。X方向とY方向は水平方向に平行であり、Z方向は垂直方向に平行である。本明細書においては、+Z方向を上方向として取り扱い、-Z方向を下方向として取り扱うことにする。なお、-Z方向は、重力方向と一致していても一致していなくてもよい。
【0019】
水素極層1は、水を電気分解して、水素分子と酸素イオンとを生成する。水素極層1により電気分解される水は、例えば水蒸気である。水素極層1では、電子を通す支持層1a上に活性層1bが設けられており、活性層1bが水を電気分解する。本実施形態の支持層1aと活性層1bは、互いに異なる材料で形成されているが、いずれも水蒸気を通す多孔質構造を有している。本実施形態の水蒸気は、不図示の水蒸気流路から支持層1aに流入し、支持層1aから活性層1bに流入し、活性層1b内で電気分解される。支持層1aは基材層とも呼ばれる。
【0020】
電解質膜2は、水素極層1の活性層1b上に設けられており、水素極層1と酸素極層3との間に挟まれている。電解質膜2は、水素極層1内で生成された酸素イオンを、酸素極層3へと伝導させる。本実施形態の電解質膜2は、酸素イオンを伝導させる機能と、水素ガスと酸素ガスとを分離する機能とを有している。
【0021】
酸素極層3は、電解質膜2上に設けられている。酸素極層3は、電解質膜2から流入した酸素イオン同士を結合して、酸素分子を生成する。
図1の電解セルは、電解質膜2と酸素極層3との間に反応防止層を備えていてもよい。この反応防止層は、電解質膜2と酸素極層3との間での原子の拡散や反応を防止する。
【0022】
上記のように、本実施形態の電解質膜2は、水素ガスと酸素ガスとを分離する機能を有している。よって、水素極層1内で生成された水素分子は、水素ガスとして水素極層1から電解セルの外部に放出される。一方、酸素極層3内で生成された酸素分子は、酸素ガスとして酸素極層3から電解セルの外部に放出される。
【0023】
図2は、第1実施形態の電解セルの製造方法を示す断面図である。
【0024】
まず、水素極層1、電解質膜2、および酸素極層3の各々を製造する(
図2(a))。例えば、電解質膜2は次のように製造する。まず、電解質膜2の原料粉末にバインダー、気孔形成剤、および溶媒を加えて、電解質膜2を製造するためのスラリーを用意する。次に、このスラリーを電解質膜2の形状に成形する。本実施形態の電解質膜2は、シート状に成形される。同様に、本実施形態の水素極層1と酸素極層3も、シート状に成形される。なお、電解質膜2の成形工程のさらなる詳細については、後述する。
【0025】
次に、水素極層1、電解質膜2、および酸素極層3を積層(
図2(b))および圧着(
図2(c))して、これらの成形体(積層体)を作製する。
図2(b)の工程では、電解質膜2と酸素極層3との間に上述の反応防止層を設けてもよい。次に、この成形体に脱バインダー処理を施すための脱脂および焼結工程を行い、未焼結の成形体を焼結体に変化させる(
図2(d))。こうして、
図1の電解セルが製造される。
【0026】
なお、
図2(b)および
図2(c)の工程で作製される成形体は、酸素極層3を含んでいなくてもよい。この場合には、
図2(d)の脱脂および焼結工程により未焼結の成形体を焼結体に変化させた後、焼結体の電解質膜2上に酸素極層3を積層する。なお、
図2(b)および
図2(c)の工程で作製される成形体が上述の反応防止層を含む場合には、焼結体の反応防止層上に酸素極層3を積層することになる。
【0027】
図3は、第1実施形態の電解質膜2の製造方法を示す断面図である。
【0028】
図3は、上述のスラリー2aから電解質膜2を成形して、電解質膜2を製造する様子を示している。スラリー2aは例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)を含有している。スラリー2aは、電解質材料の例である。
【0029】
図3はさらに、スラリー2aの下に敷かれるフィルム4と、スラリー2aの形状を制御するブレード5とを示している。本実施形態では、フィルム4とブレード5との間でスラリー2aの形状を制御することで、スラリー2aから電解質膜2を成形する。フィルム4は、第1部材の例である。ブレード5は、第2部材の例である。
【0030】
フィルム4は例えば、PET(ポリエチレンテレフタラート)で形成され、PETの表面に撥水性のシリコーン被膜が形成されている。ブレード5は例えば、ステンレスで形成され、ステンレスの表面に撥水性のシリコーン被膜が形成されている。本実施形態では、フィルム4およびブレード5によりスクリーン印刷を行うことで、スラリー2aから電解質膜2を成形する。具体的には、スラリー2aの下にフィルム4を敷き、フィルム4とブレード5との隙間でスラリー2aの厚さを制御する。これにより、所望の厚さに薄膜化された電解質膜2を製造することができる。
【0031】
前述したように、電解質膜2には、効率的な酸素イオン伝導性を実現するための薄膜化と、ガスタイト性を保持するための緻密性が要求される。よって、
図3にてスラリー2aから成形される電解質膜2の厚さは、酸素イオン伝導性の観点から薄くすることが望ましく、例えば20μm以下にすることが望ましい。本実施形態の電解質膜2の厚さは、上記のスクリーン印刷により15μmに設定される。
【0032】
しかし、電解質膜2に密度ムラがあると、電解質膜2の焼結時に電解質膜2内に微細亀裂が発生し、健全な電解セルを製造できなくなることが問題となる。例えば、スラリー2aがフィルム4やブレード5の表面に強く付着すると、スラリー2aから得られる電解質膜2の表面に縞模様の密度ムラが発生してしまう。
【0033】
そこで、本実施形態では、フィルム4と水との接触角が大きくなるようなフィルム4を使用し、かつ、ブレード5と水との接触角が大きくなるようなブレード5を使用する。これにより、スラリー2aがフィルム4やブレード5の表面に強く付着しないようスラリー2aの挙動を制御することが可能となり、電解質膜2の密度ムラの発生を抑制することが可能となる。フィルム4のシリコーン被膜や、ブレード5のシリコーン被膜は、フィルム4と水との接触角や、ブレード5と水との接触角を大きくする作用を有している。これらの接触角の少なくともいずれかは、後述するように86°以上とすることが望ましく、例えば90°以上とすることが望ましい。
【0034】
図4は、第1実施形態のフィルム4と水との接触角およびブレード5と水との接触角について説明するための断面図である。
【0035】
図4(a)は、フィルム4と水6との接触角θ1を示している。
図4(b)は、ブレード5と水6との接触角θ2を示している。これらの接触角θ1、θ2の少なくともいずれかは、86°以上とすることが望ましく、例えば90°以上とすることが望ましい。これらの接触角θ1、θ2の詳細については、
図5を参照して説明する。
【0036】
図5は、第1実施形態のフィルム4と水との接触角(フィルム接触角)およびブレード5と水との接触角(ブレード接触角)について説明するためのグラフである。
【0037】
図5のグラフは、様々なフィルム接触角およびブレード接触角を有する複数の焼結体を作製し、これらの焼結体を用いて行った実験の結果を示したものである。各焼結体が作製された手順は、次の通りである。
【0038】
まず、電解質膜2の原料粉末にバインダー、気孔形成剤、および溶媒を加えて、電解質膜2を製造するためのスラリー2aを用意する。バインダーは、例えばポリビニルアセタール樹脂であり、スラリー2aに15%添加される。次に、
図3に示す手法でスラリー2aを電解質膜2の形状に成形する。なお、水素極層1も、電解質膜2と同様のバインダーを用いてスラリーから成形される。
【0039】
次に、水素極層1と電解質膜2とを積層および圧着して、これらの成形体を作製する。圧着は例えば、70℃および15MPaの条件下で行われる熱圧着であり、20分間行われる。次に、この成形体に脱バインダー処理を施すための脱脂および焼結工程を行い、未焼結の成形体を焼結体に変化させる。脱脂は例えば、400℃で2時間行われる。焼結は例えば、1400℃で2時間行われる。なお、脱脂および焼結の際の昇温速度は、例えば10℃/時間であり、脱脂および焼結の際の雰囲気は、例えば大気雰囲気である。
【0040】
このようにして、各焼結体が作製される。各焼結体のサイズは、例えば50mm×50mmである。この焼結体から電解セルを製造する際には、この焼結体の電解質膜2上に酸素極層3を積層する。
【0041】
図5の実験では、フィルム接触角を83°または105°に設定し、ブレード接触角を75°、85°、95°、または103°に設定することで、8種類のフィルム接触角およびブレード接触角の組合せを有する80個の焼結体を作製した。各種類の焼結体の個数は10個である。なお、フィルム接触角やブレード接触角の値は、フィルム4やブレード5へのシリコーン処理量を変えることで調整した。シリコーン処理を施さない場合のフィルム接触角とブレード接触角の値は、それぞれ83°と75°である。
【0042】
そして、
図5の実験では、各焼結体に水素極層1側から水を付与し、各焼結体の電解質膜2側に水が染み出してくるか否かを確認し、水が染み出さなかった焼結体の個数を焼結体の種類ごとにカウントした。
図5に示す「7」「8」「9」「10」の値は、このカウント結果を示している。
【0043】
電解質膜2に密度ムラがあると、電解質膜2の焼結時に電解質膜2内に微細亀裂が発生し、健全な電解セルを製造できなくなる。
図5の実験で電解質膜2側に水が染み出してくる場合には、電解質膜2内に微細亀裂が存在し、水が微細亀裂を通って電解質膜2側に染み出していると考えられる。よって、
図5に示す「7」「8」「9」「10」の値は、各種類の10個の焼結体のうちの健全な焼結体の個数(健全数)を示している。
図5において、ある種類の焼結体の健全数が10の場合には、その種類の焼結体は好ましい性能を有しているといえる。
【0044】
図5において、ブレード接触角が75°や85°の場合には、いずれの種類の焼結体の健全数も10未満となっているが、ブレード接触角が95°や103°の場合には、いずれの種類の焼結体の健全数も10となっている。よって、ブレード接触角は、85°よりも大きい86°以上(例えば90°以上)とすることが望ましいことが分かる。
【0045】
また、接触角が大きくなればスラリー2aの付着を抑制できることは、ブレード5だけでなくフィルム4にもいえると考えられる。そのため、
図5の実験より詳細な実験を実施すれば、ブレード接触角と同様にフィルム接触角も大きいことが望ましいとの実験結果が得られると予想される。よって、フィルム接触角も、86°以上(例えば90°以上)とすることが望ましい。
【0046】
本実施形態のフィルム4およびブレード5は、上述のように、いずれもシリコーン被膜を備えている。これにより、フィルム接触角とブレード接触角を、いずれも86°以上に設定することが可能となり、例えばいずれも90°以上に設定することが可能となる。
【0047】
なお、ブレード5は、上記の例ではステンレスおよびシリコーン被膜により形成されているが、その他の材質で形成されていてもよい。このような材質の例を、
図6を参照して説明する。
【0048】
図6は、第1実施形態のブレード5の材質について説明するためのグラフである。
【0049】
図6は、ブレード5の材質がガラス、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、またはPFA(四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体)である場合の健全数を示している。なお、
図6の実験で使用した焼結体のフィルム接触角は、いずれも105°である。
【0050】
図6の実験によれば、ブレード5の材質をガラスとすることは好ましくないが、ブレード5の材質をPTFEまたはPFAとすることは好ましいことが分かる。よって、本実施形態のブレード5は、PTFEまたはPFAで形成してもよい。なお、この場合のブレード5は、ブレード5全体をPTFEまたはPFAで形成する代わりに、ブレード5におけるスラリー2aとの接触面のみをPTFEまたはPFAで形成してもよい。
【0051】
以上のように、本実施形態の電解質膜2は、フィルム4とブレード5との間でスラリー2aの形状を制御することで、スラリー2aから成形される。この際、86°以上(例えば90°以上)のフィルム接触角を示すフィルム4と、86°以上(例えば90°以上)のブレード接触角を示すブレード5の少なくともいずれかを使用する。よって、本実施形態によれば、電解質膜2の密度ムラの発生を抑制しつつ電解質膜2を薄膜化することができるなど、電解質膜2を好適に成形することが可能となる。これにより、電解質膜2の健全性を向上させることが可能となる。また、微細亀裂の発生が抑制されることで、ガスタイト性を向上させることが可能となる。なお、スラリー2aの形状は、フィルム4以外の第1部材とブレード5以外の第2部材とを用いて制御されてもよい。
【0052】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態の電解セルスタックの構造を示す断面図である。
【0053】
図7の電解セルスタックは、第1実施形態で説明した構造を有する複数の電解セル11を備えている。
図7の電解セルスタックはさらに、電解セル11と同じ個数の集電材12と、隣り合う電解セル11間や、最上部の電解セル11上や、最下部の電解セル11下に設けられたセパレータ13と、セパレータ13内に設けられた複数の第1流路14および複数の第2流路15を備えている。
図7の電解セルスタックはさらに、複数のヒータ16が配置された電気炉内に収容されている。
【0054】
各集電材12は、対応する電解セル11の水素極層1(
図1)に接する位置に配置されている。
図7の電解セルスタックは、各電解セル11の水素極層1に接する位置に集電材12を備えるだけでなく、各電解セル11の酸素極層3に接する位置に別の集電材(図示せず)も備えている。各電解セル11は、これらの集電材と共に電解セルユニットを構成している。
【0055】
各セパレータ13は、最下部のセパレータ13を除き、対応する電解セル13の水素極層1に水蒸気を供するための第1流路14および第2流路15を備えている。各セパレータ13において、第1流路14は互いに平行に設けられ、第2流路15は第1流路14を挟むように設けられている。本実施形態では、第2流路15内の水蒸気の圧力損失を第1流路14内の水蒸気の圧力損失よりも小さくするため、第2流路15の幅が第1流路14の幅よりも広く設定されている。
【0056】
ヒータ16は、
図7の電解セルスタックを挟むように配置され、水蒸気の電気分解を熱により促進するために使用される。上記の電解セル11、集電材12、セパレータ13等は、ヒータ16の間に配置されている。
【0057】
本実施形態によれば、電解セルスタックを構成する各電解セル11を第1実施形態の方法により製造することで、各電解セル11の電解質膜2を好適に成形することが可能となり、これにより電解セルスタックの性能を向上させることが可能となる。
【0058】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な方法は、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した方法の形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0059】
1:水素極層、1a:支持層、1b:活性層、2:電解質膜、2a:スラリー、
3:酸素極層、4:フィルム、5:ブレード、6:水、
11:電解セル、12:集電材、13:セパレータ、
14:第1流路、15:第2流路、16:ヒータ