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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/34 20060101AFI20240502BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
F16F9/34
F16F9/32 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020115279
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013017
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕泰
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴之
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-122845(JP,U)
【文献】特開2005-299791(JP,A)
【文献】国際公開第2020/137207(WO,A1)
【文献】特開2015-224780(JP,A)
【文献】特開平02-066333(JP,A)
【文献】実開昭63-014038(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/34
F16F 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと前記シリンダ内に軸方向へ移動自在に挿入されるロッドとを有する伸縮体と、
前記伸縮体内に2つの流体室を仕切るとともに前記流体室同士を連通する通路を有する隔壁部材と、
環状であって前記隔壁部材に軸方向に遠近可能であって前記通路を開閉するバルブとを備え、
前記隔壁部材は、前記バルブに臨む端部から前記軸方向に突出して前記バルブの内周面側が着座する環状の内周弁座と、前記バルブに臨む端部から前記軸方向へ突出し前記バルブの外周面側が着座する環状の外周弁座と、前記バルブに臨む端部から前記軸方向へ突出する中間弁座とを有し、
前記通路および前記中間弁座は、前記内周弁座と前記外周弁座との間に形成され
前記中間弁座は、前記隔壁部材の前記内周弁座と前記外周弁座との間に周方向に環状に形成されており、
前記通路は、前記内周弁座と前記中間弁座との間および前記中間弁座と前記外周弁座との間のそれぞれに複数設けられる
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
シリンダと前記シリンダ内に軸方向へ移動自在に挿入されるロッドとを有する伸縮体と、
前記伸縮体内に2つの流体室を仕切るとともに前記流体室同士を連通する通路を有する隔壁部材と、
環状であって前記隔壁部材に軸方向に遠近可能であって前記通路を開閉するバルブとを備え、
前記隔壁部材は、前記バルブに臨む端部から前記軸方向に突出して前記バルブの内周面側が着座する環状の内周弁座と、前記バルブに臨む端部から前記軸方向へ突出し前記バルブの外周面側が着座する環状の外周弁座と、前記バルブに臨む端部から前記軸方向へ突出する中間弁座とを有し、
前記通路および前記中間弁座は、前記内周弁座と前記外周弁座との間に形成され、
前記中間弁座の突出高さは、前記内周弁座および前記外周弁座の突出高さより低い
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項3】
シリンダと前記シリンダ内に軸方向へ移動自在に挿入されるロッドとを有する伸縮体と、
前記伸縮体内に2つの流体室を仕切るとともに前記流体室同士を連通する通路を有する隔壁部材と、
環状であって前記隔壁部材に軸方向に遠近可能であって前記通路を開閉するバルブとを備え、
前記隔壁部材は、前記バルブに臨む端部から前記軸方向に突出して前記バルブの内周面側が着座する環状の内周弁座と、前記バルブに臨む端部から前記軸方向へ突出し前記バルブの外周面側が着座する環状の外周弁座と、前記バルブに臨む端部から前記軸方向へ突出する中間弁座とを有し、
前記通路および前記中間弁座は、前記内周弁座と前記外周弁座との間に形成され、
前記中間弁座は、前記通路の開口を除いて前記隔壁部材の全周に亘って設けられる
ことを特徴とする緩衝器。
【請求項4】
前記通路は、前記隔壁部材に同一円周上に複数設けられており、
前記中間弁座は、前記通路間に設けられる
ことを特徴とする請求項に記載の緩衝器。
【請求項5】
前記隔壁部材は、前記シリンダ内に移動自在に挿入されるとともに前記シリンダ内を流体室である伸側室と圧側室とに区画するピストンであって、
前記通路は、前記伸側室と前記圧側室とを連通し、
流体を貯留するリザーバと、
前記伸側室と前記リザーバとを連通する排出通路と、
前記排出通路に設けられて前記伸側室から前記リザーバへ向かう前記流体の流れのみを許容するとともに前記流体の流れに抵抗を与える減衰バルブと、
前記リザーバと前記圧側室とを連通する吸込通路と、
前記吸込通路に設けられて前記リザーバから前記圧側室へ向かう前記流体の流れのみを許容する吸込チェックバルブとを備え、
前記バルブは、前記通路前記圧側室から前記伸側室へ向かう前記流体の流れのみを許容するチェックバルブである
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
緩衝器は、たとえば、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されるピストンロッドと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともにピストンロッドに連結されるピストンと、ピストンでシリンダ内に区画されるとともに作動油が充填される伸側室と圧側室と、シリンダの外周を覆ってシリンダとの間に作動油を貯留するリザーバを形成する外筒と、伸側室からリザーバへ向かう作動油の流れのみを許容して通過する作動油の流れに抵抗を与える減衰バルブを備えた減衰通路と、ピストンに設けられて圧側室から伸側室へ向かう作動油の流れのみを許容する整流通路と、リザーバから圧側室へ向かう作動油の流れのみを許容する吸込通路とを備えている。
【0003】
このように構成された緩衝器は、整流通路と吸込通路にチェックバルブとして機能するバルブを備えており、これらのバルブによって伸縮作動時に作動油がリザーバ、圧側室、伸側室を順番に巡ってリザーバへ到達するユニフロー型に設定されている。そして、緩衝器は、伸縮作動時にシリンダ内からリザーバへ排出される作動油の流れに減衰通路にて抵抗を与えて、伸縮を妨げる減衰力を発生する。
【0004】
また、ピストンに設けられたバルブは、環状であって背面側からピストンへ向けてばねで付勢されて、ピストンの整流通路の出口端を取り囲む環状の外周弁座と前記出口端の内周側に設けられた環状の内周弁座とに離着座しており、圧側室からの圧力を受けてピストンから全体が離間すると整流通路を開放する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-224780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
緩衝器は、たとえば、鉄道車両や構造物を制振対象として、鉄道車両の車体と台車との間や隣り合う鉄道車両同士の車体間、弾性支承される構造物と地盤との間や構造物の柱梁間等に設置されて制振対象の振動を減衰する目的で使用される。
【0007】
緩衝器の制振対象が前述したように鉄道車両や構造物といった重量物であると、緩衝器には制振対象の振動を抑制するために大きな減衰力の発生が要望される。このような要望を満たすべく緩衝器の減衰力を大きくするには、伸側室の圧力と圧側室の圧力との差を大きくすればよい。
【0008】
ところが、前述したバルブは、伸側室の圧力が圧側室の圧力よりも高いと、伸側室の圧力を背面で受けてピストンへ向けて押圧されて内周弁座と外周弁座とに着座しつつ中間部がピストン側へ撓むため、伸側室の圧力と圧側室の圧力との差を大きくすると大きく撓んで塑性変形して通路を遮断できなくなる可能性がある。よって、従来の緩衝器には、シリンダ内の高圧化による高減衰力の発生が難しいといった問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、シリンダ内の高圧化に耐えて高減衰力の発生を可能とする緩衝器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するために、本発明の緩衝器は、シリンダとシリンダ内に軸方向へ移動自在に挿入されるロッドとを有する伸縮体と、伸縮体内に2つの流体室を仕切るとともに流体室同士を連通する通路を有する隔壁部材と、環状であって隔壁部材に軸方向に遠近可能であって通路を開閉するバルブとを備え、隔壁部材は、バルブに臨む端部から軸方向へ突出してバルブの内周面側が着座する環状の内周弁座と、バルブに臨む端部から軸方向に突出してバルブの外周面側が着座する環状の外周弁座と、バルブに臨む端部から軸方向に突出する中間弁座とを有し、通路と中間弁座とが内周弁座と外周弁座との間に形成される。
【0011】
このように構成された緩衝器によれば、シリンダ内を従来よりも高圧にして大きな軸方向の力がバルブに作用してもバルブの塑性変形を阻止できる。
【0012】
また、中間弁座の突出高さは、内周弁座および外周弁座の突出高さより低くてもよい。このように構成された緩衝器によれば、中間弁座がバルブの内周弁座および外周弁座に対する着座を阻害しないので、バルブの塑性変形を防止しつつもバルブによる通路の円滑な遮断を保証できる。さらに、中間弁座は、通路の開口を除いて隔壁部材の全周に亘って設けられてもよい。
【0013】
また、通路が隔壁部材に同一円周上に複数設けられており、中間弁座が通路間に設けられるように緩衝器を構成してもよい。このように構成された緩衝器によれば、中間弁座が通路の開口を除いて隔壁部材の全周に亘って設けられるので、中間弁座によってバルブの中間部分が周方向で満遍なく支持されてバルブの疲労を抑制できる。
【0014】
さらに、中間弁座は、隔壁部材の内周弁座と外周弁座との間に周方向に環状に形成されており、通路は、内周弁座と中間弁座との間および中間弁座と外周弁座との間のそれぞれに複数設けられてもよい。このように構成された緩衝器によれば、バルブの中間部分の全周を切れ目なく支持できるので、より一層バルブの撓みによる疲労を抑制できるとともに、通路が内周弁座と中間弁座との間と外周弁座と中間弁座との間とに設けられているので流路面積も確保できるから緩衝器が高速で伸縮する用途での使用にも支障がない。
【0015】
そして、緩衝器は、隔壁部材がシリンダ内に移動自在に挿入されるとともにシリンダ内を流体室である伸側室と圧側室とに区画するピストンであって、通路が伸側室と圧側室とを連通し、流体を貯留するリザーバと、伸側室とリザーバとを連通する排出通路と、排出通路に設けられて伸側室からリザーバへ向かう流体の流れのみを許容するとともに流体の流れに抵抗を与える減衰バルブと、リザーバと圧側室とを連通する吸込通路と、吸込通路に設けられてリザーバから圧側室へ向かう流体の流れのみを許容する吸込チェックバルブとを備え、バルブは、通路圧側室から伸側室へ向かう流体の流れのみを許容するチェックバルブとされてもよい。このように構成された緩衝器によれば、ユニフロー型に設定される緩衝器の実用性を向上できる。
【発明の効果】
【0016】
以上より、本発明の緩衝器によれば、シリンダ内の高圧化に耐えて高減衰力を発生できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施の形態における緩衝器の縦断面図である。
図2】一実施の形態における緩衝器のピストン部分の拡大断面図である。
図3】一実施の形態における緩衝器のピストンの一部拡大断面図である。
図4】一実施の形態における緩衝器のピストンの平面図である。
図5】一実施の形態の第1変形例の緩衝器のピストンの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、一実施の形態における緩衝器Dは、シリンダ1とシリンダ1内に軸方向へ移動自在に挿入されるロッド2とを備えた伸縮体Eと、伸縮体E内に2つの流体室としての伸側室R1と圧側室R2とを仕切るとともに伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路3aを有する隔壁部材としてのピストン3と、環状であってピストン3に軸方向に遠近可能であって通路3aを開閉するバルブVとを備えている。そして、この緩衝器Dの場合、たとえば、図示しない鉄道車両における車体と台車との間に介装されて使用され、車体および台車の振動を抑制する。
【0019】
以下、緩衝器Dの各部について詳細に説明する。伸縮体Eは、本実施の形態の緩衝器Dでは、図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1の外周に設けられる外筒12と、シリンダ1内に移動自在に挿入されるロッド2とを備えている。
【0020】
シリンダ1の図1中左端には、環状のロッドガイド10が嵌合されており、シリンダ1の図1中右端はバルブケース11で閉塞されている。また、シリンダ1は、バルブケース11とともに図1中右端がボトムキャップ13で閉塞された外筒12内に収容されている。シリンダ1と外筒12との間には、環状であって作動油等の流体が気体とともに貯留されるリザーバRが形成されている。
【0021】
外筒12の図1中左端の開口部は、外筒12に取付けられるロッドガイド10によって閉塞されている。そして、シリンダ1とバルブケース11とは、外筒12に固定されるロッドガイド10とボトムキャップ13とで挟持されて外筒12内に収容されるとともに外筒12に対して固定されている。
【0022】
ロッド2は、ロッドガイド10内に摺動自在に挿通されてシリンダ1内に挿入されており、ロッドガイド10によって軸方向への移動が案内される。伸縮体Eは、このようにシリンダ1とロッド2とを備えており、シリンダ1に対してロッド2が軸方向に移動可能となっていて、シリンダ1に対するロッド2の軸方向への移動によって伸縮する。
【0023】
また、ロッド2は、図2に示すように、図2中右端となる先端に設けられて外径が小径であって外周に隔壁部材としてのピストン3が装着される小径部2aと、小径部2aの先端外周に設けられた螺子部2bと、小径部2aと小径部2aより図2中左方側との境に形成される第1段部2cと、第1段部2cよりも図2中左方側に設けられる第2段部2dおよび第3段部2eとを備えている。このように、本実施の形態の緩衝器Dでは、ロッド2は、先端側にて外径が3段階に小径となる形状となっている。
【0024】
ピストン3は、環状であってロッド2の小径部2aに装着されてシリンダ1内に移動自在に挿入されており、シリンダ1内を作動油等の流体が充填される伸側室R1と圧側室R2とに区画している。なお、流体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体の使用もできる。また、流体を液体に代えて気体としてもよい。
【0025】
ピストン3は、本実施の形態では、図2に示すように、軸方向に分割される第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とを備えて構成されている。第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とは、ともに環状であって、軸方向に重ねると一体となってピストン3を形成する。
【0026】
第1ピストン分割体31は、ねずみ鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、可鍛鋳鉄、合金鋳鉄、白鋳鉄等といった鋳鉄を材料として形成されている。鋳鉄は、炭素を2.14から6.67%、ケイ素を約1から3%の範囲で含む鉄の三元合金であって耐摩耗性に優れる特徴を持っている。第1ピストン分割体31は、円環状であって、図1中右端側となる分割面A1側の外周に周方向に沿って形成されて第2ピストン分割体32の図1中左端となる分割面A2側端に対向する環状凹部31aと、分割面A1から反分割面B1に軸方向に開口する複数の第1ポート31bと、反分割面B1側端から軸方向に突出してバルブVの内周側面が着座する環状の内周弁座31cと、反分割面B1側端から軸方向に突出してバルブVの外周側面が着座する環状の外周弁座31dと、内周弁座31cと外周弁座31dとの間に形成され反分割面B1側端から軸方向に突出する中間弁座31eとを備えている。
【0027】
図3に示すように、中間弁座31eの端面Wは、内周弁座31cの端面Xと外周弁座31dの端面Yとを含む平面である仮想平面Zよりも低くなっている。つまり、第1ピストン分割体31の軸方向で、中間弁座31eの反分割面B1側端からの突出高さは、内周弁座31cの端面Xおよび外周弁座31dの端面Yの両者を含む仮想平面Zよりも低くなっている。
【0028】
また、中間弁座31eには、図4に示すように、第1ピストン分割体31の第1ポート31bが形成されている。つまり、中間弁座31eは、第1ポート31b,31b間に設けられている。よって、中間弁座31eは、円環を第1ポート31bで分断された円弧状の複数の部分をもって内周弁座31cと外周弁座31dとの間に形成されている。後述するように、第1ポート31bは通路3aを形成する。よって、中間弁座31eは、通路3a間に設けられている。
【0029】
第2ピストン分割体32は、炭素を0.02から2.14%の範囲で含む炭素鋼を材料として形成されている。炭素鋼は、高い強度を持っており、第2ピストン分割体32は、第1ピストン分割体31よりも高い強度を備えている。そして、第2ピストン分割体32は、円環状であって、外周に周方向に沿って形成される第1シール溝32aと、図1中左端となる分割面A2側端に周方向に沿って形成される環状溝32bと、反分割面B2から軸方向に開口して環状溝32bに通じる複数の第2ポート32cとを備えており、内周に符示しない螺子溝を有してロッド2の螺子部2bに螺着されている。
【0030】
第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とは、ともに外径が同一であって、また、ロッド2の小径部2aの外周に装着可能な内径を備えている。そして、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32との中心を合わせて第2ピストン分割体32に第1ピストン分割体31を軸方向に重ねると、第1ピストン分割体31の各第1ポート31bと第2ピストン分割体32の環状溝32bとは、互いに対向するように配置されている。
【0031】
このように構成された第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とは、互いに分割面A1,A2同士を対向させて軸方向に重ねられて使用される。そして、第1ピストン分割体31の内周にロッド2の小径部2aを挿入した後、第2ピストン分割体32をロッド2の小径部2aの外周に形成された螺子部2bに螺着する。すると、第1ピストン分割体31がロッド2の第1段部2cと第2ピストン分割体32とで挟持されてロッド2に固定される。さらに、第2ピストン分割体32よりも螺子部2bの先端側には、ピストンナット15が螺着される。このように、ピストンナット15をロッド2の螺子部2bに螺着すると、第2ピストン分割体32とピストンナット15とでダブルナットを構成して、第2ピストン分割体32の弛みが防止されて、ロッド2からのピストン3の脱落が防止される。なお、第2ピストン分割体32の内周に螺子溝を設けずにピストンナット15のみによって、ピストン3をロッド2に固定するようにしてもよい。このようにロッド2に固定された第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とは、ロッド2の小径部2aの外周にて一体的に保持され、協働してピストン3として機能する。
【0032】
また、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とが重ねられると第1ポート31bと環状溝32bとが対向して、第1ポート31bと第2ポート32cとは、互いに連通されて伸側室R1と圧側室R2とを連通する通路3aを形成する。
【0033】
さらに、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とが重ねられると、第1ピストン分割体31の外周に設けられた環状凹部31aは、第2ピストン分割体32の分割面A2に対向して、ピストン3の外周を取り囲む環状の第2シール溝を形成する。
【0034】
この環状凹部31aで形成される第2シール溝内には、円環状であってシリンダ1とピストン3との間をシールするシール部材4が収容される。シール部材4は、シリンダ1の内周面に摺接するシールリング4aと、シールリング4aの内周側に配置されるOリング4bとを備えて構成されている。
【0035】
シールリング4aは、合成樹脂製であって、シリンダ1の内周面に摺接しており、シリンダ1との間を作動油が通過するのを阻止するとともに、ピストン3の移動の滑らかな移動を妨げないよう自己潤滑性を備えている。また、Oリング4bは、シールリング4aの内周面とピストン3の環状凹部31aの底面とに密着してシールリング4aとピストン3との間を閉鎖して環状凹部31a内を作動油が通過するのを阻止する。このように、本実施の形態の緩衝器Dでは、シール部材4は、シールリング4aとOリング4bとで構成されているが、単一部品で構成されるものであってもよい。
【0036】
シール部材4をピストン3の外周に装着するには、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とを重ねて一体化する前に、第1ピストン分割体31の分割面A1側から環状凹部31a内にシール部材4を収容すればよい。環状凹部31aは、第1ピストン分割体31の分割面A1側が開放されているので、環状凹部31aへのシール部材4を装着にはシール部材4を拡径させる必要はなく、何らシール部材4へ負荷をかけずに環状凹部31aへシール部材4を装着できる。
【0037】
このように、第1ピストン分割体31へシール部材4を組み付けした後、第1ピストン分割体31を第2ピストン分割体32へ重ねれば、ピストン3を形成できる。
【0038】
なお、第2ピストン分割体32の外周に設けられた第1シール溝32a内には、シリンダ1の内周に摺接してピストン3の軸方向の移動を案内する環状のピストンリング5が装着される。
【0039】
このように構成されたピストン3は、前述した通り、ロッド2の小径部2aの外周に装着される。具体的には、ロッド2の先端には、コイルばね16、環状のバルブVおよびピストン3が順に組み付けられる。ピストン3は、前述した通り、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とが互いの分割面A1,A2同士を密着させた状態でロッド2の小径部2aの外周に固定される。隔壁部材としてのピストン3の図1中上端となる伸側室側端にバルブVが積層される。ピストン3のバルブVに臨む端部には、前述した通り、内周弁座31c、外周弁座31dおよび中間弁座31eが設けられている。よって、内周弁座31c、外周弁座31dおよび中間弁座31eは、ともに隔壁部材としてのピストン3のバルブVに臨む端部からバルブV側へ向けて突出して設けられている。なお、本実施の形態の緩衝器Dでは、ピストン3の第1ピストン分割体31の反分割面B1がバルブVに臨む端部となる。
【0040】
バルブVは、高炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼等といったばね鋼を材料として形成されている。ばね鋼は、弾性限および耐疲労限に優れる特徴を持っている。バルブVは、環状であって第1ピストン分割体31の内周弁座31cおよび外周弁座31dに軸方向で対向しており、ロッド2の第1段部2cと第2段部2dとの間の外周に軸方向移動自在に嵌合されている。つまり、バルブVは、外周弁座31dの外径よりも大きな外径を持ち、内周弁座31cの外径よりも小さな内径を持っており、ピストン3に当接する状態では、内周弁座31cと外周弁座31dとに着座する。このように、バルブVがピストン3に当接する状態となると、バルブVの内周面側は、内周弁座31cに着座し、バルブVの外周面側は、外周弁座31dに着座する。
【0041】
より詳細には、本実施の形態の緩衝器DにおけるバルブVは、内径が20mm程度、外径が40mm程度で、1.2mmから2.0mm程度の板厚の環状板とされていて高い撓み剛性を備えている。よって、バルブVの内側と外側とを支持した状態で中間部分を撓ませるには非常に大きな力を必要とする。
【0042】
そして、バルブVは、ピストン3に対して軸方向で遠近可能であって、ピストン3における第1ピストン分割体31の内周弁座31cと外周弁座31dとに着座した状態では通路3aを閉塞し、ピストン3から全体が離間すると通路3aを開放する。バルブVは、第2段部2dに当接すると、それ以上は、図1中左方への移動が規制され、ピストン3から最大に離間するリフト量が第2段部2dの設置位置によって設定されている。コイルばね16は、第3段部2eとバルブVとの間に介装されており、バルブVをピストン3に当接させるように付勢している。
【0043】
よって、本実施の形態の緩衝器Dでは、バルブVは、背面側となる反ピストン側からコイルばね16によって付勢されている。そして、バルブVは、伸側室R1の圧力が圧側室R2の圧力より高いとピストン3の内周弁座31cおよび外周弁座31dに着座して通路3aを遮断する。他方、バルブVは、圧側室R2の圧力が伸側室R1の圧力よりも高くなり通路3aを通じて正面側となるピストン3側に作用する圧側室R2の圧力による力がコイルばね16の付勢力を上回るとピストン3から離間して通路3aを開放する。このようにバルブVは、本実施の形態の緩衝器Dでは、通路3aを圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油の流れのみを許容し、伸側室R1から圧側室R2へ向かう方向の作動油の流れに対してはバルブVを内周弁座31cおよび外周弁座31dに着座させて通路3aを閉塞するチェックバルブを構成している。
【0044】
バルブVの背面側に作用する伸側室R1の圧力が正面側に作用する圧側室R2の圧力よりも高くなっても、両者の差圧が小さい場合には、前記中間部分はさほど撓まないが、シリンダ1内を高圧化して大きな減衰力を得る場合には、バルブVに作用する伸側室R1の圧力が高くなって前記中間部分も撓むようになる。
【0045】
バルブVがこのように伸側室R1から高圧を受けて中間部分を撓ませると、当該中間部分が中間弁座31eに当接してバルブVの正面側を支持して、バルブVがそれ以上撓むのを阻止する。バルブVの中間部分を撓ませる力を大きくしていくと撓み量が増えてやがてはバルブVが降伏して塑性変形する。中間弁座31eは、バルブVの撓み量が塑性変形する撓み量に到達する前にバルブVの中間部分に当接してバルブVの塑性変形を阻止する。
【0046】
このように内周弁座31cと外周弁座31dとの間に中間弁座31eを設けると、バルブVの中間部を中間弁座31eが支持できるようになるので、バルブVが大きく変形して塑性変形してしまうのを防止できる。
【0047】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、中間弁座31eが隔壁部材としてのピストン3の端面からの突出高さは、内周弁座31cおよび外周弁座31dの双方の突出高さより低くなっている。具体的には、中間弁座31eの端面Wが内周弁座31cの端面Xと外周弁座31dの端面Yとを含む仮想平面Zよりも低い位置にある。よって、本実施の形態の緩衝器Dでは、バルブVに何ら力をかけず無負荷状態でバルブVをピストン3に重ねて内周弁座31cと外周弁座31dに着座させた状態では、バルブVの内側と外側の中間部分は中間弁座31eに当接しない。
【0048】
そして、中間弁座31eの端面Wは、前記仮想平面Zに対してバルブVの中間部分の撓みが弾性変形の範囲内に収まるようにバルブVの中間部分の撓み量を制限できる位置に配置されている。バルブVが内周弁座31cと外周弁座31dとで支持された状態で支持されていない中間部分をピストン3側へ向けて撓ませて弾性変形の範囲を超えて塑性変形する撓み量は、バルブVの内外径および板厚と材料によって異なるが、中間弁座31eの端面Wと仮想平面Zとの距離は、バルブVが弾性変形の範囲を丁度超えて塑性変形するときのバルブVの中間弁座31eと軸方向で対向する部分の撓み量Lmaxよりも短くしておけば、バルブVの塑性変形を阻止できる。よって、中間弁座31eの端面Wと仮想平面Zとの軸方向の距離をL1とすると、距離L1が0≦L1<Lmaxを満たすように、中間弁座31eの位置を決定すればよい。バルブVが塑性変形する撓み量は、バルブVの内外径および板厚と材料によって異なるので、バルブVの仕様に応じて撓み量Lmaxを求めて中間弁座31eの端面Wの位置を決定すればよい。また、中間弁座31eの端面Wは、仮想平面Zを反ピストン側へ超えなければ接するようにしてもよく、その場合は、バルブVが内周弁座31cおよび外周弁座31dに着座する状態で中間弁座31eにも当接するので、この場合は、バルブVの中間部分も支持して撓みを規制するようにできる。
【0049】
つづいて、ロッドガイド10には、伸側室R1とリザーバRとを連通する排出通路10aが設けられている。排出通路10aには、伸側室R1からリザーバRへ向かう作動油の流れのみを許容しつつ通過する作動油の流れに抵抗を与えるとともに、その逆向きの流れを阻止する減衰バルブ10bが設けられており、排出通路10aは、伸側室R1からリザーバRへ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。
【0050】
また、バルブケース11には、リザーバRと圧側室R2を連通する吸込通路11aが設けられている。吸込通路11aには、リザーバRから圧側室R2へ向かう作動油の流れのみを許容して、その逆向きの流れを阻止する吸込チェックバルブ11bが設けられており、吸込通路11aは、リザーバRから圧側室R2へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。
【0051】
緩衝器Dは、以上のように構成され、以下に、緩衝器Dの作動について説明する。まず、シリンダ1に対してロッド2が図1中左方へ移動して緩衝器Dが伸長作動する場合の作動について説明する。緩衝器Dが伸長作動すると、ピストン3がシリンダ1に対して図1中左方へ移動するので、伸側室R1が圧縮され圧側室R2が拡大される。
【0052】
この場合、バルブVが内周弁座31cおよび外周弁座31dに着座してピストン3に設けられている通路3aが閉塞されるため、伸側室R1内の作動油は、排出通路10aの減衰バルブ10bを通過してリザーバRへ排出されする。このような作動油の移動に対して減衰バルブ10bによって抵抗が与えられるため、伸側室R1内の圧力は、上昇してリザーバR内の圧力よりも高くなる。また、圧側室R2は、ピストン3の移動によって容積が拡大して作動油が不足するが、この不足分の作動油は、吸込チェックバルブ11bが開弁して吸込通路11aを介してリザーバRから圧側室R2に供給される。よって、圧側室R2内の圧力は、ほぼリザーバR内の圧力と等しくなる。
【0053】
このように緩衝器Dの伸長作動時には、ピストン3の伸側室R1側面に作用する伸側室R1の圧力がピストン3の圧側室R2側面に作用する圧側室R2内の圧力よりも高くなって、緩衝器Dは、伸長作動を妨げる伸側減衰力を発生する。また、シリンダ1内からロッド2が退出する体積分の作動油は、リザーバRから圧側室R2に供給されて、シリンダ1内から退出するロッド2の体積補償がなされる。
【0054】
つづいて、シリンダ1に対してロッド2が図1中右方へ移動して緩衝器Dが収縮作動する場合の作動について説明する。緩衝器Dが収縮作動すると、ピストン3がシリンダ1に対して図1中右方へ移動するので、圧側室R2が圧縮されるとともに伸側室R1が拡大される。
【0055】
この場合、バルブVの全体がピストン3に対して遠ざかるように移動して内周弁座31cおよび外周弁座31dから離間し、ピストン3に設けられている通路3aを開放するとともに、吸込チェックバルブ11bが閉じて吸込通路11aを遮断するため、圧側室R2内の作動油は、通路3aを通過して伸側室R1へ移動する。また、緩衝器Dの収縮作動時には、シリンダ1内にロッド2が侵入するため、シリンダ1内でロッド2がシリンダ1内に侵入する体積分の作動油が過剰となる。このシリンダ1内で過剰となる作動油は、排出通路10aの減衰バルブ10bを通過してリザーバRへ排出される。このような作動油の移動に対して減衰バルブ10bによって抵抗が与えられるため、伸側室R1内の圧力は、上昇してリザーバR内の圧力よりも高くなる。また、圧側室R2は、通路3aによって伸側室R1に連通された状態となるので、圧側室R2内の圧力と伸側室R1内の圧力とはほぼ等しくなる。
【0056】
このように緩衝器Dの収縮作動時には、ピストン3の伸側室R1側面に作用する伸側室R1の圧力とピストン3の圧側室R2側面に作用する圧側室R2内の圧力とがほぼ等しくなるが、ピストン3の伸側室R1内の圧力を受ける受圧面積よりも圧側室R2内の圧力を受ける受圧面積の方が大きいため、緩衝器Dは、収縮作動を妨げる圧側減衰力を発生する。また、シリンダ1内へロッド2が侵入する体積分の作動油は、シリンダ1内からリザーバRへ排出されて、シリンダ1内へ侵入するロッド2の体積補償がなされる。このように、緩衝器Dは、伸縮作動を呈すると減衰力を発生して、制振対象の振動を減衰させる。
【0057】
本実施の形態の緩衝器Dでは、シリンダ1とシリンダ1内に軸方向へ移動自在に挿入されるロッド2とを有する伸縮体Eと、伸縮体E内に伸側室(流体室)R1と圧側室(流体室)R2とを仕切るとともに同一円周上に伸側室(流体室)R1と圧側室(流体室)R2とを連通する通路3aを有するピストン(隔壁部材)3と、環状であってピストン(隔壁部材)3に軸方向に遠近可能であって通路3aを開閉するバルブVとを備え、ピストン(隔壁部材)3は、バルブVが離着座する内周弁座31cと外周弁座31dとの間に中間弁座31eを備えている。緩衝器Dの伸長作動時に、伸側室R1の大きな圧力がバルブVの背面側に作用してバルブVの内周と外周が内周弁座31cと外周弁座31dとで支持された状態で中間部分が撓むと、バルブVが塑性変形する前に中間弁座31eが中間部分の正面側に当接してバルブVのそれ以上の撓みを規制する。よって、バルブVは、塑性変形することなく、伸側室R1の圧力が低下すると復元力で平らな元の環状板の形状に戻るので、緩衝器Dの伸長作動時には、内周弁座31cと外周弁座31dとに着座して通路3aを遮断できる。すると、緩衝器Dは、バルブVが通路3aを開いたままとなることがなくなり、設計通りに減衰力を発揮できる。
【0058】
よって、緩衝器Dの伸縮作動時においてシリンダ1内を従来よりも高圧にして大きな軸方向の力がバルブVに作用してもバルブVの塑性変形を阻止できるので、本実施の形態の緩衝器Dによれば、シリンダ1内の高圧化に耐えて高減衰力の発生が可能となる。
【0059】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、中間弁座31eの突出高さが内周弁座31cおよび外周弁座31dの突出高さよりも低くなるように構成されている。このように構成された緩衝器Dによれば、中間弁座31eの突出高さが内周弁座31cおよび外周弁座31dの突出高さよりも低いので、バルブVの撓み剛性を大きくしても中間弁座31eがバルブVの内周弁座31cと外周弁座31dへの着座を妨げない。したがって、このように構成された緩衝器Dによれば、中間弁座31eがバルブVの内周弁座31cおよび外周弁座31dに対する着座を阻害しないので、バルブVの塑性変形を防止しつつもバルブVによる通路3aの円滑な遮断を保証でき、バルブVの撓み剛性を大きくできるためより高い減衰力の発生も可能となる。なお、中間弁座31eがバルブVの内周弁座31cと外周弁座31dへの着座を妨げないようにするには、中間弁座31eの突出高さは、内周弁座31cおよび外周弁座31dの突出高さと同じであってもよい。つまり、中間弁座31eの端面Wが内周弁座31cの端面Xと外周弁座31dの端面Yを含む仮想平面Zに接する位置に配置されてもよい。
【0060】
さらに、中間弁座31eは、バルブVの塑性変形を阻止できればよいので、バルブVの内周弁座31cと外周弁座31dとの対向部分の間の中間部分を周方向で離間して部分的に支持するものであってもよい。
【0061】
なお、本実施の形態の緩衝器Dにおける中間弁座31eには、通路3aが形成されるため、中間弁座31eは、通路3aの開口を除いてピストン3の全周に亘って設けられる。このように、中間弁座31eが通路3a間に設けられると、中間弁座31eがバルブVの中間部分を周方向で満遍なく支持するので、バルブVの中間部分の撓みが周方向で満遍なく抑制されてバルブVの疲労を抑制できる。
【0062】
また、緩衝器Dの伸長時には、バルブVがピストン3における通路3aを遮断し、緩衝器Dの収縮時には、バルブVがピストン3から離間して通路3aを開放する。このように、緩衝器Dが伸縮を繰り返すと、バルブVが第1ピストン分割体31に衝突を繰り返す。バルブVが当接する第1ピストン分割体31に求められるのは耐摩耗性であり、耐摩耗性に優れる材料は強度面で不利な場合があってピストンの全部を耐摩耗性に優れる材料で形成すると、緩衝器に高減衰力を発生させるべく緩衝器の伸縮時にシリンダ1内を高圧にして使用するとピストンの強度が不足する場合がある。
【0063】
ところが、本実施の形態の緩衝器Dでは、ピストン3は、軸方向に分割される第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とを備えており、バルブVが衝突する第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とが異なる材料で形成されており、第1ピストン分割体31より第2ピストン分割体32の方が高い強度を持っている。よって、緩衝器Dの伸縮作動時においてシリンダ1内を従来よりも高圧にして大きな軸方向の力がピストン3に作用しても、強度の高い第2ピストン分割体32が強度面で劣る第1ピストン分割体31を軸方向で支持するので、第1ピストン分割体31の変形を阻止できる。また、強度面で劣る第1ピストン分割体31の変形を強度面で優れる第2ピストン分割体32で支持できるので、緩衝器Dが高速で伸縮する用途で使用するために通路3aの流路面積を大きくしても第1ピストン分割体31の変形を阻止できる。よって、本実施の形態の緩衝器Dによれば、シリンダ1内のより一層の高圧化が可能となり更なる高減衰力の発生が可能となる。
【0064】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、第2ピストン分割体32がロッド2の螺子部2bに螺着されて第1ピストン分割体31を第2ピストン分割体32とロッド2の第1段部2cとで挟持する構造を採用しているので、シリンダ1内の圧力によってピストン3に作用する力が高い強度を持つ第2ピストン分割体32を介して伝達されるので、第1ピストン分割体31の内周部に過大なせん断力が作用するのを防止できる。よって、このように構成された緩衝器Dによれば、強度面で劣る第1ピストン分割体31をより一層保護できる。
【0065】
また、本実施の形態の緩衝器Dでは、バルブVが第1ピストン分割体31より高い強度を持つ材料で形成されているので、シリンダ1内の高圧化に対してバルブVの変形も阻止できる。
【0066】
なお、第1ピストン分割体31を鋳鉄で形成し、バルブVをばね鋼で形成するとよい。鋳鉄は、耐摩耗性に優れているためバルブVの繰り返しの衝突による摩耗にも耐えうるため第1ピストン分割体31の材料として最適となり、ばね鋼は、弾性限および耐疲労限に優れるため、伸側室R1から反ピストン側面となる背面側から高い圧力を受けるとともに繰り返しピストン3に衝突するバルブVの材料として最適となる。以上の通り、第1ピストン分割体31を鋳鉄で形成し、バルブVをばね鋼で形成した緩衝器Dによれば、第1ピストン分割体31の摩耗による劣化を低減できるとともにバルブVの変形や疲労といった劣化を低減できる。
【0067】
さらに、本実施の形態の緩衝器Dでは、第1ピストン分割体31が反分割面B1側から分割面A1側へ通じる第1ポート31bを備え、第2ピストン分割体32が反分割面B2側から分割面A2側へ通じる第2ポート32cを備え、第2ピストン分割体32の分割面A2側に周方向に沿って形成される第1ポート31bと第2ポート32cとの双方に連通する環状溝32bを備えている。このように構成された緩衝器Dによれば、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とを重ねる際に周方向にて位置合わせしなくとも第1ポート31bと第2ポート32cとが環状溝32bを通じて連通されるので、ピストン3に通路3aを設ける場合に緩衝器Dの組み立てが容易となる。環状溝は、第2ピストン分割体32ではなく、第1ピストン分割体31の分割面A1に設けられてもよい。
【0068】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、作動油(流体)を貯留するリザーバRと、伸側室R1とリザーバRとを連通する排出通路10aと、排出通路10aに設けられて伸側室R1からリザーバRへ向かう作動油(流体)の流れのみを許容するとともに作動油(流体)の流れに抵抗を与える減衰バルブ10bと、リザーバRと圧側室R2とを連通する吸込通路11aと、吸込通路11aに設けられてリザーバRから圧側室R2へ向かう作動油(流体)の流れのみを許容する吸込チェックバルブ11bとを備え、バルブVは、通路3a圧側室R2から伸側室R1へ向かう作動油(流体)の流れのみを許容するチェックバルブとされている。このように構成された緩衝器Dは、伸縮作動を呈すると、作動油(流体)がリザーバR、圧側室R2、伸側室R1を順に経てリザーバRへ一方通行で還流されるユニフロー型の緩衝器に設定される。ユニフロー型に設定された緩衝器Dでは、収縮時には縮小する圧側室R2から移動する作動油(流体)の全量が伸側室R1へ通路3aを介して移動する。よって、ユニフロー型に設定された緩衝器Dにおける通路3aを通過する作動油量(流体量)は、伸縮時に伸側室と圧側室とを作動油(流体)がリザーバを介さずに行き来するバイフロー型に設定される緩衝器のピストンに設けられた通路を通過する作動油量(流体量)よりも多くなる。このように、ユニフロー型に設定される緩衝器Dでは、ピストン3に設けられる通路3aの流路面積の大型化の要求が高い。
【0069】
そのため、ピストン3をバルブVが離着座する第1ピストン分割体31と、高い強度を持つ第2ピストン分割体32とを備えた構造は、シリンダ1内の高圧化によってより多くの作動油(流体)の通過を許容せざるを得なくなるユニフロー型の緩衝器Dに最適となり、ユニフロー型の緩衝器Dの実用性を向上できる。
【0070】
また、ピストン3は、軸方向に分割される第1ピストン分割体31と第1ピストン分割体31に軸方向で対向する第2ピストン分割体32とを備え、シール部材4が第1ピストン分割体31の分割面A1側の外周に設けられる環状凹部31aに収容されている。
【0071】
このように構成された緩衝器Dでは、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とを重ねる前にシール部材4を拡径させずとも環状凹部31aに収容でき、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とを重ねると、環状凹部31aに第2ピストン分割体32の分割面A2が対向してピストン3の外周に第2シール溝が形成される。すると、環状凹部31a内の収容されたシール部材4は、ピストン3に対して軸方向へ移動しようとしても、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とで軸方向に挟まれる格好となって移動できず、環状凹部31aから抜け出ることがない。
【0072】
そして、本実施の形態の緩衝器Dでは、シール部材4をピストン3に装着する場合、予め第1ピストン分割体31の環状凹部31a内に何ら負荷をかけずにシール部材4を収容した後、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とを重ねるだけでピストン3にシール部材4を装着できる。また、本実施の形態の緩衝器Dでは、シール部材4をピストン3から取り外す場合、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とを分離した後、シール部材4を第1ピストン分割体31の環状凹部31a内から簡単に取り外せる。
【0073】
よって、本実施の形態の緩衝器Dによれば、シール部材4を拡径させるような無理な力を作用させる必要がなく、容易にシール部材4をピストン3の外周に装着できる。したがって、緩衝器Dに大きな減衰力を発生させるためのシリンダ1内の高圧化に伴って、シール部材4の強度を高くした結果、シール部材4の拡径が難しくなっても、シール部材4のピストン3への装着にあたってシール部材4を拡径させる必要はないので、シール部材4をピストン3に容易に着脱できる。したがって、本実施の形態の緩衝器Dによれば、シール部材4の高強度化を図ってもシール部材4のピストン3への着脱を容易にできる。
【0074】
なお、本実施の形態の緩衝器Dでは、第1ピストン分割体31の分割面A1側の外周にシール部材4を収容する環状凹部31aを設けているが、第1ピストン分割体31の環状凹部31aを廃止して第2ピストン分割体32の分割面A2側の外周にシール部材4を収容する環状凹部を設けてもよい。このようにしても、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とを重ねる前にシール部材4を拡径する作業をせずとも第2ピストン分割体32に組み付け可能となるので、シール部材4の高強度化を図ってもシール部材4のピストン3への着脱を容易にできる。
【0075】
さらに、第1ピストン分割体31の分割面A1側の外周と第2ピストン分割体32の分割面A2側の外周との双方に互いに軸方向で対向する環状凹部を設けて、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とを重ねた際に、これら環状凹部でピストン3の外周にシール部材4を収容する一つの第2シール溝が形成されるようにしてもよい。このようにしても、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とを重ねる際にシール部材4を拡径する作業をせずともピストン3の外周に組み付け可能となるので、シール部材4の高強度化を図ってもシール部材4のピストン3への着脱を容易にできる。
【0076】
なお、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とは、軸方向で重ねて組み合わせられるとピストン3として機能できる限り、形状は任意に変更可能であって、分割面A1,A2に凹凸を備えていてもよい。
【0077】
また、前述したように、ピストン3は、本実施の形態では、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とで構成されているのでよりシリンダ1内のより一層の高圧化を図れるが、ピストン3は、複数の分割体で構成されるのではなく、分離不能な単一部品で構成されてもよい。さらに、ピストン3は、第1ピストン分割体31と第2ピストン分割体32とを含んで3つ以上のピストン分割体で構成されてもよい。
【0078】
さらに、前述したように、バルブVの疲労を抑制するには、なるべくバルブVの中間部分の全周を広範にわたって中間弁座31eで支持できるとよい。そのため、図5に示した一実施の形態の第1変形例の緩衝器のピストン41のように、内周弁座41aと外周弁座41bとの間に円環状の中間弁座41cを備えるとともに、内周弁座41aと中間弁座41cとの間と外周弁座41bと中間弁座41cとの間とに通路41d,41eを備えて、流路面積の確保とバルブVの中間部分の全周に亘る広範な支持とを実現してもよい。
【0079】
このように構成された緩衝器によれば、バルブVの中間部分の全周を切れ目なく支持できるので、より一層バルブVの撓みによる疲労を抑制できるとともに、通路41d,41eが内周弁座41aと中間弁座41cとの間と外周弁座41bと中間弁座41cとの間とに設けられているので流路面積も確保できるから緩衝器Dが高速で伸縮する用途での使用にも支障がない。
【0080】
なお、前述した実施の形態の緩衝器Dでは、隔壁部材をピストン3としているがピストン3ではなくバルブケース11を隔壁部材として、バルブケース11が内周弁座、外周弁座および中間弁座を備えてもよいし、ピストン3とバルブケース11をともに隔壁部材として、これらに内周弁座、外周弁座および中間弁座を設けてもよい。この場合、圧側室R2とリザーバRが流体室となる。
【0081】
なお、緩衝器Dは、ユニフロー型の緩衝器とされているが、伸縮作動時に伸側室R1と圧側室R2とで作動油が行き来するバイフロー型の緩衝器とされてもよい。また、排出通路10a、減衰バルブ10bおよび吸込通路11aについては、設置個所を図示した箇所以外にしてもよい。また、緩衝器Dの制振対象は、鉄道車両および構造物に限定されるものではなく、鞍乗車両、自動車、その他の機械等としてもよい。
【0082】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0083】
1・・・シリンダ、2・・・ロッド、3,41・・・ピストン(隔壁部材)、3a,41d,41e・・・通路、31c,41a・・・内周弁座、31d,41b・・・外周弁座、31e,41c・・・中間弁座、B1・・・反分割面(バルブに臨む端部)、D・・・緩衝器、E・・・伸縮体、R・・・リザーバ(流体室)、R1・・・伸側室(流体室)、R2・・・圧側室(流体室)、V・・・バルブ、W・・・中間弁座の端面、X・・・内周弁座の端面、Y・・・外周弁座の端面、Z・・・仮想平面
図1
図2
図3
図4
図5