(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/52 20060101AFI20240502BHJP
B41J 2/205 20060101ALI20240502BHJP
B41J 2/21 20060101ALI20240502BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20240502BHJP
H04N 1/405 20060101ALI20240502BHJP
H04N 1/407 20060101ALI20240502BHJP
H04N 1/60 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
B41J2/52
B41J2/205
B41J2/21
G06T1/00 510
H04N1/405 510
H04N1/407
H04N1/60
(21)【出願番号】P 2020124642
(22)【出願日】2020-07-21
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森部 将英
(72)【発明者】
【氏名】石川 尚
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-022090(JP,A)
【文献】特開2000-287089(JP,A)
【文献】特開2005-094528(JP,A)
【文献】米国特許第06250733(US,B1)
【文献】特開2012-216933(JP,A)
【文献】特開2012-206314(JP,A)
【文献】特開2019-031024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/52
B41J 2/205
B41J 2/21
G06T 1/00
H04N 1/405
H04N 1/407
H04N 1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注目画素の記録に用いる複数の色の階調値の合計である合計階調値が所定値から超過している超過分に基づき、該複数の色のうち2つ以上の色の組み合せにより生成される無彩色に対応する階調データを生成し、該生成した無彩色に対応する階調データに基づいて、前記複数の色に対応する階調データを生成する第1生成手段と、
前記第1生成手段が生成した階調データを量子化して、前記注目画素に対応するドットの記録を制御するためのデータを生成する第2生成手段と
を備え
、
前記第1生成手段は、重畳した際の濃度が低い色から順に階調データを生成することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記第1生成手段は、前記複数の色の階調値および前記超過分に応じた値のうち最小値を取得し、前記複数の色の階調値から該最小値を減じることで、前記複数の色に対応する階調データを生成することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記超過分に応じた値は、前記超過分の半分の値であることを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記第1生成手段は、前記無彩色に対応する階調データを優先して生成することを特徴とする請求項
1ないし3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記第2生成手段は、前記第1生成手段が生成した階調データにおいて対象の階調データの量子化に用いる閾値を、前記第1生成手段が生成した階調データにおいて該対象の階調データよりも濃度の濃い階調データの合計に基づいて求めることを特徴とする請求項1ないし
4の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記無彩色に対応する階調データは、シアン、マゼンタ、イエローのドットが重畳されて記録される無彩色の階調データであることを特徴とする請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記無彩色に対応する階調データは、明度の高い淡色のシアン、明度の高い淡色のマゼンタ、イエローのドットが重畳されて記録される無彩色の階調データであることを特徴とする請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記無彩色に対応する階調データは、レッド、シアンのドットが重畳されて記録される無彩色の階調データ、グリーン、マゼンタのドットが重畳されて記録される無彩色の階調データ、ブルー、イエローのドットが重畳されて記録される無彩色の階調データ、の何れかを含むことを特徴とする請求項1ないし
5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
更に、
前記第2生成手段が生成したデータに基づいて記録媒体への記録の制御を行う手段を備えることを特徴とする請求項1ないし
8の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
画像処理装置が行う画像処理方法であって、
前記画像処理装置の第1生成手段が、注目画素の記録に用いる複数の色の階調値の合計である合計階調値が所定値から超過している超過分に基づき、該複数の色のうち2つ以上の色の組み合せにより生成される無彩色に対応する階調データを生成し、該生成した無彩色に対応する階調データに基づいて、前記複数の色に対応する階調データを生成する第1生成工程と、
前記画像処理装置の第2生成手段が、前記第1生成工程で生成された階調データを量子化して、前記注目画素に対応するドットの記録を制御するためのデータを生成する第2生成工程と
を含
み、
前記第1生成工程では、重畳した際の濃度が低い色から順に階調データを生成することを特徴とする画像処理方法。
【請求項11】
コンピュータを、請求項1ないし
9の何れか1項に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階調データの量子化技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
擬似階調法を用いて画像を記録する場合、多値の画像を量子化する必要がある。その際に利用される量子化法としては誤差拡散法やディザ法が知られている。特に、予め記憶されている閾値と多値データの階調値とを比較してドットの記録または非記録を決定するディザ法は、誤差拡散法に比べて処理負荷が小さく、多くの画像処理装置で用いられている。このようなディザ法では、ドットの分散性が課題となるが、例えば特許文献1には、好適なドット分散性を得るための閾値マトリクスとしてブルーノイズ特性を有する閾値マトリクスを利用する方法が提案されている。
【0003】
また、特許文献2には、個々の色材(すなわち単色)では好ましい分散性が得られても、複数の色材(すなわち混色)で画像を記録する場合に分散性が損なわれて粒状感が目立ってしまう課題を解決するためのディザ法が開示されている。具体的には、好適な分散性を有する1つの共通閾値マトリクスを用意し、複数の色間で互いの閾値をシフトさせながら量子化処理を行う方法が開示されている。以下、このような量子化方法を本明細書では色間処理と称する。色間処理によれば、低階調部において異なる色のドット同士は互いに排他的かつ分散性の高い状態で記録されるため、混色画像においても好適な画質を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第5111310号明細書
【文献】米国特許第6867884号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2のような色間処理の量子化(インク同士の重なりを抑制する量子化)においては、粒状性が改善する一方で、色転びと呼ばれる画質弊害が発生することがあった。色転びとは、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)のようなカラーインクを用いて無彩色のグラデーション画像を形成する際に、グラデーションの一部が色づいてしまう現象を意味する。通常の量子化であればC,M,Yのドットパターンは無相関となるため、C,M,Yのインク量を調整することで色転びを抑制することが可能である。一方、上述の色間処理では、各インクの合計値が閾値の最大値を超えた際の閾値巡回処理により、C,M,Yのドットの重なり方が変化し、インク量と発色との関係が複雑となる。そのため、色間処理においては色転び抑制が困難であった。本発明では、色の重なりを抑制する量子化処理において、色転びを抑制するための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一様態は、注目画素の記録に用いる複数の色の階調値の合計である合計階調値が所定値から超過している超過分に基づき、該複数の色のうち2つ以上の色の組み合せにより生成される無彩色に対応する階調データを生成し、該生成した無彩色に対応する階調データに基づいて、前記複数の色に対応する階調データを生成する第1生成手段と、
前記第1生成手段が生成した階調データを量子化して、前記注目画素に対応するドットの記録を制御するためのデータを生成する第2生成手段と
を備え、
前記第1生成手段は、重畳した際の濃度が低い色から順に階調データを生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の構成によれば、色の重なりを抑制する量子化処理において、色転びを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】記録装置および記録ヘッド102の構成例を示す図。
【
図4】量子化処理に係るプリンタ100の機能構成例を示すブロック図。
【
図5】(a)は色間処理部405の機能構成例を示すブロック図、(b)は色間処理部405が行う処理と量子化部407が行う量子化処理とを示すフローチャート。
【
図6】多次色変換部404による変換(多次色変換)のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
[第1の実施形態]
<記録装置の構成>
先ず、本実施形態に係る記録装置について、
図1(a)を用いて説明する。本実施形態に係る記録装置はインクジェット記録装置であるプリンタであり、
図1(a)には、本実施形態に係るプリンタを模式的に示している。
図1(a)のプリンタは、シリアルタイプの記録装置であり、記録ヘッド102を備える。
【0011】
記録ヘッド102の構成例を
図1(b)に示す。記録ヘッド102は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色のインク(色材)を吐出する記録ヘッドを有する。より詳しくは記録ヘッド102は、色C,M,Y,Kのそれぞれについて、該色のインク滴を吐出可能なノズルがy方向(記録媒体搬送方向)に並んでいるノズル列(記録素子列)106を有する。そして、それぞれのノズル列は図中x方向(記録ヘッド走査方向)に並んでいる。
図1(b)では、各ノズルはy方向(記録媒体搬送方向)に1列に配置されているが、ノズルの数やその配置は
図1(b)に示したものに限らない。例えば、同一色でもインクの吐出量が異なるノズル列を有してもよいし、同一吐出量のノズルが複数列あってもよいし、ノズルがジグザグに配置されているような構成であってもよい。
【0012】
プラテン105は、記録ヘッド102の吐出口が形成された面(吐出面)と対向する記録位置に設けられ、記録媒体103の裏面を支持することで、記録媒体103の表面とインク吐出面との距離を一定の距離に維持する。プラテン105上に搬送されて記録が行われた記録媒体103は、搬送ローラ104(および他の不図示のローラ)がモータ(不図示)の駆動力によって回転することによりy方向に搬送される。
【0013】
<記録システムの構成>
次に、
図1に示した上記のプリンタと、該プリンタのホスト装置として機能するPC(パーソナルコンピュータ)と、を有する記録システムの構成例について、
図2のブロック図を用いて説明する。
図2に示すPC200とプリンタ100とは無線および/または有線のネットワークを介して接続されており、PC200とプリンタ100とはこのネットワークを介して互いにデータ通信が可能なように構成されている。
【0014】
先ず、PC200について説明する。
【0015】
CPU201は、RAM202に格納されているコンピュータプログラムやデータを用いて各種の処理を実行する。これによりCPU201は、PC200全体の動作制御を行うとともに、PC200が行ものとして説明する各種の処理を実行もしくは制御する。
【0016】
RAM202は、HDD(ハードディスクドライブ)203からロードされたコンピュータプログラムやデータを格納するためのエリア、データ転送I/F204を介してプリンタ100から受信したデータを格納するためのエリア、を有する。また、RAM202は、CPU201が各種の処理を実行する際に用いるワークエリアを有する。このようにRAM202は、各種のエリアを適宜提供することができる。
【0017】
HDD203には、OS(オペレーティングシステム)や、PC200が行うものとして説明する各種の処理をCPU201に実行もしくは制御させるためのコンピュータプログラムやデータが保存されている。HDD203に保存されているコンピュータプログラムやデータは、CPU201による制御に従って適宜RAM202にロードされ、CPU201による処理対象となる。
【0018】
表示部I/F206は、表示部250をPC200に接続するためのインターフェースである。表示部250は、液晶画面やタッチパネル画面を有し、CPU201による処理結果を画像や文字などでもって表示する。なお、表示部250は、PC200と一体化されていてもよい。また、表示部250は、画像や文字を投影するプロジェクタなどの投影装置であってもよい。
【0019】
操作部I/F205は、操作部260をPC200に接続するためのインターフェースである。操作部260は、キーボード、マウス、タッチパネル画面などのHID(Human Interface Device)であり、ユーザが操作することで各種の指示をCPU201に対して入力することができる。
【0020】
データ転送I/F204は、PC200を上記のネットワークに接続するためのインターフェースである。PC200とプリンタ100との間のデータ送受信のための接続方式としては、USB、IEEE1394、LAN等を用いることができる。
【0021】
CPU201、RAM202、HDD203、表示部I/F206、操作部I/F205、データ転送I/F204は何れもシステムバス280に接続されている。なお、PC200の構成は
図2に示した構成に限らず、PC200が行うものとして説明する各処理を実行可能な構成であれば、如何なる構成であってもよい。
【0022】
次に、プリンタ100について説明する。
【0023】
CPU211は、RAM212やROM213に格納されているコンピュータプログラムやデータを用いて各種の処理を実行する。これによりCPU211は、プリンタ100全体の動作制御を行うとともに、プリンタ100が行うものとして説明する各種の処理を実行もしくは制御する。
【0024】
RAM212は、ROM213からロードされたコンピュータプログラムやデータを格納するためのエリア、データ転送I/F214を介してPC200から受信したデータを格納するためのエリア、を有する。さらにRAM212は、CPU211が各種の処理を実行する際に用いるワークエリアを有する。このようにRAM212は、各種のエリアを適宜提供することができる。
【0025】
ROM213には、プリンタ100の設定データ、プリンタ100の起動に係るコンピュータプログラムやデータ、プリンタ100の基本動作に係るコンピュータプログラムやデータ、などが格納されている。
【0026】
ヘッドコントローラ215は、上記の記録ヘッド102が有するそれぞれのノズル列に対して記録データを供給するとともに、記録ヘッド102における吐出動作を制御する。具体的には、ヘッドコントローラ215は、RAM212における所定のアドレスから制御パラメータおよび記録データを読み込む。そして、CPU211が、制御パラメータおよび記録データをRAM212における所定のアドレスに書き込むことにより、ヘッドコントローラ215によって処理が起動され、記録ヘッド102からのインク吐出が行われる。
【0027】
画像処理アクセラレータ216は、CPU211よりも高速に画像処理を実行可能なハードウェアである。具体的には、画像処理アクセラレータ216は、RAM212の所定のアドレスから画像処理に必要なパラメータとデータを読み込む。そして、CPU211が上記パラメータとデータをRAM212の上記所定のアドレスに書き込むことにより、画像処理アクセラレータ216が起動され、画像処理アクセラレータ216は上記データに対して所定の画像処理を行う。なお、画像処理アクセラレータ216は必須な要素ではく、プリンタの仕様などに応じて、CPU211による処理のみで画像処理を実行してもよい。なお、プリンタ100の構成は
図2に示した構成に限らず、プリンタ100が行うものとして説明する各処理を実行可能な構成であれば、如何なる構成であってもよい。
【0028】
<入力画像に対する処理>
次に、入力画像に対して本実施形態に係る記録システムが行う処理について、
図3のフローチャートに従って説明する。
【0029】
ステップS300では、PC200のCPU201は、入力画像を取得する。入力画像はHDD203からRAM202に取得してもよいし、不図示のネットワークを介して外部からRAM202に取得してもよいし、その取得方法は特定の取得方法に限らない。
【0030】
ステップS301では、PC200のCPU201は、ステップS300で取得した入力画像に対して色補正を行う。本実施形態では、入力画像は、その色空間がsRGB等の規格化された色空間で表現され、RGB8ビットの入力画像であるものとする。ここで、RGB8ビットの入力画像とは、各画素が、8ビットのR(レッド)成分の輝度値、8ビットのG(グリーン)成分の輝度値、8ビットのB(ブルー)成分の輝度値、を有する入力画像である。ステップS301では、このような入力画像を、プリンタ100に固有の色空間に対応するRGB12ビットの入力画像(各画素が、12ビットのR成分の輝度値、12ビットのG成分の輝度値、12ビットのB成分の輝度値、を有する入力画像)に変換する。輝度値を変換する方法は、予めHDD203などに格納されているルックアップテーブル(LUT)を参照する等の公知の方法を採用することで実現可能である。
【0031】
ステップS302では、PC200のCPU201は、ステップS301で変換したRGB12ビットの入力画像を、プリンタ100のインク色であるC、M、Y、Kのそれぞれの16bit階調データ(濃度データ)に分解(インク色分解)する。つまり、ステップS302では、RGB12ビットの入力画像を4チャンネルの画像(RGB12ビットの入力画像の各画素のC成分の階調(濃度)を16ビットで表す画像、RGB12ビットの入力画像の各画素のM成分の階調(濃度)を16ビットで表す画像、RGB12ビットの入力画像の各画素のY成分の階調(濃度)を16ビットで表す画像、RGB12ビットの入力画像の各画素のK成分の階調(濃度)を16ビットで表す画像)に分解する。インク色分解においても、上記の色補正と同様、予めHDD203などに格納されているルックアップテーブル(LUT)を参照する等の公知の方法を採用することで実現可能である。そしてPC200のCPU201は、4チャンネルの画像(CMYKデータ)を、データ転送I/F204を介してプリンタ100に対して送信する。
【0032】
ステップS303では、プリンタ100のCPU211は、PC200から送信されたCMYKデータを、データ転送I/F214を介してRAM212に受信する。そしてプリンタ100のCPU211は、該受信したCMYKデータに対して量子化処理を行う。CMYKデータは多次色のデータ(多次色データ)に変換されてから量子化される。本実施形態における多次色とは、C、M、Y、Kの1次色、および、CとMとYのインクが重畳されて記録される3次色を意味するものとする。以下ではこの3次色をCMYと表記する。CMYは無彩色である。量子化処理された多次色データは、例えば3値に量子化する場合、レベル0~レベル2の2bitデータとなる。本実施形態に係る量子化処理の詳細については後述する。
【0033】
次に、ステップS304では、プリンタ100のCPU211は、量子化されたそれぞれの多次色データを統合(多次色統合)してCMYKデータに変換する。多次色統合の詳細については後述する。
【0034】
ステップS305では、プリンタ100のCPU211は、ステップS304の処理で得られたCMYKデータに対するインデックス展開処理を行う。具体的には、個々の画素に記録するドットの数と位置を定めた複数のドット配置パターンから、注目画素に記録するドットの数と位置を定めたドット配置パターンとして、該注目画素のレベル値に対応するドット配置パターンを選択する。その際、ドット配置パターンは、個々の画素に相当する領域に記録するドットの数をレベル値によって異ならせる形態であっても良いし、ドットの大きさをレベル値に応じて異ならせる形態であっても良い。このようなインデックス展開処理は、C,M,Y,Kのそれぞれについて行う。そしてこのようなインデックス展開処理が終了すると、処理はステップS306に進む。
【0035】
ステップS306では、プリンタ100のCPU211は、画素ごとのドット配置パターンに応じてドットを並べたドットデータを2値データとしてRAM212に出力する。ヘッドコントローラ215は、このような2値データに基づく上記の記録データを上記の記録ヘッド102が有するそれぞれのノズル列に対して供給するとともに、記録ヘッド102における吐出動作を制御する。
【0036】
なお、上記の説明では、ステップS300~S302の処理をPC200が行い、ステップS303~S306の処理をプリンタ100が行うものとして説明したが、それぞれのステップにおける処理の主体は上記の説明に限らない。例えば、ステップS300~S303の処理をPC200が行うようにしても良い。その場合、ステップS303ではPC200は量子化の結果をプリンタ100に対して送信し、ステップS304ではプリンタ100は該量子化の結果を受信する。以降のプリンタ100の動作は上記説明と同様である。また、例えば、プリンタ100の性能によっては、ステップS301~S306の処理をプリンタ100が行ってもよい。この場合、ステップS300にてPC200は、取得した入力画像をプリンタ100に送信する。
【0037】
<量子化処理>
次に、上記のステップS303における量子化処理について説明する。ステップS303における量子化処理に係るプリンタ100の機能構成例について、
図4のブロック図を用いて説明する。以下では
図4の機能部を処理の主体として説明するが、実際には、該機能部の機能をCPU211に実行もしくは制御させるためのコンピュータプログラムをCPU211が実行することで、該機能部の機能が実現される。なお、
図4に示した機能部はハードウェアで実装しても構わない。本実施形態の量子化処理においては、まず入力値に関する処理が施され、次に閾値に関する処理が施され、最後にディザ法による量子化処理が施される。
【0038】
取得部401は、個々の画素の濃度を示す16ビットの階調データを取得する。本実施形態の取得部401は、最大16ビットの階調データを8色分取得することができるものとする。
図4では、第1色~第4色それぞれの16ビットの階調データが第1~4色入力値として入力される状態を示している。つまり、
図4では、Cチャンネルの画像における画素の階調データ(第1色入力値)、Mチャンネルの画像における画素の階調データ(第2色入力値)、Yチャンネルの画像における画素の階調データ(第3色入力値)、Kチャンネルの画像における画素の階調データ(第4色入力値)、が取得部401に入力されている状態を示している。
【0039】
ノイズ付加部402は、第1色入力値、第2色入力値、第3色入力値、第4色入力値、のそれぞれ(16ビットの階調データ)に所定のノイズを付加する。階調データにノイズを付加することにより、同レベルの階調データが連続して入力された場合であっても、同一パターンが連続配置される状態を回避し、スジやテクスチャ等を緩和することができる。ノイズ付加部402は、所定のランダムテーブルと、固定強度と、階調データと、に応じた変動強度を掛け合わせることにより、画素ごとにノイズが生成されて階調データに付加される。
【0040】
ここで、ランダムテーブルは、ノイズの正負を設定するテーブルであり、画素位置ごとに正、ゼロまたは負を設定している。本実施形態のランダムテーブルは最大8面有することができ、それぞれのテーブルサイズは任意に設定可能としている。固定強度はノイズ量の強さを示し、その大きさによってノイズの大小が決まる。本実施形態では、画像の粒状度とスジやテクスチャの度合い等に応じ、印刷モードごとに最適なランダムテーブルや固定強度を設定することによって、ノイズ量を適切に調整することが可能になっている。なお、階調データへのノイズの付加方法については特定の付加方法に限らない。
【0041】
正規化部403は、16ビットのレンジ0~65535を複数の分割レンジに分割する。そして正規化部403は、第1色入力値、第2色入力値、第3色入力値、第4色入力値のそれぞれの画素に対して、該色入力値(階調値)を含む分割レンジに対応するレベルの値(ステップS305でインデックス展開が可能なレベル値)を対応付ける。
【0042】
例えば、ステップS305におけるインデックス展開処理がレベル0~レベル(n-1)のn値に対応する処理の場合、正規化部403は、16ビットのレンジである65535階調を(n-1)等分する。そして正規化部403は、(n-1)等分したそれぞれの分割レンジのうち第1色入力値に対応する階調値を含む分割レンジに対応するレベルのレベル値を、該第1色入力値の画素に対応付ける。また正規化部403は、(n-1)等分したそれぞれの分割レンジのうち第2色入力値に対応する階調値を含む分割レンジに対応するレベルのレベル値を、該第2色入力値の画素に対応付ける。また正規化部403は、(n-1)等分したそれぞれの分割レンジのうち第3色入力値に対応する階調値を含む分割レンジに対応するレベルのレベル値を、該第3色入力値の画素に対応付ける。また正規化部403は、(n-1)等分したそれぞれの分割レンジのうち第4色入力値に対応する階調値を含む分割レンジに対応するレベルのレベル値を、該第4色入力値の画素に対応付ける。
【0043】
さらに、正規化部403は、それぞれの分割レンジを12ビット(4096階調)に正規化する。これにより、第1色入力値、第2色入力値、第3色入力値、第4色入力値のそれぞれの画素について、該色入力値を含む分割レンジを12ビット(4096階調)に正規化した正規化分割レンジにおける、該色入力値に対応する12ビットの色入力値(12ビットの階調データ)が得られる。以上の制御により、量子化数(n)がいくつであっても、後段の量子化処理を同様の処理で行うことができる。
【0044】
以上説明した取得部401、ノイズ付加部402、正規化部403の処理は、各色の階調データについて並列に行われる。すなわち、本実施形態の場合は、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックについての12ビットの階調データが生成され、多次色変換部404に入力される。
【0045】
多次色変換部404は、正規化部403から出力されたC,M,Y,Kの12ビットの階調データを多次色データに変換する。多次色データとは、上述したように、1次色のC、M、Y、Kのデータおよび3次色のCMYのデータであり、5種類(5色)のデータとなる。多次色変換部404による変換の詳細については後述する。そして多次色変換部404は、5色の多次色データをディザ処理部411に対して出力する。
【0046】
ディザ処理部411は、多次色変換部404から入力された5色の多次色データ(C、M、Y、Kのそれぞれの12ビットデータ、CMYの12ビットデータ)のうち、量子化対象の色の多次色データ(処理対象データ)については量子化部407に入力する。またディザ処理部411は、多次色変換部404から入力された5色の多次色データのうち、処理対象データ以外の多次色データについては、参照データとして色間処理部405に入力する。
【0047】
色間処理部405は、閾値取得部406が取得した閾値に対し、参照データに基づいて所定の処理を施すことで最終的な閾値を決定し、該決定した閾値を量子化部407に出力する。
【0048】
量子化部407は、処理対象データを、色間処理部405から出力された閾値と比較することで、該処理対象データに対する量子化結果(量子化データ)として、記録(1)または非記録(0)を出力する。
【0049】
閾値取得部406は、ROM213などのメモリに格納されている複数のディザパターン(閾値マトリクス)410から、対応する1つの閾値マトリクスを選択し、該選択した閾値マトリクスから、処理対象データの画素位置に対応する閾値を取得する。本実施形態において、ディザパターン410は、0~4094の閾値がブルーノイズ特性を有するように配列された2次元マトリクスであり、512×512画素、256×256画素、512×256画素、など様々なサイズや形状を有する。すなわち、メモリには、サイズや形状が異なる複数の閾値マトリクスが予め格納されており、閾値取得部406は、この中から印刷モードとインク色に対応した閾値マトリクスを選択する。そして閾値取得部406は、該選択した閾値マトリクスにおいて2次元的に配列された複数の閾値の中から、処理対象データの画素位置(x,y)に対応する閾値を取得し、該取得した閾値を色間処理部405に対して出力する。
【0050】
<多次色変換処理>
次に、多次色変換部404による変換(多次色変換)について、
図6のフローチャートに従って説明する。
【0051】
ステップS601では、多次色変換部404は、正規化部403から出力されたC,M,Y,Kの12ビットの階調データを取得する。以下では、C,M,Y,Kの12ビットの階調データとして、C,M,Y,K=1300、1100、900、2300の階調データが入力された場合を例にとり説明する。
【0052】
ステップS602では、多次色変換部404は、ステップS601で取得したC,M,Y,Kの12ビットの階調データから、以下の(式1)に従って超過量Δを求める。
【0053】
Δ=C+M+Y+K-I_max (式1)
ここで、I_maxは正規化部403で正規化された値の最大値であり、本実施形態では4095である。このとき超過量Δは、上記の(式1)より、Δ=1300+1100+900+2300-4095=1505となる。つまり、ステップS602では、多次色変換部404は、注目画素の記録に用いる複数の色(C,M,Y,K)の階調データの合計である合計階調値が所定値から超過している超過分をΔとして求める。
【0054】
次に、ステップS603では、多次色変換部404は、超過量Δから、3次色であるCMY(12ビットの階調データ)を、以下の(式2)に従って求める。
【0055】
CMY=Min(Δ/2,C,M,Y) (式2)
ここで、Min()は引数の中から最小値を返す関数であり、(式2)の場合、CMYには、Δ/2(Δの半分の値),C,M,Yのうち最小の値が設定されることになる。なお、Δが奇数の場合には、CMYには小数点以下を切り捨てた値が設定される。このとき、CMYは、上記の(式2)より、CMY=Min(1505/2,1300,1100,900)=752となる。
【0056】
次に、ステップS604では、多次色変換部404は、C,M,YからCMYを減算したものをそれぞれ、最終的なC,M,Yとして求める。ただし、ステップS603で小数点以下の切り捨てを行った場合には、いずれか1つの色の階調値からさらに1を減算する。本実施形態では、1を減算する色はYとする。ただし、Yが0の場合がありうるため、その場合には、Y,M,Cの順で1を減算する対象とする色を決定する。上記の処理により、多次色データ(C,M,Y,K、CMY)は以下の通りとなる。
【0057】
K=2300
CMY=752
C=1300-752=548
M=1200-752=348
Y=900-752-1=147
そして多次色変換部404は、このようにして求めた多次色データをディザ処理部411に対して出力する。
【0058】
<色間処理>
次に、色間処理部405について、
図5を用いて説明する。
図5(a)は色間処理部405の機能構成例を示すブロック図である。
図5(a)に示す機能構成例を有する色間処理部405が行う処理と、量子化部407が行う量子化処理と、について、
図5(b)のフローチャートに従って説明する。
【0059】
以下では、色間処理部405には多次色変換部404から多次色データとして、K=2300、CMY=752、C=548、M=348、Y=147、の5色のデータが入力されたケースを例にとり説明する。
【0060】
図5(a)では、5色の多次色データうちi番目(i=1~5)の多次色データを処理対象データとし、該処理対象データをIn_i(x,y)として示している。ここで、(x,y)は画素位置であり、閾値取得部406が閾値マトリクスの中から処理対象データの画素位置に対応する閾値を取得するための座標パラメータとなる。以下では説明を簡単にするために(x,y)を省略して表記することがある。
【0061】
また、
図5(a)には、i番目の多次色データを処理対象データとする場合における参照データを、In_j(x、y)として示している。ここでjは1~i-1の整数である。例えば3番目の多次色データIn_3を処理する際には、In_1とIn_2の2つが参照データとなる。なお、In_1~In_5は視覚的に目立ちやすい(濃度の濃い)順になっており、本実施形態では、K,CMY,C,M,Yの順である。
【0062】
ステップS501では、算出部408は、色間処理部405に入力された参照データIn_j(x,y)を取得する。そしてステップS502では、算出部408は、該取得した参照データIn_j(x,y)を用いて、処理対象データIn_i(x,y)に対する閾値オフセットOfs_i(x,y)を、以下の(式3)に従って求める。
【0063】
Ofs_i(x,y)=ΣIn_k(x,y) (式3)
ここでΣは、k=1~jについてIn_k(x,y)を合計した結果(総和)を表す。ここで、(式3)は以下の式と等価である。
【0064】
Ofs_1(x,y)=0 (式3-1)
Ofs_2(x,y)=In_1(x,y) (式3-2)
Ofs_3(x,y)=In_1(x,y)+In_2(x,y) (式3-3)
Ofs_4(x,y)=In_1(x,y)+In_2(x,y)+In_3(x,y) (式3-4)
Ofs_5(x,y)=In_1(x,y)+In_2(x,y)+In_3(x,y)+In_4(x,y) (式3-5)
次に、ステップS503では、減算部409は、処理対象データIn_i(x,y)に対応する閾値Dth(x、y)を閾値取得部406から取得する。そしてステップS504では減算部409は以下の(式4)に従い、閾値取得部406から取得した閾値Dth(x,y)から、算出部408が求めた閾値オフセットOfs_i(x,y)を減算した減算結果を、量子化閾値Dth_i(x,y)として求める。
【0065】
Dth_i(x,y)=Dth(x,y)―Ofs_i(x,y) (式4)
このとき、Dth_i(x,y)が負になる場合には、以下の(式5)に示す如くDth_max+1を加算して量子化閾値Dth_i(x,y)とする。これにより、常に量子化閾値Dth_iは0~Dth_maxの値となる。
【0066】
Dth_i(x,y)<0のとき
Dth_i(x,y)=Dth_i(x,y)+(Dth_max+1) (式5)
ステップS505では、量子化部407は減算部409から、(式4)もしくは(式5)に従って求めた量子化閾値Dth_i(x,y)を取得する。そして量子化部407は、処理対象データIn_i(x,y)と量子化閾値Dth_i(x,y)とを比較する。そして量子化部407は、該比較の結果に応じて、画素位置(x,y)に対するドットの記録(1)または非記録(0)を、処理対象データIn_i(x,y)の量子化データOut_i(x,y)として出力する。
【0067】
例えば、量子化部407は、In_i(x,y)≧Dth_i(x,y)であれば、処理対象データIn_i(x,y)の量子化データOut_i(x,y)として「記録(1)」を出力する。一方、量子化部407は、In_i(x,y)<Dth_i(x,y)であれば、処理対象データIn_i(x,y)の量子化データOut_i(x,y)として「非記録(0)」を出力する。
【0068】
図7(a)は、In_1~In_5が入力された場合に、閾値マトリクスに配置された複数の閾値0~Dth_maxのうち、記録(1)と判断される閾値の範囲を示す図である。横軸は閾値Dthであり、参照番号711はDth_max(ディザマトリクスのもつ閾値の最大値)を示す。それぞれの線はドットが配置される閾値の範囲を示している。
【0069】
本例の場合、Kについては、(式3-1)よりOfs_1=0である。よって、0~In_1-1(701~702)の閾値に対応する画素位置が記録(1)に設定される。同様に、CMYについては、(式3-2)よりOfs_2=In_1であり、In_1~In_1+In_2-1(703~704)が記録(1)に設定される。同様に、Cについては、(式3-3)よりOfs_3=In_1+In_2であり、In_1+In_2~In_1+In_2+In_3-1(705~706)が記録(1)に設定される。同様に、Mについては、(式3-4)よりOfs_4=In_1+In_2+In_3であり、In_1+In_2+In_3~In_1+In_2+In_3+In_4-1(707~708)が記録(1)に設定される。同様に、Yについては、(式3-5)よりOfs_5=In_1+In_2+In_3+In_4であり、In_1+In_2+In_3+In_4~In_1+In_2+In_3+In_4+In_5-1(709~710)が記録(1)に設定される。
【0070】
このように、色間処理では、共通の閾値マトリクスを利用しながらも、互いの入力値をオフセット値とすることにより、各色で固有の量子化閾値Dth_iを求めている。そして、その新たに求めた量子化閾値Dth_iを量子化処理で用いることにより、複数の色が混在したドット配置パターンがブルーノイズ特性となるようにドットを配置することができる。
【0071】
<多次色統合処理>
次に、多次色統合部412の動作について説明する。多次色統合部412は、量子化部407から出力されたC,M,Y,K,CMYの5色の量子化データを、Cの量子化データ、Mの量子化データ、Yの量子化データ、Kの量子化データ、に統合する。
【0072】
具体的には、多次色統合部412は、Cの量子化データに、CとMとYの重畳ドットである3次色CMYの量子化データを加算(論理和)したものを、最終的なCの量子化データとして確定する。同様に多次色統合部412は、Mの量子化データに3次色CMYの量子化データを加算(論理和)したものを、最終的なMの量子化データとして確定する。同様に多次色統合部412は、Yの量子化データに3次色CMYの量子化データを加算(論理和)したものを、最終的なYの量子化データとして確定する。
【0073】
図7(b)は、Kの量子化データ=2300、CMYの量子化データ=752、Cの量子化データ=548、Mの量子化データ=348、Yの量子化データ=147を、Cの量子化データ、Mの量子化データ、Yの量子化データ、Kの量子化データ、に統合した結果、閾値マトリクスに配置された複数の閾値0~Dth_maxのうち、記録(1)と判断される閾値の範囲を示す図である。
【0074】
なお、多次色統合処理(ステップS304)の後、ステップS305では、多次色統合部412は、統合されたC,M,Y,Kのそれぞれの量子化データに対してインデックス展開処理を行うことで、C,M,Y,Kのそれぞれについて、画素位置(x,y)に対応するドット配置パターンを決定する。つまり、プリンタ100のCPU211は、量子化データが「0」の画素についてはドットが配置されないドット配置パターンを決定し、量子化データが「1」の画素については、該画素に対応するレベル値に対応するドット配置パターンを決定する。量子化データが「1」の画素の画素位置(x,y)に記録されるドットの数(大きさ)は、例えば、該画素のレベル値が1の場合は1ドット(あるいは小ドット)、該画素のレベル値が2の場合は2ドット(あるいは大ドット)というように、レベル値に対応する数(大きさ)に設定されている。これにより、C,M,Y,Kのそれぞれに対してドット配置パターンを決定することができる。
【0075】
<本実施形態の効果>
以下、本実施形態の効果について説明する。
図8(b)は、C,M,Y,Kのそれぞれの階調データ(1300,1100,900,2300)に対して、上記のような多次色変換を行わずに従来の色間処理を行った場合の結果を示す図である。処理順はK,C,M,Yの順である。
図8(a)は、
図8(b)の結果を多次色の重畳ドットで表現した図である。
【0076】
閾値をシフトさせながら、K,C,M,Yの順に量子化した結果、各インクの合計値が閾値の最大値を超えた時に、MインクおよびYインクの閾値が巡回し、Kドットと重なる。この時、Kと重なったMインクおよびYインクはKの影響を受け、ほぼ無彩色の発色となる。一方で、重畳せずに記録されたCインクおよびMインクについてはKの影響を受けない。その結果、全体としては青色に色が転ぶ。
【0077】
次に、この青の色転びに対してC、M、Yの量を調整することを考える。青みを減らすため、C,Mの量を減らしてYの量を増やし、C,M,Y,Kのそれぞれの階調データを1100,900,1100,2300としたときの結果を
図9に示す。
図8と比較すると、Mの量を減らしたにも関わらず、Kインクと重ならないMドットの数は逆に増えてしまうことがわかる。また、Yを増やしたにも関わらず、全てKインクと重なってしまいほぼ無彩色となる。従って、マゼンタ方向への意図しない色変化が発生してしまう。このように、従来の色間処理の量子化においてはインク量と発色との関係が複雑となるため、色転びを抑制することが難しい。
【0078】
一方、本実施形態の結果である
図7(a)では、Kインクとの重畳ドットが発生していない。また、C,M,Yドットの数は(548、348,147)となっており、入力の色信号のCMY(1300,1100,900)での差分を維持している。すなわち、意図した色味を維持したまま、無彩色の3次色CMYを生成している。そのため、従来の色間処理で生じていた色転びを抑制することができる。
【0079】
以上説明したように、本実施形態によれば、インク同士の重なりを抑制する量子化において、ドットの重なりが発生する場合に、無彩色のドットを優先的に生成することで、色転びを抑制することができる。
【0080】
[第2の実施形態]
本実施形態以降では、第1の実施形態との差分について説明し、以下で特に触れない限りは第1の実施形態と同様であるものとする。第1の実施形態では、超過量に基づいて3次色CMYを算出する例について説明した。しかしながら、入力されたC,M,Yの比率によっては、色転びが十分に解決されないことがある。
図10は、第1の実施形態においてC,M,Y,Kのそれぞれの階調データを1600,1100,600,2300とした場合の多次色変換の結果を示す図である。
【0081】
(式1)よりΔ=1600+1100+600+2300-4095=1505となり、(式2)よりCMY=Min(1505/2,1600,1100,600)=600となるため、最終的な多次色データは以下の通りとなる。
【0082】
K =2300
CMY=600
C =1600-600 =1000
M =1100-600-1=499
Y =600-600 =0
上記の5色の多次色データの合計は4399となり、Dth_maxである4094を超える。その結果、
図10(b)に示すように、一部のMドットがKインクと重畳してしまう。そこで、本実施形態では、多次色変換部404が、CMYに限定せず全ての多次色データを生成可能な例について説明する。
【0083】
<多次色変換処理>
図11に、インク数がCMYKの4種類である場合に生成可能な多次色データの組み合わせを示す。1次色はC,M,Y,Kの4種類、2次色はCM,CY,CK,MY,MK,YKの6種類の組み合わせがある。また、3次色はCMY,CMK,CYK,MYKの4種類、4次色はCMYKの1種類のみである。なお、0次色はインクが打たれていない紙白であり、Wと表記する。
【0084】
以下、本実施形態に係る多次色変換処理について、
図12および
図13を用いて説明する。
図12は本実施形態に係る多次色変換処理のフローチャートである。
図13は多次色変換の過程と結果を表す図であり、0次色のWから4次色のCMYKまでの多次色データを、優先度順に左から記載している。
【0085】
本実施形態では原則として、重畳した際の濃度が低い(明度の高い)多次色から順に優先度を設定する。ただし、無彩色であるCMYについては、有彩色であるMY,CY,CMよりも優先度を高くしている。以下では多次色変換部404に入力されるK,C,M,Yのそれぞれの階調データが2300,1600,1100,600であるケースを例にとり説明する。
【0086】
ステップS1201では、多次色変換部404は初期化処理を行う。初期化処理では、多次色データのうちWのみを最大値4095とし、それ以外を全て0にクリアする。
図13の行1301は、初期化された状態を表している。また、初期化処理では、以下の処理で用いる変数iを1に初期化する。
【0087】
次に、ステップS1202では、多次色変換部404は、K,C,M,Yの先頭からi色目(i=1~4)の色の階調データを処理対象データ(入力値)として取得する。
【0088】
次に、ステップS1203では、多次色変換部404は、優先度順を参照し、有効色の多次色データを取得する。ここで有効色とは、
図13において1以上の値が入っている色である。ただし、処理対象となるi色目のインクと重畳できない色は有効色から除く。本実施形態では、同一インクは重畳できないものとし、例えば、Kの階調データを処理対象データとして選択した場合、K,YK,MK,MYK,CYK、CMK,CMYKは有効色から除外される。
図13の例では、行1301が示す初期状態の後でKの階調データを処理対象データとして選択した場合、値「4095」が入っているWのみが有効色となる。
【0089】
ステップS1204で多次色変換部404は、ステップS1202で取得した処理対象データとステップS1203で取得した多次色データとを用い、該多次色データの有効色に対して該処理対象データの色(K,C,M,Yの先頭からi色目の色)を重畳する。
図13の行1302は、行1301が示す初期状態の後でKの階調データを処理対象データとして選択し、ステップS1203で取得した多次色データの有効色に対して処理対象データの色を重畳した結果を示している。行1302に示す如く、ステップS1203で取得した多次色データの有効色W=4095に対して処理対象データの色K=2300を重畳した結果、W=4095-2300=1795、K=2300となる。
【0090】
次に、ステップS1205では、多次色変換部404は、ステップS1202で取得した処理対象データにおいて有効色に重畳されていない残りを求める。行1302の場合、Kが全て(2300)Wに重畳されたので、この場合は残りは0となる。
【0091】
ステップS1206では、多次色変換部404は、ステップS1205で求めた残りが0であるか否かを判断する。この判断の結果、ステップS1205で求めた残りが0であれば、処理はステップS1207に進み、ステップS1205で求めた残りが0ではない場合には、処理はステップS1203に進む。
【0092】
ステップS1207では、多次色変換部404は、ステップS1202でK,C,M,Yの全色の階調データを処理対象データとして取得したか否かを判断する。この判断の結果、ステップS1202でK,C,M,Yの全色の階調データを処理対象データとして取得した場合、多次色変換部404は、各色の多次色データをディザ処理部411に出力し、
図12のフローチャートに従った処理は終了する。一方、ステップS1202でK,C,M,Yのうち未だ処理対象データとして取得していない色の階調データが残っている場合には、変数iの値を1つインクリメントして処理はステップS1202に進む。
【0093】
図13の行1303は、i=2番目の色であるCについて処理した結果を示している。Cは、最も優先度が高い有効色であるWに対して重畳する。Wは1795であるため、全てのCがWに重畳され、Cが1600、Wは1795-1600=195となる。Cの残りは0であるため、ステップS1206の判定によりステップS1207へ進み、i=3の色であるMを処理対象として、ステップS1202へ戻る。
【0094】
図13の行1304は、i=3番目の色であるMについて処理した結果を示している。Mは、まず最も優先度が高い有効色であるWに対して重畳する。Wは195であるため、全てのMをWに重畳することはできない。Mにおいて195がWに重畳された結果、Wは0、Mは195となり、Mの残りは1100-195=905となる。Mの残りが0でないため、ステップS1206の判定によりステップS1203へと戻る。再びMに対する有効色をステップS1203で取得すると、最も優先度の高い有効色はCであるため、Cにおいて905をMに対して重畳する。その結果、CMが905となり、Cは1600-905=695に更新される。
【0095】
同様に、
図13の行1305は、i=4番目の色であるYについて処理した結果を示している。Yは、最も優先度の高い有効色であるCMに対して重畳する。その結果、CMYが600となり、CMは905-600=305に更新される。
【0096】
以上で本実施形態の全ての色が処理完了し、K=2300、CMY=600、CM=305、C=695、M=195の多次色データがディザ処理部411に送出されることになる。
【0097】
<本実施形態の効果>
図14(a)は、本実施形態の結果を示す図である。なお、色間処理部405における処理順は、視覚的に目立ちやすい(濃度の濃い)順である。本実施形態では、K,CM、CMY,C,Mの順である。
【0098】
図10に示した結果と異なり、ほぼ無彩色となる2次色のMKが生成されず、有彩色のCMが生成されている。すなわち、意図した色味を維持できており、色間処理で生じる色転びを抑制することができる。
【0099】
以上説明したように、本実施形態によれば、インク同士の重なりを抑制する量子化において、ドットの重なりが発生する場合に、入力されたC,M,Yの比率が偏っていても色転びを抑制することができる。
【0100】
<変形例>
上記の実施形態では、C,M,Y,Kの4色のインクを用いる例について説明した。しかしながら、インクの種類や数は上記の実施形態に限定されず、例えば、明度の高い淡色インクとして、グレーインク(Gr)やライトシアンインク(Lc)、ライトマゼンタインク(Lm)を用いても良い。この場合には、無彩色であるGrや、LcとLmとYの組み合わせで生成される無彩色の3次色LcLmYの優先度を高くすることが好適である。
【0101】
また、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)のような特色インクを併用することもできる。この場合にも同様に、無彩色の2次色CR、MG、YBの優先度を高くすることで色転びを抑制できる。
【0102】
また、上記の実施形態では有効色の優先度から色の重なりを制御していたが、第1の実施形態と同様に下記の式よりドットの重なりを制御できる。
【0103】
例えばK,C,M,Yのそれぞれの階調データが2300,1600,1100,600であるとする。この場合、(式1)よりΔ=1600+1100+600+2300-4095=1505、(式2)よりCMY=Min(1505/2,1600,1100,600)=600となるため、多次色データは以下の通りとなる。
【0104】
K =2300
CMY=600
C =1600-600 =1000
M =1100-600-1=499
Y =600-600 =0
この時点でのDth_max超過量Δ2は4399-4095=304であるので、2次色CMの値は以下の(式6)
CM=Min(Δ2,C,M) (式6)
よりCM=Min(304,1000,499)=304となり、最終的な多次色データは、以下の通りとなる。
【0105】
K =2300
CMY=600
CM =304
C =1600-600-304 =696
M =1100-600-1-304=195
Y =600-600 =0
<出力画像のドット間引きで実施する例>
また、上記の実施形態では、閾値からオフセット量を減算することで色間処理を行う例について説明したが、色間処理の方法は上記の実施形態に限定されない。例えば、以下に示す2つの色間処理は同じ結果となる。処理1は、上記の実施形態で説明した処理である。処理2は、入力値にオフセットをかけて量子化した後に、第1色の量子化結果を減算している。
【0106】
(処理1)
Dth_2(x,y)=Dth(x,y)-Ofs_2(x,y)
if In_2>Dth_2(x,y):
Out_2=1
else:
Out_2=0
(処理2)
In_2(x,y)=In_2 (x,y) + Ofs_2(x,y)
if In_2>Dth(x,y):
Out_2=1
else:
Out_2=0
Out_2=Out_2-Out_1
処理2では他の色の出力結果(Out1)を参照しているため、並列に処理をすることができないという欠点があるものの、いずれの処理においても等価な結果を得ることができる。
【0107】
<誤差拡散で実施する例>
また、上記の実施形態では、量子化処理として閾値マトリクスによるディザ処理を用いる例を説明したが、量子化処理の方法は上記の実施形態に限定されない。例えば、公知の誤差拡散法において、第1色の量子化結果が記録(1)となった画素では、第2色の閾値にオフセットを加算することで、同等の色間処理が実現できる。ただしこの場合も、他の色の出力結果(Out1)を参照しているため、並列に処理をすることはできない。
【0108】
また、上記の実施形態では
図1に示すシリアル型の記録装置を用いて説明したが、上記の実施形態はフルライン型の記録装置にも対応することができる。
【0109】
また、上記の説明において使用した数値、処理タイミング、処理順、データの種別や数などは、具体的な説明を行うために一例として挙げたものであり、このような一例に限定することを意図したものではない。
【0110】
また、以上説明した各実施形態や各変形例の一部若しくは全部を適宜組み合わせて使用しても構わない。また、以上説明した各実施形態や各変形例の一部若しくは全部を選択的に使用しても構わない。
【0111】
(その他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0112】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0113】
401:取得部 402:ノイズ付加部 403:正規化部 404:多次色変換部 405:色間処理部 406:閾値取得部 407:量子化部 410:ディザパターン 411:ディザ処理部 412:多次色統合部