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特許7481947ケーシング引き抜き装置および引き抜き方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】ケーシング引き抜き装置および引き抜き方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/02 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
E02D9/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020136604
(22)【出願日】2020-08-13
(65)【公開番号】P2022032630
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000216025
【氏名又は名称】鉄建建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399101337
【氏名又は名称】株式会社ジェイテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野本 将太
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 勉
(72)【発明者】
【氏名】内田 有吏子
(72)【発明者】
【氏名】竹田 茂嗣
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 隆
(72)【発明者】
【氏名】湊 憲二
(72)【発明者】
【氏名】桑原 清
(72)【発明者】
【氏名】益田 彰久
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-125548(JP,U)
【文献】特開平04-336115(JP,A)
【文献】特開平09-111763(JP,A)
【文献】特開平08-246452(JP,A)
【文献】特開2013-159967(JP,A)
【文献】実開昭49-150502(JP,U)
【文献】特開2001-164569(JP,A)
【文献】特開2005-299347(JP,A)
【文献】特開平11-217831(JP,A)
【文献】特開2011-179239(JP,A)
【文献】特開2004-124368(JP,A)
【文献】中国実用新案第210289679(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 7/00-13/10
E02D 5/22-5/80
E21D 1/00-9/14
E21D 20/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業対象物に装置を取り付けるためのベースプレートを備えた固定枠ユニットと、地中に挿入されているケーシングの一部を把持する把持手段および該把持手段を移動させる圧力式伸縮手段を備え前記固定枠ユニットにより保持される引き抜きユニットと、前記ケーシングの入り口部に挿入され当該ケーシング内の充填物を押える押え手段を備え前記固定枠ユニットにより保持される抜け止めユニットと、を備えたケーシング引き抜き装置であって、
前記圧力式伸縮手段は、シリンダとピストンロッドを有し所定の距離をおいて互いに平行に配設された一対のジャッキであり、
前記固定枠ユニットは、前記ベースプレートと平行をなすように配設された反力プレートと、一端が前記ベースプレートに結合され他端に結合された前記反力プレートを前記ベースプレートに連結するため所定の間隔を有して平行に配設された一対の連結バーと、を備え、
前記ベースプレートには、軸穴を有する少なくとも一対の支持片が当該ベースプレートの対象物と接合する面と反対側の面から略平行に突出するように設けられ、前記ジャッキのピストンロッドの端部には前記一対の支持片の軸穴と軸心が同一方向である軸穴を有する連結部材が設けられ、
前記一対の連結バーの前記ベースプレートのある側の端部には、前記一対の支持片の軸穴と軸心が同一方向である軸穴が設けられており、
前記一対の支持片に設けられた前記軸穴と前記連結部材に設けられた前記軸穴と前記一対の連結バーに設けられた前記軸穴内に挿通されたピン軸により、ヒンジ構造が構成され、前記ヒンジ構造により前記引き抜きユニットおよび前記固定枠ユニットは前記ベースプレートに対して前記一対のジャッキの並び方向と直交する方向に回転可能に連結され、
前記引き抜きユニットは、前記一対のジャッキのシリンダを所定の距離をおいて共にケーシング引き抜き方向を向いた状態で固定する支持プレートと、前記支持プレートの中央部に固着され引き抜き対象のケーシングが挿通可能な円環状の押輪と、を備え、
前記把持手段は、前記押輪と一体の円筒状の外チャックと、引き抜き対象のケーシングの外径よりも大きな内径を有し先端に向かうほど厚みが薄くなる円筒状をなし軸方向にスリットが設けられ前記外チャックの内側に嵌合された内チャックと、を備え、前記一対のジャッキの作動により前記支持プレートと共に前記外チャックが引き抜き方向へ移動することによって前記内チャックの径が狭まって引き抜き対象のケーシングの端部を把持可能であり、
前記支持プレートと前記ベースプレートには、互いの中心が同一軸上に並ぶように貫通孔がそれぞれ形成されており、
前記押え手段は、前記固定枠ユニットにより保持される押え棒と、該押え棒の先端に設けられ前記ケーシングの入り口部に嵌合可能な押え部材と、を備え、
前記押え棒の外周には雄ネジが形成され、
前記反力プレートには、前記押え棒の雄ネジが螺合可能なナットが固着され、
前記押え棒は、前記支持プレートと前記ベースプレートに形成されている前記貫通孔を貫通するように配設されていることを特徴とするケーシング引き抜き装置。
【請求項2】
前記押え棒の外周に形成されている雄ネジは角ネジであり、前記ナットの内周には前記角ネジが螺合可能な形状を有する雌ネジが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のケーシング引き抜き装置。
【請求項3】
引き抜き対象のケーシングの端部に結合される円筒状をなす連結環を備え、
前記連結環には、前記押え棒が軸方向移動可能に挿通される貫通孔を有するガイド部と、半径方向に配設され前記ガイド部を当該連結環の円筒状の本体に結合する連結部が設けられ、
前記連結環の本体の内周面には、前記ケーシングの端部の外周面に形成されている雄ネジに螺合可能な雌ネジが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のケーシング引き抜き装置。
【請求項4】
前記ベースプレートの前記一対の支持片よりも外側の縁部には、前記ピン軸を挿通可能な軸穴を有する一対の外側支持片が設けられ、
前記ピン軸は、前記一対の支持片および前記一対の外側支持片と前記連結部材の軸穴と前記一対の連結バーの軸穴に挿通されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のケーシング引き抜き装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のケーシング引き抜き装置を用いたケーシング引き抜き方法であって、
前記ベースプレートが引き抜き対象のケーシングが埋設されている盛土の表面または石積壁の表面に接し、前記円環状の押輪内に引き抜き対象のケーシングの端部が挿入された状態になるように、前記ケーシング引き抜き装置を設置した後、前記ケーシングの端部を前記把持手段により把持させ、前記ケーシングの入り口部に前記押え部材を挿入して、当該押え部材により前記ケーシング内の充填物を押えながら、前記圧力式伸縮手段を作動させて前記把持手段により把持された前記ケーシングを移動させて地中より引き抜くことを特徴とするケーシング引き抜き方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平または斜めに埋設されたケーシングを引き抜くのに好適なケーシング引き抜き装置および引き抜き方法に関し、例えば盛土式ホームの補強工事の際にホームに埋設されたケーシングを引き抜くのに利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
駅ホームの構造のひとつに、石積ブロックを積み重ねた組積式の石積壁で盛土を支える盛土式の駅ホームがある。既存の盛土式の駅ホームのなかには構築後長い年数を経過して、近年の耐震基準を満たさなくなったものがある。そのような盛土式の駅ホームは、大規模地震発生時の外力によって、積み石の崩落や盛土のすべり崩壊などを起こして崩れてしまうことが懸念される。
そこで、本出願人は盛土式の駅ホームの盛土内にモルタル等からなる円柱状の補強体を埋設して補強する技術を開発した。具体的には、ホーム盛土に対して石積壁から斜め方向に削孔しながら鋼管を挿入してケーシングを行い、モルタルやグラウトを注入した後、固化させて円柱状の補強体を盛土内に構築するというものである。
【0003】
ところで、上述したような補強体は、ケーシングとなる鋼管の表面はなめらかであるため鋼管を残したままにするよりも、引き抜いてモルタルやグラウトの補強体と盛土とを接触させた方が強度を高めることができる。ただし、ケーシングを引き抜くには大きな力が必要であるため、ケーシングの引き抜き装置が必要となる。
従来、地中に埋設されたケーシングの引き抜き装置としては、特許文献1や2に記載されているものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭61-125548号公報
【文献】特開平9-111763号公報
【文献】実開昭61-155496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1や2に記載されているケーシング引き抜き装置は、いずれもケーシングとなる鋼管の端部を把持または係止する手段と油圧シリンダを備え、装置を地表に設置して鉛直方向に引き抜くというものであるため、水平方向や斜め方向に埋設されているケーシングを引き抜くことができないという課題がある。
また、特許文献3には、地面に対して斜め方向にケーシングチューブを圧入し引き抜く装置に関する発明が記載されている。しかし、特許文献3に記載されている装置は、大型の重機を用いる必要があるため、駅ホームの盛土のように側方にレールが敷設されていて充分な作業スペースを確保することが困難な箇所で作業を行う場合には適用が困難であるという課題がある。
【0006】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、水平方向や斜め方向に埋設されているケーシングを引き抜くことが可能なケーシング引き抜き装置および引き抜き方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、作業スペースを確保することが困難な箇所で作業を行うことが可能なケーシング引き抜き装置および引き抜き方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本出願に係る発明は、
作業対象物に装置を取り付けるためのベースプレートを備えた固定枠ユニットと、地中に挿入されているケーシングの一部を把持する把持手段および該把持手段を移動させる圧力式伸縮手段を備え前記固定枠ユニットにより保持される引き抜きユニットと、前記ケーシングの入り口部に挿入され当該ケーシング内の充填物を押える押え手段を備え前記固定枠ユニットにより保持される抜け止めユニットと、を備えたケーシング引き抜き装置において、
前記引き抜きユニットの端部は、ヒンジ構造により前記ベースプレートに回転可能に結合され、
前記押え手段は、前記固定枠ユニットにより保持される押え棒と、該押え棒の先端に設けられ前記ケーシングの入り口部に嵌合可能な押え部材と、を備え、
前記押え棒は、前記引き抜きユニットの前記把持手段を貫通するように配設されているように構成したものである。
【0008】
上記のような構成を有するケーシング引き抜き装置によれば、作業対象物に接合されるベースプレートに、引き抜きユニットの端部がヒンジ構造により回転可能に結合されるため、引き抜きユニットをベースプレートに対して任意の角度で傾斜させることができ、水平方向や斜め方向に埋設されているケーシングを引き抜くことができる。また、ケーシングの入り口部に嵌合可能な押え部材を先端部に有する押え棒を備えるため、押え棒によってケーシング内部の充填物を押さえながら引き抜きユニットによってケーシングを引き抜くことができる。さらに、装置がコンパクトで組立て、解体が可能な構成であるため、駅ホームの盛土のような作業スペースを確保することが困難な箇所で作業を行うことができる
【0009】
ここで、望ましくは、前記圧力式伸縮手段は油圧ジャッキであり、
前記ベースプレートには、軸穴を有する少なくとも一対の支持片が当該ベースプレートの対象物と接合する面と反対側の面から略平行に突出するように設けられ、
前記油圧ジャッキの端部には軸穴を有する連結部材が設けられ、
前記一対の支持片に設けられた前記軸穴と前記連結部材に設けられた前記軸穴に挿通されたピン軸により、前記ヒンジ構造が構成されているようにする。
【0010】
上記のような構成によれば、油圧ジャッキ端部の連結部材の軸穴を、ベースプレートに設けられている支持片の軸穴に合わせてピン軸を挿入することで、油圧ジャッキをベースプレートに対して容易に連結し、かつ任意の角度で傾斜させることができる。なお、本明細書において、「略平行」とは、平行に近い状態を含む。
【0011】
また、望ましくは、前記引き抜きユニットは、略平行に配設された前記油圧ジャッキを2つ備え、これら2つの油圧ジャッキのシリンダ間に横架された支持プレートに前記把持手段が設けられているようにする。
かかる構成によれば、引き抜きユニットが略平行な2つの油圧ジャッキを備え、2つの油圧ジャッキ間にケーシングの端部を掴んで把持する把持手段が設けられているため、ケーシングに均等に油圧ジャッキの力を作用させることができ、それによってケーシングを円滑に引き抜くことができる。
【0012】
さらに、望ましくは、前記固定枠ユニットは、前記ベースプレートに結合された一対の連結バーと、該連結バーの他端間に横架された反力プレートと、を備え、
前記抜け止めユニットは、引き抜き対象のケーシングの端部に結合される連結環を備え、
前記押え棒の外周には角ネジが形成され、
前記反力プレートには、前記押え棒の角ネジが螺合可能なナットが固着され、
前記連結環には前記押え棒が軸方向移動可能に挿通される筒状のガイド部材が設けられ、
前記把持手段は、前記ケーシングの外周を掴んで把持するチャックにより構成されているようにする。
【0013】
上記のような構成によれば、ケーシングの引き抜きの際に、反力プレートによって押え棒の軸方向の移動を阻止し、押え棒先端の押え部材がケーシングから抜けるのを防止し、充填物を確実に押え込むことができる。また、連結環に押え棒が挿通される筒状のガイド部材が設けられているため、ガイド部材によって連結環を押え棒に沿って案内することができ、引き抜きユニットの可動部分の移動を安定化させることができる。
【0014】
本出願に係る他の発明は、
地中に挿入されているケーシングの一部を把持する把持手段および該把持手段を移動させる圧力式伸縮手段を備えた引き抜き装置を用いたケーシング引き抜き方法において、
前記ケーシングの入り口部に挿入可能な押え部材により当該ケーシング内の充填物を押えながら、前記圧力式伸縮手段を作動させて前記把持手段により把持された前記ケーシングを移動させて地中より引き抜くようにしたものである。
かかる方法によれば、ケーシングを引き抜く際に削孔の壁が崩れて潰れるのを防止することができ、それによって地中に埋設する補強体の形状を正確に保って構築することができ、補強体の強度を保証することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のケーシング引き抜き装置および引き抜き方法によれば、水平方向や斜め方向に埋設されているケーシングを引き抜くことができる。また、駅ホームの盛土のような作業スペースを確保することが困難な箇所で作業を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(A)はケーシング引き抜き作業が必要な補強体を設けた構造物の一例としての駅ホーム盛土の断面構造を示す断面図、(B)は盛土内に構築される補強体のケーシング引き抜き前の断面構造を示す断面図である。
図2】本発明に係るケーシング引き抜き装置を構成するケーシング引き抜き装置の一実施形態を示す平面図である。
図3】実施形態のケーシング引き抜き装置の構成を示す側面図である。
図4】実施形態のケーシング引き抜き装置の油圧ジャッキを作動させた状態を示す平面図である。
図5】抜け止めユニットを構成する押え棒の先端の押え具とケーシングの端部に装着される連結環の構成を示す拡大斜視図である。
図6】(A)はベースプレートの具体例を示す正面図、(B)はベースプレートを石積壁に設置した状態を示す側面図である。
図7】(a)~(i)は実施形態のケーシング引き抜き装置を使用した駅ホーム盛土への斜め方向の補強体の構築方法およびケーシング引き抜き方法の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明に係るケーシング引き抜き装置の実施形態について詳細に説明するが、本実施形態のケーシング引き抜き装置を説明する前に、図1を用いて、盛土式の駅ホームの構造と補強例について簡単に説明する。
盛土式駅ホーム10は、図1(A)に示すように、鉛直面を成すように複数の石積ブロック11が積み重ねられてなる石積壁12によって内側の盛土13を支える構造を有して
おり、このような構造を有する既設の盛土を補強するために、モルタルやグラウト等の自己硬化型充填材(以下、単に充填材と称する)を固めてなる円柱状の補強体20を盛土の土中に埋設することが行われる。
【0018】
補強体20は、補強効果を高めるため、通常は先端が低くなるように傾斜をつけて設けられる。また、補強体20は、図1(B)に示すように、直径150mm程度の円柱状の充填材21の中心に直径20mm弱の鉄筋などが芯材22として挿入された構造を有している。
かかる構造の補強体20は、駅ホーム10の盛土を削孔しながらケーシングとしての鋼管23を挿入し中心に芯材22を挿入した後、充填材21を注入してから鋼管23を引き抜いて固化させることで構築される。鋼管を挿入するのは、盛土の中は大きな土圧がかかっており、その土圧により削孔の途中で孔の周壁が崩れて潰れてしまわないようにするためである。
【0019】
なお、鋼管23は長尺のものを挿入するのではなく、短い鋼管を使用して削孔を進行する過程で鋼管を継ぎ足しながら挿入して行く。使用する短い鋼管の一方の端部の外周には雄ネジを形成し、他方の端部の内周には雌ネジを形成しておいて、継ぎ足す鋼管を回転させてその端部の雄ネジまたは雌ネジを、既に埋設された鋼管の端部の雌ネジまたは雄ネジに螺合させることで鋼管同士を連結させる。
【0020】
次に、本発明に係るケーシング引き抜き装置の一実施形態について説明する。
図2図5は本発明に係るケーシング引き抜き装置の一実施形態を示すもので、このうち、図2はケーシング引き抜き装置を構成するケーシング引き抜き装置の平面図、図3はケーシング引き抜き装置(連結バー132a省略)の側面図、図4はケーシング引き抜き装置油圧ジャッキを伸長させた状態を示す平面図、図5は押え棒の先端の芯材押えとケーシングとしての鋼管の端部に結合される連結環の構造を示す斜視図である。
【0021】
本実施形態のケーシング引き抜き装置100は、図2および図3に示すように、盛土の土中に形成された孔に挿入されているケーシングとしての鋼管23の端部を掴んで引き抜くための引き抜きユニット110と、鋼管23を引き抜く際に鋼管内部の充填材および芯材の洩れや抜けを防止するための抜け止めユニット120と、引き抜きユニット110と抜け止めユニット120とを一体に保持しつつ当該装置を石積ブロック11の側面に固定するための固定枠ユニット130とを備える。
【0022】
各ユニットのうち、固定枠ユニット130は、石積ブロック11の側面に接合固定されるベースプレート131と、該ベースプレート131の両側縁部に設けられた一対の外側支持片131a,131bに一端が回動可能に連結された一対の連結バー132a,132bと、連結バー132a,132bの他端に両端が結合され横架された反力プレート133とを備える。これにより、固定枠ユニット130は、上面視でほぼ矩形状をなす枠体として構成される。連結バー132a,132bと反力プレート133とは、ピン134a,134bによって着脱可能に結合される。
【0023】
上記ベースプレート131は、図6(A)に示すように、中央にU字状の開口部131cが形成されているとともに、開口部131cの両側にそれぞれボルト挿通穴131dが形成されており、このボルト挿通穴131dを、石積ブロック11の側面に予め固着しておいた埋め込みボルトに挿通させてナットを螺合し締め付けることによって石積ブロック11の側面に固定される。
【0024】
また、ベースプレート131には、図2に示すように、上記一対の外側支持片131a,131bと略平行に一対の内側支持片135a,135bが固設されている。外側支持
片131a,131bと内側支持片135a,135bにはそれぞれ軸穴が形成されており、外側支持片131a,131bと内側支持片135a,135bに跨るようにしてピン軸136a,136bが挿入可能に構成されている。また、連結バー132a,132bの端部には、上記ピン軸136a,136bを挿通される軸穴が形成されており、連結バー132a,132bはピン軸136a,136bによってベースプレート131に連結される。
【0025】
引き抜きユニット110は、上記ピン軸136a,136bが挿通可能な軸穴を有しピン軸136a,136bに回動可能に連結される一対の連結ブロック111a,111bと、この連結ブロック111a,111bにピストンロッドが結合された一対の油圧ジャッキ112a,112bを備える。これにより、油圧ジャッキ112a,112bは、ピン軸136a,136bを中心として回動し、ベースプレート131に対する角度すなわち傾斜角を変えることができるようになっている。
【0026】
上記油圧ジャッキ112a,112bのシリンダには、固定用プレート113a,113bによって両端が結合された支持プレート114が横架され、該支持プレート114の中央部には円環状の押輪115が固着されているとともに、ケーシングとしての鋼管23の端部外周を掴んで把持するためのチャック116が装着されている。
なお、図2は油圧ジャッキ112a,112bを収縮させた状態を示しており、油圧ジャッキ112a,112bを伸長させると図4に示すように、チャック116で鋼管23の端部外周を掴んだまま左方へ移動し、ジャッキのストローク分だけ鋼管23が引き抜かれるので、チャック116を緩めてジャッキを収縮させ、再びチャック116で鋼管23の外周を掴んでジャッキを伸長させることを繰り返すことで、ケーシングをすべて引き抜くことができる。
【0027】
上記チャック116は、引き抜き対象の鋼管の外径よりも若干大きな内径を有し先端(図では左方)に向かうほど厚みが薄くなる円筒状をなし上記押輪115と一体に構成された外チャック116aと、引き抜き対象の鋼管の外径とほぼ同じ大きさの内径を有し先端(図では右方)に向かうほど厚みが薄くなる円筒状をなし上記外チャック116aの内側に嵌合可能な内チャック116bとを備える。
【0028】
外チャック116aは内周に、また内チャック116bは外周にそれぞれ互いに接触するテーパ面が形成されているとともに、円筒状の内チャック116bには軸方向のスリットが形成されており、外チャック116aが支持プレート114に押されて図の左方へ移動されると、内チャック116bが楔のようにして外チャック116aの内側に入り込む。すると、内チャック116bは、軸方向のスリットを有するためその径が小さくなり、外チャック116aの内側にさらに進入して、鋼管の端部外周をしっかりと掴むことができるようになっている。なお、内チャック116bの内周面には、摩擦力を高めるために細かい凹凸状をなすローレット加工(滑り止めの溝)を施しておくようにするとよい。
【0029】
抜け止めユニット120は、上記固定枠ユニット130を構成する反力プレート133の中央に固着された六角ナット137に螺合可能な押え棒121と、ケーシングとしての鋼管の端部に結合可能な円筒状の連結環122と、押え棒121の先端(図では右側の端部)に設けられた芯材押え123と、を有する。連結環122は内周面に雌ネジが形成されており、この雌ネジを鋼管23の端部外周の雄ネジに螺合させることで鋼管の端部に結合される。押え棒121は六角ナット137に螺合されているため、押え棒121を回転させると反力プレート133に対して軸方向へ移動し、それによって先端の芯材押え123を移動させることができる。
【0030】
また、上記連結環122は、中央に押え棒121を軸方向に案内する筒状のガイド部122aを備えており、ガイド部122aは、図6に示すように、放射状に配設された連結部122bによって連結環122の本体に結合されている。ガイド部122aには押え棒121の外径とほぼ同じ大きさの径の挿通孔が形成されており、この挿通孔の内周には雌ネジが形成されていないため、ガイド部122aを有する連結環122が鋼管に結合されていたとしても、押え棒121はガイド部122a内を軸方向へ自由に移動することができる。
【0031】
芯材押え123は、中央に補強体20を構成する芯材22の端部が係合可能な凹部が形成されている。また、芯材押え123は、図5に示すように、補強体20の充填材21に接触する放射状に配設された押え片123aを備えている。図示しないが、押え棒121の先端に回転自在であって抜け落ちないように装着されている。そのため、押え棒121を回転させても芯材押え123は連れ回りすることがない。つまり、芯材押え123を補強体20の芯材22や充填材21に接触させた状態で押え棒121を回転させて移動させ、芯材押え123をしっかりと芯材22へ押し付けることができる。
【0032】
なお、押え棒121は、後端(図2では左側の端部)の端面に六角穴が形成されており、この六角穴に六角棒レンチを挿入して回すと、雄ネジが六角ナット137の雌ネジに沿ってスライドすることで生じる反力で軸方向へ移動することができる。また、押え棒121の外周の雄ネジは角ネジとして形成されている。これにより、押え棒121に対して芯材押え123から押圧力が作用した際に、軸方向荷重をしっかりと受けてその荷重を反力プレート133にしっかりと伝えることができるようになっている。
【0033】
次に、上記のような構成を有するケーシング引き抜き装置100を用いた駅ホーム盛土への斜め方向の補強体の構築方法およびケーシング引き抜き方法について、図7を用いて説明する。
盛土に対して石積壁12から斜め方向の補強体を構築したい場合、先ず構築する補強体の位置および傾斜角θを決定する。次に、図7(a)に示すように、削孔用のコアマシン200を石積壁12の所定の位置に上記角度θとなるようにセットする。続いて、コアマシン200を作動させて、図7(b)に示すように、石積壁12を削孔しながらケーシングとなる短い鋼管を挿入する。
【0034】
その後、図7(c)に示すように、盛土(10)に対してケーシングとなる短い鋼管を継ぎ足しながら削孔を進めていく。また、挿入済みの鋼管に次の鋼管を接続する際に、図7(d)に示すように、鋼管チューブ内を掘削する。そして、図7(e)に示すように、所定の深さとなるまで、上記削孔と掘削を繰り返す。
次に、コアマシン200を取り外して、図7(f)に示すように、鋼管チューブ内に芯材22を挿入する。なお、挿入する芯材22の先端および後端と中間位置には、芯材22を削孔の中心に保持するためのスペーサ24が設けられている。このスペーサ24としては、図4に示されている押え棒121の先端に設けられた芯材押え123と同様に放射状の押え片123aを有するものを使用することができる。
【0035】
その後、図7(g)に示すように、鋼管チューブ内にモルタル等の充填材を注入して充填する。続いて、図7(h)に示すように、ベースプレート131を石積壁12の側面に設置し、前記実施形態の引き抜き装置100を石積壁12の所定の位置に所定の角度θとなるようにセットする。そして、芯材押え123により芯材22の抜けおよび充填材の洩れを防止しつつ鋼管チューブの引き抜きを行う。
なお、引き抜き装置100を石積壁12にセットする際には、先ず図6(B)に示すように、傾斜角θを有する補強体(削孔)Bの中心線Cの延長線上に、ベースプレート131に設けられている外側支持片131a,131bと内側支持片135a,135bの軸穴Hが来るように、ベースプレート131を石積壁12の側面に設置する。
【0036】
上記軸穴Hには引き抜きユニット110の回転軸となるピン軸が挿通されるため、補強体(削孔)Bの中心線Cの延長線上に軸穴Hが来るようにすることで、後に引き抜きユニット110をベースプレート131にセットしてピン軸を中心にθだけ傾斜させた際に、補強体(削孔)Hの中心線とベースプレート131の中心線とを一致させ、削孔内の鋼管チューブを引き抜く際に、角度θの方向へ正確に引き抜き力を作用させて引き抜くことができる。
鋼管チューブの引き抜きが終了すると、図7(i)に示すように、引き抜き装置100およびベースプレート131を石積壁12から取り外し、引き抜きで沈下した分の充填材を追加注入し、口元の充填材表面を仕上げて一連の作業が完了する。
【0037】
上記実施形態のケーシング引き抜き装置および引き抜き方法によれば、ケーシング(鋼管チューブ)内の芯材および充填材を押圧しながら、鋼管の外周をチャックで掴んで油圧ジャッキを作動させてケーシングの引き抜きを行うため、ケーシングの引き抜きの際に芯材の抜けや充填材洩れを防止することができる。
【0038】
また、上記実施形態のケーシング引き抜き装置は、石積壁の側面に設置されたベースプレート131にピン軸136a,136bにより引き抜きユニット110が回動可能に取り付けられるとともに、引き抜きの際の荷重を固定枠ユニット130の反力プレート133により受ける構成を有しているため、重機等を用いることなく斜め方向に埋設されたケーシングを引き抜くことができる。
さらに、引き抜きユニット110と抜け止めユニット120と固定枠ユニット130が、互いに分離可能に構成されているため、持ち運びが容易であり、駅ホーム脇の線路上という狭い作業空間で容易に組み立てたり解体したりすることができるという利点がある。
【0039】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態においては、押え棒121の先端の芯材押え123として、放射状に配設された押え片123aを備えるものを使用しているが、充填材を注入するための切欠きもしくは小穴を有する円板からなる芯材押え123を使用するようにしても良い。
また、前記実施形態においては、押え棒121を引き抜きユニット110が移動する際のガイドロッドとして兼用する構成としているが、引き抜きユニット110のガイドロッドを押え棒121とは別に設けた構成にすることも可能である。ただし、押え棒121をガイドロッドとして兼用する構成とすることで、装置の小型化が可能になる。
【0040】
また、前記実施形態においては、把持手段(チャック)を移動させる圧力式伸縮手段として油圧ジャッキを使用しているが、水圧ジャッキその他の液体作動式ジャッキ、またはねじジャッキやラック駆動ジャッキ、スクリュージャッキのような機械式のジャッキ、またはエアージャッキと呼ばれる空気作動式ジャッキを使用することも可能である。
さらに、前記実施形態においては、駅ホームの盛土を補強するための円柱状の補強体を石積壁の側面から斜め方向に構築する際のケーシングの引き抜きに適用した場合を例にとって説明したが、本発明はそれに限定されるものでなく、ケーシングを使用して地面に対して斜め方向の補強体その他の構造物を構築する場合にも利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 駅ホーム盛土
11 石積ブロック
12 石積壁
13 盛土
20 補強体
21 充填材
22 芯材
100 ケーシング引き抜き装置
110 引き抜きユニット
111a,111b 連結ブロック(連結部材)
112a,112b 油圧ジャッキ
115 押輪
116a 外チャック
116b 内チャック
120 抜け止めユニット
121 押え棒
122 連結環
123 芯材押え
130 固定枠ユニット
131a,131b 支持片
132a,132b 連結バー
133 反力プレート
135a,135b 支持片
136a,136b ピン軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7