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  • 特許-液体シリコーン変圧器及びその製造方法 図1
  • 特許-液体シリコーン変圧器及びその製造方法 図2
  • 特許-液体シリコーン変圧器及びその製造方法 図3
  • 特許-液体シリコーン変圧器及びその製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】液体シリコーン変圧器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/12 20060101AFI20240502BHJP
   H01F 41/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
H01F27/12 Z
H01F27/12 A
H01F41/00 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020140128
(22)【出願日】2020-08-21
(65)【公開番号】P2022035652
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】内田 正人
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-166516(JP,A)
【文献】特開2007-317931(JP,A)
【文献】特開2020-123681(JP,A)
【文献】特開2015-185736(JP,A)
【文献】特開2009-144849(JP,A)
【文献】特開2008-182161(JP,A)
【文献】特開2006-261289(JP,A)
【文献】実開昭55-025240(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/10
H01F 27/12
H01F 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内の液体シリコーン中に変圧器本体が浸漬されていると共に、タンク内に窒素ガスが密封されている液体シリコーン変圧器において、
前記液体シリコーンと前記窒素ガスとの間に、当該液体シリコーンよりも比重が小さい油からなる油層が設けられている液体シリコーン変圧器。
【請求項2】
前記油層は、エステル油を含む請求項1に記載した液体シリコーン変圧器。
【請求項3】
前記油槽内に、前記液体シリコーンの液面方向に平面形状の絶縁物が設けられている請求項1又は2に記載した液体シリコーン変圧器。
【請求項4】
前記絶縁物は、穴が形成されている請求項3に記載した液体シリコーン変圧器。
【請求項5】
前記絶縁物は、液体シリコーンの液面が上下方向に変動しても前記油槽内に留まる位置に設けられている請求項3又は4に記載した液体シリコーン変圧器。
【請求項6】
前記タンク外に設けられ、前記タンクから流れてきた液体シリコーンを冷却する放熱器と、
前記タンクの内部と前記放熱器の内部とを連通する配管と、を備え、
前記油層は、前記配管の高さよりも高い位置に設けられている請求項1から5の何れか一項に記載した液体シリコーン変圧器。
【請求項7】
前記液体シリコーンは、第1注入弁を介して前記タンク外から前記タンク内に注入され、
前記油は、前記第1注入弁よりも高い位置に設けられている前記第2注入弁を介して前記タンク外から前記タンク内に注入される請求項1から6の何れか一項に記載した液体シリコーン変圧器。
【請求項8】
タンク内の液体シリコーン中に変圧器本体が浸漬されると共に、タンク内に窒素ガスが密封される液体シリコーン変圧器を製造する方法において、
前記タンク内に前記液体シリコーンを注入した後に、前記液体シリコーンの液面よりも高い位置から前記タンク内に前記液体シリコーンよりも比重が小さい油を注入し、前記液体シリコーンと前記窒素ガスとの間に前記油からなる油層を設ける液体シリコーン変圧器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、液体シリコーン変圧器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タンク内の液体シリコーン中に変圧器本体が浸漬されていると共に、タンク内に窒素ガスが密封されている液体シリコーン変圧器が供されている(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-261289号公報
【文献】特開2008-182161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体シリコーンは、引火点が高く、引火時にシリカの膜を形成し、酸素供給を断って消化する自己消化性を有する特徴がある。そのため、液体シリコーン変圧器のメリットとして、変圧器の耐熱クラスを従来の鉱油よりも高めることができる。一方、液体シリコーン変圧器のデメリットとして、窒素ガスが液体シリコーン中に溶解し易く、液体シリコーン中に溶解した窒素ガスが急激な温度上昇時に気化すると、絶縁性能が低下する問題がある。従来では、この対策として、構成の複雑な油劣化防止方式を無圧密封式にしたり、絶縁距離を大きくして電界を下げたりすることで対応してきた。
【0005】
しかしながら、油劣化防止方式を無圧密封式にする場合には、コンサベータがタンク上部に設けられることになるので、部品点数の増加によるコスト増となる問題がある。又、窒素密封式の変圧器に対して輸送制限範囲内に収めることが困難となり、全装備輸送容量が低くなり、輸送制限範囲内に収まらない場合は現地組み立てが必要となり、更なるコスト増となる問題がある。絶縁距離を大きくして電界を下げる場合には、コイル内部の絶縁距離、コイル同士の絶縁距離、コイルとタンクとの間の絶縁距離を大きくすると、変圧器が大型化してしまい、使用材料増によるコスト増となる問題や、質量増加による全装備輸送容量が低くなる問題がある。
【0006】
そこで、コスト増や大型化を回避しつつ、窒素ガスの液体シリコーン中への溶解を未然に回避し、製品の信頼性を高めることができる液体シリコーン変圧器及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る液体シリコーン変圧器は、タンク内の液体シリコーン中に変圧器本体が浸漬されていると共に、タンク内に窒素ガスが密封されている液体シリコーン変圧器において、前記液体シリコーンと前記窒素ガスとの間に、当該液体シリコーンよりも比重が小さい油からなる油層が設けられている。
【0008】
実施形態に係る液体シリコーン変圧器の製造方法は、タンク内の液体シリコーン中に変圧器本体が浸漬されると共に、タンク内に窒素ガスが密封される液体シリコーン変圧器を製造する方法において、前記タンク内に前記液体シリコーンを注入した後に、前記液体シリコーンの液面よりも高い位置から前記タンク内に前記液体シリコーンよりも比重が小さい油を注入し、前記液体シリコーンと前記窒素ガスとの間に前記油からなる油層を設ける。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る液体シリコーン変圧器の縦断側面図
図2】絶縁物の斜視図
図3】液体シリコーンの液面と絶縁物との関係を示す図
図4】液体シリコーンの液面と絶縁物との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
一実施形態について図面を参照して説明する。図1に示すように、液体シリコーン変圧器1において、金属製のタンク2は、上面に開口部3aを有する箱部材3と、平板形状の蓋部材4とが組み合わされ、箱部材3の開口部3aが蓋部材4により閉鎖されることで内部を密封可能に構成されている。タンク2内には、変圧器本体5が収容されると共に、絶縁冷却媒体としての液体シリコーン6が注入されている。即ち、タンク2内において、液体シリコーン6中に変圧器本体5が浸漬されている。
【0011】
変圧器本体5は、コイル7が鉄心8に巻回されて構成されている。コイル7は、例えば電力系統に適用された場合に、高圧電力を入力する高圧側コイル7aと、低圧電力を出力する低圧側コイル7bにより構成され、高圧側コイル7aが低圧側コイル7bの外周側に設けられている。高圧側コイル7a及び低圧側コイル7bは、それぞれ表面全体が樹脂等の絶縁部材により覆われて絶縁されている。尚、高圧側は一次側と称され、低圧側は二次側と称される場合がある。変圧器本体5は、図示しない絶縁支え上に載置される形態でタンク2内に収容されている。
【0012】
液体シリコーン6は、有機珪素化合物の重合体であり、シリコーン液又はシリコーン油と称される場合がある。液体シリコーン6の比重は、約0.96[g/cm]である。液体シリコーン6は、引火点が高く、引火時にシリカの膜を形成し、酸素供給を断って消化する自己消化性を有する。タンク2の外部下方には第1注入弁9が第1配管10を介して接続されており、液体シリコーン6は、第1注入弁9の開放状態で第1配管10を介してタンク2外からタンク2内に注入される。
【0013】
タンク2の外部には放熱器11が上側配管12及び下側配管13を介して接続されており、タンク2内と放熱器11内とが上側配管12及び下側配管13により連通されている。液体シリコーン6の液面は、上側配管12よりも高い位置になっている。即ち、液体シリコーン変圧器1を製造する工程において、液体シリコーン6は、その液面が上側配管12よりも高い位置になるまで第1注入弁9を介してタンク2外からタンク2内に注入される。
【0014】
タンク2内において液体シリコーン6の上側には、液体シリコーン6よりも比重が小さいエステル油が注入されており、エステル油からなる油層14が設けられている。エステル油とは、エステル結合を有する重合体を意味する。エステル油の比重は、上記した液体シリコーン6の比重よりも小さく、約0.915~0.925[g/cm]である。又、エステル油は、液体シリコーン6と同等の引火点である。タンク2の外部上方には第2注入弁15が第2配管16を介して接続されており、エステル油は、タンク2内に液体シリコーン6が所定高さまで注入された後に、第2注入弁15の開放状態で第2配管16を介してタンク2外からタンク2内に注入される。このとき、エステル油の比重が液体シリコーン6の比重よりも小さいので、先に注入された液体シリコーン6と後から注入されたエステル油とが混ざることはなく分離される。
【0015】
タンク2内において液体シリコーン6の上側には、窒素ガス17が密封されている。即ち、タンク2内において、液体シリコーン6の上側にエステル油からなる油層14が設けられていることで、液体シリコーン6と窒素ガス17とが油層14により非接触状態で分離されている。このように液体シリコーン6と窒素ガス17とが油層14により非接触状態で分離され、液体シリコーン6と窒素ガス17とが接しないことで、窒素ガス17の液体シリコーン6中への溶解を未然に回避している。
【0016】
油層14内には、窒素ガス17の液体シリコーン6への溶解をより確実に回避することを目的とし、液体シリコーン6の液面方向に平面形状の絶縁物18が設けられている。絶縁物18は、耐熱性が高い材料から構成されており、その端部がタンク2の内壁部に固着されている上側固定部19と下側固定部20とにより挟まれて固定されており、上下方向に移動不能に設けられている。絶縁物18には、図2に示すように、上下方向に貫通する複数の穴21が形成されている
【0017】
変圧器本体5の通常運転時では、変圧器本体5が発熱することで、変圧器本体5の周囲の液体シリコーン6の温度が上昇する。温度が上昇した液体シリコーン6は、タンク2内において膨張し、相対的に温度が高い部分がタンク2内の上方へ移動し、タンク2内から上側配管12を通って放熱器11内へ流れる。放熱器11内に流れてきた液体シリコーン6は、冷却されて温度が下降する。温度が下降した液体シリコーン6は、放熱器11内において収縮し、相対的に温度が低い部分が放熱器11内の下方へ移動し、放熱器11内から下側配管13を通ってタンク2内へ流れる。
【0018】
このように液体シリコーン6がタンク2内と放熱器11内との間で自然対流することで、変圧器本体5から発生するジュール熱が奪われ、変圧器本体5が冷却される。又、液体シリコーン6が膨張したり収縮したりすることで液体シリコーン6の液面が上下方向に変動し、液体シリコーン6の液面が上下方向に変動することに追従して油層14も上下方向に移動する。この場合、図3及び図4に示すように、絶縁物18は、液体シリコーン6の液面が最低位置及び最高位置の何れであっても油層14内に留まる位置に設けられている。
【0019】
又、絶縁物18に複数の穴21が形成されているので、エステル油が複数の穴21を通って移動可能となる。即ち、絶縁物18に複数の穴21が形成されていないと、液体シリコーン6が完全に密封される態様になり、液体シリコーン6が膨張する際の圧力で絶縁物18が破壊されてしまう虞があるが、絶縁物18に複数の穴21が形成されていることで、液体シリコーン6が膨張する際の圧力を逃がし、絶縁物18の破壊を未然に回避している。
【0020】
以上は、エステル油を用いる構成を例示したが、鉱油同等の耐熱クラスとする場合は、エステル油に代えて鉱油を用いる構成でも良い。又、必要に応じて絶縁物18が設けられる構成でも良く、絶縁物18が省かれている構成でも良い。即ち、窒素ガス17の液体シリコーン6中への溶解の虞が比較的小さく、窒素ガス17の液体シリコーン6中への溶解の虞を油層14のみで十分に回避し得る場合には、絶縁物18が省かれている構成でも良い。更に、絶縁物18が設けられる構成において、液体シリコーン6が膨張する際の圧力に対して絶縁物18が十分な耐性を有すれば、穴21が形成されていない構成でも良い。
【0021】
以上に説明した実施形態によれば、以下の作用効果を得ることができる。
液体シリコーン変圧器1において、液体シリコーン6と窒素ガス17との間に、液体シリコーン6よりも比重が小さいエステル油からなる油層14が設けられる構成とした。液体シリコーン6と窒素ガス17とを非接触の状態で分離させることで、窒素ガス17の液体シリコーン6中への溶解を未然に回避することができる。このように液体シリコーン6と窒素ガス17との間にエステル油からなる油層14が設けられる簡易な方法で窒素密封化が可能となり、無圧密封式と同等の電界で製造することが可能となるので、コスト増や大型化を回避しつつ、窒素ガス17の液体シリコーン6中への溶解を未然に回避することができる。更には将来的に電気規格調査会(JEC)で耐熱クラスを高くできるようになった場合に、鉱油変圧器よりも軽量コンパクトな変圧器を提供することができる。
【0022】
液体シリコーン6の液面方向に平面形状の絶縁物18が設けられている構成としたので、窒素ガス17の液体シリコーン6中への溶解をより確実に回避することができる。絶縁物18に穴21が形成されている構成としたので、液体シリコーン6が膨張する際の圧力による絶縁物18の破壊を未然に回避することができる。
【0023】
液体シリコーン6の液面が上下方向に変動しても絶縁物18が油槽14内に留まる位置に設けられている構成としたので、液体シリコーン6の膨張や収縮により液体シリコーン6の液面が上下方向に変動しても窒素ガス17の液体シリコーン6中への溶解をより確実に回避することができる。
【0024】
油層14が上側配管12の高さよりも高い位置に設けられる構成としたので、液体シリコーン6がタンク2内と放熱器11内との間を自然対流する際に、エステル油が液体シリコーン6中に混ざることがない。
【0025】
液体シリコーン6が第1注入弁9を介してタンク2外からタンク2内に注入され、エステル油が第2注入弁15を介してタンク2外からタンク2内に注入される構成としたので、タンク2内に液体シリコーン6を注入した後に、液体シリコーン6の液面よりも高い位置からタンク2内にエステル油を注入することができる。
【0026】
本発明の実施形態は一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。以上に説明した実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0027】
図面中、1は液体シリコーン変圧器、2はタンク、5は変圧器本体、6は液体シリコーン、9は第1注入弁、11は放熱器、12は上側配管、13は下側配管、14は油層、14は第2注入弁、17は窒素ガス、18は絶縁物、21は穴である。
図1
図2
図3
図4