(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】魚釣用リール、制動力制御システム及び制動力設定装置
(51)【国際特許分類】
A01K 89/0155 20060101AFI20240502BHJP
A01K 89/017 20060101ALI20240502BHJP
A01K 89/015 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
A01K89/0155 ZAB
A01K89/017
A01K89/015 A
(21)【出願番号】P 2020143233
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】安田 悠
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-080766(JP,A)
【文献】実開昭61-020172(JP,U)
【文献】実開昭59-178071(JP,U)
【文献】特開2006-230359(JP,A)
【文献】特開2004-357601(JP,A)
【文献】特開2017-108704(JP,A)
【文献】実開昭59-178070(JP,U)
【文献】特開2006-197810(JP,A)
【文献】特開2022-087337(JP,A)
【文献】特開2021-145656(JP,A)
【文献】米国特許第05749533(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/0155
A01K 89/017
A01K 89/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣糸を巻回可能なスプールと、該スプールを制動するスプール制動部と、該スプール制動部による制動力を制御可能なスプール制動力制御部と、を備える魚釣用リール
と、前記スプールの制動力を設定可能な制動力設定部と、設定した制動力に関する情報を送信する送信部と、を有する情報通信装置と、を備える制動力制御システムであって、
該情報通信装置の該送信部からの指示を受信可能な受信部を備え、該受信部が
該情報通信装置の該送信部から制動力に関する指示を受信すると、該スプール制動力制御部は該指示に基づき制動力を設定する
ものであり、
前記スプール制動力制御部は、釣糸の飛距離に応じた制動力の変化を制御可能であり、前記制動力設定部は、該釣糸の飛距離に応じた制動力の変化を設定可能であることを特徴とする
制動力制御システム。
【請求項2】
前記スプール制動力制御部は、制動力の時間変化を制御可能であり、前記制動力設定部は、制動力の時間変化を設定可能である、請求項
1に記載の制動力制御システ
ム。
【請求項3】
前記スプールの制動力を設定可能な制動力設定部は、請求項
1に記載の制動力制御システ
ム上で起動することを特徴とする制動力設定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投擲時の制動力を調整可能な魚釣用リール、魚釣用リールを含めた制動力制御システム及び制動力設定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、両軸受リールを用いてルアーや釣糸、錘、釣針等の投擲対象物を遠方まで投擲する際、投擲時のバックラッシュ(糸がらみ)防止のためにスプールを制動する制動装置が設けられることが多い。このような制動装置では、制動力が最適化された際に最も遠方まで投擲することができるが、制動力が大きすぎると飛距離の減少を招き、他方で、制動力が小さすぎるとバックラッシュを招いてしまう。制動力の最適化は、投擲するルアー等の重量や空気抵抗、釣り糸の種類、竿の特性といった使用する釣具の種類によって変わり得る。また、ユーザの投擲方法、風等の気象条件によっても変わり得る。ユーザは使用時に試行錯誤しながら制動力を調整する必要がある。
【0003】
このような魚釣用リールとして、例えば、特許文献1では、キャスティングに用いられ、リール本体に回転自在に装着され釣り糸が装着されるスプールを制動する両軸受リールのスプール制動装置であって、スプールとリール本体とに設けられ、電気的に制御可能に前記スプールを制動するスプール制動手段と、リール本体に移動自在に設けられ複数の第1操作位置に操作可能な第1操作具と、リール本体に移動自在に設けられ複数の第2操作位置に操作可能な第2操作具と、第1操作具の第1操作位置及び第2操作具の第2操作位置に応じてスプール制動手段の制動力を電気的に制御するスプール制御手段とを備えた両軸受リールのスプール制動装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る構成では、制動力の変更は2つの操作具のみにより行うものであり、より細やかな設定が事実上難しいという問題があった。また、操作具をさらに増やすことで細かい設定を行おうとすると、魚釣用リールの大型化を招いてしまうため、操作具の増加にも限界があるという問題があった。さらに、ユーザが最適な投擲(キャスティング)条件を探す際に、ユーザが直前の投擲(キャスト)結果を正確に把握することは難しいため、最適なキャスティング条件を見つけるのが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易により詳細な制動力の設定を行うことができ、かつ的確にキャスティング条件の最適化が可能な魚釣用リール、制動力制御システム及び制動力設定装置を提供することにある。本発明のこれら以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールは、釣糸を巻回可能なスプールと、該スプールを制動するスプール制動部と、該スプール制動部による制動力を制御可能なスプール制動力制御部と、を備え、外部機器からの指示を受信可能な受信部を備え、該受信部が該外部機器から制動力に関する指示を受信すると、該スプール制動力制御部は該指示に基づき制動力を設定するように構成される。
【0008】
本発明の一実施形態に係る制動力制御システムは、上述の魚釣用リールと、スプールの制動力を設定可能な制動力設定部と、設定した制動力に関する情報を送信する送信部と、を有する情報通信装置とを備えるように構成される。
【0009】
本発明の一実施形態に係る制動力設定装置は、該スプールを制動するスプール制動部と、該スプール制動部による制動力を制御可能なスプール制動力制御部と、スプールの回転検出部と、投擲開始検出部と、投擲開始以降のスプールの回転履歴により投擲結果を演算する演算部と、スプールの制動力を設定可能な制動力設定部と、を備え、該制動力設定部は、該投擲結果を表示可能であるように構成される。
【0010】
本発明の一実施形態に係る制動力制御システム又は制動力設定装置は、前記スプール制動力制御部は、制動力の時間変化を制御可能であり、前記制動力設定部は、制動力の時間変化を設定可能であるように構成される。
【0011】
本発明の一実施形態に係る制動力制御システム又は制動力設定装置において、スプール制動力制御部は、釣糸の飛距離に応じた制動力の変化を制御可能であり、制動力設定部は、該釣糸の飛距離に応じた制動力の変化を設定可能であるように構成される。
【0012】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールは、釣糸を巻回可能なスプールと、該スプールを制動するスプール制動部と、該スプール制動部による制動力を制御可能なスプール制動力制御部と、該スプールの制動力を設定可能な制動力設定部と、を備え、該スプール制動力制御部は、該制動力設定部による制動力の設定値に基づき制動力を設定するように構成される。
【0013】
本発明の一実施形態に係る制動力設定プログラムにおいて、スプールの制動力を設定可能な制動力設定部は、上述の制動力制御システム、上述の制動力設定装置、又は上述の魚釣用リール上で起動するようにされる。
【発明の効果】
【0014】
上記実施形態によれば、簡易により詳細な制動力の設定を行うことができ、かつ的確にキャスティング条件の最適化ができる魚釣用リール、制動力制御システム及び制動力設定装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る制動力制御システムを示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る投擲時の投擲手順の概要を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る制動力制御システム等における制動力を設定する画面の例を説明する図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る制動力制御システム等における制動力を設定する画面の例を説明する図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る制動力制御システム等における制動力を設定する画面の例を説明する図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る制動力制御システム等における制動力を設定する画面の例を説明する図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る制動力制御システム等における投擲結果を表示する動作フローを説明する図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る制動力制御システム等における投擲結果を表示する動作フローを説明する図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る制動力制御システム等における投擲結果を表示する動作フローを説明する図である。
【
図10】本発明の別の実施形態に係る制動力制御システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら具体的に説明する。複数の図面において共通する構素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0017】
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1の構成について説明する。図示のように、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1は、釣糸を巻取るスプール3と、該スプール3を回転操作する操作部4と、該操作部4と該スプール3との動力伝達可否を切り替えるクラッチ2と、該スプール3に制動力を発生する制動部(スプール制動部)15と、制動力を調整する制動力制御部(スプール制動力制御部)16と、を有する。
【0018】
また、図示のように、魚釣用リール1は、該クラッチの動力伝達可否状態を検出するクラッチ検出部7と、スプール3の回転を検出する回転検出部8とを有する。クラッチ検出部7は、磁気センサ等によって構成され、クラッチ2の可動部に磁石等の被検出部を設けることで、クラッチ2の伝達可能/不能状態を検出する。
また、回転検出部8は、フォトインタラプタ等の検出手段と、スプール3に設けた遮光板等の被検出手段との組み合わせによって構成することができる。これにより、スプール3の回転を電気信号に変換することができる。なお、検出手段と被検出手段の組み合わせは上記の例に限らず、磁石と磁気センサ等、公知の手段が利用できる。
【0019】
また、魚釣用リール1は、各種信号を処理するマイコン9を有する。マイコン9は、図示しない電池等の電源により給電され、例えば、制動力制御部に目標制動力を指示する目標設定部91、スプール回転センサの出力より、投擲結果を演算する演算部92、ルアー20の情報を取得するルアー情報取得部93を備える。
【0020】
次に、
図1に示すように、電子デバイス(外部機器、外部情報通信装置、外部情報通信装置等ともいう)10には、ユーザから目標とする制動力を受付ける制動力設定部11と、設定された制動力情報や投擲結果を送受信する送受信部13と、LCD等の表示手段14とを備える。
【0021】
次に、魚釣用リール1を構成する各要素について説明する。スプール3は、魚釣用リール1に対して回転可能に軸支され、正回転により釣り糸を巻き取り、逆回転により巻き取った釣り糸を放出することができる。操作部4は、例えばハンドルとして構成され、ユーザの回転操作をギヤ等の伝達機構によってスプール3に伝え、該スプール3を正回転することができる。なお、操作部4は、レバー等の操作部材と、モータ等の動力源との組み合わせでもよい。
【0022】
クラッチ2は、スプール3に動力伝達可能なオン状態と、動力伝達を行わないオフ状態を切り替えることができる。オン状態では、操作部材3によってスプール3を正回転に操作することができ、オフ状態では、操作部材3の状態にかかわらず、正逆方向に回転可能となる(スプールフリー状態)。
【0023】
次に、本リールを含む一般的なリールを用いて、ルアー等の漁具を投擲し、回収する手順の一例について、
図2を参照しながら説明する。
【0024】
まず、
図1(a)に示すように、操作部材3により、ルアー20を竿先から所定の長さに調整し、クラッチ2(図示しない)をオフにし、スプールフリー状態にする。このとき、釣糸がルアー20の自重等により出ていくことの無いよう、リール1のスプール3を親指で押さえておく。
【0025】
次に、
図2(b)~(d)に示すように、釣竿1を振ることで、ルアー20に初速を与える。そして、
図2(e)に示すように、ルアーの速度及び放出方向が適正になったタイミングで、親指をスプール3から離すと、ルアー20を投擲することができる。
【0026】
さらに、投擲後、
図2(g)以降、ルアー20は釣糸からの張力や、空気抵抗を受けることで減速を始める。他方、スプール3は、釣糸からの張力によって逆回転を始める。釣り糸の放出速度とルアー20の飛行速度が一致するとスプール3は最高回転数となり、釣り糸は張力を失う。ルアー20はその後も空気抵抗等により失速を続ける。この際、スプール3が慣性により高速回転を続けると、釣糸の放出速度がルアー20の飛行速度を上回る。これにより、釣糸は余分に放出され、リール1内で糸がらみが生じる。これを避けるために、スプール3には制動装置5により所定の制動力を掛けるようにすることができる。
【0027】
その後、ルアー20の高度が十分下がると着水することとなる。このとき、制動装置5による制動力が大きすぎると、ルアー20を投擲できる距離が短くなってしまう。他方で、制動装置5による制動力が小さすぎると、糸がらみが発生し、巻き取りや放出が正常に行えなくなってしまう。制動力の適正値は、ルアー20の質量や空気抵抗によって変化し得る。さらに、竿の長さ、投擲方法や風などの自然環境等、様々な影響によって変化する。特に、投擲中は釣り糸の状態はダイナミックに変化するため、最適な制動条件にするには、より細かい設定を行うことができれば有利である。また、投擲結果を詳細に把握することで、制動力の適正化を行い易くなる。
【0028】
次に、スプール制動部15について説明する。スプール制動部15は、スプール3に取り付く導体からなる回転体状の渦電流発生板と、渦電流発生板と対向して配置される固定磁石と、固定磁石の反対側から渦電流発生板を挟み込む回転磁石と、回転磁石を回転移動させるモータと、モータの駆動を減速して第2の永久磁石に伝達するギヤ列と、永久磁石の位置を検出する磁石位置センサとによって構成される(いずれも図示しない)。
【0029】
固定磁石は、外周部が6等分されN極S極交互に着磁される。また、回転磁石は、内周部が6等分されN極S極交互に着磁される。固定磁石と回転磁石によって作られた磁場は、その間に位置する渦電流発生板を貫通する(いずれも図示しない)。したがって、スプール3の回転時には、渦電流発生板に渦電流が発生し、回転速度に応じた制動力が働く。
【0030】
当該モータおよびギヤ列によって回転磁石を回転させることで、渦電流発生板に働く磁場を変化させることができる(いずれも図示しない、以下同様)。これにより、制動力を所定の量に設定することができる。すなわち、回転磁石と固定磁石を同極同士で対抗させると、渦電流発生板にかかる磁場は弱くなり、制動力は弱くなる。回転磁石と固定磁石を異極同士で対抗させると、渦電流発生板にかかる磁場は強くなり、制動力は強くなる。
【0031】
磁石位置センサは、回転磁石の位置を検出するセンサであり、磁気センサや電気抵抗式等の公知の位置センサで構成される。
【0032】
制動力制御部16は、磁石位置センサの値を見ながらモータに必要な電流を流すことで、モータをフィードバック制御する。これにより、スプール3に所定の制動力を与えることができる。このように、制動部15及び制動力制御部16によって、スプール3に与える制動力を経時的に変更することができる。
【0033】
なお、渦電流発生板は、スプール3の一部で構成するようにすることができる。また、渦電流発生板は、スプール3の回転スピードに応じて遠心力の作用によりスプール3に対して相対移動させることにより、所定の制動力特性を持たせるようにしてもよい。
【0034】
また、上述した制動部15は、上述のような渦電流を利用する方式に限らず、マイコンで制動力を経時的に調整可能なものであれば、同様の効果を実現できる。
制動装置の他の方式には、スプールに取り付けた永久磁石とリール本体に設けたコイルとの間に回生ブレーキを発生させる方式や、スプールに取り付けた摩擦板への接触力を電磁アクチュエータ等で変化させる接触ブレーキを用いる方式等、があり、特定の方式に限定されるものではない。
【0035】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1は、釣糸を巻回可能なスプール3と、該スプール3を制動するスプール制動部15と、該スプール制動部15による制動力を制御可能なスプール制動力制御部16と、を備え、外部機器からの指示を受信可能な受信部(送受信部)94を備え、該受信部94が該外部機器10から制動力に関する指示を受信すると、該スプール制動力制御部16は該指示に基づき制動力を設定するように構成される。
【0036】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1により、簡易により詳細な制動力の設定を行うことができ、かつ的確にキャスティング条件の最適化が可能となる。
【0037】
本発明の一実施形態に係る制動力制御システム100は、上述の魚釣用リール1と、スプールの制動力を設定可能な制動力設定部11と、設定した制動力に関する情報を送信する送信部13と、を有する情報通信装置10とを備えるように構成される。
【0038】
本発明の一実施形態に係る制動力制御システム100により、外部から簡易により詳細な制動力の設定を行うことができ、かつ的確にキャスティング条件の最適化が可能となる。
【0039】
本発明の一実施形態に係る制動力設定装置101は、該スプールを制動するスプール制動部15と、該スプール制動部15による制動力を制御可能なスプール制動力制御部16と、スプールの回転検出部8と、投擲開始検出部(図示しない)と、投擲開始以降のスプールの回転履歴により投擲結果を演算する演算部92と、スプールの制動力を設定可能な制動力設定部11と、を備え、該制動力設定部11は、該投擲結果を表示可能であるように構成される。
図1の例では、制動力設定部11は、外部デバイス10内に設けられているが、その代わりに魚釣用リール1に設けるようにしてもよい。この場合、制動力設定装置101は、魚釣用リール1に組込むことができる。このようにして、簡易に制動力設定のための機能を魚釣用リールに追加することが可能となる。
【0040】
本発明の一実施形態に係る制動力設定装置101は、簡易により詳細な制動力の設定を行うことができ、かつ的確にキャスティング条件の最適化ができる魚釣用リール、制動力制御システム及び制動力設定装置を提供することが可能となる。
【0041】
本発明の一実施形態に係る制動力制御システム100又は制動力設定装置101において、スプール制動力制御部16は、制動力の時間変化を制御可能であり、前記制動力設定部は、制動力の時間変化を設定可能であるように構成される。
【0042】
本発明の一実施形態に係る制動力制御システム100又は制動力設定装置101において、スプール制動力制御部は、釣糸の飛距離に応じた制動力の変化を制御可能であり、制動力設定部は、該釣糸の飛距離に応じた制動力の変化を設定可能であるように構成される。
【0043】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1は、釣糸を巻回可能なスプール3と、該スプール3を制動するスプール制動部15と、該スプール制動部15による制動力を制御可能なスプール制動力制御部16と、該スプールの制動力を設定可能な制動力設定部11と、を備え、該スプール制動力制御部16は、該制動力設定部11による制動力の設定値に基づき制動力を設定するように構成される。これは、
図1に示す制動力設定部11が魚釣用リール1内に設けられるようにしたものである。
【0044】
上述のように、制動力制御部16は、電子デバイス10上で実行される制動力設定部11によって制動力を設定を行う。電子デバイス10には、スマートフォン、スマートグラスやスマートウォッチ等のウェアラブル端末、パーソナルコンピュータ等が考えられるが、これらに限られない。
【0045】
次に、
図3を参照して、制動力を設定する画面の例につき説明する。図中のグラフ1は、過去(直前)の投擲結果を示し、横軸は投擲開始からの経過時間、縦軸はスプール3の回転速度である。他方、図中のグラフ2は、制動力の設定を示している。横軸はグラフ1と共通であり投擲開始以降の経過時間、縦軸は制動力の設定値である。上に行くほど高い制動力になるように軸方向を定義している。
【0046】
ユーザは、グラフ1の投擲結果を見ながら制動力の経時変化を設定することができる。例えば、投擲開始からの経過時間をn個(t1~tn)及びそれぞれのブレーキ設定(S1~Sn)を入力する。
図3に示す例では、時間と制動力の4つの組み合わせによりブレーキ設定値を定義している。
【0047】
この値を送信手段13により魚釣用リール1に送信すると、制動力制御部16は、この設定値に応じてスプール3への制動力を経時的に調整する。なお、ブレーキ設定値の変更速度には限界があり、その値は制動部5の特性によって決まる。
図3のグラフ2に示すように、ブレーキの設定変更は、変更量に応じて、tnよりも前に開始するようにする。このように、魚釣用リール1側に入力部や表示部を設けることなく複雑な制動力条件を設定することが可能となる。
【0048】
また、過去の(特に直前の)投擲結果を表示しながら次の投擲の制動力条件を設定できるようにすることで、制動力条件の最適化が行い易くなるという利点がある。これを、
図4ないし
図5を参照して説明する。
【0049】
図4は制動力が大きすぎて飛距離が伸びなかったときの投擲結果と、その時の制動条件である。図中のグラフ1はスプール3の回転速度であり、実線が直前の投擲結果、点線は理想的な投擲結果である。点線で示す理想的な投擲結果では、滑らかにスピードが低下していくことで、長い飛距離を実現している。他方、実線で示す直前の投擲結果では、Aの地点でのブレーキ力が強すぎるため、急激な速度低下を起こした結果、長い飛距離を実現できなかった。このような場合は、A点での制動力を弱めることで、より理想に近い制動力設定とすることができる。
【0050】
このように、理想的な投擲結果と直前の投擲結果を同時に表示してもよい。これにより、より遠くへ飛ばすためのブレーキ設定がわかりやすくなる。理想的な投擲結果としては、類似条件における最高距離を達成した過去データを参照してもよいし、工場出荷時等にあらかじめ記憶させておき、類似条件の中から選んでもよい。
【0051】
次に、
図5は、制動力が小さすぎて糸がらみが発生した時の投擲結果と、その時の制動条件である。B点において、制動力が弱すぎたために糸の放出速度がルアーの速度を追い越すことで糸がらみが発生し、その結果スプール3から糸の放出が行なえなくなり、急激に失速している。このような場合では、B点での制動力を強めることで、(糸がらみをどうにかした後に)より理想に近い制動力設定とすることができる。
【0052】
なお、制動力が大きすぎたか、小さすぎたかの判断は、グラフ1のみではなく、投擲後の糸がらみの状態も考慮すればよい。熟練したユーザは、糸フケの発生を指で感じることによって、糸がらみの発生の事前に感じることはできる。しかし、そのタイミングを正確につかむことは難しい。上述のように、魚釣用リール1で測定した投擲結果を表示することで、糸がらみ発生のタイミングを正確につかむことができる。従って、次回以降の投擲では、より適正化した制動条件に設定することが容易になる。
【0053】
次に、
図6を参照して、制動力を設定する画面の別の例につき説明する。図中のグラフ1は、過去(直前)の投擲結果を示し、横軸は投擲開始からの放出距離、縦軸はスプール3の回転速度である。他方、図中のグラフ2は、制動力の設定を示す。横軸はグラフ1と共通であり投擲開始からの放出時間、縦軸は制動力の設定値である。上に行くほど高い制動力になるように軸方向を定義している。ユーザは、グラフ1の投擲結果を見ながら制動力の経時変化を設定する。
【0054】
この例では、ユーザーは投擲開始からの放出距離をn個(L1~Ln)及びそれぞれのブレーキ設定(S1~Sn)を入力する。この値を送信部13によって魚釣用リール1に送信すると、制動力制御部16は、この設定値に応じてスプール3への制動力を調整する。すなわち、指定の飛距離になった際にその時の設定制動力にする。
【0055】
このように、投擲開始からの放出距離に応じてブレーキ設定状態を順次切り替えることができる。これにより、例えば投擲方向に障害物があり、その手前で制動をかけたい時などに、障害物にぶつかる前に制動力を上げることなどができる。また、放出した釣り糸の長さに応じて、釣り糸の受ける空気抵抗は変わってくる。上述のように投擲距離からの放出距離に応じてブレーキ設定を変更することで、このような影響を補正することができる。
【0056】
次に、投擲結果を表示する動作フローについて、
図7-9を参照しながら説明する。
図7に示すように、まず、ステップS1において、投擲準備を検出する投擲準備開始検出部により魚釣用リール1が投擲準備を開始したかを検出する。投擲準備を開始していない場合は、ステップS1に戻る。
【0057】
投擲準備を開始している場合は、ステップS2へ進む。ステップS2において、該スプール3の回転を検出する回転検出部5による検出を開始し、距離を初期化する(L=0)。
【0058】
次に、ステップS3において、該スプール3の回転を検出する回転検出部により該スプールの回転が検出されたかを確認する。回転が検出された場合は、所定の距離だけ測定値を増やした後(L=L+1)に、ステップS3に戻る。なお、距離Lはスプール3の回転量でも良いし、スプール3の半径変化を補正した釣り糸の放出量でも良い。
【0059】
ステップS3において、該スプール3の回転を検出する回転検出部5により該スプールの回転が検出されていない場合は、次のステップに移行する。ステップS4において、投擲終了を検出する投擲終了検出部7により投擲が終了しているかを検出する。投擲準備を開始していない場合は、ステップS3に戻る。
【0060】
投擲が終了している場合は、ステップS5へ進む。ステップS5において、該投擲準備から該投擲終了までの履歴データを生成する履歴データ生成部8により履歴データの生成を行い、次のステップに進む。
【0061】
ステップS6において、ステップS5において生成された履歴データを記憶する記憶部9により記憶する、若しくは生成された履歴データを後述する通信処理部により外部へ送信する。これにより、パソコンやスマートフォン等、他のリール等、外部の機器に情報を伝達することができ、データの閲覧や記録ができる。
【0062】
ここで、履歴データについて説明する。履歴データは、例えば、一定時間ごとの距離Lの変遷でも良いし、最終的な飛距離Lのみでも良い。また、Lを時間微分することで得られるスプールの速度変化、制動力の経時変化、釣糸の最高速度やスプールの最高回転数を含んでも良い。さらに、複数の投擲を集計することで、その日毎の投擲履歴を記録しても良いし、そのリールの全投擲データを記録しても良い。
【0063】
次に、
図8を参照して、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1の投擲準備開始状態について説明する。本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1において、該投擲準備開始検出部6は、上記ステップS1において、より具体的には、該クラッチ2がオフ状態となった場合(S1a)、該スプール3が停止した状態から該釣糸の繰出し方向への回転を開始した場合(S1b)、該リールが所定の向きとなっている場合(S1c)、又は前記リールの所定方向の角速度が設定閾値以上となる場合(S1d)、リールにボタン等の入力装置を設け、ユーザーが投擲準備を開始したい際に入力装置を操作した場合(S1e)、のいずれかの状態となった場合に、投擲準備の開始を検出するよう構成される。このように、上記いずれかの状態を検出することで、投擲準備開始検出部6は投擲準備開始を的確に検出することが可能となる。
【0064】
次に、
図9を参照して、本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1の投擲終了状態について説明する。本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1において、該投擲終了検出部7は、該クラッチ2がオン状態となった場合(S4a)、該投擲準備開始の検出後所定時間が経過した場合(S4b)、該スプール3の回転が巻取り方向となった場合(S4c)、又は該スプールの回転速度が閾値以下となった場合(S4d)、リールにボタン等の入力装置を設け、ユーザーが投擲終了を判断した際に入力装置を操作した場合(S4e)のいずれかの状態となった場合に、投擲終了を検出するよう構成される。このように、上記いずれかの状態を検出することで、投擲終了検出部7は投擲終了を的確に検出することが可能となる。
【0065】
次に、本発明の別の実施形態に係る態様につき、
図10を参照して説明する。本発明の一実施形態に係る魚釣用リール1は、第2の制動力設定部20を有する。その他は上述した実施形態と同様である。第2の制動力設定部20は、例えば、2つのメンブレンスイッチで構成され、一方を+ボタン(プラスボタン)、他方を-ボタン(マイナスボタン)とする。なお、第2の制動力設定部20の実現方法はこれに限らず、リール本体に取り付け可能で、ユーザーが下記操作を行うことができる公知の手段を用いることができる。
【0066】
既述のように、外部デバイス10を用いてブレーキ力を設定したのちに、第2の制動力設定部20を用いて制動力を微調整することができる。これにより、ブレーキ力を設定する際に、わざわざ外部デバイス10に持ち替える必要がなく、細かいブレーキ力の設定が行うことが可能となる。
【0067】
一つの例では、外部デバイス10、又は、工場出荷時によって設定した制動力を、第2の制動力設定部20によってオフセットする方法がある。例えば、外部デバイス10によって、制動力が
(t1,t2,t3)=(0,100,500) (S1,S2,S3)=(5,12,10)
と設定されていたとする。このときに、+ボタンを押した場合は、(S1,S2,S3)=(6,13,11)と1ずつ増やす。他方、-ボタンを押した場合は、(S1,S2,S3)=(4,11,9)と1ずつ減らす。このような方式にすることで、外部デバイス10によって詳細な設定を行った後、第2の制動力設定部20によって微調整をすることが可能となる。
【0068】
別の例では、外部デバイス10によって制動力の設定値をあらかじめ複数セット作っておき、第2の設定手段を用いてその複数セットの中から選択する方法がある。例えば、
パターン1: (t1,t2,t3)=(0,100,500) (S1,S2,S3)=(5,12,10)
パターン2: (t1,t2,t3)=(0,100,600) (S1,S2,S3)=(4,12,10)
パターン3: (t1,t2,t3)=(0,100,700) (S1,S2,S3)=(3,12,10)
パターン4: (t1,t2,t3)=(0,100,800) (S1,S2,S3)=(10,15,8)
…
のように設定され、現在パターン2を使っていたとする。このときに、+ボタンを押した場合はパターン3を使い、-ボタンを押した場合はパターン1を使うようにする。このような方式にすることで、第2の制動力設定手段によって、設定済のブレーキ設定値を手元の操作のみで微調整をすることが可能となる。
【0069】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0070】
1 魚釣用リール
2 クラッチ
3 スプール
4 操作部
5 スプール制動部
6 スプール制動力制御部
8 回転検出部
9 マイコン
10 外部デバイス
11 制動力設定部
13 送受信部(送信部)
14 表示部
15 制動力制動部
16 制動力制御部
20 第2の制動力設定部
51 渦電流発生板
52 固定磁石
53 回転磁石
54 モータ
55 ギヤ列
56 磁石位置センサ
91 目標設定部
92 演算部
93 記憶部
100 制動力制御システム
101 制動力設定装置