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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04791 20160101AFI20240502BHJP
   H01M 8/04228 20160101ALI20240502BHJP
   H01M 8/04303 20160101ALI20240502BHJP
   H01M 8/0444 20160101ALI20240502BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20240502BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20240502BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20240502BHJP
【FI】
H01M8/04791
H01M8/04228
H01M8/04303
H01M8/0444
H01M8/04537
H01M8/04746
H01M8/04858
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020145389
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040600
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 尚登
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-123013(JP,A)
【文献】特開2006-209996(JP,A)
【文献】特開2008-140772(JP,A)
【文献】特許第5169056(JP,B2)
【文献】特開2012-248319(JP,A)
【文献】特開2015-097218(JP,A)
【文献】特開2011-086474(JP,A)
【文献】特開2016-095903(JP,A)
【文献】特許第5052776(JP,B2)
【文献】特開2007-141779(JP,A)
【文献】特表2014-509045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 - 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスが燃料ガス供給流路から供給され、燃料ガス排出流路に排出される燃料極、および、酸化剤ガスが酸化剤ガス供給流路から供給され、酸化剤ガス排出流路に排出される酸化剤極を有し、燃料ガス供給部から前記燃料ガス供給流路を介して前記燃料極に供給される前記燃料ガスと、酸化剤ガス供給部から前記酸化剤ガス供給流路を介して前記酸化剤極に供給される前記酸化剤ガスとの間の反応によって発電運転を行うように構成されている燃料電池本体と、
前記発電運転を制御するように構成されている制御部と
を備える燃料電池システムであって、
前記燃料ガス供給流路に設けられた燃料極入口弁と、
前記燃料ガス排出流路に設けられた燃料極出口弁と、
前記酸化剤ガス供給流路に設けられた酸化剤極入口弁と、
前記酸化剤ガス排出流路に設けられた酸化剤極出口弁と、
前記燃料ガス供給流路に一端が連通し、前記燃料ガス排出流路に他端が連通している燃料ガス循環流路と、
前記燃料ガス循環流路に設けられた脱気弁と
を有し、
前記制御部は、前記発電運転を停止する運転停止指令を受けたとき、前記脱気弁を閉止し、前記燃料極中の窒素濃度が基準値未満である場合には前記燃料極中の窒素濃度が基準値以上になるまで前記発電運転を継続した後に、少なくとも、前記燃料極出口弁と前記酸化剤極入口弁と前記酸化剤極出口弁とを閉止することによって前記発電運転を停止させる、
燃料電池システム。
【請求項2】
燃料ガスが燃料ガス供給流路から供給され、燃料ガス排出流路に排出される燃料極、および、酸化剤ガスが酸化剤ガス供給流路から供給され、酸化剤ガス排出流路に排出される酸化剤極を有し、燃料ガス供給部から前記燃料ガス供給流路を介して前記燃料極に供給される前記燃料ガスと、酸化剤ガス供給部から前記酸化剤ガス供給流路を介して前記酸化剤極に供給される前記酸化剤ガスとの間の反応によって発電運転を行うように構成されている燃料電池本体と、
前記発電運転を制御するように構成されている制御部と
を備える燃料電池システムであって、
前記燃料ガス供給流路に一端が連通し、前記燃料ガス排出流路に他端が連通している燃料ガス循環流路と、
前記燃料ガス循環流路に設けられた脱気弁と
を有し、
前記制御部は、前記発電運転を停止する運転停止指令を受けたとき、前記脱気弁を閉止し、前記燃料極中の窒素濃度が基準値未満である場合には前記燃料極中の窒素濃度が基準値以上になるまで前記発電運転を継続した後に、前記発電運転を停止させ、
前記発電運転を停止させた後には、前記燃料電池本体に外部負荷を接続することによって、前記燃料電池本体において前記燃料極に残留した燃料ガスおよび前記酸化剤極に残留した酸化剤ガスを消費する、
燃料電池システム。
【請求項3】
燃料ガスが燃料ガス供給流路から供給され、燃料ガス排出流路に排出される燃料極、および、酸化剤ガスが酸化剤ガス供給流路から供給され、酸化剤ガス排出流路に排出される酸化剤極を有し、燃料ガス供給部から前記燃料ガス供給流路を介して前記燃料極に供給される前記燃料ガスと、酸化剤ガス供給部から前記酸化剤ガス供給流路を介して前記酸化剤極に供給される前記酸化剤ガスとの間の反応によって発電運転を行うように構成されている燃料電池本体と、
前記発電運転を制御するように構成されている制御部と
を備える燃料電池システムであって、
前記燃料ガス供給流路に一端が連通し、前記燃料ガス排出流路に他端が連通している燃料ガス循環流路と、
前記燃料ガス循環流路に設けられた脱気弁と
を有し、
前記制御部は、前記発電運転を停止する運転停止指令を受けたとき、前記脱気弁を閉止し、前記燃料極中の窒素濃度が基準値未満である場合には前記燃料極中の窒素濃度が基準値以上になるまで前記発電運転を継続した後に、前記発電運転を停止させ
前記発電運転を停止させた後には、前記燃料極の圧力が大気圧以上に保持されるように、前記燃料極に燃料ガスを供給する、
燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御部は、リサイクル発電時間に基づいて、窒素濃度が基準値以上であるか否かを判断する、
請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御部は、電圧低下量に基づいて、窒素濃度が基準値以上であるか否かを判断する、
請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、燃料極と酸化剤極との間に電解質膜が介在している燃料電池を備えている。燃料電池では、燃料極に供給された燃料ガスと酸化剤極に供給された酸化剤ガスとが電解質膜を介して電気化学的に反応する。このように、燃料電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する発電装置である。
【0003】
燃料ガスは、たとえば、水素であって、水素ボンベや水素吸蔵合金から燃料極へ供給する。この他に、メタンやメタノールなどの燃料を改質したガスを燃料ガスとして供給する場合がある。また、酸化剤ガスは、たとえば、空気であって、ブロアやコンプレッサなどの機器を用いて酸化剤極へ供給される。
【0004】
燃料電池の発電が停止状態であるときには、燃料ガスの供給および酸化剤ガスの供給が停止される。そして、燃料電池の内部において燃料ガスと酸化剤ガスとの間の反応が起きないように、窒素などの不活性ガスで燃料電池の内部を置換している。不活性ガスによる置換によって、空気が燃料電池の内部に侵入することを防止している。
【0005】
燃料極(アノード)に水素などの燃料ガスが無い状態で酸化剤極(カソード)に空気が入った場合、燃料極において腐食反応が生じ劣化が進行する場合がある。また、燃料極および酸化剤極に空気が有る状態で燃料極に水素などの燃料ガスが導入されると、内部電池が生じるため、酸化剤極において腐食が進行する場合がある。
【0006】
この対策として、発電運転の停止の際および起動の際に、不活性ガスをパージしている。しかし、この場合には、専用ボンベなどの付帯設備が必要になるので、システムの小型化および簡素化を阻害する。
【0007】
不活性ガスのパージをせずに、腐食の進行を防ぐために、さまざま技術が提案されている。
【0008】
たとえば、酸化剤極の入口および出口に遮断弁を設置し、発電運転の停止後に遮断弁を閉じ、燃料極の燃料ガスと酸化剤極の酸化剤ガスを消費させることで、電極の劣化を防止している。また、上記のように燃料ガスおよび酸化剤ガスの消費を実施した場合には、系の圧力が低下して、長期間の保管において系に空気が入り込む場合があるが、燃料電池に多孔質セパレータを用いることで、その消費された部分に冷却水が入り込むため、空気の混入を防止できる(たとえば、特許文献1参照)。
【0009】
この他に、発電運転の停止後に、空気を遮断した状態で燃料ガスによって酸素を消費させるともに、燃料極の圧力(アノード圧力)が大気圧および酸化剤極の圧力(カソード圧)よりも高くなるように燃料ガスの供給を継続することで、空気の混入を防止することが提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許5052776号
【文献】特許5169056号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の技術においては、発電運転の停止後に、燃料極が燃料ガスである水素を含み、酸化剤極が窒素を含む状態になる。しかし、時間の経過に伴って、水素と窒素とが電解質膜を透過し、燃料極と酸化剤極との間において分圧が等しくなる。このとき、水素の移動速度よりも窒素の移動速度の方が速いため、一時的に圧力の偏りが生じて、酸化剤極の圧力が上昇し、逆に燃料極の圧力が低下する。燃料極の圧力を保つように水素を供給し続けることで、燃料極の圧力低下を抑えることができるが、水素供給のために通電をしておかなければならない。
【0012】
また、多孔質セパレータを用いて燃料電池を構成することによって、冷却水で圧力低下を補うことが可能であり、燃料供給や通電時間を抑えることができるが、消費した水素や酸素分の水を保有する必要があり、システムサイズが大きくなってしまう。
【0013】
上記のような事情によって、腐食防止を容易かつ効率的に実現することができない。
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、腐食防止を容易かつ効率的に実現可能な燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
実施形態の燃料電池システムは、燃料電池本体と制御部とを備える。燃料電池本体は、燃料ガスが燃料ガス供給流路から供給され、燃料ガス排出流路に排出される燃料極、および、酸化剤ガスが酸化剤ガス供給流路から供給され、酸化剤ガス排出流路に排出される酸化剤極を有し、燃料ガス供給部から燃料ガス供給流路を介して燃料極に供給される燃料ガスと、酸化剤ガス供給部から酸化剤ガス供給流路を介して酸化剤極に供給される酸化剤ガスとの間の反応によって発電運転を行うように構成されている。制御部は、発電運転を制御するように構成されている。燃料電池システムは、燃料ガス供給流路に設けられた燃料極入口弁と、燃料ガス排出流路に設けられた燃料極出口弁と、酸化剤ガス供給流路に設けられた酸化剤極入口弁と、酸化剤ガス排出流路に設けられた酸化剤極出口弁と、燃料ガス供給流路に一端が連通し、燃料ガス排出流路に他端が連通している燃料ガス循環流路と、燃料ガス循環流路に設けられた脱気弁とを有する。制御部は、発電運転を停止する運転停止指令を受けたとき、脱気弁を閉止し、燃料極中の窒素濃度が基準値未満である場合には燃料極中の窒素濃度が基準値以上になるまで発電運転を継続した後に、少なくとも、燃料極出口弁と酸化剤極入口弁と酸化剤極出口弁とを閉止することによって発電運転を停止させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態に係る燃料電池システム1の全体構成を模式的に示すブロック図である。
図2図2は、実施形態に係る燃料電池システム1において、発電運転の停止を実行するときのフロー図である。
図3図3は、実施形態に係る燃料電池システム1において、発電運転の停止後における燃料極20の圧力(アノード圧力)および酸化剤極30の圧力(カソード圧力)の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[A]構成
図1は、実施形態に係る燃料電池システム1の全体構成を模式的に示すブロック図である。
【0018】
[A-1]燃料電池本体10
図1に示すように、本実施形態の燃料電池システム1は、燃料電池本体10を備えている。ここでは、燃料電池本体10は、燃料極20(アノード)および酸化剤極30(カソード)を有する。図示を省略しているが、燃料電池本体10において燃料極20と酸化剤極30(カソード)との間には電解質膜(図示省略)が介在しており、燃料電池本体10は、燃料ガスと酸化剤ガスとの間の反応によって発電運転を行うように構成されている。また、燃料電池本体10は、燃料電池本体10を冷却するために電池冷却部40を備えている。
【0019】
燃料電池本体10を構成する各部について説明する。
【0020】
[A-1-1]燃料極20
燃料電池本体10において、燃料極20は、燃料ガスが燃料ガス供給流路L211から供給され、燃料ガス排出流路L212に排出されるように構成されている。ここでは、燃料ガス供給流路L211は、燃料ガス供給部210と燃料極20との間を連通しており、燃料ガス供給部210と燃料極20との間には燃料極入口弁V211が設けられている。そして、燃料ガス排出流路L212には、燃料極出口弁V212が設けられている。燃料ガス供給流路L211および燃料ガス排出流路L212は、たとえば、多孔質材料で形成されたセパレータ(図示省略)に設けられた部分を含む。燃料ガスは、たとえば、水素であって、水素ボンベや水素吸蔵合金を用いて構成された水素源である燃料ガス供給部210から燃料極20へ供給される。
【0021】
[A-1-2]酸化剤極30
燃料電池本体10において、酸化剤極30は、酸化剤ガスが酸化剤ガス供給流路L311から供給され、酸化剤ガス排出流路L312に排出されるように構成されている。ここでは、酸化剤ガス供給流路L311は、酸化剤ガス供給部310と酸化剤極30との間を連通しており、酸化剤ガス供給部310と酸化剤極30との間には酸化剤極入口弁V311が設けられている。そして、酸化剤ガス排出流路L312には、酸化剤極出口弁V312が設けられている。酸化剤ガス供給流路L311および酸化剤ガス排出流路L312は、たとえば、多孔質材料で形成されたセパレータ(図示省略)に設けられた部分を含む。酸化剤ガスは、たとえば、空気であって、ブロアやコンプレッサなどの酸化剤ガス供給部310から酸化剤極30へ供給される。
【0022】
[A-1-3]電池冷却部40
燃料電池本体10において、電池冷却部40は、冷却水循環流路L410を循環する冷却水が流入し、かつ、流出するように構成されている。冷却水循環流路L410には、冷却水ポンプ410が設けられており、冷却水ポンプ410によって冷却水が電池冷却部40を介して冷却水循環流路L410を循環する。冷却水循環流路L410は、たとえば、多孔質材料で形成されたセパレータ(図示省略)に設けられた部分を含む。
【0023】
[A-1-4]燃料ガス循環流路L230
本実施形態の燃料電池システム1においては、燃料ガス循環流路L230が設けられている。燃料ガス循環流路L230は、燃料ガス供給流路L211に一端が連通し、燃料ガス排出流路L212に他端が連通している。具体的には、燃料ガス循環流路L230の一端は、燃料ガス供給流路L211において燃料極入口弁V211と燃料極20との間に位置する部分に連結されている。そして、燃料ガス循環流路L230の他端は、燃料ガス排出流路L212において燃料極出口弁V212と燃料極20との間に位置する部分に連結されている。そして、燃料ガス循環流路L230には、燃料リサイクルブロア230が設けられている。
【0024】
[A-1-5]脱気流路L250・脱気弁V250
また、本実施形態の燃料電池システム1においては、脱気流路L250が設けられている。脱気流路L250の一端は、燃料ガス循環流路L230において燃料ガス排出流路L212に連通する他端と燃料リサイクルブロア230との間に連結されている。そして、脱気流路L250には、脱気弁V250が設けられている。
【0025】
[A-2]制御部80
燃料電池システム1は、上記の他に、制御部80を備えている。制御部80は、燃料電池本体10の発電運転を制御するために、燃料電池システム1を構成する各部を制御する。図示を省略しているが、制御部80は、演算器(図示省略)とメモリ装置(図示省略)とを含み、メモリ装置が記憶しているプログラムを用いて演算器が演算処理を行うことによって、燃料電池システム1を構成する各部の制御を行う。
【0026】
[B]動作
本実施形態の燃料電池システム1の動作について説明する。
【0027】
[B-1]発電運転
まず、発電運転の概要について説明する。
【0028】
本実施形態の燃料電池システム1において燃料電池本体10が発電運転を実行する際には、燃料ガス供給部210から燃料ガス供給流路L211を介して燃料ガスを燃料極20に供給すると共に、酸化剤ガス供給部310から酸化剤ガス供給流路L311を介して酸化剤極30に酸化剤ガスを供給する。これにより、燃料ガスと酸化剤ガスとの間において電気化学反応が起こり、発電が行われる。
【0029】
未反応の燃料ガスは、燃料極20から燃料ガス排出流路L212に排出される。ここで、燃料ガス排出流路L212に排出された未反応の燃料ガスは、燃料ガス循環流路L230を介して、燃料ガス供給流路L211に戻る。燃料ガス供給流路L211に戻った未反応の燃料ガスは、発電で用いられる。これにより、燃料ガスの利用率が高まり、発電効率を上昇させることができる。なお、未反応の酸化剤ガスは、酸化剤極30から酸化剤ガス排出流路L312に排出された後に外部へ放出される。
【0030】
上記のように、燃料ガスを循環させる燃料リサイクルを実行した場合には、酸化剤極30の窒素が燃料極20の燃料ガスに混入し、燃料極20の燃料ガスにおける窒素濃度が増加する。このため、発電運転を実行している際には、脱気弁V250を定期的に閉状態から開状態にする動作を実行する。これにより、燃料ガス循環流路L230から脱気流路L250を介して窒素などの不純物を外部へ放出している。
【0031】
[B-2]発電運転の停止
つぎに、発電運転の停止について説明する。
【0032】
図2は、実施形態に係る燃料電池システム1において、発電運転の停止を実行するときのフロー図である。
【0033】
図2に示すように、発電運転の停止を実行する際には、まず、運転停止指令を受信する(ST10)。ここでは、たとえば、オペレータによって操作部(図示省略)に入力された運転停止指令を制御部80が受信する。
【0034】
つぎに、脱気弁V250の閉止を行う(ST20)。ここでは、運転停止指令を受信したときに、制御部80が脱気弁V250を全閉状態にする。これにより、窒素などの不純物の外部放出を停止する。
【0035】
つぎに、燃料極20中の窒素濃度が基準値以上であるか否かの判断を行う(ST30)。窒素濃度の基準については、上限値については発電時の水素欠乏を避けるために、燃料利用率(発電による燃料(水素)消費量/燃料(水素)供給量)が95%以下になるように、また、下限値については発電停止指令後に燃料極20中の窒素濃度が上昇するまで発電を継続する必要があるため、システムとして停止指令後も継続可能な時間や電圧低下量から決定し、この上下限の範囲で設定する必要がある。
【0036】
ここでは、制御部80は、たとえば、リサイクル発電時間に基づいて、本判断を実行する。リサイクル発電時間とは、脱気弁V250を閉じた状態で燃料ガス循環流路L230を介して未反応の燃料ガスを燃料ガス供給流路L211に戻すように発電運転を実行したときの時間であり、リサイクル発電時間が長くなるに伴って燃料極20中の窒素濃度が高くなる。このため、たとえば、リサイクル発電時間と燃料極20中の窒素濃度との関係式を予め求め、その関係式を用いて制御部80がリサイクル発電時間の実測値から燃料極20中の窒素濃度を推定することができる。上記のように燃料極20中の窒素濃度を推定する場合には、システムに計器を設置する必要がないためにシステムの簡素化やコスト低減の効果を奏することができる。
【0037】
上記の他に、制御部80は、電圧低下量に基づいて、本判断してもよい。電圧低下量とは、発電運転において燃料電池本体10が出力する電力の電圧値が、予め定めた基準電圧値よりも低下した値であり、燃料極20中の窒素濃度が高くなるに伴って電圧低下量が大きくなる。このため、たとえば、電圧低下量と燃料極20中の窒素濃度との関係式を予め求め、その関係式を用いて制御部80が電圧低下量の実測値から燃料極20中の窒素濃度を推定することができる。上記のように燃料極20中の窒素濃度を推定する場合には、一般的なシステムでは測定している電圧のモニターのみで判断でき、システムに計器を追加で設置する必要がないために、システムの簡素化やコスト低減の効果を奏することができる。
【0038】
図2に示すように、燃料極20中の窒素濃度が基準値未満である場合には、制御部80は、発電運転を継続して実行する(ST31)。制御部80は、燃料極20中の窒素濃度が基準値以上になるまで発電運転を継続して実行する。ここでは、発電運転は、燃料ガス循環流路L230を介して未反応の燃料ガスを燃料ガス供給流路L211に戻すように継続して実行される。
【0039】
図2に示すように、燃料極20中の窒素濃度が基準値以上である場合には、制御部80は、発電運転を停止させる(ST40)。発電運転が停止されたときには、燃料極20においては、燃料ガス(水素)と窒素とが残存し、酸化剤極30においては、酸化剤ガス(酸素)と窒素とが残存した状態になる。
このように、本実施形態では、脱気弁V250の閉止した状態で発電運転を停止しているので、燃料極20中の窒素濃度を一定値以上に保ったまま発電を停止させることができる。
【0040】
発電運転を停止させた後には、燃料極出口弁V212と酸化剤極入口弁V311と酸化剤極出口弁V312とを閉止する(ST50)。つまり、制御部80は、燃料極出口弁V212、酸化剤極入口弁V311、および、酸化剤極出口弁V312については、全閉状態にする。そして、燃料極入口弁V211については、開状態を保持する。これにより、燃料極20においては、燃料ガスが供給可能な状態に保持される。
【0041】
つぎに、図2に示すように、外部負荷の接続を実行する(ST60)。ここでは、燃料電池本体10に外部負荷を接続することによって、燃料極20に残存した燃料ガス(水素)と、酸化剤極30に残存した酸化剤ガス(酸素)とが消費される。このために、本実施形態では、酸化剤極30中の酸化剤ガスをすべて消費することができるために電極劣化の防止の効果を奏することができる。
【0042】
また、図2に示すように、燃料極20の燃料が消費されると同時に燃料極20に燃料ガスを供給する(ST60)。ここでは、燃料極20の圧力が大気圧以上に保持されるように、燃料極20への燃料ガスの供給を制御部80が制御する。これにより、上記のように、外部負荷を用いて燃料ガス(水素)と酸化剤ガス(酸素)との消費を実行した場合であっても、燃料ガス(水素)の欠乏を防止可能である。
【0043】
上記のような消費の実行によって、燃料極20では燃料ガス(水素)と窒素とが残存した状態になり、酸化剤極30では窒素が残存した状態になる。その後、燃料極20と酸化剤極30とにおいて分圧が等しくなるように、水素と窒素とが電解質膜を透過して移動する。
【0044】
図3は、実施形態に係る燃料電池システム1において、発電運転の停止後における燃料極20の圧力(アノード圧力)および酸化剤極30の圧力(カソード圧力)の推移を示す図である。図3において、縦軸は圧力P(kPa)であり、横軸は経過時間t(min)である。
【0045】
水素と窒素とが電解質膜を透過して移動する際には、水素の方が窒素よりも透過速度が速い。このため、図3に示すように、燃料極20の圧力(アノード圧力)が一時的に低下する。燃料極20の圧力(アノード圧力)の低下量は、水素の移動量に比例する。したがって、水素の移動量が少ないほど、燃料極20の圧力(アノード圧力)の低下量は、小さくなる。
【0046】
そこで、発電運転の停止時に燃料極20中の窒素濃度を基準値以上にすることで燃料極20の水素分圧を下げておけば、燃料極20と酸化剤極30との間の平衡時における水素分圧を下げることができる。その結果、圧力低下を抑えることができるので、上記工程(ST70)において水素供給に必要な水素量および時間を低減することができる。
【0047】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1:燃料電池システム、10:燃料電池本体、20:燃料極、30:酸化剤極、40:電池冷却部、80:制御部、210:燃料ガス供給部、230:燃料リサイクルブロア、310:酸化剤ガス供給部、410:冷却水ポンプ、L211:燃料ガス供給流路、L212:燃料ガス排出流路、L311:酸化剤ガス供給流路、L312:酸化剤ガス排出流路、L230:燃料ガス循環流路、L250:脱気流路、V211:燃料極入口弁、V212:燃料極出口弁、V250:脱気弁、V311:酸化剤極入口弁、V312:酸化剤極出口弁
図1
図2
図3