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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】文字板の製造方法、文字板及び時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 19/06 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
G04B19/06 M
G04B19/06 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020153878
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047861
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【氏名又は名称】阿形 直起
(72)【発明者】
【氏名】高崎 康太郎
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-7867(JP,A)
【文献】特開2008-164366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 19/06 - 19/12
G01D 13/02 - 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の面に、未硬化の紫外性硬化型の第1樹脂塗料を付着させ、
付着された前記第1樹脂塗料の表面が平坦化する前に紫外線を照射して前記第1樹脂塗料を硬化させ、30nm以上50nm以下の表面粗さを有する粗面印刷層を形成し、
前記粗面印刷層を被覆するように、透光性を有する未硬化の紫外線硬化型の第2樹脂塗料を付着させ、
付着された前記第2樹脂塗料の表面が平坦化した後に紫外線を照射して前記第2樹脂塗料を硬化させ、15nm以下の表面粗さを有する艶面印刷層を形成する、
ことを特徴とする時計の文字板の製造方法。
【請求項2】
前記第2樹脂塗料を付着させることにおいて、前記粗面印刷層の一部または全部を被覆するように前記第2樹脂塗料を付着させる、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第2樹脂塗料を付着させることにおいて、前記粗面印刷層の面積の10%以上を被覆するように前記第2樹脂塗料を付着させる、
請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1樹脂塗料が付着されてから0.5秒以内に紫外線を照射して前記第1樹脂塗料を硬化させ、
前記第2樹脂塗料が付着されてから0.5秒経過後に紫外線を照射して前記第2樹脂塗料を硬化させる、
請求項1-3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1樹脂塗料は、有色透明であり、
前記第2樹脂塗料は、無色透明である、
請求項1-4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
時計の文字板であって、
平板状に形成された基板と、
紫外線硬化型の樹脂により、30nm以上50nm以下の表面粗さを有して前記基板の一方の面に形成される粗面印刷層と、
前記粗面印刷層を被覆するように、透光性を有する紫外線硬化型の樹脂により、15nm以下の表面粗さを有して形成される艶面印刷層と、
を有することを特徴とする文字板。
【請求項7】
請求項6に記載の文字板と、
前記文字板を透過した入射光により発電する太陽電池部材と、
を有することを特徴とする時計。
【請求項8】
前記文字板は、前記基板が前記太陽電池部材に対向するように設けられる、
請求項7に記載の時計。
【請求項9】
前記文字板は、前記艶面印刷層が前記太陽電池部材に対向するように設けられる、
請求項7に記載の時計。
【請求項10】
基板の一方の面に、有色透明であって未硬化の紫外性硬化型の第1樹脂塗料を付着させ、
付着された前記第1樹脂塗料の表面が平坦化する前に紫外線を照射して前記第1樹脂塗料を硬化させ、粗面印刷層を形成し、
前記粗面印刷層を被覆するように、無色透明であって未硬化の紫外線硬化型の第2樹脂塗料を付着させ、
付着された前記第2樹脂塗料の表面が平坦化した後に紫外線を照射して前記第2樹脂塗料を硬化させ、艶面印刷層を形成する、
ことを特徴とする時計の文字板の製造方法。
【請求項11】
時計の文字板であって、
平板状に形成された基板と、
有色透明の紫外線硬化型の樹脂により、第1の表面粗さを有して前記基板の一方の面に形成される粗面印刷層と、
前記粗面印刷層を被覆するように、無色透明の紫外線硬化型の樹脂により、前記第1の表面粗さよりも小さい第2の表面粗さを有して形成される艶面印刷層と、
を有することを特徴とする文字板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、文字板の製造方法、文字板及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時計の文字板の印刷において、塗料からなる複数の印刷層を積層させることにより文字板の装飾性を高めることがなされている。例えば、特許文献1には、印刷インク上に、印刷インクと同形状に透明インクを載せることにより、光沢がある印刷を実現する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭55-146075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
時計の文字板の印刷において、光沢を用いてより多様なデザインを表現することが求められている。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、光沢を用いた多様なデザインの表現を可能とする文字板の製造方法、文字板及び時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る時計の文字板の製造方法は、基板の一方の面に、未硬化の紫外性硬化型の第1樹脂塗料を付着させ、付着された第1樹脂塗料の表面が平坦化する前に紫外線を照射して第1樹脂塗料を硬化させ、粗面印刷層を形成し、粗面印刷層を被覆するように、透光性を有する未硬化の紫外線硬化型の第2樹脂塗料を付着させ、付着された第2樹脂塗料の表面が平坦化した後に紫外線を照射して第2樹脂塗料を硬化させ、艶面印刷層を形成する、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る製造方法は、第2樹脂塗料を付着させることにおいて、粗面印刷層の一部または全部を被覆するように第2樹脂塗料を付着させる、ことが好ましい。
【0008】
また、本発明に係る製造方法は、第2樹脂塗料を付着させることにおいて、粗面印刷層の面積の10%以上を被覆するように第2樹脂塗料を付着させる、ことが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る製造方法は、第2樹脂塗料を付着させることにおいて、第2樹脂塗料が平坦化される程度の厚さ、およそ20μm以上となるように第2樹脂塗料を付着させる、ことが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る製造方法は、第1樹脂塗料が付着されてから0.5秒以内に紫外線を照射して第1樹脂塗料を硬化させ、第2樹脂塗料が付着されてから0.5秒経過後に紫外線を照射して第2樹脂塗料を硬化させる、ことが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る製造方法において、第1樹脂塗料は、有色透明であり、第2樹脂塗料は、無色透明である、ことが好ましい。
【0012】
本発明に係る文字板は、時計の文字板であって、平板状に形成された基板と、紫外線硬化型の樹脂により、第1の表面粗さを有して基板の一方の面に形成される第1印刷層と、第1印刷層を被覆するように、透光性を有する紫外線硬化型の樹脂により、第1の表面粗さよりも小さい第2の表面粗さを有して形成される第2印刷層と、を有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る時計は、本発明に係る文字板と、文字板を透過した入射光により発電する太陽電池部材と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る時計において、文字板は、基板が太陽電池部材に対向するように設けられる、ことが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る時計において、文字板は、艶面印刷層が太陽電池部材に対向するように設けられる、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る文字板の製造方法、文字板及び時計は、光沢を用いた多様なデザインの表現を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】時計1の正面図である。
図2】時計1の断面図である。
図3】文字板13の模式的な断面図である。
図4】文字板13の製造方法の流れの一例を示すフロー図である。
図5】粗面印刷層135及び艶面印刷層136の表面粗さの測定結果を示す図である。
図6】文字板13の透過率特性を示す図である。
図7】文字板13の模式的な断面図である。
図8】文字板13aの正面図である。
図9】文字板13aの模式的な断面図である。
図10】文字板13aの製造方法の流れの一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の様々な実施形態について説明する。本発明の技術的範囲はこれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明及びその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0019】
(第1の実施形態)
以下、図1図7を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態に係る時計1の正面図であり、図2は、時計1の断面図である。図2は、図1のII-II断面における断面図である。なお、図2においては、断面から奥に見える構成の図示が省略されている。時計1は、外装ケース11、風防ガラス12、文字板13、ムーブメント14、時針141、分針142、秒針143、竜頭15、ソーラーセル16等を有する。また、図示しないが、時計1は、ムーブメント14に給電する二次電池及び二次電池を充電するための充電回路等を有する。
【0020】
外装ケース11は、文字板13及びムーブメント14等を内蔵する扁平な部材である。外装ケース11は、時計1の前面に設けられた環状のベゼル111、背面に設けられた裏蓋113及びベゼル111と裏蓋113とを接合する胴112から形成される。
【0021】
ベゼル111は、接着部材114により胴112の前部と接着される。胴112は、その後部において、接着部材115により裏蓋113と接着される。また、胴112の外周部には、バンドを取付けるための取付部118が形成される。また、胴112の外周部には、竜頭15が挿通される竜頭孔が形成される。
【0022】
ベゼル111、胴112及び裏蓋113は、ステンレス鋼により形成される。ベゼル111、胴112及び裏蓋113は、チタン又は金等の他の金属又は樹脂等により形成されてもよい。
【0023】
風防ガラス12は、外装ケース11の前面に、ベゼル111に囲まれるようにして取付けられる。風防ガラス12は、円板状に形成された透明のガラス板であり、サファイアガラス又はミネラルガラス等により形成される。風防ガラス12は、接着部材124により胴112の前部と接着され、文字板13、時針141、分針142及び秒針143を覆うことにより、これらを前方から視認可能にしながら保護する。
【0024】
文字板13は、時針141、分針142及び秒針143によって指示される時字131が前面に表示された平板状の部材である。文字板13は、風防ガラス12に平行するように外装ケース11に内蔵される。文字板13は、中央に文字板13の表裏を貫通する貫通孔137を有し、貫通孔137には、時針141、分針142及び秒針143の回転軸が挿通される。また、文字板13の前面の外周部分を覆うように、円環形状の第1見返し116が配置される。第1見返し116の外周部分及び外装ケース11の胴112の内周を覆うように、第2見返し117が配置される。
【0025】
文字板13は、第1印刷領域132及び第2印刷領域133を有する。第1印刷領域132は、光沢を有する印刷がされた領域であり第2印刷領域133は、光沢を抑えた印刷がされた領域である。第1印刷領域132及び第2印刷領域133は、所定のデザインを形成するように設けられる。図1に示す例では所定のデザインは円環状のデザインであるが、このような例に限られず任意のデザインであってよい。第1印刷領域132及び第2印刷領域133に施された印刷の構造については図3を用いて後述するため、図2においては文字板13の断面構造は簡略化されている。
【0026】
時針141、分針142及び秒針143は、文字板13の前面に設けられ、文字板13の背面側に設けられたムーブメント14によって、文字板13に表示された時字131を指示するように駆動される。時針141、分針142及び秒針143の回転軸は、同軸の時針パイプ144、分針パイプ145及び秒針パイプ146にそれぞれ挿通されてムーブメント14に接続される。時針141、分針142及び秒針143は、回転軸を介してムーブメント14から回転力を伝達されることにより駆動する。ムーブメント14は、二次電池(不図示)から給電されて駆動するクォーツ式ムーブメントである。なお、図2では、ムーブメント14を構成する各部材の図示が省略されている。
【0027】
竜頭15は、外装ケース11の胴112に設けられた竜頭孔に挿通されてムーブメント14に接続される、回転可能な軸状の部材である。竜頭15の回転力は、時刻合わせのため、ムーブメント14を介して時針141、分針142及び秒針143に伝達され、時針141、分針142及び秒針143を回転させる。
【0028】
ソーラーセル16は、光電効果によって生じる電力を、充電回路(不図示)を介して二次電池(不図示)に給電することにより二次電池を充電する部材である。ソーラーセル16は、時計1に入射して文字板13を透過した入射光により発電する。ソーラーセル16は、略平板状の形状を有し、文字板13の後方に、文字板13と対向するように設けられる。ソーラーセル16は、アモルファスシリコン又は多結晶シリコンにより形成される。なお、ソーラーセル16は、太陽電池部材の一例である。
【0029】
図3は、文字板13の模式的な断面図である。文字板13は、透明基板134、粗面印刷層135及び艶面印刷層136を有し、透明基板134がソーラーセル16と対向するように設けられる。なお、見やすさのため、図3においては各構成部材が適宜伸縮されて図示されている。
【0030】
透明基板134は、透光性を有する平板状の部材である。透明基板134は、ポリカーボネート等の合成樹脂またはサファイアガラス、ガラス等で形成される無色透明の部材である。透明基板134は、有色透明に形成されてもよい。透明基板134は、例えば、厚さが350μmとなるように形成される。
【0031】
粗面印刷層135は、有色透明の紫外線硬化型の樹脂により、透明基板134の一方の面に形成される。例えば、粗面印刷層135は、透光性を有するアクリル系の紫外線硬化型樹脂に顔料を添加した第1樹脂塗料により形成される。粗面印刷層135は、透明基板134の一方の面の全部を被覆するように形成される。粗面印刷層135は、厚さが5μm~50μmとなるように形成される。
【0032】
粗面印刷層135は、表面(透明基板134の側とは反対側の面をいう。)に凹凸を有して形成される。なお、図3では、粗面印刷層135の表面の凹凸が半円形により表されているが、これは模式的な図示であり、粗面印刷層135の表面の凹凸は任意の形状を有してよい。粗面印刷層135は、表面の凹凸により、例えば30nm~50nmの表面粗さを有する。表面粗さは、ISO 25178に規定される算術平均粗さSaである。
【0033】
艶面印刷層136は、粗面印刷層135の一部を被覆するように形成される。図3に示す例では、艶面印刷層136は、粗面印刷層135の、第1印刷領域132に対応する領域のみを被覆するように形成されている。艶面印刷層136は、透光性を有する紫外線硬化型の樹脂により形成され、例えば、無色透明のアクリル系の紫外線硬化型樹脂である第2樹脂塗料により形成される。第2樹脂塗料の屈折率は、第1樹脂塗料の屈折率と近い値であることが好ましい。例えば、第2樹脂塗料は、第1樹脂塗料と同種の無色透明の(すなわち、顔料が添加されていない)樹脂塗料である。艶面印刷層136は、厚さが20μm~50μmとなるように形成される。
【0034】
なお、粗面印刷層135の表面の、第2印刷領域133に対応する領域には艶面印刷層136が形成されないため、かかる領域には空隙部138が形成される。
【0035】
艶面印刷層136は、粗面印刷層135よりも表面が滑らかに形成される。艶面印刷層136は、粗面印刷層135の表面粗さよりも小さい表面粗さを有する。例えば、艶面印刷層136は15nm以下の表面粗さを有する。
【0036】
図4は、文字板13の製造方法の流れの一例を示すフロー図である。
【0037】
まず、ステップS11において、透明基板134の一方の面に未硬化の紫外線硬化型の第1樹脂塗料が付着される。第1樹脂塗料は、例えばインクジェットプリンタが第1樹脂塗料の液滴を射出することにより透明基板134に付着される。
【0038】
続いて、ステップS12において、付着された第1樹脂塗料の表面が平坦化する前に紫外線が照射されて第1樹脂塗料が硬化される。これにより、表面に凹凸を有する粗面印刷層135が形成される。
【0039】
すなわち、紫外線硬化型の樹脂塗料の液滴は、インクジェットプリンタによって射出されてから印刷対象に付着される前は、液滴の表面張力によりそれぞれが略球体状の形状を有する。したがって、これらの液滴が印刷対象に付着した直後は、複数の略球体状の液滴が結合することにより、表面に凹凸を有する形状となる。他方、液滴が付着してから時間が経過すると、結合した液滴の表面張力により、表面が平坦化する。液滴が透明基板134に付着されてから平坦化する前に紫外線を照射して液滴を硬化させることにより、粗面印刷層135は表面に凹凸を有して形成される。
【0040】
平坦化する前に硬化させるとは、硬化後に測定される表面粗さが30nm以上となるように硬化させることをいう。例えば、樹脂塗料としてアクリル系樹脂塗料を用いる場合であって、紫外線の照射強度が2.0W/cmである場合、樹脂塗料が付着されてから0.5秒以内に紫外線を照射することにより、樹脂塗料の表面が平坦化する前に硬化させることができる。
【0041】
続いて、ステップS13において、粗面印刷層135の一部を被覆するように、透光性を有する未硬化の紫外線硬化型の第2樹脂塗料が付着される。第2樹脂塗料は、例えば、あらかじめ第1印刷領域132を示すデータを記憶したインクジェットプリンタが、粗面印刷層135の第1印刷領域132に対応する領域に対して第1樹脂塗料の液滴を射出することにより付着される。
【0042】
続いて、ステップS14において、付着された第2樹脂塗料の表面が平坦化した後に紫外線が照射されて第2樹脂塗料が硬化される。これにより、表面が滑らかな艶面印刷層136が形成される。
【0043】
平坦化した後に硬化させるとは、硬化後に測定される表面粗さが15nm以下となるように硬化させることをいう。例えば、樹脂塗料としてアクリル系樹脂塗料を用いる場合であって、紫外線の照射強度が2.0W/cmである場合、樹脂塗料が付着されてから0.5秒経過後に紫外線を照射することにより、樹脂塗料の表面が平坦化した後に硬化させることができる。
【0044】
このようにして製造された文字板13は、艶面印刷層136の表面が粗面印刷層135の表面よりも印刷厚が高くなることから立体感が得られ、奥行きのあるデザインが表現される。
【0045】
以上説明したように、文字板13において、粗面印刷層135は、透明基板134に付着された第1樹脂塗料の表面が平坦化する前に紫外線を照射して硬化させることにより形成される。また、艶面印刷層136は、粗面印刷層135を被覆するように付着された、透光性を有する第2樹脂塗料の表面が平坦化した後に紫外線を照射して硬化させることにより形成される。これにより、文字板13は、光沢を用いた多様なデザインの表現を可能とする。
【0046】
すなわち、粗面印刷層135は表面に凹凸を有して形成され、艶面印刷層136は表面が滑らかに形成される。第1印刷領域132においては、滑らかな艶面印刷層136の表面が文字板13の表面(すなわち、文字板13と空気との境界面)となるため、第1印刷領域132はグロス加工がされたような、光沢のある外観を有する。他方、第2印刷領域133においては、凹凸を有する粗面印刷層135の表面が文字板13の表面となるため、第2印刷領域133はマット加工がされたような、光沢を抑えた外観を有する。文字板13は、光沢を有する第1印刷領域132と光沢を抑えた第2印刷領域133とを有することにより、ステンドグラスのようなデザインを表現することを可能とする。
【0047】
また、文字板13において、艶面印刷層136が粗面印刷層135の一部のみを被覆することにより、空隙部138が形成される。そして、文字板13に入射した光の一部は、艶面印刷層136と空隙部138の境界面で反射される。これにより、文字板13は、第1印刷領域132と第2印刷領域133との境界を強調し、立体感のあるデザインを表現することを可能とする。特に、艶面印刷層136が20μm以上の厚さを有することにより、十分な立体感のあるデザインが表現される。
【0048】
また、文字板13は、艶面印刷層136の表面が滑らかに形成されることにより、ソーラーセル16の発電量を増加させることを可能とする。すなわち、文字板13が艶面印刷層136を有しない場合、文字板13に入射する光は粗面印刷層135の表面の凹凸により乱反射されて減衰する。他方、文字板13が艶面印刷層136を有する場合、艶面印刷層136の表面の凹凸が少ないため、乱反射による光の減衰が抑えられる。したがって、文字板13が艶面印刷層136を有することによりソーラーセル16に到達する光の強度が大きくなり、ソーラーセル16の発電量が増加する。
【0049】
図5は白色光干渉計顕微鏡による、粗面印刷層135及び艶面印刷層136の表面粗さの測定結果を示す図である。図5(a)は、粗面印刷層135の表面に平行し且つ相互に直交する2つの測定方向に沿った粗面印刷層135の表面高さを示す。図5(b)は、艶面印刷層136の表面に平行し且つ相互に直交する2つの測定方向に沿った艶面印刷層136の表面高さを示す。図5(a)及び図5(b)の縦軸は表面高さ(μm)であり、横軸は測定方向に沿った変位(mm)である。図5に示すように、粗面印刷層135と艶面印刷層136とを比較すると、粗面印刷層135は表面に凹凸を有し、艶面印刷層136は滑らかな表面を有する。図5の測定結果において、粗面印刷層135の表面粗さはおよそ30nm~50nmであり、艶面印刷層136の表面粗さはおよそ4nm~15nmであった。
【0050】
光の散乱による透過率減衰量は表面粗さの増大に伴い増大する事から、高い透過率を得るためには表面粗さの低い状態を作る必要がある。また透過率減衰量は波長依存があり、波長が短いほど減衰量も増大する。特にソーラーセル16がアモルファスシリコンの場合、発電に最も寄与する波長が400nm~550nmという短波長であるため、表面粗さの増大は発電量の低下に大きく関与する。
【0051】
図6は、文字板13が艶面印刷層136を有する場合と有しない場合とのそれぞれについて測定された、文字板13の透過率特性を示す図である。なお、図6における透過率は、時計1に入射した入射光に対する、文字板13を透過した光の強度比率を示す。図6(a)~(c)はそれぞれ、シアン、マゼンタ及びイエローの有色透明の第1樹脂塗料を用いて粗面印刷層135を形成した場合の光透過率特性を示す。各図の横軸は波長(nm)であり、縦軸は透過率(%)である。また、各図の破線は艶面印刷層136を有する場合の透過率特性を示し、実線は艶面印刷層136を有しない場合の透過率特性を示す。なお、図5に示す測定においては、艶面印刷層136の厚さは20μm~30μmであり、艶面印刷層136は粗面印刷層135の全部を被覆するように形成された。
【0052】
図6(a)~(c)に示すように、第1樹脂塗料の色にかかわらず、400nm~700nmの波長帯において、艶面印刷層136を有する場合に艶面印刷層136を有しない場合よりも高い透過率が測定された。また、艶面印刷層136を有する場合と艶面印刷層136を有しない場合との透過率の差は最大で25%程度であった。
【0053】
また、出願人は、文字板13が艶面印刷層136を有する場合と有しない場合とのそれぞれについてソーラーセル16の発電量を測定した。その結果、粗面印刷層135のみを印刷した場合に比べ、艶面印刷層136を印刷した場合の方が0.49~0.6%の発電量の増加が確認された。また、出願人は、ブルー色の粗面印刷層135を形成した後、艶面印刷層136の印刷面積が異なる複数の文字板13を作成し、それぞれの発電量を測定した。その結果、艶面印刷層136の粗面印刷層135に対する面積率が増えるに従い発電量が増加し、面積率が10%以上の場合において発電量が0.1%以上増加することが確認された。したがって、発電量を増加させたい場合においては、文字板13の製造方法のステップS13において、粗面印刷層135の面積の10%以上を被覆するように第2樹脂塗料が付着されることが好ましい。
【0054】
上述した説明では、図4の製造方法において粗面印刷層135と艶面印刷層136とがそれぞれ一度ずつ形成されるものとしたが、このような例に限られない。例えば、図4の製造方法において、ステップS12の後にさらにステップS11及びS12が実行され、複数の粗面印刷層135が重ねて形成されてもよい。これにより、粗面印刷層135が厚くなり、第1樹脂塗料の色の深みがより強く表現される。また、図4の製造方法において、ステップS14の後にさらにステップS13及びS14が実行され、複数の艶面印刷層136が重ねて形成されてもよい。これにより、艶面印刷層136が厚くなり、立体感がより強く表現される。
【0055】
また、文字板13aは、交互に積層された複数の粗面印刷層135及び艶面印刷層136を有するものとしてもよい。図7は、複数の粗面印刷層135及び艶面印刷層136を有する文字板13の模式的な断面図である。
【0056】
図7に示す例では、透明基板134の一方の面に第1粗面印刷層135-1が形成され、第1粗面印刷層135-1の一部を被覆するように第1艶面印刷層136-1が形成されている。また、第1艶面印刷層136-1を被覆するように第2粗面印刷層135-2が形成され、第2粗面印刷層135-2の一部を被覆するように第2艶面印刷層136-2が形成されている。このように複数の粗面印刷層135又は艶面印刷層136を有することにより、文字板13は、色の深み及び立体感をより強く表現することを可能とする。
【0057】
なお、少なくとも一つの粗面印刷層135を被覆するように艶面印刷層136が形成されていれば、印刷層の数及び順序は図7に示した例に限られない。例えば、図7に示した例において、第1艶面印刷層136-1及び第2艶面印刷層136-2の何れか一方が形成されなくてもよい。また、図7に示した例において、三層以上の粗面印刷層135又は艶面印刷層136が形成されてもよい。また、文字板13が複数の粗面印刷層135を有する場合、複数の粗面印刷層135は、相互に異なる色の樹脂塗料により形成されてもよく、同じ色の樹脂塗料により形成されてもよい。
【0058】
上述した説明では、文字板13は、透明基板134がソーラーセル16と対向するように設けられるものとしたが、このような例に限られない。文字板13は、艶面印刷層136がソーラーセル16と対向するように(すなわち、図3に示す状態から上下反転されて)設けられてもよい。これにより、第1印刷領域132と第2印刷領域133との境界が透明基板134の奥に視認されるため、奥行きがあるデザインが表現される。
【0059】
上述した説明では、文字板13において、艶面印刷層136は粗面印刷層135の一部を被覆するものとしたが、艶面印刷層136は粗面印刷層135の全部を被覆してもよい。すなわち、文字板13は、第2印刷領域133を有しなくてもよい。これにより、文字板13は、全面で光沢を表現しながら、ソーラーセル16の発電量を増加させることを可能とする。
【0060】
上述した説明では、時計1が有するムーブメント14は二次電池によって給電されるクォーツ式ムーブメントであるものとしたが、このような例に限られない。ムーブメント14は、機械式ムーブメントでもよく、二次電池でない乾電池等により給電されるクォーツ式ムーブメントでもよい。この場合、時計1はソーラーセル16を有さず、粗面印刷層135は不透明の部材であってもよい。また、透明基板134に代えて不透明な基板が用いられてもよい。
【0061】
(第2の実施形態)
以下、図8図10を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、第2の実施形態は文字板の構造において第1の実施形態と相違するため、以下では文字板の構造についてのみ説明する。また、すでに説明した実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0062】
図8は、第2の実施形態に係る文字板13aの正面図である。文字板13aは、第1の実施形態に係る文字板13と同様に、時字131が前面に表示され、中央に文字板13の表裏を貫通する貫通孔137を有する。文字板13aは、表面に第1印刷領域132a及び第2印刷領域133aを有する。第1印刷領域132a及び第2印刷領域133aは、それぞれ異なる色の印刷が施された領域である。例えば、第1印刷領域132aは無色透明であり、第2印刷領域133aは有色透明である。第2印刷領域133aは、所定のデザインを表現するように形成される。なお、図8に示す例では所定のデザインは円環状のデザインであるが、このような例に限られず任意のデザインであってよい。
【0063】
図9は、文字板13aの模式的な断面図である。文字板13aは、透明基板134、粗面印刷層135a及び艶面印刷層136aを有し、艶面印刷層136aがソーラーセル16と対向するように設けられる。
【0064】
粗面印刷層135aは、有色透明の紫外線硬化型の樹脂により、透明基板134の一方の面に形成される。図9に示す例では、粗面印刷層135aは、透明基板134の、第2印刷領域133aに対応する領域のみを被覆するように形成されている。粗面印刷層135aは、厚さが10μm~50μmとなるように形成される。粗面印刷層135aは、表面に凹凸を有して形成される。表面の凹凸は、例えば20nm~50nmの表面粗さを有する。
【0065】
艶面印刷層136aは、粗面印刷層135aを被覆するように、透光性を有する紫外線硬化型の樹脂により形成される。図9に示す例では、艶面印刷層136aは、透明基板134及び粗面印刷層135aを被覆するように、第1印刷領域132a及び第2印刷領域133aの両方にわたって形成されている。艶面印刷層136aは、厚さが20μm~50μmとなるように形成される。艶面印刷層136aは、例えば、無色透明に形成される。艶面印刷層136aを形成する樹脂の屈折率は、粗面印刷層135aを形成する樹脂の屈折率と近い値であることが好ましい。艶面印刷層136aは、粗面印刷層135aよりも表面が滑らかに形成される。例えば、艶面印刷層136aは、15nm以下の表面粗さを有する。
【0066】
図10は、文字板13aの製造方法の流れの一例を示すフロー図である。
【0067】
まず、ステップS21において、透明基板134の一方の面の一部に有色透明の未硬化の紫外線硬化型の第1樹脂塗料が付着される。第1樹脂塗料は、透明基板134の第2印刷領域133aに対応する領域に付着される。第1樹脂塗料は、例えば、あらかじめ第2印刷領域133aを示すデータを記憶したインクジェットプリンタが、透明基板134の第2印刷領域133aに対応する領域に対して第1樹脂塗料の液滴を射出することにより付着される。
【0068】
続いて、ステップS22において、付着された第1樹脂塗料の表面が平坦化する前に紫外線が照射されて第1樹脂塗料が硬化される。これにより、表面に凹凸を有する粗面印刷層135aが形成される。
【0069】
続いて、ステップS23において、粗面印刷層135aを被覆するように、透光性を有する未硬化の紫外線硬化型の第2樹脂塗料が付着される。第2樹脂塗料は、例えば、インクジェットプリンタが透明基板134及び粗面印刷層135aに対して第2樹脂塗料の液滴を射出することにより付着される。
【0070】
続いて、ステップS24において、付着された第2樹脂塗料の表面が平坦化した後に紫外線が照射されて第2樹脂塗料が硬化される。これにより、表面が滑らかな艶面印刷層136aが形成される。
【0071】
このようにして製造された文字板13aは、艶面印刷層136aがソーラーセル16と対向するように時計1に設けられる。
【0072】
以上説明したように、文字板13aにおいて、粗面印刷層135aは、透明基板134の第2印刷領域133aに対応する領域に付着された第1樹脂塗料の表面が平坦化する前に紫外線を照射して硬化させることにより形成される。また、艶面印刷層136aは、粗面印刷層135aを被覆するように付着された、透光性を有する第2樹脂塗料の表面が平坦化した後に紫外線を照射して硬化させることにより形成される。これにより、文字板13aは、光沢を有しながら精緻なデザインを表現することを可能とする。
【0073】
すなわち、上述したように、樹脂塗料の液滴が印刷対象に付着してから時間が経過することにより液滴の表面が平坦化し、光沢のある印刷が得られる。他方、液滴が付着してから時間が経過すると、液滴が印刷対象上で広がってしまい、印刷領域の境界が不明瞭になったり、精緻なデザインが表現できなくなったりする場合がある。したがって、従来、紫外線硬化型の樹脂液滴を用いて光沢を有しながら精緻なデザインを表現することは難しかった。文字板13aは、粗面印刷層135aにより精緻なデザインを表現し、艶面印刷層136aにより印刷に光沢を与えることにより、光沢を有しながら精緻なデザインを表現することを可能とする。
【0074】
第1の実施形態と同様に、時計1はソーラーセル16を有しなくてもよい。
【0075】
上述した説明では、文字板13aは、艶面印刷層136aがソーラーセル16と対向するように設けられるものとしたが、第1の実施形態と同様に、透明基板134がソーラーセル16と対向するように設けられてもよい。
【0076】
当業者は、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。例えば、上述した各部の処理は、本発明の範囲において、適宜に異なる順序で実行されてもよい。また、上述した実施形態及び変形例は、本発明の範囲において、適宜に組み合わせて実施されてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 時計
11 外装ケース
12 風防ガラス
13 文字板
134 透明基板
135 粗面印刷層
136 艶面印刷層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10