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  • 特許-アルミナセラミックス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】アルミナセラミックス
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/117 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
C04B35/117
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020162410
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022055047
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】深沢 祐司
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214064(JP,A)
【文献】特開2014-111524(JP,A)
【文献】特開2013-095621(JP,A)
【文献】特表2019-536206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナを主成分とし、アルカリ土類金属と、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との少なくとも2種類の元素を含有するアルミナセラミックスであって、
前記アルカリ土類金属がCaまたはMgであり、前記第3周期、第4周期または第5周期に属する元素がY、Ti、CrまたはZrであり、前記アルカリ土類金属と第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との組み合わせが、Ca-Y、Mg-Ti、Mg-CrまたはCa-Zrであり、
前記アルミナに対して、アルカリ土類金属と第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との少なくとも2種類の元素との総含有量が0.05wt%以上1wt%以下であり、
前記アルカリ土類金属と、前記第3周期、第4周期または第5周期に属する元素とがいずれもアルミニウムより大きい第一イオン化エネルギーを有しており、
前記アルカリ土類金属と、前記第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との電気陰性度の差が0以上0.6以下であり、
前記アルミナセラミックス中の結晶粒の面積yに対する結晶粒界の面積xの比(x/y)が0.0001~0.001であり、
前記アルミナセラミックスの密度が3.8g/cm3以上4.0g/cm3以下であり、
前記アルミナセラミックスの二次電子放出係数が5.0を下回ることを特徴とするアルミナセラミックス。
【請求項2】
高周波発生装置またはプラズマ発生装置に用いられる、請求項1に記載のアルミナセラミックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波発生装置、および、プラズマ生成装置等の部材に用いられるアルミナセラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波発生装置およびプラズマ生成装置の部品には、誘電体セラミックスが使用されている。近年、3GHz以上の高周波数帯での利用が進み、誘電体セラミックスとして、伝送損失を抑えるため、低誘電性の材料が要求されている。低誘電性の材料のうち、アルミナ材料は、低誘電損失であり、高周波電子回路の導波管やクライストロンの高周波窓の透過窓材として用いられる。
【0003】
しかしながら、通常のアルミナ焼結体では、アルミナの含有率が99.9%以上であっても、周波数2~9GHzのような高周波数域では誘電損失(tanδ)が1×10-4以上であり、tanδが1×10-4より低い誘電損失を必要とする場合は、サファイア(単結晶Al23)を使用せざるを得なかった。ここで、サファイアは高価なうえに、強度が低いため、部品の小型化、高信頼性化、低コスト化の点で不利である。
【0004】
高強度で低コストのアルミナ多結晶焼結体の誘電損失を低下させるべく、アルミナの結晶を80質量%以上含み、さらに遷移金属の酸化物およびアルカリ土類金属の酸化物を添加することが、特許文献1に開示されている。
【0005】
しかしながら、高周波発生装置やプラズマ発生装置の出力が大きい場合、装置内の放電現象により、アルミナ材料からの電子放出が生じ、アルミナ材料の表面にマルチパクタと呼ばれる局所的変質が生じる。これは、加速電子がアルミナ材料に衝突して、アルミナ材料が電子を放出し、放出された電子が加速されて再びアルミナ材料に衝突することにより、電子放出が繰り返され、材料が破壊される現象である。
【0006】
従来は、アルミナ材料にTiNを成膜して、TiN膜がアルミナ材料から放出される電子(二次電子放出)を吸収することで、マルチパクタ放電を緩和してきた(非特許文献1)。また、二次電子放出を抑制するには、TiN膜が厚い方が好ましいことも報告されている(非特許文献2)。
【0007】
しかしながら、TiN膜は経時劣化するため、各種試験を実施する、あるいは、製造用の装置を使用する際に、使用環境によっては、劣化したTiN膜はノイズの原因や汚染源となり得る。さらに、CVD装置やエッチング装置などの半導体製造工程で用いられる装置では、使用環境であるガスやプラズマへの耐性が十分でない場合、Tiが汚染源として作用し、使用時の放電等に起因する破損頻度が高くなることも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-111524号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Yamamoto, Yasuchika et al., “CeramicStudy on RF Windows for Power Coupler, Waveguide, and Klystron in ParticleAccelerator” The 19th International Conference on RFSuperconductivity, SRF2019, Dresden, Germany.
【文献】松田七美男他、“TiN/アルミナの二次電子放出”第30回真空に関する連合講演会プロシーディングス 1990年第33巻第3号 p.343-345
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、二次電子放出係数が小さく、高周波発生装置およびプラズマ生成装置等の部材として好適なアルミナセラミックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、アルミナを主成分とし、アルカリ土類金属と、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との少なくとも2種類の元素を含有するアルミナセラミックスであって、前記アルカリ土類金属がCaまたはMgであり、前記第3周期、第4周期または第5周期に属する元素がY、Ti、CrまたはZrであり、前記アルカリ土類金属と第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との組み合わせが、Ca-Y、Mg-Ti、Mg-CrまたはCa-Zrであり、前記アルミナに対して、アルカリ土類金属と第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との少なくとも2種類の元素との総含有量が0.05wt%以上1wt%以下であり、前記アルカリ土類金属と、前記第3周期、第4周期または第5周期に属する元素とがいずれもアルミニウムより大きい第一イオン化エネルギーを有しており、前記アルカリ土類金属と、前記第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との電気陰性度の差が0以上0.6以下であり、前記アルミナセラミックス中の結晶粒の面積yに対する結晶粒界の面積xの比(x/y)が0.0001~0.001であり、前記アルミナセラミックスの密度が3.8g/cm3以上4.0g/cm3以下であり、前記アルミナセラミックスの二次電子放出係数が5.0を下回ることを特徴とするものである。
【0013】
前記アルミナセラミックスは、高周波発生装置またはプラズマ発生装置の部材として、好適に用いられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルミナ原料などの原料粒子の粒径や円形度を調整して、アルミナセラミックスの組織構造を検討することにより、二次電子放出係数の小さいアルミナセラミックスを提供することができる。これにより、高周波発生装置およびプラズマ生成装置等の部材、例えば、導波管支持治具、クライストロンの高周波窓に好適に用いられるほか、優れた耐プラズマ性を活かして、CVD装置およびエッチング装置等などの産業機械にも好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、アルミナセラミックス中の結晶粒の面積yに対する結晶粒界の面積xの比(x/y)の算出方法を示す図であり、四角に囲んだ部分の面積xに対する面積yで算出する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のアルミナセラミックスについて詳細に説明する。本発明は、アルミナを主成分とし、アルカリ土類金属と、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との少なくとも2種類の元素を含有するアルミナセラミックスであって、前記アルカリ土類金属と、前記第3周期、第4周期または第5周期に属する元素とがいずれもアルミニウムより大きい第一イオン化エネルギーを有しており、前記アルカリ土類金属と、前記第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との電気陰性度の差が0以上0.6以下であり、前記アルミナセラミックス中の結晶粒の面積yに対する結晶粒界の面積xの比(x/y)が0.0001~0.001である。
【0017】
前記アルミナセラミックスの主成分となるアルミナ原料には、純度99.9%以上である高純度の物が用いられる。アルミナ原料には、アルカリ金属が不可避的不純物として含まれる。アルカリ金属には粒成長を促進させる作用があるが、その含有量の精密な調節は、実用上はかなり難しいことから、本発明では、アルミナ原料中のアルカリ金属の含有量は、概ね100ppm以下、より好ましくは20ppm以下とするのがよい。
【0018】
前記アルミナセラミックスは、前記アルミナ原料を主成分とし、アルカリ土類金属および第3周期、第4周期または第5周期に属する元素を含有する。具体的には、主成分であるアルミナ原料に加えて、アルカリ土類金属から少なくとも1種と、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素から少なくとも1種との、少なくとも2種類の元素を含有する。
【0019】
前記アルミナセラミックスにおいて、アルカリ土類金属および第3周期、第4周期または第5周期に属する元素の総含有量は、アルミナ原料に対して、通常1wt%以下であり、具体的には0.05wt%以上1wt%以下である。
【0020】
また本発明は、前記アルカリ土類金属と、前記第3周期、第4周期または第5周期に属する元素とが、いずれもアルミニウムより大きい第一イオン化エネルギーを有するものである。
【0021】
具体的には、これらは、アルミニウムの第一イオン化エネルギーである577kJ/mol以上のものである。ここで、第一イオン化エネルギーは、光電子収量分光(PYS)法によって求めることができる。
【0022】
前記アルカリ土類金属の具体例は、マグネシウム(Mg:第一イオン化エネルギー738kJ/mol)およびカルシウム(Ca:第一イオン化エネルギー590kJ/mol)である。なお、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属でも、ストロンチウム(Sr:第一イオン化エネルギー550kJ/mol)およびバリウム(Ba:第一イオン化エネルギー503kJ/mol)は、アルミニウムよりも第一イオン化エネルギーが小さく、あまり好ましくない。
【0023】
前記第3周期、第4周期または第5周期に属する元素の具体例は、ケイ素(Si)、スカンジウム(Sc)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)およびニオブ(Nb)などである。これらのうち、安価で入手容易という点で、Sc(第一イオン化エネルギー633kJ/mol)、Ti(第一イオン化エネルギー660kJ/mol)、Y(第一イオン化エネルギー600kJ/mol)、Zr(第一イオン化エネルギー640kJ/mol)およびNb(第一イオン化エネルギー652kJ/mol)が好ましい。
【0024】
本発明で使用されるアルカリ土類金属と、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素とはいずれも、アルミニウムより陽イオンになり難く、アルミニウムに比べて化学的に安定と言える。このように、アルミニウムの高いイオン化特性と、アルミニウムに比べて化学的に安定性の高いアルカリ土類金属と、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素とを存在させることで、アルミナセラミックスの表面および結晶粒界が不動態化され、欠陥の発生を抑制することができる。
【0025】
アルミナ原料にアルカリ土類金属を添加した場合に、アルミニウム粒子とアルカリ土類金属粒子との間に粒界が生じるが、アルカリ土類金属に加えて、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素を添加すると、上記の通り、粒界を安定化することができる。
【0026】
本発明では、前記アルカリ土類金属と、前記第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との電気陰性度の差が0以上0.6以下である。より好ましくは0以上0.3以下である。
【0027】
ここで、それぞれの元素の電気陰性度は、ポーリングの定義によって求められた値を用いる。電気陰性度の差が前記範囲内であれば、アルミナセラミックス中での電荷の偏りが少なく、入射電子に対する電気的作用が生じ難いことが推測される。
【0028】
上記したアルミナセラミックスは、アルミナの粒界に、いずれもアルミニウムよりも第一イオン化エネルギーの大きいアルカリ土類金属および第3周期、第4周期または第5周期に属する元素が存在し、かつ、アルカリ土類金属と第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との電気陰性度の差が小さい形態を有すると言える。
【0029】
アルカリ土類金属と、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との組み合わせの具体例は、Mg-Sc(電気陰性度の差:1.3-1.4=|0.1|)、Mg-Ti(電気陰性度の差:1.3-1.5=|0.2|)、Mg-Y(電気陰性度の差:1.3-1.2=|0.1|)、Ca-Sc(電気陰性度の差:1.0-1.4=|0.4|)、Ca-Y(電気陰性度の差:1.0-1.2=|0.2|)、およびCa-Zr(電気陰性度の差:1.0-1.3=|0.3|)、などが挙げられる。さらに電気陰性度の差がより小さい態様としては、Mg-Zr(電気陰性度の差:1.3-1.3=|0|)も挙げられる。
【0030】
上記した元素の組み合わせでは、粒界において、アルカリ土類金属と、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との電気陰性度の差が0以上0.6以下と、十分に小さい。
【0031】
ここで、前記アルミナ原料の粒径(メディアン径)は、焼成時にアルミナセラミックスを緻密化させる観点から、通常は0.1μm以上5.0μm以下とし、好ましくは0.2μm以上1.5μm以下とする。また、前記アルミナ原料の粒子の円形度は0.5以上であることが好ましい。
【0032】
前記アルカリ土類金属の粒径(メディアン径)は、通常0.1μm以上1μm以下であり、粒子の円形度は0.5以上である。また、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素の酸化物の粒径(メディアン径)は、通常0.1μm以上1μm以下であり、粒子の円形度は0.5以上である。
【0033】
そして、本発明は、前記アルミナセラミックス中の結晶粒の面積yに対する結晶粒界の面積xの比(x/y)が0.0001~0.001であることを特徴とするものである。
【0034】
本発明のアルミナセラミックスは、従来から知られる方法で製造することができる。例えば、アルミナ原料に、アルカリ土類金属酸化物と、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素の酸化物とを添加して混合後、得られた原料混合物を押出成型、冷間等方圧成形(CIP)、射出成型、鋳込成形、またはゲルキャスト成形など各種の方法で成形した後、大気雰囲気下に必要に応じて脱脂工程を行い、その後、大気雰囲気または還元雰囲気下に焼成する。
【0035】
ここで、本発明では、アルミナセラミックスの粒径を均一にするため、外周部の粒径を小さく、内周部に向かって大きくなるように調整するとよい。焼成中においては、原料混合物の外周部が先に粒成長し、次いで内周部が粒成長するため、製造終了時に外周部および内周部の粒径を揃えるためである。
【0036】
本発明は、好適には上記したような製造方法で得ることができ、そのアルミナセラミックス中の結晶粒の、面積yに対する結晶粒界の面積xの比(x/y)は、0.0001以上0.001以下、好ましくは0.0001以上0.0005以下である。
【0037】
図1は、アルミナセラミックス10中の結晶粒2の面積yに対する結晶粒界1の面積xの比(x/y)の算出方法を示している。x/y比は、四角枠内の結晶粒界1の合計面積xを結晶粒の合計面積yで除して求める。x/y比は、アルミナセラミックスの表面にサーマルエッチングを施した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて断面写真を撮影し、市販の画像解析ソフトを用いて測定する。なお、x/y比は、アルミナ原料、アルカリ土類金属酸化物、および第3周期、第4周期または第5周期に属する元素の酸化物の粒子の粒径および円形度を適時選択して調整することができる。
【0038】
アルミナセラミックスの物性の一つとして、二次電子放出係数が広く用いられる。ここで、二次電子放出係数とは、二次電子の放出の程度を表す係数である。そして、本発明では、アルミナセラミックスの二次電子放出係数は、好ましくは5.0以下、より好ましくは2.5以下とする。
【0039】
本発明において、二次電子放出係数がx/y比と相関関係がある理由は、おおよそ以下に説明するとおりである。
【0040】
マルチパクタは、あるエネルギー域でのアルミナ自身の二次電子放出係数が1より大きいとき、或いは、アルミナと共に混合した焼結助剤(MgO、CaO等)の偏析によって全体として二次電子放出係数が1より大きくなるときにも発生すると報告されている(松田七美男他、“アルミナ高周波窓の二次電子放出及びカソードルミネセンス”第27回真空に関する連合講演会プロシーディングス 1987年第30巻第5号 p.446-449)。
【0041】
二次電子放出係数は、焼結助剤に代表される添加剤の種類によって影響を受けると考えられる。アルミナの焼結後に添加剤はアルミナ組成以外の個所、いわゆる粒界に存在しやすく、二次電子放出係数を小さくするには、この粒界の面積をできるだけ低減させることが必要である。
【0042】
本発明では、この粒界の影響を、アルミナセラミックス中のアルミナ結晶粒の面積yに対する結晶粒界の面積xの比(x/y)で評価している。アルミナセラミックス表面を走査型電子顕微鏡(SEM)などの二次元画像で観察した場合に、アルミナ粒子の接点に生じる粒界の面積xは、アルミナ結晶の粒面積yと比較して、そのx/y比が小さいほど、二次電子放出係数が十分に低減されていると言える。
【0043】
ただし、粒界をゼロにすることはできず、また、原料粉を焼結して焼結体を得る方法では、粒径との兼ね合いもあり、x/y比を小さくすることに限界がある。本発明では、実用的な範囲として、x/y比の下限を0.0001としている。一方、x/y比が0.001を超えると、二次電子放出係数の低減効果が十分に発揮されなくなる。
【0044】
なお、本発明のアルミナセラミックスを製造するときは、アルカリ土類金属は、酸化マグネシウム(MgO)または酸化カルシウム(CaO)などの酸化物の形態で使用される。また、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素も、酸化物の形態が安価で入手容易であることから、通常は、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化スカンジウム(III)(Sc23)、酸化チタン(IV)(TiO2)、酸化コバルト(CoO、Co23またはCo34)、酸化ニッケル(II)(NiO)、酸化銅(II)(CuO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化イットリウム(Y23)、酸化バナジウム(V25)または酸化ニオブ(V)(Nb25)などの形態で使用される。アルミナセラミックスの製造時、アルカリ土類金属酸化物は、焼結助剤の役割を有し、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素の酸化物は、粒界安定性を付与する役割を有する。
【0045】
また、本発明のアルミナセラミックスの密度は、3.8g/cm3以上4.0g/cm3以下が好ましい。前記密度の範囲内であれば、アルミナセラミックスは十分に緻密であり、その結晶粒界は、結晶粒に比べて小さく、気孔径も小さくなるので好ましい。
【0046】
本発明のアルミナセラミックスは、高周波発生装置およびプラズマ生成装置等における、導波管の支持治具、クライストロンの高周波窓、CVD装置およびエッチング装置等に好適に用いられる。
【実施例
【0047】
以下、本発明を実施例等に基づき具体的に説明するが、本発明は下記に示す実施例により制限されるものではない。
【0048】
[実験](試験No.1~17)
純度99.5%以上のアルミナ粉を準備し、密度の調整としてメディアン径を1~8μmの中から適時使い分けて、ポリビニルアルコール(PVA)を加えて原料調整を行った。この原料粉末を24時間以上攪拌して混合し、スラリーを得た。スラリーを造粒し、造粒粉を成形型内に充填し、丸形の基板形状になるように成型圧力1.8tonでCIP成形を行った。さらに、この成形体を1000℃の大気雰囲気で脱脂を行い、水素雰囲気中1800℃で焼成を行った。
【0049】
アルミナへの添加剤としては、表1に記載の通り、アルカリ土類金属として、Mg、Ca、Sr、Baを用いた。そして、2種類目の第3周期から第5周期に属する元素は表1記載の通りとした。いずれの元素も酸化物として造粒前に添加を行い、焼成後のアルカリ金属の純度の合計が0.1%を超えないように調整を行った。
【0050】
得られたアルミナセラミックスを二次電子放出係数の測定が可能な所定の形状に加工し、表面粗さ0.2μmとして、二次電子放出係数を(走査型電子顕微鏡(SEM)の二次電子モード)に基づいて測定した。
【0051】
x/y比は、サーマルエッチングを施した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、任意の1箇所で断面写真を撮影し、(株)マウンテック製Mac-Viewを用いて画像解析を行うことで得た。
【0052】
アルミナ中の元素成分は、ICP分析装置で評価を行った。また、密度は、(JIS R1634)に基づいて測定した。表1にそれぞれの値と二次電子放出係数を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1の結果から明らかなように、本発明の構成要件を全て具備した、試験No.1~4は、二次電子放出係数が5.0を下回った。特に、アルカリ土類金属と、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との電気陰性度の差が、この4つの中でより小さい試験No.1と2は、二次電子放出係数が2.5以下となった。x/y比が所定の範囲で、かつ、2種の元素の電気陰性度の差を小さくすることで、相乗効果が発揮され、より優れた特性を得ることができるといえるものである。
【0055】
これに対して、x/y比が本発明の範囲外である試験No.5~8、または、アルカリ土類金属と、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素とがいずれもアルミニウムより大きい第一イオン化エネルギーを有しているものではない試験No.9~12、あるいは、アルカリ土類金属と、第3周期、第4周期または第5周期に属する元素との電気陰性度の差が0.6を超えている試験No.13~15は、いずれも、二次電子放出係数が5.0を超えていた。このことから、上記3つの構成要件が、本発明の重要な要素であることが確認された。
【0056】
なお、試験No.16,17は、密度が3.8g/cm3を大きく下回る3.7g/cm3であったため、緻密性が大きく損なわれ、たとえ本発明の範囲内といえども、二次電子放出係数の悪化がみられたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のアルミナセラミックスは、高周波発生装置およびプラズマ生成装置等の部材、例えば、導波管支持治具やクライストロンの高周波窓に好適に用いられる。また、耐プラズマ性に優れるため、CVD装置およびエッチング装置等などの産業機械にも好適に用いられる。
【符号の説明】
【0058】
10 アルミナセラミックス
1 結晶粒界
2 結晶粒
図1