(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】マグクロれんがの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/047 20060101AFI20240502BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20240502BHJP
C21C 7/10 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C04B35/047 300
F27D1/00 N
C21C7/10 B
(21)【出願番号】P 2020163902
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江上 雅之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 剛
(72)【発明者】
【氏名】玉木 健之
(72)【発明者】
【氏名】谷 康平
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-190759(JP,A)
【文献】特開2017-110280(JP,A)
【文献】特開平11-314964(JP,A)
【文献】特開2004-217497(JP,A)
【文献】特開昭53-104613(JP,A)
【文献】特開平10-007455(JP,A)
【文献】特開平11-228214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/043-35/047
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料配合物にバインダーを添加して混練し成形後、焼成する、マグクロれんがの製造方法であって、
耐火原料配合物は、電融マグクロを40~90質量%と、平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアを10~60質量%とを含有し、しかも電融マグクロと平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアの合量が85質量%以上である、マグクロれんがの製造方法。
【請求項2】
電融マグクロのうち、Cr
2O
3を25~50質量%含有する電融マグクロの割合が70質量%以上である、請求項1に記載のマグクロれんがの製造方法。
【請求項3】
耐火原料配合物は電融マグクロとして、粒径1mm以上5mm未満の電融マグクロを50質量%以下(0を含む)と、粒径1mm未満の電融マグクロを30~60質量とを含有する、請求項1又は請求項2に記載のマグクロれんがの製造方法。
【請求項4】
トップランスからの酸素吹きにより昇熱処理を行うRH炉の下部槽側壁部に使用されるマグクロれんがを製造する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のマグクロれんがの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RH炉、DH炉、VOD炉等の溶鋼の真空脱ガス炉などに使用されるマグクロれんが(マグネシアクロムれんが)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RH炉、DH炉、VOD炉等の溶鋼の真空脱ガス炉の内張りライニングに用いる耐火物としては、真空高温下においてスラグや溶鋼流に長時間接触し、過酷な使用条件に晒されるため高耐用性を有し、かつ、鋼品質に悪影響を与えないように、真空高温下でも化学的に安定な性質を持つマグクロれんがが使用されている。
【0003】
例えば、RH炉の下部槽側壁部の内張りライニングには、一般的にマグクロれんがが使用されるが、特に溶鋼の温度上昇を目的としてトップランスからの酸素吹きによりアルミニウムを投入し昇熱させる処理比率の高い操業条件下では、この側壁部のマグクロれんがの損傷速度は非常に大きいことが知られている。
【0004】
その要因としては、アルミニウムを投入し昇熱させる処理工程においては、炉内のれんがの稼動面温度はこの昇熱反応(テルミット反応)により非常に高温となり、この熱と吹き込まれた酸素で発生する酸化鉄による侵食が進みやすいこと、さらに処理終了後には、れんがの稼動面近傍は温度低下による温度差が非常に大きいため、れんがへの熱衝撃の増大により剥離損傷も進行しやすくなることが挙げられる。
【0005】
酸化鉄に対する耐性(耐酸化鉄性)の観点では、より緻密で低気孔率のれんがとすることで、耐酸化鉄性は向上することが知られている。例えば、特許文献1では見掛気孔率が11.5%以下のリボンドマグクロれんがが開示されている。
【0006】
ところが、本発明者らが特許文献1のマグクロれんがを使用したところ、耐用性の向上は確認されたものの、より一層耐用性を向上するためには、耐熱スポーリング性に問題があることがわかった。これは、緻密な組織を有するマグクロれんがは高い耐酸化鉄性を有する一方で、耐熱スポーリング性に劣ることから、上述のような温度差が非常に大きい条件下では、剥離による損傷がより進行しやすくなるためと考えられた。
【0007】
一方、特許文献2には、耐熱スポーリング性を向上するために粒径5~1mmの粗粒域の粒子を純度98.5%以上のマグネシアクリンカーから構成し、さらに、粒径1~0.074mmの中粒域の粒子をマグネシアクリンカー及び/又はマグクロクリンカーから構成すると共に、粒径0.074mm未満の微粒域の粒子をクロム鉱又はクロム鉱に一部マグクロクリンカーを含む原料粒子から構成することが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2の実施例で開示されたマグクロれんがは、クロム鉱含有率が20質量%以上と多いダイレクトボンドタイプのため焼成後の見掛気孔率が高くなり、耐酸化鉄性に劣る問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-110280号
【文献】特開平11-314964号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、耐酸化鉄性及び耐熱スポーリング性に優れるマグクロれんがの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、電融マグクロと電融マグネシアとを主体とした耐火原料配合物において、平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアを使用することで、耐熱スポーリング性が向上し、さらに耐酸化鉄性に優れるマグクロれんがが得られることを知見した。
【0012】
すなわち、本発明によれば次の1から4のマグクロれんがの製造方法が提供される。
1.
耐火原料配合物にバインダーを添加して混練し成形後、焼成する、マグクロれんがの製造方法であって、
耐火原料配合物は、電融マグクロを40~90質量%と、平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアを10~60質量%とを含有し、しかも電融マグクロと平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアの合量が85質量%以上である、マグクロれんがの製造方法。
2.
電融マグクロのうち、Cr2O3を25~50質量%含有する電融マグクロの割合が70質量%以上である、前記1に記載のマグクロれんがの製造方法。
3.
耐火原料配合物は電融マグクロとして、粒径1mm以上5mm未満の電融マグクロを50質量%以下(0を含む)と、粒径1mm未満の電融マグクロを30~60質量とを含有する、前記1又は2に記載のマグクロれんがの製造方法。
4.
トップランスからの酸素吹きにより昇熱処理を行うRH炉の下部槽側壁部に使用されるマグクロれんがを製造する、前記1から3のいずれか一項に記載のマグクロれんがの製造方法。
【0013】
このように本発明では、平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアを使用する。この電融マグネシアは、結晶粒径が大きく、粗粒内に粒界、及びこれに起因する亀裂が少ないことから、れんがのマトリックス部に発生した亀裂がこの電融マグネシアに達した際に、それ以上の伝播が抑制されることになる。一方、平均結晶粒径が700μm未満の電融マグネシアでは、亀裂がこの電融マグネシアに達した際に、その亀裂が結晶粒界やこれに起因する亀裂を通過してさらに伝播するため、亀裂の伝播の抑制効果が小さくなる。
このように、平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアを使用することで、れんがのマトリックス部に発生した亀裂の伝播が抑制され、その結果、耐熱スポーリング性を向上する効果が得られる。
【0014】
なお、平均結晶粒径が700μm以上であっても粒径が1mm未満の中粒又は微粒の電融マグネシアでは、耐熱スポーリング性を向上する効果は得られない。すなわち、粒径が1mm未満の中粒又は微粒の電融マグネシアでは、れんがのマトリックス部に発生した亀裂は基本的に、この中粒又は微粒の電融マグネシアの粒内を伝播するのではなく、中粒又は微粒の電融マグネシアの粒子間を伝播するから、平均結晶粒径が700μm以上であっても耐熱スポーリング性を向上する効果は得られない。
【0015】
平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアは、結晶粒界が少ないことから耐酸化鉄性を向上する効果も得られる。溶融した酸化鉄は、原料粒子中の粒界に浸潤することで組織の侵食が進行してゆくが、平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアは粒界が少ないため、これらの浸潤が抑制され、結果として耐酸化鉄性を向上する効果も得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐酸化鉄性及び耐熱スポーリング性に優れるマグクロれんがの製造方法を提供することができる。
すなわち、本発明の製造方法で得られるマグクロれんがは、耐酸化鉄性と耐熱スポーリング性に優れているため、このマグクロれんがをライニングした真空脱ガス炉の寿命が向上する。特にRH炉では、溶鋼の温度上昇を目的としてトップランスからの酸素吹きによりアルミニウムを投入し昇熱させる処理比率の高い操業条件下において、下部層側壁部の内張りライニングの損傷を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、上述のとおりマグクロれんがの耐酸化鉄性及び耐熱スポーリング性を向上するために、平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアを使用する。その具体的な使用量は、耐火原料配合物100質量%に占める割合で10~60質量%である。平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアが10質量%未満では耐熱スポーリング性が不十分となる。一方、平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアが60質量%を超えると、れんがが中粒又は微粒の少ない組織となるため結合組織の発達が不十分となり、結果として低強度で気孔率の高い組織となり耐熱スポーリング性及び耐酸化鉄性が低下する。
【0019】
電融マグネシアは、天然のマグネサイトあるいは海水から得たマグネシア等をアーク炉で溶融する溶融法で合成されるものであり、電融マグネシアクリンカー、溶融マグネシア、溶融マグネシアクリンカーとも称されている。平均結晶粒径が700μm以上の電融マグネシアは、溶融法において使用する原料純度を調整したり、あるいは冷却後の合成物(インゴット)のうち平均粒径が700μm以上の部分を選別すること等で得られる。例えば、インゴットには結晶粒径や純度の分布が生じるため、インゴットを任意の結晶サイズの範囲で分離して塊状物として採取することができる。通常、メーカーは、このインゴットからの採取部位により複数のグレードに分けた銘柄でしかも粒度別に販売しているため、これらの銘柄の中から、平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアを選択して購入することができる。
【0020】
粒径が1mm以上の電融マグネシアの平均結晶粒径は大きいほど、耐熱スポーリング性及び耐酸化鉄性を向上する効果が増大するから、その平均結晶粒径は1000μm以上とすることもできる。ただし、平均結晶粒径が大きいものほど高価になるため、実用面からは平均結晶粒径は5000μm以下とすることができる。
【0021】
ここで、本発明でいう平均結晶粒径とは、「切片法(インターセプト法)」に準じて次の方法で測定したものをいう。すなわち、平均結晶粒径が実質的に同じと見なすことのできる電融マグネシア(例えば同一銘柄の電融マグネシア)から粒径3mm以上5mm未満の粒子を10個以上選択し樹脂に埋め込んで、樹脂が硬化後に切断し表面を研磨したサンプルを作製する。このサンプルを顕微鏡で観察し、任意に10個の粒子を選び、それぞれの粒子断面に全長Lの直線(線分)を2本ずつ引き、この直線が横切った結晶粒の数nを求める。このとき、直線の端がその内部にある結晶粒は、(1/2)個と数える。そして式1から直線1本あたりの平均結晶粒径を求める。この直線1本あたりの平均結晶粒径を合計20本の直線について求め、20本の直線についての各平均結晶粒径の算術平均値を平均結晶粒径とする。
図1には、1個の電融マグネシアの粒子に2本の直線として直線A及びBを引いた例を示す。なお、
図1には1個の電融マグネシアの粒子の一部のみを示しているが、実際は電融マグネシアの粒子全体にわたって2本の直線を引く。
D=1.5×L/n (式1)
D:直線1本あたりの平均結晶粒径(μm)
L:測定長さ(μm)
n:長さLあたりの結晶粒の数
なお、「切片法(インターセプト法)」については、例えば「高山善匡,“結晶粒度の評価法”,軽金属(1994),p.48-56」の「5.3 切片法(intercept method: Heyn法,切断法)」(p.53)に解説があり、特開2007-284314号公報の段落0011にも記載がある。
【0022】
また本発明でいう粒径とは、耐火原料を篩いで篩って分離したときの篩い目の大きさのことであり、例えば粒径1mm以上の電融マグネシアとは篩い目が1mmの篩い目を通過しない電融マグネシアのことであり、粒径1mm未満の電融マグネシアとは篩い目が1mmの篩い目を通過する電融マグネシアのことである。
【0023】
本発明では、平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアのほかに、耐火物の原料として一般的に使用されているマグネシアが使用可能であり、例えば、焼結マグネシアや平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシア以外の電融マグネシアを使用することができる。平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシア以外の電融マグネシアは、耐スポーリン性向上効果が小さいため使用しなくてもよいが、15質量%以下であれば耐熱スポーリング性及び耐酸化鉄性に悪影響を与えることがないので適宜使用可能である。
【0024】
本発明では、平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアに加えて、電融マグクロを使用する。電融マグクロは、耐スラグ性及び耐酸化鉄性に優れしかも耐熱スポーリング性も備えているからである。その具体的な使用量は、耐火原料配合物100質量%に占める割合で40~90質量%である。電融マグクロが40質量%未満では耐酸化鉄性が不十分となり、90質量%を超えると相対的に平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアの添加量が少なくなるため耐酸化鉄性及び耐熱スポーリング性が低下する。
【0025】
本発明で使用する電融マグクロは、マグネシアとクロム鉱等とをアーク炉で溶融して得られる合成原料であり、電融マグネシアクロムクリンカー、電融マグクロクリンカー、溶融マグクロなどとも称されており、耐火物の原料として一般的に使用されているものを使用できる。
【0026】
耐酸化鉄性及び耐熱スポーリング性を同時に満足するためには、電融マグクロと平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアは、耐火原料配合物中に、合量で85質量%以上必要である。
【0027】
本発明では、耐熱スポーリング性をさらに向上したい場合、以下の理由からCr
2O
3を25~50質量%含有する電融マグクロを使用することができる。
すなわち、
図2のMgO-MgCr
2O
4系相状態図から、例えばCr
2O
3の含有率が16質量%のマグクロは、約1800℃より温度の高い領域ではMgOの固相にピクロクロマイト(MgCr
2O
4)が固溶した状態で安定となるが、約1800℃以下の領域ではMgO固相に固溶したピクロクロマイトがピクロクロマイト固相として析出し、各々の固相が存在する領域が安定となる。
ここで、RH炉において、トップランスからの酸素吹きによりアルミニウムを投入し昇熱させる処理ではれんがの稼動面は2000℃前後まで上昇し、処理終了後には700℃付近まで冷却され、この温度変化を何度も繰り返す。このときに、マグクロ内では、MgO固相へのピクロクロマイトの固溶と析出を繰り返す状態が発生し、これに伴いマグクロれんが内では電融マグクロ自体の組織崩壊が進行し、れんが組織に亀裂が発生し、損傷の進行を助長すると考えられる。
一方、
図2の状態図からCr
2O
3の含有率が25質量%の場合には、れんがの稼動面の予想温度である2000℃以下ではMgO固相へのピクロクロマイトの固溶が生じないことがわかる。つまり、Cr
2O
3の含有率が25質量%以上の電融マグクロを原料として使用することで、マグクロれんがの熱スポーリングによる組織崩壊を抑制できる。ただし、Cr
2O
3含有率が50質量%を超える電融マグクロは、製造する際に天然原料のクロム鉄鉱以外に精製された高価な酸化クロムを使用するため高価となり、このコストに見合った効果が得られない。そのため、電融マグクロ中のCr
2O
3含有率の上限値は50質量%で十分である。
【0028】
また、本発明で使用する電融マグクロは、Cr2O3源として主としてクロム鉄鉱を使用したものを使用することができる。そのため本発明で使用する電融マグクロは、クロム鉄鉱由来のAl2O3やFe2O3を含んでいてもよく、これらはれんがの耐用性に大きな影響を与えるものではない。具体的には、MgOを40~60質量%、Cr2O3を25~50質量%、Al2O3を3~10質量%、及びFe2O3を4~13質量%含有する電融マグクロを使用することができる。なお、電融マグクロのCr2O3含有率を調整するためにCr2O3源として補助的に精製された酸化クロムを使用してもよい。
【0029】
本発明では、電融マグクロの粒度構成を調整することで、耐熱スポーリング性及び耐酸化鉄性をさらに向上することができる。具体的には耐火原料配合物100質量%に占める割合で、粒径1mm以上5mm未満の電融マグクロを50質量%以下(0を含む)とし、粒径1mm未満の電融マグクロを30~60質量%とすることができる。
【0030】
本発明では、耐火原料配合物中に、酸化クロム及び/又はクロム鉄鉱は使用しなくてもよいが、組織の緻密化あるいは耐熱スポーリング性向上の目的で、耐火原料配合物100質量%に占める割合で10質量%以下で使用することもできる。酸化クロム及び/又はクロム鉄鉱が合量で10質量%を超えると、耐酸化鉄性がやや低下する。
酸化クロムとしては、耐火物の原料として一般的に使用されているものを使用することができる。また、クロム鉱としては、天然に産出するクロム鉱を使用することができる。
【0031】
本発明のマグクロれんがの製造方法は、上記組成の耐火原料配合物を使用すること以外は、通常のマグクロれんがの製造方法と同じとすることができる。すなわち、耐火原料配合物に適量のバインダーを添加して混練し、加圧成形後に焼成する。焼成温度は1700~1900℃とすることができる。
【0032】
本発明の製造方法で得られるマグクロれんがは、特に溶鋼の温度上昇を目的としてトップランスからの酸素吹きによりアルミニウムを投入し昇熱させる処理比率の高い操業条件となるRH炉の下部槽側壁部の内張りライニングに好適に使用することができ、これによりRH炉の耐用回数を向上することができる。
【実施例】
【0033】
表1~3は、本発明の実施例によるマグクロれんがの耐火原料配合物と得られたマグクロれんがの物性を比較例と共に示したものである。表1~3の耐火原料配合物にバインダーを添加して混練後、オイルプレスで並型形状のれんがを成形し、1750℃以上で焼成することでそれぞれマグクロれんがを得た。表1及び表2においては、Cr2O3含有量の耐熱スポーリング性に与える影響を低減するために、マグクロれんが中のCr2O3含有量が20質量%前後になるように、表4に示すCr2O3含有率の異なる複数の電融マグクロを使用した。また、電融マグネシアはそれぞれMgOが97質量%以上のものを、酸化クロムはCr2O3が98質量%のものを、クロム鉱はCr2O3が55質量%でMgOが16質量%のものをそれぞれ使用した。
【0034】
得られたマグクロれんがからサンプルを切り出し、見掛気孔率を測定すると共に、急冷スポーリング試験及び回転侵食試験を実施した。
見掛気孔率はJIS-R2205に準拠して測定した。
【0035】
急冷スポーリング試験は、一辺の長さが50mmの立方体のサンプルを1200℃に加熱した電気炉に入れて、15分後に取り出して水冷する操作を2回繰り返し、3回目以降は1400℃に加熱した電気炉に入れて15分後に取り出して空冷する操作を最大13回繰り返した。15回目までにサンプルの一部が剥落したものは×(不可)とし、15回目後に目視により大きな亀裂が発生したものを△(可)、小さな亀裂が観察されたものを○(良)と評価し、○(良)と△(可)を合格とした。
【0036】
回転侵食試験では、実炉における酸素吹き込み時の昇熱による耐熱スポーリング性とこれによって発生する酸化鉄に対する耐酸化鉄性とを評価した。この回転侵食試験では、水平の回転軸を有する鉄製のドラム内側にサンプルを内張りし、1750℃で30分保持した後、ドラムを回転しながらドラム内部に鉄パイプから酸素を15分間吹き込むことで溶解した高温の酸化鉄をサンプルの表面に吹き付けた。自然冷却後にサンプルを回収し、切断面の損耗量を測定した。その結果は比較例2の損耗量を100とする指数で表示した。この指数が小さいほど耐熱スポーリング性及び耐酸化鉄性に優れるということである。損耗量の指数が100以下の場合を合格、100を超える場合を不合格とした。
【0037】
総合評価は、見掛気孔率、急冷スポーリング試験結果及び回転侵食試験結果を総合的に評価して、○:非常に優れている、△:優れている、×:劣っている、の3段階で評価し、○と△を合格とした。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
実施例1から実施例3までは、平均結晶粒径が1000μmで粒径が1mm以上の電融マグネシアの使用量が異なるものであるが、本発明の範囲内であり耐熱スポーリング性及び耐酸化鉄性に優れる結果となった。
これに対して比較例1は、平均結晶粒径が1000μmで粒径が1mm以上の電融マグネシアを使用しないものであり、耐酸化鉄性及び耐熱スポーリング性に劣る結果となった。
比較例2は、平均結晶粒径が1000μmで粒径が1mm以上の電融マグネシアの使用量が5質量%と本発明の下限値を下回るものであり、急冷スポーリング試験結果が劣り耐熱スポーリング性に劣る結果となった。
また比較例3は、平均結晶粒径が1000μmで粒径が1mm以上の電融マグネシアの使用量が70質量%と本発明の上限値を上回るものであり、れんがが中粒又は微粒の少ない組織となるため結合組織の発達が不十分となり、結果として低強度で気孔率の高い組織となり耐熱スポーリング性及び耐酸化鉄性が低下した。
【0043】
実施例4は平均結晶粒径が1500μmで粒径が1mm以上の電融マグネシア、実施例5は平均結晶粒径が700μmで粒径が1mm以上の電融マグネシアをそれぞれ使用したもので、耐熱スポーリング性及び耐酸化鉄性に優れる結果となった。
比較例4は、平均結晶粒径が300μmで粒径が1mm以上の電融マグネシアを使用したものであり、急冷スポーリング試験結果が劣り耐熱スポーリング性に劣る結果となった。
また比較例5は、平均結晶粒径が1000μmで粒径が1mm未満の電融マグネシアを使用したものであり、急冷スポーリング試験結果が劣り耐熱スポーリング性に劣る結果となった。
【0044】
実施例6は、電融マグクロと平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアの合量が85質量%であり良好な結果となった。
比較例6は、電融マグクロと平均結晶粒径が700μm以上で粒径が1mm以上の電融マグネシアの合量が75質量%と本発明の下限値を下回っており、回転侵食試験結果が劣り耐熱スポーリング性及び耐酸化鉄性に劣る結果となった。
【0045】
実施例7は酸化クロムとクロム鉱を合量で10質量%使用しているが、良好な結果となった。一方、実施例8は酸化クロムとクロム鉱の合量が15質量%であり、実施例7に比べ耐酸化鉄性が低下した。
【0046】
実施例9から実施例11も本発明の範囲内であり良好な結果となった。
実施例9は耐酸化鉄性にやや劣る結果となった。これは粒径1mm以上5mm未満の電融マグクロが55質量%とやや多いため、組織がポーラスになったためである。
実施例10は耐酸化鉄性にやや劣る結果となった。これは粒径1mm未満の電融マグクロが少ないため、組織がポーラスになったためである。
実施例11は耐熱スポーリング性にやや劣る結果となった。これは粒径1mm未満の電融マグクロが多いため、組織が緻密になったためである。
【0047】
表3の実施例12から実施例17は、Cr2O3含有率の異なる電融マグクロを使用したものである。
このうち実施例12はCr2O3含有率が16質量%の電融マグクロを使用したものであり、回転侵食試験結果が他のものよりやや劣る結果となった。これは酸化鉄の吹き付けによってれんが温度が2000℃付近になったため、MgO固相へのピクロクロマイトの固溶と析出という変化によって組織が劣化し損耗したためと推定される。
実施例13はCr2O3含有率が25質量%の電融マグクロを使用したものであり、酸化鉄の吹き付けで2000℃になっても、電融マグクロ中のMgO固相へのピクロクロマイトの固溶と析出という変化が生じないため、損耗が少なかったと考えられる。
実施例14及び実施例15も同様に電融マグクロのCr2O3含有率が25質量%以上であるため、回転侵食試験結果は良好であった。
実施例16は、電融マグクロのうち、Cr2O3を25~50質量%含有する電融マグクロの割合が57質量%であり、回転侵食試験結果がやや劣る結果となった。
実施例17は、電融マグクロのうち、Cr2O3を25~50質量%含有する電融マグクロの割合が70質量%であり、回転侵食試験結果は実施例16と比較すると良好となった。
【0048】
実機試験として、実施例1及び比較例1のマグクロれんがを溶鋼の温度上昇を目的としてトップランスからの酸素吹きによりアルミニウムを投入し昇熱させる処理比率の高い操業条件下で使用されるRH炉の下部層側壁部に使用した結果、実施例1の損耗は比較例1の72%であった。