(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】汚染水処理方法および汚染水処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20240502BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C02F1/28 A
G21F9/12 501J
G21F9/12 501K
(21)【出願番号】P 2020166636
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三澤 玲菜
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大村 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】澤田 紘子
(72)【発明者】
【氏名】山田 和矢
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 直希
【審査官】▲高▼橋 明日香
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-062223(JP,A)
【文献】特開2014-163842(JP,A)
【文献】特開2013-120102(JP,A)
【文献】特開2015-025706(JP,A)
【文献】特開2013-044588(JP,A)
【文献】特表平04-505576(JP,A)
【文献】米国特許第06210078(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0341956(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0100755(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0178149(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0102562(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0165659(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
G21F 9/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸に対する錯体安定度定数が不純物イオンよりも大きい金属イオンを汚染水に添加する工程と、
前記カルボン酸を含む前記汚染水に含まれる前記不純物イオンを吸着材に吸着させて前記汚染水から前記不純物イオンを除去する工程と、
を含む、
汚染水処理方法。
【請求項2】
前記汚染水に対する前記金属イオンの添加濃度は、前記カルボン酸の規定度以上である、
請求項1に記載の汚染水処理方法。
【請求項3】
前記汚染水に対する前記金属イオンの添加濃度は、前記カルボン酸の規定度と当量である、
請求項1または請求項2に記載の汚染水処理方法。
【請求項4】
前記不純物イオンが放射性ストロンチウムイオンである、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の汚染水処理方法。
【請求項5】
前記カルボン酸がジカルボン酸とトリカルボン酸の少なくとも一方である、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の汚染水処理方法。
【請求項6】
前記カルボン酸がジカルボン酸であり、
前記不純物イオンがSr
2+であり、
前記金属イオンがCa
2+、Mg
2+、Co
2+、Al
3+、Ga
3+、Bi
3+、Hg
2+、Mo
4+、Fe
2+、Fe
3+の少なくともいずれか1つである、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の汚染水処理方法。
【請求項7】
前記カルボン酸がトリカルボン酸であり、
前記不純物イオンがSr
2+であり、
前記金属イオンがCa
2+、Mg
2+、Ba
2+、Co
2+、Al
3+、Ga
3+、Bi
3+、Hg
2+、Mo
4+、Fe
2+、Fe
3+の少なくともいずれか1つである、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の汚染水処理方法。
【請求項8】
前記金属イオンがAl
3+、Ga
3+、Bi
3+、Mo
4+、Fe
3+の少なくともいずれか1つである、
請求項6または請求項7に記載の汚染水処理方法。
【請求項9】
カルボン酸に対する錯体安定度定数が不純物イオンよりも大きい金属イオンを汚染水に添加する添加部と、
前記カルボン酸を含む前記汚染水に含まれる前記不純物イオンを吸着材に吸着させて前記汚染水から前記不純物イオンを除去する吸着塔と、
を備える、
汚染水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、汚染水処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染水中の不純物イオンを吸着処理するシステムにおいて、懸濁状態の汚染水を吸着材に通液すると、懸濁成分で吸着材の吸着サイトが塞がれてしまう。そのため、固液分離操作を行って懸濁成分を取り除いた後、不純物イオンを吸着処理することが一般的である。固液分離操作では、ろ過により懸濁物をほぼ取り除くことができる。しかし、ろ過を継続するとフィルターの目詰まりにより圧損が高まる。そこで、カルボン酸または硝酸などを処理系統に注入してフィルターに付着した懸濁物を溶解させて、目詰まりを解消させるようにしている。
【0003】
放射性廃液を処理するシステムでは、フィルターの洗浄に用いたカルボン酸を含む酸廃液に核種が混じるため、酸廃液を一般の廃液と同様に処理することができない。そのため、酸廃液は所定のタンクに保管されるが、その保管量は年々増加する一方となる。そこで、酸廃液を放射性廃液に混入させ、放射性廃液と一緒に酸廃液の核種の除去処理を行うことで、酸廃液の保管量を削減したいという要望がある。しかしながら、カルボン酸を含む酸廃液が混じると不純物イオンの吸着処理が困難となってしまうという課題がある。
【0004】
ここで、不純物イオンとして、2価の核種であるストロンチウム90(Sr-90)を例示する。このストロンチウムとカルシウム(Ca)を含む廃液から、ストロンチウムを吸着材で除去する方法について説明する。まず、クエン酸などのカルボン酸をカルシウムが存在する廃液に添加した場合、カルボン酸カルシウムとなって廃液に溶解される。ストロンチウムはカルシウムと同族のアルカリ土類金属であるため、ストロンチウムを含む廃液にカルボン酸が溶解された場合、ストロンチウムのカルボン酸錯体が生成される。つまり、フィルターの洗浄に用いたカルボン酸が廃液に混じると、廃液中のストロンチウムは、ストロンチウムイオンSr2+ではなく、カルボン酸錯体イオンとなって存在することになる。ストロンチウムは、吸着処理される際にイオンの形態で処理されるものであるため、ストロンチウムがカルボン酸と錯体を形成している場合には、吸着処理が困難になる。そこで、ストロンチウムイオンSr2+とカルボン酸の錯体形成を抑制する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】化学便覧基礎編 改訂5版 日本化学会編 丸善出版 2004,平衡定数 p.II332,有機配位子金属錯体の生成定数 p.II349-II350
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、カルボン酸を含む汚染水を吸着材で処理するときにカルボン酸の影響を抑制できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る汚染水処理方法は、カルボン酸に対する錯体安定度定数が不純物イオンよりも大きい金属イオンを汚染水に添加する工程と、前記カルボン酸を含む前記汚染水に含まれる前記不純物イオンを吸着材に吸着させて前記汚染水から前記不純物イオンを除去する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、カルボン酸を含む汚染水を吸着材で処理するときにカルボン酸の影響を抑制できる汚染水処理技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、汚染水処理方法および汚染水処理システムの実施形態について詳細に説明する。
【0011】
図1の符号1は、本実施形態の汚染水処理システムである。この汚染水処理システム1は、放射性物質の不純物イオンを含む汚染水を処理するものである。汚染水処理システム1は、沈殿槽2とフィルター3と酸廃液貯留タンク4と金属イオン添加部5と吸着塔6とを備える。なお、多数の吸着材7が吸着塔6に収容されている。
【0012】
本実施形態では、吸着塔6を1塔設置した態様を例示する。なお、吸着塔6は、複数塔設けても良い。また、吸着塔6は、固定層式を例示する。なお、固定層式以外の吸着塔6を用いても良い。
【0013】
沈殿槽2と吸着塔6は、汚染水供給ライン8で接続されている。汚染水としての放射性廃液9は、まず、沈殿槽2で固液分離操作が成された後、フィルター3でろ過される。そして、この放射性廃液9は、汚染水供給ライン8を介して吸着塔6に供給される。
【0014】
汚染水供給ライン8は、吸着塔6の上流側に接続されている。この汚染水供給ライン8から吸着塔6の内部に導入された放射性廃液9は、吸着材7に接触しながら吸着塔6の内部を流れ落ちる。そして、不純物イオンが吸着材7に吸着され、放射性廃液9が浄化される。なお、吸着塔6の下流側には、処理水排出ライン10が接続されている。放射性廃液9から不純物イオンが除去された状態の水である処理水11が処理水排出ライン10により排出される。
【0015】
フィルター3には、ろ過時に懸濁物が付着する。ろ過を継続するとフィルター3の目詰まりにより圧損が高まる。そこで、メンテナンス時にカルボン酸を含む洗浄液をフィルター3に汚染水供給ライン8に注入し、フィルター3に付着した懸濁物を溶解させて、目詰まりを解消させる。このときに、フィルター3の洗浄に用いたカルボン酸を含む酸廃液13は、酸廃液貯留タンク4に貯留される。
【0016】
長年、汚染水処理システム1を使用すると、酸廃液貯留タンク4に貯留される酸廃液13の量も増加してしまう。そこで、本実施形態では、酸廃液13を放射性廃液9に混入させ、放射性廃液9と一緒に酸廃液13の処理を行う。なお、以下の説明では、放射性廃液9と酸廃液13が混合されたものを汚染水と称する。
【0017】
汚染水供給ライン8には、酸廃液貯留タンク4から酸廃液13が供給される酸廃液供給ライン12が接続されている。さらに、汚染水供給ライン8には、カルボン酸との錯体を生成する金属イオンを含む添加液15を供給する添加液供給ライン14が接続されている。なお、放射性廃液9と酸廃液13と金属イオンとを予め混合させて1つのラインで吸着塔6に供給しても良い。
【0018】
本実施形態では、不純物イオンとカルボン酸を含む汚染水に、カルボン酸との錯体安定度定数の値が不純物イオンよりも大きい金属イオンを添加する。このようにすれば、カルボン酸を含む汚染水を吸着材7で処理するときにカルボン酸の影響を抑制できる。
【0019】
不純物イオンとしては、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、コバルトイオンなどが考えられる。金属イオンとしては、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオンなどが考えられる。なお、金属イオンは、カルボン酸との錯体安定度定数の値が不純物イオンよりも大きいものであれば良い。
【0020】
本実施形態では、不純物イオンとして放射性ストロンチウムイオンを例示する。この放射性ストロンチウムイオンを含む放射性廃液9とともに、カルボン酸を含む酸廃液13の核種の除去処理を行うことで、酸廃液13の保管量を削減することができる。
【0021】
また、カルボン酸は、ジカルボン酸とトリカルボン酸の少なくとも一方である。このようにすれば、フィルター3の洗浄に用いたカルボン酸を含む酸廃液13を処理の対象とすることができる。
【0022】
また、汚染水に添加する金属イオンの添加濃度は、汚染水に含まれるカルボン酸の規定度以上とする。このようにすれば、不純物イオンの代わりに金属イオンと優先的に錯体を形成するようになり、不純物イオンの錯体形成を抑制することができる。
【0023】
なお、添加する金属イオンの価数を吸着除去する不純物イオンの価数以上として、溶解度の高い塩の形態で汚染水に供給すると効果が向上される。また、金属イオンの添加濃度が、カルボン酸の規定度以上とすることで、吸着材7で安定した吸着性能が得られる。
【0024】
また、汚染水に対する金属イオンの添加濃度は、カルボン酸の規定度と当量としても良い。このようにすれば、添加される金属イオンの殆どがカルボン酸と反応されるため、金属イオンが汚染水に残らないようになり、不純物イオンが吸着材に吸着されることを金属イオンが阻害しないようにできる。そのため、安定した吸着処理が可能となる。
【0025】
なお、添加する金属イオンの価数と吸着除去する不純物イオンの価数が同じ場合は、金属イオンの添加量をカルボン酸の規定度と当量にすると良い。
【0026】
汚染水に含まれるカルボン酸が、ジカルボン酸とトリカルボン酸の混合物である場合には、ジカルボン酸の規定度とトリカルボン酸の規定度を合わせた総規定度を特定する。そして、この総規定度以上の濃度の金属イオンを吸着処理前の汚染水に添加する。または、この総規定度と当量の濃度の金属イオンを吸着処理前の汚染水に添加する。
【0027】
本実施形態では、不純物イオンとカルボン酸を含む汚染水に、錯体安定度定数の値が不純物イオンよりも大きい金属イオンを、カルボン酸の規定度以上添加する。このようにすれば、カルボン酸は不純物イオンの代わりに金属イオンと錯体を優先的に形成するようになる。そして、カルボン酸と不純物イオンの錯体形成が抑制されるため、カルボン酸と不純物イオンを含む汚染水から不純物イオンを吸着材7に吸着させる処理を行うことができる。
【0028】
また、金属イオンを溶解度の高い塩の形態で添加することで、金属イオンを容易に汚染水に溶解させて錯体を形成させることができる。また、金属イオンの価数を吸着除去する不純物イオンの価数以上とすることで、不純物イオンの吸着処理を安定して行うことができる。
【0029】
次に、本実施形態の汚染水処理方法について
図2のフローチャートを用いて説明する。この汚染水処理システム1の動作によって受動的に生じる作用効果を含めて説明する。
【0030】
まず、ステップS11において、規定度取得工程を実行する。この規定度取得工程では、放射性廃液9と酸廃液13とが混合された汚染水に含まれるカルボン酸の規定度が取得される。例えば、汚染水供給ライン8からサンプルとなる汚染水を取り出して規定度を測定する。また、酸廃液貯留タンク4から供給される酸廃液13の量に基づいて、カルボン酸の規定度を算出しても良い。ここで、取得されたカルボン酸の規定度に基づいて、汚染水供給ライン8に添加される金属イオンの添加濃度を決定する。
【0031】
次のステップS12において、価数取得工程を実行する。この価数取得工程では、汚染水に含まれる不純物イオンの価数が取得される。例えば、汚染水供給ライン8からサンプルとなる汚染水を取り出して不純物イオンの価数を測定する。ここで、取得された不純物イオンの価数に基づいて、汚染水供給ライン8に添加される金属イオンの価数を決定する。
【0032】
次のステップS13において、金属イオン添加工程を実行する。この金属イオン添加工程では、カルボン酸に対する錯体安定度定数の値が不純物イオンよりも大きい金属イオンを汚染水に添加する。
【0033】
次のステップS14において、吸着処理工程を実行する。この吸着処理工程では、カルボン酸を含む汚染水に含まれる不純物イオンが吸着材7に吸着され、汚染水から不純物イオンが除去される。そして、汚染水処理方法を終了する。
【0034】
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
【0035】
次に、カルボン酸が、ジカルボン酸としてのシュウ酸である場合の実施例1について説明する。なお、不純物イオンがSr2+であり、金属イオンがCa2+、Mg2+、Co2+、Al3+、Ga3+、Bi3+、Hg2+、Mo4+、Fe2+、Fe3+の少なくともいずれか1つであるものとする。
【0036】
実施例1では、シュウ酸とストロンチウムイオンを含む汚染水からストロンチウムイオンを除去する処理を行う態様を例示する。ストロンチウムイオンとシュウ酸を含む汚染水に、シュウ酸との錯体安定度定数の値が不純物イオンよりも大きい金属イオンを添加する。なお、金属イオンの添加濃度は、汚染水に含まれるシュウ酸の規定度以上、またはシュウ酸の規定度と当量とする。
【0037】
シュウ酸と2価のストロンチウムイオンを含む汚染水に、錯体安定度定数の値が不純物イオンよりも大きい金属イオンを添加してから吸着処理を行う。このようにすれば、シュウ酸による吸着阻害の影響を抑制することができる。
【0038】
ここで、ストロンチウムとそれぞれの金属イオンについて、シュウ酸とクエン酸の錯体安定度定数の値を表1に示す(例えば、非特許文献1参照)。
【0039】
【0040】
表1の錯体安定度定数β1は、次の数式1で求められる。ここで、Mは、金属イオンである。Lは、配位子である。MLは、金属イオンMと配位子Lから生成される錯体である。[ ]は、モル濃度を示す。
【0041】
【0042】
表1に示すように、シュウ酸との錯体安定度定数の値がストロンチウムイオンより大きい金属イオンは、Ca2+、Mg2+、Co2+、Al3+、Ga3+、Bi3+、Hg2+、Mo4+、Fe2+、Fe3+などがある。これらの金属イオンのいずれか1つ以上をシュウ酸の規定度以上になるように汚染水に添加すると良い。このようにすれば、カルボン酸がシュウ酸(ジカルボン酸)であっても、その影響を抑制する充分な効果を得られる。
【0043】
さらに好ましくは、価イオンであるストロンチウムの吸着を阻害しないように、2価以上の金属イオンであるAl3+、Ga3+、Bi3+、Mo4+、Fe3+をシュウ酸の規定度以上になるように汚染水に添加すると良い。このようにすれば、価数が不純物イオンよりも大きい金属イオンを用いることで、金属イオンが不純物イオンよりも錯体を形成し易くなり、不純物イオンの錯体形成を抑制することができる。
【0044】
これらの金属イオンは、水酸化物、塩化物、硫酸塩、炭酸塩のいずれか1つ以上の塩で供給されることが望ましい。特に、溶解度の高い塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化コバルト(II)、塩化アルミニウムとして供給されると良い。このようにすれば、金属イオンを容易に汚染水に溶解させて、カルボン酸との錯体を形成させることができるため、ストロンチウムの吸着処理を安定して行うことができる。なお、他の不純物イオンとジカルボン酸を含有する汚染水でも、ジカルボン酸との錯体安定度定数の値が不純物イオンよりも大きい金属イオンを添加することで同様の効果が得られる。
【0045】
次に、カルボン酸が、トリカルボン酸としてのクエン酸である場合の実施例2について説明する。なお、不純物イオンがSr2+であり、金属イオンがCa2+、Mg2+、Ba2+、Co2+、Al3+、Ga3+、Bi3+、Hg2+、Mo4+、Fe2+、Fe3+の少なくともいずれか1つであるものとする。
【0046】
実施例2では、クエン酸とストロンチウムイオンを含む汚染水からストロンチウムイオンを除去する処理を行う態様を例示する。ストロンチウムイオンとクエン酸を含む汚染水に、クエン酸との錯体安定度定数の値が不純物イオンよりも大きい金属イオンを添加する。なお、金属イオンの添加濃度は、クエン酸の規定度以上、またはクエン酸の規定度と当量とする。
【0047】
クエン酸と2価のストロンチウムイオンを含む汚染水に、錯体安定度定数の値が不純物イオンよりも大きい金属イオンを添加してから吸着処理を行う。このようにすれば、クエン酸による吸着阻害の影響を抑制することができる。
【0048】
ここで、クエン酸混入率の異なるストロンチウムの試験液を吸着材で吸着処理したときのストロンチウムの吸着性能比の結果を表2に示す。
【0049】
【0050】
なお、吸着性能とは、吸着材が処理対象とする不純物イオンをどれだけ多く吸着するかを示す指標であり、次の数式2で求められる。ここで、Kdは、吸着性能を示す分配係数である。Ciは、吸着材に通す前の汚染水に含まれる不純物イオンの濃度である。Cfは、吸着材に通した後の汚染水に含まれる不純物イオンの濃度である。Vは、吸着材に通した汚染水の体積[ml]である。mは、吸着材の重量[g]である。
【0051】
【0052】
そして、表2のストロンチウムの吸着性能比は、次の数式3で求められる。つまり、ストロンチウムの吸着性能比は、クエン酸混入率0[wt%]のときのストロンチウムの吸着性能を100とした場合において、クエン酸混入率x[wt%]のときのストロンチウムの吸着性能の比を表している。
【0053】
【0054】
表2に示すように、クエン酸混入率が0%の試験液の吸着性能比を100とした場合において、クエン酸混入率が1wt%のときに吸着性能比が86である。また、クエン酸混入率が5wt%のときに吸着性能比が22である。つまり、クエン酸が混入してしまうと吸着性能が低下することが確認された。
【0055】
このような現象が生じる原因は、クエン酸とストロンチウムが錯体を形成することにより、ストロンチウムの吸着処理が抑制されてしまうからである。そこで、クエン酸とストロンチウムを含む汚染水に、ストロンチウムよりもクエン酸との錯体安定度定数の値が大きい金属イオンを添加すると、クエン酸はストロンチウムの代わりに金属イオンと錯体を形成する。その結果、ストロンチウムは2価のイオンとして吸着塔6に供給されるため、吸着性能が向上される。
【0056】
前述の表1に示すように、クエン酸との錯体安定度定数の値がストロンチウムイオンより大きい金属イオンは、Ca2+、Mg2+、Ba2+、Co2+、Al3+、Ga3+、Bi3+、Hg2+、Mo4+、Fe2+、Fe3+などがある。これらの金属イオンのいずれか1つ以上をクエン酸の規定度以上になるように汚染水に添加すると良い。このようにすれば、カルボン酸がクエン酸(トリカルボン酸)であっても、その影響を抑制する充分な効果を得られる。
【0057】
さらに好ましくは、価イオンであるストロンチウムの吸着を阻害しないように、2価以上の金属イオンであるAl3+、Ga3+、Bi3+、Mo4+、Fe3+をシュウ酸の規定度以上になるように汚染水に添加すると良い。このようにすれば、価数が不純物イオンよりも大きい金属イオンを用いることで、金属イオンが不純物イオンよりも錯体を形成し易くなり、不純物イオンの錯体形成を抑制することができる。
【0058】
なお、実施例2では、金属イオンのうち、特に溶解度の高い塩化アルミニウムの形態で金属イオンを添加する。また、汚染水に添加する金属イオンの添加濃度は、汚染水に含まれるクエン酸の規定度以上、またはクエン酸の規定度と当量とする。
【0059】
例えば、クエン酸が1wt%含有される汚染水の場合、0.14wt%(=5.21E-2mol/l)のアルミニウムイオンを添加すると、クエン酸の規定度と当量となる。そのため、この規定度以上、またはこの規定度と当量の添加濃度となるようにアルミニウムイオンを添加すると良い。
【0060】
なお、アルミニウムイオンの添加濃度が0.14wt%となるのであれば、水酸化物、塩化物、硫酸塩、炭酸塩などの塩で供給しても良い。アルミニウムイオンがクエン酸と錯体を形成することによって、ストロンチウムが2価イオンの形態で維持され、安定して吸着処理が行える。つまり、吸着処理時にクエン酸による吸着阻害影響を受け難くなる。特に、溶解度の高い塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化コバルト(II)、塩化アルミニウムとして供給されると良い。このようにすれば、金属イオンを容易に汚染水に溶解させて、カルボン酸との錯体を形成させることができるため、ストロンチウムの吸着処理を安定して行うことができる。
【0061】
ここで、塩化アルミニウムを添加していない場合と添加した場合のストロンチウムの吸着性能比について表3に示す。
【0062】
【0063】
表3に示すように、クエン酸混入率が1%ときに塩化アルミニウムを添加すると吸着性能比が14%程度向上する。また、クエン酸混入率が5%ときに塩化アルミニウムを添加すると吸着性能比が78%程度向上する。なお、他の不純物イオンとトリカルボン酸を含有する汚染水でも、トリカルボン酸との錯体安定度定数の値が不純物イオンよりも大きい金属イオンを添加することで同様の効果が得られる。
【0064】
以上説明した実施形態によれば、カルボン酸に対する錯体安定度定数が不純物イオンよりも大きい金属イオンを汚染水に添加する工程を含むことにより、カルボン酸を含む汚染水を吸着材で処理するときにカルボン酸の影響を抑制できる。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0066】
1…汚染水処理システム、2…沈殿槽、3…フィルター、4…酸廃液貯留タンク、5…金属イオン添加部、6…吸着塔、7…吸着材、8…汚染水供給ライン、9…放射性廃液、10…処理水排出ライン、11…処理水、12…酸廃液供給ライン、13…酸廃液、14…添加液供給ライン、15…添加液。