(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】プラント評価システム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240502BHJP
E04H 9/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
E04H9/00
(21)【出願番号】P 2020186527
(22)【出願日】2020-11-09
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲村 岳
(72)【発明者】
【氏名】藁科 正彦
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-101431(JP,A)
【文献】特開2009-204517(JP,A)
【文献】特開2019-020261(JP,A)
【文献】特開2020-008332(JP,A)
【文献】特開2013-195354(JP,A)
【文献】特開2013-254239(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0106696(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
G01H 17/00
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
G06N 3/02 - 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの構造物又は設置物に設定された複数の計測ポイントの各々に設けられた複数の加速度センサから送信される加速度信号を受信する受信部と、
受信した前記加速度信号のスペクトルを生成するスペクトル生成部と、
前記プラントの固有振動モードを
予め反映させ
、複数の前記計測ポイントにおける前記スペクトルを入力すると基底ベクトル又は動的モード振幅を出力するように作成した学習モデルを格納する格納部と、
前記スペクトルを入力した前記学習モデルの出力に基づいて、前記計測ポイント以外の任意ポイントにおける変位又は応力の時刻歴応答を演算する演算部と、を備えるプラント評価システム。
【請求項2】
請求項1に記載のプラント評価システムにおいて、
前記格納されている前記学習モデルを取得し、前記入力した前記スペクトルから
前記基底ベクトルを推定して前記出力させる第1推定部を備え、
前記演算部は、前記基底ベクトルに基づいて前記構造物及び前記設置物の運動方程式を縮約し、前記時刻歴応答を出力させるプラント評価システム。
【請求項3】
請求項1に記載のプラント評価システムにおいて、
前記格納されている前記学習モデルを取得し、前記入力した前記スペクトルから
前記動的モード振幅を推定して前記出力させる第2推定部と、
前記演算部は、前記動的モード振幅に加え、前記構造物及び前記設置物の振動解析モデルに基づき予め計算した動的モード及び固有値にも基づいて、前記時刻歴応答を出力させるプラント評価システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラント評価システムにおいて、
前記演算された前記変位又は前記応力に基づいて、前記構造物又は前記設置物の損傷の程度を評価する損傷評価部を備えるプラント評価システム。
【請求項5】
プラントの構造物又は設置物に設定された複数の計測ポイントの各々に設けられた複数の加速度センサから送信される加速度信号を受信するステップと、
受信した前記加速度信号のスペクトルを生成するステップと、
前記プラントの固有振動モードを
予め反映させ
、複数の前記計測ポイントにおける前記スペクトルを入力すると基底ベクトル又は動的モード振幅を出力するように作成した学習モデルを格納するステップと、
前記スペクトルを入力した前記学習モデルの出力に基づいて、前記計測ポイント以外の任意ポイントにおける変位又は応力の時刻歴応答を演算するステップと、を含むプラント評価方法。
【請求項6】
コンピュータに、
プラントの構造物又は設置物に設定された複数の計測ポイントの各々に設けられた複数の加速度センサから送信される加速度信号を受信するステップ、
受信した前記加速度信号のスペクトルを生成するステップ、
前記プラントの固有振動モードを
予め反映させ
、複数の前記計測ポイントにおける前記スペクトルを入力すると基底ベクトル又は動的モード振幅を出力するように作成した学習モデルを格納するステップ、
前記スペクトルを入力した前記学習モデルの出力に基づいて、前記計測ポイント以外の任意ポイントにおける変位又は応力の時刻歴応答を演算するステップ、を実行させるプラント評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、津波、竜巻等の自然現象や飛来物等の衝突を含む外部事象による衝撃が作用したプラントの健全性を評価するプラント評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば沿岸部に位置するプラントを構成する構造物及び設置物などが、地震や津波、洪水、強風、竜巻、火山等の自然現象による飛来物、または、船舶等の漂流物による荷重の作用で損傷した場合には、プラントの被害拡大防止や停止のために、損傷部位の把握と健全な設備を用いた減災対応とが要請される。従来、地震による建物の損傷を、地震計からの信号を取り込んで評価する評価システム及び方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のような従来の評価システム及び方法は、地震や衝突により設計想定を超える荷重が構造物や設置物に作用する場合がある。この場合、構造物や設置物の塑性変形、支持部における接触、ボルト締結部における摩擦すべりといった非線形な現象を十分に考慮できない。このため、地震や衝突による構造物や設置物の応答を、精度良く評価することができない。また、FEM(有限要素法)を用いて詳細に解析すれば、前述した非線形現象を精度良く評価できるが、解析結果を得るまでに膨大な時間を要してしまう。
【0005】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたものであり、地震、津波、竜巻等の自然現象による飛来物や船舶等の漂流物の衝突といった大荷重がプラントに作用した場合、非線形の応答現象を短時間で精度良く評価するプラント評価技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係るプラント評価システムにおいて、プラントの構造物又は設置物に設定された複数の計測ポイントの各々に設けられた複数の加速度センサから送信される加速度信号を受信する受信部と、受信した前記加速度信号のスペクトルを生成する生成部と、前記プラントの固有振動モードを予め反映させ複数の前記計測ポイントにおける前記スペクトルを入力すると基底ベクトル又は動的モード振幅を出力するように作成した学習モデルを格納する格納部と、前記スペクトルを入力した前記学習モデルの出力に基づいて、前記計測ポイント以外の任意ポイントにおける変位又は応力の時刻歴応答を演算する演算部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、地震、津波、竜巻等の自然現象による飛来物や船舶等の漂流物の衝突といった大荷重がプラントに作用した場合、非線形の応答現象を短時間で精度良く評価するプラント評価技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るプラント評価システムの構成を示すブロック図。
【
図2】地震が発生したり津波が押し寄せたり飛来物や漂流物が衝突したりして、外部衝撃が作用したプラントの構造物及び設置物で発生する振動の加速度信号の説明図。
【
図3】第1実施形態における学習モデルの作成部(第1作成部)のデータ処理を説明する数式。
【
図4】第1実施形態における時刻歴応答の演算部(第1演算部)のデータ処理を説明する数式。
【
図5】各実施形態に係るプラント評価方法の工程及びプラント評価プログラムのアルゴリズムを説明するフローチャート。
【
図6】本発明の第2実施形態に係るプラント評価システムの構成を示すブロック図。
【
図7】第2実施形態におけるプラント評価システムの作成部(第2作成部)及び演算部(第2演算部)におけるデータ処理を説明する数式。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は実施形態に係るプラント評価システム10の構成を示すブロック図である。
図2は外部衝撃8(8a,8b,8c)が作用したプラント5の構造物6及び設置物7で発生する振動の加速度信号9(9a,9b)の説明図である。
【0010】
図1に示すように第1実施形態のプラント評価システム10aは、プラント5の構造物6又は設置物7に設定された複数の計測ポイントP(P
1,P
2,P
3…)の各々に設けられた複数の加速度センサ11から送信される加速度信号9を受信する受信部12と、受信した加速度信号9のスペクトル21を生成するスペクトル生成部13と、プラント5の固有振動モード26を反映させて作成した学習モデル18aを格納する格納部と、スペクトル21を入力させた学習モデル18aの出力に基づいて計測ポイントP以外の任意ポイントにおける変位又は応力の時刻歴応答24を演算する第1演算部14aと、を備えている。
【0011】
さらに、第1実施形態のプラント評価システム10aは、格納部から学習モデル18aを取得し、スペクトル生成部13より入力したスペクトル21から基底ベクトル31を推定して出力させる第1推定部15aを備えている。そして、第1演算部14aは、基底ベクトル31に基づいて構造物6及び設置物7の運動方程式27を縮約し時刻歴応答24を出力させる。
【0012】
図2に示すようにプラント5に、津波1や地震、洪水、強風、竜巻、火山等の自然現象または飛来物2や漂流物3等の衝突を含む外部事象による外部衝撃8(8a,8b,8c)が作用した場合を想定する。プラント評価システム10(
図1)は、このプラント5を構成する建屋等の構造物6、及びこの構造物6の内部に設置される設置物7(例えば制御盤や配管など)の健全性を評価する。
【0013】
図1に戻って説明を続ける。プラント5の外側に作用した衝撃によりその内部に伝播する振動を計測するための計測ポイントP(P
1,P
2,P
3…)が設定される。この計測ポイントPは、プラント5の構造物6により構成される任意の階層に設定されたり、それぞれの階層に設置されている設置物7の表面又は内部に設定されたりする。
【0014】
加速度センサ11は、計測ポイントPにおける水平2方向及び垂直1方向の合計3方向の加速度を計測し、外部衝撃8がプラント5に作用したときの振動を加速度の時刻歴(加速度信号9)として計測する。
【0015】
受信部12は、通信網20を介して、複数の計測ポイントPの加速度センサ11から加速度信号9を受信する。受信された加速度信号9は、対応する計測ポイントP(P1,P2,P3…)の識別データ(図示略)とともにスペクトル21のスペクトル生成部13に送信される。
【0016】
スペクトル生成部13は、受信部12から送信された加速度信号9をフーリエ変換することで、計測ポイントP(P1,P2,P3…)における各方向の加速度のスペクトル21を生成する。このスペクトル21は、周波数と加速度の大きさからなる2次元データで表される。
【0017】
このスペクトル21は、加速度信号9に含まれる各方向の加速度の時刻歴をフーリエ変換して得られる複素数の大きさを示すものである。さらにこの複素数の大きさの情報は、位相角の情報と併せて、複素数の実部と虚部の情報に変換することもできる。このスペクトル21は、対応する計測ポイントPの識別データ(図示略)とともに第1推定部15aに送信される。
【0018】
図3は、第1実施形態で学習モデル18a(
図1)を作成する第1作成部16aのデータ処理を説明する数式(1)~(6)を示している。第1推定部15a(
図1)は、プラント5の固有振動モード26を反映させた学習モデル18aを取得する。そして、各々の計測ポイントP(P
1,P
2,P
3…)のスペクトル21を入力し、基底ベクトル31を推定して第1演算部14aに送信する。
【0019】
学習モデル18aは、振動解析モデル22を固有値解析部25で解析したR個の固有振動モード26とスペクトル21とを入力すると、振動解析モデル22の自由度を縮約するR個の基底ベクトルφiで構成される行列Φを出力するように、予め機械学習したものである。学習モデル18aは、階層型のニューラルネットワークである。
【0020】
基底ベクトル31は、
図3の数式(1)に示すように、R個の基底ベクトルφ
i(i=1~R)を並べた行列Φで表される。振動解析モデル22は、プラント5の構造物6及び設置物7を、ばね質点としてモデル化したものや、FEM(有限要素法)でモデル化したものである。
【0021】
第1作成部16aでは、学習モデル18aの作成にあたり、出力である基底ベクトルφを、
図3の数式(2)で表されるJを最大化することで得る。ここで、プラント5に地震動の加速度aが作用することを想定し、振動解析モデル22でシミュレーション解析して得た任意の時間ステップj(j=1,…,P)における変位をu
jとする。
【0022】
ここで、数式(2)を最大化する基底ベクトルφiの解は、数式(3)で表される固有値問題を解くことで得られる。ここで、Cは任意の時間ステップj(j=1,…,P)における変位ujからなる行列で、数式(4)のように定義される。さらに、数式(4)のCを特異値分解することで数式(5)を得る。この数式(5)のΛは特異値λi(i=1,…,N)の対角行列で、左特異行列UからR個(R<N)の基底ベクトルφiを、数式(6)となるように決定する。
【0023】
第1演算部14a(
図1)は、学習モデル18aの出力(基底ベクトル31)に基づいて計測ポイントP以外の任意ポイントにおける変位又は応力の時刻歴応答24を演算する。この基底ベクトル31は、構造物6及び設置物7の運動方程式27を縮約し、時刻歴応答24を出力させる。
【0024】
図4は第1実施形態で時刻歴応答24(
図1)を演算する第1演算部14aのデータ処理を説明する数式(7)~(12)である。ここで、数式(7)は、振動解析モデル22の運動方程式27を表している。第1演算部14aでは、入力した基底ベクトル31の行列Φ(数式(1))を用いて、この数式(7)を数式(8)のように変換(縮約)する。
【0025】
ここで、Mは質量行列、R(u)は内力ベクトル、Pは外力ベクトル、M*は変換後の質量行列、R*(q)は変換後の内力ベクトル、P*は変換後の外力ベクトルとする。さらに、受信部12から受信した加速度信号9を用いて算出した地震力を外力ベクトルPとして、行列Φ(数式(1))により変換(縮約)された運動方程式(数式(8))を、直接時間積分法などを用いてqについて解く。これにより、計測ポイントP以外の任意ポイントにおける変位u又は応力の時刻歴応答24が演算される。変位uから歪が計算され、この歪から応力が計算され、損傷評価部17に送信される。
【0026】
損傷評価部17は、受信した時刻歴応答24から把握される、プラント6の任意ポイントにおける構造物6及び設置物7の加速度、変位u、歪、応力を、予めデータベースに記録されている疲労線図に照らし、累積損傷係数許容値などを導出する。そして、この導出した累積損傷係数許容値などを、予め記録されている許容値と比較して損傷を判定し、判定結果を表示部19に表示させる。
【0027】
表示部19は、プラント5の構造物6及び設置物7の名称を、例えば損傷の程度が大きい順にリストとして表示すると共に、プラント5の地図上の構造物6、設置物7のそれぞれの位置に、それらの名称と、損傷の程度の評価結果に応じて色分けされたマーカとを表示する。
【0028】
図5のフローチャートに基づいて第1実施形態に係るプラント評価方法の工程及びプラント評価プログラムのアルゴリズムを説明する(適宜、
図2,
図1参照)。津波1や地震、洪水、竜巻、火山等による飛来物2や漂流物3の衝突による衝撃8(8a,8b,8c)がプラント5に作用したとする(S11)。複数の計測ポイントP(P
1,P
2,P
3…)の各々に設けられた複数の加速度センサ11から送信される加速度信号9(9a,9b)を受信する(S12)。この加速度信号9には、各々の計測ポイントP(P
1,P
2,P
3…)における各方向の加速度の時刻歴が含まれている。
【0029】
この受信した加速度信号9に対しフーリエ変換を実行し、各々の計測ポイントP(P1,P2,P3…)における各方向の振動のスペクトル21を生成する(S13)。次に、プラント5の固有振動モード26を反映させて予め作成されている学習モデル18aを取得する(S14)。そしてこの学習モデル18aに、複数の計測ポイントP(P1,P2,P3…)のスペクトル21を入力し(S15)、基底ベクトル31を推定する。そして、この基底ベクトル31に基づいて構造物6及び設置物7の運動方程式27を縮約し、計測ポイントP以外のプラント5の任意ポイントにおける変位又は応力の時刻歴応答24を演算する(S16)。そして、この時刻歴応答24に基づいて、構造物6又は設置物7の損傷の程度を評価する(S17、END)。
【0030】
(第2実施形態)
次に
図6及び
図7を参照して本発明における第2実施形態について説明する。
図6は本発明の第2実施形態に係るプラント評価システム10bの構成を示すブロック図である。なお、
図6において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0031】
図6に示すように第2実施形態のプラント評価システム10bは、プラント5の構造物6又は設置物7に設定された複数の計測ポイントP(P
1,P
2,P
3…)の各々に設けられた複数の加速度センサ11から送信される加速度信号9を受信する受信部12と、受信した加速度信号9のスペクトル21を生成するスペクトル生成部13と、プラント5の固有振動モード26を反映させて作成した学習モデル18bを格納する格納部と、スペクトル21を入力させた学習モデル18bの出力に基づいて計測ポイントP以外の任意ポイントにおける変位又は応力の時刻歴応答24を演算する第2演算部14bと、を備えている。
【0032】
さらに、第2実施形態のプラント評価システム10bは、格納部から学習モデル18bを取得し、生成部13より入力したスペクトル21から動的モード振幅23を推定して出力させる第2推定部15bを備えている。そして、第2演算部14bは、動的モード振幅23に加え、振動解析モデル22に基づき予め計算した動的モード28及び固有値29にも基づいて、時刻歴応答24を出力させる。
【0033】
第2推定部15bは、プラント5の固有振動モード26を反映させて作成した学習モデル18bを取得し、各々の計測ポイントP(P1,P2,P3…)のスペクトル21から動的モード振幅23を推定して第2演算部14bに送信する。
【0034】
学習モデル18bは、振動解析モデル22を固有値解析部25で解析したR個の固有振動モード26とスペクトル21とを入力すると、R個の動的モード振幅αiで構成される行列を出力するように、予め機械学習したものである。学習モデル18bは、階層型のニューラルネットワークである。
【0035】
第2作成部16bでは、学習モデル18bの作成にあたり、プラント5に地震動の加速度aが作用することを想定し、振動解析モデル22でシミュレーション解析を実行する。そして、このシミュレーション解析により得られた任意の時間ステップj(j=1,…,P)における変位ujを動的モード分解し、動的モード28と固有値29を得る。そして、これら動的モード28と固有値29に対応する動的モード振幅αiを予め学習させておく。
【0036】
図7は、第2実施形態のプラント評価システム10bで学習モデル18bを作成する第2作成部16b及び時刻歴応答24を演算する第2演算部14bにおけるデータ処理を説明する数式(13)~(26)を示している。この
図7に基づいて変位u
jの動的モード分解について説明する。ここで、
図7の数式(13)(14)は、変位u
j(j=1…P)を時系列に並べて定義した行列である。
【0037】
次に数式(15)を満たすような行列Aを求めるため、Y0を数式(16)のように特異値分解する。さらに数式(16)の左側の特異行列Uを用いた線形変換により、数式(17)のように変位ujの次元を削減したFを用いてAを表すことを考える。そして、数式(15)に数式(16)と数式(17)を代入してFについて解くことで数式(18)を得る。
【0038】
数式(19)を定義し、数式(15)に数式(17)と数式(19)とを代入して、数式(20)を得る。これにより変位ujの時系列を近似することができる。さらに、数式(18)のFを固有値分解することで数式(21)を得る。ここで、Dμはμi(i=1…R)を対角項とする対角行列であり、X及びZは数式(22)(23)で表される。
【0039】
これにより、数式(20)に数式(21)と数式(19)を適用し、数式(24)が得られる。ここで、動的モード28を表すφiを数式(25)とし、動的モード振幅23を表すαiは数式(26)とした。
【0040】
第2演算部14b(
図6)は、保存されている動的モード28と固有値29と、第2推定部15bが出力する動的モード振幅23とを、数式(24)に代入し、変位u
j又は応力の時刻歴応答24を演算して出力する。
【0041】
図5のフローチャートに基づいて第2実施形態に係るプラント評価方法の工程及びプラント評価プログラムのアルゴリズムを説明する(適宜、
図2,
図6参照)。津波1や地震、洪水、竜巻、火山等による飛来物2や漂流物3の衝突による衝撃8(8a,8b,8c)がプラント5に作用したとする(S11)。複数の計測ポイントP(P
1,P
2,P
3…)の各々に設けられた複数の加速度センサ11から送信される加速度信号9を受信する(S12)。この加速度信号9(9a,9b)には、各々の計測ポイントP(P
1,P
2,P
3…)における各方向の加速度の時刻歴が含まれている。
【0042】
この受信した加速度信号9に対しフーリエ変換を実行し、各々の計測ポイントP(P1,P2,P3…)における各方向の振動のスペクトル21を生成する(S13)。次に、プラント5の固有振動モード26を反映させて予め作成されている学習モデル18bを取得する(S14)。そしてこの学習モデル18bに、複数の計測ポイントP(P1,P2,P3…)のスペクトル21を入力し(S15)、動的モード振幅23を推定する。そして、この動的モード振幅23に加え、振動解析モデル22に基づき予め計算した動的モード28及び固有値29にも基づいて、計測ポイントP以外のプラント5の任意ポイントにおける変位又は応力の時刻歴応答24を演算する(S16)。そして、この時刻歴応答24に基づいて、構造物6又は設置物7の損傷の程度を評価する(S17、END)。
【0043】
以上述べた少なくともひとつの実施形態のプラント評価システムによれば、プラント5に設けられた加速度センサ11の加速度信号9から生成したスペクトル21を、学習モデル18に入力し、任意ポイントにおける変位又は応力の時刻歴応答を出力することで、大荷重が作用したプラントの非線形応答現象を短時間で精度良く評価することができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0045】
以上説明したプラント評価システムは、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。またプラント評価システムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0046】
このようなコンピュータで実行されるプラント評価プログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。また、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…津波、2…飛来物、3…漂流物、5…プラント、6…構造物、7…設置物、8…外部衝撃、9…加速度信号、10(10a,10b)…プラント評価システム、11…加速度センサ、12…受信部、13…スペクトル生成部、14a(14)…第1演算部(演算部)、14b(14)…第2演算部(演算部)、15a(15)…第1推定部(推定部)、15b(15)…第2推定部(推定部)、16a(16)…第1作成部(作成部)、16b(16)…第2作成部(作成部)、17…損傷評価部、18(18a,18b)…学習モデル、19…表示部、20…通信網、21…スペクトル、22…振動解析モデル、23…動的モード振幅、24…時刻歴応答、25…固有値解析部、26…固有振動モード、27…運動方程式、28…動的モード、29…固有値、31…基底ベクトル。