(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240502BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240502BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/53
(21)【出願番号】P 2020553981
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2019042588
(87)【国際公開番号】W WO2020090893
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2018204092
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100156395
【氏名又は名称】荒井 寿王
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
(72)【発明者】
【氏名】奥間 惇治
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-12878(JP,A)
【文献】特開2010-284669(JP,A)
【文献】特開2006-140355(JP,A)
【文献】特開2014-120643(JP,A)
【文献】特開2006-339382(JP,A)
【文献】特開2005-19667(JP,A)
【文献】特開2016-187014(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0233410(US,A1)
【文献】特開2010-50175(JP,A)
【文献】特開2013-219076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側に機能素子層を有する対象物に対して、前記対象物の裏面から、ラインに沿ってパルスレーザ光を照射するレーザ光照射工程を備え、
前記レーザ光照射工程は、
前記ラインに沿って第1パルスレーザ光を前記機能素子層に照射し、前記ラインに沿って弱化領域を
、前記機能素子層を破断せずに前記機能素子層に形成する第1工程と、
前記ラインに沿って、前記第1パルスレーザ光に対して後行するように第2パルスレーザ光を前記対象物の内部に照射し、前記ラインに沿って
前記対象物の前記表面に達する亀裂を前記対象物に形成する第2工程と、を有し、
前記第1パルスレーザ光のパルス幅は、前記第2パルスレーザ光のパルス幅よりも短い、レーザ加工方法。
【請求項2】
前記第1パルスレーザ光のパルスピッチは、前記第2パルスレーザ光のパルスピッチよりも短い、請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記機能素子層は、保護膜、低誘電率膜及びメタル層の少なくとも何れかを含む、請求項1又は2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記第1工程において、前記第1パルスレーザ光の集光位置は、前記機能素子層に対して前記パルスレーザ光の入射側と反対側に離れた位置、前記対象物の内部の位置、又は、前記機能素子層の内部の位置である、請求項1~3の何れか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記対象物の前記表面には、保護テープ又は保護基材が貼付されている、請求項1~4の何れか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記第1工程では、前記第1パルスレーザ光を第1レーザ加工ヘッドから照射すると共に、当該第1レーザ加工ヘッドを前記ラインに沿って移動し、
前記第2工程では、前記第2パルスレーザ光を第2レーザ加工ヘッドから照射すると共に、当該第2レーザ加工ヘッドを当該第1レーザ加工ヘッドに追従するように前記ラインに沿って移動する、請求項1~5の何れか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
表面側に機能素子層を有する対象物に対して、前記対象物の裏面から、ラインに沿ってパルスレーザ光を照射するレーザ光照射工程を備え、
前記レーザ光照射工程は、
前記ラインに沿って第1パルスレーザ光を前記機能素子層に照射し、前記ラインに沿って弱化領域を
、前記機能素子層を破断せずに前記機能素子層に形成する第1工程と、
前記ラインに沿って、前記第1パルスレーザ光に対して後行するように第2パルスレーザ光を前記対象物の内部に照射する第2工程と、を有し、
前記第1パルスレーザ光のパルス幅は、前記第2パルスレーザ光のパルス幅よりも短い、レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面は、レーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工方法に関する技術として、特許文献1には、ワークを保持する保持機構と、保持機構に保持されたワークにレーザ光を照射するレーザ照射機構と、を備えるレーザ加工装置が記載されている。特許文献1に記載のレーザ加工装置では、集光レンズを有するレーザ照射機構が基台に対して固定されており、集光レンズの光軸に垂直な方向に沿ったワークの移動が保持機構によって実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した技術では、表面側に機能素子層を有する対象物を加工対象とする場合、当該対象物の表面に達する(露出する)亀裂を形成し難くなる可能性があり、対象物をラインに沿って精度よく切断することが困難になる。
【0005】
本発明の一側面は、上記実情に鑑みてなされたものであり、対象物を精度よく切断することが可能なレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るレーザ加工方法は、表面側に機能素子層を有する対象物に対して、対象物の裏面から、ラインに沿ってパルスレーザ光を照射するレーザ光照射工程を備え、レーザ光照射工程は、ラインに沿って第1パルスレーザ光を機能素子層に照射し、ラインに沿って弱化領域を機能素子層に形成する第1工程と、ラインに沿って、第1パルスレーザ光に対して後行するように第2パルスレーザ光を対象物の内部に照射し、ラインに沿って表面に達する亀裂を対象物に形成する第2工程と、を有し、第1パルスレーザ光のパルス幅は、第2パルスレーザ光のパルス幅よりも短い。
【0007】
このレーザ加工方法では、第1パルスレーザ光を機能素子層に照射することにより、機能素子層を弱化させて、機能素子層に弱化領域を形成することができる。よって、第1パルスレーザ光の照射後に第2パルスレーザ光を照射することで、当該弱化領域を利用して、対象物において機能素子層側の表面に達する亀裂(以下、「ハーフカット」ともいう)を、ラインに沿って確実に形成することができる。対象物を精度よく切断することが可能となる。
【0008】
本発明の一側面に係るレーザ加工方法では、第1パルスレーザ光のパルスピッチは、第2パルスレーザ光のパルスピッチよりも短くてもよい。この場合、第1パルスレーザ光の機能素子層への照射により、機能素子層に弱化領域を確実に形成することができる。
【0009】
本発明の一側面に係るレーザ加工方法では、機能素子層は、保護膜、低誘電率膜及びメタル層の少なくとも何れかを含んでいてもよい。この場合、機能素子層側の表面にはハーフカットを特に形成に難いことから、ハーフカットを確実に形成できる上記作用効果は特に有効である。
【0010】
本発明の一側面に係るレーザ加工方法では、第1工程において、第1パルスレーザ光の集光位置は、機能素子層に対してパルスレーザ光の入射側と反対側に離れた位置、対象物の内部の位置、又は、機能素子層の内部の位置であってもよい。この場合、第1パルスレーザ光の機能素子層への照射により、機能素子層に弱化領域を確実に形成することができる。
【0011】
本発明の一側面に係るレーザ加工方法では、対象物の表面には、保護テープ又は保護基材が貼付されていてもよい。保護テープ又は保護基材により、対象物における表面側の機能素子層を保護することができると共に、機能素子層に弱化領域を形成する際に生じ得る加工副次物が飛散することを抑制できる。
【0012】
本発明の一側面に係るレーザ加工方法では、第1工程では、第1パルスレーザ光を第1レーザ加工ヘッドから照射すると共に、当該第1レーザ加工ヘッドをラインに沿って移動し、第2工程では、第2パルスレーザ光を第2レーザ加工ヘッドから照射すると共に、当該第2レーザ加工ヘッドを当該第1レーザ加工ヘッドに追従するようにラインに沿って移動してもよい。この場合、弱化領域の形成及び当該弱化領域を利用したハーフカットの形成を、効率よく実現することが可能となる。
【0013】
本発明の一側面に係るレーザ加工方法は、表面側に機能素子層を有する対象物に対して、前記対象物の裏面から、ラインに沿ってパルスレーザ光を照射するレーザ光照射工程を備え、前記レーザ光照射工程は、前記ラインに沿って第1パルスレーザ光を前記機能素子層に照射し、前記ラインに沿って弱化領域を前記機能素子層に形成する第1工程と、前記ラインに沿って、前記第1パルスレーザ光に対して後行するように第2パルスレーザ光を前記対象物の内部に照射する第2工程と、を有し、前記第1パルスレーザ光のパルス幅は、前記第2パルスレーザ光のパルス幅よりも短い。
【0014】
このレーザ加工方法においても、第1パルスレーザ光を機能素子層に照射することにより、機能素子層を弱化させて、機能素子層に弱化領域を形成することができる。よって、第2パルスレーザ光を照射することで、当該弱化領域を利用して、ラインに沿って対象物を精度よく切断することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一側面によれば、対象物を精度よく切断することが可能なレーザ加工方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、一実施形態のレーザ加工装置の斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されるレーザ加工装置の一部分の正面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示されるレーザ加工装置のレーザ加工ヘッドの正面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示されるレーザ加工ヘッドの側面図である。
【
図5】
図5は、
図3に示されるレーザ加工ヘッドの光学系の構成図である。
【
図6】
図6(a)は、
図1に示されるレーザ加工装置により実施されるレーザ加工の例を説明するための対象物の側断面図である。
図6(b)は、
図6(a)の続きを示す対象物の側断面図である。
【
図7】
図7は、
図6(b)の続きを示す対象物の側断面図である。
【
図8】
図8(a)は、レーザ光照射工程の詳細を説明する対象物の側断面図である。
図8(b)は、
図8(a)の続きを示す対象物の側断面図である。
図8(c)は、
図8(b)の続きを示す対象物の側断面図である。
【
図9】
図9(a)は、第1レーザ光の集光位置の他の例を示す対象物の側断面図である。
図9(b)は、第1レーザ光の集光位置の更に他の例を示す対象物の側断面図である。
【
図10】
図10は、変形例のレーザ加工ヘッドの光学系の構成図である。
【
図11】
図11は、変形例のレーザ加工装置の一部分の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[レーザ加工装置の構成]
【0018】
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、実施形態に係るレーザ加工方法を実施する。レーザ加工装置1は、複数の移動機構5,6と、支持部7と、1対のレーザ加工ヘッド(第1レーザ加工ヘッド、第2レーザ加工ヘッド)10A,10Bと、光源ユニット8と、制御部9と、を備えている。以下、第1方向をX方向、第1方向に垂直な第2方向をY方向、第1方向及び第2方向に垂直な第3方向をZ方向という。本実施形態では、X方向及びY方向は水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0019】
移動機構5は、固定部51と、移動部53と、取付部55と、を有している。固定部51は、装置フレーム1aに取り付けられている。移動部53は、固定部51に設けられたレールに取り付けられており、Y方向に沿って移動することができる。取付部55は、移動部53に設けられたレールに取り付けられており、X方向に沿って移動することができる。
【0020】
移動機構6は、固定部61と、1対の移動部(第1移動部、第2移動部)63,64と、1対の取付部(第1取付部、第2取付部)65,66と、を有している。固定部61は、装置フレーム1aに取り付けられている。1対の移動部63,64のそれぞれは、固定部61に設けられたレールに取り付けられており、それぞれが独立して、Y方向に沿って移動することができる。取付部65は、移動部63に設けられたレールに取り付けられており、Z方向に沿って移動することができる。取付部66は、移動部64に設けられたレールに取り付けられており、Z方向に沿って移動することができる。つまり、装置フレーム1aに対しては、1対の取付部65,66のそれぞれが、Y方向及びZ方向のそれぞれに沿って移動することができる。
【0021】
支持部7は、移動機構5の取付部55に設けられた回転軸に取り付けられており、Z方向に平行な軸線を中心線として回転することができる。つまり、支持部7は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動することができ、Z方向に平行な軸線を中心線として回転することができる。支持部7は、対象物100を支持する。対象物100は、例えば、ウェハである。
【0022】
図1及び
図2に示されるように、レーザ加工ヘッド10Aは、移動機構6の取付部65に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Aは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光L1(「第1レーザ光L1」とも称する)を照射する。レーザ加工ヘッド10Bは、移動機構6の取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光L2(「第2レーザ光L2」とも称する)を照射する。
【0023】
光源ユニット8は、1対の光源81,82を有している。光源81は、レーザ光L1を出力する。レーザ光L1は、光源81の出射部81aから出射され、光ファイバ2によってレーザ加工ヘッド10Aに導光される。光源82は、レーザ光L2を出力する。レーザ光L2は、光源82の出射部82aから出射され、別の光ファイバ2によってレーザ加工ヘッド10Bに導光される。
【0024】
制御部9は、レーザ加工装置1の各部(複数の移動機構5,6、1対のレーザ加工ヘッド10A,10B、及び光源ユニット8等)を制御する。制御部9は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部9では、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)が、プロセッサによって実行され、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信が、プロセッサによって制御される。これにより、制御部9は、各種機能を実現する。
【0025】
以上のように構成されたレーザ加工装置1による加工の一例について説明する。当該加工の一例は、ウェハである対象物100を複数のチップに切断するために、格子状に設定された複数のラインのそれぞれに沿って対象物100の内部に改質領域を形成する例である。
【0026】
まず、対象物100を支持している支持部7がZ方向において1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bと対向するように、移動機構5が、X方向及びY方向のそれぞれに沿って支持部7を移動させる。続いて、対象物100において一方向に延在する複数のラインがX方向に沿うように、移動機構5が、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部7を回転させる。
【0027】
続いて、一方向に延在する一のライン上にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、一方向に延在する他のライン上にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。続いて、対象物100の内部にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、対象物100の内部にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。
【0028】
続いて、光源81がレーザ光L1を出力してレーザ加工ヘッド10Aが対象物100にレーザ光L1を照射すると共に、光源82がレーザ光L2を出力してレーザ加工ヘッド10Bが対象物100にレーザ光L2を照射する。それと同時に、一方向に延在する一のラインに沿ってレーザ光L1の集光点が相対的に移動し且つ一方向に延在する他のラインに沿ってレーザ光L2の集光点が相対的に移動するように、移動機構5が、X方向に沿って支持部7を移動させる。このようにして、レーザ加工装置1は、対象物100において一方向に延在する複数のラインのそれぞれに沿って、対象物100の内部に改質領域を形成する。
【0029】
続いて、対象物100において一方向と直交する他方向に延在する複数のラインがX方向に沿うように、移動機構5が、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部7を回転させる。
【0030】
続いて、他方向に延在する一のライン上にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、他方向に延在する他のライン上にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。続いて、対象物100の内部にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、対象物100の内部にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。
【0031】
続いて、光源81がレーザ光L1を出力してレーザ加工ヘッド10Aが対象物100にレーザ光L1を照射すると共に、光源82がレーザ光L2を出力してレーザ加工ヘッド10Bが対象物100にレーザ光L2を照射する。それと同時に、他方向に延在する一のラインに沿ってレーザ光L1の集光点が相対的に移動し且つ他方向に延在する他のラインに沿ってレーザ光L2の集光点が相対的に移動するように、移動機構5が、X方向に沿って支持部7を移動させる。このようにして、レーザ加工装置1は、対象物100において一方向と直交する他方向に延在する複数のラインのそれぞれに沿って、対象物100の内部に改質領域を形成する。
【0032】
なお、上述した加工の一例では、光源81は、例えばパルス発振方式によって、対象物100に対して透過性を有するレーザ光L1を出力し、光源82は、例えばパルス発振方式によって、対象物100に対して透過性を有するレーザ光L2を出力する。そのようなレーザ光が対象物100の内部に集光されると、レーザ光の集光点に対応する部分においてレーザ光が特に吸収され、対象物100の内部に改質領域が形成される。改質領域は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。
【0033】
パルス発振方式によって出力されたレーザ光が対象物100に照射され、対象物100に設定されたラインに沿ってレーザ光の集光点が相対的に移動させられると、複数の改質スポットがラインに沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポットは、1パルスのレーザ光の照射によって形成される。1列の改質領域は、1列に並んだ複数の改質スポットの集合である。隣り合う改質スポットは、対象物100に対するレーザ光の集光点の相対的な移動速度及びレーザ光の繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
[レーザ加工ヘッドの構成]
【0034】
図3及び
図4に示されるように、レーザ加工ヘッド10Aは、筐体11と、入射部12と、調整部13と、集光部14と、を備えている。
【0035】
筐体11は、第1壁部21及び第2壁部22、第3壁部23及び第4壁部24、並びに、第5壁部25及び第6壁部26を有している。第1壁部21及び第2壁部22は、X方向において互いに対向している。第3壁部23及び第4壁部24は、Y方向において互いに対向している。第5壁部25及び第6壁部26は、Z方向において互いに対向している。
【0036】
第3壁部23と第4壁部24との距離は、第1壁部21と第2壁部22との距離よりも小さい。第1壁部21と第2壁部22との距離は、第5壁部25と第6壁部26との距離よりも小さい。なお、第1壁部21と第2壁部22との距離は、第5壁部25と第6壁部26との距離と等しくてもよいし、或いは、第5壁部25と第6壁部26との距離よりも大きくてもよい。
【0037】
レーザ加工ヘッド10Aでは、第1壁部21は、移動機構6の固定部61側に位置しており、第2壁部22は、固定部61とは反対側に位置している。第3壁部23は、移動機構6の取付部65側に位置しており、第4壁部24は、取付部65とは反対側であってレーザ加工ヘッド10B側に位置している(
図2参照)。第5壁部25は、支持部7とは反対側に位置しており、第6壁部26は、支持部7側に位置している。
【0038】
筐体11は、第3壁部23が移動機構6の取付部65側に配置された状態で筐体11が取付部65に取り付けられるように、構成されている。具体的には、次のとおりである。取付部65は、ベースプレート65aと、取付プレート65bと、を有している。ベースプレート65aは、移動部63に設けられたレールに取り付けられている(
図2参照)。取付プレート65bは、ベースプレート65aにおけるレーザ加工ヘッド10B側の端部に立設されている(
図2参照)。筐体11は、第3壁部23が取付プレート65bに接触した状態で、台座27を介してボルト28が取付プレート65bに螺合されることで、取付部65に取り付けられている。台座27は、第1壁部21及び第2壁部22のそれぞれに設けられている。筐体11は、取付部65に対して着脱可能である。
【0039】
入射部12は、第5壁部25に取り付けられている。入射部12は、筐体11内にレーザ光L1を入射させる。入射部12は、X方向においては第2壁部22側(一方の壁部側)に片寄っており、Y方向においては第4壁部24側に片寄っている。つまり、X方向における入射部12と第2壁部22との距離は、X方向における入射部12と第1壁部21との距離よりも小さく、Y方向における入射部12と第4壁部24との距離は、X方向における入射部12と第3壁部23との距離よりも小さい。
【0040】
入射部12は、光ファイバ2の接続端部2aが接続可能となるように構成されている。光ファイバ2の接続端部2aには、ファイバの出射端から出射されたレーザ光L1をコリメートするコリメータレンズが設けられており、戻り光を抑制するアイソレータが設けられていない。当該アイソレータは、接続端部2aよりも光源81側であるファイバの途中に設けられている。これにより、接続端部2aの小型化、延いては、入射部12の小型化が図られている。なお、光ファイバ2の接続端部2aにアイソレータが設けられていてもよい。
【0041】
調整部13は、筐体11内に配置されている。調整部13は、入射部12から入射したレーザ光L1を調整する。調整部13が有する各構成は、筐体11内に設けられた光学ベース29に取り付けられている。光学ベース29は、筐体11内の領域を第3壁部23側の領域と第4壁部24側の領域とに仕切るように、筐体11に取り付けられている。光学ベース29は、筐体11と一体となっている。調整部13が有する各構成は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている調整部13が有する各構成の詳細については後述する。
【0042】
集光部14は、第6壁部26に配置されている。具体的には、集光部14は、第6壁部26に形成された孔26aに挿通された状態で、第6壁部26に配置されている。集光部14は、調整部13によって調整されたレーザ光L1を集光しつつ筐体11外に出射させる。集光部14は、X方向においては第2壁部22側(一方の壁部側)に片寄っており、Y方向においては第4壁部24側に片寄っている。つまり、X方向における集光部14と第2壁部22との距離は、X方向における集光部14と第1壁部21との距離よりも小さく、Y方向における集光部14と第4壁部24との距離は、X方向における集光部14と第3壁部23との距離よりも小さい。
【0043】
図5に示されるように、調整部13は、アッテネータ31と、ビームエキスパンダ32と、ミラー33と、を有している。入射部12、並びに、調整部13のアッテネータ31、ビームエキスパンダ32及びミラー33は、Z方向に沿って延在する直線(第1直線)A1上に配置されている。アッテネータ31及びビームエキスパンダ32は、直線A1上において、入射部12とミラー33との間に配置されている。アッテネータ31は、入射部12から入射したレーザ光L1の出力を調整する。ビームエキスパンダ32は、アッテネータ31で出力が調整されたレーザ光L1の径を拡大する。ミラー33は、ビームエキスパンダ32で径が拡大されたレーザ光L1を反射する。
【0044】
調整部13は、反射型空間光変調器34と、結像光学系35と、を更に有している。調整部13の反射型空間光変調器34及び結像光学系35、並びに、集光部14は、Z方向に沿って延在する直線(第2直線)A2上に配置されている。反射型空間光変調器34は、ミラー33で反射されたレーザ光L1を変調する。反射型空間光変調器34は、例えば、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。結像光学系35は、反射型空間光変調器34の反射面34aと集光部14の入射瞳面14aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。結像光学系35は、3つ以上のレンズによって構成されている。
【0045】
直線A1及び直線A2は、Y方向に垂直な平面上に位置している。直線A1は、直線A2に対して第2壁部22側(一方の壁部側)に位置している。レーザ加工ヘッド10Aでは、レーザ光L1は、入射部12から筐体11内に入射して直線A1上を進行し、ミラー33及び反射型空間光変調器34で順次に反射された後、直線A2上を進行して集光部14から筐体11外に出射する。なお、アッテネータ31及びビームエキスパンダ32の配列の順序は、逆であってもよい。また、アッテネータ31は、ミラー33と反射型空間光変調器34との間に配置されていてもよい。また、調整部13は、他の光学部品(例えば、ビームエキスパンダ32の前に配置されるステアリングミラー等)を有していてもよい。
【0046】
レーザ加工ヘッド10Aは、ダイクロイックミラー15と、測定部16と、観察部17と、駆動部18と、回路部19と、を更に備えている。
【0047】
ダイクロイックミラー15は、直線A2上において、結像光学系35と集光部14との間に配置されている。つまり、ダイクロイックミラー15は、筐体11内において、調整部13と集光部14との間に配置されている。ダイクロイックミラー15は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。ダイクロイックミラー15は、レーザ光L1を透過させる。ダイクロイックミラー15は、非点収差を抑制する観点では、例えば、キューブ型、又は、ねじれの関係を有するように配置された2枚のプレート型が好ましい。
【0048】
測定部16は、筐体11内において、調整部13に対して第1壁部21側(一方の壁部側とは反対側)に配置されている。測定部16は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。測定部16は、対象物100の表面(例えば、レーザ光L1が入射する側の表面)と集光部14との距離を測定するための測定光L10を出力し、集光部14を介して、対象物100の表面で反射された測定光L10を検出する。つまり、測定部16から出力された測定光L10は、集光部14を介して対象物100の表面に照射され、対象物100の表面で反射された測定光L10は、集光部14を介して測定部16で検出される。
【0049】
より具体的には、測定部16から出力された測定光L10は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられたビームスプリッタ20及びダイクロイックミラー15で順次に反射され、集光部14から筐体11外に出射する。対象物100の表面で反射された測定光L10は、集光部14から筐体11内に入射してダイクロイックミラー15及びビームスプリッタ20で順次に反射され、測定部16に入射し、測定部16で検出される。
【0050】
観察部17は、筐体11内において、調整部13に対して第1壁部21側(一方の壁部側とは反対側)に配置されている。観察部17は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。観察部17は、対象物100の表面(例えば、レーザ光L1が入射する側の表面)を観察するための観察光L20を出力し、集光部14を介して、対象物100の表面で反射された観察光L20を検出する。つまり、観察部17から出力された観察光L20は、集光部14を介して対象物100の表面に照射され、対象物100の表面で反射された観察光L20は、集光部14を介して観察部17で検出される。
【0051】
より具体的には、観察部17から出力された観察光L20は、ビームスプリッタ20を透過してダイクロイックミラー15で反射され、集光部14から筐体11外に出射する。対象物100の表面で反射された観察光L20は、集光部14から筐体11内に入射してダイクロイックミラー15で反射され、ビームスプリッタ20を透過して観察部17に入射し、観察部17で検出される。なお、レーザ光L1、測定光L10及び観察光L20のそれぞれの波長は、互いに異なっている(少なくともそれぞれの中心波長が互いにずれている)。
【0052】
駆動部18は、第4壁部24側において光学ベース29に取り付けられている。筐体11の第6壁部26に取り付けられている。駆動部18は、例えば圧電素子の駆動力によって、第6壁部26に配置された集光部14をZ方向に沿って移動させる。
【0053】
回路部19は、筐体11内において、光学ベース29に対して第3壁部23側に配置されている。つまり、回路部19は、筐体11内において、調整部13、測定部16及び観察部17に対して第3壁部23側に配置されている。回路部19は、例えば、複数の回路基板である。回路部19は、測定部16から出力された信号、及び反射型空間光変調器34に入力する信号を処理する。回路部19は、測定部16から出力された信号に基づいて駆動部18を制御する。一例として、回路部19は、測定部16から出力された信号に基づいて、対象物100の表面と集光部14との距離が一定に維持されるように(すなわち、対象物100の表面とレーザ光L1の集光点との距離が一定に維持されるように)、駆動部18を制御する。なお、筐体11には、回路部19を制御部9(
図1参照)等に電気的に接続するための配線が接続されるコネクタ(図示省略)が設けられている。
【0054】
レーザ加工ヘッド10Bは、レーザ加工ヘッド10Aと同様に、筐体11と、入射部12と、調整部13と、集光部14と、ダイクロイックミラー15と、測定部16と、観察部17と、駆動部18と、回路部19と、を備えている。ただし、レーザ加工ヘッド10Bの各構成は、
図2に示されるように、1対の取付部65,66間の中点を通り且つY方向に垂直な仮想平面に関して、レーザ加工ヘッド10Aの各構成と面対称の関係を有するように、配置されている。
【0055】
例えば、レーザ加工ヘッド10Aの筐体(第1筐体)11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10B側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部65に取り付けられている。これに対し、レーザ加工ヘッド10Bの筐体(第2筐体)11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10A側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部66に取り付けられている。
【0056】
レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第3壁部23が取付部66側に配置された状態で筐体11が取付部66に取り付けられるように、構成されている。具体的には、次のとおりである。取付部66は、ベースプレート66aと、取付プレート66bと、を有している。ベースプレート66aは、移動部63に設けられたレールに取り付けられている。取付プレート66bは、ベースプレート66aにおけるレーザ加工ヘッド10A側の端部に立設されている。レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第3壁部23が取付プレート66bに接触した状態で、取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、取付部66に対して着脱可能である。
【0057】
図6(a)、
図6(b)及び
図7に示されるように、本実施形態の制御部9は、第1及び第2レーザ加工ヘッド10A,10Bからの第1及び第2レーザ光L1,L2の照射、及び、第1及び第2レーザ光L1,L2の第1及び第2集光点の移動を制御する。
【0058】
制御部9は、対象物100に対して裏面100bから複数のライン105に沿ってパルスレーザ光としてのレーザ光を照射させるレーザ光照射処理を実行する。対象物100は、基板102及び機能素子層104を有する。機能素子層104は、対象物100の表面100a側に配置されている。つまり、対象物100では、基板102上に機能素子層104が設けられている。基板102における機能素子層104側と反対側の面が、対象物100の裏面100bを構成する。機能素子層104における基板102と反対側の面が、対象物100の表面100aを構成する。
【0059】
複数のライン105は、対象物100の厚さ方向から見て、機能素子層104に含まれている複数の機能素子のそれぞれの間を通っている。対象物100の厚さ方向から見て、複数の機能素子はマトリックス状に配列されており、複数のライン105は格子状に設定されている。ライン105は、仮想的なラインであるが、実際に引かれたラインであってもよい。
【0060】
レーザ光照射処理は、ライン105に沿って第1パルスレーザ光としての第1レーザ光L1を機能素子層104に照射させ、ライン105に沿って弱化領域Jを機能素子層104に形成する第1処理を有する。弱化領域Jとは、機能素子層10を弱化させた領域である。弱化させることは、脆くさせることを含む。
【0061】
弱化は、脆化を含む。機能素子層10の弱化とは、機能素子層10の少なくとも一部の領域(例えば、機能素子層10の一部分、及び、機能素子層10を構成する複数層の中の少なくとも一層等)における、第1レーザ光L1の吸収による溶融及び蒸発等の熱損傷、レーザ照射による化学結合の変化、並びに、切断又はアブレーション加工等の非熱加工の結果等を意味する。機能素子層10の弱化とは、結果として機能素子層10に曲げ応力又は引張応力等の応力をかけた場合に、非処理領域(弱化していない領域)と比較して切断又は破壊がしやすい状態になっていることをいう。弱化領域(脆化領域)Jは、レーザ照射による痕跡が生じた領域とも言え、非処理領域と比較して切断又は破壊がしやすい状態になっている領域である。なお、弱化領域Jは、機能素子層10の少なくとも一部の領域において、ライン状に連続的に形成されていてもよいし、レーザ照射のパルスピッチに応じて断続的に形成されていてもよい。
【0062】
レーザ光照射処理は、ライン105に沿って、第1処理で弱化領域Jを形成させながら、第1レーザ光L1に対して後行するように第2パルスレーザ光としての第2レーザ光L2を対象物100の内部に照射させ、ライン105に沿って表面100aに達する亀裂Cを対象物100に形成させる第2処理を有する。「第2レーザ光L2が第1レーザ光L1に対して後行する」とは、第1レーザ光L1の後に第2レーザ光L2が進行することであって、第1レーザ光L1に対して第2レーザ光L2が先行しないことである。「第2レーザ光L2が第1レーザ光L1に対して後行する」とは、ライン105における第1レーザ光L1をスキャン(走査)済みの一部または全部に沿って、第2レーザ光L2をスキャンすることである。「第2レーザ光L2が第1レーザ光L1に対して後行する」ことでは、第1レーザ光L1の後に第2レーザ光L2が進行すれば、第1及び第2レーザ光L1,L2が照射される各タイミングは重畳していてもよいし、重畳せずに別であってもよい。
【0063】
制御部9は、レーザ光照射処理において、第1レーザ光L1のパルス幅を第2レーザ光L2のパルス幅よりも短くさせる。制御部9は、レーザ光照射処理において、第1レーザ光L1のパルスピッチを第2レーザ光L2のパルスピッチよりも短くさせる。制御部9は、第1処理において、第1レーザ光L1の集光位置を、機能素子層104に対してレーザ光入射側と反対側に離れた位置、対象物100の基板102の内部の位置、又は、機能素子層104の内部の位置とさせる。
【0064】
制御部9は、第1処理において、第1レーザ光L1を第1レーザ加工ヘッド10Aから照射させると共に、当該第1レーザ加工ヘッド10Aをライン105に沿って移動させる。制御部9は、第2処理において、第2レーザ光L2を第2レーザ加工ヘッド10Bから照射させると共に、当該第2レーザ加工ヘッド10Bを当該第1レーザ加工ヘッド10Aに追従するようにライン105に沿って移動させる。
[レーザ加工方法]
【0065】
レーザ加工装置1により実施されるレーザ加工(レーザ加工方法)の例について、以下に説明する。
【0066】
図6(a)に示されるように、対象物100の表面100aに、保護テープTPを貼付する。なお、保護テープTPに代えて保護基材を表面100aに取り付けてもよい。この対象物100を、その裏面100bが上方に位置する状態として支持部7(
図1参照)上に載置する。続いて、対象物100に対して裏面100bから、ライン105に沿って第1及び第2レーザ光L1,L2を照射する(レーザ光照射工程)。
【0067】
図6(b)に示されるように、レーザ光照射工程では、ライン105に沿って、第1レーザ光L1を第1レーザ加工ヘッド10Aから機能素子層104に照射する。これと共に、当該第1レーザ加工ヘッド10Aを、ライン105に沿ってY方向に移動する。これにより、ライン105に沿って弱化領域Jを機能素子層104に形成する(第1工程)。
【0068】
また、
図7に示されるように、レーザ光照射工程では、ライン105に沿って、第1レーザ光L1を第1レーザ加工ヘッド10Aから機能素子層104に照射すると同時並列的に、第2レーザ光L2を第2レーザ加工ヘッド10Bから照射する。これと共に、当該第2レーザ加工ヘッド10Bを、当該第1レーザ加工ヘッド10Aに追従するようにライン105に沿ってY方向に移動する。つまり、ライン105に沿って、第1工程で弱化領域Jを形成しながら、第1レーザ光L1に対して後行するように対象物100の内部に第2レーザ光L1を照射する。これにより、ライン105に沿って、表面100aに達する亀裂Cを対象物100に形成する(第2工程)。
図7に示される例では、亀裂Cは、紙面と平行な方向に沿って延びており、半透明で塗りつぶした範囲に存在している。
【0069】
レーザ光照射工程では、第1工程での第1レーザ光L1のパルス幅は、第2工程での第2レーザ光L2のパルス幅よりも短い。レーザ光照射工程では、第1工程での第1レーザ光L1のパルスピッチは、第2工程での第2レーザ光L2のパルスピッチよりも短い。
【0070】
次に、上述したレーザ光照射工程について、
図8及び
図9を用いて詳説する。
【0071】
図8(a)に示される対象物100は、シリコンウェハである基板102と、基板102上に設けられた積層構造の機能素子層104と、を有する。機能素子層104は、保護膜104a、低誘電率膜104b及びメタル層104cを含む。保護膜104aは、例えばSiO
2(二酸化ケイ素)膜である。低誘電率膜104bは、Low-k材料により形成された膜である。メタル層104cは、TEG(Test Element Group)又は金属配線を含む層である。図示する例では、機能素子層104は、表面100aから裏面100bに向かう順に、保護膜104a、メタル層104c、保護膜104a、メタル層104c、低誘電率膜104b及び保護膜104aを有する。対象物100の表面100aには、保護テープTPが貼付されている。
【0072】
レーザ光照射工程では、複数のライン105のそれぞれに沿って、第1及び第2レーザ光L1,L2を照射し、機能素子層104に含まれる各機能素子ごとに対象物100を切断する。具体的には、まず、
図8(b)に示されるように、表面100aに保護テープが貼付されている状態で、第1レーザ光L1の集光点を機能素子層104の内部に合わせて、裏面100bから第1レーザ光L1を当該対象物100に照射する。つまり、裏面100bをレーザ光入射面として対象物100に第1レーザ光L1を入射し、このときの第1レーザ光L1の集光位置を機能素子層104の内部の位置とする。第1レーザ光L1の波長は、例えば1064nm~1550nmである。第1レーザ光L1は、超短パルスであって、第1レーザ光L1のパルス幅は、例えば100fsec~20psecである。第1レーザ光L1のパルスピッチは、0.1μm~3μmである。
【0073】
なお、対象物100(機能素子層104)に熱が一定以上残っている間に、更なる第1レーザ光L1のパルスを照射することで、効率よく機能素子層104を弱化させることができる。例えば第1レーザ光L1をハースト発振の形式(パルスを一定数ないし一定期間連続して発振すること、バーストパルスとも称される)で照射することで、効率よく機能素子層104を弱化させることができる。第1レーザ光L1のバーストパルスの一例としては、パルス幅が20psecの5パルスを、3μmのパルスピッチで照射することが挙げられる。
【0074】
第1レーザ光L1を照射しつつ、ライン105に沿って、第1レーザ光L1(第1レーザ加工ヘッド10A)を移動する。これにより、当該ライン105に沿って、弱化領域Jを機能素子層104に形成する。本実施形態では、第1レーザ光L1は保護膜104aよりも低誘電率膜104b及びメタル層104cに吸収されやすいことから、低誘電率膜104b及びメタル層104cを弱化し、低誘電率膜104b及びメタル層104cに弱化領域Jを形成する(第1工程)。
【0075】
続いて、弱化領域Jを形成しながら、
図8(c)に示されるように、第2レーザ光L2の集光点を基板102の内部に合わせて、裏面100bから第2レーザ光L1を当該対象物100に照射する。第2レーザ光L2の波長は、例えば1064nm~1550nmである。第2レーザ光L2のパルス幅は、例えば150nsec~1000nsecである。第2レーザ光L2のパルスピッチは、3.75μm~10μmである。
【0076】
第2レーザ光L2を照射しつつ、ライン105に沿って、第2レーザ光L2(第2レーザ加工ヘッド10B)を第1レーザ光L1に対して後行するように移動する。これにより、ライン105に沿って、基板102の内部に改質領域(不図示)を形成すると共に当該改質領域から亀裂Cを発生させる。
【0077】
ここで、第2レーザ光L2の照射によれば、保護膜104aでは亀裂Cが進展しやすい一方で、低誘電率膜104b及びメタル層104cでは、密着性等の影響で亀裂Cが進展し難い場合もある。この点、本実施形態では、当該低誘電率膜104b及びメタル層104cは弱化されて弱化領域Jを含んでおり、この弱化領域Jでは、第2レーザ光L2の照射で亀裂Cが進展しやすい。よって、亀裂Cは、保護膜104aと弱化領域Jを含む低誘電率膜104b及びメタル層104cとを進み、表面100aに達することとなる(第2工程)。
【0078】
なお、本実施形態では、弱化領域Jを形成する際、第1レーザ光L1の集光位置を機能素子層104の内部の位置としているが、これに限定されない。第1レーザ光L1の当該集光位置は、対象物100の内部の位置であればよい。或いは、
図9(a)に示されるように、第1レーザ光L1の当該集光位置は、機能素子層104に対して第1レーザ光L1の入射側と反対側に離れた位置(機能素子層104よりも深い位置,対象物100外であって機能素子層104及び保護テープTPを越えた位置)であってもよい。或いは、
図9(b)に示されるように、第1レーザ光L1の当該集光位置は、基板102の内部の位置であってもよい。
[作用及び効果]
【0079】
以上、レーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、第1レーザ光L1を機能素子層104に照射することにより、機能素子層104を弱化させて、機能素子層104に弱化領域Jを形成することができる。よって、第1レーザ光L1の照射後に第2レーザ光L2を照射することで、当該弱化領域Jを利用して、対象物100において機能素子層104側の表面100aに達する亀裂Cであるハーフカットを、ライン105に沿って確実に形成することができる。対象物100を精度よく切断することが可能となる。
【0080】
レーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、第1レーザ光L1のパルスピッチは、第2レーザ光L2のパルスピッチよりも短い。この場合、第1レーザ光L1の機能素子層104への照射により、機能素子層104に弱化領域Jを確実に形成することができる。
【0081】
レーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、機能素子層104は、保護膜104a、低誘電率膜104b及びメタル層104cを含む。この場合、機能素子層104側の表面100aにはハーフカットを特に形成に難いことから、ハーフカットを確実に形成できる上記作用効果は特に有効である。
【0082】
レーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、第1レーザ光L1の集光位置は、機能素子層104の内部の位置である。この場合、第1レーザ光L1の機能素子層104への照射により、機能素子層104に弱化領域Jを確実に形成することができる。
【0083】
レーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、対象物100の表面100aには、保護テープTPが貼付されている。保護テープTPにより、対象物100における表面100a側の機能素子層104を保護することができると共に、機能素子層104に弱化領域Jを形成する際に生じ得る加工副次物が飛散することを抑制できる。
【0084】
レーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、第1レーザ光L1を第1レーザ加工ヘッド10Aから照射すると共に、当該第1レーザ加工ヘッド10Aをライン105に沿って移動する。また、第2レーザ光L2を第2レーザ加工ヘッド10Bから照射すると共に、当該第2レーザ加工ヘッド10Bを当該第1レーザ加工ヘッド10Aに追従するようにライン105に沿って移動する。この場合、弱化領域Jの形成及び当該弱化領域Jを利用したハーフカットの形成を、効率よく実現することが可能となる。
【0085】
レーザ加工装置1及びレーザ加工方法は、第1レーザ光L1を機能素子層104に照射することにより、機能素子層104を弱化させて、機能素子層104に弱化領域Jを形成することができる。よって、第2レーザ光L2を照射することで、当該弱化領域Jを利用して、例えば表面100aに達するハーフカットがライン105に沿って形成されていなくても、ライン105に沿って対象物100を精度よく切断することが可能となる。
【0086】
また、本実施形態では、以下の作用及び効果も奏する。
【0087】
レーザ加工ヘッド10Aでは、レーザ光L1を出力する光源が筐体11内に設けられていないため、筐体11の小型化を図ることができる。更に、筐体11において、第3壁部23と第4壁部24との距離が第1壁部21と第2壁部22との距離よりも小さく、第6壁部26に配置された集光部14がY方向において第4壁部24側に片寄っている。これにより、集光部14の光軸に垂直な方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、第4壁部24側に他の構成(例えば、レーザ加工ヘッド10B)が存在したとしても、当該他の構成に集光部14を近付けることができる。よって、レーザ加工ヘッド10Aは、集光部14をその光軸に垂直な方向に沿って移動させるのに好適である。
【0088】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、入射部12が、第5壁部25に設けられており、Y方向において第4壁部24側に片寄っている。これにより、筐体11内の領域のうち調整部13に対して第3壁部23側の領域に他の構成(例えば、回路部19)を配置する等、当該領域を有効に利用することができる。
【0089】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、集光部14が、X方向において第2壁部22側に片寄っている。これにより、集光部14の光軸に垂直な方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、第2壁部22側に他の構成が存在したとしても、当該他の構成に集光部14を近付けることができる。
【0090】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、入射部12が、第5壁部25に設けられており、X方向において第2壁部22側に片寄っている。これにより、筐体11内の領域のうち調整部13に対して第1壁部21側の領域に他の構成(例えば、測定部16及び観察部17)を配置する等、当該領域を有効に利用することができる。
【0091】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、測定部16及び観察部17が、筐体11内の領域のうち調整部13に対して第1壁部21側の領域に配置されており、回路部19が、筐体11内の領域のうち調整部13に対して第3壁部23側に配置されており、ダイクロイックミラー15が、筐体11内において調整部13と集光部14との間に配置されている。これにより、筐体11内の領域を有効に利用することができる。更に、レーザ加工装置1において、対象物100の表面と集光部14との距離の測定結果に基づいた加工が可能となる。また、レーザ加工装置1において、対象物100の表面の観察結果に基づいた加工が可能となる。
【0092】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、回路部19が、測定部16から出力された信号に基づいて駆動部18を制御する。これにより、対象物100の表面と集光部14との距離の測定結果に基づいてレーザ光L1の集光点の位置を調整することができる。
【0093】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、入射部12、並びに、調整部13のアッテネータ31、ビームエキスパンダ32及びミラー33が、Z方向に沿って延在する直線A1上に配置されており、調整部13の反射型空間光変調器34、結像光学系35及び集光部14、並びに、集光部14が、Z方向に沿って延在する直線A2上に配置されている。これにより、アッテネータ31、ビームエキスパンダ32、反射型空間光変調器34及び結像光学系35を有する調整部13をコンパクトに構成することができる。
【0094】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、直線A1が、直線A2に対して第2壁部22側に位置している。これにより、筐体11内の領域のうち調整部13に対して第1壁部21側の領域において、集光部14を用いた他の光学系(例えば、測定部16及び観察部17)を構成する場合に、当該他の光学系の構成の自由度を向上させることができる。
【0095】
以上の作用及び効果は、レーザ加工ヘッド10Bによっても同様に奏される。
【0096】
また、レーザ加工装置1では、レーザ加工ヘッド10Aの集光部14が、レーザ加工ヘッド10Aの筐体11においてレーザ加工ヘッド10B側に片寄っており、レーザ加工ヘッド10Bの集光部14が、レーザ加工ヘッド10Bの筐体11においてレーザ加工ヘッド10A側に片寄っている。これにより、1対のレーザ加工ヘッド10A,10BのそれぞれをY方向に沿って移動させる場合に、レーザ加工ヘッド10Aの集光部14とレーザ加工ヘッド10Bの集光部14とを互いに近付けることができる。よって、レーザ加工装置1によれば、対象物100を効率良く加工することができる。
【0097】
また、レーザ加工装置1では、1対の取付部65,66のそれぞれが、Y方向及びZ方向のそれぞれに沿って移動する。これにより、対象物100をより効率良く加工することができる。
【0098】
また、レーザ加工装置1では、支持部7が、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動し、Z方向に平行な軸線を中心線として回転する。これにより、対象物100をより効率良く加工することができる。
[変形例]
【0099】
本発明の一態様は、上述した実施形態に限定されない。例えば、
図10に示されるように、入射部12、調整部13及び集光部14は、Z方向に沿って延在する直線A上に配置されていてもよい。これによれば、調整部13をコンパクトに構成することができる。その場合、調整部13は、反射型空間光変調器34及び結像光学系35を有していなくてもよい。また、調整部13は、アッテネータ31及びビームエキスパンダ32を有していてもよい。これによれば、アッテネータ31及びビームエキスパンダ32を有する調整部13をコンパクトに構成することができる。なお、アッテネータ31及びビームエキスパンダ32の配列の順序は、逆であってもよい。
【0100】
また、筐体11は、第1壁部21、第2壁部22、第3壁部23及び第5壁部25の少なくとも1つがレーザ加工装置1の取付部65(又は取付部66)側に配置された状態で筐体11が取付部65(又は取付部66)に取り付けられるように、構成されていればよい。また、集光部14は、少なくともY方向において第4壁部24側に片寄っていればよい。これらによれば、Y方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、第4壁部24側に他の構成が存在したとしても、当該他の構成に集光部14を近付けることができる。また、Z方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、対象物100に集光部14を近付けることができる。
【0101】
また、集光部14は、X方向において第1壁部21側に片寄っていてもよい。これによれば、集光部14の光軸に垂直な方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、第1壁部21側に他の構成が存在したとしても、当該他の構成に集光部14を近付けることができる。その場合、入射部12は、X方向において第1壁部21側に片寄っていてもよい。これによれば、筐体11内の領域のうち調整部13に対して第2壁部22側の領域に他の構成(例えば、測定部16及び観察部17)を配置する等、当該領域を有効に利用することができる。
【0102】
また、光源ユニット8の出射部81aからレーザ加工ヘッド10Aの入射部12へのレーザ光L1の導光、及び光源ユニット8の出射部82aからレーザ加工ヘッド10Bの入射部12へのレーザ光L2の導光の少なくとも1つは、ミラーによって実施されてもよい。
図11は、レーザ光L1がミラーによって導光されるレーザ加工装置1の一部分の正面図である。
図11に示される構成では、レーザ光L1を反射するミラー3が、Y方向において光源ユニット8の出射部81aと対向し且つZ方向においてレーザ加工ヘッド10Aの入射部12と対向するように、移動機構6の移動部63に取り付けられている。
【0103】
図11に示される構成では、移動機構6の移動部63をY方向に沿って移動させても、Y方向においてミラー3が光源ユニット8の出射部81aと対向する状態が維持される。また、移動機構6の取付部65をZ方向に沿って移動させても、Z方向においてミラー3がレーザ加工ヘッド10Aの入射部12と対向する状態が維持される。したがって、レーザ加工ヘッド10Aの位置によらず、光源ユニット8の出射部81aから出射されたレーザ光L1を、レーザ加工ヘッド10Aの入射部12に確実に入射させることができる。しかも、レーザ光L1を導光する光ファイバ2を用いる必要がないため、レーザ光L1の波長によらず、光源ユニット8の出射部81aから出射されたレーザ光L1を、レーザ加工ヘッド10Aの入射部12に確実に入射させることができる。光ファイバ2による導光が困難な高出力長短パルスレーザ等の光源を利用することもできる。
【0104】
また、
図11に示される構成では、ミラー3は、角度調整及び位置調整の少なくとも1つが可能となるように、移動機構6の移動部63に取り付けられていてもよい。これによれば、光源ユニット8の出射部81aから出射されたレーザ光L1を、レーザ加工ヘッド10Aの入射部12に、より確実に入射させることができる。
【0105】
また、光源ユニット8は、1つの光源を有するものであってもよい。その場合、光源ユニット8は、1つの光源から出力されたレーザ光の一部を出射部81aから出射させ且つ当該レーザ光の残部を出射部82bから出射させるように、構成されていればよい。
【0106】
また、レーザ加工装置1は、1つのレーザ加工ヘッド10Aを備えていてもよい。1つのレーザ加工ヘッド10Aを備えるレーザ加工装置1でも、集光部14の光軸に垂直なY方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、第4壁部24側に他の構成が存在したとしても、当該他の構成に集光部14を近付けることができる。よって、1つのレーザ加工ヘッド10Aを備えるレーザ加工装置1によっても、対象物100を効率良く加工することができる。また、1つのレーザ加工ヘッド10Aを備えるレーザ加工装置1において、取付部65がZ方向に沿って移動すれば、対象物100をより効率良く加工することができる。また、1つのレーザ加工ヘッド10Aを備えるレーザ加工装置1において、支持部7が、X方向に沿って移動し、Z方向に平行な軸線を中心線として回転すれば、対象物100をより効率良く加工することができる。
【0107】
また、レーザ加工装置1は、3つ以上のレーザ加工ヘッドを備えていてもよい。
図12は、2対のレーザ加工ヘッドを備えるレーザ加工装置1の斜視図である。
図12に示されるレーザ加工装置1は、複数の移動機構200,300,400と、支持部7と、1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bと、1対のレーザ加工ヘッド10C,10Dと、光源ユニット(図示省略)と、を備えている。
【0108】
移動機構200は、X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれの方向に沿って支持部7を移動させ、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部7を回転させる。
【0109】
移動機構300は、固定部301と、1対の取付部(第1取付部、第2取付部)305,306と、を有している。固定部301は、装置フレーム(図示省略)に取り付けられている。1対の取付部305,306のそれぞれは、固定部301に設けられたレールに取り付けられており、それぞれが独立して、Y方向に沿って移動することができる。
【0110】
移動機構400は、固定部401と、1対の取付部(第1取付部、第2取付部)405,406と、を有している。固定部401は、装置フレーム(図示省略)に取り付けられている。1対の取付部405,406のそれぞれは、固定部401に設けられたレールに取り付けられており、それぞれが独立して、X方向に沿って移動することができる。なお、固定部401のレールは、固定部301のレールと立体的に交差するように配置されている。
【0111】
レーザ加工ヘッド10Aは、移動機構300の取付部305に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Aは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光を照射する。レーザ加工ヘッド10Aから出射されるレーザ光は、光源ユニット(図示省略)から光ファイバ2によって導光される。レーザ加工ヘッド10Bは、移動機構300の取付部306に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光を照射する。レーザ加工ヘッド10Bから出射されるレーザ光は、光源ユニット(図示省略)から光ファイバ2によって導光される。
【0112】
レーザ加工ヘッド10Cは、移動機構400の取付部405に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Cは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光を照射する。レーザ加工ヘッド10Cから出射されるレーザ光は、光源ユニット(図示省略)から光ファイバ2によって導光される。レーザ加工ヘッド10Dは、移動機構400の取付部406に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Dは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100にレーザ光を照射する。レーザ加工ヘッド10Dから出射されるレーザ光は、光源ユニット(図示省略)から光ファイバ2によって導光される。
【0113】
図12に示されるレーザ加工装置1における1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bの構成は、
図1に示されるレーザ加工装置1における1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bの構成と同様である。
図12に示されるレーザ加工装置1における1対のレーザ加工ヘッド10C,10Dの構成は、
図1に示されるレーザ加工装置1における1対のレーザ加工ヘッド10A,10BをZ方向に平行な軸線を中心線として90度回転した場合の1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bの構成と同様である。
【0114】
例えば、レーザ加工ヘッド10Cの筐体(第1筐体)11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10D側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部65に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Cの集光部14は、Y方向において第4壁部24側(すなわち、レーザ加工ヘッド10D側)に片寄っている。
【0115】
レーザ加工ヘッド10Dの筐体(第2筐体)11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10C側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Dの集光部14は、Y方向において第4壁部24側(すなわち、レーザ加工ヘッド10C側)に片寄っている。
【0116】
以上により、
図12に示されるレーザ加工装置1では、1対のレーザ加工ヘッド10A,10BのそれぞれをY方向に沿って移動させる場合に、レーザ加工ヘッド10Aの集光部14とレーザ加工ヘッド10Bの集光部14とを互いに近付けることができる。また、1対のレーザ加工ヘッド10C,10DのそれぞれをX方向に沿って移動させる場合に、レーザ加工ヘッド10Cの集光部14とレーザ加工ヘッド10Dの集光部14とを互いに近付けることができる。
【0117】
また、本発明の一態様に係るレーザ加工ヘッド及びレーザ加工装置は、対象物100の内部に改質領域を形成するためのものに限定されず、他のレーザ加工を実施するためのものであってもよい。
【0118】
上述した実施形態において、第2工程では、第1工程で弱化領域Jを形成しながら、ライン105に沿って第1レーザ光L1に対して後行するように第2レーザ光L2を対象物100の内部に照射したが、これに限定されない。第2工程では、第1工程での弱化領域Jの形成完了後(つまり、弱化領域Jを形成したタイミング後であって、当該タイミングとは重畳しない別タイミングで)、ライン105に沿って第1レーザ光L1に対して後行するように第2レーザ光L2を対象物100の内部に照射してもよい。
【0119】
上述した実施形態では、レーザ加工装置1が第1及び第2レーザ加工ヘッド10A,10Bを備えているが、第1及び第2レーザ加工ヘッド10A,10Bのうち何れか一方のみを備えていてもよい。この場合、第1及び第2レーザ加工ヘッド10A,10Bのうち何れか一方が、第1及び第2レーザ光L1,L2を照射する。上述した実施形態において、機能素子層104は、保護膜104a、低誘電率膜104b及びメタル層104cの少なくとも何れかを含んでいてもよい。
なお、上述した実施形態では、1つのレーザ加工ヘッドを備え、当該1つのレーザ加工ヘッドから複数のレーザ光を照射する構成を採用してもよい。この場合、複数のレーザ光を同時照射してもよいし、多段階で照射してもよい。また、上述した実施形態では、1つのレーザ加工ヘッドを備え、当該1つのレーザ加工ヘッドから1つのレーザ光を照射する構成を採用してもよい。この場合、レーザ光を多段階で照射してもよい。
【0120】
本発明は、レーザ加工装置、改質領域形成装置又はチップの製造装置として捉えるとこともできる。また、本発明は、加工方法、レーザ加工方法、改質領域形成方法又はチップの製造方法として捉えることもできる。上記実施形態及び上記変形例それぞれにおいては、他の上記実施形態及び上記変形例それぞれの構成のうちの少なくとも一部を適宜組み合わせてもよい。
【0121】
上述した実施形態において、第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2は、擬似連続発振(擬似CW)されたレーザ光であってもよい。擬似連続発振とは、ピークを持つパルスが、非常に高い繰返し周波数で発振する発振モードのことである。
【符号の説明】
【0122】
10A…第1レーザ加工ヘッド、10B…第2レーザ加工ヘッド、100…対象物、100a…表面、100b…裏面、104…機能素子層、104a…保護膜、104b…低誘電率膜、104c…メタル層、105…ライン、C…亀裂、J…弱化領域、L1…第1レーザ光(パルスレーザ光,第1パルスレーザ光)、L2…第2レーザ光(パルスレーザ光,第2パルスレーザ光)、TP…保護テープ。