(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】回転電機システム
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20240502BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240502BHJP
【FI】
H02P27/06
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2021014514
(22)【出願日】2021-02-01
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 真人
(72)【発明者】
【氏名】塩見 和敏
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-219691(JP,A)
【文献】特開2013-038844(JP,A)
【文献】特開2013-021837(JP,A)
【文献】特開2016-220525(JP,A)
【文献】特開2011-166878(JP,A)
【文献】特開2003-339170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機(10)と、
前記回転電機に電気的に接続されたインバータ(20)と、を備える回転電機システム(100)であって、
前記インバータから前記回転電機に入力される入力電圧をオフ電圧からオン電圧に立ち上げる動作、又は前記オン電圧から前記オフ電圧に立ち下げる動作を実施するように前記インバータを制御する制御部(50)を備え、
前記入力電圧を前記オフ電圧から前記オン電圧に立ちあげた後、前記入力電圧を前記オン電圧から前記オフ電圧に立ち下げた場合における前記入力電圧の波形に基づいて得られた前記入力電圧の周波数特性において、前記入力電圧の周波数が0の場合における振幅ゲインが1であり、
前記周波数特性において、基準周波数(fa)よりも高周波側
となる場合の振幅ゲインが1よりも小さくなっており、
前記周波数特性において、前記基準周波数よりも高周波側となる場合の前記振幅ゲインが、前記基準周波数以下となる場合の前記振幅ゲインよりも小さくなっており、
前記回転電機の共振周波数(fk)は、前記基準周波数よりも高い回転電機システム。
【請求項2】
前記立ち上げる動作又は前記立ち下げる動作が実施されることにより、前記オン電圧及び前記オフ電圧のうち一方から他方へと前記入力電圧が変化するのに要する遅延時間(td)と負の相関を有する変曲周波数(fb)は、
前記周波数特性において前記基準周波数よりも高く、
前記共振周波数は、前記変曲周波数よりも高い請求項1に記載の回転電機システム。
【請求項3】
前記立ち上げる動作又は前記立ち下げる動作が実施されることにより、前記オン電圧及び前記オフ電圧のうち一方から他方へと前記入力電圧が変化するのに要する遅延時間(td)と負の相関を有する変曲周波数(fb)は、
前記周波数特性において前記基準周波数よりも高く、
前記共振周波数は、前記変曲周波数よりも低い請求項1に記載の回転電機システム。
【請求項4】
前記遅延時間をtdとした場合に、前記変曲周波数は、1/(π×td)と表される周波数である請求項2又は3に記載の回転電機システム。
【請求項5】
前記立ち上げる動作又は前記立ち下げる動作に伴い発生する前記入力電圧のリンギング周波数(fr)は、
前記周波数特性において前記基準周波数よりも高く、
前記共振周波数は、前記リンギング周波数と異なる請求項1から4までのいずれか一項に記載の回転電機システム。
【請求項6】
前記共振周波数は、前記リンギング周波数よりも高い請求項5に記載の回転電機システム。
【請求項7】
前記共振周波数は、前記リンギング周波数よりも低い請求項5に記載の回転電機システム。
【請求項8】
前記基準周波数は、前記立ち上げる動作の開始タイミングから前記立ち下げる動作の開始タイミングまでの期間であるオン期間(ton)と負の相関を有し、
前記オン期間をtonとした場合に、前記基準周波数は、1/(π×ton)と表される周波数である請求項1から7までのいずれか一項に記載の回転電機システム。
【請求項9】
前記回転電機は、複数相に対応する電機子巻線(11U,11V,11W)を有し、
各相における前記電機子巻線の一端は、対応する入力端子(12U,12V,12W,21U,21V,21W)を介して前記インバータにそれぞれ接続されており、
各相の前記入力端子のうち、いずれか2つの前記入力端子の間のインピーダンスの周波数特性において、前記共振周波数は、前記インピーダンスが最小値となる周波数である請求項1から8までのいずれか一項に記載の回転電機システム。
【請求項10】
前記回転電機は、複数相に対応する電機子巻線(11U,11V,11W)を有し、
各相における前記電機子巻線の一端は、対応する入力端子(12U,12V,12W,21U,21V,21W)を介して前記インバータにそれぞれ接続されており、
各相の前記入力端子のうち、いずれか2の前記入力端子にそれぞれ入力される前記入力電圧の電圧差の大きさを入力とし、各相の前記電機子巻線のうち、いずれか2つの前記電機子巻線間の電圧差の大きさを出力とする伝達関数において、前記共振周波数は、前記伝達関数の振幅が最大値となる周波数である請求項1から8までのいずれか一項に記載の回転電機システム。
【請求項11】
前記回転電機は、複数相に対応する電機子巻線(11U,11V,11W)を有し、
各相における前記電機子巻線の第1端は、対応する入力端子(12U,12V,12W,21U,21V,21W)を介して前記インバータにそれぞれ接続されており、
各相における前記電機子巻線の第2端は、互いに接続されており、
各相の前記入力端子のうち、いずれか2つの前記入力端子に入力される前記入力電圧の電圧差の大きさを入力とし、各相の前記電機子巻線のうち、特定相の電機子巻線の両端間の電圧差の大きさを出力とする伝達関数において、前記共振周波数は、前記伝達関数の振幅が最大値となる周波数である請求項1から8までのいずれか一項に記載の回転電機システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機と、回転電機に電気的に接続されたインバータと、を備える回転電機システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の回転電機システムでは、インバータから回転電機に入力電圧を入力して回転電機の駆動制御を行うために、インバータを構成するスイッチの駆動状態が切り替えられ、入力電圧がオン電圧とオフ電圧とで切り替えられる。オン電圧は、インバータに電源電圧を供給する直流電源の正極側電圧に対応した値であり、オフ電圧は直流電源の負極側電圧に対応した値である。ここで、スイッチの駆動状態の切り替えに伴ってサージ電圧が発生する。
【0003】
サージ電圧を抑制するための制御装置として、特許文献1には、回転電機とインバータとを接続する配線の寄生インダクタンスと、インバータの対地容量との少なくとも一方を調整するものが開示されている。詳しくは、制御装置は、上記寄生インダクタンスと上記対地容量とによって構成される共振回路の共振周波数が、該共振回路の周波数特性において振幅ゲインが1以上となる周波数範囲よりも高い周波数となるように調整する。これにより、新たな部品を追加することなくサージ電圧の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、例えば回転電機とインバータとが一体となった回転電機システムでは、配線長等の制約を受けることから寄生インダクタンスの調整が難しい。また、対地容量の調整では、インバータの周辺部材の配置等含めて調整する必要があり、対地容量の調整が難しい。新たな部品を追加することなくサージ電圧を抑制できる技術が望まれている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、新たな部品を追加することなくサージ電圧を抑制できる回転電機システムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、回転電機と、前記回転電機に電気的に接続されたインバータと、を備える回転電機システムであって、前記インバータから前記回転電機に入力される入力電圧をオフ電圧からオン電圧に立ち上げる動作、又は前記オン電圧から前記オフ電圧に立ち下げる動作を実施するように前記インバータを制御する制御部を備え、前記立ち上げる動作及び前記立ち下げる動作に伴い変化する前記入力電圧の周波数特性において、基準周波数よりも高周波側で振幅ゲインが1よりも小さくなっており、前記回転電機の共振周波数は、前記基準周波数よりも高い。
【0008】
回転電機とインバータとを備える回転電機システムでは、インバータから回転電機に入力される入力電圧が、立ち上げる動作又は立ち下げる動作に伴い変化する。これにより、基準周波数よりも高周波側では、入力電圧の周波数特性における振幅ゲインが1よりも小さくなっている。
【0009】
上記構成では、回転電機の共振周波数は、基準周波数よりも高い周波数に設定されている。そのため、共振周波数における入力電圧の振幅ゲインを1よりも小さくすることができ、サージ電圧を抑制することができる。基準周波数は、インバータにおける立ち上げる動作及び立ち下げる動作により定まる周波数であるため、共振周波数を基準周波数よりも高い周波数に設定するために、新たな部品を追加する必要がない。これにより、新たな部品を追加することなくサージ電圧を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】理想波形における入力電圧の周波数特性を示す図。
【
図4】リンギングを含む入力電圧の周波数特性を示す図。
【
図6】第1実施形態における回転電機の伝達関数の算出方法を示す図。
【
図7】第1実施形態の変形例1における第1周波数、第2周波数、リンギング周波数、及び共振周波数の関係を示す図。
【
図8】第1実施形態の変形例2における回転電機の伝達関数の算出方法を示す図。
【
図10】スイッチング速度による第2周波数の変化の態様を示す図。
【
図11】スイッチング速度によるリンギング周波数の変化の態様を示す図。
【
図12】その他の実施形態における回転電機を示す図。
【
図13】その他の実施形態における回転電機を示す図。
【
図14】回転電機における巻線の並列数と共振周波数との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る回転電機システムを具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1に示すように、回転電機システム100は、回転電機10及びインバータ20を備えている。本実施形態において、回転電機10は、ブラシレスの同期機であり、例えば永久磁石同期機である。回転電機10は、3相の電機子巻線であるU,V,W相巻線11U,11V,11Wを備えている。
【0013】
各相の巻線11U,11V,11Wは、導線が巻回されることにより構成された複数の単位巻線13が直列接続されて構成されている。各相における各単位巻線13は、例えば、回転電機10を構成するステータコアに、周方向に並んで配置されている。
【0014】
回転電機10は、インバータ20を介して直流電源としてのバッテリ30に接続されている。バッテリ30の出力電圧(例えば定格電圧)は、例えば750V以上の電圧である。インバータ20は、上アームスイッチSUH,SVH,SWHと下アームスイッチSUL,SVL,SWLとの直列接続体を備えている。U相上,下アームスイッチSUH,SULの接続点PUには、インバータ20のU相端子21U、U相導電部材22U、及び回転電機10のU相端子12Uを介して、U相巻線11Uの第1端が接続されている。V相上,下アームスイッチSVH,SVLの接続点PVには、インバータ20のV相端子21V、V相導電部材22V、及び回転電機10のV相端子12Vを介して、V相巻線11Vの第1端が接続されている。W相上,下アームスイッチSWH,SWLの接続点PWには、インバータ20のW相端子21W、W相導電部材22W、及び回転電機10のW相端子12Wを介して、W相巻線11Wの第1端が接続されている。U,V,W相巻線11U,11V,11Wの第2端は中性点PTで接続されている。なお、各相の導電部材22U,22V,22Wは、例えば、ケーブル又はバスバーである。本実施形態において、回転電機10のU,V,W相端子12U,12V,12Wが「入力端子」に相当する。
【0015】
本実施形態では、各スイッチSUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子が用いられており、より具体的にはNチャネルMOSFETが用いられている。各スイッチSUH,SUL,SVH,SVL,SWH,SWLには、ボディダイオードが内蔵されている。
【0016】
インバータ20は、その入力側に、インバータ20の入力電圧を平滑化するコンデンサ23を備えている。コンデンサ23の高電位側端子には、バッテリ30の正極端子が接続され、コンデンサ23の低電位側端子には、バッテリ30の負極端子が接続されている。コンデンサ23の高電位側端子には、上アームスイッチSUH~SWHの高電位側端子であるドレインが接続されている。コンデンサ23の低電位側端子には、下アームスイッチSUL~SWLの低電位側端子であるソースが接続されている。なお、コンデンサ23は、インバータ20外部に設けられていてもよい。
【0017】
回転電機システム100は、電圧センサ40及び電流センサ41を備えている。電圧センサ40は、コンデンサ23の端子電圧である電源電圧を検出する。電流センサ41は、回転電機10に流れる各相電流のうち、少なくとも2相分の相電流を検出する。各センサ40,41の検出値は、回転電機システム100に備えられるマイコン50に入力される。
【0018】
マイコン50は、「制御部」として機能し、回転電機10の制御量を指令値に制御すべく、インバータ20を構成する各スイッチSUH~SWLのスイッチング制御を行う。本実施形態において、制御量はトルクである。マイコン50は、デッドタイムDTを挟みつつ上,下アームスイッチを交互にオン状態とすべく、上,下アームスイッチに対応する駆動信号SAを、上,下アームスイッチに対して個別に設けられた駆動回路Drに出力する。駆動信号は、オン指令又はオフ指令のいずれかをとる。
【0019】
続いて、
図2を用いて、駆動回路Drについて説明する。本実施形態の上,下アームの各駆動回路Drは、基本的には同じ構成である。
図2には、便宜上、インバータ20を構成するスイッチをSWにて示す。
【0020】
駆動回路Drは、定電圧電源60、充電スイッチ61及び充電抵抗体62を備えている。定電圧電源60には、充電スイッチ61及び充電抵抗体62を介して、スイッチSWのゲートが接続されている。定電圧電源60の出力電圧(例えば15V)は、スイッチSWのゲートに供給されるゲート電源電圧となる。
【0021】
駆動回路Drは、放電抵抗体63及び放電スイッチ64を備えている。スイッチSWのゲートには、放電抵抗体63及び放電スイッチ64を介して、グランド部としてのスイッチSWのソースが接続されている。充電抵抗体62及び放電抵抗体63は、その抵抗値を可変に設定することができる。
【0022】
駆動回路Drは、駆動部65を備えている。駆動部65は、マイコン50から出力された駆動信号SAを取得する。駆動部65は、取得した駆動信号SAがオン指令である場合、充電処理を行う。充電処理は、充電スイッチ61をオン状態にして、かつ、放電スイッチ64をオフ状態にする処理である。充電処理によれば、スイッチSWのゲート電圧が閾値電圧Vth以上となり、スイッチSWがオン状態に切り替えられる。
【0023】
駆動部65は、取得した駆動信号SAがオフ指令である場合、放電処理を行う。放電処理は、充電スイッチ61をオフ状態にして、かつ、放電スイッチ64をオン状態にする処理である。放電処理によれば、スイッチSWのゲート電圧が閾値電圧Vth未満となり、スイッチSWがオフ状態に切り替えられる。
【0024】
駆動部65は、マイコン50から出力された抵抗値設定信号SBを取得する。駆動部65は、取得した抵抗値設定信号SBにより充電抵抗体62及び放電抵抗体63の抵抗値を設定する。充電抵抗体62の抵抗値が低く設定されるほど、スイッチSWのゲート電荷の充電速度が高くなり、スイッチSWをオン状態に切り替える場合のスイッチング速度が高くなる。また、放電抵抗体63の抵抗値が低く設定されるほど、スイッチSWのゲート電荷の放電速度が高くなり、スイッチSWをオフ状態に切り替える場合のスイッチング速度が高くなる。
【0025】
続いて、
図3を用いて、インバータ20から回転電機10に入力される入力電圧Vinについて説明する。入力電圧Vinは、回転電機10の各相の巻線11U,11V,11Wにそれぞれ入力される。入力電圧Vinは、駆動部65の充電処理及び放電処理によりオン電圧Vonとオフ電圧Voffとで切り替えられる。オン電圧Vonは、バッテリ30の正極側電圧に対応した値である。オン電圧Vonは、例えば、バッテリ30の正極側電圧から、インバータ20の上アームスイッチSUH~SWH等の電圧降下量を差し引いた値である。オフ電圧Voffはバッテリ30の負極側電圧に対応した値であり、例えばグランド電圧(0V)である。
【0026】
図3(A)に、U相巻線11Uへの入力電圧Vinの入力態様を例示する。なお、V相巻線11V及びW相巻線11Wへの入力電圧Vinの入力態様は、U相巻線11Uへの入力電圧Vinの入力態様と同様であり、説明を省略する。
【0027】
時刻t1に、入力電圧Vinがオフ電圧Voffからオン電圧Vonへの上昇を開始する。以下、入力電圧Vinがオフ電圧Voffから上昇し始めた後、オン電圧Vonに到達するまでのことを、入力電圧Vinの立ち上げという。入力電圧Vinの立ち上げは、U相下アームスイッチSULに放電処理が行われた後にU相上アームスイッチSUHに充電処理が行われることにより実施される。インバータ20では、上・下アームスイッチSUH,SULが有する寄生容量等の影響により、時刻t1から遅延時間tdが経過した時刻t2に入力電圧Vinがオン電圧Vonに到達する。
【0028】
時刻t1からオン期間ton(ton>ta)が経過した時刻t3に、入力電圧Vinがオン電圧Vonからオフ電圧Voffへの下降を開始する。以下、入力電圧Vinがオン電圧Vonから下降し始めた後、オフ電圧Voffに到達するまでのことを、入力電圧Vinの立ち下げという。オン期間tonは、入力電圧Vinの立ち上げの開始タイミングから、入力電圧Vinの立ち下げの開始タイミングまでの期間であり、対応する上,下アームスイッチSUH,SULの1スイッチング周期に相当する。
【0029】
入力電圧Vinの立ち下げは、U相上アームスイッチSUHに放電処理が行われた後にU相下アームスイッチSULに充電処理が行われることにより実施される。インバータ20では、上・下アームスイッチSUH,SULが有する寄生容量等の影響により、時刻t3から遅延時間tdが経過した時刻t4に入力電圧Vinがオフ電圧Voffに到達する。その結果、入力電圧Vinのオーバーシュート及びリンギングを無視した理想波形では、U相巻線11Uには、時刻t1から時刻t4までの期間において、台形波状の入力電圧Vinが入力される。なお、入力電圧Vinのオーバーシュート及びリンギングについては、
図4を用いて後述する。
【0030】
図3(B)に、台形波の入力電圧Vinをフーリエ変換して得られた周波数スペクトルの包絡線Xhを示す。包絡線Xhが入力電圧Vinの周波数特性を示す。
図3(B)では、横軸の周波数fが対数で示されており、周波数fがゼロである場合における振幅ゲインが規定値としての1となるように、縦軸の振幅ゲインが規格化されている。
【0031】
なお、
図3(B)に示す周波数特性は、周期関数である台形波をフーリエ級数展開することにより導くことができる。詳しくは、台形波をフーリエ級数展開して算出されるフーリエ係数の絶対値|X(f)|が、下式(eq1)で表される台形波の周波数スペクトルである。
【0032】
【数1】
上式(eq1)において、sinを含む部分を、下式(eq2)で表される包絡線に置き換える。
【0033】
【数2】
上式(eq2)で一部を置き換えられた上式(eq1)について、常用対数の20lоg|X(f)|[dB]を算出した場合、この算出値の0[dB]が、
図3(B)の振幅ゲインの1に対応している。
【0034】
図3(B)に示すように、包絡線Xhは第1変曲点PAと第2変曲点PBとを持った折れ線形状となる。第1変曲点PAは、入力電圧Vinのオン期間tonと負の相関を有する第1周波数faを有し、第2変曲点PBは、遅延時間tdと負の相関を有する第2周波数fbを有する。第1周波数fa及び第2周波数fbは、オン期間ton及び遅延時間tdを用いて下式(eq3),(eq4)のように表される。
【0035】
fa=1/(π×ton)・・・(eq3)
fb=1/(π×td)・・・(eq4)
なお、本実施形態において、第1周波数faが「基準周波数」に相当し、第2周波数fbが「変曲周波数」に相当する。
【0036】
包絡線Xhでは、第1周波数faまでは振幅ゲインが1に維持され、第1周波数faよりも高周波側において周波数fの増加に伴って振幅ゲインが減少する。具体的には、上述した20lоg|X(f)|において、第1周波数faから第2周波数fbまでは、振幅ゲインが20dB/decの傾きで減少し、第2周波数fbよりも高周波側では、振幅ゲインが40dB/decの傾きで減少する。つまり、第2周波数fbの高周波数側では低周波数側よりも傾きの絶対値が大きくなる。
【0037】
理想波形に対し、入力電圧Vinの立ち上げ及び立ち下げでは、上,下アームスイッチSUH,SULに接続される配線のインダクタンス等の影響により、入力電圧Vinがオーバーシュートし、そのオーバーシュートに伴ってリンギングが発生する。
図4(A)に、入力電圧Vinの立ち上げにおけるオーバーシュート及びリンギングの発生様態を例示する。なお、入力電圧Vinの立ち下げにおけるオーバーシュート及びリンギングの発生様態も同様であり、説明を省略する。
【0038】
時刻t11に、入力電圧Vinがオフ電圧Voffへの上昇を開始すると、入力電圧Vinがオン電圧Vonを超えて上昇、つまりオーバーシュートし、時刻t12において入力電圧Vinが1スイッチング周期における最大値となる。その後、入力電圧Vinは、減衰振動、つまりリンギングしつつオン電圧Vonに収束する。リンギングにおいて時刻t12の次に入力電圧Vinが極大値となる時刻をt13とした場合、入力電圧Vinのリンギング周波数frは、時刻t12から時刻t13までのリンギング周期trを用いて下式(eq5)のように表される。
【0039】
fr=1/tr・・・(eq5)
図4(B)に、オーバーシュート及びリンギングが発生した場合における
図3(B)の包絡線Xhを示す。本実施形態では、リンギング周波数frは第2周波数fbよりも高い周波数を有している。
図4(B)に示すように、包絡線Xhは、第1変曲点PA及び第2変曲点PBに加え、第3変曲点PCを持った折れ線形状となる。第3変曲点PCは、リンギング周波数frを有する。
図3(B)に示す包絡線Xhでは、リンギング周波数fr周辺の周波数帯において第3変曲点PCとして振幅ゲインが増大する。
【0040】
続いて、
図5を用いて、回転電機10の共振周波数fkについて説明する。回転電機10では、各相巻線11U,11V,11Wのインダクタンスやキャパシタンスに起因して共振が発生する。
【0041】
図5(A)に、U,V相巻線11U,11Vのインピーダンスの周波数特性を例示する。このインピーダンスの周波数特性は、
図1に破線で示すように、回転電機10のU,V相端子12U,12V間のインピーダンスの周波数特性である。U,V相巻線11U,11Vのインピーダンスの周波数特性は、例えばU相端子12Uに正弦波を入力し、その正弦波の周波数fを変化させた場合のV相端子12Vの電圧値及び電流値を測定することで算出される。なお、V,W相巻線11V,11Wのインピーダンスの周波数特性及びU,W相巻線11U,11Wのインピーダンスの周波数特性は、U,V相巻線11U,11Vのインピーダンスの周波数特性と同様であり、説明を省略する。
【0042】
図5(A)に示すように、U,V相巻線11U,11Vのインピーダンスは、共振周波数fkで最小値となる。
図5(B)に、回転電機10の伝達関数を示す。この回転電機10の伝達関数は、
図6に示すように、回転電機10のU,V相端子12U,12Vにそれぞれ入力される入力電圧Vinの電圧差の大きさを入力電圧差ΔVinとし、U相巻線11UとW相巻線11Wとの間の電圧差の大きさを出力電圧差ΔVoutとした相関関数における振幅ゲインである。
図5(B)に示すように、振幅ゲインは、共振周波数fkで最大値となる。
【0043】
なお、入力電圧差ΔVinは、回転電機10の各相の端子12U,12V,12Wのうち、2つの端子にそれぞれ入力される入力電圧Vinの電圧差の大きさであればよい。また、出力電圧差ΔVoutは、回転電機10の各相の巻線11U,11V,11Wのうち、2つの巻線の間の電圧差の大きさであればよい。
【0044】
そのため、出力電圧差ΔVoutは共振周波数fkで増大しやすく、例えば共振周波数fkにおける入力電圧Vinの振幅ゲインが1以上であり、共振周波数fkの出力電圧差ΔVoutが過度に増大する場合には、サージ電圧が増大する。これにより、各相の巻線11U,11V,11W間及び各相の巻線11U,11V,11Wとグランドとの間で部分放電が発生すると、回転電機10の劣化を招くおそれがある。
【0045】
そこで、本実施形態では、共振周波数fkが、第1周波数faよりも高い周波数に設定されている。これにより、共振周波数fkにおける入力電圧Vinの振幅ゲインが1よりも小さい値に抑制され、サージ電圧が抑制される。
【0046】
本実施形態では、
図4(B)に示すように、共振周波数fkが第2周波数fbよりも高い周波数に設定されている。上述したように、包絡線Xhでは、第1周波数faよりも高周波側において振幅ゲインが周波数fの増加に伴って減少する。そのため、共振周波数fkが第1周波数faよりも高い第2周波数fbよりも高周波数側に設定されることで、低周波側に設定される場合に比べて共振周波数fkにおける入力電圧Vinの振幅ゲインを小さい値に設定することができ、サージ電圧を好適に抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態では、共振周波数fkがリンギング周波数frと異なる周波数に設定されている。そのため、共振周波数fkにおいてオーバーシュート及びリンギングが発生することが抑制され、オーバーシュート及びリンギングによるサージ電圧の増大を抑制することができる。
【0048】
具体的には、共振周波数fkがリンギング周波数frよりも高い周波数に設定されている。共振周波数fkが第2周波数fbよりも高いリンギング周波数frよりも高周波数側に設定されることで、低周波側に設定される場合に比べて共振周波数fkにおける入力電圧Vinの振幅ゲインを小さい値に設定することができ、サージ電圧を好適に抑制することができる。
【0049】
なお、共振周波数fkは、10MHzよりも低い低周波数範囲で特定されることが好ましい。例えば、回転電機10では、共振周波数fkが高周波化された場合に、各相の巻線11U,11V,11W間及び各相の巻線11U,11V,11Wとグランドとの間で部分放電が開始される部分放電開始電圧が上昇する。また、共振周波数fkの特定に用いられるインピーダンスの周波数特性及び回転電機10の伝達関数は、高周波になるほど、各相の導電部材22U,22V,22Wなどの影響を受けやすい。共振周波数fkが10MHzよりも低い低周波数範囲で特定されることで、これらの影響を抑制して共振周波数fkを適正に特定することができる。
【0050】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0051】
・本実施形態では、共振周波数fkが第1周波数faよりも高い周波数に設定されている。そのため、共振周波数fkにおける入力電圧Vinの振幅ゲインを1よりも小さくすることができ、サージ電圧を抑制することができる。第1周波数faは、入力電圧Vinのオン期間tonにより定まる周波数である。このため、共振周波数fkを第1周波数faよりも高い周波数に設定する場合において新たな部品を追加する必要がない。これにより、新たな部品を追加することなくサージ電圧を抑制することができる。
【0052】
・本実施形態では、U,V,W相巻線11U,11V,11Wの第2端が中性点PTで接続されることで、U,V,W相巻線11U,11V,11Wが星形結線されている。そのため、U,V,W相巻線11U,11V,11WがΔ結線される場合に比べて、巻線11U,11V,11W間の電圧分担を低減することができ、各相の巻線11U,11V,11W間の絶縁効率を上昇させつつ、サージ電圧を好適に抑制することができる。
【0053】
(第1実施形態の変形例1)
図7(A)に示すように、共振周波数fkが、第2周波数fbよりも高く、且つリンギング周波数frよりも低い周波数に設定されてもよいし、
図7(B)に示すように、共振周波数fkが、第1周波数faよりも高く、且つ第2周波数fbよりも低い周波数に設定されてもよい。
【0054】
インバータ20では、各スイッチSUH~SWLのスイッチング制御に伴って高周波ノイズが生じる。高周波ノイズは、周波数fの増加に伴って増大する。本変形例では、共振周波数fkがリンギング周波数fr又は第2周波数fbよりも低周波数側に設定されていることで、高周波数側に設定されている場合に比べて共振周波数fkにおける高周波ノイズを抑制することができ、高周波ノイズによるサージ電圧の増大を抑制することができる。
【0055】
また、上述したように、包絡線Xhでは、第1周波数faよりも低周波側において振幅ゲインが1に維持される。本変形例では、共振周波数fkが第1周波数faよりも高い周波数に設定されていることで、共振周波数fkにおける入力電圧Vinの振幅ゲインを1よりも小さくすることができ、サージ電圧を抑制することができる。
【0056】
(第1実施形態の変形例2)
図8に示すように、回転電機10の伝達関数の算出に用いられる出力電圧差ΔVoutは、U相巻線11Uの両端間の電圧差の大きさ、つまりU相端子12Uと中性点PTとの間の電圧差の大きさであってもよい。なお、出力電圧差ΔVoutは、回転電機10の各相の巻線11U,11V,11Wのうち、特定相の巻線の両端間の電圧差の大きさであればよい。
【0057】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、先の第1実施形態との相違点を中心に
図9~
図11を参照しつつ説明する。第1実施形態では、例えば回転電機10の構成が調整されることで共振周波数fkが第2周波数fb及びリンギング周波数frよりも高い周波数とされている。本実施形態では、共振周波数fkが第2周波数fb及びリンギング周波数frよりも高い周波数となるように、マイコン50がインバータ20を制御する。
【0058】
図9にマイコン50の制御処理のフローチャートを示す。マイコン50は、例えば回転電機10の起動時に制御処理を実施する。
【0059】
制御処理を開始すると、まずステップS11において、共振周波数fkを取得する。マイコン50に設けられた記憶部51には、回転電機10の共振周波数fkが記憶されている。記憶部51としてのメモリは、ROM以外の非遷移的実体的記録媒体(例えば、ROM以外の不揮発性メモリ)である。ステップS11では、記憶部51から共振周波数fkを取得する。
【0060】
続くステップS12では、ステップS11で取得された共振周波数fkに基づいて各スイッチSUH~SWLのスイッチング速度を調整し、制御処理を終了する。具体的には、共振周波数fkが第2周波数fb及びリンギング周波数frよりも高い周波数となるように、充電抵抗体62及び放電抵抗体63の抵抗値を設定する。設定された抵抗値の情報は、抵抗値設定信号SBにより駆動部65に送信される。
【0061】
続いて、
図10,
図11に、制御処理の一例を示す。
図10に、スイッチング速度による第2周波数fbの変化の態様を示す。
図10(A)に矢印YAで示すように、入力電圧Vinの立ち上げにおいて、スイッチング速度を高くして入力電圧Vinの上昇速度を高くすると、遅延時間tdが短くなる。これにより、
図10(B)に矢印YBで示すように、第2周波数fbが高周波側に変化する。
【0062】
図11に、スイッチング速度によるリンギング周波数frの変化の態様を示す。
図11(A),(B)に対比して示すように、入力電圧Vinの立ち上げにおいて、スイッチング速度を高くして入力電圧Vinの上昇速度を高くすると、リンギング周期trが短くなる。これにより、
図11(C)に矢印YCで示すように、リンギング周波数frが高周波側に変化する。つまり、第2周波数fb及びリンギング周波数frは、スイッチング速度により変化する。本実施形態では、これらの変化を利用して、共振周波数fkが第2周波数fb及びリンギング周波数frよりも高い周波数となるようにする。
【0063】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0064】
・本実施形態では、共振周波数fkが第2周波数fb及びリンギング周波数frよりも高い周波数となるようにインバータ20を制御する。これにより、回転電機10の共振周波数fkに関わらず、共振周波数fkを第2周波数fb及びリンギング周波数frよりも高い周波数に設定することができる。
【0065】
・本実施形態では、インバータ20を構成する各スイッチSUH~SWLのスイッチング速度を変更することにより、共振周波数fkを第2周波数fb及びリンギング周波数frよりも高い周波数に設定する。そのため、共振周波数fkを第2周波数fb及びリンギング周波数frよりも高い周波数に設定するために、新たな部品を追加する必要がない。これにより、新たな部品を追加することなく共振周波数fkを第2周波数fb及びリンギング周波数frよりも高い周波数に設定することができる。
【0066】
(第2実施形態の変形例)
制御処理における共振周波数fkの取得方法は、回転電機10のインピーダンスの周波数特性等を用いた共振周波数fkの測定により取得する方法であってもよい。これにより、回転電機10の温度又は劣化により変化する共振周波数fkを適正に取得することができる。
【0067】
(その他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、次のように実施されてもよい。
【0068】
・上記各実施形態では、共振周波数fkが第2周波数fb及びリンギング周波数frのいずれとも異なる周波数となるように設定されている例を示したが、これに限られない。共振周波数fkは、第2周波数fb及びリンギング周波数frの一方と等しい周波数に設定されていてもよい。
【0069】
・上記各実施形態では、インバータ20の各相の上アームスイッチSUH~SWH及び下アームスイッチSUL~SWLが1つのスイッチにより構成されている例を示したが、並列接続された複数のスイッチにより構成されていてもよい。この場合、各相の上アームスイッチ及び下アームスイッチに流れる電流が増大し、発生するサージ電圧が増大する。本実施形態では、共振周波数fkが第1周波数faよりも高い周波数となるように設定されているため、サージ電圧の過度な増大を抑制することができる。
【0070】
・上記各実施形態では、回転電機10を構成する各相の巻線11U,11V,11Wが、直列接続された複数の単位巻線13により構成されている例を示したが、
図12(A),(B)に示すように、並列接続された複数の単位巻線13により構成されていてもよい。
【0071】
・上記各実施形態では、各相の巻線11U,11V,11Wにおいて、直列接続された複数の単位巻線13が、全体で1つの回転電機10を構成する例を示したが、これに限られない。例えば、
図13に示すように、1つの単位巻線13が1つの回転電機10を構成しており、これにより直列接続された複数の回転電機10が構成されていてもよい。この場合、各相の巻線11U,11V,11Wにおいて、単位巻線13間を接続する配線が長くなり、各相巻線11U,11V,11Wのインダクタンスが増大し、発生するサージ電圧が増大する。本実施形態では、共振周波数fkが第1周波数faよりも高い周波数となるように設定されているため、サージ電圧の過度な増大を抑制することができる。
【0072】
・上記第2実施形態では、共振周波数fkが第2周波数fb及びリンギング周波数frよりも高い周波数となるように、インバータ20を構成する各スイッチSUH~SWLのスイッチング速度が調整される例を示したが、これに限られない。例えば、回転電機10の構成、つまり回転電機10を構成する各相の巻線11U,11V,11Wが調整されてもよい。具体的には、各相の巻線11U,11V,11Wの構造、並列数NA、回転軸方向の長さ、皮膜等により共振周波数fkの調整が可能である。
【0073】
例えば、各相の巻線11U,11V,11Wの長さであるコイル長が変化することで、巻線11U,11V,11Wのインダクタンスが変化し、共振周波数fkが変化する。また、各相の巻線11U,11V,11Wを構成する導線として、平角線が使用されることで、丸線が使用される場合に比べて巻線11U,11V,11Wの接触面積が増大し、巻線11U,11V,11W間のキャパシタンスが増大することで共振周波数fkが低くなる。
【0074】
図14に、巻線11U,11V,11Wの並列数NAと共振周波数fkとの関係を示す。
図14(A)には、並列数NAが1である場合の回転電機10の伝達関数が実線で示されており、並列数NAが2である場合の回転電機10の伝達関数が破線で示されており、並列数NAが3である場合の回転電機10の伝達関数が一点鎖線で示されている。また、
図14(B)に、並列数NAと共振周波数fkとの関係を示す。
図14(A),(B)に示すように、回転電機10では、並列数NAが多いほど各巻線のコイル長が短くなることで共振周波数fkが高くなる。
【0075】
また、各相の巻線11U,11V,11Wにおける回転軸方向の長さが変化することで、巻回される導線のループ面積が変化するとともに接触面積が変化し、巻線11U,11V,11W間のインダクタンス及びキャパシタンスが変化することで共振周波数fkが変化する。さらに、巻線11U,11V,11Wの皮膜の層数及び厚さが変化することにより巻線11U,11V,11W間のキャパシタンスが変化し、共振周波数fkが変化する。そのため、これらを用いて共振周波数fkを調整することができる。
【0076】
・回転電機10は、ブラシレスの同期機に限られず、ブラシ付の同期機であってもよい。また、回転電機10は、コアレスモータであってもよい。コアレスモータでは、ステータコアを用いないために磁気抵抗が少なく、トルク確保のために各相の巻線11U,11V,11Wに流れる電流が増大することで発生するサージ電圧が増大する。本実施形態では、共振周波数fkが第1周波数faよりも高い周波数となるように設定されているため、サージ電圧の過度な増大を抑制することができる。
【0077】
・回転電機10に流れる相電流の大きさは、例えば100A以上であってもよければ、20A以下であってもよい。相電流が100A以上である場合、入力電圧Vinの立ち下げにおいてサージ電圧が増大し、相電流が20A以下である場合、入力電圧Vinの立ち上げにおいてサージ電圧が増大する。本実施形態では、共振周波数fkが第1周波数faよりも高い周波数となるように設定されているため、サージ電圧の過度な増大を抑制することができる。
【0078】
・回転電機10のU,V相端子12U,12V間のインピーダンスの周波数特性は、回転電機10のU,V相端子12U,12Vに代えてインバータ20のU,V相端子21U,21Vを用いて測定されてもよい。
【0079】
・回転電機10の伝達関数の算出に用いられる入力電圧Vinは、インバータ20の各相の端子21U,21V,21Wのうち、2つの端子からそれぞれ出力される入力電圧Vinの電圧差の大きさであってもよい。また、入力電圧Vinは、インバータ20の各相における接続点PU,PV,PW間の電圧差の大きさであってもよいし、インバータ20の各相における上アームスイッチSUH~SWHのドレイン-ソース間の電圧の差の大きさであってもよい。
【0080】
・インバータ20を構成するスイッチとしては、NチャネルMOSFETに限らず、例えばIGBTであってもよい。この場合、スイッチにフリーホイールダイオードが逆並列に接続されていればよい。また、インバータ20を構成するスイッチは、SiC及びGaNといったワイドバンドギャップ体によるMOSFET等のユニポーラスイッチであってもよい。
【0081】
・回転電機10を構成する各相の巻線11U,11V,11Wは、Δ結線されていてもよい。
【0082】
・回転電機10の制御量はトルクに限らず、例えば回転速度であってもよい。
【0083】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0084】
10…回転電機、20…インバータ、100…回転電機システム、50…マイコン、fa…第1周波数、fk…共振周波数。