(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】画像観察装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20240502BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20240502BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20240502BHJP
G02C 11/00 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B3/00 A
H04N5/64 511A
G02C11/00
(21)【出願番号】P 2021069268
(22)【出願日】2021-04-15
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶本 典史
(72)【発明者】
【氏名】東原 正和
(72)【発明者】
【氏名】佐野 博晃
(72)【発明者】
【氏名】松田 陽次郎
【審査官】近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-184478(JP,A)
【文献】特開平10-228245(JP,A)
【文献】特開2020-095205(JP,A)
【文献】特開平11-142783(JP,A)
【文献】特開2015-172616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/02
G02B 27/01
G02B 3/00
G02C 11/00
H04N 5/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面に2次元状に配置された複数の発光素子と、該複数の発光素子のそれぞれに対応して設けられた複数のマイクロレンズとを有する表示素子と、
内部に少なくとも1つの反射面を有し、前記表示素子の表示面からの光を射出瞳に導く接眼光学系と、を備え、
前記表示素子の周辺部において、前記発光素子の発光中心と該発光素子に対応する前記マイクロレンズの中心が前記平面に平行な方向にずれて
おり、
前記表示素子の周辺部において、正規光の主光線の放射角度をθm、ゴースト光の放射角度をθgとした場合、θmとθgが、
|θm - θg | ≧15°
を満足することを特徴とする画像観察装置。
【請求項2】
平面に2次元状に配置された複数の発光素子と、該複数の発光素子のそれぞれに対応して設けられた複数のマイクロレンズとを有する表示素子と、
内部に少なくとも1つの反射面を有し、前記表示素子の表示面からの光を射出瞳に導く接眼光学系と、を備え、
前記表示素子の周辺部において、前記発光素子の発光中心と該発光素子に対応する前記マイクロレンズの中心が前記平面に平行な方向にずれており、
前記マイクロレンズの高さをh、前記発光素子の開口の表面から前記マイクロレンズの底面までの高さをL、前記表示素子の周辺部における前記発光素子の中心と前記マイクロレンズの中心の前記平面と平行な方向のずれ量をΔML、前記高さHと前記高さLと前記ずれ量ΔMLで決まる角度φ1をφ1=arctan(ΔML/(h+L))とした場合に、φ1が、
6.0° ≦φ1≦37.5°
を満足し、
前記表示素子は、前記発光素子と前記マイクロレンズとの間にカラーフィルタを有し、前記発光素子の開口の表面から前記カラーフィルタの上面までの高さをL2、前記表示素子の周辺部における前記発光素子の発光中心と前記カラーフィルタの中心の前記平面に平行な方向のずれ量をΔCF、前記高さL2と前記ずれ量ΔCFで決まる角度をφ2=arctan(ΔCF/L2)、角度φ1と角度φ2の比AをA=φ2/φ1とした場合、Aが、
0 ≦A≦0.85
を満足することを特徴とする画像観察装置。
【請求項3】
前記接眼光学系を通過した前記表示素子の周辺部からの正規光の発光強度が増加し、前記接眼光学系を通過した前記表示素子の周辺部からのゴースト光の発光強度が低下するように、前記表示素子の周辺部において、前記発光素子の発光中心と該発光素子に対応する前記マイクロレンズの中心が前記平面に平行な方向にずれていることを特徴とする請求項1または2に記載の画像観察装置。
【請求項4】
前記接眼光学系は、前記表示素子から前記射出瞳に向かって順に、第1の位相板と、半透過反射面と、少なくとも1つのレンズと、第2の位相板と、第1の直線偏光を反射し該第1の直線偏光の偏光方向に直交する偏光方向の第2の直線偏光を透過させる偏光分離素子とを有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項5】
前記レンズが、樹脂製のレンズであることを特徴とする請求項4に記載の画像観察装置。
【請求項6】
前記半透過反射面が前記レンズの表面に設けられており、該表面が前記表示素子に向かって凸面であることを特徴とする請求項4または5に記載の画像観察装置。
【請求項7】
前記半透過反射面が前記レンズの表面に設けられており、該表面が非球面であることを特徴とする請求項4または5に記載の画像観察装置。
【請求項8】
前記少なくとも1つのレンズのうち、最も前記射出瞳に近い側のレンズが、前記表示素子に向かって凸面を有する平凸レンズであることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項9】
前記少なくとも1つのレンズの光学有効領域における偏肉比が、1.5以上、4以下であることを特徴とする請求項4乃至8のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項10】
前記第1の直線偏光の偏光方向に対して、前記第1の位相板の遅相軸と前記第2の位相板の遅相軸とが互いに反対方向に傾いていることを特徴とする請求項4乃至9のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項11】
前記接眼光学系は、前記偏光分離素子と前記射出瞳との間に、前記第2の直線偏光を透過させる偏光板を有することを特徴とする請求項4乃至10のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項12】
前記接眼光学系は、前記表示素子と前記第1の位相板との間に、前記第1の直線偏光を透過させる偏光板を有することを特徴とする請求項4乃至11のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項13】
前記接眼光学系は、自由曲面プリズムであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項14】
前記接眼光学系は内部に少なくとも2つの反射面を有することを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項15】
前記接眼光学系における正規光の光路とゴースト光の光路とで前記接眼光学系の内部での反射回数が異なることを特徴とする請求項14に記載の画像観察装置。
【請求項16】
前記表示素子の中心
から周辺部に向けて、前記発光素子の発光中心と、該発光素子に対応する前記マイクロレンズの中心との前記平面と平行な方向におけるずれ量が大きくなり、かつ当該ずれ量の変化が一定もしくは大きくなることを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項17】
前記発光素子の開口率が52%以下であることを特徴とする請求項1乃至16のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項18】
前記マイクロレンズの高さをh、前記発光素子の開口の表面から前記マイクロレンズの底面までの高さをL、前記表示素子の周辺部における前記発光素子の中心と前記マイクロレンズの中心の前記平面と平行な方向のずれ量をΔML、前記高さHと前記高さLと前記ずれ量ΔMLで決まる角度φ1をφ1=arctan(ΔML/(h+L))とした場合に、φ1が、
6.0° ≦φ1≦37.5°
を満足することを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項19】
前記表示素子は、前記発光素子と前記マイクロレンズとの間にカラーフィルタを有し、前記発光素子の開口の表面から前記カラーフィルタの上面までの高さをL2、前記表示素子の周辺部における前記発光素子の発光中心と前記カラーフィルタの中心の前記平面に平行な方向のずれ量をΔCF、前記高さL2と前記ずれ量ΔCFで決まる角度をφ2=arctan(ΔCF/L2)、角度φ1と角度φ2の比AをA=φ2/φ1とした場合、Aが、
0 ≦A≦0.85
を満足することを特徴とする請求項18に記載の画像観察装置。
【請求項20】
前記接眼光学系のアイレリーフE1が、
15mm≦E1≦25mm
を満足することを特徴とする請求項1乃至19のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項21】
前記接眼光学系の厚さL1と前記接眼光学系のアイレリーフE1とが、
0.6≦L1/E1≦1.0
を満足することを特徴とする請求項1乃至20のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項22】
前記接眼光学系のアイレリーフE1と前記接眼光学系の最大の対角半画角θとが、
8mm≦E1×tanθ≦20mm
を満足することを特徴とする請求項1乃至21のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項23】
前記マイクロレンズの中心は、平面視において端部を結ぶ線で構成された形状の重心であることを特徴とする請求項1乃至22のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項24】
前記表示素子の表示面がn角形(n≧5)であることを特徴とする請求項1乃至23のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【請求項25】
前記表示素子の少なくとも1つの対角領域に、前記発光素子と前記マイクロレンズのいずれか、もしくは両方が配置されていないことを特徴とする請求項1乃至24のいずれか1項に記載の画像観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示素子に表示された画像を接眼光学系を介して観察可能な画像観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示素子に表示された画像を接眼光学系を介して観察可能な画像観察装置としては、観察者の頭部に装着されるヘッドマウントディスプレイ(HMD)が知られている。このようなHMDにおいて、小型化と広画角を両立させるために、光路を折り畳む接眼光学系が用いられることがある。このような接眼光学系としては、例えば、偏光を利用した偏光光学系や、レンズ内部に反射面を有する自由曲面プリズムなどが挙げられる。
【0003】
このような接眼光学系では、焦点距離が短くなるため、周辺画角での表示素子からの光の出射角が大きくなり、表示素子の視野角特性(輝度や色度ずれ)が低下しやすいといった特徴がある。また、ゴースト光と呼ばれる、設計上意図しない光路を通過した光が発生しやすい。例えば、軽量化を目的として偏光光学系の一部にプラスチックレンズが使用されると、プラスチックレンズ内の複屈折によって光の偏光状態が乱れ、ゴーストが発生する場合がある。
【0004】
特許文献1および特許文献2には、偏光を利用して広画角化された接眼光学系を有するHMDが開示されている。さらに特許文献2には、表示素子に設けられたカラーフィルタのサイズを中心部から周辺部にかけて大きくすることで周辺画角での視野角特性を改善することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-053152号公報
【文献】特表2019-61198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示されているHMDでは、光源とカラーフィルタの中心とが揃っており、表示素子の法線方向での視野角特性が良好であるために、レンズの複屈折によるゴーストを低減することができない。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、光路を折り畳むように構成された接眼光学系の周辺画角での視野角特性を改善しつつ、ゴーストを低減できる画像観察装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る画像観察装置は、平面に2次元状に配置された複数の発光素子と、該複数の発光素子のそれぞれに対応して設けられた複数のマイクロレンズとを有する表示素子と、内部に少なくとも1つの反射面を有し、前記表示素子の表示面からの光を射出瞳に導く接眼光学系と、を備え、前記表示素子の周辺部において、前記発光素子の発光中心と該発光素子に対応する前記マイクロレンズの中心が前記平面に平行な方向にずれており、前記表示素子の周辺部において、正規光の主光線の放射角度をθm、ゴースト光の放射角度をθgとした場合、θmとθgが、
|θm - θg | ≧15°
を満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光路を折り畳むように構成された接眼光学系の周辺画角での視野角特性を改善しつつ、ゴーストを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態1に係る表示素子の平面図。
【
図4A】マイクロレンズを有さない表示素子の断面図。
【
図4B】マイクロレンズをずらさない表示素子の断面図。
【
図5A】正規光及びゴースト光となる光線の光学条件を表した図。
【
図5B】正規光及びゴースト光となる光線の光学条件を表した図。
【
図5C】正規光及びゴースト光となる光線の光学条件を表した図。
【
図6A】正規光となる光線とカラーフィルタのずれ量ΔCFの関係を示す図。
【
図6B】正規光となる光線とカラーフィルタのずれ量ΔCFの関係を示す図。
【
図9】実施形態1に係る表示装置の一例を表す模式図。
【
図10】実施形態1に係る撮像装置と電子機器を示す図。
【
図12】実施形態1に係る照明装置と自動車を示す図。
【
図13】実施形態1に係る眼鏡型の表示装置の例を示す図。
【
図16】実施形態1における接眼光学系の構成を示す図。
【
図18】実施形態1におけるゴースト光の光路を示す図。
【
図19】実施形態1における表示面の水平端部での視野角特性を示す図。
【
図20】実施形態2におけるHMDの構成を示す図。
【
図21】実施形態2における接眼光学系の構成を示す図。
【
図23】実施形態2におけるゴースト光の光路を示す図。
【
図24】実施形態3におけるHMDの構成を示す図。
【
図25】実施形態3における接眼光学系の構成を示す図。
【
図27】実施形態3におけるゴースト光の光路を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
本発明の実施形態では、発光素子上に設けられたマイクロレンズの中心位置と発光素子の発光中心位置とをずらすことにより、光路を折り畳む接眼光学系の周辺画角での視野角特性を改善しつつゴーストを低減することができる。
【0013】
始めに、視野角特性を改善し、ゴーストを低減する表示素子の形態について説明する。次に、表示素子と光路を折り畳む接眼光学系の組み合わせの例として、実施形態1及び実施形態2に、偏光を利用した偏光光学系の実施形態を、実施形態3に、自由曲面プリズムを用いた実施形態を示す。光路を折りたたむ接眼光学系の望ましい形態については実施形態の中で説明する。
【0014】
以下、本発明の実施形態の表示素子について図面を参照しながら説明する。尚、本明細書で特に図示または記載されていない部分に関しては、当該技術分野の周知又は公知技術を適用する。また、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係わる表示素子の平面図である。表示素子100は、発光素子10が基板8(
図3参照)の主面上(平面上)に2次元状に配列され、画像を生成する表示領域1を有する。ただし、本発明の効果は画素配列によらない。つまり、
図1で例示したデルタ配列でもよいし、ストライプ配列やスクエア配列でもよい。
【0016】
図2は、
図1に示した表示領域1の端部領域2を拡大して示した図である。
図2に示すように、端部領域2(表示領域1)には、基板8の主面の上に配列された発光素子10と、発光素子10の発光領域17(
図3参照)からの光が入射するマイクロレンズ15とが配置されている。基板8の主面に垂直な方向からの平面視において、発光素子10の発光領域17の中心とマイクロレンズ15の中心は、主面と平行な方向にずれている。端部領域2は、表示領域の中央に対して周辺に位置するので周辺部と呼ぶこともある。
【0017】
図3(a)は、端部領域2を
図2におけるA-A’線で切断した場合の断面図であり、基板とは逆側に凸のマイクロレンズを有する発光素子を示している。ここでは、発光素子10として有機EL素子を用いる例を示している。図中では、有機EL素子(発光素子10)がピッチDの間隔で配置されている。ピッチDとは、ある発光素子10の発光領域17の中心位置18と隣接する発光素子10の発光領域17の中心位置18’との基板8の主面方向の距離である。
【0018】
基板8上の発光素子10は、基板8の主面の上に配置される第1電極11、発光層を含む有機層12、有機層12を挟んで第1電極11の上に配置される第2電極13を有する。また、表示領域1の最外周の発光素子10の特性を維持するために、表示領域1の端部である点AーA’線で示す範囲の外側にダミー画素10’が配置されている。ダミー画素10’は複数列および複数行形成されていてもよい。
【0019】
有機層12は、表示素子100が単一の発光色を表示できるよう、単一の発光色を放射する発光層が発光素子10間に共通層として成膜されて構成されていてもよい。また、有機層12は、表示素子100が少なくとも2色以上の色を表示できるよう、発光素子10ごとに異なる色を発する発光層をパターニングして構成されていてもよい。表示素子100の各画素は、第1電極11の端部を覆うとともに第1電極11上に開口を有し、バンクとして機能する絶縁層16、第2電極13の上に配置される保護層14、マイクロレンズ15を有する。マイクロレンズ15には、発光素子10から出射された光が入射する。
【0020】
本実施形態では、マイクロレンズ15は、発光素子10の発光領域17に対して矢印Bで示す方向にずれて配置されている。矢印Bで示す方向は、表示素子100を平面視した際に、光路を折りたたむ接眼光学系の主光線が主面へ投影される方向である。このような構成とすることにより、マイクロレンズを設けない場合や、マイクロレンズと発光領域を平面視で重なるように配置した場合に比べて接眼光学系を介して観察者の瞳に届く発光強度が高まり、発光層で発光した光の利用効率が向上する。且つ、意図しない光路を通過し、観察者にゴーストとして知覚される光の発光強度が低下する。効果の詳細については後述する。また、
図3(a)で示した本実施形態におけるマイクロレンズの屈折率n1とマイクロレンズ上部の媒質の屈折率n0は、n0<n1の関係が望ましい。なお、発光素子10の発光領域17とは、絶縁層16の開口部において第1電極11、有機層12、第2電極13が積層されている部分を指す。
【0021】
各発光素子10においてマイクロレンズ15と発光領域17がずれているとは、平面視においてマイクロレンズ15の中心位置19と発光領域17の中心位置18が重ならず、ある距離をおいて離れていることを意味する。なお、マイクロレンズ15の中心とは、平面視において端部を結ぶ線で構成された形状(外形)の重心である。マイクロレンズ15の端部とは、マイクロレンズ15の断面図においてZ方向の高さが最も低い位置である。
図3(a)では、マイクロレンズ15の断面が球面形状(一部欠けている球面、半球も球面形状に含む)であり、この場合、マイクロレンズ15の中心はマイクロレンズ15の頂点と一致する。
【0022】
本実施形態では、マイクロレンズ15は発光素子10の発光領域17に対してずれるように配置されている。すなわち、基板8の発光素子10が配置される面に対する平面視において、マイクロレンズ15の中心19と発光領域17の中心位置18はある距離離れている(一致しない)。また、ここではマイクロレンズ15の断面形状が球面であるため、マイクロレンズ15の頂点と発光領域17の中心もある距離離れている。
【0023】
本実施形態において、マイクロレンズ15のピッチ(基板8の発光素子10が配置される面の平面視において、隣り合うマイクロレンズの中心間の距離)は一定である。また、発光素子10のピッチ(基板8の発光素子10が配置される面の平面視において、隣り合う発光素子10の発光領域の中心間距離)も一定であり、マイクロレンズ15のピッチと一致している。よって、マイクロレンズ15と発光領域17は、一定の距離(ずれ量)でずれて配置されている。すなわち、本実施形態では、平面視におけるマイクロレンズ15の中心と発光領域17の中心との距離(マイクロレンズずれ量)が各画素において一定である例を示している。
【0024】
有機層12が白色光を発光する層で構成される場合、
図3(b)に示したように、発光素子10とマイクロレンズ15の間にカラーフィルタ20を設けてもよい。
図3(b)は、カラーフィルタ20が発光領域17に対してずれるように配置された例を示している。すなわち、基板8の発光素子10が配置される面の平面視において、カラーフィルタ20の中心21と発光領域17の中心18はある距離離れている。ただし、色ずれを抑制するために、カラーフィルタ20は発光領域17に対してずらさないように配置されていてもよい。つまり、基板8の発光素子10が配置される面の平面視において、カラーフィルタ20の中心21と発光領域17の中心位置18は一致するように配置されてもよい。
【0025】
図3(c)は、カラーフィルタ及びマイクロレンズの形態が異なる発光装置の断面模式図である。マイクロレンズ15’は、他の実施形態とは異なり、紙面下方向に凸の形状である。紙面下方向とは半透過電極から反射電極へ向かう方向ということもできる。マイクロレンズ15’と保護層14との間は、空隙であっても、他の物質を充填してもよい。ただし、マイクロレンズの屈折率n1とマイクロレンズ下部の媒質の屈折率n2は、n2<n1の関係が望ましい。また、
図3(c)において、カラーフィルタ20はマイクロレンズ15’の上部に配置されているが、マイクロレンズ15’と保護層14との間に配置してもよい。なお、マイクロレンズ15’の中心とは、平面視において端部を結ぶ線で構成された形状(外形)の重心である。マイクロレンズ15’の端部とは、マイクロレンズ15の断面図においてZ方向の高さが最も低い位置である。
図3(c)では、マイクロレンズ15’の断面が球面形状(一部欠けている球面、半球も球面形状に含む)であり、この場合、マイクロレンズ15’の中心はマイクロレンズ15’の頂点と一致する。
【0026】
基板8は第1電極11、有機層12、第2電極13を支持できる材料であればよい。例えば、ガラス、プラスチック、シリコン等を用いることができる。基板8にはトランジスタ等のスイッチング素子や配線や層間絶縁膜(不図示)などが配置されていてもよい。
【0027】
第1電極11は、透明であっても、不透明であってもよい。不透明である場合には、発光波長での反射率が70%以上の金属材料が望ましい。AlやAgなどの金属やそれらにSi、Cu、Ni、Ndなどを添加した合金、また、ITO、IZO、AZO、IGZOを使用することができる。なお、ここでの発光波長とは、有機層12から発光されるスペクトル範囲のことを意味する。第1電極11は、所望の反射率よりも高ければ、Ti、W、Mo、Auなどの金属やその合金などのバリア電極との積層電極としてもよく、ITO、IZOなどの透明酸化膜電極との積層電極としてもよい。
【0028】
一方、第1電極11が透明電極である場合には、第1電極11の下部に更に反射層を設ける構成としてもよい。透明電極としては、例えば、ITO、IZO、AZO、IGZOなどを使用することができる。光学距離を最適化する目的で、反射層と透明電極の間に更に絶縁膜を設ける構成としてもよい。
【0029】
第2電極13は、有機層12上に配置されていて、透光性を有している。第2電極13はその表面に到達した光の一部を透過するとともに他の一部を反射する性質(すなわち半透過反射性)を持った半透過材料であってもよい。第2電極13の材料としては、例えば、透明導電酸化物のような透明材料を用いることができる。また、アルミニウムや銀や金などの単体金属、リチウムやセシウムなどのアルカリ金属、マグネシウムやカルシウムやバリウムなどのアルカリ土類金属、これらの金属材料を含んだ合金材料からなる半透過材料を用いることができる。半透過材料としては、特にマグネシウムや銀を主成分とする合金が好ましい。また第2電極13は、好ましい透過率を有するならば、上記材料を有する層の積層構成であってもよい。また、第2電極13は、複数の発光素子10によって共有されていてもよい。
【0030】
第1電極11または第2電極13のいずれかが陽極であり、他方が陰極として機能する。すなわち、第1電極11が陽極であり、第2電極13が陰極であってもよく、その逆であってもよい。有機層12は、第1電極11上に配置されていて、蒸着法やスピンコート法など公知の技術により形成することができる。
【0031】
有機層12は、複数の層から構成されていてもよい。有機層12が有機化合物層である場合には、複数の層としては、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層のいずれか1つ又はその組み合わせが挙げられる。
【0032】
発光層は、陽極から注入された正孔と陰極から注入された電子が有機化合物層において再結合することで、光を出射する。発光層の構成は単層でも複数層でもよい。各発光層のいずれかに赤色発光材料、緑色発光材料、赤色発光材料を有することができ、各発光色を混合することで、白色光を得ることも可能である。また、各発光層のいずれかに、青色発光材料と黄色発光材料などの補色同士の関係の発光材料を含んでいてもよい。発光材料は蛍光材料や燐光材料や遅延蛍光材料などの材料でもよく、CdSやペロブスカイトなどの量子ドットでもよい。また、画素ごとに発光層に含まれる材料や構成を変更することで異なる色を発光してもよい。また、発光素子10の1つ1つに発光層を設けてもよい。その場合、発光素子10ごとに、発光層をパターニングしてもよい。
【0033】
保護層14は、絶縁層であり、透光性を有し、外部からの酸素や水分の透過性が低い無機材料を含むことが好ましい。例えば、保護層14は、シリコン窒化物(SiN)、シリコン酸窒化物(SiON)、シリコン酸化物(SiOx)、アルミニウム酸化物(Al2O3)、チタン酸化物(TiO2)などの無機材料を用いて作成することができる。特に保護性能の面において、SiN、SiON,Al2O3の無機材料が好ましい。保護層14の形成には化学気相堆積法(CVD法)、原子層堆積法(ALD法)、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0034】
保護層14は、十分な水分遮断性能があれば、単層構造であっても、上記材料や形成手法を組み合わせた積層構造であってもよい。例えば、窒化シリコンの層と、原子堆積法による密度が高い層との積層であってよい。さらに、保護層14は、水分の遮断性能を保持していれば、有機層を有していてもよい。有機層は例えば、ポリアクリレート、ポリイミド、ポリエステル、エポキシ等が挙げられる。さらに、複数の発光素子10にまたがって保護層14が配置されていてもよい。保護層14の凹凸を平坦化する目的で、保護層14とマイクロレンズ15の間に平坦化層を形成してもよい。また、マイクロレンズ15と保護層14の間、またはマイクロレンズ15と平坦化層の間にカラーフィルタが配置されていてもよい。
【0035】
マイクロレンズ15は、露光及び現像プロセスで形成することができる。具体的には、マイクロレンズを形成するための材料による膜(フォトレジスト膜)を形成し、連続的な階調変化を有するマスクを用いて、フォトレジスト膜の露光および現像を行う。このようなマスクとしては、グレーマスク、或いは、露光装置の解像度以下の遮光膜からなるドットの密度分布を変化させることで結像面に連続した階調の光照射を可能とする面積階調マスクを用いることができる。
【0036】
また、露光および現像プロセスで形成したマイクロレンズに対して、エッチバックを行うことにより、レンズ形状を調整することが可能である。マイクロレンズの形状は、放射光を屈折させることができる形状であればよく、球面であっても、断面形状が非対称であってもよい。
【0037】
次に、本実施形態の効果について、基板とは逆側に凸のマイクロレンズを有する発光素子の例を用いて説明する。本実施形態の効果は、マイクロレンズの凸形状の方向によらない。つまり、
図3(c)に示したような紙面下方向に凸の形状を有するマイクロレンズでもよい。
【0038】
図4A~
図4Cは、端部領域2を
図2におけるA-A’線で切断した場合の断面図である。
図4A及び
図4Bは、それぞれマイクロレンズ15を配置しない構成及びマイクロレンズ15と発光領域17を平面視においてずらさずに重なるように配置した構成を示している。
【0039】
図4Aの放射角(放射角度)21は、正規光の主光線の空気中における放射角を表し、放射角22はゴースト光の空気中の放射角を表している。正規光とは、レンズ設計により設計された光路を通過し、観察者の瞳で像を作る光である。主光線とは、正規光のうち観察者の瞳の中心を通過する光である。光路を折りたたむ接眼光学系では、焦点距離が短くなるため、
図4Aに示したように表示領域1の端部においては、正規光の主光線の空気中における放射角は大きくなる。
【0040】
一方、ゴースト光とは発光素子から放射され、設計上意図しない光路を通過し観察者にゴーストとして観察される光である。一般的に、ゴースト光の光路は
図18及び
図23に示したように概ね表示領域1の発光素子と観察者の瞳の位置関係で決まることが多い。その場合、
図4Aに示したように、放射角は小さくなり、その方向は基板主面の法線方向に対して正規光とは反対の方向となる。
【0041】
図4Aは、マイクロレンズを配置しない場合における発光素子10から放射される光を表している。ベクトル(矢印)の方向は光の進行方向を表し、ベクトルの大きさは放射光の強度を表している。一般的に、発光素子は放射角依存性を持ち、広角になるほど放射強度は小さくなる。そのため、マイクロレンズがない場合、正規光の主光線の放射角21の方向に放射される光23は、ゴースト光の放射角22の方向に放射される放射光24に比べ弱くなる。つまり、表示領域1の端部においては、発光素子から放射される光強度は、正規光よりもゴースト光の方が強くなる。また、
図4Bに示したようにマイクロレンズ15と発光領域17を平面視において重なるように配置した場合においても同様で、正規光の主光線の放射角21の方向に放射される光25は、ゴースト光の放射角22の方向に放射される放射光26に比べ弱くなる。
【0042】
図4Cは本実施形態の場合を示し、マイクロレンズ15と発光領域17がある距離でずれて配置されている場合を示している。マイクロレンズ15を発光領域17に対して矢印Bで示す方向にずらして配置することにより、マイクロレンズ15の面28を介して光が屈折し、正規光の主光線の放射角21の方向へ放射される光27の強度が飛躍的に増加する。同時にゴースト光の放射角22に向かう光の強度は著しく低下する。それは、ゴースト光が、主に隣接したマイクロレンズ15の面29において広角側に屈折すること、もしくは全反射によりマイクロレンズ内に閉じ込められることによる。ここで面28及び面29は、
図4Cのマイクロレンズ15の平面図である
図4Cの右上図に示したように、マイクロレンズ15の中心を通り矢印Bの方向と直交する面を境界として、それぞれ矢印Bに対して逆方向及び順方向の面のことを指す。
【0043】
このように、マイクロレンズ15と発光領域17とを、ある距離ずれて配置することにより、表示領域1の端部において、正規光の発光強度を増加させることができるだけでなく、同時にゴースト光を低減することが可能となる。
【0044】
図5Aは、発光領域17とマイクロレンズ15と正規光の出射角の関係を表した断面図である。
図5A~5Cでは、高さh、半径r、屈折率nのマイクロレンズ15が配置されている。
【0045】
発光領域17から角度θ1で光が出射され、マイクロレンズ15のA点によって角度θ2の方向に曲げられている。このときの基板8の法線に対する点Aにおけるマイクロレンズ表面の法線の傾きを角度αとする。α+θ1をβとおくと、スネルの法則により、以下の式(1)が成り立つ。
【0046】
1×sin(θ2+α)=n×sinβ=n×sin(θ1+α) …(1)
式(1)をθ1について解くと、θ1は式(2)で表される。
【0047】
θ1=sin
-1{sin(θ2+α)/n}-α …(2)
図5Aに示したように、発光領域17からの光を広角側へ出射したい場合(θ2>θ1としたい場合)、αが正の領域、すなわち
図5Aにおけるマイクロレンズ15の頂点より右側の領域、つまり面28に入射する光が主に利用されることとなる。
【0048】
マイクロレンズ15の端部まで有効に利用するため、正規光の主光線の放射角θ2に対してマイクロレンズ15の全領域においてα<θ2であることが望ましい。
【0049】
ここで、マイクロレンズ15の頂点の発光領域17の中心からのずれ量をΔMLとする。所望の出射角θ2の出射強度を強めるためには、マイクロレンズ15上の各点におけるαに対して上記式(2)を満たすθ1およびβが計算され、いずれかのβの方向に発光領域Xが存在するようΔMLが設定されればよい。言い換えれば、
図5Aに示した発光領域17に対する発光領域Xの割合が大きくなるほど、正規光の光強度は増加する。
【0050】
一方、
図5Bは、発光領域17とマイクロレンズ15とゴースト光の出射角の関係を表した断面図である。発光領域から角度θ1’及び角度θ1”で光が出射され、それぞれマイクロレンズの点A’及び点A”点において角度θ2’の方向に光が曲げられる。このときの基板8の法線に対する点A及び点A”におけるマイクロレンズ表面の法線の傾きをそれぞれ角度α’及びα”とする。正規光の場合と同様にθ1’,θ1”は、式(3)、式(4)で表される。
【0051】
θ’1=sin-1{sin(θ2’+α’)/n}-α’ …(3)
θ”1=sin-1{sin(θ2’+α”)/n}-α” …(4)
ゴースト光である出射角θ2’の光の出射強度を弱めるためには、発光領域Y1及びY2が発光領域17と重ならないことが望ましい。具体的には、式(3)及び(4)から求められるθ1’、θ1“を大きくすればよい。θ1’、θ1“を大きくすると、発光素子から放射される光強度が低下するためである。また、ある臨界角を超えると、内部で全反射が生じ、マイクロレンズまで光が到達しない。
【0052】
このように、発光領域17に対して、正規光として放射される発光領域Xを大きくとると共に、ゴースト光となる方向に放射される発光領域Y1及びY2が小さくなるようにずれ量ΔMLを決定すればよい。本実施形態では、開口形状を適宜最適化すればよく、形状は、円形、六角形、楕円形状等でもよい。例えば、Xを大きくし、Y1及びY2が小さくなるように発光画素の開口形状を形成してもよい。
【0053】
図5Cに示したように、表示領域1の端部2(
図1参照)におけるずれ量ΔMLの範囲は、マイクロレンズ15の高さをh、第1電極11からマイクロレンズ15の底面までの高さをL、マイクロレンズ15の中心位置19と発光領域17の中心位置18を結ぶ直線の基板8の法線方向に対する傾き角をφ1=arctan(ΔML/(h+L))[度]とするとき、式(5)を満たすことが望ましい。
【0054】
6.0° ≦φ1≦37.5° …(5)
次に、カラーフィルタのずれ量ΔCFについて説明する。有機層12が白色光を発光する層で構成される場合、
図3(b)に示したように、発光素子10とマイクロレンズ15の間にカラーフィルタ20を設けてもよい。表示領域1の端部2におけるΔCFの範囲は、第1電極11からカラーフィルタ20の上面までの高さをL2、カラーフィルタ20の上面の中心位置21と発光領域17の中心位置18を結ぶ直線の基板8の法線方向に対する傾き角をφ2=arctan(ΔCF/L2)[度]とし、φ1とφ2の比AをA=φ2/φ1とするとき、式(6)を満たすことが望ましい。
【0055】
0 ≦A≦0.85 …(6)
図6A及び
図6Bは、表示領域1の端部2における発光領域17とマイクロレンズ15の位置関係を表した断面図であり、正規光の放射角21の方向に放射される成分を示している。
図6Aは、式(6)を満たさない例としてA=1の場合を示している。
図5Aで説明したように、正規光の放射角21の方向へ放射される光は、マイクロレンズ15の面28を介する放射光32が主であるが、一部面29を通過した放射光33が存在する。放射光33の発光強度は、基板8の法線方向からの放射角が大きいため、放射光32の発光強度に比べ小さい。しかしながら、放射角が大きいため、放射光33の色ずれ度合いは放射光32に比べて大きい。そのため、
図6Aのように、カラーフィルタ20をマイクロレンズ15と同じ割合(A=1)だけずらした場合、放射光33により色ずれが大きくなる。ここで、色ずれとは表示領域1の中央における基板8の法線方向の色度と、表示領域1の端部2から発せられ、放射角21の方向の放射光の色度の差である。
【0056】
一方、
図6Bは、式(6)を満たす場合の表示領域1の端部2における発光領域17とマイクロレンズ15の位置関係を表した断面図である。
図6Bからわかるように、ずれ量ΔCFを小さくすることにより、色ずれが大きな放射光33をカラーフィルタで遮ることが可能となるため、色ずれが抑制されやすい。詳細は後述するが、ずれ量ΔML及びΔCFを適宜最適化することにより、ゴースト光の発光強度を抑制しつつ、色ずれを抑制することが可能となる。
【0057】
ただし、
図3(c)で示したように紙面下方向に凸の形状のマイクロレンズの上部にカラーフィルタを配置した場合、必ずしも式(6)の関係式を満たす必要はなく、A=1としてもよい。それは、
図6Bで示した広角側に放射される放射光33が保護層とマイクロレンズと間にある低屈折率媒質で全反射され、マイクロレンズに届かないためである。
【0058】
本実施形態では、表示領域1内の位置ごとにずれ量ΔMLを接眼光学系の設計に合わせて適宜調整する。
図7は、表示領域1をE-E’線で切断した場合の、マイクロレンズ15と発光領域17の位置関係を表した断面図である。ここでは、これまでと同様に基板とは逆側に凸のマイクロレンズを有する発光素子の例を用いて説明する。本実施形態の効果は、マイクロレンズの凸形状の方向によらない。つまり、
図3(c)に示したような紙面下方向に凸の形状を有するマイクロレンズでもよい。
【0059】
図7に示したように、表示領域1の中心位置でのずれ量ΔML(34)を0とし、表示領域1の端部に向かって、ずれ量ΔMLがΔML(35)、ΔML(36)、ΔML(37)のように大きくなるようにマイクロレンズ15を配置してもよい。
図18及び
図23で示したように、ゴースト光の量は、表示領域1における発光素子17の位置と観察者の瞳の直線関係で主に決まる。そのため、ずれ量ΔML(34)からΔML(37)は、発光素子17の位置の関数として線形に増加させればよい。また、ずれ量ΔMLは、発光素子17の位置に対して巨視的に見て連続に変化するように形成されればよい。巨視的に見て連続であればよく、1画素ごとにずれ量を変えてもよいし、ある範囲においてステップ状に変化させてもよい。ある範囲を1画素ずつ変化させ、残りの範囲においてステップ状に変化させてもよい。ただし、焦点距離をより小さくすると、表示素子100に近いレンズ面の非球面形状の変化が大きくなり、ゴースト光の放射角が表示領域1の端部になるにつれ、変化率が大きくなることがある。その場合、ゴースト光の放射角の変化率に合わせて、ずれ量ΔMLの変化率を大きくしてもよい。また、
図7では表示領域1の中央におけるずれ量ΔML(34)が0の場合を示したが、必ずしも0でなくてもよい。また、表示領域1において一律でずれ量ΔMLを一定にしてもよい。
【0060】
接眼光学系を有する画像観察装置において、
図7に示したように、表示領域1の端部に向かってずれ量ΔMLが増加するような場合において、
図8の水平端部38もしくは上下端部39の視野角特性が最もよくなるようにずれ量ΔMLの値が設計される。その場合に、
図8(a)の対角領域40,41,42,43では、ずれ量ΔMLが発光素子のピッチDと近い値となる場合があり、ゴースト光の発光強度が大きくなることがある。そのような場合においては、
図8(a)に示したように、表示領域1の対角領域40,41,42,43の少なくとも1つの領域において、発光素子を配置しなくてもよい。
【0061】
全ての対角領域に発光素子を配置しない場合、表示領域は領域44のように8角形(n角形)となる。また、対角領域40及び42のみ発光素子を配置しない場合には、領域41,43,44で構成される6角形となる。
図8(a)と同様に、
図8(b)の対角領域45,46,47,48の少なくとも一つに発光素子とマイクロレンズの1つまたは両方を配置しなくてもよい。つまり、すべての対角領域に発光素子を配置しない場合、表示領域は領域49のように6角形となる。発光素子を配置しない領域には、マイクロレンズを配置してもよいし、配置しなくてもよい。本実施形態の発光素子及びマイクロレンズの配置は、光学設計により適宜調整すればよく、対角領域に発光素子を配置し、マイクロレンズのみを配置しない構成でもよい。
【0062】
もしくは、水平端部38及び上下端部39でのマイクロレンズのずれ量ΔMLよりも大きくならないように、対角領域40,41,42,43(もしくは、45,46,47,48)におけるマイクロレンズのずれ量ΔMLを一定にし、端部38もしくは端部39のずれ量と一致させてもよい。
【0063】
以上説明したように、表示領域1の端部において、発光領域17とマイクロレンズ15を基板8の主面に平行な方向にずらすことにより、光路を折りたたむ接眼光学系の正規光の発光強度を増加させ、ゴーストを低減することができる。
【0064】
次に、上記表示素子が様々な光路を折りたたむ接眼光学系において効果的であることをいくつかの実施形態を用いて説明する。実施形態1及び実施形態2では、偏光を利用した偏光光学系に適用した例を示す。実施形態3では、自由曲面プリズムに適用した例を示す。併せて、光路を折りたたむ接眼光学系の望ましい形態についても各実施形態において説明する。ここで説明する各実施形態は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施形態に対して種々の変形や変更が可能である。
【0065】
ここで、本実施形態に係る表示装置の構成について説明する。
【0066】
図9は、本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。表示装置1000は、上部カバー1001と、下部カバー1009と、の間に、タッチパネル1003、表示素子100を備える表示パネル1005、フレーム1006、回路基板1007、バッテリー1008、を有してよい。タッチパネル1003および表示パネル1005は、フレキシブルプリント回路FPC1002、1004が接続されている。回路基板1007には、トランジスタがプリントされている。バッテリー1008は、表示装置が携帯機器でなければ、設けなくてもよいし、携帯機器であっても、別の位置に設けてもよい。
【0067】
本実施形態に係る表示装置は、赤色、緑色、青色を有するカラーフィルタを有してよい。カラーフィルタは、当該赤色、緑色、青色がデルタ配列で配置されてよい。
【0068】
本実施形態に係る表示装置は、携帯端末の表示部に用いられてもよい。その際には、表示機能と操作機能との双方を有してもよい。携帯端末としては、スマートフォン等の携帯電話、タブレット、ヘッドマウントディスプレイ等が挙げられる。
【0069】
本実施形態に係る表示装置は、複数のレンズを有する光学部と、当該光学部を通過した光を受光する撮像素子とを有する撮像装置の表示部に用いられてよい。撮像装置は、撮像素子が取得した情報を表示する表示部を有してよい。また、表示部は、撮像装置の外部に露出した表示部であっても、ファインダ内に配置された表示部であってもよい。撮像装置は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラであってよい。
【0070】
図10(a)は、本実施形態に係る撮像装置の一例を表す模式図である。撮像装置1100は、ビューファインダ1101、背面ディスプレイ1102、操作部1103、筐体1104を有してよい。ビューファインダ1101は、本実施形態に係る表示装置を有してよい。その場合、表示装置は、撮像する画像のみならず、環境情報、撮像指示等を表示してよい。環境情報には、外光の強度、外光の向き、被写体の動く速度、被写体が遮蔽物に遮蔽される可能性等であってよい。
【0071】
撮像に好適なタイミングはわずかな時間なので、少しでも早く情報を表示した方がよい。したがって、本発明の有機発光素子を用いた表示装置を用いるのが好ましい。有機発光素子は応答速度が速いからである。有機発光素子を用いた表示装置は、表示速度が求められる、これらの装置、液晶表示装置よりも好適に用いることができる。
【0072】
撮像装置1100は、不図示の光学部を有する。光学部は複数のレンズを有し、筐体1104内に収容されている撮像素子に結像する。複数のレンズは、その相対位置を調整することで、焦点を調整することができる。この操作を自動で行うこともできる。撮像装置は光電変換装置と呼ばれてもよい。光電変換装置は逐次撮像するのではなく、前画像からの差分を検出する方法、常に記録されている画像から切り出す方法等を撮像の方法として含むことができる。
【0073】
図10(b)は、本実施形態に係る電子機器の一例を表す模式図である。電子機器1200は、表示部1201と、操作部1202と、筐体1203を有する。筐体1203には、回路、当該回路を有するプリント基板、バッテリー、通信部、を有してよい。操作部1202は、ボタンであってもよいし、タッチパネル方式の反応部であってもよい。操作部は、指紋を認識してロックの解除等を行う、生体認識部であってもよい。通信部を有する電子機器は通信機器ということもできる。電子機器は、レンズと、撮像素子とを備えることでカメラ機能をさらに有してよい。カメラ機能により撮像された画像が表示部に映される。電子機器としては、スマートフォン、ノートパソコン等があげられる。
【0074】
図11は、本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。
図11(a)は、テレビモニタやPCモニタ等の表示装置である。表示装置1300は、額縁1301を有し表示部1302を有する。表示部1302には、本実施形態に係る発光装置が用いられてよい。
【0075】
額縁1301と、表示部1302を支える土台1303を有している。土台1303は、
図11(a)の形態に限られない。額縁1301の下辺が土台を兼ねてもよい。
【0076】
また、額縁1301および表示部1302は、曲がっていてもよい。その曲率半径は、5000mm以上6000mm以下であってよい。
【0077】
図11(b)は本実施形態に係る表示装置の他の例を表す模式図である。
図11(b)の表示装置1310は、表示面が折り曲げ可能に構成されており、いわゆるフォルダブルな表示装置である。表示装置1310は、第一表示部1311、第二表示部1312、筐体1313、屈曲点1314を有する。第一表示部1311と第二表示部1312とは、本実施形態に係る発光装置を有してよい。第一表示部1311と第二表示部1312とは、つなぎ目のない1枚の表示装置であってよい。第一表示部1311と第二表示部1312とは、屈曲点で分けることができる。第一表示部1311、第二表示部1312は、それぞれ異なる画像を表示してもよいし、第一および第二表示部とで一つの画像を表示してもよい。
【0078】
図12(a)は、本実施形態に係る照明装置の一例を表す模式図である。照明装置1400は、筐体1401と、表示素子100を備える光源1402と、回路基板1403と、光学フィルム1404と、光拡散部1405と、を有してよい。光源は、本実施形態に係る有機発光素子を有してよい。光学フィルタは光源の演色性を向上させるフィルタであってよい。光拡散部は、ライトアップ等、光源の光を効果的に拡散し、広い範囲に光を届けることができる。光学フィルタ、光拡散部は、照明の光出射側に設けられてよい。必要に応じて、最外部にカバーを設けてもよい。
【0079】
照明装置は例えば室内を照明する装置である。照明装置は白色、昼白色、その他青から赤のいずれの色を発光するものであってよい。それらを調光する調光回路を有してよい。照明装置は本発明の有機発光素子とそれに接続される電源回路を有してよい。電源回路は、交流電圧を直流電圧に変換する回路である。また、白とは色温度が4200Kで昼白色とは色温度が5000Kである。照明装置はカラーフィルタを有してもよい。
【0080】
また、本実施形態に係る照明装置は、放熱部を有していてもよい。放熱部は装置内の熱を装置外へ放出するものであり、比熱の高い金属、液体シリコン等が挙げられる。
【0081】
図12(b)は、本実施形態に係る移動体の一例である自動車の模式図である。当該自動車は灯具の一例であるテールランプを有する。自動車1500は、テールランプ1501を有し、ブレーキ操作等を行った際に、テールランプを点灯する形態であってよい。
【0082】
テールランプ1501は、本実施形態に係る有機発光素子を有してよい。テールランプは、有機EL素子を保護する保護部材を有してよい。保護部材はある程度高い強度を有し、透明であれば材料は問わないが、ポリカーボネート等で構成されることが好ましい。ポリカーボネートにフランジカルボン酸誘導体、アクリロニトリル誘導体等を混ぜてよい。
【0083】
自動車1500は、車体1503、それに取り付けられている窓1502を有してよい。窓は、自動車の前後を確認するための窓でなければ、透明なディスプレイであってもよい。当該透明なディスプレイは、本実施形態に係る有機発光素子を有してよい。この場合、有機発光素子が有する電極等の構成材料は透明な部材で構成される。
【0084】
本実施形態に係る移動体は、船舶、航空機、ドローン等であってよい。移動体は、機体と当該機体に設けられた灯具を有してよい。灯具は、機体の位置を知らせるための発光をしてよい。灯具は本実施形態に係る有機発光素子を有する。
【0085】
図13は、本発明の一実施形態に係る発光装置を適用したウェアラブルデバイスの一例であり、眼鏡型の表示装置の模式図である。表示装置は、例えばスマートグラス、HMD、スマートコンタクトのようなウェアラブルデバイスとして装着可能なシステムに適用できる。このような適用例に使用される撮像表示装置は、可視光を光電変換可能な撮像装置と、可視光を発光可能な表示装置とを有してよい。
【0086】
図13(a)は、1つの適用例に係る眼鏡1600(スマートグラス)を説明する。眼鏡1600のレンズ1601の表面側に、CMOSセンサやSPADのような撮像装置1602が設けられている。また、レンズ1601の裏面側には、上述した各実施形態の表示装置が設けられている。
【0087】
眼鏡1600は、制御装置1603をさらに備える。制御装置1603は、撮像装置1602と各実施形態に係る表示装置に電力を供給する電源として機能する。また、制御装置1603は、撮像装置1602と表示装置の動作を制御する。レンズ1601には、撮像装置1602に光を集光するための光学系が形成されている。
【0088】
図13(b)は、1つの適用例に係る眼鏡1610(スマートグラス)を説明する。眼鏡1610は、制御装置1612を有しており、制御装置1612に、撮像装置1602に相当する撮像装置と、表示装置が搭載される。レンズ1611には、制御装置1612内の撮像装置と、表示装置からの発光を投影するための光学系が形成されており、レンズ1611には画像が投影される。制御装置1612は、撮像装置および表示装置に電力を供給する電源として機能するとともに、撮像装置および表示装置の動作を制御する。制御装置は、装着者の視線を検知する視線検知部を有してもよい。視線の検知は赤外線を用いてよい。赤外発光部は、表示画像を注視しているユーザーの眼球に対して、赤外光を発する。発せられた赤外光の眼球からの反射光を、受光素子を有する撮像部が検出することで眼球の撮像画像が得られる。平面視における赤外発光部から表示部への光を低減する低減手段を有することで、画像品位の低下を低減する。
【0089】
赤外光の撮像により得られた眼球の撮像画像から表示画像に対するユーザーの視線を検出する。眼球の撮像画像を用いた視線検出には任意の公知の手法が適用できる。一例として、角膜での照射光の反射によるプルキニエ像に基づく視線検出方法を用いることができる。
【0090】
より具体的には、瞳孔角膜反射法に基づく視線検出処理が行われる。瞳孔角膜反射法を用いて、眼球の撮像画像に含まれる瞳孔の像とプルキニエ像とに基づいて、眼球の向き(回転角度)を表す視線ベクトルが算出されることにより、ユーザーの視線が検出される。
【0091】
本発明の一実施形態に係る表示装置は、受光素子を有する撮像装置を有し、撮像装置からのユーザーの視線情報に基づいて表示装置の表示画像を制御してよい。
【0092】
具体的には、表示装置は、視線情報に基づいて、ユーザーが注視する第一の視界領域と、第一の視界領域以外の第二の視界領域とを決定される。第一の視界領域、第二の視界領域は、表示装置の制御装置が決定してもよいし、外部の制御装置が決定したものを受信してもよい。表示装置の表示領域において、第一の視界領域の表示解像度を第二の視界領域の表示解像度よりも高く制御してよい。つまり、第二の視界領域の解像度を第一の視界領域よりも低くしてよい。
【0093】
また、表示領域は、第一の表示領域、第一の表示領域とは異なる第二の表示領域とを有し、視線情報に基づいて、第一の表示領域および第二の表示領域から優先度が高い領域を決定される。第一の視界領域、第二の視界領域は、表示装置の制御装置が決定してもよいし、外部の制御装置が決定したものを受信してもよい。優先度の高い領域の解像度を、優先度が高い領域以外の領域の解像度よりも高く制御してよい。つまり優先度が相対的に低い領域の解像度を低くしてよい。
【0094】
なお、第一の視界領域や優先度が高い領域の決定には、AIを用いてもよい。AIは、眼球の画像と当該画像の眼球が実際に視ていた方向とを教師データとして、眼球の画像から視線の角度、視線の先の目的物までの距離を推定するよう構成されたモデルであってよい。AIプログラムは、表示装置が有しても、撮像装置が有しても、外部装置が有してもよい。外部装置が有する場合は、通信を介して、表示装置に伝えられる。
【0095】
視線検知に基づいて表示制御する場合、外部を撮像する撮像装置を更に有するスマートグラスに好ましく適用できる。スマートグラスは、撮像した外部情報をリアルタイムで表示することができる。
【0096】
以上説明した通り、本実施形態に係る有機発光素子を用いた装置を用いることにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【0097】
次に、本実施形態の表示素子と光路を折りたたむ接眼光学系とを組み合わせた例について説明する。
【0098】
図14は、本実施形態の画像観察装置としてのHMD(ヘッドマウントディスプレイ)101の構成を示す図である。HMD101は、観察者の頭部に装着される。符号102は観察者の右眼を示し、符号103は観察者の左眼を示す。表示レンズ104,105は右眼用接眼光学系OR1を構成し、表示レンズ106,107は左眼用接眼光学系OL1を構成する。各接眼光学系は、複数(2つ)の表示レンズにより構成された共軸の光学系である。右眼用接眼光学系OR1の射出瞳ER1には観察者の右眼102が配置され、左眼用接眼光学系OL1の射出瞳EL1には観察者の左眼103が配置される。
【0099】
符号108は右眼用表示素子を示し、符号109は左眼用表示素子を示す。各表示素子108,109は、平板型の表示素子であり、本実施形態では有機EL素子を用いている。
図15は、HMD101とこれに接続されたパーソナルコンピュータ150の外観を示す図である。各表示素子は、パーソナルコンピュータ150から出力された画像信号に対応する表示画像(原画像)を表示する。HMD101は画像処理装置を内部に搭載し、スタンドアローンで動作するデバイスであってもよい。
【0100】
接眼光学系OR1,OL1はそれぞれ、表示素子108,109からの光を射出瞳ER1,EL1に導くことで、表示画像の拡大虚像を観察者の右眼102と左眼103に投影する。これにより、観察者は、表示素子108,109に表示された表示画像(の虚像)を接眼光学系OR1,OL1を通して観察することができる。
【0101】
本実施形態において、各接眼光学系の焦点距離は12mm、水平表示画角は45°、垂直表示画角は34°、対角表示画角は54°である。各接眼光学系における最も射出瞳側の面(後述する偏光分離素子114の射出瞳側の面)と各接眼光学系の射出瞳との距離であるアイレリーフE1は、18mmである。
【0102】
本実施形態における右眼用および左眼用接眼光学系ОR1,OL1は偏光を利用して光路を折り畳む光学系であり、その構成について右眼用接眼光学系ОR1を用いて説明する。左眼用接眼光学系OL1についても同様であるため、説明は省略する。
【0103】
図16に示すように、右眼用接眼光学系ОR1は、右眼用表示素子108から射出瞳ER1に向かって順に配置された偏光板110、第1の位相板111、表示レンズ105、表示レンズ104、第2の位相板113および偏光分離素子(以下、PBSという)114を有する。表示レンズ104における表示素子側の面には、半透過反射面としてのハーフミラー112が形成されている。また第2の位相板113とPBS114は、表示レンズ104における射出瞳側の面上に積層されるように設けられている。
【0104】
偏光板110、第1の位相板111、第2の位相板113およびPBS114はいずれも平板状に形成されている。偏光板110を透過する第1の直線偏光の偏光方向と第1の位相板111の遅相軸とは45°傾いており、偏光板110を透過する第1の直線偏光の偏光方向と第2の位相板113の遅相軸とは-45°(すなわち第1の直線偏光の偏光方向に対して第1の位相板111の遅相軸とは反対方向に同角度だけ)傾いている。また偏光板110を透過する第1の直線偏光の偏光方向とPBS114を透過する第2の直線偏光の偏光方向とは互いに直交している。
【0105】
右眼用表示素子108から出射した無偏光光は、偏光板110を透過して直線偏光となり、第1の位相板111を透過して円偏光となって表示レンズ105を透過する。さらに円偏光は、ハーフミラー112を透過した後、表示レンズ104を透過し、第2の位相板113を透過して第1の直線偏光になる。この第1の直線偏光は、PBS114を透過する偏光方向に対して直交する偏光方向を有するため、PBS114で反射して第2の位相板113を透過して円偏光となる。この円偏光は、表示レンズ104を透過した後、ハーフミラー112で反射し、再度、表示レンズ104を透過し、第2の位相板113を透過して第2の直線偏光になる。この第2の直線偏光は、PBS114を透過する偏光方向と一致する偏光方向を有するため、PBS114を透過して射出瞳ER1(右眼102)に導かれる。左眼用表示素子109から出射した光も、同様に左眼用接眼光学系OL1により射出瞳EL1(左眼103)に導かれる。
【0106】
このように、各接眼光学系を、偏光を利用して光路を折り畳むように構成することにより、各接眼光学系を光軸方向において薄型化することができ、かつ各接眼光学系の焦点距離を短くして広画角な画像の観察を可能とすることができる。
【0107】
HMDは、観察者が頭部に装着するために軽量であることが望ましい。このため、接眼光学系を構成する表示レンズや撮像光学系を構成する撮像レンズは、硝子よりも比重が小さい樹脂により製作することが望ましい。このため、本実施形態でも、表示レンズ104~107は樹脂レンズとしている。また最も射出瞳側の表示レンズ104,106を表示素子側に向かって凸面を有する平凸レンズとして、その凸面にハーフミラー112を設けることにより、接眼光学系を薄型化しつつ広画角化を実現している。さらに表示レンズ104,106の凸面を非球面形状とすることにより、収差補正効果を高めている。また、表示レンズ105,107を樹脂製の両面非球面レンズとして、収差補正効果を高めている。
【0108】
ただし、表示レンズ105,107は外径が小さく、重量への影響が小さいため、ガラスレンズとしてもよい。またHMD101の全体の重量が許容範囲であれば、表示レンズ104,106もガラスレンズとしてもよい。
【0109】
本実施形態のHMD101では、眼鏡を掛けている観察者でも装着できるように、アイレリーフE1は15mm以上であることが望ましい。一方、アイレリーフが長すぎると、表示レンズの外形が大きくなりHMDも大型化するため、アイレリーフは25mm以下であることが望ましい。すなわち、アイレリーフE1は、
15mm≦E1≦25mm (7)
なる条件を満足するとよい。
【0110】
また、本実施形態のHMD101では、
図17に示すように、右眼102の眼球(瞳)が右眼用表示素子108の表示面の左右の端部を向いている(見ている)状態での右眼用接眼光学系OR1の射出瞳ER1’の位置、すなわちアイレリーフE1’を、
図14に示すように眼球が表示面の中心部を向いている状態でのアイレリーフE1=18mmに眼球の回転半径10mmを加えた28mmに設定し、射出瞳径を6mmに設定している。左眼用接眼光学系OL1の射出瞳についても同様である。このように設定することにより、表示面の左右の端部(同様に上下の端部)を観察するために眼球が回転した場合でも、眼球が向いた方向からの光を眼球に入射させることができる。
【0111】
本実施形態の接眼光学系のようにアイレリーフが長く、焦点距離が短く、かつ薄い接眼光学系においては、表示画角のうち周辺画角において表示素子(表示面)からの光の出射角が大きくなる。表示面からの光の出射角が大きいと、表示輝度や表示色度などの視野角特性が低下して、観察される画像が暗くなったり正しい色の画像を観察できなくなったりする。
【0112】
右眼用接眼光学系OR1において、右眼用表示素子(表示面)108から出射して接眼光学系OR1の射出瞳ER1(ER1’)の中心を通る光線を主光線とする。このとき、本実施形態では、
図14に示すように眼球が表示面の中心部を向いている場合(以後、正面視状態)の左右方向(水平方向)の最大周辺画角22.5°の主光線が表示面から出射するときの出射角は、表示素子の右端及び左端でそれぞれ18°及び-18°である。一方、
図17に示すように眼球が表示面の水平方向の右方向端部及び左方向端部を向いている場合(以下、それぞれ右端視状態、左端視状態という)の水平方向の最大周辺画角22.5°の主光線が表示面から出射するときの出射角はそれぞれ37°及び-37°である。本実施形態では、正面視状態における垂直方向での最大周辺画角17°の主光線の表示素子(表示面)108からの出射角は14°であり、眼球が垂直方向の上端部や下端部を向いている場合(以下、上端視状態、下端視状態という)における垂直方向での最大周辺画角17°の主光線の表示面からの出射角の絶対値は29°である。ただし、正面視状態、上端視状態及び下端視状態の主光線は、ともに表示素子の外側に倒れた設計となっている。
【0113】
表示面からの出射角は、表示素子中央では基板8の法線方向(0°)であり、表示画角(表示素子の位置)に対して概ね線形で増加する。また、放射方向は、表示素子の外側へ倒れる方向である。そのため、表示素子のマイクロレンズの配置は、
図7に示したように、表示素子の中央でのマイクロレンズのずれ量ΔMLを0とし、端部に向かうほどΔMLが大きくなる配置が望ましい。つまり、表示素子の水平方向の右方向端部及び左方向端部に向かうほど、マイクロレンズ及びカラーフィルタは発光領域(画素)の位置に対して右側及び左側へのずれ量が大きくなるように配置される。同様に、表示素子の上端部及び下端部に向かうほど、マイクロレンズ及びカラーフィルタは発光領域に対して上側及び下側へのずれ量が大きくなるように配置される。本実施形態では、表示装置の最大画角及び主光線の放射角の関係が、左右方向と上下方向で概ね線形の関係が保たれているため、最大画角である水平端(右端視状態及び左端視状態)の視野角特性を最適化するように、マイクロレンズ及びカラーフィルタのずれ量を決定すれば、上下端の視野角特性も概ね最適な値をとる。以後、本実施形態の検討結果では、表示素子の水平端位置における右端視状態の特性について説明する。
【0114】
次に、本実施形態の接眼光学系OR1,OL1における不要光としてのゴースト光の発生について、
図16を用いて説明する。ここでも、右眼用接眼光学系OR1を用いて説明するが、左眼用接眼光学系OL1についても同様である。
【0115】
本実施形態のように偏光を利用した接眼光学系OR1では、表示レンズ104,105内での複屈折や偏光板110、位相板111,113およびPBS114の偏光特性により、表示素子108から出射した光が、
図14や
図17に示す正規の光路ではなく、
図18に示すように、PBS114で反射することなくそのまま観察者の右眼102に導かれることがある。この光がゴースト光となる。このゴースト光は、第1の位相板111を透過した円偏光の光が表示レンズ105,104内の複屈折によって楕円偏光になり、第2の位相板113を透過した後の直線偏光の偏光方向が本来の方向に対して傾き、PBS114を透過して右眼102に導かれることで発生する。また、表示レンズ104,105内の複屈折がなくても、偏光板110、位相板111,113およびPBS114の偏光特性が正確でないとゴースト光が発生する。
【0116】
図18に示したゴースト光では、正面視状態における水平方向の最大周辺画角22.5°の主光線の表示素子(表示面)108からの出射角は11°であり、
図14および
図17に示した正規の主光線の出射角とは、表示面の法線に対して反対側に傾いている。このため、上述したように正規の主光線の出射角に合わせて発光素子のマイクロレンズをずらすことにより、視野角特性を改善できるだけでなく、表示素子の端部を含む周辺部からのゴースト光の明るさを低減することができる。
【0117】
レンズ内の複屈折は、一般に、レンズの中心部から周辺部にかけて大きくなるため、レンズ内の複屈折によるゴースト光の強度も中心部から周辺部にかけて大きくなる。このため、レンズの周辺部を通過するゴースト光を低減するために、表示面の周辺部からの光の明るさを下げることが効果的である。本実施形態においては、表示素子の端部において正面視状態の正規光の主光線角をθmとし、ゴースト光の放射角をθgとするとき、接眼光学系が下記式(8)を満たすことが望ましい。
【0118】
|θm - θg | ≧15° …(8)
次に、本実施形態の表示素子と接眼光学系を組み合わせることで得られる効果について説明する。本実施形態では、
図3(b)で示した白色発光する有機機EL素子を用い、マイクロレンズ15と発光領域17との間にカラーフィルタ20を配置した構成で検討を行った。表1は、画素間ピッチDで規格化されたマイクロレンズの高さh/D、半径r/D及びカラーフィルタ上面の高さL2/Dの値を示している。
【0119】
【0120】
図19は、比較例1と実施例1での相対輝度ΔLの放射角依存性を示している。比較例1はマイクロレンズのずれ量が0の構成である。実施例1は、マイクロレンズをずらした構成であり、開口率、φ1(角度φ1)、φ2(角度φ2)、Aの値は表2に示した通りである。横軸の放射角は、表示素子108の表示面に立てた法線が延びる方向を0°の方向とし、右眼102で見て右側を正とし、左側を負としている。また、縦軸は、比較例1の0°の放射光強度を1とした相対輝度である。
図19の比較例の結果を見ると、0°をピークとして放射角が大きくなるほど発光強度は低下し、右端視状態の正規光の放射角37°において、0.3まで低下する。一方、正面視状態のゴースト光の放射角-11°においては、発光強度は0.9と高い。このように、ゴーストとなる方向の発光強度が正規光の発光強度に比べて大きくなる。これは、
図4Bで示したように、マイクロレンズのずれ量ΔMLが0であると、基板8の法線方向に光が集光され、広角側への放射光が減るため、正規光の発光強度に比べゴースト光の発光強度が大きくなるからである。一般的に、有限の発光面積から放射される光は、放射角が大きくなるほど発光強度が低下する。そのため、
図4Aで示したマイクロレンズがない構成でも、同様に正規光の発光強度に比べゴースト光の発光強度は大きくなる。
【0121】
一方、実施例1の結果を見ると、正規光の放射方向に対する放射角が大きくなるほど発光強度が増加し、右端視状態の正規光の放射角37°において、0.85まで増加する。一方、正面視状態のゴースト光の放射角-11°においては、0.32と著しく低下する。このように、正規光の発光強度をゴーストとなる方向の発光強度よりも大きくすることができる。正規光の発光強度の増加は、
図4Cで示したように、面28に入射された光27が屈折することに起因している。また、ゴースト光の発光強度の低下は、
図4Cで示したように、隣接発光素子のマイクロレンズの面29で発生する全反射もしくは広角側への屈折に起因している。ここで示した実施例1のφ1は16.7であり、マイクロレンズのずれ量の条件である式(5)を満たす。このように、
図14で示した偏光光学系に、式(5)を満たすようにマイクロレンズをずらして配した表示素子を組み合わせることにより、正規光の発光強度ΔLを増加させ、同時にゴースト光を抑制することが可能となる。
【0122】
【0123】
次に、発光素子の開口率の効果について説明する。表3は、開口率を変えた例として実施例1、実施例2、実施例3の正規光とゴースト光の発光強度ΔLを示している。開口率40%における正規光が0.82であるのに対して、開口率30%では0.85、開口率20%では0.91となった。このように開口率を小さくすることで、正規光の発光強度が増加する。これは、
図5Aに示したように、発光領域17の面積に対する領域Xの割合が大きくなることに起因している。つまり、発光領域で放射される光が高効率で正規光方向に放射されていることを示している。一方、ゴースト光の発光強度に関しては、開口率40%で0.40であるのに対して、開口率30%で0.32、開口率20%で0.22となった。このように開口率を小さくすることで、ゴースト光の発光強度が低下する。このゴースト光の発光強度低下は、
図5Bで示したゴースト光の放射領域Y1及びY2の和と発光領域17との重なりが小さくなることに起因している。つまり、
図14で示した偏光光学系において、式(5)を満たす条件で、開口率を小さくすることで、より正規光を増加させ、ゴースト光を小さくすることができる。
【0124】
【0125】
次に、表4に基づいて、カラーフィルタのずれ量ΔCFの効果について説明する。表4は、φ1を固定して、φ2を変えた場合(Aを変えた場合)における正規光の色ずれΔE及びゴースト光の発光強度ΔLを示している。また、表4には比較例1を参考値として示した。
【0126】
色ずれΔEの定義は、下記式(9)で示され、a*b*空間における色相の変化である。ここで基準となるa0及びb0は、比較例1の0°での値である。
【0127】
ΔE=√((a-a0)
2+(b-b0)
2) …(9)
A=0.84における正規光の色ずれΔEは20であるのに対して、A=0.43では18、A=0(カラーフィルタずらしなし)では17となった。つまり、カラーフィルタのずれ量を小さくすることで、正規光の色ずれΔEが小さくなった。この色ずれの低下は、
図6Bで示した、広角側へ放射される光33が隣接カラーフィルタで遮られることに起因している。一方、ゴースト光は、A=0.84で0.32、A=0.43で0.32、A=0で0.31というように、カラーフィルタのずれ量によらないことが分かった。つまり、これは、ゴースト光の発光強度を増加させることなしに、正規光の色ずれΔEを抑制できることを示している。A=0.85以下にすれば、マイクロレンズのずれ量が0の場合に比べ、正規光の色ずれΔEを小さくすることができる。つまり、式(5)を満たす条件に加え、式(6)を満たすことで、
図14に示した偏光光学系において、正規光の発光強度を確保できることとゴースト光を抑制できることに加え、色ずれΔEを小さくすること可能となる。
【0128】
【0129】
以上、
図14に示した偏光光学系における効果について説明した。今回の検討結果は、表示素子の右端部における右端視状態の主光線の角度に対する検討結果である。ただし、最大表示画角が60°以下である場合には、観察者は正面視状態において画像の周辺部も認識できるため、式(5)及び式(6)を満たす範囲で、正面視状態を想定してマイクロレンズ及びカラーフィルタのずれ量を決めてもよい。
【0130】
このように、本実施形態では、画素に対してマイクロレンズをずらすことにより、観察される画像の周辺部での輝度や色ずれといった視野角特性を改善しつつ、ゴースト光を低減することができる。
【0131】
ところで、レンズ内の複屈折は、レンズを樹脂材料の金型成形により製造した際に発生し易く、レンズの偏肉比が大きいほど金型成形後の冷却時にレンズの薄い部分と厚い部分との冷え方の差が大きくなることで複屈折が大きくなる。
【0132】
本実施形態のように広画角で薄型の接眼光学系OR1では、最も光学パワーが大きい反射面(ハーフミラー112)を有する表示レンズ104の偏肉比が大きくなる。表示レンズ104の光学有効領域における偏肉比は2.0であり、偏肉比は1.5以上、4以下であることが望ましい。偏肉比が1.5未満である場合には、表示レンズ104の光学パワーが小さくなり表示レンズ104の曲率半径が大きくなるか厚みが大きくなる。表示レンズ104の光学パワーが小さくなると広画角化を実現できなくなったり、光学パワーが大きいレンズを追加する必要が生じて接眼光学系OR1の薄型化が不可能となったりする。また表示レンズ104の厚みが大きくなると、接眼光学系OR1の薄型化を実現できない。一方、偏肉比が4より大きい場合には、表示レンズ104の複屈折が大きくなり過ぎて、ゴースト光の強度が増す。なお、接眼光学系における正規光の光路とゴースト光の光路は、接眼光学系の内部での反射回数が異なる。
【0133】
接眼光学系OR1の厚さL1を、PBS114における射出瞳側の面から表示素子108までの距離とすると、厚さL1は13mmであり、厚さL1とアイレリーフE1=18mmとの比L1/E1は0.72である。この値はアイレリーフの適切な長さと接眼光学系の薄型化とを両立するために、
0.60≦L1/E1≦1.00 …(10)
なる条件を満足することが望ましい。L1/E1が0.60より小さいと、アイレリーフが長くなりすぎて表示レンズの外径が大きくなり、HMD101も大型化するので、好ましくない。しかも、外径が大きいほど表示レンズ104の複屈折が大きくなるため、ゴースト光の強度が増す。一方、L1/E1が1.00より大きいと、接眼光学系が厚くなってHMD101が大型化するとともに、アイレリーフが短すぎて観察者に圧迫感を与えたり眼鏡を掛けている観察者が装着できなくなったりするため、好ましくない。
【0134】
また本実施形態において、接眼光学系OR1の最大対角半画角θ1は27°である。このとき、E1×tanθ1=9.2mmである。この値はアイレリーフの適切な長さと接眼光学系の広画角化を両立するために、
8mm≦E1×tanθ1≦20mm …(11)
なる条件を満足することが望ましい。E1×tanθ1が8mmより小さいと、アイレリーフが短すぎて観察者に圧迫感を与えたり眼鏡を掛けている観察者が装着できなくなったりするため、好ましくない。また接眼光学系の表示画角が狭すぎて、臨場感のある自然な画像の観察ができない。一方、E1×tanθ1が20mmより大きいと、アイレリーフが長くなりすぎて表示レンズ104の外径が大きくなり、HMD101も大型化するので、好ましくない。しかも、外径が大きいほど表示レンズ104の複屈折が大きくなるため、ゴースト光の強度が増す。さらに、表示画角が広くなりすぎて、周辺画角での主光線の表示面からの出射角が大きくなり、視野角特性が悪化する。
【0135】
また、外光によるゴースト光を低減して観察する画像のコントラストを高めるために、PBS114と各接眼光学系の射出瞳との間に偏光板を配置してもよい。
【0136】
さらに本実施形態では、
図16に示すように、第2の位相板113とPBS114が積層されるように形成された表示レンズ104の射出瞳側の面を平面としている。これはアイレリーフを長くすることと、接眼光学系を薄型化することを両立するためである。この面が射出瞳に向かって凹形状を有すると、その周辺部でのアイレリーフを確保するために表示レンズ104が厚くなる。また、この面が射出瞳に向かって凸形状を有すると、表示レンズ104のレンズ周辺部の厚さを確保するためにレンズが厚くなる。
【0137】
本実施形態の第1及び第2の位相板111,113は位相差がλ/4の波長板であるが、レンズ104とレンズ105の複屈折をキャンセルするように、位相差をλ/4からずらしてもよい。そのとき、レンズ104と位相板113の位相差の和が3λ/20以上かつ7λ/20以下であることが望ましい。また、レンズ105と第1の位相板111の位相差の和が3λ/20以上かつ7λ/20以下であることが望ましい。この範囲を外れるとゴースト光の強度が増えてしまい、自然な観察ができなくなる。本実施形態で説明した式(5)~式(7)、式(10)及び式(11)で示した条件については、後述する実施形態2においても同様である。
【0138】
また、第1の位相板111とハーフミラー112の間に、第2のハーフミラー、第3の位相板、第2のPBS、第4の位相板を少なくとも一つ以上さらに配置してもよい。第2のハーフミラーを配置する場合、表示素子側に向かって凸面を追加で形成し、その凸面に第2ハーフミラーを設けてもよい。
【0139】
また、第3の位相板もしくは第4の位相板は電気信号により可変位相板として使用してよい。例えばオンの場合ハーフミラー112で正規光が反射する偏光状態にし、オフの場合第2のハーフミラーで正規光が反射する偏光状態となるように位相板の位相差を切り替えてもよい。また、これらの切り替えにより、中心視野用の高解像映像と周辺視野用の低解像映像を時分割で多重化させる foveated display として使用してもよい。
また、ハーフミラー112とPBS114の内側もしくは外側に可変焦点レンズを配置してもよい。可変焦点レンズは、ガラスレンズ、ポリマーレンズ、液晶レンズでもよく、それらの組み合わせでもよい。また、液晶レンズは、segmented parabolic phase 形状を有するフレネル液晶レンズや、Pancharatnum-Berry Phase レンズでもよく、それらの組み合わせを用いてもよい。Pancharatnum-Berry Phase レンズは複数枚積層してもよい。また、Pancharatnum-Berry Phase レンズに電気信号でオンオフを切り替え可能な位相板を追加で配置してもよく、Pancharatnum-Berry Phase レンズと位相板を交互に複数枚積層してもよい。
【0140】
本実施形態で説明した好ましいレンズの材料や形状等についても、実施形態2において同様である。
【0141】
(実施形態2)
図20は、本発明の実施形態2に係るHMD201の構成を示している。符号202は観察者の右眼を示し、符号203は観察者の左眼を示している。表示レンズ204,205は右眼用接眼光学系OR2を構成し、表示レンズ206,207は左眼用接眼光学系OL2を構成する。各接眼光学系は、2つの表示レンズにより構成された共軸の光学系である。右眼用接眼光学系OR2の射出瞳ER2には観察者の右眼202が配置され、左眼用接眼光学系OL2の射出瞳EL2には観察者の左眼203が配置される。
【0142】
符号208は右眼用表示素子を示し、符号209は左眼用表示素子を示している。各表示素子は、平板型の表示素子であり、本実施形態では有機ELディスプレイパネルを用いている。
【0143】
接眼光学系OR2,OL2はそれぞれ、表示素子208,209からの光を射出瞳ER2,EL2に導くことで、表示素子208,209に表示された表示画像(原画像)の拡大虚像を観察者の右眼202と左眼203に投影する。これにより、観察者は、表示素子208,209に表示された表示画像(の虚像)を接眼光学系OR2,OL2を通して観察することができる。
【0144】
本実施形態において、各接眼光学系の焦点距離は13mm、水平表示画角は60°、垂直表示画角は60°、対角表示画角は78°である。各接眼光学系における最も射出瞳側の面(後述する偏光分離素子214の射出瞳側の面)と各接眼光学系の射出瞳との距離であるアイレリーフE2は、20mmである。
【0145】
本実施形態における右眼用および左眼用接眼光学系ОR2,OL2も、実施形態1と同様に、偏光を利用して光路を折り畳む光学系であり、その構成について右眼用接眼光学系ОR2を用いて説明する。
図21に示すように、右眼用接眼光学系ОR2は、右眼用表示素子208から射出瞳ER2に向かって順に配置された偏光板210、第1の位相板211、表示レンズ205、表示レンズ204、第2の位相板213およびPBS214を有する。表示レンズ204における表示素子側の面には、半透過反射面としてのハーフミラー212が蒸着により形成されている。また第2の位相板213とPBS214は、表示レンズ204における射出瞳側の面上に積層されるように設けられている。
【0146】
偏光板210、第1の位相板211、第2の位相板213、PBS214はいずれも平板状に形成されている。偏光板210を透過する第1の直線偏光の偏光方向と第1の位相板211の遅相軸とは45°傾いており、偏光板210を透過する第1の直線偏光の偏光方向と第2の位相板213の遅相軸とは-45°傾いている。また偏光板210を透過する第1の直線偏光の偏光方向とPBS214を透過する第2の直線偏光の偏光方向とは互いに直交している。
【0147】
右眼用表示素子208から出射した無偏光光は、偏光板210を透過して直線偏光となり、第1の位相板211を透過して円偏光となって表示レンズ205を透過する。さらに円偏光は、ハーフミラー212を透過した後、表示レンズ204を透過し、第2の位相板213を透過して第1の直線偏光になる。この第1の直線偏光は、PBS214を透過する偏光方向に対して直交する偏光方向を有するため、PBS214で反射されて第2の位相板213を透過して円偏光となる。この円偏光は、表示レンズ204を透過した後、ハーフミラー212で反射され、再度、表示レンズ204を透過し、第2の位相板213を透過して第2の直線偏光になる。この第2の直線偏光は、PBS214を透過する偏光方向と一致する偏光方向を有するため、PBS214を透過して射出瞳ER2(右眼202)に導かれる。左眼用表示素子209から出射した光も、同様に左眼用接眼光学系OL2により射出瞳EL2(左眼203)に導かれる。
【0148】
本実施形態でも、実施形態1と同様に、各接眼光学系を、偏光を利用して光路を折り畳むように構成することで、各接眼光学系を薄型化することができ、かつ各接眼光学系の焦点距離を短くして広画角な画像の観察を可能とすることができる。
【0149】
本実施形態では、各接眼光学系において2つの表示レンズを接合して、その光軸方向の厚さを13.5mmと薄型化している。そして、前述したように接眼光学系のアイレリーフE2として20mmを確保している。2つの表示レンズを接合レンズとすることで、HMD201の本体によって表示レンズを保持しやすくしている。
【0150】
本実施形態でも、表示レンズ204~207は樹脂レンズであり、さらに表示レンズ204~207を非球面レンズとして収差補正効果を高めている。
【0151】
また、表示レンズ204,205を接合レンズとしているため、ハーフミラー212を表示レンズ205の射出瞳側の面に設けてもよい。この場合でも、ハーフミラーが設けられた面は表示素子208に向かって凸面である。
【0152】
また、本実施形態のHMD201では、
図22に示すように、右眼202の眼球(瞳)が表示素子208の表示面の左右の端部を向いている(見ている)状態での右眼用接眼光学系OR2の射出瞳ER2’の位置、すなわちアイレリーフE2’を、
図20に示すように眼球が表示面の中心部を向いている状態でのアイレリーフE2=20mmに眼球の回転半径10mmを加えた30mmに設定し、射出瞳径を6mmに設定している。左眼用接眼光学系OL2の射出瞳についても同様である。このように設定することで、表示面の左右の端部(同様に上下の端部)を観察するために眼球が回転した場合でも、眼球が向いた方向からの光を眼球に入射させることができる。
【0153】
右眼用接眼光学系OR2において、右眼用表示素子(表示面)208から出射して接眼光学系OR2の射出瞳ER2(ER2’)の中心を通る光線を主光線とする。このとき、本実施形態では、
図20に示すように正面視状態の左右方向(水平方向)の最大周辺画角30°の主光線が表示面から出射するときの出射角は、表示素子の右端及び左端でそれぞれ23°及び-23°である。一方、
図22に示すように右端視状態及び左端視状態の水平方向の最大周辺画角30°の主光線が表示面から出射するときの出射角はそれぞれ47°及び-47°である。本実施形態では、正面視状態における垂直方向での最大周辺画角30°の主光線の表示素子(表示面)208からの出射角は23°であり、上端視状態及び下端視状態における垂直方向での最大周辺画角30°の主光線の表示面からの出射角の絶対値は47°である。ただし、正面視状態、上端視状態、及び下端視状態の主光線は、ともに表示素子の外側に倒れた設計となっている。つまり、本実施形態は式(8)を満たしている。
【0154】
表示面からの出射角は、表示素子の中央では基板法線方向(0°)であり、表示画角に対して概ね線形で増加する。また、放射方向は、表示素208の外側へ倒れる方向である。そのため、本実施形態の表示素子のマイクロレンズの配置は、
図7に示したように、表示素子の中央でのマイクロレンズのずれ量ΔMLを0とし、端部に向かうほどΔMLが大きくなる配置が望ましい。つまり、表示素子の水平方向の右方向端部及び左方向端部に向かうほど、マイクロレンズ及びカラーフィルタは発光領域(画素)の位置に対して右側及び左側へずれ量が大きくなるように配置される。同様に、表示素子の上端部及び下端部に向かうほど、マイクロレンズ及びカラーフィルタは発光領域に対して上側及び下側へのずれ量が大きくなるように配置される。本実施形態では、表示装置の最大画角及び主光線の放射角の関係が、左右方向と上下方向で概ね線形の関係に保たれているため、最大画角である水平端(右端視状態及び左端視状態)の視野角特性を最適化するように、マイクロレンズ及びカラーフィルタのずれ量を決定すれば、上下端の視野角特性も概ね最適な値をとる。以後、本実施形態の検討結果では、表示素子の水平端位置における右端視状態の特性について説明を行う。
【0155】
本実施形態の接眼光学系OR2,OL2においても、実施形態1と同様の理由によってゴースト光が発生する。
図23に示すように、正面視状態における水平方向の最大周辺画角30°の主光線の表示素子(表示面)208からの出射角は15°であり、
図20および
図22に示した正規の主光線の出射角とは、表示面の法線に対して反対側に傾いている。このため、上述したように正規の主光線の出射角に合わせて発光素子に対してマイクロレンズをずらすことにより、視野角特性を改善するだけでなく、表示面の端部を含む周辺部からのゴースト光の明るさを低減することができる。
【0156】
次に、本実施形態の表示素子と接眼光学系を組み合わせることで得られる効果について説明する。上述したように、表示素子の水平端位置における右端視状態の特性について説明する。本検討では、実施形態1と同様に、
図3(b)で示した白色発光する有機機EL素子を用いて、マイクロレンズ15と発光領域17との間にカラーフィルタ20を配置した構成を用いた。画素間ピッチDで規格化されたマイクロレンズの高さh/D、半径r/D、カラーフィルタ上面の高さL2/Dは実施形態1と同様である。
【0157】
表5は、比較例1と実施例6との相対輝度ΔLの放射角依存性を示している。比較例1は、マイクロレンズのずれ量が0の構成である。実施例6は、マイクロレンズをずらした構成であり、開口率、φ1、φ2、Aの値は表5に示した通りである。表5の値と実施例1の結果を示す
図19を参照すると、比較例1では、0°をピークとして放射角が大きくなるほど発光強度は低下し、右端視状態の正規光の放射角47°において、0.09まで低下する。一方、正面視状態のゴースト光の放射角-15°においては、0.82と発光強度が高い。このように、ゴーストとなる方向の発光強度が正規光の発光強度に比べ大きくなる。
【0158】
これは、
図4Bで示したように、マイクロレンズのずれ量ΔMLが0であると、基板8の法線方向に光が集光され、広角側への放射光が減るため、正規光の発光強度に比べゴースト光の発光強度が大きくなるからである。一般的に、有限の発光面積から放射される光は、放射角が大きくなるほど発光強度が低下する。そのため、
図4Aで示したマイクロレンズがない構成でも、同様に正規光の発光強度に比べゴースト光の発光強度は大きくなる。
【0159】
一方、実施例6の結果を見ると、正規光の放射方向になるほど発光強度が増加し、右端視状態の正規光の放射角47°において、0.65まで増加する。一方、正面視状態のゴースト光の放射角-15°においては、0.23と著しく低下する。このように、正規光の発光強度をゴーストとなる方向の発光強度よりも大きくすることができる。正規光の発光強度の増加は、
図4Cで示したように、面28に入射された光27が屈折することに起因している。また、ゴースト光の発光強度の低下は、
図4Cで示したように、隣接発光素子のマイクロレンズの面29で発生する全反射もしくは広角側への屈折に起因している。ここで示した実施例6のφ1は16.7であり、マイクロレンズのずれ量の条件である式(5)を満たす。このように、
図20で示した偏光光学系に、式(5)を満たすようにマイクロレンズをずらして配置した表示素子を組み合わせることにより、正規光の発光強度ΔLを増加させ、同時にゴースト光を抑制することが可能となる。
【0160】
【0161】
次に、発光素子の開口率の効果について説明する。表6は、開口率を変えた例として実施例6~8の正規光とゴースト光の発光強度ΔLを示している。開口率40%における正規光が0.71であるのに対して、開口率30%では0.75、開口率20%では0.94となった。このように開口率を小さくすることにより、正規光の発光強度が増加する。これは、
図5Aに示したように、発光領域17の面積に対する領域Xの割合が大きくなることに起因している。つまり、発光領域17で放射される光が高効率で正規光方向に放射されていることを示している。一方、ゴースト光の発光強度に関しては、開口率40%で0.30であるのに対して、開口率30%で0.27、開口率20%で0.17となった。このように開口率を小さくすることで、ゴースト光の発光強度が低下することが分かった。このゴースト光の発光強度低下は、
図5Bで示したゴースト光の放射領域Y1及びY2の和と発光領域17との重なりが小さくなることに起因している。つまり、
図20~
図22で示した偏光光学系において、式(5)を満たす条件で、開口率を小さくすることで、より正規光を増加させ、ゴースト光を少なくすることができる。なお、正規光を増加させ、ゴースト光を少なくするためには、開口率を52%以下にすることが望ましい。
【0162】
【0163】
次に、表7は、カラーフィルタのずれ量ΔCFの効果について示している。表7では、φ1を固定して、φ2を変えた場合(Aを変えた場合)における正規光の色ずれΔE及びゴースト光の発光強度ΔLを示している。また、表7では、比較例1を参考値として示した。
【0164】
A=0.64における正規光の色ずれΔEは31であるのに対して、A=0.33では28、A=0(カラーフィルタずらしなし)では25となった。つまり、カラーフィルタのずれ量を小さくすることで、正規光の色ずれΔEが小さくなった。また、実施例6、9、10は式(6)を満たすため、比較例1よりも色ズレΔEが小さい。この色ずれの低下は、
図6Bで示した、広角側へ放射される光33が隣接カラーフィルタで遮られることに起因している。一方、ゴースト光は、A=0.64で0.23、A=0.28で0.28、A=0で0.24というように、カラーフィルタのずれ量によらないことが分かった。つまり、ゴースト光の発光強度を増加させることなしに、正規光の色ずれΔEを抑制できることを示している。A=0.85以下にすれば、マイクロレンズのずれ量が0の場合に比べ、正規光の色ずれΔEを小さくすることができる。つまり、式(5)を満たす条件に加え、式(6)を満たすことで、
図20で示した偏光光学系において、正規光の発光強度の増加及びゴースト光の抑制と同時に色ずれΔEを小さくすること可能となる。
【0165】
【0166】
最大表示画角が60°より大きい場合には、画角が広いために観察者は正面視状態において画像の周辺部を認識しにくい。このため、正面視状態ではなく、画像の周辺部を見ている状態において、その見ている方向の主光線の表示面からの出射角を想定してカラーフィルタのずれ量を決めることが好ましい。ただし、レンズ設計によっては表示素子の端部では光がけられることもあるため、必ずしも端部に合わせる必要はない。
【0167】
本実施形態でも、右眼用接眼光学系OR2は広画角で薄型であるため、最も光学パワーが大きい反射面(ハーフミラー212)を有する表示レンズ204の偏肉比が大きくなる。表示レンズ204,205を接合しているため、表示レンズ205における表示レンズ204との接合面の曲率半径が短く、表示レンズ205の偏肉比も大きくなる。本実施形態では、表示レンズ204の光学有効領域における偏肉比は3.6であり、表示レンズ205の光学有効領域における偏肉比は2.8である。実施形態1でも説明したように、これらの偏肉比は1.5以上、4以下であることが望ましい。
【0168】
また、右眼用接眼光学系OR2の厚さL2をPBS214の観察者の右眼202側の面から右眼用表示素子208までの距離とすると、厚さL2は13.5mmであり、厚さL2とアイレリーフE2の比、L2/E2は0.68である。この値はアイレリーフの適切な長さと接眼光学系の薄型化を両立するために0.6以上1以下であることが望ましい。
【0169】
本実施形態において、右眼用接眼光学系OR2のアイレリーフE2は20mmであり、最大対角半画角θ2は39°である。このとき、E2×tanθ2=16.2mmであり、式(11)の条件を満足している。上記偏肉比、L2/E2およびE2×tanθ2については左眼用接眼光学系OL2についても同じである。
【0170】
また、本実施形態でも、外光によるゴースト光を低減して観察する画像のコントラストを高めるために、PBS214と各接眼光学系の射出瞳との間に偏光板を配置してもよい。
【0171】
(実施形態3)
次に、実施形態3に係るHMD301の構成について説明する。
図24は、HMD301の接眼光学系を示す図である。図中、符号302は観察者の右眼、符号303は観察者の左眼、符号304は右眼用接眼光学系、符号305は左眼用接眼光学系、符号306は右眼用画像表示素子、符号307は左眼用画像表示素子をそれぞれ示している。
【0172】
右眼用接眼光学系304は、右眼用画像表示素子306に表示された原画像を拡大投影して観察者の右眼302に導き、左眼用接眼光学系305は、左眼用画像表示素子307に表示された原画像を拡大投影して観察者の左眼303に導く。右眼用接眼光学系304と左眼用接眼光学系305の水平表示画角は40°、垂直表示画角は30°、対角表示画角は50°である。
【0173】
本実施形態の接眼光学系は、
図25に示したように、偏心反射面を用いて光路を折りたたむことによって、光学系の厚さを薄型化している。右眼用接眼光学系304は、屈折率が1より大きいガラスやプラスチック等の光学媒質で満たされた透明体により構成される。左眼用接眼光学系も同様である。
【0174】
右眼用画像表示素子306からの光線は右眼用接眼光学系304内で2回反射し、右眼302に導かれる。なお、右眼用接眼光学系304内の眼球への出射面は反射作用と透過作用を持つ光学面であるため、反射は光量のロスをなくすために内部全反射であることが望ましい。また、右眼用接眼光学系304を構成する面を自由曲面形状とすることで、偏心収差補正の自由度が増し、良好な画質での画像表示が可能となる。左眼用接眼光学系305についても同様である。
【0175】
本実施形態の接眼光学系も実施形態1、実施形態2と同様に、周辺画角の画像表示素子からの出射角が大きく、周辺部では視野角特性が悪化して輝度が低下したり、正しい色の画像を観察できなくなるなどの懸念がある。
【0176】
本実施形態の接眼光学系では、
図24に示すように観察者が正面を見ている場合の水平方向の最大周辺画角20°の主光線の画像表示素子からの出射角は20°である。また、
図24に示すように、観察者が水平方向の端を見ている場合の水平方向の最大周辺画角20°の主光線の画像表示素子からの出射角は30°である。ここで、主光線は接眼光学系の射出瞳の中心を通る光線である。ここまで水平方向の左端と右端に関して説明したが、垂直方向の上端と下端についても同様である。本実施形態の接眼光学系では、
図25のように観察者が正面を見ている場合の垂直方向の最大周辺画角15°の主光線の画像表示素子からの出射角は15°である。また、
図26のように、観察者が垂直方向の端を見ている場合の垂直方向の最大周辺画角15°の主光線の画像表示素子からの出射角は22.5°である。ただし、正面視状態、右端視状態、左端視状態、上端視状態、下端視状態の主光線はともに表示素子の外側に倒れた設計となっている。表示面からの出射角は、表示素子の中央では基板8の法線方向(0°)であり、表示画角に対して概ね線形で増加する。
【0177】
また、放射方向は、表示素子の外側へ倒れる方向である。そのため、本実施形態の表示素子のマイクロレンズの配置は、
図7に示したように、表示素子の中央でのマイクロレンズのずれ量ΔMLを0とし、端部に向かうほどΔMLが大きくなる配置が望ましい。つまり、表示素子の水平方向の右方向端部及び左方向端部に向かうほど、マイクロレンズ及びカラーフィルタは発光領域(画素)の位置に対して右側及び左側へずれ量が大きくなるように配置される。同様に、表示素子の上端部及び下端部に向かうほど、マイクロレンズ及びカラーフィルタは発光領域に対して上側及び下側へずれ量が大きくなるように配置される。本実施形態では、表示装置の最大画角及び主光線の放射角の関係が、左右方向と上下方向で概ね線形の関係が保たれているため、ゴーストが発生する方向、つまり上端視状態及び下端子状態の視野角特性を最適化するように、マイクロレンズ及びカラーフィルタのずれ量を決定すれば、水平端の視野角特性も概ね最適な値をとる。以後、本実施形態の検討結果では、表示素子の垂直方向における下端視状態の特性について説明を行う。
【0178】
本実施形態の接眼光学系の場合、
図27のような光路のゴースト光が発生する。画像表示素子の上端からのゴースト光の光路を
図27(a)に、画像表示素子の下端からのゴースト光の光路を
図27(b)に示す。
図27(a)に示すゴースト光の光路において、観察者が正面を見ている場合の画像表示素子306の上端からの主光線の出射角θ3は-28°である。また、
図27(b)のゴース光のト光路において、観察者が正面を見ている場合の画像表示素子の下端からの主光線の出射角θ3は-34°である。つまり、本実施形態は式(8)を満たしている。
【0179】
次に、本実施形態の表示素子と接眼光学系を組み合わせることで得られる効果について説明する。上述したように、表示素子の垂直位置における下端視状態の特性について説明する。本検討では、実施形態1と同様に、
図3(b)で示した白色発光する有機機EL素子を用い、マイクロレンズ15と発光領域17との間にカラーフィルタ20を配置した構成を用いた。画素間ピッチDで規格化されたマイクロレンズの高さh/D、半径r/D、カラーフィルタ上面の高さL2/Dは実施形態1と同様である。
【0180】
表8は、比較例1と実施例11との相対輝度ΔLの放射角依存性を示している。比較例1はマイクロレンズのずれ量が0の構成である。実施例11は、マイクロレンズをずらした構成であり、開口率、φ1、φ2、Aの値は表8に示した通りである。表8の値と実施例1の結果を示す
図19を参照すると、比較例1では、0°をピークとして放射角が大きくなるほど発光強度は低下し、下端視状態の正規光の放射角22.5°において、0.6まで低下する。一方、正面視状態のゴースト光の放射角-34°においては、0.47と高い。
【0181】
一方、実施例11の結果を見ると、正規光の放射方向になるほど発光強度が増加し、右端視状態の正規光の放射角22.5°において、1.0まで増加する。一方、正面視状態のゴースト光の放射角-34°においては、0.23と著しく低下する。このように、正規光の発光強度をゴーストとなる方向の発光強度よりも大きくすることができる。正規光の発光強度の増加は、
図4Cで示したように、面28に入射された光27が屈折することに起因している。また、ゴースト光の発光強度の低下は、
図4Cで示したように、隣接発光素子のマイクロレンズの面29で発生する全反射もしくは広角側への屈折に起因している。ここで示した実施例11のφ1は11.3であり、マイクロレンズのずれ量の条件である式(5)を満たす。このように、
図24で示した偏光光学系に、式(5)を満たすようにマイクロレンズをずらして配置した表示素子を組み合わせることにより、正規光の発光強度ΔLを増加させ、同時にゴースト光を抑制することが可能となる。
【0182】
【0183】
次に、発光素子の開口率の効果について説明する。表9は、開口率を変えた例として実施例11~13の正規光とゴースト光の発光強度ΔLを示している。開口率40%における正規光が0.93であるのに対して、開口率30%では0.94、開口率20%では1.00となった。このように開口率を小さくすることで、正規光の発光強度が増加する。これは、
図5Aに示したように、発光領域17の面積に対する領域Xの割合が大きくなることに起因している。つまり、発光領域で放射される光が高効率で正規光方向に放射されていることを示している。一方、ゴースト光の発光強度に関しては、開口率40%で0.31であるのに対して、開口率30%で0.23、開口率20%で0.16となった。このように開口率を小さくすることで、ゴースト光の発光強度が低下することが分かった。このゴースト光の発光強度低下は、
図5Bに示したゴースト光の放射領域Y1及びY2の和と発光領域17との重なりが小さくなることに起因している。つまり、
図24~
図26に示した自由曲面プリズムにおいて、式(5)を満たす条件で、開口率を小さくすることで、より正規光を増加させ、ゴースト光を小さくすることができる。
【0184】
【0185】
次に、表10は、カラーフィルタのずれ量ΔCFの効果について示している。表10は、φ1を固定して、φ2を変えた場合(Aを変えた場合)における正規光の色ずれΔE及びゴースト光の発光強度ΔLを示している。また、表10には比較例1を参考値として示した。
【0186】
A=0.63における正規光の色ずれΔEは7であるのに対して、A=0.00(カラーフィルタずらしなし)では6となった。つまり、カラーフィルタのずれ量を小さくすることで、正規光の色ずれΔEが小さくなった。また、実施例11及び実施例14は式(6)を満たすため、比較例1よりも色ずれΔEが小さい。この色ずれの低下は、
図6Bで示した、広角側へ放射される光33が隣接カラーフィルタで遮られることに起因している。一方、ゴースト光は、A=0.63で0.23、A=0で0.22というように、カラーフィルタのずれ量によらないことが分かった。つまり、ゴースト光の発光強度を増加させることなしに、正規光の色ずれΔEを抑制できることを示している。A=0.85以下にすれば、マイクロレンズのずれ量が0の場合に比べ、正規光の色ずれΔEを小さくすることができる。つまり、式(5)を満たす条件に加え、式(6)を満たすことで、
図24~
図26で示した自由曲面プリズムにおいて、正規光の発光強度の増加及びゴースト光の抑制と同時に色ずれΔEを小さくすることが可能となる。
【0187】
【0188】
このように、本実施形態では、画素に対してマイクロレンズをずらすことにより、自由曲面プリズムを用いた接眼光学系で観察される画像の周辺部での輝度や色ずれといった視野角特性を改善しつつ、ゴースト光を低減することができる。
【0189】
なお、上記の実施形態の接眼光学系の自由曲面プリズムは、中間結像面を有さない光学系であるが、中間結像面を有する光学系としてもよい。また、自由曲面プリズムは、表示素子の表示面と導波板コンバイナに結合させる光学素子として使用してもよい。
【符号の説明】
【0190】
101,201:HMD、108,208:右眼用表示素子、109,209:左眼用表示素子、OR1,OR2:右眼用接眼光学系、OL1,OL2 左眼用接眼光学系、1000 表示装置、1100:撮像装置、1200:電子機器、1500:自動車、1600,1610:スマートグラス