(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】双輪キャスター
(51)【国際特許分類】
B60B 33/00 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
B60B33/00 F
B60B33/00 503Z
(21)【出願番号】P 2021143186
(22)【出願日】2021-09-02
【審査請求日】2024-03-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517332568
【氏名又は名称】竹中 照男
(74)【代理人】
【識別番号】100122552
【氏名又は名称】松下 浩二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】竹中 照男
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-229018(JP,A)
【文献】特表2002-508271(JP,A)
【文献】特開昭52-140145(JP,A)
【文献】実開平01-074902(JP,U)
【文献】実開昭59-158505(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2008/0141487(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸を上方に延設するとともに車軸を水平方向に支持したホルダと、前記車軸の両端側で所定間隔を置いて各々回転可能に軸支された左右の車輪とを備えた双輪キャスターにおいて、前記車輪は、外周面が接地面になる円環状の周壁を有して盆状に形成された合成樹脂部品であり、その内側面中心部に前記車軸の端部側を挿入する挿入穴を形成した有底円筒状の軸受部が形成されているとともに、前記軸受部の外周面先端側から内側面底部を経由して前記周壁の内側面先端側までコ字状に延設された複数本の補強用リブが前記軸受部を中心に放射状に設けられている、ことを特徴とする双輪キャスター。
【請求項2】
前記
車軸は、その少なくとも外周側の部分が樹脂製であるとともに、その中心軸線に沿って円柱状の金属軸が補強手段として挿設されている、ことを特徴とする請求項1に記載した双輪キャスター。
【請求項3】
前記車軸は、両端面から所定間隔をおいた外周面の位置にくびれによる小径部が各々形成されており、前記車軸端部側の外面形状・サイズと略一致する内面形状を有した前記挿入穴の小径部に前記車軸の小径部が係合することで、前記両車輪が脱抜困難な状態にて前記車軸端部側に各々支持されるものとされ、且つ、前記車軸における小径部から先端部に亘る外周面と前記挿入穴の内周面との間には潤滑剤が介在している、ことを特徴とする請求項1又は2に記載した双輪キャスター。
【請求項4】
前記車軸の先端面中心位置には、所定サイズ・所定形状による凹部が形成されており、前記凹部の内側面と前記挿入穴の底面との間に形成される空間が前記潤滑剤の貯留手段として機能する、ことを特徴とする請求項3に記載した双輪キャスター。
【請求項5】
前記凹部は、前記車軸における合成樹脂製の本体部分の中心軸線に沿って形成された貫通孔に、該貫通孔と同径で前記車軸よりも短い軸部材が、その両端面を前記貫通孔の開口端から所定深さ位置にして挿設されたことで形成されている、ことを特徴とする請求項4に記載した双輪キャスター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、什器や物品の底面に複数個設けて水平方向の移動を容易にするキャスターに関し、殊に、2つの車輪を連結した車軸の中心部分をホルダで保持する双輪キャスターに関する。
【背景技術】
【0002】
椅子やスーツケースなどの比較的軽量な物品の底面に配設するキャスターとしては、例えば実開平6-33703号公報に記載されているように、ホルダで保持された車軸の両端側に比較的大径の2つの車輪を回転可能な状態で配設して、走行上の抵抗を軽減可能とした双輪キャスターが周知である。
【0003】
また、特開平11-301205号公報に記載されているもののように、ホルダ及び心棒がウレタンやナイロン等の合成樹脂で成形され、2つの車輪を回転可能に支持する車軸も合成樹脂で成形されたキャスターも知られており、軽量でありながら所定レベルの強度・耐久性を確保していることに加え、金属部品の使用を最小限に抑えたことで、軽量化を達成しながら製造コスト及び廃棄時の手間とコストを軽減可能としている。
【0004】
しかし、車輪を支持する車軸両端部や車軸を挿入支持するホルダ軸挿入部など、車輪や車軸の回転により樹脂部品同士の間で摺動を生じる部分においては、長時間の走行により摩擦熱が生じてその部分が軟化しながら互いに粘着するため、車輪のスムースな回転を妨げてしまうという問題がある。
【0005】
この問題に対し、特開2017-7510号公報には、ホルダの軸挿入部の内周面に筋状の溝部を軸方向に設けるとともにその部分に潤滑剤を保持させることで、車軸の回転時に摩擦抵抗を低減させるようにした双輪キャスターが提案されている。これにより、軸挿入部に潤滑剤を単に注入する場合と比べて、車軸のスムースな回転を長期間に亘って確保することができる。
【0006】
しかしながら、この場合の潤滑は車軸の回転部分に限定されており、その両端側に支持した車輪の車軸に対する回転部分には作用しないため、車輪の回転をスムースにするという観点では不充分である。また、重量物を載せた状態で旋回動作を行う場合には、車輪を車軸に挿入した部分に大きな荷重を受けて車輪と車軸に変形を生じるとともに、内側の車輪と外側の車輪との間に回転速度の差が生じることで、車輪の軸挿入部分と車軸端部側との間で摩擦抵抗が大きくなって、スムースな旋回動作を行いにくくしてしまうという難点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開平6-33703号公報
【文献】特開平11-301205号公報
【文献】特開2017-7510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、双輪キャスターについて、樹脂部品を多用しても強度・耐久性に優れたものとしながら、車輪のスムースな回転を維持できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、主軸を上方に延設するとともに車軸を水平方向に支持したホルダと、その車軸の両端側で所定間隔を置いて各々回転可能に軸支された左右の車輪とを備えた双輪キャスターにおいて、その車輪は、外周面が接地面になる円環状の周壁を有して盆状に形成された合成樹脂部品であり、その内側面中心部に車軸の端部側を挿入する挿入穴を形成した有底円筒状の軸受部が形成されているとともに、その軸受部の外周面先端側から内側面底部を経由して周壁の内側面先端側までコ字状に延設された複数本の補強用リブが軸受部を中心に放射状に設けられている、ことを特徴とするものとした。
【0010】
このように、樹脂成形による車輪の軸受部外周面から内側面底部を通り内壁内側面に亘って複数本の補強用リブを放射状に設けたことで車輪の変形を最小限に抑えることができるため、樹脂部品を多用しても強度・耐久性に優れたものとしながら、車輪のスムースな回転を確保しやすいものとなる。
【0011】
また、この双輪キャスターにおいて、その車軸は、その少なくとも外周側の部分が樹脂製であるとともに、その中心軸線に沿って円柱状の金属軸が補強手段として挿設されている、ことを特徴としたものとすれば、軽量でありながら一層強度と耐久性に優れた車軸となる。
【0012】
さらに、上述した双輪キャスターにおいて、その車軸は両端面から所定間隔をおいた外周面の位置にくびれによる小径部が各々形成されており、その車軸端部側の外面形状・サイズと略一致する内面形状を有した挿入穴の小径部に車軸の小径部が係合することで、両車輪が脱抜困難な状態にて車軸端部側に各々支持されるものとされ、且つ、車軸における小径部から先端部に亘る外周面と挿入穴の内周面との間には潤滑剤が介在している、ことを特徴としたものとすれば、車軸に対する車輪の回転のスムースさを確保できるとともに、その小径部の存在により小径部から先端側の部分で潤滑剤を保持しやすくなるため、長期間に亘って潤滑性を維持可能なものとなる。
【0013】
さらにまた、この双輪キャスターにおいて、その車軸の先端面中心位置には所定サイズ・所定形状による凹部が形成されており、この凹部の内側面と挿入穴の底面との間に形成される空間が潤滑剤の貯留手段として機能する、ことを特徴としたものとすれば、潤滑剤による潤滑効果をさらに長期間に亘って維持しやすいものとなる。
【0014】
この場合、その凹部は、車軸における合成樹脂製の車軸本体の中心軸線に沿って形成された貫通孔に、それと同径で車軸よりも短い軸部材が、その両端面を貫通孔の開口端から所定の深さ位置にして挿設されたことで形成されている、ことを特徴としたものとすれば、軸部材として車軸本体の合成樹脂素材よりも強度の高い金属素材を使用すれば車軸の強度が高められ、その車軸の合成樹脂素材よりも熱伝導率の高い素材を使用すれば回転摺動部分や潤滑剤の熱を低下させることができ、且つ、その両端側に形成された凹部が潤滑剤の貯留手段として機能することにより、潤滑効果を長期間に亘って維持しやすいものとなる。
【発明の効果】
【0015】
樹脂成形による車輪の軸受部外周面から内側面底部を通り内壁内側面に亘って複数本の補強用リブを放射状に形成した本発明によると、樹脂部品を多用しても強度・耐久性に優れたものとしながら、車輪のスムースな回転を維持できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態である双輪キャスターの正面図であって、(A)は側面図、(B)は正面図である。
【
図2】
図1の双輪キャスターの車輪と車軸の構成を説明するためにホルダから外した状態であって、(A)は正面図、(B)は(A)のA-A線による断面図である。
【
図3】(A)は
図1の双輪キャスターの車輪を内側から見た側面図、(B)は車軸の正面図である。
【
図4】
図2(B)の車軸の変形例を示す縦断面図、(B)は(A)の側面図である。
【
図5】(A)は
図3(B)の車軸の変形例を示す縦断面図、(B)は(A)の側面図である。
【
図6】(A)は車軸の応用例を示す縦断面図、(B)は(A)の車軸で車輪を支持した状態の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0018】
図1は本実施の形態である双輪キャスター1Aを示している。この双輪キャスター1Aは、椅子や家具などの什器やスーツケースなどの物品の下端側に複数個設けてその水平方向の移動を容易にするためのものであり、図示しない金属製軸部材を中心部に備えて物品等に装着される合成樹脂製の主軸3を上方に延設しているともに、車軸25Aを支持部20の軸孔21に挿通しながら水平方向に支持している合成樹脂製のホルダ2と、その車軸25Aの両端側で軸支された左右の車輪5,5とを備えている。
【0019】
そして、本発明において車軸25Aにより回転可能に支持される車輪5,5は、
図2(A)に示すように、外周面が接地面になる円環状の周壁5bを有して盆状に形成された合成樹脂部品であり、
図2(B)の断面図に示すようにその内側面中心部に、車軸25Aの端部側を挿入する挿入穴50を形成した有底円筒状の軸受部5aを備えている。
【0020】
また、
図2(B)に示したように、車輪5の軸受部5aの外周面先端側から内側面底部を経由して、周壁5bの内側面先端側までコ字状に延設された複数本の補強用リブ55を備えており、この補強用リブ55は、
図3(A)に示すように、軸受部5aを中心にして放射状に12本設けられている。
【0021】
このように、樹脂成形により作成された車輪5,5の軸受部5a外周面から、内側面底部を通り内壁5b内側面に亘って複数本の補強用リブ55を放射状に設けたことにより、樹脂部品を多用している双輪キャスター1Aは車輪5,5の変形を最小限に抑えることができ、キャスターとしての強度・耐久性に優れているとともに、車輪5,5のスムースな回転を確保しやすくなっている。
【0022】
また、本実施の形態の双輪キャスター1Aにおいては、その車輪5,5を支持する車軸25Aも比較的強度の高く耐摩耗性に優れた樹脂素材を用いて成形した合成樹脂部品であり、
図3(B)に示すように、その両端面から所定間隔をおいた外周面の位置には、くびれによる小径部250,250が各々形成されたものである。
【0023】
そして、上述した
図2(B)においては、車軸25Aの右端部側を切り欠いて挿入穴50の形状が見えるようにしているが、車軸25A端部側の外面形状・サイズと略一致する内面形状を有した車輪5の挿入穴50において、その小径部550に対し挿入された車軸25Aの小径部250が各々係合することにより、車輪5,5,が脱抜困難な状態にて車軸25A端部側に各々支持されるようになっている。
【0024】
尚、この車軸25Aの端部側これが挿入される挿入穴50は、極めて高い成形精度で作成されたものであり、挿入状態における両部材間に生じる隙間を最小限に抑えて車輪5の車軸25Aに対するガタツキの発生を低減可能としたものとなっており、この点においても双輪キャスター1Aの強度・耐久性及び走行上のスムースさに寄与している。
【0025】
さらに、本実施の形態においては、車軸25Aにおける小径部250から先端部に亘る外周面と挿入穴50の内周面との間には、潤滑剤が注入されたことで介在した状態になっており、この点も本実施の形態における重要な特徴部分となっている。これにより、車軸25Aに対する車輪5の回転のスムースさを一層確保しやすくなるとともに、その小径部250,550の存在により、それよりも中央寄りの外側部分に潤滑剤が漏出しにくくなるため、長期間に亘って潤滑性を維持できるようになっている。
【0026】
図4は、
図3(B)に示した車軸25Aの変形例としての車軸25Bを示しており、図(A)は車輪5,5を支持している状態、図(B)は車軸25Aの側面図である。この車軸25Bは、その両端面の中心位置に、車軸25Bの直径の約6分の1の内径で深さが内径の1.5~2倍の円柱状の凹部260が形成されて開口している。そして、この凹部260の内側面と挿入穴50の底面との間に形成される空間に、潤滑剤が溜まることでその貯留手段として機能するようになっている。
【0027】
これにより、潤滑剤による潤滑効果をさらに長期間に亘って維持しやすいものとしている。また、この車軸25Aの両端側を車輪5の挿入穴50に挿入する作業においては、挿入穴50の小径部550を車軸25A先端側の大径部分が通過する際に、その小径部550が弾性的に拡開して通過させるものであるが、車軸25Aの先端側に前述した潤滑剤を予め塗っておくことでその通過がスムースになるところ、その際に、上述した凹部260が形成されていることで、車軸25Aの先端部が小径部550に押圧される動作でその先端部の径が弾性的に僅かに縮小するため、より挿入しやすい状態になるものである。
【0028】
図5は、上述した車軸25Aの他の変形例としての車軸25Cを示している。この車軸25Cは、その外周側を構成する円筒状の部分が合成樹脂部品からなるとともに、その中心軸線に沿って円柱状で金属製の軸部材270が補強手段として挿設されている点を特徴としている。これにより、軽量でありながら一層強度と耐久性に優れた車軸となっている。
【0029】
図6は、上述した車軸25A,25B,25Cの他の変形例としての車軸25Dを示している。この例においても、その両端面の中心位置に円柱状の凹部281が各々開口したものとなっているが、この凹部281は、合成樹脂製の車軸25Dの本体部分の中心軸線に沿って形成された貫通孔25dに、それと同径で車軸25Dよりも僅かに短い軸部材280が、その両端面を貫通孔25dの開口端から所定の深さ位置になるように挿設されたことで形成されている点を特徴としている。
【0030】
これにより、上述した車軸25Cの場合と同様に、金属製の軸部材280があることで、軽量でありながら一層強度と耐久性に優れたものとなるが、軸部材280として車軸25Dの樹脂素材よりも強度の高い素材を使用すれば車軸の強度を高めることができ、且つ、車軸25Dの両端側に形成された凹部281,281が、車軸25Bと同様に潤滑剤の貯留手段として機能するため、潤滑効果を維持しやすいものとなる。
【0031】
また、この例において上述した軸部材280として、車軸25Dの樹脂素材よりも熱伝導率の高い素材を使用することで、回転摺動による摩擦部分や摩擦熱により上昇した潤滑剤の温度を低下させることも可能になるため、車輪5,5の回転のスムースさを一層確保しやすいものとなる。
【0032】
尚、上述した双輪キャスター1Aと同じものを実際に作成して本願発明者らが荷重試験、耐久性試験を行ったところ、車輪の走行面の裏側のみに補強用リブを同数で設けた点を除いて他の部分は同一条件とした対照例と比較して、荷重試験で約1.2倍、耐久性試験で約1.5倍の性能の向上が認められている。また、同様に作成した双輪キャスターにおいて、
図4の車軸25Bを使用したものと
図3の車軸25Aを使用したものについて、双方に潤滑剤を使用しながらその車輪5の回転のスムースさ(潤滑性)を所定レベル以上に発揮可能な走行距離について確認したところ、車軸25Bを使用した方が明かに優位であった。
【0033】
以上、述べたように、本発明により、双輪キャスターについて、樹脂部品を多用しても強度・耐久性に優れたものとしながら、車輪のスムースな回転を維持できるように
【符号の説明】
【0034】
1A 双輪キャスター、2 ホルダ、3 主軸、5 車輪、5a 軸受部、5b 周壁、20 支持部、25A,25B,25C,25D 車軸、25d 貫通孔、50 挿入穴、55 補強用リブ、250,550 小径部、260,281 凹部、270.280 軸部材