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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】車上装置及び列車制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20240502BHJP
   B60L 15/40 20060101ALI20240502BHJP
   B61L 3/16 20060101ALI20240502BHJP
   B61L 23/16 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
B60L3/00 B
B60L15/40 D
B61L3/16 Z
B61L23/16 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021149745
(22)【出願日】2021-09-14
(65)【公開番号】P2023042447
(43)【公開日】2023-03-27
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】石川 了
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-136208(JP,A)
【文献】特開2015-130723(JP,A)
【文献】特開平08-130807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B60L 15/40
B61L 3/16
B61L 23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
当該区間の制御速度情報と、内方区間の制御速度を予告する予告情報と、を含む走行制御情報が区間毎にレールに伝送されている当該レール上を走行する列車に搭載され、当該列車の走行区間のレールに伝送されている前記走行制御情報を受信して当該列車の走行制御を行う車上装置であって、
前記走行制御情報が受信されない或いは正常に受信されない無信号状態を検出する無信号検出手段と、
現在の走行区間の手前区間において受信した前記走行制御情報に含まれる前記予告情報に基づいて、無信号許容時分の時間条件を設定する時間条件設定手段と、
前記無信号状態が継続している間の無信号時間を算出する無信号時間算出手段と、
前記無信号時間が前記時間条件を満たさなくなった場合に、前記手前区間において受信した前記走行制御情報に含まれる前記予告情報に基づくブレーキ種別のブレーキを作動させる制御を行うブレーキ作動制御手段と、
を備えた車上装置。
【請求項2】
前記無信号時間算出手段は、
時間を積算する時間積算手段と、
前記走行制御情報の受信が所定の定常受信状態となった場合に、前記時間積算手段による積算時間をリセットする時間リセット手段と、
を有し、前記時間積算手段による積算時間を前記無信号時間とすることで、前記無信号状態が継続している間の経過時間を含めて前記無信号時間を算出する手段である、
請求項に記載の車上装置。
【請求項3】
当該区間の制御速度情報と、内方区間の制御速度を予告する予告情報と、を含む走行制御情報が区間毎にレールに伝送されている当該レール上を走行する列車に搭載され、当該列車の走行区間のレールに伝送されている前記走行制御情報を受信して当該列車の走行制御を行う請求項1又は2に記載の車上装置と、
区間毎に前記レールに前記走行制御情報を伝送する地上装置と、
を具備した列車制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車に搭載され、レールからの受信情報を用いて列車の走行制御を行う車上装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
列車制御システムの一種であるATC(Automatic Train Control)システムでは、先行列車の位置に基づいて、当該先行列車の後方の区間(軌道回路を単位とする区間)のそれぞれに制御速度を定め、各区間のレールに、当該区間の制御速度の情報を含むATC信号を伝送する。
【0003】
また、ATCシステムでは、ATC信号が伝送されない無信号を停止信号としている。例えば、先行列車の在線区間における列車最後端の車軸短絡位置からその後方の軌道回路境界までの区間、及び、分岐器の転換が保証されていない区間等の列車の進入が禁止されている区間を、ATC信号が伝送されない無信号の絶対停止区間(02信号区間)として定める。また、事故や閉そく装置の故障等によってATC信号の送信ができない場合にも、必然的に無信号の停止信号となる。そして、車上装置では、レールから受信したATC信号(制御速度の情報)に従って速度制御を行うが、ATC信号が受信されない無信号状態を検出すると、直ちに非常ブレーキを作動させて列車を停止させるように制御する。
【0004】
ところで、ATCシステムでは、区間境界である軌道回路境界の通過時に、車上側でATC信号を受信できない瞬間的な無信号(以下「瞬時無信号」という)の状態が発生する場合がある。そのため、予期せずに非常ブレーキが作動し得る問題があった。具体的には、例えば、有絶縁軌道回路の区間境界では、ATC信号波の混信受信による瞬時無信号の状態が発生する。なお、区間境界のみならず、ループコイルの撚架点や、クロスジャンパー線による死区間の通過時にも、同様の問題が発生する。また、無絶縁軌道回路の区間境界では、進入時の短絡検知の遅れ(いわゆる踏み込み送信の遅れ)による瞬時無信号の状態が発生する。従来は、このような瞬時無信号には、列車制御上許容される瞬断許容時間を予め設定しておくことで対応していた。瞬断許容時間だけで対応した結果、有絶縁軌道回路の区間境界を低速で走行した場合や、無絶縁軌道回路の区間境界進入時の短絡検知が遅れた場合においては、瞬時無信号時間が瞬断許容時間を上回り、予期せずに非常ブレーキが作動する場合があった。
【0005】
この種の問題を解決するための技術として、例えば、特許文献1の技術が知られている。特許文献1には、無信号状態が継続している間の走行距離を無信号距離として算出し、無信号距離が許容距離条件を満たさなくなった場合に列車を停止させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-136208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の技術は、無信号距離を算出するための比較的複雑な構成となる。そのため、従来の車上装置に特許文献1の技術を適用するためには、多くの改修コストや手間が必要になると考えられる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、無信号状態が継続した場合の列車の走行制御を、比較的に簡易でありながら効果的な手法で実現することが可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の発明は、当該区間の制御速度情報と、内方区間の制御速度を予告する予告情報と、を含む走行制御情報が区間毎にレールに伝送されている当該レール上を走行する列車に搭載され、当該列車の走行区間のレールに伝送されている前記走行制御情報を受信して当該列車の走行制御を行う車上装置であって、前記走行制御情報が受信されない或いは正常に受信されない無信号状態を検出する無信号検出手段と、現在の走行区間の手前区間において受信した前記走行制御情報に含まれる前記予告情報に基づいて、無信号許容時分の時間条件を設定する時間条件設定手段と、前記無信号状態が継続している間の無信号時間を算出する無信号時間算出手段と、前記無信号時間が前記時間条件を満たさなくなった場合に、前記手前区間において受信した前記走行制御情報に含まれる前記予告情報に基づくブレーキ種別のブレーキを作動させる制御を行うブレーキ作動制御手段と、を備えた車上装置である。
【0010】
第1の発明によれば、車上装置は、列車に搭載されてレールからの走行制御情報を受信し、列車の走行制御を行う。その際、車上装置は、走行区間の手前区間で受信した走行制御情報の予告情報をもとに、無信号許容時分の時間条件を設定することができる。そして、無信号状態が継続している間の経過時間である無信号時間が時間条件を満たさなくなった場合に、手前区間で受信した予告情報に基づくブレーキ種別のブレーキを作動させることができる。これによれば、無信号が発生した場合に、手前区間での走行制御情報の受信によって取得した予告情報に応じて、適切なタイミングで適切なブレーキ種別のブレーキを作動させて、列車の速度制御を行うことが可能となる。したがって、無信号状態が継続した場合の列車の走行制御を比較的に簡易でありながら効果的な手法で実現することができる。
【0011】
また、第2の発明は、前記予告情報が、前記内方区間が絶対停止区間であるか否かの情報を含み、前記絶対停止区間は、前記走行制御情報が伝送されない区間である、第1の発明の車上装置である。
【0012】
第2の発明によれば、予告情報によって、内方区間が絶対停止区間であるか否かを予告することができる。
【0013】
また、第3の発明は、前記時間条件設定手段が、前記手前区間において受信した前記走行制御情報に含まれる前記予告情報が、前記絶対停止区間を示す情報ではない場合には、前記絶対停止区間を示す情報である場合に比べて長時間の時分を前記時間条件として設定し、前記ブレーキ作動制御手段は、作動させるブレーキを、前記手前区間において受信した前記走行制御情報に含まれる前記予告情報が前記絶対停止区間を示す情報ではない場合には常用ブレーキとし、前記絶対停止区間を示す情報である場合には非常ブレーキとする、第2の発明の車上装置である。
【0014】
第3の発明によれば、手前区間において内方区間が絶対停止区間ではないことを示す予告情報を受信した場合に、絶対停止区間であることを示す予告情報を受信した場合に比べて、無信号許容時分の時間条件を長時間の時分として設定することができる。したがって、予告情報によって予め知らされていた絶対停止区間ではない区間に進入した場合には、絶対停止区間である場合と比べて長く無信号状態の継続が許容される。
【0015】
また、許容される時間条件を満たさなくなった場合の作動ブレーキであるが、予告情報によって予め知らされていた絶対停止区間ではない区間を走行している場合は常用ブレーキが作動し、予め知らされていた絶対停止区間を走行している場合は非常ブレーキが作動する。これによれば、予め知らされていた絶対停止区間ではない区間を走行している場合に不要な非常ブレーキが作動することを防止できる。また、予め知らされていた絶対停止区間を走行している場合には、非常ブレーキの遅れを防止できる。
【0016】
また、第4の発明は、前記無信号時間算出手段が、時間を積算する時間積算手段と、前記走行制御情報の受信が所定の定常受信状態となった場合に、前記時間積算手段による積算時間をリセットする時間リセット手段と、を有し、前記時間積算手段による積算時間を前記無信号時間とすることで、前記無信号状態が継続している間の経過時間を含めて前記無信号時間を算出する手段である、第1~第3の何れかの発明の車上装置である。
【0017】
第4の発明によれば、経過時間を積算するとともに、受信した走行制御情報が時間条件を満たす場合は積算時間をリセットすることで、積算時間を無信号時間として算出することができる。これによれば、無信号状態が継続している間の経過時間を含めて、無信号時間を算出することができる。
【0018】
また、第5の発明は、当該区間の制御速度情報と、内方区間の制御速度を予告する予告情報と、を含む走行制御情報が区間毎にレールに伝送されている当該レール上を走行する列車に搭載され、当該列車の走行区間のレールに伝送されている前記走行制御情報を受信して当該列車の走行制御を行う第1~第4の何れかの発明の車上装置と、区間毎に前記レールに前記走行制御情報を伝送する地上装置と、を具備した列車制御システムである。
【0019】
第5の発明によれば、第1~第4の何れかの発明と同様の効果を奏する列車制御システムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】列車制御システムの構成例を示す図。
図2】走行制御情報に基づく一段ブレーキ制御方式の速度制御の例を説明する図。
図3】区間境界通過時の速度制御の例を説明する図。
図4】予告情報の例を示す図。
図5】無信号時の速度制御の例を説明する図。
図6】無信号時の速度制御の他の例を説明する図。
図7】車上装置の機能構成例を示す図。
図8】列車制御処理の流れを示すフローチャート。
図9】無信号時速度制御処理の流れを示すフローチャート。
図10】変形例における予告情報の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付す。
【0022】
[システム構成]
図1は、本実施形態における列車制御システム1の構成例を示す図である。本実施形態の列車制御システム1は、デジタルATCシステムであって、図1に示すように、レールR上を走行する列車10に搭載される車上装置20と、地上装置30と、を備える。線路には、レールRを列車走行方向に沿って区分した列車10の走行制御の単位となる区間が定められる。区間は、レールRに設置された軌道回路を単位として定められる。
【0023】
地上装置30は、各区間の進出側に接続して設けられ、走行制御情報40を伝送する。各地上装置30は、近隣の軌道回路から得られる列車の在線情報や、連動装置から得られる進路情報(分岐器の開通方向情報を含む)等をもとに、当該区間内の列車10に対する走行制御情報40を生成して、ATC信号(電文)に含めて当該区間のレールRに繰り返し伝送する。なお、1台の地上装置30が複数区間に対応する構成とする場合には、地上装置30が複数区間のそれぞれに対する走行制御情報40を生成して、各区間へと対応する走行制御情報40を伝送するように構成すればよい。
【0024】
走行制御情報40には、伝送対象の区間(図1の例では区間1T)の区間IDと、当該区間の制御速度である制御速度情報Dと、当該区間の内方隣接の区間(図1の例では区間2T)である内方区間の制御速度を予告する予告情報Dと、が含まれる。区間IDは、区間毎、すなわち本実施形態では軌道回路毎に異なることとする。但し、連続する所定数の軌道回路において走行制御情報を区別できればよい場合には所定数のIDを繰り返し使うことができる。
【0025】
車上装置20は、レールRから受信した走行制御情報40に基づく自列車10の走行制御を行う。具体的には、受信した走行制御情報40に基づいて制御速度を決定し、この制御速度と自列車10の走行速度とを連続して照査し、走行速度が制御速度以下となるようにブレーキを制御する。
【0026】
[速度制御について]
1.速度制御の概要
図2は、走行制御情報40に基づく一段ブレーキ制御方式の速度制御を説明する図である。図2では、右方向を列車の進行方向とし、列車10aの後続列車の速度制御の一例を示している。
【0027】
先ず、先行列車10aが位置する区間(在線区間)の後方に隣接する区間10Tが、他の列車の進入を禁止する絶対停止区間となり、この絶対停止区間の後方の区間11T,12T,・・・が、他の列車の進入が可能な進入許容区間として定められる。
【0028】
また、先行列車10a(より詳細には、先行列車10aの在線区間)との間隔や線路条件等をもとに、進入許容区間である区間11T,12T,・・・毎に制御速度が定められる。そして、定められた制御速度の制御速度情報Dを含む走行制御情報40が生成されて、対応する区間11T,12T,・・・へと伝送される。一方、絶対停止区間として定められた区間10Tには、走行制御情報40は伝送されない(無信号)。
【0029】
車上装置20は、レールRから受信した走行制御情報40をもとに、走行区間の制御速度を決定・更新する。そして、車上装置20は、制御速度と自列車の走行速度とを照査し、走行速度が制御速度より高い場合は常用ブレーキ14(図7を参照)を作動させて、制御速度まで減速させる。また、車上装置20は、非常停止の場合には、非常ブレーキ13(図7を参照)を作動させて自列車を停止させる。
【0030】
2.区間境界通過時の速度制御
上記したように、車上装置20は、レールRから受信した走行制御情報40を用いて速度制御を行うことで、自列車が位置する区間に定められた制御速度に応じた速度制御を実現する。新たな区間に進入した場合は、進入した区間に定められた制御速度に基づく速度制御に切り替える。新たな区間への進入、すなわち区間境界の通過は、走行制御情報40の受信結果から検出することができる。
【0031】
ここで、列車が区間境界を通過する際、車上装置20では、一時的に走行制御情報40が受信されない無信号の状態が発生し得る。実際には、各区間に割り当てられた走行制御情報を含む電文は、個別の送信器により非同期で送信される。そのため、受信する走行制御情報を含む電文は、区間境界の前後において不連続となる。また、送信回路の引き回しや、車上受信特性のばらつき等によって、区間境界の前後で電文が寸断される。よって、区間境界の前後においては、1つの電文全体を正しく受信できない破壊電文を伴うものとなり、実質的に無信号状態を呈するものとなる。また、無絶縁軌道回路では、新たな区間への進入検知をもって当該区間への走行制御情報40の送信が開始される、いわゆる踏み込み送信が行われる。その場合、新たな区間への進入時には、列車の進入検知のための遅れ時間を要するものとなるため、走行制御情報40が受信されない無信号の状態が発生する。
【0032】
このことから、車上装置20は、走行制御情報40が受信されない状態或いは正常に受信されない状態を無信号状態として検出し、当該無信号状態が継続した無信号時間を算出・監視しつつ、受信した走行制御情報40に含まれる区間IDが変化した場合に、区間境界を通過したとして速度制御の切り替えを行う。
【0033】
無信号時間は、無信号タイマを用いて算出する。無信号タイマは、常時、経過時間を積算し続けるタイマ(計時手段)であるが、タイマ値である積算時間(無信号時間)は、走行制御情報40の受信状況が「定常受信条件」を満たす度にリセットされる。上記したように、各区間には走行制御情報40が繰り返し伝送されるため、車上装置20では、レールRに伝送されている走行制御情報40を次々と受信することになる。「定常受信条件」とは、走行制御情報40を安全且つ合理的に受信したとみなせる条件であり、例えば、「連続した2つの走行制御情報40が一致すること」、或いは「連続した3つの走行制御情報40のうち2つが一致すること」等として定めることができる。以下、走行制御情報40を安全且つ合理的に受信したとみなせる条件である「定常受信条件」を満たした受信状態のことを、「定常受信状態」という。なお、無信号タイマは、所定のクロック信号に基づいてカウントアップするカウンタ回路で構成することができる。
【0034】
図3は、区間境界通過時の速度制御を説明する図である。図3では、横方向を列車位置として、上から順に、レールRに伝送されるATC信号と、車上装置20において受信した受信電文と、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)と、を示している。ATC信号は、図3において、当該位置での信号強度(受信信号強度)を縦方向の幅で示している。当該区間の進出端からATC信号が伝送されるため、進出端に近づくにつれて縦方向の幅が大きく(太く)なるように図示している。受信電文は、車上装置20で受信された1つの走行制御情報40を1つの矩形ブロックとして示しており、付記された数字は、車上装置20が受信・解読した当該走行制御情報40に含まれる区間IDを示している。また、各矩形ブロックの図中右端の位置(タイミング)を、走行制御情報40が解読されたタイミングとして示している。クロスハッチングが施された矩形ブロックは、受信できなかった、或いは解読できなかった走行制御情報40を示す。無信号タイマは、上記したように、常時、経過時間を積算しているタイマであり、「定常受信条件」を満たす毎にリセットされる。すなわち、「定常受信状態」であると判断される毎にリセットされる。リセットされるタイミングは、走行制御情報40が受信・解読されたタイミングとなる。
【0035】
図3に示す例では、区間1Tには、区間ID=「1」の走行制御情報40が伝送され、次の区間2Tには、区間ID=「2」の走行制御情報40が伝送されている。図3では、区間境界の通過直後に、走行制御情報40を正常に受信・解読できた場合の例を示している。
【0036】
上記したように、列車が区間境界を通過する際には、車上装置20において一時的に走行制御情報40が受信されない無信号(瞬時無信号)が発生する。そして、瞬時無信号の前後では、受信する走行制御情報40に含まれる区間IDが異なる。そこで、車上装置20は、定常受信条件を満たしたと判定したとき(定常受信状態になったとき)の走行制御情報40に含まれる区間IDが、直前に定常受信条件を満たしたと判定したとき(直前に定常受信状態になっていたとき)の走行制御情報40に含まれる区間IDと異なる場合に、区間境界を通過したと判定する。またその際に、車上装置20は、直前に定常受信条件を満たしたと判定したタイミング(直前に定常受信状態になったタイミング)の位置を、通過した区間境界の位置とみなす。そして、車上装置20は、受信した走行制御情報40の制御速度情報Dに従って、列車の速度制御を行う。
【0037】
例えば、図3に示すように、正常時であれば、区間1Tを走行中は、区間ID=「1」の走行制御情報40を連続的に受信している。そのため、定常受信条件を満たす毎に、すなわち、1つの走行制御情報40を受信・解読する毎に、無信号タイマがリセットされる。
【0038】
その後、区間1Tと区間2Tとの境界通過の際は一時的に無信号状態となり、無信号タイマのタイマ値が増加する。そして、区間ID=「2」の走行制御情報40の受信が開始され、その後に定常受信条件を満たす(定常受信状態になった)と判定されると、無信号タイマがリセットされる。また、区間IDが異なる走行制御情報40について定常受信条件を満たすと判定した直前に定常受信条件を満たすと判定したタイミング、すなわち、図3の位置t1が、区間境界とみなされる。その後は、定常受信条件を満たす毎に無信号タイマがリセットされる。
【0039】
このように、定常受信条件の判定によれば、区間境界の通過を適正に判定することが可能となる。したがって、走行制御情報40の内容を確実に確定して、安全な列車制御を実現できる。
【0040】
すなわち、定常受信条件を満たしたときの走行制御情報40に含まれる区間IDが変化した場合に、区間境界を通過したと判定することができる。そして、新たな区間IDとなった直前の区間IDを含む走行制御情報40を受信したタイミングであって、定常受信条件を満たした受信タイミングの位置を、区間境界とみなすことができる。これによれば、区間境界とみなす位置は、実際の区間境界より手前(外方)となる。これは、安全側の動作となる。
【0041】
また、図3に示したように、無信号タイマは、受信した走行制御情報40が定常受信条件を満たす毎に(定常受信状態であると判定される毎に)リセットされる。つまり、無信号タイマによって算出される無信号時間は、受信した走行制御情報40が定常受信条件を満たしたときを起点とした経過時間であり、実際の無信号の期間を含む時間とすることができる。
【0042】
3.無信号時の速度制御
無信号には、上記した区間境界の通過時等に発生する無信号である瞬時無信号の他に、絶対停止信号と、緊急停止信号とがある。
【0043】
絶対停止信号は、絶対停止区間の停止信号である。図2に示したように、先行列車10aの直近後方区間に定められる絶対停止区間である区間10Tは、全ての列車の進入が禁止される。また、列車の在線区間における列車最後端車軸からその後方の区間境界までの間も、列車車軸により信号が遮断されるために必然的に無信号となり、絶対停止区間である。
【0044】
緊急停止信号は、事故発生や閉そく装置の故障等によって、緊急に列車を停止する必要があるときの停止信号である。この緊急停止信号も、絶対停止信号と同様に、走行制御情報40を送信しない無信号となる。
【0045】
一方、瞬時無信号は、上記したように、列車10が区間境界を通過する際に、車上装置20において一時的に走行制御情報40が受信されなくなることによって瞬間的に発生する無信号である。つまり、瞬時無信号は、絶対停止信号や緊急停止信号と異なり、意図せずに発生する無信号である。例えば、有絶縁区間境界を通過する際には、前後の区間に伝送されている信号波の混信によって瞬時無信号が発生する。なお、このような瞬時無信号は、区間境界のみならず、例えばループコイルの撚架点や、クロスジャンパー線等による死区間でも発生し得る。
【0046】
以上のように、無信号は、目的や原因によって、絶対停止信号と、緊急停止信号と、瞬時無信号と、の3種類に分類することができる。そして、3種類の無信号のうち、絶対停止信号及び緊急停止信号については、非常ブレーキ13を作動させて列車を停止させる必要がある。一方、瞬時無信号については、列車を停止させる必要はない。そのため、車上装置20は、無信号が発生した場合には、それが絶対停止信号又は緊急停止信号なのか、瞬時無信号なのかに応じた速度制御を行う。例えば、ある程度の時間は無信号状態が継続することを許容し、次の区間の走行制御情報40の受信を待機する。そして、待機しても走行制御情報40が受信されない場合には、絶対停止信号又は緊急停止信号であるとして、非常ブレーキ13を作動させる方法が考えられる。しかし、待機する時間(つまり無信号状態の継続を許容する時間)が長すぎると、無信号が絶対停止信号又は緊急停止信号であった場合に非常ブレーキ13が遅れる問題が生じ得る。逆に、当該時間が短すぎると、瞬時無信号であるのに絶対停止信号又は緊急停止信号として誤判定し、必要がないのに非常ブレーキ13を作動させる事態が生じ得る。
【0047】
そこで、本実施形態では、車上装置20は、無信号が発生した場合に、本実施形態の特徴の1つである無信号時速度制御処理を行う。この無信号時速度制御処理では、現在の走行区間において無信号が発生していることから、車上装置20は、現在の走行区間の直前の区間である手前区間において受信した走行制御情報40の予告情報Dをもとに、列車の速度制御を行う。
【0048】
4.予告情報の詳細
図4は、本実施形態における予告情報の一覧を示す図である。図4の一番左側に示す3ビットの値が予告情報である。本実施形態の予告情報は、その意味内容として、内方区間が絶対停止区間であるか否かの情報を含む。内方区間が絶対停止区間ではない場合の予告情報は、内方区間の制御速度を予告する情報である。このため、内方区間が絶対停止区間ではない場合の予告情報は、制御速度を予告する意味内容の情報であることをもって、内方区間が絶対停止区間ではないことを意味する情報となる。図4では、内方区間の制御速度として「65km/h」「45km/h」「25km/h」「15km/h」及び「0km/h」の5つの制御速度を予告する予告情報を例示している。また、予告情報=「111」が絶対停止区間を予告する情報である。
【0049】
そして、本実施形態では、予告情報毎に、各々の情報内容として、予告内容と、前方予告灯の状況(点灯/滅灯)と、無信号許容時分と、ブレーキ種別と、ブレーキ緩解速度と、が予め設定されている。
【0050】
予告内容には、予告情報が絶対停止区間(02信号区間)を示す情報の場合は、絶対停止区間を示す符号である「02」が設定される。一方、予告情報が制御速度を示す情報であれば、制御速度を示す符号が設定される。例えば、「65」は、制御速度が65km/hであることを示している。なお、その他にも、例えば、予告内容が「予告なし」等の予告情報を適宜含めることができる。
【0051】
無信号許容時分は、無信号状態の継続を許容する無信号時間の設定である。無信号許容時分は、予告情報が絶対停止区間を示す情報ではない場合に、絶対停止区間を示す情報である場合に比べて長時間の時分として定められる。図4の例では、絶対停止区間を予告する予告情報の無信号許容時分は「0.7秒」とされ、制御速度を予告する予告情報及び予告内容が「予告なし」である予告情報の無信号許容時分は「1.7秒」とされている。したがって、現在走行中の走行区間において無信号が発生した際、手前区間において受信した走行制御情報40の予告情報(以下適宜「手前区間受信予告情報」ともいう)によって内方区間(=この場合、現在走行中の走行区間を指す)が絶対停止区間であることが予告されている場合と、手前区間受信予告情報によって内方区間の制御速度が予告されている場合とでは、後者の方が長く無信号状態の継続が許容されることとなる。具体的な処理としては、車上装置20は、手前区間受信予告情報に係る無信号許容時分を時間条件として用いる。そして、無信号タイマのタイマ値である無信号時間が無信号許容時分より短い間は時間条件を満たし、無信号許容時分に達した場合に、時間条件を満たさなくなったと判定する。
【0052】
ブレーキ種別及びブレーキ緩解速度は、対応する無信号許容時分をもとに、上記した要領で時間条件を満たさなくなったと判定した場合に行う速度制御に関する設定である。制御速度を予告する予告情報及び予告内容が「予告なし」である予告情報のブレーキ種別は、「常用ブレーキ」として定められる。制御速度を予告する予告情報のブレーキ緩解速度は、「信号受信又は対応する制御速度」として定められる。したがって、車上装置20は、例えば、手前区間受信予告情報が制御速度を予告する場合に時間条件を満たさなくなったときは、手前区間受信予告情報に係る制御速度に従って常用ブレーキ14を作動させる。また、その後に走行制御情報40を受信した場合(より詳細には、定常受信条件を満たして走行制御情報40を受信した場合)を「信号受信」と判定し、常用ブレーキ14を緩解させる。
【0053】
一方、絶対停止区間を予告する予告情報のブレーキ種別は「非常ブレーキ」として定められ、ブレーキ緩解速度は、信号受信まで緩解しない設定とされる。したがって、車上装置20は、例えば、手前区間受信予告情報が絶対停止区間を予告する場合に時間条件を満たさなくなったときは、非常ブレーキ13を作動させる。作動させた非常ブレーキ13は、「信号受信」と判定するまで緩解させない。
【0054】
5.無信号時の速度制御の具体例
図5及び図6は、無信号時の具体的な速度制御(無信号時速度制御処理)を説明する図である。図5は、手前区間において制御速度を予告する予告情報を受信した場合の速度制御例を示し、図6は、手前区間において絶対停止区間を予告する予告情報を受信した場合の速度制御例を示している。
【0055】
先ず、図5では、横軸を列車位置として、上から順に、レールRに伝送されるATC信号と、車上装置20における受信電文と、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)と、常用ブレーキ信号の出力状態と、を示している。なお、常用ブレーキ信号の出力状態は、Hレベルが出力無し、Lレベルが出力有りに相当する。
【0056】
図5に示す例では、区間1Tには、区間ID=「1」、制御速度情報D=「65km/h」、予告情報D=「010(制御速度45km/h)」である走行制御情報40が伝送されている。また、次の区間2Tには、図示しないが、例えば、区間ID=「2」、制御速度情報D=「45km/h」、予告情報D=「010(制御速度45km/h)」等として走行制御情報40が伝送されている。
【0057】
車上装置20は、列車が区間1Tを走行中は、区間ID=「1」の走行制御情報40を連続的に受信している。そのため、走行制御情報40の受信毎に定常受信条件を満たすと判定されて、無信号タイマがリセットされる。このとき、受信した走行制御情報40によって、次の区間2Tの予告情報D=「010」を取得している。車上装置20は、制御速度「65km/h」に基づく速度制御を行う。
【0058】
次いで、区間境界の通過時には、一時的な無信号が発生する。そのため、無信号タイマはリセットされずに、タイマ値が増加し続ける。その場合は、車上装置20は、無信号が発生したとして、無信号時速度制御処理を行う。
【0059】
具体的には、図5の例では、手前区間受信予告情報=「010」であり、これは、内方区間の制御速度として「45km/h」を予告する予告情報である(図4を参照)。そのため、車上装置20は、先ず、当該手前区間受信予告情報に係る無信号許容時分である「1.7秒」を時間条件として用い、無信号時間が「1.7秒」に達するまで待機する。なお、その間に信号受信した場合には、車上装置20は、上記した要領で、新たに受信した走行制御情報40の制御速度情報Dに従って制御速度を切り替える(区間境界通過時の速度制御)。例えば、本例では、区間2Tに伝送されている走行制御情報40の制御速度情報Dが「45km/h」であるので、制御速度「65km/h」に基づく速度制御から、制御速度「45km/h」に基づく速度制御に切り替える。
【0060】
一方、図5に示すように、無信号時間が「1.7秒」に達して時間条件を満たさなくなった場合には、車上装置20は、手前区間1Tの制御速度「65km/h」に基づく速度制御から、手前区間受信予告情報に係る制御速度「45km/h」に基づく速度制御に切り替える。この場合は、列車速度が制御速度を超えているため、手前区間受信予告情報に係るブレーキ種別及びブレーキ緩解速度に従って、常用ブレーキ14を作動させる制御を行う。
【0061】
次に、図6では、横軸を列車位置として、上から順に、レールRに伝送されるATC信号と、車上装置20における受信電文と、無信号タイマのタイマ値(無信号時間)と、非常ブレーキ信号の出力状態と、を示している。なお、非常ブレーキ信号の出力状態は、Hレベルが出力無し、Lレベルが出力有りに相当する。
【0062】
図6に示す例では、区間7Tには、区間ID=「7」、制御速度情報D=「0km/h」、予告情報D=「111(絶対停止区間)」である走行制御情報40が伝送されている。絶対停止区間である次の区間8Tには、走行制御情報40は伝送されない。
【0063】
車上装置20は、列車が区間7Tを走行中は、区間ID=「7」の走行制御情報40を連続的に受信している。そのため、走行制御情報40の受信毎に定常受信条件を満たすと判定されて、無信号タイマがリセットされる。このとき、受信した走行制御情報40によって、次の区間4Tの予告情報D=「111」を取得している。また、車上装置20は、制御速度情報Dに従って制御速度「0km/h」に基づく速度制御を行う。
【0064】
車上装置20が制御速度情報Dに従って制御速度「0km/h」に基づく速度制御を行っているが、もしも列車が区間境界を通過してしまった場合には、一時的な無信号が発生する。そのため、無信号タイマはリセットされずに、タイマ値が増加し続ける。その場合は、車上装置20は、無信号が発生したとして、無信号時速度制御処理を行う。
【0065】
図6の例では、手前区間受信予告情報=「111」であり、これは、内方区間が絶対停止区間であることを示している(図4を参照)。そのため、車上装置20は、先ず、当該手前区間受信予告情報に係る無信号許容時分である「0.7秒」を時間条件として用い、無信号時間が「0.7秒」に達するまで待機する。なお、その間に信号受信した場合は、車上装置20は、上記した区間境界通過時の速度制御と同様の要領で、新たに受信した走行制御情報40の制御速度情報Dに従って制御速度を切り替える。
【0066】
一方、車上装置20は、無信号時間が「0.7秒」に達して時間条件を満たさなくなった場合には、手前区間受信予告情報に係るブレーキ種別及びブレーキ緩解速度に従って、非常ブレーキ13を作動させる制御を行う。
【0067】
[機能構成]
図7は、車上装置20の機能構成例を示す図である。図7に示すように、車上装置20は、処理部100と、記憶部200とを備えて構成され、一種のコンピュータとして構成することができる。
【0068】
処理部100は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の電子部品によって実現され、装置各部との間でデータの入出力制御を行う。そして、所定のプログラムやデータ、受電器11がレールRから受信した走行制御情報40を含むATC信号等に基づいて各種の演算処理を行い、車上装置20の作動を制御する。この処理部100は、位置速度算出部110と、無信号検出手段としての無信号検出部120と、定常受信判定部130と、無信号時間算出手段としての無信号時間算出部140と、時間条件設定手段としての時間条件設定部150と、速度制御部160と、を含む。これらの機能部は、プログラムを実行することによりソフトウェアとして実現される処理ブロックであってもよいし、ASICやFPGA等のハードウェア回路によって実現される回路ブロックであってもよい。本実施形態では、処理部100が列車制御プログラム210を実行することによりソフトウェアとして実現される処理ブロックとして説明する。
【0069】
位置速度算出部110は、車軸に取り付けられた速度発電機12から入力される回転数の計測値信号(PG信号)をもとに、自列車10の現在の走行位置(走行距離)、及び、走行速度を算出する。算出した走行位置、及び、走行距離は、算出位置速度情報220として記憶される。
【0070】
無信号検出部120は、レールRから走行制御情報40が受信されない或いは正常に受信されない無信号状態を検出する。無信号状態を検出した後は、定常受信判定部130によって次に走行制御情報40の受信状態が定常受信状態となったこと、すなわち正常受信したと判定されるまで、継続して無信号状態にあるとして検出する。
【0071】
定常受信判定部130は、定常受信条件を満たすかを判定することで、レールRから受信した走行制御情報40が正常に受信されたか否か(安全かつ合理的に受信されたか否か)を判定する。定常受信条件は、直近に受信した複数の走行制御情報40をもとに判断する条件とし、例えば、区間IDが同一である2つの走行制御情報40を連続して受信したこと、或いは、連続する3つの走行制御情報40のうち、区間ID或いは電文内容全体が一致する2つ以上の走行制御情報40を含むこと、等と定めることができる。
【0072】
無信号時間算出部140は、無信号状態の継続時間である無信号時間を算出する。無信号時間算出部140は、上記した無信号タイマに相当し、この無信号タイマのタイマ値を無信号時間とする。具体的には、無信号時間算出部140は、常時、時間積算手段として経過時間をカウント(積算)するとともに、定常受信判定部130によって走行制御情報40を安全かつ合理的、すなわち正常受信したと判定される毎に、時間リセット手段としてタイマ値をリセットする。
【0073】
時間条件設定部150は、無信号検出部120によって無信号状態が検出された場合に、現在の走行区間の手前区間において受信した走行制御情報40に含まれる予告情報(手前区間受信予告情報)に基づいて、無信号許容時分の時間条件を設定する。上記したように、手前区間受信予告情報が絶対停止区間を示す情報ではない場合に、絶対停止区間を示す情報である場合に比べて長時間の時分が時間条件として設定される。
【0074】
速度制御部160は、自列車の速度制御を行う機能部であり、有信号時制御速度設定部161と、有信号時速度制御部163と、ブレーキ作動制御手段としての無信号時速度制御部165と、を備える。
【0075】
有信号時制御速度設定部161は、無信号検出部120によって無信号状態が検出されていない(有信号の)期間における制御速度を設定する。具体的には、定常受信判定部130によって走行制御情報40を正常受信した(安全かつ合理的に受信した)と判定される毎に、当該走行制御情報40に含まれる制御速度情報を制御速度として設定する。
【0076】
有信号時速度制御部163は、有信号時制御速度設定部161によって設定された制御速度と、位置速度算出部110で算出された自列車10の現在の走行速度とを照査し、現在の走行速度が制御速度より高い場合は常用ブレーキ14を作動させ、制御速度まで減速させる。
【0077】
無信号時速度制御部165は、時間条件設定部150によって設定された時間条件を満たさなくなった場合に、手前区間受信予告情報に係るブレーキ種別及びブレーキ緩解速度に従って、常用ブレーキ14又は非常ブレーキ13を作動させる制御を行う。手前区間受信予告情報が絶対停止区間を示す情報である場合には非常ブレーキ13を作動させる。一方、手前区間受信予告情報が制御速度を示す情報の場合には、常用ブレーキ14を作動させて、有信号時速度制御部163と同様の要領で制御速度まで減速させる。
【0078】
記憶部200は、ICメモリやハードディスク、光学ディスク等の記憶媒体により実現される。この記憶部200には、車上装置20を動作させ、車上装置20が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、当該プログラムの実行中に使用されるデータ等が予め記憶され、或いは処理の都度一時的に記憶される。本実施形態では、列車制御プログラム210と、算出位置速度情報220と、受信走行制御情報230と、予告情報内容設定データ240と、が記憶される。予告情報内容設定データ240は、図4に示した予告情報毎の情報内容の設定データである。
【0079】
[処理の流れ]
図8は、車上装置20が行う列車制御処理の流れを示すフローチャートである。ここで説明する処理は、車上装置20において、処理部100が記憶部200から列車制御プログラム210を読み出して実行することで実現できる。
【0080】
図8に示すように、列車制御処理では先ず、無信号検出部120が、走行制御情報40を受信できない無信号が発生しているか否か(無信号状態)を検出する。そして、無信号が発生した場合は(ステップS1:YES)、無信号時速度制御処理を行う(ステップS3)。
【0081】
一方、無信号が発生していない場合には(ステップS1:NO)、定常受信判定部130が、走行制御情報40を正常受信したか否か(安全かつ合理的に受信したか否か)を判定する。そして、走行制御情報40を正常受信した(安全かつ合理的に受信した)場合には(ステップS5:YES)、無信号時間算出部140が、無信号時間をリセットする(ステップS7)。また、有信号時制御速度設定部161が、正常受信した走行制御情報40に含まれる制御速度情報に従って、制御速度を設定する(ステップS9)。そして、有信号時速度制御部163が、設定した制御速度と現在の走行速度とを照査し、列車速度が制御速度以下となるように常用ブレーキ14を作動させるブレーキ制御を行う(ステップS11)。その後、ステップS1に戻り、上記した処理を繰り返す。
【0082】
図9は、図8のステップS3で実行する無信号時速度制御処理の流れを説明するフローチャートである。図9に示すように、無信号時速度制御処理では先ず、時間条件設定部150が、手前区間受信予告情報に係る無信号許容時分の設定に従って、時間条件を設定する(ステップS301)。本実施形態では、図4を参照して説明したように、手前区間受信予告情報が絶対停止区間を示す情報の場合は例えば「0.7秒」とし、手前区間受信予告情報が制御速度を示す情報の場合は例えば「1.7秒」として、時間条件が設定される。
【0083】
そして、無信号状態が継続したまま、無信号時間が時間条件を満たさなくなった(無信号許容時分に達した)場合は(ステップS303:YES)、手前区間受信予告情報の情報内容を判定する(ステップS305)。そして、手前区間受信予告情報が制御速度を示す情報の場合は、絶対停止区間を示す情報ではないとしてステップS307に移行し、無信号時速度制御部165が、当該予告情報に係るブレーキ種別に従って常用ブレーキ14を作動させ、当該予告情報が示す制御速度に基づく速度制御を行う。その後、無信号時速度制御処理を終える。
【0084】
一方、手前区間受信予告情報が絶対停止区間を示す情報の場合はステップS311に移行し、無信号時速度制御部165は、当該予告情報に係るブレーキ種別に従って、非常ブレーキ13を作動させる。
【0085】
また、ステップS303において無信号時間が時間条件を満たしていると判定した場合であって(ステップS303:NO)、走行制御情報40を正常受信した(安全かつ合理的に受信した)場合には(ステップS313:YES)、図8のステップS7に移行する。
【0086】
以上説明したように、本実施形態によれば、レールRから列車に伝送される走行制御情報40に予告情報Dを含めることができる。そして、車上装置20は、無信号が発生した場合には、手前区間で受信した手前区間受信予告情報をもとに列車の速度制御を行うことができる。すなわち、手前区間受信予告情報に係る無信号許容時分を時間条件として設定し、時間条件を満たさなくなった場合には、手前区間受信予告情報に係るブレーキ種別のブレーキを作動させることができる。具体的には、手前区間受信予告情報によって制御速度が予告されている場合(=絶対停止区間ではないと予告されている場合)に、絶対停止区間が予告されている場合よりも長い時分の時間条件を設定する。そして、時間条件を満たさなくなった場合に、制御速度の予告時であれば常用ブレーキ14を、絶対停止区間の予告時であれば非常ブレーキ13を作動させることができる。したがって、無信号状態が継続した場合の列車の走行制御を比較的に簡易でありながら効果的な手法で実現することができる。また、内方区間が絶対停止区間か否かに応じて適切な時分の時間条件を設定でき、不要な非常ブレーキの作動の防止と、停止信号時の非常ブレーキの遅れの防止とを実現できる。
【0087】
なお、本発明を適用可能な形態は上記した実施形態に限定されるものではなく、適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0088】
例えば、上記実施形態では、予告情報の種類として、内方区間が絶対停止区間であることを予告する予告情報と、内方区間の制御速度を予告する予告情報と、を例示した(図4を参照)。これに対し、予告情報の種類を図4よりも少なくして、簡易な予告情報とすることもできる。これによれば、伝送する走行制御情報40のデータサイズを削減できる。
【0089】
図10は、本変形例における予告情報の一例を示す図である。例えば、図10に示すように、予告情報は、内方区間が絶対停止区間であることを予告する予告情報=「11」と、内方区間の制御速度が「0km/h」であることを予告する予告情報=「10」と、予告内容が「予告なし」である予告情報=「00」と、の3種類とすることができる。この場合、予告情報のビット数を「2」とすることができる。
【0090】
本変形例によれば、車上装置20は、手前区間受信予告情報=「11」の場合には、当該予告情報に係る無信号許容時分の時間条件を満たさなくなった時点で、非常ブレーキ13を作動させることができる。一方、手前区間受信予告情報=「10」の場合には、当該予告情報に係る無信号許容時分の時間条件を満たさなくなった時点で、ブレーキ緩解速度を「0km/h」として常用ブレーキ14を作動させることができる。したがって、無信号状態が継続した場合の列車の走行制御を、より簡易な手法で実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0091】
1 列車制御システム、10,10a 列車、20 車上装置、11 受電器、12 速度発電機、13 非常ブレーキ、14 常用ブレーキ、100 処理部、110 位置速度算出部、120 無信号検出部、130 定常受信判定部、140 無信号時間算出部、150 時間条件設定部、160 速度制御部、161 有信号時制御速度設定部、163 有信号時速度制御部、165 無信号時速度制御部、200 記憶部、210 列車制御プログラム、220 算出位置速度情報、230 受信走行制御情報、240 予告情報内容設定データ、30 地上装置、R レール、40 走行制御情報、D 制御速度情報、D 予告情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10