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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】積層体及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240502BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
B32B27/30 D
H05K1/03 610H
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021215336
(22)【出願日】2021-12-28
(65)【公開番号】P2023098521
(43)【公開日】2023-07-10
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智和
(72)【発明者】
【氏名】吉田 優
(72)【発明者】
【氏名】関口 昌史
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-070160(JP,A)
【文献】特開平05-183267(JP,A)
【文献】特開2011-051203(JP,A)
【文献】特開2021-089939(JP,A)
【文献】実開昭56-114576(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 5/00-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
H05K 1/00-3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂を含む基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に形成された接着層と、
前記接着層の上に積層された銅箔と、を有し、
前記基材の一の面に形成された前記接着層の厚さと前記基材の厚さとを合計した厚さに対する、前記接着層の厚さの比率が、下記式(1)の関係を満たし、
前記基材の周波数10GHzでの比誘電率が2.4以下であり、周波数10GHzでの誘電正接が0.001以下である積層体。
接着層厚さ/(基材厚さ+接着層厚さ)×100≦15% …(1)
【請求項2】
前記接着層が、前記基材の一の面と、当該面の反対面である他の面とに設けられ、
前記一の面に設けられた前記接着層の厚さと前記他の面に設けられた前記接着層の厚さとの合計厚さと前記基材の厚さとを合計した厚さに対する、前記接着層の合計厚さの比率が、下記式(2)の関係を満たす、請求項1に記載の積層体。
接着層合計厚さ/(基材厚さ+接着層合計厚さ)×100≦30% …(2)
【請求項3】
前記銅箔の前記接着層側の表面粗さRzが1.3μm以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記接着層の厚さが0.1μm以上5.0μm未満である、請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記接着層が、ポリイミド、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、及びスチレン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される1種以上を主成分として含む、請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記フッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である、請求項1~5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記積層体の厚さが10~500μmである、請求項1~6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の積層体を用いた高速通信用の回路基板用材料。
【請求項9】
請求項に記載の回路基板用材料を用いた回路基板。
【請求項10】
フッ素系樹脂を含み、周波数10GHzでの比誘電率が2.4以下であり、周波数10GHzでの誘電正接が0.001以下である基材の少なくとも一方の面に、接着層を形成する工程、及び
前記接着層の上に銅箔を積層する工程を有し、
前記基材の一の面に形成された前記接着層の厚さと前記基材の厚さとを合計した厚さに対する、前記接着層の厚さの比率が、下記式(1)の関係を満たす、積層体の製造方法。
接着層厚さ/(基材厚さ+接着層厚さ)×100≦15% …(1)
【請求項11】
前記接着層の上に銅箔を積層して積層構造体を形成する工程と、
前記積層構造体を加圧する工程と、を有する、請求項10に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
前記銅箔の表面粗さRzが1.3μm以下である、請求項10又は11に記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
前記基材の少なくとも一方の面に、プラズマによる表面処理を行い、
前記基材のプラズマによる表面処理面に、前記接着層を形成する、請求項10~12のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント回路基板(FlexiblePrintedCircuits;以下、FPCと示す。)の需要が増大している。
FPCの製造には、基材としての絶縁フィルムと薄い銅箔とを積層したフレキシブル銅張積層板(Flexible Cupper Clad Laminate;以下、FCCLと示す。)等の、可撓性を有する材料が用いられており、携帯電話及びスマートフォン等のモバイル型通信機器の可動部分の配線や、これらの基地局装置、サーバー・ルーター等のネットワーク関連電子機器、大型コンピュータ等の部品にその用途が拡大しつつある(例えば特許文献1~3)。
【0003】
これらの通信機器やネットワーク関連電子機器においては、大容量の情報を低損失かつ高速で伝送、処理する必要があり、FPCで扱う電気信号も高周波化が進んでいる。
高周波の電気信号を伝送する際に伝送損失が大きいと、電気信号のロスや信号の遅延時間の増大等の問題が生じる。このため、FPCに用いるFCCLには、低誘電特性(低誘電率、低誘電正接)を示し、高周波伝送における伝送損失が低減された、良好な電気特性を有することが求められる。
【0004】
例えば特許文献1には、液晶ポリマーフィルムのプラズマ処理面と銅めっき層を含む銅層(第2金属層)との間に、スパッタ成膜による下地層(第1金属層)を介在させることで、液晶ポリマーフィルムが有する電気特性(低伝送損失)の損失が抑制された、液晶ポリマーフィルム/下地層/銅層の積層体を得られることが開示されている。特許文献1によれば、上記の構造を有する積層体全体を、所定温度でアニール処理することで、銅層と液晶ポリマーフィルムとの密着強度が高められるとしているが、特許文献1の銅層の密着性は、必ずしも十分でない。また、スパッタ成膜や電解めっき法による成膜が必須であるため、製造工程が煩雑であり、量産には適しない。
【0005】
特許文献2、3には、絶縁フィルムと銅箔とを、接着層を介して積層するFCCLに用いる接着剤組成物に関して、所定のポリイミド樹脂を用いることで、低誘電特性(低誘電率、低誘電正接)を示し、且つ優れた接着力を示す接着剤組成物を得られることが開示されている。
しかしながら、特許文献2、3の接着剤組成物を用いて接着層を形成しても、FCCLとしての電気特性は必ずしも良好でなく、より高周波の用途に用いるには、更なる電気特性の改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-160738号公報
【文献】特開2003-147320号公報
【文献】特開2016-69651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、基材と銅層との接着性に優れ、且つ高周波伝送における伝送損失が低減された、積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の積層体が提供される。
1.フッ素系樹脂を含む基材と、
前記基材の少なくとも一方の面に形成された接着層と、を有し、
前記基材の一の面に形成された前記接着層の厚さと前記基材の厚さとを合計した厚さに対する、前記接着層の厚さの比率が、下記式(1)の関係を満たす積層体。
接着層厚さ/(基材厚さ+接着層厚さ)×100≦30% …(1)
2.前記接着層が、前記基材の一の面と、当該面の反対面である他の面とに設けられ、
前記一の面に設けられた前記接着層の厚さと前記他の面に設けられた前記接着層の厚さとの合計厚さと前記基材の厚さとを合計した厚さに対する、前記接着層の合計厚さの比率が、下記式(2)の関係を満たす、1に記載の積層体。
接着層合計厚さ/(基材厚さ+接着層合計厚さ)×100≦30% …(2)
3.前記接着層の上に積層された銅箔を有する、1又は2に記載の積層体。
4.前記銅箔の前記接着層側の表面粗さRzが1.3μm以下である、3に記載の積層体。
5.前記接着層の厚さが0.1μm以上5.0μm未満である、1~4のいずれかに記載の積層体。
6.前記接着層が、ポリイミド、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、及びスチレン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される1種以上を主成分として含む、1~5のいずれかに記載の積層体。
7.前記フッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である、1~6のいずれかに記載の積層体。
8.前記基材の周波数10GHzでの比誘電率が2.4以下であり、周波数10GHzでの誘電正接が0.001以下である、1~7のいずれかに記載の積層体。
9.前記積層体の厚さが10~500μmである、1~8のいずれかに記載の積層体。
10.1~9のいずれかに記載の積層体を用いた高速通信用の回路基板用材料。
11.10に記載の回路基板用材料を用いた回路基板。
12.フッ素系樹脂を含む基材の少なくとも一方の面に、接着層を形成する工程を有し、
前記基材の一の面に形成された前記接着層の厚さと前記基材の厚さとを合計した厚さに対する、前記接着層の厚さの比率が、下記式(1)の関係を満たす、積層体の製造方法。
接着層厚さ/(基材厚さ+接着層厚さ)×100≦30% …(1)
13.前記接着層の上に銅箔を積層して積層構造体を形成する工程と、
前記積層構造体を加圧する工程と、を有する、12に記載の積層体の製造方法。
14.前記銅箔の表面粗さRzが1.3μm以下である、13に記載の積層体の製造方法。
15.前記基材の少なくとも一方の面に、プラズマによる表面処理を行い、
前記基材のプラズマによる表面処理面に、前記接着層を形成する、12~14のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基材と銅層との接着性に優れ、且つ高周波伝送における伝送損失が低減された、積層体が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る積層体の概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る積層体の概略断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る積層体の概略断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る積層体の概略断面図である。
図5】実施例1~2及び比較例1についてのS21特性の測定結果を示す図である。
図6】実施例1及び参考例についてのS21特性の測定結果を示す図である。
図7】実施例1及び実施例3についてのS21特性の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る積層体及び積層体の製造方法について説明する。本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。一の技術的事項に関して、「x以上」等の下限値が複数存在する場合、又は「y以下」等の上限値が複数存在する場合、当該上限値及び下限値から任意に選択して組み合わせることができるものとする。
【0012】
本発明の一態様に係る積層体は、フッ素系樹脂を含む基材と、前記基材の少なくとも一方の面に形成された接着層と、を有し、前記基材の一の面に形成された前記接着層の厚さと前記基材の厚さとを合計した厚さに対する、前記接着層の厚さの比率が、下記式(1)の関係を満たす。
接着層厚さ/(基材厚さ+接着層厚さ)×100≦30% …(1)
【0013】
一実施形態に係る積層体は、フッ素系樹脂を含む基材と、前記基材の少なくとも一方の面に形成された接着層と、を有し、前記接着層が、前記基材の一の面と、当該面の反対面である他の面とに設けられ、前記一の面に設けられた前記接着層の厚さと前記他の面に設けられた前記接着層の厚さとの合計厚さと前記基材の厚さとを合計した厚さに対する、前記接着層の合計厚さの比率が、下記式(2)の関係を満たす。
接着層合計厚さ/(基材厚さ+接着層合計厚さ)×100≦30% …(2)
【0014】
FCCLにおいて、接着層を介して基材と銅層とを積層すると、基材が低誘電特性(低比誘電率、低誘電正接)であっても、接着層によってその特性が損なわれ易く、基材と銅層とを直接積層した場合と比較して、高周波伝送における伝送損失が増大し易い傾向がある。このため、FCCLの基材として汎用されているポリイミド等の樹脂成分と比較して、より低誘電特性(低比誘電率、低誘電正接)を示し電気特性に優れた樹脂であるフッ素系樹脂を、高周波伝送用のFCCLの基材として用いる場合には、通常、基材と銅層との間に接着層を設けない。
一方、フッ素系樹脂は接着性に乏しい素材であるため、接着層を設けないと銅箔との接着が困難である。またさらに、高周波伝送用途に用いる基板では、表皮効果と呼ばれる現象を抑制するために、銅箔として低粗度のものが使用される。このため、基材と銅箔との接着はより困難となっており、直接回路加工に耐え得る接着力を発現することは困難である。
本発明者らが鋭意研究した結果、接着層を介して基材と銅層とを積層した構成において、基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率(上述した式(1)の左辺で表される比率)を所定の値以下とすることで、接着層としての機能を維持しつつ、基材の低誘電特性を損なうことを抑制でき、回路基板に使用したときの高周波伝送における伝送損失を、基材と銅層とを直接積層した構成としたときと、略同等のレベルに抑えられることを見出した。
【0015】
本態様の積層体は、基材として、低誘電特性(低比誘電率、低誘電正接)を示し電気特性に優れたフッ素系樹脂を用いており、且つ、基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率(上述した式(1)の左辺で表される比率)が上記所定の値以下であるため、積層体を回路基板に使用したときの高周波伝送における伝送損失が低減された、良好な電気特性を有する。
また、本態様の積層体は、基材のフッ素系樹脂上に接着層を積層しているため、当該接着層上にさらに銅箔を積層することで、金属成分との接着性が必ずしも良好でないフッ素系樹脂と銅箔との間で、優れた接着性を示す。
【0016】
本態様における積層体の形状は特に限定されないが、例えばシート状又はフィルム状であり、典型的にはシート状である。
【0017】
本態様の積層体は、基材の少なくとも一方の面に接着層が積層されていればよい。具体的には、接着層は基材の片方の面だけに積層されていてもよく、基材の両方の面に積層されていてもよい。
また、銅層は、接着層を介して基材に積層されていればよく、基材の片方の面だけに積層されていてもよく、基材の両方の面に積層されていてもよい。
【0018】
[積層体]
図1は本発明の一実施形態に係る積層体の概略断面図である。
図1に示す積層体10は、フッ素系樹脂を含む基材11と、基材11の両方の面に積層された接着層12a、12bと、接着層12a、12bを介して、それぞれ基材11上に積層された銅箔13a、13bとを有する。
なお、図1及び後述する図2図4は、単に一態様に係る積層体の層構成を説明するためのものであり、縦横比や膜厚比は必ずしも正確ではない。
【0019】
(基材)
基材11の形状は特に限定されないが、例えばシート状又はフィルム状であり、典型的にはシート状である。
【0020】
基材11に用いるフッ素系樹脂としては、一般に用いられているものを特に限定なく使用できる。
フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられる。
これらのフッ素系樹脂は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
前述したフッ素系樹脂の中でも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性PTFEは、低誘電特性(低比誘電率、低誘電正接)であるため、基材として好適に用いることができ、中でもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を好適に用いることができる。なお、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、テトラフルオロエチレンの単独重合体である。
【0022】
基材11は、前述したフッ素系樹脂単独で構成されるものに限定されず、フッ素系樹脂以外の樹脂成分や、その他の成分を、フッ素系樹脂とともに含んでいてもよい。
【0023】
フッ素系樹脂以外の樹脂成分としては、例えば、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられる。
【0024】
また、基材11は、フッ素系樹脂以外の成分として、例えばアルミナ、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム、炭化珪素、窒化珪素、ガラスファイバー、ガラスビーズ、マイカ等の充填材を含んでもよい。これら充填材は、1種又は2種以上を使用できる。
基材11中におけるアルミナ、酸化チタン、シリカ、硫酸バリウム、炭化珪素、窒化珪素、ガラスファイバー、ガラスビーズ及びマイカから選択される1種以上の充填材を含む場合、その含有量は、例えば1~60質量%である。なお、シート中には必ずしも充填剤を含んでいなくてもよい。
【0025】
基材11におけるフッ素系樹脂の含有割合は、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、又は99.9質量%以上であってもよく、実質的に100質量%がフッ素系樹脂であってもよい。
基材11におけるフッ素系樹脂の含有割合が50質量%以上であることで、積層体を回路基板に使用したときに、高周波伝送における伝送損失が低減された、良好な電気特性を示す。
【0026】
例えばFCCLの基材として汎用されているモディファイポリイミドは、周波数10GHzでの比誘電率が3.3、誘電正接が0.007である。
これに対して、例えばフッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、周波数10GHzでの比誘電率が2.1、誘電正接が0.0002であり、モディファイポリイミドと比較して低誘電特性である。
従って、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂を基材として用いた積層体は、回路基板に使用したときに、高周波伝送における伝送損失が低減された、良好な電気特性を示し得る。
【0027】
基材11は、周波数10GHzでの比誘電率が3.0以下、2.5以下、2.4以下、2.3以下、又は2.2以下であってもよい。周波数10GHzでの比誘電率の下限値は、特に限定されないが、通常、2.0以上である。
また、基材11は、周波数10GHzでの誘電正接が0.001以下、0.0008以下、0.0006以下、又は0.0004以下であってもよい。周波数10GHzでの誘電正接の下限値は、特に限定されないが、通常、0.0001以上である。
基材11の周波数10GHzでの比誘電率及び誘電正接が上記範囲にあることで、積層体を回路基板に使用したときに、高周波伝送における伝送損失が低減された、良好な電気特性を示す。
【0028】
基材11は、単層であってもよく複層であってもよい。
基材11の厚さは、特に限定されないが、例えば1~500μmであってもよく、2~350μmであってもよく、3~300μmであってもよく、4~200μmであってもよい。
基材11の厚さが1μm以上であることで、積層体を回路基板に使用したときに、銅層と他の部材との電気絶縁性を十分に確保することができる。また、基材11の厚さが500μm以下であることで、積層体において、FPCとして求められる柔軟性を担保し易い。
なお、基材11が複層である場合、基材11の厚さは、複数の層の全体の厚さをいう。
【0029】
(接着層)
接着層12としては、基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率(上述した式(1)の左辺で表される比率)を、所定の値以下とすることで、基材の低誘電特性を損なうことを抑制できるため、接着剤の誘電特性に制約されることなく、FCCLの接着剤として一般に用いられる樹脂を、特に限定なく用いて形成できる。
接着層としては、例えば、ポリイミド、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド、及びスチレン系熱可塑性エラストマーからなる群から選択される1種以上の樹脂成分を含むものが挙げられる。
接着層は、これらの樹脂成分を単独で含んでいてもよく、2種類以上の組み合わせで含んでいてもよい。
上記の樹脂成分の中でも、取り扱い易さの点から、ポリイミド、ウレタン樹脂を、接着層の樹脂として好適に用いることができる。
【0030】
接着層12は、前述した樹脂成分単独で構成されるものに限定されず、任意で、二酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の充填剤や、シランカップリング剤、その他公知の添加剤等を、前述した樹脂成分とともに含んでいてもよい。
【0031】
接着層12における、前述した樹脂成分の含有割合は、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、又は99.9質量%以上であってもよく、実質的に100質量%が、前述した樹脂成分であってもよい。
【0032】
接着層12は、基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率が、下記式(1)の関係を満たす。
接着層厚さ/(基材厚さ+接着層厚さ)×100≦30% …(1)
式(1)における接着層厚さとは、基材の一の面に形成された接着層の厚さであり、例えば図1に示す例において、接着層12aの厚さと接着層12bの厚さとが異なる場合には、より厚い方の層の厚さをいい、接着層12aの厚さと接着層12bの厚さとが同じである場合には、接着層12a又は接着層12bのうちのいずれか一方の層の厚さをいう。
また、式(1)における接着層厚さとは、後述する図2に示す例(基材の片面にだけ接着層が形成された積層体)の場合には、接着層12aの厚さを、接着層の厚さという。
【0033】
基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率(式(1)の左辺で表される比率)を30%以下とし、接着層の厚さを薄く設計することにより、積層体内における伝送損失に大きく影響する接着層への電磁波の通過距離が短くなり伝送損失が低減される。即ち銅箔に対する誘電体である接着層12と基材11との複合体(積層体)に対する、接着層による誘電特性の寄与を低減することができる。このため、本態様の積層体は、接着層を有していても、低誘電特性が損なわれるのを抑制でき、積層体を回路基板に使用したときに、高周波伝送における伝送損失が低減された、良好な電気特性を得られる。さらに、本態様の積層体では、この良好な電気特性の他、当該接着層により一定程度の接着性(例えば金属(回路基板用の銅箔等)と剥離しない程度の接着性)を有することができ、即ち良好な電気特性と接着性の両立を図ることもできる。
基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率は、好ましくは25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、又は9%以下であり、さらに好ましくは8%以下である。
基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率の下限値は、例えば0.5%以上、又は1%以上である。これにより、フッ素系樹脂を含む基材と銅層とを良好に接着でき、銅箔における回路パターン形成を円滑に行うことができる。
【0034】
一実施形態において、接着層が、基材の一の面と、当該面の反対面である他の面とに設けられる場合(即ち、基材の両面に接着層が設けられる場合)、基材の一の面に設けられた接着層の厚さと基材の他の面に設けられた接着層の厚さとの合計厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の合計厚さの比率が、下記式(2)の関係を満たすことが好ましい。
接着層合計厚さ/(基材厚さ+接着層合計厚さ)×100≦30% …(2)
式(2)における接着層合計厚さとは、基材に接して形成された接着層の各々の厚さを合計した厚さをいう。
例えば図1に示す例では、接着層12aの厚さと接着層12bの厚さを合計した厚さを、接着層の合計厚さという。
【0035】
基材の一の面に設けられた接着層の厚さと基材の他の面に設けられた接着層の厚さとの合計厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の合計厚さの比率(式(2)の左辺で表される比率)は、より好ましくは25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、又は9%以下であり、さらに好ましくは8%以下である。
基材の一の面に設けられた接着層の厚さと基材の他の面に設けられた接着層の厚さとの合計厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の合計厚さの比率(式(2)の左辺で表される比率)の下限値は、例えば0.5%以上、又は1%以上である。
上記の上限値を好適とする理由は、上述した式(1)の左辺で表される比率(基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率)について説明した、各上限値を好適とする理由と同様である。
また、上記の下限値を好適とする理由は、上述した式(1)の左辺で表される比率(基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率)について説明した、各下限値を好適とする理由と同様である。
【0036】
接着層12の厚さは、上述した式(1)を満たす範囲において、後述する銅箔13と基材11との間で目的とする接着性を発現し得る厚さを、適宜選択することができる。
接着層12の厚さは、好ましくは0.1μm以上5.0μm未満である。
接着層12の厚さが5.0μm未満であることで、基材11の低誘電特性が損なわれるのを抑制でき、積層体を回路基板に使用したときに、高周波伝送における伝送損失がより低減された、良好な電気特性を得られる。
また、接着層12の厚さが0.1μm以上であることで、フッ素系樹脂を含む基材と銅層とをより良好に接着でき、銅層における回路パターン形成を円滑に行うことができる。
接着層12の厚さは、0.3μm以上、0.5μm以上、0.7μm以上、又は0.9μm以上であってもよく、4.5μm以下、4.0μm以下、3.0μm以下、又は2.0μm以下であってもよい。
また、接着層の厚さは、例えば0.3~4.5μmであり、好ましくは0.5~4.0μmであり、より好ましくは0.7~3.0μmであり、さらに好ましくは0.9~2.0μmである。
【0037】
接着層12は、単層であってもよく、複数の層を積層した複層であってもよい。
接着層12が複層である場合、前述した接着層12の厚さは、複数の層全体の厚さをいう。
【0038】
接着層12は、周波数10GHzでの比誘電率が10以下、8以下、5以下、又は4以下であってもよい。周波数10GHzでの比誘電率の下限値は、特に限定されないが、通常、2.0以上である。
また、接着層12は、周波数10GHzでの誘電正接が0.03以下、0.02以下、又は0.015以下であってもよい。周波数10GHzでの誘電正接の下限値は、特に限定されないが、通常、0.00005以上、又は0.0001以上である。
接着層12の周波数10GHzでの比誘電率及び誘電正接が上記範囲にあることで、積層体を回路基板に使用したときに、高周波伝送における伝送損失がより低減された、良好な電気特性を示す。
【0039】
(銅層)
銅箔13a、13b(以下、単に銅層13と示す。)は、銅又は銅合金を主として含む。
銅箔13は、典型的には、銅又は銅合金からなるものであるが、銅又は銅合金以外の金属成分を含んでいてもよい。
【0040】
銅箔13の厚さは、特に限定されないが、例えば1~50μmであってもよく、2~40μmであってもよく、3~30μmであってもよい。
銅箔13の厚さが1μm以上であることで、積層体としての生産安定性に優れ、また良好なハンドリング性を得られる。
また、銅箔13の厚さが50μm以下であることで、積層体において、FPCとして求められる柔軟性を担保し易い。
【0041】
銅箔の接着層側の表面粗さ(最大高さ)Rzは、例えば1.3μm以下であり、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.8μm以下である。銅箔の接着層側の表面粗さ(最大高さ)Rzの下限値は特に限定されないが、例えば0.01μm以上又は0.1μm以上である。
銅箔の接着層側の表面粗さ(最大高さ)Rzは、積層体を断面観察したときの最大深さを計測して得られる値とすることができる。
【0042】
積層体10全体の厚さは、特に限定されないが、10~500μmであってもよく、60~450μmであってもよい。
積層体10の厚さが500μm以下であることで、FCCLに適した、良好な可撓性を得ることができ、FPC等の回路基板の製造時や使用時の取り扱い性に優れる。
また、積層体10の厚さが10μm以上であることで、FCCLとして十分な強度を得ることができ、FPC等の回路基板の製造時や使用時の取り扱い性に優れる。
【0043】
積層体10における、基材11と接着層12との間のピール強度は、好ましくは0.1N/mm以上、より好ましくは0.2N/mm以上、さらに好ましくは0.3N/mm以上である。
なお、基材11と接着層12との間のピール強度は、実施例に記載の方法によって測定する。
【0044】
なお、本態様の積層体は、必ずしも図1に示すように、基材11の両面に接着層12a、12b及び銅箔13a、13bが設けられた構成には限られない。
例えば図2に示すように、基材11の片面だけに、接着層12a及び銅箔13aが設けられた構成であってもよい。
一実施形態に係る積層体10は、図2に示すように、フッ素系樹脂を含む基材11と、基材11の片方の面に積層された接着層12aと、接着層12aを介して基材11上に積層された銅層13aとを有する。
【0045】
また、本態様の積層体は、必ずしも銅箔を有していなくてもよく、例えば図3又は図4に示す構成であってもよい。
一実施形態に係る積層体10は、図3に示すように、フッ素系樹脂を含む基材11と、基材11の片方の面に積層された接着層12aを有する。
一実施形態に係る積層体10は、図4に示すように、フッ素系樹脂を含む基材11と、基材11の両方の面に積層された接着層12a、12bを有する。
【0046】
[積層体の製造方法]
本発明の一態様に係る積層体の製造方法は、フッ素系樹脂を含む基材の少なくとも一方の面に、接着層を形成する工程を有する。
本態様における接着層は、基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率が、下記式(1)の関係を満たす。
接着層厚さ/(基材厚さ+接着層厚さ)×100≦30% …(1)
【0047】
一実施形態に係る積層体の製造方法は、下記(1)~(3)の工程を含む。
(1)フッ素系樹脂を含む基材の少なくとも一方の面に接着剤を塗布して、接着層を形成する工程
(2)前記接着層の上に銅箔を積層して、積層構造体を形成する工程
(3)前記積層構造体を加圧して、基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率が30%以下である接着層を有する積層体を形成する工程
【0048】
(工程(1))
まず、基材の少なくとも一方の面に接着剤を塗布する。
基材としては、前述した積層体の項目で説明した、フッ素系樹脂を含むものを用いることができる。
例えば、前述したフッ素系樹脂を含む原料組成物を溶融混錬した後、圧延等してシート状又はフィルム状に成形して得られるものを、基材として用いてもよい。また、フッ素系樹脂として、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の、高溶融粘度を有する樹脂を用いる場合には、フッ素系樹脂を含む原料組成物を圧縮成形後、焼成して得られた成形体を、例えばスカイブ加工して得られるシート状又はフィルム状のものを、基材として用いてもよい。
【0049】
接着剤としては、前述した積層体の項目で説明した、接着層に含まれる樹脂成分、並びに溶剤及び任意でその他の助剤を含む組成物を用いることができる。
溶剤としては、例えば、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、水、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、酢酸エチル、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等が挙げられる。溶剤としては、これらを単独で用いてもよいし、これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、助剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン等を用いることができる。
【0050】
接着剤を塗布する方法としては、例えば、ディップコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、バーコーティング、コンマコーティング、キスリバースグラビア等の方法を用いることができる。
【0051】
次いで、基材上に塗布した接着剤を、例えば熱風循環オーブン等で乾燥して溶媒除去することにより、基材上に接着層を形成する。
【0052】
工程(1)において、基材上に形成する接着層は、基材の一の面に形成する接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率(接着層厚さ/(基材厚さ+接着層厚さ)×100)が、30%以下であることが好ましい。
これにより、後述する加圧工程の加圧条件を適宜調整することにより、最終的に得られる接着層の厚さについて、上述した式(1)を満たす範囲に容易に調整することができる。
【0053】
工程(1)において基材上に形成する接着層は、基材の一の面に形成する接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率(接着層厚さ/(基材厚さ+接着層厚さ)×100)が、好ましくは25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、又は9%以下であり、さらに好ましくは8%以下である。
基材の一の面に形成する接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率(接着層厚さ/(基材厚さ+接着層厚さ)×100)は、例えば0.5%以上、又は1%以上である。
【0054】
一実施形態において、接着層を、基材の一の面と、当該面の反対面である他の面とに形成する場合(即ち、基材の両面に接着層を形成する場合)、工程(1)において基材上に形成する接着層は、基材の一の面に形成する接着層の厚さと基材の他の面に形成する接着層の厚さとの合計厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の合計厚さの比率が、下記式(2)の関係を満たすことが好ましい。
接着層合計厚さ/(基材厚さ+接着層合計厚さ)×100≦30% …(2)
【0055】
基材の一の面に形成する接着層の厚さと基材の他の面に形成する接着層の厚さとの合計厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の合計厚さの比率(式(2)の左辺で表される比率)は、好ましくは25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、又は9%以下であり、さらに好ましくは8%以下である。
基材の一の面に形成する接着層の厚さと基材の他の面に形成する接着層の厚さとの合計厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の合計厚さの比率(式(2)の左辺で表される比率)の下限値は、例えば0.5%以上、又は1%以上である。
【0056】
工程(1)における接着層の厚さは、好ましくは0.1μm以上5.0μm未満である。
これにより、後述する加圧工程の加圧条件を適宜調整することにより、最終的に得られる接着層の厚さを、0.1μm以上5.0μm未満の範囲に容易に調整することができる。
工程(1)における接着層の厚さは、0.3μm以上、0.5μm以上、0.7μm以上、又は0.9μm以上であってもよく、4.5μm以下、4.0μm以下、3.0μm以下、又は2.0μm以下であってもよい。
また、工程(1)における接着層の厚さは、例えば0.3~4.5μmであり、好ましくは0.5~4.0μmであり、より好ましくは0.7~3.0μmであり、さらに好ましくは0.9~2.0μmである。
【0057】
(工程(2))
次に、接着層の上に銅箔を積層して、積層構造体(銅箔/接着層/基材/接着層/銅箔)を形成する。
【0058】
銅箔としては、圧延銅箔を用いてもよく、電解銅箔を用いてもよい。
【0059】
銅箔としては、接着性の観点では凹凸が付与されているものが好適であるが、高周波用途においては、凹凸が大きいと表皮効果の影響により電気特性が損なわれ易くなる。このため、銅箔としては低粗度銅箔が好ましく、表面粗さ(最大高さ)Rzは、例えば1.3μm以下であり、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.8μm以下である。低粗度銅箔の表面粗さ(最大高さ)Rzの下限値は特に限定されないが、例えば0.01μm以上又は0.1μm以上である。
表面粗さ(最大高さ)Rzが上記範囲にある面を、接着層と対向させて、銅箔を接着層に積層することが好ましい。
これにより、銅箔と接着層との間で、十分な接着強度(ピール強度)を得ることができる。また、接着層と接する側の銅箔の面の表面粗さ(最大高さ)Rzが上記範囲にある銅箔を用いることで、最終的に得られる積層体を回路基板に使用したときの、高周波伝送における伝送損失を低減できる。
【0060】
(工程(3))
次に、工程(2)で得られた積層構造体(銅箔/接着層/基材/接着層/銅箔)を加圧する。
加圧は、例えば、上記の積層構造体をステンレス製板で挟み込むことで行うことができる。
加圧条件は、特に限定されないが、加圧後に得られる接着層において、基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率(式(1)の左辺で表される比率)が30%以下となるように、適宜調整して行う。
加圧条件は、例えば加圧圧力を1~10MPaで、加圧時の温度を40~350℃の条件下で、通常1~240分間熱プレスすることにより、行うことができる。
【0061】
上記加圧工程を行うことで、接着層が、基材の一の面に形成された接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率(式(1)の左辺で表される比率)が30%以下の条件を満たす接着層となり、銅箔が銅層となる。これにより、銅箔/接着層/基材/接着層/銅箔の積層構造を有する積層体を得る。
【0062】
なお、前述した工程(1)を行う前に、基材の少なくとも一方の面に表面処理を行ってもよい。表面処理としては、例えばプラズマによる表面処理が挙げられる。
プラズマ表面処理に用いるガス種としては、例えば窒素ガス、水素ガスが挙げられる。また、これら以外のガス種として、例えば酸素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素ガス、水蒸気、ヘリウムガス、アンモニアガス等を用いてもよい。
これらのガスは、単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
プラズマ表面処理におけるガス圧の好適な範囲は、使用するガス種によって異なるが、例えば、窒素ガスと水素ガスの混合ガスを用いる場合、ガス圧は1~1000Paであることが好ましい。
【0064】
プラズマ表面処理は、基材を設置した真空装置内を所定の圧力になるまで真空引きした後、例えば、プラズマ処理用のガスを真空装置内に導入し、適切なガス圧で直流放電プラズマを発生させることにより行うことができる。
【0065】
なお、工程(1)の前に基板の表面処理を行う場合、工程(1)の接着剤の塗布は、基材の表面処理面に対して行うことがよい。
【0066】
以上説明した方法により、前述した本態様の積層体を得られる。
なお、上記した製造方法は、本態様の積層体を得るための一製造例を示したものであり、本態様の積層体を得る方法は、必ずしもこのような方法に限定されない。
例えば、上記した製造方法では、基材の表面に直接塗布した液状の接着剤を乾燥させることで、接着層を形成する方法を例に説明しているが、本態様の積層体の製造方法は、必ずしもこれに限定されない。
例えば、PET等の別の支持体上で、接着剤の層を乾燥し、フィルム状に成形したものを支持体から剥離して、基材に積層するようにしてもよい。
また、例えば、接着剤を銅箔上に塗布して接着剤の塗布層を形成した後、その上に基材を積層するようにしてもよい。
【0067】
[回路基板用材料]
以上説明した本態様の積層体を用いて、高速通信用の回路基板用材料を得ることができる。ここで、回路基板用材料とは、例えばFPC等の回路基板に適用可能な材料をいう。また高速通信とは、周波数帯が例えば10GHz以上や、20GHz以上のデータ通信をいう。
【0068】
[回路基板]
前述した回路基板用材料の積層体の銅層を、エッチング等の一般に用いられる方法でパターン加工して回路形成することで、FPC等の回路基板を得られる。
【実施例
【0069】
実施例1
<基板の表面処理>
厚さ100μmのポリテトラフルオロエチレンシート(ニチアス株式会社製、PTFEテープ「ナフロン(登録商標)」、以下、PTFEシートと示す。比誘電率εr(測定周波数:10GHz);2.1、誘電正接tanδ(測定周波数:10GHz);0.0002)、を100mm×100mmのサイズに切り出し、下記の手順でプラズマ処理を行った。
まず、真空プラズマ装置にPTFEシートを設置し、真空装置内を真空引きした後、窒素ガス及び水素ガスの混合ガスを導入し、装置内におけるガス圧力を5Paとした混合ガス雰囲気下で、2.45GHzのマイクロ波を用いて10秒間プラズマ処理を行い、PTFEシートの両面にプラズマ処理を行った。
【0070】
<接着剤の塗布>
PTFEシートのプラズマ処理面(PTFEシートの両面)に、接着剤として熱可塑性ポリイミドワニス(荒川化学工業株式会社製、「PIAD(登録商標)150H」、比誘電率εr(測定周波数:10GHz);2.5、誘電正接tanδ(測定周波数:10GHz);0.002)をディップコート法により基材の両面に塗布し、熱風循環オーブンにて乾燥して溶媒除去して、基材の両面に接着剤の塗布層を形成した。接着剤の塗布層の各々の厚さは1μmであった。
【0071】
<銅箔の積層>
PTFEシートの両面に形成された、乾燥後の接着剤の塗布層上に、100mm×100mmに切出した厚さ18μmの低粗度電解銅箔(三井金属鉱業株式会社製、「TQ-M4-VSP」、最大高さRz;0.6μm)を積層し、得られた積層構造体を、SUS304ステンレス製板(120mm×120mm、厚さ5mm)で挟み込み、温度180℃、圧力2.5MPaの条件で90分間加熱加圧して熱プレスすることにより、積層体(銅箔/接着層/PTFEシート(基材)/接着層/銅箔)を得た。
熱プレス後の積層体の厚さは138μmであり、接着層の各々の厚さは1μmであった。
また、JIS C6481に準拠して、得られた積層体の銅箔と接着層との間のピール強度を測定した。ピール強度は0.6N/mmであった。
【0072】
実施例2
接着剤の塗布工程において、両面に塗布された接着剤の塗布層の各々の厚さが4μmとなるように、接着剤の塗布を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。
熱プレス後の積層体の厚さは144μmであり、接着層の各々の厚さは4μmであった。
【0073】
実施例3
接着剤として、熱可塑性ポリイミドワニスに代えて、水系ポリウレタン樹脂(第一工業製薬株式会社製、商品名「スーパーフレックス(登録商標)170(SF-170)」、比誘電率εr(測定周波数:10GHz);7、誘電正接tanδ(測定周波数:10GHz);0.017)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。接着層の各々の厚さは1μmであった。
【0074】
比較例1
接着剤の塗布工程において、両面に塗布された接着剤の塗布層の各々の厚さが25μmとなるように、接着剤の塗布を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。接着層の各々の厚さは25μmであった。
【0075】
比較例2
PTFEシートに接着剤の塗布を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、積層体を得た。
また、得られた積層体の銅箔とPTFEシートとの間のピール強度を、実施例1と同様にして測定した。ピール強度は0N/mmであった。
【0076】
参考例
実施例1で用いたのと同じPTFEシートの両面に、無電解銅めっきを施した後に、電流密度2.5A/dmで電気銅めっき(めっき液:硫酸銅溶液)処理を行い、膜厚18μmの銅めっき層を形成した。
【0077】
実施例1~3、比較例1~2、及び参考例で得られた積層体について、以下の評価を行った。
【0078】
[回路加工性(接着性)]
積層体の片面をエッチング加工して、マイクロストリップライン(回路幅0.31mm、回路長45mm)の回路加工を行った。
回路加工面における回路の浮き(PTFEシートと銅箔の剥離)の有無を、目視にて確認し、下記評価基準に基づき、回路加工性(PTFEシートと銅箔との接着性)を評価した。評価結果を表1に示す。
〇:回路加工面における回路の浮き(PTFEシートと銅箔の剥離)が無かった。
△:回路加工面における回路の浮き(PTFEシートと銅箔の剥離)が確認され、回路形成が困難であった。
×:回路加工面における回路の浮き(PTFEシートと銅箔の剥離)が著しく、殆ど回路加工を行えなかった。
【0079】
[S21特性評価(伝送損失の評価)]
[回路加工性(接着性)]の評価において回路加工した後の積層体を、45mm×45mmの外形サイズに切出し、S21特性測定用の試料を作製した。
各測定用試料の伝送路に、発信機としてのネットワークアナライザ(KeysightTechnologies社製、「N5247A」)、及び測定ジグ(アンリツ株式会社製、「MODEL 3680V」)を用いて、高周波信号を伝送し、S21特性を測定した。
S21特性の測定は、インピーダンスを50Ωとし、1~60GHzの範囲の周波数帯について、測定点数を1000点として行った。
図5に、実施例1~2及び比較例1についてのS21特性の測定結果を示す。図5中、横軸は周波数であり、縦軸はS21特性[dB]である。
S21特性とは、入力端子から出力端子への電力量の絶対量であり、S21特性の絶対値が小さいほど伝送損失が少なく、積層体の高周波特性が良好であることを意味する。実施例1~3、比較例1~2、及び参考例のS21特性の測定結果について、下記評価基準に基づき高周波特性を評価した。評価結果を表1に示す。
〇:30GHz未満の周波数では、-2.65dB未満のS21特性(伝送損失50%以上に相当する)を示さなかった。(即ち、30GHz以上の周波数帯で、-2.65dB未満のS21特性を示した。)
×:30GHz未満の周波数帯で、-2.65dB未満のS21特性(伝送損失が50%以上)を示した。
なお、S21特性は、例えば、30GHz未満において、その最小値が-2.65dB以上であり、好ましくは-2.6dB以上であり、より好ましくは-2.5dB以上である。
【0080】
【表1】
【0081】
図6は、実施例1及び参考例の各測定用試料についての、S21特性の測定結果を示す図である。図6中、横軸は周波数であり、縦軸はS21特性である。
なお、図6中の(a)は、FCCLの汎用基材である液晶ポリマーフィルム単体(厚さ100μm)についてのS21特性の測定結果を示しており、図6中の(b)は、FCCLの汎用基材であるモディファイポリイミドフィルム単体(厚さ100μm)についてのS21特性の測定結果を示している。
図6に示すように、実施例1のS21特性は、参考例1のS21特性と、略同様の推移を示しており、液晶ポリマーフィルム(厚さ100μm)やモディファイポリイミドフィルム(厚さ100μm)が示しているような、高周波帯におけるS21特性の大幅な低下を生じていない。
したがって、接着層を介して基材と銅箔とを積層した積層体において、接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率(接着層厚さ/(基材厚さ+接着層厚さ)×100)が30%以下の範囲にあれば、積層体を回路基板に使用したときの高周波伝送における伝送損失を、参考例の構成(基材に銅めっき層とを直接積層した構成)と略同等のレベルに抑えられることが確認できる。
【0082】
図7は、実施例1及び実施例3の各測定用試料についての、S21特性の測定結果を示す図である。図7中、横軸は周波数であり、縦軸はS21特性である。
なお、図7中の(c)は、FCCLの汎用基材であるモディファイポリイミドフィルム(厚さ100μm)についての、S21特性の測定結果を示している。
実施例1の接着層の形成に用いた熱可塑性ポリイミドワニスと、実施例3の接着層の形成に用いた水系ポリウレタン樹脂の誘電特性を比較すると、水系ポリウレタン樹脂の比誘電率εr;7(測定周波数:10GHz)は、熱可塑性ポリイミドワニスの比誘電率εr;2.5(測定周波数:10GHz)の3倍の値を示している。
一方、図7に示すように、実施例3のS21特性は、実施例1のS21特性と、略同様の推移を示しており、モディファイポリイミドフィルム(比誘電率εr;3.3(測定周波数:10GHz))が示しているような、高周波帯におけるS21特性の大幅な低下を生じていない。
したがって、接着層を介して基材と銅箔とを積層した積層体において、接着層の厚さと基材の厚さとを合計した厚さに対する、接着層の厚さの比率(接着層厚さ/(基材厚さ+接着層厚さ)×100)が30%以下の範囲にあれば、接着層を構成する樹脂成分自体の誘電特性は、高周波伝送における伝送損失に殆ど影響しないことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の積層体は、例えば、フレキシブルプリント回路基板(FPC)等の回路基板用材料として、基材と接着層からなるもの、及びフレキシブル銅張積層板(FCCL)等に好適に使用される。
【符号の説明】
【0084】
10 積層体
11 基材
12a、12b 接着層
13a、13b 銅箔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7