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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】食品用ブチレート
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/22 20060101AFI20240502BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240502BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240502BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240502BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240502BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240502BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240502BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20240502BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20240502BHJP
   A23D 9/00 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
A61K31/22
A61K9/08
A61K9/14
A61K9/20
A61K47/26
A61K47/36
A61P1/00
A61P1/12
A23L33/115
A23D9/00 516
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2021531056
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-09
(86)【国際出願番号】 EP2019085250
(87)【国際公開番号】W WO2020126979
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】18213140.9
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】フォーブス-ブロム, エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】クスリス, マルティナス
(72)【発明者】
【氏名】ハイネ, ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】パティン, アマウリー
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】Pharm.Pharmacol.Commun.,1999年,Vol.5,pp.311-313
【文献】Food Chemistry,2014年,Vol.143,pp.199-204
【文献】The Journal of the American Oil Chemists' Society,1954年,Vol.32,pp.316-318
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/12
A61P 1/00
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A23L 33/115
A23D 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の予防又は治療に使用するための組成物であって、式
【化1】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせを含む、組成物
【請求項2】
前記脱水は、下痢による脱水である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
口補水液(ORS)と組み合わせて投与するためのものである、請求項1又は2に記載の組成物
【請求項4】
口補水液(ORS)、栄養組成物、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、又はフォローオンフォーミュラ中に存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物
【請求項5】

【化2】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせを含み、
プレバイオティクスを更に含み、前記プレバイオティクスが
(a)フラクトオリゴ糖(FOS)、イヌリン、キシロオリゴ糖(XOS)、ポリデキストロース又はこれらの任意の混合物;
(b)フラクトオリゴ糖及びイヌリン;
(c)70%の短鎖フラクトオリゴ糖及び30%のイヌリン;又は
(d)PHGG(部分加水分解グアーガム)である、経口補水液。
【請求項6】
記プレバイオティクスがPHGG(部分加水分解グアーガム)である、請求項に記載の経口補水液。
【請求項7】
液体における補水用粉末、液体における補水用錠剤、又は飲料の形態である、請求項に記載の経口補水液。
【請求項8】
下痢の治療に使用するための組成物であって、式
【化3】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせを含む、組成物
【請求項9】
式(1)を有する化合物と式(2)を有する化合物とを含む、請求項1~4及び8のいずれか一項に記載の組成物
【請求項10】
式(1)を有する化合物が、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成し、式(2)を有する化合物が、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成する、請求項1~4、8及び9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量の式(1)を有する化合物と、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量の式(2)を有する化合物とを含む、請求項1~4及び8~10のいずれか一項に記載の組成物
【請求項12】
記式(4)を有する化合物が主なブチレート部分含有トリグリセリドであり、前記式(4)の化合物が、前記組成物中のブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、又は少なくとも90重量%をもたらす、請求項1~4及び8~11のいずれか一項に記載の組成物
【請求項13】
式(1)を有する化合物と、式(2)を有する化合物と、式(3)を有する化合物と、式(4)を有する化合物とを含む、請求項1~4及び8~12のいずれか一項に記載の組成物
【請求項14】
、R、R、R、R、及び/又はRが、オレイン酸、パルミチン酸、及びリノール酸からなる群から選択される、請求項1~4及び8~13のいずれか一項に記載の組成物
【請求項15】
、R、R、R、R、及びRのそれぞれがオレイン酸である、請求項1~4及び8~14のいずれか一項に記載の組成物
【請求項16】
式(1)を有する化合物と式(2)を有する化合物とを含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の経口補水液。
【請求項17】
式(1)を有する化合物が溶液中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成し、式(2)を有する化合物が溶液中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成する、請求項5~7及び16のいずれか一項に記載の経口補水液。
【請求項18】
前記溶液中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量の式(1)を有する化合物と、前記溶液中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量の式(2)を有する化合物とを含む、請求項5~7、16及び17のいずれか一項に記載の経口補水液。
【請求項19】
式(4)を有する化合物が主なブチレート部分含有トリグリセリドであり、前記式(4)の化合物が、溶液中のブチレート部分含有トリグリセリドの少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%又は少なくとも90重量%をもたらす、請求項5~7及び16~18のいずれか一項に記載の経口補水液。
【請求項20】
式(1)を有する化合物、式(2)を有する化合物、式(3)を有する化合物及び式(4)を有する化合物を含む、請求項5~7及び16~19のいずれか一項に記載の経口補水液。
【請求項21】
、R 、R 、R 、R 、及び/又はR が、オレイン酸、パルミチン酸及びリノール酸からなる群より選択される、請求項5~7及び16~20のいずれか一項に記載の経口補水液。
【請求項22】
、R 、R 、R 、R 及びR のそれぞれがオレイン酸である、請求項5~7及び16~21のいずれか一項に記載の経口補水液。
【請求項23】
下痢の治療又は脱水の予防若しくは治療に使用するための、式
【化4】

を有する化合物を含む組成物であって、前記式(5)を有する化合物が、前記組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成し、前記式(6)を有する化合物が、前記組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成する、組成物。
【請求項24】
前記脱水は、下痢による脱水である、請求項23に記載の使用のための組成物。
【請求項25】
前記式(5)を有する化合物が、前記組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成し、前記式(6)を有する化合物が、前記組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成する、請求項23又は24に記載の使用のための組成物。
【請求項26】
前記組成物が、経口補水液、栄養組成物、乳児用フォーミュラ、フォローオンフォーミュラ、又はダイエタリーサプリメントである、請求項23~25のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項27】
前記組成物が経口補水液である、請求項23~26のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良された感覚刺激特性を有する、食品原料のブチレートに関する。より詳細には、経口補水液における、並びに下痢の治療及び/又は脱水の予防若しくは治療における、その使用に関する。
【背景技術】
【0002】
酪酸の塩及びエステルは、ブチレート又はブタノエートと呼ばれる。エステル形態の酪酸は、多くの食品、例えば乳、特にヤギ、ヒツジ、牛、ラクダ、及びバッファローの乳、並びに乳由来産物、例えばバター、及びチーズ、例えばパルメザンチーズにおいて見られる。酪酸はまた、例えば、腸内細菌叢によって産生される発酵産物のように、嫌気性発酵の産物である。
【0003】
ブチレートに関しては複数の有益な効果が哺乳動物及び家畜において十分に実証されている。腸レベルでは、ブチレートは経上皮の液体輸送を制御するよう働き、粘膜の炎症及び酸化状態を緩和し、腸のバリア機能を強化し、内臓の過敏性及び腸の運動性に作用する。
【0004】
ブチレートにより、下痢の発生率が低下することが示されている(Berni Canani et al.,Gastroenterol.,2004;127(2):630-634)。ブチレートはまた、炎症性腸疾患(Scarpellini et al.,Dig Liver Dis.,2007;1(1):19-22)及び小腸の健康(Kotunia et al.,J Physiol Pharmacol.1994;55(2):59-68)を改善することが報告されている。
【0005】
トリブチリンは、3つのブチレート部分を有する3つのエステル官能基と、グリセロール骨格とからなるトリグリセリドである。消化中に生じる条件などのような加水分解条件下では、トリブチリンは、トリブチリン1モル当たり3モルの酪酸の供給源となり得る。
【0006】
酪酸及びトリブチリンは両方とも、安全(GRAS)であると一般的にみなされる食品添加物(それぞれ、21CFR582.60及び21CFR184.1903)であり、多くの乳製品の天然成分である。しかしながら酪酸は、嘔吐物、糞便、及びチーズのような匂い特性などの、ネガティブな官能品質を伴う。トリブチリンはまた、ネガティブな官能品質、特に高度の苦味も有する。これらの不快な味覚及び臭気特性により、特に小児集団において、これらの化合物を含む組成物の経口投与を行うことが特に困難になることがある。
【0007】
経口補水液は、下痢及び他の原因、例えば、病気により引き起こされる発熱、発汗の増加、日差しの強い環境又は暑い環境への高レベルの曝露、(赤ん坊の)激しい動き、生歯による唾液の増加、(成人における)体液が高レベルで失われる作業などによる脱水の予防及び治療に広く使用されている。
【0008】
経口補水液は、例えば下痢及び/又は嘔吐が原因で失われた体液及びミネラル(例えば、ナトリウム、カリウム)を補うように設計された、バランスのとれた電解質溶液である。いくつかの既存の経口補水液はまた、ORSの効果を増強させる短鎖脂肪酸を生成するための部分加水分解グアーガムなどのプレバイオティクスを含み、下痢の重症度を低減させる(Alam NH et al.,J Pediatr Gastroenterol Nutr.2000 Nov;31(5):503-7)。プレバイオティクスの添加は、結腸中の微生物叢の、プレバイオティクスを代謝する働きにより、結腸において酢酸、プロピオン酸、及び酪酸を含むがこれらに限定されない短鎖脂肪酸(SCFA)が生成されることを利用するものである。しかしながら、結腸における微生物叢の活性は、下痢により妨害され得る。
【0009】
したがって、下痢を治療するための、及び/又は脱水を予防若しくは治療するための組成物及び方法が依然として必要とされている。
【0010】
[発明の概要]
本発明は、改良された感覚刺激特性を有するブチレートの供給源となる化合物を提供し、この化合物は、下痢の治療及び/又は脱水の予防若しくは治療に使用できる。特に、化合物は、酪酸、ブチレート塩、及びトリブチリンと比較して、改良された臭気及び/又は味覚を有する。化合物は、経口補水製剤と組み合わせて、又は経口補水製剤の一部として使用され得る。化合物は、例えば、栄養組成物、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、及びフォローオンフォーミュラに使用することができる。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、脱水の予防又は治療に使用するための、式
【化1】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせが提供される。
【0012】
一実施形態では、脱水は、下痢による脱水である。
【0013】
本発明の別の態様によれば、下痢の治療に使用するための、式
【化2】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせが提供される。
【0014】
式(1)、(2)、(3)、及び/又は(4)の化合物は、例えば、経口補水液の一部として、又は経口補水液と組み合わせて使用できる。
【0015】
式(1)、(2)、(3)、及び/又は(4)の化合物は、例えば、栄養製剤、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、フォローオンフォーミュラなどの組成物中に存在させることができる。
【0016】
一実施形態では、式(1)、(2)、(3)、及び/又は(4)の化合物は、プレバイオティクス、例えばフラクトオリゴ糖(FOS)、イヌリン、キシロオリゴ糖(XOS)、ポリデキストロースなどのオリゴ糖、又はこれらの任意の混合物と組み合わせて使用され得る。特定の実施形態では、プレバイオティクスは、フラクトオリゴ糖及び/又はイヌリンであってもよい。特定の実施形態では、プレバイオティクスは、FOSとイヌリンとの組み合わせ、例えば、BENEO-Oraftiにより商標名Orafti(登録商標)オリゴフルクトース(以前にはRaftilose(登録商標))で販売されている製品における組み合わせ、又はBENEO-Oraftiにより商標名Orafti(登録商標)イヌリン(以前にはRaftiline(登録商標))で販売されている製品中おける組み合わせである。別の例は、70%の短鎖フラクトオリゴ糖と30%のイヌリンとの組み合わせであり、これはNestleによって商標名「Prebio1」として登録されている。特定の実施形態では、プレバイオティクスは、部分加水分解グアーガム(PHGG)である。
【0017】
本発明の化合物は、有利には、市販のソリューションと比較して改良された感覚刺激特性を有する食品等級のブチレートの供給源を提供する。一実施形態では、改良された感覚刺激特性は、改良された臭気である。一実施形態では、改良された感覚刺激特性は、改良された味覚である。一実施形態では、改良された感覚刺激特性は、改良された臭気及び改良された味覚である。一実施形態では、改良された味覚は、低減された苦味である。
【0018】
本発明の別の態様によれば、式
【化3】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する化合物又はその組み合わせを含む、経口補水液が提供される。
【0019】
経口補水製剤は、例えば、再構成用粉末、又は液体の形態であってもよい。
【0020】
本発明の別の態様によれば、処置を必要とする個体において下痢を治療する方法及び/又は脱水を予防若しくは治療する方法であって、式
【化4】

[式中、R、R、R、R、R、及びRは、独立して、16~20個の炭素を有する長鎖脂肪酸である]を有する有効量の化合物又はその組み合わせを上記個体に投与する工程を含む、方法が提供される。
【0021】
一実施形態では、式(1)を有する化合物と式(2)を有する化合物との組み合わせは、本明細書で定義されるように使用され、又は本明細書で定義されるように組成物(例えば、栄養組成物、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、又はフォローオンフォーミュラ)中に存在する。好ましくは、式(1)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で存在し、式(2)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で存在する。
【0022】
一実施形態では、式(1)を有する化合物と式(2)を有する化合物との組み合わせは、本明細書で定義されるように使用され、又は本明細書で定義されるように組成物(例えば、栄養組成物、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、又はフォローオンフォーミュラ)中に存在し、式(1)を有する化合物が、組成物中の酪酸含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で存在し、式(2)を有する化合物が、組成物中の酪酸含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%の量で存在する。
【0023】
別の実施形態では、式(1)を有する化合物と式(2)を有する化合物との組み合わせは、本明細書で定義されるように使用され、又は本明細書で定義されるように組成物(例えば、栄養組成物、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、又はフォローオンフォーミュラ)中に存在し、式(1)を有する化合物が、組成物中の酪酸含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%の量で存在し、式(2)を有する化合物が、組成物中の酪酸含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%の量で存在する。
【0024】
一実施形態では、式(1)を有する化合物と、式(2)を有する化合物と、式(3)を有する化合物と、式(4)を有する化合物との組み合わせは、本明細書で定義されるように使用され、又は本明細書で定義されるように経口補水液、栄養組成物、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、又はフォローオンフォーミュラ中に存在する。
【0025】
一実施形態では、式(4)を有する化合物は、本明細書で定義されるように組成物(例えば、経口補水液、栄養組成物、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、又はフォローオンフォーミュラ)中の主なブチレート部分含有トリグリセリドである。
【0026】
一実施形態では、式(4)の化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、又は少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、又は少なくとも90重量%を構成する。
【0027】
一実施形態では、組成物は式(1)の化合物と式(4)の化合物とを含み、式(1)を有する化合物と式(4)を有する化合物との組み合わせは、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、又は90重量%の量で存在する。
【0028】
一実施形態では、本明細書で定義されるようなR、R、R、R、R、及び/又はRは、不飽和脂肪酸、好ましくはモノ不飽和である。
【0029】
一実施形態では、本明細書で定義されるようなR、R、R、R、R、及び/又はRは、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、又はリノール酸からなる群から選択される。
【0030】
一実施形態では、本明細書で定義されるようなR、R、R、R、R、及び/又はRは、オレイン酸である。
【0031】
一実施形態では、本明細書で定義されるようなR、R、R、R、R、及び/又はRは、パルミチン酸である。
【0032】
一実施形態では、化合物(1)は、1,3-ジブチリル-2-パルミトイルグリセロールである。
【0033】
一実施形態では、R、R、R、R、R、及び/又はRのそれぞれは、オレイン酸である。
【0034】
一実施形態では、式(1)を有する化合物は、次のものである。
【化5】
【0035】
一実施形態では、式(2)を有する化合物は、次のものである。
【化6】
【0036】
一実施形態では、式(3)を有する化合物は、次のものである。
【化7】
【0037】
一実施形態では、式(4)を有する化合物は、次のものである。
【化8】
【0038】
本発明の別の態様によれば、下痢の治療及び/又は脱水の予防若しくは治療に使用するための、式
【化9】

を有する化合物を含む組成物が提供され、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成する。
【0039】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成する。
【0040】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成する。
【0041】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも20重量%を構成する。
【0042】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の約15重量%~約30重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の約20重量%~約30重量%を構成する。
【0043】
一実施形態では、組成物は、式
【化10】

を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(7)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも2重量%又は3重量%を構成し、及び/又は、式
【化11】

を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(8)を有する化合物は、組成物中のトリグリセリド全量の少なくとも2重量%又は3重量%を構成する。
【0044】
本発明の別の実施形態によれば、下痢の治療及び/又は脱水の予防若しくは治療に使用するための、式
【化12】

を有する化合物を含む組成物が提供され、式(5)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも10重量%を構成する。
【0045】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%を構成する。
【0046】
一実施形態では、式(5)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも15重量%、好ましくは少なくとも20重量%を構成し、式(6)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも25重量%を構成する。
【0047】
一実施形態では、組成物は、式(7)を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(7)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも2重量%又は3重量%を構成し、並びに/又は、組成物は、式(8)を有する化合物を更に含み、好ましくは、式(8)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも2重量%又は3重量%を構成する。
【0048】
別の実施形態では、式(8)を有する化合物は、組成物中の主なブチレート部分含有トリグリセリドである。
【0049】
一実施形態では、式(8)の化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%、又は少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、又は少なくとも90重量%を構成する。
【0050】
一実施形態では、式(8)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の約20重量%~約95重量%、例えば、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の約30重量%~約90重量%、又は約40重量%~約80重量%、例えば、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の約50重量%~約70重量%を構成する。
【0051】
一実施形態では、式(8)を有する化合物は、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の約50重量%~約90重量%、例えば、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の約60重量%~約80重量%を構成する。
【0052】
一実施形態では、組成物は式(8)の化合物と式(5)の化合物とを含み、式(8)を有する化合物と式(5)を有する化合物との組み合わせは、組成物中のブチレート部分含有トリグリセリド全量の少なくとも30重量%、40重量%、50重量%、60重量%、70重量%、80重量%、又は90重量%の量で存在する。
【0053】
本発明の組成物は、1,3-ジブチリル-2-リノレオイルグリセロール、1,3-ジブチリル-2-ステアロイルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-パルミトイルグリセロール、1-パルミトイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-リノレオイルグリセロール、1-リノレオイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-オレオイル-2-ブチリル-3-リノレオイルグリセロール、1-リノレオイル-2-ブチリル-3-オレオイルグリセロール、1-ブチリル-2-リノレオイル-3-オレオイルグリセロール、1-オレオイル-2-リノレオイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-ステアロイル-3-オレオイルグリセロール、1-オレオイル-2-ステアロイル-3-ブチリルグリセロール、1-ブチリル-2-オレオイル-3-ステアロイルグリセロール、1-ステアロイル-2-オレオイル-3-ブチリルグリセロール、1,2-ジオレオイル-3-パルミトイルグリセロール、1-パルミトイル-2,3-ジオレオイルグリセロール、1,2-ジオレオイル-3-リノレオイルグリセロール、及び/又は1-リノレオイル-2,3-ジオレオイルグリセロールを更に含んでもよい。
【0054】
本発明の組成物は、経口補水製剤の形態であってもよい。
【0055】
本発明の組成物は、栄養組成物、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、又はフォローオンフォーミュラの形態であってもよい。
【0056】
本発明の組成物は、プレバイオティクスを更に含んでもよい。好ましい実施形態では、プレバイオティクスは、部分加水分解グアーガム(PHGG)である。
【0057】
本発明の別の態様によれば、本明細書で定義される組成物を有効量で対象に投与する工程を含む、処置を必要とする対象において下痢を治療する方法が提供される。
【0058】
本発明の別の態様によれば、本明細書で定義される組成物を有効量で対象に投与する工程を含む、処置を必要とする対象において脱水を予防又は治療する方法が提供される。
【0059】
本発明の一実施形態によれば、本明細書で定義される組成物を有効量で対象に投与する工程を含む、処置を必要とする対象において下痢による脱水を予防又は治療する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0060】
トリグリセリド
トリグリセリド(トリアシルグリセロールとも呼ばれる)は、グリセロール及び3つの脂肪酸から誘導されるトリエステルである。
【0061】
脂肪酸は、長い尾部(鎖)を有するカルボン酸である。脂肪酸は、不飽和又は飽和のいずれであってもよい。他の分子に結合していない脂肪酸は、遊離脂肪酸(FFA)と呼ばれる。
【0062】
用語「脂肪酸部分」は、トリグリセリドの部分のうち、グリセロールとのエステル化反応における脂肪酸に由来する部分を指す。本発明で使用されるトリグリセリドは、少なくとも1つの酪酸部分及び少なくとも1つの長鎖脂肪酸部分を含む。
【0063】
本発明での使用に好ましい長鎖脂肪酸は、16~20個の炭素原子を有する脂肪酸である。
【0064】
長鎖脂肪酸の例としては、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及びリノール酸が挙げられる。
【0065】
本発明のトリグリセリドは、例えば、長鎖脂肪酸及び酪酸の、グリセロールとのエステル化によって合成することができる。
【0066】
本発明のトリグリセリドは、例えば、トリブチリンと、長鎖脂肪酸を含有する別のトリグリセリドとの間のエステル交換によって合成することができる。一実施形態では、高オレイン酸ヒマワリ油が、長鎖脂肪酸の原料である。これにより、主としてブチレート部分及びオレエート部分を含有する、トリグリセリドを作製する。オレイン酸は、母乳中に存在する主要な脂肪酸である。この化合物は、乳成分不含有、コレステロール不含有、及び動物由来成分不含有である。脂肪酸は、胃腸管において天然に存在するリパーゼにより、トリグリセリドから脱離する。ブチレート塩と比較すると、当該化合物が、最終的な配合物に更なるミネラル塩を添加することはない。
【0067】
トリグリセリド合成の代替的な方法は、当業者によって通常の手順の一環として決定することができる。例として、1,3-ジブチリル-2-パルミトイルグリセロール(BPB)を得る方法について、以下に示す。
【0068】
【化13】
【0069】
別の例として、トリグリセリドは、長鎖脂肪酸モノアシルグリセロール(MAG)の、酪酸(BA)とのエステル化によって合成することができる。
【0070】
例えば、水の除去を伴う、長鎖脂肪酸モノアシルグリセロール(MAG)の酪酸(BA)とのエステル化による。例として、1,2-ジブチリル-3-オレオイルグリセロールを得る方法について、以下に示す。
【0071】
【化14】
【0072】
エステル化反応は、好ましくは、酪酸(BA):モノアシルグリセロール(MAG)のモル比が2以上、すなわち、酪酸がモル過剰な状態で実施される。水の除去は、当該技術分野において慣例的に使用される従来の方法により行うことができる。
【0073】
単一のブチレート部分含有トリグリセリドを、本明細書で使用することができる。あるいは、異なるブチレート部分含有トリグリセリドの混合物を使用することができる。
【0074】
トリグリセリドは、当該技術分野において慣例的な、かつ当業者に周知の、更なる脱色及び/又は脱臭工程に供され得る。例えば、植物油の製造に慣例的に使用されているような工程に供される。
【0075】
組成物
本発明は、本明細書で言及されるブチレート部分含有トリグリセリドを含む組成物を提供する。組成物は、例えば、経口補水液、栄養組成物、ダイエタリーサプリメント、乳児用フォーミュラ、又はフォローオンフォーミュラであってもよい。
【0076】
本明細書で使用するとき、「経口補水液」は、例えば下痢及び/又は嘔吐を原因として個体により失われた体液及び電解質(例えば、ナトリウム、カリウム)を補うための、経口補水療法で使用する組成物を指す。
【0077】
語句「栄養組成物」とは、対象に栄養を与える組成物を意味する。この栄養組成物は、好ましくは経口で摂取され、脂質、又は脂肪源及びタンパク質源を含んでもよい。かかる組成物はまた、炭水化物源を含有してもよい。一実施形態では、栄養組成物は、脂質源又は脂肪源のみを含有する。他の特定の実施形態では、栄養組成物は、脂質(又は脂肪)源を、タンパク質源、炭水化物源、又はこれらのいずれもとともに含有する。
【0078】
いくつかの特定の実施形態では、本発明による栄養組成物は、「経腸栄養組成物」、すなわち、当該組成物の投与に胃腸管が関わる食料品である。胃への導入は、口腔/鼻道又は腹部内を通って胃に直接導く管の使用を伴ってもよい。このような管は、特に病院又は診療所において使用することができる。
【0079】
本発明による組成物は、乳児用フォーミュラ(例えば、乳児用スターターフォーミュラ)、フォローアップフォーミュラ又はフォローオンフォーミュラ、グローイングアップミルク、ベビーフード、乳児用シリアル組成物、母乳強化剤などの強化剤、又は栄養補給剤であってもよい。
【0080】
本明細書で使用するとき、語句「乳児用フォーミュラ」は、出生後1ケ月の間の乳児の特定の栄養補給用途を意図する食品であって、当該フォーミュラそのものによって、このカテゴリーに該当する乳児の栄養要件(例えば、乳児用フォーミュラ及びフォローオンフォーミュラに対する要件、Article 2(c) of the European Commission Directive 91/321/EEC 2006/141/EC of 22 December 2006)を満たす、食品を指す。
【0081】
一般的に、スターターフォーミュラは、出生以降の乳児用の母乳代用品である。フォローアップフォーミュラ又はフォローオンフォーミュラは、6ケ月目以降から与えられる。これらのフォーミュラは、このカテゴリーに該当する乳児の次第に多様となっていく食生活において主要な液体要素を構成する。「グローイングアップミルク」(又はGUM)は、1年目以降から与えられる。このミルクは、一般的に、特に小児の栄養必要量に合わせて調整された乳系飲料である。
【0082】
用語「ダイエタリーサプリメント」は、個体の栄養を補完するものとして使用することができる(典型的には栄養の補完のために使用するものであるが、それだけでなく摂取が意図される任意の種類の組成物に添加することもできる)。当該サプリメントは、例えば、錠剤、カプセル、トローチ、又は液体の形態であってもよい。ダイエタリーサプリメントは、保護親水コロイド(ガム、タンパク質、加工デンプンなど)、結合剤、膜形成剤、カプセル化剤/材料、壁/シェル材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、表面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、担体、充填剤、共化合物、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動剤、味覚マスキング剤、増量剤、ゼリー化剤、及びゲル形成剤を更に含有してもよい。ダイエタリーサプリメントはまた、従来の医薬品添加物及び補助剤、賦形剤、及び希釈剤を含有してもよく、これには、水、任意の由来のゼラチン、植物ガム、リグニンスルホネート、タルク、糖、デンプン、アラビアガム、植物油、ポリアルキレングリコール、風味剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、充填剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
組成物は、栄養補給剤である場合、単位用量の形態で提供することができる。
【0084】
本発明の組成物は、少なくとも1種の難消化性オリゴ糖(例えばプレバイオティクス)を更に含んでもよい。それらは通常、組成物の0.3~10重量%の量である。
【0085】
プレバイオティクスは通常、胃又は小腸において分解されず吸収されないという意味で難消化性である。したがって、プレバイオティクスは大腸に入る際にインタクトのままであり、大腸で有益な細菌により選択的に発酵される。プレバイオティクスの例としては、フラクトオリゴ糖(FOS)、イヌリン、キシロオリゴ糖(XOS)、ポリデキストロース、又はこれらの任意の混合物といったある種のオリゴ糖が挙げられる。特定の実施形態では、プレバイオティクスは、フラクトオリゴ糖及び/又はイヌリンであってもよい。特定の実施形態では、プレバイオティクスは、FOSとイヌリンとの組み合わせ、例えば、BENEO-Oraftiにより商標名Orafti(登録商標)オリゴフルクトース(以前にはRaftilose(登録商標))で販売されている製品における組み合わせ、又はBENEO-Oraftiにより商標名Orafti(登録商標)イヌリン(以前にはRaftiline(登録商標))で販売されている製品における組み合わせである。別の例は、70%の短鎖フラクトオリゴ糖と30%のイヌリンとの組み合わせであり、これはNestleによって商標名「Prebio1」として登録されている。特定の実施形態では、プレバイオティクスは、部分加水分解グアーガム(PHGG)である。
【0086】
本発明の組成物は、例えば、補水用の固体(例えば、粉末)又は液体の形態であり得る。
【0087】
組成物は、医薬組成物の形態であってもよく、医薬的に許容される好適な担体、希釈剤、及び/又は賦形剤を1種以上含んでもよい。
【0088】
本明細書に記載される組成物に好適な、このような賦形剤の例は、「Handbook of Pharmaceutical Excipients」,2nd Edition,(1994),(A Wade and PJ Weller編)に見ることができる。
【0089】
治療用途に許容される担体又は希釈剤は、医薬分野において既知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro edit.1985)に記載されている。
【0090】
医薬組成物は、担体、賦形剤、若しくは希釈剤を含んでよく、又はそれに加え、任意の好適な結合剤、潤滑剤、懸濁化剤、コーティング剤、及び/若しくは可溶化剤を含んでもよい。好適な結合剤の例としては、デンプン、ゼラチン、天然の糖、例えばグルコース、無水ラクトース、流動性ラクトース(free-flow lactose)、β-ラクトースなど、コーン甘味料、天然及び合成ガム、例えばアカシア、トラガカント、又はアルギン酸ナトリウムなど、カルボキシメチルセルロース、及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0091】
好適な潤滑剤の例としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。
【0092】
防腐剤、安定剤、染料、及び更には香味剤を、組成物に含ませてもよい。防腐剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、及びp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。酸化防止剤及び懸濁剤もまた、使用することができる。
【0093】
使用
ブチレートが胃腸(GI)の健康に及ぼす複数の有益な効果は、十分に実証されている。腸レベルでは、ブチレートは経上皮の液体輸送を制御するよう働き、粘膜の炎症及び酸化状態を緩和し、上皮の防御バリアを強化し、内臓の過敏性及び腸の運動性を調節する。塩形態でのブチレートの送達により、下痢の重症度が低減することが示されている(Berni Canani et al.,Gastroenterol.,2004;127(2):630-634)。
【0094】
本明細書で定義される化合物はブチレートの供給源であり、したがって、下痢の治療及び/又は下痢に伴う脱水の予防若しくは治療に使用され得る。
【0095】
一実施形態では、本明細書で定義される化合物及び組成物は、下痢の治療に使用され得る。
【0096】
一実施形態では、本明細書で定義される化合物及び組成物は、脱水の治療又は予防に使用され得る。
【0097】
本発明の化合物を投与すると、これらのトリグリセリド化合物が胃及び膵臓の酵素による消化を受け、遊離脂肪酸が放出されることで、小腸にブチレートが送達される。ORSの一部としての、又はORSと組み合わせての本明細書で定義される化合物の投与により、有利には、ブチレートが小腸に送達される。本発明の化合物は、流体吸収の大部分が生じ、更にはORSの作用部位でもある小腸にブチレートを直接送達することから、下痢を緩和させること、及び脱水を治療又は予防するためのORSの効果を増強させることに関して、SCFA産生のために結腸微生物叢の活性を必要とするプレバイオティクスを含むORSと比較してより優れた効果をもたらし得る。
【0098】
一実施形態では、本明細書で定義される化合物及び組成物は、下痢による脱水を予防又は治療するために使用され得る。
【0099】
好ましい実施形態では、本明細書で定義される化合物は、経口補水液(ORS)と組み合わせて使用される。本明細書で定義される化合物はORSの一部として投与されてもよい、又はORSとは別々に投与されてもよい。本明細書で定義されるORS及び化合物は、共に、又は逐次的に投与されてもよい。
【0100】
投与
好ましくは、本明細書に記載される化合物及び組成物は、経腸投与される。
【0101】
経腸的投与は、経口、経胃、及び/又は経直腸投与であってよい。
【0102】
一般論として、本明細書に記載される組み合わせ又は組成物の投与は、例えば、経口経路又は別の経路による胃腸管への投与であってもよく、例えば、投与は経管栄養によるものであってもよい。
【0103】
好ましい実施形態では、投与は経口である。
【0104】
対象は、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ヤギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、シカ、及び霊長類などの哺乳動物であってもよい。好ましくは、対象は、ヒトである。
【実施例
【0105】
実施例1-ブチレート化(butyrated)トリグリセリド(TAG)の調製
ブチレート化TAGを含む化合物を、ナトリウムメトキシドなどの触媒の存在下におけるトリブチリンと高オレイン酸ヒマワリ油との間の化学的エステル交換により生成した。高オレイン酸ヒマワリ油と比較して、モル過剰のトリブチリンを使用した。
【0106】
3つの試薬、すなわち、トリブチリン、高オレイン酸ヒマワリ油、及び触媒を、窒素雰囲気下にて反応器内で共に混ぜ合わせ、次いで撹拌しながら80℃で3時間加熱した。反応が完了したら、生成物を水及び食塩水で洗浄し、真空下で乾燥させた(60℃、25mBarで2時間)。次いで、得られた油生成物を漂白土の作用による脱色工程に供し、短行程蒸留(130℃、0.001~0.003mbar)又は水蒸気(steam water)の注入による脱臭(160℃、2mbar、2h)のいずれかにより精製した。
【0107】
得られた油組成物の構成成分(大部分がトリグリセリドである)を以下の表1に示す。これらのトリグリセリドは、これらが含有する3つの脂肪酸によって表される。これらの脂肪酸は、その脂質の数によって表され、ブチレートでは4:0、パルミテートでは16:0、ステアレートでは18:0、オレエートでは18:1、リノレエートでは18:2である。中央の脂肪酸は、トリグリセリドのsn-2位に位置している。例として、16:0-4:0-18:1は2種類の異なるトリグリセリドを表し、当該トリグリセリドは、sn2位のブチレートと、sn-1位のパルミテート及びsn-3位のオレエート又はsn-1位のオレエート及びsn-3位のパルミテートとを有する分子のいずれをも含む。
【0108】
TAGプロファイル及び位置異性体を、高分解能質量分析計に連結された液体クロマトグラフィによって分析した。各脂質の割合を、蒸発光散乱検出器(ELSD)に連結した液体クロマトグラフィによって評価した。
【0109】
【表1】
【0110】
組成物試料において、2つの最も豊富なTAGは4:0-18:1-4:0及び18:1-18:1-4:0であり、これらは合わせておよそ40~50g/100gに相当する。
【0111】
実施例2-ブチレート部分含有トリグリセリドの臭気特性
ブチレート部分含有TAG(主にオレイン酸脂肪酸及び酪酸脂肪酸で構成される)を含む溶液の臭気を、酪酸ナトリウムを含有する溶液と比較した。
【0112】
試料調製
ブチレート部分含有TAG(実施例1を参照)又はナトリウムブチレートを含む溶液を調製し、官能パネルに渡すまで4°℃で保存した。それぞれ250mLの溶液には、酸性脱イオン水中に、600mgの酪酸(栄養補給剤として市販されているナトリウムブチレートのカプセル1つに相当;濃度2.4mg/mL)、及び1重量/体積%のBEBA Optipro 1乳児用フォーミュラが含まれた。
【0113】
試料は、各溶液4mL(TAGブチレート溶液;ナトリウムブチレート溶液)をAgilent社製のバイアルに入れて、試験前日に調製した。
【0114】
方法
「2対5点試験」を行った。この試験では、パネリストに5種類の試料を提示する。パネリストに、他の3種類と異なる2種類の試料を特定するよう指示する。提示順序によるバイアスを回避するために、試料の提示順序を無作為化する。
【0115】
2対5点試験に加えて、コメント箱をパネリストに提示して、パネリストに、どのような性質(例えば、臭気強度、臭気の質)の違いを知覚したのかをコメントさせた。
【0116】
結果
5種類の試料を、パネリストに同時に提示した。パネリストには、所定の手順でキャップを外し、匂いを嗅ぎ、次いでそれぞれのバイアル瓶にキャップすることを、依頼した。結果を表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
P値については、Fizzソフトウェア(Biosystems,France)により行った二項検定を用いて計算した。
【0119】
正しい返答(ナトリウムブチレートとは異なるブチレート部分含有TAG)の区別のついたパネリストによると、ナトリウムブチレートは「チーズ」の匂いがした一方で、ブチレート部分含有TAG試料については、この「チーズ」の匂いは大きく減少しており、臭気にはほとんど癖がないと説明された。
【0120】
実施例3.ブチレート部分含有トリグリセリドの味覚特性
主にオレイン酸脂肪酸及び酪酸脂肪酸で構成されるブチレート部分含有TAG(実施例1を参照)を含む溶液の官能ベンチマーキングを、トリブチリンを含有する溶液と比較して実施した。
【0121】
試料調製:
最終体積が150mLになるよう、大さじ1杯(4.6g)のBEBA Optipro1乳児用フォーミュラを、温水(説明書のとおりに冷ました沸騰水)に添加した(約3重量/体積%の溶液)。各TAG形態のブチレートを別々に秤量して600mgのブチレートを与え、各溶液の最終体積が50mLになるまで乳児用フォーミュラを添加した。
溶液Aには、ブチレート部分含有TAG(実施例1を参照)を含有させた。溶液Bには、トリブチリンを含有させた。
【0122】
方法
パネリストのグループは、内容を伏せたテイスティングを反復して行った。
【0123】
予備的苦味評価の直前に試料を調製し、それぞれの溶液を激しく振盪した。A及びBと表記したテイスティング用カップに、少量のそれぞれの溶液を同時に充填した。
【0124】
2種類の試料を、パネリストに同時に提示した。パネリストには、口に含んでは吐き出すという様式で溶液をテイスティングし、知覚した苦味を0~10のスケール[0では苦味を知覚せず、10では想像可能な中で最大の苦味に類するように感じられる]で評価するよう要求した。
【0125】
結果
溶液Aの苦味について、パネリストは、平均±SDで、4.33±1.52であると評価した。
【0126】
溶液Bの苦味について、パネリストは、平均±SDで、8.33±1.52であると評価した。
【0127】
これらのデータは、乳児用フォーミュラにブチレート部分含有TAG組成物を溶解した溶液は、乳児用フォーミュラにトリブチリンを溶解した溶液と比較して、味の苦さが著しく少なかったことを示している。
【0128】
実施例4.1,3-ジブチリル-2-パルミトイルグリセロールの味覚特性
1,3-ジブチリル-2-パルミトイルグリセロール(BPB)を、以下の合成法により単一の化合物として合成した。
【0129】
【化15】

BPBを記述型官能パネル評価で評価したところ、味及び臭気に癖がないことが判明した。
【0130】
実施例5-ブチレート化トリグリセリド(TAG)の調製
モノオレイン(ヒマワリ油由来)と、モル過剰(合計5当量)に添加した酪酸とのエステル化反応によって、ブチレート部分含有トリグリセリドを含む組成物を生成した。これら2つの試薬をフラスコ内で共に混合し、加熱して還流させた(酪酸の沸点は163.5℃)。冷却管(「ビグリューカラム(colonne de Vigreux)」)を使用して水を除去した。反応をTLCによりモニターし、全てのモノアシルグリセロールがトリアシルグリセロールに変換されたところで反応を停止させた。
【0131】
得られた油組成物の構成成分(大部分がトリグリセリドである)を以下の表3に示す。実施例1のように、トリグリセリドは、それらが含有する3つの脂肪酸により表される。これらの脂肪酸は、脂質の数によって表され、ブチレートでは4:0、パルミテートでは16:0、ステアレートでは18:0、オレエートでは18:1、リノレエートでは18:2である。中央の脂肪酸は、トリグリセリドのsn-2位に位置している。
【0132】
【表3】
【0133】
この組成物では、4:0-4:0-18:1が最も豊富なトリグリセリドであることが特定された。
【0134】
次いで、得られた油生成物を漂白土の作用による脱色工程に供し、短行程蒸留(130℃、0.001~0.003mbar)及び/又は水蒸気の注入による脱臭(160℃、2mbar、2h)のいずれかにより精製して、残留試薬及び中間体、例えば酪酸、MAG、並びに副生成物、例えばDAG及びトリブチリンを除去した。
【0135】
得られた油生成物を記述型官能評価において評価したところ、油生成物がトリブチリン及び酪酸よりも良好な臭気及び味を有することが判明した。