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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】車両用操向装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240502BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021533172
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2021004436
(87)【国際公開番号】W WO2021157727
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2020019440
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓太郎
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-335587(JP,A)
【文献】特開2003-081111(JP,A)
【文献】特開2007-153249(JP,A)
【文献】米国特許第6625530(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルに操舵反力を付与する反力用モータと、
前記ハンドルの操舵に応じてタイヤを転舵する転舵用モータと、
前記反力用モータ及び前記転舵用モータを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
少なくとも車両の車速及び操舵角に応じた所定の基本マップに基づき第1トルク信号を生成し、前記反力用モータに対する目標操舵トルクを生成する目標操舵トルク生成部と、
前記車両の操向車輪に作用する路面反力に応じた第2トルク信号を生成するトルク補正値演算部と、
を備え、
前記トルク補正値演算部は、
推定された路面反力を低周波成分及び高周波成分に分離し、当該低周波成分及び高周波成分に対してそれぞれレベル制限を行い、当該レベル制限後の低周波成分及び高周波成分をそれぞれトルク値に変換した値を加算して前記第2トルク信号を生成し、
前記目標操舵トルク生成部は、
少なくとも前記第1トルク信号と前記第2トルク信号とを加算して、前記目標操舵トルクを生成する、
車両用操向装置。
【請求項2】
前記トルク補正値演算部は、
前記転舵用モータの電流値及び前記操向車輪の転舵角に基づき、前記推定された路面反力を算出する路面反力推定部と、
前記推定された路面反力をそれぞれ異なる周波数帯域に制限した第1帯域制限路面反力及び第2帯域制限路面反力に分岐する帯域制限部と、
前記第1帯域制限路面反力及び第2帯域制限路面反力に対し、それぞれ上限値及び下限値でレベル制限するレベル制限部と、
前記第1帯域制限路面反力をレベル制限した第1レベル制限路面反力、及び、前記第2帯域制限路面反力をレベル制限した第2レベル制限路面反力に対し、それぞれ所定のゲインを乗じて加算することにより前記第2トルク信号を生成する補正トルク生成部と、
を備える、
請求項1に記載の車両用操向装置。
【請求項3】
前記帯域制限部は、それぞれ通過帯域が異なる第1フィルタ及び第2フィルタを備え、
前記第1フィルタは、
前記推定された路面反力の低周波成分を含む第1周波数帯域を通過帯域とする低域通過型フィルタであり、前記路面反力の低周波成分を前記第1帯域制限路面反力として出力し、
前記第2フィルタは、
前記推定された路面反力の高周波成分を含む第2周波数帯域を通過帯域とする高域通過型フィルタであり、前記路面反力の高周波成分を前記第2帯域制限路面反力として出力する、
請求項2に記載の車両用操向装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操向装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用操向装置として、運転者が操舵を行う操舵反力生成装置(FFA:Force Feedback Actuator、操舵機構)と、車両の舵を切るタイヤ転舵装置(RWA:Road Wheel Actuator、転舵機構)とが機械的に分離されたステアバイワイヤ(SBW:Steer By Wire)式の車両用操向装置がある。このようなSBW式の車両用操向装置は、操舵機構と転舵機構とがコントロールユニット(ECU:Electronic Control Unit)を介して電気的に接続され、電気信号によって操舵機構と転舵機構と間の制御が行われる構成である。
【0003】
このようなSBW式の車両用操向装置においては、転舵輪に作用する路面反力を検出あるいは推定して操舵反力に反映する必要があるが、悪路通過時に転舵輪に作用する過大な路面反力は、運転者のハンドル操作の妨げとなる場合がある。このため、操舵反力を所定の閾値を超える路面反力が検出された時点で一定値とする技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4586551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
路面反力は、路面の状況によって特性が異なる。具体的には、例えば、路面が大きく波打つようにうねっている場合と、未舗装路の路面を走行している場合とでは、転舵輪が受ける路面反力の周波数成分が異なる。上記従来技術では、路面反力の特性に依らず、路面反力の絶対値がしきい値を超えたか否かのみを検出し、過大な路面反力に対して操舵反力を一定値とするため、本来ハンドルを介して運転者に伝達されるべき路面状況が操舵反力に反映されない可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、路面反力の特性に応じて、適切に路面反力を操舵反力に反映し得る車両用操向装置を提供すること、を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係る車両用操向装置は、ハンドルに操舵反力を付与する反力用モータと、前記ハンドルの操舵に応じてタイヤを転舵する転舵用モータと、前記反力用モータ及び前記転舵用モータを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、少なくとも車両の車速及び操舵角に応じた所定の基本マップに基づき第1トルク信号を生成し、前記反力用モータに対する目標操舵トルクを生成する目標操舵トルク生成部と、前記車両の操向車輪に作用する路面反力に応じた第2トルク信号を生成するトルク補正値演算部と、を備え、前記トルク補正値演算部は、推定された路面反力を低周波成分及び高周波成分に分離し、当該低周波成分及び高周波成分に対してそれぞれレベル制限を行い、当該レベル制限後の低周波成分及び高周波成分をそれぞれトルク値に変換した値を加算して前記第2トルク信号を生成し、前記目標操舵トルク生成部は、少なくとも前記第1トルク信号と前記第2トルク信号とを加算して、前記目標操舵トルクを生成する。
【0008】
上記構成によれば、路面反力の低周波成分及び高周波成分のそれぞれが適切にレベル制限された第2トルク信号を得ることができる。これにより、路面反力に対する目標操舵トルクの追従性を損なうことなく、路面反力の特性に応じた適切な操舵反力を得ることができる。
【0009】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記トルク補正値演算部は、前記転舵用モータの電流値及び前記操向車輪の転舵角に基づき、前記推定された路面反力を算出する路面反力推定部と、前記推定された路面反力をそれぞれ異なる周波数帯域に制限した第1帯域制限路面反力及び第2帯域制限路面反力に分岐する帯域制限部と、前記第1帯域制限路面反力及び第2帯域制限路面反力に対し、それぞれ上限値及び下限値でレベル制限するレベル制限部と、前記第1帯域制限路面反力をレベル制限した第1レベル制限路面反力、及び、前記第2帯域制限路面反力をレベル制限した第2レベル制限路面反力に対し、それぞれ所定のゲインを乗じて加算することにより前記第2トルク信号を生成する補正トルク生成部と、を備えることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、路面反力の低周波成分及び高周波成分をそれぞれ適切にレベル制限することができる。また、路面反力に応じた目標操舵トルクTrefを得るための補正値である第2トルク信号が得られる。
【0011】
車両用操向装置の望ましい態様として、前記帯域制限部は、それぞれ通過帯域が異なる第1フィルタ及び第2フィルタを備え、前記第1フィルタは、前記推定された路面反力の低周波成分を含む第1周波数帯域を通過帯域とする低域通過型フィルタであり、前記路面反力の低周波成分を前記第1帯域制限路面反力として出力し、前記第2フィルタは、前記推定された路面反力の高周波成分を含む第2周波数帯域を通過帯域とする高域通過型フィルタであり、前記路面反力の高周波成分を前記第2帯域制限路面反力として出力することが好ましい。
【0012】
これにより、路面反力の特性に応じて第1フィルタ及び第2フィルタの遮断周波数を適宜設定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、路面反力の特性に応じて、適切に路面反力を操舵反力に反映し得る車両用操向装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、ステアバイワイヤ式の車両用操向装置の全体構成を示す図である。
図2図2は、SBWシステムを制御するコントロールユニットのハードウェア構成を示す模式図である。
図3図3は、実施形態に係るコントロールユニットの内部ブロック構成の一例を示す図である。
図4図4は、実施形態に係る目標操舵トルク生成部の一構成例を示すブロック図である。
図5図5は、基本マップ部が保持する基本マップの特性例を示す図である。
図6図6は、ダンパゲインマップ部が保持するダンパゲインマップの特性例を示す図である。
図7図7は、ヒステリシス補正部の特性例を示す図である。
図8図8は、捩れ角制御部の一構成例を示すブロック図である。
図9図9は、目標転舵角生成部の一構成例を示すブロック図である。
図10図10は、転舵角制御部の一構成例を示すブロック図である。
図11図11は、実施形態に係るトルク補正値演算部の一構成例を示すブロック図である。
図12図12は、路面から転舵用モータまでの間に発生するトルクの様子を示すイメージ図である。
図13図13は、路面反力推定部の一構成例を示すブロック図である。
図14図14は、第1フィルタの特性の一例を示す模式図である。
図15図15は、第2フィルタの特性の一例を示す模式図である。
図16図16は、路面反力の一例を示す図である。
図17図17は、第1フィルタの出力である第1帯域制限路面反力の一例を示す図である。
図18図18は、第2フィルタの出力である第2帯域制限路面反力の一例を示す図である。
図19図19は、第1リミッタにおける第1帯域制限路面反力の上限値及び下限値の設定例を示す図である。
図20図20は、第2リミッタにおける第2帯域制限路面反力の上限値及び下限値の設定例を示す図である。
図21図21は、第1リミッタの出力である第1レベル制限路面反力の一例を示す図である。
図22図22は、第2リミッタの出力である第2レベル制限路面反力の一例を示す図である。
図23図23は、実施形態に係るトルク補正値演算部から出力されるトルク信号の一例を示す図である。
図24図24は、路面反力を帯域制限せずにレベル制限した比較例を示す図である。
図25図25は、路面反力を帯域制限せずにレベル制限した比較例におけるトルク信号の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
図1は、ステアバイワイヤ式の車両用操向装置の全体構成を示す図である。図1に示すステアバイワイヤ(SBW:Steer By Wire)式の車両用操向装置(以下、「SBWシステム」とも称する)は、ハンドル1の操作を電気信号によって操向車輪8L,8R等からなる転舵機構に伝えるシステムである。図1に示されるように、SBWシステムは、反力装置60及び駆動装置70を備え、コントロールユニット(ECU)50が両装置の制御を行う。
【0017】
反力装置60は、ハンドル1の操舵トルクTsを検出するトルクセンサ10及び操舵角θhを検出する舵角センサ14、減速機構3、角度センサ74、反力用モータ61等を備えている。これらの各構成部は、ハンドル1のコラム軸2に設けられている。
【0018】
反力装置60は、舵角センサ14にて操舵角θhの検出を行うと同時に、操向車輪8L,8Rから伝わる車両の運動状態を反力トルクとして運転者に伝達する。反力トルクは、反力用モータ61により生成される。トルクセンサ10は、操舵トルクTsを検出する。また、角度センサ74が、反力用モータ61のモータ角θmを検出する。
【0019】
駆動装置70は、転舵用モータ71、ギア72、角度センサ73等を備えている。転舵用モータ71により発生する駆動力は、ギア72、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。
【0020】
駆動装置70は、運転者によるハンドル1の操舵に合わせて、転舵用モータ71を駆動し、その駆動力を、ギア72を介してピニオンラック機構5に付与し、タイロッド6a,6bを経て、操向車輪8L,8Rを転舵する。ピニオンラック機構5の近傍には角度センサ73が配置されており、操向車輪8L,8Rの転舵角θtを検出する。ECU50は、反力装置60及び駆動装置70を協調制御するために、両装置から出力される操舵角θhや転舵角θt等の情報に加え、車速センサ12からの車速Vs等を基に、反力用モータ61を駆動制御する電圧制御指令値Vref1及び転舵用モータ71を駆動制御する電圧制御指令値Vref2を生成する。
【0021】
角度センサ73は、転舵角θtではなく転舵用モータ71の角度を検出する態様であっても良い。この場合、角度センサ73の検出値を転舵角θtに変換し、後段の制御に用いる態様であっても良い。
【0022】
コントロールユニット(ECU)50には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット50は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTsと車速センサ12で検出された車速Vs等に基づいて電流指令値の演算を行い、反力用モータ61及び転舵用モータ71に供給する電流を制御する。
【0023】
コントロールユニット50には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)40等の車載ネットワークが接続されている。また、コントロールユニット50には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN41も接続可能である。
【0024】
コントロールユニット50は、主としてCPU(MCU、MPU等も含む)で構成される。図2は、SBWシステムを制御するコントロールユニットのハードウェア構成を示す模式図である。
【0025】
コントロールユニット50を構成する制御用コンピュータ1100は、CPU(Central Processing Unit)1001、ROM(Read Only Memory)1002、RAM(Random Access Memory)1003、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)1004、インターフェース(I/F)1005、A/D(Analog/Digital)変換器1006、PWM(Pulse Width Modulation)コントローラ1007等を備え、これらがバスに接続されている。
【0026】
CPU1001は、SBWシステムの制御用コンピュータプログラム(以下、制御プログラムという)を実行して、SBWシステムを制御する処理装置である。
【0027】
ROM1002は、SBWシステムを制御するための制御プログラムを格納する。また、RAM1003は、制御プログラムを動作させるためのワークメモリとして使用される。EEPROM1004には、制御プログラムが入出力する制御データ等が格納されている。制御データは、コントロールユニット30に電源が投入された後にRAM1003に展開された制御用コンピュータプログラム上で使用され、所定のタイミングでEEPROM1004に上書きされる。
【0028】
ROM1002、RAM1003、及びEEPROM1004等は情報を格納する記憶装置であって、CPU1001が直接アクセスできる記憶装置(一次記憶装置)である。
【0029】
A/D変換器1006は、操舵トルクTs、及び操舵角θhの信号等を入力し、ディジタル信号に変換する。
【0030】
インターフェース1005は、CAN40に接続されている。インターフェース1005は、車速センサ12からの車速Vの信号(車速パルス)を受け付けるためのものである。
【0031】
PWMコントローラ1007は、反力用モータ61及び転舵用モータ71に対する電流指令値に基づいてUVW各相のPWM制御信号を出力する。
【0032】
このようなSBWシステムに本開示を適用した実施形態1の構成について説明する。
【0033】
図3は、実施形態に係るコントロールユニットの内部ブロック構成の一例を示す図である。本実施形態では、捩れ角Δθに対する制御(以下、「捩れ角制御」とする)と、転舵角θtに対する制御(以下、「転舵角制御」とする)を行い、反力装置60を捩れ角制御で制御し、駆動装置70を転舵角制御で制御する。なお、駆動装置70は他の制御方法で制御しても良い。なお、本実施形態において、捩れ角Δθは、ハンドル1のコラム軸2の上側に設けられた舵角センサ14の検出角をコラム軸換算した角と、ハンドル1のコラム軸2の下側に設けられた角度センサ74の検出角をコラム軸換算した角とのなす角となる。具体的に、捩れ角Δθは、舵角センサ14の検出角をコラム軸換算した角をθ、角度センサ74の検出角をコラム軸換算した角をθとしたとき、θ及びθの偏差から、Δθ=θ-θで表される。
【0034】
コントロールユニット50は、内部ブロック構成として、目標操舵トルク生成部200、捩れ角制御部300、トルク補正値演算部400、変換部500、目標転舵角生成部910、及び転舵角制御部920を備えている。
【0035】
目標操舵トルク生成部200は、本開示において反力装置60の操舵トルクの目標値である目標操舵トルクTrefを生成する。
【0036】
変換部500は、目標操舵トルクTrefを目標捩れ角Δθrefに変換する。
【0037】
捩れ角制御部300は、反力用モータ61に供給する電流の制御目標値であるモータ電流指令値Imcを生成する。
【0038】
目標転舵角生成部910は、操舵角θhに基づき目標転舵角θtrefを生成する。
【0039】
転舵角制御部920は、転舵角θtが目標転舵角θtrefとなるようなモータ電流指令値Imctを演算する。
【0040】
トルク補正値演算部400は、転舵用モータ71の電流値(以下、「転舵用モータ電流値」とも称する)Imd及び転舵角θtに基づき、後述する路面反力推定部410により推定された路面反力TSAT図11参照)に応じた目標操舵トルクTrefを得るためのトルク信号Tref_pを演算する。
【0041】
まず、本実施形態に係る目標操舵トルク生成部200について、図4を参照して説明する。
【0042】
図4は、実施形態に係る目標操舵トルク生成部の一構成例を示すブロック図である。図4に示すように、本実施形態に係る目標操舵トルク生成部200は、基本マップ部210、乗算部211、微分部220、ダンパゲインマップ部230、ヒステリシス補正部240、乗算部260、及び加算部261,262,263を備える。図5は、基本マップ部が保持する基本マップの特性例を示す図である。図6は、ダンパゲインマップ部が保持するダンパゲインマップの特性例を示す図である。
【0043】
基本マップ部210には、操舵角θh及び車速Vsが入力される。基本マップ部210は、図5に示す基本マップを用いて、車速Vsをパラメータとするトルク信号Tref_a0を出力する。すなわち、基本マップ部210は、車速Vsに応じたトルク信号Tref_a0を出力する。
【0044】
図5に示すように、トルク信号Tref_a0は、操舵角θhの大きさ(絶対値)|θh|の増加に伴い徐々に変化率が小さくなる曲線に沿って増加する特性を有する。また、トルク信号Tref_a0は、車速Vsの増加に伴い増加する特性を有する。なお、図5では操舵角θhの大きさ|θh|に応じたマップを構成しているが、正負の操舵角θhに応じたマップを構成しても良い。この場合、トルク信号Tref_a0の値は、正負の値を取り得、後述する符号計算は不要となる。以下の説明では、図5に示す操舵角θhの大きさ|θh|に応じた正の値であるトルク信号Tref_a0を出力する態様について説明する。
【0045】
図4に戻って、符号抽出部213は、操舵角θhの符号を抽出する。具体的には、例えば、操舵角θhの値を、操舵角θhの絶対値で除算する。これにより、符号抽出部213は、操舵角θhの符号が「+」の場合には「1」を出力し、操舵角θhの符号が「-」の場合には「-1」を出力する。具体的に、符号抽出部213は、例えば操舵角θhの符号関数(sign(θh))を生成する。
【0046】
乗算部211は、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0に対して、符号抽出部213から出力される「1」又は「-1」を乗算し、トルク信号Tref_aとして加算部261に出力する。具体的に、乗算部211は、基本マップ部210から出力されるトルク信号Tref_a0に対して、例えば符号抽出部213により生成された操舵角θhの符号関数(sign(θh))を乗算し、トルク信号Tref_aとして加算部261に出力する。
【0047】
本実施形態におけるトルク信号Tref_aが、本開示の「第1トルク信号」に対応する。
【0048】
微分部220には、操舵角θhが入力される。微分部220は、操舵角θhを微分して、角速度情報である舵角速度ωhを算出する。微分部220は、算出した舵角速度ωhを乗算部260に出力する。
【0049】
ダンパゲインマップ部230には、車速Vsが入力される。ダンパゲインマップ部230は、図6に示す車速感応型のダンパゲインマップを用いて、車速Vsに応じたダンパゲインDを出力する。
【0050】
図6に示すように、ダンパゲインDは、車速Vsが高くなるに従い徐々に大きくなる特性を有する。ダンパゲインDは、操舵角θhに応じて可変する態様としても良い。
【0051】
図4に戻って、乗算部260は、微分部220から出力される舵角速度ωhに対して、ダンパゲインマップ部230から出力されるダンパゲインDを乗算し、トルク信号Tref_bとして加算部262に出力する。
【0052】
ヒステリシス補正部240は、操舵角θh及び操舵状態信号STsに基づき、下記(1)式及び(2)式を用いてトルク信号Tref_cを演算する。操舵状態信号STsについては、ここでは説明を省略するが、モータ角速度ωmの符号に基づき、操舵方向が右切りか左切りかを判定した結果を示す状態信号である。なお、下記(1)式及び(2)式において、xは操舵角θh、y=Tref_c及びy=Tref_cはトルク信号(第4トルク信号)Tref_cとする。また、係数aは1よりも大きい値であり、係数cは0よりも大きい値である。係数Ahysは、ヒステリシス特性の出力幅を示し、係数cは、ヒステリシス特性の丸みを表す係数である。
【0053】
=Ahys{1-a-c(x-b)}・・・(1)
【0054】
=-Ahys{1-ac(x-b’)}・・・(2)
【0055】
右切り操舵の際には、上記(1)式を用いて、トルク信号(第4トルク信号)Tref_c(y)を算出する。左切り操舵の際には、上記(2)式を用いて、トルク信号(第4トルク信号)Tref_c(y)を算出する。なお、右切り操舵から左切り操舵へ切り替える際、又は、左切り操舵から右切り操舵へ切り替える際には、操舵角θh及びトルク信号Tref_cの前回値であるの最終座標(x,y)の値に基づき、操舵切り替え後の上記(1)式及び(2)式に対し、下記(3)式又は(4)式に示す係数b又はb’を代入する。これにより、操舵切り替え前後の連続性が保たれる。
【0056】
b=x+(1/c)log{1-(y/Ahys)}・・・(3)
【0057】
b’=x-(1/c)log{1-(y/Ahys)}・・・(4)
【0058】
上記(3)式及び(4)式は、上記(1)式及び(2)式において、xにxを代入し、y及びyにyを代入することにより導出することができる。
【0059】
係数aとして、例えば、ネイピア数eを用いた場合、上記(1)式、(2)式、(3)式、(4)式は、それぞれ下記(5)式、(6)式、(7)式、(8)式で表せる。
【0060】
=Ahys[1-exp{-c(x-b)}]・・・(5)
【0061】
=-Ahys[{1-exp{c(x-b’)}]・・・(6)
【0062】
b=x+(1/c)log{1-(y/Ahys)}・・・(7)
【0063】
b’=x-(1/c)log{1-(y/Ahys)}・・・(8)
【0064】
図7は、ヒステリシス補正部の特性例を示す図である。図7に示す例では、上記(7)式及び(8)式において、Ahys=1[Nm]、c=0.3と設定し、0[deg]から開始し、+50[deg]、-50[deg]の操舵をした場合の、ヒステリシス補正されたトルク信号Tref_cの特性例を示している。図7に示すように、ヒステリシス補正部240から出力されるトルク信号Tref_cは、0の原点→L1(細線)→L2(破線)→L3(太線)のようなヒステリシス特性を有している。
【0065】
なお、ヒステリシス特性の出力幅を表す係数であるAhys及び丸みを表す係数であるcを、車速Vs及び操舵角θhの一方又は双方に応じて可変としても良い。
【0066】
また、舵角速度ωhは、操舵角θhに対する微分演算により求めているが、高域のノイズの影響を低減するために適度にローパスフィルタ(LPF)処理を実施している。また、ハイパスフィルタ(HPF)とゲインにより、微分演算とLPFの処理を実施しても良い。更に、舵角速度ωhは、操舵角θhではなく、上側角度センサが検出するハンドル角θ1又は下側角度センサが検出するコラム角θ2に対して微分演算とLPFの処理を行って算出しても良い。舵角速度ωhの代わりにモータ角速度ωmを角速度情報として使用しても良く、この場合、微分部220は不要となる。
【0067】
上述のように求められたトルク信号Tref_a,Tref_b,Tref_c、及び、トルク補正値演算部400により演算されたトルク信号Tref_pは、図4に示す加算部261,262,263で加算され、目標操舵トルクTrefとして出力される。
【0068】
本実施形態におけるトルク信号Tref_pが、本開示の「第2トルク信号」に対応する。トルク補正値演算部400及びトルク信号Tref_pについては後述する。
【0069】
図3に戻って、捩れ角制御部300では、捩れ角Δθが、操舵角θh等を用いて目標操舵トルク生成部200及び変換部500を経て算出される目標捩れ角Δθrefに追従するような制御を行う。反力用モータ61のモータ角θmは角度センサ74で検出され、モータ角速度ωmは、角速度演算部951にてモータ角θmを微分することにより算出される。転舵角θtは角度センサ73で検出される。また、電流制御部130は、捩れ角制御部300から出力されるモータ電流指令値Imc及びモータ電流検出器140で検出される反力用モータ61の電流値Imrに基づいて、反力用モータ61を駆動して、電流制御を行う。
【0070】
以下、捩れ角制御部300について、図8を参照して説明する。
【0071】
図8は、捩れ角制御部の一構成例を示すブロック図である。捩れ角制御部300は、目標捩れ角Δθref、捩れ角Δθ及びモータ角速度ωmに基づいてモータ電流指令値Imcを演算する。捩れ角制御部300は、捩れ角フィードバック(FB)補償部310、捩れ角速度演算部320、速度制御部330、安定化補償部340、出力制限部350、減算部361及び加算部362を備えている。
【0072】
変換部500から出力される目標捩れ角Δθrefは、減算部361に加算入力される。捩れ角Δθは、減算部361に減算入力されると共に、捩れ角速度演算部320に入力される。モータ角速度ωmは、安定化補償部340に入力される。
【0073】
捩れ角FB補償部310は、減算部361で算出される目標捩れ角Δθrefと捩れ角Δθの偏差Δθ0に対して補償値CFB(伝達関数)を乗算し、目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθが追従するような目標捩れ角速度ωrefを出力する。補償値CFBは、単純なゲインKppでも、PI制御の補償値など一般的に用いられている補償値でも良い。
【0074】
目標捩れ角速度ωrefは、速度制御部330に入力される。捩れ角FB補償部310及び速度制御部330により、目標捩れ角Δθrefに捩れ角Δθを追従させ、所望の操舵トルクを実現することが可能となる。
【0075】
捩れ角速度演算部320は、捩れ角Δθに対して微分演算処理を行い、捩れ角速度ωtを算出する。捩れ角速度ωtは、速度制御部330に出力される。捩れ角速度演算部320は、微分演算として、HPFとゲインによる擬似微分を行なっても良い。また、捩れ角速度演算部320は、捩れ角速度ωtを別の手段や捩れ角Δθ以外から算出し、速度制御部330に出力するようにしても良い。
【0076】
速度制御部330は、I-P制御(比例先行型PI制御)により、目標捩れ角速度ωrefに捩れ角速度ωtが追従するようなモータ電流指令値Imca1を算出する。
【0077】
減算部333は、目標捩れ角速度ωrefと捩れ角速度ωtとの差分(ωref-ωt)を算出する。積分部331は、目標捩れ角速度ωrefと捩れ角速度ωtとの差分(ωref-ωt)を積分し、積分結果を減算部334に加算入力する。
【0078】
捩れ角速度ωtは、比例部332にも出力される。比例部332は、捩れ角速度ωtに対してゲインKvpによる比例処理を行い、比例処理結果を減算部334に減算入力する。減算部334での減算結果は、モータ電流指令値Imca1として出力される。なお、速度制御部330は、I-P制御ではなく、PI制御、P(比例)制御、PID(比例積分微分)制御、PI-D制御(微分先行型PID制御)、モデルマッチング制御、モデル規範制御等の一般的に用いられている制御方法でモータ電流指令値Imca1を算出しても良い。
【0079】
安定化補償部340は、補償値Cs(伝達関数)を有しており、モータ角速度ωmからモータ電流指令値Imca2を算出する。追従性及び外乱特性を向上させるために、捩れ角FB補償部310及び速度制御部330のゲインを上げると、高域の制御的な発振現象が発生してしまう。この対策として、モータ角速度ωmに対し、安定化するために必要な伝達関数(Cs)を安定化補償部340に設定する。これにより、反力装置制御システム全体の安定化を実現することができる。
【0080】
加算部362は、速度制御部330からのモータ電流指令値Imca1と安定化補償部340からのモータ電流指令値Imca2とを加算し、モータ電流指令値Imcbとして出力する。
【0081】
出力制限部350は、モータ電流指令値Imcbに対する上限値及び下限値が予め設定されている。出力制限部350は、モータ電流指令値Imcbの上下限値を制限して、モータ電流指令値Imcを出力する。
【0082】
なお、本実施形態における捩れ角制御部300の構成は一例であり、図8に示す構成とは異なる態様であっても良い。例えば、捩れ角制御部300は、安定化補償部340を具備しない構成であっても良い。
【0083】
図3に戻り、転舵角制御部920では、目標転舵角生成部910にて操舵角θhに基づいて目標転舵角θtrefが生成される。目標転舵角θtrefは、転舵角θtと共に転舵角制御部920に入力され、転舵角制御部920にて、転舵角θtが目標転舵角θtrefとなるようなモータ電流指令値Imctが演算される。そして、モータ電流指令値Imct及びモータ電流検出器940で検出される転舵用モータ電流値Imdに基づいて、電流制御部930が、電流制御部130と同様の構成及び動作により、転舵用モータ71を駆動して、電流制御を行う。
【0084】
以下、目標転舵角生成部910について、図9を参照して説明する。
【0085】
図9は、目標転舵角生成部の一構成例を示すブロック図である。目標転舵角生成部910は、制限部931、レート制限部932及び補正部933を備える。
【0086】
制限部931は、操舵角θhの上下限値を制限した操舵角θh1を出力する。図8に示す捩れ角制御部300内の出力制限部350と同様に、操舵角θhに対する上限値及び下限値を予め設定して制限をかける。
【0087】
レート制限部932は、操舵角の急変を回避するために、操舵角θh1の変化量に対して制限値を設定して制限をかけ、操舵角θh2を出力する。例えば、1サンプル前の操舵角θh1からの差分を変化量とし、その変化量の絶対値が所定の値(制限値)より大きい場合、変化量の絶対値が制限値となるように、操舵角θh1を加減算し、操舵角θh2として出力し、制限値以下の場合は、操舵角θh1をそのまま操舵角θh2として出力する。なお、変化量の絶対値に対して制限値を設定するのではなく、変化量に対して上限値及び下限値を設定して制限をかけるようにしても良く、変化量ではなく変化率や差分率に対して制限をかけるようにしても良い。
【0088】
補正部933は、操舵角θh2を補正して、目標転舵角θtrefを出力する。
【0089】
なお、本実施形態における目標転舵角生成部910の構成は一例であり、図9に示す構成とは異なる態様であっても良い。
【0090】
以下、図3に示す転舵角制御部920について、図10を参照して説明する。
【0091】
図10は、転舵角制御部の一構成例を示すブロック図である。転舵角制御部920は、目標転舵角θtref、及び操向車輪8L,8Rの転舵角θtに基づいてモータ電流指令値Imctを演算する。転舵角制御部920は、転舵角フィードバック(FB)補償部921、転舵角速度演算部922、速度制御部923、出力制限部926、及び減算部927を備えている。
【0092】
目標転舵角生成部910から出力される目標転舵角θtrefは、減算部927に加算入力される。転舵角θtは、減算部927に減算入力されると共に、転舵角速度演算部922に入力される。
【0093】
転舵角FB補償部921は、減算部927で算出される目標転舵角速度ωtrefと転舵角θtとの偏差Δθt0に対して補償値CFB(伝達関数)を乗算し、目標転舵角θtrefに転舵角θtが追従するような目標転舵角速度ωtrefを出力する。補償値CFBは、単純なゲインKppでも、PI制御の補償値など一般的に用いられている補償値でも良い。
【0094】
目標転舵角速度ωtrefは、速度制御部923に入力される。転舵角FB補償部921及び速度制御部923により、目標転舵角θtrefに転舵角θtを追従させ、所望のトルクを実現することが可能となる。
【0095】
転舵角速度演算部922は、転舵角θtに対して微分演算処理を行い、転舵角速度ωttを算出する。転舵角速度ωttは、速度制御部923に出力される。
【0096】
速度制御部923は、I-P制御(比例先行型PI制御)により、目標転舵角速度ωtrefに転舵角速度ωttが追従するようなモータ電流指令値(第1電流指令値)Imctaを算出する。なお、速度制御部923は、I-P制御ではなく、PI制御、P(比例)制御、PID(比例積分微分)制御、PI-D制御(微分先行型PID制御)、モデルマッチング制御、モデル規範制御等の一般的に用いられている制御方法でモータ電流指令値(第1電流指令値)Imctaを算出しても良い。
【0097】
減算部928は、目標転舵角速度ωtrefと転舵角速度ωttとの差分(ωtref-ωtt)を算出する。積分部924は、目標転舵角速度ωtrefと転舵角速度ωttとの差分(ωtref-ωtt)を積分し、積分結果を減算部929に加算入力する。
【0098】
転舵角速度ωttは、比例部925にも出力される。比例部925は、転舵角速度ωttに対して比例処理を行い、比例処理結果を減算部929に減算入力する。
【0099】
出力制限部926は、モータ電流指令値(第1電流指令値)Imctaに対して出力制限処理を行い、モータ電流指令値(第2電流指令値)Imctを出力する。出力制限部926は、モータ電流指令値Imctaに対する上限値及び下限値が予め設定されている。出力制限部926は、モータ電流指令値Imctaの上下限値を制限して、モータ電流指令値Imctを出力する。
【0100】
なお、本実施形態における転舵角制御部920の構成は一例であり、図10に示す構成とは異なる態様であっても良い。
【0101】
以下、本実施形態に係る図3に示したトルク補正値演算部400について、図11から図25を参照して説明する。図11は、実施形態に係るトルク補正値演算部の一構成例を示すブロック図である。
【0102】
本実施形態に係る車両用操向装置は、物理的に実際の力が働くことにより操向車輪8L,8Rに作用する路面反力TSATを推定し、この推定した路面反力TSATに応じた目標操舵トルクTrefを得る構成である。図11に示すように、本実施形態に係るトルク補正値演算部400は、路面反力推定部410、帯域制限部420、レベル制限部430、及び補正トルク生成部440を備えている。
【0103】
ここで、路面から転舵用モータ71までの間に発生するトルクの様子について、図12を参照して説明する。図12は、路面から転舵用モータまでの間に発生するトルクの様子を示すイメージ図である。
【0104】
運転者がハンドルを操舵することによって目標転舵角θtrefが生成され、その目標転舵角θtrefに従い、転舵用モータ71が操向車輪8L,8Rを転舵させる転舵モータトルクTmを発生する。その結果、操向車輪8L,8Rが転舵され、路面反力TSATが発生する。その際、転舵用モータ71(のロータ)、減速機構等によりコラム軸に作用する慣性(コラム軸換算慣性)J及び摩擦(静摩擦)Frによって抵抗となるトルクが生じる。更に、転舵用モータ71の回転速度により、ダンパ項(ダンパ係数D)として表現される物理的なトルク(粘性トルク)が発生する。これらの力の釣り合いから、下記(9)式に示す運動方程式が得られる。
【0105】
J×α+Fr×sign(ω)+D×ω=Tm-TSAT・・・(9)
【0106】
上記(9)式において、ωはコラム軸換算(コラム軸に対する値に変換)されたモータ角速度であり、αはコラム軸換算されたモータ角加速度である。そして、上記(9)式を路面反力TSATについて解くと、下記(10)式が得られる。
【0107】
SAT=Tm-J×α-Fr×sign(ω)-D×ω・・・(10)
【0108】
上記(10)式からわかるように、コラム軸換算慣性J、静摩擦Fr及びダンパ係数Dを定数として予め求めておくことで、モータ角速度ω、モータ角加速度α、及び転舵モータトルクTmより路面反力TSATを算出することができる。なお、コラム軸換算慣性Jは、簡易的にモータ慣性と減速比の関係式を用いてコラム軸に換算した値でも良い。
【0109】
路面反力推定部410には、転舵用モータ電流値Imd及び転舵角θtが入力される。路面反力推定部410は、上記(10)式を用いて、路面反力TSATを算出する。
【0110】
図13は、路面反力推定部の一構成例を示すブロック図である。路面反力推定部410は、換算部411、角速度演算部412、角加速度演算部413、ブロック414、ブロック415、ブロック416、ブロック417、及び減算部418,419を備える。
【0111】
換算部411には、転舵用モータ電流値Imdが入力される。換算部411は、予め定められたギア比及びトルク定数を乗算することにより、コラム軸換算された転舵モータトルクTmを算出する。
【0112】
角速度演算部412には、転舵角θtが入力される。角速度演算部412は、転舵角θtを転舵用モータ71の角度に変換し、この転舵用モータ71の角度に対して微分演算処理を行い、さらに、ギア比による除算により、コラム軸換算されたモータ角速度ωを算出する。
【0113】
角加速度演算部413には、モータ角速度ωが入力される。角加速度演算部413は、モータ角速度ωを微分し、コラム軸換算されたモータ角加速度αを算出する。
【0114】
そして、上記転舵モータトルクTm、モータ角速度ω、及びモータ角加速度αを用いて、図13に示す構成により、上記(10)式に基づき路面反力TSATが算出される。
【0115】
ブロック414には、角速度演算部412から出力されたモータ角速度ωが入力される。ブロック414は、符号関数として機能し、入力データの符号を出力する。
【0116】
ブロック415には、角速度演算部412から出力されたモータ角速度ωが入力される。ブロック415は、入力データにダンパ係数Dを乗算して出力する。
【0117】
ブロック416は、ブロック414からの入力データに静摩擦Frを乗算して出力する。
【0118】
ブロック417には、角加速度演算部413から出力されたモータ角加速度αが入力される。ブロック417は、入力データにコラム軸換算慣性Jを乗算して出力する。
【0119】
減算部418は、換算部411から出力される転舵モータトルクTmからブロック417の出力を減算する。
【0120】
減算部419は、減算部418の出力からブロック415の出力とブロック416の出力とを減算する。
【0121】
上記構成により、上記(10)式を実現することができる。すなわち、図13に示す路面反力推定部410の構成により、路面反力TSATが算出される。
【0122】
なお、転舵用モータ71の角度を検出する態様では、角速度演算部412は、検出された転舵用モータ71の角度に対して微分演算処理を行い、さらに、ギア比による除算により、コラム軸換算されたモータ角速度ωを算出する。また、コラム角が直接検出可能な場合は、転舵角θt又は転舵用モータ71の角度の代わりにコラム角を角度情報として使用しても良い。この場合、コラム軸換算は不要となる。また、転舵角θt又は転舵用モータ71の角度ではなく、転舵角速度又は転舵モータ角速度をコラム軸換算した信号をモータ角速度ωとして入力し、転舵用モータ71の角度に対する微分処理を省略しても良い。更に、路面反力TSATは、上記以外の方法で算出しても良いし、路面反力TSATに相当する検出値を使用しても良い。
【0123】
図11に示すように、帯域制限部420は、路面反力推定部410から出力される路面反力TSATを、それぞれ異なる周波数帯域に制限した第1帯域制限路面反力TSATL及び第2帯域制限路面反力TSATHに分岐する。具体的に、帯域制限部420は、例えば、図11に示すように、それぞれ通過帯域が異なる第1フィルタ421及び第2フィルタ422を備える。
【0124】
図14は、第1フィルタの特性の一例を示す模式図である。図15は、第2フィルタの特性の一例を示す模式図である。本実施形態において、第1フィルタ421は、図14に示すように、周波数f1以下の第1周波数帯域を通過帯域とする低域通過型フィルタ(以下、「LPF」とも称する)である。また、本実施形態において、第2フィルタ422は、図15に示すように、周波数f2以上の第2周波数帯域を通過帯域とする高域通過型フィルタ((以下、「HPF」とも称する))である。換言すれば、第1フィルタ421は、周波数f1を遮断周波数とするLPFであり、第2フィルタ422は、周波数f2を遮断周波数とするHPFである。
【0125】
図11に戻り、路面反力推定部410から出力された路面反力TSATは、帯域制限部420において2経路に分岐して第1フィルタ421と第2フィルタ422とにそれぞれ入力される。帯域制限部420は、第1フィルタ421の出力である第1帯域制限路面反力TSATL及び第2フィルタ422の出力である第2帯域制限路面反力TSATHを出力する。
【0126】
図16は、路面反力の一例を示す図である。図17は、第1フィルタの出力である第1帯域制限路面反力の一例を示す図である。図18は、第2フィルタの出力である第2帯域制限路面反力の一例を示す図である。図16図17図18では、説明を容易とするため、第1フィルタ421の通過帯域である第1周波数帯域に含まれる正弦波信号と第2フィルタ422の通過帯域である第2周波数帯域に含まれる正弦波信号との合成信号を路面反力として例示している。
【0127】
図16に示す路面反力TSATは、第1フィルタ421により図17に示す第1帯域制限路面反力TSATLに帯域制限されて出力され、第2フィルタ422により図18に示す第2帯域制限路面反力TSATHに帯域制限されて出力される。
【0128】
なお、第1フィルタ421の遮断周波数f1と第2フィルタ422の遮断周波数f2との大小関係をf1≦f2とすることで、路面反力TSATの低周波成分と高周波成分とを分離することができるが、第1フィルタ421の遮断周波数f1と第2フィルタ422の遮断周波数f2との大小関係をf1<f2とすれば、路面反力TSATの低周波成分と高周波成分とをより明確に分離することができるのでより好ましい。第1フィルタ421の遮断周波数f1及び第2フィルタ422の遮断周波数f2は、想定される路面反力の特性に応じて適宜設定すれば良い。
【0129】
図11に戻って、レベル制限部430は、帯域制限部420から出力される第1帯域制限路面反力TSATL及び第2帯域制限路面反力TSATHに対し、それぞれ上限値及び下限値でレベル制限を行う。具体的に、レベル制限部430は、例えば、図11に示すように、第1帯域制限路面反力TSATLを上限値及び下限値でレベル制限する第1レベルリミッタ431と、第2帯域制限路面反力TSATHを上限値及び下限値でレベル制限する第2レベルリミッタ432とを備える。
【0130】
図19は、第1レベルリミッタにおける第1帯域制限路面反力の上限値及び下限値の設定例を示す図である。図20は、第2レベルリミッタにおける第2帯域制限路面反力の上限値及び下限値の設定例を示す図である。
【0131】
本実施形態において、第1レベルリミッタ431は、図19に示すように、予め定められた第1上限値Fth1及び第1下限値-Fth1で第1帯域制限路面反力TSATLをレベル制限するリミッタ回路である。また、本実施形態において、第2レベルリミッタ432は、図20に示すように、予め定められた第2上限値Fth2及び第2下限値-Fth2で第2帯域制限路面反力TSATHをレベル制限するリミッタ回路である。第1上限値Fth1及び第1下限値-Fth1、並びに、第2上限値Fth2及び第2下限値-Fth2は、例えばコントロールユニット50のROM1002又はEEPROM1004に格納されている。第1上限値Fth1及び第1下限値-Fth1、並びに、第2上限値Fth2及び第2下限値-Fth2は、想定される路面反力の特性に応じて適宜設定すれば良い。
【0132】
帯域制限部420の第1フィルタ421から出力された第1帯域制限路面反力TSATLは、第1レベルリミッタ431に入力される。第1レベルリミッタ431は、例えば、下記(11)式に示す関数を用いて、第1レベル制限路面反力TSATLlimを算出して出力する。
【0133】
If |TSATL|>|Fth1|
SATLlim=sign(TSATL)×|Fth1|
Else
SATLlim=TSATL ・・・(11)
【0134】
帯域制限部420の第2フィルタ422から出力された第2帯域制限路面反力TSATHは、第2レベルリミッタ432に入力される。第2レベルリミッタ432は、例えば、下記(12)式に示す関数を用いて、第2レベル制限路面反力TSATHlimを算出して出力する。
【0135】
If |TSATH|>|Fth2|
SATHlim=sign(TSATH)×|Fth2|
Else
SATHlim=TSATH ・・・(12)
【0136】
図21は、第1レベルリミッタの出力である第1レベル制限路面反力の一例を示す図である。図22は、第2レベルリミッタの出力である第2レベル制限路面反力の一例を示す図である。なお、説明を容易とするため、図21では、図17に示す第1帯域制限路面反力TSATLを入力とした例を示し、図22では、図18に示す第2帯域制限路面反力TSATHを入力とした例を示している。
【0137】
図17に示す第1帯域制限路面反力TSATLは、第1レベルリミッタ431により図21に示す第1レベル制限路面反力TSATLlimにレベル制限されて出力される。また、図18に示す第2帯域制限路面反力TSATHは、第2レベルリミッタ432により図22に示す第2レベル制限路面反力TSATHlimにレベル制限されて出力される。
【0138】
なお、第1レベルリミッタ431における第1上限値Fth1及び第1下限値-Fth1の大きさ|Fth1|と、第2レベルリミッタ432における第2上限値Fth2及び第2下限値-Fth2の大きさ|Fth2|とは、同じ値であっても良いし、それぞれ異なる値であっても良い。
【0139】
図11に戻り、補正トルク生成部440は、レベル制限部430の第1レベルリミッタ431から出力される第1レベル制限路面反力TSATLlim及び第2レベルリミッタ432から出力される第2レベル制限路面反力TSATHlimにそれぞれ所定のゲインを乗じて加算することで、物理的に実際の力が働くことにより発生する路面反力として推定された路面反力TSATに応じた目標操舵トルクTrefを得るためのトルク信号Tref_pを生成する。具体的に、補正トルク生成部440は、図11に示すように、乗算部441,442、加算部443を備えている。
【0140】
乗算部441は、レベル制限部430の第1レベルリミッタ431から出力される第1レベル制限路面反力TSATLlimに予め定められたゲインk1を乗じる。
【0141】
乗算部442は、レベル制限部430の第2レベルリミッタ432から出力される第2レベル制限路面反力TSATHlimに予め定められたゲインk2を乗じる。
【0142】
ゲインk1及びゲインk2は、第1レベル制限路面反力TSATLlim及び第2レベル制限路面反力TSATHlimをトルク値に変換するための係数である。ゲインk1及びゲインk2は、例えばコントロールユニット50のROM1002又はEEPROM1004に格納されている。ゲインk1及びゲインk2は、想定される路面反力の特性に応じて適宜設定すれば良い。
【0143】
加算部443は、乗算部441の出力値と乗算部442の出力値とを加算して、トルク信号Tref_pを生成する。
【0144】
トルク補正値演算部400は、図4に示すように、補正トルク生成部440により生成されたトルク信号Tref_pを、目標操舵トルク生成部200に出力する。目標操舵トルク生成部200は、上述したように、トルク信号Tref_a(第1トルク信号),Tref_b,Tref_c、及び、トルク補正値演算部400により演算されたトルク信号Tref_p(第2トルク信号)を加算して、目標操舵トルクTrefを出力する。これにより、物理的に実際の力が働くことにより発生する路面反力として推定された路面反力TSATに追従した目標操舵トルクTrefが得られる。
【0145】
なお、乗算部441において第1レベル制限路面反力TSATLlimに乗じるゲインk1と、乗算部442において第2レベル制限路面反力TSATHlimに乗じるゲインk2とは、同じ値であっても良いし、それぞれ異なる値であっても良い。
【0146】
図23は、実施形態に係るトルク補正値演算部から出力されるトルク信号の一例を示す図である。なお、説明を容易とするため、図23では、図21に示す第1レベル制限路面反力TSATLlim及び図22に示す第2レベル制限路面反力TSATHlimを入力とした例を示している。
【0147】
図24は、路面反力を帯域制限せずにレベル制限した比較例を示す図である。図25は、路面反力を帯域制限せずにレベル制限した比較例におけるトルク信号の一例を示す図である。図24では、説明を容易とするため、図16と同様の路面反力を例示している。
【0148】
操向車輪が転舵されることによって物理的に実際の力が働くことにより発生する路面反力は、車両が走行する路面の状況によって特性が異なる。具体的には、例えば、路面が大きく波打つようにうねっている場合には、低周波成分を多く含む路面反力が発生し、未舗装路の路面を走行している場合には、高周波成分を多く含む路面反力が発生する。このように、車両が走行する路面の状況に応じて、物理的に実際の力が働くことにより操向車輪が受ける路面反力の周波数成分が異なる。
【0149】
路面反力の特性に依らず、路面反力の絶対値がしきい値を超えたか否かのみを検出し、過大な路面反力に対して操舵反力を一定値とする構成では、例えば図24に示すように、低周波成分に重畳した高周波成分が上限値Fth及び下限値-Fthによって著しく制限される。このため、例えば図25に示すように、生成されるトルク信号に路面反力の高周波成分が反映されない状態が生じ得る。このため、物理的に実際の力が働くことにより発生する路面反力に対する目標操舵トルクの追従性が著しく損なわれ、適切な操舵反力が得られない場合がある。
【0150】
本実施形態に係るトルク補正値演算部400において、帯域制限部420は、路面反力推定部410により物理的に実際の力が働くことにより発生する路面反力として推定された路面反力TSATを、それぞれ異なる周波数帯域に制限した第1帯域制限路面反力TSATL及び第2帯域制限路面反力TSATHに分岐する。レベル制限部430は、帯域制限部420から出力される第1帯域制限路面反力TSATL及び第2帯域制限路面反力TSATHに対し、それぞれ上限値及び下限値でレベル制限を行う。補正トルク生成部440は、レベル制限部430から出力される第1レベル制限路面反力TSATLlim及び第2レベル制限路面反力TSATHlimにそれぞれ所定のゲインを乗じて加算することで、物理的に実際の力が働くことにより発生する路面反力として推定された路面反力TSATに応じたトルク信号Tref_pを生成する。
【0151】
換言すれば、本実施形態に係るトルク補正値演算部400は、物理的に実際の力が働くことにより発生する路面反力として推定された路面反力TSATを低周波成分(第1帯域制限路面反力TSATL)及び高周波成分(第2帯域制限路面反力TSATH)に分離し、これら路面反力TSATの低周波成分(第1帯域制限路面反力TSATL)及び高周波成分(第2帯域制限路面反力TSATH)に対してそれぞれレベル制限を行い、レベル制限後の低周波成分(第1レベル制限路面反力TSATLlim)及び高周波成分(第2レベル制限路面反力TSATHlim)をそれぞれトルク値に変換して加算することによりトルク信号Tref_p(第2トルク信号)を生成する構成である。
【0152】
このような構成とすることで、図23に示すように、路面反力の低周波成分及び高周波成分のそれぞれが適切にレベル制限されたトルク信号Tref_p(第2トルク信号)を得ることができる。これにより、路面反力に対する目標操舵トルクの追従性を損なうことなく、路面反力の特性に応じた適切な操舵反力を得ることができる。
【0153】
なお、上述した実施形態では、帯域制限部420における第1フィルタ421の遮断周波数f1と第2フィルタ422の遮断周波数f2との大小関係をf1≦f2、あるいは、より好ましくはf1<f2とする例について説明したが、例えば、第1フィルタ421の遮断周波数f1と第2フィルタ422の遮断周波数f2との大小関係は、f3を遮断周波数f1に比べてごく小さい値(例えば、f3=(f1)/10程度)としたとき、f1=f2-f3とする態様であっても良い。
【0154】
また、上述で使用した図は、本開示に関して定性的な説明を行うための概念図であり、これらに限定されるものではない。また、上述の実施形態は本開示の好適な実施の一例ではあるが、これに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0155】
1 ハンドル
2 コラム軸
3 減速機構
5 ピニオンラック機構
6a,6b タイロッド
7a,7b ハブユニット
8L,8R 操向車輪
10 トルクセンサ
11 イグニションキー
12 車速センサ
13 バッテリ
14 舵角センサ
50 コントロールユニット(ECU)
60 反力装置
61 反力用モータ
70 駆動装置
71 転舵用モータ
72 ギア
73 角度センサ
130 電流制御部
140 モータ電流検出器
200 目標操舵トルク生成部
210 基本マップ部
211 乗算部
213 符号抽出部
220 微分部
230 ダンパゲインマップ部
240 ヒステリシス補正部
260 乗算部
261,262,263 加算部
300 捩れ角制御部
310 捩れ角フィードバック(FB)補償部
320 捩れ角速度演算部
330 速度制御部
331 積分部
332 比例部
333,334 減算部
340 安定化補償部
350 出力制限部
361 減算部
362 加算部
400 トルク補正値演算部
410 路面反力推定部
411 換算部
412 角速度演算部
413 角加速度演算部
414,415,416,417 ブロック
418,419 減算部
420 帯域制限部
421 第1フィルタ
422 第2フィルタ
430 レベル制限部
431 第1レベルリミッタ
432 第2レベルリミッタ
440 補正トルク生成部
441,442 乗算部
443 加算部
500 変換部
910 目標転舵角生成部
920 転舵角制御部
921 転舵角フィードバック(FB)補償部
922 転舵角速度演算部
923 速度制御部
926 出力制限部
927 減算部
930 電流制御部
931 制限部
932 レート制限部
933 補正部
940 モータ電流検出器
1001 CPU
1002 ROM
1003 RAM
1004 EEPROM
1005 インターフェース
1006 A/D変換器
1007 PWMコントローラ
1100 制御用コンピュータ(MCU)
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