(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】マンガン触媒およびケトンの水素化におけるその使用
(51)【国際特許分類】
C07C 29/145 20060101AFI20240502BHJP
C07C 33/20 20060101ALI20240502BHJP
C07F 13/00 20060101ALI20240502BHJP
C07F 19/00 20060101ALI20240502BHJP
B01J 31/24 20060101ALI20240502BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
C07C29/145
C07C33/20
C07F13/00 A
C07F19/00 CSP
B01J31/24 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021539857
(86)(22)【出願日】2020-01-08
(86)【国際出願番号】 GB2020050035
(87)【国際公開番号】W WO2020144476
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-12-28
(32)【優先日】2019-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516222473
【氏名又は名称】ユニヴァーシティー コート オブ ザ ユニヴァーシティー オブ セント アンドリューズ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】ワイドグレン マグナス
(72)【発明者】
【氏名】クラーク マシュー リー
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】Angew. Chem. Int. Ed.,2017年,56,5825-5828
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C,C07F,B01J
CAPlus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)塩基、(ii)水素ガス、および(iii)式(I):
【化1】
(式中、
Mnは、マンガン原子、または酸化状態(I)~(VII)のマンガンイオンであり、
R
1およびR
2は、
それぞれ独立してフェニル部分であり、フェニル部分はそれぞれ任意に、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されていてもよく、
-Fc-は、2つのシクロペンタジエニル部分の1つの隣接炭素原子を介して共有結合しているフェロセン(ビス(η
5-シクロペンタジエニル)鉄)部分であって、いずれか一方のシクロペンタジエニル環において、ハロ、脂肪族C
1-6ヒドロカルビル、トリハロメチル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アルキルチオ、カルボキシレート、スルホネート、ホスフェート、シアノ、チオ、ホルミル、エステル、アシル、チオアシル、カルバミドおよびスルホンアミドからなる群から選択される置換基により、1回または複数回、さらに置換されていてもよい、フェロセン(ビス(η
5-シクロペンタジエニル)鉄)部分を意味し、
-Z-は、式-(CH
2)
1-6-であるアルキレンリンカーであり、アルキレンの水素原子のうちの1個または複数が、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アルキルチオまたはチオール置換基により独立して置換されていてもよく、
-N
xは、
ピリジル、キノリニル、イソキノリニル、ピリミジニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノキサリニル、ピリダジニル、トリアゾリル、トリアジニル、およびオキサジアゾリルから選択される置換された窒素含有ヘテロアリール部分であり、かつ任意に、第2の電子供与性基により
1回または複数回、置換されていてもよ
く、但し、R
1、R
2および-N
xのうちの少なくとも1つは、それぞれ、第1および/または第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されていることを条件とし、
L
1~L
3は、1つ、2つまたは3つの配位子を構成し、L
1~L
3のそれぞれが単座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を独立して表すか、またはL
1~L
3のうちの1つが単座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表し、L
1~L
3のうちの他の2つが一緒になって二座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表すか、またはL
1~L
3が一緒になって、三座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表
し、および
第1および第2の電子供与性基が、アミノ、C
1-6
アルキル、C
1-6
アルコキシ、ヒドロキシ及びアミドからなる群から選択される基のいずれか1つまたは組合せである)
の荷電錯体または中性錯体を含む触媒の存在下で、ケトンを水素化するステップを含む方法であって、
式(I)の錯体が、荷電している場合、触媒が、錯体の電荷のバランスをとる、1つまたは複数のさらなる対イオンを含む、
方法。
【請求項2】
塩基が、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素リチウム、ナトリウムメトキシドおよび三級アミンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
塩基の共役酸が、pKa6.3~14を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
マンガンイオンが酸化状態(I)にある、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第1の電子供与性基が、C
1-6アルキルおよびC
1-6アルコキシからなる群から選択されるいずれか1つまたは組合せである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
第1の電子供与性基が、C
1-6アルキルおよびC
1-6アルコキシからなる群から選択される組合せである、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
C
1-6アルキルが、メチル、エチル、イソプロピルおよびtert-ブチルからなる群のいずれか1つから選択され、C
1-6アルコキシがメトキシである、請求項
5または
6に記載の方法。
【請求項8】
R
1およびR
2が同一である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
R
1およびR
2がどちらも、4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニルまたは4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニルである、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
フェロセン部分のシクロペンタジエニル環のいずれも、式(I)の錯体の残部とのフェロセンの結合点を介する以外、置換されていない、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
-Z-が、式-(CH
2)-である、請求項1~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
錯体のR
1R
2P-Fc-CH(Me)-NH-構成成分が、1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[1-(HN)エチル]フェロセン、1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィノ]-2-[1-(HN)エチル]フェロセンまたは1-[1-(HN)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
錯体のR
1R
2P-Fc-CH(Me)-NH-構成成分が、(S)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(R)-1-(HN)エチル]フェロセン、(R)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(S)-1-(HN)エチル]フェロセンまたはそれらの混合物;(S)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(R)-1-(HN)エチル]フェロセン、(R)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(S)-1-(HN)エチル]フェロセンまたはそれらの混合物;(S)-1-[(R)-1-(HN)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、(R)-1-[(S)-1-(HN)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセンまたはそれらの混合物である、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
第2の電子供与性基が、アミノおよびC
1-6アルキルからなる群から選択されるいずれか1つまたは組合せである、請求項1~
13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
第2の電子供与性基がアミノである、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
アミノ置換基が、2つのC
1-6アルキル置換基により置換されている第三級アミノである、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
2つのC
1-6アルキル置換基が、同一であり、メチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチルおよびtert-ブチルからなる群から選択される、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
-N
xが、置換されていてもよいピリジル環である、請求項1~
17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
N
xが、4-ジメチルアミノピリジル環またはピリジル環であり、これらの環が、ピリジル環の環窒素原子に隣接する炭素原子において、Zにより置換されている、請求項1~
18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
-N
xが、4-ジメチルアミノピリジン-2-イルまたは2-ピリジルである、請求項1~
19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
1つ、2つまたは3つの配位子L
1~L
3のそれぞれが、(i)一酸化炭素、一酸化窒素、アミン、エーテル、チオエーテル、スルホキシド、ニトリル(RCN)、イソシアニド(RNC)、リン(III)またはリン(V)のいずれかに基づくリン含有配位子、および水からなる群から選択される中性配位子、ならびに(ii)ハライド、アルコキシド、カルボン酸、スルホン酸およびリン酸の陰イオン、アミド配位子、チオレート、ホスフィド、シアニド、チオシアネート、イソチオシアネートおよびエノレートイオンからなる群から選択される陰イオン性配位子、からなる群から選択される、請求項1~
20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
L
1~L
3が、中性の単座配位子から選択される3つの配位子を構成する、かつ/またはL
1~L
3がそれぞれ同じである、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
L
1~L
3のそれぞれが一酸化炭素である、請求項
22に記載の方法。
【請求項24】
触媒が、1つまたは複数のさらなる対イオンを含む場合、これらが、ハライド、SbF
6
-、SbCl
6
-、AsF
6
-、BF
4
-、PF
6
-、ClO
4
-、CF
3SO
3
-、[B{3,5-(CF
3)
2C
6H
3}
4]
-、[B{3,5-(CH
3)
2C
6H
3}
4]
-、[B(C
6F
5)
4]
-および[B(C
6H
5)
4]
-からなる群から選択される、請求項1~
23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
錯体が、単一正電荷を有し、触媒が、1つの臭化物または[B{3,5-(CF
3)
2C
6H
3}
4]
-対陰イオンをさらに含む、請求項
24に記載の方法。
【請求項26】
触媒が、以下の式:
【化2】
またはそれらの混合物
、
【化3】
またはそれらの混合物
、
【化4】
またはそれらの混合物
、
【化5】
またはそれらの混合物
、のいずれか1つを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
-N
xが、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、R
1およびR
2の少なくとも1つが、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている、請求項1~
26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
-N
xが、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、R
1およびR
2が、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている、請求項1~
26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
触媒が、以下の式:
【化6】
またはそれらの混合物のいずれか1つを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
混合物がラセミ混合物である、請求項
26または
29に記載の方法。
【請求項31】
ケトンがプロキラルである、請求項1~
30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
光学活性なアルコールが、水素化により
47.5~94.5%の鏡像異性体過剰率で得られる、請求項
31に記載の方法。
【請求項33】
式(I)の荷電錯体または中性錯体を含む化合物:
【化7】
(式中、
Mnは、マンガン原子、または酸化状態(I)~(VII)のマンガンイオンであり、
R
1
およびR
2
は、それぞれ独立してフェニル部分であり、R
1
およびR
2
の少なくとも一つは、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、
-Fc-は、2つのシクロペンタジエニル部分の1つの隣接炭素原子を介して共有結合しているフェロセン(ビス(η
5
-シクロペンタジエニル)鉄)部分であって、いずれか一方のシクロペンタジエニル環において、ハロ、脂肪族C
1-6
ヒドロカルビル、トリハロメチル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アルキルチオ、カルボキシレート、スルホネート、ホスフェート、シアノ、チオ、ホルミル、エステル、アシル、チオアシル、カルバミドおよびスルホンアミドからなる群から選択される置換基により、1回または複数回、さらに置換されていてもよい、フェロセン(ビス(η
5
-シクロペンタジエニル)鉄)部分を意味し、
-Z-は、式-(CH
2
)
1-6
-であるアルキレンリンカーであり、アルキレンの水素原子のうちの1個または複数が、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アルキルチオまたはチオール置換基により独立して置換されていてもよく、
-N
x
は、ピリジル、キノリニル、イソキノリニル、ピリミジニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノキサリニル、ピリダジニル、トリアゾリル、トリアジニル、およびオキサジアゾリルから選択される置換された窒素含有ヘテロアリール部分であり、かつ、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、
L
1
~L
3
は、1つ、2つまたは3つの配位子を構成し、L
1
~L
3
のそれぞれが単座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を独立して表すか、またはL
1
~L
3
のうちの1つが単座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表し、L
1
~L
3
のうちの他の2つが一緒になって二座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表すか、またはL
1
~L
3
が一緒になって、三座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表し、
前記第1および第2の電子供与性基が、アミノ、C
1-6
アルキル、C
1-6
アルコキシ、ヒドロキシ及びアミドからなる群から選択される基のいずれか1つまたは組合せである)
であり、式(I)の錯体が、荷電している場合、触媒が、錯体の電荷のバランスをとる、1つまたは複数のさらなる対イオンを含む、上記化合物。
【請求項34】
請求項33に記載の化合物であって
(i)マンガンイオンが酸化状態(I)にある;
(ii)第1の電子供与性基が、C
1-6
アルキルおよびC
1-6
アルコキシからなる群から選択されるいずれか1つまたは組合せであるか、または第1の電子供与性基が、C
1-6
アルキルおよびC
1-6
アルコキシからなる群から選択される組合せである;
(iii)R
1
およびR
2
が同一であるか、またはR
1
およびR
2
がどちらも、4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニルまたは4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニルである;
(iv)フェロセン部分のシクロペンタジエニル環のいずれも、式(I)の錯体の残部とのフェロセンの結合点を介する以外、置換されていない;
(v)-Z-が、式-(CH
2
)-である;
(vi)錯体のR
1
R
2
P-Fc-CH(Me)-NH-構成成分が、1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[1-(HN)エチル]フェロセン、1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィノ]-2-[1-(HN)エチル]フェロセンまたは1-[1-(HN)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセンであるか、または錯体のR
1
R
2
P-Fc-CH(Me)-NH-構成成分が、(S)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(R)-1-(HN)エチル]フェロセン、(R)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(S)-1-(HN)エチル]フェロセンまたはそれらの混合物;(S)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(R)-1-(HN)エチル]フェロセン、(R)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(S)-1-(HN)エチル]フェロセンまたはそれらの混合物;(S)-1-[(R)-1-(HN)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、(R)-1-[(S)-1-(HN)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセンまたはそれらの混合物である;
(vii)第2の電子供与性基が、アミノおよびC
1-6
アルキルからなる群から選択されるいずれか1つまたは組合せであるか、またはアミノである;
(viii)-N
x
が、置換されたピリジル環であるか、またはN
x
が、ピリジル環の環窒素原子に隣接する炭素原子において、Zにより置換されている、4-ジメチルアミノピリジル環であるか、または-N
x
が、4-ジメチルアミノピリジン-2-イルである;
(ix)1つ、2つまたは3つの配位子L
1
~L
3
が、(i)一酸化炭素、一酸化窒素、アミン、エーテル、チオエーテル、スルホキシド、ニトリル(RCN)、イソシアニド(RNC)、リン(III)またはリン(V)のいずれかに基づくリン含有配位子、および水からなる群から選択される中性配位子、ならびに(ii)ハライド、アルコキシド、カルボン酸、スルホン酸およびリン酸の陰イオン、アミド配位子、チオレート、ホスフィド、シアニド、チオシアネート、イソチオシアネートおよびエノレートイオンからなる群から選択される陰イオン性配位子、からなる群から選択されるか、またはL
1
~L
3
が、中性の単座配位子から選択される3つの配位子を構成し、および/またはL
1
~L
3
がそれぞれ同じであるか、またはL
1
~L
3
のそれぞれが一酸化炭素である;および/または
(x)触媒が、1つまたは複数のさらなる対イオンを含む場合、これらが、ハライド、SbF
6
-
、SbCl
6
-
、AsF
6
-
、BF
4
-
、PF
6
-
、ClO
4
-
、CF
3
SO
3
-
、[B{3,5-(CF
3
)
2
C
6
H
3
}
4
]
-
、[B{3,5-(CH
3
)
2
C
6
H
3
}
4
]
-
、[B(C
6
F
5
)
4
]
-
および[B(C
6
H
5
)
4
]
-
からなる群から選択されるか、または、錯体が、単一正電荷を有し、かつ触媒が、1つの臭化物または[B{3,5-(CF
3
)
2
C
6
H
3
}
4
]
-
対陰イオンをさらに含む、
上記化合物。
【請求項35】
以下の式:
【化8】
またはそれらの混合物、または
【化9】
またはそれらの混合物のいずれか1つを有する、請求項33または34に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン化合物および触媒ならびに接触水素化、特にマンガン触媒によるケトンのアルコールへの水素化方法におけるそれらの使用の分野に関する。有利には、ケトンがプロキラルな場合、この不斉還元を実現し得る。
【背景技術】
【0002】
ケトンのアルコールへの還元は、有機化学における基礎的な変換であり、医薬品および精密化学製品を含めた、いくつかの工業製品の合成の不可欠な部分である。
典型的な不均一水素化プレ触媒は、ラネーニッケルおよび亜クロム酸銅を含み、これらは過酷な反応条件を必要とする。対照的に、S Werkmeisterら(Org. Process Res. Dev., 18, 289-302 (2014))によって概説されている均一触媒作用の使用は、より低い反応温度および水素圧の使用を可能にし、一層大きな選択性をもたらすと一般に考えられている。
分子状水素を使用する触媒的なケトンの水素化の実施は、貴金属遷移金属触媒(例えば、パラジウムまたはルテニウムをベースとする触媒)を使用して通常、達成される。特に立体化学制御を伴うケトンのアルコールへの還元のためのルテニウム触媒の開発(この開発に対して、2001年にノーベル化学賞を受賞)は、商業規模で適用可能な成熟した技術である。これらの触媒は、2種の二座配位子:ジホスフィンおよびジアミン(Noyori, R.; Ohkuma, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2001, 40, 40を参照されたい)を有するルテニウムを含む。ルテニウムまたはイリジウム金属中心に接触している3つの供与体、多くの場合、リンおよび2個の窒素(Diaz-Valenzuela, M. B.; Phillips, S. D.; France, M. B.; Gunn, M. E.; Clarke, M. L. Chem. Eur. J.2009, 15, 1227を参照されたい)、またはリン、窒素および酸素を含む、三座配位子をベースとするケトン還元触媒。
J.Yuら(Chem. Eur. J., 23, 970-975 (2017) and Org. Lett., 19, 690-693 (2017)を参照されたい)は、高エナンチオ選択性および変換率を伴う、単純ケトンを不斉水素化して対応するキラルアルコールを得るための、フェロセンをベースとするアミノ-ホスフィン-アルコール(f-Amphol)配位子またはフェロセンをベースとするアミノ-ホスフィン-アルコール(f-Ampha)配位子を含む一連のイリジウムをベースとする触媒の使用を記載している。
【0003】
貴金属遷移金属の使用の増大は、その存在量の低下および価格の上昇をもたらしている。そのより多量に存在し、安価な第1列同族体、例えば鉄またはマンガンをベースとする代替的な水素化触媒が有利である。
D.Wangら(Catalysts Communications, 105, 31-36 (2018)において)は、金属前駆体として臭化マンガンペンタカルボニルおよび配位子としてエチレンジアミンをベースとするin situ生成した触媒系を使用して達成される、2-プロパノールを還元剤として用いるケトンの還元を記載している。
A.Zirakzadehら(ChemCatChem., 9, 1744-1748 (2017)において)は、二水素を使用するケトンのエナンチオ選択的な移動型水素化のための、[Mn(PNP’)(Br)(CO)2]および[Mn(PNP’)(H)(CO)2](平面のキラルなフェロセンおよびキラルな脂肪族単位を有する三座配位子を含有する)のマンガン錯体の使用を記載している。同様に、M.Garbeら(Angew. Chem. Int. Ed., 56, 11237-11241 (2017))は、いくつかのプロキラルなケトンの分子状水素を用いる不斉水素化におけるキラルなマンガンPNPピンサー錯体の使用を記載している。
M B Widegren、G J Harkness、A M Z Slawin、D B CordesおよびM L Clarke(Angew. Chem. Int. Ed., 56, 5825-5828 (2017))は、エステルの水素化およびプロキラルなケトンのエナンチオ選択的な水素化において、キラルなP,N,N配位子のマンガン錯体をベースとする水素化触媒の使用を記載している。
本明細書において含まれる、書類、作用、物質、装置、物品などのいかなる議論も、これらの事項のいずれも、またはすべてが、先行技術の基礎の一部を形成すること、または本出願の各請求項の優先日よりも前に存在したものとして、本開示に関連する分野における共通する一般の認識であることを認めるものとして捉えられるべきではない。
【発明の概要】
【0004】
本発明者らは、P,N,N配位子が、少なくとも1つの電子供与性基により置換されている本明細書に記載されているマンガンをベースとする触媒は、ケトン水素化に対して、同様の非置換錯体よりも、驚くべき程のおよび著しく効果的な触媒となることを見出した。具体的には、本明細書に記載されている錯体は、それらの非置換類似体よりも反応性が高く、速い速度でケトンの水素化を行う。これにより、必要な触媒充填量は一層少なくなる。
【0005】
さらに、本発明者らは、それらの非置換類似体とは対照的に、本明細書に記載されているマンガンをベースとする化合物は、工業的に好都合な環境に安全な経済的溶媒(例えば、エタノール)を含めた様々な溶媒中に容易に溶解することを見出した。これにより、本発明の化合物を用いて実施する際に、使用する溶媒の選択肢の許容度が一層大きくなる。
【0006】
したがって、第1の態様から鑑みると、本発明は、(i)塩基、(ii)水素ガス、および(iii)式(I):
【化1】
(式中、
Mnは、マンガン原子、または酸化状態(I)~(VII)のマンガンイオンであり、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されていてもよいC
4-8単環式アリール部分またはC
3-7単環式ヘテロアリール部分であり、
-Fc-は、2つのシクロペンタジエニル部分の1つの隣接炭素原子を介して共有結合しているフェロセン(ビス(η
5-シクロペンタジエニル)鉄)部分であって、いずれか一方のシクロペンタジエニル環において、ハロ、脂肪族C
1-6ヒドロカルビル、トリハロメチル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アルキルチオ、カルボキシレート、スルホネート、ホスフェート、シアノ、チオ、ホルミル、エステル、アシル、チオアシル、カルバミドおよびスルホンアミドからなる群から選択される置換基により、1回または複数回、さらに置換されていてもよい、フェロセン(ビス(η
5-シクロペンタジエニル)鉄)部分を意味し、
-Z-は、式-(CH
2)
1-6-であるアルキレンリンカーであり、アルキレンの水素原子のうちの1個または複数が、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アルキルチオまたはチオール置換基により独立して置換されていてもよく、
-N
xは、第2の電子供与性基により、1回または複数回、置換されていてもよい窒素含有ヘテロアリール部分であり、但し、R
1、R
2および-N
xのうちの少なくとも1つは、それぞれ、第1および/または第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されていることを条件とし、
L
1~L
3は、1つ、2つまたは3つの配位子を構成し、L
1~L
3のそれぞれが単座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を独立して表すか、またはL
1~L
3のうちの1つが単座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表し、L
1~L
3のうちの他の2つが一緒になって二座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表すか、またはL
1~L
3が一緒になって、三座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表す)
の荷電錯体または中性錯体を含む触媒の存在下で、ケトンを水素化するステップを含む方法であって、
式(I)の錯体が、荷電している場合、触媒が、錯体の電荷のバランスをとる、1つまたは複数のさらなる対イオンを含む、方法を提供する。
【0007】
第2の態様から鑑みると、本発明は、第1の態様において定義されている式(I)の荷電錯体または中性錯体を含む触媒であって、-Nxが、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、R1およびR2の少なくとも1つが、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている、触媒を提供する。
【0008】
第3の態様から鑑みると、本発明は、第1の態様において定義されている式(I)の荷電錯体または中性錯体を含む化合物であって、-Nxが、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、R1およびR2の少なくとも1つが、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている、化合物を提供する。
本発明のさらなる態様および実施形態は、以下に続く本発明の詳細な議論から明白となろう。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書の全体を通じて、語「含む(comprise)」、または「含む(comprise)」もしくは「含むこと(comprising)」などの派生語は、明記した要素、整数もしくは工程、または要素、整数もしくは工程の群を含むことを意味するが、他のいかなる要素、整数もしくは工程、または要素、整数もしくは工程の群を除外することを意味するものではないことが理解されよう。
特に所与の量を参照する、用語「約」は、±5%の偏差を包含することが意図されている。例えば、47.5と94.5の両方が、約50~約90と明記される範囲内に収まることが意図されている。
本発明の方法によれば、塩基の存在下で、特定の触媒が、ケトンの水素化を触媒するために使用される。表現「触媒するための使用する」は、本明細書では、触媒が、準化学量論量(水素化されるケトン基質に対する)で、分子状水素(H2)の使用と共に使用されて、水素化反応を促進すること、すなわち、触媒が、ケトンに対して1モル当量(100mol%)未満の量で存在することを示す。
表現「触媒するために使用する」は、ケトンに接触させる触媒が実際の触媒種であることを必要とするのではなく、単に、水素化反応を促進するためにその触媒を使用することを必要とする。したがって、本発明の実施に関連してこのようなものとして定義されている触媒は、いわゆるプレ触媒とすることができ、このプレ触媒は、水素化反応の過程中に、実際の触媒種へと変換され得る。
本発明の方法に関連して使用され得る触媒は、本発明の水素化が行われるのと同じ反応容器中で、例えば、マンガン塩と式(I)の錯体を構成する触媒を形成するのに好適な追加の配位子とを混合することにより調製され得る。これは、in situ調製法の例である。代替的に、触媒は、単離可能な錯体を最初に形成させることにより、ex situ調製されてもよく、この単離可能な錯体を単離して、次に、本発明の方法において触媒として使用されてもよい。したがって、そのようなex situ調製された触媒は、十分に規定されたものとして、すなわち、特性決定(すなわち、規定)および分析(例えば、その構造および純度を決定するため)がしやすいよう単離された化合物であることを本明細書において表す、十分に規定された用語(この用語は、当分野において慣用的に使用されるので)として見なすことができる。対照的に、十分に規定されていない触媒は、調製される媒体(例えば、反応媒体)から単離することなく調製されるもの、例えば、in situ調製された触媒である。
【0010】
本発明により使用され得る触媒の典型的な準化学量論量は、ケトン基質のモル量に対して、約0.00005~約10mol%、例えば、約0.0001~約5mol%、多くの場合、約0.0001~約2mol%、通常、約0.0005~約1mol%の範囲にあろう。より多くの量の触媒は、一般に、水素化反応を加速すること(すなわち、一層大きな程度に促進する)、およびしたがって、水素化反応は、当業者の通常の能力に従い、使用される触媒量を調節することによって(および、本明細書に記載されている水素化反応の他の特徴、例えば、反応媒体中のケトンの濃度)、型通りの最適化を受けることができることが理解されよう。
【0011】
本発明に関連して、特に文脈が明確に反対のことを示唆していない限り、以下の定義が適用され、これは、当業者の一般的な理解を確認するものと見なされる。本明細書において使用される特定の官能基の意味が、明示的に定義されていない場合、このような用語は、国際純正・応用化学連合の有機化学部門の"Glossary of class names of organic compounds and reactive intermediates based on structure" (Pure & Appl. Chem., 67(8/9), 1307-1375 (1995))と題する出版物により、通常、明示されている通り、当業者によって同様に理解されると意図されている。
単環式という用語は、単環の原子を有する系、例えばピリジル、フェニルまたはシクロヘキシルを定義するために、本明細書において使用される。
【0012】
アリールは、芳香族部分から1個の水素原子を引き抜くことにより形式的に形成される一価の基を意味する(本明細書において、単環式または多環式芳香族炭化水素を意味する用語アレーンと同義で使用されている)。同様に、ヘテロアリールは、ヘテロアリール部分から1個の水素原子を引き抜くことにより形式的に形成される一価の基を意味する(本明細書において、単環式または多環式ヘテロ芳香族炭化水素を意味する用語ヘテロアレーンと同義で使用されている)。
アリール基は、文脈が具体的に反対のことを指示しない限り、通常、単環式基、例えばフェニルであるが、ナフチルなどの二環式アリール基、ならびにフェナントリルおよびアントラシルなどの三環式アリール基もまた、用語アリールにより包含される。本明細書において、芳香族基を言う場合、すなわち、反対のことを支持する表現が存在しない場合、単環式芳香族基を意味するものとして同様に解釈されるべきである。
【0013】
当業者に公知の通り、複素芳香族部分は、そこに結合している水素原子のいずれかと共に1個または複数の炭素原子の代わりに、1個または複数(一般に、1個または2個)のヘテロ原子、通常、O、NまたはSが置換することにより、芳香族部分から形式的に誘導される。例示的な複素芳香族部分には、ピリジン、フラン、ピロールおよびピリミジンが含まれる。複素芳香族環のさらなる例には、ピリダジン(この場合、2個の窒素原子が、芳香族6員環に隣接している);ピラジン(この場合、2個の窒素が、6員の芳香族環の1,4位に位置する);ピリミジン(この場合、2個の窒素原子が、6員の芳香族環の1,3位に位置する);または1,3,5-トリアジン(この場合、3個の窒素原子が、6員の芳香族環の1,3,5位に位置する)が含まれる。
ヘテロアリール基は、文脈が具体的に反対のことを指示しない限り、通常、単環式基、例えばピリジルであるが、例えばインドリルなどの二環式ヘテロアリール基もまた、用語ヘテロアリールにより包含される。本明細書において、複素芳香族基を言う場合、すなわち、反対のことを指示する表現が存在しない場合、単環式複素芳香族基を意味するものとして同様に解釈されるべきである。
【0014】
電子供与性基という用語は、当分野で周知であり、本明細書において、系に電子密度を供与する原子または官能基を指す。本明細書に記載されている錯体では、この系は共役π系であり、電子供与は、共鳴効果または誘起効果によるものであり、こうして、π系が一層の求核性になる。このような系に電子供与を可能にする任意の基が、電子供与性基の定義に収まる。
【0015】
第1および第2の電子供与性基は、アミノ、C1-6アルキル、C1-6アルキルオキシ、ヒドロキシおよびアミドからなる群から選択される置換基のいずれか1つまたは組合せとすることができる。
【0016】
C1-6ヒドロカルビルとは、水素原子、および1~6個の炭素原子を含む脂肪族ラジカルまたは芳香族ラジカルであることが意図される。脂肪族の場合、ヒドロカルビルは、直鎖または分岐状であってもよく、かつ/または1つもしくは複数の不飽和部位(例えば、1つもしくは複数の炭素-炭素二重結合または三重結合)を含んでもよい。例えば、C1-6ヒドロカルビル部分は、C1-6アルキル部分、C2-6アルケニル部分、C2-6アルキニル部分またはC3-6シクロアルキル部分とすることができる。代替としてまたはさらに、ヒドロカルビル部分は、環式であってもよく、またはその構造の一部が、環式であってもよい。例えば、シクロペンチルメチルおよびシクロペンテニルメチルは、脂肪族C6ヒドロカルビルの両方の例である。
多くの場合、しかし、必ずしもではないが、本明細書に記載されているヒドロカルビル部分は、飽和脂肪族である、すなわち、直鎖および/もしくは分岐状の環式であるか、または直鎖もしくは分岐状構造内に1つまたは複数の環式部分を含む。
「ハライド」とは、フッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物、通常、塩化物、臭化物またはヨウ化物を言う。同様に、ハロは、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨード、通常、クロロ、ブロモまたはヨードを意味する。
多くの場合、必ずしもではないが、トリハロメチルは、トリフルオロメチルを意味する。
アミノとは、本明細書において、式-N(R4)2の基を意味し、R4はそれぞれ、水素、またはC1-6ヒドロカルビルまたはヘテロアリールを独立して意味するか、または2つのR4部分が一緒になって、アルカンから形式的に誘導されるアルキレンジラジカルであって、アルキレンジラジカルから、通常、末端炭素原子から2個の水素原子が引き抜かれて、これにより、アミンの窒素原子と一緒になって環を形成する、アルキレンジラジカルを形成する(例えば、ピロリジニルを形成する)。R4が、水素以外である場合(2つのR4部分が一緒になって、アルキレンジラジカルを形成するそのような実施形態を含む)、その炭素原子の1個または複数は、1回または複数回置換されてもよい。2つのR4部分が一緒になってアルキレンジラジカルを形成し、R4の1つまたは複数の炭素原子が、1回または複数回、置換されていてもよいそのような実施形態では、これは、例えば、モルホニルを形成することができる。R4の炭素原子は、ハロ、C1-6ヒドロカルビル、トリハロメチル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アルキルチオ、カルボキシレート、スルホネート、ホスフェート、シアノ、チオ、ホルミル、エステル、アシル、チオアシル、カルボアミドおよびスルホンアミドからなる群から独立して選択される1つまたは複数の置換基により、1回または複数回、置換されていてもよく、より典型的には、任意選択の置換基は、ハロ、C1-6ヒドロカルビル、トリハロメチル、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択される。
【0017】
通常、アミノは、本明細書において、-N(R4)2を表し、R4はそれぞれ、C1-6ヒドロカルビルまたは水素を独立して表す。多くの場合、アミノは、単純なジアルキルアミノまたはモノアルキル部分(例えば、ジアルキルアミノ部分は、ジメチルアミノ(-N(CH3)2)またはジ-tert-ブチルアミノ(-N(C(CH3)3)2)である)を表す。
本明細書においてアミノを言う場合、このようなアミノ基を含む化合物から得られたアミンのこの部分での四級化またはプロトン化誘導体の範囲内に包含されるものとしてやはり理解される。後者の例は、塩酸塩などの塩と理解され得る。
【0018】
アルコキシ(アルキルオキシと同義)部分およびアルキルチオ部分は、それぞれ、式-OR5および-SR5であり、R5は、飽和脂肪族ヒドロカルビル基、通常、ハロ、アリールおよびヘテロアリールからなる群から選択される1つまたは複数の置換基により置換されていてもよい、C1-6アルキルまたはC3-6シクロアルキル基である。
カルボキシレート、スルホネートおよびホスフェートとは、本明細書において、それぞれ、官能基-CO2
-、-SO3
-および-PO4
2-を意味し、これらは、そのプロトン化形態にあってもよい。
ホルミルとは、式-C(H)Oの基を意味する。
エステルとは、部分-OC-(=O)-を含む官能基を意味する。
アシルとは、式-C(O)R5である官能基を意味し、R5は、本明細書の上で定義されている通りである。同様に、チオアシルとは、式-C(O)R5である官能基を意味し、やはり、R5は、本明細書の上で定義されている通りである。
カルバミドとは、本明細書において、式-NHCOR5または式-CONHR5のいずれか一方である官能基を意味し、R5は、本明細書の上で定義した通りである。同様に、スルホンアミドとは、式-NHSO2R5または式-SO2NHR5のいずれか一方である官能基を意味し、R5は、本明細書の上で定義した通りである。
【0019】
用語アミドは、式-NHCOR5(式中、R5は本明細書の上に定義されている通りである)の官能基を定義するために本明細書において使用される。
配位子は、単座であると明記されている場合、この配位子は、1つの供与部位を介して配位する(すなわち、マンガン中心に)ことができる。配位子が二座である場合、この配位子は、2つの個別の供与部位を介して配位することができる。
本発明により使用される触媒は、本明細書に記載されている式(I)の錯体を含むことを特徴とする。錯体の性質は、以下に詳細に議論する。
【0020】
(理論によって拘束されることを望むものではないが)接触水素化反応の開始時点を構成する触媒種は、酸化状態(I)のマンガンイオンを含むものとすることができるが、様々な酸化状態にある遷移金属中心を有する最初のプレ触媒が提供され得ることが、遷移金属触媒作用の分野において周知である。これらは、遷移金属(ここでは、マンガン)原子またはイオンの適切な酸化または還元により、すなわち、マンガン中心の任意の必要な酸化または還元により、触媒される反応の過程の間に、触媒活性種へと変換され得る。マンガン原子またはイオンの適切な酸化または還元は、例えば、好適な還元剤もしくは酸化剤、または反応性配位子により実現され得る。
マンガンが、活性な触媒種の酸化状態とは異なる酸化状態(II)で存在するマンガン(II)プレ触媒の使用の2つの例は、ケトンのヒドロボレーションに関連してV Vasilenkoら(Angew. Chem. Int. Ed., 56, 8393-8397 (2017))によって、およびアリールケトンのヒドロシリル化に関して、X Maら(ACS Omega, 2, 4688-4692 (2017))によって記載されている。
さらに、Mn2(CO)10などのマンガン(0)種は、望ましいMn種への酸化を受けることが周知である。実際に、Nguyenらは、還元触媒を生成する、アミノ配位子によるこのような酸化に関して報告している(ACS Catal., 7, 2022-2032 (2017))。
【0021】
より高い酸化状態にあるMn前駆体を使用する必要はないが、より高い酸化状態のマンガンのMn(II)への還元(例えば、酸化試薬の状況において)は、周知である。単純なアルコキシド塩でさえも、より高原子価の金属塩を所望の低原子価種へと還元することができる。JH Dochertyら(Nature Chemistry, 9, 595-600 (2017))を参照されたい。したがって、適切な還元剤を使用して、酸化状態が(II)より高いマンガン含有化合物は、本発明に関して有用であることが期待され得る。
したがって、式(I)の錯体は、マンガン原子または酸化状態(I)~(VII)にあるマンガンイオン、通常、マンガンイオン、多くの場合、酸化状態(I)または(II)にあるマンガンイオン、および非常に多くの場合、酸化状態(I)にあるマンガンイオンを含むことができる。
【0022】
本発明によれば、本発明者らは、市販のマンガン(I)塩である、ブロモペンタカルボニルマンガン(I)(MnMn(CO)5Br)の使用が好都合であることを見出したが、他の市販の(例えばマンガン(0)カルボニル(Mn2(CO)10))または容易に入手可能なマンガン化合物もまた、本発明の方法に使用するための錯体を調製するために使用されてもよいことが理解されよう。
式(I)の錯体の構造から明白な通り、R1およびR2は、式(I)の錯体内の式R1(R2)PFcC(CH3)N(H)ZNxである三座配位子内のホスフィン部分の置換基である。当業者によって理解される通り、このような配位子内で、とりわけこのようなホスフィノ部分の置換基R1およびR2はかなり様々となる可能性が一般にある。これらの、例えば、このようなホスフィノ部分のリン原子に及ぼす周囲の立体嵩高さおよび/または電子的影響の変化による、型通りの変化により、当業者は、任意の所与の反応に対して、これらを含む触媒および錯体中のこのような配位子を最適化することが可能である。
【0023】
例えば、R1およびR2配位子は、脂肪族または芳香族(または、複素芳香族)とすることができ、水素化触媒としてのその役割における、このような部分を含む触媒の機能の破壊なく、大きな置換可能性を有する。さらに、非常に様々な、市販の、または他には、R1およびR2含有配位子が調製され得る、容易に入手可能なリン含有試薬が存在する。さらに、様々な関連配位子が作製され得ること、およびこれらを含む錯体(本明細書において、式(I)中に定義されている式R1(R2)PFcC(CH3)N(H)ZNxのフェロセンをベースとするPNN三座配位子を含む)が接触水素化反応の状況において使用され得ることのいずれも当分野において実証されている。例えば、H Nieら(Tetrahedron: Asymmetry., 24, 1567-1571 (2013) and Organometallics, 33, 2109-2114 (2014))は、このような配位子の末端ジフェニルホスフィノ部分内のフェニル基が、例えば、様々なアルキル置換により置換されている変形形態を記載している。
【0024】
ジフェニルホスフィノ置換フェロセンを構築する場合、Nieらは、本明細書において定義されている式(I)の錯体内の式R1(R2)PFcC(CH3)N(H)ZNxである三座配位子内の-C(CH3)N-フラグメントに対応する置換基に対してオルト位を選択的にリチオ化し、次いで、様々なクロロジアリールホスフィンにより処理することによる、ジフェニルホスフィノ部分の導入を記載している。当業者にとって入手可能な類似の求電子性クロロホスフィンがかなりあることを鑑みると、リン原子上に、他の置換基、例えば置換されていてもよい脂肪族、ヘテロアリールおよび他のアリールR1およびR2部分を有する関連配位子を調製すること、例えば、ジエチルホスフィノ-およびジtert-ブチルホスフィノ-などのジアルキルホスフィノ含有配位子が入手可能であることは、H Nieらが型通りにできることの範囲内に十分ある。
【0025】
以下の実験項に詳述されている通り、本発明者らは、無水酢酸の存在下で、N,N-ジメチル-1-エチルアミノ-置換フェロセンと2-ピコリルアミン(2-アミノメチルピリジン)との間の反応により、式R1(R2)PFcC(CH3)N(H)ZNx(ZNxは、2-ピリジルメチルである)である配位子を合成した。本発明者らはまた、水素化ホウ素ナトリウムの存在下で、1-エチルアミノ-置換フェロセンと4-ジメチルアミノ-2-ホルミルピリジンとの間の反応により、式R1(R2)PFcC(CH3)N(H)ZNx(ZNxは、4-ジメチルアミノピリジン-2-イルメチルである)である配位子を合成した。さらに、式(I)の錯体の利用しやすさを例示する一例として、本発明者らは、Solvias AG(スイス)から商標名PFAで販売されている、代替的な置換フェロセンを商業的に入手できるので、様々な市販のフェロセンを、(S)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(R)-1-(DMA)エチル]フェロセンまたは((R)-1-[(S)-1-(ジメチルアミノ)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)に対して置き換えることにより、式R1(R2)PFcC(CH3)N(H)ZNxの代替的なR1およびR2置換配位子が直接的に合成されることに気づき、その使用が本明細書に記載されている。
【0026】
特に、以下のフェロセンが、Solvias(式中、DMAは、ジメチルアミノを意味する)から市販されている:
・ (S)-1-[(R)-1-(DMA)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセン
・ (R)-1-[(S)-1-(DMA)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセン
・ (R)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(S)-1-(DMA)エチル]フェロセン
・ (S)-1-(ジフラニルホスフィノ)-2-[(R)-1-(DMA)エチル]フェロセン
・ (R)-1-(ジフラニルホスフィノ)-2-[(S)-1-(DMA)エチル]フェロセン
・ (S)-1-[ビス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィノ]-2-[(R)-1-(DMA)エチル]フェロセン
・ (R)-1-[ビス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィノ]-2-[(S)-1-(DMA)エチル]フェロセン
・ (S)-1-(ジシクロヘキシルホスフィノ)-2-[(R)-1-(DMA)エチル]フェロセン、および
・ (R)-1-(ジシクロヘキシルホスフィノ)-2-[(S)-1-(DMA)エチル]フェロセン。
【0027】
これらは、本発明による使用のための錯体を提供するために使用されてもよく、この場合、式(I)の錯体のR1R2P-Fc-CH(Me)-NH-部分は、以下である:
・ (S)-1-[(R)-1-(HN)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセン
・ (R)-1-[(S)-1-(HN)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセン
・ (S)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(R)-1-(HN)エチル]フェロセン
・ (R)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(S)-1-(HN)エチル]フェロセン
・ (S)-1-(ジフラニルホスフィノ)-2-[(R)-1-(HN)エチル]フェロセン
・ (R)-1-(ジフラニルホスフィノ)-2-[(S)-1-(HN)エチル]フェロセン
・ (S)-1-[ビス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィノ]-2-[(R)-1-(HN)エチル]フェロセン
・ (R)-1-[ビス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィノ]-2-[(S)-1-(HN)エチル]フェロセン
・ (S)-1-(ジシクロヘキシルホスフィノ)-2-[(R)-1-(HN)エチル]フェロセン、または
・ (R)-1-(ジシクロヘキシルホスフィノ)-2-[(S)-1-(HN)エチル]フェロセン、すなわち、これらの場合、ジメチルアミノ(DMA)部分が、本明細書に記載されている式R1(R2)PFc-CH(Me)-N(H)ZNxである三座配位子内のNH部分と置き換えられている。
【0028】
本発明は、非ラセミ形態にあるこの触媒が商業的に入手可能であるので、キラルな触媒の使用により本明細書に例示されている。本明細書に記載されている水素化は、使用されるケトン基質がプロキラルであるか否かに応じて、新規なステレオジェン中心を生成し得るかまたは生成し得ない。使用されるケトンがプロキラルであり、光学的に活性なアルコール生成物の鏡像異性体過剰率の制御が望ましい場合、非ラセミ形態の配位子を使用して、式(I)の非ラセミ錯体を調製することが有利である。代替的に、光学的に活性なアルコール生成物の鏡像異性体過剰率に関心がない場合、または使用されるケトンがプロキラルではない場合、式(I)の錯体調製において、キラルな配位子の鏡像異性体の混合物を使用することは、有益ではないか、または不都合である。
「プロキラルな」という用語は、単一非対称化(desymmetrization)工程において、キラルになることが可能なアキラル化合物を定義する。本明細書で使用する場合、プロキラルなケトンは、水素化を受けて光学的に活性なアルコールを形成するケトンである。言い換えると、プロキラルなケトンは、式R6(CO)R7である任意のケトンであり、R6およびR7は化学的に非等価である。
【0029】
幅広い範囲のR1およびR2がいずれも、合成的に入手可能であり、かつ本発明の水素化により有用となるが、本発明の特定の実施形態によれば、R1およびR2は、それぞれ独立して置換されていてもよいC4-6単環式アリールまたはC3-5単環式ヘテロアリール部分、例えば置換されていてもよいフェニル部分またはフラニル部分である。R1およびR2に関して、フェニルまたはフラニル、特にフェニル部分と他のC4-6単環式アリールまたはC3-5単環式ヘテロアリールである可能性はいずれも、独立して非置換であってもよく、または第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されていてもよい。
【0030】
特定の実施形態によれば、第1の電子供与性基は、アミノ、C1-6アルキル、C1-6アルキルオキシおよびヒドロキシからなる群から選択される置換基のいずれか1つまたは組合せである。通常、第1の電子供与性基は、C1-6アルキル置換基およびC1-6アルキルオキシ置換基からなる群から選択されるいずれか1つまたは組合せである。C1-6アルキルは、多くの場合、メチル、エチル、イソプロピルおよびtert-ブチルからなる群のいずれか1つから選択され、C1-6アルコキシは、多くの場合、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシおよびtert-ブトキシからなる群のいずれか1つから選択される。
好ましくは、第1の電子供与性基は、組合せであり、すなわち、R1およびR2は、第1の電子供与性基の組合せにより、2回以上、置換されていてもよい。通常、R1およびR2は、メチル基およびメトキシ基により、2回以上、置換されていてもよい。多くの場合、R1およびR2が、置換されていてもよいフェニル部分である場合、それらは、パラ(C4位)位においてC1-6アルコキシ基により、およびメタ位(C3位)においてC1-6アルキル基により独立して置換されていてもよい。
【0031】
特定の実施形態によれば、R1およびR2を独立して構成することができる部分は、4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル、4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニルまたはフェニルである。これら、および他のR1およびR2部分によれば、R1およびR2はいずれも、一般に、必ずしもではないが、同じ部分となろう。
【0032】
様々なR1およびR2部分への合成的な入手の順応性と同様に、当業者は、非常に様々なFc部分を含む式(I)の錯体を入手することができ、関連試薬はいずれも、商業的に入手可能(Solviasから市販されている試薬に関しては上記を参照されたい)であるが、やはりまた、様々なR1およびR2部分は、当業者が十分に認識している方法論を使用して、式(I)の錯体内に組み込まれ得る。この点に関しては、TD Appletonら(J. Organomet. Chem., 279(1-2), 5-21 (1985))は、フェロセンのシクロペンタジエン環の容易な官能基化を記載している。
【0033】
本発明の特定の実施形態によれば、いわば、Fcと式(I)の錯体の残部とを結合する、そのシクロペンタジエニル環のうちの1つの炭素原子におけるFc部分の固有の置換に加えて、フェロセン部分Fcのシクロペンタジエニル環の一方の1個または複数の炭素原子は、1つまたは複数のハロおよび/またはC1-6アルキル置換基により置換されていてもよい。しかし、本発明のさらにより特定の実施形態によれば、式(I)内のFc部分のシクロペンタジエニル環のいずれも、置換されていない(すなわち、式(I)の錯体の残部とのフェロセンの結合点を介する固有の置換以外)。
Fc部分に隣接している式(I)の錯体内のCH(Me)部分の入手は、いずれか一方の鏡像異性体として入手可能な、Ugiのアミン(N,N-ジメチル-1-フェロセニルエチルアミン)として当分野で公知なものが商業的に入手可能であるため、当業者に容易に利用可能である。
N,N-ジメチル-1-フェロセニルエチルアミンは、上記の適切なクロロホスフィンの選択により、対応する2-ホスフィノ誘導体(これは、本明細書に記載されているR1部分およびR2部分を組み込むことができる)を入手するため、例えば、H Nieら(上記)によって記載されている方法論を使用して反応させることができる。次に、得られた2-ホスフィノ誘導体のN,N-ジメチルアミノ部分は、対応する非置換アミノ部分に変換された後に、H Nieら(上記)によってやはり記載されている通り、および本明細書に記載されている通り、適切なNx含有アルデヒド(Nxは、本明細書で定義されている通りである)と還元アミノ化を行い、本明細書に記載されている式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH-Z-Nxの配位子が入手可能となる。
【0034】
代替的に、本明細書に記載されている通り、非置換アミノ部分は、式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH-Z-Nxの配位子を入手するため、式Nx-Z-NH2(NxおよびZは、本明細書で定義されている通りである)であるアミンと反応させてもよい。式Nx-Z-NH2のアルデヒドまたはアミンのいずれかの変形形態は、式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH-Z-Nxである配位子の-Z-Nx末端の変形形態を入手可能にすることが理解されよう。さらに一般に、幅広く様々な式R1(R2)PFc-CH(Me)-LGの化合物(式中、LGは、アセテートまたはNMe2などの脱離基である)は、当業者にとって入手可能である。次に、これらは、本明細書に記載されている方法論により、式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH-Z-Nxである配位子に変換することができる。したがって、式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH-Z-Nxである配位子の入手は、当業者の通常の能力の範囲内に容易にある。
多種多様な構造の置換基をフェロセンに組み込むためのさらなる追加の方法および戦略は、HU Blaserら(Topics in Catalysis, 19(1), 3-16 (2002))を参照にして認識され得、これは、特に、式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH-Z-Nxである配位子のCH(Me)-NH-Z-Nx部分の変形形態に関して、当業者を支持するさらなる教示をもたらす。
【0035】
式(I)の錯体では、-Z-は、式-(CH2)1-6-であるアルキレンリンカーであり、アルキレンの水素原子のうちの1個または複数が、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アルキルチオまたはチオール置換基により独立して置換されていてもよい。このようなリンカーにおける変形形態の入手は、例えば、上記の通り、式R1(R2)PFc-CH(Me)-LGの化合物(例えば、LG==NMe2)と2-ピコリルアミン中に存在する、メチレン(-CH2-)以外のZ基を有する様々な一級アミンとの反応により実現することができる(同様に、様々なNx基の入手は、式R1(R2)PFc-CH(Me)-LGの化合物と2-ピコリルアミン中に存在する2-ピリジル以外のNx基を有する様々な一級アミンとの反応により、さらに(すなわち、Z基を変えること)または代替として実現することができる)。
【0036】
式(I)の錯体中の-Z-基を変える代替戦略は、C-J HouおよびX-P Hu(Org. Lett., 18, 5592-5595 (2016))を参照することによって(この場合、著者らは、式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH-Z-Nx(-Z-部分は、置換されているメチレンリンカーとすることができる(例えば、1-(2-ピリジニル)エチルメタンスルホネートと式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH2の化合物との反応による)(これにより、メチル-置換メチレンリンカー-Z-が得られる))である配位子を記載している)、または様々な2-アシルピリジンを同じ式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH2の化合物と縮合し、次いで、得られたSchiff塩基(これにより、一連の置換メチレンリンカー-Z-が得られ、この場合、置換基は、式2-PyC(=O)Rの2-アシルピリジン中のR基に対応する)を水素化することによって理解され得る(同様に、2-ピリジルとは異なるNx基の入手は、式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH2の化合物と、1-(2-ピリジニル)エチルメタンスルホネートの誘導体、および2-ピリジル以外のNx基を有する2-アシルピリジンとの反応により、さらに(すなわち、Z基を変えるため)または代替として実現することができることが理解されよう)。
【0037】
本発明の特定の実施形態によれば、-Z-は、式-(CH2)-、-(CHR3)-または-(CH2)2-であり、R3は、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アルキルチオまたはチオール置換基である。本発明の特定の実施形態によれば、-Z-は、式-(CH2)-、-(CHR3)-または-(CH2)2-であり、R3は、C1-6アルキル置換基、またはC1-6アルキルおよび/もしくはハロにより1回または複数回置換されていてもよい、フェニルである。他の実施形態によれば、-Z-は、式-(CH2)-、-(CHR3)-または-(CH2)2-であり、R3は、メチル、またはC1-6アルキルおよび/もしくはハロにより1回または複数回置換されていてもよい、フェニルである。
多くの場合(しかし、式-Z-の置換アルキレンリンカーの入手可能性の本明細書における議論を鑑みる)、-Z-は、非置換である。例えば、-Z-は、式-(CH2)-または-(CH2)2-とすることができ、多くの場合-(CH2)-とすることができる。
【0038】
式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH-Z-Nxである配位子内のNx部分が様々となり得る様々な方法が、上に記載されている。しかし、さらに、W Wuら(Org. Lett., 18, 2938-2941 (2016))は、-Z-が、メチレンであり、Nxが、式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH2の一級アミンを様々な置換クロロメチルオキサゾールと反応させることによる置換オキサゾリルである、このような配位子を構築するさらなる戦略を例示していることが留意され得る。-Z-とNx部分のいずれも、このような合成戦略により様々となり得ることが容易に理解されよう。
【0039】
本明細書における議論から、式(I)の錯体中の窒素含有ヘテロアリール部分-Nxの構造に関して特定の制限はないことが理解されよう。これにも関わらず、-Nxの窒素原子は、第2の電子供与性基により、1回または複数回、置換されていてもよい、ヘテロアリール環内に存在する。特定の実施形態によれば、第2の電子供与性基は、アミノ、C1-6アルキル、C1-6アルキルオキシ、ヒドロキシおよびアミドからなる群から選択される置換基のいずれか1つまたは組合せである。多くの場合、第2の電子供与性基は、アミノおよびC1-6アルキルからなる群から選択されるいずれか1つまたは組合せである。特定の実施形態によれば、第2の電子供与性基は、アミノ、多くの場合、2つのC1-6アルキル置換基(substitutent)(-N(C1-6アルキル)2)により置換されている三級アミノである。通常、三級アミノは、メチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチルおよびtert-ブチルからなる群から選択される、同じC1-6アルキル置換基の2つにより置換されている。多くの場合、三級アミノは、ジメチルアミノである。
【0040】
一部の実施形態によれば、Nxを含むヘテロシクリル環は、ピリジル、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、ピリミジニル、ピロリル、ピロリジニル、ピロリニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノキサリニル、ピリダジニル、トリアゾリル、トリアジニル、イミダゾリジニルまたはオキサジアゾリル環、例えばピリジル、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、ピリミジニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノキサリニル、ピリダジニルもしくはトリアゾリル環;および/または単環式ヘテロアリール環である。特定の実施形態によれば、Nxを含むヘテロシクリル環は、置換されていてもよいピリジル環、例えばピリジル環の窒素原子に隣接する炭素原子に、Zにより置換されているアミノ置換基により1回または複数回置換されていてもよいピリジル環である。通常、Nxは、ピリジル環であって、4位において電子供与性基により置換されており、かつピリジル環の窒素原子に対して隣接する炭素原子においてZにより置換されているピリジル環である。さらにより特定の実施形態によれば、-Nxは、4-ジメチルアミノピリジン-2イルまたは2-ピリジルである。
【0041】
R1、R2および-Nxのうちの少なくとも1つは、それぞれ、第1および/または第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されている。R1およびR2の少なくとも1つが、1つまたは複数の第1の電子供与性基により置換されている場合、-Nxは、非置換であってもよい。-Nxが、1つまたは複数の第2の電子供与性基により置換されている場合、R1および/またはR2は、非置換であってもよい。時として、R1およびR2は、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている。時として、R1およびR2は、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、-Nxは、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されている。
【0042】
式(I)の錯体内の式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH-Z-Nxである三座配位子と同様に、この錯体は、配位子L1~L3をさらに含む。これらは、L1~L3の1つが、二座配位子または三座配位子であるかどうかに応じて、1つ、2つまたは3つの配位子を構成することができ、L1~L3がそれぞれ、単座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を独立して表すことができ、L1~L3の1つが単座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表すことができ、L1~L3の他の2つが一緒になって二座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表し、またはL1~-L3が一緒になって、三座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表すことができる。
【0043】
L1~L3配位子の性質は、本発明にとって特に重要ではない:任意の便利な中性配位子または陰イオン性配位子が使用されてもよく、これらは、単座、二座または三座であってもよく、通常、単座または二座であってもよい。配位子L1~L3は、例えば、一酸化炭素、一酸化窒素、アミン、エーテル、チオエーテル、スルホキシド、ニトリル、例えばアセトニトリル、イソシアニド、例えばメチルイソシアニド、リン(III)またはリン(V)のいずれかに基づくリン含有配位子、および水からなる群から選択される中性配位子、ならびに(ii)ハライド、アルコキシド、カルボン酸、スルホン酸およびリン酸の陰イオン、アミド配位子、チオレート、ホスフィド、シアニド、チオシアネート、イソチオシアネートおよびエノレートイオン、例えばアセチルアセトネートからなる群から選択される陰イオン性配位子、からなる群から選択することができる。L1~L3が一緒になって、三座配位子を表す場合、これは、多くの場合、必ずではないが、中性である。中性三座配位子の一例は、ジグライムである。
本発明の特定の実施形態によれば、L1~L3は、中性単座配位子から選択される3つの配位子を構成する。これらの実施形態および他の実施形態によれば、L1~L3は同じであってもよい。例えば、L1~L3は、3つの一酸化炭素配位子を構成してもよい。
【0044】
式(I)の錯体が荷電錯体である場合、触媒は、錯体の電荷のバランスをとるため、1つまたは複数のさらなる対イオンを含み、すなわち、マンガン中心のMn、および1つまたは複数の配位子L1~L3およびR1(R2)PFc-CH(Me)-NH-Z-Nxにより形成される錯体から生じる電荷である。1つまたは複数の配位子L1~L3と同様に、このようないずれのさらなる対イオンの性質も、本発明の実施に特に重要ではない。対イオンが存在する場合、それらは、例えば、ハライド、テトラアリールボレート、SbF6
-、SbCl6
-、AsF6
-、BF4
-、PF6
-、ClO4
-およびCF3SO3
-からなる群から選択されてもよく、テトラアリールボレート配位子は、[B{3,5-(CF3)2C6H3}4]-、[B{3,5-(CH3)2C6H3}4]-、[B(C6F5)4]-および[B(C6H5)4]-からなる群から選択され、例えば、テトラアリールボレート配位子は、テトラキス(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート(BARF)として公知の[B{3,5-(CF3)2C6H3}4]-である。
【0045】
本発明の特定の実施形態によれば、錯体は、単一正電荷(例えば、マンガン中心から生じたものは、酸化状態(I)のマンガンイオンであり、1つまたは複数の配位子L1~L3は、3つの中性単座配位子、例えば、3つの一酸化炭素配位子である)を有し、触媒は、1つのハライドまたはテトラアリールボレート(tetrarylborate)対陰イオンをさらに含む。このような触媒のさらにより特定の実施形態によれば、対陰イオンは、臭化物またはBARFである。多くの場合、対イオンは、ハライド、通常、臭化物である。
【0046】
認識される通り、式(I)の錯体は、Fc部分に隣接するステレオジェン中心(Fc部分は、式(I)の化合物内に図示されているメチル基を有する)、および式(I)の錯体の残部への1,2-結合に由来する、すなわちFc部分の2つのシクロペンタジエニル環の1つに由来する面キラリティーの両方のために、キラリティーを示す。しかし、やはり暗に示されている通り、水素化によって実現される光学活性なアルコールの鏡像異性体過剰率の制御が望まれない場合、本発明は、式(I)の錯体の任意の立体異性体(例えば、鏡像異性体またはジアステレオマー)の混合物、例えば、これらを含む鏡像異性錯体および触媒のラセミ混合物を含む触媒を使用して操作され得ることが理解されよう。
【0047】
例えば、本発明の特定の実施形態によれば、本触媒は、以下の式:
【化2】
(式中、
tBuは、tert-ブチルである)
の1つを有する。
しかし、これらの触媒は、各鏡像異性体対の等しい混合物、例えば、ラセミ混合物、または式(I)の錯体を含む他の触媒の混合物とすることができる。
【0048】
特定の実施形態では、-Nxは、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、R1およびR2の少なくとも1つは、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている。多くの場合、-Nxは、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、R1およびR2は、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている。当業者は、R1およびR2は、同じ第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている必要はないこと、およびR1およびR2はそれぞれ、第1の電子供与性基の組合せにより1回または複数回、置換されていでもよいことを認識している。同様に、当業者は、-Nxが、第2の電子供与性基の組合せにより1回または複数回、置換されていてもよいことを認識している。
【0049】
通常、本触媒は、以下の式:
【化3】
の1つを有する。
【0050】
上で既に暗に示されている通り、本発明に関連して有用な触媒は、例えば、1つまたは複数の配位子L1~L3を含んでもよいまたは含まなくてもよい適切なマンガン塩と、追加の配位子、例えば式(I)の錯体を含む触媒を形成するのに好適な式R1(R2)PFc-CH(Me)-NH-Z-Nxの配位子とを、本発明の水素化が行われるものと同じ反応容器中で混合することにより調製することができる。代替的に、十分に規定された触媒を、手短にいえば、上記の通り、ex situ調製されてもよい。実験項の参照、および本明細書において引用されているものを含めた当業者が認識している先行技術を含め、本明細書における指針を使用して、このような触媒を調製することは、当業者の能力の範囲内に容易にある。
所望の場合、本明細書における式(I)の触媒を固定化する認識されている方法を使用し、例えば、好適な固体担体への吸着により不均一触媒を生成することができるか、またはこのような担体と反応させて、共有結合した配位子または触媒を形成することができることが、当業者により容易に認識されよう。
【0051】
本発明の方法の特徴は、塩基の使用を含む。多くの場合、塩基は、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムメトキシド、炭酸水素リチウムおよび三級アミンからなる群から選択される。
【0052】
本発明者らは、本明細書に記載されているマンガンをベースとする触媒を使用すると、様々な温度において、および様々な溶媒を用いるケトンの水素化が、非常に強力な塩基(特に、ナトリウムメトキシド、ナトリウムtert-ブトキシドおよびカリウムtert-ブトキシドなどの金属アルコキシド)を使用する必要がなく行うことが可能になることを見出した。本明細書に開示されている水素化法に使用することができる弱塩基(例えば、炭酸カリウム)は、通常、より安価であり、使用がより容易であり、環境に優しい。
【0053】
本発明の一部の実施形態によれば、塩基は、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウムもしくはセシウムの炭酸塩、リン酸塩、水酸化物または炭酸水素塩(すなわち、これらの6種の金属うちのこれら4種の塩の1つ)、またはそれらの混合物からなる群から選択され、例えば、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウムまたはセシウムの炭酸塩、リン酸塩、水酸化物もしくは炭酸水素塩またはそれらの混合物からなる群から選択される。本発明のさらに具体的な実施形態によれば(すなわち第1の態様と第2の態様の両方によれば)、塩基は、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素リチウムからなる群から選択される。
本発明の特定の実施形態によれば、塩基の共役酸は、pKa10.3~14を有する。このようなpKaは、例えば、炭酸水素塩を除外する。
当業者は、炭酸水素金属塩塩基を用いる水素化によるケトンのアルコールへの大きな変換率は、反応プロトコルの型通りの修正により、例えば、このような塩基の濃度、触媒の充填量、水素圧、温度、反応期間、またはこれらの修正の任意の組合せを増大することにより向上することができることを認識している。
【0054】
本発明のさらにより特定の実施形態によれば、塩基は、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウムおよび水酸化カルシウムからなる群から、例えば、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸セシウムからなる群から選択される。
本発明の他の実施形態によれば、水素化のこれらの方法により使用される塩基は、通常、式N(C1-6アルキル)3である第三級アミンとすることができ、この場合、アルキル基はそれぞれ、必ずしもではないが、同じである。使用され得る第三級アミンの例は、トリエチルアミン、N,N-ジメチルアミンおよびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(Hunig塩基としても公知である)を含む。
一部の実施形態によれば、本発明は、(i)リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウムまたはセシウムの炭酸塩、リン酸塩、水酸化物もしくは炭酸水素塩、または例えば、上で定義した式N(C1-6アルキル)3の三級アミンである塩基、(ii)水素ガス、および(iii)本発明の第1の態様および本明細書のいずれかに関連して定義されている式(I)の荷電錯体または中性錯体を含む触媒の存在下で、ケトンを水素化するステップを含む方法を提供する。
【0055】
本発明の特定の実施形態によれば、塩基は、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素リチウムからなる群から選択され、例えば、塩基は、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウムおよび水酸化カルシウムからなる群から選択され、特定の実施形態によれば、塩基は、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸セシウムからなる群から選択される。
本発明の方法は、水素化反応に関して典型的な通り、加圧下の水素ガスの存在下で行われる。一般に、この反応が行われる圧力は、約1bar(100kPa)~約100bar(10,000kPa)、例えば約20bar(2,000kPa)~約80bar(8,000kPa)の範囲にあるが、より高い圧またはより低い圧も、時として、好都合となり得る。
この反応は、この反応の基質(すなわち、ケトン)に好適になり得る、任意の好都合な溶媒中で行うことができる。ある種の実施形態では、溶媒の非存在下で水素化を行うことが好都合なことがある。有機化学における一般に出くわす溶媒のいずれも、潜在的に利用可能である。
【0056】
上で既に暗示されている通り、本発明者らは、その非置換類似体とは対照的に、本明細書に記載されているマンガンをベースとする化合物は、様々な溶媒に容易に溶解し、本発明の化合物を用いて実施する際に、使用する溶媒の選択肢の許容度が一層大きくなる。
【0057】
本発明において使用するための典型的な溶媒には、C1-10ヒドロカルビルアルコール、多くの場合、飽和脂肪族C2-8アルコール、例えば、エタノール、イソプロパノールおよびtert-ブタノールなどの単純アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-プロパンジオールおよびグリセロールなどの多価アルコール;エーテル、例えばテトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、メチルtert-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル;脂肪族および芳香族炭化水素溶媒、例えばC5-12アルカン、ベンゼン、トルエンおよびキシレン、およびハロゲン化(通常、塩素化)炭化水素溶媒、例えばジクロロメタンおよびクロロベンゼンまたはそれらの混合物、特に、アルコール、例えばエタノールまたはイソプロパノールと、ヘキサン、キシレン(すなわち、異性体混合物)またはトルエンなどの炭化水素溶媒との混合物が含まれる。特定の実施形態によれば、メタノールは、本発明において溶媒として使用されない。
しかし、好都合なことに、本発明の水素化反応は、通常、C1-10ヒドロカルビルアルコール単独(すなわち、唯一の溶媒が、アルコールであるか、または他の液体、例えば水が最小限(例えば、5体積%未満、一層、典型的には、2体積%未満)で混入している)中で、特にエタノールまたはイソプロパノール中で行うことができる。したがって、本発明の一部の実施形態によれば、反応溶媒はイソプロパノールである。他の実施形態によれば、溶媒はエタノールである。
【0058】
所与の任意の水素化反応に関する正確な条件は、当業者の通例の能力の範囲内で様々となり得ることが理解されよう。したがって、触媒の濃度および水素圧は、通常、既に議論した範囲内で様々となり得る。使用され得る操作温度は、通常、約-20℃~約200℃、多くの場合、約10℃~約120℃、例えば約30℃~約110℃、通常、約30~約80℃と様々であり、反応期間は、約5分間~約36時間、例えば約1時間~約24時間または約2時間~約18時間と様々となり得る。
使用され得る塩基の好適な量は、当業者により同様に決定することができる。本発明の利点の1つは、多数の塩基のコストが、金属アルコキシドのコストよりもかなり低いことである。別の利点は、本明細書に記載されている塩基の水への感受性がかなり低いことである。したがって、本発明に関連する塩基を多量に使用することは、金属アルコキシドの場合よりも問題が少ない。使用する塩基の好適な量の例は、ケトン反応剤に対して、約0.1mol%~約1000mol%、例えば約1mol%~約100mol%、例えば約2~約50mol%と様々になり得る。しかし、例えば最大で2000mol%またはこれより多い、一層多量の塩基を使用することが時として、好都合または有利なことがある。2種以上の塩基の組合せも使用されてもよい。
【0059】
上記の通り、本発明は、一部、様々な温度で、および様々な溶媒を使用するが、それを行う場合に非常に強力な塩基を使用する必要なしに、ケトンの水素化を行うことができることを前提としている。したがって、本発明による水素化反応に関する基質として働くことができるケトンは、したがって、特に限定されない。しかし、通常、ケトン官能基は、アミノ官能基またはハロ官能基を含んでもよい1つまたは複数のヒドロカルビル部分(誤解を回避するため、本発明の範囲により水素化され得るケトンは、環式ケトン(例えば、シクロヘキサノン)を含む)に結合されている。特定の実施形態によれば、ケトン官能基が結合しているヒドロカルビル部分は、不飽和脂肪族部分を含まないが、それらは、1つまたは複数の飽和脂肪族部分に加えて、芳香族部分または複素芳香族部分を含んでもよい。
【0060】
本発明の特定の実施形態によれば、ケトンはプロキラルである。本発明によりプロキラルなケトンを水素化する場合、光学活性なアルコールが生じる。このようなアルコールの鏡像異性体過剰率は、本明細書において開示されている触媒の非ラセミ形態での使用により制御され得る。本発明の一部の実施形態では、光学活性なアルコールは、約40%~約100%、約50%~約90%、約60%~約90%、約50%~約80%または約60%~約80%となる鏡像異性体過剰率(e.e.)を伴う、本発明の方法によって実現される。通常、鏡像異性体過剰率は、約50~約90%である。
第2の態様から鑑みると、本発明は、第1の態様において定義されている式(I)の荷電錯体または中性錯体を含む触媒であって、-Nxが、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、R1およびR2の少なくとも1つが、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている、触媒を提供する。
第3の態様から鑑みると、本発明は、第1の態様において定義されている式(I)の荷電錯体または中性錯体を含む化合物であって、-Nxが、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、R1およびR2の少なくとも1つが、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている、化合物を提供する。
誤解を回避するため、本発明の第1の態様の式(I)に関連する実施形態は、本発明の第2および第3の態様の式(I)にも関連する。例えば、第2および第3の態様の一部の実施形態では、-Nxは、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されているピリジル環であり、R1およびR2は、それぞれ、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されていてもよいフェニル部分であり、但し、R1およびR2の少なくとも1つは、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されていることを条件とする。
【0061】
本発明の第2および第3の態様の特定の実施形態では、-Nxは、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、R1およびR2は、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている。例えば、-Nxは、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されているピリジル環とすることができ、R1およびR2はそれぞれ、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されているフェニル部分とすることができる。
【0062】
本発明の第2および第3の態様の触媒および化合物のいずれの溶媒和物も、本発明の範囲内に収まる。当業者は、溶媒和物、半溶媒和物、水和物などの形成に好適な方法を認識している。式(I)の触媒および化合物のアモルファス形態および結晶形態も、本発明の範囲以内に収まる。さらに、1種または複数の賦形剤と組み合わせた、溶媒和物でもよい式(I)の触媒および化合物を含む組成物が、本発明の範囲内に収まる。
本明細書において言及されているあらゆる特許および非特許参照文献は、あたかも、参照文献の各々の全内容が、本明細書において説明されているかのごとく、参照により全体として本明細書に組み込まれている。
本発明の態様および実施形態は、以下の項目にさらに記載されている:
【0063】
1.(i)塩基、(ii)水素ガス、および(iii)式(I):
【化4】
(式中、
Mnは、マンガン原子、または酸化状態(I)~(VII)のマンガンイオンであり、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されていてもよいC
4-8単環式アリール部分またはC
3-7単環式ヘテロアリール部分であり、
-Fc-は、2つのシクロペンタジエニル部分の1つの隣接炭素原子を介して共有結合しているフェロセン(ビス(η
5-シクロペンタジエニル)鉄)部分であって、いずれか一方のシクロペンタジエニル環において、ハロ、脂肪族C
1-6ヒドロカルビル、トリハロメチル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アルキルチオ、カルボキシレート、スルホネート、ホスフェート、シアノ、チオ、ホルミル、エステル、アシル、チオアシル、カルバミドおよびスルホンアミドからなる群から選択される置換基により、1回または複数回、さらに置換されていてもよい、フェロセン(ビス(η
5-シクロペンタジエニル)鉄)部分を意味し、
-Z-は、式-(CH
2)
1-6-であるアルキレンリンカーであり、アルキレンの水素原子のうちの1個または複数が、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アルキルチオまたはチオール置換基により独立して置換されていてもよく、
-N
xは、第2の電子供与性基により、1回または複数回、置換されていてもよい窒素含有ヘテロアリール部分であり、但し、R
1、R
2および-N
xのうちの少なくとも1つは、それぞれ、第1および/または第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されていることを条件とし、
L
1~L
3は、1つ、2つまたは3つの配位子を構成し、L
1~L
3のそれぞれが単座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を独立して表すか、またはL
1~L
3のうちの1つが単座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表し、L
1~L
3のうちの他の2つが一緒になって二座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表すか、またはL
1~L
3が一緒になって、三座の中性配位子もしくは陰イオン性配位子を表す)
の荷電錯体または中性錯体を含む触媒の存在下で、ケトンを水素化するステップを含む方法であって、
式(I)の錯体が荷電している場合、触媒が、錯体の電荷のバランスをとる、1つまたは複数のさらなる対イオンを含む、方法。
2.塩基が、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、カリウムtert-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素リチウム、ナトリウムメトキシドおよび三級アミンからなる群から選択される、項目1の方法。
3.塩基の共役酸が、pKa6.3~14を有する、項目1または項目2の方法。
4.塩基が、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化リチウムおよび水酸化カルシウムからなる群から選択される、項目3の方法。
5.塩基が、炭酸カリウム、リン酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸セシウムからなる群から選択される、項目4の方法。
6.Mnが、酸化状態(I)または(II)のマンガンイオンである、項目1~5のいずれか1つの方法。
7.マンガンイオンが、酸化状態(I)にある、項目1~5のいずれか1つの方法。
8.R
1およびR
2が、それぞれ独立して、置換されていてもよいC
4-6単環式アリール部分またはC
3-5単環式ヘテロアリール部分である、項目1~7のいずれか1つの方法。
9.R
1およびR
2がそれぞれ、置換されていてもよいフェニル部分またはフラニル部分である、項目8の方法。
【0064】
10.第1の電子供与性基が、C1-6アルキルおよびC1-6アルコキシからなる群から選択されるいずれか1つまたは組合せである、項目1~9のいずれか1つの方法。
11.C1-6アルキルが、メチル、エチル、イソプロピルおよびtert-ブチルからなる群のいずれか1つから選択される、項目10の方法。
12.C1-6アルコキシが、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシおよびtert-ブトキシからなる群のいずれか1つから選択される、項目10または11の方法。
13.R1およびR2が、同一である、項目1~12のいずれか1つの方法。
14.R1およびR2がどちらも、4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル、4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニルまたはフェニルである、項目1~7のいずれか1つの方法。
15.式(I)の錯体の残部へのフェロセンの結合点に加え、フェロセン部分のシクロペンタジエニル環のどちらか一方の1個または複数の炭素原子が、ハロまたはC1-6アルキル置換基により独立して置換されていてもよい、項目1~14のいずれか1つの方法。
16.フェロセン部分のシクロペンタジエニル環のどちらも、式(I)の錯体の残部とのフェロセンの結合点を介する以外に置換されていない、項目1~15のいずれか1つの方法。
17.-Z-が、式-(CH2)-、-(CHR3)-または-(CH2)2-であり、R3が、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アルキルチオまたはチオール置換基である、項目1~16のいずれか1つの方法。
18.-Z-が、式-(CH2)-、-(CHR3)-または-(CH2)2-であり、R3が、C1-6アルキル置換基、またはC1-6アルキルおよび/もしくはハロにより1回または複数回、置換されていてもよいフェニルである、項目17の方法。
19.-Z-が、式-(CH2)-、-(CHR3)-または-(CH2)2-であり、R3が、メチル、またはC1-6アルキルおよび/もしくはハロにより1回または複数回、置換されていてもよいフェニルである、項目18の方法。
【0065】
20.-Z-が非置換である、項目1~19のいずれか1つの方法。
21.-Z-が、式-(CH2)-または-(CH2)2-である、項目20の方法。
22.-Z-が、式-(CH2)-である、項目21の方法。
23.錯体のR1R2P-Fc-CH(Me)-NH-構成成分が、1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[1-(HN)エチル]フェロセン、1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィノ]-2-[1-(HN)エチル]フェロセンまたは1-[1-(HN)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセンである、項目1~7のいずれか1つの方法。
24.錯体のR1R2P-Fc-CH(Me)-NH-構成成分が、(S)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(R)-1-(HN)エチル]フェロセン、(R)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(S)-1-(HN)エチル]フェロセンまたはそれらの混合物;(S)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(R)-1-(HN)エチル]フェロセン、(R)-1-[ビス(4-メトキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフィノ]-2-[(S)-1-(HN)エチル]フェロセンまたはそれらの混合物;(S)-1-[(R)-1-(HN)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、(R)-1-[(S)-1-(HN)エチル]-2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセンまたはそれらの混合物である、項目23の方法。
25.第2の電子供与性基が、アミノ、C1-6アルキル、C1-6アルキルオキシ、ヒドロキシおよびアミドからなる群から選択されるいずれか1つまたは組合せである、項目1~24のいずれか1つの方法。
26.第2の電子供与性基が、アミノおよびC1-6アルキルからなる群から選択されるいずれか1つまたは組合せである、項目25の方法。
27.第2の電子供与性基がアミノである、項目26の方法。
28.アミノが、2つのC1-6アルキル置換基により置換されている三級アミノである、項目27の方法。
29.2つのC1-6アルキル置換基が、同一であり、メチル、エチル、プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチルおよびtert-ブチルからなる群から選択される、項目28の方法。
【0066】
30.-Nxが、置換されていてもよいピリジル、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、ピリミジニル、ピロリル、ピロリジニル、ピロリニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノキサリニル、ピリダジニル、トリアゾリル、トリアジニル、イミダゾリジニルまたはオキサジアゾリル環である、項目1~29のいずれか1つの方法。
31.-Nxが、置換されていてもよいピリジル、インドリル、キノリニル、イソキノリニル、ピリミジニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノキサリニル、ピリダジニルまたはトリアゾリル環である、項目30の方法。
32.-Nxが、置換されていてもよい単環式ヘテロアリール環である、項目31の方法。
33.-Nxが、置換されていてもよいピリジル環である、項目1~32のいずれか1つの方法。
34.-Nxが、4位において三級アミノにより置換されていてもよいピリジル環である、項目33の方法。
35.-Nxが、4-ジメチルアミノピリジル環またはピリジル環であり、これらの環が、ピリジル環の環窒素原子に隣接する炭素原子において、Zにより置換されている、項目34の方法。
36.-Nxが、4-ジメチルアミノピリジン-2-イルまたは2-ピリジルである、項目35の方法。
37.1つ、2つまたは3つの配位子L1~L3のそれぞれが、(i)一酸化炭素、一酸化窒素、アミン、エーテル、チオエーテル、スルホキシド、ニトリル(RCN)、イソシアニド(RNC)、リン(III)またはリン(V)のいずれかをベースとするリン含有配位子、および水からなる群から選択される中性配位子、ならびに(ii)ハライド、アルコキシド、カルボン酸、スルホン酸およびリン酸の陰イオン、アミド配位子、チオレート、ホスフィド、シアニド、チオシアネート、イソチオシアネートおよびエノレートイオンからなる群から選択される陰イオン性配位子、からなる群から選択される、項目1~36のいずれか1つの方法。
38.L1~L3が、中性単座配位子から選択される3つの配位子を構成する、項目37の方法。
39.L1~L3のそれぞれが同一である、項目38の方法。
【0067】
40.L
1~L
3のそれぞれが一酸化炭素である、項目39の方法。
41.触媒が、1つまたは複数のさらなる対イオンを含む場合、これらが、ハライド、テトラアリールボレート、SbF
6
-、SbCl
6
-、AsF
6
-、BF
4
-、PF
6
-、ClO
4
-およびCF
3SO
3
-からなる群から選択される、項目1~40のいずれか1つの方法。
42.さらなる対イオンが、ハライド、SbF
6
-、SbCl
6
-、AsF
6
-、BF
4
-、PF
6
-、ClO
4
-、CF
3SO
3
-、[B{3,5-(CF
3)
2C
6H
3}
4]
-、[B{3,5-(CH
3)
2C
6H
3}
4]
-、[B(C
6F
5)
4]
-および[B(C
6H
5)
4]
-からなる群から選択される、項目41の方法。
43.錯体が、単一の正電荷を有しており、触媒が、1つのハライドまたはテトラアリールボレート対陰イオンをさらに含む、項目42の方法。
44.対陰イオンが、臭化物または[B{3,5-(CF
3)
2C
6H
3}
4]
-である、項目43の方法。
45.対イオンがハライドである、項目41~44のいずれか1つの方法。
46.触媒が、以下の式:
【化5】
またはそれらの混合物;
【化6】
またはそれらの混合物;
【化7】
またはそれらの混合物;
【化8】
またはそれらの混合物;
のいずれか1つを有する、項目1~5のいずれか1つの方法。
47.-N
xが、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、R
1およびR
2の少なくとも1つが、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている、項目1~46のいずれか1つの方法。
48.-N
xが、第2の電子供与性基により1回または複数回、置換されており、R
1およびR
2が、第1の電子供与性基により1回または複数回、置換されている、項目1~47のいずれか1つの方法。
49.触媒が、以下の式;
【化9】
またはそれらの混合物のいずれか1つを有する、項目1~5のいずれか1つの方法。
【0068】
50.混合物がラセミ混合物である、項目46または項目49の方法。
51.ケトンがプロキラルである、項目1~50のいずれか1つの方法。
52.光学活性なアルコールが、水素化により約40%~約100%、約50%~約90%、約60%~約90%、約50%~約80%または約60%~約80%となる鏡像異性体過剰率で得られる、項目51の方法。
53.鏡像異性体過剰率が約50~約90%である、項目52の方法。
54.項目47~50のいずれか1つにおいて定義されている式(I)の荷電錯体または中性錯体を含む触媒。
54.項目47~50のいずれか1つにおいて定義されている式(I)の荷電錯体または中性錯体を含む化合物。
【実施例】
【0069】
以下の非限定例は、本発明の実施形態をさらに十分に例示する。
【0070】
(R
c,S
p)-N-2-ピコリニル(picolinyl)-1-[2-ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)-ホスフィン]-フェロセニルエチルアミン(1)の合成
【化10】
(R
c,S
p)-N,N-ジメチル-1-[2-ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィン]-フェロセニルエチルアミン(1.0g、1.79mmol、1.0当量)を脱気した無水酢酸(5mL)に加え、室温で16時間、撹拌した。トルエンを使用して、この揮発物を真空で除去し、残留無水酢酸を共沸除去した。粗製物質を脱気した乾燥メタノール(10mL)に溶解し、2-アミノメチルピリジン(0.37mL、3.59mmol、2.0当量)を加えた。この混合物を4時間、還流し、次に、室温まで冷却して揮発物を真空で除去した。この粗製物質を脱気したジクロロメタン(10mL)および脱気した水性飽和炭酸水素ナトリウム(10mL)に加えた。硫酸マグネシウムを含有するSchlenkフラスコに有機層をカニューレで移送した。水層をジクロロメタン(10mL)により2回、抽出し、各層を上記の通り、同じSchlenkフラスコにカニューレで移送した。合わせた乾燥有機層を、フィルター紙を装備したカニューレを使用して丸底フラスコにろ過し、蒸発乾固させた。ジクロロメタン/メタノール(9/1)を使用して、粗製物質をカラムクロマトグラフィーによって精製すると、目的化合物が黄色泡状物(0.84g、1.35mmol、76%)として得られた。
1H-NMR (CDCl
3) δ: 8.38 (1H, br d, J = 4.8 Hz, C
ArH), 7.40 (1H, t, J = 7.8 Hz, C
ArH), 7.22 (1H, s, C
ArH), 7.21 (1H, s, C
ArH), 7.02 (1H, t, J = 6.7 Hz, C
ArH), 6.92 (1H, s, C
ArH), 6.90 (1H, s, C
ArH), 6.59 (1H, d, J = 7.8 Hz, C
ArH), 4.54 (1H, m, Fc-H), 4.32 (1H, m, Fc-H), 4.23 (1H, m, -CH-), 4.06 (5H, s, Fc-H), 3.83 (1H, s, Fc-H), 3.77 (3H, m, -OCH
3), 3.62 (2H, br s, PyCH
2N-), 3.57 (3H, s, -OCH
3), 2.31 (6H, s, -CH
3), 2.09 (6H, s, -CH
3), 1.58 (3H, br s, CHCH
3, 水ピークと重複);
31P{
1H}-NMR (CDCl
3) δ: -27.3 ppm;
HRMS: (ES+) [C
36H
42FeN
2O
2P]
+の計算値621.2328; 実測値621.2316;
【0071】
[(R
c,S
p)-N-2-ピコリニル-1-(2-ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)-ホスフィノ)フェロセニルエチルアミン]-κN
1-κN
2-κP-トリカルボニルマンガン(I)ブロミド(2)の合成
【化11】
【0072】
アルゴン雰囲気下、室温で、(Rc,Sp)-N-2-ピコリニル-1-(2-ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィン)-フェロセニルエチルアミン(205mg、0.33mmol、1.02当量)およびブロモペンタカルボニルマンガン(I)(89mg、0.32mmol、1.0当量)を脱気したシクロヘキサン(10mL)中で撹拌した。この混合物を16時間、還流し、この時間にオレンジ色のスラリーが形成した。この混合物を室温まで冷却し、nペンタン(20mL)で希釈してろ過し、nペンタン(2×20mL)により洗浄して乾燥すると、表題化合物が黄色固体として得られた(200mg、0.26mmol、82%)。分析によりシクロヘキサンの存在が示された。
1H-NMR (DCM-d2) δ: 8.60 (1H, br d, J = 4.8 Hz, CArH), 7.65 (1H, s, CArH), 7.62 (1H, s, CArH), 7.33 (1H, t, J = 6.9 Hz, CArH), 6.79 (2H, m, CArH), 6.29 (1H, s, CArH), 6.28 (1H, s, CArH), 5.58 (1H, m, -CH-), 4.87 (1H, s, NH), 4.62 (1H, s, Fc-H), 4.48 (1H, s, Fc-H), 4.35 (1H, s, Fc-H), 4.11 (1H, m, PyCH2NH-), 3.85 (5H, s, Fc-H), 3.81 (3H, s, -OCH3), 3.68 (1H, m, PyCH2NH), 3.54 (3H, s, -OCH3), 2.40 (6H, s, -CH3), 1.96 (6H, s, -CH3), 1.70 (3H, br d, J = 7.0 Hz, CHCH3), 1.44 (シクロヘキサン);
13C{1H}-NMR (CDCl3) δ: 159.71 (CAr), 158.96 (CAr), 156.65 (CAr), 152.87 (CAr), 135.80 (CAr), 135.02 (CAr), 134.91 (d, JPC = 11.3 Hz, CAr), 134.20 (CAr), 133.82 (CAr), 131.26 (CAr), 130.93 (d, JPC = 10.2 Hz, CAr), 130.33 (d, JPC = 11.3 Hz, CAr), 129.93 (d, JPC = 10.1 Hz, CAr), 122.31 (CAr), 119.16 (CAr), 91.40 (d, JPC = 19.3 Hz, Fc-Cipso-P), 73.27 (d, JPC = 28.9 Hz, CFc), 72.84 (CFc), 70.58 (CFc), 69.84 (CFc), 59.70 (OCH3), 59.32 (OCH3), 56.48 (Fc-CH(CH3)-N), 59.27 (CFc), 48.66 (PyCH2), 26.93 (シクロヘキサン), 20.43 (Fc-CH(CH3)-N), 16.14 (Ar-CH3), 15.54 (Ar-CH3);
31P-{1H}-NMR (DCM-d2) δ: +86.8 (s);
IR (ATR): 2927.9 (w), 1924.9 (s), 1845.9 (s), 1473.6 (m), 1217.1 (w), 1111.0 (m), 1008.8 (m), 771.5 (w), 615.3 (m) cm-;
HRMS: (ES+): 予想値[C39H41FeMnN2O3P]+: 759.1478, 実測値: 759.1462;
【0073】
ケトン水素化における2の使用
一般的なケトンの水素化手順
ケトン(1.0当量)、マンガン触媒(0.001当量)、炭酸カリウム(0.05当量)および1-メチルナフタレン(約50μL、内部標準)を、撹拌用ビーズを含むマイクロ波用バイアルに加えた。このバイアルを密封して、排気し、アルゴンを再充填した。これを2回、繰り返した。脱気エタノール(3.0mL)を加え、バイアルのセプタムに、2x18Gニードルで穴をあけて、アルゴン雰囲気下、ステンレス鋼製オートクレーブに入れた。この容器に水素ガス(50bar)を加圧し、大気に排気した。これを2回、繰り返した。水素ガスを使用して圧力を50barに設定し、オートクレーブを密封して、予め加熱した油浴(50℃)に入れた。撹拌を1200rpmに設定し、この反応を16時間、置いた。反応後、この容器を周囲温度まで冷却し、大気に排気し、この反応物を1H-NMRにより分析して、内部標準(1-メチルナフタレン)を使用して変換率を推定した。この反応混合物を蒸発乾固させて、粗生成物を以下に詳述されているカラムクロマトグラフィーによって精製した。
【0074】
1-フェニル-1-プロパノール
生成物は、最初にヘキサン、およびヘキサン/酢酸エチル(1/1)を使用するカラムクロマトグラフィーによって精製すると、生成物が淡黄色油状物として得られた。281mg(2.095mmol)のプロピオフェノンを使用して、250mg(1.84mmol)の表題化合物が単離された(88%収率);
1H-NMR (CDCl3) δ: 7.40-7.28 (5H, m, Ph-H), 4.62 (1H, t, J = 6.7 Hz, Ph-CH(OH)-), 1.81 (2H, m, -CH
2CH3), 0.95 (3H, t, J = 6.1 Hz, -CH
3);
13C -{1H}-NMR (DEPT) (CDCl3) δ: 144.59 ((C
Ar-CH(OH)), 128.42 (CAr), 127.52 (CAr), 125.99 (CAr), 76.05 (-CH(OH)-), 31.91 (-CH2), 10.18 (-CH3);
HRMS (EI+): [C10H12O]の計算値: 136.0888 実測値: 136.0881;
キラル分析は、nヘキサン/イソプロパノール(95/5)の移動相、流速1.0mL/分を使用して、Chiralcel OD-Hカラムを使用して行った:ee:76%(S)
【0075】
(S)-1-(2,6-ジクロロ-3-フルオロフェニル)エタノール
生成物を100%ヘキサン、次いでジクロロメタン/メタノール(95/5)を使用するカラムクロマトグラフィーによって精製すると、生成物が無色油状物として得られた。300mgの2’,6’-ジクロロ-3’-フルオロアセトフェノン(1.45mmol)から、242mgの生成物(1.16mmol)(80%)が得られた。
1H-NMR (CDCl3) δ: 7.29 (1H, m, Ar-H), 7.05 (1H, t, J = 7.9 Hz, Ar-H), 5.60 (1H, q, J = 6.4 Hz, Ar-CH(OH)-CH3), 1.67 (3H, d, J = 6.4 Hz, Ar-CH(OH)-CH
3);
13C -{1H}-NMR (DEPT, CDCl3) δ: 158.27 (Ar-C), 156.29 (Ar-C), 140.51 (Ar-C), 129.16 ((CH(OH)-CAr), 115.78 (Ar-C), 115.60 (Ar-C), 68.44 (-CH(OH)-), 21.38 (-CH3);
HRMS (EI+): [C8H7Cl2FO]の計算値: 207.9858 (100%) / 209.9828; 実測値: 207.9868 / 209.9845;
キラル分析は、n-ヘキサン/イソプロパノール(98/2)の移動相を使用し、流速0.5mL/分で、Chiralpak OD-Hカラムを使用して行った。tR(S、主要体):17.4分;tR(R、少量体):18.2分、ee=82(S)%
【0076】
(S)-1-(4-クロロフェニル)-1-プロパノール
生成物を100%ヘキサン、次いでヘキサン/酢酸エチル(1/1)を使用するカラムクロマトグラフィーによって精製すると、生成物が無色油状物として得られた。275mgの4’-クロロプロピオフェノン(1.30mmol、1当量)から、220mgの生成物(1.34mmol、79%)が得られた。
1H-NMR (CDCl3) δ: 7.36-7.28 (4H, m, CAr
H), 4.61 (1H, t, J = 6.9 Hz, Ar-CH(OH)CH2CH3), 1.78 (2H, m, Ar-CH(OH)CH
2CH
3), 0.98 (3H, t, J = 7.8 Hz, -CH
3);
13C -{1H}-NMR (DEPT, CDCl3) δ: 143.00 (Cl-CAr), 133.09 (CAr), 128.52 (CAr), 127.36 (CAr), 75.10 (-CH(OH)-), 31.97 (-CH2-), 10.00 (-CH3);
キラル分析は、n-ヘキサン/イソプロパノール(99/1)移動相を使用し、流速1.0mL/分で、Chiralpak OD-Hカラムを使用して行った:ee=80%(S)
【0077】
1-(4-メトキシフェニル)-1-プロパノール
生成物は、最初にヘキサン、次に塩化メチレン/メタノール(95/5)を移動相として使用するカラムクロマトグラフィーによって精製すると、生成物が油状物として得られた。NMR分析により、変換率は、生成物に96%となることが示された。262mg(1.70mmol)の4’-メトキシプロピオフェノンを使用して、190mg(1.21mmol)の生成物が単離された(71%収率);
1H-NMR (CDCl3) δ: 7.29 (2H, d, J = 8.6 Hz, CArH), 6.91 (2H, d, J = 8.6 Hz, CArH), 4.57 (1H, t, J = 6.7 Hz, Ar-CH(OH)-CH3), 3.83 (3H, s, -OCH
3), 1.95-1.39 (2H, m, -CH
2-), 0.92 (3H, t, J = 7.4 Hz, Ar-CH(OH)CH2CH
3);
13C -{1H}-NMR (DEPT, CDCl3) δ: 159.00 (MeO-CAr), 136.75 ((CH(OH)-CAr), 127.22 (CAr), 113.78 (CAr), 75.69 (-OCH3) 55.30 (-CH(OH)-), 31.79 (-CH2-), 10.25 (-CH3);
HRMS (EI+): [C10H14O2]の計算値: 166.0990 (100%); 実測値: 166.0994 (100%);
キラル分析は、nヘキサン/イソプロパノール(96/4)移動相を使用し、流速1.0mL/分で、Chiralpak OD-Hカラムを使用して行った:ee=70%(S)
【0078】
2-メチル-1-フェニル-1-プロパノール
生成物は、最初にヘキサン、次に塩化メチレン/メタノール(95/5)を使用するカラムクロマトグラフィーによって精製すると、生成物が淡黄色油状物として得られた。250mg(1.69mmol)のイソブチロフェノンを使用して、228mg(1.52mmol)の表題化合物が単離された(90%収率);
1H-NMR (CDCl3) δ: 7.38-7.28 (5H, m, Ph-H), 4.38 (1H, d, J = 7.6 Hz, Ph-CH(OH)-), 2.24 (2H, m, -CH-(CH3)2および-OH), 1.92 (1H, m, -CH-(CH
2)4-), 1.03 (3H, d, J = 6.7 Hz, -CH-(CH
3)2), 0.82 (3H, d, J = 6.7 Hz, -CH-(CH
3)2);
13C -{1H}-NMR (CDCl3) δ: 143.65 ((C
Ar-CH(OH)), 128.19 (Ar-C), 127.42 (Ar-C), 126.59 (Ar-C), 80.05 (-CH(OH)-), 35.27 (-CH(CH3)2), 19.02 (-CH(CH3)2), 18.29 (-CH(CH3)2);
HRMS (EI+): [C10H14O]の計算値: 150.105 実測値: 150.104;
キラル分析は、nヘキサン/イソプロパノール(98/2)移動相を使用し、流速0.5mL/分で、Chiralcel OD-Hカラムを使用して行った。tR(S、少量体):25.0分;tR(R、主要体):29.8分、ee:90%(S)
【0079】
(R
c,S
p)-1-(2-ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィン)-フェロセニルエチルアミンL-酒石酸塩(3)の合成
【化12】
(R
c,S
p)-N,N-ジメチル-1-(2-ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィン)-フェロセニルエチルアミン(6.3g、11.3mmol)を脱気した無水酢酸(30mL)中、室温で、または16時間、撹拌した。揮発物を蒸発によって除去し、粗製アセテートをメタノール(60mL)およびTHF(60mL)の脱気した混合物に溶解した。水性水酸化アンモニウム(30質量%、60mL)を加え、この混合物を2時間、60℃まで加熱し、次に、室温まで冷却し、すべての揮発物を真空で除去した。この粗製混合物を脱気した飽和水性炭酸水素ナトリウム(60mL)により処理し、脱気したジクロロメタン(3x60mL)により抽出した。アルゴン雰囲気下、有機抽出物を、硫酸マグネシウムを含有するSchlenkフラスコにカニューレで移送した。合わせた抽出物を、フィルター紙を装備したカニューレを使用してフラスコにろ過し、溶媒を除去した。粗製物質を脱気したエタノール(60mL)に溶解し、L-酒石酸(1.44g、9.6mmol、0.85当量)を加えた。この混合物をアルゴン雰囲気下で加熱して還流し、体積が半分になるまで蒸留し、室温まで冷却して、ジエチルエーテル(200mL)を添加することにより、生成物塩を沈殿させた。ろ過により単離し、ジエチルエーテルで洗浄すると、表題化合物が黄色固体として得られた(6.0g、8.8mmol、78%の収率)。
1H-NMR (MeOD) δ: 7.29 (1H, s, C
ArH), 7.27 (1H, s, C
ArH), 6.87 (1H, s, C
ArH), 6.86 (1H, s, C
ArH), 4.97 (7H, br s, H2O, -OH, -NH
2, CO
2H), 4.69 (1H, s, Fc-H), 4.56 (2H, br s, -C
H-およびFc-H), 4.43 (2H, m, HO
2C(C
H)
2CO
2H), 4.12 (1H, m, Fc-H), 4.05 (5H, s, Fc-H), 3.77 (3H, s, -OCH
3), 3.71 (3H, s, -OCH
3), 2.32 (6H, s, -CH
3), 2.20 (6H, s, -CH
3), 1.79 (3H, br d, J = 8.1 Hz, CHCH
3);
13C{
1H}-NMR (CDCl
3) δ: 158.33 (s, C
Ar), 157.40 (s, C
Ar), 135.41 (s, C
Ar), 135.23 (s, C
Ar), 134.06 (d, J
PC = 5.9 Hz, C
Ar), 132.68 (s, C
Ar), 132.53 (s, C
Ar), 131.46 (d, J
PC = 5.8 Hz, C
Ar), 131.02 (d, J
PC = 7.3 Hz, C
Ar), 130.07 (d, J
PC = 9.7 Hz, C
Ar), 91.02 (d, J
PC = 26.8 Hz, Fc-C
ipso-P), 76.3 (d, J
PC = 11.3 Hz, C
Fc), 72.80 (C
Fc), 72.37 (HO
2C(
CHOH)
2CO2H), 70.05 (C
Fc), 69.77 (C
Fc), 69.19 (C
Fc), 58.83 (-OCH
3), 57.83 (-OCH
3), 46.30 (d, J
PC = 9.7 Hz, Fc-
CH(CH
3)-N), 19.15 (Fc-CH(
CH
3)-N), 14.88 (Ar-
CH
3);
31P{
1H}-NMR (CDCl
3) δ: -28.7 (s);
IR (ATR, cm
-1): 2927.9 (m), 2358.9 (w), 2160.3 (m), 2019.5 (w), 1473.6 (m), 1273.0 (m), 1217.1 (s), 1109.1 (s), 1072.4 (s), 1010.7 (s), 817.8 (m), 678.9 (m), 607.6 (m);
HRMS: (ES+) [C
30H
37FeNO
2P]
+の計算値530.1906; 実測値530.1890;
【0080】
4-(ジメチルアミノ)ピリジン-2-カルボキシアルデヒド(4)の合成
【化13】
2-ジメチルアミノエタノール(1.7mL、17.0mmol、2.1当量)を
nヘキサン(20mL)に溶解し、不活性雰囲気下で-10℃に冷却した。この冷却溶液に、N-ブチルリチウム(1.6M、20mL、32mmol、3.9当量)をゆっくりと加えた。生成した濁りのない無色溶液を-10℃で30分間、撹拌し、次に、4-ジメチルアミノピリジン(1.0g、8.2mmol、1.0当量)を固体として加えた。この黄色スラリーを-10℃で2時間、撹拌し、次に、-78℃まで冷却し、THF(15mL)中のジメチルホルムアミド(1mL、12.9mmol、1.6当量)を加えた。1時間後、1M水性塩酸(50mL)を加え、この混合物を室温まで温め、層を分離した。水層は、pH1を有することが分かり、ジエチルエーテル(3x50mL)により抽出した。有機抽出物を廃棄した。固体炭酸水素ナトリウムを使用して、pHを7に調節し、この混合物を再度、ジエチルエーテル(3x50mL)により抽出した。合わせた有機層を硫酸マグネシウムにより脱水し、ろ過して濃縮乾固すると、表題化合物が淡褐色油状物(0.65g、4.3mmol、53%)として得られた。
1H-NMR (CDCl
3) δ: 10.01 (1H, s, -C
HO), 8.40 (1H, d, J = 6.0 Hz, C
ArH), 7.20 (1H, d, J = 2.8 Hz, C
ArH), 6.68 (1H, dd, J = 6.0 / 2.8 Hz, C
ArH), 6.10 (1H, d, J = 2.1 Hz, C
ArH), 3.09 (6H, s, -N(C
H
3)
2);
13C-{
1H}-NMR (CDCl
3) δ: 194.59 (-
CHO), 154.70 (C
Ar), 152.95 (C
Ar), 150.05 (C
Ar), 109.87 (C
Ar), 104.37 (C
Ar), 39.24 (-N(
CH
3)
2).
【0081】
(R
c,S
p)-N-[4-(ジメチルアミノ)ピリジン-2-メチル]-1-(2-ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィン)フェロセニルエチルアミンL-酒石酸塩(5)の合成
【化14】
(R
c,S
p)-1-(2-ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィン)フェロセニルエチルアミン(2.1g、4.0mmol、1.0当量)を4-(ジメチルアミノ)ピリジン-2-カルボキシアルデヒド(0.60g、4.0mmol、1.0当量)により処理し、脱気した乾燥メタノール(20mL)中、室温で2時間、撹拌した。水素化ホウ素ナトリウム(303mg、8.0mmol、2.0当量)を加え、得られた混合物を不活性雰囲気下、室温でさらに2時間、撹拌した。揮発物を真空で除去し、粗製物質を飽和水性炭酸水素ナトリウム(20mL)に加え、ジクロロメタン(3x20mL)により抽出した。硫酸マグネシウムを含有するSchlenkフラスコに抽出物をカニューレで移送した。フィルター紙を備えるカニューレを使用して乾燥した合わせた有機抽出物をろ過し、濃縮すると、(R
c,S
p)-N-[4-(ジメチルアミノ)ピリジン-2-メチル]-1-(2-ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィン)-フェロセニルエチルアミンがオレンジ色発泡体として得られた(2.6g、3.92mmol、98%)。先に記載した通り(化合物3の合成を参照されたい)、200mg(0.30mmol、1.0当量)をイソプロパノール(5mL)中、45mg(0.30mmol、1.0当量)のL-酒石酸により処理すると、表題化合物が黄色固体として得られた(147mg、0.18mmol、60%)。
【0082】
1H-NMR (MeOD) δ: 7.81 (1H, br s, Py-H), 7.25 (1H, s, CArH), 7.23 (1H, s, CArH), 6.91 (1H, s, CArH), 6.90 (1H, s, CArH), 6.77 (1H, br s, Py-H), 6.36 (1H, br s, Py-H), 4.94 (12H, br s, H2O, -OH, -NH2, CO2H), 4.64 (1H, s, Fc-H), 4.48 (3H, br s, HO2C(CH)2CO2HおよびFc-H), 4.43 (1H, br s,-CH(CH3)-), 4.04 (5H, s, Fc-H), 4.02 (1H, s, Fc-H), 3.76 (3H, -OCH3), 3.61 (3H, s, -OCH3), 3.53 (2H, m, -CH2Py), 3.13 (6H, s, -N(CH
3)2), 2.30 (6H, s, -CH3), 2.09 (6H, s, -CH3), 1.79 (3H, br d, J = 7.5 Hz, CHCH
3);
13C{1H}-NMR (MeOD) δ: 158.09 (s, CAr), 157.24 (s, CAr), 151.59 (s, CAr), 139.09 (s, CAr), 135.25 (s, CAr), 135.08 (s, CAr), 134.75 (d, JPC = 8.6 Hz, CAr), 133.0 (s, CAr), 132.84 (s, CAr), 131.30 (d, JPC = 6.6 Hz, CAr), 130.81 (d, JPC = 6.6 Hz, CAr), 130.49 (d, JPC = 8.6 Hz, CAr), 105.83 (CAr), 103.75 (s, CAr), 94.64 (d, JPC = 26.4 Hz, Fc-Cipso-P), 76.06 (d, JPC = 8.2 Hz, CFc), 72.72 (HO2C(CHOH)2CO2H), 71.57 (CFc), 69.53 (CFc), 69.24 (CFc), 69.19 (CFc), 58.83 (-OCH3), 57.83 (-OCH3), 51.74 (d, JPC = 10.4 Hz, Fc-CH(CH3)-N), 45.79 (s, -CH2Py), 38.67 (s, -N(CH3)2), 17.70 (Fc-CH(CH3)-N), 14.78 (Ar-CH3);
31P-{1H}-NMR (CDCl3) δ: -28.4 (s);
IR (ATR): 2922.2 (w), 2358.9 (w), 1639.5 (m), 1556.6 (m), 1473.6 (w), 1273.0 (w), 1217.1 (s), 1111.0 (s), 1006.8 (s), 817.8 (m), 609.5 (m) cm-1;
HRMS: (ES+) [C38H47FeN3O2P]+の計算値664.2750; 実測値664.2733
【0083】
[(R
c,S
p)-N-(4-(ジメチルアミノ)ピリジン-2-メチル)-1-(-2-ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ)フェロセニルエチルアミン]-κN
1-κN
2-κP-トリカルボニルマンガン(I)ブロミド(6)の合成
【化15】
アルゴン雰囲気下、室温で、(R
c,S
p)-N-(4-ジメチルアミノピリジン-2-メチル)-1-(2-ビス(4-メトキシ-3,5-ジメチル-フェニル)ホスフィン)フェロセニルエチルアミン(2.4g、3.62mmol、1.02当量)およびブロモペンタカルボニルマンガン(I)(975mg、3.55mmol、1.0当量)を脱気したシクロヘキサン(50mL)中で撹拌した。この混合物を16時間、還流し、この時間にオレンジ色のスラリーが形成した。この混合物を室温まで冷却し、
nヘキサン(40mL)により希釈してろ過し、
nヘキサン(20mL)により洗浄した。粗製物質をジクロロメタン(10mL)に溶解し、ろ過した。
nヘキサン(30mL)を加え、生成物が沈殿するまで、得られた混合物をゆっくりと蒸発させた。この生成物をろ過して、
nヘキサンにより洗浄して乾燥すると、表題化合物が黄色固体として得られた(2.87g、3.27mmol、92%)。分析により、分離することができない2つの化学種が示された。
【0084】
1H-NMR (DCM-d2) δ(主成分): 8.04 (1H, br d, J = 7.5 Hz, CArH), 7.65 (1H, s, CArH), 7.63 (1H, s, CArH), 6.33 (1H, CArH 副成分と重複), 6.01 (2H, s, CAr, 副成分と重複), 5.58 (1H, d, J = 6.9 Hz, -CH-, 副成分と重複), 4.84 (1H, s, NH), 4.60 (1H, s, Fc-H), 4.45 (1H, s, Fc-H), 4.33 (1H, s, Fc-H), 3.95 (1H, m, PyCH2NH-, 副成分と重複), 3.84 (5H, s, Fc-H, 副成分と重複), 3.80 (3H, s, -OCH3, 副成分と重複), 3.58 (1H, m, PyCH2NH, 副成分と重複), 3.52 (3H, s, -OCH3), 2.86 (6H, s, -N(CH3)2, 副成分と重複) 2.39 (6H, s, -CH3), 1.98 (6H, s, -CH3, 副成分と重複), 1.68 (3H, br d, J = 6.9 Hz, CHCH
3, 副成分と重複); δ(副成分): 7.69 (1H, s, CArH), 7.67 (1H, s, CArH), 7.37 (1H, br d, J = 6.2 Hz, CArH) 6.33 (1H, CArH 主成分と重複), 6.01 (2H, s, CAr, 主成分と重複), 5.95 (1H, s, CArH), 5.58 (1H, d, J = 6.9 Hz, -CH-, 主成分と重複), 4.93 (1H, s, NH), 4.69 (1H, s, Fc-H), 4.57 (1H, s, Fc-H), 3.95 (1H, m, PyCH2NH-, 主成分と重複), 3.84 (5H, s, Fc-H, 主成分と重複), 3.80 (3H, s, -OCH3, 主成分と重複), 3.58 (4H, m, PyCH2NHおよび-OCH3, 主成分と重複), 2.86 (6H, s, -N(CH3)2, 主成分と重複) 2.43 (6H, s, -CH3), 1.98 (6H, s, -CH3, 主成分と重複), 1.68 (3H, br d, J = 6.9 Hz, CHCH
3, 主成分と重複);
13C{1H}-NMR (DCM-d2) δ(主成分): 231.84 (d, JPC = 22 Hz, CO), 230.02 (d, JPC = 23.5 Hz, CO), 158.37 (CAr), 153.95 (CAr), 151.64 (CAr), 150.48 (CAr), 140.70 (d, JPC = 34 Hz, CAr), 136.85 (CAr), 136.43 (CAr), 134.25 (d, JPC = 10.0 Hz, CAr), 130.61 (d, JPC = 8.6 Hz, CAr), 130.27 (CAr), 127.80 (CAr), 127.48 (d, JPC = 10.1 Hz, CAr), 106.90 (CAr), 101.93 (CAr), 91.87 (d, JPC = 18.6 Hz, Fc-Cipso-P), 72.70 (CFc), 70.66 (CFc), 56.69 (Py-CH2-N), 48.73 (Fc-CH(CH3)-N), 39.22 (-N(CH3)2), 20.58 (Fc-CH(CH3)-N); δ (副成分): 159.82 (CAr), 154.31 (CAr), 150.48 (CAr), 134.51 (d, JPC = 10.6 Hz, CAr), 131.47 (CAr), 131.16 (CAr), 128.83 (CAr), 128.10 (d, JPC = 8.6 Hz, CAr), 127.68 (CAr), 107.84 (CAr), 102.96 (CAr), 92.51 (d, JPC = 23.1 Hz, Fc-Cipso-P), 73.21 (CFc), 71.42 (CFc), 70.94 (CFc), 70.07 (CFc), 58.04 (Py-CH2-N), 49.79 (Fc-CH(CH3)-N), 39.37 (-N(CH3)2), 19.64 (Fc-CH(CH3)-N);
31P-{1H}-NMR (DCM-d2) δ: +89.1 (s, 主成分), 43.6 (br s, 副成分);
IR (ATR): 2953.0 (w), 2918.3 (w), 2895.2 (w), 2025.3 (s), 1942.3 (m), 1909.5 (s), 1830.5 (s), 1616.4 (s), 1473.6 (m), 1276.9 (m), 1219.0 (m), 1111.0 (s), 1008.8 (s), 839.0 (s), 617.2 (s) cm-1;
HRMS: (ESI陽イオン): 予想値[C41H46FeMnN3O5P]+: 802.1900, 実測値: 802.1889;
【0085】
ケトン水素化における6の使用
一般的なケトンの水素化手順
ケトン(1.0当量)、マンガン触媒(0.001当量)、炭酸カリウム(0.05当量)および1-メチルナフタレン(約50μL、内部標準)を、撹拌用ビーズを含むマイクロ波用バイアルに加えた。このバイアルを密封して、排気し、アルゴンを再充填した。これを2回、繰り返した。脱気エタノール(3.0mL)を加え、バイアルのセプタムに、2x18Gニードルで穴をあけて、アルゴン雰囲気下、ステンレス鋼製オートクレーブに入れた。この容器に水素ガス(50bar)を加圧し、大気に排気した。これを2回、繰り返した。水素ガスを使用して圧力を50barに設定し、オートクレーブを密封して、予め加熱した油浴(50℃)に入れて、撹拌を1200rpmに設定して、16時間、放置した。反応後、この容器を周囲温度まで冷却し、大気に排気し、この反応物を1H-NMRにより分析して、内部標準(1-メチルナフタレン)を使用して変換率を見積もった。この反応混合物を蒸発乾固し、粗生成物を以下に詳述されているカラムクロマトグラフィーによって精製した。
【0086】
活性比較実験のため、この段取りを上記と同じとしたが、反応時間は、2時間に短縮した。
【0087】
実施例
(S)-1-フェニルエタノール
生成物を100%ヘキサン、次いでヘキサン/酢酸エチル(1/1)を使用するカラムクロマトグラフィーによって精製すると、生成物が無色油状物として得られた。250mgのアセトフェノン(2.1mmol)から、250mgの生成物(98%)が得られた。
1H-NMR (CDCl3) δ: 7.39 (4H, m, Ar-H), 7.31 (1H, m, Ar-H), 4.93 (1H, q, J = 6.2 Hz, Ar-CH(OH)-CH3), 1.53 (3H, d, J = 6.2 Hz, Ar-CH(OH)-CH
3);
13C -{1H}-NMR (DEPT, CDCl3) δ: 145.80 (CAr-CH(OH)-), 128.52 (Ar-C), 127.50 (Ar-C), 125.39 (Ar-C), 70.46 (-CH(OH)-), 25.20 (-CH3);
HRMS (EI+): [C8H10O]の計算値: 122.0732 ; 実測値: 122.0734;
キラル分析は、n-ヘキサン/イソプロパノール(90/10)移動相を使用し、流速0.5mL/分で、Chiralcel OD-Hカラムを使用して行った。tR(S、少量体):12分;tR(R、主要体):14分、e.e.:68%
【0088】
(S)-1-(2-フルオロフェニル)エタノール
生成物を100%ヘキサン、次いでヘキサン/酢酸エチル(1/1)を使用するカラムクロマトグラフィーによって精製すると、生成物が無色油状物として得られた。265mgの2’-フルオロアセトフェノン(1.9mmol)から、200mgの生成物(74%)が得られた。
1H-NMR (CDCl3) δ: 7.51 (1H, td, J = 7.9 / 1.7 Hz CArH), 7.27 (1H, m, CArH), 7.18 (1H, td, J = 7.5 / 1.3 Hz, CArH), 7.04 (1H, m, CArH), 5.23 (1H, m, Ph-CH(OH)-CH3), 2.03 (1H, d, J = 4.5 Hz, -OH), 1.54 (3H, d, J = 6.4 Hz, Ar-CH(OH)-CH
3);
13C -{1H}-NMR (DEPT, CDCl3) δ: 160.9 (CAr), 158.51 (CAr), 128.82 (CAr), 128.74 (CAr), 126.65 (CAr), 124.30 (CAr), 115.10 (CAr), 64.60 (-CH(OH)-), 24.02 (-CH3);
キラル分析は、n-ヘキサン/イソプロパノール(98/2)移動相を使用し、流速0.5mL/分で、Chiralcel OD-Hカラムを使用して行った:e.e.=56%
【0089】
(S)-1-(2-クロロフェニル)エタノール
生成物を100%ヘキサン、次いでヘキサン/酢酸エチル(1/1)を使用するカラムクロマトグラフィーによって精製すると、生成物が無色油状物として得られた。262mgの2’-クロロアセトフェノン(1.7mmol)から、238mgの生成物(90%)が得られた。
1H-NMR (CDCl3) δ: 7.61 (1H, d, J = 7.5 Hz, Ar-H), 7.33 (2H, m, Ar-H), 7.22 (1H, t, J = 8.6 Hz, Ar-H), 5.31 (1H, q, J = 6.6 Hz, Ar-CH(OH)-CH3), 1.51 (3H, d, J = 6.4 Hz, Ar-CH(OH)-CH
3);
13C -{1H}-NMR (DEPT, CDCl3) δ: 143.05 (Cl-CAr), 131.63 ((CH(OH)-CAr), 129.04 (Ar-C), 128.41 (Ar-C), 127.22 (Ar-C), 126.41 (Ar-C), 66.97 (-CH(OH)-), 23.52 (-CH3);
HRMS (EI+): [C8H9ClO]の計算値: 156.0342 (100%) / 158.0312 (32%); 実測値: 156.0345 (100%) / 158.0313 (32%);
キラル分析は、n-ヘキサン/イソプロパノール(95/5)移動相を使用し、流速0.5mL/分で、Chiralcel OD-Hカラムを使用して行った。tR(S、少量体):13分;tR(R、主要体):15分、e.e.:56%
【0090】
(S)-1-(2-メトキシフェニル)エタノール
生成物を100%ヘキサン、次いでヘキサン/酢酸エチル(1/1)を使用するカラムクロマトグラフィーによって精製すると、生成物が無色油状物として得られた。289mgの2’-メトキシアセトフェノン(1.9mmol)から、265mgの生成物(90%)が得られた。
1H-NMR (CDCl3) δ: 7.37 (1H, d, J = 6.8 Hz, Ar-H), 7.28 (1H, m, Ar-H), 6.99 (1H, t, J = 8.1 Hz, Ar-H), 6.91 (1H, d, J = 7.9 Hz, Ar-H), 5.12 (1H, q, J = 6.5 Hz, Ar-CH(OH)-CH3), 3.89 (3H, s, -OCH
3),1.54 (3H, d, J = 6.5 Hz, Ar-CH(OH)-CH
3);
13C -{1H}-NMR (DEPT, CDCl3) δ: 156.57 (MeO-CAr), 133.37 ((CH(OH)-CAr), 128.32 (Ar-C), 126.12 (Ar-C), 120.80 (Ar-C), 110.42 (Ar-C), 66.62 (-OCH3) 55.27 (-CH(OH)-), 22.83 (-CH3);
HRMS (EI+): [C9H12O2]の計算値: 152.0837 (100%); 実測値: 152.0836 (100%);
キラル分析は、n-ヘキサン/イソプロパノール(98/2)移動相を使用し、流速1.0mL/分で、Chiralpak OD-Hカラムを使用して行った。tR(S、主要体):19.3分;tR(R、少量体):20.4分、e.e.56%
【0091】
(S)-1-(2,6-ジクロロ-3-フルオロフェニル)エタノール
生成物を100%ヘキサン、次いでジクロロメタン/メタノール(95/5)を使用するカラムクロマトグラフィーによって精製すると、生成物が無色油状物として得られた。345mgの2’,6’-ジクロロ-3’-フルオロアセトフェノン(1.66mmol)から、278mgの生成物(80%)が得られた。
1H-NMR (CDCl3) δ: 7.29 (1H, m, Ar-H), 7.05 (1H, t, J = 7.9 Hz, Ar-H), 5.60 (1H, q, J = 6.4 Hz, Ar-CH(OH)-CH3), 1.67 (3H, d, J = 6.4 Hz, Ar-CH(OH)-CH
3);
13C -{1H}-NMR (DEPT, CDCl3) δ: 158.27 (Ar-C), 156.29 (Ar-C), 140.51 (Ar-C), 129.16 ((CH(OH)-CAr), 115.78 (Ar-C), 115.60 (Ar-C), 68.44 (-CH(OH)-), 21.38 (-CH3);
HRMS (EI+): [C8H7Cl2FO]の計算値: 207.9858 (100%) / 209.9828; 実測値: 207.9868 / 209.9845;
キラル分析は、n-ヘキサン/イソプロパノール(98/2)移動相を使用し、流速0.5mL/分で、Chiralpak OD-Hカラムを使用して行った。tR(S、主要体):17.4分;tR(R、少量体):18.2分、e.e.82%
【0092】
(S)-1-(4-クロロフェニル)-1-プロパノール
生成物を100%ヘキサン、次いでヘキサン/酢酸エチル(1/1)を使用するカラムクロマトグラフィーによって精製すると、生成物が無色油状物として得られた。229mgの4’-クロロプロピオフェノン(1.36mmol、1当量)から、200mgの生成物(86%)が得られた。
1H-NMR (CDCl3) δ: 7.36-7.28 (4H, m, CAr
H), 4.61 (1H, t, J = 6.9 Hz, Ar-CH(OH)CH2CH3), 1.78 (2H, m, Ar-CH(OH)CH
2CH
3), 0.98 (3H, t, J = 7.8 Hz, -CH
3);
13C -{1H}-NMR (DEPT, CDCl3) δ: 143.00 (Cl-CAr), 133.09 (CAr), 128.52 (CAr), 127.36 (CAr), 75.10 (-CH(OH)-), 31.97 (-CH2-), 10.00 (-CH3);
キラル分析は、n-ヘキサン/イソプロパノール(99/1)移動相を使用し、流速1.0mL/分で、Chiralpak OD-Hカラムを使用して行った:e.e.86%(S)
【0093】
(S)-1-フェニル-1-シクロヘキシルメタノール
生成物を100%ヘキサン、次いでヘキサン/酢酸エチル(1/1)を使用するカラムクロマトグラフィーによって精製すると、生成物が白色固体として得られた。255mgのシクロヘキシルフェニルケトン(1.36mmol)から、230mgの生成物(89%)が得られた。
1H-NMR (CDCl3) δ: 7.40-7.27 (5H, m, Ph-H), 4.39 (1H, dd, J = 7.2 / 2.9 Hz, Ph-CH(OH)-C6H11), 2.02 (1H, m, -CH
2-), 1.87 (1H, m, -CH-), 1.80 (1H, m, -CH
2-), 1.66 (3H, m, -CH
2-), 1.40 (1H, m, -CH
2-), 1.32-0.91 (5H, m, -CH
2-);
13C -{1H}-NMR (DEPT, CDCl3) δ: 143.62 ((C
Ar-CH(OH)), 128.20 (C
Ar), 127.43 (C
Ar), 126.65 (C
Ar), 79.42 (-CH(OH)-), 44.97 (-CH(CH2)5), 29.32 (-CH2-), 28.85 (-CH2-), 26.44 (-CH2-), 26.11 (-CH2-), 26.03 (-CH2-);
【0094】
キラル分析は、nヘキサン/イソプロパノール(98/2)移動相を使用し、流速1.0mL/分で、Chiralcel OD-Hカラムを使用して行った。tR(S、主要体):12.2分;tR(R、少量体):14.2分、e.e.82%
【0095】
水素ガス取り込み測定装置を使用する、ケトン水素化の速度論検討
アセトフェノン(2.5g、20.81mmol、1.0当量)をエタノール(30mL)に溶解し、この溶液にアルゴンガスを1時間、通気することにより脱気した。触媒(0.011~0.021mmol、0.0005~0.001当量)および炭酸カリウム(144mg、1.04mmol、0.05当量)をオートクレーブに投入した。容器を密封し、水素ガス(5bar)で加圧し、排気した。これを2回、繰り返した。注入用ポートから脱気エタノール溶液を加え、この容器を密封し、水素ガス(20bar)で加圧して排気した。これを2回、繰り返した。圧力を2barに設定し、この混合物を50℃まで加熱し、この時点で、圧力は20barまで向上し、この実験を開始した。ガス取り込み量をビュレット内の圧力の低下によってモニタリングした。ガス取り込みが>2時間、観察されなくなると、この反応は完了したと見なした。この容器を室温まで冷却して排気し、内容物を濃縮乾固して、1H-NMRによって分析し、完全に変換したことを確認した。ある時点におけるガス取り込み量を全取り込み量によって除算し、この結果に100を乗算して変換率を得ることにより、取り込み曲線を変換率に変換した。基質および生成物濃度を算出し、それらからターンオーバー頻度(TOF)を算出した。容器装置の温度影響を最小化するため、TOFは、20%変換率で報告した。
【0096】
【表1】
典型的な条件:1.9mmolの基質、0.0019mmolの触媒、0.10mmolのK
2CO
3、50barの水素ガス、エタノール(2.7mL)、16時間;b:キラルHPLCを使用して決定;絶対配置は括弧内
【0097】
表1のデータは、6が触媒の少ない充填量(約0.01~約0.1mol%)および低温(約50~約60℃)における、様々なケトンの水素化を触媒するのに有効であることを示している。表1に例証されているケトンはすべて、プロキラルであり、水素化時に光学活性アルコールを形成する。6によって触媒された水素化により生成した光学活性なアルコールの鏡像異性体過剰率は、約50~約85%の範囲である。
【0098】
ケトン水素化における、6および比較錯体7の比較
アセトフェノンの水素化における触媒として6および比較錯体7の活性を表2に比較する。驚くべきことに、6を使用した場合に算出されたターンオーバー頻度(TOF)は、7を使用した場合よりも一貫して高い(少なくとも3.5倍高い)。これは、6の触媒充填量を少なく使用した場合でさえもあてはまる(エントリー1および4を参照されたい)。6を使用した場合の一層高いTOFにより、2時間後、一層高いケトンのアルコールへの変換率がもたらされる(7を使用した場合の9.4%の変換率と比べて、6を使用した場合、56.5%となる)。
【0099】
比較錯体7:
【化16】
【表2】
a.ガス取り込み量は、ガス取り込み量を測定するために取り付けたガスビュレットを備えるオートクレーブの使用を意味し、バイアルは、設定した時間の間、50barのH
2圧でのステンレス鋼製オートクレーブ中のマイクロ波用バイアルに相当する;b.ターンオーバー頻度(TOF)は、時間あたりの活性部位あたりに反応する分子数に等しく、バイアルデータに関しては、2時間後に算出し、ガス取り込みの場合、20%変換率に相当する。
【0100】
6および比較錯体7の溶解度の比較
上記の実験では、触媒6は、分析にとって、または触媒作用溶液の調製にとって、かなり一層容易に溶解することが分かった。後者の触媒作用溶液の調製の容易さの点により、実験は一層便利に設定され、やはりまた使用することができる可能な条件範囲が広がる。極性の様々な溶媒中の6および比較錯体7の溶解度(18℃で測定)を表3に比較する。意外なことに、6の溶解度は、試験した溶媒のすべてにおいて、7の溶解度よりも高い。6は、極性溶媒および非極性溶媒のどちらでも7より溶解度は高い。
【表3】
方法:室温での目視確認によって、完全な溶解が観察されて評価されるまで、既知量の触媒前駆体に0.1mLの一定分量の溶媒を加えた。