(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】受精判定システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20240502BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240502BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20240502BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240502BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12N5/071
G01N21/17 A
G06T7/00 C
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2022104108
(22)【出願日】2022-06-29
(62)【分割の表示】P 2019189301の分割
【原出願日】2016-10-11
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】515264012
【氏名又は名称】福永 憲隆
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福永 憲隆
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/050964(WO,A1)
【文献】特表2016-509845(JP,A)
【文献】国際公開第2011/021391(WO,A1)
【文献】特表2000-513465(JP,A)
【文献】特開2015-130806(JP,A)
【文献】Journal of Mammalian Ova Research,2014年,Vol.31, No.4,p.107-114
【文献】Medical Image Computing and Computer-Assisted Intervention-MICCAI,2015年,p.234-241,https://arxiv.org/pdf/1505.04597.pdf)%e5%92%8c%5bTiramisu%5d(https://arxiv.org/abs/1611.09326.pdf)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/34
G01N 21/17
G06T 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受精判定システムであって、
受精処理された複数の卵をウェルの中でそれぞれ培養する培養部と、
前記培養部によって前記ウェルの中で培養されている前記複数の卵のそれぞれの状態を、培養開始から、培養開始後24時間までの間に、設定された時間間隔で1時間に複数回撮影し、前記撮影の度に、前記複数の卵のそれぞれについて撮像した平面画像
を取得する画像取得部と、
前記取得された平面画像を、前記ウェルに対応付けて格納する画像格納部と、
前記ウェルの一つの中で培養されている前記卵が受精しているか否かの判定を、前記卵の培養の開始後の少なくとも7時間から24時間までの間に、前記撮影の時間間隔よりも長い間隔を開けたタイミングで実行する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
教師あり学習によって前記平面画像に写った前記卵の前核の数を認識するよう学習済みであり、
前記
画像格納部に、前記タイミングまでに前記ウェルの前記卵について
格納された複数の平面画像を読み出し、前記複数の平面画像を解析することによって前記判定を行ない、
前記各ウェルで培養されている卵について前記取得された複数の平面画像のそれぞれを、前記学習に基づいて解析して、各画像における前核の数を判定し、
前記卵の培養開始から前記判定のタイミングまでの間に取得された前記複数の平面画像における前記卵の前記前核の数の経時的な変化を解析して、前記ウェルで培養されている卵についての前記複数の平面画像に、前記前核の数の差を認識できる2枚の画像が含まれており、前記2枚の画像の一方が前記卵における前核の数が0の画像であり、前記2枚の画像の他方が前記卵における前核の数が2である画像であり、前核の数が3の画像が含まれていない場合、前記卵が正常に受精していると判定し、
前記判定部は、前記判定を、前記ウェルで培養されている全ての卵について行なう、
受精判定システム。
【請求項2】
受精判定システムであって、
受精処理された複数の卵をウェルの中でそれぞれ培養する培養部と、
前記培養部によって前記ウェルの中で培養されている前記複数の卵のそれぞれの状態を、培養開始から、培養開始後24時間までの間に、設定された時間間隔で1時間に複数回撮影し、前記撮影の度に、前記複数の卵のそれぞれについて撮像した平面画像
を取得する画像取得部と、
前記取得された平面画像を、前記ウェルに対応付けて格納する画像格納部と、
前記ウェルの一つの中で培養されている前記卵が受精しているか否かの判定を、前記卵の培養の開始後の少なくとも7時間から24時間までの間に、前記撮影の時間間隔よりも長い間隔を開けたタイミングで実行する判定部と、
を備え、
前記判定部は、
多層のニューラルネットワークを用いたディープラーニングによって前記平面画像に写った前記卵の前核の数を認識するよう学習済みであり、
前記
画像格納部に、前記タイミングまでに前記ウェルの前記卵について
格納された複数の平面画像を読み出し、前記複数の平面画像を解析することによって前記判定を行ない、
前記各ウェルで培養されている卵について前記取得された複数の平面画像のそれぞれを、前記学習に基づいて解析して、各画像における前核の数を判定し、
前記卵の培養開始から前記判定のタイミングまでの間に取得された前記複数の平面画像における前記卵の前記前核の数の経時的な変化を解析して、前記ウェルで培養されている卵についての前記複数の平面画像に、前記前核の数の差を認識できる2枚の画像が含まれており、前記2枚の画像の一方が前記卵における前核の数が0の画像であり、前記2枚の画像の他方が前記卵における前核の数が2である画像であり、前核の数が3の画像が含まれていない場合、前記卵が正常に受精していると判定し、
前記判定部は、前記判定を、前記ウェルで培養されている全ての卵について行なう、
受精判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受精判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
不妊治療分野において、受胎率の向上および患者のQOLの観点から、培養中の胚を評価することによって、胚を選別することが行われている。胚を非侵襲的に評価する方法として、顕微鏡による形態観察から胚の発育状況を評価する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の胚選別システムでは、胚の形態および酸素消費量などを指標として、胚を選別している。しかし、胚形成の前提となる受精を確認するシステムについては、これまでに十分に考慮されていなかった。また、媒精等の受精処理をされた卵が正常に受精しているかを、これまでは検体である卵を人間がひとつひとつ目で確認していたことから、確認できる検体の数には限界があった。このような課題を解決するために、受精処理をされた卵が受精しているか確認するシステムの構築および人間が確認するよりも多くの検体における受精の確認を可能とする技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、受精判定システムが提供される。この受精判定システムは、受精処理された卵を培養する培養部と、前記培養部によって培養されている前記卵の状態を、設定された時間間隔で撮影して複数の画像を取得する画像取得部と、前記画像に写った前記卵の状態を解析することによって前記卵が受精しているか判定する判定部と、を備える。このような態様とすれば、受精処理された卵の状態が撮影された画像の解析に基づいて、卵が受精しているか判定部が判定できる。このため、受精処理をされた卵が受精しているか確認できるシステムが提供される。また、検体である卵が機械的に解析されることから、人間が確認するよりも多くの検体を確認できる。また、判定部によって受精しているかが判定されるため、人間が目で確認することに比べて、判定の煩雑さを低減できる。
【0007】
(2)上記形態における受精判定システムにおいて、前記判定部は、異なる時間に取得された少なくとも2枚の前記画像における前記卵の経時的な変化を解析することによって前記卵が受精しているか判定してもよい。このような態様とすれば、少なくとも2枚の画像を解析することによって、卵の経時的な変化を解析できる。このため、卵の経時的な変化に基づいて卵が受精しているか判定できる。
【0008】
(3)上記形態における受精判定システムにおいて、前記判定部は、教師あり学習によって前記画像に写った前記卵の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記卵が受精しているか判定してもよい。このような態様とすれば、判定部が教師あり学習によって学習した基準に基づいて、卵が受精しているか判定できる。
【0009】
(4)上記形態における受精判定システムにおいて、前記判定部は、多層のニューラルネットワークを用いたディープラーニングによって前記画像に写った前記卵の特徴について学習し、前記学習に基づいて前記卵が受精しているか判定してもよい。このような態様とすれば、判定部がディープラーニングによって学習した基準に基づいて、卵が受精しているか判定できる。
【0010】
(5)上記形態における受精判定システムにおいて、前記判定部は、前記画像のうち判定に用いられた判定画像を報知する報知部を有してもよい。このような態様とすれば、受精判定システムを使用するユーザーが、判定部がどの画像を用いて受精を判定したかを知ることができる。
【0011】
(6)上記形態における受精判定システムにおいて、前記報知部は、前記判定画像を報知するとともに前記判定画像において前記判定部が判定の根拠とした情報を報知してもよい。このような態様とすれば、受精判定システムを使用するユーザーが、判定部がどの画像を用いて受精を判定したかを知ることができるとともに、判定部が判定の根拠とした情報を知ることができる。
【0012】
(7)本発明の一形態によれば、非受精卵を選抜する方法が提供される。この非受精卵を選抜する方法は、受精処理された卵のうち正常に受精していない非受精卵を選抜する方法であって、前記卵を培養する培養工程と、前記培養工程において培養されている前記卵の状態を、設定された時間間隔で撮影して複数の画像を取得する画像取得工程と、前記画像に写った前記卵の状態を解析することによって前記非受精卵を選抜する選抜工程と、を備える。このような態様とすれば、受精処理された卵の状態が撮影された画像の解析に基づいて、非受精卵を選抜できる。このため、受精処理をされた卵のうち正常に受精していない非受精卵を選抜する方法が提供される。
【0013】
本発明は、受精判定システム以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、本発明は、受精判定装置の形態で実現することができる。また、本発明は、前述の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態における受精判定システムの構成を示す説明図である。
【
図2】前核が確認されなかった卵であるとラベルされた画像の例である。
【
図3】前核が1つ確認された卵であるとラベルされた画像の例である。
【
図4】前核が2つ確認された卵であるとラベルされた画像の例である。
【
図5】前核が3つ確認された卵であるとラベルされた画像の例である。
【
図6】制御部が実行する画像取得処理を示すフローである。
【
図7】制御部が実行する受精判定処理を示すフローである。
【
図8】ディープラーニングによる画像の学習について説明した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における受精判定システム10の構成を示す説明図である。受精判定システム10は、受精処理されたヒトの卵が受精しているかを判定するシステムである。受精処理された卵とは、精子と卵子とを共培養したコンベンショナル法もしくは顕微授精法等の受精のための処置がなされた卵のことである。受精判定システム10は、培養部110と、画像取得部130と、制御部140と、ユーザインタフェース150と、報知部160とを備える。
【0016】
培養部110は、受精処理された卵を培養するいわゆるインキュベータである。培養部110内における温度、湿度、酸素濃度、二酸化炭素濃度および培養時間等の培養条件は、予めユーザインタフェース150を介してユーザーより入力された内容に基づいて、制御部140によって制御されている。培養部110は、受精処理された卵を培養するための容器である培養容器200が培養部110内に固定された状態で、卵を培養する。
【0017】
培養容器200は、3行4列の12個のウェルを備えたウェルプレートである。培養容器200の各ウェルの底にはウェル番号である1から12の番号が付されている。培養容器200は、各ウェルに1つの卵を入れて培養するための容器である。
【0018】
培養部110は、容器搬送部115を有する。容器搬送部115は、水平方向に伸びた形状を有するとともに、培養部110における底面部分を構成している。容器搬送部115は、重力方向上側を向いた面上に、培養容器200を固定するための固定部(図示しない)を有する。培養部110は、培養容器200が固定部に固定された状態で、卵を培養する。
【0019】
容器搬送部115は、固定部に固定された培養容器200を、培養部110の内側に一部が突出した画像取得部130の重力方向下側の位置に、固定部を移動させることによって搬送する。容器搬送部115は、画像取得部130による画像の取得が終了すると、培養容器200を初期位置に搬送する。
図1において、培養容器200が図示されている位置が初期位置である。
【0020】
容器搬送部115が培養容器200を搬送する頻度(時間間隔)は、予めユーザインタフェース150を介してユーザーより設定された内容に基づいて、制御部140によって制御されている。本実施形態では、容器搬送部115は、画像取得部130の重力方向下側の位置へ培養容器200を15分毎に搬送するよう制御されている。容器搬送部115は、画像取得部130の重力方向下側の位置へ培養容器200が搬送されてから、画像取得部130から見て培養容器200の位置を縦横の2次元的に調整することによって、画像取得部130が画像を取得できる位置に各ウェルを配置できる。容器搬送部115は、画像取得部130による画像の取得が終了すると、培養容器200を初期位置に搬送する。画像取得部130が培養容器200における各ウェルの画像を取得する工程については、後述する。
【0021】
画像取得部130は、培養部110によって培養されている卵の状態を設定された時間間隔で撮影して画像を取得する。本実施形態では、画像取得部130は、容器搬送部115が培養容器200を搬送してくる度に卵の状態を撮影することによって、培養容器200における各ウェル毎の複数の画像を時系列的に取得する。他の実施形態では、画像取得部130は、制御部140から直接指示された時間間隔で撮影して画像を取得してもよい。培養容器200が有する12個のウェルのうち画像取得部130が画像を取得するウェルの位置は、予めユーザインタフェース150を介してユーザーより指定される。以下の説明では、ユーザーより指定されたウェルの位置を「指定位置」と呼ぶ。本実施形態では、画像取得部130は、CCDカメラである。
【0022】
制御部140は、中央処理装置と主記憶装置とを備えるマイクロコンピュータによって構成されている。制御部140は、受精判定システム10の各部を制御する。また、制御部140は、予めユーザインタフェース150を介してユーザーより入力された内容に基づいて、培養部110、容器搬送部115、画像取得部130を制御する。
【0023】
制御部140は、画像格納部142と、判定部144とを備える。
【0024】
画像格納部142は、画像取得部130によって取得された画像を格納する。画像格納部142は、取得された各ウェルの画像を判定部144に送る。
【0025】
判定部144は、画像格納部142より送られてきた画像に写った卵の状態を解析することによって卵が受精しているか判定する。本実施形態では、判定部144は、培養部110が卵の培養を開始してから24時間の間に15分の時間間隔で画像取得部130によって取得された各ウェルの画像を用いて、卵が受精しているか判定する。
【0026】
本実施形態では、判定部144は、卵における前核の数を確認することによって、卵が受精しているか判定する。正常に受精した卵では、一般に受精後22時間以内に2つの前核が現れる。
【0027】
本実施形態では、判定部144は、異なる時間に取得された2枚の画像を解析することによって卵が受精しているか判定する。本実施形態では、画像取得部130によって取得された画像のうち、異なる時間に取得された2枚の画像として、卵における前核の数の差を最も顕著に認識できる2枚の画像を、判定部144が選択する。2枚の画像が、卵における前核の数が確認されなかった画像1枚と卵における前核が2つ確認された画像1枚との2枚であった場合にのみ、判定部144は、卵が受精していると判定する。このように、2枚の画像における卵の経時的な変化を解析できることから、卵の経時的な変化に基づいて卵が受精しているか判定できる。また、2枚の画像における前核の数の差を比較することによって、1枚の画像を用いて判定するより精度良く受精を判定できる。
【0028】
判定部144は、教師あり学習によって画像に写った卵の特徴について学習し、その学習に基づいて卵が受精しているか判定する。本実施形態では、判定部144は、画像に写った卵における前核の数の判定について学習し、その学習に基づいて卵が受精しているか判定する。このため、判定部144は、教師あり学習によって学習した前核の数の判定基準に基づいて、卵が受精しているか判定できる。
【0029】
図2、
図3、
図4および
図5は、判定部144が教師あり学習において使用される画像の例を示した説明図である。
図2は、受精処理された卵において、前核が確認されなかった卵であるとラベルされた画像の例である。
図3は、受精処理された卵において、前核が1つ確認された卵であるとラベルされた画像の例である。
図4は、受精処理された卵において、前核が2つ確認された卵であるとラベルされた画像の例である。
図5は、受精処理された卵において、前核が3つ確認された卵であるとラベルされた画像の例である。受精処理された卵において、前核が確認されなかった場合、一般に不受精卵と判断される。また、受精処理された卵において、前核が1つもしくは3つ以上確認された場合、一般に異常受精卵であると判断される。
【0030】
ユーザインタフェース150は、受精判定システム10のユーザーとの間で情報をやり取りする。本実施形態では、ユーザインタフェース150は、画像を表示するとともに、その画像上で利用者から指示の入力を受け付けるタッチパネルである。他の実施形態では、ユーザインタフェース150は、利用者から指示の入力を受け付ける押しボタンを備えてもよい。
【0031】
報知部160は、画像のうち判定に用いられた判定画像を報知する。報知部160は、ユーザインタフェース150であるタッチパネルの画面上において、ユーザーが判定部144による判定結果を閲覧している際に、判定画像を報知する。このため、受精判定システム10を使用するユーザーが、判定部144がどの画像を用いて受精を判定したかを知ることができる。本実施形態では、取得された各画像について取得された時間が画像に付されていることから、ユーザーは判定画像に付された時間を確認することによって、卵がいつ受精したかを知ることができる。
【0032】
また、報知部160は、判定画像において判定部144が判定の根拠とした情報を報知する。報知部160は、ユーザインタフェース150であるタッチパネルの画面上において、報知された判定画像をユーザーが閲覧している際に、判定部144が判定の根拠とした情報を報知する。本実施形態では、報知部160は、判定画像において判定部144が前核であると認識した部分についての位置情報を報知する。
【0033】
図6は、制御部140が実行する画像取得処理を示すフローである。制御部140は、画像取得部130の重力方向下側の位置に培養容器200が搬送された際に、画像取得処理を実行する。
【0034】
画像取得処理が開始されると、制御部140は、ユーザーより指定されたウェルの数を表す変数Aを算出する(ステップS100)。指定されたウェルの数を表す変数Aを算出したのち(ステップS100)、制御部140は、指定されたウェルであって撮影を終えていないウェルのうち、最も番号が小さいウェルの画像を、画像取得部130に撮影させる(ステップS110)。番号とは、各ウェルの底に付された1から12のウェル番号のことである。
【0035】
ステップS110において、画像取得部130は、以下の(1)(2)の工程で、ウェルの画像を取得する。(1)制御部140は、容器搬送部115に培養容器200の位置を2次元的に調整させて、ウェルの位置を画像取得部130が撮影を行うことができる位置に移動させる。(2)制御部140は、画像取得部130が撮影を行うことができる位置にウェルを移動させてから、画像取得部130に撮影を行わせる。
【0036】
指定されたウェルであって撮影を終えていないウェルのうち、最も番号が小さいウェルの画像が撮影されたのち(ステップS110)、制御部140は、撮影を終えたウェルの番号を記憶する(ステップS120)。撮影を終えたウェルの番号を記憶したのち(ステップS120)、制御部140は、変数Aをデクリメントする。(ステップS130)。
【0037】
変数Aがデクリメントされたあと(ステップS130)、制御部140は、変数Aが0になったか判定する(ステップS140)。変数Aが0になった場合(ステップS140:YES)、制御部140は、
図6の画像取得処理を終了する。
【0038】
変数Aが0でない場合(ステップS140:NO)、制御部140は、ステップS110に戻って、ステップS110~ステップS140の処理を変数Aが0になるまで繰り返す。変数Aが0になった場合(ステップS140:YES)、制御部140は、
図6の画像取得処理を終了する。
【0039】
図7は、制御部140が実行する受精判定処理を示すフローである。制御部140は、卵の培養が開始されてから7時間を経過したとき、受精判定処理を実行する。また、制御部140は、卵の培養が開始されてから7時間後から24時間後までの間に、1時間毎に受精判定処理を繰り返し実行する。
【0040】
受精判定処理が開始されると、制御部140は、ユーザーより指定されたウェルの数を表す変数Aを算出する(ステップS200)。指定されたウェルの数を表す変数Aを算出したのち(ステップS200)、制御部140は、指定されたウェルであって判定を終えていないウェルのうち、最も番号が小さいウェルの画像を抽出する(ステップS210)。本実施形態では、例えば、卵の培養が開始されてから7時間を経過したときに実行される受精判定処理では、指定されたウェルの画像は、培養部110が卵の培養を開始してから7時間の間に、15分の時間間隔で画像取得部130によって取得されていることから、指定されたウェルごとに28枚ある。すなわち、卵の培養が開始されてから7時間を経過したときに実行される受精判定処理においては、ステップS210において、制御部140は、指定されたウェルのうちの1つのウェルについて、28枚の画像を抽出する。卵の培養が開始されてから24時間を経過したときに実行される受精判定処理では、制御部140は、指定されたウェルのうちの1つのウェルについて、96枚の画像を抽出する。
【0041】
指定されたウェルであって判定を終えていないウェルのうち、最も番号が小さいウェルの画像を抽出したのち(ステップS210)、制御部140は、抽出された画像の中で、卵における前核の数の差を最も顕著に認識できる2枚の画像を選択する(ステップS220)。
【0042】
抽出された画像の中で、卵における前核の数の差を最も顕著に認識できる2枚を選択したのち(ステップS220)、制御部140における判定部144は、2枚の画像を比較して受精しているか判定する(ステップS230)。
【0043】
2枚の画像を比較して受精しているか判定したのち(ステップS230)、制御部140は、判定を終えたウェルの番号を記憶する(ステップS240)。判定を終えたウェルを記憶したのち(ステップS240)、制御部140は、変数Aをデクリメントする。(ステップS250)。
【0044】
変数Aがデクリメントされたあと(ステップS250)、制御部140は、変数Aが0になったか判定する(ステップS260)。変数Aが0になった場合(ステップS260:YES)、制御部140は、
図7の受精判定処理を終了する。
【0045】
変数Aが0でない場合(ステップS260:NO)、制御部140は、ステップS210に戻って、ステップS210~ステップS260の処理を変数Aが0になるまで繰り返す。変数Aが0になった場合(ステップS260:YES)、制御部140は、
図7の受精判定処理を終了する。
【0046】
以上説明した実施形態によれば、受精処理された卵の状態が撮影された画像の解析に基づいて、卵が受精しているか判定部144が判定できる。このため、受精処理された卵の受精を確認できるシステムが提供される。また、検体である受精処理された卵が機械的に解析されることから、人間が確認するよりも多くの検体を確認できる。また、判定部144によって受精しているかが判定されるため、人間が目で確認することに比べて、判定の煩雑さを低減できる。
【0047】
B.第2実施形態:
第2実施形態における受精判定システムの構成は、第1実施形態における判定部144とは異なる学習を行う判定部を備える点を除き、第1実施形態における受精判定システム10の構成と同様である。
【0048】
第2実施形態における判定部は、多層のニューラルネットワークであるディープニューラルネットワーク400を用いたディープラーニングによって画像に写った卵の特徴(前核の数)について学習し、その学習に基づいて卵が受精しているか判定する。このため、判定部がディープラーニングによって学習した基準に基づいて、卵が受精しているか判定できる。ディープラーニングにより抽出された正常に受精した卵の特徴量が、人間が認識できていない特徴量であった場合には、卵の受精確認を、人間が行うよりも高い精度で行うことができる。
【0049】
図8は、ディープラーニングによる画像の学習について説明した説明図である。ディープニューラルネットワーク400は、人間の脳神経系における学習機構をモデルにしたネットワークである。ディープニューラルネットワーク400は、入力層410と、複数の中間層420と、出力層430とを備える。第2実施形態におけるディープニューラルネットワーク400は、4つの中間層420を備える。
【0050】
入力層410は、情報を入力される層である。中間層420は、入力層410から伝達される情報に基づいて特徴量の算出を行う層である。出力層430は、中間層420から伝達される情報に基づいて結果を出力する層である。
【0051】
図8における画像300は、受精処理された卵の写った画像である。画像300の中には、前核が確認されなかった卵であるとラベルされた画像、前核が1つ確認された卵であるとラベルされた画像、前核が2つ確認された卵であるとラベルされた画像、前核が3つ確認された卵であるとラベルされた画像等が含まれる。
【0052】
ディープニューラルネットワーク400による学習法について、説明する。入力層410は、前核の数についてラベルされた画像300が入力されると、その情報を中間層420に伝達する。中間層420は、入力層410から伝達された情報に基づいて、前核の特徴量の算出を行う。出力層430は、中間層から伝達される情報に基づいて算出された前核の特徴量を出力する。第2実施形態における判定部は、出力された特徴量を基準として、卵が受精しているか判定する。
【0053】
C.第3実施形態:
第3実施形態では、受精処理された卵のうち正常に受精していない非受精卵を選抜する方法について説明する。この非受精卵を選抜する方法は、培養工程と、画像取得工程と、選抜工程とを備える。ここでいう「非受精卵」には、前核が確認されなかった卵である不受精卵と、前核が1つもしくは3つ以上確認された卵である異常受精卵とを含む。
【0054】
培養工程は、受精処理された卵を培養する工程である。画像取得工程は、培養工程において培養されている卵の状態を、設定された時間間隔で撮影して複数の画像を取得する工程である。選抜工程は、画像に写った卵の状態を解析することによって非受精卵を選抜する工程である。
【0055】
以上説明した第3実施形態によれば、受精処理された卵の状態が撮影された画像の解析に基づいて、非受精卵を選抜できる。このため、受精処理をされた卵のうち正常に受精していない非受精卵を選抜する方法が提供される。
【0056】
D.変形例:
第1実施形態では、受精判定システム10は、容器搬送部115を備えていたが、本発明はこれに限られない。例えば、他の実施形態における受精判定システムは、容器搬送部115を備えていない形態であってもよい。この場合、画像取得部130は、固定部に固定された培養容器200の重力方向上側に備えられていてもよいし、画像取得部130が培養容器200の重力方向上側に移動可能に構成されていればよい。
【0057】
第1実施形態では、画像取得部130によって取得された画像は、画像格納部142に格納されていたが、本発明はこれに限られない。例えば、画像取得部130によって取得された画像は、いわゆるクラウド上に格納されていてもよい。この場合、判定部144は、クラウドより画像を取得して判定を行う。
【0058】
第1実施形態では、判定部144は、異なる時間に取得された2枚の画像を解析することによって卵が受精しているか判定していたが、本発明はこれに限られない。例えば、判定部144は、(制御部140により選択された)卵における前核の数が最も多く認識できた1枚の画像を解析して卵が受精しているか判定してもよい。この場合、判定部144は、例えば、制御部140により選択された1枚の画像が、前核が2つ確認された画像であった場合、卵が受精していると判定する。
【0059】
また、判定部144は、(制御部140により選択された)異なる時間に取得された3枚の画像を解析することによって卵が受精しているか判定してもよい。この場合、判定部144は、例えば、卵における前核の数が確認されなかった画像1枚と卵における前核が1つ確認された画像1枚と卵における前核が2つ確認された画像1枚との3枚が確認された場合にのみ、卵が受精していると判定する。また、判定部144は、(制御部140により選択された)異なる時間に取得された4枚以上の画像を解析することによって卵が受精しているか判定してもよい。この場合、判定部144は、例えば、4枚以上の画像を時系列的に並べて、前核の数が0、1、2、0の順に増減する変化を確認できた場合にのみ、卵が受精していると判定する。
【0060】
第3実施形態では、入力される画像300は、前核の数についてラベルされた画像であったが、本発明はこれに限られない。例えば、入力される画像は、受精しているとラベルされた画像および受精していないとラベルされた画像であってもよい。
【0061】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
10…受精判定システム
110…培養部
115…容器搬送部
130…画像取得部
140…制御部
142…画像格納部
144…判定部
150…ユーザインタフェース
160…報知部
200…培養容器
300…画像
400…ディープニューラルネットワーク
410…入力層
420…中間層
430…出力層