(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】ポリマーで被覆されたワイヤ
(51)【国際特許分類】
H01B 7/02 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
H01B7/02 Z
H01B7/02 A
(21)【出願番号】P 2022209988
(22)【出願日】2022-12-27
(62)【分割の表示】P 2021519113の分割
【原出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-06-01
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522169793
【氏名又は名称】ゼウス カンパニー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】エバリング,ゼス
(72)【発明者】
【氏名】トムブリン,ブライアン,アール.
(72)【発明者】
【氏名】クロウリー,リチャード
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-154511(JP,A)
【文献】特開2012-084256(JP,A)
【文献】特開2016-126866(JP,A)
【文献】特表2019-519062(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0148037(US,A1)
【文献】特開2013-082760(JP,A)
【文献】特開2012-134140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部の上に酸化物層を含む電気伝導体と、
前記酸化物層の少なくとも一部の上にある絶縁被膜と、
を含む絶縁された電気伝導体であって、
前記電気伝導体が、以下の手順に従って測定した場合に、1.10以下のtanδ減衰比を有する円形断面を有するワイヤである、絶縁された電気伝導体:
a)DMA機器において、カンチレバーグリップによって保持された被覆ワイヤを、1回目に室温から融解吸熱のピーク(DSCによって決定される)に対応する温度T1まで加熱し、
b)T1で1分経過後に、前記被覆ワイヤを室温まで冷却し戻し、
c)前記被覆ワイヤを2回目にT1まで加熱し、
d)1回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm1を決定し、
e)2回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm2を決定し、かつ、
f)m1をm2で割ることによってtanδ減衰比を計算する。
【請求項2】
表面の少なくとも一部の上に酸化物層を含む電気伝導体と、
前記酸化物層の少なくとも一部の上にある絶縁被膜と、
を含む絶縁された電気伝導体であって、
前記電気伝導体が、手順に従って測定した場合に、1.60以下のtanδ減衰比を有する矩形断面を有するワイヤである、絶縁された電気伝導体:
a)DMA機器において、カンチレバーグリップによって保持された被覆ワイヤを、1回目に室温から融解吸熱のピーク(DSCによって決定される)に対応する温度T1まで加熱し、
b)T1で1分経過後に、前記被覆ワイヤを室温まで冷却し戻し、
c)前記被覆ワイヤを2回目にT1まで加熱し、
d)1回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm1を決定し、
e)2回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm2を決定し、かつ、
f)m1をm2で割ることによってtanδ減衰比を計算する。
【請求項3】
前記電気伝導体が、銅、アルミニウム、又はそれらの組み合わせ若しくは合金を含む、請求項1又は2に記載の絶縁された電気伝導体。
【請求項4】
前記電気伝導体が、銅又は銅合金を含む、請求項3に記載の絶縁された電気伝導体。
【請求項5】
前記電気伝導体が、銀被膜、ニッケル被膜、又は金被膜を含む、請求項1又は2に記載の絶縁された電気伝導体。
【請求項6】
前記絶縁被膜が、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)を含む、請求項1又は2に記載の絶縁された電気伝導体。
【請求項7】
前記絶縁被膜が、1種以上の繊維、充填剤、又はそれらの組み合わせを更に含む、請求項1又は2に記載の絶縁された電気伝導体。
【請求項8】
前記絶縁被膜が、実質的にポリアリールエーテルケトン(PAEK)からなる、請求項1又は2に記載の絶縁された電気伝導体。
【請求項9】
前記絶縁被膜が、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)からなる群から選択されるポリマーを含む、請求項1又は2に記載の絶縁された電気伝導体。
【請求項10】
前記絶縁被膜が、PAEKと1種以上のフッ素樹脂とのポリマーアロイを含む、請求項1又は2に記載の絶縁された電気伝導体。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の絶縁された電気伝導体を含む電気モーター。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の絶縁された電気伝導体を作製する方法であって、
表面の少なくとも一部の上に酸化物層を含む電気伝導体を得ることと、
前記電気伝導体及び前記酸化物層のうちの1つ以上の上にポリマー絶縁被膜を、該絶縁被膜が前記電気伝導体から剥離可能でないように、押出成形することと
ここで、該押出成形は周囲大気条件下で行われる;
被覆電気伝導体を冷却することと、
前記冷却された被覆電気伝導体を熱処理することと、
前記熱処理された被覆電気伝導体を冷却して、絶縁された電気伝導体を得ることと、
を含む、方法。
【請求項13】
請求項
12に記載の方法に従って作製される絶縁された電気伝導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は包括的には、絶縁された電気伝導体の分野、及びかかる絶縁された電気伝導体に関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気伝導体は、電荷(電流)を流し通すことを可能にする材料である。ワイヤは、電気伝導体の最も一般的な形の1つであり、通常、アルミニウム、銅、又はそれらの合金等の金属でできている。このような電気伝導体内を電子が流れることで、原子間を移動する電子の活動及びそれに伴う高速運動のため熱が発生し得る。
【0003】
ワイヤ等の電気伝導体を含むデバイスは、電気絶縁体を活用せずには適正に動作し得ない。特に、過度の発熱/発火の問題を防ぎ、感電を防ぎ、そして伝導体及び伝導体が付随するデバイス(複数の場合もある)の適正な機能化及び安全性を確保するために、ワイヤは典型的には絶縁体で被覆されている。絶縁材とその下にある電気伝導体との間の接着は、例えば、使用中に部分的な電気放電を生じ得るエアギャップを避けるのに重要である。電気放電は、特に伝導体と絶縁層との間に(先述のように)エアギャップ/層間剥離が存在する場合には、例えば、伝導体と隣接する絶縁材との間で起こる可能性があり、絶縁層内で、及び/又は絶縁体の外部から起こる可能性がある(この場合、材料が別の近くにあるワイヤ又はモーター機構に放電、すなわちコロナ放電する)。ワイヤが(モーターの巻線等で)積極的に賦形される場合に、少なくとも最初の放電モードを緩和するには、(絶縁材と電気伝導体との間のエアギャップをほとんど又は全く含まない)良好な接着が特に重要である。
【0004】
ポリマーは、多くの理由でワイヤ絶縁に使用される一般的な材料である。或る特定のポリマーは、電流に対する抵抗が高く、可撓性があり(したがって、隅部周辺で容易に屈曲させて、安全に電装箱へと向けることができる)、熱を容易に散逸することができ、ゆっくりとした燃焼が可能であり、比較的安価であり得る。特に、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等のポリエーテルケトンは、典型的には高温の作業窓と、産業環境及び自動車環境に存在する多くの化学物質に対する固有の耐性とのため、導体ワイヤの絶縁材として非常に望ましい。しかしながら、電気伝導体内で使用されるような金属上へのPEEK等の熱可塑性ポリマーの直接押出成形は、このような熱可塑性プラスチックが典型的にはこのような金属にうまく結合しないという点(これは、先述のようにエアギャップ及び層間剥離に付随する多くの問題を引き起こす)で一般に問題がある。これらのポリマーの伝導体への接着は、加工中に酸化物層の存在/形成を被ると考えられており、酸化物層の存在は接着に有害であることが当該技術分野で一般的に理解されている。したがって、電気伝導体上に絶縁層を設けるために、被覆過程/結合過程の間に金属表面から酸素を排除することが試みられてきた。例えば、欧州特許出願公開第3441986号(引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)を参照のこと。接着の問題に対処するために、複数のポリマー層(例えば、焼き付けられたエナメル層を含む)の適用を含む代替法も使用されている。例えば、米国特許出願公開第2015/0021067号(引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)を参照のこと。このような多層配置では、隣接する層間の層間剥離により、絶縁されたワイヤ内に再びエアギャップの形成が不利益にも引き起こされ得る。
【0005】
「加圧被覆(pressure coating)」技術を使用して絶縁体とその下にあるワイヤとの間の密接な接触を向上させることによって、ワイヤへの絶縁体の接着を改善する幾つかの試みがなされてきた。加圧被覆は一般的な押出成形とは区別される。それというのも、加圧被覆では、ワイヤピン/マンドレルが熱可塑性プラスチック押出工具で外側成形ダイの内側に引き込まれるからである。これにより、機械を出る前にワイヤを高圧樹脂で被覆することが可能となる。加圧被覆では、生産物のODと同様のサイズのダイが使用され、ワイヤは被覆形態で押出機を出て行く。それに対して、従来の「ジャケット被覆(jacket coating)又はスリーブ被覆(sleeve coating)」では、より大きな工具セットが使用され、ワイヤが機械を通過するのと同じ方向にチューブが押出成形される。このチューブは押出機を出た後にドローダウンされて伝導体と接触する。ジャケット被覆又はスリーブ被覆の装備における成形ダイとピン/マンドレルとは、機械の出口で同一平面又はほぼ同一平面にあり、出てくるチューブと伝導体との間にエアギャップが存在する。この過程はチューブがドローダウンされて伝導体と密接に接触するように行われる。
【0006】
一般に、加圧被覆技術はワイヤへの絶縁層の「グリップ」を改善し得るが、これらの技術はその下にあるワイヤ表面上の酸化物層への結合を何ら生じるものでないと理解されている。さらに、加圧被覆は、より大きなチューブ押出工具セットを使用することができ、これにより、より低い圧力、絶縁材の同心性/均一性のより容易な制御、及びはるかに速い被覆ライン速度が可能となるジャケット被覆等の他の代替法より望ましくない場合がある。
【0007】
ポリマー被膜とその下にある伝導体との間に効果的な接着を与え得る、被覆電気伝導体を作製する更なる方法を提供することが有利であると考えられる。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、被覆(絶縁)電気伝導体を得る方法、特に絶縁被膜と電気伝導体との間に効果的な接着をもたらす方法を提供する。本開示は、得られる被覆電気伝導体、並びにその特性及び特質を更に記載する。
【0009】
本発明者らは、従来の理解に反して、大気からの酸素排除に厳密な注意を払うことなく周囲空気中で行われる、被覆電気伝導体を製造する方法を開発した。本明細書に開示される方法により、絶縁被膜とその下にある電気伝導体との間に十分な接着を示す被覆/絶縁された電気伝導体を得ることができる。この方法によって製造された被覆電気伝導体は、有利には、本明細書に以下でより十分に記載及び実証されるように、電気伝導体からの絶縁被膜の層間剥離に対して高い抵抗性がある。
【0010】
本開示は、一態様では、表面の少なくとも一部の上に酸化物層を含む電気伝導体と、酸化物層の少なくとも一部の上にある絶縁被膜とを含む絶縁された電気伝導体であって、絶縁被膜が電気伝導体から剥離可能でないように、絶縁被膜と、電気伝導体及び酸化物層のうちの1つ以上との間に接着を示す、絶縁された電気伝導体を提供する。「剥離可能でない」絶縁被膜について言及される特徴は、絶縁被膜が完全な管形又は部分的な管形で(例えば、周囲条件で/空気中室温で)電気伝導体から引き剥がすことができないことを意味し得る。
【0011】
電気伝導体の特徴は多様であり得る。幾つかの実施の形態では、電気伝導体は、ワイヤである。幾つかの実施の形態では、電気伝導体は、円形、正方形、三角形、矩形、多角形、又は楕円形の断面形状を有する。幾つかの実施の形態では、電気伝導体は、銅、アルミニウム、又はそれらの組み合わせを含む。特定の実施の形態では、電気伝導体は、銅を含む。幾つかの実施の形態では、電気伝導体は、銀被膜、ニッケル被膜、又は金被膜を含む。
【0012】
同様に、絶縁被膜の特徴は多様であり得る。幾つかの実施の形態では、絶縁被膜は、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)を含む。例示的なPAEKポリマーには、限定されるものではないが、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)が含まれる。絶縁被膜は、或る特定の実施の形態では、1種以上の繊維、充填剤、又はそれらの組み合わせを更に含み得る。幾つかの実施の形態では、絶縁被膜は、PAEKと1種以上のフッ素樹脂とのポリマーアロイを含む。他の実施の形態では、絶縁被膜は、実質的にポリマー、例えばPAEKからなる。
【0013】
幾つかの実施の形態では、電気伝導体が提供され、その電気伝導体は、以下の手順に従って測定した場合に、1.10以下のtanδ減衰比を有する円形断面を有するワイヤである:
a)DMA機器において、カンチレバーグリップによって保持された被覆ワイヤを、1回目に室温から融解吸熱のピーク(DSCによって決定される)に対応する温度T1まで加熱し、
b)T1で1分経過後に、被覆ワイヤを室温まで冷却し戻し、
c)被覆ワイヤを2回目にT1まで加熱し、
d)1回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm1を決定し、
e)2回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm2を決定し、かつ、
f)m1をm2で割ることによってtanδ減衰比を計算する。
【0014】
幾つかの実施の形態では、絶縁された電気伝導体が提供され、その電気伝導体は、以下の手順に従って測定した場合に、1.60未満のtanδ減衰比を有する矩形断面を有するワイヤである:
a)DMA機器において、カンチレバーグリップによって保持された被覆ワイヤを、1回目に室温から融解吸熱のピーク(DSCによって決定される)に対応する温度T1まで加熱し、
b)T1で1分経過後に、被覆ワイヤを室温まで冷却し戻し、b)被覆ワイヤを2回目にT1まで加熱し、
c)1回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm1を決定し、
d)2回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm2を決定し、かつ、
e)m1をm2で割ることによってtanδ減衰比を計算する。
【0015】
幾つかの実施の形態では、絶縁被膜が電気伝導体から剥離可能でないことを、絶縁被膜に切欠又は裂け目を作り、絶縁被膜を切欠又は裂け目から、長手方向に周囲条件下で空気中にて被覆電気伝導体に沿って剥がして、伝導体から絶縁被膜を剥がすことを試み、絶縁層が電気伝導体から完全な管形又は部分的な管形で剥がれないことを観察することによって決定する。幾つかの実施の形態では、本明細書に開示の絶縁された電気伝導体を含む電気モーターが提供される。
【0016】
本開示の別の態様では、絶縁された電気伝導体を作製する方法であって、表面の少なくとも一部の上に金属酸化物を含む電気伝導体を得ることと、電気伝導体の少なくとも一部の上へとポリマー絶縁被膜を押出成形することと、ここで、押出成形は周囲雰囲気条件下で行われる;被覆電気伝導体を冷却することと、冷却された被覆電気伝導体を熱処理することと、熱処理された被覆電気伝導体を冷却して、絶縁された電気伝導体を得ることとを含む、方法が提供される。幾つかの実施の形態では、押出成形にはジャケット被覆工具を使用する。幾つかの実施の形態では、押出成形には加圧被覆工具を使用する。したがって、幾つかの実施の形態では、上記方法は、加圧被覆によっては一般に得ることができない電気伝導体と絶縁被膜との間に結合を有する被覆伝導体が得られる加圧被覆技術を含む独自のアプローチを提供する。
【0017】
熱処理は、或る特定の実施の形態では、冷却された被覆電気伝導体をポリマー絶縁被膜のガラス転移温度以上の温度に曝すことを含む。熱処理は、加熱された被覆電気伝導体をその温度で特定の期間にわたって保持することを更に含み得る。幾つかの実施の形態では、押出成形及び熱処理は周囲雰囲気下で行われる。本開示は、本開示によって提供される方法に従って作製される絶縁された電気伝導体を更に含む。
【0018】
本開示は、限定されるものではないが、以下の実施の形態を含む。
【0019】
実施の形態1:表面の少なくとも一部の上に酸化物層を含む電気伝導体と、酸化物層の少なくとも一部の上にある絶縁被膜とを含む絶縁された電気伝導体であって、絶縁被膜が電気伝導体から剥離可能でないように、絶縁被膜と、電気伝導体及び酸化物層のうちの1つ以上との間に接着を示す、絶縁された電気伝導体。
【0020】
実施の形態2:電気伝導体が、ワイヤである、上記実施の形態の絶縁された電気伝導体。
【0021】
実施の形態3:電気伝導体が、円形、正方形、三角形、矩形、多角形、又は楕円形の断面形状を有する、上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体。
【0022】
実施の形態4:電気伝導体が、銅、アルミニウム、又はそれらの組み合わせを含む、上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体。
【0023】
実施の形態5:電気伝導体が、銅又は銅合金を含む、上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体。
【0024】
実施の形態6:電気伝導体が、銀被膜、ニッケル被膜、又は金被膜を含む、上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体。
【0025】
実施の形態7:絶縁被膜が、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)を含む、上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体。
【0026】
実施の形態8:絶縁被膜が、1種以上の繊維、充填剤、又はそれらの組み合わせを更に含む、上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体。
【0027】
実施の形態9:絶縁被膜が、実質的にポリアリールエーテルケトン(PAEK)からなる、上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体。
【0028】
実施の形態10:絶縁被膜が、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)からなる群から選択されるポリマーを含む、上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体。
【0029】
実施の形態11:絶縁被膜が、PAEKと1種以上のフッ素樹脂とのポリマーアロイを含む、上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体。
【0030】
実施の形態12:電気伝導体が、以下の手順に従って測定した場合に、1.10以下のtanδ減衰比を有する円形断面を有するワイヤである、上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体:
a)DMA機器において、カンチレバーグリップによって保持された被覆ワイヤを、1回目に室温から融解吸熱のピーク(DSCによって決定される)に対応する温度T1まで加熱し、
b)T1で1分経過後に、被覆ワイヤを室温まで冷却し戻し、
c)被覆ワイヤを2回目にT1まで加熱し、
d)1回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm1を決定し、
e)2回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm2を決定し、かつ、
f)m1をm2で割ることによってtanδ減衰比を計算する。
【0031】
実施の形態13:電気伝導体が、以下の手順に従って測定した場合に、1.60未満のtanδ減衰比を有する矩形断面を有するワイヤである、上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体:
a)DMA機器において、カンチレバーグリップによって保持された被覆ワイヤを、1回目に室温から融解吸熱のピーク(DSCによって決定される)に対応する温度T1まで加熱し、
b)T1で1分経過後に、被覆ワイヤを室温まで冷却し戻し、b)被覆ワイヤを2回目にT1まで加熱し、
c)1回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm1を決定し、
d)2回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm2を決定し、かつ、
e)m1をm2で割ることによってtanδ減衰比を計算する。
【0032】
実施の形態14:絶縁被膜が電気伝導体から剥離可能でないことを、絶縁被膜に切欠又は裂け目を作り、絶縁被膜を切欠又は裂け目から、長手方向に周囲条件下で空気中にて被覆電気伝導体に沿って剥がして、伝導体から絶縁被膜を剥がすことを試み、絶縁層が電気伝導体から完全な管形又は部分的な管形で剥がれないことを観察することによって決定する、上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体。
【0033】
実施の形態15:上記実施の形態のいずれかの絶縁された電気伝導体を含む電気モーター。
【0034】
実施の形態16:絶縁された電気伝導体を作製する方法であって、表面の少なくとも一部の上に酸化物層を含む電気伝導体を得ることと、電気伝導体及び酸化物層のうちの1つ以上の上にポリマー絶縁被膜を、絶縁被膜が電気伝導体から剥離可能でないように、押出成形することと、ここで、押出成形は周囲雰囲気条件下で行われる;被覆電気伝導体を冷却することと、冷却された被覆電気伝導体を熱処理することと、熱処理された被覆電気伝導体を冷却して、絶縁された電気伝導体を得ることとを含む、方法。
【0035】
実施の形態17:押出成形は、加圧被覆工具を使用する、上記実施の形態の方法。
【0036】
実施の形態18:押出成形は、ジャケット被覆工具を使用する、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0037】
実施の形態19:熱処理は、冷却された被覆電気伝導体をポリマー絶縁被膜のガラス転移温度以上の温度に曝すことを含む、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0038】
実施の形態20:熱処理は、加熱された被覆電気伝導体を上記温度で特定の期間にわたって保持することを更に含む、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0039】
実施の形態21:押出成形及び熱処理は、周囲雰囲気下で実施される、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0040】
実施の形態22:電気伝導体が、ワイヤである、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0041】
実施の形態23:電気伝導体が、円形、正方形、三角形、矩形、多角形、又は楕円形の断面形状を有する、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0042】
実施の形態24:電気伝導体が、銅、アルミニウム、又はそれらの組み合わせを含む、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0043】
実施の形態25:電気伝導体が、銀被膜、ニッケル被膜、又は金被膜を含む、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0044】
実施の形態26:絶縁被膜が、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)を含む、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0045】
実施の形態27:絶縁被膜が、1種以上の繊維、充填剤、又はそれらの組み合わせを更に含む、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0046】
実施の形態28:絶縁被膜が、実質的にポリアリールエーテルケトン(PAEK)からなる、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0047】
実施の形態29:絶縁被膜が、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)からなる群から選択されるポリマーを含む、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0048】
実施の形態30:絶縁被膜が、PAEKと1種以上のフッ素樹脂とのポリマーアロイを含む、上記実施の形態のいずれかの方法。
【0049】
実施の形態31:上記実施の形態のいずれかの方法に従って作製される絶縁された電気伝導体。
【0050】
本開示のこれらの及び他の特徴、態様及び利点は、以下で簡潔に記載される添付の図面と併せて以下の詳細な説明を読むことで明らかとなり得る。本発明は、上述の実施の形態の2つ、3つ、4つ又はそれ以上の任意の組み合わせ、及び、本明細書中の具体的な実施の形態の記載においてかかる特徴又は要素を特定して組み合わせているかにかかわらず、本開示に記載される任意の2つ、3つ、4つ、又はそれ以上の特徴又は要素の組み合わせも含むものである。本開示は総合的に読むことが意図され、そのためその様々な態様及び実施の形態のいずれかにおいて、文脈上明示された場合を除き、開示される本発明の任意の分離可能な特徴又は要素は組み合わせることができることが意図されているとみなす。本発明の他の態様及び利点は以下により明らかとなろう。
【0051】
本発明の実施形態を理解するために、添付の図面について言及する。これらは、必ずしも正しい縮尺で描かれているものではなく、図面中、参照符号は、本発明の例示的な実施形態の構成要素を表している。図面は、単なる例示であり、本発明を限定するように解釈されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図2】裸の銅ワイヤのtanδ動的温度走査のグラフである。
【
図3】1回目の走査(実線)及び2回目の走査(点線)における傾きの計算を示す、実施例1の熱処理された試料についてのtanδ走査のグラフである。
【
図4】1回目の走査(実線)及び2回目の走査(点線)における傾きの計算を示す、実施例1の未処理の試料についてのtanδ走査のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
ここで、以下に本発明を更に詳しく説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書に示される実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示を徹底した完全なものにし、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるために提示されるものである。本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合に、単数形("a"、"an"、及び"the")は、文脈上別段の明示的な規定がない限り、複数の指示対象を含む。
【0054】
本開示は、被覆電気伝導体、及びそのような被覆電気伝導体を製造する方法を提供する。本明細書で以下により徹底して記載されるように、被膜は典型的には絶縁材料であるため、被覆電気伝導体は、絶縁された電気伝導体である。驚くべきことに、本明細書に示される被覆電気伝導体は、被覆電気伝導体が絶縁被膜と電気伝導体との間に少なくとも部分的な酸化物層を含むように周囲雰囲気下で(例えば、酸素を厳密に排除することなく)製造され得る。それにもかかわらず、本明細書で実証されるように、絶縁被膜及び電気伝導体は、そのような酸化物層を排除することの重要性に関する従来の理解に反して、十分な接着を示し、幾つかの実施形態では優れた接着を示す。
【0055】
第1の態様では、本開示は、
図1に包括的に概説されるように、被覆電気伝導体を製造する方法を提供する。図示されるように、この方法は、4つの工程、すなわち、被覆電気伝導体を得る押出成形工程と、得られる被覆電気伝導体を冷却する工程と、熱処理工程と、所望の生産物を得る第2の冷却工程とを含む。押出成形工程は一般に、熱可塑性ポリマーを溶融し、これを電気伝導体の表面へと適用することを含む。開示された方法の押出成形工程では、加圧被覆技術又はジャケット被覆技術のいずれかが使用され得る。通常、押出成形は、電気伝導体をダイオリフィス中に向け、ダイオリフィスを通して電気伝導体を引き抜き、予め決められた絶縁被膜厚さを生ずる条件下でワイヤが引き出されるように上記電気伝導体を溶融ポリマーと接触させる手段を含む、この目的に特有の機器を使用して行われる。電気伝導体上に熱可塑性ポリマーを押出成形する方法は知られている。例示的な方法は、例えば、https://www.victrex.com/~/media/literature/en/victrex_extrusion-brochure.pdf(引用することによりその全体が本明細書の一部をなす)に開示されている。当業者は、例えば、一貫した絶縁被膜が達成され、様々な被覆厚さ等が得られるように加工条件を変更することを把握している。
【0056】
有利には、本開示による押出は、酸素の不存在下で実施する必要がない。実際、或る特定の実施形態では、押出成形工程は、周囲雰囲気下(酸素が大気から意図的に除去されていない(未処理の)空気中等)で実施される。したがって、押出成形は、幾つかの実施形態では、酸素の存在下で実施されると記載され得る。電気伝導体がその上に絶縁被膜を押出成形する前に実質的に酸化物不含であることを保証するための前処理工程(例えば、欧州特許出願公開第3441986号(引用することによりその全体が本明細書の一部をなすものとする)に概説されているような酸素不含の保護ガス雰囲気下でのプラズマ処理)は必要とされない。
【0057】
押出成形で使用される材料は多様であり得る。電気伝導体は一般に、電気伝導性に適したあらゆる材料を含む。特定の実施形態では、電気伝導体は酸化し得る金属を含み、或る特定のそのような実施形態では、電気伝導体はその表面の少なくとも一部の上にそのような金属を含む。典型的には、電気伝導体は、銅、アルミニウム、又はそれらの組み合わせ若しくは合金を含む材料等の金属を含む。幾つかの実施形態では、電気伝導体は、その上に金属被膜等の被膜を含み得る。金属被膜は、例えば、銀、ニッケル、又は金を含み得る(金属被覆/金属めっきされた伝導体が提供される)。本開示は、電気伝導体上での熱可塑性ポリマーの適用について言及しているが、本明細書で概説される原理及び方法は、他の材料上(例えば、電気伝導体ではない金属を含む材料上)での熱可塑性ポリマーの適用に使用され得ることに留意されたい。
【0058】
電気伝導体のサイズ及び形状は多様であり得る。或る特定の実施形態では、電気伝導体はワイヤである。例えば、電気伝導体は、銅含有ワイヤ(例えば、銅ワイヤ)、アルミニウム含有ワイヤ(例えば、アルミニウムワイヤ)、又はメッキされた銅含有ワイヤ若しくはアルミニウム含有ワイヤであり得る。電気伝導体は、サイズ及び形状が上記方法で使用される押出装置と適合性がある限り、円形、正方形、三角形、矩形、多角形、又は楕円形等のあらゆる断面形状を有し得る。
【0059】
電気伝導体に適用されるポリマー材料は、当該技術分野で知られる、例えば熱の適用によって軟化及び溶融することができ、液体状態で(例えば、押出成形によって)加工することができる熱可塑性ポリマーを含む。或る特定の実施形態では、ポリマー材料は、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)を含む。PAEKは、半結晶性の熱可塑性ポリケトン類である。ポリマー材料は、典型的には、過半量のPAEK、すなわち、少なくとも約70重量%のPAEKを含む(残部は、例えば、以下で更に詳細に記載される充填剤、繊維、又は他のポリマーである)。更なる実施形態では、ポリマー材料は、少なくとも約80重量%、少なくとも約90重量%、少なくとも約95重量%、少なくとも約98重量%、又は少なくとも約99重量%のPAEKを含む。ポリマー材料は、幾つかの実施形態では、実質的にPAEKからなり得る。例示的なPAEKポリマーには、限定されるものではないが、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)からなる群から選択されるポリマーが含まれる。
【0060】
先述のように、幾つかの実施形態では、ポリマー材料は、PAEKに加えて、1つ以上の追加の成分を含む。一般に、ポリマー材料は、PAEKに加えて、PAEKが一次絶縁材として機能する場合の特性向上に適したあらゆる添加剤を含み得る。幾つかの実施形態では、ポリマー材料は、PAEKと、1種以上の繊維、充填剤、又はそれらの組み合わせとを含む。本明細書に開示される熱可塑性ポリマー内に任意に含まれる繊維及び/又は充填剤は、例えば、1つ以上のポリマー特性の向上に有用であることが知られているあらゆる材料であり得る。様々な関連する充填剤が知られており、これらは本明細書に開示される樹脂及び/又は対応する絶縁被膜内で使用され得る。或る特定の例示的な充填剤及び他の添加剤には、限定されるものではないが、ガラス球、ガラス繊維、あらゆる形態の炭素(例えば、色(color)、ナノチューブ、粉末、繊維)、硫酸バリウム(BaSO4)、亜炭酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、タングステン等の放射線不透過剤、窒化ホウ素(BN)マトリックス等の放熱フィラー(cooling fillers)、着色剤/顔料、加工助剤、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0061】
他の実施形態では、ポリマー材料は、1つ以上の追加のポリマーを含み得る(例えば、こうしてPAEKとのポリマーアロイが得られる)。例えば、ポリマー材料は、幾つかの実施形態では、1種以上のフッ素ポリマーを含み得る。様々なフッ素ポリマーは、かなり高い割合まで(例えば、30%まで)PAEK中に容易に混和可能であることが知られており、そのような組み合わせ/合金が本明細書に示される方法で使用され得る。幾つかの実施形態では、1種以上のフッ素ポリマーをPAEKとともに含むことで、物理的利益が与えられる。それというのも、フッ素ポリマーは一般に、絶対誘電率及び誘電性に関して並外れた電気的特性を有し(しかし、しばしば耐摩耗性に乏しく、結合可能ではない)、摩擦軽減(これは、得られる生産物を、例えば密に詰まったモータースロット中でより簡単に取り付けることをより容易にし得る)等の或る特定の特性を材料に与えることができるからである。幾つかの実施形態では、追加のポリマー(複数の場合もある)の含有量は、幾らか低いレベルで、例えば、ポリマー材料の約70%以上がPAEKを含む、又はポリマー材料の約80%以上、約85%以上、約90%以上、約95%以上、約98%以上、若しくは約99%以上がPAEKを含むように維持される。
【0062】
押出成形工程の後に、得られる被覆電気伝導体は、少なくともわずかに、例えば材料のガラス転移温度(Tg)未満に冷却される。この冷却に続いて、被覆電気伝導体に対して熱処理を行う。この熱処理工程は、通常、被覆電気伝導体を昇温下で、例えば被覆電気伝導体上の絶縁被膜のTg以上で処理することを含む。幾つかの実施形態では、この温度は、ポリマー樹脂の融点(Tm)以上であり得る。様々な実施形態では、樹脂を少なくとも部分的に再溶融するのに十分なあらゆる温度が、この熱処理工程に十分である。熱処理のパラメーターは特に限定されず、熱処理は、有利には、酸素を含む雰囲気中で、例えば(未処理の)空気中等の周囲雰囲気条件で実施され得る。加熱に適した方法は広く知られており、本明細書に開示される方法で使用され得る。例えば、様々な実施形態では、熱処理工程は、被覆電気伝導体を炉内で生成された熱に曝すことによって実施される。様々な実施形態では、熱処理工程は、放射加熱、赤外線加熱、誘導加熱、マイクロ波加熱、流体との伝導を介した加熱、対流加熱、及びそれらの任意の組み合わせのうちの1つ以上を使用することができる。幾つかの実施形態では、熱処理は単回の加熱を含むが、これに限定されるものではない。幾つかの実施形態では、被覆電気伝導体は、2回以上加熱される(合間に冷却を伴う)。或る特定の実施形態では、被膜が溶融して十分な接着が得られるように流動し得ることを確実にするために、このような複数回の加熱が望ましい場合がある。
【0063】
熱処理工程では、被覆電気伝導体を加熱(先述のように1回又は2回以上)した後に、言及される昇温下で所与の期間にわたって保持する。この期間は多様であり得て、例えば、数秒又は数分から数時間の範囲であり得る。一例として、加熱は、幾つかの実施形態では、被覆電気伝導体をオーブンに入れ、これを約1分以上、例えば、約1分~約2時間又は約5分~約30分の時間にわたってオーブン内で保持することによって実施され得る。
【0064】
熱処理された被覆電気伝導体は、熱処理後に、例えば周囲温度まで冷却される。得られる被覆電気伝導体は、驚くべきことに、伝導体とその上にある絶縁被膜との間に十分どころか優れた接着性さえも示す。特に、そのような被覆電気伝導体は、絶縁被覆層がその下にある電気伝導体から層間剥離することに対して抵抗性が高いことが判明した。したがって、驚くべきことに、本明細書に概説された方法が、得られる被覆電気伝導体に付随する独自の特性をもたらすことが判明した。理論によって限定されることを意図するものではないが、本明細書に概説される多段階方法(被覆伝導体の押出成形、冷却、及び再加熱を含む)により、伝導体の表面の金属酸化物層と隣接するポリマー絶縁材料中に存在するPAEKとの間に良好な結合を有する被覆生産物が得られると考えられる。本明細書の以下の実施例でプラーク試験(plaque testing)の形で言及される試験データは、実際、金属酸化物とPAEKとの間に生じた結合が、予想外にも金属酸化物と伝導体の金属との間の結合よりも強度が大きいことを示している。幾つかの実施形態では、被覆電気伝導体の動的機械的応答(本明細書で以下に更に詳細に記載される)の変化を測定して、伝導体と絶縁層との間の十分な接着を与える開示された方法で使用される条件を特定することが有益であり得ることに留意されたい。
【0065】
本明細書に示される被覆電気伝導体は、電気伝導体及びその上にある絶縁被膜を含むとともに伝導体と絶縁被膜との間に金属酸化物を有することから、これは或る特定の既知の被覆電気伝導体とは区別される。存在する特定の金属酸化物(複数の場合もある)は、電気伝導体の構成に依存することが理解される(例えば、銅の電気伝導体は、酸化銅を含む)。伝導体と絶縁被膜との間に存在する酸化物の量は、処理条件、例えば、上記方法の工程が実施される特定の環境、熱処理工程において材料が昇温下に保持される時間、並びに押出成形及び/又は熱処理の温度に基づき多様であり得る。先述のように、定量化していないが、開示される被覆伝導体は、伝導体の表面に存在する金属酸化物と絶縁ポリマーのPAEKとの間に強い結合を有すると考えられる。改めて、理論によって限定されることを意図するものではないが、絶縁ポリマーのPAEKと金属酸化物との間にこれらの結合が存在すると、被覆生産物の言及される強度/完全性がもたらされる(本明細書で後述される種類の剥離/可剥性を従来の生産物に対して大幅に受けにくくする)と考えられる。
【0066】
本開示の被覆電気伝導体は、典型的には、酸化物及びそれにより形成される結合の種類によるだけでなく、その物理的特性、すなわち電気伝導体と絶縁被膜との間の結合強度によっても、或る特定の既知の被覆電気伝導体から区別される。結合強度は、様々な様式で評価され得る。
【0067】
幾つかの実施形態では、開示される被覆電気伝導体は、絶縁被膜のその下にある電気伝導体からの手操作での可剥性(manual peelability)(本明細書では「剥離性」とも呼ばれる)に関して記載される。剥離可能な絶縁被膜は、管形で簡単に伝導体から引き剥がされ得る。可剥性が低下すると、これが不可能となり、その代わりに絶縁被膜はばらばらに引き剥がされる。例えば、絶縁被膜に切欠/裂け目を作り、絶縁被膜を被覆電気伝導体の長さに沿って引っ張り/剥がして、伝導体から絶縁被膜を剥離させることを試みる手操作での剥離試験が実施され得る。不十分な接着を示す生産物は、被覆電気伝導体の長さに沿って、例えば、絶縁被膜の1つの長い完全物で容易に剥離する。本開示の範囲内の生産物は、そのような剥離性を示さない。むしろ、開示される被覆電気伝導体は、決して大きな程度で剥離しないほど(例えば、絶縁層がその下にある電気伝導体から完全な管形又は部分的な管形で剥離し得ないほど)十分な接着性を有する。手操作での可剥性の非限定的な実証についての実施例を参照のこと。
【0068】
或る特定の実施形態では、本発明の被覆電気伝導体は、切り欠き/引き裂き及び/又は剥離が試みられたときに絶縁被膜の小さな区間の欠けを示すにすぎない。本明細書に記載される様々な生産物はこうした特性を示す、すなわち絶縁被膜はその下にある電気伝導体から容易に剥離可能ではない。幾つかの実施形態では、開示される被覆電気伝導体は、積極的な賦形後に重大な層間剥離を示さない(特に絶縁被膜と電気伝導体との間に層間剥離を含まない)と記載される。一般に、積極的な賦形は、当該技術分野では、丸形ワイヤの場合には、賦形材をワイヤ自身の直径周りに巻き付け、しわの生成又は層間剥離についての賦形材の内径(ID)を調べることと理解される。矩形断面の積極的な賦形の場合には、巻き付けは、長軸、短軸、任意の内側半径のコルクスクリュー曲げで曲げられた部分と置き換えることができ、又は明白な層間剥離、亀裂、若しくは悪影響なしに全てのねじれに対処することができる。層間剥離は、材料が層へと分離する(本明細書では、絶縁被膜が電気伝導体から分離する)故障モードである。視覚的に、すなわち伝導体と絶縁被膜との間の界面を調べることによって、層間剥離を容易に観察することができる。様々な実施形態では、開示される被覆伝導体を言及される積極的な賦形方法に供する前及びその後の両方で、肉眼で(すなわち、拡大せずに)視覚的な層間剥離が観察されないことが有利である。様々な試験方法が知られており、層間剥離がないことを評価するためにも同様に使用され得る。
【0069】
幾つかの実施形態では、開示される被覆電気伝導体は、その減衰した動的機械的応答によって示されるその結合強度に関して記載される。処理の程度によりポリマーで被覆されたワイヤの動的機械的応答は減衰し、この減衰がポリマーのワイヤへの接着の指標となることが判明した。減衰は、例えば動的機械分析装置(DMA)でのtanδの動的温度走査から決定され得る。例えば、K.P. Menard, Dynamic Mechanical Analysis: A Practical Introduction, CRC Press, 1999(引用することにより本明細書の一部をなす)を参照のこと。tanδは、損失弾性率(E’’)対貯蔵弾性率(E’)の比として定義されるため、これはエネルギーの粘性散逸による減衰の指標となる。この分析は、開示された方法の熱処理工程に非常に類似している(被覆ワイヤを用い、1回目の熱対2回目の熱における動的応答を調べる。ここで、2回目の熱は生産物の後続の熱処理を示す)。
【0070】
例えば、裸の銅ワイヤを動的温度走査に供した場合に、温度に対するtanδのプロットは注目に値せず、明確な転移ピークは存在しない。
図2を参照のこと。絶縁された銅ワイヤを同じDMA法に供した場合に、温度に対するtanδのプロットは、
図3及び
図4に見られるように、絶縁層のポリマーに典型的な範囲で明確な転移を示すこととなる。例として、PEEKの場合には、転移は150℃より高い温度で始まる。
【0071】
目下、接着性の強い絶縁被覆層は、tanδ転移領域において接着性の弱いポリマー層と比較して減衰した応答を有することが認識された。この効果は1回目の動的温度走査の間の熱転移の開始時の曲線の傾きを計算することによって定量化され得る。次いで、絶縁されたワイヤをそのピーク融解温度(示差走査熱量測定(DSC)によって決定される)で1分間維持した後に室温まで冷却する。次いで、後続の動的温度走査の間に2つ目の傾きを計算する。1回目の走査の間に得られた傾きを2回目の走査の間に得られた傾きで割ることによって、減衰の程度を定量化することができる。
【0072】
本発明者らは、tanδ減衰の程度がポリマーと伝導体との間の接着の指標となることを見出した。或る特定の実施形態では、不十分な接着の場合に、減衰比は、例えば円形断面を有するワイヤの場合に1.10より大きい。言い換えると、動的温度走査の間の絶縁体及びワイヤの加熱により、接着が不十分な場合、加熱サイクルの合間にtanδの傾きに大幅な変化がもたらされる。そのような例示的な実施形態の1つは
図3に示されている。しかしながら、このような実施形態では、接着が良好である場合、tanδに対する加熱サイクルの影響はより軽減され、比率は1.10以下となる。そのような例示的な実施形態の1つは
図4に示されている。
【0073】
このDMAの傾きは、伝導体と絶縁被膜との間の接触の密接さの指標となる。接着されていないワイヤは、伝導体/絶縁被膜の界面に微小すべりを有することとなる。未処理のワイヤに対して1回目のDMAサイクルを実行する場合、これは事実上、開示される方法(上記で詳細に説明されている)の熱処理工程を再現している。結合が改善された場合に、下にある酸化銅層に付着するため、ワイヤは2回目のDMAサイクルでは異なる応答を示すこととなる。結合された試料(開示される方法に従って得られる)では、下にある酸化銅層への結合によって1回目の微小すべりが既に排除されているため、傾きの差ははるかに小さくなる。
【0074】
特定の一実施形態では、ワイヤの形態の被覆電気伝導体は、以下の手順に従って測定した場合に、1.10以下のtanδ減衰比を有する円形断面を有している:
a)DMA機器において、カンチレバーグリップによって保持された被覆ワイヤを、1回目に室温から融解吸熱のピーク(DSCによって決定される)に対応する温度T1まで加熱し、
b)T1で1分経過後に、被覆ワイヤを室温まで冷却し戻し、
c)被覆ワイヤを2回目にT1まで加熱し、
d)1回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm1を決定し、
e)2回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm2を決定し、かつ、
f)m1をm2で割ることによってtanδ減衰比を計算する。
【0075】
別の特定の実施形態では、ワイヤの形態の被覆電気伝導体は、以下の手順に従って測定した場合に、1.60未満のtanδ減衰比を有する矩形断面を有している:
a)DMA機器において、カンチレバーグリップによって保持された被覆ワイヤを、1回目に室温から融解吸熱のピーク(DSCによって決定される)に対応する温度T1まで加熱し、
b)T1で1分経過後に、被覆ワイヤを室温まで冷却し戻し、b)被覆ワイヤを2回目にT1まで加熱し、
c)1回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm1を決定し、
d)2回目の加熱サイクルの間のポリマーの熱転移領域の開始時のtanδ曲線の傾きm2を決定し、かつ、
e)m1をm2で割ることによってtanδ減衰比を計算する。
【0076】
更なる実施形態では、電気伝導体と絶縁被膜との間に十分なレベルの接着を有する被覆電気伝導体を得る方法が提供される。「十分さ」は多様であり得て、例えば、本明細書に概説される方法のいずれかに従って規定され得る。この方法は、通常、本明細書に記載される方法のパラメーターを操作して、生産物の動的機械的応答の特定の減衰を得る(例えば、丸形断面を有するワイヤの場合に1.10以下のtanδ減衰比、又は矩形断面を有するワイヤの場合に1.60未満のtanδ減衰比を得る)ことを含む。
【0077】
DMA試験は、例えば、ポリマー絶縁被膜中に存在するかなりの量の充填剤/添加剤/他のポリマーの存在によって影響され得ることに留意されたい。したがって、幾つかの実施形態では、DMAに関して本明細書に示される試験方法及び試験結果は、幾つかの実施形態では、低いレベルの他の成分(例えば、約10%未満の他の成分、約5%未満の他の成分、又は約2%未満の他の成分)を有するPAEKベースのポリマー絶縁被膜の状況に特に関連し得る。一般的な問題点として、絶縁被膜のDSCトレースが複雑であると考えられる場合に、DMA法は評価に適していない。
【0078】
本明細書に示される或る特定の被覆電気伝導体の特性は、長手方向延伸に応答して示される部分放電に基づき更に以下のように記載され得る。所与の歪み(例えば、20%の歪み)を、熱処理された被覆ワイヤ及び比較用の(熱処理されていない)被覆ワイヤに適用する。このような試験は、ワイヤ表面でのコロナ放電を切り離し、伝導体で又は絶縁層自体の内部での欠陥のみが示されるように有利に設計されている。ワイヤは、ワイヤ直径の5倍のマンドレルの周りに2つのループで巻き付けられることから、モーター巻線用途での賦形又はシステムへとワイヤを取り付ける曲げ半径がシミュレートされる。この試験は、応力を加えて賦形したときに、生産物が伝導体と絶縁層との間に重大なエアギャップを示すかどうか(これは、伝導体と層との間に十分な結合を欠いていることを示すこととなる)が判定されるように設計されている。以下でより徹底して記載されるように、低い電圧値(例えば、6000VAC未満)で高い部分放電(例えば、20pCを超えるPD)に達することによって、重大なエアギャップが証明される。
【0079】
外部エアギャップで放電が発生し得るツイストペアのPDIV試験で典型的であるコロナ(表面放電)を切り離すために、マンドレル上に巻き付けられたワイヤループを飽和塩水浴中に沈める。塩水浴は、水面下に沈められた試験用の接地電極を有する。この塩水浴はワイヤの表面から沈められた接地へと直接的に全ての電荷を効果的に運び去るので、PD測定回路にコロナ効果は認められ得ない。ワイヤを水浴に入れる際に放電を防ぐために、絶縁油又は絶縁流体(例えば、シリコーン油)を水面に置くことができる。ワイヤ表面でのコロナ放電は、この電気的試験の当業者によって容易に特定可能であり、これは特徴的なブーンという音として見聞きすることができ、この表面コロナからの結果は打ち消されるべきである。示される実施形態における特定の絶縁流体はシリコーン油であった。このような処理/試験(言及された歪み及びマンドレル賦形を含む)は、被覆電気伝導体が曝される典型的な条件である積極的な取り扱い及びモーター巻線をシミュレートしている。したがって、そのような結果は、幾つかの実施形態では、所与の生産物がその使用される条件下で良好な結合を示す能力を評価することに特に関連し得る。或る特定の実施形態では、この試験において持続的な20pCの放電なしで、6000VAC以上の値が、開示される被覆伝導体によって示される。この試験は、どの実施形態についても常に確実であるとは限らないことに留意されたい。例えば、非常に薄い被覆伝導体は、6000VACより前に故障する場合がある。しかしながら、或る特定の被覆伝導体の場合に、このような結合強度の評価は、生産物が関連する状況で重大な層間剥離なしに有用となるのに十分な特性を示すことを確認するのに有用な方法である。
【0080】
この試験方法での20%の歪み及びその後の積極的な賦形は、空隙を生ずるように設計されている。本開示に示される方法に供された生産物は、先に開示された値(6000VACまで)と同様に部分放電を示さない又は浴中で絶縁破壊が発生する(非常に薄い被膜の場合)。適切に接着されたワイヤ(開示される方法に従って得られる)では、20%の歪み及び積極的な賦形の後に、20Pc以下を上回る持続放電は発生しない。結合されていないワイヤでは、エアギャップの存在なく20%の歪み及び積極的な賦形が可能である場合があり、これは20pCの持続放電も示さないが、熱処理時の傾き分析においてDMA試験応答で明らかとなる。したがって、本明細書で先に開示された部分放電分析及びDMA分析の組み合わせは、幾つかの実施形態では、被覆ワイヤを分析するのに特に適切であり得る。
【0081】
開示される被覆電気伝導体及び関連する方法は、その上に単一の絶縁(例えば、PAEK)被膜を有する電気伝導体に限定されないことが理解されるべきである。むしろ、本開示は、1つ以上の追加の層が被覆生産物を更に包含することを意図している。本明細書に記載及び例示されるように、本発明者らは、電気伝導体と熱可塑性ポリマー被膜との間に強い結合を形成する能力を独自に開発した。この最初の被膜が(本明細書に示されるように)得られれば、更なる層は特に限定されない。したがって、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、又は更により多くの追加の層を有する被覆電気伝導体も本開示の範囲内であり、これらの追加の層は、同じでも又は互いに相違していてもよく、例えば、共押出成形又は逐次層形成のいずれかによって絶縁被覆ポリマーに結合するあらゆるポリマーを含み得る。このような任意の追加の層は、完全にポリマーであってもよく、又は先述の充填剤及び/又は添加剤の種類のいずれかを含有してもよい。本明細書に開示される絶縁された伝導体は様々な用途で使用され得る。例えば、幾つかの実施形態では、本開示は、本明細書に開示される1つ以上の絶縁された電気伝導体を備える電気モーターを提供する。
【実施例】
【0082】
実施例1:AWG15のCuワイヤ上のPEEK(Vestakeep 5000G)
一方が熱処理工程を伴い、一方が熱処理工程を伴わない2つの試料を製造した。ワイヤはAWG15のCuワイヤであり、9FPMの速度で管被覆用クロスヘッドを利用する3/4インチの24:1の熱可塑性プラスチック押出機を使用して、公称0.006インチのPEEKの絶縁層を適用した。被覆前に、外部熱源を用いてこのワイヤを酸素含有環境(周囲空気)中でおよそ400°Fに予熱した。0.285インチのダイ及び0.210のマンドレル(スリーブ被覆技術用に設計されており、これは一般に結合の形成には不利であるとみなされている)を使用して、AWG15ワイヤ上でのPEEK熱可塑性プラスチックのドローダウンを設定した。押出成形後に、それぞれの被覆生産物を完全に冷却し、1つの生産物は更に加工せず、もう1つは引き続きPEEKのガラス転移温度より高い温度で加熱し(溶融し)、そして周囲空気中で冷却した。これらの試料を特性評価する方法を以下に示す。全ての特性評価データは、実施例5の下の表1に示されている。
【0083】
手操作での可剥性
剥離の手操作での伝播による方法を使用して、絶縁被膜と伝導体との間の接着強度を評価した。一方の端部近くで、絶縁されたワイヤの周囲から1.5インチの長さを取り除く。次いで、かみそりの刃を使用して、この端部から開始して0.5インチの長さにわたり絶縁被膜に切り込みを入れる。次いで、絶縁被膜をワイヤから分離するのに必要とされる労力を1~3のスケールで評価する。切れ目を入れた後に、ほとんどないし全く労力をかけずに絶縁材が剥がれる場合には、1の値が割り当てられる。絶縁層が剥がれ始めるのに労力を要するが、一旦始まると容易に剥がれる場合には、2の値が割り当てられる。絶縁材が剥がれない場合又は0.125インチ未満の区間で絶縁材が剥がれる場合には、3の値が割り当てられる。剥離の手操作での伝播の試験により、熱処理されていない試料については「1」の値が得られ、熱処理された試料については「3」の値が得られた。
【0084】
減衰比
TA Instruments社のDSC Q2000を使用して、ASTM D3418-15:示差走査熱量測定法による転移温度及びポリマーの融解及び結晶化のエンタルピーの標準試験法(Standard Test Method for Transition Temperatures and Enthalpies of Fusion and Crystallization of Polymers by Differential Scanning Calorimetry)(2015年)を使用して試料の熱挙動を特性評価した。絶縁材を伝導体から取り外し、アルミニウムパン内にて30℃で平衡化した後に、10℃/分の一定速度で400℃まで加熱した。次いで、10℃/分の一定速度を使用して、試料を30℃まで冷却し戻した。試料をもう一度10℃/分の速度で400℃に加熱した。TA Instruments社のUniversal Analysis 2000 v4.5Aソフトウェアを使用して、DSCデータを分析した。融解吸熱のピークは339℃であると決定された。
【0085】
DMA試験をASTM D4065-12:プラスチックの標準プラクティス:動的機械的特性:手順の決定及び報告(Standard Practice for Plastics: Dynamic Mechanical Properties: Determination and Report of Procedures)(2012年)(引用することにより本明細書の一部をなす)に基づき実施して、動的温度走査においてtanδ曲線を決定した。カンチレバー固定具を備えたTA instruments社のQ800 DMAを使用して、室温から339℃まで動的温度走査をして、339℃で1分間等温に保持することによってtanδを決定した。1Hzの固定周波数のたわみ振動で30μmの一定振幅で変位させながら、試料を3℃/分の一定速度で加熱した。1回目の温度走査が完了したら、試料を室温まで冷却させた。次いで、1回目の加熱ランプと同じパラメーターを使用して、2回目の動的温度走査を実施した。両方の加熱サイクルが完了した後に、DMAデータをOriginLab社のOriginPro 2019b v.9.65データ分析及びグラフ作成ソフトウェアへとインポートした。絶縁層の熱転移に対応する変曲点の後で傾きを計算した。次いで、1回目の傾きを2回目の傾きで割ることによって、それぞれの動的温度走査について得られた傾きの比を取った。試料を熱処理しなかった場合に、この比は1.65である。試料を熱処理した場合に、この比は0.76である。
【0086】
実施例2:AWG15のCuワイヤ上のPEEK(Solvay社のKT-820NT)
一方が熱処理工程を伴い、一方が熱処理工程を伴わない2つの試料を製造した。異なるPEEK樹脂を使用し、押出速度が8フィート毎分であったことを除いて、これらの試料を実施例1の試料と同様に作製した。特性評価データは、実施例5の下の表1に示されている。
【0087】
実施例3:AWG18のCuワイヤ上のPEEK(Victrex社の381G)
一方が熱処理工程を伴い、一方が熱処理工程を伴わない2つの試料を製造した(上記の実施例1の方法と同様に作製した)。ワイヤはAWG18のCuワイヤであり、15.5FPMの速度で管被覆用クロスヘッドを利用する3/4インチの24:1の熱可塑性プラスチック押出機を使用して、公称0.00145インチのPEEKの絶縁層を適用した。被覆前に、外部熱源を用いてこのワイヤをおよそ400°Fに予熱した。0.253インチのダイ及び0.200のマンドレルを使用して、AWG18ワイヤ上でのPEEK熱可塑性プラスチックのドローダウンを設定した。押出成形後に、それぞれの被覆生産物を完全に冷却し、1つの生産物は更に加工せず、もう1つは引き続きPEEKのガラス転移温度より高い温度で1時間加熱し(溶融し)、そして周囲空気中で冷却した。特性評価データは、実施例5の下の表1に示されている。
【0088】
比較例1:Dacon社のD-20APK2のAWG20のCuワイヤ
これは、0.003の公称肉厚を有する比較市販製品(Cuワイヤ上にPEEK)である。PEEK被膜はワイヤストリッパーにより被覆物から簡単に外れて、賦形可能性まで持ちこたえることができなかった。
【0089】
実施例4:AWG20.5のCuワイヤ上のPEEK(Victrex社の150G)
熱処理工程を伴って試料を製造した(上記の実施例1の対応する方法と同様に作製した)。ワイヤはAWG20.5のCuワイヤであり、公称0.0039インチのPEEKの絶縁層を適用した。被覆前に、外部熱源を用いてワイヤをおよそ400°Fに予熱した。押出成形後に、被覆生産物を完全に冷却した。これを引き続きPEEKのガラス転移温度より高い温度で1時間加熱し(溶融し)、そして周囲空気中で冷却させた。特性評価データは、実施例5の下の表1に示されている。
【0090】
実施例5:Cu矩形ワイヤ上のPEEK(Solvay社のKT-820NT)
一方が熱処理工程を伴い、一方が熱処理工程を伴わない2つの試料を製造した(上記の実施例1の方法と同様に作製した)。ワイヤはCu矩形ワイヤであり、3.6FPMの速度で管被覆用クロスヘッドを利用する1インチの24:1の熱可塑性プラスチック押出機を使用して、公称0.0075インチのPEEKの絶縁層を適用した。被覆前に、外部熱源を用いてこのワイヤをおよそ400°Fに予熱した。0.400インチのダイ及び0.361のマンドレルを使用して、矩形ワイヤ上でのPEEK熱可塑性プラスチックのドローダウンを設定した。押出成形後に、それぞれの被覆生産物を完全に冷却し、1つの生産物は更に加工せず、もう1つは引き続きPEEKのガラス転移温度より高い温度で1時間加熱し(溶融し)、そして周囲空気中で冷却した。特性評価データは、この実施例の下の表1に示されている。
【0091】
様々な実施例で試験された種々の樹脂及びワイヤは、選択された特定の樹脂又は選択された特定のワイヤに関連するばらつき(サイズ及び/又は形状)をほとんどないし全く示さなかった。結果として、開示された方法は樹脂グレードに特化したものではなく、PAEK樹脂だけでなく充填樹脂及び合金樹脂もまた、開示される方法(例えば、熱処理値に関するtanδの低下、結合の改善、及び重大な層間剥離の形跡なしに可能な賦形可能性に基づく)を使用して適切に機能することが判明した。
【0092】
【0093】
本発明の多くの変形形態及び他の実施形態が、上記説明に提示された教示の利益を有する、本発明が関係する技術分野の当業者には思い付くであろう。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、変形形態及び他の実施形態が、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されていることが理解されるべきである。特定の用語が本明細書において用いられているが、それらの用語は、限定の目的で用いられているのではなく、一般的かつ説明的な意味でのみ用いられている。