(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】塩味調整剤及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/10 20160101AFI20240502BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20240502BHJP
【FI】
A23L27/10 G
A23L27/00 Z
(21)【出願番号】P 2022211693
(22)【出願日】2022-12-28
【審査請求日】2023-01-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 New Food Industry, 2022年64巻8月号,第543頁~第551頁(2022年8月1日エヌエフアイ合同会社発行)にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000105051
【氏名又は名称】クロレラ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156959
【氏名又は名称】原 信海
(72)【発明者】
【氏名】蒲池 加寿子
(72)【発明者】
【氏名】菅野 敏博
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-093420(JP,A)
【文献】特開昭54-023170(JP,A)
【文献】Chematels [オンライン], 2021.03.15 [検索日 2024.01.31], インターネット:<URL:https://chematels.com/articles/ckm454mlc5say0a844fklvfl9>
【文献】New Food Industry,1984年,Vol.26, No.4,pp.17-21
【文献】New Food Industry,2017年,Vol.59, No.11,pp.11-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/10
A23L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロレラを熱水抽出して得られるクロレラエキスを原料とし、飲食物の塩味を調製する塩味調整剤において、
前記クロレラエキスから分取される
分子量が10万Da未満1万Da以上の画分で構成して
あり、塩味を抑制させる作用を有することを特徴とする塩味調整剤。
【請求項2】
前記クロレラはチクゴ株である請求項
1記載の塩味調整剤。
【請求項3】
クロレラを熱水抽出して得られるクロレラエキスを原料とする塩味調整剤の
使用方法であって、
前記クロレラエキスから分取される
分子量が10万Da未満1万Da以上の画分を、塩味抑制剤として使用することを特徴とする塩味調整剤の
使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロレラエキスを原料とし、飲食物の塩味を調整する塩味調整剤、及び該塩味調整剤の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロレラエキスを原料とした塩味増強剤として、後記する特許公報には次のようなものが開示されている。
【0003】
すなわち、清浄培養したクロレラ藻体を、攪拌しながら105℃×15分で熱水抽出し、藻体を分別除去する。得られた抽出液からさらに葉緑素や繊維質、不水溶性のたんぱく質の除去工程、殺菌工程を行い、濃縮工程で固形分量が4%となるクロレラエキスを調整する。調整したクロレラエキスと平均粒径25μmの米粉末とを、クロレラエキスの固形分量が米粉末の質量に対して10%となるように均一に混合し、米粉末にクロレラエキスを含浸させる。得られた混合物を予備凍結させ、凍結乾燥を実施した後、この乾燥物に粉砕工程を施し塩味増強用クロレラエキス含有体を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようにクロレラ藻体から熱水抽出されたクロレラエキスにあっては、塩味を増強させる作用を有することが知られているが、対象物にクロレラエキスを添加する量によっては、塩味増強作用が低下し、又は塩味増強作用を呈することができず、塩味調整剤として所望の効果を奏さないという問題があった。
【0006】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、所望の効果を確実に奏することができる塩味調整剤、及び該塩味調整剤の使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の発明者が鋭意検討したところ、クロレラエキスには、塩味を増強させる作用以外に、塩味を抑制する作用が存在するという事実を見出した。そのため、これらの作用が混在するクロレラエキスにあっては、対象の飲食物にクロレラエキスを添加する量によっては、所望の効果を奏さないのである。
【0008】
そこで、更に、本願の発明者が検討したところ、塩味を増強させる作用を奏する物質の分子量と、塩味を抑制させる作用を奏する物質の分子量とが異なるという知見を得て本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る塩味調整剤は、クロレラを熱水抽出して得られるクロレラエキスを原料とし、飲食物の塩味を調製する塩味調整剤において、前記クロレラエキスから分取される所定分子量の画分で構成してあることを包含する。
【0010】
本発明の塩味調整剤にあっては、クロレラを熱水抽出して得られるクロレラエキスを原料とし、当該クロレラエキスから分取される所定分子量の画分で構成してある。前述したように、クロレラエキスには、塩味を増強させる作用以外に、塩味を抑制する作用が存在しており、塩味を増強させる作用を奏する物質の分子量と、塩味を抑制させる作用を奏する物質の分子量とが異なることから、塩味を増強させる作用を奏する物質を含む画分、塩味を抑制させる作用を奏する物質を含む画分を各別に分取することによって、それぞれ所定分子量の画分で構成した塩味調整剤を得ることができる。
【0011】
前者の塩味調整剤にあっては、塩味を抑制させる作用を奏する物質が含まれないため、当該塩味調整剤の添加量に応じた所望の塩味増強効果を確実に奏することができる。
【0012】
一方、後者の塩味調整剤にあっては、塩味を増強させる作用を奏する物質が含まれないため、当該塩味調整剤の添加量に応じた所望の塩味抑制効果を確実に奏することができる。
【0013】
また、本発明に係る塩味調整剤は、分子量が1万Da未満の画分で構成してあることも包含する。
【0014】
本発明の塩味調整剤にあっては、分子量が1万Da未満の画分で構成してある。本発明者が種々検討した結果、塩味を増強させる物質は分子量が1万Da未満の画分に存在しているという知見を得た。従って、分子量が1万Da未満の画分で構成された塩味調整剤は、塩味を抑制させる作用を奏する物質が含まれず、当該塩味調整剤の添加量に応じた所望の塩味増強効果を確実に奏することができる。
【0015】
更に、本発明に係る塩味調整剤は、分子量が5000Da未満の画分で構成してあることも包含する。
【0016】
本発明の塩味調整剤にあっては、分子量が5000Da未満の画分で構成してある。本発明者が種々検討した結果、塩味をより増強させる物質が、分子量が5000Da未満の画分に存在しているという知見を得た。従って、分子量が5000Da未満の画分で構成された塩味調整剤は、塩味を抑制させる作用を奏する物質が含まれず、当該塩味調整剤の添加量に応じて、より大きい塩味増強効果を奏することができる。
【0017】
(1)そして、本発明に係る塩味調整剤は、分子量が10万Da未満1万Da以上の画分で構成してあり、塩味を抑制させる作用を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の塩味調整剤にあっては、分子量が10万Da未満1万Da以上の画分で構成してある。本発明者が種々検討した結果、塩味を抑制させる物質は分子量が10万Da未満1万Da以上の画分に存在しているという知見を得た。従って、分子量が10万Da未満1万Da以上の画分で構成された塩味調整剤は、塩味を増強させる作用を奏する物質が含まれず、当該塩味調整剤の添加量に応じた所望の塩味抑制効果を確実に奏することができる。
【0019】
(2)本発明に係る塩味調整剤は、前記クロレラはチクゴ株であることを特徴とする。
【0020】
本発明の塩味調整剤にあっては、前記クロレラはチクゴ株である。チクゴ株はその細胞壁の厚さが略20nm程度と他のクロレラの細胞壁より薄いため、熱水抽出における抽出効率が高い。
【0021】
一方、本発明に係る塩味調整剤の使用方法は、クロレラを熱水抽出して得られるクロレラエキスを原料とする塩味調整剤の使用方法であって、前記クロレラエキスから分取される所定分子量の画分について、分取された画分の分子量に応じて、塩味増強剤又は塩味抑制剤として使用することを包含する。
【0022】
本発明者が種々検討した結果、塩味を増強させる物質は分子量が1万Da未満の画分に存在している一方、塩味を抑制させる物質は分子量が10万Da未満1万Da以上の画分に存在している、という知見を得た。そこで、クロレラエキスから分取される所定分子量の画分について、分取された画分の分子量に応じて、塩味増強剤又は塩味抑制剤として使用する。例えば、クロレラエキスから分取される分子量が1万Da未満の画分を、塩味増強剤として使用する一方、分子量が10万Da未満1万Da以上の画分を、塩味抑制剤として使用するのである。
【0023】
これによって、所望の効果を確実に奏することができる。
【0024】
また、本発明に係る塩味調整剤の使用方法は、前記クロレラエキスから分取される分子量が1万Da未満の画分を、塩味増強剤として使用することも包含する。
【0025】
本発明の塩味調整剤の使用方法にあっては、前述したクロレラエキスから分取される分子量が1万Da未満の画分を、塩味増強剤として使用する。クロレラエキスから分取される分子量が1万Da未満の画分を、塩味増強剤として使用した場合、塩味を抑制させる作用を奏せず、当該塩味調整剤の添加量に応じた所望の塩味増強効果を確実に奏することができる。
【0026】
更に、本発明に係る塩味調整剤の使用方法は、前記クロレラエキスから分取される分子量が5000Da未満の画分を、塩味増強剤として使用することを包含する。
【0027】
本発明の塩味調整剤の使用方法にあっては、前述したクロレラエキスから分取される分子量が5000Da未満の画分を、塩味増強剤として使用する。分子量が5000Da未満の画分には、塩味をより増強させる物質が存在している。従って、クロレラエキスから分取される分子量が5000Da未満の画分を、塩味増強剤として使用した場合、塩味を抑制させる作用を奏せず、当該塩味調整剤の添加量に応じて、より大きい塩味増強効果を奏することができる。
【0028】
(3)ここで、本発明に係る塩味調整剤の使用方法は、前記クロレラエキスから分取される分子量が10万Da未満1万Da以上の画分を、塩味抑制剤として使用することを特徴とする。
【0029】
本発明の塩味調整剤の使用方法にあっては、前述したクロレラエキスから分取される分子量が10万Da未満1万Da以上の画分を、塩味抑制剤として使用する。分子量が10万Da未満1万Da以上の画分には、塩味を抑制させる物質が存在している。従って、クロレラエキスから分取される分子量が10万Da未満1万Da以上の画分を、塩味抑制剤として使用した場合、塩味を増強させる作用を奏せず、当該塩味調整剤の添加量に応じた所望の塩味抑制効果を確実に奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係る塩味調整剤の製造手順の一例を説明するフローチャートである。
【
図2】本発明に係る塩味調整剤の製造手順の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳述する。なお、本実施の形態で説明する事柄は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲での変形や改良を含むことはいうまでもない。
【0032】
図1及び
図2は本発明に係る塩味調整剤の製造手順の一例を説明するフローチャートであり、塩味調整剤は例えば次のようにして製造することができる。
【0033】
すなわち、1kg程度から2kg程度のクロレラ粉末(例えば、クロレラ工業株式会社製)に対して、10L程度の抽出用液を投入して撹拌懸濁し、クロレラ懸濁液を得る(ステップS1)。このクロレラ懸濁液を60℃以上130℃以下の適宜温度に昇温させ、その温度にて60分程度から10分程度までの適宜時間保持する、好ましくは95℃以上120℃以下の適宜温度にて25分程度から10分程度までの適宜時間保持することによってクロレラの有用成分を抽出する、所謂熱水抽出を実施する(ステップS2)。
【0034】
なお、抽出用液としては井水、水道水若しくは純水、又は適宜の緩衝液であってよいが、これらに適宜量のアルコールを添加したものであってもよい。この場合、アルコールの添加量は水溶性物質の抽出に実施的に影響を及ぼさない程度とする。また、クロレラ懸濁液を100℃を超える温度に昇温する場合、1013hPa以上2026hPa以下の適宜の圧力下に調整するとよい。
【0035】
なお、本実施の形態では原料として前述した如くクロレラ粉末を用いたが、本発明はこれに限らず、液体培養した生クロレラを水洗・濃縮したものを原料として用いることもできる。一方、熱水抽出における抽出効率を高くすべく、細胞壁の厚さがより薄いクロレラを原料として用いるのがよいが、チクゴ株クロレラ(クロレラ工業株式会社製)にあってはその細胞壁の厚さが略20nm程度と他のクロレラの細胞壁より薄いため好適である。
【0036】
熱水抽出が終了すると、得られた熱水抽出液を50℃程度から60℃程度まで冷却した(ステップS3)後、熱水抽出液を連続遠心分離機又は濾過機に供給して、クロレラ残渣を含む沈殿物を除去した清液を回収してクロレラエキスを得る(ステップS4)。
【0037】
次に、得られたクロレラエキスについて、分子量が1万Da以上10万Da未満である画分、及び、分子量が1万Da未満である画分を分取する分取操作を実施する(ステップS5,S6)。後者については、好ましくは分子量が5000Da未満の画分を分取する分取操作、更に好ましくは分子量が3000Da未満の画分を分取する分取操作を実施する。
【0038】
後述するように、クロレラエキスの分子量が1万Da以上10万Da未満である画分については、飲食物の塩味を抑制する作用を有する成分が存在している。一方、クロレラエキスの分子量が1万Da未満である画分については、飲食物の塩味を増強する作用を有する成分が存在している。また、クロレラエキスの分子量が5000Da未満である画分については、飲食物の塩味を増強する作用が相対的に強く、更に、クロレラエキスの分子量が3000Da未満である画分については、飲食物の塩味を増強する作用が更に強い。
【0039】
分取操作は、例えば、分子量が10万Da以上の物質は透過させず、分子量が10万Da未満の物質は限外へ排除する限外濾過膜を配設した限外濾過装置に供給し、限外へ排除された濾液を回収し、回収した濾液を、分子量が1万Da以上の物質は透過させず、分子量が1万Da未満の物質は限外へ排除する限外濾過膜を配設した限外濾過装置に供給し、限外へ排除された濾液、限外へ排除されなかった濾液を各別に回収することによって実施することができる。
【0040】
なお、かかる分取操作は、カラムクロマトグラフィー、若しくは分画沈殿等を単独で、又はそれらを組み合わせて、或いはそれらと限外濾過を組み合わせて実施してもよい。
【0041】
更に、クロレラエキスの分子量が5000Da未満、又は3000Da未満である画分を得るには、例えば、前述した如く分子量が1万Da以上の物質を透過しない限外濾過膜を配設した限外濾過装置によって、限外へ排除された濾液を用い、これを、分子量が5000Da以上又は3000Da以上の物質は透過させず、分子量が5000Da未満又は3000Da未満の物質は限外へ排除する限外濾過膜を配設した限外濾過装置に供給し、限外へ排除された濾液を回収することによって実施することができるが、かかる方法に限定されないことは言うまでもない。
【0042】
このようにして分取したクロレラエキスの分子量が1万Da以上10万Da未満である画分を塩味抑制画分とする(ステップS7)。一方、クロレラエキスの分子量が1万Da未満である画分、より好ましくはクロレラエキスの分子量が5000Da未満である画分、更に好ましくはクロレラエキスの分子量が3000Da未満である画分を塩味増強画分とする(ステップS8)。
【0043】
そして、塩味抑制画分、及び塩味増強画分について、減圧濃縮又は粉末化等による保存処理を実施する(ステップS9)。保存処理に際しては、当該画分に糖類といった安定剤、及び/又は緩衝液を含むpH調整剤等を適宜添加してもよい。また、粉末化は、凍結乾燥又は噴霧乾燥等によって実施することができる。
【0044】
なお、前述したステップS7及びステップS8で生成された各画分については、温熱殺菌又は無菌濾過等による殺菌処理を実施してもよい。
【0045】
このようにして得られた塩味増強画分にあっては、何れも乾燥質量として、飲食物に対して5mg/L程度~100mg/L程度、好ましくは10mg/L程度~50mg/L程度、添加することによって、当該飲食物の塩味を増強させることができる。飲食物への塩味増強画分の添加量が5mg/L程度未満である場合、所要の塩味の増強効果を得ることができないという不都合が生じ、また、飲食物への塩味増強画分の添加量が100mg/L程度を超えると、塩味の増強効果がそれ以上変わらないという不都合が生じる。一方、飲食物への塩味増強画分の添加量が10mg/L程度~50mg/L程度の場合、より効率的に塩味増強効果を得ることができるため好適である。
【0046】
これによって、塩味増強画分を添加した飲食物にあっては、塩味増強画分を添加していない飲食物に比べて当該飲食物に添加する塩分量を相対的に低くしても、これを摂取した飲食者は、塩味増強画分を添加していない飲食物を摂取した場合と同程度の満足感を得ることができるため、飲食物に添加する塩分量を低減させることができる。そのため、健康な飲食者にあってはその健康維持に貢献することができる一方、高血圧疾患者又は腎疾患者等、減塩食が奨励されている飲食者にあっては、減塩食であってもその味に満足することができ、減塩食を無理なく摂取することができる。
【0047】
このとき、本発明に係る塩味増強画分にあっては、前述したように塩味抑制画分が分離されているため、塩味増強画分の添加量に相応した塩味増強効果が奏される。
【0048】
一方、前述した塩味抑制画分にあっては、何れも乾燥質量として、比較的高い濃度の塩分が添加される飲食物に対して10g/L程度~30g/L程度、好ましくは15g/L程度~25g/L程度、添加することによって、当該飲食物の塩味を抑制することができる。飲食物への塩味抑制画分の添加量が15g/L程度未満である場合、所要の塩味抑制効果を得ることができないという不都合が生じ、また、飲食物への塩味抑制画分の添加量が25g/L程度を超えると、塩味抑制効果がそれ以上変わらないという不都合が生じる。一方、飲食物への塩味抑制画分の添加量が15g/L程度~25g/L程度の場合、過度に抑制することなく、効率的に塩味を抑制することができるため好適である。
【0049】
これによって、塩味抑制画分を添加した飲食物にあっては、当該飲食物に添加する塩分量を、塩味抑制画分を添加していない飲食物に添加する塩分量と同程度にしても、これを摂取した飲食者は、当該飲食物の塩味が抑制されるため、例えば塩蔵された食品等、保存等の為に比較的高い濃度の塩分が添加された飲食物であっても、円滑に摂取することができる。
【0050】
このとき、本発明に係る塩味抑制画分にあっては、前述した如く塩味増強画分が分離されているため、塩味抑制画分の添加量に相応した塩味抑制効果が奏される。
【実施例】
【0051】
次に、本発明を実施した結果について説明する。
(実施例1)
クロレラから熱水抽出して得たクロレラエキスを分子量によって複数の画分に分画し、各画分の塩味に対する影響を検討した結果について説明する。
【0052】
クロレラエキスは次のようにして調製した。
すなわち、1kgのクロレラ粉末(チクゴ株;クロレラ工業株式会社製)に対して、10Lの井水を投入して撹拌懸濁し、クロレラ懸濁液を得、このクロレラ懸濁液を95℃に昇温させ、その温度にて20分保持して熱水抽出液を得た。得られた熱水抽出液を60℃程度まで冷却した後、この熱水抽出液を連続遠心分離機に供給して、クロレラ残渣を含む沈殿物を除去した清液を回収してクロレラエキスとした。
【0053】
次に、このクロレラエキスを分子量に基づいて、10万Da以上の画分、1万Da以上10万Da未満の画分、1000Da以上1万Da未満の画分、1000Da未満の画分にそれぞれ分画した。分画は、各画分に対応する孔径の限外濾過膜を限外濾過装置に取り付けて実施した。ここで、限外濾過装置として東洋ソーダ株式会社製の限外濾過装置TSK-SC100Mを用い、また限外濾過膜としてメルクミリポア社のペリコン2バイオマックスを用いた。
【0054】
分取した各画分の塩味に対する影響は、次のような官能試験によって検討した。
すなわち、0.6質量%の食塩水を複数の容器にそれぞれ分注し、各食塩水に、クロレラエキスの10万Da以上の画分、1万Da以上10万Da未満の画分、1000Da以上1万Da未満の画分、1000Da未満の画分を各別に添加した。なお、添加量はいずれも、乾燥質量で換算して、分画前のクロレラエキス50ppm相当量とした。
【0055】
6名の試験員について、何も添加していない食塩水を対照として、対照の塩味と同じであった場合は0、対照の塩味より弱かった場合は負、対照の塩味より強かった場合は正とし、それら全体を5段階の数値で評価した結果を次の表1に示す。
【0056】
【0057】
表1から明らかなように、クロレラエキスの分子量が10万Da以上の画分を添加した場合、7割に近い試験員が対照の塩味と同じ「0」と評価していた。
【0058】
これに対して、クロレラエキスの分子量が1万Da以上10万Da未満の画分にあっては、8割を超える試験員が対照の塩味より少し弱い「-1」、即ち塩味が抑制されていたと評価していた。また、当該分子量画分にあっては、対照の塩味より少し強い「1」又は強い「2」と評価した試験員は零であった。
【0059】
以上の結果より、クロレラエキスの分子量が1万Da以上10万Da未満の画分には、塩味抑制作用が存在するということができる。
【0060】
一方、クロレラエキスの分子量が1000Da以上1万Da未満の画分及び、クロレラエキスの1000Da未満の画分にあっては、いずれも全ての試験員が対照の塩味より少し強い「1」、又は強い「2」、即ち塩味が増強されていたと評価しており、前者より後者、即ち、分子量が小さい画分の方が塩味増強の効果は大きかった。
【0061】
(実施例2)
そこで、クロレラエキスの分子量が1万Da以下の画分について、塩味に対する影響を更に検討した。
【0062】
前同様に調製したクロレラエキスを、5000Da以上1万Da未満の画分、3000Da以上5000Da未満の画分、3000Da未満の画分にそれぞれ分画した。分画は、各画分に対応する孔径の限外濾過膜を限外濾過装置に取り付けて実施した。なお、分画操作は、前同様の限外濾過装置及び限外濾過膜を用いて実施した。
【0063】
8名の試験員について、前同様の官能試験を、各画分についてそれぞれ3回実施した結果を次の表2に示す。
【0064】
【0065】
表2から明らかなように、クロレラエキスの分子量が小さい画分の方が塩味増強の効果はより大きく、クロレラエキスの分子量が3000Da未満の画分にあっては、全試験員が3回とも対照の塩味より強い「2」と評価していた。また、クロレラエキスの分子量が3000Da以上5000Da未満の画分では、8割以上の割合で、対照の塩味より強い「2」と評価され、残りも対照の塩味より少し強い「1」と評価されていた。
【0066】
これに対して、クロレラエキスの分子量が5000Da以上1万Da未満の画分にあっては、4割程度の割合で、対照の塩味より強い「2」と評価され、5割の割合で、対照の塩味より少し強い「1」と評価されていたが、1割弱の割合ではあるが、対照の塩味と同じ「0」と評価されていた。
【0067】
これらの結果より、クロレラエキスの分子量が1万Da未満の画分にあっては、塩味増強の効果が得られるが、より好ましくはクロレラエキスの分子量が5000Da未満の画分、更に好ましくはクロレラエキスの分子量が3000Da未満の画分を用いた場合、塩味増強の効果をより確実に、またより大きく奏することができる。
【符号の説明】
【0068】
S1 ステップS1
S2 ステップS2
S3 ステップS3
【要約】
【課題】 所望の効果を確実に奏することができる塩味調整剤及びその用途を提供する。
【解決手段】 クロレラエキスについて、分子量が1万Da以上10万Da未満である画分、分子量が1万Da未満である画分を分取する分取操作を実施する(ステップS5,S6)。後者については、好ましくは分子量が5000Da未満の画分を分取する分取操作、更に好ましくは分子量が3000Da未満の画分を分取する分取操作を実施する。分取したクロレラエキスの分子量が1万Da以上10万Da未満である画分を塩味抑制画分とする。一方、クロレラエキスの分子量が1万Da未満である画分、より好ましくはクロレラエキスの分子量が5000Da未満である画分、更に好ましくはクロレラエキスの分子量が3000Da未満である画分を塩味増強画分とする。
【選択図】
図1