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特許7482231低炭素低コスト超高強度多相鋼板/鋼帯およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】低炭素低コスト超高強度多相鋼板/鋼帯およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240502BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240502BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/58
C21D9/46 T
C21D9/46 U
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022538801
(86)(22)【出願日】2020-12-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 CN2020141301
(87)【国際公開番号】W WO2021136352
(87)【国際公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】201911415233.7
(32)【優先日】2019-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 瀚 龍
(72)【発明者】
【氏名】孫 宜 強
(72)【発明者】
【氏名】毛 新 平
(72)【発明者】
【氏名】張 玉 龍
(72)【発明者】
【氏名】王 成
(72)【発明者】
【氏名】金 ▲シン▼ ▲イェン▼
(72)【発明者】
【氏名】王 利
(72)【発明者】
【氏名】汪 水 澤
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/106368(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103602895(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104513930(CN,A)
【文献】特表2014-514443(JP,A)
【文献】特開2007-070649(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130713(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/58
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分重量百分比は、C:0.03~0.07%、Si:0.1~0.5%、Mn:1.3~1.9%、P≦0.02%、S≦0.01%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.2~0.5%、Ti:0.07~0.14%、(Ni+Nb+Mo+V)<0.03%を含有し、残部は、Feと他の不可避不純物である;かつ同時に以下を満たすことを特徴とする超高強多相鋼板/鋼帯であって、
[Mn+1.5Cr+5(Ti+Al+Cu)+10(Mo+Ni)+20(Nb+V)]≦3.0;
(Mn+2Cr+4Ti+4Nb+4V+4Mo-Si/3+2C)≦3.0、
前記鋼板/鋼帯の微細組織はフェライトおよび下部ベイナイトを含有し、フェライト含有量≦70%、フェライト+下部ベイナイト含有量≧90%であり、
前記鋼板/鋼帯の引張強度≧780MPa、降伏強度≧680MPa、伸び≧15%、降伏強度比≧0.9、元の穴が抜き穴である場合の穴拡げ率≧85%;元の穴がリーマ穴である場合の穴拡げ率≧115%;180°曲げ実験の角径が0.5板厚(d=0.5a)に等しい際に割れない、超高強多相鋼板/鋼帯
【請求項2】
重量百分比で、前記のC含有量は、0.04~0.06%であることを特徴とする請求項1に記載された超高強多相鋼板/鋼帯。
【請求項3】
重量百分比で、前記のSi含有量は、0.1~0.27%であることを特徴とする請求項1に記載された超高強多相鋼板/鋼帯。
【請求項4】
重量百分比で、前記のMn含有量は、1.45~1.75%であることを特徴とする請求項1に記載された超高強多相鋼板/鋼帯。
【請求項5】
重量百分比で、前記のCr含有量は、0.35~0.50%であることを特徴とする請求項1に記載された超高強多相鋼板/鋼帯。
【請求項6】
重量百分比で、前記の化学成分には、Nb+Mo+V<0.03%であることを特徴とする請求項1に記載された超高強多相鋼板/鋼帯。
【請求項7】
前記微細組織は、さらに炭素化物析出相、介在物相及び/又は微量マルテンサイト相を含有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一つに記載された超高強多相鋼板/鋼帯。
【請求項8】
前記の鋼板/鋼帯の微細組織には、さらにTiN粒子を含有し、且つ単一粒子の最長辺の長さ<10μm又は面積<50μmであることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載された超高強多相鋼板/鋼帯。
【請求項9】
フェライト晶粒平均直径<6μmで、又は粒度レベルASTMグレード判定>11.8であることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載された超高強多相鋼板/鋼帯。
【請求項10】
以下のステップを含む、請求項1~のいずれか一つに記載された超高強多相鋼板/鋼帯を製造する方法:
1)製錬、連続鋳造
請求項1~6のいずれか一つに記載された化学組成に従って製錬し、連続鋳造により鋳造スラブを鋳造し、連続鋳造中の冷却速度≧5℃/sである;
2)スラブ熱送、圧延、圧延後の冷却、卷取り
700℃以上の温度で、スラブを加熱炉に投入し、スラブを加熱し、加熱温度は1100~1250℃である;スラブの熱間圧延の最初二回のパスの圧下率≧55%である;仕上げ圧延・最終圧延の温度は、850~950℃である;卷取り温度は550~630℃である;
3)酸洗。
【請求項11】
ステップ3)の酸洗の後に、溶融亜鉛めっき焼鈍プロセスも含み、これによって、熱間圧延溶融亜鉛めっき鋼板完成品を得ることを特徴とする請求項10に記載された超高強多相鋼板/鋼帯を製造する方法。
【請求項12】
ステップ1)には、前記のスラブ鋳造状態組織では、柱状結晶の割合≦10%で、又は柱状結晶区域の厚み<40mmであることを特徴とする請求項10に記載された超高強多相鋼板/鋼帯を製造する方法。
【請求項13】
前記の鋼板/鋼帯の厚みは、0.7~4.0mmであることを特徴とする請求項10に記載された超高強多相鋼板/鋼帯を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料分野に属し、具体的に、低炭素低コスト超高強度多相鋼板/鋼帯およびその製造方法に関し、主に、自動車シャーシおよびサスペンションシステムを製造するパーツ製品に応用される。
【背景技術】
【0002】
自動車の「軽量化」は、直接に排出量を削減し、燃費を低下することができ、今の自動車製造業界の開発目標である。自動車の「軽量化」の重要な対策の一つは、低強度鋼板の代わりに高強度や超高強度の鋼板を適用することである。現在、「軽量化」の概念はさらに自動車のシャーシやサスペンションシステムに広げられ、ますます厳しくなる環境保全の要求および市場の需要によっても、「軽量化」を実現するために自動車のシャーシ材料に高強度鋼を適用することが必要とされる。
【0003】
ただし、鋼板の強度を高める必要があることに加えて、自動車シャーシおよびサスペンションシステムの構造部品にも、鋼板には、高い降伏引張強度比(即ち、降伏強度と引張強度の比値、本明細書では、単に降伏強度比という)、優れた伸び、優れた穴拡げ性能、および拡げ曲げ性能も必要である。衝突時のある程度の塑性変形によって衝突エネルギーを吸収したり、歩行者への激しい衝突損傷を回避したりする必要がある一部のボディパーツとは異なり、シャーシおよびサスペンションシステムでは、多くの場合、材料に塑性変形がないことが要求されるため、材料の降伏強度比には非常に高い要求がある。しかしながら、公知なものに基づき、材料の疲労限度は、多くの場合、その降伏強度に比例するので、同じ引張強度レベルの場合、材料の降伏強度が高いほど、材料の疲労限度が高くなり、そして、シャーシおよびサスペンションシステムパーツに対して、より高い降伏強度を持つこと、又は同じ引張強度クラスでより高い降伏強度比を有することは、その目標の1つである。
【0004】
なお、自動車シャーシおよびサスペンションシステム的パーツは、往往にして複雑な構造を有し(図1に示す)、フランジング、穴拡げ、曲げ、引張りなどの工程と共存することが多く、そして、材料の成形特性には、非常に高い要求があり、鋼材は、高い伸び、大きい穴拡げ率だけでなく、鋼板の曲げ特性にも優れていることが求められる。しかしながら、公知なものに基づき、鋼板の強度は、降伏強度比、伸びと穴拡げ率の三つの特性指標は、互いに制限し、その理由としては、強度を確保するための強度と硬度が高い相組分(例えばマルテンサイト、ベイナイト)と、塑性と伸びを確保するための比較的に軟質の相組分(例えばフェライト)だけなく、曲げ特性を高めるための十分に均一な組織と、高い降伏強度比と高い穴拡げ特性を確保するための可能な限り軟質相と硬質相の間の硬度差は、必要である。
【0005】
上記の厳しい性能要件に加えて、自動車シャーシやサスペンションシステムのパーツ製造には、良好な表面品質、塗装性、通常の均一な色、およびパーツの可溶接性を確保するための低炭素当量レベルの材料も必要であり、したがって、一般的な組成設計は、低炭素成分である(炭素含有量は0.1%未満)。この組成システムの下で、複雑な形状、高品質、高サービス性能の自動車シャーシおよびサスペンションシステムのパーツの製造を満す高強度、高降伏強度比、高伸び、高穴拡げ性、高曲げ特性を備えた鋼を得るために、通常、ベイナイトを主成分とし、フェライトを添加した複合相鋼を使用し、かつ、特にニオブ、モリブデン、バナジウム、ニッケル、アルミニウムなどの高価な合金元素を大量に添加することにより、析出硬化を実現し、このようにして、フェライトの強度を向上し、フェライトの可塑性を確保し、そして降伏強度比を向上し、鋼の高い伸びと高い穴拡げ率を確保する。
【0006】
例えば、中国特許公開第CN109055657Aは、超低炭素高強度の多相鋼板を開示し、ニオブ、モリブデン、ニッケルなどの貴金属元素を大量に添加することにより、≧690MPaの降伏強度と、0.89~0.92の降伏強度比を達成したが、鋼板の穴拡げ特性は考慮していない。同様に、中国特許公開第CN101906567A号は、高強度熱間圧延鋼板を開示し、ニオブ、モリブデン、ニッケルなどの高価な合金元素を大量に添加することにより、780MPaより高い引張強度と40%以上の穴拡げ率(元の穴はパンチング)を得た。
【0007】
しかし、鉄鋼業界や自動車業界での競争が激化する中、大量の合金元素、特にモリブデン、バナジウム、ニオブなどの高価な合金を含む鋼材は、自動車業界チェーン全体のコスト圧力を大幅に高め、したがって、市場では、高価な合金元素を全くまたはほとんど合金元素を添加しない(すなわち低コスト)高強度、高降伏強度比、高伸び、高穴拡げ高曲げ特性を兼ね備える、優れたサービスと総合成形性を備える鋼板が緊急に必要とされる。
【0008】
しかし、モリブデン、バナジウム、ニオブなどの高価な合金を添加しないと、低コストの多相鋼で高強度(引張強度800MPaなど)を実現することは困難であり、例えば、中国特許公開第CN103667948A号は、ニオブ、バナジウム、ニッケル、モリブデンなどの貴金属微量合金元素を含まない多相鋼とその製造方法を開示し、この特許によって設計された多相鋼は、合金コストが低く、穴拡げ特性が優れるが、強度は低くなり、実施例の降伏強度は、520MPa以下の降伏強度と725MPa以下の引張強度のみであるため、自動車の車輪の製造のためにのみ設計することができ、多相鋼製品パーツ強度に関する自動車シャーシパーツの要件を満たすことができない。
【0009】
低コストの多相鋼の強度不足の問題を解決するための主な方法の1つは、モリブデン、バナジウム、ニオブなどの高価な合金を添加しなく、大量のマンガン、クロム、チタンなどの比較的低価格の合金元素を添加することを選択し、相変態強化、固溶体強化、第二相強化により多相鋼の強度を高める。例えば、中国特許公開第CN102732790A号は、超低炭素ベイナイト鋼板およびその製造方法を公開し、当該鋼板の引張強度は、770MPaより高く、ニオブ、モリブデン、バナジウムなどの貴金属微合金元素を含まないが、相変わらず3.0%~4.5%のマンガンを含有するので、その結果、そのコストは依然として高く、特許は多相鋼の穴拡げ特性および曲げ特性を考慮していなかった。別の例としては、中国特許公開第CN101285156A号は、薄いスラブの連続鋳造および圧延技術によって製造されたベイナイト鋼を開示し、この特許は、ニオブ、モリブデン、バナジウムなどの貴金属マイクロアロイ元素を含まない高強度のバイニティック鋼を、薄いスラブの連続鋳造および圧延技術によって設計および製造し、高強度、高降伏強度比、高伸び、ある程度の曲げ特性を同時に有することができるが、クロム、マンガン、チタンなどの元素を多く添加しているため、製品の製造コストは依然として高く、かつ製品の曲げ特性は一般的であり、その穴拡げ特性を相変わらず考慮しなかった。実際に、マンガンとクロムの元素は、鋼板に偏析しやすく、局所的な成分と相組分に違いが生じ、鋼板の穴拡げ率と曲げ特性が低下し、かつ、マンガンは、連続鋳造中に、スラブに粗い柱状結晶を引き起こやすく、粗い柱状結晶は、その後の鋼板の熱間圧延および冷間圧延された組織に遺伝的影響を及ぼし、それによって、鋼板の均一性に影響を与え、穴拡げ特性と曲げ特性に悪影響を及ぼする。
【0010】
別の低コスト高強度の多相鋼の製造方法は、大量のシリコン元素を添加することによって、固溶体強化で多相鋼の強度を高めることである。例えば、中国特許公開第CN1756853A号は、フェライト、ベイナイト/マルテンサイトおよび第2相を含む高強度熱間圧延多相鋼およびそれらの製造方法を開示した。当該特許は、大量のシリコン(最大1.5%)を添加することで、多相鋼の超高強度を確保し、それによって、他の合金元素の使用を減らす。しかしながら、シリコン元素の含有量が多すぎると、熱間圧延鋼板/鋼帯完成品の表面に深刻な赤酸化物スケールが発生し、その結果、完成した鋼板/鋼帯の表面に深刻な色の違いが直接生じ、自動車の構造部品の表面品質と美観に直接影響する。公知されるもの(Yu Yang、Wang Chang、Wang Linら、高温酸化特性に基づくSi含有鋼の赤いスケール疵に関する研究[J]、Steel Rolling、2016、33(2):10-15;Yu Yang、Wang Chang、Wang Linら、高温酸化特性に基づくSi含有鋼の赤いスケール疵に関する研究[J]、Steel Rolling、2016、33(2):10-15;Wang Chang、Yu Yang、Wang Linら、炉の銑鉄界面の微細構造に対するシリコン元素の影響に関する研究[J]、Steel Rolling、2016、33(5):6-10)によって、鋼のシリコン含有量が多いと、赤いスケールなどの欠陥が形成され、鋼の表面品質が低下する可能性があるが、なかでも、シリコン含有量が0.5%の自動車用鋼では、ストリップ鋼の表面に等間隔の縞模様のスケールがあり、赤スケール疵がストリップ鋼の表面の約30%を占めていることがわかる。したがって、高シリコン元素を含むことでの超高強度多相鋼の設計と製造は、自動車産業には適していない。
【0011】
したがって、自動車シャーシおよびサスペンションシステムのパーツ製造に使用される引張強度が800MPaレベルに至る低炭素多相鋼(以下、単に低炭素高強度多相鋼と呼ぶ)については、既存の技術では、低コストの設計と高い包括的なサービスパフォーマンスの矛盾を解決することはできく、現在開示される低コストの設計を採用しても、材料的強度、降伏強度比、穴拡げ特性と曲げ特性も同時に満たすことができない。したがって、自動車パーツの生産・製造のニーズを満たすために、低コストと高強度高穴拡げ特性を両立する多相鋼板/鋼帯をどのように得ることは、鉄鋼業界では常に困難な問題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、低コスト超高強多相鋼板/鋼帯およびその製造方法を提供し、当該鋼板の引張強度≧780MPa、降伏強度≧680MPa、伸び≧15%、降伏強度比≧0.9、穴拡げ率は、元の穴は抜き穴である場合の穴拡げ率≧85%;元の穴はリーマ穴である場合の穴拡げ率≧115%を満たし、曲げ特性は、180°曲げ実験の角径が0.5板厚(d=0.5a)に等しい際に割れないことを満たす;主に自動車シャーシ、サスペンションシステムのパーツ製造に用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を果たすために、本発明の技術方案は:
低コスト超高強多相鋼板/鋼帯であって、その成分重量百分比は、C:0.03~0.07%、Si:0.1~0.5%、Mn:1.3~1.9%、P≦0.02%、S≦0.01%、Al:0.01~0.05%、Cr:0.2~0.5%、さらにTi:0.07~0.14%、(Ni+Nb+Mo+V)<0.03%を含有し、残部は、Feと他の不可避不純物である;かつ同時に以下を満たす:
[Mn+1.5Cr+5(Ti+Al+Cu)+10(Mo+Ni)+20(Nb+V)]<3.0;
(Mn+2Cr+4Ti+4Nb+4V+4Mo-Si/3+2C)≦3.0。
【0014】
好ましくに、前記の鋼板/鋼帯の化学成分には、重量百分比で、C:0.04~0.06%である。
【0015】
好ましくに、前記の鋼板/鋼帯の化学成分には、重量百分比で、Si:0.1~0.27%である。
【0016】
好ましくに、前記の鋼板/鋼帯の化学成分には、重量百分比で、Mn:1.45~1.75%である。
【0017】
好ましくに、前記の鋼板/鋼帯の化学成分には、重量百分比で、Cr:0.35~0.50%である。
【0018】
好ましくに、前記の鋼板/鋼帯は、V、MoとNiを含有しなく、且つNbの含有量≦0.03%である。
【0019】
本発明に記載された鋼板/鋼帯びの微細組織は、フェライト、下部ベイナイトを含有し、さらに炭素化物析出相、介在物相及び/又は微量マルテンサイト相を含有し、その中、フェライト含有量≦70%、フェライト+下部ベイナイト含有量≧90%である。
【0020】
好ましくに、前記の鋼板/鋼帯のスラブ鋳造状態組織では、柱状結晶の割合≦10%で、又は柱状結晶区域の厚み<40mmである。
【0021】
好ましくに、前記の鋼板/鋼帯完成品状態の微細組織では、フェライト晶粒平均直径<6μmで、又は粒度レベルASTMグレード判定>11.8である。
【0022】
好ましくに、前記の鋼板/鋼帯の完成品状態の微細組織には、TiN粒子を含有し、且つ単一粒子の最長辺の長さ<10μm又は面積<50μmである。好ましくに、前記のTiN粒子単一粒子の最長辺の長さ<8μmである。
【0023】
前記の技術案によって、前記の鋼板/鋼帯の引張強度≧780MPa、降伏強度≧680MPa、穴拡げ率特性指標:元の穴は抜き穴である場合の穴拡げ率≧85%;元の穴はリーマ穴である場合の穴拡げ率≧115%;180°曲げd=0.5a合格である。
【0024】
好ましくに、前記の技術案によって、前記の鋼板/鋼帯の引張強度≧800MPa、降伏強度≧710MPa、穴拡げ率特性指標:元の穴は抜き穴である場合の穴拡げ率≧95%;元の穴はリーマ穴である場合の穴拡げ率≧120%;180°曲げd=0.5a合格である。
【0025】
好ましくに、前記の技術案に記載された鋼板/鋼帯の降伏強度比≧0.9である。
本発明にかかる鋼の成分設計において:
炭素(C):炭素は、鋼板/鋼帯の強度、溶接性、成形性、連続鋳造用薄スラブの製造性に直接影響する。炭素の含有量が多いほど、鋼板の強度を向上させることに寄与し、炭素含有量が0.03%より低い場合、鋼板/鋼帯の強度が目標要求に達しない;炭素含有量が0.07%より高い場合、鋼板/鋼帯の強度が高くなりやすく、穴拡げ率が要求に達しないことに繋がる。したがって、本発明には、炭素含有量の範囲を、0.03~0.07%に制御する。
【0026】
ケイ素(Si):ケイ素はある程度の固溶体強化効果を持ち、Si含有量が多いほど、鋼板/鋼帯の降伏強度は向上する。また、ケイ素が、炭化物の析出を抑制する効果もあるので、炭化物を析出させずにベイナイト組織を形成するために添加しても良い;ケイ素の含有量が0.5%より多いと、熱間圧延鋼板/鋼帯の表面に激しい赤酸化スケールが発生しやすくなり、鋼板/鋼帯の表面品質が劣化するだけでなく、鋼板/鋼帯のめっき可能性も損傷し、溶融亜鉛めっき鋼板/鋼帯の製造に不利なる。そのため、本発明によれば、ケイ素含有量は0.1~0.5%の範囲内に限定される。
【0027】
マンガン(Mn):マンガンは鋼板/鋼帯の強度向上に有効であり、他の合金元素に比べて比較的安価であるため、本発明ではMnを主添加元素として使用した。しかし、マンガン含有量が1.90%より高いと、スラブ鋳造状態組織中には柱状結晶の割合や厚さが著しく増加するため、その後の完成品組織の均一性の制御に重大な悪影響を及ぼすだけでなく、Mn含有量の増加は、最終的な完成品組織のマルテンサイト含有量の増加を招き、穴拡げ特性を損なう;Mn含有量が1.40%未満場合、鋼板/鋼帯の強度が十分である。したがって、本発明によれば、マンガン含有量は1.30~1.90%に限定される。
【0028】
アルミニウム(Al):アルミニウムは製鋼工程の主な脱酸剤として添加されるが、アルミニウム含有量が0.01%未満であると、脱酸効果が不十分である;アルミニウム含有量が0.05%を超えると、鋼液の粘性に影響を与え、ノズル結節を形成する恐れがあり、鋼板/鋼帯の溶接性を損なう可能性がある。したがって、本発明によれば、アルミニウム含有量は0.01~0.05%に限定される。
【0029】
クロム(Cr):クロムは、ベイナイト相区域の拡大に寄与し、圧延後の冷却で鋼板/鋼帯のベイナイト化を確保し、強度と穴拡げ率の向上に寄与する。しかし、添加量が0.5%を超えると、強度の向上はもはや顕著ではなく、逆に鋼板/鋼帯の溶接性に悪影響を及ぼし、スラブ鋳造状態組織において柱状結晶の割合や厚さが著しく増加し、かつ鋼板の表面にクロムの濃縮が生成し、最終製品の組織的均一性に影響を及ぼすことになる。しかし、含有量が0.2%未満であると、ベイナイト相区域の拡大が顕著でない。したがって、本発明によれば、クロム含有量は0.2~0.5%に限定される。
【0030】
チタン(Ti):チタンは、本発明の多相鋼の主要な合金元素であり、固溶強化と、微細炭化物生成後の第二相強化により、多相鋼の強度を高める。微細合金含有量が0.07%より低いと、鋼板/鋼帯の強度が不足し、0.14%より高いと、コストが高くなる一方で、炭化物の中心偏析が生じやすく、穴拡げ特性に不利になる。
【0031】
ニオブ、バナジウム、モリブデン、ニッケル(Nb、V、Mo、Ni):ニオブ、バナジウム、モリブデン、ニッケルの添加も固溶強化と第二相強化をもたらし、多相鋼の強度を向上させる。また、これらの貴金属微細合金元素を含有させることで、結晶粒を微細化する効果を達成でき、多相鋼の穴拡げ率に寄与する。しかし、チタン元素に比べて、ニオブ、バナジウム、モリブデン、ニッケルなどの合金は、非常に高価である。これらは任意元素として鋼に添加することができるが、本発明では、低コスト化の観点から、ニオブ、バナジウム、モリブデン、ニッケルの添加は好ましくなく、すなわちNb+V+Mo+Ni<0.03%である。
【0032】
鋼における不純物元素の上限は、P:≦0.02%、S:≦0.01%と制御され、鋼の品質が純粋なほど、効果も高くなる。
【0033】
本発明に記載された鋼板/鋼帯の微細組織は、フェライト+下部ベイナイトの微細組織であり、フェライト含有量≦70%。フェライト+下部ベイナイト含有量≧90%。フェライト組織が70%を超えると、鋼板/鋼帯は必要な強度を達成できず、フェライト+低ベイナイト含有量が90%を下回ると、鋼板/鋼帯は必要な穴拡げ特性を達成できない。本発明に記載された鋼板/鋼帯の微細組織は、さらに、炭素化物析出相、介在物相及び/又は微量マルテンサイト相を含有しても良く、炭素化物析出相の含有量は、通常に、5%以下であり、介在物相の含有量は、通常に、0.01%以下(たまに視野に入る場合もある)であり、マルテンサイト相の含有量は、通常に0.5%以下である。前記の介在物は、MnS、TiN和AlNなど鋼によく見られる介在物であっても良い。
【0034】
本発明に記載された鋼板/鋼帯の微細組織では、フェライト晶粒平均直径<6μmで、又は粒度レベルASTMグレード判定>12.3である。結晶粒の平均粒径が6μm未満、または粒度レベルグレードが12.3超でないと、鋼板/鋼帯は必要な強度を得ることができない。
【0035】
本発明に記載された鋼板/鋼帯の微細組織では、TiN粒子を含有し、且つ単一粒子の最長辺の長さ<10μmである。単一粒子の最長辺の長さは、10μm以上であると、鋼板/鋼帯は、必要な穴拡げ特性を得ることができない。
【0036】
また、各元素の含有率で表すと、上記の合金元素と炭素の測定関係を、以下の式を満たす必要がある:
(1)鋼板/鋼帯は、低合金コストを有することを確保するために、[Mn+1.5Cr+5(Ti+Al+Cu)+10(Mo+Ni)+20(Nb+V)]<3.0;
(2)鋼板/鋼帯の微細組織には、一定量の炭素化物粒子を析出される、炭素化物を過剰に析出すること、過粗大、過凝集による穴拡げ率の低下を発生しないことを確保するために、(Mn+2Cr+4Ti+4Nb+4V+4Mo-0.5Si+5C)≦3.0。これにより、鋼板/鋼帯は、高い強度と穴拡げ特性を両立することができる。
【0037】
本発明の超低炭素低コスト超高強度多相鋼板/鋼帯を製造する方法であって、以下のステップを含む:
1)製錬、連続鋳造
上記化学組成に従って製錬し、連続鋳造により鋳造スラブを鋳造し、連続鋳造中のスラブの冷却速度≧5℃/sである;
2)熱間圧延、圧延後の冷却
700℃以上の温度で、スラブを加熱炉に投入し、鋳造スラブを加熱し、加熱温度は1100~1250℃である;熱間圧延の最初、第二パスのパス毎の圧下率≧55%であり、仕上げ圧延・最終圧延の温度は、850~950℃である;
3)圧延後冷却、卷取り
圧延後に、水で冷却し、卷取り温度は550~630℃である;
4)酸洗。
【0038】
さらに、ステップ3)の酸洗の後に、溶融亜鉛めっき焼鈍プロセスも含み、これによって、熱間圧延溶融亜鉛めっき鋼板完成品を得る。
【0039】
前記のステップ1)には、連続鋳造際のスラブ冷却速率が、鋼板/鋼帯の最終組織の結晶粒大きさ、液相に形成される介在物大きさ、スラブ組織における柱状結晶の割合に影響を与える。冷却速度が5℃/sより低いと、一方、スラブ中の柱状結晶の厚さまたは割合が設計上の要求より高くなり、そしてその後の最終組織で、帯状組織を形成しやすくなり、鋼板/鋼帯の曲げ特性に影響を与える;もう一方、連続鋳造中にスラブの冷却速度が低下すると、最終組織における結晶粒大きさが設計通りにならず、鋼の液相中に粗大介在物(典型的にはTiN)が発生し、穴拡げと曲げ特性に悪影響を及ぼす。
【0040】
前記ステップ2)において、加熱炉に入る前のスラブの最低温度は、製品の最終的な特性に影響する。加熱炉にスラブを入れる前の最低温度が700℃未満である場合、炭化チタンが大量にスラブ中に析出し、その後の再加熱工程において、スラブから析出した炭化チタンを完全にスラブに再溶解することができなく、熱間圧延後のマトリックスに固溶体チタンと炭化チタンが少なくなり、製品としての強度が不足になる。なお、仕上げ圧延・最終圧延の温度が850℃より低い場合、仕上げ前にフェライトの析出があり、最終組織のベイナイト含有量が少なくなるため、鋼板/鋼帯が設定する強度に達しないことがある。しかし、スラブの加熱温度を考慮すると、仕上げ圧延・最終圧延の温度は950℃を超えない。また、上記ステップ2)において、鋼板/鋼帯の組織を微細かつ高均一にするために、熱間圧延の最初、第二パスのパス毎の圧下率≧55%である;圧下率が十分でない場合、微細で均一な組織が得られず、鋼板/帯の強度が不足し、曲げ特性が設計要求を満たさなくなる。それだけでなく、上記ステップ2)の高い圧下率に、ステップ1)の連続鋳造時のスラブの高い冷却率を合わせなければならない;連続鋳造の冷却速度が5℃/秒以上にならないと、スラブ内の液相に発生する介在物(主にTiN)のサイズが大きくなり、このとき、ステップ2)で55%以上の大きな圧下率を採用すると、図1のように、粗大なTiN割れが発生し、これが鋼板/鋼帯内の割れ源となって、鋼板/鋼帯の穴拡げと曲げ特性が劣化する;連続鋳造の冷却速度が5℃/秒以上に達することができれば、スラブ内の液相に生成する介在物(主にTiN)はサイズが小さく、図2に示すように、ステップ2)の大型熱間圧延プレス時に破断しないため、鋼板/鋼帯の穴拡げと曲げ特性に悪影響を及ぼさない。
【0041】
上記ステップ3)において、巻取り温度は、高強度、高穴拡げ率を得るために一番肝心なプロセスパラメータの一つである。卷取り温度が640℃を超えると、合金炭化物の強い析出と粗大化により、鋼板の穴拡げ率に悪影響が出る;一方、卷取り温度が550℃未満では、炭化物の析出が著しく阻害され、鋼板の強度が設定値を満たせなくなる;そして、本発明では、卷取り温度を550~630℃に制てする。
【0042】
計測によれば、本発明で提供される超高強度熱間圧延鋼板/鋼帯の特性は、下記の指標を満たす:
1、常温力学特性:
引張強度≧780MPa、好ましくに≧800MPa;降伏強度≧680MPa、好ましくに≧710MPa;降伏強度比≧0.9。いくつの形態において、引張強度は、780-900MPaで、降伏強度は、680-830MPaである。
【0043】
2、破断時伸び
A50≧15%又はA5≧19%。
【0044】
3、穴拡げ率特性:
元の穴は抜き穴である場合の穴拡げ率は、>85%、好ましくに≧95%、最高限としては、100%以上になってもよく;一部の実施の形態において、穴拡げ率は、86%から110%までである;
元の穴はリーマ穴である場合の穴拡げ率は、>115%、好ましくに≧120%、最高限としては、130%以上になってもよく;一部の実施の形態において、穴拡げ率は、117%から140%までである;
4、曲げ特性:
180°冷間曲げ、d=0.5a合格。
【0045】
本発明の有利な効果は、
1.本発明は、合金元素、特に貴金属合金元素の添加を抑えた低コストな組成設計を採用し、多相鋼に非常に低い合金化コストを確保するために、[Mn+1.5Cr+5(Ti+Al+Cu)+10(Mo+Ni)+20(Nb+V)]≦3.0、(Nb+V+Mo+Ni)<0.03を要求する。多相鋼の一般的な合金元素の中では、ニオブとバナジウムの合金が最も高価で、グレードを考慮すると、マンガンの単価の20倍に達し、次いで、モリブデンとニッケルがグレードを考慮すると、マンガンの単価の10倍にも達するため、本発明に採用されない。チタン、アルミニウム、マンガン、クロムなどその他の合金元素については、添加量を最小限に抑え、全体のコストを低く抑えるように、最適な成分設計を選択する。
【0046】
2.低コストという市場の要求に基づき、本発明では、高価な合金元素をほとんど使用しないので、CN103667948Aのような強度不足になりやすい。本発明では、材料の強度を高めるために、主に、細粒強化とTi元素強化との組み合わせを採用し、析出強化と固溶強化の比率を最適化することと、均一性の高い微細組織と十分に小さい介在物を実現することにより、高強度、高伸び、高穴拡げ率と優れた曲げ特性を同時に実現する。本発明では、やはりある量のマンガン、クロム、チタン、特にクロム、チタンを添加し、一方では、マトリックスへの固溶、すなわち固溶強化を達成し、他方では、炭化物析出物の生成により強化を達成し、すなわち第二相強化が行われる。この二つの強化メカニズムについて、固溶強化は、第二相強化より強度向上が弱いが、炭化物の析出により多相鋼の穴拡げ特性が損なわれることがある。したがって、2つの強化メカニズムのバランスをとる必要があり、すなわち、合金元素の添加量と炭素含有量の間には、次のような関係を満たす必要である:(Mn+2Cr+4Ti+4Nb+4V+4Mo-Si/3+2C)≦3.0。本発明の式は、材料中の各合金元素の第二相析出効果への貢献を表し、ただし、Mn、Cr、Ti(またはNb、Mo、V)元素は炭化物析出相を形成する能力が徐々に高まるため、勾配係数で設計するが、Si元素は炭化物析出を抑制する効果があるため、式では負の係数で設計する;したがって、上式の値が大きいほど、添加された合金元素の析出強化への寄与が全体的に大きいことを意味する。本発明が、式の値が3.0を超えると、穴拡げ特性が著しく低下することを見出した。
【0047】
3.成分とプロセス設計により、高均一な微細組織と寸法的に微細な介在物を実現し、そして優れた曲げ特性を得た。連続鋳造後の鋼板スラブに大きいの柱状結晶組織が発生しないように、まずMnとCrを低くする設計を行い、これによって、柱状結晶がその後の生産に高い組織均一性を得ることに与える悪影響を最小限に抑えた;次に、連続鋳造における高冷却速度を設計することで、一方、スラブ中の柱状結晶の割合を減らし続け、微細な等軸結晶の割合を高め、もう一方では、液相で発生する介在物(TiNに代表される)を低下した;最後、熱間圧延の最初、第二パスには、大きな圧下率を有する圧延プロセス設計を採用し、微細な構造を得ながら柱状結晶をさらに破壊することで、高強度、高曲げ、と高伸びを同時に実現した。
【0048】
本発明に製造された超高強熱間圧延鋼板製品と鋼帯製品および溶融亜鉛めっき鋼板完成品は、自動車シャーシ、サスペンションシステムのパーツ製造に用いられ、かつ低コスト、高強度、高穴拡げ性と優れた曲げ特性を同時に有し、自動車産業チェーンにおいて、市場が切望している低価格・高品質のシャーシ用鋼材のギャップを埋めるものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1図1は、連続鋳造冷延速度が5℃/s以上になったときのTiN粒子径と、大きい圧下率の熱間圧延後のTiN粒子径とその形態(熱間圧延状態組織写真)である。
図2図2は、連続鋳造冷延速度が5℃/s未満になったときのTiN粒子径と、大きい圧下率の熱間圧延後のTiN粒子径とその形態(熱間圧延状態組織写真)である。
図3図3は、本発明に記載された鋼板/鋼帯の微細組織にフェライトと下部ベイナイトを含有し、ただし、フェライト+下部ベイナイト含有量≧90%であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに説明する。
表1に示される異なる組成の鋼を製錬してから、表2に示されるように加熱+熱間圧延プロセスを実行し、厚さが4mm未満の鋼板を得た。長手方向に50mmゲージ長と5mmゲージ長の引張サンプルを採取し、降伏、引張強度および伸びを測定し,鋼板中央部に穴拡げ率と180°曲げ特性を測定した;試験データを表2に示す。ただし、穴拡げ率は、中央部に穴のある試料をパンチ金型でダイ金型に押し込み、板の穴縁部がくびれたり貫通亀裂が生じたりするまで、試料の中央部の穴を拡げるといった穴拡げ試験で測定した。試料中央部の元の穴の製造方法は穴拡げ率の計測結果に大きな影響を与えるため、抜き穴およびリーマ穴によってそれぞれ試料中央部の元の穴を製造し、後段の試験および計測方法は、ISO/DIS 16630規格に規定される穴広げ率の計測方法に沿って行われた。180°曲げ試験は、GB/T232-2010基準の曲げ性能の測定方法で行った。
【0051】
表1において、実施例A~Iは、本発明の鋼材であり、比較例J~Nにおける炭素又はマンガン等の合金元素の含有量が本発明の組成を超える;表中のMは、成分中の[Mn+1.5Cr+5(Ti+Al+Cu)+10(Mo+Ni)+20(Nb+V)]の計算値、Rは、成分中の(Mn+2Cr+4Ti+4V+4Nb+4Mo-Si/3+2C)の計算値である。また、比較例Oおよび比較例Pは、それぞれCN101906567AおよびCN101285156Aに開示された実施例である;比較から、比較例O、比較例Pともに、M値、R値が本発明の設計範囲を超えていることがわかり、これは、両比較例が本発明例よりも合金コストが高く、本発明に設計された式の最適化された合金比を採用していないことを表す。
【0052】
表2は、表1の各鋼種の異なる製造プロセスを示したものであり、同様に、実施例と比較例に分けられ、比較例Oおよび比較例Pのプロセスは、対応する特許出願に開示された製造プロセスである。表3に、上記実施例および比較例の力学特性試験値を示す。その中、比較例O及び比較例Pの性能は、対応する特許出願に開示されているものであり、表から、比較例O及び比較例Pは、いずれも本発明における実施例よりも性能が劣っていることが分かる。
【0053】
C、Mn、Tiの合金成分が本発明の範囲から逸脱した場合、例えば、Mn、Tiの含有量が少ない場合(例えば比較例KとM)、設計要求強度を下回る鋼板となることが分かる;C、Tiの含有量やR値が本発明の成分範囲よりも高い場合(例えば、対比例J、L、N)、C、Mnが過剰になると、組織中にマルテンサイトが大量に生成され、材料の穴拡げ特性と曲げ特性が悪化し、また、Tiの含有量が多くR値が高いことは、組織中の炭化物が粗大化し、材料の穴拡げ特性が悪化し、いずれも本発明の目的を達成できない。
【0054】
スラブの加熱炉への投入温度が低すぎると(例えば比較例A-2)、本発明の設計基準を満たさない強度となり、卷取り温度が低すぎると(例えば比較例D-2)、鋼中の炭化物析出が抑制され、低強度の鋼板となる。熱間圧延の最初の2パスの圧下率が十分でないと、鋼板の帯状組織を完全に排除できなく、結晶粒を十分に微細化できなく、組織を均一化することができず、鋼板の伸びの曲げ特性も悪化する(例えば比較例B-2);連続鋳造の冷却速度が十分でないが、熱間圧延で大きな圧下率を追求すると、鋼中の粗大なTiN粒子の断片化が起こり、割れの可能な原因になり、材料の伸び、穴拡げ特性と曲げ特性を大幅に悪化する(例えば比較例C-2)。
【0055】
まとめると、本発明は、炭素マンガン鋼に基づき、合理的な成分範囲に制御し、合金元素の含有量を制限し、各元素の比を最適化し、合金のコストを大幅に低減し、従来の自動車用鋼の製造ラインに基づき、連続鋳造の冷却速度、熱間圧延速度、巻取り温度を調整し、高強度、高穴拡げ特性と優れた曲げ特性を有する超高強熱間圧延鋼板/鋼帯を低コストで製造することができ、その降伏強度680MPa以上、引張強度780MPa以上、穴拡げ率85%以上(元の穴は抜き穴)、穴拡げ率115%以上(元の穴はリーマ穴)、180°曲げd=0.5aであり、これにより、自動車市場での低コストで高い強度と性能を兼ね備えたシャーシやサスペンションの材料に対するニーズを満足する。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
図1
図2
図3