IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特許7482240透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス
<>
  • 特許-透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス 図1
  • 特許-透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス 図2
  • 特許-透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス 図3
  • 特許-透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス 図4
  • 特許-透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス 図5
  • 特許-透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス 図6
  • 特許-透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】透明電極およびその作製方法、ならびに透明電極を用いた電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0224 20060101AFI20240502BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240502BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20240502BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20240502BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20240502BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
H01L31/04 266
H05B33/14 A
H05B33/28
H05B33/26 Z
H05B33/02
H05B33/10
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022552396
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021009945
(87)【国際公開番号】W WO2022190336
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】内藤 勝之
(72)【発明者】
【氏名】信田 直美
(72)【発明者】
【氏名】五反田 武志
(72)【発明者】
【氏名】齊田 穣
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/055663(WO,A1)
【文献】特開2011-116925(JP,A)
【文献】特開2011-157535(JP,A)
【文献】国際公開第2012/093530(WO,A1)
【文献】特開2017-080951(JP,A)
【文献】特表2013-542546(JP,A)
【文献】国際公開第2010/001591(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0248052(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0047399(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0103508(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/20
H10K 50/10
H05B 33/28
H05B 33/26
H05B 33/02
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、
金属グリッドと、
金属ナノワイヤと、
中性ポリチオフェン混合物と
を含む積層構造を具備し、
前記積層構造が
前記金属グリッドは前記透明基材に埋設された埋設部と、前記透明基材から突出した突出部を有し、
前記金属ナノワイヤおよび前記中性ポリチオフェン混合物が、前記透明基材または前記金属グリッドの前記突出部に接触するように配置されたものであり、
前記金属グリッドの厚さが5~50μmであり、前記突出部の高さが1μm以下であ
、透明電極。
【請求項2】
前記金属グリッドの線幅が10~100μmである、請求項1に記載の透明電極。
【請求項3】
前記中性ポリチオフェン混合物が、中性ポリチオフェンとドーピング剤の混合物であり、前記中性ポリチオフェン混合物の濃度が1質量%の水中分散液としたときのpHが5~7であるものである、請求項1または2に記載の透明電極。
【請求項4】
前記中性ポリチオフェンが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項5】
前記透明電極のシート抵抗が0.01~1Ω/□である、請求項1~4のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項6】
[前記金属グリッドのシート抵抗]<[前記金属ナノワイヤからなる膜のシート抵抗]<[前記中性ポリチオフェン混合物からなる膜のシート抵抗]
の関係を満たす、請求項1~5のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項7】
前記透明電極の表面積を基準とした、前記透明基材の露出部表面の面積比である開口率が90~99%である、請求項1~6のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項8】
前記透明基材の露出部表面の平均表面粗さが10nm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項9】
前記金属グリッドの突出部の表面、前記金属ナノワイヤの表面、または前記積層構造の表面に、グラフェン層をさらに具備する、請求項1~8のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項10】
(A)仮支持体を準備する工程、
(B)前記仮支持体の上に、厚さが5~50μmの金属グリッドを配置する工程、
(C)前記金属グリッドの一部を透明基材に埋設する工程、
(D)前記透明基材と前記仮支持体とを剥離し、前記金属グリッドの残余の一部が前記透明基材の表面から突出した、高さが1μm以下の突出部を形成するように前記金属グリッドを前記透明基材に配置する工程、
(E)金属ナノワイヤを前記金属グリッドの突出部に接触するように配置する工程、および
(F)中性ポリチオフェン混合物を前記金属グリッドの突出部に接触するように配置する工程
を含む、透明電極の作製方法。
【請求項11】
前記工程(B)が、前記仮支持体の上に金属箔を貼り付け、リソグラフィ法によって前記金属箔をパターニングすることにより行われる、請求項10に記載の作製方法。
【請求項12】
工程(B)の後に、前記金属グリッドの突出部の表面の酸化物を除去する工程をさらに含む、請求項10または11に記載の作製方法。
【請求項13】
工程(D)の後に、前記金属グリッドの突出部を疎水化処理し、前記透明基材の露出部表面に親水性ポリマー膜を作製する工程をさらに含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項14】
グラフェン層を形成する工程をさらに含む、請求項10~13のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか1項に記載の透明電極を具備する電子デバイス。
【請求項16】
前記透明電極と、光電変換層と、対向電極とを具備する、請求項15に記載の電子デバイス。
【請求項17】
前記光電変換層がハロゲンイオンを含む、請求項16に記載の電子デバイス。
【請求項18】
前記透明電極を4端子型タンデム太陽電池の透明電極として具備する、請求項15~17のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、透明電極、その作製方法、ならびに電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年エネルギーの消費量が増加してきており、地球温暖化対策として従来の化石エネルギーに代わる代替エネルギーの需要が高まっている。このような代替エネルギーのソースとして太陽電池に着目が集まっており、その開発が進められている。太陽電池は、種々の用途への応用が検討されているが、多様な設置場所に対応するために太陽電池のフレキシブル化と耐久性が特に重要となっている。最も基本的な単結晶シリコン系太陽電池はコストが高くフレキシブル化が困難であり、昨今注目されている有機太陽電池や有機無機ハイブリッド太陽電池は耐久性の点で改良の余地がある。
【0003】
このような太陽電池の他、有機EL素子、光センサーといった光電変換素子について、フレキシブル化および耐久性改良を目的とした検討が行われている。このような素子には透明陽電極としては、一般的には酸化インジウムスズ(以下、ITOという)の膜が用いられている。ITO膜は通常スパッタ等で製膜される。高い導電性を有するITO膜を得るためには高温でのスパッタやスパッタ後の高温アニールが必要であり、基材等に有機材料を含む場合には、ITO膜を適用できないことが多い。またITO膜のシート抵抗は10Ω/□程度であり、大面積の太陽電池を作製するためには、より高い導電性を得るために細かい短冊状のスクライブが必要となることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6142870号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態は、上記のような課題に鑑みて、安定で、極めて小さいシート抵抗、高透過で細かいスクライブが必要のない太陽電池や大面積の照明等を実現する透明電極およびその作製方法と上記透明電極を用いた電子デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態による透明電極は、
透明基材と、
金属グリッドと、
金属ナノワイヤと、
中性ポリチオフェン混合物と
を含む構造を具備し、
前記金属グリッドは前記透明基材に埋設された埋設部と、前記透明基材から突出した突出部を有し、
前記金属ナノワイヤおよび前記中性ポリチオフェン混合物が、前記透明基材または前記金属グリッドの前記突出部に接触するように配置されていることを特徴とするものである。
【0007】
また、実施形態による透明電極の作製方法は、
(A)仮支持体を準備する工程、
(B)前記仮支持体の上に、金属グリッドを配置する工程、
(C)前記金属グリッドの一部を前記透明基材に埋設する工程、
(D)前記透明基材と前記仮支持体とを剥離し、前記金属グリッドの残余の一部が前記透明基材の表面から突出した突出部を形成するように前記金属グリッドを前記透明基材に配置する工程、
(E)金属ナノワイヤを前記金属グリッドの突出部に接触するように配置する工程、および
(F)中性ポリチオフェン混合物を前記金属グリッドの突出部に接触するように配置する工程
を含むことを特徴とするものである。
【0008】
また、実施形態による電子デバイスは、前記の透明電極を具備することを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態による透明電極の構造を示す概念図。
図2】実施形態による透明電極の製造方法を示す概念図。
図3】実施形態による光電変換素子(太陽電池セル)の構造を示す概念図。
図4】実施形態による光電変換素子(有機EL素子)の構造を示す概念図。
図5】実施例1の透明電極の構造を示す概念図。
図6】実施例5の光電変換素子(太陽電池セル)の構造を示す概念図。
図7】実施例8の光電変換素子(太陽電池セル)の構造を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
[実施形態1]
まず、図1を用いて、第1の実施形態に係る透明電極の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る透明電極100の構成概略図である。
【0012】
この透明電極100は
透明基材101と、
金属グリッド102と、
金属ナノワイヤ103と、
中性ポリチオフェン混合物104と
を含む構造を具備している。
【0013】
透明基材101の材料としては、種々の樹脂材料を用いることができる。この中ではエポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などの硬化性樹脂材料や、ポリエチレンフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)のような熱可塑性樹脂材料が挙げられる。特に流動性の高いモノマーやオリゴマーを硬化させることによって形成される材料が製造の観点から好ましい。
【0014】
透明基材の厚さは特に限定されないが、例えば50~150μmとされる。また透明基材単体の550nmにおける全透過率は85%以上が好ましい。
【0015】
実施形態による透明電極は金属グリッド102を具備している。この金属グリッドは、厚さd1が好ましくは5~50μm、さらに好ましくは15~30μmである。そして、この金属グリッド102は、透明基材101に埋設された埋設部と、透明基材表面から突出した突出部を形成している。突出部の高さd2は、0μmを超えるが、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは0.1~0.7μmであり、さらに好ましくは0.2~0.5μmである。金属グリッドの一部が透明電極に埋設されていることによって、金属グリッドの導電性を高くすることができる。また金属グリッドが突出していることにより銀ナノワイヤとの電気的コンタクトや、素子を製造する場合に、貼り合わせられる別の層との電気的コンタクトがとりやすくなる。
【0016】
金属グリッドの突出部の高さは原子間力顕微鏡(AFM)やより広い面積においては接触式の段差計を用いて表面を走査することにより計測することができる。実施形態において、突出部の高さは無作為に選んだ5点で測定結果の平均値を用いる。
【0017】
金属グリッド102の厚さd1が5μm以上であると金属グリッド配線の抵抗をきわめて小さくすることができる。また金属箔の取り扱いを行いやすい。5μmより薄いと取り扱いのため裏面フィルムが必要なりやすくコストも高くなる。一方で厚さd1が50μm以下であると十分な電導度が得られると共にコストも抑えられ、パターニングも容易になる。金属グリッドの突出部の高さd2が1μm以下であると、このd2が小さいことによって、この透明電極を用いて素子を作製した場合の短絡を防止しやすくなる。
【0018】
また、金属グリッドの線幅d3は目的に応じて調整されるが、10~100μmであることが好ましく、20~50μmであることが好ましい。金属グリッドの線幅を10μm以上とすることで透明電極のシート抵抗を小さくできる。また、線幅が100μm以下であることによって透明電極の光透過率を高くできる。なお、d1、d2およびd3は、それぞれ平均値である。金属グリッドの線幅は走査型電子顕微鏡(SEM)より計測することができる。実施形態において、金属グリッドの線幅は無作為に選んだ5点での測定値の平均値を用いる。
【0019】
本実施形態による透明電極において、前記金属グリッドは、銅、アルミニウム、銀、金、タングステン、またはそれらの合金からなることが好ましく、電気抵抗が相対的に小さい銅もしくはアルミニウムからなることがより好ましい。また、これら金属の金属箔を原料とすることで、金属グリッドの製造が容易になるので好ましい。
【0020】
金属グリッドが配置されていない部分は、透明基材が露出した露出部105が形成されている。
【0021】
実施形態による透明電極は、金属ナノワイヤを具備している。この金属ナノワイヤは透明基材の露出部表面または金属グリッドの突出部と接触するように配置されている。
【0022】
本実施形態においては、金属ナノワイヤに含まれる金属は特に限定されないが、導電性などの観点から、銀、銀合金、銅、および銅合金からなる群から選択される金属からなるナノワイヤが好ましく、銀合金からなるナノワイヤが特に好ましい。
【0023】
複数の金属ナノワイヤは、互いに一部が接触または融合して、網目状や格子状等のネットワーク状構造を形成する。こうして複数の導電性パスが形成され、全体が連なった導電クラスターが形成される(パーコレーション導電理論)。そのような導電クラスターの導電性を高めるためには、ナノワイヤの密度が高いことが好ましい。一方で、透明性や柔軟性が求められる素子に用いる電極を得るためには、ナノワイヤの密度が一定以下であることが好ましい。具体的には、実施形態におけるナノワイヤの塗設量は、一般に、0.05~50g/m、好ましくは、0.1~10g/m、より好ましくは0.15~1g/mである。金属ナノワイヤの密度がこの範囲内であると、得られる導電性膜は十分な透明性と柔軟性と導電性とを両立できる。
【0024】
本実施形態においては、金属ナノワイヤは、通常、直径10~500nm、長さ0.1~50μmの金属ナノワイヤから構成されている。一般的には、導電クラスターが形成されやすいのは、より長いナノワイヤであり、導電性が大きいのは、直径のより大きなナノワイヤである。このように、ナノワイヤを用いることによってネットワーク状構造が形成されるため、ナノワイヤを含む導電性膜は金属の量は少ないものの全体として高い導電性を示す。
【0025】
ナノワイヤの直径が小さすぎる場合には、ナノワイヤ自体の電気抵抗が大きくなる傾向があり、一方、直径が大きすぎる場合には、光散乱等が増大して透明性が低下するおそれがあるので注意が必要である。こうした問題を回避するために、ナノワイヤの直径は、好ましくは10~500nm、より好ましくは20~150nm、特に好ましくは、30~120nmである。
【0026】
ナノワイヤの長さが短すぎる場合には、十分な導電クラスターが形成されず電気抵抗が高くなる傾向にあり、ナノワイヤの長さが長すぎる場合には、電極等を製造する際の溶媒への分散が不安定になる傾向にあるので注意が必要である。こうした問題を回避するために、ナノワイヤの長さは、好ましくは0.1~50μm、より好ましくは、1~40μm、特に好ましくは5~30μmである。なお、金属ナノワイヤの直径および長さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)によって得られるSEM画像の解析により測定することができる。実施形態において、ナノワイヤの直径および長さは無作為に選んだ5本のナノワイヤについての測定値の平均値を用いる。
【0027】
実施形態による透明電極は、中性ポリチオフェン混合物を具備している。この中性ポリチオフェン混合物は透明基材の露出部表面または金属グリッドの突出部と接触するように配置されている。
【0028】
ポリチオフェンは、ポリチオフェンまたはその誘導体の重合体であり、良好な導電性を有することから各種電子デバイスに利用されているものである。実施形態ではそれらのポリチオフェンのうち、中性であるものが用いられる。ポリチオフェンはドーピングすることにより導電性を生じる。一般的に素子の作製にあたって、ポリチオフェンを含有する透明導電膜を作製する場合、ポリチオフェンとドーピング剤としてポリスチレンスルホン酸等とを水に分散し、少量のジメチルスルホキシドを添加剤として用いた組成物を準備し、その組成物を製膜加熱して透明導電膜を作製する。しかし、このような場合に用いられる組成物は酸性のものが一般的であり、そのような組成物は金属グリッドや金属ナノワイヤを腐食させやすい。中性ポリチオフェン混合物はドーピング剤にポリスルホン酸の多価アミン塩等を用いるなど各種のものが知られており、その中から目的に応じて任意のものを用いることができる。そして、実施形態においては、それらのうち、濃度が1質量%の水中分散液としたときのpHが5~7であるものが好ましい。このような中性ポリチオフェン混合物としては、例えばポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸のグアニジン塩の混合物が好ましく用いられる。
【0029】
実施形態における中性ポリチオフェン混合物の塗設量は、一般に、0.01~0.5g/m、好ましくは、0.02~0.3g/m、より好ましくは0.05~0.2g/mである。中性ポリチオフェン混合物の塗設量がこの範囲内であると、得られる導電性膜は十分な透明性と柔軟性と導電性とを両立できる。
【0030】
実施形態による透明電極において、金属ナノワイヤおよび中性ポリチオフェン混合物はいずれも金属グリッドの突出部に接触している。金属グリッド表面は通常酸化物が形成されており酸化物があると金属ナノワイヤとの接触抵抗が高くなる。そのため金属ナノワイヤと接触させる前に酸化物を除去して金属表面を露出させ金属ナノワイヤと接触させることが好ましい。すなわち、金属グリッドの金属表面と金属ナノワイヤが接触した構造を有することが好ましい。中性ポリチオフェンの分子の一部は、金属ナノワイヤの粒子間に浸透して、金属ナノワイヤと中性ポリチオフェン混合物とが相互に混合された混合層を形成するので、この混合層の導電性が高くなり、その結果、透明電極の導電性も高くなる。そして、中性ポリチオフェン混合物は、金属ナノワイヤおよび金属グリッドを被覆するので、それらが酸化されるのが抑制される。また、中性ポリチオフェン混合物は、金属のマイグレーションを抑制する効果がある。このため、例えば素子に含まれる光電変換層などに由来する金属イオンがほかの層にマイグレーションしにくくなり、素子の寿命を長くすることができる。さらに中性ポリチオフェン混合物は、透明基板や金属グリッドと吸着しやすい傾向にあり、金属ナノワイヤ層を圧縮する効果も発揮する。この結果、金属ナノワイヤの粒子同士の接触面積が増大し、透明電極の導電性も高くなる傾向にある。
【0031】
実施形態による透明電極は、上記した金属グリッド、金属ナノワイヤ、および中性ポリチオフェン混合物を有する構造を具備することによって、優れた導電性を示し、その透明電極のシート抵抗は、好ましくは0.01~1Ω/□であり、より好ましくは0.05~0.2Ω/□である。透明電極のシート抵抗が0.01Ωより小さいと光透過性が低くなる傾向がある。1Ωより大きいと大面積の素子を構成する場合に、短冊状のスクライブが必要になる傾向がある。
【0032】
このような高い導電性を達成するために、
[金属グリッドのシート抵抗]<[金属ナノワイヤからなる膜のシート抵抗]<[中性ポリチオフェン混合物からなる膜のシート抵抗]
の関係を満たすことが好ましい。このような関係を満たすことにより、透明電極の全体にわたって高い導電性と高い光透過性とを実現できる。ここで、[金属グリッドのシート抵抗]とは、透明基材とその上に配置された金属グリッドとの複合体のシート抵抗であり、[金属ナノワイヤからなる膜のシート抵抗]とは、透明基材と、その上に配置された金属ナノワイヤとの複合体のシート抵抗、[中性ポリチオフェン混合物からなる膜のシート抵抗]とは、透明基材と、その上に配置された中性ポリチオフェン混合物との複合体のシート抵抗である。
【0033】
より具体的には、金属ナノワイヤからなる膜のシート抵抗が20~50Ω/□であり、中性ポリチオフェン混合物からなる膜のシート抵抗が100~500Ω/□であることが好ましい。シート抵抗は4探針法を用いて測定することができる。実施形態において、シート抵抗は無作為に選んだ5点のシート抵抗値の平均値を用いる。
【0034】
金属ナノワイヤからなる膜のシート抵抗が20Ω以上であると十分な光透過性が得られる傾向にあり、50Ω以下とすることで透明電極全体のシート抵抗が小さくなる傾向にある。
【0035】
中性ポリチオフェン混合物からなる膜のシート抵抗が、100Ω以上であると十分な光透過性が得られる傾向にあり、また500Ω以下とすることで透明電極全体のシート抵抗が小さくなる傾向にある。
【0036】
本実施形態による透明電極は、透明電極の表面積を基準とした、透明基材の露出部105の表面の面積比である開口率が90~99%であることが好ましい。開口率が90%以上であると光透過性を高くすることができる。一方、開口率を99%以下にすることによって金属グリッドの線幅を太くすることができ、シート抵抗を小さくすることができる。
【0037】
本実施形態による透明電極において、前記透明基材の露出部105の表面の平均表面粗さが10nm以下とすることが好ましい。露出部の表面粗さが10nm以下であると、実施形態による透明電極を用いて大面積の素子を形成する場合に、透明電極上に構成される素子の均一性や安定性が改良される傾向にある。露出部の表面粗さは6nm以下であることがより好ましい。表面粗さは原子間力顕微鏡(AFM)を用いて表面を走査することにより計測することができる。実施形態において、表面粗さは無作為に選んだ5つの5μm角の露出部についての測定値の平均値を用いる。
【0038】
また、本実施形態による透明電極において、透明基材の露出部105の表面に親水性ポリマー膜をさらに具備することが好ましい。露出部表面を、相対的に表面粗さが低い膜で被覆することができる。この時に金属グリッド表面をアルキルチオール等の表面処理剤で疎水処理をしておくと親水性ポリマーが金属グリッド部には被覆されにくくなる。アルキルチオールのアルキル基の長さとしては炭素数2から12が好ましい。アルキルチオールは酸で洗浄することにより金属グリッド表面から除去することができる。
【0039】
本実施形態による透明電極は金属グリッドの突出部の表面、金属ナノワイヤの表面、または中性ポリチオフェン混合物の表面に、グラフェン層をさらに具備することが好ましい。
【0040】
実施形態において、グラフェン層は、シート形状を有するグラフェンが1層~数層積層した構造を有している。積層されているグラフェン層の数は特に限定されないが、十分な、透明性、導電性、またはイオンの遮蔽効果を得ることができるように1~6層であることが好ましく、2~4層であることがより好ましい。
【0041】
そして、そのグラフェンは、グラフェン骨格に例えば下式に示されるようなポリアルキレンイミン、特にポリエチレンイミン鎖が結合した構造を有していることが好ましい。また、グラフェン骨格の炭素は一部窒素によって置換されていることも好ましい。
【化1】
【0042】
上式中、ポリアルキレンイミン鎖として、ポリエチレンイミン鎖を例示している。アルキレンイミン単位に含まれる炭素数は、2から8が好ましく、炭素数2の単位を含むポリエチレンイミンが特に好ましい。また直鎖状ポリアルキレンイミンだけではなく、分岐鎖や環状構造を有するポリアルキレンイミンを用いることもできる。ここで、n(繰り返し単位数)は10~1000が好ましく、100~300がより好ましい。
【0043】
グラフェンは無置換または窒素ドープが好ましい。窒素ドープグラフェンは透明電極を陰極に用いる場合に好ましい。ドープ量(N/C原子比)はX線光電子スペクトル(XPS)で測定することができ、0.1~30atom%であることが好ましく、1~10atom%であることがより好ましい。グラフェン層は遮蔽効果が高く、酸やハロゲンイオンの拡散を防ぐことにより金属酸化物や金属の劣化を防ぎ、外部からの不純物の光電変換層への侵入をふせぐことができる。さらに窒素置換されたグラフェン層(N-グラフェン層)は窒素原子を含んでいることから酸に対するトラップ能も高いので、遮蔽効果はより高いものとなっている。
【0044】
また、実施形態において、中性ポリチオフェン混合物の上、またはグラフェン層の上に、無機酸化物層をさらに有することが好ましい。無機酸化物としてはTiO、SnO、WO、NiO、MoO、ZnO、Vなどがある。導電性酸化物をさらに積層してもよい。これらの無機酸化物層は、透明基板または電子デバイスにおいて、バリア層、絶縁層、バッファ層などとして機能する。無機酸化物の金属と酸素原子の比率は化学量論比でなくてもよい。
【0045】
[実施形態2]
図2で示す第2の実施形態に係る透明電極100の作製方法は、
(A)仮支持体201を準備する工程、
(B)前記仮支持体の上に、金属グリッド102を配置する工程
(C)前記金属グリッドの一部を前記透明基材に埋設する工程、
(D)前記透明基材101と前記仮支持体201とを剥離し、前記金属グリッド102の残余の一部が前記透明基材101の表面から突出した突出部を形成するように前記金属グリッド102を前記透明基材101に配置する工程
(E)金属ナノワイヤ103を前記金属グリッド102の突出部に接触するように配置する工程、
(F)中性ポリチオフェン混合物104を前記金属グリッド102の突出部に接触するように配置する工程
を含む。
【0046】
工程(A)においては、仮支持体201を準備する。この仮支持体201は金属グリッドを一時的に配置するための支持体であり、任意の材料から選択することができる。仮支持体201の材料としては、ガラス、樹脂フィルム、金属などが用いられる。
【0047】
工程(B)において、準備された仮支持体201の表面に金属グリッド102を配置する。この金属グリッドは任意の方法で配置することができるが、例えば
(i)仮支持体201の上に、金属箔を貼り付け、さらにリソグラフィ法によって金属箔をパターニングする方法、または
(ii)仮支持体201の上に金属を含むインキを用いた印刷法または転写法による方法によって配置することができる。いずれの方法においても、金属グリッドの厚さが5~50μmとなるように、金属箔の厚さや仮支持体上に配置される金属を含むインキの量などを調整することが好ましい。
【0048】
工程(C)において、仮支持体201の表面に形成された金属グリッド102の一部を透明基材101に埋設する。例えば、図2(C)に示されるように、透明基材101に金属グリッド102を押し込むことで、金属グリッドの一部を埋設し、残余部分を突出部とすることができる。図2(C)において、金属グリッド102が配置された仮支持体201は反転させて、透明基材101に押し込まれている。このとき、透明基材101の前駆体となる流動性の高いモノマーやオリゴマーを硬化させる材料を準備し、金属グリッド102を浸漬した後に硬化させることが便利である。また、硬度の高い透明基材に機械的に溝を形成させ、その溝部に金属グリッドをはめ込んでもよい。
【0049】
工程(D)において、仮支持体を透明基材101から剥離する。このとき、金属グリッド102の残余の一部が、透明基材101の表面から突出した突出部となる。上記したように、透明基材を流動性の高いモノマーやオリゴマーを硬化させることにより形成する場合、硬化の際に収縮する場合が多い。このような場合には、金属グリッド全体が透明基材前駆体に埋設されていても、透明基材前駆体の硬化に伴う収縮に伴って、金属グリッドの一部を透明基材表面に突出させることもできる。この場合には、透明基材を硬化させる温度や時間を制御することで金属グリッドの突出部の高さを調整できる。また、透明基材の収縮によって、仮支持体と透明な基材とが剥離しやすくなるので、透明基材の硬化をしたあとに仮支持体を剥離してもよい。
【0050】
なお、工程(D)の後に、金属グリッド102の表面、特に突出部に酸化物が形成されることがある。このような酸化物は透明電極や素子の性能劣化の原因となるので除去することが好ましい。例えば、金属グリッドを形成させた後に、透明基材表面にヒドラジン水和物などの還元剤を接触させて還元処理したり、酸で洗浄することなどによって、金属グリッド表面の酸化物を除去することができる。
【0051】
また、工程(D)の後に、金属グリッド突出部を疎水化処理し、透明基材の露出部表面に親水性ポリマー膜を作製することもできる。このような処理によって、金属ナノワイヤを配置する前の透明基材表面の粗さを低くして、透明電極や素子の作製歩留まりや耐久性を向上させやくなる。
【0052】
工程(D)の後、工程(E)において、金属ナノワイヤ103を金属グリッド102に接触するように配置する。この工程においては、一般的に金属ナノワイヤ103を含む分散液を透明基材表面に塗布することにより行う。
【0053】
分散液は、例えばポリマーを含むことができる。ポリマーは、種類によって金属ナノワイヤのバインダーとして機能したり、導電性膜と透明基材との接着性を改良して、導電性膜の剥離を抑制することができる。本実施形態においては、例えば接着性ポリマーをこのような用途で用いることができる。このような接着性ポリマーとしては極性基が導入されたポリオレフィン、アクリル系ポリマー、ポリウレタン系ポリマーなどが挙げられる。しかしながら、導電性膜中のポリマー等の配合量が過度に高いと、導電性膜の電気抵抗を低下させる可能性もある。このような観点から、金属ナノワイヤ以外の成分の含有量は低いことが好ましい。具体意的には、導電性膜に含まれる金属ナノワイヤの含有率は、導電性膜の総質量を基準として95質量%以上であることが好ましい。
【0054】
工程(E)の後、工程(F)において、中性ポリチオフェン混合物104を金属グリッド102に接触するように配置する。この工程においては、一般的に中性ポリチオフェン混合物104を含む溶液または分散液を、金属ナノワイヤが配置された透明基材表面に塗布することにより行う。
【0055】
中性ポリチオフェン混合物を含む塗布液は、溶媒または分散媒として、水、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトンなどを含む。
【0056】
本実施形態において、工程(E)または(F)のいずれか、あるいはその両方をメニスカス塗布によって行うことができる。本実施形態においては、透明基材として柔軟性に富む有機材料フィルムを用いることができるので、塗布法を組み合わせたロール・ツー・ロールによって透明電極を作製することで、作製効率を高めることができる。
【0057】
本実施形態の透明電極の作製方法では、工程(D)、(E),または(F)の後にグラフェン層を形成させる工程をさらに組み合わせることができる。
【0058】
グラフェン層を形成する工程は任意の方法でおこなうことができる。例えば、グラフェン膜を別の支持体上に形成させ、それを構造物の上に転写する方法を採用することができる。具体的には、メタン、水素、アルゴンを反応ガスとして銅箔を下地触媒層としたCVD法により無置換単層グラフェン膜を形成させ、その膜を酸化物膜に圧着した後、銅を溶解して、単層グラフェンを構造物上に転写することができる。同様の操作を繰り返すことに複数の単層グラフェンを構造物上に積層することができる。このとき、2~4層のグラフェン層を作製することが好ましい。無置換のグラフェンの代わりに、一部の炭素がホウ素で置換されたグラフェンを用いてもよい。ホウ素置換グラフェンはBH、メタン、水素、アルゴンを反応ガスとして同様に作製できる。
【0059】
また、実施形態による作製方法は、また、工程(F)の後、またはグラフェン層の形成の後に無機酸化物層を形成する工程をさらに有することができる。無機酸化物としてはTiO、SnO、WO、NiO、MoO、ZnO、Vなどがある。これらの無機酸化物膜は、スパッタ法や蒸着法やゾルゲル法などにより形成されることが一般的である。無機酸化物の金属と酸素原子の比率は化学量論比でなくてもよい。
【0060】
[実施形態3-1]
図3を用いて、第3の電子デバイスの実施形態の一つに係る光電変換素子の構成について説明する。図3は、本実施形態に係る太陽電池セル300(光電変換素子)の構成概略図である。太陽電池セル300は、このセルに入射してきた太陽光L等の光エネルギーを電力に変換する太陽電池としての機能を有する素子である。太陽電池セル300は、透明電極301の表面に設けられた光電変換層302と、光電変換層302の透明電極301の反対側面に設けられた対向電極303とを具備している。ここで透明電極301は実施形態1で示されたものと同様である。
【0061】
光電変換層302は、入射してきた光の光エネルギーを電力に変換して電流を発生させる半導体層である。光電変換層302は、一般に、p型の半導体層とn型の半導体層とを具備している。光電変換層としてはp型ポリマーとn型材料との積層体、RNHPbX(Xはハロゲンイオン、Rはアルキル基等)、シリコン半導体、InGaAsやGaAsやカルコパイライト系やCdTe系やInP系やSiGe系、CuO系などの無機化合物半導体、量子ドット含有型、さらには色素増感型の透明半導体を用いてもよい。いずれの場合も効率が高く、より出力の劣化を小さくできる。
【0062】
光電変換層302と透明電極301の間には電荷注入を促進もしくはブロックするためにバッファ層が挿入されていてもよい。
【0063】
対向電極303は通常は不透明な金属電極であるが、実施形態による透明電極を用いてもよい。対向電極303と光電変換層302の間には別の電荷バッファ層や電荷輸送層が挿入されていてもよい。
【0064】
陽極用バッファ層や電荷輸送層としては例えばバナジウム酸化物、PEDOT/PSS、p型ポリマー、五酸化バナジウム(V2O5)、2,2’,7,7’-Tetrakis[N,N-di(4-methoxyphenyl)amino]-9,9’- spirobifluorene(以下、Spiro-OMeTADという)、酸化ニッケル(NiO)、三酸化タングステン(WO)、三酸化モリブデン(MoO)等からなる層を用いることができる。無機酸化物の金属と酸素原子の比率は化学量論比でなくてもよい。
【0065】
一方、陰極となる透明電極用のバッファ層や電荷輸送層としてはフッ化リチウム(LiF)、カルシウム(Ca)、6,6’-フェニル-C61-ブチル酸メチルエステル(6,6’-phenyl-C61-butyric acid methyl ester、C60-PCBM)、6,6’-フェニル-C71-ブチル酸メチルエステル(6,6’-phenyl-C71-butyric acid methyl ester、以下C70-PCBMという)、インデン-C60ビス付加体(Indene-C60 bisadduct、以下、ICBAという)、炭酸セシウム(CsCO)、二酸化チタン(TiO)、poly[(9,9-bis(3’-(N,N-dimethylamino)propyl)-2,7-fluorene)-alt-2,7-(9,9-dioctyl- fluorene)](以下、PFNという)、バソクプロイン(Bathocuproine、以下BCPという)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、ポリエチンイミン等からなる層を用いることができる。無機酸化物の金属と酸素原子の比率は化学量論比でなくてもよい。
【0066】
対向電極303として、透明電極301と同様の構造を有する電極を用いてもよい。また、対向電極303として、無置換の平面状の単層グラフェンを含有していてもよい。無置換の単層グラフェンは、メタン、水素、アルゴンを反応ガスとして銅箔を下地触媒層としたCVD法により作製することができる。たとえば熱転写フィルムと単層グラフェンを圧着した後、銅を溶解して、単層グラフェンを熱転写フィルム上に転写する。同様の操作を繰り返すことに複数の単層グラフェンを熱転写フィルム上に積層することができ、2~4層のグラフェン層を作製する。この膜に銀ペースト等を用いて集電用の金属配線を印刷することで対向電極とすることができる。無置換のグラフェンの代わりに、一部の炭素がホウ素で置換されたグラフェンを用いてもよい。ホウ素置換グラフェンはBH、メタン、水素、アルゴンを反応ガスとして同様に作製できる。これらのグラフェンは熱転写フィルムからPET等の適当な基板上に転写することもできる。
【0067】
またこれらの単層もしくは多層グラフェンに電子ドナー分子として3級アミンをドーピングしてもよい。このようなグラフェン膜からなる電極も透明電極として機能する。
【0068】
実施形態による太陽電池セルは、両面を透明電極に挟まれた構造とすることができる。このような構造を有する太陽電池は、両面からの光を効率よく利用することができる。エネルギー変換効率は一般に5%以上であり、長期間安定でフレキシブルであるという特徴を有する。
【0069】
また、対向電極303としてグラフェン膜の代わりに、ITOガラス透明電極を用いることができる。この場合には、太陽電池のフレキシビリティは犠牲になるが高効率で光エネルギーを利用することができる。また、金属電極としてステンレスや銅、チタン、ニッケル、クロム、タングステン、金、銀、モリブデン、すず、亜鉛等を用いてもよい。この場合には、透明性が低下する傾向にある。
【0070】
太陽電池セルには紫外線カット層、ガスバリア層を有することができる。紫外線吸収剤の具体例としては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ第3ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-第3オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物;フェニルサリチレート、p-オクチルフェニルサリチレート等のサリチル酸エステル系化合物が挙げられる。これらは400nm以下の紫外線をカットすることが望ましい。ガスバリア層としては特に水蒸気と酸素を遮断するものが好ましく、特に水蒸気を通しにくいものが好ましい。例えば、SiN、SiO、SiC、SiO、TiO、Alの無機物からなる層、超薄板ガラス等を好適に利用することができる。ガスバリア層の厚みは特に制限されないが、0.01~3000μmの範囲であることが好ましく、0.1~100μmの範囲であることがより好ましい。0.01μm未満では十分なガスバリア性が得られない傾向にあり、他方、前記3000μmを超えると重厚化しフレキシブル性や柔軟性等の特長が消失する傾向にある。ガスバリア層の水蒸気透過量(透湿度)としては、100g/m・d~10-6g/m・dが好ましく、より好ましくは10g/m・d~10-5g/m・dであり、さらに好ましくは1g/m・d~10-4g/m・dである。尚、透湿度はJIS Z0208等に基づいて測定することができる。ガスバリア層を形成するには、乾式法が好適である。乾式法によりガスバリア性のガスバリア層を形成する方法としては、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、誘導加熱蒸着、及びこれらにプラズマやイオンビームによるアシスト法などの真空蒸着法、反応性スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、ECR(電子サイクロトロン)スパッタリング法などのスパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的気相成長法(PVD法)、熱や光、プラズマなどを利用した化学的気相成長法(CVD法)などが挙げられる。中でも、真空下で蒸着法により膜形成する真空蒸着法が好ましい。
【0071】
実施形態による透明電極が基板を具備する場合には、目的に応じて基板の種類が選択される。例えば、透明基板としては、ガラスなどの無機材料、PET、PEN、ポリカーボネート、PMMAなどの有機材料が用いられる。特に、柔軟性のある有機材料を用いると、実施形態による透明電極が柔軟性に富むものになるので好ましい。
【0072】
なお、本実施形態の太陽電池セルは光センサーとしても使用できる。
【0073】
[実施形態3―2]
図4を用いて、第3の別の実施形態に係る光電変換素子の構成について説明する。図4は、本実施形態に係る有機EL素子400(光電変換素子)の構成概略図である。有機EL素子400は、この素子に入力された電気エネルギーを光Lに変換する発光素子としての機能を有する素子である。有機EL素子400は、透明電極401の表面に設けられた光電変換層(発光層)402と、光電変換層402の透明電極401の反対側面に設けられた対向電極403とを具備している。
【0074】
ここで透明電極401は実施形態1で示されたものと同様である。光電変換層402は、透明電極401から注入された電荷と対向電極43から注入された電荷を再結合させ電気エネルギーを光に変換させる有機薄膜層である。光電変換層402は通常p型の半導体層とn型の半導体層からなっている。光電変換層402と対向電極403の間には電荷注入を促進もしくはブロックするためバッファ層が設けられ、光電変換層402と透明電極401の間にも別のバッファ層が設けられていてもよい。対向電極403は、通常は金属電極であるが透明電極を用いてもよい。
【0075】
(実施例1)
図5に示す構造の透明電極500を作成する。厚さ100μmのPETフィルム上に膜厚20μmの銅箔を張り付ける。レジストフィルムを張り付けた後、幅20μmの四角格子状の配線を2mmピッチで光リソグラフィ法で作製する。開口率は98%である。次にエポキシ樹脂を塗布、硬化させた後、PETフィルムから剥離する。
【0076】
AFMで観測するとエポキシ樹脂501に銅配線502は埋め込まれており、金属グリッドの厚さは、銅箔の膜厚に対応して約20μmであり、突出部の差は平均で0.5μmである。
【0077】
次に、1N塩酸、純水で洗浄、乾燥させて表面の銅酸化物を除去する。
【0078】
平均直径30nm、長さ5μmの銀ナノワイヤの水分散液をメニスカス塗布した後、乾燥させ、銀ナノワイヤ層503を作製する。得られたフィルムのシート抵抗は平均で0.2Ωである。なおPETフィルムに同様に塗布した銀ナノワイヤ膜のシート抵抗は平均で40Ωである。
【0079】
銀ナノワイヤ膜の上に中性PEDOTのpH6.0の水分散液(Clevios PJet)をメニスカス塗布し、PEDOT層504を作製する。乾燥後、得られたフィルムのシート抵抗は0.2Ωである。なおPETフィルムの銀ナノワイヤ膜(シート抵抗は平均で40Ω)の上に同様に中性PEDOTを塗布するとシート抵抗は平均で28ΩでありPEDOT層によるプレス効果が見られる。
【0080】
AFMで銅グリッドの開口部の平均粗さは6nmである。
【0081】
(比較例1)
1N塩酸、純水で洗浄、乾燥させて表面の銅酸化物を除去する工程を有しないことを除いては実施例1と同様にして透明電極を作製する。得られたフィルムの4探針で測定したシート抵抗は平均で40Ωであり、金属ナノワイアと金属グリッドとが接触していない。
【0082】
(比較例2)
PETフィルムに貼り付ける銅箔の膜厚を4μmにした他は、実施例1と同様にして透明電極を作製する。銅箔が薄いためににしわが発生し、均一にはりつけることができず、埋設部と突出部を有するグリッドの形成が困難である。
【0083】
(実施例2)
実施例1にの条件に対して、エポキシ樹脂の硬化条件をより緩和して、硬化させた後、PETフィルムから剥離する。AFMで観測するとエポキシ樹脂に銅配線は埋め込まれており、突出部の高さの差は平均で0.1μmである。他は実施例1と同様にして透明電極を作製する。
得られた透明電極フィルムのシート抵抗は平均で0.3Ωであり、バラツキが実施例1と比べて大きく、金属ナノワイアと金属グリッドとの接触が実施例1よりもわずかに劣る。
【0084】
(実施例3)
実施例1においてエポキシ樹脂の硬化条件を厳しくしてより迅速に硬化させた後、PETフィルムから剥離する。AFMで観測するとエポキシ樹脂に銅配線は埋め込まれており、突出部の高さの差は平均で1.2μmである。他は実施例1と同様にして透明電極を作製する。得られた透明電極フィルムの4探針で測定したシート抵抗は平均で0.2Ωである。
【0085】
(実施例4)
実施例1の透明電極上に平面状の、炭素原子の一部が窒素原子に置換された、平均4層のN-グラフェン膜が積層された遮蔽層を形成する。
【0086】
遮蔽層は以下の通り作成する。まず、Cu箔の表面をレーザー照射によって加熱処理し、アニールにより結晶粒を大きくする。このCu箔を下地触媒層とし、アンモニア、メタン、水素、アルゴン(15:60:65:200ccm)を混合反応ガスとして1000℃、5分間の条件下、CVD法により平面状の単層N-グラフェン膜を製造する。この時、ほとんどは単層のグラフェン膜が形成されるが、条件により一部に2層以上のN-グラフェン膜も生成する。さらにアンモニア、アルゴン混合気流下1000℃で5分処理した後、アルゴン気流下で冷却する。熱転写フィルム(150μm厚)と単層N-グラフェンを圧着した後、Cuを溶解するため、アンモニアアルカリ性の塩化第二銅エッチャントに漬けて、単層N-グラフェン膜を熱転写フィルム上に転写する。同様の操作を繰り返すことに単層グラフェン膜を熱転写フィルム上に4層積層して多層N-グラフェン膜を得る。熱転写フィルムを実施例1で得られる透明電極上にラミネートした後、加熱してN-グラフェン膜を転写する。
【0087】
XPSで測定された窒素の含有量は、この条件では1~2atom%である。XPSから測定したカーボン材料の炭素原子と酸素原子の比率は100~200である。
【0088】
(実施例5)
図6に示す太陽電池セル600を作成する。
実施例1で得られる透明電極601上にポリ(3-ヘキシルチオフェン-2,5-ジイル)とC60-PCBMとを含むクロルベンゼン溶液をメニスカス塗布し、100℃で20分乾燥することにより光電変換層602を作製する。次にC60-PCBMのトルエン溶液をメニスカス塗布して乾燥させ、電子輸送層603を作製する。次に電子注入層604としてフッ化リチウムの水溶液を塗布する。その上にアルミニウムを蒸着し、対向電極605を作製する。
【0089】
透明基板表面に2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン含有の紫外線カットインクをスクリーン印刷して紫外線カット層66を作製する。紫外線カット層の上に真空蒸着法でシリカ膜を製膜しガスバリア層67を作製し、全体をフィルムで封止して太陽電池セル60を作製する。
【0090】
得られる太陽電池セルは1SUNの太陽光に対して5%以上のエネルギー変換効率を示す。
【0091】
(実施例6)
実施例3で得られる透明電極を用いることを除いては実施例5と同様にして太陽電池セルを作製する。
得られる太陽電池セルは1SUNの太陽光に対して5%以上のエネルギー変換効率を示すものと、短絡しているものが混在する。
【0092】
(実施例7)
有機EL素子を作成する。実施例4で得られる透明電極上に電子輸送層としてフッ化リチウムの水溶液を塗布し、n型の半導体としても機能し、発光層でもあるトリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq)(40nm)を蒸着して光電変換層を作製する。その上にN,N’-ジ-1-ナフチル-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(以下、NPDという)を30nmの厚さで蒸着しホール輸送層83を作製する。その上に金電極をスパッタ法により製膜する。さらに周りを封止することにより有機EL素子を作製する。得られる有機EL素子は効率20%以上である。
【0093】
(実施例8)
太陽電池セルを作成する。
【0094】
実施例4で得られる透明電極上に酸化チタン膜をスパッタで作製する。PbIのイソプロパノール溶液をメニスカス塗布する。次にメチルアンモニウムヨウ化物のイソプロパノール溶液をメニスカス塗布する。100℃で10分乾燥することにより光電変換層を作製する。次にSpiro-OMeTADのトルエン溶液をメニスカス塗布して乾燥させ、正孔輸送層を作製する。その上にPEDOT/PSSにソルビトールを添加した水溶液を塗布して100℃で10分乾燥させ、導電性の接着層を作製する。
【0095】
実施例4で得られる別の透明電極と上記接着層を合わせるように貼り合わせる。
上記貼り合わせた透明基板表面に2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン含有の紫外線カットインクをスクリーン印刷して紫外線カット層を作製する。紫外線カット層の上に真空蒸着法でシリカ膜を製膜しガスバリア層を作製し半透明な太陽電池セルを作製する。
【0096】
得られる太陽電池セルは1SUNの太陽光に対して10%以上のエネルギー変換効率を示す。
【0097】
(実施例8)
図7に示す4端子型タンデム太陽電池セル700を作成する。このタンデム太陽電池セルは、単結晶シリコン太陽電池セル701の上に、接着のための中間層702を挟んで、実施例7で得られる実施形態による透明電極703aを具備した太陽電池セル703が配置されている。
【0098】
得られる太陽電池セルは1SUNの太陽光に対して22%以上のエネルギー変換効率を示す。
【0099】
以上の通り、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0100】
100…透明電極
101…透明基材
102…金属グリッド
103…金属ナノワイヤ
104…中性ポリチオフェン混合物
105…露出部
201…仮支持体
d1…金属グリッドの厚さ
d2…金属グリッドと開口部の高さの差
d3…金属グリッドの線幅
300…太陽電池セル
301…透明電極
302…光電変換層
303…対向電極
400…有機EL素子
401…透明電極
402…光電変換層
403…対向電極
500…透明電極
501…エポキシ樹脂
502…銅配線
503…銀ナノワイヤ層
504…PEDOT層
600…太陽電池セル
601…透明電極
602…光電変換層
603…電子輸送層
604…電子注入層
605…対向電極
606…紫外線カット層
607…ガスバリア層
700…タンデム太陽電池セル
701…単結晶シリコン太陽電池セル
702…中間層
703…太陽電池セル
703a…透明電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7