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特許7482252蛍光体、蛍光体の製造方法および放射線放出素子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】蛍光体、蛍光体の製造方法および放射線放出素子
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/66 20060101AFI20240502BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20240502BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240502BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20240502BHJP
   C09K 11/68 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
C09K11/66
C09K11/08 B
C09K11/08 J
H01L33/50
G02B5/20
C09K11/68
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022564267
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-23
(86)【国際出願番号】 EP2021060295
(87)【国際公開番号】W WO2021214093
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】102020205104.6
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599133716
【氏名又は名称】エイエムエス-オスラム インターナショナル ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ams-OSRAM International GmbH
【住所又は居所原語表記】Leibnizstrasse 4, D-93055 Regensburg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マークス ザイバルト
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク バウマン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアーネ シュトル
(72)【発明者】
【氏名】フーバート フッペルツ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ヴアスト
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106753359(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107779191(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110511755(CN,A)
【文献】国際公開第2018/230569(WO,A1)
【文献】STOLL et al.,K2SnOF4 and K2WO3F2 - different but similar,Z. Naturforsch,2020年09月16日,75(9-10)b,pp. 833-841,https://doi.org/10.1515/znb-2020-0132
【文献】ADACHI,Crystal-field and Racah parameters of Mn4+ ion in red and deep red-emitting phosphors: Fluoride versus oxide phosphor,Journal of Luminescence,2019年10月21日,218,116829,https://doi.org/10.1016/j.jlumin.2019.116829
【文献】HU et al.,Host sensitization of Mn4+ in self-activated Na2WO2F4:Mn4+,Journal of the American Ceramic Society,2018年,101,pp. 3437-3442,http://doi.org/10.1111/jace.15521
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式A SnOF :REまたは式A WO :RE
[式中、
- Aは、Li、Na、K、Rb、Csおよびそれらの組み合わせから選択され
- REは、Mn、Eu、Ceおよびそれらの組み合わせから選択される]を有する蛍光体(1)であって、
- 前記蛍光体(1)は、斜方晶系空間群で結晶化しているホスト構造を有する、蛍光体(1)。
【請求項2】
REは、SnまたはWに対して0.001~0.1のモル分率を有する、請求項記載の蛍光体(1)。
【請求項3】
前記蛍光体(1)は、式KSnOFMn 4+ を有するか、または前記蛍光体(1)は、式KWOMn 4+ を有する、請求項1または2記載の蛍光体(1)。
【請求項4】
前記蛍光体(1)は、共通の原子を介して連結して鎖(7)を形成している[Sn(O,F) 4- 八面体または[W(O,F) 4- 八面体を含むホスト構造を有する、請求項1からまでのいずれか1項記載の蛍光体(1)。
【請求項5】
連結した[Sn(O,F) 4- 八面体または[W(O,F) 4- 八面体の前記鎖(7)は、間隙(8)を形成しており、少なくとも間隙(8)内にA元素が存在している、請求項記載の蛍光体(1)。
【請求項6】
前記蛍光体(1)の発光スペクトルは、590ナノメートル~700ナノメートルに複数の発光ピークを有する、請求項1からまでのいずれか1項記載の蛍光体(1)。
【請求項7】
前記蛍光体(1)の発光ピークの半値幅は、1ナノメートル~15ナノメートルである、請求項1からまでのいずれか1項記載の蛍光体(1)。
【請求項8】
前記蛍光体(1)の発光ピークの発光極大は、626ナノメートル~635ナノメートルに存在する、請求項1からまでのいずれか1項記載の蛍光体(1)。
【請求項9】
式A SnOF :REまたは式A WO :RE
[式中、
- Aは、Li、Na、K、Rb、Csおよびそれらの組み合わせから選択され
- REは、Mn、Eu、Ceおよびそれらの組み合わせから選択される]を有する蛍光体(1)の製造方法であって、
- 前記蛍光体(1)は、斜方晶系空間群で結晶化しているホスト構造を有するものとする、方法において、前記方法は、
- ホスト材料を合成するステップと、
- 前記ホスト材料をドーピングするステップと
を含む、方法。
【請求項10】
前記ホスト材料の合成は、
- 出発材料の組成物を提供するステップと、
- 前記出発材料の組成物を、最大圧力0.55GPa~7.50GPaで最高温度150℃~1000℃に加熱するステップと
を含む、請求項記載の蛍光体(1)の製造方法。
【請求項11】
前記ホスト材料のドーピングは、
- ホスト材料とドーパントとの組成物を提供するステップと、
- 前記ホスト材料とドーパントとの組成物を粉砕するステップと
を含む、請求項または10記載の蛍光体(1)の製造方法。
【請求項12】
フッ酸溶液を使用しない、請求項から11までのいずれか1項記載の蛍光体(1)の製造方法。
【請求項13】
放射線放出素子(10)であって、
- 動作時に第1の波長範囲の電磁放射線を放出する半導体チップ(11)と、
- 前記第1の波長範囲の電磁放射線を第2の波長範囲の電磁放射線に変換する式A SnOF :REまたは式A WO :RE
[式中、
- Aは、Li、Na、K、Rb、Csおよびそれらの組み合わせから選択され
- REは、Mn、Eu、Ceおよびそれらの組み合わせから選択される]を有する蛍光体(1)を含む変換素子(13)であって、
- 前記蛍光体(1)は、斜方晶系空間群で結晶化しているホスト構造を有するものとする、変換素子(13)と
を備える、放射線放出素子(10)。
【請求項14】
前記蛍光体(1)は、赤色スペクトル領域で発光する、請求項13記載の放射線放出素子(10)。
【請求項15】
前記変換素子(13)は、前記第1の波長範囲の電磁放射線を第3の波長範囲の電磁放射線に変換する少なくとも1つのさらなる蛍光体を含む、請求項13または14記載の放射線放出素子(10)。
【請求項16】
前記変換素子は、緑色スペクトル領域で発光するさらなる蛍光体を含む、請求項15記載の放射線放出素子(10)。
【請求項17】
前記変換素子(13)は、さらなる蛍光体を含まない、請求項13または14記載の放射線放出素子(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
蛍光体および蛍光体の製造方法が提示される。さらに、放射線放出素子が提示される。
【0002】
特に、効率が向上した蛍光体を提供することを課題とする。さらに、効率が向上した蛍光体の製造方法、および効率が向上した放射線放出素子を提供することを課題とする。
【0003】
蛍光体が提示される。少なくとも1つの実施形態によれば、蛍光体は、一般式AEZ:RE
[式中、
- Aは、1価の元素の群から選択され、
- Eは、4価、5価または6価の元素の群から選択され、
- Zは、2価の元素の群から選択され、
- Xは、1価の元素の群から選択され、
- REは、賦活剤元素から選択され、
- 2+e=2z+xであり、ここで、eは、元素Eの電荷数であり、
- x+z=5であり、かつz>0である]を有する。
【0004】
以下、蛍光体について組成式で説明する。ここで、組成式に記載されている元素は、帯電した形態で存在する。したがって、以下では、蛍光体の組成式に関連する元素あるいは原子は、たとえ明示されていなくてもカチオンおよびアニオンの形態のイオンを意味する。また、このことは元素記号にも適用され、わかりやすくするために電荷数を付さずに元素記号が記載されている場合に該当する。
【0005】
示されている組成式において、蛍光体が、例えば不純物の形態でさらなる元素を含む場合がある。これらの不純物は、合計で最大5モル%、特に最大1モルパーミル、特に最大100ppm(parts per million)、好ましくは最大10ppmとなる。本明細書に記載の組成式によれば、蛍光体は、1価のアニオンおよび2価のアニオンのみを有する。しかし、不純物の形態でさらなる、特にアニオン性の元素が存在することは排除されない。
【0006】
本蛍光体は、見掛け上は帯電せずに存在することができる。つまり、蛍光体において、見掛け上はプラスとマイナスの電荷が完全に均衡して存在し得る。一方、蛍光体の電荷の均衡が形式上わずかながら完全でない場合もあり得る。
【0007】
本蛍光体の電荷均衡について、2+e=2z+xであり、ここで、eは、元素Eの電荷数であり、x+z=5であり、かつzは0より大きい(z>0)。つまり、zは1以上(z≧1)である。特に、xも同様に、0より大きい(x>0)か、あるいは1以上(x≧1)である。
【0008】
ある元素に関する「価数」という用語は、本明細書において、電荷の均衡を達成するのに反対の電荷を有する元素が化合物中にいくつ必要かを表すものである。したがって、「価数」という用語には、元素の電荷数が含まれる。
【0009】
1価の元素とは、価数が1の元素である。1価の元素はしばしば、化合物中に正の電荷を1つ有し電荷数が+1であるか、または負の電荷を1つ有し電荷数が-1である。正の電荷を有する1価の元素は、本明細書において通常は、アルカリ金属、第I亜族元素およびタリウムで形成される群から選択される。負の電荷を有する1価の元素は、本明細書において通常は、ハロゲンで形成される群から選択される。
【0010】
2価の元素とは、価数が2の元素である。2価の元素は、化合物中にしばしば負の電荷を2つ有し、電荷数が-2である。2価の元素は、本明細書において通常は、カルコゲンで形成される群から選択される。
【0011】
4価の元素とは、価数が4の元素である。4価の元素はしばしば、化合物中に正の電荷を4つ有し、電荷数が+4である。4価の元素は、本明細書において通常は、スズ、ケイ素、ゲルマニウム、ジルコニウム、ハフニウム、鉛およびチタンで形成される群から選択される。
【0012】
5価の元素とは、価数が5の元素である。5価の元素はしばしば、化合物中に正の電荷を5つ有し、電荷数が+5である。5価の元素は、本明細書において通常は、バナジウムである。
【0013】
6価の元素とは、価数が6の元素である。6価の元素はしばしば、化合物中に正の電荷を6つ有し、電荷数が+6である。6価の元素は、本明細書において通常は、タングステンおよびモリブデンで形成される群から選択される。
【0014】
本明細書に記載の蛍光体は、第1の波長または第1の波長範囲の電磁放射線(以下、一次放射線と称する)を、第2の波長または第2の波長範囲の電磁放射線(以下、二次放射線と称する)に変換することができる。一次放射線から二次放射線への変換を、波長変換ともいう。特に波長変換では、蛍光体を含む波長変換素子により一次放射線が吸収され、これが原子および/または分子レベルの電子プロセスで二次放射線に変換され、最放射される。一次放射線および二次放射線は、少なくとも部分的に互いに異なる波長範囲を有し、一実施形態によれば、二次放射線の方が、より長波の波長範囲を有する。
【0015】
本明細書に記載の蛍光体は、励起後に赤色、特に深紅色の光を発することができ、したがって、用途に応じて好ましくは、例えば特に一般照明における高いR9値との組み合わせで特に高い演色評価数を有する白色LED光源や、大きな色空間の表現に適したディスプレイなどのバックライト装置で、赤色光や白色光の発生に使用することができる。
【0016】
変換型白色LEDにおいて、高い演色評価数(color rendering index、CRI)を実現するためには、赤色スペクトル領域の発光帯の形状および位置が重要な役割を果たす。高効率を実現するためには、発光帯と視感度曲線との大幅な積分の重なりが重要である。本明細書に記載の蛍光体は、有利にも視感度曲線との重なりが特に大きい波長範囲に発光極大を有するため、高いスペクトル効率を得ることができる。同時に、本明細書に記載の蛍光体は発光のスペクトル幅が狭いため、視感度が低い範囲の光子の数を小さく抑えることができるとともに、目的の赤色域の光子を多く得ることができる。
【0017】
一実施形態によれば、蛍光体は、結晶性ホスト材料を含み、その中に異種元素が賦活剤元素として導入されている。蛍光体は、例えばセラミック材料である。
【0018】
蛍光体の賦活剤元素は、一次放射線を直接吸収することができ、それにより電子遷移が励起される。あるいはホスト材料が一次放射線を吸収し、吸収されたエネルギーを賦活剤元素に伝達することもでき、それにより賦活剤元素において電子遷移が生じる。どちらの場合にも、賦活剤元素の励起電子は、二次放射線を放射することで基底状態に戻ることができる。このように、ホスト構造に導入された賦活剤元素が、蛍光体の波長変換特性を担っている。
【0019】
特に、結晶性ホスト構造は、一般的に周期的に繰り返される3次元単位胞で構成されている。つまり、単位胞は、結晶性ホスト構造の最小の繰返し単位である。A、E、ZおよびXの各元素はそれぞれ、ホスト構造の3次元単位胞内の決まった位置、いわゆるサイトを占めている。
【0020】
結晶性ホスト構造の3次元単位胞を記述するには、6つの格子定数、すなわち、3つの長さa、bおよびc、ならびに3つの角度α、βおよびγが必要である。3つの格子定数a、bおよびcは、単位胞に広がる格子ベクトルの長さである。さらに3つの格子定数α、βおよびγは、これらの格子ベクトル間の角度であり、αは、bとcとの間の角度であり、βは、aとcとの間の角度であり、γは、aとbとの間の角度である。ここで、Vは、体積に相当し、ρは、単位胞の充填密度に相当する。
【0021】
少なくとも1つの実施形態によれば、格子定数aは、590pm~630pmの範囲であり、格子定数bは、720pm~750pmの範囲であり、格子定数cは、1060pm~1100pmの範囲である。少なくとも1つの実施形態によれば、角度α、βおよびγは、89°~91°の範囲であり、好ましくは90°である。
【0022】
少なくとも1つの実施形態によれば、ホスト構造の単位胞の体積Vは、0.45nm~0.52nmの範囲である。
【0023】
少なくとも1つの実施形態によれば、ホスト構造の単位胞の充填密度ρは、3gcm-3~6gcm-3の範囲である。格子定数、体積および充填密度の正確な値は、一般式の個々の元素に依存する。
【0024】
少なくとも1つの実施形態によれば、蛍光体は、異なる相を含むか、または異なる相からなる。各相は、一般式AEZ:REを含むか、または一般式AEZ:REからなる。各相のさらなる構成要素は、例えば、蛍光体の製造時に反応しなかった出発材料、不純物および/または反応時に形成された二次相であってよい。
【0025】
少なくとも1つの実施形態によれば、蛍光体は、式AEO:REを有する。このように、蛍光体は、酸素およびフッ素をアニオンとして有する。これらの元素は、容易に入手可能である。
【0026】
少なくとも1つの実施形態によれば、Aは、Li、Na、K、Rb、Csおよびそれらの組み合わせから選択される。少なくとも1つの実施形態によれば、Aは、Kを含むか、またはKからなる。これらの元素は、容易に入手可能である。
【0027】
少なくとも1つの実施形態によれば、Eは、Sn、Si、Ge、Ti、Zr、Hf、Pb、V、W、Moおよびそれらの組み合わせから選択される。少なくとも1つの実施形態によれば、Eは、Snを含むか、またはSnからなる。少なくとも1つの実施形態によれば、Eは、Wを含むか、またはWからなる。これらの元素は、容易に入手可能である。
【0028】
少なくとも1つの実施形態によれば、REは、Mn、Cr、Ni、ランタノイド群、特にCe、Eu、Yb、Tb、Sm、Pr、Erおよびそれらの組み合わせから選択される。少なくとも1つの実施形態によれば、REは、Mn、Eu、Ceおよびそれらの組み合わせから選択される。少なくとも1つの実施形態によれば、REは、Mnを含むか、またはMnからなる。特に、Mnは、Mn4+の形で存在する。
【0029】
少なくとも1つの実施形態によれば、REは、元素Eに対して0.001~0.1のモル分率を有する。すなわち、原子Eの0.1%~10%がREで置換されている。特に、Eに対するREのモル分率は、0.02~0.06、例えば0.042である。
【0030】
少なくとも1つの実施形態によれば、蛍光体は、式KSnOF:REを有する。この場合、一実施形態によれば、REは、Mn4+である。したがって、蛍光体は、Mn4+をドープしたオキシドフルオリドスズ酸カリウムであってよい。式KSnOF:REの蛍光体の赤色波長範囲の発光は、視感度曲線との大幅な重なりを示し、それにより、比較例であるKSiF:Mn4+と比較してスペクトル効率(LER)が最大で6%向上している。また、フッ酸を使用せずに式KSnOF:REの蛍光体を製造することができる。
【0031】
少なくとも1つの実施形態によれば、蛍光体は、式KWO:REを有する。この場合、一実施形態によれば、REはMn4+である。したがって、蛍光体は、Mn4+をドープしたオキシドフルオリドタングステン酸カリウムであってよい。フッ酸を使用せずに式KWO:REの蛍光体を製造することができる。
【0032】
少なくとも1つの実施形態によれば、蛍光体は、斜方晶系空間群で結晶化しているホスト構造を有する。少なくとも1つの実施形態によれば、蛍光体のホスト構造は、斜方晶系空間群Pnma(No.62)で結晶化している。
【0033】
少なくとも1つの実施形態によれば、蛍光体は、共通のZ原子を介して連結して鎖を形成している[E(Z,X)4-八面体を含むホスト構造を有する。以下で、結晶構造内の個々の原子の連結パターンや配位圏を表すために「八面体」という用語を用いる。ただし、以下で、「八面体」という用語は、厳密に数学的な意味でのみ理解されるものではない。特に、わずかな歪みが生じる場合があるため、数学的な意味での完全な八面体とは結合距離や角度が異なることがある。特に、個々の原子位置は、完全な八面体配位の位置に対してシフトや偏向を示すこともある。
【0034】
[E(Z,X)4-八面体は、Z原子およびX原子を頂点としている。特に、[E(Z,X)4-八面体では、向かい合う少なくとも2つの角がZ原子で占められている。
【0035】
E原子は、八面体の内部に配置されている。つまり、八面体は、E原子を中心に配置されている。E原子の周囲には、X原子およびZ原子が合計で6個、八面体状に配置されている。特に、八面体の頂点である原子はすべて、八面体内部のE原子から同様の距離にある。
【0036】
鎖は、連結した多数の[E(Z,X)4-八面体から構成されていてよい。この場合、[E(Z,X)4-八面体を鎖状に連結するZ原子は、連結した八面体の共通のZ原子である。このようなZ原子は、二重架橋Z原子とも呼ばれる。つまり、鎖は、互いに結合された[EZ2/2(Z,X)2-八面体からなる。特に、[E(Z,X)4-八面体は、八面体の向かい合う角に配置されたZ原子を介して連結している。特に、各[E(Z,X)4-八面体は、ちょうど2つの他の[E(Z,X)4-八面体と連結している。好ましくは、蛍光体のホスト構造は、連結した[E(Z,X)4-八面体から構成される複数の鎖を含む。特に、個々の鎖は、互いに直接連結しているわけではなく、特に間接的に連結しているわけでもない。
【0037】
少なくとも1つの実施形態によれば、連結した[E(Z,X)4-八面体の鎖は、間隙を形成しており、少なくとも間隙内にA元素が存在している。特に、連結した[E(Z,X)4-八面体の鎖は、互いに平行に配置されており、結晶学的b軸に対して平行に、あるいは[010]に沿って単位胞の垂直な縁部に沿って延在しているとともに、[010]に沿って単位胞の中心を垂直に貫いている。間隙は特に、連結した[E(Z,X)4-八面体の鎖間の空洞やチャネルとして形成されている。特に、間隙内のA原子は、[E(Z,X)4-八面体の電荷均衡を達成するための対イオンとして機能している。
【0038】
少なくとも1つの実施形態によれば、蛍光体の発光スペクトルは、570nm~700nm、特に590nm~660nmに複数の発光ピークを有する。発光スペクトルとは、蛍光体が放出する電磁放射線の分布である。通常、蛍光体の発光スペクトルは、蛍光体が発する電磁放射線のスペクトル強度を波長λの関数として示した図の形で表される。つまり、発光スペクトルは、x軸に波長、y軸にスペクトル強度をプロットした曲線で表される。
【0039】
よって、本蛍光体は、一次放射線、特に可視青色波長範囲、例えば430nm~500nmの一次放射線を、赤色波長範囲の二次放射線に変換することができる。複数の発光ピークとは、発光スペクトルにおけるスペクトル位置が異なる少なくとも2つの発光ピークである。ここで、各発光ピークは、同じスペクトル強度を有していてもよいし、異なるスペクトル強度を有していてもよい。特に、蛍光体の発光スペクトルは、線形スペクトルの形態を有する。
【0040】
蛍光体の少なくとも1つの実施形態によれば、発光ピークの半値幅は、1ナノメートル~15ナノメートルである。
【0041】
特に、発光ピークの半値幅は、1ナノメートル~10ナノメートル、好ましくは1ナノメートル~5ナノメートルである。特に、各発光ピークの半値幅は、1ナノメートル~15ナノメートルである。このように狭帯域発光蛍光体は、人間の目には非常に非効率的にしか認識されない深紅色スペクトル領域の光子を比較的わずかにしか発生させず、それと同時に光の赤色印象および発光効率が向上する。
【0042】
少なくとも1つの実施形態によれば、蛍光体の発光ピークの発光極大は、626nm~635nm、特に629nm~632nmに存在する。発光極大とは、蛍光体の発光曲線が最大値に達する波長λmaxである。特に、青色スペクトル領域、例えば430nm~500nmの一次放射線で励起された後の蛍光体の発光極大は、626nm~635nm、特に629nm~632nmに存在する。したがって、青色スペクトル領域の一次放射線で励起された後の蛍光体の発光極大は、赤色スペクトル領域に存在する。例えば、蛍光体KSnOF:Mn4+の発光極大は約630.5nmに存在し、したがって、赤色蛍光体に好ましい範囲に存在する。
【0043】
ここで有利には、発光スペクトルは、特に赤色発光蛍光体KSiF:Mn4+の比較例と比較して短波長側にシフトしており、少なくとも1つの追加の発光ピークを有する。光に対する人間の目の感度は、赤色スペクトル領域では比較的低く、波長が短くなるにつれてほぼ指数関数的に増加する。これにより、蛍光体の発光のスペクトル位置が、放射線放出素子の全スペクトル効率に極めて強い影響を与える。したがって、このスペクトル領域では、同じ発光帯がわずかにずれたり発光帯が追加されたりするだけで、蛍光体の効率のパーセント範囲が変化する。
【0044】
さらに、蛍光体の製造方法が提示される。好ましくは、本明細書に記載の方法を用いて、上記実施形態による蛍光体が製造される。特に、蛍光体に関する記述はいずれも方法にも適用され、その逆もまた同様である。
【0045】
一般式AEZ:RE
[式中、
- Aは、1価の元素の群から選択され、
- Eは、4価、5価または6価の元素の群から選択され、
- Zは、2価の元素の群から選択され、
- Xは、1価の元素の群から選択され、
- REは、賦活剤元素から選択され、
- 2+e=2z+xであり、ここで、eは、元素Eの電荷数であり、
- x+z=5であり、かつz>0である]を有する蛍光体(1)の製造方法の少なくとも1つの実施形態によれば、本方法は、
- ホスト材料を合成するステップと、
- ホスト材料をドーピングするステップと
を含む。
【0046】
少なくとも1つの実施形態によれば、ホスト材料の合成は、
- 出発材料の組成物を提供するステップと、
- 出発材料の組成物を、最大圧力0.55GPa~7.50GPaで最高温度150℃~1000℃に加熱するステップと
を含む。
【0047】
特に、温度変化、例えば加熱もしくは冷却、および/または圧力変化、例えば増圧もしくは減圧は、勾配により、例えばある期間にわたって均一な加熱または増圧により行うことができる。また、温度変化および/または圧力変化時に勾配を変化させることができる。ここで、勾配の変化は、漸次的であってもよいし、均一であってもよい。
【0048】
少なくとも1つの実施形態によれば、ホスト材料の合成の出発材料は、AおよびEのハロゲン化物、ハロゲン化水素およびカルコゲン化物からなる群から選択され、出発材料の組成物は、少なくとも1つのカルコゲン化物と少なくとも1つのハロゲン化物またはハロゲン化水素とを含む。特に、出発材料は、AおよびEのフッ化物、フッ化水素および酸化物を含む群から選択される。
【0049】
少なくとも1つの実施形態によれば、少なくとも1つの出発材料は、出発材料の組成物中に過剰に存在する。つまり、出発材料同士のモル比は、化学量論的でない。少なくとも1つの出発材料は、少なくとも1つの他の出発材料に対して、化学量論的に必要であるモル比よりも大きなモル比で出発材料の組成物中に存在する。
【0050】
少なくとも1つの実施形態によれば、ホスト材料の合成は、高圧プレス、例えばマルチアンビル高圧プレスで行われる。
【0051】
少なくとも1つの実施形態によれば、出発材料の組成物の加熱は、250℃~450℃、例えば350℃の最高温度まで行われる。代替的または追加的に、出発材料の組成物の加熱は、1.50GPa~3.50GPa、例えば2.50GPaの最大圧力で行うことができる。
【0052】
少なくとも1つの実施形態によれば、出発材料の組成物の加熱は、800℃~1000℃、例えば900℃の最高温度まで行われる。代替的または追加的に、出発材料の組成物の加熱は、4.50GPa~6.50GPa、例えば5.50GPaの最大圧力で行うことができる。
【0053】
少なくとも1つの実施形態によれば、ホスト材料のドーピングは、
- ホスト材料とドーパントとの組成物を提供するステップと、
- ホスト材料とドーパントとの組成物を粉砕するステップと
を含む。
【0054】
特に、ドーパントは、塩の形態であり、例えばアルカリ賦活剤元素のハロゲン化物の形態である。
【0055】
少なくとも1つの実施形態によれば、ホスト材料のドーピングは、100rpm~500rpm、例えば300rpmでボールミルにて行われる。
【0056】
少なくとも1つの実施形態によれば、ホスト材料とドーパントとの組成物を粉砕するステップは、数回、特に少なくとも2回、多くても10回、例えば6回、繰り返される。
【0057】
少なくとも1つの実施形態によれば、フッ酸溶液は使用されない。そのため、フッ酸溶液を添加することによる危険性が回避される。
【0058】
一方、赤色発光の比較蛍光体であるKSiF:Mnは、工業的にはフッ酸水溶液を用いて合成される。これには、フッ酸の毒性や扱いにくさゆえ、非常に入念な安全対策のもとで作業を行うことが必要とされる。本明細書に記載の蛍光体の場合、乾式高温高圧法による合成は、フッ酸を使用する方法に比べ、簡便で危険性が低い。
【0059】
さらに、蛍光体を含む放射線放出素子が提示される。好ましくは、上述の蛍光体は、本明細書に記載の放射線放出素子における使用に適しており、かつこのような使用が意図されている。蛍光体および/または方法に関連して説明した特徴および実施形態は、放射線放出素子にも適用され、その逆もまた同様である。
【0060】
放射線放出素子は、動作時に電磁放射線、特に可視光線を放出する素子である。例えば、放射線放出素子は、発光ダイオード(LED)であり、あるいは放射線放出素子は、発光ダイオードを備える。
【0061】
少なくとも1つの実施形態によれば、放射線放出素子は、
- 動作時に第1の波長範囲の電磁放射線を放出する半導体チップと、
- 第1の波長範囲の電磁放射線を第2の波長範囲の電磁放射線に変換する一般式AEZ:RE
[式中、
- Aは、1価の元素の群から選択され、
- Eは、4価、5価または6価の元素の群から選択され、
- Zは、2価の元素の群から選択され、
- Xは、1価の元素の群から選択され、
- REは、賦活剤元素から選択され、
- 2+e=2z+xであり、ここで、eは、元素Eの電荷数であり、
- x+z=5であり、かつz>0である]を有する蛍光体を含む変換素子と
を備える。
【0062】
半導体チップは、活性層列を含むことができ、活性層列は、素子の動作時に第1の波長範囲の電磁放射線である一次放射線を発生させることができる活性領域を含む。半導体チップは、例えば、発光ダイオードチップやレーザーダイオードチップである。半導体チップで発生した一次放射線は、半導体チップの放射線出射面から放出され、ビーム経路を形成することができる。
【0063】
特に、半導体チップは、動作時に可視スペクトル領域の電子線を放出する。例えば、半導体チップは、青色スペクトル領域、特に430nm~550nmの波長範囲、好ましくは430nm~500nmの波長範囲、例えば448nmの一次放射線を放出する。あるいは半導体チップは、動作時に紫外スペクトル領域の電磁放射線、例えば330nm~430nmの波長の電磁放射線を放出する。
【0064】
変換素子は特に、一次放射線の少なくとも一部が変換素子に入射するように、一次放射線のビーム経路に配置されている。このため、変換素子は、半導体チップ、特に放射線出射面に直に接触するように施与されていてもよいし、半導体チップから距離を置いて配置されていてもよい。
【0065】
変換素子の蛍光体は、一次放射線を完全にまたは少なくとも部分的に、二次放射線である第2の波長範囲の電磁放射線に変換する。特に二次放射線は、一次放射線と少なくとも部分的に異なる波長範囲を有する。
【0066】
蛍光体の特性は、蛍光体に関して既に開示されており、放射線放出素子の蛍光体にも同様に適用される。
【0067】
このような放射線放出素子は、特に赤色波長範囲の放射線を高いスペクトル効率で発生させることができ、また特に緑色、黄色および/または橙色の光と組み合わせて、特に高い演色評価数を有する白色光の発生に使用することができる。特に、飽和した赤色光に対して、高い赤色演色評価数R9を有する白色光を発生させることができる。したがって、放射線放出素子は、例えば一般照明やディスプレイ用途で温白色光や赤色光の発生に好ましく使用することができる。
【0068】
少なくとも1つの実施形態によれば、蛍光体は、赤色、特に深紅色スペクトル領域で発光する。特に、蛍光体は、青色一次放射線で励起された後、赤色、特に深紅色スペクトル領域で発光する。
【0069】
少なくとも1つの実施形態によれば、変換素子は、第1の波長範囲の電磁放射線を第3の波長範囲の電磁放射線に変換する少なくとも1つのさらなる蛍光体を含む。第3の波長範囲は特に、一次放射線および/または二次放射線と少なくとも部分的に異なる。
【0070】
一般式AEZ:REの蛍光体と組み合わせて少なくとも1つのさらなる蛍光体を使用することにより、放射線放出素子の色度座標を調整することができる。その場合、放射線放出素子の総発光量は、半導体チップの一次放射線と、二次放射線と、第3の波長範囲の放射線とで構成される。好ましくは、少なくとも1つのさらなる蛍光体は、半導体チップの一次放射線を変換する。それにより、放射線放出素子の高効率化を達成することができる。
【0071】
少なくとも1つの実施形態によれば、変換素子は、緑色スペクトル領域で発光するさらなる蛍光体を含む。緑色発光蛍光体として、特にβ-SiAlONを使用することができる。β-SiAlONは、狭帯域の発光を有する。これにより、青色一次放射線と一般式AEZ:REの蛍光体とを用いて、ディスプレイ用途で大きな色空間を表現するのに適した素子を提供することができる。
【0072】
少なくとも1つの実施形態によれば、変換素子は、黄色スペクトル領域で発光するさらなる蛍光体を含む。黄色発光蛍光体として、特にガーネットを使用することができる。青色一次放射線と一般式AEZ:REの蛍光体とを用いて、暖白色領域の色度座標を有する混合光を発生させることができる。
【0073】
少なくとも1つの実施形態によれば、変換素子は、橙色スペクトル領域で発光するさらなる蛍光体を含む。橙色発光蛍光体として、特に窒化物を使用することができる。青色一次放射線と一般式AEZ:REの蛍光体とを用いて、暖白色領域の色度座標を有する混合光を発生させることができる。
【0074】
少なくとも1つの実施形態によれば、変換素子は、異なる発光をする少なくとも2つのさらなる蛍光体を含む。変換素子は、例えば、一般式AEZ:REの蛍光体の他に、緑色発光および/もしくは黄色発光蛍光体ならびに/または橙色発光および/もしくは赤色発光蛍光体を含む。
【0075】
少なくとも1つの実施形態によれば、変換素子は、さらなる蛍光体を含まない。「さらなる蛍光体を含まない」とは、一般式AEZ:REを有する蛍光体のみが波長変換のための放射線放出素子の変換素子に含まれ、この放射線放出素子内で波長変換が行われることを意味する。その場合、完全に変換されると、放射線放出素子は、例えば赤色光を発する。
【0076】
蛍光体、蛍光体の製造方法、および放射線放出素子のさらに有利な実施形態、設計および発展形態は、図面と関連づけて示される以下の実施形態例から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
図1A】比較例であるKSiFのホスト構造の断面を示す図である。
図1B】各実施形態例による蛍光体のホスト構造の断面を示す図である。
図1C】各実施形態例による蛍光体のホスト構造の断面を示す図である。
図2A】各実施形態例による蛍光体のホスト構造のX線粉末回折(PXRD)パターンを示す図である。
図2B】各実施形態例による蛍光体のホスト構造のX線粉末回折(PXRD)パターンを示す図である。
図3】一実施形態例による蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
図4A】一実施形態例の発光スペクトルと比較例の発光スペクトルとの比較を示す図である。
図4B】一実施形態例のスペクトル効率と比較例のスペクトル効率との比較を示す図である。
図5】一実施形態例による放射線放出素子を示す図である。
【0078】
図中、同一の、同様のまたは同じ作用を示す要素には、同一の参照符号を付している。図および図に示された要素のサイズ比は、真の縮尺と見なすことはできない。表現力および/または理解力を高めるために、個々の要素、特に層厚は、誇張して大きく図示されている場合がある。
【0079】
図1Aは、比較例であるKSiFのホスト構造の断面図を示す。比較例であるKSiFのホスト構造は、立方晶系空間群Fm-3m(No.225)で結晶化している。比較例であるKSiFの結晶構造の単位胞において、[SiF2-八面体2が、専ら空間的に孤立している。
【0080】
一方で、KSnOF図1B)およびKWO図1C)のホスト構造の実施形態例は、斜方晶系空間群Pnma(No.62)で結晶化している。これらの実施形態例の単位胞にはそれぞれ、秩序性を示す[SnO4-八面体5あるいは[WO4-八面体9があり、これらは、共通の酸素原子6を介して連結して無限鎖7を形成している。すなわち、結晶構造において、[SnO2/22-八面体5あるいは[WO2/2(O)]2-八面体9が、酸素原子6を介して連結して鎖7を形成した状態で存在する。
【0081】
図1Bの[SnO4-八面体5は、2つの酸素原子6および4つのフッ素原子3を頂点としている。ここで、2つの酸素原子6が、八面体の向かい合う2つの角を占めており、これらを介して各八面体同士が連結している。八面体の残りの4つの角は、フッ素原子3が占めている。八面体の内部に、Sn原子が配置されている。
【0082】
図1Cの[WO4-八面体9は、4つの酸素原子6および2つのフッ素原子3を頂点としている。ここで、2つの酸素原子6が、八面体の向かい合う2つの角を占めており、これらを介して各八面体同士が連結している。八面体の残りの4つの角は、酸素原子およびフッ素原子3および6が混合して(各50%)占めている。八面体の内部に、W原子が配置されている。
【0083】
鎖7は、互いに平行に配置されており、結晶学的b軸に沿って、あるいは[010]に沿って単位胞の垂直な縁部に沿って延在しているとともに、[010]に沿って単位胞の中心を垂直に貫いている。鎖7同士は、直接的にも間接的にも連結していない。鎖7の間には間隙8が形成されており、この間隙8内にはカリウム原子4が存在する。このように、結晶構造、構造単位、およびそれらの連結パターンは、(NHFeFと類似している。
【0084】
蛍光体1の実施形態例であるKSnOF:Mn4+を、以下のように合成した:出発材料であるSnOおよびKHFを、1:2.5のモル比ではかり入れた。そのため、出発材料であるKHFは過剰に存在していた。
【0085】
これらの出発材料を、マルチアンビル高圧プレスで2.5GPa(25kbar)の最大圧力下に置いた。この増圧を、65分以内で行った。次に、これらの出発材料を以下の温度プログラムで350℃の最高温度まで加熱した:室温(RT)から開始し、毎分32.5℃のステップで350℃まで温度を上昇させた。その後、この温度を60分間保持した。その後の反応混合物の冷却を、350℃から25℃まで毎分8.125℃のステップで行った。その後の減圧を、200分以内で行った。
【0086】
その後、得られたホスト材料であるKSnOFのドーピングをボールミル内で行った。ホスト材料であるKSnOFおよびドーパントであるKMnFを、1:0.042のモル比で混合し、300rpmで10分間6回粉砕した。これらの粉砕ステップの間に15分間の中断を遵守した。
【0087】
実施形態例であるKWOのホスト材料を、以下のように合成した:出発材料であるKFおよびWOを、2:1のモル比ではかり入れた。そのため、これらの出発材料は化学量論比で存在していた。
【0088】
これらの出発材料を、マルチアンビル高圧プレスで5.5GPa(55kbar)の最大圧力下に置いた。この増圧を、145分以内で行った。次に、これらの出発材料を以下の温度プログラムで900℃の最高温度まで加熱した:室温(RT)から開始し、毎分87.5℃のステップで900℃まで温度を上昇させた。その後、この温度を60分間保持した。その後の反応混合物の冷却を、900℃から350℃まで毎分18.33℃のステップで行った。その後、加熱電源を切って350℃から室温まで冷却を行った。その後の減圧を、430分以内で行った。
【0089】
以下の表1は、蛍光体1の実施形態例であるKSnOFおよびKWOのホスト構造の結晶学的データを示す。斜方晶系空間群において、角度α、βおよびγは、90°である。
【0090】
表1では、逆空間の測定部分が、関連するミラー指数(hkl)の境界上に示されている。構造精密化の品質特性として、すなわち、さらなるパラメータを含めた状態での構造因子F(F=反射強度I)の計算値と実測値との一致について、適合度(goodness of fit, GoF)が示されており、これは1に近いことが望ましい。また、R1/wR2[I≧2σ(I)]およびR1/wR2[全データ]が与えられているが、これらは、可能な限り0に近いことが望ましい。これらは、FあるいはFの「実測値」と「計算値」との一致に関する適合度でもある。R1/wR2[I≧2σ(I)]については、その強度が強度測定自体の平均誤差の2倍を上回る反射のみを考慮する。R1/wR2[全データ]については、すべての反射を考慮する。ここで、R1は、Fに対する全般的な品質を表す指標であり、0に近い。wR2は、なおもさらなるパラメータを考慮し、Fを参照する。
【0091】
適合度、R1/wR2[I≧2σ(I)]およびR1/wR2[全データ]は、実施形態例であるKSnOFおよびKWOのいずれにおいても望ましい範囲である。
【0092】
【表1】
【0093】
図2Aは、蛍光体1の実施形態例であるKSnOF:Mn4+の非ドープホスト材料KSnOFのX線粉末回折(PXRD)パターン(上)と、単結晶データに基づくシミュレーション(下)とを比較して示す。図2Bは、ドープ後の蛍光体1の実施形態例であるKSnOF:Mn4+のX線粉末回折パターン(上)と、粉砕工程前のグラフ(下)とを比較して示す。それぞれ、強度Iが回折角2Θ(°)に対してプロットされている。回折パターンの記録には、Mo-Kα放射線を使用した。これらのX線粉末回折パターンは、蛍光体1を良好な品質で製造することができ、蛍光体1はボールミル処理後も変化がないことを示している。
【0094】
図3は、蛍光体1の実施形態例であるKSnOF:Mn4+を励起波長448nmの青色レーザー光で励起させた後の発光スペクトルを示す。相対強度I(%)が波長λ(nm)に対してプロットされている。発光スペクトルは、590nm~660nmの波長範囲、つまり赤色波長範囲に多数の狭帯域を有する線形スペクトルを示している。蛍光体1の最も強い発光帯の発光極大は、約630.5nmに存在する。全体として、図3の発光スペクトルは、相対強度が25%を上回る少なくとも4つの発光帯を示している。
【0095】
図4Aは、蛍光体1の実施形態例であるKSnOF:Mn4+の発光スペクトル(4-1)と比較例であるKSiF:Mn4+の発光スペクトル(4-2)との比較を示すものであり、それぞれ励起波長448nmの青色レーザー光で励起させた後のものである。全体として、個々のピークの数や形状は高いレベルで一致していることが確認できる。しかし、蛍光体1の発光スペクトル(4-1)は、発光が短波長側にわずかにシフトしているとともに、約622nmに追加の発光帯を有する。立方晶系比較蛍光体(4-2)では、Mnの八面体環境が対称であるため、対応する転移が可能でない。蛍光体1の斜方晶系への対称性の低下により完全八面体対称性が崩れ、対応する転移が対称的に可能となる。
【0096】
下記表2において、蛍光体1(4-1)と比較例(4-2)の光学特性を対比する。
【0097】
【表2】
【0098】
主波長λdomおよび発光極大λmaxが同等で、色度座標(x,y座標)が同一である場合、217 lmWopt -1の蛍光体KSnOF:Mn4+は、204 lmWopt -1の比較例KSiF:Mn4+よりも高いスペクトル効率を有する。蛍光体KSnOF:Mn4+の相対スペクトル効率は、比較例KSiF:Mn4+に比べて6%ポイント向上している(表2、および図4B)。この効率の向上は、蛍光体KSnOF:Mn4+の発光極大域の視感度曲線が大きな負の傾きを有するため、約622nmの追加の発光帯のように発光極大の短波長側にある追加のシグナルがわずかであってもスペクトル効率が大きく異なることに起因し得る。
【0099】
図5は、放射線放出素子10の概略断面図である。放射線放出素子10は、半導体チップ11を含み、この半導体チップ11は、活性層列と、放射線放出素子10の動作時に一次放射線を放出する活性領域(ここでは明示せず)とを有する。好ましくは、一次放射線は、紫外線または青色領域の電子線である。例えば、半導体チップ11は、430nm~500nmの波長の一次放射線を放出する半導体ダイオードチップである。あるいは半導体チップ11は、例えば448nmの波長を有する一次放射線を放出するレーザーダイオードチップであってもよい。一次放射線は、放射線出射面12から放出され、ビーム経路を形成する。
【0100】
放射線放出素子10は、一次放射線を吸収して少なくとも部分的に二次放射線に変換するように適合された変換素子13をさらに含む。二次放射線は、少なくとも部分的に、一次放射線よりも波長の長い波長範囲を有する。例えば、変換素子13は、一次放射線を赤色波長範囲の二次放射線に変換する。
【0101】
変換素子13は、一次放射線の少なくとも一部が変換素子に入射するように、半導体チップ11の一次放射線のビーム経路に配置されている。このため、変換素子13は、半導体チップ11、特に放射線出射面12に直に接触するように施与されていてもよいし、半導体チップ11から距離を置いて配置されていてもよい。
【0102】
変換素子13は、一般式AEZ:REを有する蛍光体1を含む。特に、変換素子13は、式KSnOF:Mn4+を有する蛍光体1を含む。蛍光体1は、マトリックス材料に埋め込まれていてよい。あるいは変換素子13は、マトリックス材料を有しておらず、蛍光体1、例えば蛍光体1のセラミックからなっていてもよい。
【0103】
変換素子13は、さらなる蛍光体を含まないものであってよい。この場合、放射線放出素子10は、赤色光を発する。
【0104】
あるいは変換素子13は、一次放射線または二次放射線を、二次放射線とは少なくとも部分的に異なる波長範囲を有する放射線に変換する少なくとも1つのさらなる蛍光体を含むことができる。例えば、変換素子13は、緑色光を発するさらなる蛍光体または黄色光を発するさらなる蛍光体を含むことができ、それによって、青色の一次放射線と組み合わせて白色の混合光を発生させることができる。大きな色空間を表現するために、変換素子は特に、緑色蛍光体β-SiAlONと式KSnOF:Mn4+を有する蛍光体1とを含むことができる。
【0105】
あるいは変換素子13は、例えば緑色、黄色、橙色または赤色の蛍光体から選択される少なくとも2つのさらなる蛍光体を含むことができ、それによって同様に、白色混合光を発生させることができる。
【0106】
図面に関連して説明された特徴および実施形態例は、すべての組み合わせが明示的に説明されていない場合であっても、さらなる実施形態例に従って互いに組み合わせることができる。さらに、図面に関連して説明された実施形態例は、代替的にまたは追加的に、一般の部の説明に従ってさらなる特徴を有することができる。
【0107】
本発明は、実施形態例に基づく説明によりこれらの実施形態例に限定されるものではない。本発明には、新規のすべての特徴だけでなく、特徴のすべての組み合わせも包含され、これには特に、この特徴または組み合わせ自体が特許請求の範囲または実施形態例に明示されていない場合であっても、特許請求の範囲における特徴のすべての組み合わせが包含される。
【符号の説明】
【0108】
1 蛍光体
2 [SiF2-八面体
3 F原子
4 K原子
5 [SnO4-八面体あるいは[SnO2/22-八面体
6 O原子
7 鎖
8 間隙
9 [WO4-八面体あるいは[WO2/2(O)]2-八面体
10 放射線放出素子
11 半導体チップ
12 放射線出射面
13 変換素子
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5