(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/13 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
B60C11/13 B
(21)【出願番号】P 2022565656
(86)(22)【出願日】2021-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2021061013
(87)【国際公開番号】W WO2021219658
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-11-11
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174023
【氏名又は名称】伊藤 怜愛
(72)【発明者】
【氏名】前田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】小倉 健太
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-503706(JP,A)
【文献】特表2015-520068(JP,A)
【文献】特表2015-533714(JP,A)
【文献】特表2013-529576(JP,A)
【文献】特開2007-210568(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209159(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にフェンスを有する溝があるトレッドと、
前記溝内の、前記溝の縦方向における前記フェンスの第1サイドにおける停止装置と
を備え、
前記フェンスは、前記第1サイドから前記溝に沿って流れる水の流れにより変形可能であり、前記水が前記フェンスを通過して流れることを可能とし、
前記停止装置は、制動またはコーナリング中、前記第1サイドに対向する第2サイドから前記溝に沿って流れる雪の流れによる前記フェンスの変形を、前記雪が前記フェンスを通過して流れるのを防ぐのに十分なほどに制限するように配置されて
おり、
前記停止装置は、前記溝の縦方向において前記フェンスから離間している、タイヤ。
【請求項2】
前記溝の縦方向における前記停止装置の長さは、前記溝の縦方向における前記フェンスの厚さの少なくとも1.5倍である、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記溝の縦方向における前記停止装置の長さは、前記溝の縦方向における前記フェンスの厚さの少なくとも3倍である、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記溝の縦方向における前記停止装置の長さは、溝の幅方向における前記停止装置の幅より長い、請求項1~3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記停止装置は、前記溝の側壁に隣接している、請求項1~4のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記停止装置は、前記溝の側壁に取り付けられている、請求項1~5のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記溝の縦方向における前記停止装置の長さは、前記溝の幅の少なくとも0.1倍である、請求項1~6のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項8】
溝の縦方向から見たとき、前記停止装置は、前記フェンスの面積の少なくとも30%、前記フェンスと重なる、請求項1~7のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記溝の縦方向における前記停止装置の長さは、少なくとも1.7mmである、請求項1~8のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記停止装置は、前記溝の壁に隣接しており、傾斜面を有して、前記第1サイドから流れる前記水の流れを、前記停止装置が隣接している前記壁から離して前記フェンスへ導く、請求項1~9のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記傾斜面は、前記フェンスから遠い方の、前記停止装置の縦方向の端から延びる、請求項10に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記傾斜面は、前記フェンスに近い方の、前記停止装置の縦方向の端へ延びる、請求項10または11に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記停止装置が複数設けられ、その内の1つは、前記溝の一方の壁に隣接しており、その内の別のものは、前記溝の他方の壁に隣接しており、その各々は、請求項1~12のいずれか一項に従って配置されている、請求項1~12のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項14】
指定された回転方向を有するタイヤであって、
内部にフェンスを有する前記溝は、周方向溝であり、
前記停止装置は、制動中、前記第1サイドに対向する第2サイドから前記溝に沿って流れる雪の流れによる前記フェンスの変形を、前記雪が前記フェンスを通過して流れるのを防ぐのに十分なほどに制限するように配置されている、請求項1~13のいずれか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの周方向溝における気柱共鳴は、タイヤの通過騒音の主な原因の1つである。タイヤの周方向溝にフェンスを設けて、気柱共鳴を低減することは知られている。しかしながら、フェンスは、排水の障害となり、ウェット性能を悪化させる。フェンスによっては、空隙またはスリットを備え、水が流れ出るようにしているものもあるが、これは、条件によっては十分なものではない。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、先行技術の問題の少なくとも1つを軽減することを目的とする。
【0004】
本発明は、内部にフェンスを有する溝があるトレッドと、溝内の、溝の縦方向におけるフェンスの第1サイドにおける停止装置とを備え、フェンスは、第1サイドから溝に沿って流れる水の流れにより変形可能であり、水がフェンスを通過して流れることを可能とし、停止装置は、制動またはコーナリング中、第1サイドに対向する第2サイドから溝に沿って流れる雪の流れによるフェンスの変形を、雪がフェンスを通過して流れるのを防ぐのに十分なほどに制限するように配置されている、タイヤを提供する。
【0005】
フェンスは、第1サイドから溝に沿って流れる水の流れにより変形可能である。停止装置は、それを防がないように配置されている。この変形により、流れの面積が増加し、水がフェンスを通過して流れ、溝から流れ出るようになる。しかしながら、停止装置は、雪がフェンスを通過して流れることを防ぐために、制動またはコーナリング中、第2サイドから溝に沿って流れる雪の流れによるフェンスの変形を制限するように配置されている。これにより、フェンスが雪を捕らえ、雪の中でのタイヤによるグリップを改善させる。
【0006】
停止装置は、雪の流れによるフェンスの変形を、フェンスが停止装置を越えて移動するのを防ぐのに十分なほどに制限するように配置されてよい。フェンスが停止装置を越えて移動しないため、フェンスは、制動またはコーナリング中、雪の流れを捕らえることができる。
【0007】
WO2017209159A1の先行技術において、
図1~
図7は、溝に設けられたフェンスの様々な実施形態を示す。しかしながら、溝におけるどのフェンスも、本発明の停止装置としては機能できない。例えば、
図4および
図5に示される実施形態において、雪の流れが、制動またはコーナリング中、
図4の右側から溝に沿って流れていると述べている。この場合、側壁のフェンス242は、溝の底壁のフェンス241の変形を、雪がフェンス241を通過して流れるのを防ぐのに十分なほどに制限することはできないであろう。フェンス242は、これを成すほど十分には頑丈ではない。
【0008】
フェンスは、溝の壁に取り付けられてよく、停止装置は、溝の壁に取り付けられてよい。つまり、停止装置は、フェンスと同一の壁、またはフェンスと異なる壁に取り付けられてよい。
【0009】
好ましくは、フェンスは、溝の一方または両方の側壁には取り付けられない。好ましくは、フェンスは、溝の底壁にのみ取り付けられる。これにより、フェンスは容易に変形し、曲がることができる。
【0010】
好ましくは、フェンスは、溝の底壁から延びる。好ましくは、フェンスは、溝の幅方向と実質的に平行である、溝の縦方向における端面を有する。好ましくは、フェンスは、そのような端面を2つ有する。
【0011】
好ましくは、溝の縦方向における停止装置の長さは、溝の縦方向におけるフェンスの厚さの少なくとも1.5倍である。より長い停止装置は、雪によってもたらされる力による変形に、より耐性を示す。その関係は、少なくとも:3、4、5、9、または12倍となりうる。
【0012】
非常に長い停止装置は衝撃音をもたらし始める可能性があるため、その関係は、最大でも16倍となりうる。
【0013】
好ましくは、溝の縦方向における停止装置の長さは、溝の縦方向におけるフェンスの厚さの少なくとも3倍である。より長い停止装置は、典型的に、雪によってもたらされる力による変形に、より耐性を示す。
【0014】
溝の縦方向におけるフェンスの厚さは、少なくとも0.4mmであり、最大でも1mmでありうる。好ましくは、フェンスの厚さは、1mmである。フェンスが1mmより厚いと、変形が難しくなり始める。
【0015】
好ましくは、溝の縦方向における停止装置の長さは、溝の幅方向における停止装置の幅より長い。より長い停止装置は、典型的に、雪によってもたらされる力による変形に、より耐性を示す。より短い幅の停止装置は、水の流れを減らすことができない可能性がある。例えば、傾斜面が45°より大きい角度を有するとき、水の流れはスムーズではないのに対して、45°より小さい角度では、水の流れがスムーズになる。
【0016】
好ましくは、溝の縦方向における停止装置の長さは、溝の幅方向における停止装置の幅の少なくとも1.5倍である。その関係は、少なくとも:2、3、4、5、または6倍となりうる。
【0017】
溝の縦方向における停止装置とフェンスとの間の隙間は、少なくとも0.2mmであり、最大でも0.8mmでありうる。好ましくは、隙間は、0.2mmである。隙間はできるだけ小さくし、フェンスが停止装置と接触する前にできるだけ変形しないようにする。
【0018】
フェンスと溝の側壁との間の隙間は、少なくとも0.2mmであり、最大でも0.8mmでありうる。壁から少なくとも0.2mmに隙間を有することにより、フェンスは、容易に変形できる。壁から最大でも0.8mmに隙間を有することにより、フェンスは、効果的に雪を捕らえることができる。好ましくは、隙間は、0.2mmである。
【0019】
好ましくは、停止装置は、溝の側壁に隣接している。側壁に隣接することにより、停止装置が溝の中央にある場合と比較して、水の流れにおける停止装置の抵抗を減少させることができる。加えて、停止装置は、より頑丈になりうる。
【0020】
好ましくは、停止装置は、溝の側壁に取り付けられている。停止装置は、また、または代わりに、溝の底壁に取り付けられてもよい。
【0021】
好ましくは、溝の縦方向における停止装置の長さは、溝の幅の少なくとも0.1倍である。より長い停止装置は、雪によってもたらされる力による変形に、より耐性を示す。その関係は、少なくとも:0.3、0.4、0.5、または0.7倍となりうる。
【0022】
非常に長い停止装置は衝撃音をもたらし始める可能性があるため、その関係は、最大でも0.9倍となりうる。
【0023】
好ましくは、溝の縦方向から見たとき、停止装置は、フェンスの面積の少なくとも30%、フェンスと重なる。より広い面積が重なると、停止装置は、雪によってもたらされる力に対して、フェンスをより支持できる。その関係は、少なくとも:35%、40%、45%、または50%となりうる。
【0024】
非常に広い面積が重なると、水の流れを妨げうるため、その関係は、最大でも60%となりうる。
【0025】
好ましくは、停止装置は、フェンスの固定端からフェンスの自由端までフェンスと重なる。
【0026】
好ましくは、溝の縦方向から見たとき、停止装置は、少なくとも0.8mmフェンスと重なり、最大でも1.5mm重なりうる。この範囲内で重なることにより、停止装置の重なりは、水の流れを過度に妨げずに、雪による変形に対してフェンスを支持するのに十分になる。
【0027】
好ましくは、溝の縦方向における停止装置の長さは、少なくとも1.7mmである。より長い停止装置は、雪によってもたらされる力による変形に、より耐性を示す。長さは、少なくとも:2.5mm、3mm、4mm、または5.2mmとなりうる。非常に長い停止装置は衝撃音をもたらし始める可能性があるため、長さは、最大でも6.3mmとなりうる。
【0028】
好ましくは、停止装置は、溝の壁に隣接しており、傾斜面を有して、第1サイドから流れる水の流れを、停止装置が隣接している壁から離してフェンスへ導く。
【0029】
傾斜面は、溝をスムーズに狭め、水の流れる面積を減少させる。これにより、ベルヌーイの法則から、流速および動圧が増加する。増加した動圧は、フェンスがより敏速に変形するのを支援し、水は、それにより、溝に沿ってより流れやすくなる。従って、水はけが改善される。
【0030】
好ましくは、停止装置は、傾斜面を有して、第1サイドから流れる水の流れを、停止装置が取り付けられている壁から離してフェンスへ導く。好ましくは、停止装置は、溝の側壁に隣接している、または溝の側壁に取り付けられている。
【0031】
好ましくは、傾斜面は、停止装置が隣接している壁と、少なくとも20°、好ましくは最大でも30°の角度を有する。これにより、フェンスに対する支持と、水の流れを過度に妨げないこととの間の良好なトレードオフがもたらされる。
【0032】
好ましくは、傾斜面は、フェンスから遠い方の、停止装置の縦方向の端から延びる。
【0033】
好ましくは、傾斜面は、フェンスに近い方の、停止装置の縦方向の端へ延びる。
【0034】
停止装置は、溝の幅方向と実質的に平行である、溝の縦方向における端面、好ましくは、フェンスに近い方の端面を有してよい。
【0035】
好ましくは、フェンスの高さは、溝の深さの少なくとも85%、より好ましくは100%である。これにより、フェンスは、効果的に雪を捕らえることができる。
【0036】
好ましくは、溝の幅は、溝の幅方向における停止装置の幅の3倍より広い。これは、非常に幅が広い停止装置では、水の流れを妨げうるためである。
【0037】
好ましくは、溝の幅は、溝の幅方向における停止装置の幅の12倍より狭い。溝が停止装置と比較してこれより広いと、停止装置は、変形に対してフェンスを支持できない可能性がある。
【0038】
溝の幅方向における停止装置の幅は、少なくとも1mmであり、最大でも2.3mmでありうる。例えば、停止装置の幅は、2mmでありうる。
【0039】
溝の幅は、少なくとも4mmであり、最大でも12mmでありうる。例えば、溝の幅は、8mmでありうる。
【0040】
溝の幅方向におけるフェンスの幅は、少なくとも2.4mmであり、最大でも11.6mmでありうる。例えば、溝の幅方向におけるフェンスの幅は、7mmでありうる。
【0041】
好ましくは、停止装置は複数設けられ、その内の1つは、溝の一方の壁に隣接しており、その内の別のものは、溝の他方の壁に隣接しており、その各々は、本発明に従って上で定義されたように配置されている。加えて、各停止装置は、本発明の任意の特徴に関して、上で定義されたように配置されてよい。
【0042】
少なくとも2つの停止装置を有することにより、フェンスを支持し、雪によるその変形を制限するのに便利な手段がもたらされる。好ましくは、1つの停止装置は、溝の一方の側壁に隣接しており、別の停止装置は、溝の他方の(反対の)側壁に隣接している。
【0043】
停止装置は、フェンスの変形を制限するための制限面を有してよい。好ましくは、制限面は、フェンスと接触することにより、フェンスの変形を制限するように配置されている。制限面は、実質的に平面で、溝の縦方向に垂直であってよい。
【0044】
停止装置は、平面視で実質的に三角形であってよい。
【0045】
好ましくは、本発明のタイヤにおいて、タイヤは、指定された回転方向を有し;内部にフェンスを有する溝は、周方向溝であり;停止装置は、制動中、第1サイドに対向する第2サイドから溝に沿って流れる雪の流れによるフェンスの変形を、雪がフェンスを通過して流れるのを防ぐのに十分なほどに制限するように配置されている。本明細書において、「周方向溝」は、周方向に走るが、タイヤの周方向と厳密に平行ではない溝を含む。
【0046】
代替的に、溝は、側溝であってよい。例えば、フェンスが側溝内にあるとき、停止装置は、フェンスとタイヤ赤道面との間に配置されてよい。水の通常の流れ方向が、タイヤ赤道面からトレッド端に向かうとき、停止装置は、フェンスを変形させて、水がトレッド端に向かって流れるようにする。しかしながら、停止装置は、雪が反対方向に流れるのを防ぎ、コーナリング中のグリップを改善させる。
【0047】
溝が側溝であっても、周方向の構成要素を有するとき、タイヤは、指定された回転方向を有してよく、停止装置は、制動中、第1サイドに対向する第2サイドから溝に沿って流れる雪の流れによるフェンスの変形を、雪がフェンスを通過して流れるのを防ぐのに十分なほどに制限するように配置されてよい。
【0048】
好ましくは、タイヤは、スノータイヤまたはオールシーズンタイヤである。
【0049】
以下、図面を参照し、単なる例として、本発明の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】内部にフェンスがある、従来のタイヤ溝の上からの等角図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る、内部にフェンスがあるタイヤ溝の上からの等角図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る、タイヤトレッドおよび内部にフェンスがあるタイヤ溝の平面図である。
【
図4】
図2の、内部にフェンスがあるタイヤ溝の平面図である。
【
図5】
図2の、内部にフェンスがあるタイヤ溝の立面図である。
【
図6】本発明の効果を確認するために実施されたコンピューターシミュレーションの結果を示すグラフである。
【
図7】シミュレーションの結果を示す別のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1を参照すると、従来のタイヤの、内部にフェンス2がある溝1が示されている。フェンス2は、タイヤトレッドの周方向溝1に設けられ、溝1における気柱共鳴により生じる騒音を減少させる。左側の図は、非変形状態のフェンスを示し、右側の図は、変形状態のフェンスを示す。
図1には、タイヤの溝1の一部分のみが示されている。このため、溝部分の端面3および4ならびに溝部分の側面5および6が示されているが、これらは、実際のタイヤには存在しない。
【0052】
図1および
図2において、実線の矢印は、その方向からの水または雪の流れの下で、フェンスが変形可能であることを示し、破線の矢印は、その方向からの流れの下では、フェンスが変形可能ではないことを示す。従って、
図1において、フェンスは、両方向に変形可能であるのに対して、
図2においては、フェンスは、図面の上から下への流れの下でのみ、変形可能である。ここで、「変形可能」とは、フェンスが十分に変形して、流れを通すことができることを意味する。
図1においては、フェンスは、いずれの方向からの水または雪の流れの下でも、自由に変形できる。
【0053】
図2は、本発明の実施形態に係るタイヤの、内部にフェンス12がある溝11を示す。溝11は、タイヤトレッド内にある。溝11およびフェンス12は、
図1の従来のタイヤの溝1およびフェンス2に類似している。しかしながら、溝11には、2つのウェッジ13、14の形をとった2つの停止装置13、14が、溝の縦方向におけるフェンス12の第1サイドにそれぞれ設けられている。第1サイドは、
図2の上側である。各ウェッジ13、14は、フェンス12が第1サイド(上側)から溝に沿って流れる水の流れにより変形するように配置されている。フェンス12の変形により、水はフェンス12を通過して流れる。
【0054】
図2においては、
図1と同様に、タイヤの溝11の一部分のみが示されている。このため、溝部分の端面25および26ならびに溝部分の側面27および28が示されているが、これらは、実際のタイヤには存在しない。
【0055】
本実施形態において、溝11は、タイヤの周方向に平行に走る周方向溝である。しかしながら、溝は、タイヤの周方向と厳密に平行に走る必要はない。
【0056】
ウェッジ13、14は、タイヤの制動中、第1サイド(上側)に対向する第2サイド(下側)から溝に沿って流れる雪の流れによるフェンス12の変形を制限するように配置されている。ウェッジ13、14は、雪がフェンス12を通過して流れるのを防ぐのに十分なほどに、変形を制限する。そのため、フェンス12は、雪を捕らえ、雪の中でのタイヤによるグリップを改善させる。本実施形態において、溝11が周方向溝であるため、制動中、雪は周方向に流れる。水も周方向に流れるが、主に雪とは反対方向に流れる。
【0057】
溝11は、溝の側壁15、16および溝の底壁17を有する。
図2において、側壁15、16は、それぞれ平面で、互いに平行である。しかしながら、これは必須ではない。溝の底壁17は、側壁15、16に直角に、側壁15、16の間を延びるが、これも必須ではない。
【0058】
別の実施形態において、溝11は、側溝である。その実施形態において、溝11は、タイヤの幅方向に平行に走る。しかしながら、溝は、タイヤの幅方向と厳密に平行に走る必要はない。
【0059】
本実施形態において、フェンス12は、溝の底壁17に取り付けられ、タイヤの半径方向外側の方向に、溝の底壁17から上方へ延びる。
【0060】
本実施形態において、フェンス12は、上方へ延びるように、溝の縦方向に一定の厚さを有し、溝の幅方向に一定の幅を有する。フェンス12は、溝の側壁15、16に垂直な線に沿って溝の底壁17に取り付けられている。フェンスは、平面視で実質的に長方形である。しかしながら、他の実施形態においては、フェンスは、異なる形状を有してもよい。
【0061】
本実施形態において、溝の縦方向におけるフェンス12の厚さは、溝の幅方向におけるその幅よりもずっと薄い。これにより、フェンス12は、第1サイドまたは第2サイドからの流れを受けたとき、容易に変形し、曲がることができる。
【0062】
フェンス12は、溝の底壁17への取り付け線を中心に曲がるカンチレバーを成す。
【0063】
本実施形態において、ウェッジ13は、一方の側壁15に取り付けられ、他のウェッジ14は、他方の側壁16に取り付けられている。ウェッジ13は、側壁15から溝11の中心に向かって延びる。ウェッジ14は、側壁16から溝11の中心に向かって延びる。溝の縦方向における各ウェッジ13、14の長さは、ウェッジ13、14が溝の側壁15、16に取り付けられている地点から、ウェッジ13、14が溝の中心に最も近い地点まで、漸減する。
【0064】
加えて、本実施形態において、ウェッジ13、14は、ともに、溝の底壁17に取り付けられ、これにより頑丈になる。
【0065】
ウェッジ13は、側壁15に対して傾いた、傾斜面18を有する。傾斜面18は、平面である。傾斜面18に垂直な方向は、溝の底壁17に平行である。
【0066】
傾斜面18は、フェンス12から遠い方の、ウェッジ13の縦方向の端における、側壁15から、フェンス12に近い方の、ウェッジ13の縦方向の端へと、溝の中心に向かって延びる。そのため、傾斜面18は、第1サイドから流れる水の流れを、側壁15から離してフェンス12へ導く。傾斜面は、溝11をスムーズに狭め、水の流れる面積を減少させる。これにより、ベルヌーイの法則から、次に、流速および動圧が増加する。増加した動圧は、フェンス12がより敏速に変形するのを支援する。水は、それにより、溝11に沿って流れやすくなり、水はけが改善される。
【0067】
本実施形態において、平面の傾斜面18が設けられている。しかしながら、第1サイドから流れる水の流れを、側壁15から離してフェンス12へ導きさえすれば、代わりに曲面が設けられてもよい。
【0068】
ウェッジ13は、フェンス12の変形を制限するための、端面20の形をとった制限面を有する。端面20は、平面であり、溝の縦方向および側壁15に垂直である。加えて、端面20に垂直な方向は、溝の底壁17に平行である。
【0069】
端面20は、側壁15から溝11の中心に向かって延びる。フェンス12に近い方の傾斜面18の端は、溝11の中心に近い方の端面20の端と交わっている。
【0070】
このように、ウェッジ13は、平面視で実質的に三角形である。
【0071】
ウェッジ13は、溝の底壁17と平行である頂面22も有する。
【0072】
ウェッジ13および14は、溝11の中心に関して対称であり、ウェッジ14は、ウェッジ13の特徴に対応する以下の特徴:傾斜面19;端面21;および頂面23を有する。
【0073】
図2の右側の図を参照すると、左側の図と比較して、フェンス12は、図の下から上への方向に溝11に沿って流れる雪の流れの作用下で、ウェッジ13、14に向かってわずかに押され、変形している。しかしながら、ウェッジ13、14は、フェンス12の変形を制限し、タイヤの制動中、フェンス12が、第1サイド(上側)に対向する第2サイド(下側)から溝に沿って流れる雪の流れにより大きく変形するのを防いでいる。フェンス12は、少し変形するのみで、フェンス12がウェッジ13、14を越えるほどではないため、雪がフェンス12を通過して流れるのを防ぐ。
【0074】
図3を参照すると、左側の図は、タイヤトレッド30の図であり、右側の図は、
図2の溝11の図である。溝11は、左側の図においてタイヤトレッド30の中に示されているが、フェンス12およびウェッジ13、14は示されていない。
【0075】
図3の左側の図において、下の矢印は、タイヤの走行中の、溝の縦方向における水の優勢な流れ方向を示す。具体的には、ウェット走行中、タイヤの接触面より前の部分における水の流れは、順方向(タイヤの移動方向)である。接触面の部分においては、溝の縦方向の流れは、たとえあるとしても非常に少ない。
【0076】
左側の図における上の矢印は、制動中の雪の流れ方向を示す。雪の多い状態での制動中、雪の流れは、水の優勢な流れ方向とは反対方向である。つまり、雪は(タイヤの移動方向に対して)逆方向に流れる。
【0077】
右側の図において、各ウェッジ13、14とフェンス12との間の隙間、およびフェンス12の端それぞれと溝11の側壁15、16との間の隙間が見られる。
【0078】
本実施形態において、フェンス12およびウェッジ13、14は、タイヤトレッド30と同一の材料または化合物から作成される。代替的に、フェンス12およびウェッジ13、14は、異なる材料または化合物から作成されてもよい。フェンス12に関する限り、材料または化合物は、水の流れの下で変形するのに十分な柔らかさまたは柔軟性を持つが、要求される雪上性能を達成する(すなわち、雪を捕らえる)のに十分な硬さまたは剛性を持たなければならない。ウェッジ13、14の材料または化合物は、フェンス12の変形を制限し、要求される雪上性能を達成するのに十分な硬さまたは剛性を持たなければならない。
【0079】
騒音低減の観点から、接触面につき少なくとも1つのフェンス(およびその停止装置または複数の装置)を有することが好ましい。接触面の長さの一例は、タイヤ円周の内150mmある。つまり、円周の内150mmが、路面と接触している。例えば、2000mmの円周長さのタイヤについては、1つの溝につき、少なくとも:13、20、または28個のフェンスを有することが好ましい。
【0080】
本発明の効果を確認するため、いくつかのコンピューターシミュレーションが実施された。
図4および
図5は、シミュレーションで使用された部分の寸法および相対寸法を説明するのに使用される。
【0081】
図4において「a」~「f」および「θ」とラベル付けされた部分は、シミュレーションにおいて以下の寸法を有した:
a:1mm
b:0.5mm
c:0.5mm
d:2mm
e:8mm
f:3.5mm
θ:30°
【0082】
図5において、「x」は、フェンス12の高さを示し、「y」は、溝の深さを示す。x/yの比率は、シミュレーションにおいて以下の値を有した:
x/y:1
【0083】
図5において、溝部分の底面29が示されるが、実際のタイヤには存在しない。
【0084】
図6は、シミュレーションの結果を示すグラフである。縦軸は、「Fx/Fz[-]」を示す。ここで、Fxは、縦力[N]であり、Fzは、垂直荷重[N]である。Fx/Fzは、摩擦係数に類似している。横軸は、「変位[mm]」を示す。これは、制動中のタイヤの滑り距離を意味する。
【0085】
実線は、溝はあるがフェンスがない場合(「フェンスなし」)のシミュレーションを示し、点線は、
図1に示すような、溝およびフェンスはあるが停止装置はない場合(「従来」)のシミュレーションを示し、破線は、
図2に示す本発明の実施形態に係るフェンスおよび停止装置がある場合(「本発明の実施形態」)のシミュレーションを示す。
【0086】
グラフから、全ての変位に関して、「本発明の実施形態」の曲線に対するFx/Fyが、他の曲線に対するFx/Fyより大きいことが分かる。これは、制動中、雪がフェンスに捕らえられるためである。例えば、20mmの変位において、「本発明の実施形態」に対するFx/Fyは、「フェンスなし」および「従来」の約0.35と比較して、約0.41であることが分かる。
【0087】
図7は、シミュレーションの結果を示すグラフである。この場合も、縦軸は、「Fx/Fz[-]」を示し、ここで、Fxは、縦力[N]であり、Fzは、垂直荷重[N]である。Fx/Fzは、摩擦係数に類似している。3本のバーは、それぞれ、「フェンスなし」、「従来」、および「本発明の実施形態」についての結果を示す。しかしながら、
図6とは異なり、
図7においては、バーは、10mm~20mmの変位のFx/Fzの平均の値を示す。「フェンスなし」および「従来」について、平均は0.34であるのに対して、「本発明の実施形態」については、平均は0.40である。0.40の値は、「フェンスなし」および「従来」と比較して、平均Fx/Fzの18%の増加に対応する。よって、摩擦の平均係数が「本発明の実施形態」においては18%高く、雪の際、より大きなグリップが可能であることが考えられる。
【0088】
本発明の実施形態を説明したが、様々な変更が可能である。例えば、実施形態において、傾斜面18は、端面20と交わっている。しかしながら、別の実施形態においては、傾斜面18と端面20との間に、溝の縦方向と平行な側面があるかもしれない。この側面により、フェンス12に作用する雪の流れからの変形に対するより大きな抵抗がもたらされるのと同時に、傾斜面18はなお、水の流れを溝11の側壁から離して導くことができるかもしれない。
【0089】
本発明の実施形態は、上で例として説明された。しかしながら、本発明は、説明された実施形態の特徴に必ずしも制限されず、様々な変更、追加、および/または省略が当業者に提示され、それらの全てが、それらの均等物とともに本発明の一部を形成する。