(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】心腔内除細動システム
(51)【国際特許分類】
A61N 1/39 20060101AFI20240502BHJP
A61B 5/33 20210101ALI20240502BHJP
A61B 5/287 20210101ALI20240502BHJP
A61B 5/304 20210101ALI20240502BHJP
【FI】
A61N1/39
A61B5/33 120
A61B5/287 100
A61B5/304
(21)【出願番号】P 2023061408
(22)【出願日】2023-04-05
(62)【分割の表示】P 2022076689の分割
【原出願日】2022-05-06
【審査請求日】2023-05-08
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522179183
【氏名又は名称】朝妻 学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【氏名又は名称】梅景 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】朝妻 学
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-117198(JP,A)
【文献】特開2010-220778(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0100382(US,A1)
【文献】国際公開第2019/156059(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/188642(WO,A1)
【文献】特表2017-507699(JP,A)
【文献】国際公開第2017/149904(WO,A1)
【文献】米国特許第06181967(US,B1)
【文献】特表2001-519216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/39
A61N 1/05
A61B 5/33
A61B 5/287
A61B 5/304
A61B 18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術中において電気的除細動を行う心腔内除細動システムであって、
心腔内において除細動を行うための第1除細動カテーテルであって、複数の第1電極を含む第1電極群と、前記第1除細動カテーテルを操作するために用いられる第1ハンドルと、
管状部材と、前記管状部材の先端に設けられた先端チップと、前記管状部材内に配置され、前記管状部材の中心軸に対して偏心した位置において前記先端チップに固定される一端を有するプルワイヤと、前記プルワイヤを前記管状部材の軸線方向に進退させる操作部と、を有する第1除細動カテーテルと、
心腔内において除細動を行うための第2除細動カテーテルであって、複数の第2電極を含む第2電極群と、前記第2除細動カテーテルを操作するために用いられる第2ハンドルと、を有する第2除細動カテーテルと、
前記第1除細動カテーテルを接続するための第1コネクタと、前記第2除細動カテーテルを接続するための第2コネクタと、電圧を供給する電源回路と、を有する除細動装置と、
を備え、
前記複数の第1電極のそれぞれは、前記管状部材の外周面に設けられ、
前記複数の第1電極は、前記軸線方向に配列されており、
前記除細動装置は、前記複数の第1電極に同極性の電圧を印加し、前記複数の第2電極に同極性の電圧を印加する、心腔内除細動システム。
【請求項2】
手術中において電気的除細動を行う心腔内除細動システムであって、
心腔内において除細動を行うための第1除細動カテーテルであって、複数の第1電極を含む第1電極群と、管状部材と、複数の第1リード線を含む第1リード線群と、前記第1リード線群が内部に延在するルーメンチューブとを有する第1除細動カテーテルと、
心腔内において除細動を行うための第2除細動カテーテルであって、複数の第2電極を含む第2電極群を有する第2除細動カテーテルと、
前記第1除細動カテーテルを接続するための第1コネクタと、前記第2除細動カテーテルを接続するための第2コネクタと、電圧を供給する電源回路と、を有する除細動装置と、
を備え、
前記複数の第1電極のそれぞれは、前記管状部材の外周面に設けられ、
前記複数の第1電極は、前記管状部材の軸線方向に配列され、
前記ルーメンチューブは、前記管状部材内に配置され、
前記複数の第1リード線は、前記複数の第1電極と前記第1コネクタとを電気的に接続しており、
前記除細動装置は、前記複数の第1電極に同極性の電圧を印加し、前記複数の第2電極に同極性の電圧を印加する、心腔内除細動システム。
【請求項3】
前記除細動装置は、前記複数の第1電極に印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧を前記複数の第2電極に印加する
、請求項2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項4】
心電計と、
前記第1電極群の接続先及び前記第2電極群の接続先を選択的に切り替える切替回路と、
を更に備え、
前記切替回路は、前記第1電極群が前記電源回路に接続されている状態と、前記第1電極群が前記心電計に接続されている状態と、を選択的に切り替え可能であり、
前記切替回路は、前記第2電極群が前記電源回路に接続されている状態と、前記第2電極群が前記心電計に接続されている状態と、を選択的に切り替え可能であり、
前記心電計は、前記複数の第1電極の電位及び前記複数の第2電極の電位を測定する
、請求項2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項5】
心電計を更に備え、
前記第1除細動カテーテルは、複数の第3電極を含む第3電極群を更に有し、
前記第2除細動カテーテルは、複数の第4電極を含む第4電極群を更に有し、
前記心電計は、前記複数の第3電極の電位及び前記複数の第4電極の電位を測定する
、請求項2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項6】
心電計と、
前記第1電極群の接続先及び前記第2電極群の接続先を選択的に切り替える切替回路と、
を更に備え、
前記切替回路は、前記第1電極群が前記電源回路に接続されている状態と、前記第1電極群が前記心電計に接続されている状態と、を選択的に切り替え可能であり、
前記切替回路は、前記第2電極群が前記電源回路に接続されている状態と、前記第2電極群が前記心電計に接続されている状態と、を選択的に切り替え可能であり、
前記第1除細動カテーテルは、複数の第3電極を含む第3電極群を更に有し、
前記第2除細動カテーテルは、複数の第4電極を含む第4電極群を更に有し、
前記心電計は、前記複数の第1電極の電位、前記複数の第2電極の電位、前記複数の第3電極の電位、及び前記複数の第4電極の電位を測定する
、請求項2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項7】
前記除細動装置は、前記第1電極群及び前記第2電極群のうち、前記電源回路の第1端子に接続される第1部材と、前記電源回路の第2端子に接続される第2部材とを、選択的に切り替え可能な切替回路を更に有する
、請求項2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項8】
体表面において除細動を行うための対極板を更に備え、
前記除細動装置は、前記対極板を接続するための第3コネクタを更に有し、
前記除細動装置は、前記複数の第1電極又は前記複数の第2電極に印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧を前記対極板に印加する
、請求項2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項9】
前記除細動装置は、前記第1電極群、前記第2電極群、及び前記対極板のうち、前記電源回路の第1端子に接続される第1部材と、前記電源回路の第2端子に接続される第2部材とを、選択的に切り替え可能な切替回路を更に有する、請求項8に記載の心腔内除細動システム。
【請求項10】
前記除細動装置は、前記電圧が供給される経路の抵抗値を測定する測定器を更に有し、
前記切替回路は、前記第1部材と前記第2部材とを、前記電源回路及び前記測定器のいずれかに選択的に接続する、請求項9に記載の心腔内除細動システム。
【請求項11】
前記除細動装置は、前記電圧が供給される経路の抵抗値を測定する測定器と、前記電源回路を制御する演算処理部と、を更に有し、
前記演算処理部は、前記抵抗値が適正範囲内である場合に、前記電源回路に電圧を印加させる
、請求項2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項12】
前記演算処理部は、心内電位のピークに同期して前記電源回路に電圧を印加させる、請求項11に記載の心腔内除細動システム。
【請求項13】
前記第1除細動カテーテルは、前記管状部材の先端部を平面的に偏向させるための板バネを更に有する、請求項
2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項14】
前記第1除細動カテーテルは、前記プルワイヤが内部に延在するルーメンチューブを更に有し、
前記ルーメンチューブは、前記管状部材内に配置されている、請求項
1に記載の心腔内除細動システム。
【請求項15】
前記第1除細動カテーテルは、
前記管状部材の先端に設けられた先端チップと、
前記管状部材内に配置され、前記管状部材の中心軸に対して偏心した位置において前記先端チップに固定される一端を有するプルワイヤと、
前記プルワイヤを前記軸線方向に進退させる操作部と、
を更に有する、請求項2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項16】
前記第1除細動カテーテルは、前記プルワイヤが内部に延在する別のルーメンチューブを更に有し、
前記別のルーメンチューブは、前記管状部材内に配置されている、請求項
15に記載の心腔内除細動システム。
【請求項17】
前記第1除細動カテーテルは、
前記管状部材の先端に設けられ、膨張及び収縮可能なバルーンと、
前記バルーンに流体を供給するための供給管と、
を更に有する、請求項
2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項18】
前記第1除細動カテーテルは、ガイドワイヤを挿通するための挿通管であって、前記管状部材内に配置され、前記管状部材の基端から前記管状部材の先端まで延びる挿通管を更に有する、請求項
2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項19】
前記第1除細動カテーテルは、ガイドワイヤを挿通するための挿通管であって、前記管状部材内に配置され、前記外周面から前記管状部材の先端まで延びる挿通管を更に有する、請求項
2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項20】
前記複数の第1電極のそれぞれは、前記軸線方向と交差する方向に凸の湾曲形状を有する、請求項
2に記載の心腔内除細動システム。
【請求項21】
前記第1除細動カテーテルは、前記複数の第1電極のうちの1つの第1電極の前記軸線方向における端面と前記外周面とによって画定された凹部を埋める絶縁性部材を更に有する、請求項
2に記載の心腔内除細動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、心腔内除細動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓カテーテルを用いた手術中において、細動が発生した場合には、電気的除細動を行う必要がある。特許文献1には、心腔内に挿入されて除細動を行う除細動カテーテルと、上記除細動カテーテルの電極に直流電圧を印加する電源装置と、を備える心腔内除細動カテーテルシステムが記載されている。上記除細動カテーテルは、同一の極性の電圧を印加するための複数のリング状電極からなる第1電極群と、第1電極群とは逆の極性の電圧を印加するための複数のリング状電極からなる第2電極群と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の心腔内除細動カテーテルシステムにおいては、第1電極群と第2電極群とは、同一のチューブ部材の外周に互いに離間して装着されている。そのため、チューブ部材上における第1電極群と第2電極群との距離が一定であるので、第1電極群と第2電極群とをそれぞれ心腔内の所望の位置に留置することが困難である。したがって、心筋が痙攣している箇所に対して、第1電極群及び第2電極群を適切な位置に留置することができない場合がある。このような場合、痙攣している箇所を電気的にリセットするために、除細動エネルギーを高く設定する必要があり、除細動効率が低下するおそれがある。
【0005】
本開示は、除細動効率を向上可能な心腔内除細動システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る心腔内除細動システムは、心腔内において除細動を行うための第1除細動カテーテルであって、複数の第1電極を含む第1電極群を有する第1除細動カテーテルと、心腔内において除細動を行うための第2除細動カテーテルであって、複数の第2電極を含む第2電極群を有する第2除細動カテーテルと、第1除細動カテーテルを接続するための第1コネクタと、第2除細動カテーテルを接続するための第2コネクタと、電圧を供給する電源回路と、を有する除細動装置と、を備える。除細動装置は、複数の第1電極に同極性の電圧を印加し、複数の第2電極に同極性の電圧を印加する。
【0007】
この心腔内除細動システムでは、第1除細動カテーテルが第1電極群を有し、第2除細動カテーテルが第2電極群を有する。このように、第1電極群と第2電極群とが互いに異なる除細動カテーテルに含まれているので、第1電極群と第2電極群との留置の自由度が向上する。したがって、心筋が痙攣を起こしている箇所に近い位置に、第1電極群及び第2電極群を留置させることができる。これにより、心筋が痙攣を起こしている箇所に除細動エネルギーを効率よく印加することができる。その結果、除細動エネルギーを必要以上に高く設定する必要が無いので、除細動効率を向上させることが可能となる。
【0008】
いくつかの実施形態において、除細動装置は、複数の第1電極に印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧を複数の第2電極に印加してもよい。この構成によれば、第1電極群と第2電極群との間において、除細動エネルギーを印加することができる。
【0009】
いくつかの実施形態において、上記心腔内除細動システムは、体表面において除細動を行うための対極板を更に備えてもよい。除細動装置は、対極板を接続するための第3コネクタを更に有してもよい。除細動装置は、複数の第1電極又は複数の第2電極に印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧を対極板に印加してもよい。この構成によれば、第1電極群又は第2電極群と対極板との間において、除細動エネルギーを印加することができる。
【0010】
いくつかの実施形態において、除細動装置は、第1電極群、第2電極群、及び対極板のうち、電源回路の第1端子に接続される第1部材と、電源回路の第2端子に接続される第2部材とを、選択的に切り替え可能な切替回路を更に有してもよい。この場合、第1電極群、第2電極群、及び対極板の中から選択される組み合わせを用いて除細動を行うことができる。したがって、細動が生じた箇所に応じて、適切な組み合わせを選択することができるので、除細動効率を向上させることが可能となる。
【0011】
いくつかの実施形態において、除細動装置は、電圧が供給される経路の抵抗値を測定する測定器を更に有してもよい。切替回路は、第1部材と第2部材とを、電源回路及び測定器のいずれかに選択的に接続してもよい。この構成によれば、第1電極群、第2電極群、及び対極板の中から選択される組み合わせが電源回路と測定器とに選択的に接続される。したがって、電圧を供給するための経路と抵抗値を測定するための経路とが別々に設けられる構成と比較して、除細動装置を小型化することができる。
【0012】
いくつかの実施形態において、上記心腔内除細動システムは、心電計を更に備えてもよい。第1除細動カテーテルは、複数の第3電極を含む第3電極群を更に有してもよく、第2除細動カテーテルは、複数の第4電極を含む第4電極群を更に有してもよい。心電計は、複数の第3電極の電位及び複数の第4電極の電位を測定してもよい。この構成によれば、電気生理学的検査用カテーテルを用いることなく、心内電位を測定することができる。
【0013】
いくつかの実施形態において、除細動装置は、電圧が供給される経路の抵抗値を測定する測定器と、電源回路を制御する演算処理部と、を更に有してもよい。演算処理部は、抵抗値が適正範囲内である場合に、電源回路に電圧を印加させてもよい。電圧が供給される経路の抵抗値が適正範囲外である場合、電圧が印加される電極が適切に留置されていないと考えられる。この状態で除細動を行うためには、除細動エネルギーを大きくする必要がある。上記構成によれば、電圧が供給される経路の抵抗値が適正範囲内である場合に、電圧が印加されるので、除細動エネルギーを過度に大きくする必要がない。その結果、除細動効率を向上させることができる。
【0014】
いくつかの実施形態において、演算処理部は、心内電位のピークに同期して電源回路に電圧を印加させてもよい。この構成では、心内電位のピークに同期して電圧が印加されるので、心室細動の誘発を防止することができる。
【0015】
いくつかの実施形態において、第1除細動カテーテルは、管状部材を更に有してもよい。複数の第1電極のそれぞれは、管状部材の外周面に設けられてもよく、複数の第1電極は、管状部材の軸線方向に配列されてもよい。この構成によれば、複数の第1電極が一体化されている構成と比較して、第1除細動カテーテルの可撓性及び柔軟性を高めることができる。したがって、第1除細動カテーテルの操作性を向上させることが可能となる。
【0016】
いくつかの実施形態においては、第1除細動カテーテルは、管状部材の先端に設けられた先端チップと、管状部材内に配置され、管状部材の中心軸に対して偏心した位置において先端チップに固定される一端を有するプルワイヤと、プルワイヤを軸線方向に進退させる操作部と、を更に有してもよい。この構成によれば、プルワイヤの一端は管状部材の中心軸に対して偏心した位置において先端チップに固定されるので、操作部によりプルワイヤを進退させることによって、先端チップには中心軸に対して偏心した位置に力が加わる。これにより、管状部材の先端部を偏向させることができる。その結果、第1除細動カテーテルの操作性を向上させることが可能となる。
【0017】
いくつかの実施形態においては、第1除細動カテーテルは、管状部材の先端に設けられ、膨張及び収縮可能なバルーンと、バルーンに流体を供給するための供給管と、を更に有してもよい。この構成によれば、第1除細動カテーテルが血管の中に挿入された状態で、バルーンに流体が供給されることによってバルーンが膨張すると、血管内を流れる血液からバルーンが力を受ける。これにより、第1除細動カテーテルは血液の流れに乗って進み得るので、第1除細動カテーテルの挿入作業を簡易化することができる。
【0018】
いくつかの実施形態においては、第1除細動カテーテルは、ガイドワイヤを挿通するための挿通管であって、管状部材内に配置され、管状部材の基端から管状部材の先端まで延びる挿通管を更に有してもよい。この構成によれば、ガイドワイヤが血管の中に挿入された状態で、ガイドワイヤに沿って第1除細動カテーテルを進めることができる。そのため、第1除細動カテーテルの挿入作業を簡易化することができる。
【0019】
いくつかの実施形態においては、第1除細動カテーテルは、ガイドワイヤを挿通するための挿通管であって、管状部材内に配置され、外周面から管状部材の先端まで延びる挿通管を更に有してもよい。この構成によれば、ガイドワイヤが血管の中に挿入された状態で、ガイドワイヤに沿って第1除細動カテーテルを進めることができる。そのため、第1除細動カテーテルの挿入作業を簡易化することができる。
【0020】
いくつかの実施形態においては、複数の第1電極のそれぞれは、軸線方向と交差する方向に凸の湾曲形状を有してもよい。軸線方向における第1電極の長さが大きいほど、第1除細動カテーテルの可撓性及び柔軟性が低下し、第1除細動カテーテルの操作性が損なわれる。第1電極と周辺組織とが接触する面積が小さいほど、第1電極に電圧が印加された場合における電流密度が増大し、周辺組織に損傷を与える可能性が高まる。上記構成では、軸線方向における長さを大きくすることなく、第1電極の表面積を大きくすることができる。したがって、第1除細動カテーテルの操作性を損なうことなく、周辺組織に損傷を与える可能性を低減することができる。
【0021】
いくつかの実施形態においては、第1除細動カテーテルは、複数の第1電極のうちの1つの第1電極の、軸線方向における端面と外周面とによって画定された凹部を埋める絶縁性部材を更に有してもよい。軸線方向における第1電極の端面と管状部材の外周面とによって凹部が生じている場合に、第1電極に電圧が印加されると、端面の周縁において電流密度が大きくなる。上記構成では、凹部が絶縁性部材によって埋められるので、第1電極に電圧が印加された場合の端面の周縁における電流密度が増大することを抑えることができる。したがって、周辺組織に損傷を与える可能性を低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、除細動効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る心腔内除細動システムの概略構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される除細動カテーテルの概略構成図である。
【
図3】
図3は、
図2のIII-III線に沿った断面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示される除細動装置が行う除細動方法の一連の処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、マップモードにおける切替回路の接続状態の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、心腔内除細動モードにおける抵抗値測定時の切替回路の接続状態の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、心腔内除細動モードにおける抵抗値測定時の切替回路の接続状態の別の例を示す図である。
【
図9】
図9は、心腔内除細動モードにおける抵抗値測定時の切替回路の接続状態の更に別の例を示す図である。
【
図10】
図10は、心腔内除細動モードにおける抵抗値測定時の切替回路の接続状態の更に別の例を示す図である。
【
図11】
図11は、
図1に示される電源回路によって印加される電圧の波形を示す図である。
【
図12】
図12は、心腔内除細動モードにおける電圧印加時の切替回路の接続状態の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、心腔内除細動モードにおける電圧印加時の切替回路の接続状態の別の例を示す図である。
【
図14】
図14は、心腔内除細動モードにおける電圧印加時の切替回路の接続状態の更に別の例を示す図である。
【
図15】
図15は、心腔内除細動モードにおける電圧印加時の切替回路の接続状態の更に別の例を示す図である。
【
図16】
図16は、変形例の除細動カテーテルの概略構成図である。
【
図18】
図18は、別の変形例の除細動カテーテルの概略構成図である。
【
図19】
図19は、更に別の変形例の除細動カテーテルの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。なお、図面の説明において同一要素には同一符号が付され、重複する説明は省略される。
【0025】
図1~
図4を参照して一実施形態に係る心腔内除細動システムを説明する。
図1は、一実施形態に係る心腔内除細動システムの概略構成図である。
図2は、
図1に示される除細動カテーテルの概略構成図である。
図3は、
図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4は、
図2に示される電極の拡大図である。
【0026】
図1に示される心腔内除細動システム1は、除細動を行うためのシステムである。除細動は、細動を起こしている心臓を正常に戻すことである。細動は、心臓の心筋が痙攣した状態を示す。細動には、例えば、心房細動、及び心室細動がある。心腔内除細動システム1は、心筋が痙攣している箇所を電気的にリセットすることによって、除細動を行う。心腔内除細動システム1は、例えば、カテーテルアブレーションによる心房細動の治療に用いられる。心腔内除細動システム1は、除細動カテーテル2A(第1除細動カテーテル)と、除細動カテーテル2B(第2除細動カテーテル)と、対極板3と、心電計4と、除細動装置10と、を含む。
【0027】
除細動カテーテル2A,2Bは、患者Pの心腔内において除細動を行うために用いられる機器である。
図2及び
図3に示されるように、除細動カテーテル2A,2Bのそれぞれは、チューブ21(管状部材)と、電極群22と、電極群23と、リード線群24と、リード線群25と、先端チップ26と、プルワイヤ27と、ハンドル28と、を含む。
【0028】
チューブ21は、長尺の管状部材である。チューブ21は、例えば、高硬度のナイロンエラストマーによって構成されている。ナイロンエラストマーの例としては、PEBAX(登録商標)が挙げられる。チューブ21は、チューブ21の軸線方向において、互いに異なる硬度を有してもよい。例えば、チューブ21は、チューブ21の先端21aから基端21bに向かうにつれて、段階的に硬度が高くなるように構成されている。チューブ21の硬度(D型硬度計による硬度)は、例えば、40~75である。チューブ21の外径は、例えば、1.2mm~2.4mmである。
【0029】
チューブ21は、ブレード21cを含む。ブレード21cは、チューブ21を補強する部材である。ブレード21cは、金属材料によって構成される編組線である。ブレード21cは、例えば、ステンレス素線によって構成される。ブレード21cは、チューブ21の基端から、電極群22の手前まで、チューブ21の全周にわたって設けられている。ブレード21cは、チューブ21のうちの電極群22が設けられている領域には設けられていない。
【0030】
電極群22は、複数の電極22aを含む。各電極22aは、心腔内の所望の位置に除細動エネルギーを印加するための部材である。各電極22aは、チューブ21の外周面に設けられている。具体的には、各電極22aは、チューブ21の軸線(中心軸)回りにチューブ21を囲むように、チューブ21の外周面に設けられている。各電極22aは、両端が開放された筒状の形状を有する。
図4に示されるように、本実施形態では、各電極22aは、オリーブ状の形状を有している。言い換えると、各電極22aは、チューブ21の軸線方向と交差する方向に凸の湾曲形状を有している。具体的に説明すると、各電極22aは、チューブ21の軸線方向における電極22aの中心において外径が最も大きくなり、当該中心からチューブ21の軸線方向における電極22aの両端に向かうにつれて外径が徐々に小さくなる流線形の形状を有している。
【0031】
電極22aの外周面とチューブ21の外周面とが同一平面状に位置していないので、電極22aの端面とチューブ21の外周面とによって画定された凹部22sが生じている。除細動カテーテル2A,2Bは、凹部22sを埋めるように設けられたグルーG(絶縁性部材)を更に含む。グルーGは、電極22aの外周面とチューブ21の外周面との間にエッジが生じないように、電極22aの外周面とチューブ21の外周面とを滑らかにつないでいる。
【0032】
チューブ21の軸線方向における各電極22aの長さが短すぎると、電圧印加時における電流密度が過大となるおそれがある。チューブ21の軸線方向における各電極22aの長さが長すぎると、チューブ21における電極群22が設けられている部分の可撓性及び柔軟性が損なわれ得る。これらの観点から、チューブ21の軸線方向における各電極22aの長さは、例えば、4mmである。各電極22aは、X線に対する造影性(X線不透過性)を向上させる観点から、白金イリジウム合金などの白金系の合金によって構成されてもよい。
【0033】
複数の電極22aは、チューブ21の軸線方向に配列されている。本実施形態では、複数の電極22aは、チューブ21の先端部に設けられ、チューブ21の軸線方向に等間隔で配列されている。互いに隣り合う2つの電極22aの離間距離は、1~5mm程度である。電極群22に含まれる電極群22の電極22aの数は、チューブ21の軸線方向における電極22aの長さ及び配置間隔に応じて定められてもよく、例えば、6~16個程度である。本実施形態では、電極群22は、8個の電極22aを含む。
【0034】
各電極22aは後述のリード線24aによって除細動装置10に電気的に接続される。除細動カテーテル2Aに含まれる電極群22(第1電極群)の複数の電極22a(第1電極)には、同極性の電圧が印加される。除細動カテーテル2Bに含まれる電極群22(第2電極群)の複数の電極22a(第2電極)には、同極性の電圧が印加される。除細動カテーテル2Bに含まれる複数の電極22aには、除細動カテーテル2Aに含まれる複数の電極22aに印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧が印加されてもよく、同じ極性の電圧が印加されてもよい。
【0035】
除細動カテーテル2A,2Bが心房細動を除細動するために使用される場合、除細動カテーテル2A,2Bの電極群22は、例えば、右心房側壁、右心房後壁、右心房前壁、上大静脈と右心房との接続部、下大静脈と右心房との接続部、左心房側壁、左心房後壁、左心房前壁、右上肺静脈と左心房との接続部、右下肺静脈と左心房との接続部、左上肺静脈と左心房との接続部、左下肺静脈と左心房との接続部、右心房と左心房との中隔、心房中隔と心室中隔との接続部、食道、又は冠状静脈洞に留置される。
【0036】
電極群23は、複数の電極23aを含む。各電極23aは、心内電位を測定するための部材である。各電極23aは、チューブ21の外周面に設けられている。具体的には、各電極23aは、チューブ21の軸線回りにチューブ21を囲むように、チューブ21の外周面に設けられている。各電極23aは、両端が開放された筒状の形状を有する。
図4に示されるように、本実施形態では、各電極23aは、チューブ21の軸線方向における電極23aの全長にわたって実質的に均一な外径を有する円筒形状を有している。チューブ21の軸線方向における各電極23aの長さは、例えば、0.5mm~2.0mmである。各電極23aは、X線に対する造影性を向上させる観点から、白金イリジウム合金などの白金系の合金によって構成されてもよい。
【0037】
複数の電極23aは、チューブ21の軸線方向に配列されている。本実施形態では、複数の電極23aは、チューブ21において電極群22から基端21bに向かって離間した位置に設けられ、チューブ21の軸線方向に等間隔で配列されている。電極群23に含まれる電極23aの数は、電極23aの長さ及び配置間隔に応じて定められてもよく、例えば、1~8個程度である。本実施形態では、電極群23は、4個の電極23aを含む。なお、複数の電極23aには、除細動のための電圧は印加されない。
【0038】
リード線群24は、複数のリード線24aを含む。各リード線24aは、電極22aを除細動装置10に電気的に接続するための部材である。複数のリード線24aは、それぞれ異なる電極22aに接続される。例えば、リード線群24に含まれるリード線24aの数は、電極群22に含まれる電極22aの数と同じである。各リード線24aは、チューブ21に挿通されており、リード線24aの一端は電極22aに接続され、リード線24aの他端はハンドル28のコネクタ28dに接続されている。具体的に説明すると、リード線24aの一端は電極22aの内周面に溶接されており、リード線24aは、チューブ21の管壁に設けられた貫通孔からチューブ21の内部に挿通され、コネクタ28dまで延びている。
【0039】
各リード線24aは、金属導線と、金属導線の外周面を被覆する被覆樹脂と、を含む樹脂被覆線である。被覆樹脂の例としては、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリアミドイミド樹脂が挙げられる。被覆樹脂の膜厚は、例えば、10μm~50μm程度である。
【0040】
リード線群25は、複数のリード線25aを含む。各リード線25aは、電極23aを除細動装置10に電気的に接続するための部材である。複数のリード線25aは、それぞれ異なる電極23aに接続される。例えば、リード線群25に含まれるリード線25aの数は、電極群23に含まれる電極23aの数と同じである。各リード線25aは、チューブ21に挿通されており、リード線25aの一端は電極23aに接続され、リード線25aの他端はハンドル28のコネクタ28dに接続されている。具体的に説明すると、リード線25aの一端は電極23aの内周面に溶接されており、リード線25aは、チューブ21の管壁に設けられた貫通孔からチューブ21の内部に挿通され、コネクタ28dまで延びている。
【0041】
各リード線25aは、金属導線と、金属導線の外周面を被覆する被覆樹脂と、を含む樹脂被覆線である。被覆樹脂の例としては、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリアミドイミド樹脂が挙げられる。被覆樹脂の膜厚は、例えば、10μm~50μm程度である。
【0042】
先端チップ26は、チューブ21の先端21aを封止するための部材である。先端チップ26は、チューブ21の先端21aに取り付けられる。先端チップ26の先端は半球状の形状を有している。チューブ21の軸線方向における先端チップ26の長さは、例えば、0.5mm~2.0mmである。本実施形態では、先端チップ26(の内面)には、プルワイヤ27の一端が固定されている。
【0043】
先端チップ26は、例えば、金属材料で構成されている。先端チップ26は、X線に対する造影性を向上させる観点から、白金、白金合金、タングステン、タングステン合金、銀、及び銀合金によって構成されてもよい。先端チップ26は、樹脂によって構成されてもよい。樹脂としては、ある程度の可撓性を有する樹脂が用いられ得る。このような樹脂の例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体といったポリオレフィン、軟質ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、及びポリウレタンといった熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、並びにラテックスゴムが挙げられる。
【0044】
プルワイヤ27は、チューブ21の先端部を偏向させるための部材である。プルワイヤ27は、チューブ21に挿通されており、チューブ21の中心軸に対して偏心した位置に配置されている。プルワイヤ27の一端は、チューブ21の中心軸に対して偏心した位置において、先端チップ26に固定されている。プルワイヤ27の一端は、例えば、はんだによって先端チップ26に固定されている。プルワイヤ27の一端には、抜け止め用の大径部が設けられてもよい。この構成により、先端チップ26とプルワイヤ27の一端とは強固に結合され得るので、先端チップ26の脱落が防止される。プルワイヤ27の他端は、ハンドル28の操作レバー28b(操作部)に接続されている。
【0045】
プルワイヤ27は、例えば、金属材料で構成されている。金属材料の例としては、ステンレス及びニッケル-チタン系超弾性合金が挙げられる。プルワイヤ27は、金属材料で構成されなくてもよく、例えば、高強度の非導電性ワイヤなどで構成されてもよい。
【0046】
除細動カテーテル2A,2Bは、複数本のプルワイヤ27を含んでもよい。例えば、2本のプルワイヤ27がチューブ21の中心軸に対して対称に設けられている場合には、チューブ21の先端部を2方向に偏向させることができる。
【0047】
ハンドル28は、除細動カテーテル2A,2Bを操作するために用いられる。ハンドル28は、チューブ21の基端21bに設けられている。ハンドル28は、本体部28aと、操作レバー28bと、ストレインリリーフ28cと、コネクタ28dと、を含む。
【0048】
本体部28aは、除細動カテーテル2A,2Bを操作するユーザによって把持される部分である。本体部28aは、チューブ21の基端21bに接続されている。本体部28aは、筒状の部材であって、その内部には、チューブ21から延出したリード線24a、リード線25a、及びプルワイヤ27が互いに電気的に絶縁された状態で挿通されている。
【0049】
操作レバー28bは、プルワイヤ27をチューブ21の軸線方向に進退させるための部材である。操作レバー28bは、回転式でもよく、スライド式でもよい。ユーザが操作レバー28bを操作することによって、プルワイヤ27が引っ張られ、これにより、チューブ21の先端部が偏向する。チューブ21の先端部の偏向形状は、既に市販されている通常の電気生理学的検査用カテーテルと同等である。
【0050】
ストレインリリーフ28cは、チューブ21と本体部28aとの接続部を補強するための部材である。ストレインリリーフ28cは、上記接続部をチューブ21の軸線回りに覆うように設けられ、チューブ21の先端21aに向かって先細る円錐状の形状を有する。
【0051】
コネクタ28dは、複数のリード線24a及び複数のリード線25aの終端に位置する部材である。各リード線24a及び各リード線25aは、コネクタ28dのコネクタピンに接続される。除細動カテーテル2Aのコネクタ28dは、ケーブルを介して後述の除細動装置10のコネクタ10a(第1コネクタ)に接続される。除細動カテーテル2Bのコネクタ28dは、ケーブルを介して後述の除細動装置10のコネクタ10b(第2コネクタ)に接続される。
【0052】
対極板3は、患者Pの体表面において除細動を行うために用いられる機器(電極)である。対極板3は、体表面に貼り付けられ、体表面から除細動エネルギーを印加する。対極板3は、例えば、導電型対極板である。本実施形態では、対極板3は、矩形状の形状を有する板材である。対極板3は、例えば、除細動カテーテル2A,2Bに対極板3の長辺が向かい合うように、体表面に貼り付けられる。対極板3は、円形の板材であってもよい。対極板3には、除細動カテーテル2A,2Bの少なくとも一方の複数の電極22aに印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧が印加される。
【0053】
心電計4は、患者Pの心内電位を測定する装置である。心電計4は、除細動カテーテル2Aに含まれる電極群23(第3電極群)の複数の電極23a(第3電極)の電位及び除細動カテーテル2Bに含まれる電極群23(第4電極群)の複数の電極23a(第4電極)の電位を測定する。心電計4は、除細動カテーテル2A,2Bに含まれる電極群22の複数の電極22aに電圧が印加されていない場合、これらの電極22aの電位を測定してもよい。心電計4は、心内電位を除細動装置10に出力する。
【0054】
除細動装置10は、除細動を行うための除細動エネルギーを供給する装置である。除細動装置10は、コンソールと称されることもある。除細動装置10は、除細動カテーテル2Aに含まれる電極群22、除細動カテーテル2Bに含まれる電極群22、及び対極板3の3つの部材の中から選択される1以上の部材と、残りの部材のうちの1以上の部材とに互いに異なる極性の電圧を印加することにより、部材間に除細動エネルギーを供給する。除細動装置10は、除細動カテーテル2Aの電極群22に含まれる複数の電極22aに同極性の電圧を印加し、除細動カテーテル2Bの電極群22に含まれる複数の電極22aに同極性の電圧を印加する。
【0055】
例えば、除細動装置10は、除細動カテーテル2Aの電極群22に印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧を除細動カテーテル2Bの電極群22に印加することによって、除細動カテーテル2Aの電極群22と除細動カテーテル2Bの電極群22との間に除細動エネルギーを供給する。除細動装置10は、除細動カテーテル2Aの電極群22に印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧を対極板3に印加することによって、除細動カテーテル2Aの電極群22と対極板3との間に除細動エネルギーを供給する。除細動装置10は、電極群23に含まれる複数の電極23aには、電圧を印加しない。
【0056】
除細動装置10は、コネクタ10a、コネクタ10b、コネクタ10c(第3コネクタ)、コネクタ10d、コネクタ10e、コネクタ10f、及びコネクタ10gを含む。
【0057】
コネクタ10aは、除細動カテーテル2Aを接続するためのコネクタである。コネクタ10aは、除細動カテーテル2Aのコネクタ28dとケーブルによって接続される。コネクタ10bは、除細動カテーテル2Bを接続するためのコネクタである。コネクタ10bは、除細動カテーテル2Bのコネクタ28dとケーブルによって接続される。なお、コネクタ10a,10bは、電極群22を接続するためのコネクタと、電極群23を接続するためのコネクタとに分けられてもよい。コネクタ10cは、対極板3を接続するためのコネクタである。コネクタ10cは、対極板3とケーブルによって接続される。
【0058】
コネクタ10d、コネクタ10e、及びコネクタ10fは、心電計4を接続するためのコネクタである。除細動カテーテル2Aによって測定された心内電位がコネクタ10dから心電計4に出力される。除細動カテーテル2Bによって測定された心内電位がコネクタ10eから心電計4に出力される。心電計4から心内電位がコネクタ10fに入力され、演算処理部15に供給される。
【0059】
コネクタ10gは、患者Pの体表面に貼り付けられた誘導電極を接続するためのコネクタである。誘導電極によって測定された体表面心電図波形がコネクタ10gに入力され、演算処理部15に供給される。
【0060】
除細動装置10は、操作装置11と、電源回路12と、測定器13と、切替回路14と、演算処理部15と、を含む。
【0061】
操作装置11は、ユーザが除細動装置10の操作を行うための部分である。操作装置11は、表示部11aと、入力部11bと、を含む。表示部11aは、各種情報を表示する部分である。表示部11aは、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)などのディスプレイである。入力部11bは、ユーザが各種の操作を行うための部分である。入力部11bは、例えば、物理的なボタンスイッチなどによって構成される。ボタンスイッチの例としては、除細動装置10の動作モードを切り替えるための切替スイッチ、除細動エネルギーを設定するための設定スイッチ、電源回路12に含まれるコンデンサを充電するための充電スイッチ、及び除細動エネルギーを印加するための印加スイッチ(放電スイッチ)が挙げられる。入力部11bは、ユーザの操作を示す各種信号を演算処理部15に出力する。
【0062】
なお、表示部11aと入力部11bとは、タッチパネルのように一体化されていてもよい。この場合、入力部11bは、タッチパネルに表示されるボタンアイコンによって構成されてもよい。
【0063】
電源回路12は、直流電圧を供給する装置である。電源回路12は、除細動カテーテル2A,2Bに含まれる複数の電極22a及び対極板3に直流電圧を印加する。電源回路12は、出力端子12a(第1端子)及び出力端子12b(第2端子)を有する。電源回路12は、出力端子12aに接続されている電極22a又は対極板3と、出力端子12bに接続されている電極22aとに電圧を印加することにより、除細動エネルギーを供給する。出力端子12a及び出力端子12bに接続される電圧の印加対象は、切替回路14によって選択的に切り替えられる。電源回路12は、コンデンサを内蔵している。ユーザが充電スイッチを操作することによって、充電指令が演算処理部15に出力されると、演算処理部15が充電処理を行うことにより、電源回路12のコンデンサが充電される。
【0064】
測定器13は、電圧が供給される経路の抵抗値を測定する抵抗計である。測定器13は、測定端子13a及び測定端子13bを有し、測定端子13aと測定端子13bとの間の抵抗値を測定する。測定端子13a及び測定端子13bに接続される測定対象は、切替回路14によって選択的に切り替えられる。なお、測定端子13a又は測定端子13bと除細動カテーテル2Aの電極群22との間の抵抗値、測定端子13a又は測定端子13bと除細動カテーテル2Bの電極群22との間の抵抗値、及び測定端子13aと対極板3との間の抵抗値は、無視できるほどに小さい。したがって、測定器13は、除細動カテーテル2A,2Bに含まれる複数の電極22a及び対極板3のうちの、測定端子13aに接続される電極と、測定端子13bに接続される電極との間の抵抗値を実質的に測定している。
【0065】
切替回路14は、電気的に接続される経路を切り替える回路である。切替回路14は、除細動カテーテル2Aの電極群22、除細動カテーテル2Bの電極群22、及び対極板3のうち、電源回路12の出力端子12aに接続される部材(第1部材)と、電源回路12の出力端子12bに接続される部材(第2部材)とを選択的に切り替え可能に構成されている。切替回路14は、除細動カテーテル2Aの電極群22、除細動カテーテル2Bの電極群22、及び対極板3のうち、測定器13の測定端子13aに接続される部材と、測定器13の測定端子13bに接続される部材とを選択的に切り替え可能に構成されている。切替回路14は、スイッチ41~47を含む。
【0066】
スイッチ41,42は、電源回路12と測定器13とを選択的に切り替える回路要素である。スイッチ41は、接点41a、接点41b、及び接点41cを有する。接点41aは、後述のスイッチ43の接点43b、スイッチ44の接点44b、及びスイッチ45の接点45bに接続されている。接点41bは、電源回路12の出力端子12aに接続されている。接点41cは、測定器13の測定端子13aに接続されている。スイッチ41は、演算処理部15からの切替信号に応じて、接点41aと接点41bとが接続されている状態と、接点41aと接点41cとが接続されている状態とを選択的に切り替える。
【0067】
スイッチ42は、接点42a、接点42b、及び接点42cを有する。接点42aは、スイッチ43の接点43c及びスイッチ44の接点44cに接続されている。接点42bは、電源回路12の出力端子12bに接続されている。接点42cは、測定器13の測定端子13bに接続されている。スイッチ42は、演算処理部15からの切替信号に応じて、接点42aと接点42bとが接続されている状態と、接点42aと接点42cとが接続されている状態とを選択的に切り替える。
【0068】
スイッチ41とスイッチ42とは連動して切替動作を行う。スイッチ41において、接点41aと接点41bとが接続されている場合には、スイッチ42において、接点42aと接点42bとが接続されている。スイッチ41において、接点41aと接点41cとが接続されている場合には、スイッチ42において、接点42aと接点42cとが接続されている。
【0069】
スイッチ43は、除細動カテーテル2Aの電極群22の接続先を選択的に切り替える回路要素である。スイッチ43は、接点43a、接点43b、接点43c、及び接点43dを有する。接点43aは、コネクタ10aに接続されている。具体的には、接点43aは、コネクタ10aを介して除細動カテーテル2Aの電極群22に接続されている。接点43bは、接点41aに接続されている。接点43cは、接点42aに接続されている。接点43dは、コネクタ10dに接続されている。スイッチ43は、演算処理部15からの切替信号に応じて、接点43aと接点43bとが接続されている状態と、接点43aと接点43cとが接続されている状態と、接点43aと接点43dとが接続されている状態とを選択的に切り替える。
【0070】
スイッチ44は、除細動カテーテル2Bの電極群22の接続先を選択的に切り替える回路要素である。スイッチ44は、接点44a、接点44b、接点44c、及び接点44dを有する。接点44aは、コネクタ10bに接続されている。具体的には、接点44aは、コネクタ10bを介して除細動カテーテル2Bの電極群22に接続されている。接点44bは、接点41aに接続されている。接点44cは、接点42aに接続されている。接点44dは、コネクタ10eに接続されている。スイッチ44は、演算処理部15からの切替信号に応じて、接点44aと接点44bとが接続されている状態と、接点44aと接点44cとが接続されている状態と、接点44aと接点44dとが接続されている状態とを選択的に切り替える。
【0071】
スイッチ45は、対極板3の接続状態を切り替える回路要素である。スイッチ45は、接点45a及び接点45bを有する。接点45aは、コネクタ10cに接続されている。具体的には、接点45aは、コネクタ10cを介して対極板3に接続されている。接点45bは、接点41aに接続されている。スイッチ45は、演算処理部15からの切替信号に応じて、接点45aと接点45bとが接続されている導通状態(オン状態)と、接点45aと接点45bとが遮断されている遮断状態(オフ状態)とを選択的に切り替える。
【0072】
スイッチ46は、除細動カテーテル2Aの電極群23の接続先を選択的に切り替える回路要素である。スイッチ46は、接点46a、接点46b、及び接点46cを有する。接点46aは、コネクタ10aに接続されている。具体的には、接点46aは、コネクタ10aを介して除細動カテーテル2Aの電極群23に接続されている。接点46bは、コネクタ10dに接続されている。接点46cは、演算処理部15に接続されている。スイッチ46は、演算処理部15からの切替信号に応じて、接点46aと接点46bとが接続されている状態と、接点46aと接点46cとが接続されている状態とを選択的に切り替える。
【0073】
スイッチ47は、除細動カテーテル2Bの電極群23の接続先を選択的に切り替える回路要素である。スイッチ47は、接点47a、接点47b、及び接点47cを有する。接点47aは、コネクタ10bに接続されている。具体的には、接点47aは、コネクタ10bを介して除細動カテーテル2Bの電極群23に接続されている。接点47bは、コネクタ10eに接続されている。接点47cは、演算処理部15に接続されている。スイッチ47は、演算処理部15からの切替信号に応じて、接点47aと接点47bとが接続されている状態と、接点47aと接点47cとが接続されている状態とを選択的に切り替える。
【0074】
演算処理部15は、除細動装置10を統括制御するコントローラである。演算処理部15は、例えば、操作装置11、電源回路12、測定器13、及び切替回路14を制御する。演算処理部15は、入力部11bから出力された各種信号に基づいて、各種制御を行う。ユーザが充電スイッチを操作することによって入力部11bから演算処理部15に充電指令が出力されると、演算処理部15は、設定スイッチにより設定されている除細動エネルギー(電圧)が電源回路12のコンデンサに充電されるように、電源回路12を制御する。
【0075】
ユーザが放電スイッチを操作することによって入力部11bから演算処理部15に放電指令が出力されると、演算処理部15は、電源回路12のコンデンサに充電されている除細動エネルギー(電圧)を放出するように、電源回路12を制御する。本実施形態では、演算処理部15は、測定器13によって測定された抵抗値が適正範囲内である場合に、R波のピークに同期して、電源回路12に電圧を印加させる。
【0076】
ユーザが切替スイッチを操作することによって動作モードが選択されると、演算処理部15は、選択された動作モードで除細動装置10を動作させる。動作モードは、マップモード(電位測定モード)及び心腔内除細動モードを含む。除細動装置10の動作モードは、除細動装置10の起動時には初期設定としてマップモードに設定されている。
【0077】
次に、
図5~
図15を参照しながら、除細動装置10が行う除細動方法を説明する。
図5は、
図1に示される除細動装置が行う除細動方法の一連の処理を示すフローチャートである。
図6は、マップモードにおける切替回路の接続状態の一例を示す図である。
図7~
図10は、心腔内除細動モードにおける抵抗値測定時の切替回路の接続状態の一例を示す図である。
図11は、
図1に示される電源回路によって印加される電圧の波形を示す図である。
図12~
図15は、心腔内除細動モードにおける電圧印加時の切替回路の接続状態の一例を示す図である。なお、
図6~
図10、及び
図12~
図15においては、説明の便宜上、コネクタの図示が省略され、電極群22が接続される経路と電極群23が接続される経路とが別々に示されている。
【0078】
除細動の治療が行われる際には、まず、患者Pの心腔内に除細動カテーテル2A,2Bが挿入され、各除細動カテーテルの電極群22が所望の位置に留置される。患者Pの体表面の所望の位置に対極板3が貼り付けられる。そして、除細動装置10の電源が投入されて、除細動装置10が起動する。除細動カテーテル2Aが除細動装置10のコネクタ10aに接続され、除細動カテーテル2Bが除細動装置10のコネクタ10bに接続され、対極板3が除細動装置10のコネクタ10cに接続される。除細動装置10の起動時には、除細動装置10は、マップモードで動作している。
【0079】
図6に示されるように、除細動装置10がマップモードで動作する場合、スイッチ43の接点43aと接点43dとが接続され、スイッチ44の接点44aと接点44dとが接続され、スイッチ46の接点46aと接点46bとが接続され、スイッチ47の接点47aと接点47bとが接続される。これにより、除細動カテーテル2Aの電極群22及び電極群23と除細動カテーテル2Bの電極群22及び電極群23とが心電計4に接続される。なお、スイッチ45は導通状態及び遮断状態のいずれに設定されてもよい。スイッチ41は、接点41aがいずれの接点とも接続されていない状態に設定される。同様に、スイッチ42は、接点42aがいずれの接点とも接続されていない状態に設定される。
【0080】
この構成により、除細動カテーテル2Aの電極群22及び電極群23、並びに、除細動カテーテル2Bの電極群22及び電極群23によって測定された心内電位が心電計4に出力される。そして、心内電位が心電計4から除細動装置10に出力され、演算処理部15が心内電位を受け取る。そして、演算処理部15は、心内電位を表示部11aに出力し、表示部11aに表示させる。この状態で、ユーザが切替スイッチを操作することによって心腔内除細動モードが選択されたことに応じて、
図5に示される一連の処理が開始される。
【0081】
図5に示されるように、まず、演算処理部15は、除細動カテーテル2A,2B及び対極板3の中から、心腔内除細動モードに用いられる組み合わせが選択されたか否かを判定する(ステップS1)。心腔内除細動モードが選択されると、例えば、選択可能な組み合わせの候補が表示部11aに表示される。選択可能な組み合わせの候補は、互いに異なる極性の電圧が印加される部材の組み合わせであり、除細動カテーテル2Aと除細動カテーテル2Bとの組み合わせ、除細動カテーテル2A及び対極板3と除細動カテーテル2Bとの組み合わせ、除細動カテーテル2B及び対極板3と除細動カテーテル2Aとの組み合わせ、並びに、対極板3と除細動カテーテル2A,2Bとの組み合わせを含む。
【0082】
演算処理部15は、組み合わせが選択されていないと判定した場合(ステップS1:NO)、組み合わせが選択されるまでステップS1を繰り返す。一方、ユーザが、組み合わせの候補の中から、除細動に用いられる所望の組み合わせを選択すると、演算処理部15は、組み合わせが選択されたと判定し(ステップS1:YES)、抵抗値測定処理を行う(ステップS2)。
【0083】
ステップS2では、まず、演算処理部15が、選択された組み合わせに含まれる互いに異なる極性の電圧が供給される2つの電極(部材)間の抵抗値を測定するために、切替回路14の接続状態を選択された組み合わせに応じた接続状態に設定する。このとき、表示部11aには、電極群22による心内電位(心内心電図)は表示されなくなるものの、電極群23による心内電位(心内心電図)は表示される。そして、演算処理部15は、測定器13に測定端子13aと測定端子13bとの間の抵抗値を測定させる。
【0084】
ここで、
図7~
図10を参照しながら、心腔内除細動モードにおける抵抗値測定時の切替回路14の接続状態のいくつかの例を説明する。
【0085】
例えば、除細動カテーテル2Aと除細動カテーテル2Bとの組み合わせが選択されている場合、切替回路14の接続状態は、
図7に示される接続状態に設定される。具体的に説明すると、スイッチ41の接点41aと接点41cとが接続され、スイッチ42の接点42aと接点42cとが接続され、スイッチ43の接点43aと接点43bとが接続され、スイッチ44の接点44aと接点44cとが接続される。このとき、スイッチ45は遮断状態に設定され、スイッチ46の接点46aと接点46bとが接続され、スイッチ47の接点47aと接点47bとが接続される。この構成によれば、除細動カテーテル2Aの電極群22が測定端子13aに接続され、除細動カテーテル2Bの電極群22が測定端子13bに接続されるので、除細動カテーテル2Aの電極群22と除細動カテーテル2Bの電極群22との間の抵抗値が測定される。
【0086】
除細動カテーテル2A及び対極板3と除細動カテーテル2Bとの組み合わせが選択されている場合、切替回路14の接続状態は、
図8に示される接続状態に設定される。
図8に示される接続状態は、スイッチ45が導通状態に設定されている点において、
図7の接続状態と相違する。この構成によれば、除細動カテーテル2Aの電極群22及び対極板3が測定端子13aに接続され、除細動カテーテル2Bの電極群22が測定端子13bに接続されるので、除細動カテーテル2Aの電極群22及び対極板3と除細動カテーテル2Bの電極群22との間の抵抗値が測定される。言い換えると、除細動カテーテル2Aの電極群22と除細動カテーテル2Bの電極群22との間の抵抗成分と、対極板3と除細動カテーテル2Bの電極群22との間の抵抗成分とが並列接続された回路の合成抵抗値が測定される。
【0087】
除細動カテーテル2B及び対極板3と除細動カテーテル2Aとの組み合わせが選択されている場合、切替回路14の接続状態は、
図9に示される接続状態に設定される。
図9に示される接続状態は、スイッチ43,44の接続状態において、
図8の接続状態と相違する。具体的には、スイッチ43の接点43aと接点43cとが接続され、スイッチ44の接点44aと接点44bとが接続される。この構成によれば、除細動カテーテル2Bの電極群22及び対極板3が測定端子13aに接続され、除細動カテーテル2Aの電極群22が測定端子13bに接続されるので、除細動カテーテル2Bの電極群22及び対極板3と除細動カテーテル2Aの電極群22との間の抵抗値が測定される。言い換えると、除細動カテーテル2Bの電極群22と除細動カテーテル2Aの電極群22との間の抵抗成分と、対極板3と除細動カテーテル2Aの電極群22との間の抵抗成分とが並列接続された回路の合成抵抗値が測定される。
【0088】
対極板3と除細動カテーテル2A,2Bとの組み合わせが選択されている場合、切替回路14の接続状態は、
図10に示される接続状態に設定される。
図10に示される接続状態は、スイッチ44の接続状態において、
図9の接続状態と相違する。具体的には、スイッチ44の接点44aと接点44cとが接続される。この構成によれば、対極板3が測定端子13aに接続され、除細動カテーテル2A,2Bの電極群22が測定端子13bに接続されるので、対極板3と除細動カテーテル2A,2Bの電極群22との間の抵抗値が測定される。言い換えると、対極板3と除細動カテーテル2Aの電極群22との間の抵抗成分と、対極板3と除細動カテーテル2Bの電極群22との間の抵抗成分とが並列接続された回路の合成抵抗値が測定される。
【0089】
そして、測定器13は、測定した抵抗値を演算処理部15に出力する。
【0090】
続いて、演算処理部15は、測定器13から抵抗値を受け取ると、抵抗値が適正範囲内であるか否かを判定する(ステップS3)。適正範囲は、組み合わせごとに予め設定されている。適正範囲は、組み合わせに含まれる部材が適切に留置されている場合に測定され得る抵抗値の範囲である。抵抗値が適正範囲内であると判定された場合(ステップS3:YES)、演算処理部15は、充電スイッチを操作可能に設定し、充電指令を受け取ったか否かを判定する(ステップS4)。演算処理部15は、充電指令を受け取っていないと判定した場合(ステップS4:NO)、充電指令を受け取るまでステップS4を繰り返す。なお、ステップS3において、抵抗値が適正範囲内であると判定されるまでは、充電スイッチは操作不能に設定されている。
【0091】
一方、ユーザが充電スイッチを操作することで入力部11bから演算処理部15に充電指令が出力されると、演算処理部15は、充電指令を受け取り(ステップS4:YES)、充電処理を行う(ステップS5)。ステップS5では、演算処理部15は、設定スイッチにより設定されている除細動エネルギー(電圧)が電源回路12のコンデンサに充電されるように、電源回路12を制御する。除細動エネルギーは、例えば、10Jに設定される。コンデンサの充電に要する時間は、例えば、5秒程度である。
【0092】
続いて、演算処理部15は、充電完了から所定時間が経過するまでに放電指令を受け取ったか否かを判定する(ステップS6)。所定時間は、例えば、10秒程度に設定される。ユーザが放電スイッチを操作することで入力部11bから演算処理部15に放電指令が出力されると、演算処理部15は、放電指令を受け取り(ステップS6:YES)、放電処理を行う(ステップS7)。ステップS7では、まず、演算処理部15が、選択された組み合わせに含まれる2つの部材(電極)に互いに異なる極性の電圧を印加するために、切替回路14の接続状態を選択された組み合わせに応じた接続状態に設定する。
【0093】
そして、演算処理部15は、誘導電極からコネクタ10gを介して入力された体表面信号を演算処理することによってR波のピークを測定する。そして、演算処理部15は、R波のピークに同期してトリガー信号を電源回路12に出力する。ここで、R波のピークの算出方法について、詳細に説明する。例えば、演算処理部15は、体表面心電図を所定の周期でサンプリングし、R波のピークを検出するとともに、R波の立ち上がり時間及び立ち下がり時間を測定する。サンプリング周期は、例えば、1ミリ秒に設定される。R波はピークを向かえると降下を開始するため、演算処理部15は、R波の立ち上がり、及びR波の立ち下がりをモニターすることでピークを検出する。
【0094】
そして、演算処理部15は、R波が正常波形(Narrow)であるか異常波形(Wide)であるかを判定する。例えば、演算処理部15は、R波の立ち上がり開始時点からR波のピークまでの時間(立ち上がり時間)が45ミリ秒以内であれば、当該R波が正常波形であると判定する。演算処理部15は、R波の立ち上がり開始時点からR波のピークまでの時間(立ち上がり時間)が45ミリ秒より大きい場合には、当該R波が異常波形であると判定する。
【0095】
そして、演算処理部15は、R波が正常波形であると判定された場合に、R波のピークから時間t0(
図11参照)が経過したことに応じて、トリガー信号を出力する。R波のピークから60ミリ秒以内に電圧が印加されなければ、心室細動を誘発するリスクがある。このため、時間t0は、例えば、10ミリ秒~50ミリ秒である。本実施形態では、時間t0は、10ミリ秒に設定される。なお、正常波形の判定条件、異常波形の判定条件、及び時間t0などは、ユーザが設定可能に構成されている。
【0096】
コネクタ10d,10eを介して心電計4に入力された心内電位のうち、操作装置11を用いてユーザが選択したいずれかの心内電位がコネクタ10fを介して演算処理部15に入力される。演算処理部15は、心電計4からコネクタ10fを介して入力された心内電位のピークに同期してトリガー信号を電源回路12に出力してもよい。トリガー信号の出力方法は、誘導電極によって測定された体表面心電図が用いられる場合と同様である。
【0097】
演算処理部15は、除細動カテーテル2Aの電極群23によって測定された心内電位、及び除細動カテーテル2Bの電極群23によって測定された心内電位を直接用いてもよい。この場合、演算処理部15は、スイッチ46の接点46aと接点46cとが接続され、スイッチ47の接点47aと接点47cとが接続されるように、切替回路14を制御する。
【0098】
演算処理部15に、心内電位、及び体表面信号の両方が入力されている場合には、演算処理部15は、体表面信号を優先して演算処理し、R波のピークを検出してもよい。
【0099】
そして、電源回路12は、トリガー信号を受け取ると、電源回路12のコンデンサに充電されている除細動エネルギー(電圧)を放出する。
図11に示されるように、本実施形態では、電源回路12は、2相性の電圧を出力端子12aと出力端子12bとの間で印加する。
図11のグラフの横軸は時間を表し、縦軸は電位を表す。
【0100】
まず、電源回路12は、出力端子12aが正極、出力端子12bが負極となるように、出力端子12aと出力端子12bとの間で電圧を印加する。出力端子12aと出力端子12bとの間で印加される電圧は、コンデンサから放電されるので、時間の経過とともに減衰する。電圧の印加開始時から時間t1が経過したことに応じて、電源回路12は、電圧の印加を停止し、出力端子12aが負極、出力端子12bが正極となるように、出力端子12aと出力端子12bとの間で正負を反転した電圧を印加する。そして、反転電圧の印加開始時から時間t2が経過したことに応じて、演算処理部15は、停止信号を電源回路12に出力し、電源回路12は、停止信号を受け取ると、電圧の印加を停止する。
【0101】
時間t1及び時間t2は、例えば、1.5ミリ秒~10.0ミリ秒である。ピーク電圧V1の大きさ(絶対値)は、例えば、300V~500Vである。電源回路12は、単相性の電圧を出力端子12aと出力端子12bとの間で印加してもよい。時間tは、例えば、1.0ミリ秒~30.0ミリ秒である。本実施形態では、時間tは20.0ミリ秒である。なお、電圧の極性を切り替えるための時間が生じるものの、その時間は極めて短い。そのため、時間tは、時間t1と時間t2との和よりもわずかに大きいが、実質的に等しい。
【0102】
ここで、
図12~
図15を参照しながら、心腔内除細動モードにおける電圧印加時の切替回路14の接続状態のいくつかの例を説明する。
【0103】
例えば、除細動カテーテル2Aと除細動カテーテル2Bとの組み合わせが選択されている場合、切替回路14の接続状態は、
図12に示される接続状態に設定される。
図12に示される接続状態は、スイッチ41,42の接続状態において、
図7の接続状態と相違する。具体的には、スイッチ41の接点41aと接点41bとが接続され、スイッチ42の接点42aと接点42bとが接続される。この構成によれば、除細動カテーテル2Aの電極群22が出力端子12aに接続され、除細動カテーテル2Bの電極群22が出力端子12bに接続されるので、除細動カテーテル2Aの電極群22に出力端子12aから電圧が印加され、除細動カテーテル2Bの電極群22に出力端子12bから電圧が印加される。したがって、除細動カテーテル2Aの電極群22と除細動カテーテル2Bの電極群22との間に除細動エネルギーが印加される。
【0104】
除細動カテーテル2A及び対極板3と除細動カテーテル2Bとの組み合わせが選択されている場合、切替回路14の接続状態は、
図13に示される接続状態に設定される。
図13に示される接続状態は、スイッチ41,42の接続状態において、
図8の接続状態と相違する。具体的には、スイッチ41の接点41aと接点41bとが接続され、スイッチ42の接点42aと接点42bとが接続される。この構成によれば、除細動カテーテル2Aの電極群22及び対極板3が出力端子12aに接続され、除細動カテーテル2Bの電極群22が出力端子12bに接続されるので、除細動カテーテル2Aの電極群22及び対極板3に出力端子12aから電圧が印加され、除細動カテーテル2Bの電極群22に出力端子12bから電圧が印加される。したがって、除細動カテーテル2Aの電極群22と除細動カテーテル2Bの電極群22との間、及び対極板3と除細動カテーテル2Bの電極群22との間に除細動エネルギーが印加される。
【0105】
除細動カテーテル2B及び対極板3と除細動カテーテル2Aとの組み合わせが選択されている場合、切替回路14の接続状態は、
図14に示される接続状態に設定される。
図14に示される接続状態は、スイッチ41,42の接続状態において、
図9の接続状態と相違する。具体的には、スイッチ41の接点41aと接点41bとが接続され、スイッチ42の接点42aと接点42bとが接続される。この構成によれば、除細動カテーテル2Bの電極群22及び対極板3が出力端子12aに接続され、除細動カテーテル2Aの電極群22が出力端子12bに接続されるので、除細動カテーテル2Bの電極群22及び対極板3に出力端子12aから電圧が印加され、除細動カテーテル2Aの電極群22に出力端子12bから電圧が印加される。したがって、除細動カテーテル2Bの電極群22と除細動カテーテル2Aの電極群22との間、及び対極板3と除細動カテーテル2Aの電極群22との間に除細動エネルギーが印加される。
【0106】
対極板3と除細動カテーテル2A,2Bとの組み合わせが選択されている場合、切替回路14の接続状態は、
図15に示される接続状態に設定される。
図15に示される接続状態は、スイッチ41,42の接続状態において、
図10の接続状態と相違する。具体的には、スイッチ41の接点41aと接点41bとが接続され、スイッチ42の接点42aと接点42bとが接続される。この構成によれば、対極板3が出力端子12aに接続され、除細動カテーテル2A,2Bの電極群22が出力端子12bに接続されるので、対極板3に出力端子12aから電圧が印加され、除細動カテーテル2Aの電極群22及び除細動カテーテル2Bの電極群22に出力端子12bから電圧が印加される。したがって、対極板3と除細動カテーテル2Aの電極群22との間、及び対極板3と除細動カテーテル2Bの電極群22との間に除細動エネルギーが印加される。
【0107】
ステップS7の放電処理が終了すると、演算処理部15は、除細動装置10の動作モードをマップモードに切り替える(ステップS9)。ステップS9では、演算処理部15は、切替回路14の接続状態を
図6に示される接続状態に設定する。以上により、
図5に示される一連の処理が終了する。
【0108】
一方、ステップS6において、演算処理部15は、充電完了から所定時間が経過するまでに放電指令を受け取らなかった場合には(ステップS6:NO)、電源回路12のコンデンサを内部放電させる(ステップS8)。そして、演算処理部15は、除細動装置10の動作モードをマップモードに切り替える(ステップS9)。以上により、
図5に示される一連の処理が終了する。
【0109】
ステップS3において、抵抗値が適正範囲外であると判定された場合(ステップS3:NO)、演算処理部15は、除細動装置10の動作モードをマップモードに切り替える(ステップS9)。以上により、
図5に示される一連の処理が終了する。なお、抵抗値が適正範囲外である場合には、電極群22又は対極板3が適切に留置されていないと考えられる。したがって、ユーザは、心内電位を確認しながら、除細動カテーテル2A,2B及び対極板3のうちの除細動に用いられる部材を適切な位置に留置し直す。その後、ユーザが切替スイッチを操作することによって心腔内除細動モードを選択することにより、
図5の一連の処理が再び開始される。
【0110】
以上説明した心腔内除細動システム1においては、除細動カテーテル2Aが電極群22を有し、除細動カテーテル2Bが電極群22を有する。このように、2つの電極群22が互いに異なる除細動カテーテルに含まれているので、2つの電極群22の留置の自由度が向上する。したがって、心筋が痙攣を起こしている箇所に近い位置に、除細動カテーテル2Aの電極群22及び除細動カテーテル2Bの電極群22を留置することができる。これにより、心筋が痙攣を起こしている箇所に除細動エネルギーを効率よく印加することができる。その結果、除細動エネルギーを必要以上に高く設定する必要が無いので、除細動効率を向上させることが可能となる。
【0111】
除細動装置10は、除細動カテーテル2Aの電極群22に印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧を除細動カテーテル2Bの電極群22に印加してもよい。この構成によれば、除細動カテーテル2Aの電極群22と除細動カテーテル2Bの電極群22との間において、除細動エネルギーを印加することができる。
【0112】
除細動装置10は、除細動カテーテル2Aの電極群22に印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧を対極板3に印加してもよい。この構成によれば、除細動カテーテル2Aの電極群22と対極板3との間において、除細動エネルギーを印加することができる。同様に、除細動装置10は、除細動カテーテル2Bの電極群22に印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧を対極板3に印加してもよい。この構成によれば、除細動カテーテル2Bの電極群22と対極板3との間において、除細動エネルギーを印加することができる。
【0113】
切替回路14は、除細動カテーテル2Aの電極群22、除細動カテーテル2Bの電極群22、及び対極板3のうち、電源回路12の出力端子12aに接続される部材と、電源回路12の出力端子12bに接続される部材とを、選択的に切り替え可能に構成されている。具体的には、スイッチ41~45の接続状態に応じて、出力端子12aに接続される部材と出力端子12bに接続される部材との組み合わせが選択される。この構成によれば、除細動カテーテル2Aの電極群22、除細動カテーテル2Bの電極群22、及び対極板3の中から選択される組み合わせを用いて除細動を行うことができる。したがって、細動が生じた箇所に応じて、適切な組み合わせを選択することができ、除細動効率を向上させることが可能となる。
【0114】
切替回路14は、除細動カテーテル2Aの電極群22、除細動カテーテル2Bの電極群22、及び対極板の中から選択される組み合わせを電源回路12及び測定器13のいずれかに選択的に接続する。この構成によれば、電圧を供給するための経路と抵抗値を測定するための経路とが別々に設けられる構成と比較して、除細動装置10を小型化することができる。
【0115】
除細動カテーテル2A,2Bは、複数の電極23aを含む電極群23を有している。心電計4は、除細動カテーテル2Aの電極群23の電位及び除細動カテーテル2Bの電極群23の電位を測定する。したがって、電気生理学的検査用カテーテルを用いることなく、心内電位を測定することができる。
【0116】
電圧が供給される経路の抵抗値が適正範囲外である場合、電圧が印加される電極(電極群22又は対極板3)が適切に留置されていないと考えられる。この状態で除細動を行うためには、除細動エネルギーを大きくする必要がある。心腔内除細動システム1では、電圧が供給される経路の抵抗値が適正範囲内である場合に、電圧が印加されるので、除細動エネルギーを過度に大きくする必要がない。その結果、除細動効率を向上させることができる。
【0117】
上述のように、R波又は心内電位のピークから60ミリ秒以内に電圧が印加されなければ、心室細動を誘発するリスクがある。演算処理部15は、R波又は心内電位のピークに同期して電源回路12に電圧を印加させる。したがって、R波又は心内電位のピークから60ミリ秒が経過する前に電圧が印加されることにより、心室細動の誘発を防止することができる。
【0118】
複数の電極22aが一体化された長尺の電極が用いられる構成では、チューブ21の軸線方向に電極が延びているので、除細動カテーテルの可撓性及び柔軟性が低下する。一方、除細動カテーテル2A,2Bにおいては、複数の電極22aは、チューブ21の外周面に設けられ、チューブ21の軸線方向に配列されている。したがって、長尺の電極が用いられる構成と比較して、除細動カテーテル2A,2Bの可撓性及び柔軟性を高めることができる。したがって、除細動カテーテル2A,2Bの操作性を向上させることが可能となる。
【0119】
除細動カテーテル2A,2Bにおいては、先端チップ26は、チューブ21の先端21aに設けられ、先端チップ26には、チューブ21の中心軸に対して偏心した位置において、プルワイヤ27の一端が固定されている。このため、操作レバー28bによりプルワイヤ27を進退させることによって、先端チップ26には中心軸に対して偏心した位置に力が加わる。したがって、チューブ21(除細動カテーテル2A,2B)の先端部を偏向させることができる。その結果、除細動カテーテル2A,2Bの操作性を向上させることができる。
【0120】
チューブ21の軸線方向における電極22aの長さが大きいほど、除細動カテーテル2A,2Bの可撓性及び柔軟性が低下し、除細動カテーテル2A,2Bの操作性が損なわれる。電極22aの表面積が小さいほど、電圧印加時における電流密度が増大し、周辺組織に損傷を与える可能性が高まる。各電極22aは、チューブ21の軸線方向と交差する方向に凸の湾曲形状を有している。この構成によれば、チューブ21の軸線方向における電極22aの長さを大きくすることなく、電極22aの表面積を大きくすることができる。したがって、除細動カテーテル2A,2Bの操作性を損なうことなく、周辺組織に損傷を与える可能性を低減することができる。
【0121】
チューブ21の軸線方向における電極22aの端面とチューブ21の外周面とによって凹部22sが生じている場合に、電極22aに電圧が印加されると、電極22aの端面の周縁において電流密度が大きくなる。この場合、周辺組織に損傷を与えたり、絶縁破壊が生じたりする可能性がある。これに対し、除細動カテーテル2A,2Bでは、凹部22sがグルーGによって埋められるので、電極22aに電圧が印加された場合の端面の周縁における電流密度が増大することを抑えることができる。したがって、周辺組織に損傷を与える可能性を低減することができる。
【0122】
スイッチ41,42の接続状態に応じて、選択された組み合わせに、電源回路12と測定器13とが選択的に接続される。したがって、電圧が印加される際には、電圧が印加される経路から測定器13は電気的に切り離されている。一方、電圧が印加される経路の抵抗値が測定される際には、当該経路から電源回路12は電気的に切り離されている。したがって、除細動装置10を小型化するとともに、電源回路12と測定器13とが互いに干渉することを防止することができる。
【0123】
なお、本開示に係る心腔内除細動システムは上記実施形態に限定されない。
【0124】
心腔内除細動システム1は、除細動カテーテル2A,2Bと同様の構成を有する1つ以上の除細動カテーテルを更に含んでもよい。除細動装置10は、除細動カテーテルの数と同数の除細動カテーテル接続用のコネクタを含んでもよい。
【0125】
心腔内除細動システム1は、対極板3を含まなくてもよい。この場合、除細動装置10は、コネクタ10cを含まなくてもよい。心腔内除細動システム1は、2以上の対極板3を含んでもよい。除細動装置10は、対極板3の数と同数の対極板接続用のコネクタを含んでもよい。
【0126】
心腔内除細動システム1は、対極板3を含む場合には、除細動カテーテル2A,2Bの一方を含まなくてもよい。
【0127】
各電極22aは、電極23aと同様に、チューブ21の軸線方向における電極22aの全長にわたって実質的に均一な外径を有する円筒形状を有してもよい。
【0128】
各電極22aは、チューブ21の外周面と電極22aの外周面との間に凹部22sが形成されないように、チューブ21の外周面に取り付けられてもよい。この場合、除細動カテーテル2A,2Bは、グルーGを含まなくてもよい。
【0129】
除細動カテーテル2A,2Bは、プルワイヤ27によってチューブ21の先端部を偏向可能に構成されているが、チューブ21の先端部を偏向させる機構は、これに限られない。例えば、除細動カテーテル2A,2Bは、チューブ21の先端部を平面的に偏向させるために板バネを含んでもよい。
【0130】
除細動カテーテル2A,2Bは、プルワイヤ27を含まなくてもよい。この場合、ハンドル28は、操作レバー28bを含まなくてもよい。
【0131】
図16及び
図17に示されるように、除細動カテーテル2A,2Bは、ルーメンチューブ29を更に含んでもよい。
図16は、変形例の除細動カテーテルの概略構成図である。
図17は、
図16のXVII-XVII線に沿った断面図である。
図16及び
図17に示される除細動カテーテル2A,2Bは、ルーメンチューブ29を更に含む点、及びハンドル28の構成において
図2に示される除細動カテーテル2A,2Bと主に相違する。
【0132】
本変形例では、ルーメンチューブ29は、ガイドワイヤ31を挿通するための挿通管として用いられる。ルーメンチューブ29は、チューブ21内に配置され、基端21bから先端21aまで延びている。具体的には、ルーメンチューブ29は、チューブ21の軸線方向に直線状に延在している。ルーメンチューブ29の先端は、先端チップ26を貫通し、先端チップ26の先端まで延びている。ルーメンチューブ29の基端は、ハンドル28を貫通している。ルーメンチューブ29は、例えば、チューブ21と同軸に配置されている。
【0133】
ルーメンチューブ29は、例えば、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)といった絶縁性の高い材料により構成されている。ルーメンチューブ29は、これらの材料中に、例えば、ヘパリン、プロスタグランジン、ウロキナーゼ、及びアルギニン誘導体といった抗血栓性物質が配合されることによって生成された抗血栓性を有する材料によって構成されてもよい。
【0134】
ハンドル28は、操作レバー28bを含まない点、及びコネクタ28dの配置において、
図2に示される除細動カテーテル2A,2Bのハンドル28と主に相違する。本体部28aは、ルーメンチューブ29の終端に位置するハブとしても機能する。ハブの構成材料の例としては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、及びメタクリレートスチレン共重合体といった熱可塑性樹脂が挙げられる。コネクタ28dは、本体部28aに並設されている。言い換えると、コネクタ28dは、チューブ21の中心軸上から外れた位置に設けられている。
【0135】
この除細動カテーテル2A,2Bでは、ルーメンチューブ29の基端からガイドワイヤが、ルーメンチューブ29内に挿入され、除細動カテーテル2A,2Bを貫通する。そして、ガイドワイヤに沿って除細動カテーテル2A,2Bが患部まで移動される。なお、この除細動カテーテル2A,2Bは、オーバーザワイヤタイプとも称される。
【0136】
この構成によれば、ガイドワイヤ31が血管の中に挿入された状態で、ガイドワイヤ31に沿って除細動カテーテル2A,2Bを移動させることによって、患部に到達させることができる。そのため、除細動カテーテル2A,2Bの挿入作業を簡易化することができる。
【0137】
図18に示されるように、ルーメンチューブ29は、チューブ21内を直線状に延在していなくてもよい。
図18は、別の変形例の除細動カテーテルの概略構成図である。
図18に示される除細動カテーテル2A,2Bは、ルーメンチューブ29の形状、及びハンドル28の構成において
図16に示される除細動カテーテル2A,2Bと主に相違する。
【0138】
本変形例では、ルーメンチューブ29は、チューブ21内に配置され、チューブ21の外周面から先端21aまで延びている。具体的には、ルーメンチューブ29は、チューブ21の外周面からチューブ21の中心軸まで斜めに延び、更に中心軸に沿って先端チップ26の先端まで延びている。この除細動カテーテル2A,2Bは、ラピッドエクスチェンジタイプとも称される。
【0139】
ハンドル28は、本体部28aと、ストレインリリーフ28cと、を含む。本体部28aは、コネクタとしても機能し、コネクタピンを含む。各リード線24a及び各リード線25aは、本体部28aのコネクタピンに接続される。
【0140】
この構成においても、ガイドワイヤ31が血管の中に挿入された状態で、ガイドワイヤ31に沿って除細動カテーテル2A,2Bを移動させることによって、患部に到達させることができる。そのため、除細動カテーテル2A,2Bの挿入作業を簡易化することができる。さらに、この構成では、除細動カテーテル2A,2Bを予備の除細動カテーテル2A,2Bと交換する場合において、患者Pから飛び出ているガイドワイヤ31の長さをオーバーザワイヤタイプと比較して短くすることができる。
【0141】
図19に示されるように、除細動カテーテル2A,2Bは、バルーン30を更に含んでもよい。
図19は、更に別の変形例の除細動カテーテルの概略構成図である。
図19に示される除細動カテーテル2A,2Bは、バルーン30を更に含む点、ルーメンチューブ29の用途、及びハンドル28の構成において
図16に示される除細動カテーテル2A,2Bと主に相違する。
【0142】
本変形例では、ルーメンチューブ29は、バルーン30に流体を供給するための供給管として用いられる。流体は、気体でもよく、生理食塩水及び造影剤などの液体でもよい。
【0143】
ルーメンチューブ29の構成材料は、可撓性を有するフッ素樹脂であればよい。このような構成材料の例として、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの絶縁性の高い材料が挙げられる。ルーメンチューブ29は、これらの材料中に、例えば、ヘパリン、プロスタグランジン、ウロキナーゼ、及びアルギニン誘導体といった抗血栓性物質が配合されることによって生成された抗血栓性を有する材料によって構成されてもよい。
【0144】
バルーン30は、膨張(拡張)及び収縮可能な部材である。バルーン30は、例えば、球状に膨張可能である。バルーン30は、チューブ21の先端21aに設けられている。具体的には、バルーン30は、先端チップ26に装着されている。ルーメンチューブ29を介してバルーン30内に流体が供給されることによって、バルーン30の容積が増大し、バルーン30が膨張する。ルーメンチューブ29を介してバルーン30内から流体が排出されることによって、バルーン30の容積が縮小し、バルーン30が収縮する。
【0145】
バルーン30は、ある程度の柔軟性を有する材料によって構成されている。このような材料の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びエチレン-プロピレン共重合体といったポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びポリウレタンといった熱可塑性樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、シリコーンゴム、並びにラテックスゴムが挙げられる。バルーン30は、単層構造を有してもよく、二層以上のラミネート構造を有してもよい。バルーン30の外面には、抗血栓性を有する物質がコーティングされてもよい。
【0146】
ハンドル28は、ハブ28eを更に含む点、及びコネクタ28dの配置において、
図16に示される除細動カテーテル2A,2Bのハンドル28と主に相違する。ハブ28eは、ルーメンチューブ29の終端に位置する部材である。ハブ28eの構成材料の例としては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、及びメタクリレートスチレン共重合体といった熱可塑性樹脂が挙げられる。コネクタ28dは、ハブ28eに並設されている。言い換えると、コネクタ28dは、チューブ21の中心軸上から外れた位置に設けられている。
【0147】
この除細動カテーテル2A,2Bは、バルーン30が収縮されてチューブ21の外周面に巻き付けられた状態で、患者Pの血管内に挿入される。そして、除細動カテーテル2A,2Bが血管内に挿入された状態で、バルーン30に流体が供給されることによって、バルーン30が膨張すると、血管内を流れる血液からバルーン30が力を受ける。これにより、除細動カテーテル2A,2Bは血液の流れに乗って進み得るので、除細動カテーテル2A,2Bの挿入作業を簡易化することができる。
【0148】
上記実施形態では、除細動カテーテル2A,2Bは、シングルルーメンカテーテルであるが、マルチルーメンカテーテルであってもよい。例えば、除細動カテーテル2A,2Bは、リード線群24が延在するルーメンチューブ、リード線群25が延在するルーメンチューブ、及びプルワイヤ27が延在するルーメンチューブの少なくとも1つを更に含んでもよい。この場合、除細動カテーテル2A,2Bは、各ルーメンチューブとチューブ21との間に充填されたコアを更に含んでもよい。コアは、例えば、低硬度のナイロンエラストマーによって構成される。さらに、除細動カテーテル2A,2Bは、ブレード21cに代えて、チューブ21とコアとの間に設けられたブレードを含んでもよい。なお、チューブ21の電極群22が設けられている領域には、ブレードは設けられなくてもよい。
【0149】
(付記)
[1]
心腔内において除細動を行うための第1除細動カテーテルであって、複数の第1電極を含む第1電極群を有する第1除細動カテーテルと、
心腔内において除細動を行うための第2除細動カテーテルであって、複数の第2電極を含む第2電極群を有する第2除細動カテーテルと、
前記第1除細動カテーテルを接続するための第1コネクタと、前記第2除細動カテーテルを接続するための第2コネクタと、電圧を供給する電源回路と、を有する除細動装置と、
を備え、
前記除細動装置は、前記複数の第1電極に同極性の電圧を印加し、前記複数の第2電極に同極性の電圧を印加する、心腔内除細動システム。
【0150】
[2]
前記除細動装置は、前記複数の第1電極に印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧を前記複数の第2電極に印加する、[1]に記載の心腔内除細動システム。
【0151】
[3]
体表面において除細動を行うための対極板を更に備え、
前記除細動装置は、前記対極板を接続するための第3コネクタを更に有し、
前記除細動装置は、前記複数の第1電極又は前記複数の第2電極に印加される電圧の極性とは異なる極性の電圧を前記対極板に印加する、[1]又は[2]に記載の心腔内除細動システム。
【0152】
[4]
前記除細動装置は、前記第1電極群、前記第2電極群、及び前記対極板のうち、前記電源回路の第1端子に接続される第1部材と、前記電源回路の第2端子に接続される第2部材とを、選択的に切り替え可能な切替回路を更に有する、[3]に記載の心腔内除細動システム。
【0153】
[5]
前記除細動装置は、前記電圧が供給される経路の抵抗値を測定する測定器を更に有し、
前記切替回路は、前記第1部材と前記第2部材とを、前記電源回路及び前記測定器のいずれかに選択的に接続する、[4]に記載の心腔内除細動システム。
【0154】
[6]
心電計を更に備え、
前記第1除細動カテーテルは、複数の第3電極を含む第3電極群を更に有し、
前記第2除細動カテーテルは、複数の第4電極を含む第4電極群を更に有し、
前記心電計は、前記複数の第3電極の電位及び前記複数の第4電極の電位を測定する、[1]~[5]のいずれか1つに記載の心腔内除細動システム。
【0155】
[7]
前記除細動装置は、前記電圧が供給される経路の抵抗値を測定する測定器と、前記電源回路を制御する演算処理部と、を更に有し、
前記演算処理部は、前記抵抗値が適正範囲内である場合に、前記電源回路に電圧を印加させる、[1]~[6]のいずれか1つに記載の心腔内除細動システム。
【0156】
[8]
前記演算処理部は、心内電位のピークに同期して前記電源回路に電圧を印加させる、[7]に記載の心腔内除細動システム。
【0157】
[9]
前記第1除細動カテーテルは、管状部材を更に有し、
前記複数の第1電極のそれぞれは、前記管状部材の外周面に設けられ、
前記複数の第1電極は、前記管状部材の軸線方向に配列されている、[1]~[8]のいずれか1つに記載の心腔内除細動システム。
【0158】
[10]
前記第1除細動カテーテルは、
前記管状部材の先端に設けられた先端チップと、
前記管状部材内に配置され、前記管状部材の中心軸に対して偏心した位置において前記先端チップに固定される一端を有するプルワイヤと、
前記プルワイヤを前記軸線方向に進退させる操作部と、
を更に有する、[9]に記載の心腔内除細動システム。
【0159】
[11]
前記第1除細動カテーテルは、
前記管状部材の先端に設けられ、膨張及び収縮可能なバルーンと、
前記バルーンに流体を供給するための供給管と、
を更に有する、[9]に記載の心腔内除細動システム。
【0160】
[12]
前記第1除細動カテーテルは、ガイドワイヤを挿通するための挿通管であって、前記管状部材内に配置され、前記管状部材の基端から前記管状部材の先端まで延びる挿通管を更に有する、[9]に記載の心腔内除細動システム。
【0161】
[13]
前記第1除細動カテーテルは、ガイドワイヤを挿通するための挿通管であって、前記管状部材内に配置され、前記外周面から前記管状部材の先端まで延びる挿通管を更に有する、[9]に記載の心腔内除細動システム。
【0162】
[14]
前記複数の第1電極のそれぞれは、前記軸線方向と交差する方向に凸の湾曲形状を有する、[9]~[13]のいずれか1つに記載の心腔内除細動システム。
【0163】
[15]
前記第1除細動カテーテルは、前記複数の第1電極のうちの1つの第1電極の前記軸線方向における端面と前記外周面とによって画定された凹部を埋める絶縁性部材を更に有する、[9]~[14]のいずれか1つに記載の心腔内除細動システム。
【符号の説明】
【0164】
1…心腔内除細動システム、2A…除細動カテーテル(第1除細動カテーテル)、2B…除細動カテーテル(第2除細動カテーテル)、3…対極板、4…心電計、10…除細動装置、10a…コネクタ(第1コネクタ)、10b…コネクタ(第2コネクタ)、10c…コネクタ(第3コネクタ)、12…電源回路、12a…出力端子(第1端子)、12b…出力端子(第2端子)、13…測定器、14…切替回路、15…演算処理部、21…チューブ(管状部材)、22…電極群(第1電極群、第2電極群)、22a…電極(第1電極、第2電極)、22s…凹部、23…電極群(第3電極群、第4電極群)、23a…電極(第3電極、第4電極)、26…先端チップ、27…プルワイヤ、28b…操作レバー(操作部)、29…ルーメンチューブ(供給管、挿通管)、30…バルーン、31…ガイドワイヤ、G…グルー(絶縁性部材)。