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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20240502BHJP
【FI】
E04B1/58 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023183990
(22)【出願日】2023-10-26
【審査請求日】2023-11-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 厚
(72)【発明者】
【氏名】脇田 直弥
(72)【発明者】
【氏名】川村 典久
(72)【発明者】
【氏名】岸原 洋也
(72)【発明者】
【氏名】中村 博志
【審査官】小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】特許第7286042(JP,B1)
【文献】特開2015-045132(JP,A)
【文献】特許第7285998(JP,B1)
【文献】特許第7336610(JP,B1)
【文献】特開2016-118090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の芯材と、
前記芯材の表面を被覆する被覆部材と、
前記芯材をその両端が突出した状態で収容する筒状の拘束部材と、
前記拘束部材と前記芯材との間に充填される充填材と、
を備える座屈拘束ブレースであって、
前記芯材は、前記両端よりも断面積が小さい塑性化部を備え、
前記被覆部材は、前記芯材の長手方向で前記充填材が存在する範囲において前記芯材の表面に密着しており、前記塑性化部に対応する部分の厚みが前記芯材の長手方向で一定であ
前記芯材は板状であり、
前記被覆部材の、前記芯材の板幅方向の厚さと、前記芯材の板厚方向の厚さと、の比は、前記芯材の板幅と前記芯材の板厚との比と同じである、
ことを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項2】
長尺状の芯材と、
前記芯材の表面を被覆する被覆部材と、
前記芯材をその両端が突出した状態で収容する筒状の拘束部材と、
前記拘束部材と前記芯材との間に充填される充填材と、
を備える座屈拘束ブレースであって、
前記芯材は、前記両端よりも断面積が小さい塑性化部を備え、
前記被覆部材は、前記芯材の長手方向で前記充填材が存在する範囲において前記芯材の表面に密着しており、前記塑性化部に対応する部分の厚みが前記芯材の長手方向で一定であ
前記被覆部材の、前記塑性化部に対応する部分の厚さは、前記塑性化部に対応する部分以外の部分の厚さより大きい、
ことを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項3】
長尺状の芯材と、
前記芯材の表面を被覆する被覆部材と、
前記芯材をその両端が突出した状態で収容する筒状の拘束部材と、
前記拘束部材と前記芯材との間に充填される充填材と、
を備える座屈拘束ブレースであって、
前記芯材は、前記両端よりも断面積が小さい塑性化部を備え、
前記被覆部材は、前記芯材の長手方向で前記充填材が存在する範囲において前記芯材の表面に密着しており、前記塑性化部に対応する部分の厚みが前記芯材の長手方向で一定であ
前記被覆部材が弾性部材であり、
前記被覆部材の厚さは、前記弾性部材の積層数によって変化する、
ことを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項4】
長尺状の芯材と、
前記芯材の表面を被覆する被覆部材と、
前記芯材をその両端が突出した状態で収容する筒状の拘束部材と、
前記拘束部材と前記芯材との間に充填される充填材と、
を備える座屈拘束ブレースであって、
前記芯材は、前記両端よりも断面積が小さい塑性化部を備え、
前記被覆部材は、前記芯材の長手方向で前記充填材が存在する範囲において前記芯材の表面に密着しており、前記塑性化部に対応する部分の厚みが前記芯材の長手方向で一定であ
前記被覆部材が弾性部材であり、
前記弾性部材は、前記芯材の表面の面方向に隣接して配置された複数のシートを含み、
前記複数のシートは、互いの端面を突き合わせるようにして、前記芯材に配置される、ことを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記塑性化部は、前記被覆部材に向けて突出する突起部を備える、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
前記突起部は、前記被覆部材から露出して、少なくともその先端が前記充填材により覆われている、
ことを特徴とする請求項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項7】
前記突起部の幅は、前記先端から前記突起部の根元に向かうに連れ、大きくなる、
ことを特徴とする請求項に記載の座屈拘束ブレース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、構造物の補強材として、座屈拘束ブレースが用いられることがある。座屈拘束ブレースにおいては、軸力を受ける芯材が外周側から拘束部材及び充填材等によって拘束されることで、芯材の長手方向以外の変形や座屈を防止されながら塑性変形する。座屈拘束ブレースを用いることにより、構造物の耐震・制振性能が向上する。
特許文献1の座屈拘束ブレースにおいては、芯材と、芯材の弱軸方向に直交する各面に設けられる角型鋼管からなる拘束材と、芯材と拘束材との間に配置されるアンボンド材と、を備え、アンボンド材が、芯材の短辺方向に隙間を有して設けられる座屈拘束ブレースが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2022-93904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、アンボンド材同士の間に隙間が設けられていることで、アンボンド材同士が重なることで、アンボンド材の厚みが設計上の厚みと異なる箇所が生じることを回避している。
ここで、座屈拘束ブレースにおいて、芯材の長手方向に亘って、芯材と拘束材との間の離間距離は一定であることが好ましい。例えば、前記離間距離が周囲よりも大きい箇所があると、その箇所において局部座屈が生じることがある。すると、その箇所において局所的に大きな面外変形が生じ、芯材が破断すること等によって、芯材がその軸耐力を十分に発揮できない原因となる。
ここで、座屈拘束ブレースの芯材には、一般的に長さが数千mmの鋼材が用いられる。また、特許文献1において、拘束材には角型鋼管が用いられる。前述の長さに亘って、芯材と角型鋼管との離間距離を一定にすることは、芯材及び角型鋼管に非常に高精度な直線性が求められることから困難である。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、軸圧縮荷重に対して芯材の軸耐力を十分に発揮することができる座屈拘束ブレースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>本発明の態様1に係る座屈拘束ブレースは、長尺状の芯材と、前記芯材の表面を被覆する被覆部材と、前記芯材をその両端が突出した状態で収容する筒状の拘束部材と、前記拘束部材と前記芯材との間に充填される充填材と、を備える座屈拘束ブレースであって、前記芯材は、前記両端よりも断面積が小さい塑性化部を備え、前記被覆部材は、前記芯材の長手方向で前記充填材が存在する範囲において前記芯材の表面に密着しており、前記塑性化部に対応する部分の厚みが前記芯材の長手方向で一定であることを特徴とする。
【0007】
態様1によれば、拘束部材と芯材との間には、充填材が充填される。これにより、例えば、芯材を角型鋼管等によって拘束する場合と比較して、芯材と充填材との間の離間距離を、芯材の長手方向に亘って一定にしやすくすることができる。
また、被覆部材が、芯材の長手方向で充填材が存在する範囲において、芯材の表面に密着している。これにより、芯材と充填材との間には被覆部材が介在することとなる。このことで、芯材と充填材とが直接に接触することを抑えることができる。よって、芯材が荷重の付加によって変形する際に、芯材と充填材とが干渉する、又は芯材の変形に充填材が追従する、といったことを抑え、充填材が変形することを抑えることができる。
【0008】
ここで、塑性化部と充填材との離隔距離が部分的に大きい箇所があると、芯材に軸圧縮荷重が入力された場合に、その箇所が大きく変形(座屈)することがある。
そこで、被覆部材は、塑性化部に対応する部分の厚みが芯材の長手方向で一定である。これにより、芯材の塑性化部と充填材との間の離隔距離を、長手方向に亘って一定にすることができる。よって、芯材に軸圧縮荷重が入力された場合に、芯材における、塑性化部と充填材との離隔距離が部分的に大きい箇所が大きく変形(座屈)することを抑えることができる。
したがって、芯材の塑性化部において極端に大きなひずみが部分的に発生することを抑え、芯材における長手方向のひずみ分布を一様化することができる。すなわち、芯材の長手方向に亘って均等にひずみを生じさせることができる。また、芯材の塑性化部に付加される荷重を長手方向において一様にすることができる。よって、軸圧縮荷重に対して芯材の軸耐力を十分に発揮することができる。
これにより、芯材の疲労特性を向上させることで、地震時の圧縮及び引張の繰り返し荷重による破断を抑えやすくすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軸圧縮荷重に対して芯材の軸耐力を十分に発揮することができる座屈拘束ブレースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る座屈拘束ブレースの正面視の断面図である。
図2】実施形態に係る座屈拘束ブレースの分解斜視図である。
図3】芯材に設けられた突起部周辺の拡大図である。
図4】被覆部材を形成する複数のシート状の部材同士が、端面を突き合わせて芯材に設けられた状態を示す図である。
図5】芯材の板幅方向の端部における、芯材と被覆部材との位置関係を示す断面図である。
図6】座屈拘束ブレースにおける長手方向に直交する断面図であって、芯材の塑性化部に対応する部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る座屈拘束ブレース100を説明する。
座屈拘束ブレース100は、構造物に取り付けられる。座屈拘束ブレース100は、例えば、建物における柱と梁とからなる構造物を補強するために用いられる。すなわち、座屈拘束ブレース100は、建物において筋交いとして用いられる。
図1は、実施形態に係る座屈拘束ブレース100の正面視の断面図である。
図2は、実施形態に係る座屈拘束ブレース100の分解斜視図である。
座屈拘束ブレース100は、図1及び図2に示すように、芯材10と、補剛部材20と、拘束部材30と、充填材40と、被覆部材50と、を備える。
【0012】
芯材10は、長尺状の部材である。本実施形態において、芯材10は、板状である。より具体的には、芯材10は、鋼板により構成された平板である。芯材10は、両端部が建物の構造に取り付けられることで、建物を補強する。
図1に示されるように、芯材10は、塑性化部11と、広幅部12と、幅変化部13と、を備えている。本実施形態において、芯材10は、例えば、1枚の平板から切り出すことで形成される。
【0013】
塑性化部11は、芯材10における長手方向の中央に位置している。
広幅部12は、芯材10における長手方向の両端に位置している。
本実施形態において、塑性化部11の長手方向の長さは、広幅部12の長手方向の長さよりも長い。
芯材10において、塑性化部11の断面積は、芯材10の両端に位置する広幅部12よりも断面積が小さい。すなわち、芯材10が平板である本実施形態において、塑性化部11及び広幅部12の板厚は同じである。塑性化部11の板幅は、広幅部12の板幅よりも小さい。
芯材10が上記形状を備えることで、芯材10に軸圧縮荷重が付加されたとき、芯材10の他の部分よりも先に塑性化部11を変形させ、塑性化部11以外の部分が変形することを抑えることができる。すなわち、芯材10における長手方向の中央(すなわち、塑性化部11)が塑性化し易い領域となり、塑性化領域が前記中央に限定される。
なお、塑性化部11は、各部分に付加される荷重や、それによって生じるひずみ量を一定にするために、長手方向に亘って断面形状が一定であることが好ましい。
【0014】
図3は、芯材10に設けられた突起部11p周辺の拡大図である。
図3に示すように、塑性化部11は、突起部11pを備える。突起部11pは、芯材10の塑性化部11から被覆部材50に向けて突出する部位である。
突起部11pは、座屈拘束ブレース100の自重の影響などにより、芯材10と拘束部材30とのずれ量(芯材10の拘束部材30に対する相対移動量)が両端部で等しくならない現象を防止するために設けられる。突起部11pは、芯材10における長手方向の中央部に設けられる。突起部11pは、芯材10の幅方向の両側それぞれに設けられている。芯材10の幅方向の両側に設けられた突起部11pは、芯材10の長手方向における位置が一致するよう配置される。突起部11pは、芯材10における幅方向の側面から、幅方向に沿って突出する。突起部11pの材料は、芯材10の材料と同一である。突起部11pは、芯材10と一体形成されている。すなわち、突起部11pは、例えば、塑性化部11とともに平板から切り出して形成される。
【0015】
突起部11pは、充填材40により覆われる。突起部11pは、被覆部材50により覆われない。すなわち、突起部11pは、被覆部材50から露出して、少なくともその先端11tが充填材40により覆われている。ここで、充填材40は、後述する材質で形成されることで、硬化後は変形しない。したがって、充填材40により覆われた突起部11pの先端11tは、硬化後の充填材40によって支持されることにより、充填材40に対して相対移動不能となる。このように、突起部11pは、芯材10の中央部における、芯材10の、充填材40に対する位置ずれを防止する。
【0016】
また、図3に示すように、突起部11pの幅は、先端11tから突起部11pの根元11rに向かうに連れ、大きくなる。このことで、応力が集中しやすい突起部11pの根元11rを、先端11tに対して相対的に太くすることができる。よって、突起部11pの根元11rにおいて応力が分散され、亀裂が生じにくい形状とすることができる。したがって、突起部11pの根元11rを起点とする亀裂の発生を抑制し、これに起因する芯材10の破断を抑制することができ、繰り返しの地震に対する芯材10の疲労特性を改善することができる。
【0017】
本実施形態において、突起部11pは、任意の形状を適用可能である。すなわち、突起部11pは、例えば、円柱状、角柱状、円錐台状、角錐台状等が適用可能である。
なお、突起部11pが円錐台状又は角錐台状である場合、図3に示すように、上底と下底とを接続する側面は、円弧状に形成されていてもよい。この場合、塑性化部11から突出する突起部11pの根元11rの部分において、応力集中が発生しにくくすることができる。
【0018】
幅変化部13は、広幅部12と塑性化部11との境界領域である。幅変化部13の幅方向の長さを、幅変化部13の幅という。幅変化部13の幅は、長手方向に沿って変化する。
幅変化部13の幅は、広幅部12側から塑性化部11側に向かうに連れ、狭くなる。すなわち、幅変化部13の幅は、芯材10における長手方向の中央に向かうに連れ、狭くなる。
幅変化部13は、例えば、芯材10に作用する付加曲げモーメントを吸収する。
【0019】
補剛部材20は、鋼板により構成された板状の部材である。補剛部材20は、芯材10の両端部(すなわち、広幅部12)にそれぞれ設けられる。補剛部材20は、芯材10の両端部を補強し、芯材10が板厚方向に折れ曲がることを防ぐ。
【0020】
補剛部材20は、広幅部12における表裏面(すなわち、広幅部12における板厚方向を向く面)に設けられている。補剛部材20は、広幅部12から、芯材10の板厚方向に沿って延びる。補剛部材20は、広幅部12に、溶接により接合される。芯材10及び補剛部材20は、断面十字状を呈している。
【0021】
補剛部材20及び広幅部12にはそれぞれ、図示しないボルト孔が開設されている。座屈拘束ブレース100は、ボルト孔に差し込まれる図示しないボルトによって、構造物に取り付けられる。
【0022】
拘束部材30は、芯材10をその両端が突出した状態で収容する筒状の部材である。拘束部材30には、例えば、鋼管が用いられる。すなわち、拘束部材30は、角筒形の鋼管であってもよいし、円筒形の鋼管であってもよい。本実施形態において拘束部材30には、図1及び図2に示すように、円筒形の鋼管が用いられる。
【0023】
拘束部材30は、芯材10の外周を覆う。拘束部材30の長さは、芯材10全体の長手方向に沿う長さよりも短い。拘束部材30の長さは、塑性化部11の長さよりも長い。これにより、芯材10の広幅部12は、拘束部材30から外側に突出している。
【0024】
充填材40は、拘束部材30と芯材10との間に充填される。例えば、充填材40の材質は、コンクリートやモルタルである。拘束部材30の端部から充填材40が漏れ出ることを防止するために、拘束部材30の両端開口は不図示の蓋により塞がれている。
充填材40は、補剛部材20及び被覆部材50が取り付けられた芯材10が拘束部材30の内部に配置された状態で、拘束部材30の内側の空間に注入される。その後、充填材40が硬化することで、芯材10と拘束部材30とが固定される。充填材40は、硬化する前において、芯材10の形状に合わせて適宜変形可能である。このことで、交差の範囲内で芯材10の板厚に分布が生じている場合でも、芯材10の長手方向に亘って芯材10と充填材40との離間距離を一定にすることができる。
【0025】
図4は、被覆部材50を形成する複数のシート状の部材同士が、端面を突き合わせて芯材10に設けられた状態を示す図である。
図5は、芯材10の板幅方向の端部における、芯材10と被覆部材50との位置関係を示す断面図である。
被覆部材50は、芯材10の表面を被覆する。被覆部材50は、芯材10の長手方向で充填材40が存在する範囲において、芯材10の表面に密着している。すなわち、被覆部材50は、芯材10及び補剛部材20のうち、拘束部材30の内側に配置される部分を覆う。被覆部材50は、芯材10及び補剛部材20と充填材40との間に設けられる。被覆部材50は、芯材10及び補剛部材20と充填材40とが互いに付着することを防止する。
被覆部材50により、芯材10及び補剛部材20は、充填材40に対して相対移動可能となっている。
【0026】
被覆部材50が設けられることにより、充填材40は、芯材10の軸力が拘束部材30に伝達しないように、芯材10を拘束部材30に対して長手方向に相対移動可能に保持する。拘束部材30及び充填材40により、芯材10の長手方向を除く方向への変形が規制される。
【0027】
すなわち、芯材10及び補剛部材20と充填材40との間に被覆部材50が介在することで、芯材10が荷重の付加によって変形する際に、芯材10と充填材40とが干渉する、又は芯材10の変形に充填材40が追従する、といったことが抑えられる。これにより、充填材40が変形することを抑えることができる。また、芯材10に軸圧縮荷重が付加され、縦ひずみによって芯材10が縮むと同時に、横ひずみによって芯材10の外表面が膨らむように移動した際、芯材10の外表面が充填材40に干渉することを抑えることができる。
【0028】
本実施形態において、被覆部材50は、芯材10の塑性化部11に対応する部分の厚みが、芯材10の長手方向で一定である。なお、本実施形態において、被覆部材50の厚みが一定であるとは、被覆部材50として用いる部材の厚みが一定であることをいう。すなわち、例えば、拘束部材30と芯材10との間に充填材40を充填する際、充填材40の重みによって被覆部材50の厚みが変化し、芯材10の長手方向において僅かな厚みの差が生じることがあるが、このような場合は、被覆部材50の厚みは一定であるものとする。
このことで、被覆部材50によって、芯材10の長手方向に亘って芯材10と充填材40との離間距離を一定にすることができる。
ここで、芯材10に軸圧縮荷重が付加されると、縦ひずみによって芯材10が縮む。すると、横ひずみによって、芯材10が膨らむように変形する。このことで、芯材10の外周面が、充填材40に向かって接近する。この場合における、芯材10の板幅方向の側面の充填材40への接近量と、芯材10の板厚方向の側面の充填材40への接近量と、の比は、芯材10の板幅と芯材10の板厚との比と同じである。
【0029】
本実施形態において、被覆部材50は、弾性部材である。また、弾性部材は、複数のシートである。すなわち、被覆部材50は、弾性を有する複数のシート状の部材を、芯材10に貼り付けることで形成される。
シート状の部材を形成する弾性部材は、例えば、次の性能を満たすものが好適に用いられる。
すなわち、シート状の弾性部材は、例えば、芯材10の外表面に貼り付けた時、完全な平面でない芯材10の外表面に沿って、芯材10と被覆部材50との間に隙間が生じない程度に変形が可能であり、かつ、芯材10と拘束部材30との間に充填材40が注入された時に、形状を保持できる程度の硬さを有することが好ましい。
また、シート状の弾性部材は、例えば、補剛部材20が設けられた芯材10における、断面L字状の入隅に対して、隙間なく取り付けることができる接着性を有することが好ましい。すなわち、例えば、シート状の弾性部材は、例えば、JIS K 2207に規定される針入度が50~77であることが好ましい。
上述した性能を満たすシート状の部材として、次のものが挙げられる。すなわち、弾性を有するシート状の部材としては、ブチルゴム、粘弾性プラスチック、天然ゴム、ポリイソプン、ポリブタジエン、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリクロロプレン、ポリイソブチレン、アスファルト、ペイント、及び、それらの混合物のいずれかを適宜選択の上用いることが可能である。
【0030】
本実施形態において、被覆部材50を形成する複数のシートは、図4に示すように、互いの端面を突き合わせるようにして、芯材10に配置される。このことで、芯材10の外表面において、複数のシート同士の間に隙間が生じることを抑える。
被覆部材50の厚さは、シート状の弾性部材の積層数によって変化する。換言すれば、被覆部材50の厚さは、シート状の弾性部材の積層数によって調整される。すなわち、例えば、図5に示すように、芯材10の板幅方向の端部において、芯材10の板厚方向の両側面に貼り付けられた被覆部材50のシートの端部をそれぞれ折り曲げつつ、シートの端部同士が互いに重なり合うように配置することで、被覆部材50の厚さが調整される。
【0031】
ここで、芯材10の塑性化部11は、塑性化部11以外の部分よりも断面積が小さいことから、軸圧縮荷重による横ひずみが、塑性化部11以外の部分よりも大きい。
そこで、本実施形態において、被覆部材50の、塑性化部11に対応する部分の厚さは、塑性化部11に対応する部分以外の部分の厚さより大きい。すなわち、塑性化部11に設けられる被覆部材50の厚さは、少なくとも広幅部12に設けられる被覆部材50の厚さよりも大きい。このことで、芯材10の各部分に設けられる被覆部材50の量を最適なものとすることができる。すなわち、芯材10の変形量に対して、被覆部材50を十分な厚さとしつつ、被覆部材50が必要以上に設けられることを抑えることができる。更に、広幅部12において、芯材10の拘束力を高くすることができる。
塑性化部11と広幅部12のそれぞれにおける被覆部材50の厚さは、例えば、ポアソン比に基づく断面膨張量の違いに応じて調整されることが好ましい。
【0032】
なお、塑性化部11及び広幅部12のそれぞれにおいて、被覆部材50の厚さは、芯材10の長手方向に亘って一定である。
また、幅変化部13における被覆部材50の厚さは、例えば、塑性化部11における被覆部材50の厚さから、広幅部12における被覆部材50の厚さまでの間で、長手方向に沿って段階的に変化していてもよい。あるいは、幅変化部13の、長手方向における任意の位置において、塑性化部11における被覆部材50の厚さである部分と、広幅部12における被覆部材50の厚さである部分と、の境界が設けられていてもよい。
【0033】
以上説明したように、本実施形態に係る座屈拘束ブレース100によれば、拘束部材30と芯材10との間には、充填材40が充填される。これにより、例えば、芯材10を角型鋼管等によって拘束する場合と比較して、芯材10と充填材40との間の離間距離を、芯材10の長手方向に亘って一定にしやすくすることができる。
また、被覆部材50が、芯材10の長手方向で充填材40が存在する範囲において、芯材10の表面に密着している。これにより、芯材10と充填材40との間には被覆部材50が介在することとなる。このことで、芯材10と充填材40とが直接に接触することを抑えることができる。よって、芯材10が荷重の付加によって変形する際に、芯材10と充填材40とが干渉する、又は芯材10の変形に充填材40が追従する、といったことを抑え、充填材40が変形することを抑えることができる。
【0034】
ここで、塑性化部11と充填材40との離隔距離が部分的に大きい箇所があると、芯材10に軸圧縮荷重が入力された場合に、その箇所が大きく変形(座屈)することがある。
そこで、被覆部材50は、塑性化部11に対応する部分の厚みが芯材10の長手方向で一定である。これにより、芯材10の塑性化部11と充填材40との間の離隔距離を、長手方向に亘って一定にすることができる。よって、芯材10に軸圧縮荷重が入力された場合に、芯材10における、塑性化部11と充填材40との離隔距離が部分的に大きい箇所が大きく変形(座屈)することを抑えることができる。
したがって、芯材10の塑性化部11において極端に大きなひずみが部分的に発生することを抑え、芯材10における長手方向のひずみ分布を一様化することができる。すなわち、芯材10の長手方向に亘って均等にひずみを生じさせることができる。また、芯材10の塑性化部11に付加される荷重を長手方向において一様にすることができる。よって、軸圧縮荷重に対して芯材10の軸耐力を十分に発揮することができる。
これにより、芯材10の疲労特性を向上させることで、地震時の圧縮及び引張の繰り返し荷重による破断を抑えやすくすることができる。
【0035】
ここで、芯材10の塑性化部11は、塑性化部11以外の部分よりも断面積が小さいことから、軸圧縮荷重による横ひずみが、塑性化部11以外の部分よりも大きい。
そこで、被覆部材50の、塑性化部11に対応する部分の厚さは、塑性化部11に対応する部分以外の部分の厚さより大きい。これにより、軸圧縮荷重によって塑性化部11が変形する際に、被覆部材50を十分な厚さとすることができる。よって、変形後の塑性化部11が、充填材40に干渉することを抑えることができる。また、塑性化部11に対応する部分以外の部分の被覆部材50の厚さを抑えることで、被覆部材50の費用を抑えることができる。更に、広幅部12において、芯材10の拘束力を高くすることができる。
【0036】
ここで、芯材10の長手方向において、交差内で板厚又は径に分布が生じることがある。
そこで、被覆部材50が弾性部材である。これにより、弾性部材が芯材10の板厚や径の分布に応じて適宜変形することで、芯材10と被覆部材50との間に隙間が生じることを抑えつつ、芯材10の塑性化部11と充填材40との間の離隔距離を、長手方向に亘って一定にすることができる。よって、芯材10において、前記隙間が生じることで、その部分で極端に大きなひずみが発生することを抑えることができる。
【0037】
また、被覆部材50の厚さは、弾性部材の積層数によって変化する。換言すれば、被覆部材50の厚さは、弾性部材の積層数によって調整される。よって、被覆部材50の厚さの調整を容易に行うことができる。
【0038】
また、弾性部材は複数のシートである。このことで、被覆部材50は、シート状の弾性部材を芯材10に貼り付けるようにして設けられる。この時、複数のシートは、互いの端面を突き合わせるようにして、芯材10に配置される。これにより、複数のシート同士の間に隙間が生じることを抑えることができる。よって、芯材10において、前記隙間が生じた部分で極端に大きなひずみが発生することを抑えることができる。
【0039】
また、塑性化部11は、被覆部材50に向けて突出する突起部11pを備える。これにより、突起部11pを、充填材40に食い込むように配置させることができる。このことで、芯材10と充填材40とが、芯材10の長手方向にずれることを抑えることができる。
【0040】
また、突起部11pは、被覆部材50から露出して、少なくともその先端11tが充填材40により覆われている。これにより、芯材10において、突起部11pのみを充填材40に直接に接触させることができる。このことで、芯材10と充填材40とが、芯材10の長手方向にずれることをより抑えることができる。
【0041】
また、突起部11pの幅は、先端11tから突起部11pの根元11rに向かうに連れ、大きくなる。このことで、応力が集中しやすい突起部11pの根元11rを、先端11tに対して相対的に太くすることができる。よって、突起部11pの根元11rにおいて応力が分散され、亀裂が生じにくい形状とすることができる。したがって、突起部11pの根元11rを起点とする亀裂の発生を抑制し、これに起因する芯材10の破断を抑制することができ、繰り返しの地震に対する芯材10の疲労特性を改善することができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態の座屈拘束ブレース100を、図6を参照して説明する。
なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
図6は、座屈拘束ブレース100における長手方向に直交する断面図であって、芯材10の塑性化部11に対応する部分の断面図である。
第2本実施形態において、被覆部材50の、芯材10の板幅方向の厚さと、芯材10の板厚方向の厚さと、の比は、芯材10の板幅と芯材10の板厚との比と同じである。すなわち、
dw:被覆部材50の、芯材10の板幅方向の厚さ
dt:被覆部材50の、芯材10の板厚方向の厚さ
w:芯材10の板幅
t:芯材10の板厚
としたとき、
dw/dt=w/t
の関係が成り立つ。このことで、被覆部材50の厚さを、横ひずみによって芯材10が膨らむように変形した際の変形量に対して十分なものにすることができる。
【0043】
ここで、芯材10に軸圧縮荷重が入力され、縦ひずみによって芯材10の長さが短くなると、横ひずみによって芯材10の断面積が増加する。このとき、芯材10が板状であると、芯材10における板幅方向の寸法の増加量と、板厚方向の寸法の増加量とは、板幅と板厚との比に比例する。
そこで、第2実施形態に係る座屈拘束ブレース100によれば、被覆部材50の、芯材10の板幅方向の厚さと、芯材10の板厚方向の厚さと、の比は、芯材10の板幅と芯材10の板厚との比と同じである。このことで、被覆部材50の、芯材10の板幅方向の厚さと、芯材10の板厚方向の厚さと、の比を、芯材10に軸圧縮荷重が入力された時の、芯材10における板幅方向の寸法の増加量と、板厚方向の寸法の増加量と、の比と同じにすることができる。したがって、軸圧縮荷重により芯材10が変形した際の、被覆部材50が変形する割合を、板厚方向と板幅方向で同じにすることができる。よって、芯材10の板厚方向と板幅方向とにおいて、被覆部材50の状態に差が生じることを抑えることができる。
【0044】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、芯材10は平板であるとして説明したが、これに限らない。すなわち、例えば、芯材10は円柱状であってもよい。すなわち、芯材10は、断面円状でもよいし、断面楕円状でもよい。
また、補剛部材20は芯材10の広幅部12に設けられると説明したが、これに限らない。すなわち、補剛部材20に相当部材が、幅変化部13及び塑性化部11に設けられてもよい。このことで、芯材10が、長手方向に亘って断面十字状の形状であってもよい。
また、突起部11pは、塑性化部11とは別個に形成され、溶接等によって取り付けられてもよい。この場合は、突起部11pは、塑性化部11の板厚方向の側面に設けられてもよい。
また、被覆部材50はシート状の弾性部材であると説明したが、これに限らない。すなわち、被覆部材50は、芯材10の塑性化部11及び広幅部12において、長手方向に亘って厚さを一定にできることを前提に、液状の部材を塗布あるいは吹付によって設けられてもよい。
【0045】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 芯材
11 塑性化部
11p 突起部
11r 根元
11t 先端
12 広幅部
13 幅変化部
20 補剛部材
30 拘束部材
40 充填材
50 被覆部材
100 座屈拘束ブレース
【要約】
【課題】軸圧縮荷重に対して芯材の軸耐力を十分に発揮することができる座屈拘束ブレースを提供することを目的とする。
【解決手段】長尺状の芯材10と、芯材10の表面を被覆する被覆部材50と、芯材10をその両端が突出した状態で収容する筒状の拘束部材30と、拘束部材30と芯材10との間に充填される充填材40と、を備える座屈拘束ブレース100であって、芯材10は、両端よりも断面積が小さい塑性化部11を備え、被覆部材50は、芯材10の長手方向で充填材40が存在する範囲において芯材10の表面に密着しており、塑性化部11に対応する部分の厚みが芯材10の長手方向で一定であることを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6