(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】溶射用ランス
(51)【国際特許分類】
C23C 4/12 20160101AFI20240502BHJP
【FI】
C23C4/12
(21)【出願番号】P 2023198077
(22)【出願日】2023-11-22
【審査請求日】2023-11-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】古稲 明
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-096550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/12
F27D 1/00-1/18
B05B 7/20
C10B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性粉体及び可燃性粉体を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置に用いられる溶射用ランスであって、
前記混合物を噴射する噴射部を先端側に有する先端側ランスと、この先端側ランスの基端部に取り外し自在に接続される基端側ランスとを含み、
前記先端側ランスは、前記混合物を流すための内管と、この内管の外側に位置する外管とを含み、
前記先端側ランスの基端部又はその近傍
に、当該先端側ランスを冷却するためのガスを前記内管と前記外管との間の隙間に導入する
ためのガス導入部が設けられていることを特徴とする溶射用ランス。
【請求項2】
前記基端側ランスの肉厚が、前記先端側ランスの内管の肉厚の1倍以上9倍以下である、請求項1に記載の溶射用ランス。
【請求項3】
前記基端側ランスの長さが0.5m以上5m以下であり、前記先端側ランスを接続したときの全長が5m超11m以下である、請求項1又は2に記載の溶射用ランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性粉体及び可燃性粉体を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置に用いられる溶射用ランスに関する。なお、本明細書では「溶射用ランス」を単に「ランス」ともいう。
【背景技術】
【0002】
かかる溶射装置は、コークス炉等の窯炉の炉壁補修に広く使用されている。ところで、例えばコークス炉の炭化室の炉壁補修において、窯口から奥側(炭化室中央部)の補修を行う際は、窯口から炭化室中央部までの距離(例えば6~10m)に見合う長尺のランスを用いる必要がある。しかし、このような長尺のランスを用いて、窯口から炭化室中央部の補修を行う場合、ランスの大部分がコークス炉の炭化室内に挿入され、特にランスの先端側が炭化室中央部の炉熱により加熱される。ランスの先端側が異常に加熱されると、逆火(混合物の搬送方向と逆方向へ発火が進む現象)を生じる危険性が高くなる。そのため、特にコークス炉補修用のランスにおいてはガス冷却式のものが使用されることが多い。
【0003】
従来、ガス冷却式のランスとしては、混合物を流すための内管と、この内管の外側に位置する外管とを含む二重管構造を有し、この二重管の基端部から冷却用のガスを内管と外管との間の隙間に導入するものが知られており、特許文献1には一本の二重管(一本物)で構成したランスが開示されている。また特許文献2には、一本物のランスでは補修箇所であるコークス炉までの持ち運びや不使用時の保管に不便があるとの問題認識から、ランスを長手方向に二分割し、溶射作業をする際に再接続する分割型のランスが開示されている。
【0004】
しかし、特許文献2に開示されている分割型のランスは、その基端部から冷却用のガスを導入する構成であることから、二分割したランスのうち先端側のランスを単独で先に挿入する場合に、その先端側ランスをガス冷却することができないという問題がある。すなわち、特許文献2の分割型のランスでは、二分割したランス(先端側ランスと基端側ランス)を再接続した後でなければ先端側ランスをガス冷却することができない。そのため、先端側のランスを単独で先に挿入する場合に、その先端側ランスが異常に加熱されて逆火を生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-12535号公報
【文献】特許第6621339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、分割型のランスにおいて先端側ランスを単独で先に挿入する場合に、その先端側ランスをガス冷却することのできる溶射用ランスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によれば、次の溶射用ランスが提供される。
耐火性粉体及び可燃性粉体を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物を噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置に用いられる溶射用ランスであって、
前記混合物を噴射する噴射部を先端側に有する先端側ランスと、この先端側ランスの基端部に取り外し自在に接続される基端側ランスとを含み、
前記先端側ランスは、前記混合物を流すための内管と、この内管の外側に位置する外管とを含み、
前記先端側ランスの基端部又はその近傍に、当該先端側ランスを冷却するためのガスを前記内管と前記外管との間の隙間に導入するためのガス導入部が設けられていることを特徴とする溶射用ランス。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、先端側ランスの基端部又はその近傍に、当該先端側ランスを冷却するためのガスを内管と外管との間の隙間に導入するためのガス導入部が設けられていることから、先端側ランスを単独で先に挿入する場合にその先端側ランスをガス冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態である溶射用ランスの使用状態を概念的に示す説明図。
【
図2】先端側ランスと基端側ランスとの接続部の構成例を示し、(a)は接続前、(b)は接続後の状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、本発明の一実施形態である溶射用ランスの使用状態を概念的に示している。同図に示す溶射用ランスAは、コース炉の炭化室Bの炉壁補修用の溶射装置に使用されるもので、先端側ランス1と、先端側ランス1の基端部に取り外し自在に接続される基端側ランス2とを含む。基端側ランス2の基端部には、耐火性粉体及び可燃性粉体(例えば金属粉末)を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガス(酸素ガス)とを混合した混合物Cを供給するための混合物供給ホースDが接続される。また、先端側ランス1は、混合物Cを噴射する噴射部11を先端側に有する。そして、噴射部11から噴射された混合物Cが燃焼し溶融することにより、炭化室Bの炉壁に付着して耐火組成物が形成される。
【0011】
本実施形態において先端側ランス1は、混合物Cを流すための内管12と、内管12の外側に位置する外管13とを含む二重管構造を有する。一方、基端側ランス2は混合物Cを流す単一の管からなる単管構造を有する。そして、先端側ランス1の基端部と基端側ランス2の先端部とが、接続部3を介して取り外し自在に接続される。
【0012】
図2に接続部3の構成例を示している。同図に示す接続部3はカムロック機構よりなり、同図(a)に表れているように、カムロック機構のアダプター31が先端側ランス1(内管12)の基端部に取り付けられ、カムロック機構のカプラー32が基端側ランス2の先端部に取り付けられている。接続後は同図(b)に示しているように、接続部3を介して先端側ランス1(内管12)と基端側ランス2とが連通し、混合物Cが基端側ランス2から先端側ランス1の内管12へ搬送される。
【0013】
図1及び
図2に表れているように、先端側ランス1の基端部近傍には、この先端側ランス1を冷却するガス(本実施形態では空気)Gを内管12と外管13との間の隙間14に導入するためのガス導入部15が設けられ、ガス導入部15にはガス供給ホースEが接続されている。言い換えると、本実施形態では、先端側ランス1の基端部近傍から、この先端側ランス1を冷却するためのガス(空気)Gを内管12と外管13との間の隙間14に導入する。なお、本発明において、先端側ランスを冷却するためのガスは「先端側ランスの基端部又はその近傍」から導入するが、「近傍」の範囲は、コークス炉の炭化室等の補修箇所に先に挿入される先端側ランスを冷却する目的に照らし、技術常識的に判断すればよい。
【0014】
次に、溶射用ランスAの使用方法について説明する。溶射用ランスAを用いた実際の溶射作業は、
図1に示したように先端側ランス1と基端側ランス2を接続した状態で行う。ただし、溶射用ランスAは長尺であるため、先端側ランス1と基端側ランス2を接続した状態でコークス炉の炭化室B内に挿入することは、作業スペースの制約等の事情から困難な場合が多い。そこで本実施形態では、先端側ランス1を単独で先に挿入する。このように先端側ランス1を単独で先に挿入した場合、上述の通り先端側ランス1が異常に加熱されて逆火を生じるおそれがあるが、本実施形態では、先端側ランス1の基端部近傍のガス導入部15からガス(空気)Gを内管12と外管13との間の隙間14に導入するから、先端側ランス1がガス冷却される。そのため、先端側ランス1が異常に加熱されることを抑制することができる。
続いて、
図1に示したように、先端側ランス1の基端部に基端側ランス2の先端部を接続する。その後、混合物Cを混合物供給ホースDから基端側ランス2の基端部に供給し、溶射作業を行う。なお、
図1において符号Fは、炭化室B内で先端側ランス1を進退させるときに使用する支持ローラーである。
【0015】
ここで、溶射用ランスAの好ましい構成について説明すると、基端側ランス2の長さは、溶射用ランスAの操作性等の観点から0.5m以上5m以下であることが好ましい。また、先端側ランス1を接続したときの溶射用ランスAの全長は、コークス炉への適用性等の観点から5m超11m以下であることが好ましい。一例として本実施形態では、先端側ランス1の長さを6m、基端側ランス2の長さを3m、全長を9mとした。
また、基端側ランス2の肉厚T2(
図2参照)は、先端側ランス1の内管12の肉厚T1(
図2参照)の1倍以上9倍以下であることが好ましい。このような肉厚比とすることで、基端側ランス2の強度を確保することができると共に溶射作業の作業性も確保することができる。
【0016】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば本実施形態では、先端側ランス1を内管12と外管13からなる二重管構造としたが、外管13の外側に更に保護管を設けて三重管構造とすることもできる。この場合も、先端側ランス1を冷却するためのガスは内管12と外管13との間の隙間14に導入するが、更に外管13と保護管との間の隙間にも導入してもよい。
また、本実施形態では基端側ランス2を単管構造としたが、二重管構造とすることもできる。この場合、基端側ランスの内管と先端側ランス1の内管12とが連通するように接続される。また、基端側ランスが二重管構造の場合、基端側ランスの肉厚とは、その内管の肉厚のことをいう。
更に、本実施形態では接続部3としてカムロック機構を採用したが、ほかの公知の接続機構を採用してもよい。
【符号の説明】
【0017】
A 溶射用ランス
B コークス炉の炭化室
C 混合物
D 混合物供給ホース
E ガス供給ホース
F 支持ローラー
G ガス(空気)
1 先端側ランス
11 噴射部
12 内管
13 外管
14 隙間
15 ガス導入部
2 基端側ランス
3 接続部(カムロック機構)
31 アダプター
32 カプラー
【要約】
【課題】分割型のランスにおいて先端側ランスを単独で先に挿入する場合に、その先端側ランスをガス冷却することのできる溶射用ランスを提供する。
【解決手段】耐火性粉体及び可燃性粉体を含む原料粉体と、支燃性のキャリアガスとを混合した混合物Cを噴射し燃焼させて耐火組成物を形成する溶射装置に用いられる溶射用ランスAである。溶射用ランスAは混合物Cを噴射する噴射部11を先端側に有する先端側ランス1と、この先端側ランス1の基端部に取り外し自在に接続される基端側ランス2とを含む。先端側ランス1は、混合物Cを流すための内管12と、この内管12の外側に位置する外管13とを含む。この構成において先端側ランス1の基端部又はその近傍から、当該先端側ランス1を冷却するためのガスGを内管12と外管13との間の隙間14に導入する。
【選択図】
図1