(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】船用5Ni鋼サブマージアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/18 20060101AFI20240502BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20240502BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20240502BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20240502BHJP
【FI】
B23K9/18 F
B23K35/30 320Q
C22C19/05 B
B23K9/00 501A
(21)【出願番号】P 2023512130
(86)(22)【出願日】2021-05-30
(86)【国際出願番号】 CN2021097059
(87)【国際公開番号】W WO2022037175
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】202010832616.0
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517018813
【氏名又は名称】江陰興澄特種鋼鉄有限公司
【氏名又は名称原語表記】JIANGYIN XING CHENG SPECIAL STEEL WORKS CO.,LTD
【住所又は居所原語表記】297,Binjiang Road Jiangyin,Jiangsu 214429 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼朝霞
(72)【発明者】
【氏名】▲羅▼元▲東▼
(72)【発明者】
【氏名】▲許▼▲暁▼▲紅▼
(72)【発明者】
【氏名】白云
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼俊
(72)【発明者】
【氏名】孟羽
(72)【発明者】
【氏名】周永浩
(72)【発明者】
【氏名】武金明
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼▲チョン▼
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111440990(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103071897(CN,A)
【文献】特開2018-008293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/18
B23K 35/30
C22C 19/05
B23K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船用5Ni鋼サブマージアーク溶接方法において、
(1)引張強さが630~670MPaの船用5Ni鋼を接合母材とし、接合母材の-130℃における横方向衝撃靱性値は≧180Jであり、マッチングする溶接材料は、溶接材料の引張強さが630~710MPa、溶接ワイヤの直径がΦ2.4mm以上であり、銘柄はINCO-WELD Filler Metal C-276、フラックスはINCOFLUX9であり、
(2)接合材料のサブマージアーク溶接の開先にはK形開先を採用し、
(3)溶接パラメータは、溶接電流410±10A、溶接電圧32±1V、溶接速度27±2cm/min、溶接線エネルギー30±3KJ/cmで、同じ板厚の接合母材の突合わせ継手に対して、溶接継目が埋まるまで連続的に溶接を行い、かつ毎回の溶接後にワイヤブラシを用いて溶接ビードをクリーニングし、フラックス焼付システムは350℃×1hで、層間温度を≦80℃に制御する、ことを特徴とする、
船用5Ni鋼サブマージアーク溶接方法。
【請求項2】
前記接合材料の厚さが40mm~50mmであることを特徴とする、請求項1に記載の舶用5Ni鋼サブマージアーク溶接方法。
【請求項3】
前記K形開先の開先角度が45°、ルート面が5mmであることを特徴とする、請求項1に記載の船用5Ni鋼サブマージアーク溶接方法。
【請求項4】
前記溶接ワイヤの化学成分及び質量百分率が、C:≦0.03%、Si:0.10~0.40%、Mn:0.2~1.0%、P:≦0.020%、S:≦0.030%、Cr:14~18%、Ni:53~60%、W:3.0~4.5%、Fe:4.0~7.0%、Mo:15.0~17.0%であり、残部は不可避的不純物元素であることを特徴とする、請求項1に記載の船用5Ni鋼サブマージアーク溶接方法。
【請求項5】
両溶接母材の溶接継手が、試験によると、溶接継目超音波探傷結果がGB/T 11345-1989標準に規定するクラスIの要求に達していることを特徴とする、請求項4に記載の船用5Ni鋼サブマージアーク溶接方法。
【請求項6】
両接合母材の溶接継手の引張強さは620~660MPaの間であり、曲げ直径はD=4aで、180℃正反冷間曲げは適正であり、-130℃の極低温での横方向衝撃靭性値は安定しており、溶接継目部分の横方向衝撃靱性値は≧70J、融合線の横方向衝撃靱性値は≧60J、HAZの横方向衝撃靱性値は≧100J、母材の横方向衝撃靱性値は≧180Jであり、船級協会の溶接性認証及び生産要求を満たしていることを特徴とする、請求項4に記載の船用5Ni鋼サブマージアーク溶接方法。
【請求項7】
両接合母材の溶接継手の溶接継目領域の組織はオーステナイト組織であり、熱影響領域組織は下部ベイナイト組織であり、下部ベイナイト組織は、ラメラが細かいことにより良好な極低温靭性を備えていることを特徴とする、請求項4に記載の船用5Ni鋼サブマージアーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高Ni鋼の溶接方法、特に船用5Ni鋼の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学工業の発展に伴い、液化石油ガス船、及び石油を分解、液化して得られる液化エチレン船、プロパン船は、通常、強度が高く、低温靭性が良く、延伸率が高く、残留磁気が低い5Ni鋼を用いて建造される。通常、5Ni鋼のNi含有量は4.7~5.3%の間であり、5Ni鋼のNi含有量が高いため、鋼材の生産製造に一連の難題がもたらされるだけでなく、後続の製造業者の溶接、成型にも使用の問題がもたらされる。国内では、すでに少数の鋼材企業が、船級協会の規範要求を満たす船用5Ni鋼の開発に成功しており、徐々に市場に投入し始めている。しかし、溶接面、特にサブマージアーク溶接の面では、依然として低温靭性及び溶接後の冷間曲げ性能の不安定さが存在しており、船級協会の溶接性試験の要求を満たすことは難しい。
【0003】
検索したところ、特許文献1では、ニッケルベースのソリッドワイヤのガスシールドアーク溶接方法を開示して、5Ni鋼、9Ni鋼のガスシールドアーク溶接を実現しているが、文献では9Ni鋼の溶接について具体的実施例を説明しているだけで、5Ni鋼に該方法を用いた場合の溶接効果がどのようなものかについては、具体的な説明がない。5Ni鋼は溶接性が悪いという難題を解決することは、船舶業界の発展において重要な一環なのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明では、適切な5Ni鋼板を選択し、溶接材料とそれに対応するサブマージアーク突合わせ溶接工程をマッチングさせ、かつ一連の溶接性力学性能テストを行ったところ、その結果から、本発明の船用5Ni鋼サブマージアーク溶接が船級協会の溶接性試験要求を完全に満たしていることがわかった。
【0006】
具体的には、本発明の目的は、船用5Ni鋼のサブマージアーク溶接工程を提供することであり、該工程は、溶接前に予熱を行わず、溶接後に熱処理を行う必要がない。具体的には以下の通りである。
【0007】
(1)引張強さが630~670MPaの船用5Ni鋼を接合母材とする。マッチングする溶接材料は、溶接材料の引張強さが630~710MPa、溶接ワイヤの直径がΦ2.4mm以上で、銘柄はINCO-WELD Filler Metal C-276、フラックスはINCOFLUX9である。
【0008】
(2)接合材料のサブマージアーク溶接の開先にはK形開先を採用し、開先角度は45°、ルート面は5mmである。
【0009】
(3)溶接パラメータ:溶接電流410±10A、溶接電圧32±1V、溶接速度27±2cm/min、溶接線エネルギー30±3KJ/cmで、同じ板厚の接合母材の突合わせ継手に対して、溶接継目が埋まるまで連続的に溶接を行い、かつ毎回の溶接後にワイヤブラシを用いて溶接ビードをクリーニングする。フラックス焼付システムは350℃×1hで、層間温度は80℃以下に制御する。
【0010】
好適には、本願の溶接方法は、40mm~50mm厚さの上記の接合材料に適用される。
【0011】
本願のキーポイントは、溶接に用いる溶接ワイヤの化学成分及び質量百分率が、C:≦0.03%、Si:0.10~0.40%、Mn:0.2~1.0%、P:≦0.020%、S:≦0.030%、Cr:14~18%、Ni:53~60%、W:3.0~4.5%、Fe:4.0~7.0%、Mo:15.0~17.0%で、残部は不可避的不純物元素であるという点である。
【0012】
上記の船用5Ni鋼サブマージアーク溶接方法により得られる両溶接母材の溶接継手は、試験によると、溶接継目超音波探傷結果がGB/T 11345-1989標準に規定するクラスIの要求に達している。
【0013】
上記の船用5Ni鋼サブマージアーク溶接方法により得られる両接合母材の溶接継手の引張強さは620~660MPaの間であり、曲げ直径はD=4aで、180℃正反冷間曲げは適正であり、-130℃の極低温での横方向衝撃靭性値は安定しており、そのうち、溶接継目部分は≧70J、融合線は≧60J、HAZは≧100J、母材は≧180Jで、船級協会の溶接性認証及び生産要求を満たしており、つまり、船級協会の規範要求である-110℃の極低温での横方向衝撃靭性値≧27Jを遙かに上回っている。
【0014】
上記船用5Ni鋼サブマージアーク溶接方法により得られる両接合母材の溶接継手の溶接継目領域の組織はオーステナイト組織であり、熱影響領域組織は下部ベイナイト組織であり、そのうち、下部ベイナイト組織はラメラが細かいことから、良好な極低温靭性を備えている。
【0015】
従来技術と比較すると、本発明の長所は以下の通りである。
【0016】
(1)液化石油ガス船、液化エチレン船などの船用5Ni鋼の重要なサブマージアーク溶接工程の製造技術を満たしている。サブマージアーク溶接は、溶接継手の引張強さ、溶接継手の溶接継目、融合線、熱影響領域などの衝撃吸収エネルギー値について、いずれも比較的高いレベルに達しており、溶接継手は優れた低温衝撃靭性及び冷間曲げ性能を有している。
【0017】
(2)本発明の溶接継手の熱影響領域であるHAZ組織は、主に下部ベイナイト組織であり、ベイナイトはラメラが細かく、溶接金属は主にオーステナイト組織なので、溶接継目に優れた強度及び極低温靭性性能並びに冷間曲げ性能を持たせている。
【0018】
(3)船用5Ni鋼突合わせ継手の厚板構造の製造過程において、溶接前に予熱をせず、溶接後に熱処理を行わないという溶接工程を実現しており、マルチレイヤマルチチャネル連続溶接工程を採用する場合、溶接継手が優れた総合力学性能を有している。溶接操作が簡便で、効率がよく、省エネで、液化石油ガス船、液化エチレン船、液化プロパン船などの船用5Ni鋼の製造及び普及、応用に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】接合母材の組み合わせが50mm+50mmであるサブマージアーク溶接の溶接パスの概略図である。
【
図2】本発明の実施例1における溶接継手の溶接継目組織であり、オーステナイト組織である。
【
図3】本発明の実施例1における溶接継手の融合線組織であり、片側がオーステナイト組織、他側が下部ベイナイト組織であり、ベイナイトはラメラが細かい。
【
図4】本発明の実施例1における溶接継手から融合線までが3mmであるHAZ領域組織であり、下部ベイナイト組織で、ラメラが細かく、初期オーステナイトは
図3の初期オーステナイト組織よりもさらに細かい。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、図面及び実施例と結び付けて本発明をさらに詳細に記述しているが、述べている実施例は例示的なものであり、本発明の解釈に用いることを目的としているので、本発明に対する限定と理解することはできない。
【0021】
実施例1:
母材:引張強さが653MPaの船用5Ni鋼、-130℃での極低温横方向衝撃靭性値は≧180Jで、厚板の組み合わせは50mm+50mmである。突合わせ溶接の各試験板の寸法は1300mm×300mm×50mmであり、サブマージアーク溶接の開先にはK形開先を採用し、開先角度は45°、ルート面は5mmである。
【0022】
溶接材料のマッチング:
溶接ワイヤ:その化学成分及び質量百分率は、C:0.02%、Si:0.15%、Mn:0.4%、P:0.015%、S:0.01%、Cr:16.4%、Ni:57%、W:3.5%、Fe:5.50%、Mo:16.0%であり、残部は不可避的不純物元素である。
【0023】
溶接ワイヤの直径はΦ2.4mmであり、焼結フラックスINCOFLUX9とマッチングさせて溶接する。溶着金属の力学性能は、降伏強さRp0.2が407MPa、引張強さRmが665MPa、延伸率Aが42.0%、Z方向断面収縮率が38%、-110℃のAKv衝撃吸収エネルギー値は92J、89J、77Jである。
【0024】
溶接工程パラメータは、溶接電流が410±10A、溶接電圧が32±1V、溶接速度が27±2cm/min、溶接線エネルギーが30KJ/cmであり、フラックス焼付システムは350℃×1hで、層間温度は50~70℃に制御する。溶接パスは
図1参照。
【0025】
実施例2:
母材:引張強さが639MPaの船用5Ni鋼で、厚板の組み合わせは40mm+40mmである。突合わせ溶接の各試験板の寸法は1300mm×300mm×40mmであり、サブマージアーク溶接の開先にはK形開先を採用し、開先角度は45°、ルート面は5mmである。
【0026】
溶接材料のマッチング:
溶接ワイヤ:その化学成分及び質量百分率は、C:0.02%、Si:0.20%、Mn:0.45%、P:0.013%、S:0.01%、Cr:16.8%、Ni:58%、W:3.3%、Fe:5.80%、Mo:16.5%であり、残部は不可避的不純物元素である。
【0027】
溶接ワイヤの直径はΦ2.4mmであり、焼結フラックスINCOFLUX9とマッチングさせて溶接する。溶着金属の力学性能は、降伏強さRp0.2が513MPa、引張強さRmが660MPa、延伸率Aが32.0%、Z方向断面収縮率が51%、-110℃のAKv衝撃吸収エネルギー値は93J、109J、84Jである。
【0028】
溶接工程パラメータは、溶接電流が410±10A、溶接電圧が32±1V、溶接速度が27±2cm/min、溶接線エネルギーが30KJ/cmであり、フラックス焼付システムは350℃×1hで、層間温度は50~70℃に制御する。
【0029】
上記の溶接方法を用いて溶接された船用5Ni鋼板の溶接継手は、試験によると、溶接継目超音波探傷結果がGB/T 11345-1989標準に規定するクラスIの要求に達している。
【0030】
上記の溶接方法で溶接された船用5Ni鋼の、溶接継手の力学性能測定、引張試験、衝撃試験及び冷間曲げ試験の結果は、それぞれ表1、表2、表3の通りである。実施例の性能から見ると、鋼板溶接継手の引張強さは620~660MPaの間であり、曲げ直径はD=4aで、180℃正反冷間曲げは適正であり、溶接継目、融合線、HAZ領域の-130℃の極低温における横方向衝撃靭性値は安定しており、船級協会の溶接性認証及び生産要求を完全に満たしている。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
溶接熱影響領域が極めて低い低温靭性を有していることがわかる。
【0035】
以上のように、本発明の好適な実施例について詳細に述べてきたが、当業者にとって、本発明は様々な変更及び変化が可能であることをはっきりと理解しておかなければならない。本発明の主旨及び原則内で行われる変更、同等の置換、改良などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるものとする。