(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-01
(45)【発行日】2024-05-13
(54)【発明の名称】射出発泡成形体
(51)【国際特許分類】
B29C 44/00 20060101AFI20240502BHJP
B29C 44/42 20060101ALI20240502BHJP
B29C 44/58 20060101ALI20240502BHJP
B29C 44/60 20060101ALI20240502BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20240502BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240502BHJP
B29C 45/80 20060101ALI20240502BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20240502BHJP
B29K 105/04 20060101ALN20240502BHJP
【FI】
B29C44/00 D
B29C44/42
B29C44/58
B29C44/60
B29C45/00
B29C45/26
B29C45/80
B29K23:00
B29K105:04
(21)【出願番号】P 2023514663
(86)(22)【出願日】2022-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2022017678
(87)【国際公開番号】W WO2022220258
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2022/016438
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021069165
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 達次
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-177671(JP,A)
【文献】特開平08-318542(JP,A)
【文献】特開2012-233055(JP,A)
【文献】特開2012-000909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00-44/60;67/20
B29C 45/00-45/84
C08J 9/00- 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出発泡成形体から50mm×150mmのサイズで切り出された試料を用いて、支持間隔100mmの中心位置に、曲げ速度50mm/minの速度で圧子により力を加える3点曲げ試験を行ったときに、たわみ量が0~10mmの間において得られる「荷重-たわみ曲線」において、JIS K7221-2に準拠して評価した曲げ弾性勾配が27~1000(N/cm)の範囲にあり、射出発泡成形体の平面部に、直径4mmで先端が平坦な円形圧子を速度1mm/minで力(荷重)を加え成形体に押し込む試験を行った時に、射出発泡成形体の厚さの減少量が0~10%の間において得られる「力-変形量曲線」において、JIS K7220に準拠して評価した、押込み時の弾性勾配である押し弾性勾配が5~120(N/mm)の範囲にあることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物からなる射出発泡成形体。
【請求項2】
前記射出発泡成形体が、当該射出発泡成形体の板厚方向断面において、表面側からソリッドスキン層(A1)/発泡層(B1)/発泡層(C)/発泡層(B2)/ソリッドスキン層(A2)(裏面)の5層からなり、
ソリッドスキン層(A1)および(A2)が気泡状の発泡構造が観測されない層であり、発泡層(B1)および発泡層(B2)が下記(b-i)~(b-iii)を満たす層であり、発泡層(C)が断面の板厚方向の湾曲したセル壁を有することを特徴とする請求項1に記載の射出発泡成形体;
(b-i):セル内部が気体で満たされ、周りをセル壁で囲まれた発泡セル構造を有し、
(b-ii):平面方向のセルの平均径が50μm以上200μm以下であり、
(b-iii):板厚方向断面のセルの平均径が平面方向のセルの平均径に対して、1以上6以下の長さを持つセルから成る。
【請求項3】
発泡層(C)が下記(c-i)を満たさないことを特徴とする請求項2に記載の射出発泡成形体;
(c-i):セル内部が気体で満たされ、周りをセル壁で囲まれた発泡セル構造を有する。
【請求項4】
発泡層(C)が下記(c-ii)を満たさないことを特徴とする請求項2に記載の射出発泡成形体;
(c-ii):平面方向のセルの平均径が50μm以上200μm以下である、または、板厚方向断面のセルの平均径が平面方向のセルの平均径に対して1以上6以下の長さを持つセルから成る。
【請求項5】
前記射出発泡成形体が、当該射出発泡成形体を形成するソリッドスキン層(A1)および(A2)の厚さ(平均)がそれぞれ200~700μmの範囲にある請求項1または2に記載の射出発泡成形体。
【請求項6】
前記射出発泡成形体が、厚さが2.5~10.0mmの範囲にあり、発泡倍率が2.1~6倍の範囲にある請求項1または2に記載の射出発泡成形体。
【請求項7】
前記射出発泡成形体が、当該射出発泡成形体の表面の一部にシボが付けられてなる請求項1または2に記載の射出発泡成形体。
【請求項8】
プロピレン系樹脂組成物が、プロピレン系重合体(E)を主成分として含む組成物である請求項1または2に記載の射出発泡成形体。
【請求項9】
前記プロピレン系樹脂組成物が、プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)、エチレン・α-オレフィン共重合体(F)および充填剤(G)を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の射出発泡成形体。
【請求項10】
前記プロピレン系樹脂組成物が、前記プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)、前記エチレン・α-オレフィン共重合体(F)および前記充填剤(G)の合計を100質量部としたとき、
前記プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)の含有量が60~90質量部の範囲、前記エチレン・α-オレフィン共重合体(F)の含有量が10~40質量部の範囲、および前記充填剤(G)の含有量が30質量部以下であることを特徴とする請求項9に記載の射出発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系樹脂組成物からなる射出発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体は、比重が小さく、成形性やリサイクル性に優れていることから、日用雑貨、台所用品、包装用フィルム、家電製品、機械部品、電気部品、自動車部品など、種々の分野で利用されている。自動車部品では、自動車の安全性や居住性、快適性の向上、さらにIT機器の増加に伴い、車載重量は増加する傾向があることから、プロピレン系重合体を含むプロピレン系樹脂組成物の使用比率が伸びてきている。特に、プロピレン系樹脂組成物からなる発泡成形体は軽量かつ成形外観に優れていることから、自動車部品に好適に使用されている。
【0003】
プロピレン系重合体などの熱可塑性樹脂からなる射出発泡成形体の製造方法の一つとして、キャビティ容積が可変である金型を用い、発泡剤を含む溶融熱可塑樹脂を充填する際にはキャビティ容積を小さくしておき、充填後にキャビティ容積を拡大することで積極的に気泡発生,拡大を促進させる成形方法(コアバック法)が知られている。
【0004】
また、コアバック法において、充填後にキャビティ容積を拡大することで積極的に気泡発生,拡大を促進させた後、発泡体が固化しないうちに、発泡した成形体を圧縮する成形方法も提案されており(特許文献1、特許文献2、特許文献3など)、これらの発泡体は基本的に表層がソリッドスキン層で内部に発泡層を持つ3層構造を成す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-318542号公報
【文献】特開2009-196284号公報
【文献】特開2009-208299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱可塑性樹脂材料を用いた成形体は一般的に微妙な凹凸や皮を模したものなどさまざまな模様が付いているが、この模様をシボという。このようなシボは射出成形だけで形成することができ、塗装も必要ないため、自動車の内装部品や家電等では質感を保ちつつ、コストを抑えられるという利点がある。しかしシボを付けても、表皮を貼っていないプラスチック製品を実際に触ると硬く、クッション感に乏しく、実際の表皮を貼った(表皮貼合)部品に比べると高級感が不足している、という問題があった。
【0007】
そこで本発明の目的は、射出発泡成形という成形法を用いて射出発泡の特徴である剛性を備えながらも、発泡成形体を指で押した時に柔らかさを感じる、クッション性という従来の射出発泡成形体では得られなかった特性を併せ持った射出発泡成形体を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]~[10]に係る。
[1]
射出発泡成形体から50mm×150mmのサイズで切り出された試料を用いて、支持間隔100mmの中心位置に、曲げ速度50mm/minの速度で圧子により力を加える3点曲げ試験を行ったときに、たわみ量が0~10mmの間において得られる「荷重-たわみ曲線」において、JIS K7221-2に準拠して評価した曲げ弾性勾配が27~1000(N/cm)の範囲にあり、射出発泡成形体の平面部に、直径4mmで先端が平坦な円形圧子を速度1mm/minで力(荷重)を加え成形体に押し込む試験を行った時に、射出発泡成形体の厚さの減少量が0~10%の間において得られる「力-変形量曲線」において、JIS K7220に準拠して評価した、押込み時の弾性勾配である押し弾性勾配が5~120(N/mm)の範囲にあることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物からなる射出発泡成形体。
【0009】
[2]
前記射出発泡成形体が、当該射出発泡成形体の板厚方向断面において、表面側からソリッドスキン層(A1)/発泡層(B1)/発泡層(C)/発泡層(B2)/ソリッドスキン層(A2)(裏面)の5層からなり、
ソリッドスキン層(A1)および(A2)が気泡状の発泡構造が観測されない層であり、発泡層(B1)および発泡層(B2)が下記(b-i)~(b-iii)を満たす層であり、発泡層(C)が断面の板厚方向の湾曲したセル壁を有することを特徴とする項[1]に記載の射出発泡成形体;
(b-i):セル内部が気体で満たされ、周りをセル壁で囲まれた発泡セル構造を有し、
(b-ii):平面方向のセルの平均径が50μm以上200μm以下であり、
(b-iii):板厚方向断面のセルの平均径が平面方向のセルの平均径に対して、1以上6以下の長さを持つセルから成る。
【0010】
[3]
発泡層(C)が下記(c-i)を満たさないことを特徴とする項[2]に記載の射出発泡成形体;
(c-i):セル内部が気体で満たされ、周りをセル壁で囲まれた発泡セル構造を有する。
【0011】
[4]
発泡層(C)が下記(c-ii)を満たさないことを特徴とする項[2]に記載の射出発泡成形体;
(c-ii):平面方向のセルの平均径が50μm以上200μm以下である、または、板厚方向断面のセルの平均径が平面方向のセルの平均径に対して1以上6以下の長さを持つセルから成る。
【0012】
[5]
前記射出発泡成形体が、当該射出発泡成形体を形成するソリッドスキン層(A1)および(A2)の厚さ(平均)がそれぞれ200~700μmの範囲にある項[1]または[2]に記載の射出発泡成形体。
【0013】
[6]
前記射出発泡成形体が、厚さが2.5~10.0mmの範囲にあり、発泡倍率が2.1~6倍の範囲にある項[1]または[2]に記載の射出発泡成形体。
【0014】
[7]
前記射出発泡成形体が、当該射出発泡成形体の表面の一部にシボが付けられてなる項[1]または[2]に記載の射出発泡成形体。
【0015】
[8]
プロピレン系樹脂組成物が、プロピレン系重合体(E)を主成分として含む組成物である項[1]または[2]に記載の射出発泡成形体。
【0016】
[9]
前記プロピレン系樹脂組成物が、プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)、エチレン・α-オレフィン共重合体(F)および充填剤(G)を含むことを特徴とする項[1]または[2]に記載の射出発泡成形体。
【0017】
[10]
前記プロピレン系樹脂組成物が、前記プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)、前記エチレン・α-オレフィン共重合体(F)および前記充填剤(G)の合計を100質量部としたとき、
前記プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)の含有量が60~90質量部の範囲、前記エチレン・α-オレフィン共重合体(F)の含有量が10~40質量部の範囲、および前記充填剤(G)の含有量が30質量部以下であることを特徴とする項[9]に記載の射出発泡成形体。
【発明の効果】
【0018】
本発明の射出発泡成形体は剛性を備えながらも、発泡成形体を指で押した時に柔らかさを感じるクッション性を有するので、自動車の内装部品、電器製品、建材等の各種用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の射出発泡成形体の断面画像および断面画像の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の射出発泡成形体の製造方法における金型の動作(金型内の熱可塑性樹脂組成物の厚さ)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<射出発泡成形体>
本発明の射出発泡成形体(以下、「成形体」と略称する場合がある。)は、プロピレン系樹脂組成物からなり、以下の物性を有する。
【0021】
射出発泡成形体から50mm×150mmのサイズで切り出された試料を用いて、支持間隔100mmの中心位置に、曲げ速度50mm/minの速度で圧子により力を加える3点曲げ試験を行ったときに、たわみ量が0~10mmの間において得られる「荷重-たわみ曲線」において、JIS K7221-2に準拠して評価した曲げ弾性勾配が27~1000(N/cm)、好ましくは27~400(N/cm)の範囲にあり、射出発泡成形体の平面部に、直径4mmで先端が平坦な円形圧子を速度1mm/minで力(荷重)を加え成形体に押し込む試験を行った時に、射出発泡成形体の厚さの減少量が0~10%の間において得られる「力-変形量曲線」において、JIS K7220に準拠して評価した、押込み時の弾性勾配である押し弾性勾配が5~120(N/mm)、好ましくは10~100(N/mm)の範囲にある。
【0022】
曲げ弾性勾配が上記範囲を満たす成形体は、例えば、自動車部品などに用いた場合、現行トリム(曲げ弾性率1000MPa、板厚2.3mm)以上の剛性を満足することができる。
【0023】
押し弾性勾配が上記範囲を満たす成形体は、例えば、自動車部品などに用いた場合、クッション性を付与することができ成形体の質感向上に有効である。
一方、押し弾性勾配が上記下限値以下の成形体は、柔らかすぎて変形しやすいため、剛性感が不足し、上記上限値の成形体は、剛性は高いが、クッション性を得ることができない。
【0024】
本発明の発泡射出成形体は、通常、当該射出発泡成形体の板厚方向断面において、
図1に示すように、当該射出発泡成形体の板厚方向断面において、表面側からソリッドスキン層(A1)/発泡層(B1)/発泡層(C)/発泡層(B2)/ソリッドスキン層(A2)(裏面)の5層からなり、
ソリッドスキン層(A1)および(A2)が気泡状の発泡構造が観測されない層であり、発泡層(B1)および発泡層(B2)が下記(b-i)~(b-iii)を満たす層であり、発泡層(C)が断面の板厚方向の湾曲したセル壁を有することを特徴とする。
(b-i):セル内部が気体で満たされ、周りをセル壁で囲まれた発泡セル構造を有し、
(b-ii):平面方向のセルの平均径が50μm以上200μm以下であり、
(b-iii):板厚方向断面のセルの平均径が平面方向のセルの平均径に対して、1以上6以下の長さを持つセルからなる。
【0025】
本発明の成形体を形成する上記発泡層(C)は、上記したように、発泡層(C)の断面の板厚方向のセル壁が湾曲している層であり、この湾曲したセル壁が表層のソリッドスキン層(A1)に圧縮するような力を加えると発泡層(C)が変形し圧縮されることによる圧縮変形領域となり押し弾性勾配が120N/mm以下となり、成形体にクッション感が発現する。
【0026】
なお、発泡層(C)は、本発明の射出発泡成形体を製造する過程で、発泡して形成された発泡セルのセル壁の少なくとも一部が座屈し裂けるように破壊、折れ曲がることで個々の発泡セルの一部が連なり、連続したセル壁を形成し、連続した板厚方向のセル壁が、発泡層(B1)と(B2)の間で左右に蛇行する構造をとることにより、形成された層である。
【0027】
上記、発泡層(C)の湾曲とは、
図1(C)に示されるように、発泡層(C)のセル壁から形成される、発泡層(B1)と(B2)の間で左右に蛇行する構造であり、この湾曲もセル径測定と同じ断面写真を用いて確認を行った。
【0028】
また、
図1(C)に示されるように、発泡層(B1)と(B2)の間で左右に蛇行する構造は、発泡セルが変形や破壊されてなるもの(生じるもの)であり、発泡層(C)のセル壁は、発泡セル構造を有していない態様をも含む。すなわち、発泡層(C)が下記(c-i)を満たさないことを特徴とする発泡射出成形体が挙げられる。
(c-i):セル内部が気体で満たされ、周りをセル壁で囲まれた発泡セル構造を有する。
【0029】
さらに、本発明の発泡射出成形体の他の例として、発泡層(C)が下記(c-ii)を満たさないことを特徴とする射出発泡成形体が挙げられる。
(c-ii):平面方向のセルの平均径が50μm以上200μm以下である、または、板厚方向断面のセルの平均径が平面方向のセルの平均径に対して1以上6以下の長さを持つセルからなる。
【0030】
上記発泡層(B1)および(B2)の発泡セルの平面方向平均径および、セルの板厚方向平均径(平面方向平均径と垂直の方向)の測定方法は以下による。
発泡セルを破壊しないように射出発泡成形体断面を鋭利な刃物で切断し、その断面写真をデジタルマイクロスコープVHX-6000((株)キーエンス社製)を用いて撮影した。断面画像は100倍以上に拡大した画像を撮影し、その断面画像から板厚方向にほぼ均等の配置となるように、10個以上の発泡セルを定め、デジタルマイクロスコープの測定機能を用いて、その発泡セルの板厚方向のセル径と平面方向のセル径を計測し、それぞれの平均径を発泡セルの径(mm)とした。
【0031】
本発明の成形体の上記発泡層(B1)および(B2)を形成する発泡セルは、セル壁で囲まれた発泡のセル構造を持っていれば独立気泡状態でも良いが、セル壁に微小な穴の開いた連泡構造を持っていても問題無い。
【0032】
本発明の成形体は、上記発泡層(B1)および(B2)にこのようなセル形状を持つことで成形体内部がハニカム形状に近い状態を持つことになるため変形が抑制され、表層のソリッドスキン層(A1)および(A2)と共に成形体の剛性を維持することができる。
【0033】
このセル圧縮変形領域は、発泡層(C)の全ての領域が変形する必要は無く、圧縮に伴い、湾曲したセル壁が圧縮されていく。この発泡層(C)は基本的に発泡層のほぼ中心近傍に存在することが多い。
【0034】
本発明の射出発泡成形体は、成形体の表面は充填時に圧力が高いことと、急速に冷却されることとにより、ソリッド状態で固化が進む。この金型に接するソリッド状の固化層であるソリッドスキン層(A1)および(A2)は成形体を形作るうえで重要な層であるため、金型表面の状態(例えばシボ形状)を転写することで、意匠性を付与したり、各種の物性には重要な影響を与えたりする。
【0035】
このソリッドスキン層(A1)および(A2)は成形品表面の片側で好ましくは200~700μm、より好ましくは200~600μmの厚さがある。ソリッドスキン層(A1)および(A2)の厚さが上記下限値未満であると、成形体のクッション性は良好になるが、曲げ等での剛性が悪化し、また外観も悪化するおそれがある。一方、上記上限値を超えると発泡体の剛性は高くなるがクッション性が失われるおそれがある。
【0036】
本発明の成形体の表層および裏面のソリッドスキン層の厚みの測定方法は以下の方法による。
本発明の成形体のセルの板厚方向平均径および板厚方向平均径を測定するときに使用した断面画像を使用して、ソリッドスキン層(A1)または(A2)と発泡層(B1)または(B2)の境界部分を左右の2点を結んでできる線に対して垂線を引き、ソリッド層の表面との距離をμm単位で測定し、ソリッドスキン層(A1)または(A2)の厚みとした。なお、成形体の表層にシボ等(リブ等の面から明らかに飛び出している部分は除く)が有り厚さが場所によりズレを生じるときはシボの頂点と谷部の中間位置をそのソリッド層の端部として、同様にμm単位で測定を行う。
【0037】
発泡層(C)がない成形体は、発泡セルが成形時のコアバック方向に引き伸ばされた構造であるため、厚さ方向に力を加えた時でも成形体の変形が抑制されるためにクッション感がほとんど感じられない成形体となる。
【0038】
本発明の射出発泡成形体は、通常、成形体の厚さが2.5~10.0mm、好ましくは2.5~7.0mmの範囲であり、発泡倍率が2.1~6倍、好ましくは2.2~5.0倍の範囲にある。
【0039】
上記成形体の厚さの測定は、デジタルノギスCD-S15C〔(株)ミツトヨ製〕を使用し、成形体の無い状態でノギスの外側用ジョウを閉め込んで表示が0であることを事前に確認した後に、成形体を地面に対して垂直もしくは手前方向に向けてノギスの外側用ジョウのやや奥寄りで挟み込むようにゆっくりと閉めて、成形品に傾きの無いようにして測定を行う。このときサムローラを使用して成形体に余分な力が掛からないようできるだけ均一な力で挟み込むように注意してmm単位で測定を行う。
【0040】
上記成形体の発泡倍率は、発泡剤を添加しコアバックをして発泡した成形体の測定したい部位の板厚と、発泡剤を添加せずコアバックをしない未発泡成形体において発泡体と同じ部位の板厚の比(発泡倍率=発泡成形体の測定部位の板厚/未発泡成形体の同じ測定部位の板厚比)で表す。そのため平面でない成形体の発泡倍率は測定部位により違いが発生するがコアバック方向に直角な面を成す成形体が最も発泡倍率の高い場所であり、本発明の発泡倍率はこのコアバック方向に直角な面を成す成形体での値を適用する。
【0041】
<プロピレン系樹脂組成物>
本発明の射出発泡成形体はプロピレン系樹脂組成物から形成される。プロピレン系樹脂組成物は、プロピレン系重合体(E)を主成分として含む。なお、本発明において、「主成分」とは、プロピレン系樹脂組成物における成分で最も多い成分を意味し、単独をも含む。
【0042】
《プロピレン系重合体(E)》
本発明に係るプロピレン系重合体(E)は、プロピレンに由来する構成単位の含有量が50モル%以上である重合体のことをいい、プロピレン系樹脂中のプロピレンに由来する構成単位の含有量は、90モル%以上であることが好ましい。
【0043】
本発明に係るプロピレン系重合体(E)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
本発明に係るプロピレン系重合体(E)は、プロピレン単独重合体であってもよく、プロピレンとプロピレン以外のコモノマーとの共重合体であってもよい。
【0044】
本発明に係るプロピレン系重合体(E)の構造は特に制限されず、例えば、プロピレン由来の構成単位部分は、アイソタクチック構造でも、シンジオタクチック構造でも、アタクチック構造でもよいが、アイソタクチック構造であることが好ましい。また、前記共重合体の場合、ランダム型〔ランダムPPとも呼称〕、ブロック型〔ブロックPP:bPPとも呼称〕、グラフト型のいずれであってもよい。
【0045】
前記コモノマーとしては、プロピレンと共重合可能な他のモノマーであればよく、炭素数2または4~10のα-オレフィンが好ましい。具体的には、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセンなどが挙げられ、これらの中でも、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが好ましい。コモノマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0046】
前記共重合体中のコモノマー由来の構成単位の含有量は、柔軟性等の点から、好ましくは10モル%以下である。
これらプロピレン系重合体(E)の中でも、プロピレンを単独で重合させてなるプロピレン単独重合体セグメントと、プロピレンとエチレンを共重合させてなるプロピレン・エチレン共重合体セグメントを含むプロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E-1)が得られる射出発泡成形体の剛性、耐衝撃性などの物理的性質のバランスがよいので、好ましい。
【0047】
本発明に係るプロピレン系重合体(E)は、従来公知の方法で合成してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えばサンアロマー(株)のポリプロピレン、(株)プライムポリマーのプライムポリプロ、日本ポリプロピレン(株)のノバテック、SCG Plastics社のSCG PP等が挙げられる。
【0048】
本発明に係るプロピレン系重合体(E)のMFR(ASTM D 1238の測定方法に準拠、230℃、2160g荷重)は、好ましくは20~200g/10分であり、より好ましくは30~150g/10分である。
【0049】
本発明に係るプロピレン系重合体(E)のMFRが前記範囲にあると、射出成形性に優れる。
本発明に係るプロピレン系重合体(E)の結晶化温度(Tc)は、コモノマーの含有量、分子量、アイソタクティシティ等の因子によって異なってくるが、単独重合体やブロック共重合体で約100~130℃、ランダム共重合体で約80~110℃である。なお、プロピレン系重合体にフィラーや核剤等が配合されると先に示した結晶化温度が5~15℃高目になる。なお正確な結晶化温度を使用するためには、結晶化温度の測定を行い、その値を金型温度の決定に使用することが望ましい。
【0050】
ここで、結晶化温度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いてサンプルを一旦融解させ、その後10(℃/分)の速度で冷却し、その降温冷却過程でサンプルが結晶化を起こす温度として測定される値である。
【0051】
〈エチレン・α―オレフィン共重合体(F)〉
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、プロピレン系重合体(E)の他に、エチレン・α―オレフィン共重合体(F)を含んでいてもよい。
【0052】
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(F)は、エチレン及び炭素数3~20のα-オレフィンを少なくとも共重合させることで得ることができる。炭素数3~20のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等が挙げられる。これらの中で、柔軟性付与の観点から、炭素数3~12のα-オレフィンが好ましく、プロピレン、1-ブテン、1-オクテン-1がより好ましく、1-オクテンがさらに好ましい。
【0053】
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(F)は、通常、エチレンから導かれる単位が70~99モル%、好ましくは80~97モル%の範囲、および炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる単位が1~30モル%、好ましくは3~20モル%の範囲〔但し、エチレンから導かれる単位と炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる単位との合計量を100モル%とする。〕にある。
【0054】
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(F)には、必要に応じて、不飽和結合を有する単量体を共重合させることができる。不飽和結合を有する単量体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン等の共役ジオレフィン、1、4-ヘキサジエン等の非共役ジオレフィン;ジシクロペンタジエン、ノルボルネン誘導体等の環状ジエン化合物;及びアセチレン類が好ましい。これらの中でも、柔軟性の観点から、エチリデンノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCP)がより好ましい。
【0055】
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(F)は、通常、MFR(ASTM D1238 荷重2160g,温度190℃)が、3~70g/10分、好ましくは10~50g/10分の範囲にある。
【0056】
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(F)は、通常、密度が0.8~0.9g/cm3の範囲にある。
本発明に係るエチレン・α―オレフィン共重合体(F)は、たとえば、チーグラー・ナッタ触媒、バナジウム系触媒やメタロセン触媒など公知の重合用触媒を用いて製造することができる。重合方法としても特に限定されず、溶液重合、懸濁重合、バルク重合法などの液相重合法、気相重合法、その他公知の重合方法で行うことができる。また、これらの共重合体は、本発明の効果を奏する限り限定されず、市販品としても入手可能である。市販品としては、たとえば、ダウ・ケミカル社製の商品名エンゲージ8842〔エチレン・1-オクテン共重合体〕、商品名エンゲージ8407〔エチレン・1-オクテン共重合体〕、エクソンモービル社製のVistalon(登録商標)、住友化学(株)社製のエスプレン(登録商標)、三井化学(株)社製の三井EPT(登録商標)、タフマーP(登録商標)、タフマーA(登録商標)などが挙げられる。
【0057】
〈充填剤(G)〉
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、プロピレン系重合体(E)の他に、無機充填剤、有機充填剤などの充填剤(G)を含んでいてもよい。これら充填剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
〈無機充填剤〉
本発明に係る無機充填剤としては、種々公知の無機充填剤を使用し得る。具体的には、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、シリカなどの酸化物、硫酸バリウムなどの硫酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩、タルク、クレー、マイカなどのケイ酸塩などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
〈有機充填剤〉
本発明に係る有機充填剤としては、種々公知の有機充填剤を使用し得る。具体的には、ポリメトキシシラン系化合物、ポリスチレン、スチレン・アクリル、スチレン・メタクリル系およびメタクリル系化合物、ポリウレタン系化合物、ポリエステル系化合物、フッ化物系化合物、フェノール系化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
《プロピレン系樹脂組成物》
本発明の射出発泡成形体はプロピレン系樹脂組成物から形成される。プロピレン系樹脂組成物は、プロピレン系重合体(E)を主成分として含む。
【0061】
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、上記プロピレン系重合体(E)として、上記プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)を用いてもよい。
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、上記プロピレン系重合体(E)のみを含む組成物であってもよく、上記プロピレン系重合体(E)に加え、上記エチレン・α―オレフィン共重合体(F)および上記充填剤(G)を含む組成物であってもよい。
【0062】
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物が、上記プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)、上記エチレン・α―オレフィン共重合体(F)、および上記充填剤(G)を含む組成物である場合は、好ましくは、上記プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)、上記エチレン・α-オレフィン共重合体(F)および前記充填剤(G)の合計を100質量部としたとき、上記プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)の含有量が60~90質量部の範囲、上記エチレン・α-オレフィン共重合体(F)の含有量が10~40質量部の範囲、および上記充填剤(G)の含有量が30質量部以下である。
【0063】
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物のMFR(ASTM D 1238の測定方法に準拠、230℃、2160g荷重)は、好ましくは20~150g/10分であり、より好ましくは20~120g/10分である。
【0064】
<射出発泡成形体の製造方法>
本発明の射出発泡成形体は、金型に発泡剤を含む溶融したプロピレン系樹脂組成物を射出充填し、金型のキャビティ厚さを拡大してプロピレン系樹脂組成物を発泡させ、冷却した後、発泡層が固化した状態で、その成形体を圧縮(縮小)し、その後に型から成形体を取り出すことで製造される。尚、以下に本発明の成形体を得る方法の一例を示すが、本発明がこれに限定されるものではない。本発明の射出発泡成形体は、上記プロピレン系樹脂組成物の[結晶化温度(Tc)-50℃)]~[(Tc)-90℃]の温度範囲に設定した金型のキャビティ厚さ(V0)に、発泡剤を含む溶融したプロピレン系樹脂組成物を射出充填し、1秒~12秒後に金型キャビティの厚さ(V0)を210~600%に拡大してプロピレン系樹脂組成物を発泡させ〔この時のキャビティ厚さ(V1)とする〕、5秒以上冷却した後に、キャビティの拡大厚さを、拡大した厚さ(V1-V0)の4~90%の厚さに、圧縮(縮小)し〔圧縮時のキャビティ厚さ:V2)、0.1秒以上圧力を保持後、金型から成形体を取り出して射出発泡成形体を製造する方法において、得られる成形体の厚さ(V3)が、(V1)>(V3)>(V2)であることを特徴とする射出発泡成形体の製造方法により製造し得る。
【0065】
図2に示すように、プロピレン系樹脂組成物は、金型のキャビティ厚さ(V0)に充填(
図2では樹脂充填量)され、次いで、金型が拡大し、拡大した金型のキャビティ厚さ(V1)の成形体となり、その後、金型が圧縮されて成形体の厚さは薄くなり(V2)、金型から取り出すと厚さが復元し、厚さ(V3)の発泡成形体となる。
【0066】
《射出発泡成形体の用途》
本発明の射出発泡成形体は、剛性を備えながらも、発泡成形体を指で押した時に柔らかさを感じるクッション性を有するので、自動車の内装部品、電器製品、建材等の各種用途に好適に用いることができる。特に軽量性、剛性、外観のバランスに優れるとともに、断熱性にも優れるため、自動車の内装部品に特に好適に用いることができ、自動車のドアトリム、部分的にクッション性を付与したい部品等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例で用いたプロピレン系樹脂組成物に含まれる重合体は以下の重合体等を用いた。
(1)プロピレン系重合体(E)
(1-1)プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1-1)
プロピレン系重合体(E)として、プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(n-デカン可溶部=11質量%、エチレン含量=41モル%、極限粘度[η]=8dl/g、MFR(230℃、2.16kg)=85g/10分)(E1-1)〔表1では(PP-1)と表記〕を用いた。
(1-2)プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1-2)
プロピレン系重合体(E)として、プライムポリプロ 商品名NA600(MFR(230℃、2.16kg)=63g/10分、密度=970kg/m3)のプロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1-2)〔表1では(PP-2)と表記〕を用いた。
【0068】
PP-2は、充填剤(G)として、タルクを11質量%含有している。
(1-3)プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1-3)
プロピレン系重合体(E)として、プライムポリプロ 商品名X5061(MFR(230℃、2.16kg)=32g/10分、密度=1030kg/m3)のプロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1-2)〔表1では(PP-3)と表記〕を用いた。
【0069】
PP-3は充填剤(G)として、タルクを20質量%含有している。
(2)エチレン・α-オレフィン共重合体(F)
エチレン・α-オレフィン共重合体(F)として、エチレン・1-オクテン共重合体(The Dow Chemical Company製、商品名EG8407、MFR(190℃、2.16kg)=30g/10分、密度=0.87kg/m3)〔F-1〕を用いた。
【0070】
実施例および比較例において、プロピレン系樹脂組成物、重合体、および射出発泡成形体などの物性の測定は以下の方法で行った。
[メルトフローレート(MFR)]
発泡剤を含有しない状態で、ASTM D-1238に基づき190℃又は230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0071】
[プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)中のn-デカン不溶部(a1)およびn-デカン可溶部(a2)の含有量]
ガラス製の測定容器に、プロピレン・エチレン系ブロック共重合体約3g(10-4gの単位まで測定した。また、この質量を、下記の式においてb(g)と表した。)、n-デカン500mL、およびn-デカンに可溶な耐熱安定剤を少量投入し、窒素雰囲気下、スターラーで攪拌しながら2時間で150℃に昇温してプロピレン・エチレン系ブロック共重合体をn-デカンに溶解させた。次いで、150℃で2時間保持した後、8時間かけて23℃まで徐冷した。得られたプロピレン・エチレン系ブロック共重合体の析出物を含む液を、磐田ガラス社製25G-4規格のグラスフィルターで減圧ろ過した。ろ液の100mLを採取し、これを減圧乾燥して上記成分(a2)の一部を得た。この質量を10-4gの単位まで測定した(この質量を、下記の式においてa(g)と表した)。次いで、プロピレン・エチレン系ブロック共重合体(E1)中の成分(a1)および(a2)の含有量を以下の式により求めた。
【0072】
成分(a2)の含有量 [質量%]=100×5a/b
成分(a1)の含有量 [質量%]=100-成分(a2)の含有量
[極限粘度([η]:dl/g)]
デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。
【0073】
[密度]
ISO 1183(JIS K7112)に準じて測定した。
[ソリッドスキン層の厚さの測定]
射出発泡成形体のソリッドスキン層の厚さは以下の方法で測定した。
【0074】
まず、セルを破壊しないように射出発泡成形体断面を鋭利な刃物で切断し、その断面写真をデジタルマイクロスコープVHX-6000((株)キーエンス社製)を用いて撮影した。断面画像は100倍以上に拡大した画像を撮影し、その断面画像からデジタルマイクロスコープの測定機能を用いて、ソリッドスキン層と発泡層の境界部分を画像の左右2点取りそれを結んでできる線に対して垂線を引き、ソリッド層の表部との距離をμm単位で測定し、ソリッドスキン層の厚みとした。なお、表層にシボ等(リブ等の面から明らかに飛び出している部分は除く)が有り厚さが場所によりズレを生じるときはシボの頂点と谷部の中間位置をそのソリッド層の端部として、同様に測定を行う。
【0075】
得られたソリッド状のスキン層(発泡層を挟んだ発泡セルの無い表面と裏面のソリッドスキン層)の厚みをμm単位で計測し、その平均をソリッドスキン層厚(μm)とした。
[発泡セル層(B1),(B2)の発泡セル径の測定]
射出発泡成形体のソリッドスキン層に接した発泡セル層(B1)および(B2)に分布している発泡セルの板厚方向セル径と平面方向(板厚と直角の方向)のセル径は以下の方法で測定した。
【0076】
ソリッドスキン層の厚さ測定で使用した断面画像からデジタルマイクロスコープの測定機能を用いて、板厚方向にほぼ均等の配置となるように、10個以上の発泡セルを定め、その発泡セルの板厚方向のセル径と平面方向のセル径を計測し、それぞれの平均径を発泡セルの径(μm)とした。
【0077】
[発泡層(C)の蛇行角の測定]
射出発泡成形体の発泡セル層(B1)と(B2)に挟まれた発泡層(C)のセル壁の湾曲の大きさを調べる蛇行角度は以下の方法で測定した。
【0078】
ソリッドスキン層の厚さ測定で使用した断面画像からデジタルマイクロスコープの測定機能を用いて、成形体表面に対する垂線を引き、発泡層(C)の上下1/2の領域からセル壁の蛇行部左右の傾きを各1点ピックアップして垂線からの傾きを測定し、測定傾きを平均して蛇行角とした。蛇行角が小さいと発泡層(C)の変形が起こり難くなるため、蛇行角は25°以上を基準として評価を行った。
【0079】
射出発泡成形体の厚さ(板厚)は、デジタルノギスCD-S15C((株)ミツトヨ製)を使用し、成形体の無い状態でノギスの外側用ジョウを締め込んで表示が0であることを事前に確認した後に、成形体を地面に対して垂直もしくは手前方向に向けてノギスの外側用ジョウのやや奥寄りで挟み込むようにゆっくりと締めて、成形体に傾きの無いようにして測定を行った。このときサムローラを使用して成形体に余分な力が掛からないようできるだけゆっくりと均一な力で挟み込むように注意してmm単位で測定を行った。
【0080】
[剛性(曲げ弾性勾配)]
射出発泡成形体を50mmx150mmのサイズで切り出し、試験機としてオートグラフ((株)島津製作所製、AG-1kNX plus)を用いて、支持間隔100mmの中心位置に曲げ速度50mm/minの速度で荷重を加え曲げ試験(三点曲げ)を行ったときに、たわみ量が0~10mmの間において得られる「荷重-たわみ曲線」において、JIS K7221-2記載の方法で引かれた線の傾き(=荷重/たわみ)を、曲げ弾性勾配(N/cm)とし、これを剛性比較に使用した。
【0081】
なお、剛性比較に使用した曲げ弾性勾配は、曲げ弾性率1000MPaで板厚2.3mmの成形体で上記同条件の測定で得られた曲げ弾性勾配27N/cm以上を剛性感有りとして評価をした。
【0082】
[押し柔らかさ(押し弾性勾配)]
試験機としてオートグラフ((株)島津製作所製、AG-100kNX)を用いて、射出発泡成形体の平面に、直径4mmで先端が平坦な円形圧子を速度1mm/minで押付けて荷重を加えた試験を行った時に、成形体厚さの減少量が0~10%の間において得られる「力-変形量曲線」において、JIS K7220記載の方法で引かれた線の傾き(=力/変形量)を押し弾性勾配(N/mm)とし、これを押し柔らかさの指標として使用した。
【0083】
なお、押し柔らかさ比較に使用した押し弾性勾配は、ミラストマー7030BS(三井化学(株)製)を用い板厚1.8mmの成形体で上記同条件の測定で得られた押し弾性勾配の9割以下(押し弾性勾配120N/mm以下)を押し柔らかさ有りとして評価をした。
【0084】
[クッション性]
成形体を指で押した時に、押し柔らかさを感じるかどうかで以下の評価を実施した。
指で表面を押したとき、クッション感がある:○
指で表面を押したとき、クッション感がない:×
<実施例1>
上記PP-1を76質量部、および上記F-1を24質量部(合計100質量部)混合して、押出機を用いて通常ペレット状に加工して得たプロピレン系樹脂組成物に対してCO2系発泡剤マスターバッチ(永和化成工業(株)製、商品名EE515)を組成物:100質量部当り無機発泡剤が5質量部、およびN2系発泡剤マスターバッチ(永和化成工業(株)製、商品名EE206)を組成物:100重量部当たり2.5質量部になる量で、また着色剤として黒マスターバッチを3重量部添加し混合して射出成形機のホッパーに投入し溶融混練を行った。なお、使用した発泡剤は低密度ポリエチレンに発泡剤を練り込んでマスターバッチ化したものであるため、実際の発泡剤成分としては3重量%相当である。実施例1で用いたプロピレン系樹脂組成物の組成を表1に示す。射出成形機((株)日本製鋼所製、装置名J350ADS)は、以下の条件でコアバック射出発泡成形を行い、表面がスキン層により被覆された板状の射出発泡成形体を得た。
【0085】
キャビティサイズ:縦400mm、横200mm、充填樹脂厚1.8mm
ゲート:キャビティ中央1点ダイレクトゲート
射出温度:205℃
金型表面温度:50℃
射出時金型キャビティクリアランス(L0):1.8mm
射出率:309cc/s
成形機コアバック時間設定:0.1s(コアバック開始から終了までの時間)
射出完了からコアバック開始の時間:5.8s
コアバック量:5mm
圧縮開始時間:コアバック完了後40s
コアバック状態からの圧縮量:1mm
得られた成形体は、板厚が6.3mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
【0086】
結果を表1に示す。
<実施例2>
コアバック状態からの圧縮量を、2mmとした以外は実施例1と同様に行い成形体を得た。得られた成形体は板厚が6.2mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
【0087】
結果を表1に示す。
<実施例3>
コアバック状態からの圧縮量を、3mmとした以外は実施例1と同様に行い成形体を得た。得られた成形体は板厚が5.9mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
【0088】
結果を表1に示す。
<実施例4>
充填樹脂厚を1.5mmとし、射出時キャビティクリアランスも1.5mmとした。また、射出完了からコアバック開始の時間を3.8s、コアバック量を3mm、圧縮開始時間を30sとした以外は実施例2と同様に成形を行った。得られた成形体は板厚が4.1mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
【0089】
結果を表1に示す。
<実施例5>
発泡剤を無機発泡剤マスターバッチ(永和化成工業(株)製、商品名EE515)を組成物:100質量部当り6質量部とした以外は実施例4と同じ条件にて成形を行った。得られた成形体は板厚が4.1mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。発泡状態は多少セルが大きめになったが、得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
【0090】
結果を表1に示す。
<実施例6>
実施例1で用いたプロピレン系樹脂組成物に替えて、上記PP-2(タルク含有プロピレン系樹脂組成物)を用いる以外は、同様に行い成形体を得た。得られた成形体は板厚が5.9mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
【0091】
結果を表1に示す。
<実施例7>
実施例1で用いたプロピレン系樹脂組成物に替えて、上記PP-3(タルク含有プロピレン系樹脂組成物)を用いる以外は、同様に行い成形体を得た。得られた成形体は板厚が6.1mmであった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、5層構造を持ち、発泡セル層(B1)および(B2)の発泡セルの状態、発泡層(C)の蛇行状況、曲げ弾性勾配、押し弾性勾配、クッション性は良好であった。
【0092】
結果を表1に示す。
<比較例1>
射出した後にコアバックや圧縮を行わず成形体を取り出した以外は実施例1と同じ条件で成形を行った。得られた成形体は発泡をしておらず、板厚が1.8mmのソリッド状の成形体であった。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。成形体は、ソリッド状態であり、曲げ弾性勾配が低く、押し弾性勾配も高く、クッション感が不足していた。
【0093】
結果を表1に示す。
<比較例2>
コアバック量:1mm、コアバック状態からの圧縮量:0mmとした以外は実施例1と同じ条件で成形を行った。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、発泡層(C)が存在しない3層構造であり、板厚が2.8mmであり、発泡状態は良好で、曲げ弾性勾配は満足したが、押し弾性勾配が高く、クッション感が不足していた。
【0094】
結果を表1に示す。
<比較例3>
コアバック量:3mm、コアバック状態からの圧縮量:0mmとした以外は実施例1と同じ条件で成形を行った。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、発泡層(C)が存在しない3層構造であり、板厚が4.6mmであり、発泡状態は良好で、曲げ弾性勾配は満足したが、押し弾性勾配が高く、クッション感が不足していた。
【0095】
結果を表1に示す。
<比較例4>
コアバック量:5mm、コアバック状態からの圧縮量:0mmとした以外は実施例1と同じ条件で成形を行った。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、発泡層(C)が存在しない3層構造であり、板厚が6.5mmであり、発泡状態は良好で、曲げ弾性勾配は満足したが、押し弾性勾配が高く、クッション感が不足していた。
【0096】
結果を表1に示す。
<比較例5>
射出した後にコアバックや圧縮を行わず成形体を取り出した以外は実施例4と同じ条件で成形を行った。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は発泡をしておらず、板厚が1.5mmのソリッド状であり、曲げ弾性勾配が不足しており、押し弾性勾配が高く、クッション感も不足していた。
【0097】
結果を表1に示す。
<比較例6>
コアバック量:3mm、コアバック状態からの圧縮量:0mmとした以外は実施例4と同じ条件で成形を行った。得られた成形体の物性を上記記載の方法で測定した。得られた成形体は、発泡層(C)が存在しない3層構造であり、板厚が4.4mmであり、発泡状態は良好で、曲げ弾性勾配は満足したが、押し弾性勾配が高く、クッション感が不足していた。
【0098】
結果を表1に示す。
【0099】
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の射出発泡成形体は、軽量化と質感を併せ持つため、自動車の内装部品、電器製品、建材等の各種用途に好適に用いることができる。特に軽量性、剛性、外観のバランスに優れるとともに、断熱性にも優れるため、自動車の内装部品に特に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0101】
A1、A2:ソリッドスキン層
B1、B2:発泡セル層
C:発泡セルを持たない発泡層