IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の制御システム 図1
  • 特許-車両の制御システム 図2
  • 特許-車両の制御システム 図3
  • 特許-車両の制御システム 図4
  • 特許-車両の制御システム 図5
  • 特許-車両の制御システム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20240507BHJP
   B60W 30/182 20200101ALI20240507BHJP
   B60W 40/076 20120101ALI20240507BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W30/182
B60W40/076
F02D29/02 331Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020173765
(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公開番号】P2022065289
(43)【公開日】2022-04-27
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 陽一
(72)【発明者】
【氏名】梅津 大輔
(72)【発明者】
【氏名】延谷 尚輝
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-115763(JP,A)
【文献】特開2010-223164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/02
B60W 30/182
B60W 40/076
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪を駆動するための動力を供給するエンジンを有する車両の制御システムであって、
前記車両の車幅方向に沿った路面勾配を計測する勾配計測手段と、
前記車両の運転者の操作に応じて、通常走行のための第1走行モードと悪路走行のための第2走行モードとを含む複数の走行モードの中から1つの走行モードを選択する走行モード選択手段と、
前記エンジンのアイドル回転数を決定し、アイドリング時に前記エンジンの回転数が前記アイドル回転数となるように前記エンジンを制御するエンジン制御手段と、を有し、
前記エンジン制御手段は、前記勾配計測手段により計測された前記路面勾配が所定値より大きく、且つ、前記走行モード選択手段により前記第2走行モードが選択されている場合には、前記第1走行モードが選択されている場合又は前記路面勾配が前記所定値以下の場合よりも前記アイドル回転数を高くする、
ことを特徴とする車両の制御システム。
【請求項2】
前記エンジン制御手段は、前記勾配計測手段により計測された前記路面勾配が前記所定値より大きく、且つ、前記走行モード選択手段により前記第2走行モードが選択されている場合において、前記路面勾配が大きいときには、前記路面勾配が小さいときよりも前記アイドル回転数を高くする、請求項1に記載の車両の制御システム。
【請求項3】
前記車両の舵角を計測する舵角計測手段と、
前記車両が前進しているか又は後退しているかを判定する前進後退判定手段と、を有し、
前記エンジン制御手段は、
前記舵角計測手段により計測された前記舵角と、前記前進後退判定手段による判定結果とに基づき、前記車両の進行方向を判定し、
前記勾配計測手段により計測された前記路面勾配が前記所定値より大きく、且つ、前記走行モード選択手段により前記第2走行モードが選択されている場合において、前記進行方向が前記車両の車幅方向に沿った前記路面勾配の下り方向であるときには、そうでないときよりも前記アイドル回転数を低くする、
請求項1又は2に記載の車両の制御システム。
【請求項4】
前記エンジン制御手段は、前記勾配計測手段により計測された前記路面勾配が前記所定値より大きく、且つ、前記走行モード選択手段により前記第2走行モードが選択されている場合であっても、前記進行方向が前記車両の車幅方向に沿った前記路面勾配の下り方向であるときには、前記進行方向に応じて、前記第1走行モードが選択されている場合又は前記路面勾配が前記所定値以下の場合よりも前記アイドル回転数を低くする、請求項3に記載の車両の制御システム。
【請求項5】
前記エンジン制御手段は、前記勾配計測手段により計測された前記路面勾配が前記所定値より大きく、且つ、前記走行モード選択手段により前記第2走行モードが選択されている場合において、前記進行方向が前記車両の車幅方向に沿った前記路面勾配の上り方向であるときには、そうでないときよりも前記アイドル回転数を高くする、
請求項3又は4に記載の車両の制御システム。
【請求項6】
駆動輪を駆動するための動力を供給するエンジンを有する車両の制御システムであって、
前記車両の加速度を測定する加速度センサと、
通常走行のための第1走行モードと悪路走行のための第2走行モードとを含む複数の走行モードの中から1つの走行モードを選択するための操作を受け付ける走行モード選択スイッチと、
プログラムを格納するメモリと、
前記プログラムを実行するプロセッサと、を有し、
前記プロセッサは、
前記加速度センサにより検出された加速度に基づき、前記車両の車幅方向に沿った路面勾配を取得し、
前記エンジンのアイドル回転数を決定し、アイドリング時に前記エンジンの回転数が前記アイドル回転数となるように前記エンジンを制御し、
前記路面勾配が所定値より大きく、且つ、前記走行モード選択スイッチにより前記第2走行モードが選択されている場合には、前記第1走行モードが選択されている場合又は前記路面勾配が前記所定値以下の場合よりも前記アイドル回転数を高くするように構成されている、
ことを特徴とする車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動輪を駆動するための動力を供給するエンジンを有する車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動輪を駆動するための動力源としてエンジンを備える車両において、上り勾配の道路で車両が停止状態から発進するときにエンジンのアイドル回転数を上昇させる技術が提案されている。例えば、特許文献1には、車両が上り勾配の坂道に停止した後に坂道発進を行う際、トルク不足によるエンジン停止を回避するために、停車時にアイドル運転が行われているときに路面勾配にしたがってアイドル回転数を増加させることで、アイドル運転時のエンジントルクを上昇させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-220042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば未舗装路のように路面の凹凸が激しい悪路を走行している場合、運転者は舗装路を走行している場合よりもアクセルペダルを大きく踏み込む傾向がある。しかしながら、凹凸の激しい路面は一般に摩擦係数が小さいので、駆動輪が空転しやすい。即ち、悪路走行中は通常よりも駆動輪が空転しやすいにも関わらず、運転者は通常よりもアクセルペダルを大きく踏み込むので、駆動輪へ伝達される駆動トルクが過大となり一層駆動輪が空転しやすい状況となってしまう。特に、車両の車幅方向に沿った路面勾配のある坂道において発進を行う場合、斜面の上側に位置する駆動輪の荷重が相対的に小さくなるので、さらに駆動輪が空転しやすくなってしまう。上記した特許文献1記載された技術では、悪路走行時のアクセルペダルの踏み過ぎや駆動輪の空転を考慮に入れてアイドル回転数を決定してはいない。
【0005】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、悪路を走行する状況において、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みを防止し、駆動輪の空転を抑制することができる車両の制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、駆動輪を駆動するための動力を供給するエンジンを有する車両の制御システムであって、車両の車幅方向に沿った路面勾配を計測する勾配計測手段と、車両の運転者の操作に応じて、通常走行のための第1走行モードと悪路走行のための第2走行モードとを含む複数の走行モードの中から1つの走行モードを選択する走行モード選択手段と、エンジンのアイドル回転数を決定し、アイドリング時にエンジンの回転数がアイドル回転数となるようにエンジンを制御するエンジン制御手段と、を有し、エンジン制御手段は、勾配計測手段により計測された路面勾配が所定値より大きく、且つ、走行モード選択手段により第2走行モードが選択されている場合には、第1走行モードが選択されている場合又は路面勾配が所定値以下の場合よりもアイドル回転数を高くする、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によれば、運転者が悪路を走行すると認識しておりアクセルペダルを大きく踏み込みやすい状況であって、さらに車幅方向に沿った所定値以上の路面勾配のある坂道という駆動輪の空転が発生しやすい状況においては、エンジン制御手段はアイドル回転数を高く設定する。これにより、アイドリング中のエンジンからの駆動トルクを大きくすることができるので、運転者がアクセルペダルを大きく踏み込まなくても車両を容易に前進させることができる。したがって、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みを防止し、駆動輪の空転を抑制することができる。
【0007】
本発明において、好ましくは、エンジン制御手段は、勾配計測手段により計測された路面勾配が所定値より大きく、且つ、走行モード選択手段により第2走行モードが選択されている場合において、路面勾配が大きいときには、路面勾配が小さいときよりもアイドル回転数を高くする。
このように構成された本発明によれば、車両の車幅方向に沿った勾配が大きいためにアクセルペダルの過剰な踏み込みや駆動輪の空転が一層発生しやすい状況においては、エンジン制御手段はアイドル回転数をさらに高く設定する。したがって、アイドリング中のエンジンからの駆動トルクを路面勾配に応じて適切な大きさにすることができ、様々な路面勾配においても運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みを防止し、駆動輪の空転を抑制することができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、車両の制御システムは、車両の舵角を計測する舵角計測手段と、車両が前進しているか又は後退しているかを判定する前進後退判定手段と、を有し、エンジン制御手段は、舵角計測手段により計測された舵角と、前進後退判定手段による判定結果とに基づき、車両の進行方向を判定し、勾配計測手段により計測された路面勾配が所定値より大きく、且つ、走行モード選択手段により第2走行モードが選択されている場合において、進行方向が車両の車幅方向に沿った路面勾配の下り方向であるときには、そうでないときよりもアイドル回転数を低くする。
このように構成された本発明によれば、車両の進行方向が路面勾配の下り方向であり、エンジンの回転上昇に応じて車両が路面勾配の下り方向へ飛び出しやすい状況においては、エンジン制御手段はアイドル回転数を低く設定する。これにより、運転者が悪路を走行すると認識しており且つ車幅方向に沿った路面勾配のある坂道においては、アイドル回転数を高く設定することにより運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みを防止して駆動輪の空転を抑制しつつも、アイドル回転数が過剰に高くなることを制限することにより、車両が路面勾配の下り方向へ飛び出すことを防止できる。
【0009】
本発明において、好ましくは、エンジン制御手段は、勾配計測手段により計測された路面勾配が所定値より大きく、且つ、走行モード選択手段により第2走行モードが選択されている場合であっても、進行方向が車両の車幅方向に沿った路面勾配の下り方向であるときには、進行方向に応じて、第1走行モードが選択されている場合又は路面勾配が所定値以下の場合よりもアイドル回転数を低くする。
このように構成された本発明によれば、車両の進行方向が路面勾配の下り方向であり、エンジンの回転上昇に応じて車両が路面勾配の下り方向へ特に飛び出しやすい状況においては、エンジン制御手段はアイドル回転数を通常のアイドル回転数より低く設定する。これにより、車両が路面勾配の下り方向へ飛び出すことを確実に防止できる。
【0010】
本発明において、好ましくは、エンジン制御手段は、勾配計測手段により計測された路面勾配が所定値より大きく、且つ、走行モード選択手段により第2走行モードが選択されている場合において、進行方向が車両の車幅方向に沿った路面勾配の上り方向であるときには、そうでないときよりもアイドル回転数を高くする。
このように構成された本発明によれば、車両の進行方向が路面勾配の上り方向であり、アクセルペダルの過剰な踏み込みや駆動輪の空転が一層発生しやすい状況においては、エンジン制御手段はアイドル回転数をさらに高く設定する。したがって、アイドリング中のエンジンからの駆動トルクを進行方向に応じて適切な大きさにすることができ、車両の進行方向が路面勾配の上り方向である場合でも運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みを防止し、駆動輪の空転を抑制することができる。
【0011】
別の観点では、本発明は、駆動輪を駆動するための動力を供給するエンジンを有する車両の制御システムであって、車両の加速度を測定する加速度センサと、通常走行のための第1走行モードと悪路走行のための第2走行モードとを含む複数の走行モードの中から1つの走行モードを選択するための操作を受け付ける走行モード選択スイッチと、プログラムを格納するメモリと、プログラムを実行するプロセッサと、を有し、プロセッサは、加速度センサにより検出された加速度に基づき、車両の車幅方向に沿った路面勾配を取得し、エンジンのアイドル回転数を決定し、アイドリング時にエンジンの回転数がアイドル回転数となるようにエンジンを制御し、路面勾配が所定値より大きく、且つ、走行モード選択スイッチにより第2走行モードが選択されている場合には、第1走行モードが選択されている場合又は路面勾配が所定値以下の場合よりもアイドル回転数を高くするように構成されている、ことを特徴とする。
このように構成された本発明によれば、運転者が悪路を走行すると認識しておりアクセルペダルを大きく踏み込みやすい状況であって、さらに所定値以上の上り勾配の坂道という駆動輪の空転が発生しやすい状況においては、プロセッサはアイドル回転数を高く設定する。これにより、アイドリング中のエンジンからの駆動トルクを大きくすることができるので、運転者がアクセルペダルを大きく踏み込まなくても車両を容易に前進させることができる。したがって、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みを防止し、駆動輪の空転を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両の制御システムによれば、悪路を走行する状況において、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みを防止し、駆動輪の空転を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態による車両の制御システムが適用された車両の概略構成図である。
図2】本発明の実施形態による車両の制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態によるアイドル回転数決定処理のフローチャートである。
図4】車幅方向に沿った路面勾配とエンジンの勾配補正回転数との関係を示す説明図である。
図5】車両の進行方向と進行方向補正係数との関係を示す説明図である。
図6】本発明の実施形態による車両の制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるハイブリッド車両の制御装置を説明する。
【0015】
<装置構成>
まず、図1を参照して、本発明の実施形態による車両の制御システムが適用された車両の全体構成について説明する。図1は、本発明の実施形態による車両の制御システムが適用された車両の概略構成図である。
【0016】
図1に示すように、車両1は、主に、エンジン2と、トランスミッション4と、フロントドライブシャフト6と、左右一対の前輪8と、左右一対の後輪10と、コントローラ12と、走行モード選択スイッチSN1と、車輪速センサSN2と、加速度センサSN3と、舵角センサSN4と、シフトポジションセンサSN5とを有する。
【0017】
車両1は、フロントエンジン・フロントドライブ方式(FF方式)の二輪駆動車であり、前輪8が駆動輪として機能する。また、車両1は、図示しないステアリングホイールの操作に応じて、前輪8を操舵するように構成されている。なお、本発明の少なくとも一部は、図1に示すような四輪駆動車の駆動形式への適用に限定はされず、種々の駆動形式(例えばFF方式やフロントエンジン・リアドライブ方式(FR方式)などの二輪駆動車や、FF方式又はFR方式をベースとした四輪駆動車等)に対しても適用可能である。
【0018】
エンジン2は、燃料と空気との混合気を燃焼させて、車両1の推進力としての駆動トルク(エンジントルク)を発生し、この駆動トルクをトランスミッション4に伝達する。トランスミッション4は、複数の段階にギヤ比を変化させることが可能な変速機であり、エンジン2からの駆動トルクを設定されたギヤ比にて伝達する。この場合、トランスミッション4は、エンジン2からの駆動トルクを、フロントドライブシャフト6を介して前輪8に伝達する。
【0019】
走行モード選択スイッチSN1は、例えば舗装路のように滑らかな路面を走行する通常走行のための通常モード(第1走行モード)と、例えば未舗装路のように路面の凹凸が激しい悪路を走行するためのオフロードモード(第2走行モード)との何れかの走行モードを選択するためのスイッチであり、車両1の運転者が操作可能な位置(典型的には車室内のセンターコンソールやダッシュボード上)に配置されている。なお、走行モード選択スイッチSN1は、通常モード及びオフロードモードに加えて他の走行モード(例えばスポーツモードや雪上モード等)を選択可能であってもよい。車輪速センサSN2は、車輪の速度を検出する。典型的には、車輪速センサSN2は左右の前輪8及び左右の後輪10のそれぞれに設けられ、各車輪の速度を検出する。加速度センサSN3は、典型的には、車両1の前後方向、左右方向及び上下方向の3軸の加速度を測定可能な3軸加速度センサである。舵角センサSN4は、車両1の舵角を検出する。例えば、舵角センサSN4は、図示しないステアリングシャフトの回転角度に基づき操舵角を検出する。シフトポジションセンサSN5は、図示しないシフトレバーやパドルスイッチにより選択されたシフトポジション(例えばPレンジ、Rレンジ、Dレンジ等)を検出する。これらの走行モード選択スイッチSN1、車輪速センサSN2、加速度センサSN3、舵角センサSN4及びシフトポジションセンサSN5は、それぞれ、検出した走行モード、車輪速度、加速度、舵角及びシフトポジションに対応する検出信号をコントローラ12に出力する。
【0020】
次に、図2は、本発明の実施形態による車両の制御システムの電気的構成を示すブロック図である。
【0021】
図2に示すように、コントローラ12には、走行モード選択スイッチSN1からの信号と、車輪速センサSN2からの信号と、加速度センサSN3からの信号と、舵角センサSN4からの信号と、シフトポジションセンサSN5からの信号とが入力されるようになっている。
【0022】
コントローラ12は、1つ以上のプロセッサ12a(典型的にはCPU)と、当該プロセッサ上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如きメモリ12bと、を備えるコンピュータにより構成される。コントローラ12は、本発明における「車両の制御システム」の「勾配計測手段」、「走行モード選択手段」、「エンジン制御手段」、「舵角計測手段」及び「前進後退判定手段」として機能する。
【0023】
具体的には、コントローラ12は、上述した走行モード選択スイッチSN1、車輪速センサSN2、加速度センサSN3、舵角センサSN4及びシフトポジションセンサSN5からの検知信号に基づき、主に、エンジン2に対して制御信号を出力し、これを制御する。例えば、コントローラ12は、エンジン2の点火時期、燃料噴射時期、燃料噴射量を調整する制御などを行う。より具体的には、例えば、コントローラ12は、エンジン2の点火プラグや燃料噴射弁やスロットル弁などを制御する。
【0024】
<車両の制御>
次に、本発明の実施形態において、コントローラ12が行う制御内容について説明する。本実施形態では、コントローラ12は、エンジン2のアイドル回転数を決定するアイドル回転数決定処理を実行する。
【0025】
まず、図3から図5を参照して、本発明の実施形態によるアイドル回転数決定処理について具体的に説明する。図3は、本発明の実施形態によるアイドル回転数決定処理のフローチャートであり、図4は、車幅方向に沿った路面勾配とエンジンの補正回転数との関係を示す説明図であり、図5は、車両の進行方向とエンジンの補正回転数に対する補正係数との関係を示す説明図である。アイドル回転数決定処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両システムに電源が投入された場合に起動され、コントローラ12によって所定周期で繰り返し実行される。
【0026】
図3に示すアイドル回転数決定処理が開始されると、ステップS11において、コントローラ12は、上述した走行モード選択スイッチSN1、車輪速センサSN2、加速度センサSN3、舵角センサSN4及びシフトポジションセンサSN5からの検知信号に対応する情報も含めて、車両1の種々の情報を取得する。そして、コントローラ12は、ステップS12に進む。
【0027】
ステップS12において、コントローラ12は、ステップS11において取得した情報に基づき、通常アイドル回転数Rsを算出する。通常アイドル回転数Rsは、コントローラ12がアイドル回転数決定処理において走行モードや路面勾配に基づきアイドル回転数の補正を行わない通常の状況におけるアイドル回転数である。具体的には、コントローラ12は、エンジン2の冷却水温度、車両1のエアコン用コンプレッサの動作状態、車両1における電力の使用状況等とアイドル回転数との関係について規定されたアイドル回転数マップ(予め作成されてメモリ12bなどに記憶されている)を参照し、ステップS11において取得した情報に基づく現在の車両1の各種状態に対応する通常アイドル回転数Rsを算出する。例えば、通常アイドル回転数Rsは約800rpmである。
【0028】
次に、ステップS13において、コントローラ12は、走行モード選択スイッチSN1からの検知信号に基づき、走行モードとしてオフロードモードが選択されているか否かを判定する。具体的には、運転者が走行モード選択スイッチSN1を操作してオフロードモードを選択した場合には、オフロードモードが選択されていると判定し(ステップS13:Yes)、オフロードモード以外の走行モード(例えば通常モード)を選択した場合には、オフロードモードが選択されていないと判定する(ステップS13:No)。
【0029】
ステップS13において、オフロードモードが選択されていると判定した場合(ステップS13:Yes)、ステップS14に進み、コントローラ12は、勾配補正回転数Rc及び進行方向補正係数Kdを取得する。勾配補正回転数Rcは、オフロードモードが選択されている場合に車幅方向に沿った路面勾配に応じてアイドル回転数を補正するための補正値である。例えば、コントローラ12は、車輪速センサSN2や加速度センサSN3から入力された信号に基づき、重力ベクトルと車両1の車幅方向軸線との角度を求め、この角度から車両1の車幅方向に沿った路面勾配を算出する。そして、図4に示すような、車両1の車幅方向の路面勾配と勾配補正回転数Rcとの関係について規定されたマップ(予め作成されてメモリ12bなどに記憶されている)を参照し、上記のように算出した路面勾配に対応する勾配補正回転数Rcを取得する。図4のマップにおける横軸は車両1の車幅方向の路面勾配[%]の大きさ(絶対値)を示す。また、縦軸は勾配補正回転数Rc[rpm]を示す。図4に示すように、車両1の車幅方向の路面勾配が閾値m1以下である場合、対応する勾配補正回転数Rcは0である。即ち、車両1の車幅方向の路面勾配が閾値m1以下である場合、コントローラ12は、アイドル回転数を補正する制御を行わない。一方、車両1の車幅方向の路面勾配が閾値m1より大きい場合には、路面勾配が閾値m2に達するまでの間は、路面勾配が大きいほど勾配補正回転数Rcが大きくなる。即ち、車両1の車幅方向に沿った路面勾配が大きいときには、路面勾配が小さいときよりも勾配補正回転数Rcが大きい。さらに、路面勾配がm2以上の場合には、勾配補正回転数Rcは最大値Rcmaxで一定となる。この補正回転数の最大値Rcmaxは、エンジン2の信頼性やNVH性能の要求に応じて設定することができ、例えば700rpmである。また、路面勾配の閾値m1及びm2は、例えばエンジン2のトルク特性、車両1の重量、タイヤのグリップ力等に応じて設定することができ、例えばm1は5%、m2は30%である。
【0030】
また、進行方向補正係数Kdは、オフロードモードが選択されている場合に、車両1の進行方向に応じて勾配補正回転数Rcを調整するために、勾配補正回転数Rcに乗算される係数である。具体的には、コントローラ12は、まず、上記のように算出した車両1の車幅方向に沿った路面勾配と、舵角センサSN4及びシフトポジションセンサSN5から入力された信号とに基づき、車両1の進行方向を特定する。本実施形態においては、コントローラ12は、上り方向の舵角又は下り方向の舵角を、車両1の進行方向として用いるものとする。例えば、コントローラ12は、上記のように算出した路面勾配に基づき、車両1の左側又は右側の何れが路面勾配の上り方向であるかを特定する。そして、舵角センサSN4及びシフトポジションセンサSN5から入力された信号に基づき、車両1の舵角が車幅方向に沿った路面勾配の上り方向又は下り方向の何れに向いているのかを特定する。
【0031】
例えば、路面が車両1の左側に向かって上り勾配である場合において、舵角が車両1の前方に向かって左側に30degであり且つ車両1のシフトポジションがDレンジである(即ち車両1が前進する)場合、車両1は上り方向に前進するので、車両1の進行方向は上り方向の舵角30degである。一方、路面が車両1の左側に向かって上り勾配である場合において、舵角が車両1の前方に向かって右側に30degであり且つ車両1のシフトポジションがDレンジである場合、車両1は下り方向に前進するので、車両1の進行方向は下り方向の舵角30degである。また、路面が車両1の左側に向かって上り勾配である場合において、舵角が車両1の前方に向かって左側に30degであり且つ車両1のシフトポジションがRレンジである(即ち車両1が後退する)場合、車両1は上り方向に後退するので、車両1の進行方向は上り方向の舵角30degである。一方、路面が車両1の左側に向かって上り勾配である場合において、舵角が車両1の前方に向かって右側に30degであり且つ車両1のシフトポジションがRレンジである場合、車両1は下り方向に後退するので、車両1の進行方向は下り方向の舵角30degである。
【0032】
そして、コントローラ12は、図5に示すような、車両1の進行方向(上り方向又は下り方向の舵角)と進行方向補正係数Kdとの関係について規定されたマップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)を参照し、上り方向又は下り方向の舵角に対応する進行方向補正係数Kdを取得する。図5のマップにおける横軸は上り方向又は下り方向の舵角[deg]を示す。また、縦軸は進行方向補正係数Kdを示す。図5に示すように、舵角が0degから下り方向のθ1までの範囲内である場合、又は、0degから上り方向のθ2までの範囲内である場合には、対応する進行方向補正係数Kdは1である。一方、上り方向の舵角がθ2より大きい場合には、対応する進行方向補正係数Kdは1より大きく、舵角が大きいほど進行方向補正係数Kdは大きくなる。即ち、上り方向の舵角が大きいときには、上り方向の舵角が小さいときよりも進行方向補正係数Kdが大きい。上り方向の舵角がθ3のときに、進行方向補正係数は最大値Kdmaxとなる。また、下り方向の舵角がθ1より大きい場合には、対応する進行方向補正係数Kdは1より小さく、舵角が大きいほど進行方向補正係数Kdは小さくなる。即ち、下り方向の舵角が大きいときには、下り方向の舵角が小さいときよりも進行方向補正係数Kdが小さい。下り方向の舵角がθ4のときに、進行方向補正係数Kdは0となり、下り方向の舵角がθ5のときに、進行方向補正係数は最小値Kdminとなる。この最小値Kdminは負値である。なお、θ1~θ5、Kdmax及びKdminは、例えばエンジン2のトルク特性、車両1の重量、タイヤのグリップ力等に応じて設定することができ、例えばθ1は-21deg、θ2は21deg、θ3は45deg、θ4は-41deg、θ5は-45degであり、Kdmaxは1.2、Kdminは-0.2である。
【0033】
ステップS13においてオフロードモードが選択されていないと判定された場合(ステップS13:No)、又はステップS14の後、ステップS15に進み、コントローラ12は、要求アイドル回転数を決定する。要求アイドル回転数は、アイドリング中にエンジン2が維持すべきエンジン回転数である。具体的には、ステップS13においてオフロードモードが選択されていないと判定された場合には(ステップS13:No)、コントローラ12は、ステップS12において算出した通常アイドル回転数Rsをそのまま要求アイドル回転数とする。つまり、通常アイドル回転数が800rpmであれば要求アイドル回転数も800rpmとなる。一方、ステップS14において勾配補正回転数Rc及び進行方向補正係数Kdを取得した場合には、ステップS12において算出した通常アイドル回転数に勾配補正回転数Rcと進行方向補正係数Kdとの積を加算した値(Rs+Rc×Kd)を要求アイドル回転数とする。例えば、通常アイドル回転数が800rpm、勾配補正回転数Rcが300rpm、進行方向補正係数Kdが0.8であった場合には、要求アイドル回転数は800+300×0.8=1040rpmとなる。ステップS15の後、コントローラ12はアイドル回転数決定処理を終了する。
【0034】
コントローラ12は、エンジン2にアイドリングをさせる場合、エンジン2の回転数が最新のアイドル回転数決定処理で決定した要求アイドル回転数となるように、エンジン2の制御を行う。例えば、車両1の停止中の要求アイドル回転数が800rpmであり、次いで車両1が走行を開始した後に要求アイドル回転数が1040rpmとなった状態において車両1が再び停止した場合、コントローラ12は、アイドル回転数が1040rpmまで低下したらそのままその回転数を維持するようにエンジン2を制御する。つまり、一度アイドル回転数を800rpmまで下げてから1040rpmまで上昇させるような制御は行わない。
【0035】
<作用効果>
次に、本発明の実施形態による車両の制御システムの作用及び効果について説明する。
【0036】
図6は、本発明の実施形態による車両の制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す。図6のタイムチャートは、上段から順に、走行モード選択スイッチSN1により選択された走行モード(通常モード/オフロードモード)、車両1の車幅方向の路面勾配[%]、車両1の進行方向舵角[deg]、要求アイドル回転数[rpm]を示している。
【0037】
なお、図6に示した例では、全期間にわたり通常アイドル回転数がRs[rpm]であるものとする。しかしながら、通常アイドル回転数は、図6に示した例とは異なる値であってもよく、時間経過に伴い変化してもよい。
【0038】
まず、図6において時刻t1までの間は、走行モードは通常モードが選択され、車両1の車幅方向の路面勾配は0%である。したがって、コントローラ12は、通常アイドル回転数Rsを要求アイドル回転数とする。
【0039】
時刻t1を過ぎると、路面勾配は上昇し始める。これは、例えば車両1が車幅方向に傾いた路面に差し掛かったことを意味する。しかしながら走行モードは通常モードのままなので、コントローラ12は勾配補正回転数Rc及び進行方向補正係数Kdを取得せず、通常アイドル回転数Rsを要求アイドル回転数とする。また、時刻t2までの間は、路面勾配は閾値m1以下であるので、勾配補正回転数Rcは0rpmのままである。
【0040】
時刻t2を過ぎると、路面勾配は閾値m1を超える。しかしながら、時刻t3までの間は、走行モードが通常モードのままなので、コントローラ12は勾配補正回転数Rc及び進行方向補正係数Kdを取得せず、通常アイドル回転数Rsを要求アイドル回転数とする。ただし、路面勾配は閾値m1を超えているので、図4のマップに従い、勾配補正回転数Rcは0rpmから上昇する。一方、進行方向舵角は0degのままなので、図5のマップによれば進行方向補正係数Kdは1である。
【0041】
時刻t3において、運転者が走行モード選択スイッチSN1を操作することにより、走行モードは通常モードからオフロードモードに切り替えられる。このとき、路面勾配は閾値m1を超えている。つまり、路面勾配が閾値m1を超え且つオフロードモードが選択されているので、コントローラ12は勾配補正回転数Rc及び進行方向補正係数Kdを取得し、それらの積を通常アイドル回転数Rsに加算した値を要求アイドル回転数とする。即ち、通常モードが選択されていた時刻t3以前よりも要求アイドル回転数を高くする。
【0042】
時刻t3からt4の間は走行モード及び路面勾配が一定であるので、要求アイドル回転数も一定である。その後、時刻t4からt5の間は路面勾配がm1からm2へ増加する。この路面勾配の増加に伴い、勾配補正回転数Rcも大きくなる。したがって、コントローラ12は、路面勾配が大きいほど、要求アイドル回転数を高くする。
【0043】
その後、時刻t5からt6の間は、走行モードはオフロードモードであり、路面勾配が閾値m2以上となる。したがって、この時刻t5からt6の間は、勾配補正回転数Rcは最大値Rcmaxで一定である。また、進行方向舵角は0degのままなので、進行方向補正係数Kdは1である。この場合、コントローラ12は、通常アイドル回転数Rs+勾配補正回転数Rc×進行方向補正係数Kd=Rs+Rcmaxを要求アイドル回転数とする。
【0044】
時刻t6を過ぎると、車両1の上り方向の舵角が増大し始める。これは、例えばドライバが車両1のステアリングホイールを操作したことにより、車両1の舵角が車幅方向に傾いた斜面の上り方向に向いたことを意味する。しかしながら、時刻t7までの間は、上り方向の舵角はθ2以下であるので、進行方向補正係数Kdは1である。即ち、勾配補正回転数Rcの調整は行われないので、要求アイドル回転数はRs+Rcmaxのままである。
【0045】
その後、時刻t7からt8の間は、上り方向の舵角がθ2を超えて増大する。この上り方向の舵角の増大に伴い、進行方向補正係数Kdも1を超えて大きくなる。つまり、要求アイドル回転数はRs+Rcmax×Kd(>1)であるので、コントローラ12は、上り方向の舵角が大きいほど、要求アイドル回転数を高くする。
【0046】
その後、時刻t8からt9の間は、走行モード、路面勾配、進行方向舵角の何れも一定であるので、要求アイドル回転数も一定である。その後、時刻t9からt10の間は上り方向の舵角がθ2まで減少する。この上り方向の舵角の減少に伴い、進行方向補正係数Kdが減少するので、コントローラ12は、上り方向の舵角が小さくなるほど、要求アイドル回転数を低くする。
【0047】
時刻t10からt11の間に、車両1の進行方向の舵角は、上り方向の舵角がθ2から0degまで減少し、次いで下り方向の舵角が0degからθ1まで増大する。これは、例えばドライバが車両1のステアリングホイールを操作したことにより、車両1の舵角が車幅方向に傾いた斜面の上り方向側から下り方向側に変化したことを意味する。この期間は、上り方向の舵角がθ2以下及び下り方向の舵角がθ1以下であるので、進行方向補正係数Kdは1である。即ち、勾配補正回転数Rcの調整は行われないので、要求アイドル回転数はRs+Rcmaxである。
【0048】
その後、時刻t11からt13の間は、下り方向の舵角がθ1を超えて増大する。この下り方向の舵角の増大に伴い、進行方向補正係数Kdは1より小さくなる(図5参照)。つまり、要求アイドル回転数はRs+Rcmax×Kd(<1)であるので、コントローラ12は、下り方向の舵角が大きいほど、要求アイドル回転数を低くする。特に、時刻t12において下り方向の舵角がθ4となったとき、進行方向補正係数Kdは0になる。即ち、要求アイドル回転数はRs+Rcmax×0=Rsとなり、通常アイドル回転数Rsが要求アイドル回転数となる。さらに下り方向の舵角が増大すると進行方向補正係数Kdは負値になる。つまり、要求アイドル回転数はRs+Rcmax×Kd(<0)であるので、要求アイドル回転数は通常アイドル回転数Rsよりも低い値となる。
【0049】
時刻t13において下り方向の舵角がθ5となってから時刻t14までの間は、走行モードはオフロードモードに固定され、路面勾配はm2以上で一定、下り方向の舵角もθ5で一定であるので、要求アイドル回転数も通常アイドル回転数Rsより低い値で一定である。
【0050】
その後、時刻t14を過ぎると、走行モードはオフロードモードであり、路面勾配が閾値m2未満に減少し、時刻t15において閾値m1となる。この路面勾配の減少に伴い、勾配補正回転数Rcも小さくなる。一方、下り方向の舵角もθ5で一定であるので、進行方向補正係数Kdは負値のままである。したがって、コントローラ12は、路面勾配が小さくなるほど、要求アイドル回転数を高くする。
【0051】
時刻t15を過ぎると、走行モードはオフロードモードに維持されているが、路面勾配は閾値m1以下に減少する。したがって、勾配補正回転数Rc補正回転数は0rpmであるので、コントローラ12は、通常アイドル回転数Rsを要求アイドル回転数とする。
【0052】
以上説明したように、本実施形態では、コントローラ12は、車両1の車幅方向に沿った路面勾配が閾値m1より大きく、且つ、走行モード選択スイッチSN1によりオフロードモードが選択されている場合には、通常モードが選択されている場合又は路面勾配が閾値m1以下の場合よりも要求アイドル回転数を高くする。つまり、運転者が悪路を走行すると認識しておりアクセルペダルを大きく踏み込みやすい状況であって、さらに車幅方向に沿った所定値以上の路面勾配のある坂道という駆動輪の空転が発生しやすい状況においては、コントローラ12は要求アイドル回転数を高く設定する。これにより、アイドリング中のエンジン2からの駆動トルクを大きくすることができるので、運転者がアクセルペダルを大きく踏み込まなくても車両1を容易に前進させることができる。したがって、運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みを防止し、駆動輪の空転を抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、コントローラ12は、車両1の車幅方向に沿った勾配が大きいときには、路面勾配が小さいときよりも要求アイドル回転数を高くする。つまり、車両1の車幅方向に沿った勾配が大きいためにアクセルペダルの過剰な踏み込みや駆動輪の空転が一層発生しやすい状況においては、コントローラ12は要求アイドル回転数をさらに高く設定する。したがって、アイドリング中のエンジン2からの駆動トルクを路面勾配に応じて適切な大きさにすることができ、様々な路面勾配においても運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みを防止し、駆動輪の空転を抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、コントローラ12は、車両1の車幅方向に沿った路面勾配が閾値m1より大きく、且つ、走行モード選択スイッチSN1によりオフロードモードが選択されている場合において、車両1の進行方向が車幅方向に沿った路面勾配の下り方向である(つまり車両1の舵角が下り方向である)ときには、そうでないときよりも要求アイドル回転数を低くする。つまり、車両1の進行方向が路面勾配の下り方向であり、エンジン2の回転上昇に応じて車両1が路面勾配の下り方向へ飛び出しやすい状況においては、コントローラ12は要求アイドル回転数を低く設定する。これにより、運転者が悪路を走行すると認識しており且つ車幅方向に沿った路面勾配のある坂道においては、要求アイドル回転数を高く設定することにより運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みを防止して駆動輪の空転を抑制しつつも、要求アイドル回転数が過剰に高くなることを制限することにより、車両1が路面勾配の下り方向へ飛び出すことを防止できる。
【0055】
また、本実施形態によれば、コントローラ12は、車両1の車幅方向に沿った路面勾配が閾値m1より大きく、且つ、走行モード選択スイッチSN1によりオフロードモードが選択されている場合であっても、車両1の進行方向が車両1の車幅方向に沿った路面勾配の下り方向であるときには、その進行方向に応じて、通常モードが選択されている場合又は路面勾配が閾値m1以下の場合よりも要求アイドル回転数を低くする。つまり、車両1の進行方向が路面勾配の下り方向であり、エンジン2の回転上昇に応じて車両1が路面勾配の下り方向へ特に飛び出しやすい状況(上述の実施形態では下り方向の舵角がθ4より大きい場合)においては、コントローラ12は要求アイドル回転数を通常アイドル回転数より低く設定する。これにより、車両1が路面勾配の下り方向へ飛び出すことを確実に防止できる。
【0056】
また、本実施形態によれば、コントローラ12は、車両1の車幅方向に沿った路面勾配が閾値m1より大きく、且つ、走行モード選択スイッチSN1によりオフロードモードが選択されている場合において、車両1の進行方向が車幅方向に沿った路面勾配の上り方向である(つまり車両1の舵角が登り方向である)ときには、そうでないときよりも要求アイドル回転数を高くする。つまり、車両1の進行方向が路面勾配の上り方向であり、アクセルペダルの過剰な踏み込みや駆動輪の空転が一層発生しやすい状況においては、コントローラ12は要求アイドル回転数をさらに高く設定する。したがって、アイドリング中のエンジン2からの駆動トルクを進行方向に応じて適切な大きさにすることができ、車両1の進行方向が路面勾配の上り方向である場合でも運転者によるアクセルペダルの過剰な踏み込みを防止し、駆動輪の空転を抑制することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 車両
2 エンジン
8 前輪(駆動輪)
12 コントローラ
12a プロセッサ
12b メモリ
SN1 走行モード選択スイッチ
SN2 車輪速センサ
SN3 加速度センサ
SN4 舵角センサ
SN5 シフトポジションセンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6