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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】バイオチップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20240507BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20240507BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240507BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20240507BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240507BHJP
【FI】
G01N33/543 525W
G01N33/483 C
G01N33/53 M
C12M1/00 A
C12N15/09 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020560844
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2020040370
(87)【国際公開番号】W WO2021085454
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2019196302
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古志 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】薙野 邦久
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-125439(JP,A)
【文献】特開2008-201782(JP,A)
【文献】特開2013-233126(JP,A)
【文献】特開2005-229934(JP,A)
【文献】特開2012-037363(JP,A)
【文献】EISEN, M. B. et al.,DNA arrays for analysis of gene expression,Methods in Enzymology,1999年,Vol.303,pp.179-205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/543
G01N 33/483
G01N 33/53
C12M 1/00
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択結合性物質が基板表面に固定化されたバイオチップの製造方法であって、
選択結合性物質、塩および縮合剤を含む溶液を基板表面へ塗布する工程A、
選択結合性物質を基板表面に結合させる工程B、
塗布した溶液を乾燥させて溶液中の塩を基板表面に析出させる工程C、および
工程Cにおいて析出した塩を画像検出装置を用いて検出する工程D、
を含み、
前記工程Aにおける溶液中の縮合剤の濃度が30mM以上80mM以下である、
バイオチップの製造方法。
【請求項2】
前記縮合剤が水溶性である、請求項1に記載のバイオチップの製造方法。
【請求項3】
前記縮合剤がカルボジイミド誘導体である、請求項1または2に記載のバイオチップの製造方法。
【請求項4】
前記カルボジイミド誘導体が1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミドである、請求項3に記載のバイオチップの製造方法。
【請求項5】
前記選択結合性物質が核酸である、請求項1~4のいずれかに記載のバイオチップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物質と選択的に結合する物質(本明細書において「選択結合性物質」という)が基板表面に固定化されたバイオチップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオチップは、測定対象物質と選択的な結合をする核酸、タンパク質などの選択結合性物質を基板(担体)の表面に固定化させたものであって、当該選択的結合されたものを蛍光などにより測定対象物質を検出し、また、その強度変化やパターンから分子識別や診断を行うことができるものである。
【0003】
バイオチップを製造する方法としては、フォトリソグラフィを用いて基板表面上で選択結合性物質であるオリゴヌクレオチドを合成するAffymetrix法や、予め準備した選択結合性物質を含む溶液(以下、スポット溶液という。)を基板上に塗布して選択結合性物質を固定化するStanford法が知られている。Stanford法においてスポット溶液を塗布する方法としては、金属製のピンを用いて溶液を点着(スポット)する方法、ディスペンサやインクジェットを用いて基板上に溶液を吐出する方法が挙げられる。しかし、スポット溶液を点着するためのピン先が基板に接触しない、スポット溶液を吐出するノズルが塞がり吐出されない等の不具合により、狙った箇所に狙ったスポット溶液がスポットされないなどのスポット不良が生じうる。従って、バイオチップの製造においては、スポット不良を生じたバイオチップを検出し、不良として排除することにより品質を担保するためのスポット検査方法が重要となる。
【0004】
スポットの良否を検査する方法としては、スポット溶液に含まれる塩を利用し、スポット溶液がスポットされた後の基板表面に析出した塩を、レーザースキャナなどによりスポット箇所の画像を用いて検出する方法(非特許文献1)や、スポット溶液中に蛍光物質を添加し、スポット箇所における添加した蛍光物質の蛍光を指標にして検出する方法(特許文献1)が知られている。このうち、非特許文献1の方法は、スポット溶液に蛍光物質など余分な試薬を添加する必要がないという利点を有する。その一方、この方法では、選択結合性物質であるDNAがポリ-L-リジンでコートされた基板上に静電相互作用により非共有結合的に固定化されるが、一般に、選択結合性物質の基板表面への固定化は、その結合の安定性から、共有結合による固定化が好ましい。
【0005】
特許文献2および特許文献3には、共有結合により選択結合性物質を基板表面に固定化する方法が記載されている。具体的には、その表面にあらかじめカルボキシル基を生成させた基板を用い、選択結合性物質であるアミノ化オリゴDNAおよび縮合剤を含むスポット溶液を基板表面にスポットし、基板上のカルボキシル基と選択結合性物質のアミノ基とを縮合反応させてアミド結合を形成することにより、選択結合性物質が基板上に共有結合により固定化される。このように縮合剤を含むスポット溶液を用いる方法は、特許文献4に記載された、あらかじめ基板上においてカルボキシル基を活性エステル化させた基板を用い、縮合剤を含まないスポット溶液を塗布して選択結合性物質を固定化する方法と比較して、あらかじめ基板を活性化させる必要がなく、活性化させた基板の保存中の劣化の影響も受けないというメリットが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-279576号公報
【文献】特開2006-208012号公報
【文献】特開2011-200230号公報
【文献】特開2001-139532号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Michael B. Eisen, Patrick O. Brown、「DNA arrays for analysis of gene expression」、1999、 Methods Enzymol. 303、179-205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、後述する比較例1に示すとおり、特許文献2に記載の方法を採用し、選択結合性物質、塩および縮合剤を含むスポット溶液を用いて、縮合反応により選択結合性物質を基板表面に固定化した基板を作製し、そのスポットの良否を検査するために、非特許文献1に記載の方法を採用して、塩の析出を指標としたスポット検査を試みた。しかしながら、選択結合性物質がスポットされた箇所で塩の析出が観察されず、スポット検査を行うことができなかった。つまり、縮合剤を含むスポット溶液を用いて選択結合性物質を基板表面に固定化しようとする場合、従来の方法を単に組み合わせて適用しただけではスポット検査が不可能であることが明らかとなった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記の縮合剤を含むスポット溶液を用いて選択結合性物質を基板表面に固定化するバイオチップの製造において、従来の方法を単に適用した場合には、スポット溶液中に含まれる縮合剤が塩の析出を阻害しているために、その塩の析出を指標としたスポット検査が不可能になっているものと推察された。そして、スポット溶液に含まれる縮合剤の濃度を、従来用いられていた濃度から大幅に変更することで、塩が析出し、スポット検査が可能となることを見いだし、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下(1)~(5)を提供する。
(1)選択結合性物質が基板表面に固定化されたバイオチップの製造方法であって、選択結合性物質、塩および縮合剤を含む溶液を基板表面へ塗布する工程A、選択結合性物質を基板表面に結合させる工程B、塗布した溶液を乾燥させて溶液中の塩を基板表面に析出させる工程C、および工程Cにおいて析出した塩を画像検出装置を用いて検出する工程D、を含み、前記工程Aにおける溶液中の縮合剤の濃度が30mM以上80mM以下である、バイオチップの製造方法。
(2)前記縮合剤が水溶性である、(1)に記載のバイオチップの製造方法。
(3)前記縮合剤がカルボジイミド誘導体である、(1)または(2)に記載のバイオチップの製造方法。
(4)前記カルボジイミド誘導体が1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミドである、(3)に記載のバイオチップの製造方法。
(5)前記選択結合性物質が核酸である、(1)~(4)のいずれかに記載のバイオチップの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
縮合剤を含むスポット溶液を用いて縮合反応により選択結合性物質を基板表面に固定化するバイオチップの製造において、本発明の方法を用いれば、その塩の析出を指標としたスポット良否の検査を行うことが可能となり、品質を担保したバイオチップの製造を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】スポット検査装置の一構成例を示す図である。
図2】画像の二値化によって得られる、スポット液が正常に塗布された良スポットの画像を模式的に示す図(3例)である。
図3】画像の二値化によって得られる、スポット液が正常に塗布されなかった不良スポットの画像を模式的に示す図(3例)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、選択結合性物質がその基板表面に共有結合的に固定化されているバイオチップの製造方法であって、次の工程A~Dを含む。
選択結合性物質、塩および縮合剤を含む溶液(スポット溶液)を基板表面へ塗布する工程A。
選択結合性物質を基板表面に結合させる工程B。
塗布した溶液を乾燥させて溶液中の塩を基板表面に析出させる工程C。
工程Cにおいて析出した塩を画像検出装置を用いて検出する工程D。
【0014】
以下、上記各工程ごとに、本発明の製造方法を説明する。
【0015】
本発明の工程Aは、選択結合性物質、塩および縮合剤を含む溶液(スポット溶液)をバイオチップの基板表面へ塗布する工程である。
【0016】
本発明で使用するバイオチップの基板の材質は、選択結合性物質を縮合反応によって固定化可能なものであれば特に限定されない。例えば、樹脂、ガラス、金属、シリコンウェハのいずれであってもよいが、表面処理の容易性、量産性の観点から樹脂が好ましい。
【0017】
基板の材質となる樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル等が挙げられ、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルが好ましい。このうち、ポリメタクリル酸エステルとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート(PEMA)またはポリプロピルメタクリレート等のポリメタクリル酸アルキル(PAMA)が挙げられるが、好ましくはPMMAである。
【0018】
また、樹脂としては、公知の共重合体も用いることができる。例えば、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン共重合体(AES樹脂)、ポリメタクリル酸エステルを含む共重合体としては、メタクリル酸メチル・アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(MABS樹脂)、メタクリル酸メチル・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)、メタクリル酸メチル・スチレン共重合体(MS樹脂)等が挙げられる。
【0019】
基板の形状は、特に限定されないが、市販のスライドガラスやこれと同等の大きさの平坦な基板が好ましく用いられる。また、検出時の検出感度を向上させる目的で、基板の表面上に凹凸構造を有する基板を用いることも出来る(例えば特開2004-264289号公報参照)。凹凸構造を有する基板を用いる場合には、選択結合性物質を基板上の凸部上面に正確に固定化する必要があることから、平坦な基板を用いる場合より、スポット検査の重要性は高い。また、検出感度を向上させる目的で、観察時において基板からの光の反射を抑制するために、基板の表面が、黒色等、光を吸収する色や素材であることが好ましい。
【0020】
本発明の方法では、選択結合性物質を基板の表面に縮合反応により固定化することから、基板表面には縮合反応が可能な官能基、例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、チオール基(スルファニル基)、カルボキシル基が存在することが好ましいが、なかでもカルボキシル基がより好ましい。基板表面に官能基を導入する方法としては、ガラス製基板を用いる場合には、これらの官能基を有するシランカップリング剤(例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン)を用いてシランカップリングにより導入する方法を用いることができる。また、樹脂製基板を用いる場合には、これらの官能基を有する高分子を基板表面に塗布しても良いし、ポリメタクリ酸メチル(PMMA)などのアクリル樹脂製の基板を用いる場合には、アルカリ加水分解反応により基板表面のエステル基を加水分解することでカルボキシル基を生成してもよい。
【0021】
本発明の方法において基板に固定化する選択結合性物質は、測定対象物質と直接的または間接的に、選択的に結合し得る物質を意味し、その代表的な例として、核酸、タンパク質、糖類および他の抗原性化合物を挙げることができる。核酸としては、DNAやRNAのほか、PNAでもよい。特定の塩基配列を有する一本鎖核酸は、当該塩基配列またはその一部と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸と選択的にハイブリダイズして結合するので、選択結合性物質に該当する。また、タンパク質としては、抗体、FabフラグメントやF(ab’)フラグメント等の抗体の抗原結合性断片、種々の抗原を挙げることができる。抗体やその抗原結合性断片は、対応する抗原と選択的に結合し、抗原は対応する抗体と選択的に結合するので、選択結合性物質に該当する。糖類としては、多糖類が好ましく、種々の抗原を挙げることができる。また、タンパク質や糖類以外の抗原性を有する物質を固定化することもできる。本発明に用いる選択結合性物質は、市販のものでもよく、また、生細胞等から得られたものでもよい。選択結合性物質として、特に好ましいものは、核酸である。核酸の中でも、オリゴ核酸と呼ばれる、長さが10塩基から100塩基までの核酸は、合成機で容易に人工的に合成が可能であり、また、核酸末端のアミノ基修飾が容易であるため、基板表面への固定化が容易となることから好ましい。また、ハイブリダイゼーションの安定性という観点から20~100塩基長であることがより好ましい。核酸の末端には縮合反応が可能な官能基、すなわちアミノ基、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシル基が存在することが好ましいが、特にアミノ基が好ましい。核酸の末端にこれらの官能基を結合する方法は周知であり、例えば、核酸の末端にアミノ基を結合することは、アミノ基を含有するアミダイト試薬を結合することにより行うことができる(参考文献:国際公開2013/024694号)。
【0022】
本発明の方法において、選択結合物質は縮合剤を用いた縮合反応により基板表面に固定化される。縮合剤は、選択結合性物質を、基板上に存在する官能基と縮合反応させることによりアミド結合またはエステル結合を形成する試薬である。本発明の方法では、縮合剤は、スポット溶液中に添加して用いられる。安定性の面から、選択結合性物質は、アミド結合により基板表面に結合されることが好ましい。
【0023】
本発明の方法では、縮合剤は、選択結合性物質と共に、スポット溶液中に添加して用いられる。そのため、縮合剤は水溶性であることが好ましい。水溶性の縮合剤としては、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(別名:1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)(EDC)や4-(4,6-ジメトキシ-1、3、5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)などが挙げられる。
【0024】
縮合剤は、その分子構造の違いにより、カルボジイミド誘導体、ウロニウム誘導体、ホスホニウム誘導体などが挙げられるが、汎用性の高いカルボジイミド誘導体が好ましい。ここで、各「誘導体」は、それぞれの構造又は基を含有する化合物を意味し、したがって、「カルボジイミド誘導体」は、カルボジイミド(-N=C=N-)を含有する化合物を意味する。カルボジイミド誘導体としては、EDCやN、N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)が挙げられるが、前述の水溶性の観点からEDCが特に好ましい。EDCは、塩酸塩であってもよいし、塩フリー体であってもよい。
【0025】
本発明の工程Aで使用するスポット溶液中の縮合剤の濃度は、低濃度では選択結合性物質の縮合反応が十分に進行しないことから、30mM以上であり、40mM以上であることが好ましい。また、高濃度ではスポット検査の指標となる塩の析出が阻害されることから、80mM以下であり、60mM以下であることが好ましい。スポット溶液中の縮合剤の濃度の範囲としては、30mM以上80mM以下であり、40mM以上60mM以下であることが好ましい。
【0026】
本発明の工程Aで使用されるスポット溶液には、選択結合性物質および縮合剤と共に塩が含まれる。ここで、塩とは、酸と塩基との反応によって生じる化合物であり、塩基の陽性成分(カチオン)と酸の陰性成分(アニオン)とからなるものである。塩を構成するカチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンなどが挙げられる。塩を構成するアニオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、亜酸イオン、酢酸イオン、リン酸イオン、過塩素酸イオンなどが挙げられる。本発明で使用される塩は、これらのカチオンおよびアニオンの組み合わせであり、具体的には、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、亜硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムが好ましく、塩化ナトリウムがより好ましい。
【0027】
スポット溶液に含まれる塩の濃度は、低すぎる場合には十分量の塩が析出しないため、10mM以上であることが好ましく、40mM以上であることがより好ましく、80mM以上であることがさらに好ましい。また、濃度が高すぎる場合には選択結合性物質の固定化反応を阻害する可能性があるので、500mM以下であることが好ましく、120mM以下であることがより好ましい。スポット溶液中の塩の濃度の範囲は、10mM以上500mM以下が好ましく、40mM以上120mM以下がより好ましく、80mM以上120mM以下がさらに好ましい。
【0028】
スポット溶液中の選択結合性物質の濃度は、測定対象物質の検出が可能となる量であれば特に限定されず、適宜設定することが可能である。例えば、選択結合性物質が核酸の場合、スポット溶液中の核酸濃度は、通常、5μM~100μM程度、好ましくは、10μM~30μM程度である。
【0029】
選択結合性物質、縮合剤および塩を含むスポット溶液は、水溶液であることが好ましい。また、スポット溶液には、選択結合性物質、塩および縮合剤以外に、有機溶剤や界面活性剤、pH調製用の緩衝剤など他の物質を含んでいてもよい。
【0030】
工程Aにおいて、スポット溶液を基板表面への塗布する方法は特に限定されないが、例えば、ピンを用いてスポット溶液を点着する方法、ディスペンサやインクジェットを用いて基板上にスポット溶液を吐出する方法を用いることができる。具体的には、ピンを用いて点着する方法は、ピンの先端にスポット液を付着させ、付着したスポット液を基板に接触させて塗布する。
【0031】
本発明の工程Bは、選択結合性物質を基板表面に結合させる工程である。この工程Bは、縮合剤を用いて、選択結合性物質を、基板表面に存在する官能基と縮合反応することにより行われ、縮合反応が進行する通常の条件で行うことができる。例えば、縮合反応の温度は、縮合反応を促進される30℃以上が好ましく、湿度は、塗布したスポット溶液の蒸発を防ぐために80%以上であることが好ましく、時間は1時間以上が好ましい。一方、縮合反応の温度は、高すぎると、選択結合性物質が変化したり、縮合反応に支障がでる場合があるので、60℃以下が好ましい。また、縮合反応時間の上限は特にないが、長すぎても意味がないので、通常は48時間以下、好ましくは24時間以下である。例えば、具体的には、スポット溶液を塗布した基板を少量の水を入れたプラスチック容器に入れ、37℃で、12時間静置することで、選択結合性物質を基板表面へ結合させることができる。
【0032】
本発明の工程Cは、基板表面に塗布した溶液を乾燥させて、スポット溶液に含まれる塩を基板表面に析出させる工程である。基板表面に塗布されたスポット溶液は微量であるため、乾燥に特殊な条件は必要ない。乾燥時の温度、湿度および時間は特に限定されないが、乾燥を促進するために、温度は18℃以上が好ましく、湿度は80%以下が好ましく、時間は10分間以上であればよい。一方、温度が高すぎると、選択結合性物質の変化が起きる恐れがあるので、温度は50℃以下が好ましい。また、乾燥時間の上限は特にないが、長すぎても意味がないので、通常は24時間以下、好ましくは2時間以下である。例えば、具体的には、選択結合性物質を結合させた基板を、23℃、湿度50%の雰囲気下で、30分間静置することで、スポット溶液を乾燥させ、塩を析出させることができる。
【0033】
本発明の工程Dは、工程Cにおいて析出した塩を、画像検出装置を用いて検出する工程である。析出した塩の検出に用いる画像検出装置としては、通常の光学顕微鏡やデジタル顕微鏡を用いてもよいし、マイクロアレイの分析に使用するレーザースキャナや、図1に示すようなスポット検査装置を用いてもよい。
【0034】
析出した塩の検出に用いることができるレーザースキャナとしては、3D-Gene(登録商標) Scanner(東レ)、SureScanマイクロアレイスキャナー(アジレント・テクノロジー)、GenePix(Filgen)等が挙げられる。
【0035】
図1に示すスポット検査装置100は、バイオチップ1の画像を取得する画像取得ユニット110と、画像取得ユニット110が取得した画像を解析する解析ユニット120とを備える。スポット検査装置100は、図示しない制御部の制御のもとで各部が駆動する。
【0036】
バイオチップ1は、基板10上のスポット箇所11にスポット溶液が塗布されている。
【0037】
画像取得ユニット110は、光源部111と、光源用電源112と、鏡筒113と、撮像部114とを有する。
【0038】
光源部111は、LEDや、レーザー光源、ハロゲンランプ等を用いて構成される。光源部111は、光源用電源112から供給される電力によって照明光を発する。光源部111が出射した照明光は、鏡筒113に入射する。
【0039】
鏡筒113は、対物レンズ、リレーレンズ等が設けられ、光源部111から供給される照明光を分析チップ1に向けて出射するとともに、分析チップ1からの光を取り込んで、撮像部114に導光する。
【0040】
撮像部114は、鏡筒113に導光された光を受光して、電気信号に変換する。撮像部114は、変換した電気信号を、解析ユニット120に出力する。撮像部114は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、光電子増倍管(photomultiplier tube:PMT)等を用いて構成される。
【0041】
解析ユニット120は、撮像部114が生成した電気信号に基づいて、分析チップ1の画像を生成したり、この画像を二値化して、スポットにおけるスポット液の塗布状況を判定したりする。解析ユニット120は、CPU(Central Processing Unit)等の汎用プロセッサ、GPU(Graphics Processing Unit)等の専用プロセッサ、FPGA(field-programmable gate array)等のプログラマブルロジックデバイスや、ディスプレイ、入力手段(例えばキーボード)等を用いて構成される。
【0042】
スポットの良否は、得られた基板の画像データの解析または目視により、スポット箇所における析出した塩の有無を指標に判定することができる。
【0043】
画像データの解析は、基板画像を二値化することにより行うことができる。例えば、基板画像の輝度に対し、予め設定されている第1の閾値を境界として二値化した二値化画像を生成する。この二値化画像には、塩が析出している箇所に白色、塩が析出してない箇所に黒色が割り当てられる。二値化画像をもとに、スポットを数値化する。各スポットの領域をそれぞれ抽出し、各スポットにおける白色が割り当てられた画素の数(白ピクセル数)をそれぞれ計数する。その後、計数された白ピクセル数と、予め設定されている第2の閾値とに基づいて、各スポットの良否判定を行う。例えば、図2の各例に示すように、白ピクセル数が閾値以上であれば、スポット液が適切に塗布された良スポット(OK)であると判定する。一方、図3の各例に示すように、白ピクセル数が閾値未満であれば、スポット液が適切に塗布されていない不良スポット(NG)であると判定する。
【0044】
作製したバイオチップ上に十分量の選択結合物質が固定化されたか否かについては、既知の方法で検査すればよい。選択結合性物質として核酸を用いた場合には、例えば、特開2006-234712号公報に記載のターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)を用いて選択結合性物質の固定化量を評価する方法が挙げられる。TdTを用いた方法では、TdTと蛍光色素を標識したヌクレオチドを含む溶液を、バイオチップ上に滴下することで、固定化された核酸の末端に蛍光色素が導入され、洗浄後、レーザースキャナを用いて蛍光強度を測定することで、選択結合性物質の固定化量を評価することができる。
【実施例
【0045】
実施例1
(1)基板の作製
ポリメチルメタクリレート(PMMA)製の平板(75mm×25mm×1mm)を10Nの水酸化ナトリウム水溶液に70℃で15時間浸漬した。次いで、純水、0.1N HCl水溶液、純水の順で洗浄した。このようにして、基板表面のPMMAの側鎖を加水分解して、カルボキシル基を生成した。
【0046】
(2)プローブ溶液の塗布(工程A)
プローブDNAとして、以下の配列番号1の塩基配列からなるDNAを合成した。
5'-AACTATACAACCTACTACCTCA-3'(配列番号1:23塩基、5’末端アミノ化)。
【0047】
このDNAを純水に100μMの濃度で溶解し、ストック溶液とした。縮合剤として1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)および塩として塩化ナトリウムを含む溶液で5倍希釈し、スポット溶液とした。スポット溶液中のEDCの終濃度は30mM(条件1~3)、40mM(条件4~6)、60mM(条件7~9)または80mM(条件10~12)、塩化ナトリウムの終濃度は40mM(条件1、4、7、10)、80mM(条件2、5、8、11)または120mM(条件3、6、9、12)とした。各スポット溶液 40μLを取り出して、スポッティング用ロボット(日本レーザー電子(株)、GTMASStamp-2)を用いて、上記で作製した基板の中央部に10×10=100個のスポットを行った。
【0048】
(3)プローブDNAの固定化(工程B)
上記(2)のプローブ溶液がスポットされた基板を、密閉したプラスチック容器に入れて、37℃、湿度100%の条件で20時間インキュベートして縮合反応を行い、プローブDNAを基板表面に固定化した。
【0049】
(4)スポット溶液の乾燥、塩の析出(工程C)
上記(3)の密閉したプラスチック容器から基板をとりだし、23℃、湿度50%の雰囲気下で30分間静置し、基板表面上のスポット溶液を乾燥させ、塩を析出させた。
【0050】
(5)スポットの検出(工程D)、スポットの良否判定
上記(4)でスポット溶液を乾燥させた基板に青色LED照明を照射し、テレセントリックレンズ(光学倍率2倍、WD66.7)を装着したCMOSカメラ(解像度2M、2048×1088pixel)にて基板表面の画像を取得した。取得した基板画像はUSB接続したPCに保存し、基板画像データを二値化した。この二値化した画像では、塩が析出したスポット箇所に白色、塩が析出しなかったスポット箇所に黒色が割り当てられる。二値化画像をもとに、各スポットの領域をそれぞれ抽出し、各スポットにおける白色が割り当てられた画素(白ピクセル)の割合を求めた。すべてのスポットで白ピクセルの割合が80%以上の場合を「スポット検査良」(検査に適した条件)と、白ピクセルの割合が80%を下回るスポットはあるもののすべてのスポットで白ピクセルの割合が50%以上の場合を「スポット検査可」(検査が可能な条件)と、白ピクセルの割合が50%を下回るスポットがある場合を「スポット検査不可」(検査が不可能な条件)と、それぞれ判定した。その結果を表1に示した。スポット検査後の基板は純水で洗浄した。
【0051】
(6)プローブDNA固定化量の評価
ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT,タカラバイオ社製)10Uを、Cy3標識dUTPヌクレオチド(GEヘルスケア社製)を1μMとなるように溶解した添付のバッファー(TdT Buffer)250μLに添加し、反応溶液とした。反応溶液50μLを基板へ滴下し、その上にカバーガラスをかぶせ、プラスチック容器の中に入れ、35℃、湿度100%の条件で1時間インキュベートした。インキュベート後、カバーガラスを剥離後に洗浄、乾燥した。「“3D Gene”(登録商標)Scanner」(東レ株式会社)に反応した基板をセットし、励起光532nm、レーザー出力100%、PMT30に設定した状態で測定を行い、すべてのスポットのシグナル強度を求めた。すべてのスポットでシグナル強度が15,000以上の場合を「プローブ固定化良」(十分量のプローブDNAが固定化されている条件)と、シグナル強度が15,000を下回るスポットがある場合を「プローブ固定化不良」(プローブDNAの固定化量が不十分な条件)と、それぞれ判定した。その結果を表1に示した。
【0052】
比較例1
実施例1の(1)と同様の方法で基板を作製した後、特許文献2に記載の方法に従い、実施例1の(2)で使用したプローブDNA 30μMおよびEDC 260mMを含むリン酸緩衝生理食塩水(塩化ナトリウム 137mM、塩化カリウム 2.7mM、リン酸水素二ナトリウム 10mM、リン酸二水素カリウム1.76mM、pH 7.4)をスポット溶液として用いたこと(条件13)以外は、実施例1の(2)と同様の方法でプローブの塗布を行い、また実施例1の(3)~(6)と同様の方法でプローブDNAの固定化、スポット溶液の乾燥、塩の析出、スポットの検出、スポットの良否判定およびプローブDNA固定化量の評価を行った。その結果を表1に示した。
【0053】
比較例2
実施例1の(1)と同様の方法で基板を作製した後、実施例1の(2)で使用したプローブDNA 20μM、EDC 20mMおよび塩化ナトリウム40mM(条件14)、80mM(条件15)または120mM(条件16)を含む溶液をスポット溶液として用いたこと以外は、実施例1の(2)と同様の方法でプローブの塗布を行い、また実施例1の(3)~(6)と同様の方法でプローブDNAの固定化、スポット溶液の乾燥、塩の析出、スポットの検出、スポットの良否判定およびプローブDNA固定化量の評価を行った。その結果を表1に示した。
【0054】
比較例3
実施例1の(1)と同様の方法で基板を作製した後、実施例1の(2)で使用したプローブDNA 20μMおよびEDC 90mMおよび塩化ナトリウム40mM(条件17)、80mM(条件18)または120mM(条件19)を含む溶液をスポット溶液として用いたこと以外は、実施例1の(2)と同様の方法でプローブの塗布を行い、また実施例1の(3)~(6)と同様の方法でプローブDNAの固定化、スポット溶液の乾燥、塩の析出、スポットの検出、スポットの良否判定およびプローブDNA固定化量の評価を行った。その結果を表1に示した。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1の、縮合剤であるEDCの濃度が30mM、40mM、60mMおよび80mMの各条件においては、スポット検査が可能な塩の析出が観察されるとともに、十分量のプローブの固定化も確認されたことから、これらの条件は塩の析出を指標としたスポット検査に適したバイオチップの製造条件となることがわかった。これらの条件の中でも、特にEDCの濃度が40mMまたは60mMであって、塩化ナトリウムの濃度が80mMまたは120mMである各条件(条件5、6、8、9)において、スポット検査が塩の析出が良好であり、よりスポット検査に適した条件であった。
【0057】
一方、特許文献2に記載のバイオチップの製造条件である比較例1の、縮合剤であるEDCの濃度が260mMの条件は、スポット検査に十分な塩の析出が観察されず、塩の析出を指標としたスポット検査が不可能な条件であった。同様に、比較例3の、縮合剤であるEDCの濃度が90mMの条件も、スポット検査に十分な塩の析出が観察されず、塩の析出を指標としたスポット検査が不可能な条件であった。これらの条件で塩の析出が観察されなかった理由として、縮合剤であるEDCが吸湿性を有するために、スポット溶液を乾燥させた後もこれらが潮溶し、塩の析出を阻害したためと考えらえる。
【0058】
比較例2の、縮合剤であるEDCの濃度が20mMの条件では、スポット検査が可能な塩の析出が観察されたものの、プローブの固定化量が不十分で不良であり、バイオチップの製造条件として不適であった。これは、縮合剤の濃度が低いために、プローブDNAが基板に固定化されなかったためと考えらえる。
【0059】
以上の結果から、スポット溶液に含まれる縮合剤の濃度は、30mM以上、80mM以下であることが好ましいことが明らかとなった。
【符号の説明】
【0060】
1 バイオチップ
10 基板
11 スポット箇所
100 スポット検査装置
110 画像取得ユニット
111 光源部
112 光源用電源
113 鏡筒
114 撮像部
120 解析ユニット
図1
図2
図3
【配列表】
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