(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】共振子及び共振装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/24 20060101AFI20240507BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
H03H9/24 B
B81B3/00
(21)【出願番号】P 2022518595
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2020042004
(87)【国際公開番号】W WO2021220536
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020078321
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】河合 良太
(72)【発明者】
【氏名】井上 義久
(72)【発明者】
【氏名】樋口 敬之
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/175218(WO,A1)
【文献】特開2014-165910(JP,A)
【文献】特開2016-149599(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195416(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B1/00-7/04
B81C1/00-99/00
H03H3/007-3/10
H03H9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが固定端を有する3本以上の複数の振動腕であって、少なくとも2本が異なる位相で面外屈曲する複数の振動腕と、前記複数の振動腕のそれぞれの前記固定端が接続された一端と該一端に対向する他端とを有する基部と、を含む振動部と、
前記振動部を保持するように構成された保持部と、
それぞれの一端が前記保持部に接続された2本の支持腕と、を備え、
前記2本の支持腕のそれぞれの他端は、前記基部の前記他端における1箇所に接続されている、
共振子。
【請求項2】
前記2本の支持腕は、それぞれの前記他端が連結されており、
連結された前記2本の支持腕のそれぞれの前記他端と、前記基部の前記他端とを接続する接続腕をさらに備える、
請求項1に記載の共振子。
【請求項3】
前記2本の支持腕のそれぞれの前記他端は、平面視において、前記基部の前記他端における中央の1箇所に接続されている、
請求項1又は2に記載の共振子。
【請求項4】
前記基部の前記一端から前記他端に向かう方向の長さ方向における基部長の長さは、前記基部の前記長さ方向に直交する幅方向における基部幅の長さに対して0.3倍以下である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の共振子。
【請求項5】
前記基部長の長さは90μm以下であり、前記基部幅の長さは300μm以下である、
請求項4に記載の共振子。
【請求項6】
前記2本の支持腕のそれぞれは、支持腕長の長さが支持腕幅の長さに対して4倍以上である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の共振子。
【請求項7】
前記支持腕長の長さは300μm以下であり、前記支持腕幅の長さは60μm以下である、
請求項6に記載の共振子。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の共振子を備える、
共振装置。
【請求項9】
蓋体をさらに備える、
請求項8に記載の共振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の振動腕が面外の屈曲振動モードで振動する共振子及び共振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いた共振装置は、例えばタイミングデバイスとして用いられている。この共振装置は、スマートフォンなどの電子機器内に組み込まれるプリント基板上に実装される。共振装置は、下側基板と、下側基板との間でキャビティを形成する上側基板と、下側基板及び上側基板の間でキャビティ内に配置された共振子と、を備えている。
【0003】
例えば特許文献1には、複数の振動腕を備えた共振子が開示されている。この共振子は、前端及び当該前端に対向する後端を有する基部と、固定端が基部の前端に接続され、前端から離れる方向に延びている複数の振動腕と、を有する振動部と、振動部の周囲の少なくとも一部に設けられた保持部と、振動部と保持部との間に設けられ、一端が基部に接続され、他端が保持部における、基部の後端よりも前端側の領域に接続された保持腕と、を備える。特許文献1の共振子では、保持腕が基部に接続する接続位置を基部長の半分の長さに対して6割以下にすることで、励振レベル依存特性(DLD:Drive Level Dependency)(以下、「DLD」という)の改善を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、共振子に対する小型化の要求は、ますます高まっている。小型化に伴って寸法が制限された共振子では、特許文献1のように基部長の長さに対して保持腕の接続位置を所定割合以下にする方法だけでは、DLDの改善が困難になりつつあった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、DLDをさらに改善することのできる共振子及び共振装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る共振子は、それぞれが固定端を有する3本以上の複数の振動腕であって、少なくとも2本が異なる位相で面外屈曲する複数の振動腕と、複数の振動腕のそれぞれの固定端が接続された一端と該一端に対向する他端とを有する基部と、を含む振動部と、振動部を保持するように構成された保持部と、それぞれの一端が保持部に接続された2本の支持腕と、を備え、2本の支持腕のそれぞれの他端は、前記基部の前記他端における1箇所に接続されている。
【0008】
本発明の一側面に係る共振装置は、前述した共振子を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、DLDをさらに改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態における共振装置の外観を概略的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す共振装置の構造を概略的に示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す共振子の構造を概略的に示す平面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す共振装置の積層構造を概略的に示すX軸に沿う断面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示す共振装置の積層構造を概念的に示すY軸に沿う断面図である。
【
図6】
図6は、
図3に示す振動部の振動による変位分布を模式的に示す平面図である。
【
図7】
図7は、
図3に示す振動部の振動による変位分布を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8は、
図3に示す振動部の振動による基部の変位量を示すグラフである。
【
図9】
図9は、
図3に示す支持腕部の基部における接続箇所とDLDとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の構成要素は同一又は類似の符号で表している。図面は例示であり、各部の寸法や形状は模式的なものであり、本発明の技術的範囲を当該実施形態に限定して解するべきではない。
【0012】
まず、
図1及び
図2を参照しつつ、本発明の一実施形態に従う共振装置の概略構成について説明する。
図1は、一実施形態における共振装置1の外観を概略的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示す共振装置1の構造を概略的に示す分解斜視図である。
【0013】
共振装置1は、下蓋20と、共振子10と、上蓋30と、を備えている。すなわち、共振装置1は、下蓋20と、共振子10と、上蓋30とが、この順で積層されて構成されている。下蓋20及び上蓋30は、共振子10を挟んで互いに対向するように配置されている。なお、下蓋20及び上蓋30は、本発明の「蓋体」の一例に相当する。
【0014】
以下において、共振装置1の各構成について説明する。なお、以下の説明では、共振装置1のうち上蓋30が設けられている側を上(又は表)、下蓋20が設けられている側を下(又は裏)、として説明する。
【0015】
共振子10は、MEMS技術を用いて製造されるMEMS振動子である。共振子10と下蓋20及び上蓋30とは、共振子10が封止され、共振子10の振動空間が形成されるように、接合されている。また、共振子10と下蓋20及び上蓋30とは、それぞれ、シリコン(Si)基板(以下、「Si基板」という)を用いて形成されており、Si基板同士が互いに接合されている。なお、共振子10、下蓋20、及び上蓋30は、それぞれ、シリコン層及びシリコン酸化膜が積層されたSOI(Silicon On Insulator)基板を用いて形成されてもよい。
【0016】
下蓋20は、XY平面に沿って設けられる矩形平板状の底板22と、底板22の周縁部からZ軸方向、つまり、下蓋20と共振子10との積層方向、に延びる側壁23と、を備える。下蓋20には、共振子10と対向する面において、底板22の表面と側壁23の内面とによって画定される凹部21が形成されている。凹部21は、共振子10の振動空間の少なくとも一部を形成する。なお、下蓋20は凹部21を有さず、平板状の構成でもよい。また、下蓋20の凹部21の共振子10側の面には、ゲッター層が形成されてもよい。
【0017】
また、下蓋20は、底板22の表面に形成される突起部50を備える。突起部50の詳細な構成については、後述する。
【0018】
上蓋30は、XY平面に沿って設けられる矩形平板状の底板32と、底板32の周縁部からZ軸方向に延びる側壁33と、を備える。上蓋30には、共振子10と対向する面において、底板32の表面と側壁33の内面とによって画定される凹部31が形成されている。凹部31は、共振子10が振動する空間である振動空間の少なくとも一部を形成する。なお、上蓋30は凹部31を有さず、平板状の構成でもよい。また、上蓋30の凹部31の共振子10側の面には、ゲッター層が形成されていてもよい。
【0019】
上蓋30と共振子10と下蓋20とを接合することによって、共振子10の振動空間は気密に封止され、真空状態が維持される。この振動空間には、例えば不活性ガス等の気体が充填されてもよい。
【0020】
次に、
図3を参照しつつ、一実施形態に従う共振子の概略構成について説明する。
図3は、
図2に示す共振子10の構造を概略的に示す平面図である。
【0021】
図3に示すように、共振子10は、MEMS技術を用いて製造されるMEMS振動子であり、
図3の直交座標系におけるXY平面内で面外屈曲振動モードを主振動(以下、「メインモード」ともいう)として振動する。
【0022】
共振子10は、振動部110と、保持部140と、支持腕部150と、を備える。
【0023】
振動部110は、
図3の直交座標系におけるXY平面に沿って広がる矩形の輪郭を有している。振動部110は、保持部140の内側に配置されており、振動部110と保持部140との間には、所定の間隔で空間が形成されている。
図3の例では、振動部110は、4本の振動腕121A~121D(以下、まとめて「振動腕121」ともいう)から構成される励振部120と、基部130と、を含んでいる。なお、振動腕の数は、4本に限定されず、例えば3本以上の任意の数に設定される。本実施形態において、励振部120と基部130とは、一体に形成されている。
【0024】
振動腕121A,121B,121C,121Dは、それぞれ、Y軸方向に沿って延びており、この順でX軸方向に所定の間隔で並列に設けられている。振動腕121Aの一端は後述する基部130の前端部131Aに接続された固定端であり、振動腕121Aの他端は基部130の前端部131Aから離れて設けられた開放端である。振動腕121Aは、開放端側に形成された質量付加部122Aと、固定端から延びて質量付加部122Aに接続された腕部123Aと、を含んでいる。同様に、振動腕121B,121C,121Dも、それぞれ、質量付加部122B,122C,122Dと、腕部123B,123C,123Dと、を含んでいる。なお、腕部123A~123Dは、それぞれ、例えばX軸方向の幅が30μm程度、Y軸方向の長さが400μm程度である。
【0025】
本実施形態の励振部120では、X軸方向において、外側に2本の振動腕121A,121Dが配置されており、内側に2本の振動腕121B,121Cが配置されている。内側の2本の振動腕121B,121Cのそれぞれの腕部123B,123C同士の間に形成された間隙の幅(以下、「リリース幅」という。)W1は、例えば、X軸方向において隣接する振動腕121A,121Bのそれぞれの腕部123A,123B同士の間のリリース幅W2、及び、X軸方向において隣接する振動腕121D,121Cのそれぞれの腕部123D,123C同士の間のリリース幅W2、よりも大きく設定されている。リリース幅W1は例えば25μm程度、リリース幅W2は例えば10μm程度である。このように、リリース幅W1をリリース幅W2よりも大きく設定することにより、振動部110の振動特性や耐久性が改善される。なお、共振装置1を小型化できるように、リリース幅W1をリリース幅W2よりも小さく設定してもよいし、等間隔に設定してもよい。
【0026】
質量付加部122A~122Dは、それぞれの表面に質量付加膜125A~125Dを備えている。したがって、質量付加部122A~122Dのそれぞれの単位長さ当たりの重さ(以下、単に「重さ」ともいう。)は、腕部123A~123Dのそれぞれの重さよりも重い。これにより、振動部110を小型化しつつ、振動特性を改善することができる。また、質量付加膜125A~125Dは、それぞれ、振動腕121A~振動腕121Dの先端部分の重さを大きくする機能だけではなく、その一部を削ることによって振動腕121A~121Dの共振周波数を調整する、いわゆる周波数調整膜としての機能も有する。
【0027】
本実施形態において、質量付加部122A~122DのそれぞれのX軸方向に沿う幅は、例えば70μm程度であり、腕部123A~123DのそれぞれのX軸方向に沿う幅よりも大きい。これにより、質量付加部122A~122Dのそれぞれの重さを、さらに大きくできる。但し、質量付加部122A~122Dのそれぞれの重さは腕部123A~123Dのそれぞれの重さよりも大きければよく、質量付加部122A~122DのそれぞれのX軸方向に沿う幅は、本実施形態の例に限定されるものではない。質量付加部122A~122DのそれぞれのX軸方向に沿う幅は、腕部123A~123DのそれぞれのX軸方向に沿う幅と同等、もしくはそれ以下であってもよい。
【0028】
共振子10を上方から平面視(以下、単に「平面視」という)したときに、質量付加部122A~122Dは、それぞれ、略長方形状であって、四隅に丸みを帯びた曲面形状、例えばいわゆるR形状を有する。同様に、腕部123A~123Dは、それぞれ、略長方形状であって、基部130に接続される固定端付近、及び、質量付加部122A~122Dのそれぞれに接続される接続部分付近にR形状を有する。但し、質量付加部122A~122D及び腕部123A~123Dのそれぞれの形状は、本実施形態の例に限定されるものではない。例えば、質量付加部122A~122Dのそれぞれの形状は、略台形状や略L字形状であってもよい。また、腕部123A~123Dのそれぞれの形状は、略台形状であってもよい。質量付加部122A~122D及び腕部123A~123Dは、それぞれ、表面側及び裏面側のいずれか一方に開口を有する有底の溝部や、表面側及び裏面側の両方に開口を有する穴部が形成されていてもよい。当該溝部及び当該穴部は、表面と裏面とを繋ぐ側面から離れていてもよく、当該側面側に開口を有していてもよい。
【0029】
基部130は、平面視において、前端部131Aと、後端部131Bと、左端部131Cと、右端部131Dと、を有している。前述したように、前端部131Aには、振動腕121A~121Dのそれぞれの固定端が接続されている。後端部131Bには、後述する支持腕部150の接続腕155が接続されている。
【0030】
前端部131A、後端部131B、左端部131C、及び右端部131Dは、それぞれ、基部130の外縁部の一部である。具体的には、前端部131A及び後端部131Bは、それぞれ、X軸方向に延びる端部であり、前端部131Aと後端部131Bとは、互いに対向するように配置されている。左端部131C及び右端部131Dは、それぞれ、Y軸方向に延びる端部であり、左端部131Cと右端部131Dとは、互いに対向するように配置されている。左端部131Cの両端は、それぞれ、前端部131Aの一端と後端部131Bの一端とに繋がっている。右端部131Dの両端は、それぞれ、前端部131Aの他端と後端部131Bの他端とに繋がっている。
【0031】
平面視において、基部130は、前端部131A及び後端部131Bを長辺とし、左端部131C及び右端部131Dを短辺とする、略長方形状を有する。基部130は、前端部131A及び後端部131Bそれぞれの垂直二等分線に沿って規定される仮想平面Pに対して略面対称に形成されている。なお、基部130の形状は、
図3に示す長方形状である場合に限定されず、仮想平面Pに対して略面対称を構成するその他の形状であってもよい。例えば、基部130の形状は、前端部131A及び後端部131Bの一方が他方よりも長い台形状であってもよい。また、前端部131A、後端部131B、左端部131C、及び右端部131Dの少なくとも1つが屈曲又は湾曲してもよい。
【0032】
なお、仮想平面Pは、振動部110全体の対称面に相当する。したがって、仮想平面Pは、振動腕121A~121DのX軸方向における中心を通る平面でもあり、振動腕121Bと振動腕121Cとの間に位置する。具体的には、隣接する振動腕121A及び振動腕121Bのそれぞれは、仮想平面Pを挟んで、隣接する振動腕121D及び振動腕121Cのそれぞれと対称に形成されている。
【0033】
基部130において、前端部131Aと後端部131Bとの間のY軸方向における最長距離である基部長は、例えば30μm程度である。また、左端部131Cと右端部131Dとの間のX軸方向における最長距離である基部幅は、例えば245μm程度である。なお、
図3に示す例では、基部長は左端部131C又は右端部131Dの長さに相当し、基部幅は前端部131A又は後端部131Bの長さに相当する。
【0034】
保持部140は、振動部110を保持するように構成されている。より詳細には、保持部140は、振動腕121A~121Dが振動可能であるように、構成されている。具体的には、保持部140は、仮想平面Pに対して面対称に形成されている。保持部140は、平面視において矩形の枠形状を有し、XY平面に沿って振動部110の外側を囲むように配置されている。このように、保持部140が平面視において枠形状を有することにより、振動部110を囲む保持部140を容易に実現することができる。
【0035】
なお、保持部140は、振動部110の周囲の少なくとも一部に配置されていればよく、枠形状に限定されるものではない。例えば、保持部140は、振動部110を保持し、また、上蓋30及び下蓋20と接合できる程度に、振動部110の周囲に配置されていればよい。
【0036】
本実施形態においては、保持部140は一体形成される枠体141A~141Dを含んでいる。枠体141Aは、
図3に示すように、振動腕121A~121Dの開放端に対向して、長手方向がX軸に平行に設けられる。枠体141Bは、基部130の後端部131Bに対向して、長手方向がX軸に平行に設けられる。枠体141Cは、基部130の左端部131C及び振動腕121Aに対向して、長手方向がY軸に平行に設けられ、その両端で枠体141A、141
Bの一端にそれぞれ接続される。枠体141Dは、基部130の右端部131D及び振動腕121
Dに対向して、長手方向がY軸に平行に設けられ、その両端で枠体141A、141Bの他端にそれぞれ接続される。枠体141Aと枠体141Bとは、振動部110を挟んでY軸方向において互いに対向している。枠体141Cと枠体141Dとは、振動部110を挟んでX軸方向において互いに対向している。
【0037】
支持腕部150は、保持部140の内側に配置され、基部130と保持部140とを接続している。支持腕部150は、仮想平面Pに対して、面対称に形成されている。具体的には、支持腕部150は、平面視において、支持腕151Aと支持腕151Bとの2本の支持腕を含んでいる。また、支持腕部150は、接続腕155をさらに含んでいる。
【0038】
支持腕151Aは支持後腕152Aと支持側腕153Aとを含み、支持腕151Bは支持後腕152Bと支持側腕153Bとを含む。
【0039】
支持側腕153Aは、振動腕121Aと保持部140との間において、振動腕121Aと並行に延びている。支持側腕153Bは、振動腕121Dと保持部140との間において、振動腕121Dと並行に延びている。具体的には、支持側腕153Aは、支持後腕152Aの一端(左端又は枠体141C側の端)からY軸方向に枠体141Aに向かって延び、X軸方向に屈曲して枠体141Cに接続されている。また、支持側腕153Bは、支持後腕152Bの一端(右端又は枠体141D側の端)からY軸方向に枠体141Aに向かって延び、X軸方向に屈曲して枠体141Dに接続されている。すなわち、支持腕151A及び支持腕151Bのそれぞれの一端は、保持部140に接続されている。
【0040】
支持後腕152A,152Bは、基部130の後端部131Bと保持部140との間において、連結している。具体的には、支持後腕152A,152Bは、後端部131B及び枠体141Bに沿って延びている。そして、支持後腕152Aの他端(右端)と支持後腕152Bの他端(左端)とは、支持後腕152A及び支持後腕152BのX軸方向における中央で連結している。
【0041】
接続腕155は、連結された2本の支持腕151A,151Bのそれぞれの他端と、基部130の後端部131Bとを接続している。接続腕155は、平面視において、基部130の後端部131Bにおける中央、つまり、仮想平面Pが通る位置の1箇所に接続されている。
【0042】
突起部50は、下蓋20の凹部21から振動空間内に突起している。突起部50は、平面視において、振動腕121Bの腕部123Bと振動腕121Cの腕部123Cとの間に配置される。突起部50は、腕部123B,123Cに並行にY軸方向に延び、角柱形状に形成されている。突起部50のY軸方向の長さは240μm程度、X軸方向の長さは15μm程度である。なお、突起部50の数は、1つである場合に限定されず、2以上の複数であってもよい。このように、突起部50が振動腕121Bと振動腕121Cとの間に配置され、凹部21の底板22から突起することにより、下蓋20の剛性を高めることができ、下蓋20の上で形成される共振子10の撓みや、下蓋20の反りの発生を抑制することが可能になる。
【0043】
次に、
図4及び
図5を参照しつつ、一実施形態に従う共振装置の積層構造及び動作について説明する。
図4は、
図1に示す共振装置1の積層構造を概略的に示すX軸に沿う断面図である。
図5は、
図1に示す共振装置1の積層構造を概念的に示すY軸に沿う断面図である。
【0044】
図4及び
図5に示すように、共振装置1は、下蓋20の側壁23上に共振子10の保持部140が接合され、さらに共振子10の保持部140と上蓋30の側壁33とが接合される。このように下蓋20と上蓋30との間に共振子10が保持され、下蓋20と上蓋30と共振子10の保持部140とによって、振動部110が振動する振動空間が形成されている。
【0045】
共振子10における、振動部110、保持部140、及び支持腕部150は、同一プロセスによって一体的に形成される。共振子10は、基板の一例であるSi基板F2の上に、金属膜E1が積層されている。そして、金属膜E1の上には、金属膜E1を覆うように圧電膜F3が積層されており、さらに、圧電膜F3の上には金属膜E2が積層されている。金属膜E2の上には、金属膜E2を覆うように保護膜F5が積層されている。質量付加部122A~122Dにおいては、さらに、保護膜F5の上にそれぞれ、前述の質量付加膜125A~125Dが積層されている。振動部110、保持部140、及び支持腕部150のそれぞれの外形は、前述したSi基板F2、金属膜E1、圧電膜F3、金属膜E2、保護膜F5等から構成される積層体を、例えばアルゴン(Ar)イオンビームを照射するドライエッチングによって除去加工し、パターニングすることによって形成される。
【0046】
本実施形態では、共振子10が金属膜E1を含む例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、共振子10は、Si基板F2に低抵抗となる縮退シリコン基板を用いることで、Si基板F2自体が金属膜E1を兼ねることができ、金属膜E1を省略してもよい。
【0047】
Si基板F2は、例えば、厚み6μm程度の縮退したn型シリコン(Si)半導体から形成されており、n型ドーパントとしてリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)等を含むことができる。また、Si基板F2に用いられる縮退シリコン(Si)の抵抗値は、例えば1.6mΩ・cm未満であり、より好ましくは1.2mΩ・cm以下である。さらに、Si基板F2の下面には、温度特性補正層の一例として、例えばSiO2等の酸化ケイ素層F21が形成されている。これにより、温度特性を向上させることが可能になる。
【0048】
本実施形態において、酸化ケイ素層F21は、当該酸化ケイ素層F21をSi基板F2に形成しない場合と比べて、Si基板F2に温度補正層を形成したときの振動部110における周波数の温度係数、つまり、温度当たりの変化率を、少なくとも常温近傍において低減する機能を有する層をいう。振動部110が酸化ケイ素層F21を有することにより、例えば、Si基板F2と金属膜E1、E2と圧電膜F3及び酸化ケイ素層F21とによる積層構造体の共振周波数において、温度に伴う変化を低減することができる。酸化ケイ素層は、Si基板F2の上面に形成されてもよいし、Si基板F2の上面及び下面の両方に形成されてもよい。
【0049】
質量付加部122A~122Dの酸化ケイ素層F21は、均一の厚みで形成されることが望ましい。なお、均一の厚みとは、酸化ケイ素層F21の厚みのばらつきが厚みの平均値から±20%以内であることをいう。
【0050】
金属膜E1,E2は、それぞれ、振動腕121A~121Dを励振する励振電極と、励振電極と外部電源とを電気的に接続させる引出電極と、を含んでいる。金属膜E1,E2の励振電極として機能する部分は、振動腕121A~121Dの腕部123A~123Dにおいて、圧電膜F3を挟んで互いに対向している。金属膜E1,E2の引出電極として機能する部分は、例えば、支持腕部150を経由し、基部130から保持部140に導出されている。金属膜E1は、共振子10全体に亘って電気的に連続している。金属膜E2は、振動腕121A,121Dに形成された部分と、振動腕121B,121Cに形成された部分と、において、電気的に離れている。
【0051】
金属膜E1,E2の厚みは、それぞれ、例えば0.1μm以上0.2μm以下程度である。金属膜E1,E2は、成膜後に、エッチング等の除去加工によって励振電極、引出電極等にパターニングされる。金属膜E1,E2は、例えば、結晶構造が体心立方構造である金属材料によって形成される。具体的には、金属膜E1,E2は、Mo(モリブデン)、タングステン(W)等を用いて形成される。このように、金属膜E1、E2は、結晶構造が体心立方構造である金属を主成分とすることにより、共振子10の下部電極及び上部電極に適した金属膜E1、E2を容易に実現することができる。
【0052】
圧電膜F3は、電気的エネルギーと機械的エネルギーとを相互に変換する圧電体の一種によって形成された薄膜である。圧電膜F3は、金属膜E1,E2によって圧電膜F3に形成される電界に応じて、XY平面の面内方向のうちのY軸方向に伸縮する。この圧電膜F3の伸縮によって、振動腕121A~121Dは、それぞれ、下蓋20の底板22及び上蓋30の底板32に向かってその開放端を変位させる。これにより、共振子10は、面外屈曲の振動モードで振動する。
【0053】
圧電膜F3の厚みは、例えば1μm程度であるが、0.2μm~2μm程度であってもよい。圧電膜F3は、ウルツ鉱型六方晶構造の結晶構造を持つ材質によって形成されており、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)、などの窒化物又は酸化物を主成分とすることができる。なお、窒化スカンジウムアルミニウムは、窒化アルミニウムにおけるアルミニウムの一部がスカンジウムに置換されたものであり、スカンジウムの代わりに、マグネシウム(Mg)及びニオブ(Nb)、又はマグネシウム(Mg)及びジルコニウム(Zr)、などの2元素で置換されていてもよい。このように、圧電膜F3は、結晶構造がウルツ鉱型六方晶構造を有する圧電体を主成分とすることにより、共振子10に適した圧電膜F3を容易に実現することができる。
【0054】
保護膜F5は、金属膜E2を酸化から保護する。なお、保護膜F5は上蓋30側に設けられていれば、上蓋30の底板32に対して露出していなくてもよい。例えば、保護膜F5を覆うように、共振子10に形成された配線の容量を低減する寄生容量低減膜等が形成されてもよい。保護膜F5は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)等の圧電膜の他、窒化シリコン(SiN)、酸化シリコン(SiO2)、酸化アルミナ(Al2O3)、五酸化タンタル(Ta2O5)等の絶縁膜で形成される。保護膜F5の厚さは、圧電膜F3の厚さの半分以下の長さで形成され、本実施形態では、例えば0.2μm程度である。なお、保護膜F5のより好ましい厚さは、圧電膜F3の厚さの4分の1程度である。さらに、保護膜F5が窒化アルミニウム(AlN)等の圧電体によって形成される場合には、圧電膜F3と同じ配向を持った圧電体が用いられることが好ましい。
【0055】
質量付加部122A~122Dの保護膜F5は、均一の厚みで形成されることが望ましい。なお、均一の厚みとは、保護膜F5の厚みのばらつきが厚みの平均値から±20%以内であることをいう。
【0056】
質量付加膜125A~125Dは、質量付加部122A~122Dのそれぞれの上蓋30側の表面を構成し、振動腕121A~121Dのそれぞれの周波数調整膜に相当する。質量付加膜125A~Dのそれぞれの一部を除去するトリミング処理によって、共振子10の周波数が調整される。周波数調整の効率の点から、質量付加膜125A~125Dは、エッチングによる質量低減速度が保護膜F5よりも早い材料によって形成されることが好ましい。質量低減速度は、エッチング速度と密度との積により表される。エッチング速度とは、単位時間あたりに除去される厚みである。保護膜F5と質量付加膜125A~125Dとは、質量低減速度の関係が前述の通りであれば、エッチング速度の大小関係は任意である。また、質量付加部122A~122Dの重さを効率的に増大させる観点から、質量付加膜125A~125Dは、比重の大きい材料によって形成されるのが好ましい。これらの理由により、質量付加膜125A~125Dは、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)等の金属材料によって形成されている。
【0057】
質量付加膜125A~125Dのそれぞれの上面の一部が、周波数を調整する工程においてトリミング処理によって除去されている。質量付加膜125A~125Dのトリミング処理は、例えばアルゴン(Ar)イオンビームを照射するドライエッチングによって行うことができる。イオンビームは広範囲に照射できるため加工効率に優れるが、電荷を有するため質量付加膜125A~125Dを帯電させるおそれがある。質量付加膜125A~Dの帯電によるクーロン相互作用によって、振動腕121A~121Dの振動軌道が変化して共振子10の振動特性が劣化するのを防止するため、質量付加膜125A~125Dは接地されることが好ましい。
【0058】
保持部140の保護膜F5の上には、引出線C1,C2,及びC3が形成されている。引出線C1は、圧電膜F3及び保護膜F5に形成された貫通孔を通して、金属膜E1と電気的に接続されている。引出線C2は、保護膜F5に形成された貫通孔を通して、金属膜E2のうち振動腕121A,121Dに形成された部分と電気的に接続されている。引出線C3は、保護膜F5に形成された貫通孔を通して、金属膜E2のうち振動腕121B,121Cに形成された部分と電気的に接続されている。引出線C1~C3は、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、金(Au)、錫(Sn)、などの金属材料によって形成されている。
【0059】
本実施形態では、
図4において、腕部123A~123D、引出線C2及びC3、貫通電極V2及びV3等が同一平面の断面上に位置する例を示しているが、これらは必ずしも同一平面の断面上に位置するものではない。例えば、貫通電極V2及びV3が、Z軸及びX軸によって規定されるZX平面と平行であり且つ腕部123A~123Dを切断する断面から、Y軸方向に離れた位置で形成されていてもよい。
【0060】
同様に、本実施形態では、
図5において、質量付加部122A、腕部123A、引出線C1,C2、貫通電極V1,V2等が同一平面の断面上に位置する例を示しているが、これらは必ずしも同一平面の断面上に位置するものではない。
【0061】
下蓋20の底板22及び側壁23は、Si基板P10により、一体的に形成されている。Si基板P10は、縮退されていないシリコンから形成されており、その抵抗率は例えば10Ω・cm以上である。下蓋20の凹部21の内側では、Si基板P10が露出している。突起部50の上面には、酸化ケイ素層F21が形成されている。但し、突起部50の帯電を抑制する観点から、突起部50の上面には、酸化ケイ素層F21よりも電気抵抗率の低いSi基板P10が露出してもよく、導電層が形成されてもよい。
【0062】
Z軸方向に規定される下蓋20の厚みは150μm程度、同様に規定される凹部21の深さは50μm程度である。
【0063】
上蓋30の底板32及び側壁33は、Si基板Q10により、一体的に形成されている。上蓋30の表面、裏面、及び貫通孔の内側面は、シリコン酸化膜Q11に覆われていることが好ましい。シリコン酸化膜Q11は、例えばSi基板Q10の酸化や、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)によって、Si基板Q10の表面に形成される。上蓋30の凹部31の内側では、Si基板Q10が露出している。なお、上蓋30の凹部31における、共振子10と対向する側の面にはゲッター層が形成されてもよい。ゲッター層は、例えば、チタン(Ti)などによって形成され、後述する接合部40等から放出されるアウトガスを吸着し、振動空間の真空度の低下を抑制する。なお、ゲッター層は、下蓋20の凹部21における、共振子10と対向する側の面に形成されてもよく、下蓋20の凹部21及び上蓋30の凹部31の両方における、共振子10と対向する側の面に形成されてもよい。
【0064】
Z軸方向に規定される上蓋30の厚みは150μm程度、同様に規定される凹部31の深さは50μm程度である。
【0065】
上蓋30の上面(共振子10と対向する面とは反対側の面)には端子T1,T2,及びT3が形成されている。端子T1は金属膜E1を接地させる実装端子である。端子T2は振動腕121A,121Dの金属膜E2を外部電源に電気的に接続させる実装端子である。端子T3は、振動腕121B,121Cの金属膜E2を外部電源に電気的に接続させる実装端子である。端子T1~T3は、例えば、クロム(Cr)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)などのメタライズ層(下地層)に、ニッケル(Ni)、金(Au)、銀(Ag)、Cu(銅)などのメッキを施して形成されている。なお、上蓋30の上面には、寄生容量や機械的強度バランスを調整する目的で、共振子10とは電気的に絶縁されたダミー端子が形成されてもよい。
【0066】
上蓋30の側壁33の内部には貫通電極V1,V2,V3が形成されている。貫通電極V1は端子T1と引出線C1とを電気的に接続し、貫通電極V2は端子T2と引出線C2とを電気的に接続し、貫通電極V3は端子T3と引出線C3とを電気的に接続している。貫通電極V1~V3は、上蓋30の側壁33をZ軸方向に貫通する貫通孔に導電性材料を充填して形成されている。充填される導電性材料は、例えば、多結晶シリコン(Poly-Si)、銅(Cu)、金(Au)等である。
【0067】
上蓋30の側壁33と保持部140との間には、接合部40が形成されており、この接合部40によって、上蓋30が共振子10とが接合される。接合部40は、共振子10の振動空間を真空状態で気密封止するように、XY平面において振動部110を囲む閉環状に形成されている。接合部40は、例えばアルミニウム(Al)膜、ゲルマニウム(Ge)膜、及びアルミニウム(Al)膜がこの順に積層されて共晶接合された金属膜によって形成されている。なお、接合部40は、金(Au)、錫(Sn)、銅(Cu)、チタン(Ti)、シリコン(Si)、などから適宜選択された膜の組み合わせによって形成されてもよい。また、密着性を向上させるために、接合部40は、窒化チタン(TiN)や窒化タンタル(TaN)等の金属化合物を膜間に含んでいてもよい。
【0068】
本実施形態では、端子T1が接地され、端子T2と端子T3には、互いに逆位相の交番電圧が印加される。したがって、振動腕121A,121Dの圧電膜F3に形成される電界の位相と、振動腕121B,121Cの圧電膜F3に形成される電界の位相と、は互いに逆位相になる。これにより、外側の振動腕121A,121Dと、内側の振動腕121B,121Cとが互いに逆方向に変位する。
【0069】
例えば、
図4に示すように、振動腕121A,121Dのそれぞれの質量付加部122A,122D及び腕部123A,123Dが上蓋30の内面に向かって変位するとき、振動腕121B,121Cのそれぞれの質量付加部122B,122C及び腕部123B,123Cが下蓋20の内面に向かって変位する。図示を省略するが、逆に、振動腕121A,121Dのそれぞれの質量付加部122A,122D及び腕部123A,123Dが下蓋20の内面に向かって変位するとき、振動腕121B,121Cのそれぞれの質量付加部122B,122C及び腕部123B,123Cが上蓋30の内面に向かって変位する。これにより、4本の振動腕121A~121Dは、少なくとも2本が異なる位相で面外屈曲する。
【0070】
このように、隣り合う振動腕121Aと振動腕121Bとの間で、Y軸方向に延びる中心軸r1回りに振動腕121Aと振動腕121Bとが上下逆方向に振動する。また、隣り合う振動腕121Cと振動腕121Dとの間で、Y軸方向に延びる中心軸r2回りに振動腕121Cと振動腕121Dとが上下逆方向に振動する。これにより、中心軸r1と中心軸r2とで互いに逆方向の捩れモーメントが生じ、振動部110での屈曲振動が発生する。振動腕121A~121Dの最大振幅は50μm程度、通常駆動時の振幅は10μm程度である。
【0071】
次に、
図6及び
図7を参照しつつ、振動部の振動による変位について説明する。
図6は、
図3に示す振動部110の振動による変位分布を模式的に示す平面図である。
図7は、
図3に示す振動部110の振動による変位分布を模式的に示す斜視図である。なお、
図6及び
図7に示す振動部110において、色の濃い領域は変位が大きいことを示し、色の薄い領域は変位が小さいことを示している。
【0072】
図6及び
図7に示すように、振動部110は、面外屈曲の振動モードで振動するので、振動腕121A~121Dの変位が大きくなる。振動腕121A~121Dの変位に伴い、支持腕部150によって保持部140に保持される基部130も撓んで変位する。本実施形態では、支持腕151Aと支持腕151Bとの2本の支持腕のそれぞれの他端が、基部130の後端部131Bにおける1箇所に接続されているので、従来と比較して、基部130の撓みが大きく、その変位、より詳細には、基部130の左端部131C及び右端部131Dの変位は大きくなる。
【0073】
ここで、
図8を参照しつつ、振動部の振動による基部の変位量について説明する。
図8は、
図3に示す振動部110の振動による基部130の変位量を示すグラフである。
図8において、横軸は基部130の左端部131Cを基準、つまり、ゼロとしたときの距離であり、縦軸は変位量の相対値である。なお、
図8では、本実施形態の共振子10における変位量を実線で示し、比較のため、従来の共振子における変位量を点線で示す。従来の共振子は、2本の支持腕が、基部の後端部にそれぞれ接続、つまり、2箇所で接続されている点を除き、その他の構造は共振子10と同様である。
【0074】
図8において点線で示すように、従来の共振子では、基部の変位量は、各支持腕との接続箇所付近において最も小さくなっており、基部の中央部付近において最も大きくなっている。
【0075】
これに対し、
図8において実線で示すように、本実施形態の共振子10では、基部130の変位量は、基部130の中央部付近において最も小さくなっており、基部130の両端部、つまり、左端部131C及び右端部131Dにおいて最も大きくなっている。また、左端部131C及び右端部131Dにおける変位量は、従来の共振子の基部の中央部付近における変位量より、絶対値が大きい値である。これにより、本実施形態の共振子10は、従来の共振子と比較して、基部130の変位量が大きいことが分かる。
【0076】
このように、2本の支持腕151A,151Bのそれぞれの他端が、基部130の後端部131Bにおける1箇所に接続されていることにより、従来の共振子と比較して、基部130の撓みが大きくなり、その結果、DLDの指標となる、後述する単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を負方向に変えることが可能となる。従って、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を低減することができ、DLDをさらに改善することができる。
【0077】
また、2本の支持腕151A,151Bは、それぞれの他端が連結されており、接続腕155が、連結された2本の支持腕のそれぞれの他端と、基部130の後端部131Bとを接続することにより、2本の支持腕151A,151Bのそれぞれの他端は、接続腕155を介して、基部130の後端部131Bにおける1箇所に容易に接続することができる。
【0078】
また、2本の支持腕151A,151Bのそれぞれの他端は、平面視において、基部130の後端部131Bにおける中央の1箇所に接続されていることにより、基部130の撓みを大きくなり易い。
【0079】
次に、
図9を参照しつつ、支持腕部の基部における接続位置とDLDとの関係について説明する。
図9は、
図3に示す支持腕部150の基部130における接続箇所とDLDとの関係を示すグラフである。
図9において、横軸は、平面視において、基部130の後端部131Bにおける中央を基準、つまり、ゼロとしたときの2本の支持腕151A,151Bの接続位置までの距離を、基部幅の半分で除算した値である。また、縦軸は、DLDの指標である、単位電力(1μW)あたりの共振周波数(f)の周波数変化率(df/f)である。なお、
図9では、本実施形態の共振子10における単位電力あたりの周波数変化率を黒丸で描画し、比較のため、従来の共振子における単位電力あたりの周波数変化率を白丸で描画する。
【0080】
図9において白丸で描画するように、2本の支持腕が基部の後端部に2箇所で接続されている従来の共振子の場合、単位電力あたりの周波数変化率は、380[ppm/μm]程度までの精度しか得られなかった。
【0081】
これに対し、
図9において黒丸で示すように、本実施形態の共振子10では、2本の支持腕151A,151Bのそれぞれの他端が、基部130の後端部131Bにおける1箇所に接続されていることにより、単位電力あたりの周波数変化率が負方向に変化する。本実施形態では、2本の支持腕151A,151Bのそれぞれの他端は、平面視において、基部130の後端部131Bにおける中央の1箇所に接続されているので、単位電力あたりの周波数変化率は、略0[ppm/μm]を達成することができる。
【0082】
次に、
図10を参照しつつ、平面視における振動部の寸法について説明する。
図10は、
図3に示す振動部110の寸法を説明するための平面図である。
【0083】
図10に示すように、本実施形態の共振子10の振動部110において、質量付加部122A~122DのそれぞれのX軸方向に沿う幅WGは、例えば70μmである。また、振動腕121A~121DのそれぞれのX軸方向に沿う振動腕幅WAは、例えば30μmであり、振動腕121A~121DのそれぞれのY軸方向に沿う振動腕長LAは、例えば400μmである。
【0084】
また、基部130において、前端部131Aから後端部131Bに向かう方向の長さ方向における距離、つまり、基部幅WBの長さは、例えば245μmである。一方、左端部131Cから右端部131Dに向かう方向の幅方向における距離、つまり、基部長LBの長さは、例えば30μmである。
【0085】
ここで、本発明の発明者らは、基部幅WBの長さに対する基部長LBの長さの割合が所定の倍数以下である場合、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を低減できることを見出した。より詳細には、基部長LBの長さは、基部幅WBの長さに対して0.3倍以下であることが好ましいことを見出した。これにより、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を効果的に低減することができる。
【0086】
具体的には、小型化された共振子10において、基部長LBの長さは90μm以下であり、基部幅WBの長さは300μm以下である。これにより、小型化され、寸法が制限された共振子10においても、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を効果的に低減することができる。
【0087】
また、支持腕部150において、支持腕151A,151BのそれぞれのX軸方向に沿う支持腕幅WSの長さは、例えば、25μmであり、支持腕151A,151BのそれぞれのY軸方向に沿う支持腕長LSの長さは、例えば、225μmである。
【0088】
ここで、本発明の発明者らは、支持腕幅WSの長さ対する支持腕長LSの長さの割合が所定の倍数以上である場合、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を低減できることを見出した。より詳細には、支持腕長LSの長さは、支持腕幅WSの長さに対して4倍以上であることが好ましいことを見出した。これにより、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を効果的に低減することができる。
【0089】
具体的には、小型化された共振子10において、支持腕長LSの長さは300μm以下であり、支持腕幅WSの長さは60μm以下である。これにより、小型化され、寸法が制限された共振子10においても、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を効果的に低減することができる。
【0090】
本実施形態では、共振子10の振動部110が4本の振動腕121A~121Dを含む例を用いたが、これに限定されるものではない。振動部110は、例えば、3本又は5本以上の振動腕を含んでいてもよい。この場合、少なくとも2本の振動腕は、異なる位相で面外屈曲する。
【0091】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明した。一実施形態に従う共振子は、2本の支持腕のそれぞれの他端が、基部の後端部における1箇所に接続されている。これにより、従来の共振子と比較して、基部の撓みが大きくなり、その結果、DLDの指標となる、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を負方向に変えることが可能となる。従って、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を低減することができ、DLDをさらに改善することができる。
【0092】
また、前述した共振子において、2本の支持腕は、それぞれの他端が連結されており、接続腕が、連結された2本の支持腕のそれぞれの他端と、基部の後端部とを接続する。これにより、2本の支持腕のそれぞれの他端は、接続腕を介して、基部の後端部における1箇所に容易に接続することができる。
【0093】
また、前述した共振子において、2本の支持腕のそれぞれの他端は、平面視において、基部の後端部における中央の1箇所に接続されている。これにより、基部の撓みを大きくなり易い。
【0094】
また、前述した共振子において、基部長の長さは、基部幅の長さに対して0.3倍以下である。ここで、本発明の発明者らは、基部幅の長さに対する基部長の長さの割合が所定の倍数以下より詳細には、0.3倍以下である場合、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を低減できることを見出した。これにより、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を効果的に低減することができる。
【0095】
また、前述した共振子において、基部長の長さは90μm以下であり、基部幅の長さは300μm以下である。これにより、小型化され、寸法が制限された共振子においても、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を効果的に低減することができる。
【0096】
また、前述した共振子において、支持腕長の長さは、支持腕幅の長さに対して4倍以上である。ここで、本発明の発明者らは、支持腕幅の長さ対する支持腕長の長さの割合が所定の倍数以上、より詳細には、4倍以上である場合、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を低減できることを見出した。これにより、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を効果的に低減することができる。
【0097】
また、前述した共振子において、支持腕長の長さは300μm以下であり、支持腕幅の長さは60μm以下である。これにより、小型化され、寸法が制限された共振子においても、単位電力あたりの共振周波数の周波数変化率を効果的に低減することができる。
【0098】
また、一実施形態に従う共振装置によれば、前述した共振子を備える。これにより、DLDをさらに改善する共振装置を実現できる。
【0099】
また、前述した共振装置において、下蓋及び上蓋をさらに備える。これにより、面外屈曲する振動部の振動空間を容易に形成できる。
【0100】
なお、以上説明した各実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。すなわち、実施形態及び/又は変形例に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、実施形態及び/又は変形例が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、実施形態及び変形例は例示であり、異なる実施形態及び/又は変形例で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもなく、これらも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0101】
1…共振装置、10…共振子、20…下蓋、21…凹部、22…底板、23…側壁、30…上蓋、31…凹部、32…底板、33…側壁、40…接合部、50…突起部、110…振動部、120…励振部、121…振動腕、121A,121B,121C,121D…振動腕、122A,122B,122C,122D…質量付加部、123A,123B,123C,123D…腕部、125A、125B,125C,125D…質量付加膜、130…基部、131A…前端部、131B…後端部、131C…左端部、131D…右端部、140…保持部、141A,141B,141C,141D…枠体、150…支持腕部、151A,151B…支持腕、152A,152B…支持後腕、153A,153B 支持側腕、155…接続腕、LA…振動腕長、LB…基部長、LS…支持腕長、P…仮想平面、r1,r2…中心軸、WA…振動腕幅、WB…基部幅、WG…幅、WS…支持腕幅。