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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20240507BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240507BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20240507BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/139
H01M4/1393
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020563015
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047729
(87)【国際公開番号】W WO2020137436
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2018243736
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明楽 達哉
(72)【発明者】
【氏名】黒田 雄太
(72)【発明者】
【氏名】北條 怜明
(72)【発明者】
【氏名】衣川 元貴
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-209514(JP,A)
【文献】特開2005-276444(JP,A)
【文献】特開2011-023129(JP,A)
【文献】特開2014-191999(JP,A)
【文献】特開2001-076711(JP,A)
【文献】特開2013-048995(JP,A)
【文献】特開2015-185509(JP,A)
【文献】特開2014-035876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02-62
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質を含む電極合材と分散媒とを含む合材スラリーを芯材シートの表面に塗布してウェット塗膜を有する第1極板を形成する塗布工程と、
前記第1極板第1温度になるように加熱して前記ウェット塗膜から前記分散媒を揮散させて乾燥塗膜を有する第2極板を形成する乾燥工程と、
前記第2極板を前記第1温度よりも高い第2温度になるように加熱して焼成された第3極板を得る焼成工程と、を含み、
前記焼成工程では、ロールツーロール方式で搬送中の前記第2極板の一方の表面が第1焼成用ロールの周面に搬送されながら前記第2温度になるように加熱された後、前記第2極板の他方の表面が第2焼成用ロールの周面に搬送されながら前記第2温度になるように加熱され、巻回状態の前記第2極板は加熱されない、
電極の製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程では、不活性雰囲気中で前記第2極板が前記第2温度で加熱される、請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記塗布工程では、ロールツーロール方式で搬送中の前記芯材シートに前記合材スラリーが塗布される、請求項1または2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程では、前記塗布工程に連続してロールツーロール方式で搬送中の前記第1極板が前記第1温度で加熱される、請求項3に記載の電極の製造方法。
【請求項5】
前記塗布工程は、
ロールツーロール方式で搬送中の前記芯材シートの一方の面に前記合材スラリーが塗布される第1塗布ステップと、
前記第1塗布ステップの後、ロールツーロール方式で搬送中の前記芯材シートの他方の面に前記合材スラリーが塗布される第2塗布ステップと、を有し、
前記乾燥工程は、
前記第1塗布ステップの後、前記第2塗布ステップの前に、前記第1塗布ステップに連続してロールツーロール方式で搬送中の前記第1極板を前記第1温度で加熱する第1乾燥ステップと、
前記第2塗布ステップの後、前記第2塗布ステップに連続してロールツーロール方式で搬送中の前記第1極板を前記第1温度で加熱する第2乾燥ステップと、を有する、請求項4に記載の電極の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程と前記焼成工程との間に、前記乾燥塗膜を圧延する圧延工程を更に有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項7】
前記圧延工程では、前記乾燥工程に連続してロールツーロール方式で搬送中の前記第2極板が圧延用ロールで圧延される、請求項6に記載の電極の製造方法。
【請求項8】
前記乾燥工程の後、前記第2極板が捲き取られて回収され、
前記圧延工程では、前記回収された第2電極が捲き出され、ロールツーロール方式で搬送中に圧延用ロールで圧延される、請求項6に記載の電極の製造方法。
【請求項9】
前記焼成工程では、前記圧延工程に連続してロールツーロール方式で搬送中の前記第2極板が前記第2温度で加熱される、請求項7または8に記載の電極の製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程の後、前記第3極板を所定サイズに裁断するスリット工程を更に有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の電極の製造方法。
【請求項11】
前記スリット工程では、前記第3極板がレーザにより裁断される、請求項10に記載の電極の製造方法。
【請求項12】
前記電極活物質が、炭素材料を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の電極の製
造方法。
【請求項13】
電極活物質を含む電極合材と分散媒とを含む合材スラリーを芯材シートの表面に塗布してウェット塗膜を有する第1極板を形成する塗布工程と、
前記第1極板が第1温度になるように加熱して前記ウェット塗膜から前記分散媒を揮散させて乾燥塗膜を有する第2極板を形成する乾燥工程と、
前記第2極板が前記第1温度よりも高い第2温度になるように加熱して焼成された第3極板を得る焼成工程と、を含み、
前記焼成工程では、ロールツーロール方式で搬送中の前記第2極板の一方の表面が第1焼成用ロールの周面に搬送されながら前記第2温度になるように加熱された後、前記第2極板の他方の表面が第2焼成用ロールの周面に搬送されながら前記第2温度になるように加熱され、
前記第2温度は、150℃以上300℃以下である、
電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばリチウムイオン二次電池に用いられる電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芯材シートとその表面に形成された電極合材層とを具備する電極は、通常、芯材シートに電極活物質を含む電極合材と分散媒とを含む合材スラリーを塗布した後、塗膜を乾燥する工程を経て得られる(特許文献1、2)。乾燥後の極板は、通常、フープ状に捲き取られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-234806号公報
【文献】特開2014-49184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フープ状に捲き取られた極板を更に加熱することが望ましい場合がある。例えば、加熱によって電極合材層に残留する水分を低減し得る。また、加熱によって芯材シートの機械特性を制御し得る。
【0005】
ただし、フープ状に捲き取られた極板を均一に加熱するには長時間を要するため、電極の製造コストは増加する。また、圧延された極板は残留応力を有するため、加熱前に比べて電極合材層の厚みが増加する。フープの外周付近では、フープの中心付近に比べて、電極合材層の厚みが増加しやすいため、電極合材層の厚みにはばらつきが生じる。その結果、極板から製造される電極体のサイズにもばらつきが生じ、電池の生産性が低下し得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、電極活物質を含む電極合材と分散媒とを含む合材スラリーを芯材シートの表面に塗布してウェット塗膜を有する第1極板を形成する塗布工程と、前記第1極板を第1温度で加熱して前記ウェット塗膜から前記分散媒を揮散させて乾燥塗膜を有する第2極板を形成する乾燥工程と、前記第2極板を前記第1温度よりも高い第2温度で加熱して焼成された第3極板を得る焼成工程と、を含み、前記焼成工程では、ロールツーロール方式で搬送中の前記第2極板が前記第2温度で加熱される、電極の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電極合材層の厚みのばらつきの少ない電極を効率よく生産し得る。
【0008】
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る電極の製造方法の工程図である。
図2】本発明の別の実施形態に係る電極の製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る電極の製造方法は、電極活物質を含む電極合材と分散媒とを含む合材スラリーを芯材シートの表面に塗布してウェット塗膜を有する第1極板を形成する塗布工程(i)と、第1極板を第1温度で加熱して分散媒を揮散させて乾燥塗膜を有する第2極板を形成する乾燥工程(ii)と、第1温度よりも高い第2温度で第2極板を加熱して焼成された第3極板を得る焼成工程(iii)とを具備する。
【0011】
焼成工程(iii)では、ロールツーロール方式で搬送中の第2極板が第2温度で加熱される。ロールツーロール(Roll-to-Roll)方式とは、芯材シートもしくは各極板が、搬送用ロールなどを用いて搬送される方式である。ロールツーロール方式では、捲き出しロールと捲き取りロールとの間の搬送経路に沿って芯材シートもしくは各極板が搬送される。
【0012】
焼成工程は、加熱された焼成用ロールの周面に乾燥塗膜を接触させることを含んでもよい。また、焼成工程では、不活性雰囲気中で第2極板を第2温度で加熱してもよい。
【0013】
塗布工程では、ロールツーロール方式で搬送中の芯材シートに合材スラリーを塗布してもよい。また、乾燥工程では、塗布工程に連続してロールツーロール方式で搬送中の第1極板を第1温度で加熱してもよい。
【0014】
より具体的には、塗布工程は、ロールツーロール方式で搬送中の芯材シートの一方の面に合材スラリーが塗布される第1塗布ステップと、第1塗布ステップの後、ロールツーロール方式で搬送中の芯材シートの他方の面に合材スラリーが塗布される第2塗布ステップとを有してもよい。この場合、乾燥工程は、第1塗布ステップの後、第2塗布ステップの前に、第1塗布ステップに連続してロールツーロール方式で搬送中の第1極板を第1温度で加熱する第1乾燥ステップと、第2塗布ステップの後、第2塗布ステップに連続してロールツーロール方式で搬送中の第1極板を第1温度で加熱する第2乾燥ステップとを有してもよい。
【0015】
乾燥工程と焼成工程との間に、乾燥塗膜を圧延する圧延工程を更に有してもよい。圧延工程では、乾燥工程に連続してロールツーロール方式で搬送中の第2極板を圧延用ロールで圧延してもよい。
【0016】
乾燥工程の後、第2極板が捲き取られて回収されてもよい。この場合、圧延工程では、回収された第2電極が捲き出されてロールツーロール方式で搬送中に圧延用ロールで圧延されてもよい。
【0017】
また、焼成工程では、圧延工程に連続してロールツーロール方式で搬送中の第2極板を第2温度で加熱してもよい。
【0018】
焼成工程の後、第3極板を所定サイズに裁断するスリット工程を更に有してもよい。スリット工程では、例えば第3極板をレーザにより裁断すればよい。
【0019】
以下、図1を参照しながら、主に、リチウムイオン二次電池用電極(以下、単に電極と称する。)を製造する場合について説明する。
【0020】
図1に示すように、電極Eは、捲き出しロール10、第1塗工装置20A、第1乾燥装置30A、第2塗工装置20B、第2乾燥装置30B、圧延装置40、焼成装置50、スリット装置60、捲き取りロール70を、この順に具備する製造ライン100により製造される。なお、ここでは概ね全工程を一連の製造ライン100で連続的に行う場合を示すが、これに限定されず、例えば、一部の工程を連続的に行った後、一旦、極板を捲き取り、その後、捲き出して次の工程を行ってもよい。
【0021】
以下、工程ごとに説明する。
(i)塗布工程
塗布工程では、電極活物質を含む電極合材と分散媒とを含む合材スラリーが芯材シートの表面に塗布され、ウェット塗膜を有する第1極板が形成される。ここでは、第1極板とは、ウェット塗膜を有する極板もしくは最終の乾燥工程を終えるまでの極板をいう。ウェット塗膜とは、合材スラリーに含まれる分散媒の多くが残留している塗膜である。塗布工程は、例えば、ロールツーロール方式で搬送中、すなわち、捲き出しロールと捲き取りロールとの間の搬送経路を搬送されている途中の芯材シートに対して行われる。
【0022】
具体的には、図1に示すように、捲き出しロール10により、フープ状に捲回された芯材シートAが外周側から逐次捲き出され、第1塗工装置20Aおよび第2塗工装置20Bに順次供給される。芯材シートは、極板の集電体として機能する導電性シートであり、例えば金属箔が用いられる。製造対象の電極が負極である場合、芯材シートAには、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金等の金属箔が用いられる。製造対象の電極が正極である場合、芯材シートAには、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、ステンレス鋼等の金属箔が用いられる。
【0023】
塗布工程を行う塗工装置は、特に限定されないが、ダイコータ、コンマコータ、グラビアコータ等を用い得る。搬送経路には、塗工装置が具備する塗工用ロールを設けてもよい。塗工用ロールは、コンマコータやグラビアコータのバックアップロールのように搬送用ロールを兼ねてもよい。
【0024】
図1に示す第1塗工装置20Aおよび第2塗工装置20Bは、それぞれスロットダイ21A、21Bを具備するダイコータであり、芯材シートを挟んでスロットダイ21A、21Bの反対側には、それぞれバックアップロール22A、22Bが設けられている。バックアップロール22A、22Bは、搬送ロールを兼ねている。スロットダイ21Aとバックアップロール22Aとの対によって芯材シートAの一方の表面に第1のウェット塗膜が形成されて第1極板B1が形成され(第1塗布ステップ)、その後、後述の第1乾燥ステップを経た後、スロットダイ21Bとバックアップロール22Bとの対によって芯材シートAの他方の表面に第2のウェット塗膜が形成され(第2塗布ステップ)、第1極板B2が得られる。
【0025】
合材スラリーは、分散媒と電極合材とを混合することで調製される。電極合材は、電極活物質を必須成分として含み、結着材、導電材等の任意成分を含み得る。分散媒は、電極合材を分散させる液状成分である。
【0026】
電極活物質とは、電気化学的な容量を発現する材料であり、例えばリチウムイオン二次電池の電極活物質はリチウムイオンの挿入(吸蔵)および脱離(放出)を伴う酸化還元反応により容量を発現する。製造対象の電極が負極である場合、負極活物質には、炭素材料等が用いられる。炭素材料としては、黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素等が用いられる。製造対象の正極が正極である場合、正極活物質には、リチウム含有遷移金属酸化物、オリビン型リン酸リチウム等が用いられる。リチウム含有遷移金属酸化物としては、コバルト酸リチウムのような層状構造を有する岩塩型酸化物等が用いられるが、特に限定されない。
【0027】
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂;ポリアクリル酸メチルなどのアクリル樹脂;スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴムなどのゴム状材料;またはこれらの混合物などが例示できる。また、カルボキシメチルセルロールのような水溶性樹脂を増粘剤として用いてもよい。
【0028】
分散媒としては、水、有機溶媒等を用い得る。有機溶媒としては、エタノールなどのアルコール、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル、アセトンなどのケトン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などが挙げられる。これらは混合して用いてもよい。
【0029】
(ii)乾燥工程
乾燥工程では、第1極板が第1温度で加熱され、ウェット塗膜から分散媒の大部分(例えば99.7%以上)が除去され、第2極板が得られる。ここでは、第2極板とは、最終の乾燥工程(すなわち、図1の場合、第2乾燥ステップ)を経た後、焼成工程を終えるまでの極板をいう。乾燥工程では、例えば、空気中、減圧雰囲気中、不活性ガス雰囲気中等でウェット塗膜を乾燥させればよい。ウェット塗膜に乾燥させた温風を吹き付けてもよい。
【0030】
ここで、第1温度とは、乾燥工程において芯材シートが到達する最高温度である。第1温度は、特に限定されないが、例えば、60℃以上であればよく、100℃以上でもよい。また、電極合材に含まれる各成分および芯材シートの劣化を抑制する観点から、第1温度は150℃以下とすればよく、120℃以下としてもよい。
【0031】
乾燥工程では、塗布工程に連続してロールツーロール方式で搬送中の第1極板を第1温度で加熱してもよい。すなわち、作業効率を高めるために塗布工程と乾燥工程とを連続的に行ってもよい。
【0032】
図1に示される第1乾燥装置30Aおよび第2乾燥装置30Bは、いずれも乾燥炉であり、第1乾燥装置30Aで第1極板B1が具備する第1のウェット塗膜が第1温度に加熱されて乾燥され(第1乾燥ステップ)、第2乾燥装置30Bで第1極板B2が具備する第2のウェット塗膜が第1温度に加熱されて乾燥される(第2乾燥ステップ)。乾燥炉30A、30Bは、内部に搬送経路を有するトンネル状の構造を有する。搬送中の第1極板B1、B2が乾燥炉30A、30B内を搬送されている間に各ウェット塗膜から分散媒の大半が揮散し、乾燥炉30Bの出口から両面に乾燥塗膜を具備する第2極板Cが導出される。
【0033】
乾燥時間は、分散媒の種類、第1温度、雰囲気圧力などに応じて適宜選択すればよいが、例えば1~30分であればよい。
【0034】
(iii)焼成工程
焼成工程では、第1温度よりも高い第2温度で第2極板が加熱され、焼成された第3極板が得られる。ここでは、第3極板とは、最終の焼成工程を経た後、スリット工程に供されるまでの極板をいう。焼成工程では、ロールツーロール方式で搬送中の第2極板が第2温度で加熱される。
【0035】
焼成工程では、乾燥塗膜に残留していた分散媒が更に揮散するとともに、芯材シートの柔軟性等の機械特性が調整される。搬送中の第2極板を焼成する場合、乾燥塗膜の残留応力によって乾燥塗膜の厚みが増加するが、いずれの部位においても加熱の程度が概ね同じであり、かつ印加され得る圧力の程度も概ね同じであるため、乾燥塗膜の厚みの増加は概ね一律である。すなわち、乾燥塗膜の厚みにばらつきが生じにくく、電池の生産効率が向上し得る。また、フープ状に捲き取られた極板を加熱する場合に比べ、顕著に加熱時間を短縮し得る。
【0036】
中でもリチウムイオン二次電池用負極を製造する場合、負極活物質として用いられる炭素材料は、残留応力が大きく、焼成工程で乾燥塗膜(すなわち電極合材層)の厚みが増加しやすい。リチウムイオン二次電池用負極の負極合材層の厚みのばらつきの低減は、リチウムイオン二次電池の生産性を顕著に向上させ得る。
【0037】
焼成工程では、加熱された焼成用ロールの周面に乾燥塗膜を接触させてもよい。焼成用ロールは、自身の周面を加熱する加熱機構を有すればよく、例えば、焼成用ロールの内部にヒータを内蔵させてもよく、焼成用ロールに軸方向の通路を設けて通路内に高温の流体を流通させてもよい。これにより、第2極板はより短時間で第2温度まで加熱され、焼成される。焼成の効率を向上させる観点から、焼成用ロールの周面の50%以上の面積が乾燥塗膜で覆われるように焼成用ロールに乾燥塗膜を沿わせてもよい。
【0038】
ここで、第2温度とは、焼成工程において芯材シートが到達する最高温度である。第2温度は、乾燥工程で除去されなかった分散媒(特に水分)を更に除去し得る温度であればよく、芯材シートの柔軟性を向上させ得る温度であってもよい。第2温度は、例えば、150℃以上であればよく、200℃以上でもよい。焼成工程の効果を高める観点からは、第1温度と第2温度との温度差を、例えば50℃以上に設定すればよい。一方、電極合材に含まれる各成分および芯材シートの劣化を抑制する観点から、第2温度は300℃以下とすればよく、250℃以下としてもよい。
【0039】
焼成工程では、例えば、不活性雰囲気中で乾燥塗膜を第2温度に加熱すればよい。不活性雰囲気は、例えば、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の希ガス雰囲気、減圧雰囲気等であればよい。これにより電極合材に含まれる各成分および芯材シートの劣化を抑制しやすくなる。
【0040】
図1に示される焼成装置50は、それぞれ少なくとも周面が加熱された第1焼成用ロール51aと第2焼成用ロール51bとを具備する。圧延された第2極板Dが第1焼成用ロール51aの周面に接触しながら搬送されている間に、第1焼成用ロール51aによって、芯材シートAの一方の表面に形成されている乾燥塗膜が第2温度に加熱され、焼成される。引き続き、圧延された第2極板Dが第2焼成用ロール51bの周面に接触しながら搬送されている間に、第2焼成用ロール51bによって、芯材シートAの他方の表面に形成されている乾燥塗膜が第2温度に加熱され、焼成される。
【0041】
焼成時間は、第2温度、雰囲気圧力などに応じて適宜選択すればよい。また、焼成用ロールによる極板の送り速度は、例えば20~50m/分とすればよい。
【0042】
(iv)圧延工程
乾燥工程と焼成工程との間に、乾燥塗膜を圧延する圧延工程を更に有してもよい。圧延工程により乾燥塗膜を圧縮することで、塗膜の密度と強度を高め得る。圧延工程では、乾燥工程に連続してロールツーロール方式で搬送中の第2極板を圧延用ロールで圧延してもよい。その後の焼成工程では、圧延工程に連続してロールツーロール方式で搬送中の第2極板を第2温度で加熱してもよい。すなわち、作業効率を高めるために、乾燥工程と圧延工程とを連続的に行ってもよく、さらに圧延工程と焼成工程とを連続的に行ってもよい。
【0043】
図1に示される圧延装置40は、軸方向が互いに平行に配置された第1ロール41aと第2ロール41bとを具備する。第1ロール41aもしくは第2ロール41bは搬送ロールを兼ねている。第1ロール41aと第2ロール41bとの間には、第2極板Cの厚さより小さい隙間が形成されている。この隙間に第2極板Cが導入され、圧縮された乾燥塗膜を具備する第2極板Dが隙間から導出される。なお、図示例では一対のロールを具備する圧延装置40を示したが、圧延装置40は2対以上のロールを連続して具備してもよい。
【0044】
第1ロール41aと第2ロール41bとの間で乾燥塗膜に印加される線圧は、例えば、0.2~1kN/cmであり、0.3~0.8kN/cmでもよい。
【0045】
(v)スリット工程
焼成工程の後、焼成された第3極板Eを所定サイズに裁断するスリット工程を更に有してもよい。このとき、焼成工程に連続してロールツーロール方式で搬送中の第3極板Eを裁断装置で裁断してもよい。すなわち、作業効率を高めるために、焼成工程とスリット工程とを連続的に行ってもよい。このような連続工程では、レーザを用いて第3極板Eを裁断することが効率的である。
【0046】
図1に示されるスリット装置60は、電池複数個分の幅を有する焼成後の第3極板Eを電池1個分の幅の電極に裁断するレーザ加工装置である。スリット工程を終えて形成された複数の電極は、捲き取りロール70により、それぞれ平行にフープ状に捲き取られる。
【0047】
得られた電極は、例えば帯状であり、対電極およびセパレータとともに渦巻き状に捲回され、柱状の電極体が形成される。柱状の電極体は、例えば、開口を有する有底金属缶に非水電解質とともに収容される。電池缶の開口を封口体で塞ぐことで、円筒型のリチウムイオン二次電池が得られる。
【0048】
電極の厚さがばらつくと、電極体のサイズがばらつき、電池缶に電極体を挿入できない場合や、電池缶に対して電極体が過度に小さくなることがあり、電池の生産性が低下する。一方、本実施形態に係る製造方法によれば、電極の厚さのばらつきが小さいため、そのような懸念が小さくなる。
【0049】
次に、図2を参照しながら、別の実施形態に係る電極の製造方法について説明する。なお、図1と同じ、もしくは対応する要素には、図1と同じ符号を付している。
【0050】
本実施形態では、図2に示すように、中継ぎロール80が使用される。すなわち、電極Eは、捲き出しロール10、第1塗工装置20A、第1乾燥装置30A、第2塗工装置20B、第2乾燥装置30B、中継ぎロール80、圧延装置40、焼成装置50、スリット装置60、捲き取りロール70を具備する製造ライン200により製造される。ここでは、塗布工程と乾燥工程とが製造ライン200の一部で連続的に行われ、その後、圧延工程と焼成工程を含む残りの工程が、製造ライン200の残部で連続的に行われる。上記以外は、実施形態1と同様に製造プロセスが行われる。中継ぎロール80により、一旦、第2電極を回収することで、乾燥工程までのプロセスと、圧延工程以降のプロセスとを、別の場所で行うことができるなど、製造プロセスの自由度が大きくなる。
【0051】
以上、円筒型電池を中心に説明したが、電池の形状は、円筒型に限らず、角型、偏平型などであってもよい。また、電極体は、柱状に限らず、積層型等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る電極の製造方法は、例えばリチウムイオン二次電池用負極の製造方法として好適である。
【0053】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【符号の説明】
【0054】
100、200:製造ライン
10:捲き出しロール
20A:第1塗工装置
21A:スロットダイ
22A:バックアップロール
20B:第2塗工装置
21B:スロットダイ
22B:バックアップロール
30A:第1乾燥装置
30B:第2乾燥装置
40:圧延装置
41a:第1ロール
41b:第2ロール
50:焼成装置
51a:第1焼成用ロール
51b:第2焼成用ロール
60:スリット装置
70:捲き取りロール
80:中継ぎロール
図1
図2