(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】加熱調理器
(51)【国際特許分類】
F24C 15/00 20060101AFI20240507BHJP
F24C 7/04 20210101ALI20240507BHJP
A47J 37/06 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
F24C15/00 B
F24C7/04 A
A47J37/06
(21)【出願番号】P 2021108777
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】国本 隆紀
(72)【発明者】
【氏名】小牟田 孝博
(72)【発明者】
【氏名】志智 一義
【審査官】木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-003493(JP,A)
【文献】特開2016-080210(JP,A)
【文献】特開2012-217758(JP,A)
【文献】特開2018-157989(JP,A)
【文献】特開2001-065878(JP,A)
【文献】特開2014-015626(JP,A)
【文献】特開2003-225165(JP,A)
【文献】実開昭59-076913(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24C 15/00
F24C 7/04
A47J 37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリル庫を有する加熱調理器であって、
前記グリル庫は、
内側に食材を収容して加熱する加熱空間が形成される本体ケースと、
前記食材を加熱するヒータと、
を備え、
前記本体ケースの前記加熱空間側の表面の少なくとも一部は、金属部材をガラス質の層によって覆うことによって形成されたホーロー部材で構成され、
前記ホーロー部材は、L*a*b*表色系で表示した明度L*が27以上、31未満である色調を有する、
加熱調理器。
【請求項2】
グリル庫を有する加熱調理器であって、
前記グリル庫が、
内側に食材を収容して加熱する加熱空間が形成される本体ケースと、
前記食材を加熱するヒータと、
を備え、
前記本体ケースの前記加熱空間側の表面の少なくとも一部は、金属部材をガラス質の層によって覆うことによって形成されたホーロー部材で構成され、
前記ホーロー部材は、近赤外の波長領域(中心波長1000nm)における赤外線反射率が11.5%以上、12.6%未満である、
加熱調理器。
【請求項3】
グリル庫を有する加熱調理器であって、
前記グリル庫が、
内側に食材を収容して加熱する加熱空間が形成される本体ケースと、
前記食材を加熱するヒータと、
を備え、
前記本体ケースの前記加熱空間側の表面の少なくとも一部は、金属部材をガラス質の層によって覆うことによって形成されたホーロー部材で構成され、
前記ホーロー部材は、可視光の波長領域(中心波長750nm)における可視光反射率が5.3%以上、6.5%未満である、
加熱調理器。
【請求項4】
グリル庫を有する加熱調理器であって、
前記グリル庫は、
内側に食材を収容して加熱する加熱空間が形成される本体ケースと、
前記食材を加熱するヒータと、
を備え、
前記本体ケースの前記加熱空間側の表面の少なくとも一部は、金属部材をガラス質の層によって覆うことによって形成されたホーロー部材で構成され、
前記ガラス質の層は、黒色のガラス質と白色のガラス質とを含み、
前記ホーロー部材の表面において、前記白色のガラス質の表面積は、前記ホーロー部材の表面積の1%以上、9%未満である、
加熱調理器。
【請求項5】
前記ガラス質の層は、黒色のガラス質と白色のガラス質とを含み、前記白色のガラス質が前記黒色のガラス質において点在するように構成されている、
請求項1から4のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項6】
前記ホーロー部材は、前記本体ケースの前記加熱空間側の側面の少なくとも一部を覆うように形成されている、
請求項1から5のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項7】
前記ヒータは、前記本体ケースの天板の外側上面に配置されている、
請求項1から6のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項8】
前記グリル庫は、前面開口部を閉じるグリル扉と、スライドレールとを更に備え、
前記スライドレールは、前記加熱空間の外側、又は前記本体ケースの底部に配置され、
前記グリル扉は、前記スライドレールの一端に接続され、前記スライドレールのスライド移動によって前記グリル庫を開閉するように構成された、
請求項1から7のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【請求項9】
前記本体ケースの前記加熱空間側の側面は、前記ホーロー部材で構成されない部分を有する、
請求項1から8のいずれか1項に記載の加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材を収容して加熱調理を行う加熱調理器に関し、より詳しくは、グリル庫を備える加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の加熱調理器は、魚などの食材を収容して加熱調理する加熱空間を有するグリル庫を有するものが知られている。例えば、特許文献1に記載された加熱調理器のグリル庫は、内部に食材を収容し、外部に配置されたヒータにより加熱される本体ケースを備えている。当該本体ケースの内側表面の部分が、金属部材を黒色ガラス層によって覆うことによって形成されたホーロー部材を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の加熱調理器のグリル庫の場合、グリル庫の本体ケースの加熱空間側の底部表面が、黒色のホーロー層を有することによって、加熱空間内を簡単に清掃することができ、且つ、加熱効率を向上させることができる。更に、調理された食材の焼き色についての要望があり、従来の加熱調理器においては、グリル庫で調理された食材の焼き色を向上させることが求められている。
【0005】
そこで、本開示の目的は、前記課題を解決することにあって、グリル庫で調理された食材の焼き色を向上できる加熱調理器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本開示に係る加熱調理器は、グリル庫を有する加熱調理器であって、グリル庫は、内側に食材を収容して加熱する加熱空間が形成される本体ケースと、食材を加熱するヒータと、を備え、本体ケースの加熱空間側の表面の少なくとも一部は、金属部材をガラス質の層によって覆うことによって形成されたホーロー部材で構成され、ホーロー部材は、L*a*b*表色系で表示した明度L*が27以上、31未満である色調を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加熱調理器において、グリル庫で調理された食材の焼き色を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施の形態に係る加熱調理器の分解斜視図である。
【
図2】本開示の一実施の形態に係るグリル庫が配置された状態の一例を示す加熱調理器の部分斜視図である。
【
図3】グリル扉を省略した本開示の一実施の形態に係るグリル庫の斜視図である。
【
図4】
図3のグリル庫の上部ヒータの分解斜視図である。
【
図5】開いた状態の本開示の一実施の形態に係るグリル扉及び関連部分の斜視図である。
【
図6】本開示の一実施の形態に係るグリル庫の本体ケースが備える混合釉薬によるホーロー部材の一例を示すイメージ図である。
【
図7】本開示の一実施の形態に係る混合釉薬によるホーロー部材について、L*a*b*表色系で表示した明度L*である色調の一例を示すグラフである。
【
図8】
図7の混合釉薬によるホーロー部材について、反射特性の一例を示すグラフである。
【
図9】
図7の混合釉薬によるホーロー部材について、ホーロー部材の表面における白色のガラス質の表面積の比率を示すグラフである。
【
図10】本開示の一実施の形態に係る実施例1の混合釉薬によるホーロー部材を備えるグリル庫(a)、比較例1の黒色のホーローを備えるグリル庫(b)、及び比較例2の白色のホーローを備えるグリル庫(c)のそれぞれを用いて調理した食パンの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の第1態様によれば、グリル庫を有する加熱調理器であって、グリル庫は、内側に食材を収容して加熱する加熱空間が形成される本体ケースと、食材を加熱するヒータと、を備え、本体ケースの加熱空間側の表面の少なくとも一部は、金属部材をガラス質の層によって覆うことによって形成されたホーロー部材で構成され、ホーロー部材は、L*a*b*表色系で表示した明度L*が27以上、31未満である色調を有する、加熱調理器を提供する。
【0010】
この態様によれば、グリル庫で調理された食材の焼き色を向上することができる加熱調理器を提供することができる。
【0011】
本開示の第2態様によれば、グリル庫を有する加熱調理器であって、グリル庫は、内側に食材を収容して加熱する加熱空間が形成される本体ケースと、食材を加熱するヒータと、を備え、本体ケースの加熱空間側の表面の少なくとも一部は、金属部材をガラス質の層によって覆うことによって形成されたホーロー部材で構成され、ホーロー部材は、近赤外の波長領域(中心波長1000nm)における赤外線反射率が11.5%以上、12.6%未満である、加熱調理器を提供する。
【0012】
本開示の第3態様によれば、グリル庫を有する加熱調理器であって、グリル庫が、内側に食材を収容して加熱する加熱空間が形成される本体ケースと、食材を加熱するヒータと、を備え、本体ケースの加熱空間側の表面の少なくとも一部は、金属部材をガラス質の層によって覆うことによって形成されたホーロー部材で構成され、ホーロー部材は、可視光の波長領域(中心波長750nm)における可視光反射率が5.3%以上、6.5%未満である、加熱調理器を提供する。
【0013】
本開示の第4態様によれば、グリル庫を有する加熱調理器であって、グリル庫は、内側に食材を収容して加熱する加熱空間が形成される本体ケースと、食材を加熱するヒータと、を備え、本体ケースの加熱空間側の表面の少なくとも一部は、金属部材をガラス質の層によって覆うことによって形成されたホーロー部材で構成され、ガラス質の層は、黒色のガラス質と白色のガラス質とを含み、ホーロー部材の表面において、白色のガラス質の表面積は、ホーロー部材の表面積の1%以上、9%未満である、加熱調理器を提供する。
【0014】
本開示の第5態様によれば、ガラス質の層は、黒色のガラス質と白色のガラス質とを含み、白色のガラス質が黒色のガラス質において点在するように構成されている、第1から第3態様のいずれか1つに記載の加熱調理器を提供する。
【0015】
本開示の第6態様によれば、ホーロー部材は、本体ケースの加熱空間側の側面の少なくとも一部を覆うように形成されている、第1から第5態様のいずれか1つに記載の加熱調理器を提供する。
【0016】
本開示の第7態様によれば、ヒータは、本体ケースの天板の外側上面に配置されている、第1から第6態様のいずれか1つに記載の加熱調理器を提供する。
【0017】
本開示の第8態様によれば、グリル庫は、前面開口部を閉じるグリル扉と、スライドレールとを更に備え、スライドレールは、加熱空間の外側、又は本体ケースの底部に配置され、グリル扉は、スライドレールの一端に接続され、スライドレールのスライド移動によってグリル庫を開閉するように構成された、第1から第7態様のいずれか1つに記載の加熱調理器を提供する。
【0018】
本開示の第9態様によれば、本体ケースの加熱空間側の側面は、ホーロー部材で構成されない部分を有する、第1から第8態様のいずれか1つに記載の加熱調理器を提供する。
【0019】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【0020】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0021】
本開示の一実施の形態に係る加熱調理器について、
図1乃至
図9を参照しながら説明する。添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供するものであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、各図においては、説明を容易なものとするため、各要素を誇張して示している。
<実施の形態>
【0022】
(全体構成)
図1を参照して本開示の一実施の形態に係る加熱調理器1の一例について説明する。
図1は、本開示の一実施の形態に係る加熱調理器1の分解斜視図である。図中において、X,Y及びZ方向は、それぞれ、加熱調理器1の幅方向、奥行き方向、及び高さ方向を意味する。
【0023】
一実施の形態では、一例として、システムキッチンのキャビネットに組み込まれて使用される、組み込み型の加熱調理器1を説明する。加熱調理器1は、キッチン台の上に置いて使用される据え置きタイプ、又は食卓テーブルなどの卓上に置いて使用される卓上タイプなどであってもよい。
【0024】
図1に示すように、本実施の形態に係る加熱調理器1は、誘導加熱調理器であって、筺体2と、鍋等の調理容器を載置するトッププレート3と、を備える。トッププレート3の下方には、複数の誘導加熱コイル(図示せず)が配置されている。
【0025】
トッププレート3は、磁束が透過可能なガラス板を含んでおり、筺体2の上部に取り付けられる。誘導加熱コイルは、筺体2の上部、すなわち、トッププレート3の下面近傍に配置されている。トッププレート3の上面に載置された調理容器は誘導加熱コイルによって誘導加熱される。
【0026】
加熱調理器1の筐体2の前面側には、グリル扉4及びフロントパネル5が取り付けられている。グリル扉4は、筐体2の内部に収納されているグリル庫6に取り付けられている。フロントパネル5において、ユーザが加熱温度、加熱時間などの情報を入力し、加熱の制御をすることができる。
【0027】
(グリル庫)
以下、
図2乃至
図5を参照して本開示の一実施の形態に係るグリル庫6について説明する。
【0028】
図2は、本開示の一実施の形態に係るグリル庫6が配置された状態の一例を示す加熱調理器の部分斜視図である。また、
図3は、グリル扉4を省略した本開示の一実施の形態に係るグリル庫6の斜視図である。さらに、
図4は、
図3のグリル庫6の上部ヒータ8の分解斜視図である。
図5は、開いた状態の本開示の一実施の形態に係るグリル扉4及び関連部分の斜視図である。
【0029】
図2は、トッププレート3、誘導加熱コイル、フロントパネル5、及びこれらに関連する構成要素を取り除いた状態の筺体2を示している。
図2に示すように、グリル庫6は、筺体2の左側空間2aに搭載されている。具体的には、筺体2の内部空間は、隔壁10a,10b,10cによって、左側空間2aと右側空間2bとに分割されている。なお、
図2において、グリル庫6の内部を示すために、グリル扉4を省略している。
【0030】
図3に示すように、グリル庫6は略直方体形状のユニットである。グリル庫6は、調理される食材を収容する本体ケース7と、収容した食材を加熱(焼き調理)するヒータ8と、本体ケース7を閉じるグリル扉4(
図3には図示せず、
図1を参照)と、グリル扉4を引き出すためのスライドレール11a,11bとを備える。
【0031】
具体的には、グリル庫6の本体ケース7は、前端に前面開口部7cを有する略直方体形状であって、左側壁7aと、右側壁7bと、背板7d(
図3には図示せず)と、天板7eと、底板7fとを備え、一部品として一体化構成されている。
図3に示すように、本体ケース7の内部は、内部に食材が収容されて加熱される加熱空間Sを形成している。また、本体ケース7は、前面開口部7cを介して加熱空間Sに対して出し入れ可能な調理容器、例えば、グリル皿9を備えてもよい。食材は、グリル皿9に載置された状態でグリル庫6の本体ケース7の加熱空間Sに収容される。グリル皿9の前端部9aは、グリル扉4に着脱可能に接続することができる。
【0032】
ヒータ8は、
図3及び
図4に示すように、グリル庫6の本体ケース7の天板7eの外側の上面に設置されている。本実施の形態において、ヒータ8は、平面ヒータであって、マイカヒータが用いられているが、これに限定されない。例えば、ヒータ8は、シーズーヒータであってもよい。また、本体ケース7の天板7eの外側の上面のみに限らず、本体ケース7の底板7fの外側にもヒータを設置して、上下のヒータによって加熱空間S内の食材を加熱してもよい。
【0033】
本体ケース7の天板7eは、ヒータ8と接触する部分が特に熱変形しやすくなる。この熱変形を抑制するために、本実施の形態の場合、
図4に示すように、本体ケース7の天板7eは、ヒータ8と接触する部分が格子状構造部12で形成されている。このような格子状構造部12は、補強リブとして機能することによって、本体ケース7の天板の熱変形を抑制することができる。
【0034】
グリル扉4は、本実施の形態の場合、
図5に示すように、本体ケース7の前面開口部7cの前方で、加熱調理器1の前後方向(Y軸方向)に移動可能に構成されている。また、グリル扉4は、グリル皿9の前端部9aが接続される調理容器接続部4aを備えてもよい。その結果、グリル扉4をグリル庫6の前方に移動させることにより、グリル皿9を本体ケース7の加熱空間Sの外部に引き出すことができ、ユーザが便利に調理すべき食材をグリル皿9に載置したり、グリル皿9から調理済みの食材を取り出したりすることができる。また、
図5に示すように、グリル扉4を開けることなくユーザが加熱空間Sで加熱中の食材が確認できるように、グリル扉4にはのぞき窓14が設けられている。
【0035】
また、
図3に戻って、本実施の形態において、グリル扉4を引き出すためのスライドレール11a,11bは、本体ケース7の側壁7a,7bのそれぞれの外側の下部に対向に配置されている。ここで、本体ケース7の側壁とは、加熱調理器1の幅方向(
図1のX方向)における本体ケース7の両側を意味する。スライドレール11a,11bは、それぞれ本体ケース7の側壁7a,7bの外側の下部において、奥行き方向(
図1のY方向)に延びて、前面開口部7cの前方に向かって、スライド移動することができる。
図5に示すように、グリル扉4は、スライドレール11a,11bの前端に接続され、グリル扉4を前面開口部7cの前方に移動させるときに、スライドレール11a,11bがグリル庫6の前方側へスライド移動する。このように、グリル扉4は、スライドレール11a,11bのスライド移動によってグリル庫6を開閉することができる。
【0036】
また、本実施の形態において、
図2に示すように、スライドレール11a,11bは、それぞれグリル庫6の本体ケース7の側壁の外側に位置し、本体ケース7の側壁7aと隔壁10aとの間、及び側壁7bと隔壁10bとの間にそれぞれ設置されている。また、本開示はこれに限定されない。例えば、スライドレール11a,11bは、グリル庫6の本体ケース7の底部に配置されてもよい。このように、スライドレール11a,11bをグリル庫6の加熱空間Sの外側、又は本体ケース7の底部に配置することによって、本体ケース7の加熱空間S側の側壁による放射伝熱を効率よく利用することができる。
【0037】
また、
図5に示すように、グリル庫6は、グリル皿9等の調理容器を支持する調理容器支持部材13a,13bを更に備えてもよい。本実施形態において、調理容器支持部材13a,13bは、本体ケース7の底板7fの外側に、対向するように配置された棒状の部材で形成されている。調理容器支持部材13a,13bは、スライドレール11a,11bと同様に、前端でグリル扉4に接続され、加熱調理器1の前面側に向かって、スライド移動することができる。このように、グリル扉4が開口部7cの前方に引かれ、グリル庫が開かれるときに、グリル皿9等の調理容器は、調理容器支持部材13a,13bによって支持されることによって、脱落することなく本体ケース7の加熱空間Sの外部に引き出すことができる。
【0038】
(本開示の基礎となった知見)
加熱調理器において、食材の調理には、一般に波長2.5μm~30μmの赤外線が用いられる。グリル庫などの焼き調理器具においては、遠赤外線を利用した放射伝熱によって焼き調理特有の調理効果が得られるため、グリル庫の加熱空間の内側表面は、高い放射率を有することが望ましい。例えば、特許文献1に記載された加熱調理器において、グリル庫の本体ケースの加熱空間側の表面は、遠赤外線に対して高い放射率を有する黒色ガラス(釉薬)によるホーロー加工されたホーロー部材を備えている。
【0039】
このような加熱調理器においては、グリル庫の本体ケースの加熱空間側の表面が黒色のホーロー層を備えることによって、加熱空間内の赤外線放射率が上昇し、グリル庫の加熱効率が向上される。しかしながら、グリル庫の加熱空間内の赤外線放射率が高い場合、焼き調理された食材は、焼き色が付きにくく、焼き調理特有の調理効果が得られない場合がある。
【0040】
そこで、本発明者らは、加熱調理器において、グリル庫で調理された食材の焼き色を改善することを検討し、グリル庫の加熱空間を形成する本体ケースが所定の色調を有するホーロー部材を備えることにより、焼き調理された食材の焼き色を向上させる構成を見出した。
【0041】
以下、
図6乃至
図9を参照しながら本開示の一実施の形態に係るグリル庫6の本体ケース7が備える混合釉薬によるホーロー部材について詳細に説明する。
【0042】
(混合釉薬によるホーロー部材)
図6は、本開示の一実施の形態に係るグリル庫の本体ケースが備える混合釉薬によるホーロー部材の一例を示すイメージ図である。
【0043】
具体的には、本実施の形態において、グリル庫6の本体ケース7は、鉄などの薄い金属板を成形加工(プレス加工や曲げ加工など)することによって作製されている。本体ケース7の左側壁7aと、右側壁7bと、背板7dとの少なくとも一部は、成形加工された金属板の表面に、シリカ(二酸化ケイ素)を主成分とするガラス質の釉薬に漬けた後、高温焼成処理を経て形成されたホーロー部材を備えている。このとき、用いた釉薬は、黒色の釉薬と白色の釉薬とを混合したガラス質の混合釉薬である。黒色の釉薬は、例えば、溶融したガラス材料に、Cu-Cr-Mnベースの顔料を混ぜることにより形成されてもよく、酸化鉄等の顔料を混ぜることにより形成されてもよい。白色の釉薬は、例えば、溶融したガラス材料に、酸化チタンベースの顔料を混ぜることにより形成されてもよく、アルミナ等の顔料を混ぜることにより形成されてもよい。また、混合釉薬における黒色の釉薬に対する白色の釉薬の重量比は、望ましくは、2%~10%である。ここで、混合釉薬における黒色の釉薬に対する白色の釉薬の重量比とは、例えば、重量比10%の混合釉薬である場合、重量が100kgの黒色の釉薬に、重量が10kgの白色の釉薬を混合させて得られた混合釉薬を意味する。なお、本実施の形態において、顔料の混錬分離を防止し、より均質のホーロー部材を形成するために、黒色の釉薬に対する白色の釉薬の重量比を10%以下とした。
【0044】
図6に示すように、黒色の釉薬と白色の釉薬との組み合わせによる混合釉薬を用いたホーロー加工されることにより、本体ケース7は、加熱空間S側の表面の少なくとも一部が混合釉薬によるホーロー部材を備えている。当該混合釉薬によるホーロー部材は、金属部材を覆うガラス層が黒色のガラス質と白色のガラス質とを含み、白色のガラス質が黒色のガラス質において点在するように形成されている。なお、
図6は、説明を容易なものとするため、実際のホーロー部材とは異なる色及び大きさを示している。黒色の釉薬に対する白色の釉薬の重量比が2%から10%まで増加するにつれ、白色のガラス質は、平均粒径が概ね一定で、分散密度が増大する。なお、本実施の形態の場合、
図6に示すように、本体ケース7の加熱空間S側の側面の一部の領域、例えば、前面開口部7c付近の一部には、ホーロー部材で構成されない部分、例えば、枠部材15が配置されている。これによって、グリル庫6の取り付けの利便性及び耐久性を維持することができる。
【0045】
本実施の形態に係る本体ケース7の加熱空間S側のホーロー部材は、黒色の釉薬と白色の釉薬との組み合わせによる混合釉薬によって形成されることによって、所定の色調を有し、赤外線に対して、所定の反射率を有している。これによって、加熱空間S内の赤外線放射率が調整され、グリル庫6で調理された食材の焼き色を改善することができる。また、グリル庫6で調理された食材の表面に広く焼き色を付けるために、好ましくは、混合釉薬によるホーロー部材が、本体ケース7の加熱空間S側の左側壁7aと、右側壁7bと、背板7dとの少なくとも一部を覆うように形成される。しかしながら、本開示はこれに限定されない。例えば、本体ケース7の天板7e、及び/又は底板7fの加熱空間S側の表面も、ホーロー部材を備えることができる。
【0046】
黒色の釉薬に対する白色の釉薬の重量比を2%から10%まで変化させて調製した混合釉薬により形成されたホーロー部材の色調を測定した。
図7は、本開示の一実施の形態に係る混合釉薬によるホーロー部材について、L*a*b*表色系で表示した明度L*である色調の一例を示すグラフである。
図7(a)は、L*a*b*表色系で表示した明度L*を示している。
図7(b)は、黒色の釉薬のみにより形成されたホーロー(黒色のホーロー)の色を基準色とした場合、重量比が2%~10%の混合釉薬によるホーロー部材のL*a*b*表色系で表示した明度差ΔL*を示している。図示のように、混合釉薬によるホーロー部材のL*a*b*表色系で表示した明度L*は、黒色の釉薬に対する白色の釉薬の重量比に概ね比例して増加する。また、重量比が2%~10%の混合釉薬によるホーロー部材は、L*a*b*表色系で表示した明度L*が約27以上、31未満である色調を有し、重量比が2%~10%の混合釉薬によるホーロー部材と黒色のホーローとのL*a*b*表色系で表示した明度差ΔL*は、約2.5~5.8であった。なお、本実施の形態において、ホーロー部材の白色のガラス質の明度L*は90以上であり、黒色のガラス質の明度L*は26未満である。このような黒色のガラス質に所定量の白色のガラス質を点在させたことにより、本実施の形態の混合釉薬によるホーロー部材の明度L*は、約27以上、31未満となる。
【0047】
また、L*a*b*表色系では、被測定体の明度L*の測定値に基づいて、色差ΔE*abを算出することができる。本明細書において、「色差ΔE*ab」とは、色の違いを数値化したものであり、JIS(JIS Z 8781-4:2013)において採用されている、国際照明委員会(CIE)による取り決めの表色系であるL*a*b*色空間(L*:明度、a*、b*:色度)に存在する2点(2色)間の距離を意味する。色差ΔE*abは、次の式で算出される。なお、本明細書において、色度計算に使用した波長範囲は、380nm~780nmである。
【0048】
【0049】
ここで、ΔL*は、基準色と被測定体との明度差であって、Δa*、Δb*は、基準色と被測定体との色度差である。
図7に示すL*a*b*表色系で表示した明度L*の測定結果に基づいて算出した結果、重量比が2%~10%の混合釉薬によるホーロー部材の色差ΔE*abは、3~6であった。
【0050】
次に、混合釉薬によるホーロー部材の反射特性を測定した。
図8は、
図7の混合釉薬によるホーロー部材について、反射特性の一例を示すグラフである。
図8(a)は、混合釉薬によるホーロー部材の可視光の波長領域(中心波長750nm)における反射率を示している。
図8(b)は、混合釉薬によるホーロー部材の近赤外の波長領域(中心波長1000nm)における赤外線反射率を示している。図示のように、混合釉薬によるホーロー部材の反射率は、黒色の釉薬に対する白色の釉薬の重量比に概ね比例して増加する。また、重量比が2%~10%の混合釉薬によるホーロー部材は、中心波長750μmの可視光の波長領域において、約5.3%以上、6.5%未満の反射率を有し、近赤外の波長領域の赤外線に対して、約11.5%以上、12.6%未満の反射率を有している。なお、本実施の形態において、ホーロー部材の白色のガラス質の中心波長750μmの反射率は80%以上であり、黒色のガラス質の中心波長750μmの反射率は5%未満である。このような黒色のガラス質に所定量の白色のガラス質を点在させたことにより、本実施の形態の混合釉薬によるホーロー部材は中心波長750μmの可視光の波長領域において、約5.3%以上、6.5%未満の反射率となる。さらに、本実施の形態において、ホーロー部材の白色のガラス質の中心波長1000nmの反射率は80%以上であり、黒色のガラス質の中心波長1000nmの反射率は11.4%未満である。このような黒色のガラス質に所定量の白色のガラス質を点在させたことにより、本実施の形態の混合釉薬によるホーロー部材は中心波長1000nmの近赤外の波長領域において、約11.5%以上、12.6%未満の反射率となる。
【0051】
本実施の形態では、グリル庫6において、ヒータ8から放出された赤外線は、本体ケース7に吸収される。次に、赤外線の吸収によって温度上昇した本体ケース7は、加熱空間S側の表面の混合釉薬によるホーロー部材から赤外線が加熱空間S内に放射される。その赤外線により、加熱空間S内に収容された食材が加熱される。温度が一定の「熱平衡状態」では、本体ケース7がヒータ8から吸収した赤外線エネルギーが、僅かな透過を除き、加熱空間S内での反射エネルギーと吸収エネルギーとの和に相当する。また、赤外線の放射と吸収とは同じ量である(キルヒホフの放射法則)。従って、
図8に示すように、混合釉薬によるホーロー部材の赤外線反射率は、黒色の釉薬に対する白色の釉薬の重量比に概ね比例して増加するため、加熱空間S内の赤外線放射率は、混合釉薬によるホーロー部材によって調整されることが推考される。
【0052】
更に、混合釉薬によるホーロー部材の表面において、黒色のガラス質に分散して点在する白色のガラス質の表面積を解析した。この解析は、MathWorks社のMATLAB(登録商標)を利用して、Otsu法(Otsu,N.,”A Threshold Method from Gray-Level Histograms”,IEEE Transactions on Systems,Man,and Cybernetics,Vol.9,No1,1979,pp62-66.)と呼ばれる判別分析法を使用し、2値化を行った。具体的には、閾値処理された黒と白のピクセルのクラス内分散を最小にする閾値が選択される。黒色のホーローのヒストグラム及び混合釉薬によるホーロー部材のヒストグラムの合成ヒストグラムを判別分析法への入力とし、算出された閾値を用いて2値化を行い、白色のガラス質の表面積の比率を決定した。ここで、白色のガラス質の表面積の比率とは、混合釉薬によるホーロー部材全体の表面積に対して、白色のガラス質の表面積の割合を指す。
図9は、
図7の混合釉薬によるホーロー部材について、ホーロー部材の表面における白色のガラス質の表面積の比率を示すグラフである。図示のように、本実施の形態において、黒色の釉薬に対する白色の釉薬の重量比が2%から10%まで増加するにつれ、混合釉薬によるホーロー部材の表面における白色のガラス質の表面積の比率は、1%以上、9%未満まで増加している。具体的には、白色の釉薬の重量比が2%のとき、白色のガラス質の表面積の比率は1.12%であり、白色の釉薬の重量比が10%のとき、白色のガラス質の表面積の比率は8.17%まで増加している。
【0053】
(実施例)
実施例1は、
図3に示す本体ケース7の加熱空間S側の表面が、重量比が8%の混合釉薬によるホーロー部材を備えるグリル庫6である。実施例1のグリル庫6を用いて生サンマの焼き調理を行った。また、同じ調理条件(ヒータ温度、調理時間等)で、本体ケース7の加熱空間S側の表面が黒色のホーローを備えるグリル庫(比較例1)と、本体ケース7の加熱空間S側の表面が白色の釉薬のみにより形成されたホーロー(白色のホーロー)を備えるグリル庫(比較例2)とのそれぞれを用いて生サンマを焼き調理し、調理効果を検証した。
【0054】
実施例1と、比較例1と、比較例2とのグリル庫のそれぞれを用いて調理したサンマについて、減水率を測定した結果を表1に示す。ここで、減水率とは、調理前に比べて、調理後食材の減少した重量が調理前の重量の割合を指す。例えば、調理前の食材の重量が150gであって、調理後に食材の重量が135gである場合、減水率が10%である。
【0055】
【0056】
焼き調理したサンマの調理効果を検証した結果、比較例2の場合、減水率が最も低く、調理されたサンマは、表面に焼き色が広く付いたが、内部の加熱が不十分であって、生臭さが残っていた。比較例1の場合、比較例2に比べ減水率が上がり、調理されたサンマは、内部の加熱が十分であって、生臭さがないが、表面には焼き色が薄く、食感が水っぽく感じた。実施例1の場合、最も高い減水率であった。調理されたサンマは、内部の加熱が十分であって、生臭さがなかった。更に、表面に広く焼き色が付き、皮がパリッとした焼き料理の食感が楽しめた。このように、本開示の一実施の形態に係る加熱調理器1のグリル庫6により、焼き調理特有の調理効果が得られることが確認できた。
【0057】
次に、実施例1と、比較例1と、比較例2とのグリル庫のそれぞれを用いて食パンを調理し、調理効果を検証した。
図10は、本開示の一実施の形態に係る実施例1の混合釉薬によるホーロー部材を備えるグリル庫(a)、比較例1の黒色のホーローを備えるグリル庫(b)、及び比較例2の白色ホーローを備えるグリル庫(c)のそれぞれを用いて調理した食パンの外観写真である。
【0058】
焼き調理した食パンの調理効果を検証した結果、比較例2の場合、調理された食パンは、表面に焼き色が広く付いたが、内部の温度が十分に上がらず、食味がよくなかった。比較例1の場合、調理された食パンは、食味が良好であったが、表面の中央部にのみ焼き色が薄く付いた。実施例1の場合、調理された食パンは、表面に焼き色が広く付き、内部の温度も十分に上がって、食味が良好であった。このように、本開示の一実施の形態に係る加熱調理器1のグリル庫6は、本体ケース7の加熱空間S側の表面が混合釉薬によるホーロー部材を備えることによって、焼き調理された食材の焼き色を改善することが確認できた。
【0059】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、食材を収容して加熱するグリル庫を備える加熱調理器に適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 加熱調理器
2 筺体
3 トッププレート
4 グリル扉
4a 調理容器接続部
5 フロントパネル
6 グリル庫
7 本体ケース
7a,7b 側壁
7c 前面開口部
7d 背板
7e 天板
7f 底板
8 ヒータ
9 グリル皿
9a グリル皿の前端部
10a,10b,10c 隔壁
11a,11b スライドレール
12 格子状構造部
13a,13b 調理容器支持部材
14 のぞき窓
15 枠部材