(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】電極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20240507BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240507BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240507BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240507BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240507BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 A
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2019218453
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2018245624
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】大河内 基裕
(72)【発明者】
【氏名】堀川 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】土田 修三
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-097754(JP,A)
【文献】特開2018-185883(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106602014(CN,A)
【文献】特開2018-106974(JP,A)
【文献】特開2016-051622(JP,A)
【文献】特開2004-234982(JP,A)
【文献】特開2016-197590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
10/05-10/0587
10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池の正極または負極に用いられる電極活物質の製造方法であって、
活物質領域と空隙とを有する複数の二次粒子
を含む電極活物質材料と高分子固体電解質とを準備し、
超臨界流体に前記高分子固体電解質を溶解または分散させて超臨界流体混合物とし、
前記電極活物質材料を前記超臨界流体混合物に接触させ、
前記超臨界流体混合物を冷却および減圧する、ことを含む、
電極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記超臨界流体は超臨界状態の二酸化炭素または超臨界状態の水である、
請求項
1記載の電極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記超臨界流体に前記高分子固体電解質と相溶性を有する溶剤をさらに加えて前記超臨界流体混合物とする、
請求項
1または2に記載の電極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極活物質およびその製造方法、ならびに電極活物質を用いた全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンおよび携帯電話などの電子機器の軽量化、コードレス化などにより、繰り返し使用可能な二次電池の開発が求められている。二次電池として、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、鉛畜電池、リチウムイオン電池などがある。これらの中でも、リチウムイオン電池は、軽量、高電圧、高エネルギー密度といった特徴があることから、注目を集めている。
【0003】
電気自動車またはハイブリッド車といった自動車分野においても、高電池容量の二次電池の開発が重要視されており、リチウムイオン電池の需要は増加傾向にある。
【0004】
リチウムイオン電池は、正極層、負極層およびこれらの間に配置された電解質によって構成されており、電解質には、例えば六フッ化リン酸リチウムなどの支持塩を有機溶媒に溶解させた電解液または固体電解質が用いられる。現在、広く普及しているリチウムイオン電池は、有機溶媒を含む電解液が用いられているため可燃性である。そのため、リチウムイオン電池の安全性を確保するための材料、構造、およびシステムが必要である。これに対し、電解質として不燃性である固体電解質を用いることで、上記、材料、構造、およびシステムを簡素化できることが期待され、エネルギー密度の増加、製造コストの低減、および生産性の向上を図ることができると考えられる。以下、固体電解質を用いた電池を、「全固体電池」と呼ぶこととする。
【0005】
固体電解質は、有機固体電解質と無機固体電解質とに大きく分けることができる。一般に、固体電解質層に用いられる固体電解質、および、活物質とともに正極層又は負極層を構成するために用いられる固体電解質は、常温(たとえば25℃)におけるイオン伝導度が高い無機固体電解質が主流である。無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質と硫化物系固体電解質とがある。これらの25℃におけるイオン伝導度は、10-4~10-3S/cm程度である。特許文献1は、固体電解質層、正極層および負極層に無機固体電解質を用いた全固体電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
全固体電池において、電池特性の向上には、電極活物質のイオン伝導性が影響する。特許文献1に開示されている全固体電池は、電極活物質の密着強度と電池性能との両立を目的としており、官能基が導入された熱可塑性エラストマーを含む。しかしながら、特許文献1では、電極活物質自体のイオン伝導性については言及しておらず、全固体電池の電池容量および電池特性をさらに向上させることはできない。
【0008】
本開示では、上記課題を鑑みてなされたものであり、イオン伝導性が向上した電極活物質およびそれを用いた全固体電池等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る電極活物質は、全固体電池の正極または負極に用いられ、複数の二次粒子を含む電極活物質であって、前記複数の二次粒子は、内部に高分子固体電解質が含浸した高分子固体電解質領域と活物質領域とを有する二次粒子である含浸粒子を含む。
【0010】
また、本開示の一態様に係る全固体電池は、前記電極活物質を用いた、正極または負極を備える。
【0011】
また、本開示の一態様に係る電極活物質の製造方法は、全固体電池の正極または負極に用いられる電極活物質の製造方法であって、複数の二次粒子のそれぞれの内部に空隙を有する電極活物質材料と高分子固体電解質とを準備し、超臨界流体に前記高分子固体電解質を溶解または分散させて超臨界流体混合物とし、前記電極活物質材料を前記超臨界流体混合物に接触させ、前記超臨界流体混合物を冷却および減圧する、ことを含む。
【発明の効果】
【0012】
本開示は、イオン伝導性が向上した電極活物質およびそれを用いた全固体電池等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施の形態における全固体電池の断面を示す図である。
【
図2】
図2は、従来の負極活物質の断面を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態における負極活物質に含まれる含浸粒子の断面を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施の形態および従来例における負極活物質に含まれる含浸粒子の空隙率の算出結果を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施の形態および従来例における負極活物質の複数の二次粒子の気孔率の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の一態様における電極活物質は、全固体電池の正極または負極に用いられ、複数の二次粒子を含む電極活物質であって、前記複数の二次粒子は、内部に高分子固体電解質が含浸した高分子固体電解質領域と活物質領域とを有する二次粒子である含浸粒子を含む。
【0015】
これにより、電極活物質の複数の二次粒子は、高分子固体電解質が含浸した高分子固体電解質含浸領域を有する含浸粒子を含むため、空隙などの活物質が存在しない領域においても高分子固体電解質が存在することになる。そのため、電極活物質の複数の二次粒子に含まれる含浸粒子内部に存在する高分子固体電解質がイオン伝導経路となることで、活物質が存在しない領域である空隙により阻害されていたイオン伝導が促進される。よって、全固体電池に用いられる電極活物質のイオン伝導性が向上する。
【0016】
また、例えば、前記電極活物質は、前記複数の二次粒子の体積に対する前記高分子固体電解質領域の体積の比率が、1%~3%であってもよい。
【0017】
これにより、複数の二次粒子は適切な量の高分子固体電解質を含むため、電極活物質のイオン伝導性が向上するための高分子固体電解質の量が確保されると共に、過剰な高分子固体電解質による二次粒子の凝集が起こりにくくなり、凝集塊ができることによるイオン伝導性の低下を抑制できる。
【0018】
また、例えば、前記電極活物質は、前記含浸粒子の体積に対する前記高分子固体電解質領域の体積の比率が、6.5%~10.5%であってもよい。
【0019】
これにより、含浸粒子は適切な量の高分子固体電解質を含むため、電極活物質のイオン伝導性が向上するための高分子固体電解質の量が確保されると共に、過剰な高分子固体電解質による二次粒子の凝集が起こりにくくなり、凝集塊ができることによるイオン伝導性の低下を抑制できる。
【0020】
また、例えば、前記含浸粒子は、内部に空隙をさらに有してもよい。
【0021】
これにより、高分子電解質が含浸される余地があることから、過剰な高分子固体電解質による二次粒子の凝集が起こりにくくなり、凝集塊ができることによるイオン伝導性の低下を抑制できる。
【0022】
また、例えば、前記電極活物質は、前記含浸粒子の体積に対する前記空隙の体積の比率が、0.5%~1.0%であってもよい。
【0023】
これにより、空隙の体積比率が適切な範囲になることで、空隙によるイオン伝導の阻害を抑制し、イオン伝導性が向上する。また、高分子電解質が含浸される余地があることから、過剰な高分子固体電解質による二次粒子の凝集が起こりにくくなり、凝集塊が大きくなることによるイオン伝導性の低下を抑制できる。
【0024】
また、本開示の一態様における全固体電池は、前記電極活物質を用いた正極または負極を備える。
【0025】
これにより得られる全固体電池は、イオン伝導性が向上した電極活物質を含むため、電極におけるイオン伝導性が向上し、高電池容量でかつ充放電特性および出力特性などの電池特性に優れた全固体電池となる。
【0026】
また、本開示の一態様における電極活物質の製造方法は、全固体電池の正極または負極に用いられる電極活物質の製造方法であって、複数の二次粒子のそれぞれの内部に空隙を有する電極活物質材料と高分子固体電解質とを準備し、超臨界流体に前記高分子固体電解質を溶解または分散させて超臨界流体混合物とし、前記電極活物質材料を前記超臨界流体混合物に接触させ、前記超臨界流体混合物を冷却および減圧する、ことを含む。
【0027】
これにより、高分子固体電解質を溶解または分散させた超臨界流体混合物を、電極活物質に接触させることで、複数の二次粒子に高分子固体電解質が含浸される。そのため、電極活物質の二次粒子内部において、高分子固体電解質がイオン伝導経路となることで、空隙により阻害されていたイオン伝導が促進される。よって、イオン伝導性が向上した電極活物質およびそれを用いた全固体電池が製造できる。
【0028】
また、例えば、前記電極活物質の製造方法において、前記超臨界流体は超臨界状態の二酸化炭素または超臨界状態の水であってもよい。
【0029】
これにより、高分子固体電解質を溶解または分散させるための超臨界流体を比較的温和な条件で調製することができ、簡易な製造設備で本開示に係る電極活物質を製造できる。
【0030】
また、例えば、前記電極活物質の製造方法において、前記超臨界流体に前記高分子固体電解質と相溶性を有する溶剤をさらに加えて前記超臨界流体混合物としてもよい。
【0031】
これにより、超臨界流体混合物に高分子固体電解質と相溶性を有する溶剤が含まれるため、電極活物質の二次粒子へ高分子固体電解質が含侵されやすくなる。
【0032】
以下、本実施の形態における、全固体電池および全固体電池を構成する固体電解質層、正極層、負極層について、詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、並びに、工程などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0033】
また、各図は、本開示を示すために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではなく、実際の形状、位置関係、および比率とは異なる場合がある。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡素化される場合がある。
【0034】
(実施の形態)
[A.全固体電池]
本実施の形態における全固体電池について、
図1を用いて説明する。本実施の形態における全固体電池100は、金属箔からなる正極集電体5と、正極集電体5上に形成した正極活物質3を含む正極層20と、金属箔からなる負極集電体6と、負極集電体6上に形成した負極活物質4を含む負極層30と、正極層20と負極層30との間に配置された、少なくともイオン伝導性を有する固体電解質2を含む固体電解質層10によって構成される。また、電極活物質は、全固体電池100の正極層20の正極活物質3として、または負極層30の負極活物質4として用いられ、複数の二次粒子を含む。なお、正極活物質3および負極活物質4は電極活物質の一例であり、正極層20は正極の一例であり、負極層30は負極の一例である。
【0035】
全固体電池100には、正極活物質3と正極集電体5、正極活物質3と固体電解質2、正極活物質3同士(正極活物質3を構成する粒子同士)、負極活物質4と負極集電体6、負極活物質4と固体電解質2、負極活物質4同士(負極活物質4を構成する粒子同士)、および、固体電解質2同士(固体電解質2を構成する粒子同士)の少なくともいずれかを密着させる官能基が導入された熱可塑性エラストマーを含むバインダー1が含まれている。本実施の形態では、正極層20、負極層30、および固体電解質層10のそれぞれに、バインダー1が含まれる。そのバインダー1は密着強度を向上させる官能基が導入された熱可塑性エラストマーが含まれている。なお、全固体電池100には、バインダーが含まれていなくてもよい。
【0036】
全固体電池100の製造方法としては、例えば、金属箔からなる正極集電体5上に形成した正極活物質3を含む正極層20と、金属箔からなる負極集電体6上に形成した負極活物質4を含む負極層30と、正極層20と負極層30との間に配置された、イオン伝導性を有する固体電解質2を含む固体電解質層10とを形成した後、正極集電体5および負極集電体6の外側から例えば、4ton/cm2でプレスを行い、各層の少なくとも一層の充填率を60%以上100%未満として、全固体電池100を作製する。各層を60%以上の充填率とする理由としては、固体電解質層10内、または正極層20または負極層30において、各層を構成する材料同士の間の空隙が少なくなるため、リチウムイオン伝導および電子伝導が多く行われ、良好な充放電特性が得られるためである。なお、充填率とは、全体積のうち、材料間の空隙を除く材料が占める体積の割合である。
【0037】
プレスした全固体電池100に、端子を取り付け、ケースに収納する。全固体電池100のケースとしては、例えば、アルミラミネート袋やステンレス(SUS)または鉄、アルミニウムのケース、または樹脂製のケースなどが用いられる。
【0038】
[B.固体電解質層]
まず、本実施の形態における固体電解質層10について説明する。本実施の形態における固体電解質層10は、固体電解質2とバインダー1を含み、バインダー1の有する密着強度を高める官能基が、固体電解質2と反応・結合することで、高い密着強度を実現する。つまり、固体電解質層10では、密着強度を高める官能基が導入された熱可塑性エラストマーを含むバインダー1を介して、固体電解質2同士が高い強度で密着している。なお、固体電解質層10は、バインダーを含んでいなくてもよく、例えば、プレスされるなどによって密着性を高めてもよい。
【0039】
[B-1.固体電解質]
本実施の形態における固体電解質2について説明する。固体電解質2は、硫化物系固体電解質と酸化物系固体電解質とに大きく分けることができ、硫化物系固体電解質が用いられてもよく、酸化物系固体電解質が用いられてもよい。
【0040】
本実施の形態における硫化物系固体電解質の種類は特に限定されないが、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5等が挙げられる。特に、リチウムのイオン伝導性が優れているため、硫化物系固体電解質は、Li、PおよびSを含むことが好ましい。また、P2S5を含む硫化物系固体電解質は、P2S5とバインダーとの反応性が高く、バインダーとの結合性が高いため、好ましく用いられるである。なお、上記「Li2S-P2S5」の記載は、Li2SおよびP2S5を含む原料組成を用いてなる硫化物系固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0041】
本実施の形態においては、上記硫化物系固体電解質材料は、例えば、Li2SおよびP2S5を含む硫化物系ガラスセラミックであり、Li2SおよびP2S5の割合は、モル換算でLi2S:P2S5が70:30~80:20の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、75:25~80:20の範囲内である。当該範囲内のLi2SとP2S5との割合が好ましい理由としては、電池特性に影響するリチウム濃度を保ちながら、イオン伝導性の高い結晶構造となるためである。また、他の理由としては、バインダーと反応し、結合するためのP2S5の量が確保されやすいためである。
【0042】
本実施の形態における酸化物系固体電解質について説明する。酸化物系固体電解質の種類としては特に限定されないが、LiPON、Li3PO4、Li2SiO2、Li2SiO4、Li0.5La0.5TiO3、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO4)3、La0.51Li0.34TiO0.74、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3などが挙げられる。酸化物系固体電解質は、1種で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0043】
[B-2.バインダー]
本実施の形態におけるバインダー1について説明する。本実施の形態におけるバインダー1は、密着強度を向上させる官能基が導入された熱可塑性エラストマーを含んでもよい。導入される官能基は、カルボニル基であってもよく、密着強度を向上させる観点から、カルボニル基が無水マレイン酸であることであってもよい。無水マレイン酸の酸素原子が、固体電解質2と反応して、固体電解質2同士を、バインダー1を介して結合させ、固体電解質2と固体電解質2との間にバインダー1が配置された構造をつくり、その結果、密着強度が向上する。
【0044】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン(SEBS)などが用いられる。これらは、高い密着強度を有し、電池のサイクル特性においても、耐久性が高いためである。より好ましくは、水素添加(以下、水添)した熱可塑性エラストマーを用いることである。水添した熱可塑性エラストマーを用いる理由としては、反応性および結着性の向上と共に、固体電解質層10を形成する際に用いる溶媒への溶解性が向上するためである。
【0045】
本実施の形態におけるバインダー1の添加量は、例えば、0.01重量%以上5重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以上3重量%以下であることが、より好ましく、さらに好ましくは、0.1重量%以上1重量%以下の範囲内である。バインダー1の添加量を0.01重量%以上にすることで、バインダー1を介した結合が起こりやすく、十分な密着強度が得られやすい。また、バインダー1の添加量を5重量%以下にすることで、充放電特性などの電池特性の低下が起こりにくく、さらに、例えば低温領域において、バインダー1の硬さ、引張強さ、引張伸びなどの物性値が変化しても、充放電特性が低下しにくい。
【0046】
[C.正極層]
本実施の形態における正極層20について、説明する。本実施の形態の正極層20は、固体電解質2、正極活物質3、およびバインダー1を含む。なお、正極層20は、バインダー1を含んでいなくてもよく、例えば、プレスされるなどによって密着性を高めてもよい。正極層20では、密着強度を高める官能基が導入された熱可塑性エラストマーを含むバインダー1を介して、正極活物質3と固体電解質2、正極活物質3と正極集電体5、固体電解質2と正極集電体5、正極活物質3同士、および、固体電解質2同士が密着している。固体電解質2と正極活物質3との割合は、重量換算で固体電解質:正極活物質が50:50~5:95の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、30:70~10:90の範囲内である。当該範囲内であることが好ましい理由としては、正極層20の中でのリチウムイオン伝導経路および電子伝導経路の両方が確保されやすいためである。なお、正極層20には、アセチレンブラック又はケッチェンブラック(登録商標)などの導電助剤が加えられてもよい。
【0047】
金属箔からなる正極集電体5として、例えば、ステンレス(SUS)、アルミニウム、ニッケル、チタン、銅などの金属箔が用いられる。
【0048】
[C-1.固体電解質]
上述した固体電解質と同じであるため、説明を省略する。
【0049】
[C-2.バインダー]
上述したバインダーと同じであるため、説明を省略する。
【0050】
[C-3.正極活物質]
本実施の形態における正極活物質3について説明する。本実施の形態における正極活物質3は、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物が用いられる。リチウム含有遷移金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiCoPO4、LiNiPO4、LiFePO4、LiMnPO4、これらの化合物の遷移金属を1または2の異種元素で置換することによって得られる化合物などが挙げられる。上記化合物の遷移金属を1または2の異種元素で置換することによって得られる化合物としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.5Mn1.5O2など、公知の材料が用いられる。正極活物質は、1種で使用されてもよく、または2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0051】
[D.負極層]
本実施の形態における負極層30について説明する。本実施の形態の負極層30は、固体電解質2、負極活物質4、およびバインダー1を含む。なお、負極層30は、バインダー1を含んでいなくてもよく、例えば、プレスされるなどによって密着性を高めてもよい。負極層30では、密着強度を高める官能基が導入された熱可塑性エラストマーを含むバインダー1を介して、負極活物質4と固体電解質2、負極活物質4と負極集電体6、固体電解質2と負極集電体6、負極活物質4同士、および、固体電解質2同士が密着している。固体電解質2と負極活物質4との割合は、重量換算で固体電解質:負極活物質が5:95~60:40の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、30:70~50:50の範囲内である。当該範囲内であることが好ましい理由としては、負極層30内でのリチウムイオン伝導経路および電子伝導経路の両方が確保されやすいためである。なお、負極層30には、アセチレンブラック又はケッチェンブラックなどの導電助剤を加えられてもよい。
【0052】
金属箔からなる負極集電体6として、例えば、ステンレス(SUS)、銅、ニッケルなどの金属箔が用いられる。
【0053】
[D-1.固体電解質]
上述した固体電解質と同じであるため、説明を省略する。
【0054】
[D-2.バインダー]
上述したバインダーと同じであるため、説明を省略する。
【0055】
[D-3.負極活物質]
本実施の形態における負極活物質4について説明する。本実施の形態における負極活物質4の材料としては、例えば、リチウム、インジウム、スズ、ケイ素といったリチウムとの易合金化金属や、ハードカーボン、黒鉛などの炭素材料、あるいは、Li4Ti5O12、SiOxなどの、公知の材料が用いられる。
【0056】
負極活物質の材料は、例えば鱗片状などの一次粒子を凝集させ造粒することで、1~100μm程度の球状の二次粒子に成形される。従来は、電極のエネルギー密度を向上させるために活物質の粒子径を微細化した場合、電極の形成工程におけるハンドリング性が劣るため、サブミクロン程度に微細化した一次粒子を造粒し、一次粒子が凝集した二次粒子として使用されることが一般的である。しかし、このようにして形成される負極活物質では、二次粒子内部に空隙が残存することでイオン伝導の抵抗となる問題がある。特に電極の形成工程における極板圧縮処理により、造粒された活物質の二次粒子が崩れることで内部の空隙が拡散し、リチウムイオンの移動を阻害する可能性がある。また、従来の全固体電池に用いられている無機固体電解質は、電極活物質の内部に存在する空隙には入り込まずに、電極活物質の粒子周辺に無機固体電解質が担持されただけの状態である。そのため、無機固体電解質を用いた場合には、電極活物質の粒子内部に残った空隙がイオン伝導を阻害する。
【0057】
図2には、従来技術に係る負極活物質の断面のSEM(Scanning Electron Microscope)反射電子画像が示されている。
図2に示される負極活物質は、黒鉛であり、粒子内の色の比較的薄い部分が活物質領域であり、粒子内の色の比較的濃い部分が空隙である。このように、従来技術に係る負極活物質の内部には、活物質領域と空隙とが存在している。
【0058】
上記問題を解決するため、本実施の形態に係る負極活物質4は、二次粒子の空隙部分に高分子固体電解質が含浸(充填)されている。また、負極活物質4は、複数の二次粒子は、内部に高分子固体電解質が含浸した高分子固体電解質領域と活物質領域とを有する二次粒子である含浸粒子を含む。複数の二次粒子は、活物質材料である負極活物質の材料の一次粒子を凝集した二次粒子からなる。また、複数の二次粒子は、二次粒子が凝集した凝集体となっていてもよい。なお、複数の二次粒子には、内部に高分子固体電解質が含浸されていない二次粒子が含まれていてもよい。
【0059】
本実施の形態における高分子固体電解質は、イオン伝導性を有する高分子材料を含む固体電解質であれば、特に限られないが、イオン伝導性を有する高分子材料としては、例えば、ポリエーテル、ポリエーテル誘導体、ポリエステル、ポリイミンなどが挙げられ、イオン伝導性の観点から、これらの中でもポリエーテルが好ましい。ポリエーテルとしては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリメチレンエーテルなどが挙げられる。
【0060】
図3には、本実施の形態における負極活物質4の断面のSEM電子反射画像が示されている。
図3に示される負極活物質4は、高分子固体電解質としてポリエチレンオキサイドが含浸された黒鉛の二次粒子である。つまり、
図3には、負極活物質4に含まれる含浸粒子の断面が示されている。
図2とは異なり、負極活物質4の含浸粒子内に色の比較的濃い部分がほとんど無い。よって、本実施の形態に係る含浸粒子には、空隙がほとんど存在しない。つまり、
図3に示される本実施の形態における負極活物質4に含まれる含浸粒子は、
図2のSEM反射電子画像において空隙(濃色部分)に相当する部分に、高分子固体電解質が含浸された高分子固体電解質領域と活物質領域とを有する。
【0061】
[E.負極活物質の製造方法]
本実施の形態にかかる負極活物質4の製造方法は、負極層30に用いられる負極活物質4の製造方法である。負極活物質4の製造方法は、複数の二次粒子のそれぞれの内部に空隙を有する負極活物質材料と高分子固体電解質とを準備し、超臨界流体で構成される溶媒に高分子固体電解質を溶解または分散させて超臨界流体混合物とし、電極活物質材料を超臨界流体混合物に接触させ、超臨界流体混合物を冷却および減圧する、ことを含む。なお、負極活物質材料は、電極活物質材料の一例である。
【0062】
本実施の形態にかかる負極活物質4は、負極活物質材料の内部に高分子固体電解質が含浸される。負極活物質材料の二次粒子内部への高分子固体電解質含浸の含浸(充填)方法としては、負極活物質材料および高分子固体電解質を粉体のまま乳鉢を用いて混合する方法、又は、高分子固体電解質を任意の溶媒に分散または溶解させたスラリーに負極活物質材料を添加および混合するなどによって接触させたあとに溶媒を除去する方法があるが、溶媒を用いる方法が好ましい。特に、高分子固体電解質を二次粒子の内部の空隙にまで効果的に含浸(充填)させるには、溶媒として超臨界流体または亜臨界流体を用いる方法がより好ましく、溶媒として超臨界流体を用いる方法がさらにより好ましい。
【0063】
本実施の形態において高分子固体電解質を分散または溶解させるための溶媒に用いられる超臨界流体としては、例えば、調製の容易性等の観点から、超臨界状態の水または超臨界状態の二酸化炭素が用いられる。これらのうち本実施の形態における製造方法による負極活物質4を用いた全固体電池100の充放電サイクル特性の観点から、超臨界状態の二酸化炭素が好ましい。
【0064】
本実施の形態において、超臨界流体または亜臨界流体で構成される溶媒中で高分子固体電解質を分散または溶解した混合物を負極活物質材料に接触させる方法としては、例えば、耐圧反応容器内で負極活物質材料を含む電極を保持台上に配置し、容器内に高分子固体電解質を添加する。続いて、二酸化炭素を容器内に導入し、圧力調整により例えば10MPaに加圧し、さらに内容物を60℃に加熱する。加圧し、加熱することで超臨界流体となった二酸化炭素流体は、高分子固体電解質を溶解または分散した超臨界流体混合物である加圧流体となり、負極活物質材料を含む電極と接触し、高分子固体電解質が電極中の負極活物質材料の表面および内部に含浸される。また、他の方法としては、例えば、耐圧反応容器内に、負極活物質材料および高分子固体電解質を添加する。続いて、二酸化炭素を容器内に導入し、圧力調整により例えば10MPaに加圧し、さらに内容物を60℃に加熱する。超臨界流体となった二酸化炭素流体と負極活物質材料と高分子固体電解質とを混合することで、高分子固体電解質を溶解または分散した超臨界流体混合物が負極活物質材料と接触し、高分子固体電解質が負極活物質材料の表面および内部に含浸される。これにより、負極活物質の複数の二次粒子は、内部に高分子固体電解質が含浸した高分子固体電解質領域を有する含浸粒子を含む複数の二次粒子となる。
【0065】
超臨界流体または亜臨界流体で構成される溶媒の存在下で混合に要する時間は、高分子固体電解質が溶解または分散し、時間が経過しても圧力低下が生じない時間以上であるならば十分である。また、超臨界流体または亜臨界流体で構成される溶媒の存在下で混合する際の温度および圧力は、用いる媒体の超臨界または亜臨界に必要な温度および圧力であればよい。
【0066】
本実施の形態において、超臨界流体混合物と負極活物質材料とが接触する時の温度は、高分子固体電解質の溶解性または分散性の観点から30~120℃が好ましく、さらに好ましくは50~100℃である。超臨界流体混合物と負極活物質材料とが接触する時間は、本実施の形態における製造方法による負極活物質4を用いた全固体電池100の充放電サイクル特性の観点から、1~120分が好ましく、より好ましくは10~60分である。超臨界流体混合物と負極活物質材料とが接触する時の圧力は、2~20MPaが好ましい。
【0067】
本実施の形態に用いられる超臨界流体または亜臨界流体で構成される溶媒は、超臨界流体または亜臨界流体に加えて、高分子固体電解質と相溶性を有する溶剤を更に含んでもよい。すなわち、超臨界流体または亜臨界流体、および、高分子固体電解質と相溶性を有する溶剤の混合物を、高分子固体電解質を二次粒子の内部に含浸させるための溶媒として用いてもよい。溶剤は、高分子固体電解質と相溶性を有するものであれば特に限定されない。溶剤は、高分子固体電解質を負極活物質材料の内部に含侵させやすくなる観点から、例えば、有機溶剤であってもよい。有機溶剤としては、ケトン溶剤(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル溶剤(テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、環状エーテル等)、エステル溶剤(酢酸エステル、ピルビン酸エステル、2-ヒドロキシイソ酪酸エステル、乳酸エステル等)、アミド溶剤(ジメチルホルムアミド等)、アルコール溶剤(メタノール、エタノール、イソプロパノール、フッ素含有アルコール等)、芳香族炭化水素溶剤(トルエン、キシレン等)および脂肪族炭化水素溶剤(オクタン、デカン等)等が挙げられる。これらの中でも、有機溶剤は、エタノールであってもよい。
【0068】
超臨界流体または亜臨界流体と有機溶剤との混合物を溶媒として用いる場合、超臨界流体または亜臨界流体と有機溶剤との合計重量に基づく有機溶剤の含有率は、本実施の形態における製造方法により製造される負極活物質4を用いた全固体電池100のサイクル特性の観点から、0重量%より大きく90重量%未満が好ましく、より好ましくは0重量%より大きく50重量%未満である。また、超臨界流体または亜臨界流体と有機溶剤との合計重量に基づく有機溶剤の含有率は、10重量%以上30重量%以下であってもよい。有機溶剤の含有率が当該範囲であることにより、有機溶剤が負極活物質に残りにくく、かつ、高分子固体電解質が負極活物質材料に含侵されやすい。
【0069】
本実施の形態において、超臨界流体または亜臨界流体中での負極活物質材料と接触される高分子固体電解質の含有率は、負極活物質材料の複数の二次粒子における空隙に含浸され得る含有率以上であることが好ましいが、負極活物質材料に対して1~60重量%であることが好ましく、より好ましくは10~40重量%である。負極活物質材料に対して高分子固体電解質の含有率を1重量%以上にすることで、負極活物質4の複数の二次粒子における空隙部を高分子固体電解質で満たしやすく、リチウムイオンの移動の阻害が抑制され、電池特性が向上しやすい。また、負極活物質材料に対して高分子固体電解質の含有率を60重量%以下にすることで、負極活物質4の複数の二次粒子における空隙部を満たしても余る高分子固体電解質が残存しにくく、負極活物質4の複数の二次粒子周辺に残存するために生じる二次粒子間での凝集塊が形成されにくい。
【0070】
図4は、本実施の形態および従来例における負極活物質に含まれる含浸粒子の空隙率の算出結果を示す図である。
図4には、高分子固体電解質としてポリエチレンオキサイド(以下、PEOと称する場合がある)を用い、負極活物質材料として黒鉛を用いた場合の、高分子固体電解質であるポリエチレンオキサイドを分散または溶解させた超臨界状態の二酸化炭素の超臨界流体に接触処理させた後の本実施の形態における負極活物質の含浸粒子の空隙率、および、負極活物質材料つまり接触処理を未処理の従来例における負極活物質の二次粒子の空隙率、を算出した結果が示されている。
【0071】
含浸粒子としては、複数の二次粒子に含まれる二次粒子のうち、高分子固体電解質が含浸された含浸粒子となっている粒子を選択した。ポリエチレンオキサイドとしては、リチウムイオンにポリエチレンオキサイド中の酸素分子が配位することで、65℃におけるイオン伝導度が10-4~10-3S/cmを示すものを用いた。接触処理時の条件としては、圧力が10MPaであり、温度が60℃であり、接触時間が10分である。
【0072】
図4において、サンプルのうち黒鉛1および黒鉛2が未処理の従来例における負極活物質の二次粒子であり、サンプルのうちPEO-黒鉛1およびPEO-黒鉛2が接触処理後の本実施の形態における負極活物質の含浸粒子である。具体的には、
図4には、接触処理により高分子固体電解質が内部に含浸した負極活物質(黒鉛)の空隙率、および、未処理の負極活物質(黒鉛)の空隙率を、負極活物質の断面のSEM反射電子画像の解析から算出した結果が示されている。空隙率の解析には、負極活物質の二次粒子内部の状態が判別できる倍率のSEM反射電子画像から任意の粒子部分のみを抽出し(
図4における抽出画像のち、周囲の黒色部以外の部分)、抽出部において色が濃くなっている部分である空隙部とそれ以外を二値化処理により切り分けることで、抽出部に対する空隙部の面積比率を空隙率として算出した。
【0073】
図4に示されるように、未処理の負極活物質(黒鉛)の二次粒子である黒鉛1および黒鉛2の空隙率が7.0~11.0%の範囲であるのに対し、接触処理後の負極活物質(黒鉛)の含浸粒子であるPEO-黒鉛1およびPEO-黒鉛2の空隙率が0.5~1.0%の範囲である。つまり、接触処理後のサンプルは未処理のサンプルよりも空隙率が減少していることが分かる。すなわち、空隙率が減少していることから、負極活物質材料が高分子固体電解質を分散または溶解させた超臨界流体混合物に接触処理されることで、接触処理後の負極活物質(黒鉛)に高分子固体電解質が含浸し、二次粒子の内部まで高分子固体電解質が含浸した含浸粒子となっていることが分かる。つまり、接触処理による空隙率の減少量が二次粒子内への高分子固体電解質の含侵量である。よって、含浸粒子内には、含浸粒子の体積に対して6.0~10.5%の高分子固体電解質を含む。つまり、含浸粒子の体積に対する高分子固体電解質領域の体積の比率は、6.0~10.5%である。また、接触処理により、含浸粒子は、未処理状態の場合に有していた空隙の体積の50%以上が高分子固体電解質で含浸されている。
【0074】
図5は、負極活物質材料が高分子固体電解質の超臨界流体混合物に接触処理された場合の、超臨界流体処理前後における負極活物質の細孔分布測定による気孔率の測定結果を示す図である。
図5には、負極活物質の試料1~3について、接触処理の前か後か、超臨界流体混合物中の負極活物質材料に対するPEOの含有率、超臨界流体混合物中の溶剤、および、気孔率の測定結果が示されている。試料1および2は、超臨界流体混合物に接触処理させた後の負極活物質材料であり、試料3は、超臨界流体混合物に接触処理させていない負極活物質材料である。つまり、試料1および2は、本実施の形態における負極活物質であり、試料3は従来例における負極活物質である。上述の
図4の表に示される実験と同様に、高分子固体電解質としてポリエチレンオキサイド(PEO)、溶媒に用いられる超臨界流体として二酸化炭素、負極活物質材料として黒鉛を用い、圧力が10MPa、温度が60℃、接触時間が10分の条件で接触処理を行った。試料1において接触処理に用いた超臨界流体混合物中の負極活物質材料に対するPEOの含有率は40重量%であり、試料2において接触処理に用いた超臨界流体混合物中の負極活物質材料に対するPEOの含有率は10重量%である。また、試料2では、接触処理に用いた超臨界流体混合物には、二酸化炭素の超臨界流体に、さらに溶剤としてエタノールを超臨界流体とエタノールの合計重量に対して20重量%加えた。つまり、試料2では、二酸化炭素の超臨界流体とエタノールとの混合物を溶媒として用いた。このようにして準備した試料1~3について、水銀ポロシメーター(島津製作所製)を用いて気孔率を測定した。気孔率は、水銀ポロシメーターにて、初期圧力(細孔直径約50μm)に対応する細孔にまで水銀が圧入されたときの体積の試料体積に対する値を用いて、細孔直径0.003~0.7μmに対応する細孔(二次粒子内部の空隙に相当)の気孔率を算出したものである。つまり、
図5に示される気孔率は、負極活物質の複数の二次粒子の見かけ体積の合計に対する二次粒子内部の空隙の体積の比率である。
【0075】
図5に示されるように、接触処理後の負極活物質である試料1および試料2の気孔率がそれぞれ12%および11%であり、接触処理前の負極活物質である試料3の気孔率が14%である。このことから、接触処理により気孔率が2~3%低下している。この気孔率の低下は、超臨界流体処理によって負極活物質材料の複数の二次粒子内部の空隙に高分子固体電解質が含浸したため生じたものである。すなわち、本実施の形態における処理後の負極活物質4の複数の二次粒子は、複数の二次粒子の体積に対して2~3%の高分子固体電解質を含む。つまり、複数の二次粒子の体積に対する高分子固体電解質領域の体積の比率は、2~3%である。複数の二次粒子の体積に対する高分子固体電解質領域の体積の比率は、1~3%であってもよい。
【0076】
また、試料2では、接触処理に用いた超臨界流体混合物中の負極活物質材料に対するPEOの含有率が10重量%であり、試料1における負極活物質材料に対するPEOの含有率40重量%よりも低い。しかし、試料2の気孔率は11%であり、試料1の気孔率12%よりも低くなっている。これは高分子固体電解質であるPEOと相溶性を有する溶剤としてエタノールを含む溶媒を超臨界流体混合物に用いることで、高分子固体電解質の負極活物質の内部への含浸が促進されたためであると考えられる。
【0077】
本実施の形態における負極活物質4を用いることで、二次粒子の内部に残存する空隙に含浸された高分子固体電解質がイオン伝導経路として機能する。それにより、含浸処理前に負極活物質4内部に存在していた空隙によるイオン伝導抵抗を低減することができ、高電池容量かつ充放電特性および出力特性などの電池特性に優れた全固体電池を提供するおことができる。
【0078】
(その他の実施の形態)
なお、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。上記実施の形態は、例示であり、本開示の特許請求に記載の範囲において、技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。また、本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態に施したものや、実施の形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本開示にかかる全固体電池は、携帯電子機器などの電源や車載用電池など、様々な電池への応用が期待される。
【符号の説明】
【0080】
1 バインダー
2 固体電解質
3 正極活物質
4 負極活物質
5 正極集電体
6 負極集電体
10 固体電解質層
20 正極層
30 負極層
100 全固体電池