IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電池および電池の製造方法 図1
  • 特許-電池および電池の製造方法 図2
  • 特許-電池および電池の製造方法 図3
  • 特許-電池および電池の製造方法 図4A
  • 特許-電池および電池の製造方法 図4B
  • 特許-電池および電池の製造方法 図5A
  • 特許-電池および電池の製造方法 図5B
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】電池および電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240507BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240507BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240507BHJP
   H01M 6/18 20060101ALI20240507BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/0585
H01M6/18 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020562974
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2019046735
(87)【国際公開番号】W WO2020137354
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2018248609
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】森岡 一裕
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 覚
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-134254(JP,A)
【文献】特開2018-163870(JP,A)
【文献】特開2017-041439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587;10/36-10/39
H01M6/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極と、
第二電極と、
前記第一電極と前記第二電極との間に配置されている固体電解質層と、
を備え、
前記固体電解質層は、
固体電解質および炭素原子を少なくとも含み、かつ
炭素偏在層を含み、
前記炭素偏在層は、前記固体電解質層において、前記炭素原子が偏在する複数の偏在部が二次元的に集合している領域によって構成されており、
前記炭素偏在層における前記炭素原子の濃度が、前記固体電解質層の前記炭素偏在層を除く領域における前記炭素原子の濃度の1.5倍以上10倍以下である
電池。
【請求項2】
前記炭素偏在層は、前記第一電極および前記第二電極と接していない、
請求項に記載の電池。
【請求項3】
前記炭素偏在層は、前記固体電解質層の側面に露出している、
請求項1または2に記載の電池。
【請求項4】
前記炭素偏在層の厚みは、10μm以上かつ50μm以下である、
請求項1からのいずれか一項に記載の電池。
【請求項5】
前記第一電極は、第一電極活物質を含む第一電極層を含み、
前記第二電極は、第二電極活物質を含む第二電極層を含み、
前記炭素偏在層の厚みは、前記第一電極層と前記第二電極層との間の距離の0.1倍以上0.5倍以下である、
請求項1からのいずれか一項に記載の電池。
【請求項6】
前記炭素偏在層における前記炭素原子の前記濃度は、前記固体電解質層の前記炭素偏在層を除く前記領域における前記炭素原子の前記濃度の2倍以上5倍以下である、
請求項に記載の電池。
【請求項7】
前記炭素偏在層は、前記固体電解質および前記炭素原子を含む、
請求項1からのいずれか一項に記載の電池。
【請求項8】
前記炭素偏在層は、Li原子をさらに含む、
請求項に記載の電池。
【請求項9】
前記炭素原子は、バインダを構成する有機化合物に由来する
請求項1に記載の電池。
【請求項10】
第一電極の片面に第一固体電解質層を形成し、第二電極の片面に第二固体電解質層を形成する工程Aと、
前記第一固体電解質層の表面領域に、炭素原子の濃度が前記第一固体電解質層の前記表面領域を除く領域よりも高い、第一炭素偏在層を形成する工程Bと、
前記第一固体電解質層における前記第一炭素偏在層と、前記第二固体電解質層とを、互いに接合する工程Cと、
を含む、
電池の製造方法であって、
前記第一固体電解質層および前記第二固体電解質層は、バインダを含み、
前記工程Bにおいて、前記第一固体電解質層に含まれる前記バインダが、前記第一固体電解質層の前記表面領域に偏在するように、前記第一固体電解質層を乾燥させることで、前記第一炭素偏在層を形成する、
電池の製造方法。
【請求項11】
前記工程Bにおいて、前記第二固体電解質層に含まれる前記バインダが、前記第二固体電解質層の表面領域に偏在するように、前記第二固体電解質層を乾燥させることで、前記第二固体電解質層の前記表面領域に、炭素原子の濃度が前記第二固体電解質層の前記表面領域を除く領域よりも高い、第二炭素偏在層を形成し、
前記工程Cにおいて、前記第一固体電解質層における前記第一炭素偏在層と、前記第二固体電解質層における前記第二炭素偏在層とを、互いに接合する、
請求項10に記載の電池の製造方法。
【請求項12】
第一電極の片面に固体電解質層を形成する工程aと、
前記第一電極の前記片面上に形成されている前記固体電解質層の表面領域に、炭素原子の濃度が前記固体電解質層の前記表面領域を除く領域よりも高い、炭素偏在層を形成する工程bと、
前記固体電解質層における前記炭素偏在層と、第二電極とを、互いに接合する工程cと、
を含む、電池の製造方法であって、
前記固体電解質層は、バインダを含み、
前記工程bにおいて、前記バインダが、前記固体電解質層の前記表面領域に偏在するように、前記固体電解質層を乾燥させることで、前記炭素偏在層を形成する、
電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池および電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および2には、固体電解質層に炭素を含有する層を備えた全固体電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-128014号公報
【文献】特開2011-086554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては、高い信頼性を有する電池が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る電池は、第一電極と、第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間に配置されている固体電解質層と、を備え、前記固体電解質層は、固体電解質および炭素原子を少なくとも含み、かつ炭素偏在層を含み、前記炭素偏在層における前記炭素原子の濃度が、前記固体電解質層の前記炭素偏在層を除く領域における前記炭素原子の濃度よりも高い。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一態様によれば、例えば短絡リスクが低減されうる、高い信頼性を有する電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施の形態1における電池の一例である、全固体電池の模式断面図である。
図2図2は、実施の形態2における電池の製造方法の第一例のフローチャートである。
図3図3は、実施の形態2における電池の製造方法の第二例のフローチャートである。
図4A図4Aは、実施例で作製された電池の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像と炭素マッピング分析結果とを示す。
図4B図4Bは、実施例で作製された電池の断面のSEM画像と炭素マッピング分析結果とを示す。
図5A図5Aは、実施例で作製された電池の断面の炭素マッピング分析結果と、炭素マッピング強度を数値化したグラフとを示す。
図5B図5Bは、実施例で作製された電池の断面の炭素マッピング分析結果と、炭素マッピング強度を数値化したグラフとを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示の基礎となった知見)
大面積化、ならびに、連続および大量生産性の観点から有利であるという理由で、全固体電池の製造に塗工プロセスを適用することが検討されている。塗工プロセスでは、まず、粉末を溶媒に分散させてスラリーを作製する。次に、このスラリーを用いて、スクリーン印刷またはダイコートなどの手法で、基材上に塗膜を形成する。得られた塗膜中の溶媒を、例えば乾燥炉での加熱等の熱プロセスによって揮発させる。これにより、乾燥膜が得られる。一般的には、塗工プロセスに適したある程度の粘性を有するスラリーを得るために、また、乾燥膜の強度および当該乾燥膜と基材との接着性を確保するためなどに、スラリー作製の際に、スラリーにバインダが添加される。
【0009】
バインダは、全固体電池の電池特性にとって必要不可欠なものではないと考えられる。しかし、塗工プロセスを用いて成膜する場合には、必要なものである。塗工プロセスを用いる場合、粉末を溶媒中に分散させてスラリーを作製し、そのスラリーを塗工する。良好な塗工性および膜質を両立させるためには、スラリーに一定の粘度を保持させることが重要である。スラリーに粘度を保持させるために、分散プロセスを用いて、バインダもスラリーに含有させる。この際、分散プロセスを制御することによって、バインダをスラリー中に粉体と共に均一に分散させることができる。したがって、分散プロセスの制御により、スラリーにおけるバインダの含有量を制御し、最小限に留めることもできる。
【0010】
例えば、全固体電池の固体電解質層を塗工プロセスによって作製する場合、固体電解質の粉末を溶媒に分散させた固体電解質スラリーが作製される。この固体電解質スラリーを用いて、塗工プロセスによって、基材である電極(すなわち、正極および負極)上に、塗膜が形成される。電極は、例えば、集電体と、当該集電体上に配置された電極層(すなわち、正極層および負極層)とによって構成されていてもよい。電極層も、塗工プロセスによって作製しうる。塗工プロセスによって得られた電極層の乾燥膜は、電池性能を向上させるために、固体電解質スラリーが塗工される前にプレスされてもよい。
【0011】
固体電解質層に含有されるバインダは、スラリーの状態では、固体電解質粒子とともに溶媒中に均一に分散している。電極層上に塗工されたスラリーの塗膜を乾燥させることによって得られた乾燥膜の状態では、バインダは、固体電解質粒子間に存在して粒子同士を接着させて、膜としての強度を確保している。なお、固体電解質層に含有されるバインダは、通常、有機バインダである。したがって、塗工プロセスによって作製された固体電解質層には、通常、バインダを構成する有機化合物に由来する炭素原子が含まれる。
【0012】
正極上および負極上にそれぞれ固体電解質層を塗工プロセスで形成した後に、正極上の固体電解質層と、負極上の固体電解質層とを互いに対向させて重ね合わせ、得られた積層体を積層方向にプレスする。これにより、正極上の固体電解質層と負極上の固体電解質層とが接合されて、全固体電池が作製される。このとき、接合界面を形成するのは、正極層上に形成された固体電解質層の表面と、負極層上に形成された固体電解質層の表面である。プレスにより、固体電解質層は、充填率が向上し緻密化するが、同時に固く脆くなる。このため、プレス時のスプリングバックおよび/または外部からの衝撃があった場合に、固体電解質層にクラックが入るなどして、固体電解質層の一部が崩落するおそれがある。固体電解質層の一部が欠けたり、また固体電解質層にクラックが入ったりすると、正極および負極の間を絶縁する機能が低下して短絡するおそれがある。
【0013】
全固体電池の固体電解質層が塗工プロセスによって作製される場合、上述のように、固体電解質層は、電極と接合するため、固体電解質層同士で接合するため、および/または、充填率を上げるために、加圧されることがある。加圧された固体電解質層は、充填率が上がる一方で、固くなり、脆くなることがある。固体電解質層は、正極と負極を絶縁する機能を担う。そのため、加圧により固体電解質層内にクラックが発生したり、固体電解質層の端部で欠けが発生したりした場合は、短絡リスクが増大することとなる。このため、固体電解質層の接合部の強度を確保することが課題である。
【0014】
本発明者らは、上記の課題について、鋭意検討を行った。これにより、本発明者らは、固体電解質層の接合界面の近傍に、バインダにより粉体同士の接着力が強化された層が存在する場合は、加圧により固体電解質層が緻密化された後でも膜強度が高く維持され、短絡リスクを低下させることができることを、新たに見出した。
【0015】
なお、バインダにより強化された層を接合界面に形成するのであれば、バインダを含むスラリーを固体電解質層上に別層として塗工して、これを接着層として使用することも考えられる。しかし、このような方法で作製された場合、バインダを含む層は、バインダの成分が一様に互いに連結することによって形成された層となると考えられる。すなわち、バインダの成分が互いに一様に連結されることによって、固体電解質層内に、二次元的に広がる連続の炭素含有層が形成されると考えられる。なお、この炭素含有層における炭素原子は、バインダを構成する有機化合物に由来するものである。このような炭素含有層は、イオン(たとえば、リチウムイオン)の伝導にとっては抵抗となるため、電池特性の低下を引き起こす。また、バインダを含むスラリーを固体電解質層上に別層として塗工する場合、バインダの分布が電極層上に形成された固体電解質層の最表面のみとなる。したがって、強度向上が、固体電解質層の接合界面のみに限定されると推定される。
【0016】
本発明者らは、さらに鋭意検討を重ねた結果、固体電解質層を電極層上に塗工した後の乾燥工程で、バインダを固体電解質層の表面に偏在させることに成功した。具体的には、乾燥中の固体電解質層の厚み方向の対流を利用することで、バインダを固体電解質層の表面に偏在させることとした。ホットプレート加熱および遠赤外線加熱などの各種加熱方法、真空乾燥の併用、ならびに、乾燥時間および昇温レートなどの条件変更によって、固体電解質層厚み方向の対流状況を変化させ、バインダを表面近傍に偏在させることができることがわかった。
【0017】
バインダの偏在状態は、例えば、接合プレス後の全固体電池をカッター等により切断し、切断面をクロスセクションポリッシャ(CP)等で削り、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により固体電解質層断面の炭素マッピング分析を実施することによって、確認できる。上述の、乾燥工程でバインダを固体電解質層の表面に偏在させる方法を用いて作製される、固体電解質層におけるバインダの偏在状態は、例えば、後述の実施例の固体電解質層によって確認されうる。図4Aおよび4Bは、実施例で作製された電池の断面のSEM画像と炭素マッピング(Cマップ)分析結果とを示す。図5Aおよび5Bは、実施例で作製された電池の断面の炭素マッピング分析結果と、炭素マッピング強度を数値化したグラフとを示す。
【0018】
図4Aおよび4B、ならびに、図5Aおよび5Bから、固体電解質層中で電極層とは離れた位置で、厚み方向の中央付近に、炭素が偏在する領域である炭素偏在層が存在していることがわかる。この炭素偏在層は、バインダ成分が一様に互いに連結する連続した層ではなく、数μmから数10μmの径の大きさを有する複数の炭素偏在部が、二次元的に集合している領域によって構成されていることがわかる。このような構成の炭素偏在層は、イオン(たとえば、リチウムイオン)の伝導を大きく阻害しない。したがって、このような構成の炭素偏在層を含む固体電解質層によれば、イオン伝導性を大きく低下させることなく、塗工プロセスによって作製される固体電解質層の高い強度を実現することができる。
【0019】
以下、本開示の実施の形態が、図面を参照しながら説明される。
【0020】
(実施の形態1)
実施の形態1における電池は、第一電極と、第二電極と、第一電極と第二電極との間に配置されている固体電解質層と、を備える。固体電解質層は、固体電解質および炭素原子を少なくとも含み、かつ炭素偏在層を含む。炭素偏在層における炭素原子の濃度は、固体電解質層の炭素偏在層を除く領域における炭素原子の濃度よりも高い。なお、炭素偏在層は、換言すると、炭素原子の濃度が高い領域で構成された炭素リッチ層である。
【0021】
実施の形態1における電池では、固体電解質層が上記の炭素偏在層を含む。炭素偏在層は、例えば加圧等のプロセスを経ても崩落しにくく、高い強度を有しうる。すなわち、炭素偏在層は、高い耐崩落強度を有しうる。したがって、炭素偏在層が含まれることにより、例えば固体電解質層が塗工プロセスによって作製されている場合であっても、固体電解質層が高い強度を有しうる。これにより、実施の形態1における電池は、例えば短絡リスクが低減されて、高い信頼性を実現できる。
【0022】
実施の形態1における電池において、固体電解質層および炭素偏在層に含まれる炭素原子は、例えば、固体電解質層が塗工プロセスによって作製される場合に用いられる有機バインダに由来する。すなわち、この場合、固体電解質層および炭素偏在層に含まれる炭素原子は、非晶質の炭素ではなく、有機化合物を構成する炭素であり、例えば水素原子と結合していてもよい。
【0023】
実施の形態1における電池において、炭素偏在層は、例えば、固体電解質層において、炭素原子が偏在する複数の偏在部が二次元的に集合している領域によって構成されている。この構成によれば、実施の形態1における電池は、高い信頼性を実現できると共に、炭素偏在層によるイオン伝導性の低下を小さく抑えて、高いイオン伝導性を確保できる。
【0024】
実施の形態1における電池において、炭素偏在層は、第一電極および第二電極と接していなくてもよい。この構成によれば、実施の形態1における電池は、より高い信頼性を実現できる。
【0025】
実施の形態1における電池において、炭素偏在層は、固体電解質層の側面に露出していてもよい。この構成では、高い耐崩落強度を有しうる炭素偏在層が固体電解質層の側面に露出している。したがって、この構成によれば、実施の形態1における電池は、固体電解質の側面からの崩壊をより確実に抑制できるので、より高い信頼性を実現できる。
【0026】
実施の形態1における電池において、炭素偏在層の厚みは、10μm以上かつ50μm以下であってもよい。この構成によれば、実施の形態1における電池は、炭素偏在層によるイオン伝導性の低下をより小さく抑えて、より高いイオン伝導性を確保できる。
【0027】
実施の形態1における電池において、第一電極は、第一電極活物質を含む第一電極層を含んでもよく、第二電極は、第二電極活物質を含む第二電極層を含んでもよい。この場合、炭素偏在層の厚みは、第一電極層と第二電極層との間の距離の0.1倍以上0.5倍以下であってもよい。この構成によれば、実施の形態1における電池は、高い信頼性と高いイオン伝導性との両方を、効果的に実現しうる。
【0028】
実施の形態1における電池において、炭素偏在層における炭素原子の濃度は、固体電解質層の炭素偏在層を除く領域における炭素原子の濃度の1.5倍以上10倍以下であってもよいし、2倍以上5倍以下であってもよい。この構成によれば、実施の形態1における電池は、高い信頼性と高いイオン伝導性との両方を、効果的に実現しうる。なお、実施の形態1において、炭素偏在層における炭素原子の濃度は、まず、実施の形態1における電池を厚み方向に切断し、切断面をCP等で削り、EPMAによりこの切断面の炭素マッピング分析を実施し、得られた炭素マッピング強度を数値化することによって求められる。なお、固体電解質層の炭素偏在層を除く領域における炭素原子の濃度は、固体電解質層内であって、かつ炭素偏在層ではない領域の炭素濃度のうち、最も低い炭素濃度を基準とする。
【0029】
実施の形態1における電池において、炭素偏在層は、炭素原子に加えて、固体電解質層に含まれる固体電解質も含んでいてもよい。炭素偏在層が炭素原子のみではなく固体電解質も含んでいることにより、実施の形態1における電池は、より高いイオン伝導性を実現しうる。
【0030】
実施の形態1における電池において、炭素偏在層は、Li原子をさらに含んでいてもよい。この構成によれば、Liイオンの伝導が阻害されない。
【0031】
実施の形態1における電池において、第一電極が正極であって、かつ第二電極が負極であってもよいし、あるいは、第一電極が負極であって、かつ第二電極が正極であってもよい。第一電極および第二電極には、例えば、公知の全固体電池(たとえば、リチウムイオン電池)に用いられている正極または負極が適用されうる。第一電極および第二電極は、それぞれ、第一電極層および第二電極層を含んでいてもよい。すなわち、第一電極は、集電体上に第一電極活物質を含む第一電極層が配置されている構成を有していてもよい。また、第二電極は、集電体上に第二電極活物質を含む第二電極層が配置されている構成を有していてもよい。
【0032】
固体電解質層に含まれる固体電解質には、例えば、公知の全固体電池(たとえば、リチウムイオン電池)の固体電解質層に用いられている固体電解質が適用されうる。固体電解質は、例えば、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものから適宜選択することができる。例えば、硫化物系固体電解質材料、酸化物系固体電解質材料、その他の無機系固体電解質材料、および有機系固体電解質材料等が挙げられる。固体電解質は単独で使用しても良いし、2種類以上組み合わせて使用しても良い。形状やサイズは特に限定されないが、例えば微粒子状が挙げられる。固体電解質が微粒子状である場合、固体電解質の平均粒径は0.01~15μmであってもよく、0.2~10μmであってもよい。平均粒径は、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置によって測定された体積粒度分布から評価したD50(すなわち、体積分布のメジアン径)である。
【0033】
固体電解質層に含まれる炭素原子は、例えば、固体電解質層を塗布プロセスによって作製する際に用いられる有機バインダに由来する。例えば、有機バインダには、熱可塑性樹脂が使用されうるが、特に限定されず、公知の全固体電池(たとえば、リチウムイオン電池)に用いられるものから適宜選択することができる。例えば、スチレン・エチレン・ブタジエン共重合体の熱可塑性エストラマーが挙げられる。また、エチルセルロースおよびポリフッ化ビニリデンも使用可能である。その他にも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸n-プロピル、ポリメタクリル酸n-ブチル、ポリジメチルシロキサン、cis-1、4-ポリブタジエン、ポリイソプレン、ナイロン-6、ナイロン-6、6、ポリエチレンテレフタラート、およびポリビニルアルコールなどが使用可能である。バインダは単独で使用されてもよいし、2種類以上組み合わせて使用されてもよい。
【0034】
実施の形態1における電池の具体例を示す。図1は、実施の形態1における電池の一例である、全固体電池の模式断面図である。全固体電池は、集電体1と、正極層2と、負極層3と、固体電解質層4とを備える。正極層2と負極層3とは、固体電解質層4を介して互いに対向して配置されている。固体電解質層4は、少なくとも、固体電解質および炭素原子を含んでいる。さらに、固体電解質層4は、炭素偏在層5を含んでいる。全固体電池においては、集電体1および正極層2によって第一電極が構成されている。集電体1および負極層3によって第二電極が構成されている。なお、集電体1は、特に限定されず、公知の全固体電池(たとえば、リチウムイオン電池)に用いられるものから適宜選択することができる。
【0035】
(実施の形態2)
実施の形態2における電池の製造方法は、
第一電極の片面に第一固体電解質層を形成し、第二電極の片面に第二固体電解質層を形成する工程Aと、
前記第一固体電解質層の表面領域に、炭素原子の濃度が前記第一固体電解質層の前記表面領域を除く領域よりも高い、第一炭素偏在層を形成する工程Bと、
前記第一固体電解質層における前記第一炭素偏在層と、前記第二固体電解質層とを、互いに接合する工程Cと、
を含む。
【0036】
実施の形態2における電池の製造方法は、前記工程Bにおいて、前記第二固体電解質層の表面領域に、炭素原子の濃度が前記第二固体電解質層の前記表面領域を除く領域よりも高い第二炭素偏在層を形成し、前記工程Cにおいて、前記第一固体電解質層における前記第一炭素偏在層と、前記第二固体電解質層における前記第二炭素偏在層とを、互いに接合してもよい。
【0037】
図2に、実施の形態2における電池の製造方法の第一例のフローチャートを示す。さらに、図3に、実施の形態2における電池の製造方法の第二例のフローチャートを示す。
【0038】
実施の形態2における電池の製造方法の第一例では、図2に示すように、まず、第一電極の片面に第一固体電解質層を形成し、および、第二電極の片面に第二固体電解質層を形成する(S1)。次に、第一固体電解質層の表面領域に、第一炭素偏在層を形成する(S2)。次に、第一固体電解質層における第一炭素偏在層と、第二固体電解質層とを、互いに接合する(S3)。
【0039】
実施の形態2における電池の製造方法の第二例では、図3に示すように、まず、第一電極の片面に第一固体電解質層を形成し、および、第二電極の片面に第二固体電解質層を形成する(S11)。次に、第一固体電解質層の表面領域に第一炭素偏在層を形成し、第二固体電解質層の表面領域に第二炭素偏在層を形成する(S12)。次に、第一固体電解質層における第一炭素偏在層と、第二固体電解質層における第二炭素偏在層とを、互いに接合する(S13)。
【0040】
実施の形態2における製造方法によれば、例えば、実施の形態1における電池を製造しうる。すなわち、実施の形態2における製造方法によって作製しうる電池は、第一電極と、第二電極と、第一電極と第二電極との間に配置されている固体電解質層と、を備える。固体電解質層は、固体電解質および炭素原子を少なくとも含み、かつ炭素偏在層を含む。ここで、固体電解質層は、第一固体電解質層および第二固体電解質層が接合されることによって形成される。また、炭素偏在層は、第一炭素偏在層のみ、または、第一炭素偏在層および第二炭素偏在層によって形成される。炭素偏在層における炭素原子の濃度は、固体電解質層の炭素偏在層を除く領域における炭素原子の濃度よりも高い。
【0041】
実施の形態2における製造方法によって作製しうる電池は、実施の形態1で説明したように、炭素偏在層が含まれることにより、例えば短絡リスクが低減されて、高い信頼性を実現できる。
【0042】
以下に、実施の形態2における製造方法について、より詳しく説明する。なお、ここでは、図1に示す電池を製造しうる方法について説明する。すなわち、第一電極が正極であって、かつ集電体および電極層(すなわち、正極層)で構成されており、第二電極が負極であって、かつ集電体および電極層(すなわち、負極層)で構成されている電池を製造する方法について説明する。
【0043】
電極層の作製方法は特に限定されず、公知の技術を用いることができる。電極層は通常、集電体上に形成される。
【0044】
集電体は特に限定されず、一般的にリチウムイオン電池に使用されているものを用いることができる。例えば、銅箔、銅合金箔、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、およびステンレス鋼箔などが用いられうる。
【0045】
電極層に用いられる活物質は特に限定されず、求められる機能に応じて選択することができる。通常、活物質と、必要に応じて、導電性材料、固体電解質、および/またはバインダと混合した混合物を用いて作製することができる。
【0046】
活物質には通常、正極活物質および負極活物質があり、それぞれ求められる機能に応じて選択することができる。
【0047】
正極活物質としては、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物、バナジウム酸化物、クロム酸化物、およびリチウム含有遷移金属硫化物が挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物としては、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、およびコバルト酸リチウム等が挙げられる。リチウム含有遷移金属酸化物の例として、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn24、LiNiCoMnO2、LiNiCoO2、LiCoMnO2、LiNiMnO2、LiNiCoMnO4、LiMnNiO4、LiMnCoO4、LiNiCoAlO2、LiNiPO4、LiCoPO4、LiMnPO4、LiFePO4、Li2NiSiO4、Li2CoSiO4、Li2MnSiO4、Li2FeSiO4、LiNiBO3、LiCoBO3、LiMnBO3、及びLiFeBO3が挙げられる。リチウム含有遷移金属硫化物の例として、LiTiS2、Li2TiS3、およびLi3NbS4が挙げられる。これらの正極活物質から選ばれる1種又は2種以上を使用してもよい。
【0048】
負極活物質としては、例えば、炭素材料、リチウム合金、金属酸化物、窒化リチウム(Li3N)、金属リチウム、および金属インジウムが挙げられる。炭素材料としては、人造黒鉛、グラファイト、難黒鉛化性炭素、および易黒鉛化性炭素が挙げられる。リチウム合金としては、Al、Si、Pb、Sn、ZnおよびCdからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属とリチウムとの合金が挙げられる。金属酸化物としては、LiFe23、WO2、MoO2、SiO、及びCuOが挙げられる。複数の材料の混合物又は複合体を負極活物質として用いてもよい。
【0049】
これら正極活物質または負極活物質はそれぞれ、単独で使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。形状やサイズは特に限定されないが、例えば微粒子状が挙げられる。活物質が微粒子状である場合、平均粒径が0.5~20μmであってもよく、1~15μmであってもよい。平均粒径は、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置によって測定された体積粒度分布から評価したD50(すなわち、体積分布のメジアン径)である。粒度分布を測定できない場合、粒子の平均粒径は、次の方法によって算出されうる。粒子群を電子顕微鏡で観察し、電子顕微鏡像における特定の粒子の面積を画像処理にて算出する。粒子群のみを直接観察できない場合、粒子が含まれた構造を電子顕微鏡で観察し、電子顕微鏡像における特定の粒子の面積を画像処理にて算出する。算出された面積に等しい面積を有する円の直径をその特定の粒子の直径とみなす。任意の個数(例えば10個)の粒子の直径を算出し、それらの平均値を粒子の平均粒径とみなす。
【0050】
導電性材料は特に限定されないが、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものから適宜選択することができる。例えば、グラファイト類、カーボンブラック類、導電性繊維類、導電性金属酸化物類、および有機導電性材料類などが挙げられる。これら導電性材料は、単独で使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。
【0051】
固体電解質は特に限定されないが、活物質の種類や用途に応じて、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものから適宜選択することができる。例えば、硫化物系固体電解質材料、酸化物系固体電解質材料、その他の無機系固体電解質材料、有機系固体電解質材料等が挙げられる。固体電解質は単独で使用してもよいし、2種類以上組み合わせて使用してもよい。形状やサイズは特に限定されないが、例えば微粒子状が挙げられる。固体電解質が微粒子状である場合、平均粒径が0.01~15μmであってもよく、0.2~10μmであってもよい。平均粒径は、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置によって測定された体積粒度分布から評価したD50(すなわち、体積分布のメジアン径)である。
【0052】
バインダには、たとえば熱可塑性樹脂が用いられうるが、特に限定されず、一般的にリチウムイオン電池に用いられるものから適宜選択することができる。例えば、スチレン・エチレン・ブタジエン共重合体の熱可塑性エストラマーが挙げられる。また、エチルセルロースおよびポリフッ化ビニリデンが使用可能である。その他にも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸n-プロピル、ポリメタクリル酸n-ブチル、ポリジメチルシロキサン、cis-1、4-ポリブタジエン、ポリイソプレン、ナイロン-6、ナイロン-6、6、ポリエチレンテレフタラート、およびポリビニルアルコールなどが使用可能である。バインダは単独で使用されてもよいし、2種類以上組み合わせて使用されてもよい。
【0053】
電極層の作製方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。正極活物質または負極活物質に、必要に応じて、導電性材料、固体電解質、および/またはバインダ等を混合機により混合する。各材料の混合比は、電池の使用用途等に応じて適宜決定される。混合機は特に限定されないが、例えばプラネタリミキサやボールミル等の公知のものを使用して、公知の方法に準じて混合することができる。
【0054】
得られた活物質を含む混合物を、集電体上に所定の厚みとなるように付着させる。
【0055】
また、別の形成方法として、活物質を含む混合物を適切な溶媒に分散させたスラリーを作製し、該スラリーを集電体に塗布、乾燥する方法が挙げられる。スラリーの塗布方法としては、一般的な方法を使用することができ、例えばスクリーン印刷法、ダイコート法、スプレー法、およびドクターブレード法などが挙げられる。
【0056】
第一固体電解質層の作製方法は、例えば、固体電解質とバインダとを適切な溶媒に分散させたスラリーを作製し、該スラリーを第一電極の片面(ここでは、正極層上)に塗布し、得られた塗膜を乾燥する方法が挙げられる。スラリーの塗布方法としては、一般的な方法を使用することができ、例えばスクリーン印刷法、ダイコート法、スプレー法、およびドクターブレード法などが挙げられる。さらに、支持材上に該スラリーを塗布し、得られた塗膜を乾燥することによって得られた固体電解質シートを、第一電極の片面(ここでは、正極層上)に転写するなどの別の方法で形成することもできる。第二固体電解質層も、第一固定電解質層と同様に、第二電極の片面(ここでは、負極層上)に形成しうる。
【0057】
第一固体電解質層を電極層上に塗工した後の乾燥工程で、バインダを第一固体電解質層の表面領域に偏在させることができる。これにより、第一固体電解質層の表面領域に、炭素原子の濃度が第一固体電解質層の表面領域を除く領域よりも高い、第一炭素偏在層を形成することができる。具体的には、乾燥中の第一固体電解質層の厚み方向の対流を利用することで、バインダを表面領域に偏在させることが可能である。例えば、ホットプレート加熱、遠赤外線加熱、および輻射を利用した加熱などの各種加熱方法、真空乾燥の併用、ならびに、乾燥時間および昇温レートなどの条件変更によって、第一固体電解質層の厚み方向の対流状況を変化させ、バインダを表面近傍に偏在させることができることができる。上記加熱方法の他に、ローラー、コンベア、またはウォーキングビームを使用して連続式に加熱処理を行ってもよい。乾燥性を向上させるため、乾燥炉内に給排気口を設けてエアフローを発生させることも可能である。加熱処理がバッチ式処理の場合は、上記のように、ポンプを利用して真空乾燥を併用することもできる。これら各種の乾燥方法では、乾燥温度や時間、昇温速度、気流量などの条件を変更することで、乾燥膜の膜質を制御することができる。
【0058】
上記第二例の製造方法のように、第二固体電解質層の表面領域に第二炭素偏在層を形成する場合も、第一炭素偏在層と同様の方法を用いることができる。
【0059】
第一固体電解質層と第二固体電解質層との接合は、第一固体電解質層の第一炭素偏在層と、第二固体電解質層の表面または第二固体電解質層の第二炭素偏在層とを互いに対向させて重ね合わせ、プレスすることによって実施されうる。このプレスによって、固体電解質の充填率を高め、さらに活物質と固体電解質との互いの粒子の接触界面を増大させることによって、電池性能を向上させることができる。
【0060】
実施の形態2の製造方法によって製造される電池は、第一固体電解質層および第二固体電解質層の接合界面付近に炭素偏在層が存在するので、粒子間に存在するバインダが粒子間の接着力をより強化するため、端部での固体電解質の崩落、および、接合界面での膜のひび割れ等の発生が抑制される。このため、実施の形態2の製造方法によって製造される電池は、固体電解質層の強度が高く、短絡の恐れが低い信頼性の高いものとなる。
【0061】
第一電極の片面に固体電解質層を形成する工程aと、
前記第一電極の前記片面上に形成されている前記固体電解質層の表面領域に、炭素原子の濃度が前記固体電解質層の前記表面領域を除く領域よりも高い、炭素偏在層を形成する工程bと、
前記固体電解質層における前記炭素偏在層と、第二電極とを、互いに接合する工程cと、
を含む、電池の製造方法。
【0062】
なお、上記の製造方法についても、第一電極は、正極であってもよいし、負極であってもよい。また、このような、固体電解質層と電極とを接合する方法の場合、たとえば、正極および負極の少なくとも一方にバインダを含む固体電解質層を形成し、対向させて接合プレスする際に、接合性を向上させるために加熱しても良い。このとき、加熱する温度は電極層および/または固体電解質層に含有するバインダの転移温度よりも高いことが好ましい。バインダの転移温度は熱機械分析(TMA)、動的粘弾性測定(DMA)、示差走査熱量測定(DSC)、示差走査熱量計熱分析(DTA)等を用いて測定することができる。
【実施例
【0063】
本実施例では、固体電解質として硫化物固体電解質Li2SとP25の混合物が用いられた。バインダとして、スチレン系熱可塑性エストラマーが用いられた。スチレン系熱可塑性エストラマーとして、旭化成社製の「タフテックM1913」が用いられた。スラリー作製のための溶媒として、1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンは用いられた。これらを混合して固体電解質層スラリーを得た。一辺が20mmの正方形状の電極層の上に、メタルマスクを用いた印刷法で、固体電解質スラリーを厚みが100μm程度となるように塗工した。
【0064】
得られた塗膜の乾燥は、側面にシーズヒータを備えた乾燥炉を用いて、バッチ式の乾燥処理によって実施された。100℃まで20分で昇温し、10分保持した後、乾燥サンプルを取り出した。さらに、乾燥処理中は、乾燥炉内を真空ポンプで連続排気し減圧雰囲気とした。この乾燥工程によって、乾燥中の固体電解質層の厚み方向の対流を利用して、バインダを固体電解質層の表面に偏在させた。なお、正極上の固体電解質層および負極上の固体電解質層の両方の表面に、それぞれ、バインダを偏在させた。
【0065】
正極層上の固体電解質層と、負極層上の固体電解質層とを互いに対向させて重ね合わせ、得られた積層体を120℃に加熱した状態で積層方向に5t/cm2の圧力でプレスした。これにより、全固体電池が作製された。
【0066】
バインダの偏在状態を確認するために、接合プレス後の全固体電池をカッターにより切断し、切断面をCPで削り、EPMAにより固体電解質層断面の炭素マッピング分析を実施した。分析は、電池の任意の2箇所について行った。図4Aおよび4Bは、実施例で作製された電池の断面のSEM画像と炭素マッピング分析結果とを示す。図5Aおよび5Bは、実施例で作製された電池の断面の炭素マッピング分析結果と、炭素マッピング強度を数値化したグラフとを示す。
【0067】
図4Aおよび図4Bに示されている炭素マッピング分析結果において、上部の色が濃い部分は、負極に使用されたカーボンである。図4Aおよび図4Bに示されている炭素マッピング分析結果において、固体電解質層の中央部分に帯状に集合している、粒子状の色の濃い領域が、炭素が偏在している偏在部を示している。また、図5Aおよび図5Bに示されている炭素マッピング分析結果において、左端の色が濃い部分は、負極に使用されたカーボンである。図5Aおよび図5Bに示されている炭素マッピング分析結果において、固体電解質層の中央部分に帯状に集合している粒子状の色の濃い領域が、炭素が偏在している偏在部を示している。
【0068】
図4Aおよび4B、ならびに、図5Aおよび5Bに示された結果から、本実施例の全固体電池には、固体電解質層中で電極層とは離れた位置で厚み方向の中央付近にカーボンの偏在層が存在していることがわかった。この偏在層は一様に連結した層ではなく、数μmから数10μmの大きさの偏在部の集合体となっている。このため、リチウムイオンの伝導は大きく阻害されるものではない。なお、図5Aおよび5Bに示された、炭素マッピング強度が数値化されているグラフにおいて、グラフ端部の強度が高い部分は、カーボンを使用した負極である。図5Aおよび5Bのグラフから、本実施例においては、固体電解質層内の炭素偏在層における炭素濃度は、非偏在部と比較して、少なくとも2倍以上であることがわかった。これらの数値は、数値化した検出強度を厚み方向に積分することで得られた。ここで、非偏在部とは、固体電解質層内であって、かつ炭素偏在層ではない領域ののうち、最も低い炭素濃度を有する部分のことである。
【0069】
また、炭素偏在層は、正極層と負極層との間に存在する固体電解質層の厚みを100%としたとき、30%程度の厚みを有することがわかった。
【0070】
また、この炭素偏在層は、炭素のみではなく、固体電解質を含むことが分かった。
【0071】
また、図4Aおよび4BのSEM画像から確認できるように、プレスされて得られた本実施例の全固体電池には、固体電解質の崩落およびクラックは確認されなかった。したがって、炭素偏在層を含む固体電解質層を備えた本開示の電池は、高い信頼性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本開示の電池は、信頼性が高い電池であり、各種の電子機器および自動車へ用いる2次電池として使用できる。
【符号の説明】
【0073】
1 集電体
2 電極層(正極層)
3 電極層(負極層)
4 固体電解質層
5 炭素偏在層
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B