(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】多層構造の自己修復セラミック塗層及びその製作方法
(51)【国際特許分類】
C23C 4/073 20160101AFI20240507BHJP
C23C 4/11 20160101ALI20240507BHJP
C23C 4/134 20160101ALI20240507BHJP
C23C 4/18 20060101ALI20240507BHJP
C23C 4/10 20160101ALI20240507BHJP
【FI】
C23C4/073
C23C4/11
C23C4/134
C23C4/18
C23C4/10
(21)【出願番号】P 2023023135
(22)【出願日】2023-02-17
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】202210363583.9
(32)【優先日】2022-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520255595
【氏名又は名称】長沙理工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】李 微
(72)【発明者】
【氏名】覃 文揚
(72)【発明者】
【氏名】胡 勝男
(72)【発明者】
【氏名】李 磊
(72)【発明者】
【氏名】彭 卓寅
(72)【発明者】
【氏名】余 昌科
(72)【発明者】
【氏名】李 聡
(72)【発明者】
【氏名】任 延杰
(72)【発明者】
【氏名】周 立波
(72)【発明者】
【氏名】陳 薦
(72)【発明者】
【氏名】陳 建林
(72)【発明者】
【氏名】張 英哲
(72)【発明者】
【氏名】廖 力達
(72)【発明者】
【氏名】陳 安▲其▼
(72)【発明者】
【氏名】呉 澤林
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109778102(CN,A)
【文献】特開2001-059188(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109023205(CN,A)
【文献】特開2011-184796(JP,A)
【文献】特開2014-141699(JP,A)
【文献】特開2013-249487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C4/00-4/18
C23C24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造の自己修復セラミック塗層を有する基体であって、
前記基体は金属基体であり、
金属基体の表面に内側から外側に向けてNiCrAlY接着層、TiC自己修復層及びAl
2O
3-13%TiO
2セラミック環境遮断層の順に配置された溶射膜を備える、
ことを特徴とする自己修復セラミック塗層を有する基体。
【請求項2】
前記NiCrAlY接着層の厚さは45~55μmであり、
前記TiC自己修復層の厚さは30~60μmであり、
前記Al
2O
3-13%TiO
2セラミック環境遮断層の厚さは100~120μmである、
ことを特徴とする請求項1に記載の自己修復セラミック塗層を有する基体。
【請求項3】
前記金属基体は、オーステナイト系ステンレス鋼を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の自己修復セラミック塗層を有する基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の防護分野に関し、具体的に、多層構造の自己修復(self-healing)セラミック塗層及びその製作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超臨界二酸化炭素(S-CO2)のブライトンサイクル技術は、高いサイクル効率、コンパクトな構造などの利点を有するため、大型発電所の投資コストを低減でき、石炭の効率的なクリーン発電を達成させる新たな方式である。ここで、熱交換作動媒体の超臨界二酸化炭素は、従来の火力発電機群のランキンサイクル作動媒体-水蒸気と比べて、化学的性能がより安定であって400℃での腐食性が弱いが、超臨界CO2ブライトンサイクルが高温高圧(28MPa/620℃以上)の条件に用いられるため、材料に対する腐食が依然として回避されにくい。
【0003】
酸化膜の脱落、表面炭素の堆積、内部浸炭などは、S-CO2における耐熱鋼の主な腐食問題である。石炭、石油化学資源の燃焼から得られたCO2には、S-CO2ブライトンサイクル作動媒体のシステムとして、水蒸気の含浸が超臨界CO2ブライトンサイクルシステムにおいて回避できないものである。ある研究から分かるように、0~0.1%の水含有の場合には、S-CO2における炭素鋼の腐食速度が加速され、湿り蒸気含有のS-CO2がステンレス鋼を孔食や酸化膜破断を発生させる。特に、高圧吸気弁と超臨界CO2流体とが直接接触する場合には、弁を故障させることにより、システム全体の耐用年数に影響してしまう。したがって、弁の耐高温腐食性は、S-CO2発電システムとして早急に解決しようとする問題の一つである。
【0004】
合金材料の浸炭耐性を向上させる基本的な考え方は、材料の表面に高い安定性を有する緻密で連続的な酸化物層を形成させることにより炭素の浸透を防止することである。アルミニウム含浸は、耐高温浸炭の最も通常な防護方法であるが、アルミニウム化合物の塗層が長い時間及び高い温度を必要とするため、基材の力学的性能が低下され、塗層と基体との結合性が悪くなり、その結果、浸透層が剥がれやすく、Al2O3塗層の保護性能を十分に機能させることができない。セラミック材料は、耐高温、耐腐食などの優れた性能を有するため、塗層としてのセラミックが断熱、酸化防止、浸透防止などの技術分野に広く適用される。しかし、セラミック材料の脆性及び塗層における空隙、割れ目などの欠陥は、材料性能の信頼性及び一致性に大きく影響してしまう。したがって、セラミック塗層の多孔性及び高温での耐割れ目性能は、その適用に影響する重要な問題となる。
【0005】
セラミック塗層に自己修復剤を添加し、その高温での酸化反応で生成された酸化物によって、塗層の割れから形成された“通路”を塞ぐことにより、塗層の力学的性能が改善され、塗層内部への環境における酸素の迅速的な浸透が局所的に抑制され、その結果、塗層のサービス中に早期的な故障が防止される。自己修復セラミック材料に関する研究・開発は、最初に、SiC、TiB2などのセラミックに集中されるが、修復条件が厳しくなり、修復の温度が1400℃以上となり該種類の酸化物セラミックの融点に近接し、その主な修復メカニズムが再焼結に類似する。また、修復温度が高いため、結晶粒が厳しく成長してしまう問題があり、セラミック材料の性能が大幅に低下される。例えば、特許出願番号がCN201810351184.4である「多元共相ナノホウ化物、対応の超高温酸化防止塗層及び製作方法」という特許には、高温自己修復塗層が開示され、具体的に、パックセメント(pack cementation)方法によりSiCのベース層を製作し、低圧プラズマ溶射工程により200~300μmのHfB2-SiC-TiB2複合相面層を製作することが開示されている。該成分複合塗層は、自己修復温度が1800℃となり、中低温の環境に適されない。特許出願番号がCN201974390.7である「基材に形成された高温耐アブレーション塗層及びその製作方法・適用」という特許には、高温耐アブレーション自己修復塗層が開示され、具体的に、化学気相堆積法により20~40μmのSiC遷移層を製作し、真空プラズマ溶射法により、自己修復相がSiCであり修復温度が1000~1500℃である100~120μmのZrC-SiC-Gd203複合相酸素遮断層を製作することが開示されている。
【0006】
「プラズマ溶射によるTiC+(Al2O3/TiC)+Al2O3自己修復塗層」(ケイ酸塩学報,2011,39(11),1844-1849)という文献には、「ナノTiC及びAl2O3粉末を噴霧造粒した後、過イオン溶射法により、金属表面にTiC+(Al2O3/TiC)+Al2O3自己修復塗層を製作する」ことが開示され、その溶射状態の空隙率が高く、TiCを600℃で自己修復させた後に、その空隙率を90%以上低下させることができるが、その接着強度が低いため、塗層が長時間のサービス中において脱落・失効しやすい。出願番号が201410100936.1である「硬合金表面の非層状アルミナ/炭化チタン塗層の製作」という特許には、液相法と気相堆積法とを組み合わせてAl2O3/TiC塗層を製作する方法が開示されている。該方法としては、装置が高価であり、技術が複雑であり、工程が煩雑であり、技術レベルの要求が高く、かつ製作されたAl2O3/TiCの塗層の厚さが10~30μmのみであり、火力発電機群のキー部品の長時間運転の需要を満たすことができない。
【0007】
なお、材料の耐食性が向上されるとともに材料の力学的性能も変化される。通常には、塗層に空隙及び割れ目などの欠陥が導入されると、材料の降伏強度、引張強度、伸び率などの力学的性能が全面的に低下されてしまう。これは、セラミックと基体との弾性率の差別が最も結合界面に割れ目源を形成させやすいため、材料が使用規格に達しにくいことからである。「Microstructural Evolution and Tensile PropertieSof Ti-Al-V AlloySManufactured by Plasma Spraying and Subsequent Vacuum Hot Pressing」(MaterialStransactionS,2006 ,47(4),1198-1203.)という研究には、プラズマ溶射技術によりステンレス鋼板上にTi-Al-V合金塗層が製作され、「材料引張強度は、主に溶射工程におけるO元素の浸透量に影響されるが、材料の伸び率は、O含有量に関わらずに明らかに低下される」ことが分かる。「Tensile propertieSof carbon nanotube reinforced aluminum nanocomposite fabricated by plasma spray forming」(CompositeSPart A:Applied Science and Manufacturing ,2009 ,40(5),589-594.)という研究には、プラズマ溶射による多層カーボンナノチューブ強化アルミニウムシリコン合金に対して一軸延伸実験が行われ、その結果、「材料の弾性率が78%向上され、破断歪みが46%低下され、可塑性が大幅に低下される」ことが分かる。したがって、材料の耐食性を向上させるとともに材料力学的性能を保証することが極めて重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、従来技術における欠陥を克服し、工程が簡単で、耐高温酸化性能が高く、自己修復温度が低く、この塗層と基体との接着強度が高く、塗層のマイクロ割れ目の自己修復及びセルフヒーリング能力が強く、塗層の製作過程で導入された空隙率をよく低減でき、超臨界二酸化炭素火力発電機群の弁の優れた耐腐食性能を保証するとともに、塗層のサービス中における耐用年数及び信頼性を顕著に向上させる、多層構造の自己修復セラミック塗層及びその製作方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
多層構造の自己修復セラミック塗層であって、金属基体の表面に内から外へ溶射されたNiCrAlY接着層、TiC自己修復層及びAl2O3-13%TiO2セラミック環境遮断層を備え、熱処理により得られる、ことを特徴とする多層構造の自己修復セラミック塗層。
【0010】
好ましくは、前記NiCrAlY接着層の厚さは45~55μmであり、前記TiC自己修復層の厚さは30~60μmであり、前記Al2O3-13%TiO2セラミック環境遮断層の厚さは100~120μmである。
好ましくは、前記金属基体は、オーステナイト系ステンレス鋼を含む。
好ましくは、前記熱処理温度は620~650℃である。
本発明は、多層構造の自己修復セラミック塗層の製作方法であって、
基体の表面機械的研磨S1と、
機械的研磨後の基体に対して噴砂処理を行い、ただし、噴砂後の基体の表面粗さRaが7~8となる基体表面の噴砂処理S2と、
【0011】
NiCrAlY、TiC及びAl2O3-13%TiO2粉末を乾燥し、粒径が15~45μmである粉体を選別し、予備処理されたNiCrAlY、TiC及びAl2O3-13%TiO2粉末を順にプラズマ溶射の方式により、ステップS2で処理された基体に、45~55μmのNiCrAlY接着層、30~60μmのTiC自己修復中間層及び100~120μmのAl2O3-13%TiO2セラミック環境遮断層を順に形成し、
【0012】
ただし、前記プラズマ溶射の方式は、超音速プラズマ溶射、大気プラズマ溶射、低圧プラズマ溶射、又は真空プラズマ溶射のいずれか一種から選択されるものであり、各塗層の溶射後の空隙率、即ち、3%~7%のNiCrAlY接着層の空隙率、10~15%のTiC自己修復層の空隙率、5%~9%のAT13セラミック環境遮断層の空隙率を達成できればよく、
【0013】
本発明の実施例には、超音速プラズマ溶射、具体的に、HEPJet超音速プラズマ溶射システムが採用され、その具体的な溶射パラメータは、NiCrAlY接着層として、溶射パワーが35~45kWであり、主蒸気流量が110~130L/minであり、補助蒸気流量が70~90L/minであり、粉末供給速度が30~40g/minであり、変位速度が600~800mm/sであり、溶射距離が100~140mmであり、単一通路の溶射距離が1~3mmであり、TiC層自己修復層として、溶射パワーが40~50kWであり、主蒸気流量が110~130L/minであり、補助蒸気流量が70~90L/minであり、粉末供給速度が30~40g/minであり、変位速度が400~600mm/sであり、溶射距離が100~140mmであり、単一通路の溶射距離が1~3mmであり、Al2O3-13%TiO2セラミック環境遮断層として、溶射パワーが45~55kWであり、主蒸気流量が110~130L/minであり、補助蒸気流量が70~90L/minであり、粉末供給速度が30~40g/minであり、変位速度が400~600mm/sであり、溶射距離が100~140mmであり、単一通路の溶射距離が1~3mmである表面プラズマ溶射S3と、
【0014】
製作されたNiCrAlY/TiC/Al2O3-13%TiO2複合塗層に対して予備的な熱処理を行い、溶射サンプルを抵抗炉に入れ、620~650℃まで昇温した後に保温処理を行い、2時間ごとに炉のドアを開けて外気を入れ、10~14時間後に、炉とともに室温まで冷却し、多層構造の自己修復セラミック塗層を得る自己修復熱処理S4と、
を備えることを特徴とする上記多層構造の自己修復セラミック塗層の製作方法を提供する。
【0015】
好ましくは、ステップS1は、具体的に、基体を80メッシュ~1200メッシュのサンドペーパーにより目視で明らかな痕のないまで研磨し、超音波でアセトンにより5~20min洗浄して油を除去し、無水エタノールにより5~20min超音波で洗浄して汚れを除去し、最後に、乾燥箱に入れて80℃で20~40min乾燥することを含む。
【0016】
好ましくは、ステップS2は、具体的に、機械的研磨後の基体を0.6~0.9MPaの高圧窒素ガスで噴砂することを含み、ただし、研磨材が12メッシュのホワイトコランダム粒子であり、噴砂時間が10~20minであり、噴砂距離が2cmであり、噴砂後の基体の表面粗さRaが7~8である。
好ましくは、ステップS3には、前記乾燥の温度が130℃である。
【0017】
本発明に係る多層構造の自己修復塗層は、接着強度が高く、620~650℃の温度条件下で自己修復することができる。したがって、本発明は、超臨界CO2ブロワートンサイクルシステムの弁における上記多層構造の自己修復セラミック塗層の適用をさらに提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の技術案は、以下の利点を有する。
【0019】
本発明では、超音速プラズマ溶射により、オーステナイト系ステンレス鋼の表面に多層構造の自己修復塗層を製作し、ただし、内から外へ順に、オーステナイト系ステンレス鋼の基体、40~60μmのNiCrAlY接着層、40~60μmのTiC自己修復層、及び100~120μmのAl2O3-13%TiO2セラミック環境遮断層とし、塗層表面のマクロな形態がよく、内部層間の結合状況がよく、接着強度が27.4MPaより大きく、空隙率が10%より小さく、塗層のマイクロ硬度が329.5~997.9HVである。XRD分析によると、各層の物相は、主にAl2O3、TiO2、Al2TiO5、TiC、Ni3Al及び金属単体相である。
【0020】
本発明では、塗層を620~650℃で自己修復して10h酸化させた後に、塗層の空隙率を1%以下にさらに低下させ、即ち、90%以上低下させ、TiC層におけるTiC自己修復相が酸化されてTiO2が生成され、その結果、塗層における空隙及び割れ目が効果的に充填される。ただし、TiO2(TiC)層のTiO2相は、ほとんど赤ゴライト型TiO2であり、マイクロ硬度が828.5HV以上に向上され、かつNiCrAlY層とTiO2(TiC)層との結合断面がより緊密になり、接着強度が50.16MPa以上に向上される。
【0021】
本発明で製作された多層構造の自己修復塗層は、超音速プラズマ溶射によって塗層が製作されることにより、空隙率がより低くて自己修復後にさらに低下され(特にNiCrAlY層)、塗層による欠陥が補われる。一方、溶射状態のNiCrAlY層におけるNi元素は、主にγ′-Ni3Al相として塗層に沈殿するため、セラミック層と金属基体との間の弾性率の大きい差別の低減に寄与する。NiCrAlY塗層と基体との結合断面は、緻密で平滑であるため、塗層による材料降伏強度及び伸び率への悪影響が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
以下、本発明の実施形態又は従来技術における技術案をより明確に説明するために、実施形態又は従来技術の説明に必要とする図面を簡単に紹介する。以下に説明される図面が本発明に係るいくつかの実施形態であり、当業者であれば、創造的な労働付かずにこれらの図面に基づいて他の図面を取得できることは、明らかである。
【
図1】
図1は、溶射状態及び熱処理後の塗層の基本形態及び結合断面形態であり、ただし、(a)~(d)が溶射状態であり、(e)~(h)が熱処理後である。
【
図2】
図2は、各塗層の粉末状態、溶射状態、自己修復後のXRDスペクトログラムであり、ただし、(a)がNiCrAlY層であり、(b)がTiC層であり、(c)がAT13層(即ちAl
2O
3-13%TiO
2、以下も同じである。)である。
【
図3】
図3は、実施例1及び比較例1で製作された自己修復塗層の接着強度である。
【
図4】
図4は、異なる自己修復時間の空隙率曲線である。
【
図5】
図5は、異なる自己修復時間塗層の空隙率分析図であり、ただし、(a)が溶射状態であり、(b)が1hであり、(c)が2hであり、(d)が6hであり、(e)が10hであり、(f)が14hである。
【
図6】
図6は、自己修復塗層の酸化前後の異なる深さのマイクロ硬度曲線である。
【
図7】
図7は、室温での3種類の試料引張試験の工程応力-工程歪み曲線である。
【
図8】
図8は、実施例1と比較例2~3との接着強度の比較図である。
【
図9】
図9は、比較例で製作されたTiCN/TiC/AT13塗層の引張試験のマクロ写真である。
【
図10】
図10は、室温での3種類の試料引張試験のマクロ写真であり、ただし、(a)が321ステンレス鋼であり、(b)が溶射状態の塗層ステンレス鋼であり、(c)が熱処理後の塗層ステンレス鋼である。
【
図11】
図11は、実施例1及び比較例2~3と321ステンレス鋼との工程応力-工程歪み曲線の比較図であり、ただし、(a)が実施例1と321ステンレス鋼であり、(b)が比較例2と321ステンレス鋼であり、(c)が比較例3と321ステンレス鋼である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施例1
多層構造の自己修復セラミック塗層の製作方法は、以下のステップを含む。
【0024】
(1)表面機械的研磨
熱間圧延板材料としてのオーステナイト系ステンレス鋼試料を、異なる粒度(80#~1200#)のサンドペーパーにより目視で明らかな痕のないまで研磨し、超音波でアセトンにより5~20min洗浄して油を除去し、無水エタノールにより5~20min超音波で洗浄して汚れを除去し、最後に、乾燥箱に入れて80℃で20~40min乾燥し(ただし、321オーステナイト系ステンレス鋼は圧延板材であり、その化学成分の質量分率として、Cが0.04%であり、Siが0.38%であり、Mnが1.08%であり、Crが17.02%であり、Niが9.06%であり、Nが0.05%であり、Pが0.03%であり、Tiが0.22%であり、残りがFeである。321ステンレス鋼の常温での力学的性能は、引張強度(σb)が667MPaであり、降伏強度(σ0.2)が245MPaであり、伸び率が56.5%であり、硬度175HVである。)、ここで、基体金属は、クロム硬度が40未満であり、硬度が高すぎると、溶射中において塗層と基体表面との接着に対して不利である。
【0025】
(2)噴砂処理
塗層の付着力及び粉末堆積率を増加させるために、溶射前に、基体表面に対して油除去及び噴砂処理を行い、研磨後の試料を0.6~0.9MPaの高圧窒素ガスで噴砂を行い、ただし、研磨材が12メッシュのホワイトコランダム粒子であり、噴砂時間が10~20minであり、噴砂距離が2cmであり、噴砂後の表面粗さRaが7~8である。
【0026】
(3)粉末予備乾燥
溶射しようとするNiCrAlY、TiC及びAl2O3-13%TiO2粉末を130℃の電気炉で30分間乾燥し、325メッシュの試験篩により粒径が15~45μmである粉体を分離する。
【0027】
(4)超音速プラズマ溶射
HEPJet超音速プラズマ溶射システムにより、ステップ(3)で予備処理後のNiCrAlY、TiC及びAl2O3-13%TiO2粉末を、順にステップ(1)及び(2)で処理された厚い基体に溶射し、順に45~55μmのNiCrAlY接着層、40~60μmのTiC自己修復中間層及び100~120μmのAl2O3-13%TiO2セラミック環境遮断層を形成し、ただし、具体的な溶射パラメータは、NiCrAlY接着層として、溶射パワーが35~37kWであり、主蒸気流量が120L/minであり、補助蒸気流量が80L/minであり、粉末供給速度が36g/minであり、変位速度が700mm/sであり、溶射距離が120mmであり、単一通路の溶射距離が2mmであり、TiC層自己修復層として、溶射パワーが40~43kWであり、主蒸気流量が120L/minであり、補助蒸気流量が80L/minであり、粉末供給速度が24g/minであり、変位速度が500mm/sであり、溶射距離が110mmであり、単一通路の溶射距離が2mmであり、Al2O3-13% TiO2のセラミック環境遮断層として、溶射パワーが45~48kWであり、主蒸気の流量が120L/minであり、補助蒸気流量が80L/minであり、粉末供給速度が32g/minであり、変位速度が500mm/sであり、溶射距離が100mmであり、単一通路の溶射距離が2mmであり、
【0028】
図1の(a)~(d)に示すように、高倍顕微鏡下で明らかに分かるように、塗層の内部には、空隙があり、各層の空隙率は、それぞれに、NiCrAlY層が4.57%であり、TiC層が14.51%であり、AT13層が6.45%である。
【0029】
(5)自己修復熱処理
製作されたNiCrAlY/TiC/Al
2O
3-TiO
2複合塗層に対して予備的な熱処理を行い、溶射サンプルを抵抗炉に入れ、620℃まで昇温した後に保温処理を行い、2時間ごとに炉のドアを開けて外気を入れ、10時間後に、炉とともに室温まで冷却し、
図1の(e)~(h)に示す高倍顕微鏡で明らかに分かるように、熱処理前に比べると、塗層は、内部がより緻密になり、大部の孔が消え、良好な自己修復能力を現し、TD3300型X線回折装置により異なる試料の物相成分を分析し、ただし、開始角度が10度であり、終了角度が100度であり、ステップ幅角度が0.04であり、サンプリング時間が0.8sであり、走査速度が3度/分であり、製作された自己修復塗層に対してXRD分析を行い、その結果として、
図2に示すように、各層の物相が主にAl
2O
3、TiO
2、Al
2TiO
5、TiC、Ni
3Al及び金属単体相である。
実施例2
多層構造の自己修復セラミック塗層の製作方法は、以下のステップを含む。
(1)表面機械的研磨
【0030】
熱間圧延板材料としてのオーステナイト系ステンレス鋼試料を、異なる粒度(80#~1200#)のサンドペーパーにより目視で明らかな痕のないまで研磨し、超音波でアセトンにより5~20min洗浄して油を除去し、無水エタノールにより5~20min超音波で洗浄して汚れを除去し、最後に、乾燥箱に入れて80℃で20~40min乾燥し、(ただし、321オーステナイト系ステンレス鋼は圧延板材であり、その化学成分の質量分率として、Cが0.04%であり、Siが0.38%であり、Mnが1.08%であり、Crが17.02%であり、Niが9.06%であり、Nが0.05%であり、Pが0.03%であり、Tiが0.22%であり、残りがFeである。321ステンレス鋼の常温での力学的性能は、引張強度(σb)が667MPaであり、降伏強度(σ0.2)が245MPaであり、伸び率が56.5%であり、硬度が175HVである。)、ここで、基体金属は、クロム硬度が40未満であり、硬度が高すぎると、溶射工程において塗層と基体表面との接着に対して不利である。
(2)噴砂処理
【0031】
塗層の付着力及び粉末堆積率を増加させるために、溶射前に、基体表面に対して油除去及び噴砂処理を行い、研磨後の試料を0.6~0.9MPaの高圧窒素ガスで噴砂を行い、ただし、研磨材が12メッシュのホワイトコランダム粒子であり、噴砂時間が10~20minであり、噴砂距離が2cmであり、噴砂後の表面粗さRaが7~8である。
(3)粉末予備乾燥
【0032】
溶射しようとするNiCrAlY、TiC及びAl2O3-13%TiO2粉末を130℃の電気炉で30分間乾燥し、325メッシュの試験篩により粒径が15~45μmである粉体を分離する。
(4)超音速プラズマ溶射
【0033】
HEPJet超音速プラズマ溶射システムにより、ステップ(3)で予備処理後のNiCrAlY、TiC及びAl2O3-13%TiO2粉末を、順にステップ(1)及び(2)で処理された厚い基体に溶射し、順に45~55μmのNiCrAlY接着層、30~35μmのTiC自己修復中間層及び100~120μmのAl2O3-13%TiO2セラミック環境遮断層を形成し、ただし、具体的な溶射パラメータは、NiCrAlY接着層として、溶射パワーが37~41kW、主蒸気流量が110L/min、補助蒸気流量が70L/min、粉末供給速度が36g/minであり、変位速度が600mm/sであり、溶射距離が100mmであり、単一通路の溶射距離が2mmであり、TiC層自己修復層として、溶射パワーが43~47kWであり、主蒸気流量が110L/minであり、補助蒸気流量が70L/minであり、粉末供給速度が24g/minであり、変位速度が450mm/sであり、溶射距離が110mmであり、単一通路の溶射距離が2mmであり、Al2O3-13%TiO2セラミック環境遮断層として、溶射パワーが48~52kWであり、主蒸気流量が110L/minであり、補助蒸気流量が70L/minであり、粉末供給速度が32g/minであり、変位速度が450mm/sであり、溶射距離が100mmであり、単一通路の溶射距離が2mmであり、
各層の空隙率は、それぞれに、NiCrAlY層が5.64%であり、TiC層が12.15%であり、AT13層が6.73%である。
(5)自己修復熱処理
【0034】
製作されたNiCrAlY/TiC/Al2O3-TiO2複合塗層に対して予備的な熱処理を行い、溶射サンプルを抵抗炉に入れ、650℃まで昇温した後に保温処理を行い、2時間ごとに炉のドアを開けて外気を入れ、10時間後に、炉とともに室温まで冷却し、なお、その高倍力顕微鏡での形態が実施例1とほぼ同じである。
実施例3
多層構造の自己修復セラミック塗層の製作方法は、以下のステップを含む。
(1)表面機械的研磨
【0035】
熱間圧延板材料としてのオーステナイト系ステンレス鋼試料を、異なる粒度(80メッシュ~1200メッシュ)のサンドペーパーにより目視で明らかな痕のないまで研磨し、超音波でアセトンにより5~20min洗浄して油を除去し、無水エタノールにより5~20min超音波で洗浄して汚れを除去し、最後に、乾燥箱に入れて80℃で20~40min乾燥し、(ただし、321オーステナイト系ステンレス鋼は圧延板材であり、その化学成分の質量分率として、Cが0.04%であり、Siが0.38%であり、Mnが1.08%であり、Crが17.02%であり、Niが9.06%であり、Nが0.05%であり、Pが0.03%であり、Tiが0.22%であり、残りがFeである。321ステンレス鋼の常温での力学的性能は、引張強度(σb)が667MPaであり、降伏強度(σ0.2)が245MPaであり、伸び率が56.5%であり、硬度が175HVである。)、ここで、基体金属は、クロム硬度が40未満であり、硬度が高すぎると、溶射工程における塗層と基体表面との接着に対して不利である。
(2)噴砂処理
【0036】
塗層の付着力及び粉末堆積率を増加させるために、溶射前に、基体表面に対して油除去及び噴砂処理を行い、研磨後の試料を0.6~0.9MPaの高圧窒素ガスで噴砂を行い、ただし、研磨材が12メッシュのホワイトコランダム粒子であり、噴砂時間が10~20minであり、噴砂距離が2cmであり、噴砂後の表面粗さRaが7~8である。
(3)粉末予備乾燥
【0037】
溶射しようとするNiCrAlY、TiC及びAl2O3-13%TiO2粉末を130℃の電気炉で30分間乾燥し、325メッシュの試験篩により粒径が15~45μmである粉体を分離する。
(4)超音速プラズマ溶射
【0038】
HEPJet超音速プラズマ溶射システムにより、ステップ(3)で予備処理後のNiCrAlY、TiC及びAl2O3-13%TiO2粉末を、順にステップ(1)及び(2)で処理された厚い基体に溶射し、順に45~55μmのNiCrAlY接着層、40~60μmのTiC自己修復中間層及び100~120μmのAl2O3-13%TiO2セラミック環境遮断層を形成し、ただし、具体的な溶射パラメータは、NiCrAlY接着層として、溶射パワーが42~45kWであり、主蒸気流量が130L/minであり、補助蒸気流量が90L/minであり、粉末供給速度が36g/minであり、変位速度が650mm/sであり、溶射距離が120mmであり、単一通路の溶射距離が2mmであり、TiC層自己修復層として、溶射パワーが47~50kWであり、主蒸気流量が130L/minであり、補助蒸気流量が90L/minであり、粉末供給速度が24g/minであり、変位速度が500mm/sであり、溶射距離が110mmであり、単一通路の溶射距離が2mmであり、Al2O3-13%TiO2セラミック環境遮断層として、溶射パワーが52~55kWであり、主蒸気流量が130L/minであり、補助蒸気流量が90L/minであり、粉末供給速度が32g/minであり、変位速度が500mm/sであり、溶射距離が100mmであり、単一通路の溶射距離が2mmであり、
各層の空隙率は、それぞれに、NiCrAlY層が4.77%であり、TiC層が10.81%であり、AT13層が6.95%である。
(5)自己修復熱処理
【0039】
製作されたNiCrAlY/TiC/Al2O3-TiO2複合塗層に対して予備的な熱処理を行い、溶射サンプルを抵抗炉に入れ、650℃まで昇温した後に保温処理を行い、2時間ごとに炉のドアを開けて外気を入れ、12時間後に、炉とともに室温まで冷却し、なお、その高倍力顕微鏡での形態が実施例1とほぼ同じである。
【0040】
比較例1
「Effects of heating temperature and duration on the microstructure and properties of the self-healing coatings [J].Surface Coatings Technology,2011,206,1342-1350」という文献に記載の方法に従って、TiC+(Al2O3/TiC)+Al2O3塗層を製作する。
比較例2
【0041】
実施例1に記載の方法に従って、オーステナイト系ステンレス鋼基体上に45~55μmのNiCrAlY接着層を形成して製作する。それと実施例1との相違点は、「塗層がNiCrAlY接着層のみである」ことにある。
比較例3
【0042】
実施例1に記載の方法に従って、オーステナイト系ステンレス鋼基体上に45~55μmのNiCrAlY接着層、40~60μmのTiC自己修復中間層を形成して製作する。それと実施例1との相違点は、「塗層がNiCrAlY接着層及びTiC自己修復中間層のみである」ことにある。
比較例4
【0043】
実施例1に記載の方法に応じて、オーステナイト系ステンレス鋼基体上に45~55μmのTiCN接着層、40~60μmのTiC自己修復中間層及び100~120μmのAl2O3-13%TiO2セラミック環境遮断層を形成して製作する。それと実施例1との相違点は、「塗層には、接着層の成分のみが異なる」ことにある。
性能の表現
【0044】
実施例1と比較例1とに対して接着強度試験を行い、その結果として、
図3に示すように、本発明に係る自己修復塗層(溶射状態、熱処理前)の接着強度は、27.4MPaより大きく、比較例1よりも171.5.%向上され、本発明に係る自己修復塗層(熱処理後)の接着強度は、50.16MPa以上までに向上され、比較例1におけるTiC+(Al
2O
3/TiC)+Al
2O
3塗層よりも340%向上される。
【0045】
サンプルの断面に対してSEM観察を行い、各サンプルに対して、同じ増幅倍数で20つの視野を選択して観察し、Image J画像解析ソフトウェアによって後処理分析を行うことにより、空隙の総面積及び画像の総面積を算出して、割り算で空隙率を得る。20つの視野での空隙率を統計した後に平均すると、該サンプルの空隙率が得られる。異なる自己修復時間の空隙率試験の結果は
図4、5に示すように、溶射状態の全体塗層の空隙率が10%より小さい。
【0046】
マイクロ硬度試験には、HVT‐1000Aマイクロ硬度計により試験を行う。具体的に、(1)塗層の横断面において、表面に垂直する箇所で13個の測定点を選択し、ただし、2つの測定点ごとの間隔が25umであり、硬度試験の実験には、試験ロード力が300Nであり、負荷保圧時間が15sである。各測定点で5つの平行測定点をさらに取り、測定後に平均値を取ることにより、信頼的な統計値を得る。その結果は、
図6に示すように、溶射状態の塗層のマイクロ硬度が329.5~997.9HVであり、熱処理後の自己修復塗層のマイクロ硬度が828.5HV以上に向上される。これは、TiC層におけるTiC自己修復相が酸化されてTiO
2が生成され、塗層における空隙及び割れ目が効果的に充填されることからである。ただし、TiO
2(TiC)層のTiO
2相が、ほとんど赤ゴライト型TiO
2である。
【0047】
実施例1で製作された溶射状態及び熱処理後のNiCrAlY/TiC/Al
2O
3-TiO
2とオーステナイト系ステンレス鋼基体とに対して引張試験を行い、ただし、引張試験は、GBT228.1-2010「金属材料の引張試験規格」に従ってRDL05電子クリープ疲労試験機で行われ、高温引張試料の標点セグメントの断面寸法が4mm×8mmであり、標点距離が25mmであり、試料のロード方式が歪み速度により制御され、歪み速度が10
-4/sであり、実験温度が25℃であり、その結果が
図7に示される。
図7から分かるように、引張試験には、弾性段階、降伏段階、強化段階及びネッキング段階という典型的な4つの段階が現れる。工程応力歪み曲線から分かるように、10
-4/sの引張速度では、3種類の試料の常温での引張強度σbがそれぞれ642MPa、618MPa及び579MPaであり(初期321、溶射状態及び熱処理後)、降伏強度σ0.2がそれぞれ246MPa、267MPa及び286MPaであり(初期321、溶射状態及び熱処理後)、伸び率がそれぞれ68.0%、72.0%及び70.0%である(初期321、溶射状態及び熱処理後)。塗層が一部の欠陥を導入することによりステンレス鋼の引張強度が低下し、降伏強度及び伸び率の向上がNiCrAlY塗層により導入された析出強化相(Ni
3Al)に関連するかもしれない。一般的に、塗層が空隙及び割れ目などの欠陥を導入することは、材料の降伏強度、引張強度、伸び率などの力学的性能の全面的な低下をもたらしてしまう。これは、セラミックと基体との弾性率差別が最も結合界面に割れ目源を形成させやすいからである。これに対して、本発明で製作された多層構造の自己修復塗層は、超音速プラズマ溶射で塗層を製作することにより空隙率がより低くて自己修復後にさらに低下され(特にNiCrAlY層)、塗層による欠陥が補われる。一方、溶射状態NiCrAlY層におけるNi元素は、主にγ′-Ni
3Al相として塗層に沈殿し、セラミック層と金属基体との間の弾性率の大きい差別の低減に寄与する。NiCrAlY塗層と基体との結合断面は、緻密で平滑であるため、塗層による材料降伏強度及び伸び率への悪影響が改善される。
【0048】
実施例1及び比較例2~3に対して接着強度試験を行い、その結果が
図8に示される。基体/NiCrAlY塗層の接着強度試験には、エポキシ樹脂の一部が割れ、これから分かるように、NiCrAlYと基体との結合強度は、既にエポキシ樹脂自体の強度を超え、その大きさが51.26MPaである。また、基体とNiCrAlY/TiC塗層との間の接着強度は27.84MPaであり、これから分かるように、TiC塗層の添加が基体とNiCrAlY/TiC塗層との結合強度を低下させる。一方、基体とNiCrAlY/TiC/Al
2O
3-TiO
2塗層との結合強度は、わずかに上昇し、その大きさが28.52MPaであり、これから分かるように、Al
2O
3-TiO
2塗層の添加が基体とNiCrAlY/TiC塗層との結合強度にほとんど影響しない。上記から分かるように、TiCとNiCrAlY塗層との結合界面及びTiC塗層自体は、基体とNiCrAlY/TiC塗層との結合強度に影響する主な要因である。これは、ミクロ外観観察の結果に一致し、いずれもTiC層の空隙、及びTiC層とNiCrAlY層との弱い結合力によるものである。塗層の空隙という欠陥の影響を低減するために、基体/NiCrAlY/TiC/Al
2O
3-TiO
2に対して自己修復熱処理を行うことにより、自己修復熱処理を12h行った後、基体とNiCrAlY/TiC/Al
2O
3-TiO
2との自己修復塗層の接着強度が明らかに向上される(接着強度が49.59MPaである。)ことは分かる。計算によると、自己修復処理は、TiC層とNiCrAlY層との間の結合強度を73.9%までに向上させる。要するに、自己修復処理は、TiC層の内部空隙状況及びTiC/NiCrAlY界面結合状況を改善し、自己修復塗層の接着強度を効果的に向上させることができる。
【0049】
図9は、実施例4で製作された基体/TiCN/TiC/Al
2O
3-TiO
2塗層引張試験のマクロ形態であり、ただし、該塗層の接着層がTiCNである。図面から分かるように、引張試験の初期では、塗層全体がシート状に直接脱落される。塗層の硬度が高く、脆性が大きいため、割れやすく、一方、塗層全体の結合強度が高くない。これにより、塗層がシート状に脱落してしまい、力学的性能がよくない。
【0050】
図11は、321ステンレス鋼、実施例1及び比較例2~3と321ステンレス鋼との工程応力-工程歪み曲線の比較図である。図面から分かるように、NiCrAlY層及びNiCrAlY/TiC層のみが溶射される場合には、321ステンレス鋼の降伏強度及び伸び率がいずれも明らかに低下される。これから分かるように、通常のプラズマ溶射が環境と材料との接触を遮断できるが、塗層により導入された欠陥が基材の機械的性能を低下させ、その結果、作業環境での関連規格の力学的要件が達成できない。これに対して、実施例1で製作された自己修復塗層は、熱処理された後に、試料の力学的性能に対してある程度の“修復”作用を機能し、試料の降伏強度及び伸び率両者を321ステンレス鋼よりも僅かに向上させる。
【0051】
なお、本発明の実施例では、オーステナイト系ステンレス鋼のみを基体としたが、本発明に係る塗層及び製作方法は、オーステナイト系ステンレス鋼のみで達成できるわけではなく、マルテンサイト系ステンレス鋼や他のステンレス鋼、又は他の金属基材に用いられる。
【0052】
上記実施例が本発明を明確に説明するための例示に過ぎず、実施形態を限定するものではないことは、明らかである。当業者にとっては、上記説明に基づき他の異なる形態の変化や変動を実行することができる。ここで、全ての実施形態を例示することができない。それによる明らかな変化や変動は、依然として本発明の保護範囲内に属する。