(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】浮上油回収装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/40 20230101AFI20240507BHJP
【FI】
C02F1/40 B
(21)【出願番号】P 2023570382
(86)(22)【出願日】2023-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2023040845
【審査請求日】2023-11-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599135695
【氏名又は名称】株式会社ティービーエム
(74)【代理人】
【識別番号】100167818
【氏名又は名称】蓑和田 登
(72)【発明者】
【氏名】佐原 邦宏
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-036766(JP,A)
【文献】登録実用新案第3216173(JP,U)
【文献】特開2006-007092(JP,A)
【文献】特開昭62-004491(JP,A)
【文献】特開2001-000965(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2251659(KR,B1)
【文献】特開昭57-084706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/40
B01D17/00-12
E02B15/04-10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油水分離槽に溜まった浮上油を回収する浮上油回収装置であって、
油水分離槽の水面側に配置され、径が下方に向かって先細る形状を有する渦巻回収カップと、
前記渦巻回収カップの下方の吐出口に接続されて、回収された浮上油を下方に誘導する第一配管と、
前記第一配管より下流側に配置され、前記第一配管内の浮上油を水平方向に誘導する第二配管と、
前記第二配管より下流側に配置され、前記第二配管内の浮上油を上方に誘導する第三配管と、
油水分離槽の内壁に沿って配置され、前記第三配管を上下方向に沿ってスライド可能に収容するスライダ機構と、
油水分離槽内に沈んだ前記渦巻回収カップと水面との間隔を一定に保つ浮力材と、を備え
、
前記スライダ機構は、
水平断面がコの字形状を有し、その上下方向に延びる開口空間を有した配管固定用ダクトと、
前記配管固定用ダクトの対向する面に横架され、前記配管固定用ダクトの開口面側に設けられた複数の回転ローラと、を備え、
前記配管固定用ダクトは、垂直方向に伸長するように油水分離槽の内壁に固定され、
前記第三配管は、前記回転ローラの内側の前記開口空間に収容されることを特徴とする浮上油回収装置。
【請求項2】
前記浮上油回収装置は、さらに、
前記渦巻回収カップから浮上油を効率的に吸引するための吸引ポンプを備える、ことを特徴とする請求項1記載の浮上油回収装置。
【請求項3】
前
記吸引ポンプは水中ポンプ又はエア駆動ポンプであって、当該水中ポンプ又はエア駆動ポンプは、前記第一配管と前記第二配管の間に設けられる、ことを特徴とする請求項2記載の浮上油回収装置。
【請求項4】
前記吸引ポンプは自吸式ポンプ又はエア駆動ポンプであって、当該自吸式ポンプ又はエア駆動ポンプは、前記第三配管よりも下流の地上に配置される、ことを特徴とする請求項2記載の浮上油回収装置。
【請求項5】
前記浮上油回収装置は、さらに、
前記第三配管の上端に接続されるU字配管と、
一端が前記U字配管に接続され、他端が前記第三配管からの浮上油を下流側に導く配管側に接続され、可撓性を有する素材で形成されたダクト耐油ホースと、を備えることを特徴とする請求項1記載の浮上油回収装置。
【請求項6】
前記浮上油回収装置は、さらに、
前記第三配管を係止する結束具と、
前記結束具を用いて前記第三配管に固定される板状又は棒状の回転防止材と、を備え、
前記回転防止材は、油水分離槽の側壁に沿って並設される、ことを特徴とする請求項1記載の浮上油回収装置。
【請求項7】
前記渦巻回収カップは、
平面視で円形状となる上縁の所定範囲に亘って、所定高さで立設されたじゃま板と、
前記じゃま板と対向する前記上縁の所定範囲に亘って設けられた錘板と、を有することを特徴とする請求項1記載の浮上油回収装置。
【請求項8】
油水分離槽に溜まった浮上油を回収する浮上油回収装置であって、
油水分離槽の水面側に配置され、径が下方に向かって先細る形状を有する渦巻回収カップと、
前記渦巻回収カップの下方の吐出口に接続されて、回収された浮上油を下方に誘導する第一配管と、
前記第一配管より下流側に配置され、前記第一配管内の浮上油を水平方向に誘導する第二配管と、
前記第二配管より下流側に配置され、前記第二配管内の浮上油を上方に誘導する第三配管と、
前記第三配管の途中に介在し、上下方向に伸縮可能なコイル状チューブと、
油水分離槽内に沈んだ前記渦巻回収カップと水面との間隔を一定に保つ浮力材と、を備え
、
前記浮上油回収装置は、さらに、径の異なる前記第三配管と前記コイル状チューブとを繋ぐ連結ボックスを備えることを特徴とする浮上油回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含油廃水を排出する食品工場などの油水分離槽や調整槽などに溜まる浮上油を効率良く回収するための浮上油回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品工場などの製造廃水には、様々の水質汚濁物質(油分)が含まれている。このような廃水を何ら処理することなく排水すると、廃水中の油分などが排水管に付着して固まり、詰まらせたりする。その結果、合併処理槽や下水処理場での水の浄化処理を困難にし、また、環境に悪影響を及ぼし、法的規制を受けて、営業を続けることができなくなる事態ともなり得る。 そこで、油分や沈殿物、浮遊物などの固形分を含む廃水を排出事業所単位で効率的に回収する方法、装置が種々提案されている。
【0003】
廃水に含まれる浮上油を回収する方法を大別すると(1)吸引式と(2)吸着式に分けられる。(1)吸引式では、例えば含油廃水を油水分離槽はじめ、原水槽、調整槽などの大型タンクにプールし、多量に浮いている上層の浮上油脂を、液面の変動に対応するフロートを取り付けた吸引ノズルから物理的に吸引して汲み出す。また、(2)吸着式では、シート状やマット状の油吸収材を油水分離槽に投入して、水面の浮上油をこれらの油吸収材を用いて直接吸収する。
【0004】
その他の浮上油回収装置として、浮上油の回収効率を高められる浮上油回収装置が開示されている(例えば特許文献1参照)。また、油センサやデータ送受信手段を有する制御装置を備え、含油廃水から油分を効率的に回収する油分離・管理装置も開示されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、油分や固形分などを含有する廃水を効率的に浄化する簡易な装置も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-032348号公報
【文献】実用新案登録第3216173号公報
【文献】特許第4420750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、浮上油を回収する上述のような(1)吸引式や(2)吸着式では、浮上油の回収に時間を要するという根本的な問題がある。特に、大規模な食品工場など大量に浮上油が発生してくる現場では、上述の浮上油回収方法では浮上油を回収しきれなくなり、浮上油がドンドン堆積してしまう。その結果、廃水(のプール)から悪臭が発生したり、油分の分離、除去が不完全となりやすく、また、大型のシステム、設備が必要となりコストを要してしまう。
【0007】
特に、食品工場にオンサイトで併設される油水分離槽などに溜まる浮上油は、一般的な切削油などの機械油とは異なり、動植物油脂のため粘度が比較的高く、固まりやすいという特徴を有する。このため、従来の吸引式の浮上油回収方法の場合には、フロート周辺や吸引ノズル口付近に付着した油分が固まってこびりつく状態が生じやすい。そして、一旦この種の状態が出てくると、付着した油が吸引口を塞ぎ、浮上油の回収効率がさらに減少するという問題が生じる。
【0008】
また、近年、地球温暖化の問題が深刻化しており、炭酸ガスやメタンガスのような温室効果ガスの削減が図られる共に、廃棄物を再利用した再生可能エネルギーが注目されている。食品工場等から排出されるバイオマス資源である廃水油脂は、日本全国で年間100万トン以上もの量になり、全世界を勘案するとさらに膨大な量となる。そして、近年、例えば、汚泥として産廃処分されるしかなかった廃水油脂から、独自のバイオマス燃料を製造する技術が開発され、ボイラや発電の燃料として利用することでCO2削減、リサイクル、水質浄化をもたらすことができる。すなわち、脱炭素や資源循環の促進に向けて、食品工場等から排出される廃水油脂から、再生利用可能な油分を効率よく回収する技術の確立は急務となっている。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、含油廃水を排出する食品工場などの油水分離槽や調整槽などに溜まる浮上油を、短時間で大量に効率よく回収すると共に、長期間に亘って使用しても浮上油の回収効率が低下することがない浮上油回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、油水分離槽に溜まった浮上油を回収する浮上油回収装置であって、油水分離槽の水面側に配置され、径が下方に向かって先細る形状を有する渦巻回収カップと、前記渦巻回収カップの下方の吐出口に接続されて、回収された浮上油を下方に誘導する第一配管と、前記第一配管より下流側に配置され、前記第一配管内の浮上油を水平方向に誘導する第二配管と、前記第二配管より下流側に配置され、前記第二配管内の浮上油を上方に誘導する第三配管と、油水分離槽の内壁に沿って配置され、前記第三配管を上下方向に沿ってスライド可能に収容するスライダ機構と、油水分離槽内に沈んだ前記渦巻回収カップと水面との間隔を一定に保つ浮力材と、を備え、前記スライダ機構は、水平断面がコの字形状を有し、その上下方向に延びる開口空間を有した配管固定用ダクトと、前記配管固定用ダクトの対向する面に横架され、前記配管固定用ダクトの開口面側に設けられた複数の回転ローラと、を備え、前記配管固定用ダクトは、垂直方向に伸長するように油水分離槽の内壁に固定され、前記第三配管は、前記回転ローラの内側の前記開口空間に収容されることを特徴とすることを特徴とする。
【0011】
この浮上油回収装置において、前記浮上油回収装置は、さらに、前記渦巻回収カップから浮上油を効率的に吸引するための吸引ポンプを備えることが好ましい。
【0012】
この浮上油回収装置において、前記吸引ポンプは水中ポンプ又はエア駆動ポンプであって、当該水中ポンプ又はエア駆動ポンプは、前記第一配管と前記第二配管の間に設けられることが好ましい。
【0013】
この浮上油回収装置において、前記吸引ポンプは自吸式ポンプ又はエア駆動ポンプであって、当該自吸式ポンプ又はエア駆動ポンプは、前記第三配管よりも下流の地上に配置されることが好ましい。
【0014】
この浮上油回収装置において、前記浮上油回収装置は、さらに、前記第三配管の上端に接続されるU字配管と、一端が前記U字配管に接続され、他端が前記第三配管からの浮上油を下流側に導く配管側に接続され、可撓性を有する素材で形成されたダクト耐油ホースと、を備えることが好ましい。
【0016】
この浮上油回収装置において、前記浮上油回収装置は、さらに、前記第三配管を係止する結束具と、前記結束具を用いて前記第三配管に固定される板状又は棒状の回転防止材と、を備え、前記回転防止材は、油水分離槽の側壁に沿って並設されることが好ましい。
【0017】
この浮上油回収装置において、前記渦巻回収カップは、平面視で円形状となる上縁の所定範囲に亘って、所定高さで立設されたじゃま板と、前記じゃま板と対向する前記上縁の所定範囲に亘って設けられた錘板と、を有することが好ましい。
【0018】
上記目的を達成するために本発明は、油水分離槽に溜まった浮上油を回収する浮上油回収装置であって、油水分離槽の水面側に配置され、径が下方に向かって先細る形状を有する渦巻回収カップと、前記渦巻回収カップの下方の吐出口に接続されて、回収された浮上油を下方に誘導する第一配管と、前記第一配管より下流側に配置され、前記第一配管内の浮上油を水平方向に誘導する第二配管と、前記第二配管より下流側に配置され、前記第二配管内の浮上油を上方に誘導する第三配管と、前記第三配管の途中に介在し、上下方向に伸縮可能なコイル状チューブと、油水分離槽内に沈んだ前記渦巻回収カップと水面との間隔を一定に保つ浮力材と、を備え、前記浮上油回収装置は、さらに、径の異なる前記第三配管と前記コイル状チューブとを繋ぐ連結ボックスを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、油水分離槽に溜まった浮上油を回収する浮上油回収装置であって、油水分離槽の水面側に配置されて径が下方に向かって先細る形状を有する渦巻回収カップと、渦巻回収カップの下方の吐出口に接続されて回収された浮上油を下方に誘導する第一配管と、第一配管より下流側に配置されて第一配管内の浮上油を水平方向に誘導する第二配管と、第二配管より下流側に配置されて第二配管内の浮上油を上方に誘導する第三配管と、油水分離槽の内壁に沿って配置されて第三配管を上下方向に沿ってスライド可能に収容するスライダ機構と、油水分離槽内に沈んだ渦巻回収カップと水面との間隔を一定に保つ浮力材と、を備える。この構成により、本発明に係る浮上油回収装置では、含油廃水を排出する食品工場などの油水分離槽や調整槽などに溜まる浮上油を、短時間で大量に効率よく回収すると共に、長期間に亘って使用しても浮上油の回収効率が低下することがない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施の形態に係る浮上油回収装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】同上浮上油回収装置の構成の一例を示す図である。
【
図3】(a)同上浮上油回収装置の油水分離槽の水面が下がった状態を示す図、(b)同上浮上油回収装置の油水分離槽の水面が標準状態を示す図である。
【
図4】(a)同上浮上油回収装置の油水分離槽の水面が標準状態を示す図、(b)A-A線断面図を示す。
【
図5】同上浮上油回収装置に備わるスライダ機構の説明図である。
【
図6】(a)同上浮上油回収装置に備わる渦巻回収カップの平面図、(b)同上渦巻回収カップの側面図、(c)同上渦巻回収カップの別の角度からの側面図、(d)同上渦巻回収カップの周囲の水流を説明する図である。
【
図7】本発明の実施の形態の変形例に係る浮上油回収装置の構成の一例を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態の変形例に係る浮上油回収装置の構成の一例を示す図である。
【
図9】(a)同上浮上油回収装置に備わるコイル状チューブ及び連結ボックスの側面図、(b)同上コイル状チューブ及び連結ボックスの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係る浮上油回収装置について
図1乃至
図6を参照して説明する。この浮上油回収装置は、食品工場などから排出される製造廃水をプールする油水分離槽(原水槽、調整槽)などに多量に浮いている上層分(浮上油脂、以下浮上油と呼ぶ)を、効率的に汲み出すための装置である。なお、浮上油回収装置から汲み出された浮上油は、油泥資源化装置に一時的に貯留され、回収された浮上油から効率的に油分及び汚泥分を分別して、分別後に残った水分は流入水(戻り水)として再び油水分離槽に返水される。これらの装置は基本的には製造廃水を排出する食品工場などにオンサイトで設置される。
【0023】
最初に、本実施の形態に係る浮上油回収装置の基本構成に関して
図1を参照して説明する。
図1に示すように、浮上油回収装置1は、油水分離槽Tに溜まった浮上油(含油廃水)を回収する装置であって、渦巻回収カップ2、第一配管3、第二配管4、第三配管5、スライダ機構6及び浮力材7を備え、油水分離槽Tに沈んだ状態で使用される。なお、油水分離槽Tは、グリストラップ、オイルトラップ、グリース阻集器などと呼ばれることもあり、基本構造は水と油の比重の違いを利用した自然分離浮上方式が一般的である。
【0024】
渦巻回収カップ2は、油水分離槽Tの水面側に配置され、径が下方に向かって先細る(テーパのかかった)深型吸引ノズルと同じお椀形状を有する。この渦巻き回収カップは例えば300~700mm程度の比較的大きな径を有し、一度に多量の浮上油を渦巻くように吸引する。
【0025】
なお、渦巻回収カップ2には、
図6(a)~
図6(c)に示すように、平面視で円形状となる上縁の所定範囲(例えば120~180度の範囲)に亘って所定高さ(例えば250mm)で立設されたじゃま板21と、じゃま板21と対向する上縁の所定範囲に亘って設けられ、じゃま板21とおおよそ同じ重さとなる錘板(SUS板)22と、が溶接されている。この錘板22の構成により、渦巻回収カップ2のじゃま板21側のみが重くなることで渦巻回収カップ2が斜めになることを適切に防止して、渦巻回収カップ2を常に水平に保つことができる。
【0026】
ここで、渦巻回収カップ2における浮上油の回収方法に関して説明する。戻り配管20を介して油泥資源化装置Rからの戻り水が、勢いよく油水分離槽Tの水面に放出されると、水面に所定方向の流れが生じて浮上油が移動する。この際、
図6(d)の矢印に示すように、渦巻回収カップ2付近で浮上油がじゃま板21に当たって渦を巻き、(浮遊)廃油分の多い含油廃水(浮上油)がじゃま板21を迂回するように廻りながら渦巻回収カップ2の吸入口から効率的に吸入される。この結果、浮上油が効率的に渦巻回収カップに回収され、第一配管3乃至第三配管5を介して油泥資源化装置Rに導かれることとなる。
【0027】
第一配管3は、例えば径が25mm程度の塩ビ管であって、渦巻回収カップ2の下方の吐出口に接続されて、渦巻回収カップ2において回収された浮上油を下方に誘導する。
【0028】
第二配管4は、第一配管3より下流側に位置し、第一配管3内の浮上油を水平方向に誘導する配管であり、例えば径が50mm程度の塩ビ管である。第一配管3及び第二配管4の間には、
図2に示すように、渦巻回収カップ2から浮上油を効率的に吸引する吸引ポンプ8が設けられている。具体的には、吸引ポンプ8は、本体が逆さ向きで油水分離槽Tに沈めて使用され、水流を形成するためのモータを備えた水中ポンプ8である。この水中ポンプ8は、吸込み側の吸込口が第一配管3に接続され、吐出口には第二配管4が接続されている。なお、水中ポンプ8の重量は例えば8kg程度である。なお、水中ポンプ8の代わりにエアーコンプレッサーで圧縮した空気を作り、その空気が膨張する力を利用して動くポンプエア駆動ポンプを用いても良い。
【0029】
なお、油水分離槽Tの深さは通常1m以上あり、浮上油回収装置1の高さは、例えば水面から渦巻回収カップ2の上縁までの間隔50mm、渦巻回収カップ2の高さ150mm、浮力材7の高さ100mm、水中ポンプ8の高さ400mmの合計700mmである。このため、浮上油回収装置1は油水分離槽T内で浮かんだ状態を維持できる。
【0030】
第三配管5は、第二配管4より下流側に配置され、第二配管4内の浮上油を上方に誘導する配管であり、例えば径が50mm程度の塩ビ管である。このように第二配管4及び第三配管5の径を50mm程度にすることで吸引した浮上油に含まれている異物が配管を塞いで不具合が生じることを防止できる。本実施の形態においては、
図3に示すように、第二配管4と第三配管5はL字管41を介して直角を成すようにねじ込み連結(ジョイント)されている。
【0031】
スライダ機構6は、油水分離槽Tの内壁に沿って固定・配置され、第三配管5を上下方向に沿ってスライド可能に収容する。このスライダ機構6に関して詳述すると、スライダ機構6は、
図3乃至
図5に示すように、水平断面がコの字形状であって、その上下方向に延びるスリット状の開口空間61aを有した配管固定用ダクト61と、配管固定用ダクト61の対向する面に横架されて配管固定用ダクト61の開口面側に設けられた複数の回転ローラ62と、を備える。そして、配管固定用ダクト61は、
図3に示すように、垂直方向に伸長するように、アンカーボルトを用いてその底面が油水分離槽Tの内壁に固定され、SUSなどの比較的強固な金属で形成される。回転ローラ62は、例えば配管固定用ダクト61に固定される軸62aと、回動可能な樹脂パイプ62bとから構成され、油分が詰まることを前提としているため、第三配管5との間隔が比較的に緩くなるように調整される。第三配管5は、回転ローラ62の内側の開口空間61aに配置される。このスライダ機構6により、浮上油回収装置1は、油水分離槽Tの水面の高さに追従して上下し、常に水面から一定間隔を保つことができる。
【0032】
さらに、浮上油回収装置1は、
図3乃至
図5に示すように、第三配管5の上端に接続されるU字配管9と、一端がU字配管9に接続されて他端が第三配管5からの浮上油を下流側に導く流入管22側に接続され、可撓性(柔軟性、弾性)を有する素材で形成されたダクト耐油ホース10と、を備える。なお、U字配管9はU形状となれば良くL字配管を2つ連結しても構わない。ダクト耐油ホース10は、例えば径が50mmの塩ビ管(HT50A)であり、水面が下がると延び、上がると緩むような最適な長さで弛ませておく必要性がある。すなわち、ダクト耐油ホース10は、渦巻回収カップ2が一番下まで下がった時でも、伸び切らずに、程よく撓む長さを有する。
【0033】
そして、例えば、水面の上下幅200mm以内に対応することを標準とした場合において、
図3(a)は、浮上油が回収されて油水分離槽Tの水面が200mm下がった状態、
図3(b)は含油廃水が流入して水面が通常位置である状態を示す。本図に示すように、ダクト耐油ホース10は、常に水面から一定距離を保つことができる。
【0034】
ダクト耐油ホース10を通過した浮上油は、
図2に示すような接続部21及び流入管22を介して、油水分離槽Tの上層分を一時的に貯留して油分及び汚泥分を回収する油泥資源化装置R(油分及び汚泥分回収タンク)に導入される。なお、接続部21を備えることで、浮上油回収装置1のメンテナンスを前提に、浮上油回収装置1を装置本管から容易に接続解除できる。
【0035】
油泥資源化装置Rでは、油分と水分とが比重に応じて分離されて、浮上油は上層、流入水は下層となり、この流入水は戻り配管20を介して、油水分離槽Tに循環回収される。その結果、油泥資源化装置Rでは浮上油回収装置1を用いて回収された含油廃水から油分及び汚泥分と水分とを分離して、油分が効率的に抽出・回収・資源化される。
【0036】
浮力材7は、油水分離槽T内に沈んだ渦巻回収カップ2と水面との間隔を一定に保つためのフロート板である。すなわち、浮力材7は、重みで渦巻回収カップ2が油水分離槽Tの廃油層中に沈み込んでしまわないような浮力を有する材料で形成され、例えば発泡スチロールである。渦巻回収カップ2は例えば約5kg、水中ポンプ8は約8kgであって、浮上油回収装置1全体の重さは約15kgで一定であり、浮力材7の浮力の調整は、枚数や厚さを調整することで、渦巻回収カップ2の吸引面(上面)が油水分離槽Tの水面から例えば50mm沈んだ間隔を保つ。この間隔は回収される浮上油の粘度に応じて調整される。すなわち粘度が高い浮上油の場合には間隔は短く、粘度の低い浮上油の場合には間隔は長くなる。
【0037】
さらに、浮上油回収装置1は、
図3に示すように、U字ネジなどの第三配管5を係止する結束具11aと、結束具11aを用いて第三配管5に固定される板状又は棒状の回転防止材11bと、を備える。この回転防止材11bはその長手方向が油水分離槽Tの側壁に沿うように、側壁とは離隔した状態で並設され、第三配管5の回転・捻じれを防止する。その結果、渦巻回収カップ2の前後左右へのズレを防止して、向きを一定方向に保つ機能を有する。
【0038】
以上の説明のように、本発明は油水分離槽Tに溜まった浮上油を回収する浮上油回収装置1であって、油水分離槽Tの水面側に配置されて径が下方に向かって先細る形状を有する渦巻回収カップ2と、渦巻回収カップ2の下方の吐出口に接続されて回収された浮上油を下方に誘導する第一配管3と、第一配管3より下流側に配置されて第一配管3内の浮上油を水平方向に誘導する第二配管4と、第二配管4より下流側に配置されて第二配管4内の浮上油を上方に誘導する第三配管5と、油水分離槽Tの内壁に沿って配置されて第三配管5を上下方向に沿ってスライド可能に収容するスライダ機構6と、油水分離槽T内に沈んだ渦巻回収カップ2と水面との間隔を一定に保つ浮力材7と、を備える。この構成により、本発明では、含油廃水を排出する食品工場などの油水分離槽Tや調整槽などに溜まる浮上油を、短時間で大量に効率よく回収すると共に、長期間に亘って使用しても浮上油の回収効率が低下することがない。
【0039】
食品工場の浮上油は、「動植物油脂のため粘度が高く、固まりやすい」と言う特性がある。しかし、油水分離槽Tや調整槽に流入し浮上する段階では、まだ十分に液状であり、このタイミングで、短時間で回収すれば、容易かつ最も効率良く浮上油を回収することができる。本発明に係る浮上油回収装置1ではこの問題を解決した。実際、東洋水産日高工場における「渦巻回収カップ2」を用いた浮上油回収試験では、15分程度の運転で100L以上の浮上油を一気に回収することができた。
【0040】
また、近年、食品工場は、飲食店と違い、毎日数トンの浮上油脂が発生している事業所もあり、本発明のような浮上油回収装置1を工場敷地内の油水分離槽Tに設置し、回収された含油廃水から再利用可能な油分を抽出し、オンサイトで資源化するサービスを提供できる。すなわち、脱炭素社会の実現に向けて本発明に係る浮上油回収装置1を有効に活用できることは疑う余地がない。
【0041】
(変形例1)
本実施の形態の変形例1に係る浮上油回収装置を説明する。この変形例1では、
図1に示すように、吸引ポンプ8は自吸式ポンプ又はエア駆動ポンプであって、第三配管5よりも下流側の地上に配置されている。この場合、上記実施の形態と比較して、水中重量が軽くなるため浮力材7を薄くでき、水中ポンプが不要となるために浮上油回収装置1の高さが例えば300mmなどとかなりの小型化を実現でき、この結果、比較的浅い油水分離槽Tにも設置できる。
【0042】
(変形例2)
本実施の形態の変形例2に係る浮上油回収装置を
図7乃至
図9を参照して説明する。この変形例2では、上述したスライダ機構6に代わって、第三配管5の途中に介在し、上下方向に伸縮可能なコイル状チューブ30を備える。このコイル状チューブ30は、螺旋状を有して、上下方向に伸縮可能なものである。また、第三配管5とコイル状チューブ30とを繋ぐ連結ボックス31を備える。この連結ボックス31は、
図9に示すように、例えば径50mmの第三配管5を、これよりも小さな複数の径(例えば25mm+25mm)のコイル状チューブ30に連結する。
【0043】
なお、本発明は、上記実施の形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、水中ポンプ8とは別に、渦巻回収カップ2の回収効率を高めるため、油水分離槽Tの水面に流れを形成する専用水中ポンプを設けても構わない。
【符号の説明】
【0044】
1 浮上油回収装置
2 渦巻回収カップ
3 第一配管
4 第二配管
5 第三配管
6 スライダ機構
7 浮力材
8 吸引ポンプ(水中ポンプ、エア駆動ポンプ、自吸式ポンプ)
9 U字配管
10 ダクト耐油ホース
11a 結束具
11b 回転防止材
30 コイル状チューブ
31 連結ボックス
61 配管固定用ダクト
61a 開口空間
62 回転ローラ
【要約】
【課題】含油廃水を排出する食品工場などの油水分離槽や調整槽などに溜まる浮上油を、短時間で大量に効率よく回収すると共に、長期間に亘って使用しても浮上油の回収効率が低下することがない浮上油回収装置を提供する。
【解決手段】油水分離槽Tに溜まった浮上油を回収する浮上油回収装置1であって、油水分離槽Tの水面側に配置されて径が下方に向かって先細る形状を有する渦巻回収カップ2と、渦巻回収カップ2の下方の吐出口に接続されて回収された浮上油を下方に誘導する第一配管3と、第一配管3より下流側に配置されて第一配管3内の浮上油を水平方向に誘導する第二配管4と、第二配管4より下流側に配置されて第二配管4内の浮上油を上方に誘導する第三配管5と、油水分離槽Tの内壁に沿って配置されて第三配管5を上下方向に沿ってスライド可能に収容するスライダ機構6と、油水分離槽T内に沈んだ渦巻回収カップ2と水面との間隔を一定に保つ浮力材7と、を備える。
【選択図】
図1